説明

電磁波遮蔽フィルタの製造方法、及び電磁波遮蔽フィルタ

【課題】導電体パターン層が銀粒子等で白味を帯びて明室コントラストが低下するのを防げる電磁波遮蔽フィルタの製造方法及び電磁波遮蔽フィルタとする。
【解決手段】電磁波遮蔽フィルタ10は、透明基材1上の導電体パターン層2として、導電性粒子と樹脂バインダを含む導電性組成物で導電性組成物層3を印刷形成する為の凹版31に、版面の凹状溝32の内面を粗面fcpとした版を用い、印刷と同時に導電体パターン層の表面に粗面fcを賦形する。或いは、凹状溝内の粗面を被覆樹脂組成物で被覆した後、残りの凹状溝の空間に導電性組成物を充填して印刷することで、導電性組成物層表面に被覆樹脂組成物が固化した被覆樹脂層の面として導電体パターン層の粗面を形成する。粗面により外光Laの鏡面反射光Lmが減る。被覆樹脂層は導電性粒子非含有でも良く、また透明、暗色等としても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波遮蔽フィルタの製造方法に関する。特に、透明基材上に導電性組成物を用いて導電体パターン層を形成する電磁波遮蔽フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ディスプレイとして、旧来のブラウン管(CRT)ディスプレイ以外に、フラットパネルディスプレイ(FPD)となる、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(以後PDPとも言う)、電界発光(EL)ディスプレイ等の各種ディスプレイが実用されている。
【0003】
そして、ディスプレイの前面(観察者側面)には、例えばPDPでは、ディスプレイからの電磁波放出が強い為、該電磁波は遮蔽し画像光は透過させる電磁波遮蔽フィルタを配置している。また、ディスプレイから放出される赤外線によるリモートコントローラの誤動作を防ぐ、赤外線吸収フィルタ等の各種光学フィルタも配置している。
【0004】
また、ディスプレイ用途の電磁波遮蔽材では、kHzからGHz帯域の電磁波遮蔽性能と可視光線に対する光透過性とを両立できる点で、導電体層には導電性に優れた金属層など結果として不透明となる層が好適であり、不透明性な導電体層であっても光透過性を確保する為に、導電体層はメッシュ形状などのパターンで多数の開口部を設けた導電体パターン層としたものが広く用いられている。
また、導電体パターン層の形成には、金属箔をフォトエッチング法で形成する方法もあるが、コスト面で有利な印刷法も各種提案されている。その中でも特許文献1に開示の凹版印刷法(「引抜プライマ方式凹版印刷法」と呼ぶことにする)は、従来では不可能であった様な線幅が細く且つ精細なパターン形成が可能で、優れた電磁波遮蔽性と優れた光透過性とを高度に両立できる点で優れた印刷法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/149969号のパンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ディスプレイ用途の電磁波遮蔽フィルタでは、導電体パターン層の観察者側に向ける表面は、外光の反射によりその色味が画像の明室コントラストに影響を及ぼすため、黒色ないしは黒に準じる暗色であることが望ましてとされている。一方、従来、導電体パターン層を印刷方式で作製する場合には導電性組成物(導電ペースト、導電インキ等と呼称される)として導電性が良いことから、含有させる導電性粒子には銀が好ましい。しかし、銀粒子を含む導電性組成物の色が金属光沢によって白味を帯びているため、導電体パターン層の色も白味を帯びて見えていた。
【0007】
上記白味を補い明室コントラストを向上させるために、導電体パターン層を印刷した後に、導電体パターン層の表面を、例えば、めっきにより黒化めっき層を形成することで着色して黒味を帯びた色にすることもできる。しかし、この方法では、めっき工程が増えて製造原価も高くなるという問題があった。
ここで、従来の電磁波遮蔽フィルタ20について、図10の断面図を参照して説明する。図10(a)に示す電磁波遮蔽フィルタ20は透明基材1上に導電体パターン層2oが印刷形成されており、従来の導電体パターン層2oでは、その表面に観察者V側から来た日光や電灯光等の外光Laが当たると、鏡面反射光Lmが反射してしまい、その結果、外光存在環境下(明室)に於いて、画像光に該鏡面反射光が混在し、画像の黒輝度に対する白輝度の比、即ち明室コントラストが低下する。そして、従来は、これを防ぐ為に、図10(b)に示す電磁波遮蔽フィルタ20の様に、導電体パターン層2oの表面に、別工程で更に黒化めっき層7などの黒化層を形成して、外光Laを吸収して、鏡面反射光Lmを減らしていた。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、電磁波遮蔽フィルタの導電体パターン層を印刷形成する場合でも、黒化めっき等の後工程の追加なしで、導電体パターン層が銀粒子等で白味を帯びて明室コントラストに悪影響するのを防げる、電磁波遮蔽フィルタの製造方法を提供することである。また、この方法によって得られる電磁波遮蔽フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明では、次の様な構成の電磁波遮蔽フィルタの製造方法と、その結果得られる電磁波遮蔽フィルタとした。
(1)導電体パターン層のパターン形状に対応した凹状溝を版面に有する凹版を用いて、該凹版の凹状溝に、導電性粒子と樹脂バインダを含む導電性組成物を充填した後、被印刷物に凹版印刷して、導電性パターン層として該導電性組成物が固化した導電性組成物層を形成する印刷工程を含む、電磁波遮蔽フィルタの製造方法において、
前記凹状溝の内部表面を粗面とした凹版を用いて印刷することで、印刷と同時に導電体パターン層の表面に粗面を賦形する、電磁波遮蔽フィルタの製造方法。
(2)上記凹状溝に導電性組成物を充填する前に、被覆樹脂組成物を凹状溝が完全に充填されない量で充填して凹状溝内部表面の粗面を該被覆樹脂組成物で被覆した後、残りの凹状溝の空間に前記導電性組成物を充填して印刷することで、導電体パターン層として導電性組成物層とその表面に該被覆樹脂組成物が固化した被覆樹脂層とを形成して、該被覆樹脂層の面として導電体パターン層の粗面を形成する、上記(1)の電磁波遮蔽フィルタの製造方法。
