説明

電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物

【課題】人体に対する安全性、耐環境汚染性を高める。
【解決手段】電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物は、(A)ポリ塩化ビニル100質量部に対し、(B)イソフタル酸エステル系可塑剤10〜120質量部、および(C)安定剤1〜10質量部を含有する塩化ビニル樹脂組成物であって、(B)イソフタル酸エステル系可塑剤が、イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)および/またはイソフタル酸ジイソノニルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線・ケーブルの被覆材料として用いられる塩化ビニル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂組成物は、電気的特性、機械的特性が良好で、かつ優れた難燃性を有することから、電線・ケーブルの被覆材料として広く使用されている。この塩化ビニル樹脂組成物には、柔軟性を付与し、また機械的特性を向上させる目的で、可塑剤が配合されている。可塑剤としては、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)などのフタル酸エステルが一般に使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、近時、これらの塩化ビニル樹脂組成物の可塑剤として使用されているフタル酸エステルは、人体に対する安全性や環境汚染性の点から、その使用が制限されつつあり、一部の用途では既に使用が禁止されたものもある。このため、電線・ケーブル分野においても、従来のフタル酸エステルに代わる安全性の高い可塑剤を使用した塩化ビニル樹脂組成物の開発が緊急の課題となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−126963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、安全性の高い可塑剤を用いることによって、人体に対する安全性、耐環境汚染性に優れ、かつ従来の塩化ビニル樹脂組成物に匹敵する良好な電気的特性、機械的特性、難燃性などを有する電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、可塑剤としてイソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOIP)および/またはイソフタル酸ジイソノニル(DINIP)を配合することにより、人体に対する安全性、に優れ、かつ良好な電気的特性、機械的特性、難燃性などを有する電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物は、(A)ポリ塩化ビニル100質量部に対し、(B)イソフタル酸エステル系可塑剤10〜120質量部、および(C)安定剤1〜10質量部を含有する塩化ビニル樹脂組成物であって、前記(B)イソフタル酸エステル系可塑剤が、イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)および/またはイソフタル酸ジイソノニルであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、人体に対する安全性に優れ、かつ良好な電気的特性、機械的特性、難燃性などを有する電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明に使用される(A)成分のポリ塩化ビニルは、電線・ケーブル被覆用として用いられているものであれば、特に制限されることなく使用される。ポリ塩化ビニルの重合度(数平均重合度)は、好ましくは700〜4000であり、より好ましくは900〜2500である。ポリ塩化ビニルは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0011】
本発明に使用される(B)成分のイソフタル酸エステル系可塑剤は、下記式(1)で示されるイソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOIP)および/または下記式(2)で示されるイソフタル酸ジイソノニル(DINIP)である。
【0012】
【化1】

