説明

電線保護構造部及び電線保護構造部の製造方法

【課題】熱可塑性材料によって電線束の分岐部分を保護すること。
【解決手段】熱可塑性材料2aが、少なくとも電線束Wの分岐部分Wsを覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている保護部20aにより、電線束Wの分岐部分Wsが覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電線束の分岐部分を保護する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電線束の分岐部分を保護する技術として、予め設計された樹脂製のプロテクタ内部に電線束の分岐部分を収容することがある。
【0003】
なお、特許文献1には、フラット回路体を熱可塑性材料からなる2枚の被覆体で挟み、プレス成形して、被覆体をフラット回路体に密着させると共に被覆体同士を溶着させて形成されているワイヤーハーネスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−197038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなプロテクタでは、内部形状が一定であるため、内部に収容された電線束の分岐部分ががたつくことによる異音の発生、外部形状が大きいという問題があった。なお、特許文献1は、フラット回路体のみを対象とした保護を開示するだけに過ぎない。
【0006】
そこで、本発明は、熱可塑性材料によって電線束の分岐部分を保護することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に係る電線保護構造部は、電線束の分岐部分が保護されている電線保護構造部であって、熱可塑性材料が少なくとも前記電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている保護部により、前記電線束の分岐部分が覆われている。
【0008】
第2の態様に係る電線保護構造部は、第1の態様に係る電線保護構造部であって、前記保護部は、前記熱可塑性材料の少なくとも一部が前記電線束の分岐部分の少なくとも一部に巻き付けられて、前記熱可塑性材料が前記電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている。
【0009】
第3の態様に係る電線保護構造部は、第1又は第2の態様のいずれか一態様に係る電線保護構造部であって、前記保護部は、長尺帯状の熱可塑性材料が、前記電線束の分岐部分に巻き付けられて前記電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている。
【0010】
第4の態様に係る電線保護構造部は、第1又は第2の態様のいずれか一態様に係る電線保護構造部であって、前記保護部は、熱可塑性材料が、前記電線束の分岐部分を挟んで覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている。
【0011】
第5の態様に係る電線保護構造部は、第1又は第2の態様のいずれか一態様に係る電線保護構造部であって、前記保護部は、切込みが形成されている熱可塑性材料が、前記電線束の分岐部分に巻き付けられて前記電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている。
【0012】
第6の態様に係る電線保護構造部の製造方法は、電線束の分岐部分が保護されている電線保護構造部の製造方法であって、(a)熱可塑性材料により少なくとも前記電線束の分岐部分を覆う工程と、(b)前記工程(a)で前記電線束の分岐部分を覆った状態の熱可塑性材料を、加熱及び圧縮して成形する工程とを備える。
【0013】
第7の態様に係る電線保護構造部の製造方法は、第6の態様に係る電線保護構造部の製造方法であって、前記工程(a)では、前記熱可塑性材料の少なくとも一部を前記電線束の分岐部分の少なくとも一部に巻き付けて、前記熱可塑性材料により前記電線束の分岐部分を覆う。
【0014】
第8の態様に係る電線保護構造部の製造方法は、第6又は第7の態様のいずれか一態様に係る電線保護構造部の製造方法であって、前記工程(a)では、長尺帯状の熱可塑性材料を前記電線束の分岐部分に巻き付けて前記電線束の分岐部分を覆う。
【0015】
第9の態様に係る電線保護構造部の製造方法は、第6又は第7の態様のいずれか一態様に係る電線保護構造部の製造方法であって、前記工程(a)では、前記熱可塑性材料で前記電線束の分岐部分を挟んで覆う。
【0016】
第10の態様に係る電線保護構造部の製造方法は、第6又は第7の態様のいずれか一態様に係る電線保護構造部の製造方法であって、前記工程(a)では、切込みが形成されている前記熱可塑性材料を前記電線束の分岐部分に巻き付けて前記電線束の分岐部分を覆う。
【発明の効果】
【0017】
