説明

電線止水処理方法、電線止水処理装置、およびワイヤハーネス

【課題】線間の隙間を確実に封じ、高い止水性能を発揮することができて、ワイヤハーネス等の電線束に効率良く止水処理を施すことができる電線止水処理方法、その方法を実施するために使用される電線止水処理装置、および、該電線止水処理装置により止水処理された電線束を備えたワイヤハーネスを提供すること。
【解決手段】ばらけた状態の複数の電線Wそれぞれの外周に、粉粒状の止水材Sを付着させ、複数の電線Wを収束した状態で、当該複数の電線Wの粉粒状の止水材Sが付着した部分を加熱して当該止水材Sを溶融させ、複数の電線Wの間に溶融した止水材Sを介在して、一体化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線止水処理方法、その方法を実施するために使用される電線止水処理装置、および、当該電線止水処理装置により止水処理されたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンルームと車室内を仕切るパネルにワイヤハーネスを貫通して配索するような場合、パネルに対するワイヤハーネスの貫通部分にはグロメットが装着される。このグロメットは、パネルの取付孔に嵌め込むことにより、パネルとワイヤハーネスの隙間を封じるものであり、グロメットのワイヤハーネス貫通部には、通常、止水処理が施されている。
【0003】
特許文献1には、この止水処理方法の一例が記載されている。図4(a)〜(e)は、従来のワイヤハーネスの止水処理方法を示す工程説明図である。図5は、ワイヤハーネスをグロメットに装着した状態を示す断面図である。特許文献1の止水処理方法では、まず図4(a)に示すように、ワイヤハーネスとなる電線Wを束ねた電線束WHを、車両上での配索状態に癖付け成形するための止水部形成治具500に支持させる。止水部形成治具500は、電線束WHを支持するために、該止水部形成治具500上に立設された複数の支持部501を備えている。次に、特許文献1の止水処理方法では、支持部501に電線束WHが支持されている状態で、該電線束WHの表面に、図4(b)に示すように、止水材塗布ノズル505によって、未固化状態の止水材Sを塗布する。その後、特許文献1の止水処理方法では、図4(c)に示すように、電線束WHの止水材Sを塗布した部分を止水シート510でくるむ。
【0004】
次いで、特許文献1の止水処理方法では、電線束WHを支持部501から外した状態にし、止水シート510を巻き締めて、電線束WHを円形断面の電線束の形に結束する。さらに、特許文献1の止水処理方法では、図4(d)、(e)に示すように、止水シート510の両端にテープ512を巻き付けて、電線束WHの断面形状を、図5に示すグロメット600のワイヤハーネス貫通部602に挿通可能な断面形状に整形し、グロメット600に挿通させる。これにて、止水構造が完成する。なお、601はグロメットのパネル嵌合部である。
【0005】
また、他の止水処理方法として、グロメットに電線束を通した状態で止水材を注入する方法もある。即ち、その方法では、電線束をグロメットのワイヤハーネス貫通部に予め挿通させ、その状態で、ワイヤハーネス貫通部の内部に止水材を充填することにより、グロメットとワイヤハーネスの隙間やワイヤハーネスを構成する電線間の隙間を止水する。
【特許文献1】特開2005−71790号公報(図4、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図4(a)〜(e)に示した従来の方法では、外部から止水材Sを塗布したあと、その部分を止水シート510で巻き締めるだけであるから、止水材Sが電線W間に存在する微細な隙間に十分に行き渡らず、そのために止水処理が不十分になる可能性がある。また、グロメットに電線束を挿通させた後に止水材を充填する方法の場合も、同様な可能性がある。そのため、従来のワイヤハーネス製造方法では、止水処理が十分でない可能性のあるワイヤハーネスが製造され得ることから、ワイヤハーネスの止水状態を確認するテストをしなければならず、ワイヤハーネスの製造効率が下がってしまう問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電線間の隙間を確実に封じ、高い止水性能を発揮することができて、ワイヤハーネス等の電線束に効率良く止水処理を施すことができる電線止水処理方法、その方法を実施するために使用される電線止水処理装置、および、該電線止水処理装置により止水処理された電線束を備えたワイヤハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る電線止水処理方法は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) ばらけた状態の複数の電線それぞれの外周に、粉粒状の止水材を付着させる止水材付着工程と、
