説明

電線、該電線の着色装置及び製造装置、並びに前記電線の着色方法及び製造方法

【課題】外表面に形成された印を認識しやすい電線を提供する。
【解決手段】電線3の製造装置1は、芯線の周りに被覆部が形成された電線3に着色材を滴射することにより該電線3の外表面に正弦曲線状の印6を形成する着色ユニット12を有している。この着色ユニット12は、長手方向に沿って移動している電線3の外表面に向かって着色材を連続的に滴射することによりこの着色材を電線3の外表面に付着させて該電線3を着色する着色ノズル32a,32b,32cと、これら着色ノズル32a,32b,32cよりも電線3の移動方向上流側に配され、かつ、移動している電線3を着色材の滴射方向と電線3の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させる振動機構20と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性の芯線とこの芯線を被覆する絶縁性の被覆部とを有するとともに前記被覆部の外表面が着色されることにより当該外表面に電線識別用の印が形成された電線と、この電線の着色装置及び製造装置、並びに前記電線の着色方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体としての自動車などには、種々の電子機器が搭載される。このため、前記自動車などは、前記電子機器に電源からの電力やコンピュータからの制御信号などを伝えるために、ワイヤハーネスを配索している。このワイヤハーネスは、複数の電線と、該電線の端部などに取り付けられたコネクタなどを有している。
【0003】
上記電線は、導電性の芯線と該芯線を被覆する絶縁性の合成樹脂で構成された被覆部とを有した、所謂被覆電線である。上記コネクタは、端子金具と、この端子金具を収容するコネクタハウジングとを有している。前記端子金具は、導電性の板金で構成され前記電線の端部に取り付けられてこの電線の芯線と電気的に接続する。前記コネクタハウジングは、絶縁性の合成樹脂で構成され箱状に形成されている。このようなワイヤハーネスは、コネクタハウジングが前述した電子機器などと結合することにより、端子金具を介して各電線が前述した電子機器と電気的に接続して、前述した電子機器に所望の電力や信号を伝える。
【0004】
また、上記ワイヤハーネスを組み立てる際には、まず電線を所定の長さに切断した後、該電線の端部などの被覆部を除去(皮むき)して端子金具を取り付ける。必要に応じて電線同士を接続する。その後、端子金具をコネクタハウジング内に挿入する。こうして、前述したワイヤハーネスを組み立てる。
【0005】
また、前述したワイヤハーネスの電線は、芯線の大きさと、被覆部の材質(耐熱性の有無などによる材質の変更)と、使用目的などを識別する必要がある。なお、使用目的とは、例えば、エアバック、ABS(Antilock Brake System)や車速情報などの制御信号や、動力伝達系統などの電線が用いられる自動車の系統(システム)である。
【0006】
そこで、ワイヤハーネスに用いられる電線は、前述した被覆部を構成する合成樹脂を芯線の周りに押し出し被覆する際に、被覆部を構成する合成樹脂に所望の色の着色材を混入して、該被覆部を所望の色に着色してきた(例えば、特許文献1ないし3を参照。)。この場合、電線の外表面の色を変更する際に、前述した押し出し被覆を行う押し出し被覆装置を停止する必要がある。この場合、電線の色替えの度に、押し出し被覆装置を停止する必要があり、電線の製造にかかる所要時間と手間が増加して、電線の生産効率が低下する傾向であった。
【0007】
または、電線の外表面の色を変更する際に、押し出し被覆装置が押し出し被覆を行っている状態で合成樹脂に混入する着色材の色を変更してきた。この場合、着色材の色を変更した直後では、被覆部を構成する合成樹脂の色が、被覆部の変更前の着色材の色と変更後の着色材の色とが混ざり合った色になる。このため、電線の材料歩留まりが低下する傾向であった。
【0008】
前述した電線の生産性の低下と電線の材料歩留まりの低下を防止するために、本発明の出願人は、例えば、単色の電線を製造しておき、必要に応じて電線の外表面を所望の色に着色してワイヤハーネスを組み立てることを提案している(特許文献4を参照。)。また、本発明の出願人は、製造後の単色の電線を着色する際に、液状の着色材を電線の外表面に向かって一定量ずつ滴射して、該着色材の液滴を電線の外表面に付着させることで電線を所望の色に着色する電線の着色装置を提案している(特許文献5を参照。)。また、図4は、前記着色装置に着色されることにより、被覆部105の外表面105aに、直線状に延びた電線識別用の印106が形成された電線103を示す斜視図である。この電線103は、被覆部105の色が単色Pであるとともに、印106の色が、単色Pとは異なる色Rで構成されている。また、図中の104は、芯線である。