(3)上記被覆樹脂組成物が透明であり、上記導電体パターン層の粗面を透明被覆樹脂層の面として形成する、上記(2)の電磁波遮蔽フィルタの製造方法。
(4)上記被覆樹脂組成物が暗色であり、上記導電体パターン層の粗面を暗色被覆樹脂層の面として形成する、上記(2)の電磁波遮蔽フィルタの製造方法。
(5)透明基材上に導電体パターン層が形成され、且つ該導電体パターン層は導電性組成物層と、その表面に形成された被覆樹脂層とを含み、該被覆樹脂層の表面に粗面を有する、電磁波遮蔽フィルタ。
(6)透明基材上に導電体パターン層が形成され、且つ該導電体パターン層は導電性組成物層と、その表面に形成された透明被覆樹脂層とを含み、該透明被覆樹脂層の表面に粗面を有する、電磁波遮蔽フィルタ。
(7)透明基材上に導電体パターン層が形成され、且つ該導電体パターン層は導電性組成物層と、その表面に形成された暗色被覆樹脂層とを含み、該暗色被覆樹脂層の表面に粗面を有する、電磁波遮蔽フィルタ。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明によれば、凹版の凹状溝の内面を粗面とした凹版を用いて導電体パターン層を印刷形成するので、印刷された導電体パターン層の表面に印刷と同時に粗面を賦形できる。その結果、外光は導電体パターン層表面で乱反射するので鏡面反射光が低減する。その結果、導電体パターン層が白味を帯びるのを防げ、ディスプレイの前面に配置したときの明室コントラスト低下を防止できる。しかも、印刷と同時に粗面が賦形できるので、従来行っていた印刷後のめっき加工の様に、別途工程を追加せずに上記効果が得られる。
(2)また、導電体パターン層の表面側構成層として被覆樹脂層を印刷と同時に形成して該被覆樹脂層の表面として粗面を形成すれば、導電性組成物の性状に依存しないで該被覆樹脂層のみで粗面を形成できる。
また、被覆樹脂層を透明被覆樹脂層として形成すれば、導電性組成物層の表面色がさほど白味を帯びてなく透明被覆層表面の粗面の鏡面反射防止効果のみで満足できる明室コントラスト効果が得られる場合に、余分の充填材の添加を省略できる。
また、該被覆樹脂層を暗色被覆樹脂層として形成すれば、外光を吸収するので、より効果的に白味を抑制して明室コントラスト低下を防げる。しかも、被覆樹脂層を暗色とする為に導電性への寄与が小さい黒色色材を含有させる場合、それを導電体パターン層の主要部分を占める導電性組成物層に含有させて導電性低下を招かないで、暗色にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法をその一形態(第1の実施形態)で概念的に説明する断面面。
【図2】本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法を別の一形態(第2の実施形態)で概念的に説明する断面面。
【図3】本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法を別の一形態(第3の実施形態)で概念的に説明する断面面。
【図4】導電性組成物層の凸部(形成部)周辺にて、導電性組成物層の非形成部よりも形成部でプライマ層が厚く、且つ導電性組成物層の凸部内での導電性粒子の分布が凸部の頂部近くが密でプライマ層近くが疎の形態を、概念的に示す断面図。
【図5】図3の形態(第3の実施形態)に対応した本発明による電磁波遮蔽フィルタの一形態を例示する断面図。
【図6】本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法を別の一形態(第4の実施形態)で概念的に説明する断面。
【図7】凹版の凹状溝の内面に粗面を形成する一方法を説明する断面図。
【図8】凹版の凹状溝の内面に粗面を形成する別の方法を説明する断面図。
【図9】図6の形態(第4の実施形態)に対応した本発明による電磁波遮蔽フィルタの別の2形態を例示する断面図。
【図10】従来の電磁波遮蔽フィルタでの外光反射の問題点を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
《A1.第1の実施形態》
先ず、図1は、本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法の第1の実施形態を概念的に説明する断面図である。
図1(a)の様に、凹版印刷の凹版31として版面の凹状溝32の内部に粗面fcpが形成された版を用意する。なお、通常は凹版31はシリンダ状(円筒状)の版である。そして、図1(b)の様に、通常の凹版印刷と同様に、インキとして導電性組成物3cを凹状溝32の内部に充填する。なお、凹状溝32の内部のみに充填するには、ドクターブレードで版面上の余分のインキを掻き取る。また、導電性組成物3cは、銀等の導電性粒子と樹脂バインダを含む液状の組成物で、固化させた状態で導電性を呈する組成物である。
そして、図1(c)の様に、インキ充填済みの凹版31と被印刷物である透明基材1とを接触させた後、離版すれば、図1(d)の様に、透明基材1上に、導電性組成物3cが固化した導電性組成物層3が導電体パターン層2として印刷形成される。なお、導電性組成物3cの固化は、溶剤乾燥、紫外線照射などで行う。
【0014】
その結果、得られた電磁波遮蔽フィルタ10は、図1(d)の様に、透明基材1上に導電体パターン層2として印刷形成された導電性組成物層3の表面に、版の凹状溝32の内面の粗面fcpが逆凹凸形状で賦形され、前記表面が粗面fcとなっている。従って、外光Laが、導電体パターン層2の表面に当たっても、そこでの鏡面反射成分は低減されており鏡面反射光Lmは弱くなっている。この為、外光の悪影響を抑えて、ディスプレイの前面に配置した時に明室コントラスト低下を抑制できることになる。しかも、その粗面fcは印刷と同時に賦形されているので、従来の様に、印刷後にめっき加工など別の工程を追加して、黒化めっき層を形成する必要もない。
【0015】
《A2.第2の実施形態》
図2を参照して、本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法の第2の実施形態を説明する。第2の実視形態では、上記第1の実施形態に対して、凹状溝32の内部の粗面fcpを被覆樹脂組成物4cで被覆してから、導電性組成物3cを充填して、導電体パターン層2が導電性組成物層3に加えて被覆樹脂層4も含む層として製造する点が異なる。またこの際、被覆樹脂組成物4cとして導電性粒子非含有の非導電性樹脂組成物を用いて、被覆樹脂層4として導電性粒子非含有の非導電性樹脂層を形成する。以下、第2の実施形態を説明する。
