説明

電磁波シールド材

【課題】画像にムラがなく、視認性に優れた電磁波シールド材を提供すること。
【解決手段】透明基材上に開口部を有する所定のパターンで形成された導電性組成物からなる導電性パターン層が設けられた電磁波シールド材であって、当該導電性パターン層に含まれる開口部から任意に選択した10個の開口部(S)において、前記導電性組成物からなり、前記導電性パターン層から独立した直径0.4mm以上の島状付着物が存在しないことを特徴とする、電磁波シールド材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部を画成している導電性パターン層が設けられた電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子機器の機能高度化と利用増加に伴い、電磁気的なノイズ妨害(EMI)が増え、陰極線管(CRT)又はプラズマディスプレイパネル(PDP)等のディスプレイ(画像表示装置)でも電磁波が発生する。特に、プラズマディスプレイパネルは、データ電極と蛍光層を有するガラスと透明電極を有するガラスとの組合体であり、作動すると電磁波及び近赤外線が大量に発生する。
【0003】
通常、電磁波を遮蔽するためにプxラズマディスプレイパネルの前面に、電磁波遮蔽用シートと硝子板との積層体が前面板として設けられる。ディスプレイ前面から発生する電磁波の遮蔽性は、日本では30MHz〜1GHzにおいてVCCI(情報処理装置等電波障害自主規制協議会)が規定する家庭環境、住宅環境で使用する情報処理装置に適用される規格(クラスB)を達成することが必要である。
なお、本発明において単に「電磁波」と言った場合は、周波数が上記範囲を中心とするMHz〜GHz帯近辺の電磁波のことを意味し、赤外線、可視光線、紫外線及びX線等は含まないものとする(例えば、赤外線帯域の周波数の電磁波は「赤外線」と呼称する)。
【0004】
この電磁波をシールド(遮蔽)し、かつ、光透過性も確保するために、樹脂フィルム又はガラス板等の透明基材上に、銅又は金等の金属から成るメッシュパターン等の導電性パターン層をエッチング加工、転写又は印刷等により形成することにより、電磁波シールド性と光透過性を有し、上記ディスプレイの前面に配置される電磁波遮蔽シート又は当該電磁波遮蔽シートを備えるディスプレイ装置用複合フィルタ等が用いられている(例えば、特許文献1〜3)。
【0005】
画像(映像)の高品位化及び高解像度化に伴い、メッシュの線幅を微細化(5〜30μm程度)した場合、そのような微細な線幅を安定して、再現性良く、かつ、欠点無く形成することは難しく、特に、パターン線幅が10μm以下に細線化した場合、導電性のパターンにより区別される開口部に導電性のパターンから独立した導電性組成物が円形又は不定形状等の島状に付着することがあった。そのような開口部における周囲の導電性のパターンから独立して付着した島状の付着物は電磁波シールド性には寄与せず、しかも開口部の可視光の透過率を下げて、電磁波シールド材の外観の欠点となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−290053号公報
【特許文献2】特開2010−010461号公報
【特許文献3】国際公開第08−149969号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、外観の欠点がない電磁波シールド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、開口部に付着する島状の付着物が特定の大きさ以上の場合に電磁波シールド材の可視光の透過率に影響を与えるため、島状の付着物に特定の大きさ以上のものがなければ、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る電磁波シールド材は、透明基材上に開口部を有する所定のパターンで形成された導電性組成物からなる導電性パターン層が設けられた電磁波シールド材であって、当該導電性パターン層に含まれる開口部から任意に選択した10個の開口部(S)において、前記導電性組成物からなり、前記導電性パターン層から独立した直径0.4mm以上の島状付着物が存在しないことを特徴とする。
【0010】
導電性パターン層により画成される開口部の中から任意に選択した10個の開口部(S)において導電性パターン層から独立し、直径が0.4mm以上の島状付着物(以下、「島状付着物」とは、導電性パターン層から独立した付着物をいう。)がないことにより、開口部の可視光透過率が確保され、電磁波シールド材の外観が良好となる。
なお、可視光とは、人間の目で見える光であり、より具体的には波長380nm〜780nmの電磁波を意味する。
本発明において、島状付着物の直径とは、島状付着物の平面形状が円形状である場合はその直径を意味し、それ以外の楕円、多角形又は不定形等の形状の場合は、当該島状付着物の外接円の直径を意味する。
また、可視光透過率は、分光光度計(島津製作所(株)製の商品名UV3100)を使用してJIS A 5759に準ずる方法で波長380〜780nmの透過率を測定した値を意味する。
【0011】
本発明に係る電磁波シールド材においては、前記導電性パターン層に含まれる開口部から任意に選択した10個の開口部(S)において、前記導電性組成物からなる直径0.05mm以上、かつ、0.4mm未満の島状付着物の数の平均値Nが0.91以下であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る電磁波シールド材においては、前記導電性組成物が導電性粒子とバインダー樹脂を含んでおり、前記導電性パターン層中の導電性粒子の分布は、相対的に、透明基材近傍において分布が疎であり、また当該導電性パターン層の頂部近傍において密であることが、導電性パターン層のパターンの線幅を微細化した場合においても、高い電磁波シールド性と機械的強度及び高透明性による高解像度とが両立できることから好ましい。
【0013】
本発明に係る電磁波シールド材においては、前記透明基材と前記導電性パターン層の間にプライマー層が設けられている態様とすることも可能である。
【0014】
本発明に係る電磁波シールド材においては、前記導電性パターン層の表面に、さらに金属層が設けられている態様とすることも可能である。
【0015】