【特許文献1】特開平5−111947号公報
【特許文献2】特開平6−119833号公報
【特許文献3】特開平9−92056号公報
【特許文献4】国際公開第03/019580号パンフレット
【特許文献5】特願2005−019081号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図4に示した電線103は、印106が電線103の長手方向と平行であることから、電線103を見る方向によっては、印106を認識できない虞があった。このため、作業員が、電線103に端子金具を取り付けた後に端子金具をコネクタハウジングの端子収容室に挿入する際に、誤った端子収容室に端子金具を挿入する虞があった。
【0010】
また、作業員が、印106を認識しにくいため、端子金具をコネクタハウジングの端子収容室に挿入する作業にかかる時間が長時間化して、端子金具をコネクタハウジングの端子収容室に挿入する作業の効率が低下する虞があった。このため、ワイヤハーネスを組み立てる作業の効率が低下する虞があった。このように、従来の電線103では、外表面105aに形成されたストライプ模様などの印106を認識しにくかった。
【0011】
したがって、本発明は、外表面に形成された印を認識しやすい電線と、この電線の着色装置及び製造装置、並びにこの電線の着色方法及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、長手方向に沿って移動している電線の外表面に向かって液状の着色材を連続的に滴射することにより前記着色材を前記外表面に付着させて該電線を着色する着色ノズルと、前記着色ノズルよりも前記電線の移動方向上流側に配され、かつ、移動している前記電線を前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させる振動機構と、を有していることを特徴とする電線の着色装置である。
【0013】
請求項2に記載された発明は、導電性の芯線と、絶縁性の合成樹脂で構成されかつ前記芯線を被覆する被覆部と、を有するとともに、前記被覆部の外表面が着色された電線を製造する電線の製造装置であって、前記芯線の周りに合成樹脂を押し出し被覆して外表面が単色の被覆部を成形する押し出し被覆ユニットと、前記被覆部が成形された電線を、該電線の長手方向に沿って移動させる移動手段と、移動している前記電線の外表面に向かって液状の着色材を連続的に滴射することにより前記着色材を前記外表面に付着させて該電線を着色する着色ノズルと、前記着色ノズルよりも前記電線の移動方向上流側に配され、かつ、移動している前記電線を前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させる振動機構と、を有していることを特徴とする電線の製造装置である。
【0014】
請求項3に記載された発明は、電線の外表面に向かって液状の着色材を滴射することにより前記着色材を前記電線の外表面に付着させて該電線を着色する電線の着色方法であって、前記電線を、長手方向に沿って移動させるとともに前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させ、続いて、振動している前記電線の外表面に向かって前記着色材を連続的に滴射することを特徴とする電線の着色方法である。
【0015】
請求項4に記載された発明は、導電性の芯線と、絶縁性の合成樹脂で構成されかつ前記芯線を被覆する被覆部と、を有するとともに、前記被覆部の外表面に向かって液状の着色材が滴射されて該着色材が前記外表面に付着することにより該外表面が着色された電線を製造する電線の製造方法であって、前記芯線の周りに合成樹脂を押し出し被覆することにより外表面が単色の被覆部が成形された電線を製造し、続いて、前記電線を、長手方向に沿って移動させるとともに前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させ、続いて、振動している前記電線の外表面に向かって前記着色材を連続的に滴射することを特徴とする電線の製造方法である。
【0016】