【0016】
本実施形態では、図2(a)の様に、凹版印刷の凹版31として版面の凹状溝32の内部に粗面fcpが形成された版を用意する。凹版31は前記第1の実施形態と同じで良い。そして、図2(b)の様に、インキとして被覆樹脂組成物4c(非導電性樹脂組成物)で凹状溝32の内部の粗面fcpを被覆する。つまり、被覆樹脂組成物4cは凹状溝32に充填するが凹状溝32の全体積には充填せず、粗面fcpが被覆される程度に充填する。なお、この被覆樹脂組成物4cによる粗面fcpの被覆は、塗膜厚みとして前記全体積を充填可能な量よりも少量を凹版31の版面に供給することで行う。
そして、後は、図2(c)の様に、通常の凹版印刷と同様に、インキとして導電性組成物3cを凹状溝32の内部の残った空間部分に充填する。
そして、図2(d)の様に、インキ充填済みの凹版31と被印刷物である透明基材1とを接触させた後、離版すれば、図2(e)の様に、透明基材1上に、導電性組成物3cが固化した導電性組成物層3と、その表面を被覆する様に該表面上に形成され前記被覆樹脂組成物4cが固化した被覆樹脂層4(非導電性樹脂層)とが導電体パターン層2として印刷形成される。なお、導電性組成物3cと被覆樹脂組成物4cの固化は、被覆樹脂組成物4cも含めて前記実施形態と同様である。
【0017】
その結果、得られた電磁波遮蔽フィルタ10は、図2(e)の様に、透明基材1上に導電体パターン層2として導電性組成物層3及び該層表面の被覆樹脂層4とが印刷形成されている。しかも、該被覆樹脂層4として形成した非導電性樹脂層の表面に版の凹状溝32の内面の粗面fcpが逆凹凸形状で賦形され、該表面が粗面fcとなっている。つまり、導電体パターン層2は、その表面側の層(スキン層)である、被覆樹脂層4の表面として粗面fcを有する。
この結果、外光Laが、導電体パターン層2の表面に当たっても、そこでの鏡面反射成分は低減されており鏡面反射光Lmは弱くなっている。この為、外光の悪影響を抑えて明室コントラスト低下を抑制できる。しかも、粗面fcは印刷と同時に賦形されており、印刷後に黒化めっき層の形成工程など追加の工程を増やす必要もない。
また、被覆樹脂層4を導電性粒子を含有しない非導電性樹脂層として形成するので、導電性粒子の添加で高粘度になることもなく、被覆樹脂層4を導電性樹脂層3の表面を被覆する厚さで凹版31の凹状溝32の内面に被覆樹脂組成物4cを充填し易い。又、凹状溝32の粗面を充填する被覆樹脂組成物4cは導電性粒子Cpを含まない為、粗面fcpの形状再現性も良好となる。
【0018】
《A3.第3の実施形態》
図3を参照して、本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法の第3の実施形態を説明する。第3の実視形態では、前記第1の実施形態に対して、従来技術欄で優れた印刷法として挙げた「引抜プライマ方式凹版印刷法」を適用して製造する点が異なる。以下、第3の実施形態を説明する。
【0019】
本実施形態では、図3(a)の様に、凹版印刷の凹版31として版面の凹状溝32の内部に粗面fcpが形成された版を用意する。なお、通常は凹版31はシリンダ状(円筒状)の版である。そして、図3(b)の様に、通常の凹版印刷と同様に、インキとして導電性組成物3cを凹状溝32の内部に充填する。なお、図3(b)では充填された導電性組成物3cの面は凹版31の版面と面一としてあるが、通常は、ドクターブレードでの掻き取りの影響等で図3(b)の様に、版表面から0.1〜3μm程度凹んでいる{尚、図示は省略したが、図1(b)及び図2(c)も同様}。
そして、図3(c)の様に、インキ充填済みの凹版31と被印刷物である透明基材1とを接触させるのだが、このとき、本実施形態では、透明基材1と凹版31との間に流動状態のプライマであるプライマ流動層5cを介在させて接触させる。このため、紫外線硬化性樹脂液などで液状のプライマを透明基材1の片面に施してプライマ流動層5cを形成した後、この透明基材1を、そのプライマ流動層5cの面で版31と接触させる。そして、これらを接触させて、プライマ流動層5cを凹状溝32内の導電性組成物3cの表面の凹み内部にも流入、充填させた状態で、プライマ流動層5cを透明基材1側等からの紫外線照射で固化させてプライマ層5とした後、離版する。
すると、図3(d)の様に、透明基材1上に、プライマ流動層5cが固化したプライマ層5を介して、導電性組成物3cが固化した導電性組成物層3が、導電体パターン層2として印刷形成される。なお、導電性組成物3cの固化は、溶剤乾燥、紫外線照射などで行う。
【0020】
その結果、得られた電磁波遮蔽フィルタ10は、図3(d)の様に、透明基材1上にプライマ層5を介して導電体パターン層2として印刷形成された導電性組成物層3の表面に、版の凹状溝32の内面の粗面fcpが逆凹凸形状で賦形され、前記表面が粗面fcとなっている。従って、外光Laが、導電体パターン層2の表面に当たっても、そこでの鏡面反射成分は低減されており鏡面反射光Lmは弱くなっている。この為、外光の悪影響を抑えて明室コントラスト低下を抑制できる。しかも、粗面fcは印刷と同時に賦形されており、印刷後に黒化めっき層の形成工程など追加の工程を増やす必要もない。
【0021】
ところで、本実施形態の様に、印刷に「引抜プライマ方式凹版印刷法」を採用した場合は、図4の断面図で示す様に、プライマ層5の厚みに特有の現象が見られる。それは、図3(b)及び図3(c)に示した如く、凹状溝32内の導電性組成物3c表面の凹みをプライマ流動層5cが充填したことに起因して、プライマ層5は導電性組成物層3の形成部3aでの厚さTaが導電性組成物層3の非形成部3bでの厚さTbに比べて厚いという現象である。
また、印刷に「引抜プライマ方式凹版印刷法」を採用した場合は、好ましくは、図4で示す様に、導電性組成物層3の凸部内の導電性粒子Cpの分布が、相対的に、プライマ層5近傍において分布が疎であり頂部P近傍において分布が密である様にするのが良い。また、この導電性粒子Cpの凸部内分布は、図3でも描画しておいた。なお、この様にする方法とその効果の詳細については、後述する。
【0022】
