電磁波発生装置
【課題】従来に比べて小型で電源容量も小さい電磁波発生装置を実現する。
【解決手段】内部を密閉して真空に保つ矩形断面の環状の真空チャンバー及び真空チャンバーに電子ビームを放出する電子銃を備え、また、内側から順に円筒形の加速用磁極61、矩形断面の環状の収束用磁極62、矩形断面の環状のリターンヨーク63の3つを同心円状に配置して円盤状に構成して、真空チャンバーと同一の中心軸をもって真空チャンバーの両側に対称に配置される1対の電磁石を備え、また加速用磁極61の周囲に巻かれて、加速用磁極61を励磁する加速用コイル70、及び収束用磁極62の周囲に巻かれて、収束用磁極62を励磁する収束用コイル40を備えた電磁波発生装置の、加速用コイル70と、この加速用コイル70に電力を供給する加速用電源とを接続する給電線を、加速用磁極61の中心軸に設けた貫通孔を通して取り出す。
【解決手段】内部を密閉して真空に保つ矩形断面の環状の真空チャンバー及び真空チャンバーに電子ビームを放出する電子銃を備え、また、内側から順に円筒形の加速用磁極61、矩形断面の環状の収束用磁極62、矩形断面の環状のリターンヨーク63の3つを同心円状に配置して円盤状に構成して、真空チャンバーと同一の中心軸をもって真空チャンバーの両側に対称に配置される1対の電磁石を備え、また加速用磁極61の周囲に巻かれて、加速用磁極61を励磁する加速用コイル70、及び収束用磁極62の周囲に巻かれて、収束用磁極62を励磁する収束用コイル40を備えた電磁波発生装置の、加速用コイル70と、この加速用コイル70に電力を供給する加速用電源とを接続する給電線を、加速用磁極61の中心軸に設けた貫通孔を通して取り出す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加速器内で円形の軌道を描きながら周回する電子により、X線等の電磁波を発生させる、電磁波発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
円形加速装置を利用した従来の電磁波発生装置として、ベータトロン加速原理による加速装置(ベータトロン加速装置と略称する)を利用したもの(非特許文献1)が有る。
ベータトロン加速装置を利用した従来の電磁波発生装置では、共通リターンヨークに収束用磁極と加速用磁極を設けた構成や、加速用磁極と収束用磁極を別々に製作し組み合わせて構成した例がある(例えば、非特許文献1、図13・2、549頁)。この場合、収束用磁極を励磁する収束用コイルと加速用磁極を励磁する加速用コイルを共通としても良いが、入出射を正確に制御する必要が有る場合は、別々のコイルとしそれぞれ独立した収束用電源及び加速用電源を使用している。
【0003】
【非特許文献1】「加速器(実験物理学講座28)」、熊谷寛夫責任編集、共立出版株式会社、1975年12月25日発行、ISBN 4−320−03083−4、(13章 ベータトロン、547頁から563頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電磁波発生装置は以上のように構成されているので、入出射を正確に制御するために、収束用と加速用のコイルを独立に設ける場合には、次のように問題がある。
【0005】
共通リターンヨークを採用した場合は、加速用コイルは常に収束用コイルの内側に設置する必要が有ることから、必然的に真空チャンバーの内側に設置することになるので、加速用コイルへの給電線が真空チャンバーと収束用磁極との間を通過させざるを得ない。したがって、その分だけ真空チャンバーの容量が縮小されて電子ビームの損失が増大するか、又は収束用磁極の間隔が拡大して収束用電源容量の増大や電磁石の拡大の問題がある。
【0006】
また、収束用及び加速用の磁極を完全に独立とした場合には、加速用磁極のさらに大きくなるので電磁波発生装置が大きくなるという問題がある。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、従来に比べて小型で電源容量も小さい電磁波発生装置を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる電磁波発生装置は、内部を密閉して真空に保つ矩形断面の環状の真空チャンバー、この真空チャンバーに電子ビームを放出する電子銃を備え、また、内側から順に円筒形の加速用磁極、矩形断面の環状の収束用磁極、矩形断面の環状のリターンヨークの3つを同心円状に配置して円盤状に構成して、真空チャンバーと中心軸を共有する位置で、真空チャンバの両側に対称に配置される1対の電磁石を備え、また加速用磁極の周囲に巻かれて、加速用磁極を励磁する加速用コイル、及び収束用磁極の周囲に巻かれて、収束用磁極を励磁する収束用コイルを備えた電磁波発生装置の、加速用コイルと、この加速用コイルに電力を供給する加速用電源とを接続する給電線を、加速用磁極の中心軸に設けた貫通孔を通して取り出すようにした。