請求項5に記載された発明は、導電性の芯線と、絶縁性の合成樹脂で構成されかつ前記芯線を被覆する被覆部と、を有するとともに、前記被覆部の外表面に向かって液状の着色材が滴射されて該着色材が前記外表面に付着することにより該外表面に電線識別用の印が形成された電線であって、前記印が、前記電線の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に形成されていることを特徴とする電線である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載された発明によれば、長手方向に沿って移動している電線の外表面に向かって液状の着色材を連続的に滴射することにより前記着色材を前記外表面に付着させて該電線を着色する着色ノズルと、前記着色ノズルよりも前記電線の移動方向上流側に配され、かつ、移動している前記電線を前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させる振動機構と、を有していることから、着色ノズルから滴射された着色材が、電線の外表面に該電線の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に付着し、認識しやすい印を形成することができる。
【0018】
請求項2に記載された発明によれば、芯線の周りに合成樹脂を押し出し被覆して外表面が単色の被覆部を成形する押し出し被覆ユニットと、前記被覆部が成形された電線を、該電線の長手方向に沿って移動させる移動手段と、移動している前記電線の外表面に向かって液状の着色材を連続的に滴射することにより前記着色材を前記外表面に付着させて該電線を着色する着色ノズルと、前記着色ノズルよりも前記電線の移動方向上流側に配され、かつ、移動している前記電線を前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させる振動機構と、を有していることから、着色ノズルから滴射された着色材が、電線の外表面に該電線の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に付着し、そのために、認識しやすい印が形成された電線を製造することができる。
【0019】
請求項3に記載された発明によれば、電線を、長手方向に沿って移動させるとともに着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させ、続いて、振動している前記電線の外表面に向かって前記着色材を連続的に滴射することから、着色ノズルから滴射された着色材が、電線の外表面に該電線の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に付着し、そのために、認識しやすい印を形成することができる。
【0020】
請求項4に記載された発明によれば、芯線の周りに合成樹脂を押し出し被覆することにより外表面が単色の被覆部が成形された電線を製造し、続いて、前記電線を、長手方向に沿って移動させるとともに前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させ、続いて、振動している前記電線の外表面に向かって前記着色材を連続的に滴射することから、着色ノズルから滴射された着色材が、電線の外表面に該電線の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に付着し、そのために、認識しやすい印が形成された電線を製造することができる。
【0021】
請求項5に記載された発明によれば、電線の外表面に形成された電線識別用の印が、前記電線の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に形成されていることから、従来のストライプ模様の印よりも、電線の周方向に沿って広範囲に印が形成されることになり、そのために、多方向から見ても印を認識しやすい電線を提供することができる。そして、この認識しやすい印を有する電線を使用することにより、ワイヤハーネスの組立て作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態にかかる電線の製造装置を図1ないし図3を参照して説明する。本発明の一実施形態にかかる図1に示す電線の製造装置(以下単に製造装置と呼ぶ)1は、本発明の一実施形態にかかる図2に示す電線の着色装置としての着色ユニット12を有しており、図3に示す電線3を製造する装置である。
【0023】