本発明に係る電磁波シールド材においては、前記導電性粒子の粒径が0.5〜1.5μmであることが、電磁波シールド材の良好な外観を得ながら、導電性パターン層の抵抗率を低減できることから好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電磁波シールド材においては、開口部から任意に選択した10個の開口部(S)において、その開口部(S)内に直径0.4mm以上の島状付着物が存在しないことにより、外観が良好な電磁波シールド材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の一例を示した断面の模式図である。
【図2】図2は、本発明に係る電磁波シールド材の平面図の一例を示した模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る電磁波シールド材の平面図の一部の一例を示した模式図である。
【図4】図4は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の他の一例を示した断面の模式図である。
【図5】図5は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の他の一例を示した断面の模式図である。
【図6】図6は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の他の一例を示した断面の模式図である。
【図7】図7は、本発明のパターンの横断面の一例を示した模式図である。
【図8】図8は、導電性組成物をプライマー層上に転写する工程を実施する装置の概略構成図である。
【図9】図9は、実施例1の導電性組成物のパターンの横断面の形状を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
本発明において、(メタ)アクリレートは、アクリレート及び/又はメタクリレートを表す。
また、本発明の電離放射線には、可視光並びに紫外線及びX線等の非可視領域の波長の電磁波だけでなく、電子線及びα線のような粒子線を総称する、分子に架橋反応乃至重合反応を生じせしめるに足るエネルギー量子を持った放射線が含まれる。
本発明において樹脂とは、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマーを含む概念である。
なお、フィルムとシートのJIS−K6900での定義では、シートとは薄く一般にその厚さが長さと幅の割りには小さい平らな製品をいい、フィルムとは長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通例、ロールの形で供給されるものをいう。したがって、シートの中でも厚さの特に薄いものがフィルムであるといえるが、シートとフィルムの境界は定かではなく、明確に区別しにくいので、本発明では、厚みの厚いもの及び薄いものの両方の意味を含めて、「フィルム」と定義する。
また、「任意」とは、無作為乃至ランダムであることをいう。
【0020】
(電磁波シールド材)
本発明に係る電磁波シールド材は、透明基材上に開口部を有する所定のパターンで形成された導電性組成物からなる導電性パターン層が設けられた電磁波シールド材であって、当該導電性パターン層に含まれる開口部から任意に選択した10個の開口部(S)において、前記導電性組成物からなり、前記導電性パターン層から独立した直径0.4mm以上の島状付着物が存在しないことを特徴とする。
【0021】
導電性パターン層に含まれる開口部から任意に選択した10個の開口部(S)に、直径0.4mm以上の島状付着物が存在しないことにより、開口部の可視光透過率が確保され、電磁波シールド材の外観が良好となる。
【0022】
本発明において、「パターン」とは、電磁波遮蔽パターンそのものを意味し、「所定のパターン」とは、電磁波シールド材の電磁波遮蔽パターンとして一般的な、メッシュ(網乃至格子)状、ストライプ(平行線群乃至縞模様)状、螺旋(スパイラル乃至渦巻)又は線分群等の電磁波遮蔽パターンを意味する。
【0023】
本発明に係る電磁波シールド材の層構成について図面を用いて説明する。なお、図1以下の図面では、説明の便宜上、縦横の寸法比及び各層間の寸法比は適宜、実寸とは変えて誇張して図示してある。
図1は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の一例を示した断面の模式図である。
電磁波シールド材1は、透明基材10上に導電性組成物からなる導電性パターン層20が設けられており、図2の平面図のように所定のパターンが設けられたパターン部50と、周縁に接地部60を形成している。
そして、導電性パターン層20により画成される開口部30には、導電性パターン層から独立した島状付着物40が存在している又は存在せず、存在している場合、その島状付着物40の直径は0.4mm未満である。
なお、本発明において「画成」とは、隣接する他の開口部と区別できるように限定することを意味する。
【0024】
図2は、本発明に係る電磁波シールド材の平面図の一例を示した模式図であり、電磁波シールド材1を導電性パターン層20側から見た図である。電磁波シールド材1では、周縁の接地部60に囲まれてパターン部50が形成されている。また、パターン部50は、図2のように、通常、電磁波シールド材1の中央部に位置し、ディスプレイ画面に対峙する。
【0025】
パターン部50の周縁に必要に応じて適宜設けることができる接地部60は、接地能力の点から好ましくは、図2に示すように、パターン部50の周縁部の全周を囲繞する形態が好ましい。
また、接地部60は、メッシュ等の開口部を有するパターン状に形成されていてもよいが、図2に示すようにパターン部(開口部)を画成していない導電層(又は導電層及び金属層)からなることが好ましい。
なお、本発明においては、透明基材の一面側の少なくとも一部に所定のパターンが設けられていれば良い。そのため、図2に示すように導電性パターン層20の一部をパターン部50としても良いし、図示しないが導電性パターン層全体をメッシュ等のパターン部とし、その周縁部を接地部とすることもできる。この場合には、電磁波シールド材を用いるディスプレイのサイズにかかわらず連続形成が可能となる。
【0026】
図3は、本発明に係る電磁波シールド材の平面図の一例の一部を示した模式図であり、導電性パターン層の開口部の一部を拡大した図である。図3の中央に示す導電性パターン層20により画成される開口部30内には、直径が0.4mm未満の球状の島状付着物40と不定形の島状付着物41が存在している。
【0027】
本発明に係る電磁波シールド材の層構成はこの他にも、図4〜6に示すような態様であっても良い。