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、加速用磁極の対の間隔及び収束用磁極励磁の対の間隔を小さくすることができて、加速用コイル及び収束用コイルを流れる励磁電流が低減され、加速用電源のコストの低減及び消費電力の低減によるランニングコストの低減が可能となり、同時に電磁石60が小型化されることにより電磁波発生装置の省スペース化並びに収束用電源のコストの低減及び消費電力の低減によるランニングコストの低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1及び図2は、この発明の実施の形態1の電磁波発生装置を図示するものであって、図1は水平断面図であり、図2は垂直断面図である。
図1に示すように、電子銃10の電子放出部11が真空チャンバー20内に設けられており、電子放出部11から真空チャンバー20内に電子ビーム30を放出する。放出された電子ビーム30は、収束用コイル40によって発生した収束用磁場により、図1に示す円形軌道を周回し、ターゲット50に衝突して電磁波を発生させる。
【0011】
真空チャンバー20は中空の環状構造であり、その内部は真空ポンプ等で高真空に保たれ、電子ビーム30が円形軌道を描いて繰り返し回転運動できるようになっている。また、その断面構造は径方向に長い矩形形状となっており、電子ビーム30の軌道半径の若干の変化に対応できるようにしている。
【0012】
電磁石60は、図3に示したようにその内部磁場の働きに応じた領域、すなわち加速用磁極61、収束用磁極62及びリターンヨーク63に分類することができる。
加速用磁極61は、その発生する磁場が主に電子ビーム30の加速に寄与する部分であり、加速用コイル70と収束用コイル40とにより励磁される。収束用磁極62は、電子ビーム30の回転軌道を維持し、かつ電子ビーム30を収束させる働きがあり、収束用コイル40によってのみ励磁される。リターンヨーク63は加速用磁極61及び収束用磁極62の磁力線を元に戻す経路となっている。
【0013】
加速用コイル70は、加速用磁極61の間に設置されて、電子ビーム30の軌道とは独立な加速用磁場を発生させるが、漏れ磁場が電子ビーム30の軌道に影響する場合があり、この影響が非対称にならないように、図2に示すように上下対称の2つのコイルに分けて設置している。この2つのコイルは直列に接続されて、それぞれの終端からの給電線80は撚り線状として、貫通孔90を通して外部の加速用電源100に接続されている。
【0014】
なお、図3では加速用磁極61と収束用磁極62の間隔は同一間隔となっているが、一般には、最適設計によって異なる間隔で設計される。また、貫通孔90の径は、周囲の磁場を乱さないように、磁場計算に基づき最小限に留めるように決定される。
なお、図示していないが、電子銃10には電子銃用電源等が、真空チャンバー20には真空ポンプ等が、収束用コイル40にはこれを励磁する収束用電源等が付属している。
【0015】
この実施の形態1では、それぞれ上下対称に配置された加速用磁極61の対の間隔及び収束用磁極62の対の間隔を小さくすることのできる構成を示しているが、これら各磁極の対の間隔の大きさは、次のように電磁石60の大きさや、加速用電源100及び収束用電源の容量に影響する。
【0016】
各磁極の対の間隔の中心において、励磁電流I[A]、間隔の大きさg[m]及び磁束密度B[T]には次のような関係が有る。
【0017】
【数1】
ただし、μ0は真空の透磁率、Nはコイルの巻数である。
したがって、各磁極の対の間隔に比例した励磁電流が必要であり、各磁極の対の間隔が拡大するとそのまま供給電源の容量の増大をもたらす。
また、各磁極の対の間隔が大きくなると、次式で与えられるようにコイルの発熱増となる。
【0018】
【数2】
ただし、Lはコイルの周長[m]、ρはコイル材料の電気抵抗率[Ωm]、Sはコイルの断面積である。なお、コイルの断面積はコイル断面中の線材の芯線の断面積の総和である。
【0019】
ところが、通常は小型化のためぎりぎりの熱設計としており、各コイルに対する冷却能力に限界があるため、コイルの断面積の増加で対処することになり、電磁石60の大型化をもたらすことになる。
【0020】
以上説明したように、加速用磁極61の対の間隔及び収束用磁極62の対の間隔を小さくすることで、電磁石60の大きさや、加速用電源100及び収束用電源の容量を小さくすることができる。
【0021】
この実施の形態1では、図2に示したように、加速用コイル70への給電線80を取り出すために電磁石60の中央に貫通孔90を設けている。例えば、図5のように貫通孔90を設けずに給電線80を取り出そうとすると、給電線80が真空チャンバー20と干渉することで、少なくとも給電線80の幅のだけ、収束用磁極62の間隔を広くする必要がある。