上記電線3は、移動体としての自動車などに配索されるワイヤハーネスを構成する。電線3は、図3に示すように、導電性の芯線4と、絶縁性の被覆部5とを有している。芯線4は、複数の導線が撚られて形成されている。芯線4を構成する導線は、導電性の金属で構成されている。また、芯線4は、一本の導線から構成されても良い。被覆部5は、例えば、ポリ塩化ビニル(Polyvinylchloride:PVC)などの合成樹脂で構成されているとともに、芯線4を被覆している。このため、被覆部5の外表面5aは、電線3の外表面をなしている。
【0024】
また、被覆部5は、単色Pである。なお、被覆部5を構成する合成樹脂に所望の着色材を混入して単色Pにしても良く、被覆部5を構成する合成樹脂に着色材を混入することなく単色Pを合成樹脂自体の色として良い。被覆部5を構成する合成樹脂に着色材を混入せずに単色Pが合成樹脂自体の色の場合、被覆部5即ち電線3の外表面5aは、無着色であるという。このように、無着色とは、被覆部5を構成する合成樹脂に着色材を混入せずに、外表面5aが合成樹脂自体の色であることを示している。外表面5aは、前述した無着色であっても良く、例えば白色などの単色であっても良い。
【0025】
また、電線3の外表面5aには、電線識別用の印6が形成されている。印6は、色R(図3中に平行斜線で示す)である。色Rは、単色Pと異なる。また、印6は、電線3の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に形成されている。また、この印6は、電線3の長手方向全域に亘って形成されている。また、本明細書において「正弦曲線状」とは、平面視において正弦曲線となるように形成されている形状を言う。
【0026】
前述した構成の電線3は、複数束ねられるとともに端部などにコネクタなどが取り付けられて前述したワイヤハーネスを構成する。そして、前記コネクタが自動車などの各種の電子機器のコネクタにコネクタ結合して、ワイヤハーネス即ち電線3は、各電子機器に各種の信号や電力を伝える。また、上述のようにワイヤハーネスを組立てる際、作業員は、印6の色を視認することにより、芯線4の大きさや、被覆部5の材質(耐熱性の有無などによる材質の変更)や、電線3の使用目的などを識別する。また、前記使用目的とは、例えば、エアバック、ABS(Antilock Brake System)や車速情報などの制御信号や、動力伝達系統などの電線が用いられる自動車の系統(システム)である。
【0027】
このように本発明では、電線3の外表面5aに形成された電線識別用の印6が、電線3の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に形成されていることから、従来のストライプ模様の印106(図4を参照。)よりも、電線3の周方向に沿って広範囲に印6が形成されることになり、そのために、多方向から見ても印6を認識しやすい電線3を提供することができる。そして、この認識しやすい印6を有する電線3を使用することにより、ワイヤハーネスの組立て作業効率を向上させることができる。
【0028】
上記製造装置1は、図1に示すように、サプライユニット10と、押し出し被覆ユニット11と、着色ユニット12と、巻き取りユニット13と、移動手段としての複数のプーリ14と、を有している。このプーリ14は、サプライユニット10と押し出し被覆ユニット11と着色ユニット12と巻き取りユニット13とに順に芯線4即ち電線3を、図1中の矢印Kに沿って、移動させる。即ち、矢印Kは、電線3の移動方向を示している。
【0029】
上記サプライユニット10は、被覆部5が被覆されていない状態の芯線4を押し出し被覆ユニット11に供給する。また、この押し出し被覆ユニット11は、無着色の合成樹脂を一旦溶かした(高温にした)後、サプライユニット10から供給された芯線4の全周に塗りつける。こうして、押し出し被覆ユニット11は、単色Pの合成樹脂をサプライユニット10から供給された芯線4の周りに押し出し被覆して、被覆部5を成形する。
【0030】
また、押し出し被覆ユニット11は、単色Pとしての無着色の電線3を製造しても良い。本明細書でいう無着色とは、電線3の被覆部5を構成する合成樹脂に各種の着色材が混入していない状態であり、前述した合成樹脂自体の色のことである。このため、無着色とは、単色Pの一例である。このため、押し出し被覆ユニット11は、前記合成樹脂に単色Pの着色材を混入しても良く、混入しなくても良い。
【0031】