図4は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の他の一例を示した断面の模式図である。
図4では、透明基材10上にプライマー層70を介して導電性パターン層20が設けられている。
図5は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の他の一例を示した断面の模式図である。
図5では、透明基材10上にプライマー層70を介して導電性パターン層20が設けられており、さらに、周縁部以外の導電性パターン層20の横断面の頂部の形状は曲面形状となっている。
図6は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の他の一例を示した断面の模式図である。
図6では、透明基材10上にプライマー層70を介して導電性パターン層20が設けられており、さらに、導電性パターン層20の表面には金属層80が設けられている。周縁部以外の導電性パターン層20及び金属層80の横断面の頂部の形状は曲面形状となっている。
【0028】
本発明において、「横断面」とは断面形状の最小曲率半径が最小となる断面を意味する。凸状パターンが、通常使用されるメッシュ、ストライプ等の線状パターンの場合は、当該線状パターンの延長方向と直交する断面になる。
【0029】
本発明において、「曲面形状」とは、所定のパターンで形成されたパターンにおいて、パターンの側部と上端部との交点が角ばらず、丸みを帯びている形状を意味する。具体的には、図7の(a)に示すような逆U字型形状や、図7の(b)に示すような中央に頂部を有し、その頂部付近が曲面の山型形状が挙げられる。
なお、丸みの具体的な程度としては、パターンの横断面において、最小曲率半径が2μm以上、より好ましくは5μm以上である。
パターンの横断面の形状を曲面形状とするには、例えば、凸状パターンを形成する際に用いる凹版の凹部形状を所望の曲面形状に対応するような曲面形状に製版する方法が挙げられる。
【0030】
以下、本発明に係る電磁波シールド材の必須の構成要素である透明基材及び導電性パターン層、並びに必要に応じ適宜設けることができるプライマー層、金属層及び黒化層等のその他の層について説明する。
【0031】
(透明基材)
透明基材10は、電磁波シールド材1の基材であり、特に限定されず、従来公知の電磁波シールド材又はディスプレイ用複合フィルタ等に用いられている透明基材を用いることができる。透明基材は、例えば、特許文献3に記載のものを用いることができる。
透明基材は、所望の透明性、機械的強度、導電性パターン層又はプライマー層との接着性等の要求適性を勘案の上、材料及び厚さを適宜選択すればよい。
透明基材は、樹脂基材であっても良いし、硝子基材であっても良い。軽さ及び薄さの点から、樹脂製の透明フィルムが好ましく用いられる。
透明フィルムの樹脂材料としては、アクリル樹脂(ここでは、いわゆるメタクリル樹脂も包含する概念として用いる。)又はポリエステル樹脂が好ましい。
その他、樹脂材料としては、特許文献3に記載のトリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル等の含ハロゲン樹脂等が挙げられる。中でも、二軸延伸PETフィルムが透明性及び耐久性に優れ、製造工程で紫外線照射処理又は加熱処理を経た場合でも熱変形等しない耐熱性を有する点で好適である。
【0032】
透明基材は、長尺形状であっても良いし、所定の大きさからなる枚葉形状であっても良い。
透明基材の厚さは、通常は8〜5000μmが好ましいが、これに限定されない。
透明基材の光透過率としては、ディスプレイ装置の前面設置用としては、100%が理想であり、透過率80%以上であることが好ましい。
透明基材の表面には必要に応じて、易接着層を設けても良い。斯かる易接着層は、透明基材の表面と後述するプライマー層との密着性、又は透明基材と導電性パターン層との密着性を向上させるために設ける。易接着層の代わりに、コロナ放電処理、プラズマ処理若しくは火炎処理等の表面処理を行っても良い。
易接着層としては、透明基材とプライマー層との両方に、又は透明基材と導電性パターン層との両方に接着性のある樹脂から構成する。易接着層の樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂又は塩素化ポリプロピレン等の樹脂から適宜選択すれば良い。
【0033】
(導電性パターン層)
導電性パターン層20は、透明基材10上又はプライマー層70を透明基材上に設ける場合はプライマー層70上に、所定のパターンで形成された導電性組成物からなる。
一般に導電性組成物は可視光線に対して不透明であるため、電磁波シールド材をディスプレイの前面に設置する場合、画像の視認性を確保、すなわち画像を表示しながら、電磁波のシールド性を確保するため、所定のパターンで形成し、その導電性パターン層中に開口部も形成する。
なお、本発明において開口部とは、図1を例に説明すると、パターン部50中の周期的なパターン以外の領域30を意味する。
【0034】
電磁波遮蔽パターンは、上述したメッシュ状又はストライプ状等のパターンであれば良く、パターンの線幅(図3のAB間の長さ)及び線間ピッチ(図3のAC間の長さ)は所望の性能に応じて適宜設定すれば良い。
例えば、線幅は5〜50μmとすることができ、線間ピッチは100〜500μmとすることができる。
【0035】
電磁波遮蔽パターンの開口率(電磁波遮蔽パターンの全面積中における開口部の合計面積の占める比率)も所望の性能に応じて適宜設定すれば良く、開口率は、通常、50〜95%である。
なお、開口部の平面形状が正方形である図3を例に説明すると、1個の開口部の面積は、線間ピッチ(AC間の長さ)から線幅(ABの長さ)を引いた値の二乗({AC−AB})、すなわち、(BC)となる。その他の形状の開口部の場合も、線幅と線間ピッチより適宜求めればよい。
【0036】
また、導電性パターン層の厚さは、導電性パターン層の電気抵抗値(以下、本願明細書中において、電気抵抗を単に「抵抗」とも呼称する。)によっても異なるが、電磁波遮蔽性能と導電性パターン層上への他部材の接着性との兼ね合いから、パターンを形成している導電性パターン層の中央部(例えば、凸状パターンの頂部)での測定において、通常、2〜50μmであり、好ましくは5〜20μmである。
【0037】
パターンの形状は、特に限定されず、従来公知の形状とすることができる。