そして、以上の様にして得られた、電磁波遮蔽フィルタ10は、図5の断面図で示す様に、印刷法に「引抜プライマ方式凹版印刷法」を採用している関係上、パターンの線幅を従来に比べて狭くできるので、透明基材1上にプライマ層5を介して形成した導電体パターン層2としての、導電性粒子Cpとバインダ樹脂を含有する導電性組成物層3は、その非形成部に該当する開口部6の面積率を大きくとることが可能となる。従って、優れた電磁波遮蔽性と優れた光透過性とを高度に両立できる電磁波遮蔽フィルタ10を製造できることになる。
【0023】
《A4.第4の実施形態》
次に、図6を参照して、本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法の第4の実施形態を説明する。第4の実視形態では、上記第3の実施形態に対して、凹状溝32の内部の粗面fcpを被覆樹脂組成物4cで被覆してから、導電性組成物3cを充填して、導電体パターン層2が導電性組成物層3に加えて被覆樹脂層4も含む層として製造する点が異なる。或いは、前記第2の実施形態に対して、「引抜プライマ方式凹版印刷法」を適用して製造する点が異なるとも言える。なお、本実施形態においても、前記第2の実施形態と同様に、被覆樹脂組成物4cとして導電性粒子非含有の非導電性樹脂組成物を用いて、被覆樹脂層4として導電性粒子非含有の非導電性樹脂層を形成する。以下、第4の実施形態を説明する。
【0024】
本実施形態では、図6(a)の様に、凹版印刷の凹版31として版面の凹状溝32の内部に粗面fcpが形成された版を用意する。凹版31は前記第3の実施形態と同じで良い。そして、図6(b)の様に、インキとして被覆樹脂組成物4c(非導電性樹脂組成物)で凹状溝32の内部の粗面fcpを被覆する。つまり、被覆樹脂組成物4cは凹状溝32に充填するが凹状溝32の全体積には充填せず、粗面fcpが被覆される程度に充填する。なお、この被覆樹脂組成物4cによる粗面fcpの被覆は、塗膜厚みとして前記全体積を充填可能な量よりも少量を凹版31の版面に供給することで行う。
そして、後は、図6(c)の様に、通常の凹版印刷と同様に、インキとして導電性組成物3cを凹状溝32の内部の残った空間部分に充填する。なお、前記した様に、通常は、前記図3(c)と同様に、充填後の導電性組成物3cの面は凹版31の版面に対して版表面から0.1〜3μm程度凹んでいる。
そして、図6(d)の様に、透明基材1と凹版31とを、間にプライマ流動層5cを介在させて接触させる。通常は、紫外線硬化性樹脂液などで液状のプライマを透明基材1の片面に施してプライマ流動層5cを形成した後、この透明基材1を、そのプライマ流動層5cの面で凹版31と接触させる。そして、これらを接触させた状態で、プライマ流動層5cを透明基材1側等からの紫外線照射で固化させてプライマ層5とした後、離版する。
すると、図6(e)の様に、透明基材1上に、プライマ流動層5cが固化したプライマ層5を介して、導電性組成物3cが固化した導電性組成物層3とその表面を被覆する様に該表面上に被覆樹脂組成物4cが固化した被覆樹脂層4(非導電性樹脂層)とが、導電体パターン層2として印刷形成される。なお、導電性組成物3cと被覆樹脂組成物4cの固化は、被覆樹脂組成物4cも含めて前記第3の実施形態と同様である。
【0025】
その結果、得られた電磁波遮蔽フィルタ10は、図6(e)の様に、透明基材1上にプライマ層5を介して導電体パターン層2として導電性組成物層3及び該層表面の被覆樹脂層4とが印刷形成されている。しかも、該被覆樹脂層4として形成した非導電性樹脂層の表面に版の凹状溝32の内面の粗面fcpが逆凹凸形状で賦形され、該表面が粗面fcとなっている。つまり、導電体パターン層2は、その表面側の層(スキン層)である、被覆樹脂層4の表面として粗面fcを有する。
この結果、外光Laが、導電体パターン層2の表面に当たっても、鏡面反射成分が低減され鏡面反射光Lmは弱くなる。この為、外光の悪影響を抑えて明室コントラスト低下を抑制できる。しかも、粗面fcは印刷と同時に賦形されており、印刷後に黒化めっき層の形成工程など追加の工程を増やす必要もない。
【0026】
《B.各部材の詳細》
次に、本発明の電磁波遮蔽フィルタの製造方法について、さらに詳述する。
【0027】
〔凹版〕
凹版31は、いわゆる凹版印刷用の凹版であり、通常は生産性に優れる点からシリンダ状(円筒状)の版を用いるが、平板状の版でも良い。また、版の材質は、通常は鉄、銅等の金属であるが、セラミックス、ガラス等でも良く、セラミックスやガラスの場合は、版を透明にして、版の内側から紫外線や電子線などの電離放射線を照射して、版上で導電性組成物や被覆樹脂組成物のインキを硬化させることも可能である。
凹版31の版面に形成される凹状溝32は、形成する導電体パターン層2の平面視パターン及び、印刷厚みに対応したものとする点は、通常の凹状溝32と同様である。但し、本発明では、凹状溝32の内面を、導電体パターン層2の表面に付与する粗面fcに対応した、該粗面fcと逆凹凸関係の粗面fcpとしておく。
凹状溝32の内面を所定の粗面fcpとする方法は特に限定はなく、サンドブラスト法、マットめっき法、エッチング法などで、表面を荒らせば良い。なお、この際、凹版31の版面上は平滑面として残す必要があるが、その為には、例えば次の様にすると良い。
【0028】
ここで、図7は、凹版31の凹状溝32の内面のみに粗面fcpを形成する一方法を説明する断面図である。先ず、図7(a)の様に、凹状溝32の内面に粗面が形成されてない通常の凹版31Aを用意する。次に、図7(b)の様に、その版面上に、レジスト樹脂によってレジスト層33を形成して版面の凸部を被覆する。そして、図7(c)の様に、サンドブラスト粒子34でサンドブラストすると、レジスト層33で被覆保護されている版面上を除いた、凹状溝32の内面のみがサンドブラストによって粗面化される。その後、図7(d)の様に、版面上のレジスト層33を除去すれば、粗面fcpが凹状溝32の内面のみに形成された凹版31が得られる。
【0029】
次に、図8は、凹版31の凹状溝32の内面のみに粗面fcpを形成する別の方法を説明する断面図である。こちらの方法では、レジスト層33は用いないで粗面fcpを形成する例である。
