電線導体の製造方法、及び、電線導体と絶縁電線
【課題】自動車搭載に好適な耐屈曲性と耐衝撃性に優れた電線の製造方法を提供する。
【解決手段】軟化温度が相違する素線(A)、(B)の各々を伸線加工1、2する工程と、上記素線(A)、(B)を撚り合わせ、撚り線中間体5を作製する撚線工程3と、上記軟化温度と同じ又は異なる熱処理温度(α)で、上記撚り線中間体5を熱処理する熱処理工程7を、順に備えていることを特徴とする電線導体の製造方法、および該製造方法により作製された電線、絶縁電線である。
【解決手段】軟化温度が相違する素線(A)、(B)の各々を伸線加工1、2する工程と、上記素線(A)、(B)を撚り合わせ、撚り線中間体5を作製する撚線工程3と、上記軟化温度と同じ又は異なる熱処理温度(α)で、上記撚り線中間体5を熱処理する熱処理工程7を、順に備えていることを特徴とする電線導体の製造方法、および該製造方法により作製された電線、絶縁電線である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車搭載用として、あるいは、電子機器、医療機器、産業用ロボットの配線等に好適な絶縁電線、電線導体、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途に適用される電線に於て、排ガス低減や燃費向上を目的とした自動車の軽量化が強く要望されており、これに伴って、自動車に搭載される部品の軽量化が要求されている。その中でワイヤーハーネスも例外ではなく、軽量化を目的とした電線の細径化が進んできている。
従来、自動車用電線の導体には主に軟銅(同心撚り)が用いられているが、細径化するに伴い強度不足による配策時の断線などが懸念される。そこで、同心撚りした導体の強度向上のために、銅合金を硬質材として使用して対策を行っているのが実状である(例えば、特許文献1参照)。ただし、硬質材を採用することで強度は向上するものの、伸びが不足するため、自動車用途として重要視される性能である「耐屈曲性」や「耐衝撃性」に劣るという問題が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−89621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、図11に示すように、素線として、硬質材31と軟質材33を混在させて撚り合わせる電線導体35も公知ではあるが、素線の内で硬質材31が突出状にはみ出す、いわゆる「わらい37」を、生ずる。
このようなわらい37の発生を防ぐために、撚り合わせ工程に於て、各素線に対応したテンションコントロール(張力付加制御)が必要となる等の問題があった。
また、圧縮塑性加工を行う際に、軟質材が優先的に塑性加工を受けて、横断面が円形とならなかったり、素線が撚れてしまう等の問題もある。
【0005】
そこで、本発明は、図11に示すような「わらい37」の発生を防止して、耐屈曲性及び強度に優れ、(伸び及び強度の両特性を備えて、)細径化に貢献できる絶縁電線、電線導体、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る電線導体の製造方法は、軟化温度が相違する素線の各々を伸線加工する工程と、上記素線を撚り合わせ、撚り線中間体を作製する撚線工程と、上記軟化温度と同じ又は異なる熱処理温度で、上記撚り線中間体を熱処理する熱処理工程を、順に備えている。
また、上記撚線工程と上記熱処理工程の間に、前記撚り線中間体を縮径加工する塑性加工工程を有する。
また、本発明に係る電線導体は、上記伸線加工工程と撚線工程と熱処理工程とを、順に備えた製造方法にて作製される。また、本発明に係る絶縁電線は、このような電線導体の外周に絶縁層を被覆したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、撚り合わせ加工に於て、伸線加工によって加工硬化して、硬質材となった素線相互を撚り合わせることとなり、(従来の図11に示した)「わらい37」を防止できる。撚り合わせ工程のために供給される素線は相違するテンションを付加するような(面倒な)テンションコントロールが不要である。
また、熱処理せずに、撚り線中間体に圧縮塑性加工を施せば、一部の素線のみが優先的に圧縮加工を受ける問題を解決して、円形の撚り線が容易に得られる。
その後の中間焼鈍温度での焼鈍加工によって、細径の自動車用電線用等に好適な、伸びが大きく耐屈曲性に優れると共に破断強度も大きい両特性を具備した撚り線が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態を示すフローチャート図である。
【図2】他の実施の形態を示すフローチャート図である。
