説明

電線用低誘電率材料及び電線

【課題】良好な柔軟性を維持しながら十分に低い誘電率を有する成型品を形成することが可能な電線用低誘電率材料を提供すること。
【解決手段】高分子バインダー10と、高分子バインダー10中に分散している中空ガラス粒子20とを含有する電線用低誘電率材料。高分子バインダー10は、結晶性高分子相11及び結晶高分子相11中に分散している島状のゴム相12から構成される海島構造を形成している。中空ガラス粒子20の割合は、高分子バインダー10及び中空ガラス粒子20の合計量を基準として60質量%以下である。中空ガラス粒子20は、50μm以下の平均粒径と0.4μm以上の真比重とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線用低誘電率材料及びこれを用いた電線に関する。
【背景技術】
【0002】
ファクトリーオートメーション(以下「FA」という。)、自動車用部品、電気機器用部品、電子部品、情報家電部品、電子関連用素子、医療、航空機などの分野において、電気信号による通信ケーブルとして電線が用いられる。
【0003】
電気信号による工業用の通信においては、情報量の増大に拍車がかかっている。例えばFAの場合、製品の計測、照合、判定など、多種の情報を瞬時に処理することが必要とされることから、100MHzでの通信が一般化されている。そして、通信は500MHzのような高周波帯へ進展し、さらに600MHzへの対応も急がれている。
【0004】
一方、生産現場では、省人化のために、拠点に情報を送って集中して処理するという体制の採用が進んでいる。これに対応するために、通信ケーブルの長距離の伝送への対応も望まれている。
【0005】
一般に、通信ケーブルには単数又は複数の導線が内蔵されている。信号が高周波帯になると、導線同士の信号干渉が生じて、導線の信号が他の導線に移る、いわゆるエイリアンクロストークが発生する傾向がある。特に長距離の伝送を行うとエイリアントークが発生し易い。
【0006】
そのため、電線を構成するシースや絶縁層等の層において、さらなる低誘電率化を達成することが望まれている。具体的には、2.0以下程度の低い誘電率を達成することが必要とされる。従来、シースを構成する材料として、2.0〜3.0程度の比誘電率を有するオレフィン系エラストマーが一般に使用されている。しかし、このような従来の材料では、600MHzの通信において100mの距離の伝送は実用上困難である。
【0007】
これまでにも、低誘電率化を達成し得る材料として、油脂系のバインダーに約20重量パーセント未満の中空ガラス微小球を配合したものが提案されている(特許文献1)。
【0008】
また、特許文献2には、成形品の軽量化と樹脂材料の機械的性質の維持を目的とした、ガラスバルーンを配合した圧縮成形用オレフィン系樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。さらに、特許文献3では、軽量断熱性フィルムを形成する材料として、ガラスバルーンを熱可塑性樹脂中に配合したものが開示されている。
【特許文献1】特表2007−510034号公報
【特許文献2】特開平5−174634号公報
【特許文献3】特開2007−297432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
中空ガラス粒子の割合を高くすることにより、誘電率が更に低くなることが期待される。ところが、実際には、中空ガラス粒子の割合を大きくしても、混錬や成型の過程で中空ガラス粒子の多くが破壊されてしまい、成型後に十分に低い誘電率を維持することが困難であった。また、中空ガラス粒子の割合が多くなると、電線に必要とされる柔軟性が損なわれる傾向があるという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明は、良好な柔軟性を維持しながら十分に低い誘電率を有する成型品を形成することが可能な電線用低誘電率材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの側面において、本発明は電線用低誘電率材料に関する。本発明に係る低誘電率材料は、高分子バインダーと、該高分子バインダー中に分散している中空ガラス粒子とを含有する。高分子バインダーは、結晶性高分子相及び該結晶性高分子相中に分散している島状のゴム相から構成される海島構造を形成している。中空ガラス粒子の割合は、高分子バインダー及び中空ガラス粒子の合計量を基準として60質量%以下である。中空ガラス粒子は、50μm以下の平均粒径と0.4μm以上の真比重とを有している。
【0012】
高分子バインダーが、上記のような結晶性高分子相及びゴム相から構成される海島構造を形成していることにより、成型品の製造過程において、中空ガラス粒子の損傷が防止され、その結果、十分に低い誘電率を有する成型品を形成することが可能になったと考えられる。これは、硬い外箱と緩衝材を組み合わせて用いる卵の梱包方法にたとえることもできる。さらに、主としてゴム相の緩衝機能によって良好な柔軟性も維持される。