第1の態様に係る電線保護構造部によると、熱可塑性材料が電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている保護部により、電線束の分岐部分が覆われているため、熱可塑性材料により電線束の分岐部分を保護することができる。
【0018】
第2の態様に係る電線保護構造部によると、保護部は、熱可塑性材料の少なくとも一部が電線束の分岐部分の少なくとも一部に巻き付けられて、熱可塑性材料が電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されているため、電線束が熱可塑性材料に対して少なくとも一方向に位置決めされ、電線束の熱可塑性材料に対するずれを抑制することができる。
【0019】
第3の態様に係る電線保護構造部によると、保護部は、長尺帯状の熱可塑性材料が、電線束の分岐部分に巻き付けられて電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されているため、分岐形状がより複雑な場合でも、熱可塑性材料により電線束の分岐部分を保護することができる。
【0020】
第4の態様に係る電線保護構造部によると、保護部は、熱可塑性材料が、電線束の分岐部分を挟んで覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されているため、より簡単な形態で、熱可塑性材料により電線束の分岐部分を保護することができる。
【0021】
第5の態様に係る電線保護構造部によると、保護部は、切込みが形成されている熱可塑性材料が、電線束の分岐部分に巻き付けられて電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されているため、簡単な形態の熱可塑性材料により、分岐部分の外周形状に沿った形態で電線束の分岐部分を保護することができる。
【0022】
第6の態様に係る電線保護構造部の製造方法によると、熱可塑性材料により電線束の分岐部分を保護した電線保護構造部を製造することができる。
【0023】
第7の態様に係る電線保護構造部の製造方法によると、熱可塑性材料の少なくとも一部を電線束の分岐部分の少なくとも一部に巻き付けるため、電線束が熱可塑性材料に対して少なくとも一方向に位置決めされ、電線束の熱可塑性材料に対するずれを抑制して電線保護構造部を製造することができる。
【0024】
第8の態様に係る電線保護構造部の製造方法によると、分岐形状がより複雑な場合でも、熱可塑性材料により電線束の分岐部分を保護した電線保護構造部を製造することができる。
【0025】
第9の態様に係る電線保護構造部の製造方法によると、より簡単な形態で、熱可塑性材料により電線束の分岐部分を保護した電線保護構造部を製造することができる。
【0026】
第10の態様に係る電線保護構造部の製造方法によると、より簡単な形状の熱可塑性材料により、分岐部分の外周形状に沿った形態で電線束の分岐部分を保護した電線保護構造部を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態において不織材料が電線束を覆った状態を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る電線保護構造部を示す図である。
【図3】第2実施形態において不織材料が電線束を覆った状態を示す図である。
【図4】第2実施形態に係る電線保護構造部を示す図である。
【図5】第3実施形態で使用する不織材料を示す図である。
【図6】第3実施形態において不織材料が電線束を覆った状態を示す図である。
【図7】第3実施形態に係る電線保護構造部を示す図である。
【図8】第4実施形態で使用する不織材料を示す図である。
【図9】第4実施形態において不織材料が電線束を覆った状態を示す図である。
【図10】第4実施形態に係る電線保護構造部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施形態に係る電線保護構造部及び電線保護構造部の製造方法について説明する。この電線保護構造部は、電線束の分岐部分を保護及び形態維持するように熱可塑性材料で覆った構成である。
【0029】
電線束としては、車両等に配策されるワイヤーハーネスを構成するものが想定される。この電線束は、複数の電線が互いの径方向(複数方向)に隣接するように重ねられ、断面視略円形、略矩形等に束ねられて構成されている。ここで対象とする電線束の分岐部分は、幹線の中途部から1本の枝線が延びる形状又は幹線の端部が2股になる形状等、電線が3方に延びる部分である。なお、分岐部分とは、電線束の交差部分を言い、以下、そこから延びる線状の部分を分岐線と呼ぶ。図1〜図4、図6、図7、図9、図10では、電線束Wの分岐部分Wsの一例として、2つの分岐線Wrが分岐部分Wsを通じて略直線状に延びると共に、1つの分岐線Wrが2つの分岐線Wrに対して略直交する方向に分岐部分Wsから延びる形態を示している。なお、上記図面では、各分岐線Wrを略同径に示しているが、それぞれ異なる径である分岐形状であってもよい。