【図3】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図4】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図5】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図6】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図7】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図8】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図9】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図10】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図11】従来の問題点を説明するための拡大斜視図である。
【図12】軟化温度を説明するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1のフローチャート図と図3の拡大断面図に於て、軟化温度が相違する金属材料からなる素線Aと素線Bは、荒引線の状態から各々伸線加工(冷間伸線加工)1,2し、その加工硬化によって得られる。次に、上記素線A,Bを撚り合わせる撚線工程3を経て、例えば、図3に示す横断面のような同心撚りの撚り線中間体5を作製する。その後、軟化温度と同じ、又は、異なる熱処理温度で、撚り線中間体5を熱処理する熱処理工程7を経て、電線導体10を製造する。なお、図3に於て、中間体5と電線導体10とは同一の断面形状であることを示す。
【0010】
ここで、軟化温度とは、飽和する引張強さ(これ以上下がらない、いわゆる完全なまし状態)と、初期(焼鈍前)の引張強さの、中間の引張強さになる温度とした。即ち、完全なまし状態の引張強さをFaとすると、(F−Fa)/2となり、図12にあるCu、Cu− 0.3Snの軟化温度は、Cuの場合、引張強さが(F1 +F1 ′)/2となる温度を指し( 120℃)、Cu− 0.3Snの場合、引張強さが(F2 +F2 ′)/2となる温度を指す( 280℃)。
【0011】
伸線加工1,2は、冷間伸線であればよく、公知の方法を適用すればよい。
また、撚線工程3後の熱処理は、上記した軟化温度T1 , T2 と同じ熱処理温度αとし、又は、異なる熱処理温度αで行えばよい。
軟化温度と同じとは、素線Aの軟化温度T1 又は素線Bの軟化温度T2 と同じであることを指す。この場合、素線Aの軟化温度T1 (℃)と素線Bの軟化温度T2 (℃)とし、 T1 <T2 の場合は、熱処理温度αは、α=T1 が好ましい。
軟化温度(T1 ,T2 )と異なるとは、T1 ,T2 ,αが夫々異なる数値であり、T1 <T2 の場合、T1 <α<T2 とすることが、得られる電線導体10の伸びと引張強さのバランスの点で好ましく、さらには、よりよいバランスが得られる点で、 1.2T1 <α< 0.7T2 が好ましい。
【0012】
上記熱処理(工程)7は、通電焼鈍、パイプ焼鈍、バッチ焼鈍などが適用可能であり、全ての素線A、素線Bに同じ熱量が与えられるが、軟化特性の異なる材質の組合せにより、得られる電線導体10は、引張強さ、伸び、耐屈曲性をバランスよく合わせ持つ。
【0013】
図3に示したような同心撚りにあっては、中心線に相当する素線Aを純銅( 99.99wt%以上Cu)とし、外層線に相当する素線BをCu− 0.3wt%Sn(本発明では、Cu− 0.3Snと表示することもある)の銅合金、として、撚り合わせた構造であり、そのような構造では、純銅の軟化温度は、 120℃、Cu− 0.3wt%Snの軟化温度は、 280℃である。
この場合、熱処理温度αは、 120℃〜 280℃であり、好ましくは、 1.2× 120℃〜 0.7× 280℃(= 144℃〜 196℃)となる。
【0014】
以下の表1は、従来例は、Cu− 0.3wt%Sn(φ8mm(母線)からφ0.16mmの素線径に伸線加工(加工度: 99.96%)したもので、熱処理は実施しないもの)である。図3と同じ横断面形状の撚線の抗張力比、耐屈曲性、伸び特性を「1」とした場合の本発明の実施例の各特性を「比」をもって表記している。
なお、実施例は、図3の横断面形状であり、中心線(素線A)に鈍銅( 99.99wt%以上Cu、φ8mm(母線))を伸縮加工で、φ0.16mm(加工度: 99.98%にしたもの)を、外層線(素線B)に銅合金(Cu− 0.3wt%Sn、φ8mm(母線)を伸縮加工で、φ0.16mm(加工度: 99.96%)にしたもの)を使用して、上述の図1に示した通りの製造方法および熱処理条件で電線導体10を作製し、従来例の各特性との比を表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
