説明

電線の端末処理方法及び電線の端末構造

【課題】アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体の露出部全体がはんだでコーティングされた状態に端末処理する電線の端末処理方法及びそれによって端末処理された電線の端末構造を提供すること。
【解決手段】外被13の端部を除去して導体12の端部を露出させる導体露出工程と、露出させた導体12を溶融したはんだに浸漬させて、導体12の端部を含む一部分にはんだをコーティングするはんだコーティング工程と、導体12の一部分から外被13にかけて、はんだがコーティングされていない導体の他部分をまたぐように熱収縮性のチューブを通し、該チューブを加熱して収縮させて導体12及び外被13に密着させるチューブ装着工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ端子に接続される電線の端末を処理する電線の端末処理方法及び電線の端末構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ電線をはんだ付けするにあたり、アルミ芯線を、加熱溶融したはんだ槽に浸漬して予備加熱した後、フラックス槽に浸漬し、次いで、再び前記はんだ槽に浸漬して、アルミ芯線間にはんだを浸透付着せしめ、しかる後はんだ付けを行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、アルミの酸化被膜を除去するために、溶融したはんだに超音波を付与することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−180674号公報
【特許文献2】特開昭60−155664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図9に示すように、アルミ芯線1の露出部全体の酸化被膜を除去してはんだでコーティングするには、電線2の端部における外被3部分も超音波振動板5で超音波振動されている溶融はんだ4に浸さなければならない。しかし、このように、外被3部分を溶融はんだ4に浸すと、外被3が溶融はんだ4の熱によって損傷してしまう。
【0006】
一方、外被3部分が溶融はんだ4に浸らないようにすると、芯線1の露出部全体の酸化被膜を除去してはんだでコーティングすることができず、はんだのコーティングのない非コーティング部が形成される。すると、この電線2を銅または銅合金からなる端子に接続した際に、非コーティング部との接触箇所が異種金属接触による電食が大きな銅−アルミニウム接触となってしまい、良好な耐食性が得られないおそれがある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体の露出部全体がはんだでコーティングされた状態に端末処理する電線の端末処理方法及びそれによって端末処理された電線の端末構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る電線の端末処理方法は、下記(1)または(2)を特徴としている。
(1) アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体の周囲を外被で覆った電線の端末処理を行う端末処理方法であって、
前記外被の端部を除去して前記導体の端部を露出させる導体露出工程と、
露出させた前記導体を溶融したはんだに浸漬させて、前記導体の端部を含む一部分にはんだをコーティングするはんだコーティング工程と、
前記導体の一部分から前記外被にかけて、はんだがコーティングされていない前記導体の他部分をまたぐように熱収縮性のチューブを通し、該チューブを加熱して収縮させて前記導体及び前記外被に密着させるチューブ装着工程と、
を含むこと。
(2) 上記(1)の電線の端末処理方法において、前記コーティング工程で前記導体を浸漬させる溶融したはんだに超音波振動を付与すること。
【0009】
上記(1)の電線の端末処理方法では、外被を損傷させることなく導体にはんだをコーティングすることができ、また、導体の他部分に相当する非コーティング部をチューブで覆うことにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体の露出部分の全体がはんだでコーティングされた状態となる。これにより、銅または銅合金からなる端子に接続しても、異種金属接触による電食が大きな銅−アルミニウム接触とならず、異種金属接触による電食が少ない銅−錫接触とすることができる。
上記(2)の電線の端末処理方法では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体の露出部分へ溶融したはんだを超音波振動させて付着させることができる。これにより、導体の酸化被膜を除去して良好にはんだをコーティングすることができる。
【0010】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係る電線の端末構造は、下記(3)を特徴としている。
(3) アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体が外被から露出された電線の端末構造であって、
露出させた前記導体の端部を含む一部分には、はんだがコーティングされ、
前記導体の一部分から前記外被にかけて、はんだがコーティングされていない前記導体の他部分をまたぐように熱収縮性のチューブが被せられて密着されている、
こと。
【0011】
上記(3)の電線の端末構造では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体の露出部分がはんだでコーティングされているので、銅または銅合金からなる端子に接続しても、異種金属接触による電食が大きな銅−アルミニウム接触とならず、異種金属接触による電食が少ない銅−錫接触とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体の露出部全体がはんだでコーティングされた状態に端末処理する電線の端末処理方法及びそれによって端末処理された電線の端末構造を提供できる。