上記着色ユニット12は、芯線4又は電線3の移動方向(図1及び図2中の矢印Kで示す方向)の押し出し被覆ユニット11の下流側でかつ押し出し被覆ユニット11の直後に配されている。着色ユニット12は、押し出し被覆ユニット11で芯線4を被覆しかつ高温になった単色Pの被覆部5の外表面5aを所望の色に着色する。この着色ユニット12の詳細な構成は、後述する。
【0032】
なお、本明細書で記す被覆部5(電線3)の外表面5aを着色するとは、被覆部5の外表面5aを着色液で着色又は塗料で着色することを示している。この着色液とは、溶媒中に染料が溶けているもの又は分散しているものを示しており、塗料とは、分散液中に顔料が分散しているものを示している。このため、着色液で外表面5aを着色すると、染料が被覆部5内にしみ込み、塗料で被覆部5の外表面5aを着色すると、顔料が被覆部5内にしみ込むことなく外表面5aに接着する。即ち、着色ユニット12は、電線3の被覆部5の外表面5aを染料で染める又は顔料を塗る。このため、被覆部5の外表面5aを着色するとは、被覆部5の外表面5aを染料で染める(染色する)ことと、被覆部5の外表面5aに顔料を塗ることとを示している。
【0033】
また、前記溶媒と分散液は、被覆部5を構成する合成樹脂と親和性のあるものが望ましい。この場合、染料が被覆部5内に確実にしみ込んだり、顔料が被覆部5の外表面5aに確実に接着することとなる。さらに、前述した着色液と塗料とは、本明細書に記した着色材をなしている。
【0034】
上記巻き取りユニット13は、芯線4と該芯線4を被覆しかつ外表面5aが着色された被覆部5とからなる電線3を所望の長さに切断するとともに、ドラムに巻き付けて、電線3を出荷できる状態にする。
【0035】
以下、着色ユニット12の構成を説明する。着色ユニット12は、図2に示すように、ノズルユニット30と、振動機構20と、エンコーダ2と、制御装置18と、を有している。
【0036】
上記ノズルユニット30は、工場のフロア上に固定されたユニット本体31と、ユニット本体31に支持された複数の着色ノズル32a,32b,32cを有している。これら着色ノズル32a,32b,32cは、水平方向に引張された電線3の最上部と相対する状態で、ユニット本体31に支持されているとともに、電線3の移動方向(矢印Kで示す方向)に沿って複数並べられている。また、図示例では、これら着色ノズル32a,32b,32cは、電線3の移動方向に沿って三つ並べられている。また、これら着色ノズル32a,32b,32cのうち矢印K即ち芯線4(電線3)の移動方向の最も上流側のものを第1の着色ノズル32aと呼び、最も下流側のものを第3の着色ノズル32cと呼び、中間に位置するものを第2の着色ノズル32bと呼ぶ。
【0037】
上記第1の着色ノズル32aには、色Rの着色材が供給される。また、第2の着色ノズル32bには、色R及び単色Pと異なる色の着色材が供給される。また、第3の着色ノズル32cには、色R及び単色P及び第2の着色ノズル32bに供給される着色材と異なる色の着色材が供給される。このような着色ノズル32a,32b,32cは、前述した着色材を、電線3の上方から、電線3の外表面5aの最上部に向かって鉛直方向に一定量ずつ連続的に滴射し、電線3の外表面5aの最上部を着色(マーキング)する。即ち、外表面5aに印6を形成する。また、これら複数の着色ノズル32a,32b,32cは、完成品としての電線3のオーダーに応じて選択して使い分けられる。また、これら複数の着色ノズル32a,32b,32cを同時に作動させることも可能である。
【0038】
このように本発明では、着色ノズル32a,32b,32cが電線3の移動方向に沿って複数設けられているとともに、これら複数の着色ノズル32a,32b,32cは互いに異なる色の着色材を滴射することから、電線3に滴射する着色材の色を変更する際に、製造装置1を一旦停止することなく容易に変更できる。よって、電線3の生産性を向上させることができる。また、それぞれ独立した着色ノズル32a,32b,32cを設けていることから、電線3に滴射する着色材の色を変更する際に、変更前の着色材の色と変更後の着色材の色とが混ざり合った色になることがないので、電線3の材料歩留まりの低下を抑制できる。
【0039】
上記振動機構20は、上述したノズルユニット30よりも矢印K即ち芯線4(電線3)の移動方向の上流側に配されている。この振動機構20は、工場のフロア上に固定された基台23と、押し出し被覆ユニット11側から送られてきた電線3を表面上に位置付ける平板状の台部21と、台部21から立設するとともに互いの間に電線3を通す円柱状に形成された一対の通し部22a,22bと、超音波振動子24と、電源25と、を有している。この台部21は、超音波振動子24を介して基台23に連結されている。また、一対の通し部22a,22b間の間隔は、この間を通される電線3の径に応じて変えることが可能に形成されているとともに、通される電線3の径とほぼ等しく形成されている。