上記表から、本発明実施例のものは、抗張力比こそ僅かに小さくなるが、耐屈曲性は50%もアップし、さらに、伸び特性は2倍乃至5倍にも改善されていることが判る。言い換えると、本発明の撚り線10は、「伸びは小さいが、強度は高い」と「強度は低いが、伸びは大きい」という両特性を併せ持つ。さらに、上記実施例の電線をハーネス化して自動車用に使用するテストを行った結果、取扱性が優れていることも判明した。
【0017】
次に、図4の拡大断面図に示す他の実施の形態では、図3にて述べた素線Aと素線Bを内外入れ換えたものであり、中心線に素線Bを、外層線に素線Aを、配設して撚り合わせる。製造方法は、図1に示した通りである。
次に、図5に示す別の実施の形態では、外層線に、第1素線Aと第2素線Bを交互に配置し、中心線としては、焼鈍温度(軟化温度)の異なる第3の材料Mから成る素線Zを用いた場合を例示する。なお、中心線の素線Zとして、外層線素線A,Bの内の一方を、適用することも、好ましい場合がある。製造方法は図1と同じである。
【0018】
次に、図6は、さらに他の実施の形態であって、外層線としては、上述の材質の素線A,B、及び、これとは異なる軟化温度の素線Cを配置し、中心線としては、第3の材料Mから成る素線Zを用いた場合を例示する。なお、中心線の素線Zとしては、三つの材質の素線A,B,Cの内の一つを、使用することも好ましい。なお、製造方法は、図1にて説明した通りである。
そして、図2は、さらに別の実施の形態を示したフローチャート図であって、軟化温度が相違する材質の素線A,Bの各々を伸線加工して、硬線化し、次に、(熱処理せずに)この素線A,Bを相互に撚り合わせ加工3を施して、撚り線中間体5を製造し、その後、熱処理せずに塑性加工12を施す。
【0019】
次に、上記第1素線A(軟化温度:T1 )と上記素線B(軟化温度:T2 )(T1 <T2 )の軟化温度の間の温度域(T1 ≦α≦T2 )にて、熱処理(熱処理温度α)を行って、電線導体10を製造する方法である。
具体的には、図2と図3と図7に示すように、撚り合わせ加工3によって(図3に示す)撚り線中間体5を製造して後に、丸孔ダイスを通して、塑性加工12を施し、(図3から)図7に示すように、外径を縮小するように塑性変形させて、いわば第2の撚り線中間体6を製造し、次に、上記第1素線A(軟化温度:T1 )と上記素線B(軟化温度:T2 )(T1 <T2 )の軟化温度の間の温度域(T1 ≦α≦T2 )にて熱処理(熱処理温度α)を行って、電線導体10を製造する。
【0020】
また、既述した図3〜図6の横断面形状の撚り線中間体5を作製後、縮径の塑性加工12すれば、各々図7〜図10に示すような撚り線中間体6が得られるので、その後、熱処理7すれば、図3〜図6とは異なる横断面形状の電線導体10が得られる。
また、縮径塑性加工12は、縮径加工後の直径と、縮径加工前の直径との比が、0.85〜0.98になるようにすればよい。その後、図7〜図10の各々の電線導体の外周に絶縁層を被覆することで絶縁電線を、得ることができる(図示省略)。
絶縁層は公知の方法、装置を用いて電線導体の外周に被覆すればよく、縮径加工した電線導体10の方が、そうでない電線導体に比べて表面に凸凹がないので、絶縁層を薄く均一に被覆することができ、細径化に適している。
【0021】
本発明は、要するに、異なる材質の素線A、Bの軟化特性(軟化温度)を把握し、その素線A,Bを撚り合わせて(撚線工程3)撚り線中間体5を製造し(あるいは、さらに縮径塑性加工12を加えて)、その後、適切な熱処理を行うことで、抗張力、耐屈曲性、伸び等が、バランスよく具備する電線導体10を製造する方法である。
特に、細径電線であって、自動車用として要望される軽量化(細径化)、省スペース化など十分に満足させ得る電線導体(あるいは、その電線導体を使った絶縁電線)を確実に、かつ、図11で述べた「わらい37」を発生せずに、製造可能となる。
【0022】
なお、本発明は上述の実施の形態以外にも設計変更自由であって、撚り線10の各素線の配置や本数の増減は自由であって、例えば、12本の外層線を二重に撚り合わせる配置とすることも可能である。また、集合撚り等の他の撚り方法を用いることも可能である。さらに、軟化特性が異なる二種以上の素線の組合せならば、特に限定されない。また、自動車用電線以外の大径の電線にも応用可能である。
【0023】