該止水材付着工程後、前記複数の電線を収束した状態で、当該複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分を加熱して当該止水材を溶融させ、これにより前記部分それぞれが、それらの間に、溶融した前記止水材を介在して、一体化させる収束加熱工程と、
を有すること。
(2) 上記(1)の構成の止水処理方法において、
前記止水材付着工程では、前記粉粒状の止水材を空中に霧状に舞わせた環境に、前記複数の電線をばらけた状態で晒すことにより、前記複数の電線の外周それぞれに前記粉粒状の止水材を付着させること。
(3) 上記(1)または(2)の構成の止水処理方法において、
前記止水材付着工程を実行する際に、前記粉粒状の止水材、および前記複数の電線それぞれの外周面の少なくとも一方に静電気を帯電させること。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の止水処理方法において、
前記粉粒状の止水材を前記複数の電線の外周に付着させる前に、前記複数の電線それぞれの外周に、前記粉粒状の止水材の付着を促すための液体を付着させておくこと。
【0009】
上記(1)の構成の止水処理方法によれば、粉粒状の止水材を、ばらけた状態の各電線の外周に付着させた後に、複数の電線を収束させつつ、粉粒状の止水材が付着した部分を加熱して粉粒状を溶融させることで一体化させるのため、電線間の隙間に確実に止水材を介在させることができる。従って、電線間の隙間を確実に封じることができ、高い止水性能を発揮することができる。そのため、事後の止水テストを省略することも可能となり、ワイヤハーネスなどに備えられる電線束に効率良く止水処理を行なうことができる。
上記(2)の構成の止水処理方法によれば、粉粒状の止水材を空中に霧状に舞わせた環境に、電線をばらけた状態で晒すことによって、各電線の外周に止水材を付着させるので、効率よく、またムラ無く止水材を電線の外周に付着させることができ、次の収束工程を経ることにより、電線間の隙間に、より確実に止水材を行き渡らせることができる。
上記(3)の構成の止水処理方法によれば、止水材付着工程を実行する際に、粉粒状の止水材及び複数の電線それぞれの外周面の少なくとも一方に静電気を帯電させることで、静電気によって粉粒状の止水材を各電線により一層付着させやすくなり、また、止水材を各電線の外周面にムラなく付着させることができるため、止水処理の効率がより向上する。
上記(4)の構成の止水処理方法によれば、粉粒状の止水材を複数の電線の外周に付着させる前に、各電線の外周に、粉粒状の止水材の付着を促すための液体を付着させておくので、止水材Sが各電線Wの外周面に付着しやすく、かつ、一旦電線Wに付着した止水材Sが取れにくくなるため、止水材Sを電線Wの外周により確実にムラ無く付着させることができる。
【0010】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係る電線止水処理装置は、下記(5)〜(7)を特徴としている。
(5) 粉粒状の止水材を空中に霧状に舞わせた環境に前記複数の電線を晒し、該複数の電線それぞれの外周に前記粉粒状の止水材を付着させる止水材付着装置と、
前記複数の電線を収束し、且つその状態で、当該複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分を加熱して当該止水材を溶融させる収束加熱装置と、
を備え、
前記収束加熱装置により、前記複数の電線の前記部分それぞれが、それらの間に、溶融した前記止水材を介在して、一体化させること。
(6) 上記(5)の構成の電線止水処理装置において、
前記止水材付着装置が、一部に前記複数の電線をばらけた状態で投入し得る投入口を有する箱体と、該箱体の内部において前記粉粒状の止水材を霧状に舞わせる粉粒体舞わせ装置と、を備えること。
(7) 上記(5)または(6)の構成の止水処理装置において、
前記収束加熱装置が、前記複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分の両側にある前記複数の電線の把持部分を把持して、当該把持部分を互いに離間する方向に移動し、これにより前記複数の電線をその長手方向に沿って直線状に引っ張って一つの電線束にする可動クランプ機構と、前記複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分を加熱する加熱装置と、を備えること。