【0030】
まず、第1実施形態に係る電線保護構造部10aについて説明する(図2参照)。電線保護構造部10aは、保護部20aが上記電線束Wの分岐部分Wsを覆った構造である。この保護部20aは、熱可塑性材料が少なくとも電線束Wの分岐部分Wsを覆った状態で加熱及び加圧(より具体的には、ホットプレス)されて成形される。
【0031】
なお、ホットプレスとは、加工対象である熱可塑性材料を金型間に挟み込み、金型を加熱した状態で圧力を加えて不織材料を成型加工することをいう。より具体的には、電線束Wの分岐形状に対応した保護部20a成型用の金型面を有する一対の金型を用いて行われるとよい。すなわち、一方の金型上に電線束Wを覆った状態の不織材料2aを載置し、一対の金型を加熱しつつ、他方の金型を一方の金型に相対近接移動させることにより不織材料2aを成型する。これにより、熱可塑性材料が硬くなった状態の保護部20aにより電線束Wを覆った電線保護構造部10aを得る。もっとも、金型は、一対の金型に限られず、3以上の分割された金型で形成されてもよい。
【0032】
ここで、熱可塑性材料について説明する。熱可塑性材料とは、加熱することにより部分的或いは全体的に溶融し或いは軟らかくなって、冷却されることにより固化する材料である。そして、この熱可塑性材料は、加熱されて溶融した或いは軟らかくなった状態で成形加工又は接着されて冷却されることにより、成形又は接着された所定の形状を維持することができる。ここでは、熱可塑性材料として、不織材料を用いた例で説明する。
【0033】
不織材料としては、加熱工程を経て硬くなることが可能なものを用いることができる。かかる不織材料として、基本繊維と接着樹脂(バインダとも呼ばれる)とを含むものを用いることができる。接着樹脂は、基本繊維の融点よりも低い融点を有する樹脂である。そして、不織材料を、基本繊維の融点より低く且つ接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱することにより、接着樹脂が溶融されて基本繊維間にしみ込む。この後、不織材料の温度が低下すると、接着樹脂が凝固する。このようにして、不織材料を、加熱して硬くすることにより、加熱時の成型状態に維持することができる。この不織材料は、通常、シート状に形成されており(不織布とも呼ばれる)、以下の説明においてもシート状であるものとする。
【0034】
基本繊維としては、接着樹脂の融点で繊維状態を保ち得ればよく、樹脂繊維の他、各種繊維を用いることができる。また、接着樹脂は、基本繊維の融点より低い融点を有する熱可塑性樹脂繊維を用いることができる。例えば、基本繊維と接着樹脂との組合せとしては、基本繊維をPET(ポリエチレンテレフタレート)の樹脂繊維とし、接着樹脂をPETとPEI(ポリエチレンイソフタレート)との共重合樹脂としたものが挙げられる。
【0035】
すなわち、保護部20aは、上記のような熱可塑性材料としての不織材料2aが、少なくとも電線束Wの分岐部分Wsを覆った状態でホットプレスされて形成されている。より具体的には、不織材料2aの少なくとも一部が電線束Wの分岐部分Wsの少なくとも一部に巻き付けられて、不織材料2aが電線束Wの分岐部分Wsを覆った状態でホットプレスされている。ここで、不織材料2aを巻き付けるとは、不織材料2aを電線束Wの外周面に沿って曲げることを言う。好ましくは、不織材料2aは電線束2aに対して半周巻き付けられるとよい。これにより、電線束Wの分岐部分Wsは、不織材料2aが硬くなった部分である保護部20aにより覆われている。つまり、保護部20aは、電線束Wの分岐部分Wsを外部から保護していると共に変形を抑制するように形状維持している。なお、保護部20aは、少なくとも電線束Wの分岐部分Wsを覆っていればよく、電線束Wのうち分岐部分Wsから延びる分岐線Wrを部分的に覆うように形成されていてもよい。
【0036】
そして、この電線保護構造部10aでは、保護部20aは、長尺帯状の不織材料2aが、電線束Wの分岐部分Wsに巻き付けられて電線束Wの分岐部分Wsを覆った状態でホットプレスされて形成されている(図2参照)。すなわち、長尺帯状の不織材料2aは、電線束Wの分岐部分Wsの表面全体に巻き付けられる。ここでは、不織材料2aが、電線束Wの保護対象部分である分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分に巻き付けられて、当該分岐部分Ws及び各分岐線Wrを覆った状態でホットプレスされている。
【0037】