【0013】
結晶性高分子相は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。また、ゴム相はエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体を含むことが好ましい。これらの材料を用いることにより、本発明による上記効果がより一層顕著に奏される。
【0014】
混錬や成型中の中空ガラス粒子の損傷を防止する効果をより高めるために、エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体は架橋されていることが好ましい。
【0015】
高分子バインダーの比誘電率の実数部は、50〜1000MHzの周波数帯において2.0以下であることが好ましい。これにより、高い周波数帯で長距離の伝送をより安定して行うことが可能になる。
【0016】
中空ガラス粒子の割合は、高分子バインダー及び中空ガラス粒子の合計量を基準として20〜60質量%以下であることがより好ましい。中空ガラス粒子の割合が60質量%を超えると、低誘電率化の効果が得られ難くなる傾向がある。
【0017】
別の側面において、本発明は電線に関する。本発明に係る電線は、上記本発明に係る電線用低誘電率材料の成型品である被覆層と、該被覆層の内側に配置された導線とを備える。
【0018】
本発明に係る電線は、十分に低い誘電率を有する被覆層を備えていることから、高周波帯の通信の長距離の伝送のために用いられたときであっても、エイリアンクロストークの発生が十分に抑制される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好な柔軟性を維持しながら十分に低い誘電率を有する成型品を形成することが可能な電線用低誘電率材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本実施形態に係る低誘電率材料の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る低誘電率材料は、高分子バインダー10と、高分子バインダー10中に分散している中空ガラス粒子20とを含有する。高分子バインダー10は、結晶性高分子相11及び結晶高分子相11中に分散している島状のゴム相12から構成される海島構造を形成している。言い換えると、結晶高分子相11中に中空ガラス粒子20及びゴム相12が分散している。ゴム相12は、不連続な島状に分散し、結晶性高分子相11は島状のゴム相12を取囲む海状に形成されている。
【0022】
中空ガラス粒子20はその内部に空洞21形成し、所定の肉厚を有する球状の中空体である。空洞21は空気で満たされている。中空ガラス粒子20はゴム相12の緩衝作用を受けるとともに、剛直な結晶性高分子相11によって保護されている。低誘電率材料が屈曲や押圧等のストレスを受けたときに、ゴム相12の緩衝作用によって中空ガラス粒子20の損傷が防がれる。
【0023】
結晶性高分子相11は、誘電率の低い結晶性高分子を主成分として含む。結晶性高分子は好ましくは結晶性のポリオレフィン系熱可塑性樹脂である。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂はオレフィンの重合体であり、例えば、エチレン及び/又はプロピレンをモノマー単位として含む。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂は、一般に50〜1000MHzの周波数帯において1.9〜2.3の比誘電率を有する。ゴム相12がオレフィン系ゴムを含む場合、不連続なゴム相12を形成させやすいことから、主としてプロピレンから構成されるポリプロピレン系熱可塑性樹脂が適している。ポリプロピレン系熱可塑性樹脂は、実質的にプロピレンのみから構成されるホモタイプであってもよいし、プロプレンの他にエチレンを含むブロックタイプ又はランダムタイプであってもよい。不連続なゴム相12を形成させ易くするためには、エチレン由来のモノマー単位を実質的に含まないホモタイプのポリプロピレンが好ましい。
【0024】
ゴム相12は、誘電率の低いゴムを主成分として含む。ゴム相12を構成するゴムは好ましくはオレフィン系ゴムである。オレフィン系ゴムは、例えばエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体及びブタジエン系ゴムから選ばれる。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含む結晶性高分子相11中で不連続な相を形成し易いことから、エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体が好ましい。エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体は、一般に50〜1000MHzの周波数帯において1.9〜2.3の比誘電率を有する。