【0011】
上記(5)の構成の止水処理装置では、止水材付着装置によって、電線束を構成する各電線の外周に、空中に舞わせた状態で粉粒状の止水材を付着させることができ、収束加熱装置によって複数の電線を収束し、且つその状態で、当該複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分を加熱して当該止水材を溶融させることで、複数の電線を一体化させる。こうして、複数の電線間の隙間に止水材が介在された状態の電線束を得ることができ、電線束を構成する複数の電線それぞれの外周面に粉粒状の止水材をムラ無く付着させることができる。こうすれば、複数の電線間の隙間に確実に止水材を行き渡らせることができ、該隙間を確実に封じることができ、高い止水性能を発揮することができる。また、止水処理後の止水テストを省略することが可能となり、ワイヤハーネスなどに備えられる電線束の止水処理を効率良く行なうことができる。
上記(6)の構成の電線止水処理装置によれば、止水材付着装置が、一部に複数の電線をばらけた状態で投入し得る投入口を有する箱体と、該箱体の内部において粉粒状の止水材を霧状に舞わせる粉粒体舞わせ装置とを備えているので、作業者に大きな負担を与えないで、効率よく、電線束を構成する各電線の外周に粉粒状の止水材を付着させることができる。
上記(7)の構成の止水処理装置によれば、収束加熱装置が、複数の電線における粉粒状の止水材が付着した部分の両側にある把持部分を把持して引張する可動クランプ機構と、粉粒状の止水材が付着した部分を加熱する加熱装置とを備え、可動クランプ機構によって複数の電線を引っ張りつつ、加熱装置によって加熱することで、止水材を加熱溶融させながら電線束を1本に収束させることができるため、複数の電線に効率良く止水処理を行なうことができる。
【0012】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係るワイヤハーネスは、下記(8)を特徴としている。
(8) 上記(5)〜(7)のいずれかの電線止水処理装置により溶融した後に硬化した前記止水材が前記複数の電線間に介在された電線束を備えたこと。
【0013】
上記(8)の構成のワイヤハーネスによれば、その止水処理部分において電線間の隙間が確実に封じられており、高い止水性能を発揮することができる。そのため、事後の止水テストを省略することも可能となり、製造効率の向上が図られたワイヤハーネスを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、止水処理部分での電線間の隙間を確実に封じることができ、高い止水性能を発揮することができる。従って、止水処理後の止水テストを省略することも可能となり、止水処理された電線束を備えるワイヤハーネスの製造効率の向上を図ることができる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1(a)および(b)は、本発明にかかる電線止水処理方法および電線止水処理装置の第1実施形態の説明図であって、図1(a)、(b)はその工程を説明するための概略斜視図である。
【0018】
本実施形態の電線止水処理装置は、図1(a)に示す止水材付着装置1と、図1(b)に示す収束加熱装置2とを備えている。
【0019】
図1(a)に示す止水材付着装置1は、その内部に空間が画成された箱体10を備え、箱体10の上面には、電線束WHを構成する複数の電線Wをばらけた状態で挿入させるための投入口11が形成されている。また、止水材付着装置1は、箱体10内部の空間に、粉粒状の止水材Sを空中に霧状に舞わせる粉粒体舞わせ装置15を備えている。粉粒体舞わせ装置15としては、例えば、ファンを用いることができる。
【0020】
箱体10には、外部から箱体10内に粉粒状の止水材Sを供給する止水材供給口12が形成され、止水材Sを適宜供給しながら、粉粒体舞わせ装置15を作動させることにより、箱体10の内部に粉粒状の止水材Sが浮遊滞在せしめる環境を作り出し、それにより、その環境に晒された、ばらけた状態の複数の電線Wそれぞれの外周面に止水材Sを付着させることができるようになっている。
【0021】
また、図1(b)に示す収束加熱装置2は、止水材付着装置1によって処理された、ばらけた状態の電線束WHを1本に収束させると共に、複数の電線の粉粒状の止水材が付着した部分を加熱して当該止水材を溶融させることにより、止水材が付着した部分それぞれが、各電線同士の間に溶融した止水材を介在させた状態で、一体化させる。本実施形態では、電線束WHにおける止水材Sが付着した部分の両側にある複数の電線の把持部分を把持して、その把持部分を互いに離間する方向(矢印F1方向)に移動させることにより、電線束WHをその長手方向に沿って直線状に引っ張って一つの電線束WHにする可動クランプ機構21と、粉粒状の止水材Sが付着した部分を加熱することで、各電線Wの外周に付着した粉粒状の止水材Sを加熱する加熱装置20と、を備えている。