先ず、図8(a)の様に、凹状溝32の内面に粗面が形成されてない通常の凹版31Aを用意する。次に、図8(b)の様に、サンドブラスト粒子34で版面全体をサンドブラストすると、版面上と凹状溝32の内面との両方の表面がサンドブラストによって粗面化される。その後、図8(c)の様に、版面上に形成された粗面は、表面研磨35によって平滑面とすれば、粗面fcpが凹状溝32の内面のみに形成された凹版31が得られる。なお、サンドブラスト粒子は、例えば、ダイアモンド粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子等である。
【0030】
以上の様にして、目的とする粗面fcpを凹状溝32の内面のみに有する凹版31を準備することができる。
なお、粗面fcpの粗さの程度であるが、次に様にして決めることができる。
すなわち、最終的に印刷後の導電体パターン層2の表面の状態で、該導電体パターン層2の主切断面に於ける断面形状を顕微鏡で撮影した画像上で、表面の粗面fcを与える凹凸の隣接する頂部と谷部との段差(高低差)を3箇所以上、好ましくは10箇所以上平均した値で評価できる。この平均値を粗度として、該粗度を0.4〜5μm、より好ましくは0.8〜5μmとすると良い。但し、導電体パターン層2、より詳しくはその導電性組成物層3の線幅にもよるので、該線幅の1/5未満の条件を満たす範囲内とするのが良い。粗度が小さ過ぎると、可視光線(波長0.38〜0.78μm)に対して乱反射を起こすに足りる凹凸とは成らずに、逆に粗度が大き過ぎても、乱反射を起こす効果が飽和する他、導電体パターン層2の線幅との関係で自ずと制約(線幅の1/5未満)がある。また、線幅の1/5以上となると、被覆膜として厚くなり過ぎて、導電体パターン層2の体積(乃至は主切断面形状に於ける断面積)に占める導電性組成物層3の割合が小さくなり、光透過性と電磁波遮蔽性の両立が損なわれてくる。
【0031】
〔導電体パターン層〕
導電体パターン層2は、少なくとも導電性組成物層3を含み、更に、被覆樹脂層4を含む形態もある。先ず、導電体パターン層2の主要な体積を占める導電性組成物層3から説明する。
なお、主要な体積とは、最低限、51体積%以上、乃至は主切断面の断面積で51面積%以上のことを言う。但し、被覆樹脂層はスキン層として形成し、又導電体パターン層2としての電磁波遮蔽性能を維持する観点から、導電体パターン層2中の導電性組成物層3は、体積基準で70体積%以上、乃至は断面積基準で70面積%以上が良い。
【0032】
[導電性組成物層、導電性組成物]
導電性組成物層3は、被印刷物である透明基材1上に、パターン状に形成された電磁波遮蔽機能を担う層であり、kHz〜GHz帯域の所謂電波領域の電磁波は遮蔽し可視光線は透過するフィルタ機能を有する。また、導電性組成物層3は、導電性粒子Cpとバインダ樹脂とを含む層である。導電性組成物層3は、導電性粒子と樹脂バインダとを含む液状の導電性組成物3c(導電性ペースト、導電性インキ等とも呼ばれる)を用いて形成でき、導電性組成物3cを溶剤乾燥、電離放射線照射、加熱などのエネルギー付加、化学反応などの固化手段によって固化させて得られる。
導電性組成物層3の厚さは、電磁波遮蔽性能等の観点から、通常は2〜100μm、より好ましくは5〜20μm程度である。
【0033】
上記導電性粒子Cp及び樹脂バインダには公知の物を適宜採用できる。例えば、導電性粒子Cpとしては、金、銀、白金、銅、錫、アルミニウム、ニッケルなど高導電性金属(乃至その合金)の粒子やコロイド、或いは、樹脂粒子や無機非金属物粒子の表面を金、銀など上記高導電性金属(乃至その合金)で被覆した金属被覆粒子、或いは黒鉛粒子、などを用いる。導電性粒子Cpの平均粒径は0.05〜10μm、より好ましくは0.1〜5μmである。但し、十分な導電性(電磁波遮蔽性)を発現する為には、導電性組成物層3のパターンの線幅の1/4以下とする。
【0034】
樹脂バインダは、導電性組成物層3を形成する為の液状の導電性組成物3cから導電性粒子Cpを除いた残りの成分であり、樹脂バインダの樹脂(バインダ樹脂)としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などを単独使用又は併用する。熱可塑性樹脂には熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性アクリル樹脂など、熱硬化性樹脂にはメラミン樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などを使用する。また、電離放射線硬化性樹脂には、電離放射線で架橋など重合硬化するモノマー及び/又はプレポリマーを含む組成物を使用する。モノマーやプレポリマーにはラジカル重合性やカチオン重合性の化合物を使用する。なかでも、アクリレート系化合物を用いた電離放射線硬化性樹脂が代表的である。なお、電離放射線には通常紫外線や電子線等が用いられる。
【0035】
なお、導電性組成物層3のパターンの平面視形状は、公知の形状など任意であり、例えば、メッシュ形状(六角形や四角形などの格子模様)、ストライプ形状(直線状縞模様、螺旋模様など)などの幾何学形状である。なかでもメッシュ形状、それも正方格子形状が代表的である。導電性組成物層3の非形成部である開口部6(図5参照)の形状は、メッシュ形状が例えば正方格子形状では正方形、ストライプ形状では帯形状となる。また、パターンの線幅、つまり導電性組成物層3の形成部の線幅は、電磁波遮蔽性能などの観点から通常は5〜50μmである。格子やストライプ等の幾何学模様のパターンの周期は通常100〜500μmである。また、被覆樹脂層4も含み得る導電体パターン層2の開口率〔(導電体パターン層2の開口部6の合計面積/導電体パターン層2の開口部6及び導電体パターン層2の形成部を含めた全被覆面積)×100で定義〕は、電磁波遮蔽性能及び可視光透過性との両立の点から、50〜95%程度である。
【0036】
((印刷方式))
なお、導電性組成物層3を透明基材1上にパターン状に形成する方法は凹版印刷法であれば特に限定はない。公知の凹版印刷によるパターン形成法を用途、要求物性等に応じて適宜採用すれば良い。凹版印刷法の中でも、特許文献1として挙げた、国際公開第2008/149969号のパンフレットで開示された凹版印刷の一種である「引抜プライマ方式凹版印刷法」は、従来では不可能であった様な、細く且つ精細なパターン形成が可能となる点で好ましい印刷方式の一種であり、しかも、優れた電磁波遮蔽性と優れた光透過性とを高度に両立できる。そこで、以下この印刷方式について説明する。
