説明

電線クランプ

【課題】この発明は、配索する電線を、簡便に車両パネル等の基材に固定することのできる電線クランプを提供することを目的とする。
【解決手段】車両パネル100に配索する被覆電線200の巻着を許容する筒状体11と、筒状体11に巻着した被覆電線200の外れを防止するキャップ12とで構成する電線固定部10と、車両パネル100に取り付けて、電線固定部10を車両パネル100に対して位置固定するアンカー部20とで構成し、筒状体11の端部に、鍔状のフランジ11aを配置するとともに、キャップ12に、筒状体11に巻着した前記被覆電線200の巻着部分200aを囲むリム12bを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配索する電線を例えば、車両パネル等に取付ける電線クランプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車両パネルに、電線を束ねたワイヤーハーネスを固定する方法として、特許文献1に示すようなバンドクランプが一般的に用いられている。
これらのバンドクランプは、アンカー部と、バンド部と、バックル部とが樹脂で一体成形されおり、アンカー部を車両パネルの挿入孔に挿入して固定し、ワイヤーハーネスを巻き回したバンド部をバックル部に挿入して嵌合させることで、バンド部で外周を締め付けたワイヤーハーネスを車両パネルに固定することができる。
【0003】
しかし、バンド部のループ径が小さくなると、バンド部は強く曲げられてロック爪が効きにくくなったり、バンド自体が破損しやすくなるなどの問題があるため、所定太さ以下のワイヤーハーネスを固定する場合は、ワイヤーハーネスにテープ等を巻き付けて所定太さ以上にする必要があった。したがって、テープの材料コストやテープ巻き付けの作業コストがかかるとともに、さらに巻き付けたテープの上をバンド部が位置ずれなく巻き回す治具が必要であった。
【0004】
このように、複数の電線を束ねた所定太さ以下のワイヤーハーネスの場合でさえ上述のようなテープやそのテープを巻き付ける作業が必要であるが、さらに径の細い電線の1本や、数本を固定する場合におけるテープ巻き付けの材料コストやその手間は、細径のワイヤーハーネスにおけるテープ巻き付けの数倍以上であり、径の細い電線を固定する方法として現実的な方法ではなかった。
【特許文献1】特開平8−149663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、配索する電線を、簡便に車両パネル等の基材に固定することのできる電線クランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、基材に配索する電線の巻着を許容する巻き着け体と、該巻き着け体に巻着した前記電線の外れを防止する外れ防止体とで構成する電線固定部と、前記基材に取り付け、前記電線固定部を前記基材に対して位置固定する位置固定部とで構成した電線クランプであることを特徴とする。
【0007】
この発明の態様として、前記巻き着け体の端部に、鍔状のフランジを配置することができる。
また、この発明の態様として、前記外れ防止体に、前記巻き着け体に巻着した前記電線の巻着部分を囲むリムを備えることができる。
【0008】
上記基材とは、たとえば、自動車のボディを形成する車両パネル等であることを含む。
上記電線は、単線やより線を芯線とする絶縁電線であり、絶縁体としてポリ塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂あるいはポリエステル等の被覆材料が用いられた絶縁電線であることを含む。
上記巻き着け体は、円柱形状或いは多角柱形状の筒状体或いは中実体であることを含み、さらには、巻き着け方向に対して略直角方向の複数の棒状体で構成する巻き着け体であることを含む。
【0009】
この発明の電線クランプのように、配索する電線の巻着を許容する巻き着け体と、該巻き着け体に巻着した前記電線の外れを防止する外れ防止体とで構成する電線固定部と、前記基材に取り付け、前記電線固定部を前記基材に対して位置固定する位置固定部とで構成したことによって、1本あるいは数本などの径の細い電線であっても、簡便に電線固定部に固定し、車両パネル等の基材に位置固定することができる。
【0010】
詳しくは、配索する電線を巻き着け体に巻着し、巻着した電線の外れを外れ防止体で防止することができるため、簡単、且つ不用意に巻着した電線が外れることのない確実な固定を実現することできる。
また、細径である電線をテープ等を巻き付けて所定径以上にせずとも確実に固定できるため、電線固定のための作業手間やコストの増加を抑制することができる。
【0011】