【0022】
次に、上記構成の電線止水処理装置を用いて行なうワイヤハーネスの電線束に止水処理を行なう手順について説明する。
一般に、ワイヤハーネスを組み立てる場合、例えば、作業員が所定の組立作業台上に、設計図等を参照しながら、複数本の電線を取り付けていき、これらを所定形状に配索していく。更に作業員は、例えば、電線の所定箇所にプロテクタや樹脂チューブあるいはクリップ等の部品を組み付けたり、テープを巻き付けたりして、所定形状のワイヤハーネスを形成していく。
【0023】
このワイヤハーネスの電線束に対してさらに止水処理を施す止水処理方法の手順を以下に説明する。
まず、電線束WHを構成する複数の電線Wを適度にばらけた状態にし、図1(a)に示すように、電線束WHの止水処理予定部Tを、投入口11から箱体10内に挿入する。そして挿入した状態で、粉粒体舞わせ装置15として設けられたファンを作動させることにより、箱体10の内部に粉粒状の止水材Sが霧状に浮遊滞在する環境を作り出し、それにより、その環境に晒された各電線Wの外周に止水材Sを付着させる(止水材付着工程)。この際、先に箱体10内部に粉粒状の止水材Sが舞った環境を作り出しておき、その状態で、箱体10内に電線束WHの止水処理予定部Tを挿入しても、同様に、各電線Wの外周に止水材Sを付着させることができる。
【0024】
このように、適度にばらけた状態の複数の電線Wを、粉粒状の止水材Sが舞う環境に晒すことで、各電線Wの外周面にムラ無く粉粒状の止水材Sを付着させることができるため効率が良い。
【0025】
なお、この止水材付着工程を実行する際に、粉粒状の止水材S及び複数の電線それぞれの外周面の少なくとも一方に静電気を帯電させておくことにより、静電気によって粉粒状の止水材が静電気によって各電線の外周面に誘導させる作用が生じて、止水材を各電線により一層付着させやすくなり、ムラ無く止水材Sを電線Wの外周に付着させることができるため止水処理の効率がより向上する。
【0026】
また、粉粒状の止水材Sを複数の電線Wそれぞれの外周に付着させる前に、各電線Wの外周に、粉粒状の止水材Sの付着を促すための液体、例えば糊状の液体などを、スプレー等で付着させておくことにより、止水材Sが各電線Wの外周面に付着しやすく、かつ、一旦電線Wに付着した止水材Sが取れにくくなるため、止水材Sを電線Wの外周により確実にムラ無く付着させることができる。
【0027】
次に、上述の止水材付着工程が終わったら、電線束WHを箱体10から取り出し、図1(b)に示すように、取り出された電線束WHにおける、止水材Sが付着している部分の両側の把持部分を収束加熱装置2の可動クランプ装置21で把持し、その状態で、可動クランプ装置21を矢印F1のように互いに離間する方向に動かす。こうすることで、弛んだ複数の電線Wに引っ張り力を加えて、一つの電線束WHにする。
【0028】
その際、ばらけた状態の複数の電線Wが1本に収束する段階で、ドライヤー等の加熱装置20から温風を、止水材Sが付着した箇所に当てる。すると、複数の電線Wが収束しつつ、各電線Wの外周に付着した止水材Sが加熱によって溶融し、粉粒状の止水材Sが付着した部分それぞれが、複数の電線Wの間に溶融した止水材Sを介在させた状態のまま、一体化する(収束加熱工程)。なお、温風にて止水材Sが付着した箇所を過熱する場合には、電線Wに付着した止水材Sが温風によって吹き飛ばされないよう、上述した静電気の効果や液体などによって止水材Sの電線Wへの付着を促すことが好ましい。こうして、止水処理部SHを有するワイヤハーネスが出来上がる。この電線束WHは、図5に示したものと同様に、グロメットに挿入され、該グロメットによって電線束WHの止水処理部SHが加締められることで、グロメットと電線束間の止水構造を実現することができる。
【0029】
なお、温風を吹き当てるタイミングは、電線束WHが完全に収束した後でも、完全に収束する前でもよい。完全に収束する前に温風を吹き当てる場合は、ばらけた電線Wがまだ密に接触していない状態で温風が当たることになるので、くまなく温風を電線Wの隙間に行き渡らせることができ、止水材Sが溶融しやすくなる。従って、ある程度の隙間が残っている完全収束の前段階から温風を吹き当てつつ、完全収束させることが、止水材Sを加熱により溶融させて一体化させる上では最も好ましい。