例えば、図1に示したようにパターンの横断面の頂部の形状が角ばった形状でも良いし、図5又は図7に示したようにパターンの横断面の頂部の形状が曲面形状でも良い。曲面形状であれば、電磁波シールド材の製造工程又は製造後の取り扱い時に、導電性パターン層に触れても、パターン形状によって、電磁波シールド材を帯状シートの形態として巻き取った際に、導電性パターン層と透明基材とが接触して、互いに損傷したり、又は手袋が磨耗すること等を防止することができる利点がある。
この他、引き抜きプライマ凹版法を用いてプライマー層上に導電性パターン層を形成する場合、特許文献3の図4〜図7に示す形状であっても良い。このような形状とすることにより、導電性パターン層とプライマー層との密着性が高まる利点がある。
【0038】
(島状付着物)
本発明に係る電磁波シールド材においては、図3に示したように、開口部30には直径0.4mm以上の導電性パターンから独立した導電性組成物からなる島状付着物40は存在しない。すなわち、開口部には直径0.4mm未満の島状付着物40しか存在しない、又は島状付着物40が存在しない。
島状付着物40は、導電性パターン層と同一の導電性組成物からなり、当該導電性パターン層から独立したものを言い、平面形状は図3に示すように円形又は不定形であったり、図示しないが三角形、四角形若しくは五角形等の多角形又は楕円形等の形状である場合もある。
島状付着物の直径が0.4mm以上となると、開口部の可視光の透過性が低下し、電磁波シールド材を巨視的に(肉眼で)観察したときに外観の欠点となる。
開口部に島状付着物が存在する場合、その直径は0.4mm未満であるが、好ましくは0.1mm以下、より好ましくは0.05mm未満である。そして、開口部に島状付着物が存在しないことが理想的である。
【0039】
本発明に係る電磁波シールド材においては、開口部から任意に選択した10個の開口部(S)において、直径0.05mm以上、かつ、0.4mm未満の島状付着物40の数の平均値Nが0.91以下であることが、電磁波シールド材の外観を良好にする点から好ましい。
直径0.05mm未満の島状付着物であれば、一般的な大きさ(1辺100〜500μmの)の開口部であれば可視光の透過率への影響は小さく、かつ通常の視力では認識困難な寸法とされているため、直径0.05mm以上、かつ、0.4mm未満の大きさの島状付着物の平均値Nをこの範囲とすることにより、電磁波シールド材の外観をより良好なものとすることができる。
例えば、10個の開口部(S)のうち、8個の開口部(S)には直径0.05mmの島状付着物が各1個存在し、残り2個の開口部(S)には島状付着物が存在しない場合、平均値Nは(1×8+0×2)/10=0.8となる。
【0040】
島状付着物は、その直径が0.4mm未満であれば、開口部に規則的又は不規則的に分布していても良い。
【0041】
以下、導電性パターン層及び島状付着物を形成する導電性組成物について説明する。
【0042】
(導電性組成物)
導電性組成物は、種々の工程を経た後に最終的に導電性を有するものであれば特に限定されず、従来公知の導電性組成物を用いることができる。例えば、特許文献3に記載の導電性粉末(導電性微粒子)とバインダー樹脂を含む導電性組成物が挙げられる。
導電性組成物はさらに必要に応じて、バインダー樹脂を溶解乃至分散する溶剤乃至分散剤を含み、流動性を有するインキ又はペースト状のものであっても良い。導電性組成物がこのようなインキ又はペースト状の場合、導電性組成物を所望のパターンで硬化又は固化させてなる塗膜が導電性パターン層となり、それ以外の開口部内に付着した導電性組成物が島状付着物となる。
【0043】
導電性組成物の粘度は、特に限定されず、塗工性を勘案して適宜調節すれば良い。導電性組成物の粘度は、例えば、引き抜きプライマ凹版法を用いる場合、プライマー層中のプライマー成分が導電性組成物中に侵入して増粘させたり、プライマー層と導電性組成物とを同時に硬化させる場合、通常、数百〜数百万mPa・sであることが好ましく、数千〜数万mPa・sであることがより好ましい。
【0044】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、硬化又は固化等により導電性パターン層又は島状付着物のマトリクスとなる成分である。
導電性組成物に用いるバインダー樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂が挙げられ、従来公知のバインダー樹脂を用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型ポリウレタン樹脂及び熱硬化型ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
熱硬化性樹脂を用いる場合、必要に応じて硬化触媒を加えてもよい。
【0045】
電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線で架橋等の重合反応により硬化するモノマー(単量体)、プレポリマー又はオリゴマーが挙げられる。
電離放射線硬化性樹脂としては、例えば、特許文献3に記載の1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレート等のモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート及びトリアジン(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー並びに不飽和ポリエステルプレポリマー等を挙げることができる。
その他、プレポリマーとしては例えば、ノボラック型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等並びにトリメチロールプロパントリチオグリコレートプレポリマー及びペンタエリスリトールテトラチオグリコレートプレポリマー等のポリチオール系プレポリマー等を挙げることができる。
電離放射線硬化性樹脂を用いる場合は、必要に応じて重合開始剤を用いても良い。
【0046】
熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、フェノール樹脂及び熱可塑性ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0047】
引き抜きプライマ凹版法を用いる場合、版の凹部への充填に適した導電性組成物の流動性を得るために、バインダー樹脂は通常、溶剤又は分散剤に溶けたワニスとして使用する。溶剤又は分散剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インキに用いられる溶剤又は分散剤を使用できる。