また、前記巻き着け体の端部に、鍔状のフランジを配置したことによって、より容易に、電線を巻き着け体に巻着することができる。詳しくは、巻き着け体にフランジ部を備えたことにより、外れ防止体で電線の外れを防止するまでに、巻き着け体に巻着した電線が緩んで容易に外れることを防止でき、巻き着け体への電線の巻着作業を容易にすることができる。
【0012】
また、前記巻き着け体に巻着した前記電線の巻着部分を囲むリムを外れ防止体に備えたことによって、巻き着け体に巻着した電線を外部から保護できるとともに、電線の外れをさらに効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、配索する電線を、簡便に車両パネル等の基材に固定することのできる電線クランプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1乃至4に示す電線クランプ1は、車両パネル100に配索する被覆電線200を固定する電線固定部10と、アンカー部20とで構成している。なお、図1は被覆電線200を巻着した状態の電線クランプ1の斜視図を示し、図2は同状態の縦断面図を示し、図3は同状態の平面方向の断面図を示し、図4はキャップ装着前の電線クランプ1の斜視図を示している。
【0016】
電線固定部10は、被覆電線200の巻着を許容する筒状体11と、該筒状体11に巻着した被覆電線200の外れを防止するキャップ12とで構成している。また、アンカー部20は、車両パネル100に取り付けて、電線固定部10を車両パネル100に対して位置固定するものである。
【0017】
以下において、上記構成について詳述する。
車両パネル100は、車体の一部を構成する適宜の肉厚のパネルであり、被覆電線200の配索ルートに対応した位置、詳しくは配索ルート上の例えば、屈曲点や所定間隔ごとの所定箇所に電線クランプ1を取付ける取付孔101を備えている。
【0018】
被覆電線200は、車体内部に配索する電装系の絶縁電線であり、車両内部において、所望のルートで配索され、そのルートに沿って配置された電線クランプ1で固定している。
【0019】
上述したように、所望のルートで配索された被覆電線200を車両パネル100に取付けるための取付治具である電線クランプ1は、平面視円形の電線固定部10と、該電線固定部10を車両パネル100に対して位置固定するアンカー部20とで構成している。
【0020】
電線固定部10は、上面側の平面視中央に円筒形の筒状体11を備えた平面視円形の本体部10aと、可撓性のヒンジバンド部13によって前記本体部10aに接続されたキャップ12とで構成されている。
【0021】
筒状体11は、本体部10aの半径より被覆電線200の直径分短い半径で形成された中空の円筒形状であり、その高さは被覆電線200の直径の2.5倍程度の高さに形成されている。なお、上述したように、筒状体11は中空の円筒形状で形成しているが、中実状の円柱体や多角柱体で構成してもよい。さらには、高さ方向に長い複数の棒状部材を被覆電線200の巻き着け方向の同心円状に配置して構成してもよい。
【0022】
キャップ12は、本体部10aと略同一の径の平面視円形状であり、底面に、筒状体11よりわずかに高さが低く、中空の筒状体11の内側に嵌合可能な嵌合筒状体12aを備えている。
【0023】
アンカー部20は、本体部10aの下面に備えたカサ部40と、該カサ部40の下面に備えた挿着部30とで構成している。
カサ部40は、底面視円形状であり、適宜の肉厚で、電線固定部10の底面から下方に向かって外側に広がる底面開放の逆すり鉢形状に形成している。
【0024】
挿着部30は、本体部10aの底面中央から下方に突き出すように配置され、適宜の厚みを有する支柱部31と、該支柱部31の下端の左右両側から上方外向きに配した脚部32とで構成され、支柱部31と脚部32とで正面視いかり形状を形成している。
【0025】
各脚部32の上端外側には、上記取付孔101の下端の角部が係止する係止フック32aを3段備えている。なお、各脚部32を幅方向内側に押圧することによって、外側方向の付勢力を得ることができる。また、3段の係止フック32aは、取付ける車両パネル100の肉厚や取付孔101の径に適した係止フック32aが係止する構成である。
なお、このように、電線固定部10とアンカー部20とで構成された電線クランプ1は、適宜の弾性を有する樹脂で一体形成されている。
【0026】
続いて、上述のような構成の電線クランプ1で、配索する被覆電線200を車両パネル100に取付ける取付け方法について以下において説明する。
まず、電線クランプ1を、被覆電線200の配索ルートにおける所定箇所に設けられた車両パネル100の取付孔101にアンカー部20を挿入して取付ける。
【0027】