【0022】
また、加速用コイル70の一方は給電線80を始まりとしてコイルの内側から外側へ巻いている。そして、他方の加速用コイル70は、外側に達した給電線80を外側から内側へ巻いている。以上の構成により、給電線80の両端はいずれも、加速用コイル70の内側から取り出せるようになっている。逆に、加速用コイル70の外側から給電線80を取り出そうとすると、図4に示したように、給電線80が加速用コイル70を跨ぐために、加速用磁極61の間隔を広くする必要がある。
【0023】
なお、貫通孔90を中央に設けず、加速用コイル70の外側に設けても加速用コイル70や真空チャンバー20と干渉せずに給電線80を引き出すことができるが、その場合、貫通孔90の近傍に電子ビーム30の軌道が来ることになり、電磁石60の設計が困難になるという問題がある。言い換えれば、給電線80を電磁石60の中央から取り出すことで、電磁石60の磁場の精度を向上できるという効果がある。
【0024】
以上のように、給電線80を加速用コイル70の内側から取り出せるように巻き、電磁石60の中央に設けた貫通孔90から取り出すことで、各磁極の対の間隔を小さくできる。
例えば、真空チャンバー20の外径が100mm、高さ20mmの小型器の場合、図5の構成では、加速用磁極61対の間隔及び収束用磁極62の対の間隔は、真空チャンバー20の高さに給電線80の幅を付加したものとなる。給電線80の直径は、被覆なども考慮すると2mm程度は必要となるので、図5のように左右両方向に1本ずつ取り出しても、各磁極の対の間隔は22mm必要となる。
これに対して、本発明の構成では、図2に示すように真空チャンバー20の高さぎりぎりまで磁極を近づけることができるので、各磁極の対の間隔は20mmとすることができる。前述の励磁電流の式(1)及びコイルの断面積(2)の式から、本発明によらない図5の場合に比較して、励磁電流が10%低減され、電磁石60の大きさを10%縮小することが可能である。
【0025】
以上のように、励磁電流の低減により、加速用電源100のコストの低減及び消費電力の低減によるランニングコストの低減が可能となり、同時に電磁石60が小型化されることにより電磁波発生装置の省スペース化並びに収束用電源のコストの低減及び消費電力の低減によるランニングコストの低減が可能となった。
【0026】
また、貫通孔90を設けて電磁石60の中央から給電線80を引き出すにあたって、例えば、図6のように、電磁石60の上下2方向に給電線80を引き出すと、給電線80が電磁石60を周回することで、電磁石60が本来発生させるべき磁場(図7の磁場111)の方向に対して垂直な磁場(図8の磁場112)を発生させることになる。これにより、図9の等価回路に示したように、給電線80のインダクタンス81が、元々ある加速用コイル70のインダクタンス71に追加され、加速用電源100から見た全体のインダクタンスが増大する。この結果、加速用電源100に必要な電源電圧が増大する。
【0027】
そこで、図2に示したように、給電線80が電磁石60を周回しないように、電磁石60の一方向に引き出せば、給電線80に不要なインダクタンスを発生させず、加速用電源100の電圧を低くできて低コスト化できる。
なお、加速用コイルへの給電線80を撚り線とすることで、外部磁場による加速用電源100の電圧変動に強くなるという効果が得られる。
【0028】
また、加速用コイル70の線材の断面形状は、図10に示すように矩形形状としており加速用コイル70を形成する場合に隙間無く配列することができるようにしている。
図11に示したような円形断面の線材を使用した場合、所定の断面積を得る場合にコイルの設置面積が大きくなり、その結果、電磁石形状を拡大する必要が生じる。これに対して矩形の断面の線材を使用すれば、所定の断面積を得る場合にコイルの設置面積を最小にすることができ、電磁石60を最小に設計することができ、電磁波発生装置の省スペース化、電源の低コスト化、ランニングコストの低減の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置を示す水平断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置を示す垂直断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置の磁極の構成を示す図である。
【図4】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出し方法を示す図である。