溶剤又は分散剤の含有量は通常、導電性組成物全体に対して、5質量%〜70質量%程度であるが、必要な流動性が得られる範囲で少ないことが好ましい。
また、光硬化性樹脂等の電離放射線硬化性樹脂を用いる場合には、これらの樹脂にある程度の流動性があるため、必ずしも溶剤又は分散剤を必要としない。
【0048】
バインダー樹脂は上述した材料の中から1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0049】
(導電性微粒子)
また、導電性組成物を構成する導電性微粒子としては、従来公知の導電性微粒子を用いることができ、例えば、特許文献3に記載の導電性粉末(導電性微粒子)を用いることができる。
導電性微粒子としては、例えば、金、銀、白金、銅、錫、パラジウム、ニッケル及びアルミニウム等の抵抗率の低い金属(以下、単に「低抵抗率金属」という。)微粒子が挙げられる。
この他、低抵抗率金属以外の金属微粒子、アクリル樹脂若しくはメラミン樹脂等の樹脂微粒子又はシリカ、アルミナ、硫酸バリウム若しくはゼオライト等の無機微粒子の表面に低抵抗率金属をめっきしてなる微粒子並びにグラファイト及びカーボンブラック等の導電性炭素の微粒子を好ましく挙げることができる。
また、導電性セラミックス又は導電性有機高分子の微粒子も使用できる。
【0050】
形状も特に限定されず、従来公知の形状とすることができる。例えば、球状、回転楕円体状、多面体状、鱗片状、円盤状、繊維状及び針状等から適宜選択すれば良い。
【0051】
導電性微粒子の大きさは要求される性能等に応じて適宜調節すれば良く、特に限定されない。例えば、鱗片状の銀微粒子の場合には微粒子の粒径が0.1〜10μmであれば良く、カーボンブラック微粒子の場合には粒径が0.01〜1μmであれば良い。
本発明においては、導電性微粒子の粒径が0.5〜1.5μmであることが好ましい。当該粒径が0.5μm未満の場合、引き抜きプライマ凹版法のようにドクターブレードを用いて導電性組成物の掻き取りを行う場合、粒径が小さいためドクターブレードにより十分な掻き取りができず、島状付着物が生じ易い。すなわち、当該粒径が0.5μm以上であれば、島状付着物の発生を抑えることができる。また当該粒径が1.5μmよりも小さければ、導電性組成物により形成される導電性パターン層の抵抗を低減できる利点がある。
【0052】
なお、微粒子の粒径とは、組成物における微粒子の場合は、日機装(株)製のMicrotrac粒度分析計を用いて測定した値を意味し、導電性パターン層中の微粒子の場合は、導電性パターン層の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真により観察される粒子10個の平均値を意味する。
また、粒径とは、球状粒子の場合は直径を意味し、それ以外の回転楕円体状又は円盤状等の粒子の場合は外接球の直径、対角線長又は最長辺の辺長を意味する。
【0053】
導電性微粒子は上述した材料、形状及び粒径の中から1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0054】
また、導電性組成物には、品質向上等を目的にその他の成分を加えても良い。
例えば、電磁波シールド材としたときの外光反射を防止してコントラスト及び視認性を向上させるため、又は、後述する金属層を設ける場合、当該金属層の金属光沢による透明基板裏面の反射防止、色ムラ、金属色等の抑制のために、黒色顔料又は黒色染料を加えても良い。
黒色顔料又は黒色染料としては、電磁波シールド材に用いられている従来公知の物を用いれば良く、例えば、特許文献3に記載のカーボンブラック及びFe等の黒色顔料、アニリンブラック等の黒色染料を用いることができる。
その他、導電性パターン層の導電性及びプライマー層を設ける場合は当該プライマー層との密着性に悪影響を与えない限りにおいて、導電性組成物の流動性又は安定性を向上するために、フィラー、増粘剤、界面活性剤及び酸化防止剤等を用いても良い。
【0055】
本発明に係る電磁波シールド材においては、前記導電性組成物が導電性粒子とバインダー樹脂を含んでおり、前記導電性パターン層中の導電性粒子の分布が、相対的に、透明基材近傍において分布が疎であり、また当該導電性パターン層の頂部近傍において密であることが、導電性パターン層のパターンの線幅を微細化した場合においても、高い導電性すなわち高い電磁波シールド性及び導電性パターン層とプライマー層との強い密着強度とが両立できることから好ましい。
なお、ここで、疎密とは単位体積中の導電性粒子の粒子数で見た数密度(体積密度)の大小である(数密度大ならば密、数密度小ならば疎)。導電性パターン層10中における導電性粒子の分布状態は、線状パターンの延在方向には依存性を持た無い(延在方向には単位体積中の粒子数密度は一定)。そのため、斯かる単位体積中の導電性粒子の数密度は、線状パターンの主切断面(延在方向と直交する断面)における単位面積中の導電性粒子の数密度(面密度)で評価出来る。すなわち図7のように、主切断面内において、導電性粒子の面密度がプライマ層60近くに比べて頂部近傍の方が大きくなる分布であれば、すなわち、導電性粒子の体積密度もプライマ層近くに比べて頂部近傍の方が大きくなる分布であると判断して良い。
このように頂部の方に導電性粒子を偏在させるには、例えば、プライマ流動層形成済みの透明基材を版面に圧着する圧着力を強くすると共に、導電性組成物は粘度を低めにし、かつ、凹版凹部内では固化させずに版面から離版後に固化させると良い。
この他、導電性パターン内において、導電性粒子の厚み方向の分布に疎密を生じる要因には、導電性粒子と樹脂バインダとの比重差、固化前の導電性組成物の粘度(樹脂材料及び樹脂量、溶剤量、その他添加剤量、導電性粒子の形状、粒度分布、含有量など関係)、固化条件等が有る。疎密は、これら要因にも依存するので、これら要因は適宜実験的に決定すると良い。
【0056】
パターンの線幅が30μm以下、特に10μm以下に細くなると、以下の(1)及び(2)のように表面抵抗率が高くなる。
(1)一般に物体の電気抵抗Rは、その長さL及び体積抵抗率ρに比例し、その断面積Sに反比例する。すなわち、R=ρL/Sとなる。そのため、同じ導電性組成物(ρが一定)で同じ平面視パターン形状(Lが一定)、かつ、同じ厚みのパターンを印刷等により形成する場合、線幅の減少に比例して断面積Sも減少し、パターン部分の電気抵抗Rは高くなる。これに伴い、電磁波シールド性の指標である、シールド部材としての表面抵抗率も増大する。