【0025】
特に好ましい態様において、結晶性高分子相11がポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含み、且つ、ゴム相12がエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体を含む。これにより、高分子バインダー10の誘電率を低くすること、具体的には比誘電率の実数部を50〜1000MHzの周波数帯において2.0以下とすることが、特に容易となる。
【0026】
ゴム相12を構成するゴムは、架橋されていることが好ましい。ゴム相12を構成するゴムが架橋体であると、高温下でもゴム相12の不連続性が維持され易い。これにより、混錬や成型の際に高温下で剪断を受けたときでもゴム相12の緩衝機能が十分に発揮されて、中空ガラス粒子20の損傷がより効果的に防止される。
【0027】
架橋されたエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体から構成されるゴム相12を含む高分子バインダー10は、例えば、結晶性高分子と未架橋のエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体との混合物を溶融混錬しながら、エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体を架橋する方法(いわゆる動的架橋)によって得ることができる。すなわち、エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体は動的架橋によって架橋されていてもよい。溶融混錬の初期の段階では結晶性高分子と未架橋のエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体とは相溶して単一の相を形成しているが、架橋剤の添加後、エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体が架橋するのにしたがって相分離が進行して、結晶性高分子相11中に架橋体である不連続なゴム相12が形成される。
【0028】
動的架橋における架橋方法としては、例えば、硫黄架橋、パーオキサイド架橋、フェノール架橋及びヒドロシリル化架橋がある。架橋の効率と誘電率への影響を考慮すると、パーオキサイド架橋が好ましい。
【0029】
パーオキサイド架橋では、架橋剤としてパーオキサイドが用いられる。パーオキサイドは、例えば、ジアリールパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、ヒドロパーオキサイド及びパーオキシケタールから選ばれる。パーオキサイドの好適な具体例としては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3が挙げられる。
【0030】
パーオキサイドの量は、未架橋のエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体100質量部に対し、0.01〜10質量が好ましい。パーオキサイドの量が0.01質量部よりも少ないと十分に架橋が進行し難くなる傾向があり、10質量部より多いと過剰でありコスト的に不利である。
【0031】
動的架橋の際、アクリル系、アクリロイル系及びトリアリルイソシアヌレートのような多官能型不飽和化合物を混合物に添加して、架橋速度と架橋率を調整してもよい。多官能型不飽和化合物の量は、未架橋のエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましい。
【0032】
エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体は、エチレン、αオレフィン及びジエンの三種のモノマーの共重合体である。共重合比は特に限定されないが、好ましくはエチレンの共重合比は70重量%未満である。エチレンの共重合比が高いとゴム相12が硬くなる傾向がある。
【0033】
αオレフィンは好ましくはプロピレンである。すなわち、エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体は、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(以下「EPDM」という。)であることが好ましい。
【0034】
ジエンは特に限定されないが、例えばシクロペンタジエン、ジシクロノルボルネン及びビニルノルボルネンから選ばれる。ビニルノルボルネンは反応が早い点で比較的好ましいが、パーオキサイド架橋であれば、より安価なジシクロノルボルネンでも十分な重合速度が得られる場合が多い。
【0035】
エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体を得るための重合方法は、特に限定は無く、液状重合でも気相重合でもよい。重合触媒は、シングルサイト触媒、メタロセン触媒等から任意に選択できる。
【0036】
動的架橋の際、溶融混錬される混合物が炭化水素系オリゴマーを含んでいてもよい。炭化水素系オリゴマーの添加によって、より優れた柔軟性が得られる。また、成型の際、炭化水素系オリゴマーはバインダー全体に行きわたり、混合物自体の粘度が低下する。炭化水素系オリゴマーの量は、結晶性高分子及びエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体の合計量100質量部に対して5〜150質量部が好ましい。この量が150質量部を上回ると炭化水素系オリゴマーがブリードし易くなる傾向があり、5質量部を下回るとオリゴマーによる効果が小さくなる傾向がある。市販のEPDMには、あらかじめ炭化水素系オリゴマーが配合されたものがあり、これを使用することができる。
【0037】
中空ガラス粒子20の割合は、好ましくは、高分子バインダー10及び中空ガラス粒子20の合計量を基準として60質量%以下である。中空ガラス粒子の割合を大きくすることにより、材料の低誘電率化を図ることができる。具体的には、中空ガラス粒子20の割合は好ましくは20質量%以上である。これにより、例えば600MHzの周波数帯で100mの距離の伝送が十分に可能となる。同様の観点から、中空ガラス粒子の割合はより好ましくは30質量%以上である。
【0038】
数μm〜100μm程度の平均粒径を有する球状の中空ガラス粒子が市販されている。中空ガラス粒子の平均粒径は好ましくは50μm以下である。中空ガラス粒子の平均粒径の下限は特に限定されないが、平均粒径は好ましくは10μm以上である。平均粒径が10μmを下回ると空隙率が大きくなって、誘電率低減の効果が小さくなる傾向がある。中空ガラス粒子の平均粒径は、例えば、光学顕微鏡を用いた観察によって求めることができる。
【0039】
中空ガラス粒子は、中空構造を有していることから比較的割れ易く、その耐加重が低い。中空ガラス粒子の耐加重はその肉厚の影響を受ける。中空ガラス粒子20の肉厚は、空洞21の部分の体積を含めた粒子全体としての真比重と、平均粒径を目安として推定することができる。例えば、平均粒径が50μm以下の中空ガラス粒子の場合、その真比重は0.4以上であることが好ましい。本発明者らの経験則によれば、平均粒径が50μm以下、且つ真比重が0.4未満であると、中空ガラス粒子の割合例えば20質量%以上まで大きくなったときに中空ガラス粒子の多くが割れ易くなる。高分子バインダーの比重は通常0.9程度であることから、中空ガラス粒子の真比重は好ましくは0.9以下である。
【0040】
中空ガラス粒子を構成するガラスは、二酸化ケイ素を主成分として含み、これに加えて酸化ナトリウム(NaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ホウ素(B)、酸化リン(P)などの副成分を含んでいてもよい。例えば、住友スリーエム社から、酸化ホウ素(B2O5)を副成分として含むソーダ石灰ホウケイ酸ガラスから形成された耐加重に優れた中空ガラス粒子が市販されており、これを好適に用いることができる。
【0041】
本実施形態に係る低誘電率材料は、以上挙げた成分の他に、抗酸化剤、耐光性や耐久性を向上させる安定剤、および着色剤等の成分を高分子バインダー中に適宜含んでいてもよい。
【0042】
本実施形態に係る低誘電率材料によれば、ポリオレフィン及びポリフルオロエチレンのような従来の低誘電率材料と比較して更に低い誘電率を達成可能であり、通信ケーブル等の電線用材料として好適に用いられる。
【0043】
材料の誘電特性は、一般に、1.比誘電率の実数部、2.比誘電率の虚数部、3.誘電率又は誘電正接、の三種の指標に基づいて解釈されている。簡単には、比誘電率の実数部によって材料の誘電特性を評価することができる。これらの誘電特性は周波数に依存して変化する。例えば600MHzの周波数帯での伝送に用いられる通信ケーブルでの使用を目的とする場合、600MHzにおける周波数帯での比誘電率の実数部によって性能を評価することができる。
【0044】
本実施形態に係る低誘電率材料の比誘電率の実数部は、600MHzにおいて1.9以下であることが好ましい。また、600MHzで100m程度の長距離で不具合無く伝送を行うためには、600MHzにおける比誘電率の実数部は1.8以下であることが好ましい。比誘電率の実数部の下限は特に制限は無いが、技術的には1.5程度が可能である。
【0045】
図2は、電線の一実施形態を示す断面図である。図2に示す電線100は、複数の導線5と、それぞれの導線5を直接被覆する絶縁層7と、導線5及び絶縁層7をそれぞれ内包する複数の筒状の内シース1aと、複数の内シース1aが束ねられるようにこれらを内包する筒状のシールド層3及び外シース1bとから構成される。シールド層3は外シース1bの内周面上に積層されている。電線100は例えば通信ケーブルである。