【0037】
「引抜プライマ方式凹版印刷法」は、図3或いは図6に示す様に、代表的には、透明基材1上に施した流動状態のままのプライマ流動層5c上に導電性組成物3cのインキを凹版印刷する方法であり、しかもその際、版面上に透明基材1が存在している間に、版面と透明基材1間にあるプライマ流動層5cを紫外線照射などで固化させてプライマ層5として固化させた後に透明基材1を凹版から離版して、透明基材1上にプライマ層5を介してパターン状の導電性組成物層3を印刷形成する方法である。このプライマ層5は流動状態のときに、版から被印刷物へのインキの転移を促進する作用、言い換えると凹版の版面凹部内に充填されたインキを引き抜いて被印刷物(透明基材1)に移す作用を有する。
【0038】
そして、この様な、「引抜プライマ方式凹版印刷法」による印刷物が、他の印刷法に見られない大きな特徴は、前記した如く、図4の断面図で概念的に示す様に、プライマ層5と導電性組成物層3との界面について、プライマ層5は、導電性組成物層3の形成部3aでの厚さTaが導電性組成物層3の非形成部3bでの厚さTbよりも厚い形状となることである。なお、非形成部3bの厚さTbは、形成部3aの厚さTaの影響のない非形成部3bつまり開口部6の中央部での厚さとする。
なお、プライマ層5の厚さは、導電性組成物層3の形成部3aの厚さTaを、通常は、該層の非形成部3bの厚さTbに比べて、1〜10μm程度厚く形成される。
【0039】
更に、プライマ層5と導電性組成物層3との界面は、次の(A)〜(C)のいずれかの1以上の断面形態を有する(但し、図4では図示は省略)。(A)プライマ層5と導電性組成物層3との界面が非直線状に入り組んでいる断面形態、(B)プライマ層5を構成する成分と導電性組成物層3を構成する成分とが混合している混合層を界面近傍に有する断面形態、(C)導電性組成物層3を構成する導電性組成物中にプライマ層5に含まれる成分が存在している断面形態。この様な、界面の断面形態は、プライマ層5がプライマ層5と導電性組成物層3との離版時の密着性を強化し、凹版からインキ(導電性組成物3c)の被印刷物(透明基材1)への転移を促進し高精度且つ高品質の凹版印刷を可能にしている理由であると思われる。
【0040】
また、導電性組成物層3の凸部内の導電性粒子Cpの分布が、相対的に、プライマ層5の近傍において分布が疎であり頂部P近傍において分布が密であることが好ましい。
すなわち、導電性組成物層3の形成部3aである導電性組成物層3の凸部の内部では、図4で概念的に示す様に、導電性粒子Cpが一様な均一な分布ではなく、導電性粒子Cpの分布が、相対的に、凸部の頂部P(頂上部)の近くが密で、頂部Pから遠いプライマ層5の近くが疎である分布を持つ内部構造が好ましい。密とは単位体積中の導電性粒子Cpの粒子数で見た数密度(体積密度)である。つまり、凸部内部の導電性粒子Cpの数密度が、プライマ層5近くに比べて頂部P近くの方が大きくなる分布である。数密度が大きい方が導電性粒子Cp同士の電気的接触が行われ易い。従って、例え導電性組成物層3中の導電性粒子Cpの平均濃度が同じであっても、同じ数の導電性粒子Cpを数密度一様で分布させた場合に比べて、数密度が大きい部分での体積抵抗率の低下が寄与して全体として体積抵抗率が下がり、電磁波遮蔽性能が向上する。また、プライマ層5との境界近傍での導電性粒子Cpの数密度が小さいことによって、導電性組成物層3とプライマ層5との密着性が向上する。また、電磁波遮蔽フィルタ10の透明基材1側(図4或いは図9に於いては下側)から入射する光が導電性組成物層3とプライマ層5との界面に於いて反射する場合に、拡散反射成分が増加し鏡面反射成分が減少する。この為、画像表示装置から入射する画像光が該界面と画面とで多重反射することによる画像コントラスト低下を軽減させることが出来る。
尚、プライマ層5との界面に隣接する領域に於ける導電性粒子Cpの数密度を1としたときの導電性組成物層3の頂部Pに於ける導電性粒子Cpの数密度の比は、大きいほど上記の様な導電性粒子Cpの数密度の分布による効果を奏する上では有利である。一方、当該数密度の比を大きくするほど、その製造条件が制約され且つ実現の際の難度も増大し、又、導電性粒子Cpの粒径による高密度化の物理的限界も有る。これらを考慮すると、前記の如き、導電性粒子Cpの材料と平均粒径、導電性組成物層3の線幅、製造方法、及び現状PDP等の分野で通常要求される電磁波遮蔽性能を勘案した場合、当該比は、1.5〜10程度の範囲が好ましい。
【0041】
なお、導電性組成物層3中に於ける導電性粒子Cpの分布状態は、パターン状に形成された導電性組成物層3の形成部である凸部が透明基材1上で延びる方向には依存性を持たない。つまり、図4で示す導電性組成物層3の凸部の断面図は、凸部が延びる方向に直交し且つ透明基材1のシート面に垂直な面である主切断面の断面図であり、紙面に垂直な方向が凸部が延びる方向(延在方向)であるが、凸部が延びる延在方向では、主切断面内での位置が同じであれば単位体積中の粒子の数密度は一定である。その為、この様な単位体積中の導電性粒子Cpの数密度は、凸部の主切断面に於ける単位面積中の導電性粒子Cpの数密度(面密度)で評価出来る。すなわち、図4の如く、主切断面内に於いて、導電性粒子Cpの面密度がプライマ層5近くに比べて頂部Pの近くの方が大きくなる分布であれば、導電性粒子Cpの体積密度もプライマ層5近くに比べて頂部Pの近くの方が大きくなる分布であると判断して良い。
この様に凸部の頂部Pの方に導電性粒子Cpを偏在させるには、例えば、プライマ流動層5c形成済みの透明基材1を版面に圧着する圧着力を強くすると共に、導電性組成物3cは粘度を低めにして且つ凹版凹部内では固化させずに版面から離版後に固化させると良い。この他、導電性粒子Cpと樹脂バインダとの比重差、固化前の導電性組成物3cの粘度(樹脂材料及び樹脂量、溶剤量、その他添加剤量、導電性粒子の形状、粒度分布、含有量など関係)、固化条件などにも依存するので、これらは適宜実験的に決定すると良い。
なお、導電性粒子Cpと樹脂バインダとの比重差については、通常は金属粒子である導電性粒子Cpの比重>樹脂バインダの比重、となる為、プライマ層5に対して頂部Pを重力の向きと同じ向きにして導電性組成物層3を固化させると良い。
【0042】
[被覆樹脂層、被覆樹脂組成物]
被覆樹脂層4、及び該層を形成する為の被覆樹脂組成物4cについて説明する。