ここで、長尺帯状の不織材料2aの電線束Wに対する巻き付け方は以下の通りである(図1参照)。すなわち、長尺帯状の不織材料2aを、電線束Wのうち分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrに対して、当該各部分が露出しないようにずらして重ねつつ巻き付けていく。電線束Wの分岐部分Wsに巻き付ける際には、長尺帯状の不織材料2aを、分岐線Wr同士の各股部分(いずれかの分岐線Wr同士が略直線上に位置する場合のその間の分岐部分Wsを含む)に引掛けるようにして巻き付けるとよい。ここでは、タスキ掛けするようにして巻き付けている。なお、好ましくは、電線束Wの各部に対して不織材料2aが外周側に2層以上に重なるように巻き付けるとよい。また、この長尺帯状の不織材料2aには、巻き付け保持用に、巻き付けの際に内周側に向く面に両面粘着テープ等が付着されているとよい。
【0038】
上記のように不織材料2aが電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrを覆った状態で、不織材料2aをホットプレスして成形することにより、電線保護構造部10aが形成される。ここで、不織材料2aが、重なった部分同士が溶けた接着樹脂により接着されて巻き付けられた形状に保持されている。
【0039】
そして、この不織材料2aは、長尺帯状の不織材料2aが電線束Wの外周側にずれて重なり合った状態で硬くなっている。このため、保護部20aの表面には、長尺帯状の不織材料2aの側端部の線状の痕跡Tが残っている。なお、図2では、線状の痕跡Tを2点鎖線で示している。
【0040】
次に、第2実施形態に係る電線保護構造部10bについて説明する(図4参照)。なお、第1実施形態に係る電線保護構造部10aについてした説明と同様の構成部分については説明を省略する。
【0041】
第2実施形態に係る電線保護構造部10bでは、保護部20bは、不織材料2bが、電線束Wの分岐部分Wsを挟んで覆った状態でホットプレスされて形成されている。
【0042】
ここでは、不織材料2bで、電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分も覆うように挟んでいる(図3参照)。すなわち、不織材料2bは、電線束Wの分岐部分Ws及び2つの分岐線Wrの外周面に沿って曲げられ、当該各部分に対して半周以上巻き付けられている。なお、この不織材料2bは、略長方形のシート状であり、電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrを挟んで覆うことが可能な程度に大きい平面積を有する。より具体的には、不織材料2bを曲げて一端部と他端部とを揃えるようにして、電線束Wを挟んで覆う。
【0043】
上記のように不織材料2bが電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrを覆った状態で、不織材料2bをホットプレスして成形することにより、電線保護構造部10bが形成される。ここで、不織材料2bは、電線束Wを挟んだ状態で電線束Wの側方に延出している部分が溶けた接着樹脂により接着されて電線束Wを挟んだ形状に保持されている。
【0044】
そして、不織材料2bは、電線束Wの外周を覆って硬くなっていると共に、電線束Wの側方で余分な部分が板状に延出する形状で硬くなって形成されている。
【0045】
次に、第3、第4実施形態に係る電線保護構造部10c、10dについて説明する(図7、図10参照)。なお、第1実施形態に係る電線保護構造部10aについてした説明と同様の構成部分については説明を省略する。
【0046】
第3、第4実施形態に係る電線保護構造部10c、10dでは、保護部20c、20dは、切込みCが形成されている不織材料2c、2dが、電線束Wの分岐部分Wsに巻き付けられて電線束Wの分岐部分Wsを覆った状態でホットプレスされて形成されている。上記切込みCは、切込みCが形成されることにより分割される部分が、他の部分に対して分岐部分Wsの外周側で重なるように、不織材料2c、2dを分岐部分Wsに巻き付け可能に形成されている。ここでは、切込みCが形成されることにより分割された部分を含む不織材料2c、2dの各部が、それぞれ、電線束Wの分岐部分Ws又は分岐線Wrに対して巻き付けられ、部分的に重なった状態でホットプレスされて成形されている。
【0047】
第3実施形態に係る電線保護構造部10cの保護部20cは、両側辺(図5の左右方向に対向する端辺)の中途部から中心に向けて対向する側辺間の寸法の半分より小さい長さの切込みCが形成された略長方形のシート状の不織材料2cが、電線束Wの分岐部分Wsに巻き付けられた状態でホットプレスされて形成されている(図7参照)。
【0048】
ここでは、不織材料2cは、電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分を覆うように巻き付けられる(図6参照)。なお、この不織材料2cは、一端部(図5の上側端部)と他端部(図5の下側端部)とを結ぶ方向において、切込みCの一端側部分が1つの分岐線Wrの保護対象部分を延在方向において覆える寸法であると共に、切込みCの他端側部分が2つの分岐線Wrを周方向において覆える(端部同士が重なる)寸法となっている。また、不織材料2cの側端部間の幅寸法は、切込みCの一端側部分が1つの分岐線Wrを周方向において覆える(側端部同士が重なる)寸法で、且つ、2つの分岐線Wrの保護対象部分を延在方向において覆える寸法である。また、不織材料2cには、巻き付け保持用に、内周側を向く面に両面粘着テープ40等が付着されているとよい。例えば、図5の2点鎖線で示すように、両面粘着テープ40は、切込みCより一端側の両側端部及び他端部に付着されているとよい。