【0040】
上記超音波振動子24は、互いに積層された複数のピエゾ素子24aと、これら複数のピエゾ素子24aの両端に配された一対の電極24b,24cと、を有している。このピエゾ素子24aは、電圧が加えられることにより伸びたり縮んだりする性質を有する物質である。また、一方の電極24bは上記基台23と固定されており、他方の電極24cは上記台部21と固定されている。さらに、これら一対の電極24b,24cは交流の電源25と接続されている。
【0041】
このような超音波振動子24は、電源25から通電が行われることにより複数のピエゾ素子24aが伸びたり縮んだりして、図2中矢印Jで示す方向に沿って伸縮を繰り返す。また、矢印Jは、台部21上を移動する電線3の長手方向と上記着色ノズル32a,32b,32cから滴射される着色材の滴射方向との双方と直交する。そして、超音波振動子24は、伸縮を繰り返すことにより台部21を矢印J方向に沿って振動させる。また、この際の振幅は0.5〜2mmの範囲で電線3の径に応じて設定される。
【0042】
上記電源25は、制御装置18によりオン・オフが制御されており、制御装置18からの指令にしたがって所定のタイミングで超音波振動子24に通電を行う。
【0043】
上記エンコーダ2は、上述した振動機構20よりも矢印K即ち芯線4(電線3)の移動方向の上流側に配されている。このエンコーダ2は、円柱状に形成されかつ軸芯周りに回転可能に形成された回転子を有している。この回転子の外周面は、芯線4を被覆した被覆部5と接触している。このような回転子は、矢印Kに沿って、芯線4即ち電線3が移動すると回転する。即ち、エンコーダ2の回転子は、矢印Kに沿った芯線4即ち電線3の移動とともに、軸芯周りに回転する。勿論、矢印Kに沿った芯線4即ち電線3の移動距離と、回転子の回転数とは比例する。
【0044】
また、上記エンコーダ2は、制御装置18と接続している。エンコーダ2は、上記回転子が所定角度ずつ回転すると、制御装置18に向かってパルス状の信号を出力する。即ち、エンコーダ2は、矢印Kに沿った芯線4即ち電線3の移動距離に応じた情報を測定して、制御装置18に向かって出力する。
【0045】
上記制御装置18は、周知のRAM、ROM、CPUなどを有したコンピュータであって、着色ユニット12全体の制御をつかさどる。制御装置18は、前記ROMなどに記憶されたプログラム及び上記エンコーダ2からの情報に基づいて、ノズルユニット30の3つの着色ノズル32a,32b,32cのうち一つを作動させて、被覆部5の外表面5aを着色する。
【0046】
また、制御装置18は、上記エンコーダ2からの情報に基づいて、電線3が移動している間、上記電源25に超音波振動子24への通電を行わせて、台部21即ち電線3を矢印J方向に沿って振動させる。また、台部21の振動数(振動速度)は、エンコーダ2により測定される電線3の移動速度に応じて制御装置18により調節される。さらに、台部21の基準振動数及び振幅は、製造する電線3の径に応じて予め定められているとともに上記ROMに記憶されている。前記基準振動数とは、予め定められたある速度である電線3が移動している際の台部21の振動数(振動速度)を意味する。即ち、製造装置1は、製造する電線3ごとに台部21の基準振動数及び振幅を変更することが可能である。
【0047】
そして、着色材が連続的に滴射されている着色ノズル32a,32b,32cの直下を、矢印J方向に沿って振動しながら電線3がその長手方向に沿って通過することにより、図3に示した正弦曲線状の印6が形成される。また、上記台部21の振動数及び振幅を変更することにより、印6の電線3の周方向に沿った幅や正弦波模様のピッチ(電線3の長手方向に沿ったピッチ)を変更することができる。
【0048】
また、上記電線3は、着色ユニット12を通過する際、引張された状態で該電線3の長手方向に沿って移動される。即ち、エンコーダ2からノズルユニット30に亘って移動される電線3の移動方向(図2中に矢印Kで示す方向)は、電線3の長手方向と平行である。
【0049】