被覆樹脂層4は、その名のとおり導電性組成物層3の表面を被覆する層(スキン層)であり、また、印刷最中では、該層形成用の被覆樹脂組成物4cが凹版31の凹状溝32の内面の粗面fcpを被覆する。
また、これと同時に、該被覆樹脂層4乃至は被覆樹脂組成物4cは、導電性組成物層3乃至は導電性組成物3cの様に、導電性粒子Cpを必須成分として含んでなくても良いし、含んでいても良い。したがって、導電性粒子Cpを含んでいない場合は、被覆樹脂層4は、非導電性被覆樹脂層乃至は非導電性樹脂層と呼ぶこともでき、被覆樹脂組成物4cは非導電性被覆樹脂組成物乃至は非導電性樹脂組成物と呼ぶこともできる。ただ、被覆樹脂層が非導電性である場合は、本来ならば導体パターン層2に含めないという考え方もあるが、被覆樹脂層4は導電性組成物層3の表面を被覆するのみであり、導電体パターン層2の主要な体積を占めず、導電体パターン層2と同じ平面視パターン形状で形成され、また、導電体パターン層2に導電性組成物層3に代わって粗面fcを提供するなどの点から、本発明では、導電体パターン層2に属する層として扱う。
従って、被覆樹脂層4の形成に用いる被覆樹脂組成物4cは、上記導電性組成物3cで列記した様な導電性粒子Cpは含ませないことができるが、少なくとも樹脂バインダは含む組成物である。
【0043】
被覆樹脂組成物4cに用いる樹脂バインダは、前記導電性組成物3cで述べた樹脂バインダと同様のものを使用でき、また、該樹脂バインダに含まれるバインダ樹脂も同様である。
但し、形成する被覆樹脂層4の表面に凹状溝32から粗面fcを賦形させる機能を担う関係上、無溶剤乃至は溶剤分を少なくできる、紫外線や電子線で硬化させる電離放射線硬化性樹脂は好ましい樹脂の一種である。導電性組成物3cと被覆樹脂組成物4cの樹脂バインダは各々異なる材料とすることも、或いは同じ材料とすることも出来る。但し、両者とも同じ樹脂バインダを用いると、導電性組成物層3と被覆樹脂層4との密着が良好となり、又導電性組成物層3と被覆樹脂層4との界面での光反射も低減する為、好ましい。
【0044】
また、被覆樹脂層4は、透明又は不透明、無着色又は着色のいずれでも良い。つまり、透明無着色、透明着色、不透明無着色、不透明着色である。そして、図9(a)の断面図で示す電磁波遮蔽フィルタ10の様に、被覆樹脂層4を透明な透明被覆樹脂層4Cとする形態では、 導電性組成物層3の表面色が反映されることになる。なお、透明被覆樹脂層4Cは、無着色又は着色である。透明被覆層4Cは、それで被覆する導電性組成物層3の表面色がさほど白味を帯びてなく、透明被覆層4Cの表面に賦形した粗面fcによる効果のみで、満足できる明室コントラスト効果が得られる場合に、導電性粒子や色材等の余分の充填材の添加を省略できる利点を有する。
【0045】
また、図9(b)の断面図で示す電磁波遮蔽フィルタ10の様に、被覆樹脂層4を着色して、それも暗色の暗色被覆樹脂層4Dとする形態では、 導電性組成物層3の表面色が該暗色によって隠蔽され、また暗色被覆樹脂層4Dの表面に入射する外光は吸収され易くなる。この為、例え導電性組成物層3の表面が導電性粒子の銀等によって白味を帯びていても、表面の粗面fcの効果に加えて更に効果的に導電体パターン層2の表面での外光Laの鏡面反射を抑制して、明室コントラストを向上できる。なお、暗色被覆樹脂層4Dは透明又は不透明である。
【0046】
被覆樹脂層4を暗色被覆樹脂層4Dとするには、暗色にした被覆樹脂組成物4cを用いることができる。被覆樹脂組成物4cを暗色とするには、暗色の色材を該組成物の樹脂バインダに添加すると良い。暗色の色材としては、特に制限はなく、公知の顔料、染料を適宜選択使用すると良い。ここで、暗色とは低明度の無彩色或いは有彩色を意味し、低明度の無彩色の代表例は黒色であり、無彩色の黒色が画像表示の色調に影響を与えず、また外光の吸収が大きい点で好ましい。また、低明度の有彩色としては、茶褐色、紺色、臙脂色、深緑色、深紫色等が挙げられる。
用いる色材は、例えば、カーボンブラック、黒色酸化鉄(鉄黒)、弁柄、黄鉛、群青、緑青、朱、コバルトブルー、アニリンブラック、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー、ポリアゾレッド、ポリアゾイエローなどを用いることができる。また、青色、黄色、赤色などの有彩色の色材を複数種類用いて混色により、黒色など無彩色乃至は有彩色の暗色としても良い。
なお、色材の添加量は、例えば、樹脂100質量部に対して5〜50質量部程度である。
【0047】
なお、被覆樹脂層4は、前記した様に、導電性組成物層3の様に導電性粒子Cpが必須ではないので、導電性粒子Cpを非含有の非導電性樹脂層として形成する場合は、用いる被覆樹脂組成物4c、つまり非導電性樹脂組成物の粘度特性など、導電性粒子Cpの添加に影響されずに、被覆樹脂層4の形成を主体に考えた調合とすることができる利点がある。
また、被覆樹脂層4に導電性粒子Cpを添加する場合は、その添加量は、導電性組成物層3と同じ導電性とするならば、追加の被覆樹脂層4を設ける必要はないが、その場合でも、被覆樹脂層4のみを暗色とする色材を添加して、表面層(スキン層)のみ暗色にして、導電体パターン層2の表面での外光の鏡面反射に加えて光吸収により反射光を低減しても良い。また、暗色としないまでも、導電性粒子Cpの添加量を導電性組成物層3よりも少量にして、或る程度の導電性は確保しつつ、被覆樹脂組成物4cの粘度をより最適化して、凹状溝32の粗面fcpの形状を再現し易い様にしても良い。
【0048】
なお、導電体パターン層2の表面の被覆樹脂層3が非導電性である場合は、導電体パターン層2からの接地用などの電極の取り出しが必要な場合は、被覆樹脂層3を、レーザー除去加工、鋲打ち、研磨等によって、接地の為の電気的接続を行うことができる。
【0049】
〔プライマ層〕
なお、プライマ層5は、透明な樹脂層で、その樹脂には熱可塑性樹脂、硬化性樹脂等を用い、硬化性樹脂には熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂等を用いることができるが、凹版31上での固化が迅速な点で、紫外線照射や電子線照射等で硬化する電離放射線硬化性樹脂が好ましい。これらの樹脂は、導電性組成層3で列記したバインダ樹脂などを使用できる。
【0050】
〔透明基材〕