【0049】
ここで、不織材料2cの電線束Wに対する巻き付け方は以下の通りである。まず、不織材料2cの一端側の部分を主として電線束Wの1つの分岐線Wrに巻き付ける。より具体的には、切込みCが形成されることにより他端側部分に対して自由端となった切込みCより一端側の部分のうち側端側の部分を、近接させるように上記1つの分岐線Wrに巻き付けて重ねる。なお、この状態で、不織材料2cの切込みCの一端側の端縁部は、1つの分岐線Wrに隣接する分岐部分Wsの一部も覆っている。
【0050】
次に、不織材料2cの切込みCより他端側の部分を分岐部分Ws及び他の2つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分に巻き付ける。より具体的には、不織材料2cの他端側部分を、切込みCの他端側の端縁部に対して他端部を近接させるように巻き付ける。そして、この不織材料2cの他端部を、1つの分岐線Wrに巻き付けられた切込みCの一端側の端縁部と分岐部分Ws及び2つの分岐線Wrに巻き付けられる切込みCの他端側の端縁部とに対して重ねる。
【0051】
上記のように不織材料2cが電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrを覆った状態で、不織材料2cをホットプレスして成形することにより、電線保護構造部10cが形成される。ここで、不織材料2cが、重なった部分同士が溶けた接着樹脂により接着されて巻き付けられた形状に保持されている。
【0052】
そして、不織材料2cの切込みCより一端側の部分は、1つの分岐線Wr及び分岐部分Wsの一部を覆って、両側端部が重なり合った状態で硬くなっている。また、不織材料2cの切込みCより他端側の部分は、分岐部分Ws及び他の2つの分岐線Wrを覆って、不織材料2cの他端部が切込みCの他端側の端縁部、及び、分岐部分Wsの外周側で重なっている一端側の端縁部に重なった状態で硬くなっている。このため、保護部20cのうち1つの分岐線Wrを覆った部分の表面には不織材料2cの側辺の線状の痕跡Tが残っていると共に、分岐部分Ws及び他の二つの分岐線Wrを覆った部分の表面には不織材料2cの他端辺の線状の痕跡Tが残っている。図7では、線状の痕跡Tを2点鎖線で示している。
【0053】
なお、図6では、不織材料2cの一端側部分を電線束Wに巻き付けてから、切込みCの一端側の端縁部及び他端側の端縁部に対して、他端部を外周側に重ねる例を示している。もっとも、不織材料2cの切込みCの他端側の端縁部を他端部の外周側に重ねるように他端側部分を巻き付けてから、切込みCの一端側の端縁部を他端部の外周側に重ねるように一端側部分を巻き付けてもよい。
【0054】
第4実施形態に係る電線保護構造部10dの保護部20dは、一端辺(図8の上側端辺)の略中心部から他端側(図8の下側)に向けて切込みCが形成された略長方形のシート状の不織材料2dが、電線束Wの分岐部分Wsに巻き付けられた状態でホットプレスされて形成されている(図10参照)。
【0055】
ここでは、不織材料2dは、電線束Wの分岐部分Ws及び2つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分を覆うように巻き付けられる(図9参照)。なお、この不織材料2dは、一端部と他端部とを結ぶ方向において、切込みCより他端側部分が2つの分岐線Wrを周方向において覆える寸法であると共に、切込みCの両側部分が1つの分岐線Wrを間に介在させて巻き付けると当該他端側部分の端部に重なる寸法となっている。また、不織材料2dの側端辺(図8の左右方向に対向する端辺)間の幅寸法は、2つの分岐線Wrの保護対象部分を延在方向において覆える寸法である。また、この切込みCが形成されている不織材料2dには、巻き付け保持用に、内周側を向く面に両面粘着テープ40等が付着されているとよい。例えば、図8の2点鎖線で示すように、両面粘着テープ40は、各一端部及び他端部に付着されているとよい。
【0056】
ここで、不織材料2dの電線束Wに対する巻き付け方は以下の通りである。すなわち、不織材料2dのうち切込みCより他端側の部分を電線束Wの分岐部分Ws及び2つの分岐線Wrに巻き付ける。また、切込みCが形成されることにより分割された各一端側部分を他の1つの分岐線Wrを間に介在させるように2つの分岐線Wr及びこれに隣接する分岐部分Wsの一部に巻き付ける。そして、不織材料2dの各一端部を、他端部に対して重ねる。すなわち、分岐部分Wsのうち2つの分岐線Wrに隣接する部分には、不織材料2dの他端部及び分割された各一端部が重ねられている。