【図5】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出し方法を示す図である。
【図6】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出し方法を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置の磁場を示す図である。
【図8】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出しによる磁場を示す図である。
【図9】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出しによるインダクダンスを示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置の給電線を示す図である。
【図11】本発明によらない給電線を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10 電子銃
20 真空チャンバー
30 電子ビーム
40 収束用コイル
60 電磁石
61 加速用磁極
62 収束用磁極
63 リターンヨーク
70 加速用コイル
80 給電線
90 貫通孔
100 加速用電源
【技術分野】
【0001】
この発明は、加速器内で円形の軌道を描きながら周回する電子により、X線等の電磁波を発生させる、電磁波発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
円形加速装置を利用した従来の電磁波発生装置として、ベータトロン加速原理による加速装置(ベータトロン加速装置と略称する)を利用したもの(非特許文献1)が有る。
ベータトロン加速装置を利用した従来の電磁波発生装置では、共通リターンヨークに収束用磁極と加速用磁極を設けた構成や、加速用磁極と収束用磁極を別々に製作し組み合わせて構成した例がある(例えば、非特許文献1、図13・2、549頁)。この場合、収束用磁極を励磁する収束用コイルと加速用磁極を励磁する加速用コイルを共通としても良いが、入出射を正確に制御する必要が有る場合は、別々のコイルとしそれぞれ独立した収束用電源及び加速用電源を使用している。
【0003】
【非特許文献1】「加速器(実験物理学講座28)」、熊谷寛夫責任編集、共立出版株式会社、1975年12月25日発行、ISBN 4−320−03083−4、(13章 ベータトロン、547頁から563頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電磁波発生装置は以上のように構成されているので、入出射を正確に制御するために、収束用と加速用のコイルを独立に設ける場合には、次のように問題がある。
【0005】
共通リターンヨークを採用した場合は、加速用コイルは常に収束用コイルの内側に設置する必要が有ることから、必然的に真空チャンバーの内側に設置することになるので、加速用コイルへの給電線が真空チャンバーと収束用磁極との間を通過させざるを得ない。したがって、その分だけ真空チャンバーの容量が縮小されて電子ビームの損失が増大するか、又は収束用磁極の間隔が拡大して収束用電源容量の増大や電磁石の拡大の問題がある。
【0006】
また、収束用及び加速用の磁極を完全に独立とした場合には、加速用磁極のさらに大きくなるので電磁波発生装置が大きくなるという問題がある。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、従来に比べて小型で電源容量も小さい電磁波発生装置を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる電磁波発生装置は、内部を密閉して真空に保つ矩形断面の環状の真空チャンバー、この真空チャンバーに電子ビームを放出する電子銃を備え、また、内側から順に円筒形の加速用磁極、矩形断面の環状の収束用磁極、矩形断面の環状のリターンヨークの3つを同心円状に配置して円盤状に構成して、真空チャンバーと中心軸を共有する位置で、真空チャンバの両側に対称に配置される1対の電磁石を備え、また加速用磁極の周囲に巻かれて、加速用磁極を励磁する加速用コイル、及び収束用磁極の周囲に巻かれて、収束用磁極を励磁する収束用コイルを備えた電磁波発生装置の、加速用コイルと、この加速用コイルに電力を供給する加速用電源とを接続する給電線を、加速用磁極の中心軸に設けた貫通孔を通して取り出すようにした。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、加速用磁極の対の間隔及び収束用磁極励磁の対の間隔を小さくすることができて、加速用コイル及び収束用コイルを流れる励磁電流が低減され、加速用電源のコストの低減及び消費電力の低減によるランニングコストの低減が可能となり、同時に電磁石60が小型化されることにより電磁波発生装置の省スペース化並びに収束用電源のコストの低減及び消費電力の低減によるランニングコストの低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1及び図2は、この発明の実施の形態1の電磁波発生装置を図示するものであって、図1は水平断面図であり、図2は垂直断面図である。