(2)パターンの厚みを一定として、パターンの線幅を細くし、線幅と導電性粒子の粒径とが近付くと、同じ粒径及び粒子形状の導電性微粒子であっても、細線パターンの単位断面積中における導電性粒子同士が接触する部分の総面積の比率は低下する。
その結果、幾何学的断面積(S GEO)に比べて、現実の電流通路となり得る導電性粒子(群)の有効総断面積(S AV)は低下し、S AV<S GEOという関係が生ずる。
これにより、パターン部分の電気抵抗Rは、線幅減少による幾何学的要因(断面積S)の影響以上に高くなるため、電磁波シールド材の表面抵抗率も線幅から単純計算した値以上に上昇する。その結果、電磁波シールド性は低下する。
この状況は、線幅を変えずに厚みを薄くした場合でも同様に生じるため、パターンの厚みが薄く、その厚みが導電性粒子の粒径に近付いた場合も、急激に表面抵抗率が増大するという結果となる。
これに対して、パターンの表面に、電解めっき等によって、低体積抵抗率の金属層を形成すれば、この電気抵抗の上昇分は相殺し得る。しかし、その場合は、工程数及び材料費の増加と歩留まりの低下を生じる。
【0057】
これに対して、前記導電性パターン層中の導電性粒子の分布を、相対的に、透明基材近傍において分布を疎とし、当該導電性パターン層の頂部近傍において密とすると、パターン(凸状パターン)が細線化し、幾何学的因子(R=ρL/SにおいてSが小)による高電気抵抗の環境下でも、限られた含有量の導電性微粒子により、パターンの頂部近傍の密度が高く保たれ、ここで集中的に各導電性微粒子同士の電気的接触が確保される。
さらに、引き抜きプライマ凹版法を用いた場合、導電性パターン層のプライマー層(透明基材側)近傍での導電性微粒子の密度が低くなることにより、導電性パターン層とプライマー層との界面での投錨効果が高まり、界面剥離又は脱落が抑えられ、導電性パターン層とプライマー層の高い密着性が確保される。そのため、パターンの線幅を微細化した場合においても、高い電磁波シールド性と機械的強度及び高透明性による高解像度とが両立できる。
【0058】
加えて、導電性パターン層の透明基材側の界面において、導電性微粒子の分布が相対的に疎であることにより、当該界面での光の鏡面反射率は低減される。そのため、導電性微粒子の分布が相対的に疎な面(透明基材)側を外光側(画像観察者側)に配置すると、外光による画像の白化、コントラスト低下を防止できる。一方、導電性微粒子の分布が相対的に疎な面(透明基材)側をディスプレイ側に配置すると、画像光の画面への反射による画像の白化、コントラスト低下を防止できる。
【0059】
上述した主に導電性微粒子とバインダー樹脂を含む導電性組成物以外に、本発明においては他の導電性組成物を用いても良い。
このような導電性組成物としては、例えば、特許文献3に記載の有機金属化合物のゾル(分散液)及びポリチオフェン等の公知の導電性樹脂が挙げられる。
【0060】
(プライマー層)
プライマー層70は、透明基材10と導電性パターン層20の間に必要に応じて設けることができる層であり、引き抜きプライマ凹版法等の転写法により版から導電性パターン層を透明基材上に転写する際に、透明基材と導電性パターン層を繋ぐ役割を果たす。
プライマー層は透明基材と導電性パターン層の間に設けられる層であることから、透明基材及び導電性パターン層の両方に対して密着性が良いことが好ましい。
また、電磁波シールド材をディスプレイの前面に設置する場合には、プライマー層も透明性を有することが好ましい。
【0061】
プライマー層を形成する材料としては、従来公知の電磁波シールド材又は複合フィルタに用いられているプライマー層の材料を用いれば良く、例えば、特許文献3に記載の材料を用いれば良い。
材料の具体例としては、導電性組成物のバインダー樹脂において挙げた樹脂が挙げられる。
上記バインダー樹脂の他、プライマー層の密着性及び耐久性の向上並びに各種物性を付与するために、重合開始剤、熱安定剤、ラジカル捕捉剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤、及び変性樹脂等のその他の成分を加えても良い。
【0062】
引き抜きプライマ凹版法を用いる場合のプライマー層は、流動状態と硬化又は固化した非流動状態の2つの状態をとり得るものとする。
なお、「流動性」及び「流動状態」とは、それぞれ、プライマー層を導電性組成物が充填された版面に圧着する際の圧力によって流動(変形)する性質又は状態を意味し、水のように低粘度である必要はない。また、必ずしもNewton粘性である必要もなく、チキソトロピー性又はダイラタンシー性のような非Newton粘性を有していてもよい。
【0063】
流動状態のプライマー層の粘度は、通常、1〜100000mPa・sであり、好ましくは、50〜2000mPa・sである。
【0064】
プライマー層の厚さは、特に限定されず、転写性又は密着性等を勘案して適宜設定すれば良く、通常は硬化又は固化後の厚さで1〜100μmであれば良い。
また、プライマー層の厚さは一定であっても良いし、特許文献3に記載のように位置によって異なっていても(図7に示すように、導電性パターン層のパターンが存在する箇所では当該パターンが存在しない箇所よりもプライマー層が厚い態様又はパターンの幅方向の中心部に近いほどプライマー層が厚い態様でも)良い。
【0065】
透明基材上においてプライマー層を設ける位置は、電磁波シールド材の厚み方向において、透明基材と導電性パターン層のパターンの間に位置するように設ければ良く、当該パターンの下(透明基材)側のみに設けても良いし、図4に示したように透明基材の導電性パターン層を設ける側の面の全面に設けても良い。引き抜きプライマ凹版法を用いる場合は、透明基材の導電性パターン層を設ける側の面の全面に設ける方が、導電性パターン層の転写性に優れ、導電性パターン層がプライマー層から剥離し難い点から好ましい。
このプライマー層を透明基材の全面に設けた場合の導電性パターン層の良好な転写性や導電性パターンのプライマー層からの剥離のし難さの理由は、プライマー層及び導電性パターン層の2層と凹版との密着力(接触面積)よりも透明基材とプライマー層との密着力(接触面積)が大きいためと推測される。
【0066】
プライマー層と導電性パターン層のパターン間の界面は明瞭であっても良いし、明瞭でなくとも良い。引き抜きプライマ凹版法を用いると、導電性組成物と流動状態のプライマ層が一部混合することがあるため、明瞭でない界面が形成されることがある。
【0067】
(金属層)
金属層80は、導電性パターン層20のみでは所望の導電率が得られない場合に、導電率をさらに向上させるために、導電性パターン層の表面に必要に応じて設けることができる層である。金属層は、特許文献3に記載の電気めっき又は無電解めっき等のめっきにより形成される。