【0057】
なお、図9では、不織材料2dの各一端部を、先に電線束Wに巻き付けた他端部に対して外周側に重ねる例を示しているが、各一端側部分を巻き付けてから他端部を各一端部に対して外周側に重ねてもよい。
【0058】
上記のように不織材料2dが電線束Wの分岐部分Ws及び2つの分岐線Wrを覆った状態で、不織材料2dをホットプレスして成形することにより、電線保護構造部10dが形成される。ここで、不織材料2dが、重なった部分同士が溶けた接着樹脂により接着されて巻き付けられた形状に保持されている。
【0059】
そして、不織材料2dは、2つの分岐線Wr及びこれに隣接する分岐部分Wsの一部を覆って、他端部と切込みCにより分割された各一端部とが重なった状態で硬くなっている。このため、保護部20dのうち2つの分岐線Wrを覆った部分の表面には、それぞれ、不織材料2dの他端辺及び切込みCの端縁部の線状の痕跡Tが残っている。なお、図10では、線状の痕跡Tを2点鎖線で示している。
【0060】
上記電線保護構造部10a〜10dを製造するのと同様にして、上述した電線束Wの分岐部分Wsの他にも、3つの分岐線Wrがそれぞれ異なる角度で分岐している分岐部分Wsを保護する電線保護構造部を製造することも可能である。
【0061】
また、電線保護構造部10a、10c、10dについては、電線束Wの分岐部分Wsに加えて2つ又は3つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分も保護部20a、20c、20dにより保護されている構造について説明したが、保護部が分岐部分Wsだけを保護する構造であってもよい。
【0062】
すなわち、第1実施形態に係る電線保護構造部10aについては、長尺帯状の不織材料2aを、各分岐線Wr同士の股部分に引掛けるようにして電線束Wの分岐部分Wsだけに巻き付けて製造すればよい。また、第3実施形態に係る電線保護構造部10bについては、切込みCの一端側部分及び側辺間の幅寸法を分岐部分Wsに対応してより小さくした不織材料を用いて、切込みCの他端側部分を電線束Wの分岐部分Wsだけに巻き付け、一端側部分の側端部を分岐部分Wsの外周側で当該他端側部分に重ねるようにして巻き付けて製造すればよい。また、第4実施形態に係る電線保護構造部10dについては、側辺間の幅寸法を分岐部分Wsに対応してより小さくした不織材料を用いて、不織材料の他端側部分を電線束Wの分岐部分Wsだけに巻き付け、切込みCの両側部分を1つの分岐線Wrを間に介在させて分岐部分Wsの外周側で当該他端側部分に重ねるようにして巻き付けて製造すればよい。
【0063】
さらに、第1、第2実施形態に係る電線保護構造部10a、10bを製造する方法によれば、4以上の分岐線が延出する分岐部分を保護する電線保護構造部を製造することも可能である。
【0064】
上記電線保護構造部10a〜10dによると、不織材料2a〜2dにより電線束Wの分岐部分Wsを保護することができる。また、電線束Wの分岐部分Wsに加えて分岐線Wrを不織材料2a〜2dで覆う構造によると、不織材料2a〜2dをホットプレスする際に、加熱された金型が直接電線束Wに対向することを抑制でき、電線束Wの焼けを抑制することができる。
【0065】
また、保護部20a〜20dは、不織材料2a〜2dが少なくとも一部に巻き付けられて、電線束Wの分岐部分Wsを覆った状態でホットプレスされて形成されているため、電線束Wが不織材料2a〜2dに対して少なくとも一方側に位置決めされ、不織材料2a〜2d(保護部20a〜20d)に対する電線束Wのずれを抑制することができる。
【0066】
特に、第1実施形態に係る電線保護構造部10a及びその製造方法によると、保護部20aは、長尺帯状の不織材料2aが、電線束Wの分岐部分Wsに巻き付けられて電線束Wの分岐部分Wsを覆った状態で加熱及び圧縮されて成形される。このため、不織材料2aを巻き付ける作業の自由度が高く、複雑な分岐形状の場合でもより確実に電線束Wの保護対象部分を覆うことができる。そして、不織材料2aで電線束Wを覆った状態でホットプレスをすることにより、分岐形状がより複雑な場合でも、電線束Wの外周形状に沿った形状で電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分を保護及び形態維持することができる。
【0067】
第2実施形態に係る電線保護構造部10b及びその製造方法によると、不織材料2bにより挟むだけで電線束Wの保護対象部分を覆った状態とするため、より簡単な形態で、不織材料2bにより電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分を保護及び形態維持することができる。
【0068】