図1に示すように、電子銃10の電子放出部11が真空チャンバー20内に設けられており、電子放出部11から真空チャンバー20内に電子ビーム30を放出する。放出された電子ビーム30は、収束用コイル40によって発生した収束用磁場により、図1に示す円形軌道を周回し、ターゲット50に衝突して電磁波を発生させる。
【0011】
真空チャンバー20は中空の環状構造であり、その内部は真空ポンプ等で高真空に保たれ、電子ビーム30が円形軌道を描いて繰り返し回転運動できるようになっている。また、その断面構造は径方向に長い矩形形状となっており、電子ビーム30の軌道半径の若干の変化に対応できるようにしている。
【0012】
電磁石60は、図3に示したようにその内部磁場の働きに応じた領域、すなわち加速用磁極61、収束用磁極62及びリターンヨーク63に分類することができる。
加速用磁極61は、その発生する磁場が主に電子ビーム30の加速に寄与する部分であり、加速用コイル70と収束用コイル40とにより励磁される。収束用磁極62は、電子ビーム30の回転軌道を維持し、かつ電子ビーム30を収束させる働きがあり、収束用コイル40によってのみ励磁される。リターンヨーク63は加速用磁極61及び収束用磁極62の磁力線を元に戻す経路となっている。
【0013】
加速用コイル70は、加速用磁極61の間に設置されて、電子ビーム30の軌道とは独立な加速用磁場を発生させるが、漏れ磁場が電子ビーム30の軌道に影響する場合があり、この影響が非対称にならないように、図2に示すように上下対称の2つのコイルに分けて設置している。この2つのコイルは直列に接続されて、それぞれの終端からの給電線80は撚り線状として、貫通孔90を通して外部の加速用電源100に接続されている。
【0014】
なお、図3では加速用磁極61と収束用磁極62の間隔は同一間隔となっているが、一般には、最適設計によって異なる間隔で設計される。また、貫通孔90の径は、周囲の磁場を乱さないように、磁場計算に基づき最小限に留めるように決定される。
なお、図示していないが、電子銃10には電子銃用電源等が、真空チャンバー20には真空ポンプ等が、収束用コイル40にはこれを励磁する収束用電源等が付属している。
【0015】
この実施の形態1では、それぞれ上下対称に配置された加速用磁極61の対の間隔及び収束用磁極62の対の間隔を小さくすることのできる構成を示しているが、これら各磁極の対の間隔の大きさは、次のように電磁石60の大きさや、加速用電源100及び収束用電源の容量に影響する。
【0016】
各磁極の対の間隔の中心において、励磁電流I[A]、間隔の大きさg[m]及び磁束密度B[T]には次のような関係が有る。
【0017】
【数1】
ただし、μ0は真空の透磁率、Nはコイルの巻数である。
したがって、各磁極の対の間隔に比例した励磁電流が必要であり、各磁極の対の間隔が拡大するとそのまま供給電源の容量の増大をもたらす。
また、各磁極の対の間隔が大きくなると、次式で与えられるようにコイルの発熱増となる。
【0018】
【数2】
ただし、Lはコイルの周長[m]、ρはコイル材料の電気抵抗率[Ωm]、Sはコイルの断面積である。なお、コイルの断面積はコイル断面中の線材の芯線の断面積の総和である。
【0019】
ところが、通常は小型化のためぎりぎりの熱設計としており、各コイルに対する冷却能力に限界があるため、コイルの断面積の増加で対処することになり、電磁石60の大型化をもたらすことになる。
【0020】
以上説明したように、加速用磁極61の対の間隔及び収束用磁極62の対の間隔を小さくすることで、電磁石60の大きさや、加速用電源100及び収束用電源の容量を小さくすることができる。
【0021】
この実施の形態1では、図2に示したように、加速用コイル70への給電線80を取り出すために電磁石60の中央に貫通孔90を設けている。例えば、図5のように貫通孔90を設けずに給電線80を取り出そうとすると、給電線80が真空チャンバー20と干渉することで、少なくとも給電線80の幅のだけ、収束用磁極62の間隔を広くする必要がある。
【0022】
また、加速用コイル70の一方は給電線80を始まりとしてコイルの内側から外側へ巻いている。そして、他方の加速用コイル70は、外側に達した給電線80を外側から内側へ巻いている。以上の構成により、給電線80の両端はいずれも、加速用コイル70の内側から取り出せるようになっている。逆に、加速用コイル70の外側から給電線80を取り出そうとすると、図4に示したように、給電線80が加速用コイル70を跨ぐために、加速用磁極61の間隔を広くする必要がある。