【0030】
以上のように、本実施形態では、粉粒状の止水材Sを、ばらけた状態の各電線Wの外周に付着させた後に、複数の電線Wを収束させつつ、粉粒状の止水材Sが付着した部分を加熱して粉粒状を溶融させることで一体化させるのため、電線W間の隙間に確実に止水材Sを行き渡らせることができる。従って、電線W間の隙間を確実に封じることができ、高い止水性能を発揮することができる。そのため、事後の止水テストを省略することも可能となり、ワイヤハーネスに効率良く止水処理を行なうことができる。なお、本実施形態では、ワイヤハーネスに備えられる電線束を例に説明したが、止水処理が施されるその他の電線束に適用することができる。
【0031】
特に、本実施形態では、粉粒状の止水材Sを空中に霧状に舞わせた環境に、電線Wをばらけた状態で晒すことによって、各電線Wの外周に止水材Sを付着させるので、ムラ無く止水材Sを電線Wの外周に付着させることができ、収束加熱工程によって、溶融された止水材Sが複数の電線W間の隙間に、より確実に止水材を行き渡らせることができる。このため、止水処理を効率良く行なうことができる。
【0032】
<第2実施形態>
図2は本発明にかかる電線止水処理方法および電線止水処理装置の第2実施形態を説明する図である。図2に示すように、本実施形態では、第1実施形態とは、温風吹き出し式の加熱装置20の代わりに、以下に説明する加熱装置30を備えている点で相違する。加熱装置30は、上壁32と下壁33とを連結壁34で繋いだU字状を有する。上壁32と下壁33との間には、電線束WHを挿入可能な挿入溝31が形成される。また、上壁32と下壁33とのそれぞれの内部には電熱線ヒータ35が設けられている。挿入溝31に、ばらけた状態で、各電線の外周面に粉粒状の止水材Sが付着した部分を挿入させた状態で、電熱線ヒータ35に電気を流して発熱させると、挿入された複数の電線の止水材Sが付着した部分が加熱される。ここで、複数の電線Wに粉粒状の止水材Sを付着させる止水材付着工程として、加熱装置30による加熱前に、上記第1実施形態の止水材付着装置1を用いて予め複数の電線Wに止水材Sを付着させておくことができる。
【0033】
本実施形態においても、数の電線をその長手方向に沿って直線状に引っ張って一つの電線束にする可動クランプ機構を備えた構成とすることができる。
すなわち、止水材付着工程が済んだ複数の電線Wを箱体10から取り出して、止水材Sが付着している部分の両側の把持部分を可動クランプ装置21により把持させ、複数の電線をその長手方向に直線状に引っ張ることで、複数の電線Wを1つの電線束に収束させる。このとき、ばらけた状態の複数の電線Wが1つの電線束WHにまとまる段階で、加熱装置30の電熱線ヒータ35を作動させて、止水材Sが付着した箇所を加熱し、止水材Sを加熱により溶融させて一体化する(収束加熱工程)。
【0034】
<第3実施形態>
図3(a)〜(c)は、本発明にかかる電線止水処理方法および電線止水処理装置の第3実施形態の説明図である。
【0035】
本実施形態の電線止水処理装置は、図3(b)に示す止水材付着装置101と、図3(c)に示す収束加熱装置102とを備えている。
【0036】
図3(b)に示す止水材付着装置101は、粉粒状の止水材Sを空中に霧状に舞わせる部屋(密閉空間であっても、一部が開口した空間であってもよい。)105と、粉粒状の止水材Sを空中に舞わせる粉粒体舞わせ装置(図示略)を有している。粉粒体舞わせ装置としては、第1実施形態のようにファンを用いる以外に、止水材Sを粉粒状に吹き付ける粉体スプレー等も用いることができる。部屋105は、止水処理時に、複数の電線Wの止水処理予定部Tを処理経路Kに沿って自在に通過するように制御可能である。この処理経路Kに沿って、止水処理に必要な一連の流れ作業が行われる。
【0037】
図3(c)に示す収束装置102は、可動クランプ機構21と、加熱装置110とから構成されている。なお、この加熱装置110は、ドライヤーのように温風を吹き当てる形式でも、電熱線ヒータ等の輻射熱で加熱する形式でもよい。止水材付着装置101の部屋105と加熱装置110とは、図3中の矢印で示すように、複数の電線Wの止水処理予定部Tに対して相対的に処理経路Kに沿って移動可能であり、同処理経路Kに沿って並べて配置されている。
【0038】
また、一対の可動クランプ機構21は、図3(a)に示す電線ばらし位置から、図3(c)に示す加熱装置110を通過する位置まで、処理経路Kに沿って搬送移動可能になっていると共に、電線束WHの長手方向に沿って移動させることができる。そして、一対の可動クランプ機構21は、図3(a)に示すように止水処理予定部Tの両側で電線束WHを把持した状態で、互いに接近する方向(矢印F2方向)に移動させられることにより、止水処理予定部Tの電線Wを適度に弛ませ、複数の電線Wをばらけた状態とすることができる。