金属層を構成する材料としては、導電性が高く容易にめっき可能な、銅、銀、金、クロム、ニッケル及び錫を挙げることができる。
金属層を形成した後においては、必要に応じて、特許文献2の図3に示すようなアクリル系の電離放射線硬化性樹脂を用いて保護層を設けても良い。
なお、本発明の島状付着物は導電性パターン層から独立しているため、電気めっきによりめっきする場合、導電性パターン層のみに電流が流れるため、当該導電性パターン層の表面のみに選択的に金属層が形成され、島状付着物表面には金属層は形成されない。
【0068】
(黒化層)
黒化層は、導電性パターン層又は金属層の表面の光反射を防ぐために必要に応じて適宜設けることができる層である。この他、黒化層は、画像の明室コントラストを向上させて、ディスプレイの画像の視認性を向上させる機能も有する。黒化層は、導電性パターン層のパターンの全て(表面、裏面及び側面)の面に設けても良く、パターンのいずれかの面にのみ設けても良い。黒化層を設ける場合は、ディスプレイの前面に電磁波シールド材を設置した場合に観察者側、かつ、外光入射側となる面に設けることが好ましい。
パターンのすべての面に黒化層を設ける場合は、ディスプレイの前面に電磁波シールド材を設置した場合にディスプレイから発生する迷光を抑えられるので、画像の視認性が向上する利点がある。
黒化層を形成する方法(黒化処理)としては、導電性パターン層又は金属層の表面を粗化する方法及び全可視光スペクトルに亘って光吸収性を付与する(黒化する)方法のいずれか又は両方を併用して行う方法が挙げられる。
【0069】
黒化層は、黒色、褐色又は紺色等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る。例えば、特許文献2又は特開2009−302481号公報記載の黒化層とすることができる。
【0070】
(電磁波シールド材の製造方法)
上記電磁波シールド材の製造方法は、開口部に上述した直径0.4mm以上の島状付着物を形成しない方法であれば特に限定されない。
例えば、以下の(i)〜(vi)の工程を含む方法でも良い。
(i)硬化するまで流動性を保持できるプライマー層が一方の面に形成された透明基材を準備する工程。
(ii)所定のパターンで凹部が形成された板状又は円筒状の版面に、硬化後に導電性パターン層を形成でき、粒径0.5〜1.5μmの導電性微粒子を含む導電性組成物を塗布した後、当該凹部内以外に付着した当該導電性組成物を掻き取って当該凹部内に当該導電性組成物を充填する工程。
(iii)前記(i)工程後の透明基材のプライマー層側と前記(ii)工程後の版面の凹部内の導電性組成物とを空隙なく密着する工程。
(iv)前記(iii)工程後に前記プライマー層を硬化させ、前記導電性組成物は半硬化させる工程。
(v)前記(iv)工程後に前記透明基材及び前記プライマー層を前記版面から剥がして前記凹部内の導電性組成物を当該プライマー層上に転写する工程。
(vi)前記(v)工程後に前記プライマー層上に所定のパターンで形成された導電性組成物を硬化させて導電層を形成する工程。
【0071】
上記(i)〜(vi)工程に加えて、特許文献3に記載の好ましい態様を採用しても良い。
プライマー層を設けない場合は上記(i)工程でプライマー層を形成していない透明基材を用いても良い。上記引き抜きプライマ凹版法を用いる場合は、上記凹部内の導電性組成物の転写性及び密着性を高める点からプライマー層を透明基材上に設けることが好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0073】
(実施例1)
(電磁波シールド材の製造)
図8は、導電性組成物を透明基材上に設けられたプライマー層上に転写する転写工程を実施する装置の概略構成図であり、この図8を用いて、電磁波シールド材の製造工程を説明する。
【0074】
凹版ロール90として、線幅が10μm、線間ピッチが300μm、パターンが正方格子(メッシュ)状、版深が10μm、凹部の底部が曲面形状(横断面形状が図9の導電性パターン層の頂部のネガ型のような曲面形状。)のグラビア版胴を用いた。
透明基材10として、片面にポリエステル系樹脂塗膜から成る易接着処理がされた幅1000mm、厚さ100μmの長尺ロール巻の無色透明2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
【0075】
透明基材10の易接着処理された面に下記組成のプライマー層用の電離放射線硬化性樹脂組成物(粘度約1300mPa・s(25℃、B型粘度計))を厚さ5μmとなるようにグラビアリバースロールコート法により塗布し、プライマー層70を形成した。塗布後のプライマー層70は触ると流動性を示すものの、透明基材10上から流れ落ちることはなかった。
【0076】
(プライマー層用の電離放射線硬化性樹脂組成物の組成)
エポキシアクリレートプレポリマー:35質量部
ウレタンアクリレートプレポリマー:12質量部
フェノキシエチルアクリレートからなる単官能アクリレートモノマー:44質量部
エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレートからなる3官能アクリレートモノマー:9質量部
重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の商品名イルガキュア184):3質量部
【0077】
下記組成の導電性組成物を十分に攪拌混合した後、3本ロールで混練りして導電性組成物を作製した。
【0078】
(導電性組成物(銀ペースト)の組成)
導電性微粒子(平均粒径1.0μmの球状銀微粒子):93質量部
バインダー樹脂(熱可塑性のポリエステルウレタン樹脂):7質量部
溶剤(ブチルカルビトールアセテート):25質量部
【0079】
図9に示すように、凹版ロール90の凹部100に、ピックアップロール110を用いて導電性組成物120を塗布し、ドクターブレード130で凹部100内以外の導電性組成物120を掻き取って凹部100内のみに導電性組成物120を充填した。
図9に示すように、導電性組成物120が凹部100内に充填した状態の凹版ロール90の版面140にプライマー層70が対向するようにニップロール150と凹版ロール90の間にプライマー層70が設けられた透明基材10を速度10m/minで供給した。