【0023】
なお、貫通孔90を中央に設けず、加速用コイル70の外側に設けても加速用コイル70や真空チャンバー20と干渉せずに給電線80を引き出すことができるが、その場合、貫通孔90の近傍に電子ビーム30の軌道が来ることになり、電磁石60の設計が困難になるという問題がある。言い換えれば、給電線80を電磁石60の中央から取り出すことで、電磁石60の磁場の精度を向上できるという効果がある。
【0024】
以上のように、給電線80を加速用コイル70の内側から取り出せるように巻き、電磁石60の中央に設けた貫通孔90から取り出すことで、各磁極の対の間隔を小さくできる。
例えば、真空チャンバー20の外径が100mm、高さ20mmの小型器の場合、図5の構成では、加速用磁極61対の間隔及び収束用磁極62の対の間隔は、真空チャンバー20の高さに給電線80の幅を付加したものとなる。給電線80の直径は、被覆なども考慮すると2mm程度は必要となるので、図5のように左右両方向に1本ずつ取り出しても、各磁極の対の間隔は22mm必要となる。
これに対して、本発明の構成では、図2に示すように真空チャンバー20の高さぎりぎりまで磁極を近づけることができるので、各磁極の対の間隔は20mmとすることができる。前述の励磁電流の式(1)及びコイルの断面積(2)の式から、本発明によらない図5の場合に比較して、励磁電流が10%低減され、電磁石60の大きさを10%縮小することが可能である。
【0025】
以上のように、励磁電流の低減により、加速用電源100のコストの低減及び消費電力の低減によるランニングコストの低減が可能となり、同時に電磁石60が小型化されることにより電磁波発生装置の省スペース化並びに収束用電源のコストの低減及び消費電力の低減によるランニングコストの低減が可能となった。
【0026】
また、貫通孔90を設けて電磁石60の中央から給電線80を引き出すにあたって、例えば、図6のように、電磁石60の上下2方向に給電線80を引き出すと、給電線80が電磁石60を周回することで、電磁石60が本来発生させるべき磁場(図7の磁場111)の方向に対して垂直な磁場(図8の磁場112)を発生させることになる。これにより、図9の等価回路に示したように、給電線80のインダクタンス81が、元々ある加速用コイル70のインダクタンス71に追加され、加速用電源100から見た全体のインダクタンスが増大する。この結果、加速用電源100に必要な電源電圧が増大する。
【0027】
そこで、図2に示したように、給電線80が電磁石60を周回しないように、電磁石60の一方向に引き出せば、給電線80に不要なインダクタンスを発生させず、加速用電源100の電圧を低くできて低コスト化できる。
なお、加速用コイルへの給電線80を撚り線とすることで、外部磁場による加速用電源100の電圧変動に強くなるという効果が得られる。
【0028】
また、加速用コイル70の線材の断面形状は、図10に示すように矩形形状としており加速用コイル70を形成する場合に隙間無く配列することができるようにしている。
図11に示したような円形断面の線材を使用した場合、所定の断面積を得る場合にコイルの設置面積が大きくなり、その結果、電磁石形状を拡大する必要が生じる。これに対して矩形の断面の線材を使用すれば、所定の断面積を得る場合にコイルの設置面積を最小にすることができ、電磁石60を最小に設計することができ、電磁波発生装置の省スペース化、電源の低コスト化、ランニングコストの低減の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置を示す水平断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置を示す垂直断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置の磁極の構成を示す図である。
【図4】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出し方法を示す図である。
【図5】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出し方法を示す図である。
【図6】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出し方法を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置の磁場を示す図である。