【0046】
複数の導線4は、内シース1a及び外シース1bの内側に配置されている。すなわち、内シース1a及び外シース1bは導線4の外側に配置された被覆層である。内シース1a及び外シース1bは、上述の実施形態に係る低誘電率材料の成型品である。このように、本実施形態に係る低誘電率材料をシース材として採用したことにより、電線100を高周波帯の通信の長距離の伝送のための通信ケーブルとして用いたときであっても、エイリアンクロストークの発生が十分に抑制される。
【0047】
内シース1a及び外シース1bは、押出成型等の方法により低誘電率材料を成型して得ることができる。本実施形態に係る低誘電率材料を用いることにより、成型の際に受ける剪断応力による中空ガラス粒子の損傷が防止され、十分に低い誘電率を維持した成型品を得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実験1)
EPDM(ダウケミカル社製、商品名:Nodel 4760P、)45重量部、ポリプロピレン(出光化学社製、商品名:2000C、)25重量部、パラフィン系プロセスオイル(三井化学社製、ルーカント200)30重量部、抗酸化剤(旭電化工業社製、商品名AO−60)1重量部、及び多官能不飽和エステル系架橋助剤(根上工業社製、商品名A−DCP)適量を最高150℃に調節した加圧ニーダに投入し、30rpmで10分間混錬した。ジャケット温度が200℃になった時点で内容物を払い出すことによって混錬物を得た。混錬物はルーダーニーダーによってペレット化された状態で得た。
【0050】
混錬物のペレットを二軸押出機(温度:200℃、回転数:300rpm、剪断速度(推定):約1200cm−1)に投入し、途中のサイドフィードからパーオキサイド(日本油脂社製、商品名パーヘキサ25B)3重量部を投入して、動的架橋された架橋物を得た。この架橋物はストランド状に押し出され、ペレタイザーによってペレット化された。この架橋物を高分子バインダーとして用いた。
【0051】
この高分子バインダーと中空ガラス(住友スリーエム社製、商品名:3M Glass Bubbles S60HS、平均粒径:約30μm、真比重:0.6)を、130℃に温度調節されたバンバリーによって混錬し、ジャケット温度が200℃になった時点で内容物を払い出す方法により、表1に示す6種類の高分子組成物を電線用低誘電率材料として得た。この材料は、ルーダーニーダーによってペレット化された状態で得た。
【0052】
【表1】

【0053】
上記6種の低誘電率材料を200℃に温度調節されたプレス成型機によって所定の形状に成型して、比誘電率測定用の試験片を得た。また、ブランクとして、中空ガラスを配合していない高分子バインダー単体を用いて同様に試験片を作成した。得られた試験片の質量と、寸法から算出した体積とから、各試験片の比重を求めた。
【0054】
さらに、反射法比誘電率測定装置(キーコム社製、同軸管によるSパラメーター法反射方式)を用いて、各試験片の600MHzにおける比誘電率の実数部を測定した。
【0055】
各試験片の比重と比誘電率の実数部の測定結果を表2に示す。表2には各試験片の比重の理論値も示した。比重は、高分子バインダー及び中空ガラスそれぞれの真比重及び配合量から算出した。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示されるように、各実施例の試験片は1.90以下の良好な比誘電率を示した。より詳細には、中空ガラスの割合が20〜60質量%の範囲内にある実施例1−2,1−3,1−4,1−5の場合に特に低い比誘電率が達成された。実施例1−1,1−2,1−3,1−4の試験片の比重は理論値とほぼ同じであることから、含まれる中空ガラスがほとんど破壊されていないと推定される。実施例1−5は比重の実測値が理論値よりもやや高いことから、中空ガラスの一部が破壊されていると推定されるものの、良好な比誘電率が維持された。比較例1−1では、混錬及び成型の過程で中空ガラスの多くが破壊され、その結果比誘電率がブランクよりも高くなったと考えられる。
【0058】
(実験2)
実験1と同様の高分子バインダーを用い、中空ガラス粒子として住友スリーエム社製の3M Glass BubblesシリーズのK25(平均粒径55μm)又はK46(平均粒径40μm)を用いて、実験1の方法により表3に示す比誘電率測定用の試験片を作製した。
【0059】
【表3】

【0060】
得られた試験片の比重と比誘電率の実数部を、実験1と同様にして測定した。結果を、実施例1−1及びブランクの結果とともに表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
平均粒径50μm以下の中空ガラス粒子を用いた実施例2−1は、実施例1−1と同程度の良好な比誘電率を示した。平均粒径が50μmを超える中空ガラス粒子を用いた比較例2−1は、ブランクと比較して高い比誘電率を示した。これは、中空ガラス粒子の粒径が大きいことから、中空ガラス粒子の多くが破壊されたためであると考えられる。