詳述すると、カサ部40で車両パネル100の上面を押圧するまで、取付孔101に挿着部30を挿入し、電線クランプ1を車両パネル100の上面側から取付ける。ここで、脚部32は取付孔101の側面によって内側に押圧され、最下段の係止フック32aが取付孔101の下端角部に係止する。
【0028】
このとき、係止フック32aで取付孔101の下端角部に係止するとともに、取付孔101の側面を外側に付勢する脚部32によって車両パネル100の取付孔101に固定した電線クランプ1は、車両パネル100の上面を変形したカサ部40で押圧する。
【0029】
すなわち、車両パネル100の取付孔101の下端角部に係止する係止フック32aで固定した脚部32と、車両パネル100の上面を押圧するカサ部40とで車両パネル100を上下方向から挟み込んで電線クランプ1を車両パネル100に取付けることができる。
【0030】
そして、配索ルートの対応箇所に取り付けられた電線クランプ1に配索する被覆電線200を巻着する。詳しくは、図4に示すように、被覆電線200を筒状体11に巻き回して巻着し、その状態で、筒状体11の内側にキャップ12の嵌合筒状体12aを挿入してキャップ12と本体部10aと嵌合させる。なお、図4において、被覆電線200を筒状体11に1回巻き回して、すなわち1重巻きの状態で巻着しているが、複数回巻き回して巻着してもよい。
【0031】
これにより、被覆電線200は、所望のルートの要所に設けられた取付孔101に取り付けられた電線クランプ1によって位置固定することができる。
また、筒状体11に巻着した被覆電線200の上下に、筒状体11より径の大きな本体部10a及びキャップ12を配置しているため、筒状体11に巻着した被覆電線200の巻着が解けて外れることを防止している。
【0032】
さらには、本体部10aの上面、キャップ12の底面、筒状体11の側面及びに13の内面とで囲まれる閉空間の内側を筒状体11に巻着した被覆電線200が通過するため、被覆電線200が電線固定部10から外れることを防止している。
【0033】
また、筒状体11に巻着して被覆電線200を電線固定部10に取り付けているため、例えば、被覆電線200を直接拘束して取り付ける場合と比較して、被覆電線200にとって拘束負荷の少ない状態で車両パネル100への取り付け固定を実現している。
【0034】
詳しくは、電線固定部10が取付孔101に対して回転したり、被覆電線200に引っ張り力が付加された場合であっても、筒状体11に巻きまわして電線固定部10に巻着している被覆電線200は多少の移動が可能であるため、被覆電線200を直接拘束して取り付ける場合と比較して、被覆電線200に生じる拘束負荷を低減することができる。
【0035】
また、被覆電線200を筒状体11に巻着しているため、配索ルートにおける屈曲点に取り付けられた電線固定部10においても、筒状体11の巻着量に応じて屈曲できる。したがって、複雑な配索ルートであっても、被覆電線200に筒状体11の径以下での屈曲負荷を与えることなく、被覆電線200に対して負荷の少ない配索を実現することができる。
【0036】
また、キャップ12をヒンジバンド部13で本体部10aに接続するとともに、一体形成しているため、キャップ12を紛失する怖れがなく、キャップ12を筒状体11の内部に挿入して嵌合させて、確実に被覆電線200の外れを防止することができる。
【0037】
なお、キャップ12は、嵌合筒状体12aを筒状体11の内部に挿入して嵌合したが、嵌合筒状体12aの代用として筒状体11と係止する係止爪で構成してもよい。
【0038】
また、筒状体11の側面にギザギザや凹凸等の摩擦手段を設けても良く、これにより筒状体11に巻着する被覆電線200が筒状体11の側面を滑ることを防止することができる。また、筒状体11の外表面に粘着性塗布剤を塗布することで被覆電線200の滑りを防止してもよい。
【0039】
さらに、本実施例において筒状体11を円筒形状で形成したが、多角柱形状で形成してもよく、これにより、上述したように被覆電線200が筒状体11の側面を滑ることを防止することができる。
【実施例2】
【0040】
次に、第2の実施形態の電線クランプ1aについて、図5及び6とともに説明する。なお、図5はキャップ装着前の電線クランプ1aの斜視図を示し、図6は被覆電線200を巻着した状態の電線クランプ1aの縦断面図を示している。
【0041】
なお、第2の実施例の電線クランプ1aにおける本体部10a、キャップ12、ヒンジバンド部13、並びにアンカー部20を構成する挿着部30及びカサ部40は上記第1の実施例の電線クランプ1と同様であり、さらに、電線クランプ1aで取り付ける被覆電線200も、被覆電線200を取り付ける車両パネル100も実施例1と同様である。
【0042】
電線クランプ1aは、筒状体11の上端部に、鍔状のフランジ11aを配置している。
フランジ11aは、筒状体11より一回り大きく、本体部10aより一回り小さな径のリング状であり、筒状体11の上端で一体成型されている。