【0013】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る電線の端末処理方法で端末処理される電線の端部の側面図である。
【図2】実施形態に係る電線の端末処理方法によって端末処理された電線の端末構造を示す側面図である。
【図3】実施形態に係る電線の端末処理方法によって端末処理された電線の端部が接続されたコネクタ端子の側面図である。
【図4】通常の露出寸法で芯線が露出された電線の側面図である。
【図5】はんだコーティング工程を説明する超音波はんだ付け装置の概略断面図である。
【図6】芯線にはんだがコーティングされた電線の側面図である。
【図7】チューブ装着工程を説明する電線の側面図である。
【図8】一般的な端末処理を施した電線が接続されたコネクタ端子の側面図である。
【図9】芯線へのはんだのコーティングの仕方の従来例を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、実施形態に係る電線の端末処理方法で端末処理される電線の端部の側面図、図2は、実施形態に係る電線の端末処理方法によって端末処理された電線の端末構造を示す側面図、図3は、実施形態に係る電線の端末処理方法によって端末処理された電線の端部が接続されたコネクタ端子の側面図、図4は、通常の露出寸法で芯線が露出された電線の側面図、図5は、はんだコーティング工程を説明する超音波はんだ付け装置の概略断面図、図6は、芯線にはんだがコーティングされた電線の側面図、図7は、チューブ装着工程を説明する電線の側面図である。
【0017】
図1に示すように、端末処理が行われる電線11は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる芯線(導体)12と、この芯線12の周囲に押出し被覆された樹脂からなる外被13とを有している。
【0018】
そして、この電線11は、図2に示すように、その端部で外被13が除去されて芯線12が露出され、この露出された芯線12にはんだ14がコーティングされている。また、電線11は、はんだ14のコーティング箇所と外被13との間を覆うように、チューブ15が被せられている。このチューブ15は、熱収縮性チューブからなるもので、電線11における芯線12及び外被13の外周面に密着されている。
【0019】
上記のように端末処理された電線11は、図3に示すように、コネクタ端子10に接続される。コネクタ端子10は、導電性金属材料である銅または銅合金を、例えば、プレス加工することにより形成されたもので、バレル部21及びタブ端子部31を有している。
【0020】
バレル部21は、芯線圧着部22と、外被圧着部23とを有している。芯線圧着部22は、電線11の端部で露出された芯線12を圧着する。これにより、電線11の芯線12とコネクタ端子10とが導通接続される。また、外被圧着部23は、電線11の端部における外被13部分を圧着する。これにより、電線11の外被13部分がコネクタ端子10に固定される。
【0021】
タブ端子部31は、相手端子のタブが接続される部分であり、このタブ端子部31に相手端子のタブを接続することにより、コネクタ端子10が相手端子と導通される。
【0022】
次に、電線11を端末処理する場合について説明する。
【0023】
(導体露出工程)
まず、図1に示すように、電線11の端部における外被13を切断して除去し、芯線12を露出させる。このとき、露出させる芯線12の軸方向の寸法である露出寸法Lを長めにしておく。この芯線12の露出寸法Lは、図4に示すように、コネクタ端子10のバレル部21の芯線圧着部22への圧着に十分な通常の露出寸法Lnよりも長い寸法であり、また、芯線圧着部22に圧着した状態でバレル部21の外被圧着部23に接触しない程度の長さである。
【0024】
(はんだコーティング工程)
次に、露出させた芯線12にはんだ14をコーティングする。本実施形態では、図5に示すように、超音波はんだ付け装置41を用いる。この超音波はんだ付け装置41は、溶融はんだ14aを貯留するはんだ槽42を備えており、このはんだ槽42内に、超音波振動板43が設けられている。この超音波振動板43は、超音波発振器(図示略)によって超音波振動されるもので、この超音波振動板43が超音波振動することにより、その超音波振動がはんだ槽42内の溶融はんだ14aに伝わる。
【0025】
この超音波はんだ付け装置41を用いて芯線12にはんだ14をコーティングするには、はんだ槽42に貯留されている溶融はんだ14aに、上方側から芯線12を挿し込む。このとき、外被13が溶融はんだ14aに接触しないようにする。この溶融はんだ14aへの芯線12の挿し込み寸法は、前述した芯線圧着部22への圧着に十分な通常の露出寸法Lnよりも僅かに長い寸法とされている。
【0026】
このように、はんだ槽42に貯留されている溶融はんだ14aに芯線12を挿し込んだ後、超音波発振器によって超音波振動板43を超音波振動させる。このようにすると、芯線12の表面に生成した酸化被膜が超音波振動によって除去される。これにより、芯線12には、溶融はんだ14aに浸漬させた露出部分及び芯線12の内部である各素線間に溶融はんだ14aが行き渡り、はんだ14のコーティングが良好に形成される。さらに、電線11をはんだ槽42に向けて押圧し、芯線12を超音波振動板43に接触させた状態で超音波振動板43を超音波振動させることによって、芯線12に超音波振動が確実に伝搬し、溶融はんだ14aに浸漬させた露出部分及び芯線12の内部である各素線間に溶融はんだ14aを行き渡らせることができる。
【0027】
また、外被13が溶融はんだ14aに接触しないように溶融はんだ14aに浸漬しているので、溶融はんだ14aによって外被13がはんだ14の熱によって損傷してしまうようなこともない。
【0028】