【0063】
(実験3)
実験1と同様の高分子バインダーを用い、中空ガラス粒子として住友スリーエム社製の3M Glass BubblesシリーズのK37(真比重0.37)又はK46(真比重0.46)を用いて、実験1の方法により表5に示す比誘電率測定用の試験片を作製した。
【0064】
【表5】

【0065】
得られた試験片の比重と比誘電率の実数部を、実験1と同様にして測定した。結果をブランクとともに表6に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
真比重が0.4未満の中空ガラス粒子を用いた比較例3−1は、ブランクと比較して高い比誘電率を示した。これは、中空ガラス粒子の真比重が小さい大きいことから、中空ガラス粒子の多くが破壊されたためであると考えられる。
【0068】
(実験4)
EPDM(ダウケミカル社製、商品名:Nodel 4760P)及びポリプロピレン(出光化学社製、商品名:2000C)を、それぞれ単独で高分子バインダーとして用いて、実験1と同様の方法によりペレット状の低誘電率材料を準備した。
【0069】
【表7】

【0070】
比較例4−1,4−2の低誘電率材料を、200℃に温度調節した二本ロールによって成型して、厚さ約2.0mmのシートを得た。得られたシートから、巾3.0mm、長さ100.0mmのひも状のサンプルを切り出した。得られたひも状のサンプルを手で折り曲げたところ、比較例4−1、比較例4−2のいずれのサンプルも割れてしまった。
【0071】
比較のために、実験1で作製した実施例1−3の電線材料を用いて同様にひも状のサンプルを作製したところ、割れることなくサンプルを手で折り曲げることができた。また、このサンプルを長手方向に伸ばしたところ、容易に伸ばすことができた。実験1〜3で作成した他の実施例の材料も良好な柔軟性を有していた。すなわち、本発明の電線用低誘電率材料は、柔軟性があり、ケーブル等の電線に用いられる材料として十分に適していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施形態に係る低誘電率材料の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】電線の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1a…内シース、1b…外シース、3…シールド層、5…導線、7…絶縁層、10…高分子バインダー、11…結晶性高分子相、12…ゴム相、20…中空ガラス粒子、21…空洞、100…電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子バインダーと、
該高分子バインダー中に分散している中空ガラス粒子と、
を含有し、
前記高分子バインダーが、結晶性高分子相及び該結晶性高分子相中に分散している島状のゴム相から構成される海島構造を形成しており、
前記中空ガラス粒子の割合が、前記高分子バインダー及び前記中空ガラス粒子の合計量を基準として60質量%以下であり、
前記中空ガラス粒子が、50μm以下の平均粒径と0.4μm以上の真比重とを有している、電線用低誘電率材料。
【請求項2】
前記結晶性高分子相がポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含み、前記ゴム相がエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体を含む、請求項1記載の電線用低誘電率材料。
【請求項3】
前記エチレン−αオレフィン−ジエン共重合体が架橋されている、請求項2記載の電線用低誘電率材料。
【請求項4】
前記高分子バインダーの比誘電率の実数部が、50〜1000MHzの周波数帯において2.0以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電線用低誘電率材料。
【請求項5】
前記中空ガラスの割合が、前記高分子バインダー及び前記中空ガラス粒子の合計量を基準として20〜60質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電線用低誘電率材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電線用低誘電率材料の成型品である被覆層と、該被覆層の内側に配置された導線と、を備える電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−129387(P2010−129387A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303058(P2008−303058)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】