特に、自動車の絶縁電線に特化する場合は、軽量化(細径化)を最優先に考えるので、伸線加工の加工度は、 99.9%以上(詳細には、99.9375%〜 99.9775%)であり、具体的には、φ8mmの母線から、φ 0.2mmの素線、φ0.16mmの素線、φ0.12mmの素線などに伸線加工(冷間伸線)した素線を適用することが好ましい。
【0024】
本発明は、上述のように、軟化温度が相違する材質の素線A,Bの各々を伸線加工1,2し、次に、上記素線A,Bを相互に撚り合わせる撚り合わせ加工3を施して(撚線工程)撚り線中間体5を製造し、その後、相違する上記軟化温度と同じ熱処理温度α、又は、それ等の間の熱処理温度α(異なる熱処理温度)にて、上記撚り線中間体5の熱処理7を行って、異特性組合せ撚り線としての電線導体10を製造する方法であるので、従来の図11に示した「わらい37」を確実に防止できて、高品質の導体を容易に製造でき、耐屈曲性と耐衝撃性の両特性(伸びと強度の両特性)に優れた電線が能率良く製造可能である。
【0025】
また、軟化温度が相違する材質の素線A,Bの各々を伸線加工1,2し、次に、上記素線A,Bを相互に撚り合わせる撚り合わせ加工3を施して(撚線工程)撚り線中間体5を製造し、その後、熱処理せずに縮径塑性加工12を施して後に、相違する上記軟化温度と同じ熱処理温度αにて、又は、それ等の間の熱処理温度α(異なる熱処理温度)にて、熱処理を行って、異特性組合せ撚り線としての電線導体10を製造する方法であるので、従来の図11に示した「わらい37」を確実に防止できて、高品質の導体を容易に製造でき、耐屈曲性と耐衝撃性の両特性(伸びと強度の両特性)に優れた電線が能率良く製造可能である。
【符号の説明】
【0026】
1,2 伸線加工
3 撚り合わせ加工(工程)(撚線工程)
5 撚り線中間体
7 熱処理工程
10 電線導体
12 塑性加工(工程)
37 わらい
A,B 素線
α 熱処理温度
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車搭載用として、あるいは、電子機器、医療機器、産業用ロボットの配線等に好適な絶縁電線、電線導体、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途に適用される電線に於て、排ガス低減や燃費向上を目的とした自動車の軽量化が強く要望されており、これに伴って、自動車に搭載される部品の軽量化が要求されている。その中でワイヤーハーネスも例外ではなく、軽量化を目的とした電線の細径化が進んできている。
従来、自動車用電線の導体には主に軟銅(同心撚り)が用いられているが、細径化するに伴い強度不足による配策時の断線などが懸念される。そこで、同心撚りした導体の強度向上のために、銅合金を硬質材として使用して対策を行っているのが実状である(例えば、特許文献1参照)。ただし、硬質材を採用することで強度は向上するものの、伸びが不足するため、自動車用途として重要視される性能である「耐屈曲性」や「耐衝撃性」に劣るという問題が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−89621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、図11に示すように、素線として、硬質材31と軟質材33を混在させて撚り合わせる電線導体35も公知ではあるが、素線の内で硬質材31が突出状にはみ出す、いわゆる「わらい37」を、生ずる。
このようなわらい37の発生を防ぐために、撚り合わせ工程に於て、各素線に対応したテンションコントロール(張力付加制御)が必要となる等の問題があった。
また、圧縮塑性加工を行う際に、軟質材が優先的に塑性加工を受けて、横断面が円形とならなかったり、素線が撚れてしまう等の問題もある。
【0005】
そこで、本発明は、図11に示すような「わらい37」の発生を防止して、耐屈曲性及び強度に優れ、(伸び及び強度の両特性を備えて、)細径化に貢献できる絶縁電線、電線導体、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る電線導体の製造方法は、軟化温度が相違する素線の各々を伸線加工する工程と、上記素線を撚り合わせ、撚り線中間体を作製する撚線工程と、上記軟化温度と同じ又は異なる熱処理温度で、上記撚り線中間体を熱処理する熱処理工程を、順に備えている。
また、上記撚線工程と上記熱処理工程の間に、前記撚り線中間体を縮径加工する塑性加工工程を有する。
また、本発明に係る電線導体は、上記伸線加工工程と撚線工程と熱処理工程とを、順に備えた製造方法にて作製される。また、本発明に係る絶縁電線は、このような電線導体の外周に絶縁層を被覆したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、撚り合わせ加工に於て、伸線加工によって加工硬化して、硬質材となった素線相互を撚り合わせることとなり、(従来の図11に示した)「わらい37」を防止できる。撚り合わせ工程のために供給される素線は相違するテンションを付加するような(面倒な)テンションコントロールが不要である。