そして、このはんだコーティング工程を行うことにより、図6に示すように、電線11は、その芯線12の露出部分における芯線圧着部22への圧着に十分な通常の露出寸法Lnよりも僅かに長い寸法Laにはんだ14がコーティングされた状態となる。また、はんだ14のコーティング箇所よりも外被13側には、はんだ14がコーティングされていない非コーティング部16が形成される。
【0029】
(チューブ装着工程)
このようにして、芯線12にはんだ14のコーティングを施した電線11に対して、チューブ15を装着する。
【0030】
具体的には、収縮前のチューブ15に電線11の先端を挿入し、芯線12の非コーティング部16を覆うように、芯線12と外被13とにまたがるようにチューブ15を配置させる。この状態で、チューブ15を加熱して収縮させる。このようにすると、チューブ15が芯線12及び外被13に密着し、よって、図2に示すように、芯線12の非コーティング部16がチューブ15によって覆われた状態となる。
【0031】
このようにして、端末処理が施された電線11では、芯線12の露出部分は、はんだ14によってコーティングされている。したがって、この電線11の芯線12を芯線圧着部22に圧着し、外被13部分を外被圧着部23に圧着してコネクタ端子10に接続すると、芯線圧着部22では、銅または銅合金からなるコネクタ端子10と錫を主成分とするはんだ14とが接触することとなる。
【0032】
ここで、異種金属の接触箇所では、電食が生じるおそれがある。この電食は、異種金属の接触部に通電性の液体が存在する場合に起こる腐食である。この異種金属接触による電食は、異種金属間の電位差が大きいほどその影響は大きくなるもので、銅−錫接触は、銅−アルミニウム接触よりも電位差が小さいことから、異種金属接触による電食が抑えられる。
【0033】
つまり、本実施形態に係る電線の端末処理方法によって端末処理された電線11では、コネクタ端子10と電線11との導通箇所を、異種金属接触による電食が少ない銅−錫接触とすることができる。
【0034】
以上、説明したように、本実施形態によれば、外被13を損傷させることなく芯線12にはんだ14をコーティングすることができ、また、芯線12における非コーティング部16をチューブ15で覆うことにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる芯線12の露出部分の全体がはんだ14でコーティングされた状態となる。これにより、銅または銅合金からなるコネクタ端子10に接続しても、異種属接触による電食が大きな銅−アルミニウム接触とならず、異種金属接触による電食が少ない銅−錫接触とすることができる。しかも、チューブ15によって芯線12と外被13との隙間における防水性も確保することができ、また、事前に芯線12をはんだ14でコーティングし、非コーティング部16をチューブ15で覆った製品の状態で電線11を出荷することができ、次工程における作業の簡略化を図ることができる。
【0035】
また、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる芯線12の露出部分へ溶融したはんだ14を超音波振動させて付着させることができる。これにより、芯線12の酸化被膜を除去して良好にはんだ14をコーティングすることができる。
【0036】
ここで、コネクタ端子10のバレル部21の芯線圧着部22への圧着に十分な通常の露出寸法Lnで芯線12を露出させ(図4参照)、この芯線12にはんだ14をコーティングしただけの電線11では、図8に示すように、はんだ14がコーティングされていない非コーティング部16が露出した状態でコネクタ端子10に接続されることとなる。すると、銅または銅合金からなるコネクタ端子10とアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる芯線12とが接触することとなる。すると、これらの間では、異種金属接触による電食が大きな銅−アルミニウム接触となってしまう。
【0037】
また、芯線圧着部22における圧着箇所に酸化被膜が除去されていない非コーティング部16があると、導電性の低下を招くおそれもある。
【0038】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0039】
11 電線
12 芯線(導体)
13 外被
14 はんだ
14a 溶融はんだ
15 チューブ
16 非コーティング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体の周囲を外被で覆った電線の端末処理を行う端末処理方法であって、
前記外被の端部を除去して前記導体の端部を露出させる導体露出工程と、
露出させた前記導体を溶融したはんだに浸漬させて、前記導体の端部を含む一部分にはんだをコーティングするはんだコーティング工程と、
前記導体の一部分から前記外被にかけて、はんだがコーティングされていない前記導体の他部分をまたぐように熱収縮性のチューブを通し、該チューブを加熱して収縮させて前記導体及び前記外被に密着させるチューブ装着工程と、
を含むことを特徴とする電線の端末処理方法。
【請求項2】
前記コーティング工程で前記導体を浸漬させる溶融したはんだに超音波振動を付与することを特徴とする請求項1に記載の電線の端末処理方法。
【請求項3】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体が外被から露出された電線の端末構造であって、
露出させた前記導体の端部を含む一部分には、はんだがコーティングされ、
前記導体の一部分から前記外被にかけて、はんだがコーティングされていない前記導体の他部分をまたぐように熱収縮性のチューブが被せられて密着されている、
ことを特徴とする電線の端末構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−49070(P2013−49070A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187629(P2011−187629)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】