【0039】
次に、上記構成の止水処理装置を用いて行なうワイヤハーネスの電線束の止水処理方法について説明する。
【0040】
このワイヤハーネスの電線束に対してさらに止水処理を施す電線止水処理方法の手順を以下に説明する。
まず、図3(a)に示すように、一対に可動クランプ機構21により、止水処理予定部Tの両側で複数の電線Wの把持部分を把持し、その状態で、互いに接近する方向(矢印F2方向)に可動クランプ機構21を移動させることにより、止水処理予定部Tの複数の電線Wを弛ませ、各電線Wを適度にばらけさせる。
【0041】
次に複数の電線Wをばらけさせた状態で、図3(b)に示すように、電線束WHの止水処理予定部Tを止水材付着装置101の部屋105に搬送する。そして、この部屋105で、粉粒状の止水材Sが霧状に浮遊滞在する環境を作り出し、その環境に複数の電線Wを晒すことで、各電線Wの外周に止水材Sを付着させる(止水材付着工程)。
【0042】
このように、複数の電線Wを適度にばらけた状態にして、粉粒状の止水材Sが舞う環境に置くことで、各電線Wの外周にムラ無く粉粒状の止水材Sを付着させることができるため、止水処理の効率が良い。
【0043】
なお、この止水材付着工程を実行する際に、粉粒状の止水材S及び前記複数の電線それぞれの外周面の少なくとも一方に静電気を帯電させることにより、静電気によって粉粒状の止水材を各電線により一層付着させやすくなり、ムラ無く止水材Sを電線Wの外周に付着させることができる。
【0044】
また、粉粒状の止水材Sを各電線Wの外周に付着させる前に、各電線Wの外周に、粉粒状の止水材Sの付着を促すための液体、例えば糊状の液体などを、スプレー等で付着させてもよい。こうすれば、止水材Sが各電線Wの外周面に付着しやすく、かつ、一旦電線Wに付着した止水材Sが取れにくくなるため、止水材Sを電線Wの外周により確実にムラ無く付着させることができる。
【0045】
次に、上述の部屋105から電線束WHの止水材処理予定部Tを次の加熱装置110に移動する。それと共に、図3(c)に示すように、収束装置102の可動クランプ装置21を矢印F1のように互いに離間する方向に動かして、弛んだ複数の電線Wに引っ張り力を加え、1つの電線束WHにまとめる。
【0046】
ばらけた状態の複数の電線Wを1本の電線束WHにまとまる段階で、加熱装置20により熱を加えることにより、各電線Wの外周に付着した止水材Sを、加熱により溶融させて一体化する(収束加熱工程)。これにより、止水処理部SHを有するワイヤハーネスが出来上がる。この電線束WHは、図5に示したものと同様に、グロメットに挿入され、該グロメットによって電線束WHの止水処理部SHが加締められることで、グロメットと電線束間の止水構造を実現することができる。
【0047】
以上のように、本実施形態では、粉粒状の止水材Sを、ばらけた状態の各電線Wの外周に付着させた後に、複数の電線Wを収束させつつ、各電線Wの外周に付着した粉粒状の止水材Sを加熱により溶融させ一体化させるので、電線W間の隙間に確実に止水材Sを行き渡らせることができる。従って、電線W間の隙間を確実に封じることができ、高い止水性能を発揮することができる。そのため、事後の止水テストを省略することも可能となり、ワイヤハーネスの製造効率の向上を図ることができる。
【0048】
特に、本実施形態では、粉粒状の止水材Sを空中に霧状に舞わせた環境に、電線Wをばらけた状態で晒すことによって、各電線Wの外周に止水材Sを付着させるので、ムラ無く止水材Sを電線Wの外周に付着させることができ、次の収束加熱工程で付着させた止水材Sを一体化させることで、複数の電線W間の隙間により確実に止水材Sを行き渡らせることができる。
【0049】
また、処理経路Kに沿って電線束WHを移動させながら、順番に処理を加えることができるので、流れ作業で処理を実施することができ、効率よく作業を進めることができる。また、可動クランプ機構21で、複数の電線Wをばらけた状態とすることができるので、チャッキングした状態を維持しながら一連の処理を効率良く行なうことができる。
【0050】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0051】
例えば、上記実施形態では、粉粒状の止水材Sを舞わせた環境にばらけた状態の複数の電線Wを晒すことにより、各電線Wの外周に止水材Sを付着させたが、粉粒状の止水材Sを堆積させた山に、ばらけた状態の電線Wを接触させるだけでも、各電線Wの外周に止水材Sを付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)、(b)は、本発明にかかる止水処理方法および止水処理装置の第1実施形態を説明する図である。