前述した構成の製造装置1を用いて、電線3を以下のように製造する。まず、サプライユニット10から芯線4を供給し、押し出し被覆ユニット11で単色Pの合成樹脂を芯線4の周りに押し出し被覆して、外表面5aが単色Pの被覆部5を成形する。そして、プーリ14により矢印K方向に沿って移動される電線3が一対の通し部22a,22bの間を通過したことがエンコーダ2により検知されると、制御装置18が電源25に超音波振動子24への通電を開始させる。そして、超音波振動子24に通電が行われることにより台部21が矢印J方向に沿って振動して、一対の通し部22a,22bの間を通された電線3が矢印J方向に沿って振動させられる。
【0050】
そして、電線3が着色ノズル32a,32b,32cの直下に位置付けられたことがエンコーダ2により検知されると、制御装置18が着色ノズル32a,32b,32cに着色材の滴射を開始させる。なお、本実施形態では、色Rの着色材を滴射するので、第1の着色ノズル32aが作動される。
【0051】
そして、一定量ずつ連続的に着色材が滴射されている着色ノズル32a,32b,32cの直下を、矢印J方向に沿って振動している電線3が、プーリ14により矢印K方向に沿って移動されることにより、電線3の外表面5aに図3に示した正弦曲線状の印6が形成される。
【0052】
そして、外表面5aに印6が形成された電線3がプーリ14により巻き取りユニット13に向かって送り出されると、巻き取りユニット13が、この電線3を所望の長さに切断するとともに、ドラムなどに巻き付ける。こうして、前述したワイヤハーネスを構成する電線3を得ることができる。
【0053】
また、制御装置18は、予め定められた距離だけ電線3が移動したことがエンコーダ2により測定されると、着色ノズル32a,32b,32cに着色材の滴射を停止させる。また、制御装置18は、プーリ14が停止されて電線3の移動が停止されたことがエンコーダ2により検知されると、電源25に超音波振動子24への通電を停止させて、台部21を停止させる。なお、着色ノズル32a,32b,32cの滴射停止と同期して電源25に超音波振動子24への通電を停止させるようにしても良い。
【0054】
本実施形態によれば、製造装置1が、着色ノズル32a,32b,32cの上流に電線3を振動させる振動機構20を設けていることから、着色ノズル32a,32b,32cから滴射された着色材が、電線3の外表面5aに該電線3の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に付着する。このように、本発明の電線3は、印6が、電線3の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に形成されていることから、従来のストライプ模様の印106よりも、電線3の周方向に沿って広範囲に印6が形成されることになり、そのために、多方向から見ても印6を認識しやすい。そして、この認識しやすい印6を有する電線3を使用することにより、ワイヤハーネスの組立て作業効率を向上させることができる。
【0055】
また、着色ノズル32a,32b,32cが電線3の移動方向に沿って複数設けられているとともに、これら複数の着色ノズル32a,32b,32cは互いに異なる色の着色材を滴射することから、電線3に滴射する着色材の色を変更する際に、製造装置1を一旦停止することなく容易に変更できる。よって、電線3の生産性を向上させることができる。また、それぞれ独立した着色ノズル32a,32b,32cを設けていることから、電線3に滴射する着色材の色を変更する際に、変更前の着色材の色と変更後の着色材の色とが混ざり合った色になることがないので、電線3の材料歩留まりの低下を抑制できる。
【0056】
また、前述した実施形態では、振動機構20が超音波振動子24により台部21を振動させる構成であったが、本発明では、超音波振動子24の代わりに偏芯機構を用いたカム機構を用いることもできる。
【0057】
また、前述した実施形態では、電線3の長手方向の全域に亘って連続的に印6が形成されていたが、本発明の電線3は、電線3の長手方向の両端部に印6が形成されたものであっても良く、電線3の長手方向の全域に亘って断続的に印6が形成されたものであっても良い。これらは、エンコーダ2からの電線3の移動情報と制御装置18のROMに記憶させるプログラムにより実現可能である。
【0058】
また、前述した実施形態では、エンコーダ2を用いて、電線3の任意の位置を測定している。しかしながら、本発明では、CCDカメラなどの撮像手段と、撮像手段が得た画像から電線の任意の位置を識別する識別手段と、を用いても良いことは勿論である。
【0059】
さらに、前述した実施形態では、自動車に配索されるワイヤハーネスを構成する電線3に関して記載している。しかしながら本発明の製造装置1で製造される電線3を自動車に限らず、ポータブルコンピュータなどの各種の電子機器や各種の電気機械に用いても良いことは勿論である。