また、熱処理せずに、撚り線中間体に圧縮塑性加工を施せば、一部の素線のみが優先的に圧縮加工を受ける問題を解決して、円形の撚り線が容易に得られる。
その後の中間焼鈍温度での焼鈍加工によって、細径の自動車用電線用等に好適な、伸びが大きく耐屈曲性に優れると共に破断強度も大きい両特性を具備した撚り線が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態を示すフローチャート図である。
【図2】他の実施の形態を示すフローチャート図である。
【図3】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図4】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図5】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図6】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図7】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図8】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図9】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図10】中間製品又は導体最終製品を説明するための拡大横断面図である。
【図11】従来の問題点を説明するための拡大斜視図である。
【図12】軟化温度を説明するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1のフローチャート図と図3の拡大断面図に於て、軟化温度が相違する金属材料からなる素線Aと素線Bは、荒引線の状態から各々伸線加工(冷間伸線加工)1,2し、その加工硬化によって得られる。次に、上記素線A,Bを撚り合わせる撚線工程3を経て、例えば、図3に示す横断面のような同心撚りの撚り線中間体5を作製する。その後、軟化温度と同じ、又は、異なる熱処理温度で、撚り線中間体5を熱処理する熱処理工程7を経て、電線導体10を製造する。なお、図3に於て、中間体5と電線導体10とは同一の断面形状であることを示す。
【0010】
ここで、軟化温度とは、飽和する引張強さ(これ以上下がらない、いわゆる完全なまし状態)と、初期(焼鈍前)の引張強さの、中間の引張強さになる温度とした。即ち、完全なまし状態の引張強さをFaとすると、(F−Fa)/2となり、図12にあるCu、Cu− 0.3Snの軟化温度は、Cuの場合、引張強さが(F1 +F1 ′)/2となる温度を指し( 120℃)、Cu− 0.3Snの場合、引張強さが(F2 +F2 ′)/2となる温度を指す( 280℃)。
【0011】
伸線加工1,2は、冷間伸線であればよく、公知の方法を適用すればよい。
また、撚線工程3後の熱処理は、上記した軟化温度T1 , T2 と同じ熱処理温度αとし、又は、異なる熱処理温度αで行えばよい。
軟化温度と同じとは、素線Aの軟化温度T1 又は素線Bの軟化温度T2 と同じであることを指す。この場合、素線Aの軟化温度T1 (℃)と素線Bの軟化温度T2 (℃)とし、 T1 <T2 の場合は、熱処理温度αは、α=T1 が好ましい。
軟化温度(T1 ,T2 )と異なるとは、T1 ,T2 ,αが夫々異なる数値であり、T1 <T2 の場合、T1 <α<T2 とすることが、得られる電線導体10の伸びと引張強さのバランスの点で好ましく、さらには、よりよいバランスが得られる点で、 1.2T1 <α< 0.7T2 が好ましい。
【0012】
上記熱処理(工程)7は、通電焼鈍、パイプ焼鈍、バッチ焼鈍などが適用可能であり、全ての素線A、素線Bに同じ熱量が与えられるが、軟化特性の異なる材質の組合せにより、得られる電線導体10は、引張強さ、伸び、耐屈曲性をバランスよく合わせ持つ。
【0013】
図3に示したような同心撚りにあっては、中心線に相当する素線Aを純銅( 99.99wt%以上Cu)とし、外層線に相当する素線BをCu− 0.3wt%Sn(本発明では、Cu− 0.3Snと表示することもある)の銅合金、として、撚り合わせた構造であり、そのような構造では、純銅の軟化温度は、 120℃、Cu− 0.3wt%Snの軟化温度は、 280℃である。
この場合、熱処理温度αは、 120℃〜 280℃であり、好ましくは、 1.2× 120℃〜 0.7× 280℃(= 144℃〜 196℃)となる。