【0013】
イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)および/またはイソフタル酸ジイソノニルを用いることにより、人体に対する安全性、耐環境汚染性を高めることができるとともに、電気的特性、機械的特性、難燃性などについては、従来のフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)などを可塑剤として用いた電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物に匹敵する特性を備えたものとすることができる。
【0014】
この(B)成分のイソフタル酸エステル系可塑剤の配合量は、(A)成分のポリ塩化ビニル100質量部に対して、10〜120質量部、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは30〜70質量部である。配合量が10質量部未満では柔軟性が得られないうえ、機械的特性も十分に得られないおそれがある。また、配合量が120質量部を超えると、表面へのブリード、およびベタツキによる粘着などが生ずるおそれがある。
【0015】
なお、本発明においては、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、イソフタル酸エステル系可塑剤以外の可塑剤を配合することができる。イソフタル酸エステル系可塑剤以外の可塑剤としては、例えば、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)(TOTM)、トリメリット酸トリイソデシル(TIDTM)、ピロメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、アゼライン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOZ)、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOS)などが挙げられる。また、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、アジピン酸系ポリエステルなども使用可能である。上記イソフタル酸エステル系可塑剤とともに併用する可塑剤としては、耐環境汚染性の観点からは、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、エポキシ化大豆油が好ましい。
【0016】
本発明に使用される(C)成分の安定剤としては、カルシウム(Ca)−亜鉛(Zn)系安定剤、バリウム(Ba)−亜鉛(Zn)系安定剤などの金属塩系安定剤;水酸化カルシウムなどの弱塩基性無機化合物;エポキシ系安定剤;ポリオール類;ホスファイト類;三塩基性硫酸鉛などの無機酸塩類、オクチルスズラウレート、オクチルスズマレートなどの有機スズ化合物などが挙げられる。安定剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。環境保全性の観点からは、金属塩系安定剤、弱塩基性無機化合物、エポキシ系安定剤;ポリオール類;ホスファイト類が好ましく、金属塩系安定剤がより好ましく、金属塩系安定剤のなかでも、カルシウム(Ca)−亜鉛(Zn)系安定剤が特に好ましい。カルシウム(Ca)−亜鉛(Zn)系安定剤には、ハイドロタルサイトを含有するものと含有しないものがあるが、そのいずれであってもよい。カルシウム(Ca)−亜鉛(Zn)系安定剤の市販品を例示すると、例えば、品川化工(株)製のEZFシリーズ、(株)ADEKA製のRUPシリーズ(以上、いずれも商品名)などが挙げられる。これらの市販のカルシウム(Ca)−亜鉛(Zn)系安定剤は、いずれもハイドロタルサイトを主成分とするものである。
【0017】
なお、熱安定性および環境保全性の観点からは、カルシウム(Ca)−亜鉛(Zn)系安定剤を(C)成分全体の少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも70質量%使用することが好ましい。
【0018】
この(C)成分の安定剤の配合量は、(A)成分のポリ塩化ビニル100質量部に対して1〜10質量部、好ましくは2〜7質量部、より好ましくは3〜5質量部である。配合量が1質量部未満では熱安定性が得られないうえ、加工特性も十分に得られないおそれがある。また、配合量が10質量部を超えるとブルームするおそれがある。
【0019】
本発明の電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物には、以上の各成分のほか、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、充填剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、着色剤、その他の添加剤を配合することができる。
【0020】
例えば、充填剤としては、炭酸カルシウム、クレー、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ジルコニア、タルク、マイカ、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミなどが挙げられる。炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムおよび軽質炭酸カルシウムのいずれも使用可能であり、また、これらを脂肪酸などで表面処理したものも使用することができる。充填剤を配合することにより、加工性、電気特性、耐ブリード性などを向上させることができる。耐ブリード性を高める観点からは、特に、炭酸カルシウム、クレーが好ましい。充填剤は、(A)成分のポリ塩化ビニル100質量部に対して、通常、0〜100質量部配合される。好ましくは10〜80質量部であり、より好ましくは20〜60質量部である。
【0021】
また、難燃剤としては、三酸化アンチモン、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、スズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛などの亜鉛化合物などが例示される。滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系などが挙げられる。架橋助剤としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。
【0022】
本発明の電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物は、上記したような(A)〜(C)成分と、必要に応じて配合される前述した各種成分とを、バンバリーミキサ、タンブラー、加圧ニーダ、混練押出機、ミキシングローラなどの通常の混練機を用いて均一に混合することにより容易に製造することができる。
【0023】
また、このようにして得られた本発明の電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物を、導体外周に直接もしくは他の被覆を介して押出被覆することにより、電線・ケーブルが製造される。組成物は、被覆後もしくは成形後、必要に応じて常法により架橋される。
【0024】
上記電線・ケーブルにおいては、人体に対する安全性が高く、かつ電気的特性、機械的特性、難燃性にも優れる絶縁体を備えることができる。
【0025】
なお、本発明は以上説明した実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができることは言うまでもない。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例で用いた成分は以下の通りである。
【0027】
ポリ塩化ビニル:信越化学工業(株)製 商品名 TK−1000
(平均重合度1000、KV=65)
DOIP:イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)
DINIP:イソフタル酸ジイソノニル
DOTP:テレフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)
DOP:フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)
DINP:フタル酸ジイソノニル
DIDP:フタル酸ジイソデシル
DUP:フタル酸ジウンデシル
Ca/Zn系安定剤:品川化工(株)製 商品名 EZF
クレー:BASF製 商品名 SP33
(平均粒径 1.0μm)
重質炭酸カルシウム:備北粉化工業(株)製 商品名 ソフトン1200
(平均粒径 1.8μm)
軽質炭酸カルシウム:竹原化学工業(株)製 商品名 ネオライトSP
(平均粒径 0.08μm)
【0028】
実施例1
ポリ塩化ビニル100質量部、DOIP50質量部、およびCa/Zn系安定剤3.0質量部を2本ロールを用いて均一に混練し、プレス機を用いて電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物を得た。
【0029】
実施例2〜10、比較例1〜6
配合成分および/または配合量を表1および表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物を得た。
【0030】
上記各実施例および各比較例で得られた電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物の各種特性を、下記に示す方法で評価した。
[比重]
JIS K 7112(プラスチック‐非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法)に準拠して測定した。
[硬さ]
JIS K 7215(プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法)に準拠して測定した(荷重負荷時間5秒)。
[体積抵抗率(30℃、60℃)、耐寒性、熱安定性]
JIS K 6723(軟質ポリ塩化ビニルコンパウンド)に準拠し、30℃および60℃における体積抵抗率を測定するとともに、耐寒性および熱安定性の評価を行った。
[100%モジュラス、引張強さ・伸び]
JIS K 6723に規定の2号試験片を作成し、標線25mm、引張速度200mm/minの条件で測定した。
[耐熱老化性]
JIS K 6723に準拠し、熱老化(100℃で120時間)後の引張強さ残率および伸び残率を測定した。
[耐油性]
JIS K 6723に準拠し、70℃で4時間、JIS C 2320規定の1種2号絶縁油に浸漬後の引張強さ残率および伸び残率を測定した。
[耐ブリード性]
試験用シート(25mm×180mm×1mm)を70℃の温水および室温の水の上に吊るし、それぞれ1ヶ月後および4ヶ月後、シート表面を目視により観察して、下記の基準で評価した。
◎:良好(ブリードなし)
○:やや良好(ブリードはわずかに認められるものの、実用上問題なし)
△:やや不良(多少のブリードが認められ、実用上問題あり)
×:不良(ブリードあり)
[難燃性]
JIS K 7201(酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法)に準拠して測定した。
【0031】
これらの結果を表1および表2の下欄に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1および表2から明らかなように、本発明に係る電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物は、従来の可塑剤を用いた比較例に匹敵するか、もしくはそれより良好な特性を有しており、従来の電線・ケーブル被覆材料の代替材料として十分に使用可能であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ塩化ビニル100質量部に対し、(B)イソフタル酸エステル系可塑剤10〜120質量部、および(C)安定剤1〜10質量部を含有する塩化ビニル樹脂組成物であって、
前記(B)イソフタル酸エステル系可塑剤が、イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)および/またはイソフタル酸ジイソノニルであることを特徴とする電線・ケーブル被覆用塩化ビニル樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−89287(P2012−89287A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233475(P2010−233475)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(510276881)株式会社ヤマゾール (1)
【Fターム(参考)】