【0043】
これにより、図5に示すように、嵌合筒状体12aを筒状体11の内部に挿入してキャップ12を筒状体11に嵌合する前の巻着作業時において、筒状体11の外周を巻着する被覆電線200の巻き付け力が緩んで筒状体11から被覆電線200が外れることを抑制することができる。
【0044】
したがって、外れ防止手段であるキャップ12を装着する前であっても、巻着状態の被覆電線200が外れることを抑制し、容易、且つ確実に筒状体11に被覆電線200を巻着することができる。
【実施例3】
【0045】
次に、第3の実施形態の電線クランプ1bについて、図7乃至9とともに説明する。なお、図7は被覆電線200を巻着した状態の電線クランプ1bの斜視図を示し、図8は同状態の電線クランプ1bの縦断面図を示し、図9はキャップ装着前の電線クランプ1bの斜視図を示している。
【0046】
なお、第3の実施例の電線クランプ1bにおける本体部10a、筒状体11、フランジ11a、キャップ12、ヒンジバンド部13、並びにアンカー部20を構成する挿着部30及びカサ部40は上記第2の実施例の電線クランプ1aと同様であり、さらに、電線クランプ1bで取り付ける被覆電線200も、被覆電線200を取り付ける車両パネル100も実施例1及び2と同様である。
【0047】
電線クランプ1bは、ヒンジバンド部13とその両側の一部を除くキャップ12の底面側の周縁部に、筒状体11に巻着した被覆電線200の巻着部分200aを囲む、底面視C型のリム12bを備えている。
【0048】
リム12bは、嵌合筒状体12aと略同一の高さ及び嵌合した状態でフランジ11aに干渉しない適宜の厚みで形成されている。なお、上述のヒンジバンド部13とその両側一部のリム12bの無い部分は、配索された被覆電線200の通過を許容する通過部12cを構成している。
【0049】
これにより、筒状体11に巻着し、電線固定部10によって車両パネル100に取り付けられた被覆電線200の筒状体11の巻着部分200aの露出を防止している。したがって、巻着部分200aが外部から損傷を受けることを防止できる。
なお、本実施例の電線クランプ1bは筒状体11の上端にフランジ11aを備えているが、フランジ11aを備えていない筒状体11であってもよい。
【0050】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の基材は、車両パネル100に対応し、
以下同様に、
巻き着け体は、筒状体11に対応し、
電線は、被覆電線200に対応し、
外れ防止体は、キャップ12に対応し、
位置固定部は、アンカー部20に対応し、
電線の巻着部分は、巻着部分200aに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】被覆電線を巻着した状態の電線クランプの斜視図。
【図2】被覆電線を巻着した状態の電線クランプの縦断面図。
【図3】被覆電線を巻着した状態の電線クランプの平面方向の断面図。
【図4】キャップ装着前の電線クランプの斜視図。
【図5】キャップ装着前の第2の実施例の電線クランプの斜視図。
【図6】被覆電線を巻着した状態の第2の実施例の電線クランプの縦断面図。
【図7】被覆電線を巻着した状態の第3の実施例の電線クランプの斜視図。
【図8】被覆電線を巻着した状態の電線クランプの第3の実施例の縦断面図。
【図9】キャップ装着前の第3の実施例の電線クランプの斜視図。
【符号の説明】
【0052】
1,1a,1b…電線クランプ
10…電線固定部
11…筒状体
11a…フランジ
12…キャップ
12b…リム
20…アンカー部
100…車両パネル
200…被覆電線
200a…巻着部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に配索する電線の巻着を許容する巻き着け体と、該巻き着け体に巻着した前記電線の外れを防止する外れ防止体とで構成する電線固定部と、
前記基材に取り付け、前記電線固定部を前記基材に対して位置固定する位置固定部とで構成した
電線クランプ。
【請求項2】
前記巻き着け体の端部に、鍔状のフランジを配置した
請求項1に記載の電線クランプ。
【請求項3】
前記外れ防止体に、
前記巻き着け体に巻着した前記電線の巻着部分を囲むリムを備えた
請求項1または2に記載の電線クランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−201280(P2009−201280A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41309(P2008−41309)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】