【0060】
さらに、本発明では、着色液及び塗料として、アクリル系塗料、インク(染料系、顔料系)、UVインクなどの種々のものを用いても良い。
【0061】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる電線の製造装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に示された電線の製造装置の着色装置を示す概略構成図である。
【図3】図1に示された電線の製造装置により製造された電線を示す斜視図である。
【図4】従来の電線を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
1 製造装置
3 電線
4 芯線
5 被覆部
5a 外表面
6 印
11 押し出し被覆ユニット
12 着色ユニット(着色装置)
14 プーリ(移動手段)
20 振動機構
32a 第1の着色ノズル(着色ノズル)
32b 第2の着色ノズル(着色ノズル)
32c 第3の着色ノズル(着色ノズル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って移動している電線の外表面に向かって液状の着色材を連続的に滴射することにより前記着色材を前記外表面に付着させて該電線を着色する着色ノズルと、
前記着色ノズルよりも前記電線の移動方向上流側に配され、かつ、移動している前記電線を前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させる振動機構と、
を有していることを特徴とする電線の着色装置。
【請求項2】
導電性の芯線と、絶縁性の合成樹脂で構成されかつ前記芯線を被覆する被覆部と、を有するとともに、前記被覆部の外表面が着色された電線を製造する電線の製造装置であって、
前記芯線の周りに合成樹脂を押し出し被覆して外表面が単色の被覆部を成形する押し出し被覆ユニットと、
前記被覆部が成形された電線を、該電線の長手方向に沿って移動させる移動手段と、
移動している前記電線の外表面に向かって液状の着色材を連続的に滴射することにより前記着色材を前記外表面に付着させて該電線を着色する着色ノズルと、
前記着色ノズルよりも前記電線の移動方向上流側に配され、かつ、移動している前記電線を前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させる振動機構と、
を有していることを特徴とする電線の製造装置。
【請求項3】
電線の外表面に向かって液状の着色材を滴射することにより前記着色材を前記電線の外表面に付着させて該電線を着色する電線の着色方法であって、
前記電線を、長手方向に沿って移動させるとともに前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させ、続いて、振動している前記電線の外表面に向かって前記着色材を連続的に滴射することを特徴とする電線の着色方法。
【請求項4】
導電性の芯線と、絶縁性の合成樹脂で構成されかつ前記芯線を被覆する被覆部と、を有するとともに、前記被覆部の外表面に向かって液状の着色材が滴射されて該着色材が前記外表面に付着することにより該外表面が着色された電線を製造する電線の製造方法であって、
前記芯線の周りに合成樹脂を押し出し被覆することにより外表面が単色の被覆部が成形された電線を製造し、
続いて、前記電線を、長手方向に沿って移動させるとともに前記着色材の滴射方向と該電線の長手方向との双方と交差する方向に沿って振動させ、
続いて、振動している前記電線の外表面に向かって前記着色材を連続的に滴射する
ことを特徴とする電線の製造方法。
【請求項5】
導電性の芯線と、絶縁性の合成樹脂で構成されかつ前記芯線を被覆する被覆部と、を有するとともに、前記被覆部の外表面に向かって液状の着色材が滴射されて該着色材が前記外表面に付着することにより該外表面に電線識別用の印が形成された電線であって、
前記印が、前記電線の長手方向に沿って延びた正弦曲線状に形成されていることを特徴とする電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−204688(P2008−204688A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37611(P2007−37611)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】