【0014】
以下の表1は、従来例は、Cu− 0.3wt%Sn(φ8mm(母線)からφ0.16mmの素線径に伸線加工(加工度: 99.96%)したもので、熱処理は実施しないもの)である。図3と同じ横断面形状の撚線の抗張力比、耐屈曲性、伸び特性を「1」とした場合の本発明の実施例の各特性を「比」をもって表記している。
なお、実施例は、図3の横断面形状であり、中心線(素線A)に鈍銅( 99.99wt%以上Cu、φ8mm(母線))を伸縮加工で、φ0.16mm(加工度: 99.98%にしたもの)を、外層線(素線B)に銅合金(Cu− 0.3wt%Sn、φ8mm(母線)を伸縮加工で、φ0.16mm(加工度: 99.96%)にしたもの)を使用して、上述の図1に示した通りの製造方法および熱処理条件で電線導体10を作製し、従来例の各特性との比を表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
上記表から、本発明実施例のものは、抗張力比こそ僅かに小さくなるが、耐屈曲性は50%もアップし、さらに、伸び特性は2倍乃至5倍にも改善されていることが判る。言い換えると、本発明の撚り線10は、「伸びは小さいが、強度は高い」と「強度は低いが、伸びは大きい」という両特性を併せ持つ。さらに、上記実施例の電線をハーネス化して自動車用に使用するテストを行った結果、取扱性が優れていることも判明した。
【0017】
次に、図4の拡大断面図に示す他の実施の形態では、図3にて述べた素線Aと素線Bを内外入れ換えたものであり、中心線に素線Bを、外層線に素線Aを、配設して撚り合わせる。製造方法は、図1に示した通りである。
次に、図5に示す別の実施の形態では、外層線に、第1素線Aと第2素線Bを交互に配置し、中心線としては、焼鈍温度(軟化温度)の異なる第3の材料Mから成る素線Zを用いた場合を例示する。なお、中心線の素線Zとして、外層線素線A,Bの内の一方を、適用することも、好ましい場合がある。製造方法は図1と同じである。
【0018】
次に、図6は、さらに他の実施の形態であって、外層線としては、上述の材質の素線A,B、及び、これとは異なる軟化温度の素線Cを配置し、中心線としては、第3の材料Mから成る素線Zを用いた場合を例示する。なお、中心線の素線Zとしては、三つの材質の素線A,B,Cの内の一つを、使用することも好ましい。なお、製造方法は、図1にて説明した通りである。
そして、図2は、さらに別の実施の形態を示したフローチャート図であって、軟化温度が相違する材質の素線A,Bの各々を伸線加工して、硬線化し、次に、(熱処理せずに)この素線A,Bを相互に撚り合わせ加工3を施して、撚り線中間体5を製造し、その後、熱処理せずに塑性加工12を施す。
【0019】
次に、上記第1素線A(軟化温度:T1 )と上記素線B(軟化温度:T2 )(T1 <T2 )の軟化温度の間の温度域(T1 ≦α≦T2 )にて、熱処理(熱処理温度α)を行って、電線導体10を製造する方法である。
具体的には、図2と図3と図7に示すように、撚り合わせ加工3によって(図3に示す)撚り線中間体5を製造して後に、丸孔ダイスを通して、塑性加工12を施し、(図3から)図7に示すように、外径を縮小するように塑性変形させて、いわば第2の撚り線中間体6を製造し、次に、上記第1素線A(軟化温度:T1 )と上記素線B(軟化温度:T2 )(T1 <T2 )の軟化温度の間の温度域(T1 ≦α≦T2 )にて熱処理(熱処理温度α)を行って、電線導体10を製造する。
【0020】
また、既述した図3〜図6の横断面形状の撚り線中間体5を作製後、縮径の塑性加工12すれば、各々図7〜図10に示すような撚り線中間体6が得られるので、その後、熱処理7すれば、図3〜図6とは異なる横断面形状の電線導体10が得られる。
また、縮径塑性加工12は、縮径加工後の直径と、縮径加工前の直径との比が、0.85〜0.98になるようにすればよい。その後、図7〜図10の各々の電線導体の外周に絶縁層を被覆することで絶縁電線を、得ることができる(図示省略)。
絶縁層は公知の方法、装置を用いて電線導体の外周に被覆すればよく、縮径加工した電線導体10の方が、そうでない電線導体に比べて表面に凸凹がないので、絶縁層を薄く均一に被覆することができ、細径化に適している。
【0021】
本発明は、要するに、異なる材質の素線A、Bの軟化特性(軟化温度)を把握し、その素線A,Bを撚り合わせて(撚線工程3)撚り線中間体5を製造し(あるいは、さらに縮径塑性加工12を加えて)、その後、適切な熱処理を行うことで、抗張力、耐屈曲性、伸び等が、バランスよく具備する電線導体10を製造する方法である。
特に、細径電線であって、自動車用として要望される軽量化(細径化)、省スペース化など十分に満足させ得る電線導体(あるいは、その電線導体を使った絶縁電線)を確実に、かつ、図11で述べた「わらい37」を発生せずに、製造可能となる。