第3実施形態に係る電線保護構造部10c及び製造方法によると、2箇所に切込みCが形成されているだけのシート状の不織材料2cを用いて、容易に電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrを覆うように巻き付けることができる。このため、電線束Wの外周形状に沿った形状でホットプレスして、電線束Wの外周形状に沿った形状で、電線束Wの分岐部分Ws及び3つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分を保護及び形態維持することができる。
【0069】
第4実施形態に係る電線保護構造部10d及び製造方法によると、1箇所に切込みCが形成されているだけのより簡単な形状の不織材料2cを用いて、容易に電線束Wの分岐部分Ws及び2つの分岐線Wrを覆うように巻き付けることができる。このため、電線束の外周形状に沿った形状でホットプレスして、電線束Wの外周形状に沿った形状で、電線束Wの分岐部分Ws及び2つの分岐線Wrのうち分岐部分Wsに隣接する部分を保護及び形態維持することができる。
【符号の説明】
【0070】
2a、2b、2c、2d 不織材料
10a、10b、10c、10d 電線保護構造部
20a、20b、20c、20d 保護部
C 切込み
W 電線束
Ws 分岐部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線束の分岐部分が保護されている電線保護構造部であって、
熱可塑性材料が、少なくとも前記電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている保護部により、前記電線束の分岐部分が覆われている電線保護構造部。
【請求項2】
請求項1に記載の電線保護構造部であって、
前記保護部は、前記熱可塑性材料の少なくとも一部が前記電線束の分岐部分の少なくとも一部に巻き付けられて、前記熱可塑性材料が前記電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている、電線保護構造部。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電線保護構造部であって、
前記保護部は、長尺帯状の熱可塑性材料が、前記電線束の分岐部分に巻き付けられて前記電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている、電線保護構造部。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電線保護構造部であって、
前記保護部は、熱可塑性材料が、前記電線束の分岐部分を挟んで覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている、電線保護構造部。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の電線保護構造部であって、
前記保護部は、切込みが形成されている熱可塑性材料が、前記電線束の分岐部分に巻き付けられて前記電線束の分岐部分を覆った状態で加熱及び圧縮されて成形されている、電線保護構造部。
【請求項6】
電線束の分岐部分が保護されている電線保護構造部の製造方法であって、
(a)熱可塑性材料により少なくとも前記電線束の分岐部分を覆う工程と、
(b)前記工程(a)で前記電線束の分岐部分を覆った状態の熱可塑性材料を、加熱及び圧縮して成形する工程と、
を備える電線保護構造部の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の電線保護構造部の製造方法であって、
前記工程(a)では、前記熱可塑性材料の少なくとも一部を前記電線束の分岐部分の少なくとも一部に巻き付けて、前記熱可塑性材料により前記電線束の分岐部分を覆う、電線保護構造部の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の電線保護構造部の製造方法であって、
前記工程(a)では、長尺帯状の熱可塑性材料を前記電線束の分岐部分に巻き付けて前記電線束の分岐部分を覆う、電線保護構造部の製造方法。
【請求項9】
請求項6又は請求項7に記載の電線保護構造部の製造方法であって、
前記工程(a)では、前記熱可塑性材料で前記電線束の分岐部分を挟んで覆う、電線保護構造部の製造方法。
【請求項10】
請求項6又は請求項7に記載の電線保護構造部の製造方法であって、
前記工程(a)では、切込みが形成されている前記熱可塑性材料を前記電線束の分岐部分に巻き付けて前記電線束の分岐部分を覆う、電線保護構造部の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−39782(P2012−39782A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178450(P2010−178450)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】