そして、凹版ロール90に対するニップロール150の押圧力(付勢力)によって、プライマー層70を凹部100内に存在する導電性組成物120の凹み(特許文献3の図11の凹み6に相当。)に流入させ、導電性組成物120とプライマー層70とを隙間なく密着させると共に、プライマー層70の一部を凹部100内の導電性組成物120内に浸透させた。
次いで、凹版ロール90を回転させ、高圧水銀灯からなるUVランプ(図示しないが、図9の上方に位置する。)によって上方から紫外線を照射し、導電性組成物120と密着した状態でプライマー層70を硬化させた。
次いで、ニップロール151によって透明基材10及び硬化したプライマー層70を凹版ロール90から剥離し、その硬化したプライマー層70上には凹版ロール90から導電性組成物120が転写された。
次いで、その導電性組成物が転写された透明基材10を110℃の乾燥ゾーンを通過させて、導電性組成物120中の溶剤を蒸発させて導電性組成物を固化させ、プライマー層70上にメッシュパターンからなる導電性パターン層20を形成し、積層体(導電性パターン層20/プライマー層70/透明基材10)を得た。
このとき、導電性パターン層20の厚みは9.5μmであり、パターンは転移率95%で転移していた。実際には導電性組成物120の溶剤乾燥による体積収縮があるため、ほぼ100%に近い転移がなされたと推測される。なお、転移率は、{(転写されたパターンの厚さ/凹版の版深(10μm)×100}により求めた。
【0080】
次いで、得られた積層体を硫酸銅めっき液に浸漬し、導電性パターン層20のパターンを陰極として、銅板を陽極として、2A/dmの電流を流した。これにより、パターン上に選択的に厚さ2μmで電解銅めっきを行うことで金属層を形成し、電磁波シールド材を得た。
【0081】
得られた電磁波シールド材の導電性パターン層の凸状パターンを導電性微粒子の分布をレーザー回折粒度分布計((株)堀場製作所製の商品名LA920)により調べたところ、導電性微粒子の分布は、凸状パターンの頂部に近いほど密で、凸状パターンのプライマー層側ほど疎になるような分布を有していることがわかった。
【0082】
得られた電磁波シールド材の開口部から任意に10個の開口部(S)を選択し、当該10個の開口部(S)に含まれる島状付着物の数塗大きさを計測した。10個の開口部(S)には直径0.4mm以上の島状付着物は存在せず、直径0.05mm以上、かつ、0.4mm未満の島状付着物の数の平均値Nは、0.91だった。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、粒径2μmの導電性微粒子(銀微粒子)を用いた
以外は実施例1と同様に行い、電磁波シールド材を得た。
得られた電磁波シールド材の開口部から任意に10個の開口部(S)を選択し、当該10個の開口部(S)の直径0.05mm以上、かつ、0.4mm未満の島状付着物の数の平均値Nは、3だった。
【0084】
(比較例2)
実施例1において、平均粒径3.5μmの導電性微粒子(銀微粒子)を用いた以外は実施例1と同様に行い、電磁波シールド材を得た。
得られた電磁波シールド材の開口部から任意に10個の開口部(S)を選択し、当該10個の開口部(S)の直径0.05mm以上、かつ、0.4mm未満の島状付着物の数の平均値Nは、5だった。
【0085】
(評価1:可視光透過率)
上記実施例1及び比較例1〜2で得られた電磁波シールド材について、分光光度計(島津製作所(株)製の商品名UV3100)を使用してJIS A 5759に準ずる方法で可視光透過率を測定した。
可視光透過率は、実施例1の電磁波シールド材が85%、比較例1の電磁波シールド材が84%、比較例2の電磁波シールド材が83%だった。
【0086】
(評価2:視認性)
上記実施例1及び比較例1〜2で得られた電磁波シールド材の外観を肉眼で観察したところ、実施例1の電磁波シールド材は外観が良好だった。
しかし、比較例1及び2の電磁波シールド材は外観が不良だった。
【符号の説明】
【0087】
1 電磁波シールド材
10 透明基材
20 導電性パターン層
30 開口部
40、41 島状付着物
50 パターン部
60 接地部
70 プライマー層
80 金属層
90 凹版ロール
100 凹部
110 ピックアップロール
120 導電性組成物
130 ドクターブレード
140 版面
150、151 ニップロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に開口部を有する所定のパターンで形成された導電性組成物からなる導電性パターン層が設けられた電磁波シールド材であって、
当該導電性パターン層に含まれる開口部から任意に選択した10個の開口部(S)において、前記導電性組成物からなり、前記導電性パターン層から独立した直径0.4mm以上の島状付着物が存在しないことを特徴とする、電磁波シールド材。
【請求項2】
前記導電性パターン層に含まれる開口部から任意に選択した10個の開口部(S)において、前記導電性組成物からなる直径0.05mm以上、かつ、0.4mm未満の島状付着物の数の平均値Nが0.91以下であることを特徴とする、請求項1に記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記導電性組成物が導電性粒子とバインダー樹脂を含んでおり、前記導電性パターン層中の導電性粒子の分布は、相対的に、透明基材近傍において分布が疎であり、また当該導電性パターン層の頂部近傍において密であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
前記透明基材と前記導電性パターン層の間にプライマー層が設けられていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
前記導電性パターン層の表面に、さらに金属層が設けられていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電磁波シールド材。
【請求項6】
前記導電性粒子の粒径が0.5〜1.5μmであることを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の電磁波シールド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−204775(P2011−204775A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68483(P2010−68483)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】