【図2】本発明にかかる電線止水処理装置及び電線止水処理方法の第2実施形態の説明図である。
【図3】(a)〜(c)は、本発明にかかる電線止水処理装置及び電線止水処理方法の第3実施形態の説明図である。
【図4】(a)〜(e)は従来のワイヤハーネスの止水処理方法の工程説明図である。
【図5】図4の電線止水処理方法により止水処理したワイヤハーネスをグロメットに装着した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
W 電線
WH 電線束
S 止水材
1,101 止水材付着装置
2,102 収束加熱装置
10 箱体(密閉空間)
11 投入口
15 粉粒体舞わせ装置
20,30,110 加熱装置
21 可動クランプ機構
105 部屋(密閉空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばらけた状態の複数の電線それぞれの外周に、粉粒状の止水材を付着させる止水材付着工程と、
該止水材付着工程後、前記複数の電線を収束した状態で、当該複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分を加熱して当該止水材を溶融させ、これにより前記部分それぞれが、それらの間に、溶融した前記止水材を介在して、一体化させる収束加熱工程と、
を有することを特徴とする電線止水処理方法。
【請求項2】
前記止水材付着工程では、前記粉粒状の止水材を空中に霧状に舞わせた環境に、前記複数の電線をばらけた状態で晒すことにより、前記複数の電線の外周それぞれに前記粉粒状の止水材を付着させることを特徴とする請求項1に記載の電線止水処理方法。
【請求項3】
前記止水材付着工程を実行する際に、前記粉粒状の止水材、および前記複数の電線それぞれの外周面の少なくとも一方に静電気を帯電させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線止水処理方法。
【請求項4】
前記粉粒状の止水材を前記複数の電線の外周に付着させる前に、前記複数の電線それぞれの外周に、前記粉粒状の止水材の付着を促すための液体を付着させておくことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電線止水処理方法。
【請求項5】
粉粒状の止水材を空中に霧状に舞わせた環境に前記複数の電線を晒し、該複数の電線それぞれの外周に前記粉粒状の止水材を付着させる止水材付着装置と、
前記複数の電線を収束し、且つその状態で、当該複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分を加熱して当該止水材を溶融させる収束加熱装置と、
を備え、
前記収束加熱装置により、前記複数の電線の前記部分それぞれが、それらの間に、溶融した前記止水材を介在して、一体化させることを特徴とする電線止水処理装置。
【請求項6】
前記止水材付着装置が、一部に前記複数の電線をばらけた状態で投入し得る投入口を有する箱体と、該箱体の内部において前記粉粒状の止水材を霧状に舞わせる粉粒体舞わせ装置と、を備えることを特徴とする請求項5に記載の電線止水処理装置。
【請求項7】
前記収束加熱装置が、前記複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分の両側にある前記複数の電線の把持部分を把持して、当該把持部分を互いに離間する方向に移動し、これにより前記複数の電線をその長手方向に沿って直線状に引っ張って一つの電線束にする可動クランプ機構と、前記複数の電線の前記粉粒状の止水材が付着した部分を加熱する加熱装置と、を備えることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の電線止水処理装置。
【請求項8】
請求項5〜請求項7のいずれか一項に記載の電線止水処理装置により溶融した後に硬化した前記止水材が前記複数の電線間に介在された電線束を備えたことを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−289605(P2009−289605A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141236(P2008−141236)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】