導電体パターン層2の印刷対象物(被印刷物)は、ディスプレイ用途等、光透過性を確保する意味で、透明な基材が好ましい。
透明基材1としては、公知の透明な材料を使用すれば良く、樹脂フィルムの様な有機系基材、ガラス、セラミックスの様な無機系基材があるが、可視光線領域での透明性、耐熱性、機械的強度、取扱性等を考慮すると、樹脂フィルム(乃至シート)が代表的である。樹脂フィルム(乃至シート)の樹脂は例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、或いは、シクロオレフィン重合体などのポリオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂等である。なかでも、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは好適な材料である。なお、透明基材1の厚みは、取扱性、コスト等の点で通常は、12〜500μm、好ましくは25〜200μmだが、特に制限はない。
なお、透明基材1は、生産性に優れたロール・ツー・ロール方式での生産適性の点で、フレキシブルな(可撓性の)材料を選べる樹脂フィルムが好ましい。更に、この点では、透明基材1は、ロールに巻き取り可能な程度に長手方向に連続して長い連続帯状の樹脂フィルムを用いるのが好ましい。代表的な物は2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
【0051】
《D.変形形態》
本発明による電磁波遮蔽フィルタの製造方法材及び電磁波遮蔽フィルタでは、本発明の主旨を逸脱しない範囲内であれば、上記形態等で説明した以外の、その他の工程及び層等を含む形態でもよい。
【0052】
〔その他の工程、及び層〕
例えば、導電体パターン層2によるパターンの凹凸を平坦化する平坦化樹脂層、導電体パターン層2が形成された側とは反対側の透明基材1の面に、ディスプレイ前面板などの被着体に貼り付ける為の粘着剤層、その面を一時的に保護するセパレータフィルムなどの層乃至はこれを設ける工程である。また、各種光学フィルタ、光学フィルタ以外のその他の機能層及びこれらを設ける工程などである。例えば、光学フィルタは、近赤外線吸収層、紫外線吸収層、ネオン光吸収層、色補正層、反射防止層(防眩、反射防止、防眩及び反射防止兼用のいずれか)、微小ルーバによる外光反射防止層(特開2007−272161号公報など参照)などであり、光学フィルタ以外の機能層は、保護層、ハードコート層、帯電防止層、汚染防止層、耐衝撃層、粘着剤層などである。なお、これらの層には公知のものを適宜使用すれば良い。
【0053】
《E.用途》
本発明による電磁波遮蔽フィルタは、特に、テレビジョン受像器、測定機器や計器類、事務用機器、医療機器、電算機器、電話機、電子看板、遊戯機器等の表示部等に用いられるPDP、CRT、LCD、ELなどの各種画像表示装置の前面フィルタ用として好適であり、特にPDP用として好適である。又、その他、住宅、学校、病院、事務所、店舗等の建築物の窓、車輛、航空機、船舶等の乗物の窓、電子レンジ等の各種家電製品の窓等に於ける電磁波遮蔽用途にも使用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 透明基材(被印刷物)
2 導電体パターン層
2o 従来の導電体パターン層
3 導電性組成物層
3c 導電性組成物
4 被覆樹脂層
4c 被覆樹脂組成物
4C 透明被覆樹脂層
4D 暗色被覆樹脂層
5 プライマ層
5c プライマ流動層
6 開口部
7 黒化めっき層
10 電磁波遮蔽フィルタ
31 凹版
32 凹状溝
33 レジスト層
34 サンドブラスト粒子
35 表面研磨
Cp 導電性粒子
fc 粗面
fcp 凹状溝内の粗面
La 外光
Lm 鏡面反射光
P 頂部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体パターン層のパターン形状に対応した凹状溝を版面に有する凹版を用いて、該凹版の凹状溝に、導電性粒子と樹脂バインダを含む導電性組成物を充填した後、被印刷物に凹版印刷して、導電性パターン層として該導電性組成物が固化した導電性組成物層を形成する印刷工程を含む、電磁波遮蔽フィルタの製造方法において、
前記凹状溝の内部表面を粗面とした凹版を用いて印刷することで、印刷と同時に導電体パターン層の表面に粗面を賦形する、電磁波遮蔽フィルタの製造方法。
【請求項2】
上記凹状溝に導電性組成物を充填する前に、被覆樹脂組成物を凹状溝が完全に充填されない量で充填して凹状溝内部表面の粗面を該被覆樹脂組成物で被覆した後、残りの凹状溝の空間に前記導電性組成物を充填して印刷することで、導電体パターン層として導電性組成物層とその表面に該被覆樹脂組成物が固化した被覆樹脂層とを形成して、該被覆樹脂層の面として導電体パターン層の粗面を形成する、請求項1記載の電磁波遮蔽フィルタの製造方法。
【請求項3】
上記被覆樹脂組成物が透明であり、上記導電体パターン層の粗面を透明被覆樹脂層の面として形成する、請求項2記載の電磁波遮蔽フィルタの製造方法。
【請求項4】
上記被覆樹脂組成物が暗色であり、上記導電体パターン層の粗面を暗色被覆樹脂層の面として形成する、請求項2記載の電磁波遮蔽フィルタの製造方法。
【請求項5】
透明基材上に導電体パターン層が形成され、且つ該導電体パターン層は導電性組成物層と、その表面に形成された被覆樹脂層とを含み、該被覆樹脂層の表面に粗面を有する、電磁波遮蔽フィルタ。
【請求項6】
透明基材上に導電体パターン層が形成され、且つ該導電体パターン層は導電性組成物層と、その表面に形成された透明被覆樹脂層とを含み、該透明被覆樹脂層の表面に粗面を有する、電磁波遮蔽フィルタ。
【請求項7】
透明基材上に導電体パターン層が形成され、且つ該導電体パターン層は導電性組成物層と、その表面に形成された暗色被覆樹脂層とを含み、該暗色被覆樹脂層の表面に粗面を有する、電磁波遮蔽フィルタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−222853(P2011−222853A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92210(P2010−92210)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】