【0022】
なお、本発明は上述の実施の形態以外にも設計変更自由であって、撚り線10の各素線の配置や本数の増減は自由であって、例えば、12本の外層線を二重に撚り合わせる配置とすることも可能である。また、集合撚り等の他の撚り方法を用いることも可能である。さらに、軟化特性が異なる二種以上の素線の組合せならば、特に限定されない。また、自動車用電線以外の大径の電線にも応用可能である。
【0023】
特に、自動車の絶縁電線に特化する場合は、軽量化(細径化)を最優先に考えるので、伸線加工の加工度は、 99.9%以上(詳細には、99.9375%〜 99.9775%)であり、具体的には、φ8mmの母線から、φ 0.2mmの素線、φ0.16mmの素線、φ0.12mmの素線などに伸線加工(冷間伸線)した素線を適用することが好ましい。
【0024】
本発明は、上述のように、軟化温度が相違する材質の素線A,Bの各々を伸線加工1,2し、次に、上記素線A,Bを相互に撚り合わせる撚り合わせ加工3を施して(撚線工程)撚り線中間体5を製造し、その後、相違する上記軟化温度と同じ熱処理温度α、又は、それ等の間の熱処理温度α(異なる熱処理温度)にて、上記撚り線中間体5の熱処理7を行って、異特性組合せ撚り線としての電線導体10を製造する方法であるので、従来の図11に示した「わらい37」を確実に防止できて、高品質の導体を容易に製造でき、耐屈曲性と耐衝撃性の両特性(伸びと強度の両特性)に優れた電線が能率良く製造可能である。
【0025】
また、軟化温度が相違する材質の素線A,Bの各々を伸線加工1,2し、次に、上記素線A,Bを相互に撚り合わせる撚り合わせ加工3を施して(撚線工程)撚り線中間体5を製造し、その後、熱処理せずに縮径塑性加工12を施して後に、相違する上記軟化温度と同じ熱処理温度αにて、又は、それ等の間の熱処理温度α(異なる熱処理温度)にて、熱処理を行って、異特性組合せ撚り線としての電線導体10を製造する方法であるので、従来の図11に示した「わらい37」を確実に防止できて、高品質の導体を容易に製造でき、耐屈曲性と耐衝撃性の両特性(伸びと強度の両特性)に優れた電線が能率良く製造可能である。
【符号の説明】
【0026】
1,2 伸線加工
3 撚り合わせ加工(工程)(撚線工程)
5 撚り線中間体
7 熱処理工程
10 電線導体
12 塑性加工(工程)
37 わらい
A,B 素線
α 熱処理温度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化温度が相違する素線(A)(B)の各々を伸線加工(1)(2)する工程と、上記素線(A)(B)を撚り合わせ、撚り線中間体(5)を作製する撚線工程(3)と、上記軟化温度と同じ又は異なる熱処理温度(α)で、上記撚り線中間体(5)を熱処理する熱処理工程(7)を、順に備えていることを特徴とする電線導体の製造方法。
【請求項2】
上記撚線工程(3)と上記熱処理工程(7)の間に、前記撚り線中間体(5)を縮径加工する塑性加工工程(12)を有することを特徴とする請求項1記載の電線導体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2で製造された電線導体。
【請求項4】
請求項3の電線導体の外周に絶縁層を被覆した絶縁電線。
【請求項1】
軟化温度が相違する素線(A)(B)の各々を伸線加工(1)(2)する工程と、上記素線(A)(B)を撚り合わせ、撚り線中間体(5)を作製する撚線工程(3)と、上記軟化温度と同じ又は異なる熱処理温度(α)で、上記撚り線中間体(5)を熱処理する熱処理工程(7)を、順に備えていることを特徴とする電線導体の製造方法。
【請求項2】
上記撚線工程(3)と上記熱処理工程(7)の間に、前記撚り線中間体(5)を縮径加工する塑性加工工程(12)を有することを特徴とする請求項1記載の電線導体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2で製造された電線導体。
【請求項4】
請求項3の電線導体の外周に絶縁層を被覆した絶縁電線。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−238478(P2010−238478A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84218(P2009−84218)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】
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