【図8】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出しによる磁場を示す図である。
【図9】本発明によらない加速用コイルへの給電線の取り出しによるインダクダンスを示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1の電磁波発生装置の給電線を示す図である。
【図11】本発明によらない給電線を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10 電子銃
20 真空チャンバー
30 電子ビーム
40 収束用コイル
60 電磁石
61 加速用磁極
62 収束用磁極
63 リターンヨーク
70 加速用コイル
80 給電線
90 貫通孔
100 加速用電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を密閉して真空に保つ矩形断面の環状の真空チャンバー、
この真空チャンバーに電子ビームを放出する電子銃、
内側から順に円筒形の加速用磁極、矩形断面の環状の収束用磁極、矩形断面の環状のリターンヨークの3つを同心円状に配置して円盤状に構成して、前記真空チャンバーと中心軸を共有する位置で、前記真空チャンバの両側に対称に配置される1対の電磁石、
前記加速用磁極の周囲に巻かれて、前記加速用磁極を励磁する加速用コイル、
前記収束用磁極の周囲に巻かれて、前記収束用磁極を励磁する収束用コイル、
前記加速用磁極の中心軸に設けられた貫通孔、
及び、前記加速用コイルと、前記加速用コイルに電力を供給する加速用電源とを接続する給電線であって、前記貫通孔を通して取り出される給電線を備えたことを特徴とする電磁波発生装置。
【請求項2】
貫通孔は加速用磁極のいずれか一方のみに設けられ、給電線の往路と復路とが共に同一の貫通孔を通して取り出されることを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項3】
加速用コイルの一方は内側から外側に巻かれ、他方は外側から内側にまかれて、双方の前記加速用コイルの線材の外側の端同士を結合し、それぞれの前記加速用コイルの内側の端に給電線と接続したことを特徴とする請求項1に電磁波発生装置。
【請求項4】
加速用コイルの線材の断面を矩形としたことを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項5】
給電線の往路と復路とを互いにらせん状にねじったツイストペア線としたことを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項1】
内部を密閉して真空に保つ矩形断面の環状の真空チャンバー、
この真空チャンバーに電子ビームを放出する電子銃、
内側から順に円筒形の加速用磁極、矩形断面の環状の収束用磁極、矩形断面の環状のリターンヨークの3つを同心円状に配置して円盤状に構成して、前記真空チャンバーと中心軸を共有する位置で、前記真空チャンバの両側に対称に配置される1対の電磁石、
前記加速用磁極の周囲に巻かれて、前記加速用磁極を励磁する加速用コイル、
前記収束用磁極の周囲に巻かれて、前記収束用磁極を励磁する収束用コイル、
前記加速用磁極の中心軸に設けられた貫通孔、
及び、前記加速用コイルと、前記加速用コイルに電力を供給する加速用電源とを接続する給電線であって、前記貫通孔を通して取り出される給電線を備えたことを特徴とする電磁波発生装置。
【請求項2】
貫通孔は加速用磁極のいずれか一方のみに設けられ、給電線の往路と復路とが共に同一の貫通孔を通して取り出されることを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項3】
加速用コイルの一方は内側から外側に巻かれ、他方は外側から内側にまかれて、双方の前記加速用コイルの線材の外側の端同士を結合し、それぞれの前記加速用コイルの内側の端に給電線と接続したことを特徴とする請求項1に電磁波発生装置。
【請求項4】
加速用コイルの線材の断面を矩形としたことを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項5】
給電線の往路と復路とを互いにらせん状にねじったツイストペア線としたことを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−207706(P2007−207706A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28270(P2006−28270)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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