説明

電線被覆用チューブ

【課題】本発明は、被覆表面に突条を有する電線に十分なシールを発揮する電線被覆用チューブを提供する。
【解決手段】筒状に構成され、一端にシール部を備えるエラストマ材料からなる電気絶縁性の第1筒状部材と、該シール部の半径方向内側表面に突設され、前記第1筒状部材の円周方向に延在し、それぞれが離間して配されている複数の環状突部と、前記シール部の半径方向内側に配置され、前記シール部をその半径方向外側へ拡大した状態に維持する除去可能なコア部材とを備えた電線被覆用チューブを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の接続部を被覆して保護する電線被覆用チューブに関し、特にコア部材によってチューブが予め拡径されている常温収縮型の電線被覆用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線同士の接続部や電線と端末部材との接続部において、露出した電線導体を被覆して外部環境による劣化や損傷を防ぐために、電線被覆用チューブが用いられている。
【0003】
電線被覆用チューブの中で、コア部材を使用してチューブを予め工場で弾性的に拡径した状態に加工しておき、電線の接続現場でコア部材を取り除いて電線被覆上にチューブを収縮させる、常温収縮型の電線被覆用チューブが施工の容易性や仕上がりの均一性から各種の用途に広く使用されている。
【0004】
チューブのシール部は、その内径が適用される電線被覆の外径よりも小さく成形されており、コア部材によってケーブル外径よりも内径を大きい状態に拡径し、電線へのチューブの挿入を容易にしている。コア部材を取り除くと、チューブはその弾性収縮力により電線被覆上に収縮する。電線上に収縮した後でもチューブの内径は自然状態(成形された状態であって何ら外部からの応力を受けていない状態)の内径より大きいため、チューブは依然弾性的に拡径された状態にあり、その弾性収縮力によりチューブが電線被覆上に密着し、気密シールが達成、維持される。
【0005】
一方、電線はその径方向断面形状が通常は円形であるが、その被覆表面に突条(リブ)を有するものも使用されている。例えば、降雪量の多い地方では、電線被覆表面に突出する突条を電線の長手方向に連続して有する電線が使用されている。そのような電線の断面構造の一例を図1に示す。電線70は銅などの導電性の材料からなる導電体72と、導電体72と同心状に形成され、導電体72を外部環境から保護する被覆74とを有する。被覆74の一部が突出して突条76を形成している。被覆74や突条76は絶縁性の材料から構成され、ポリエチレン樹脂(PE)や塩化ビニル樹脂(PVC)などの熱可塑性樹脂を導電体72上に押し出し成形して一体に形成されている。このような突条76を有する電線70では、従来の電線線被覆用チューブは電線70の形状に追従できず突条76と被覆74との境界部78を十分にシールすることが困難であった。
【0006】
この課題を解決するため、スリーブカバーの先端に肉厚部を設け、その内側に突出部を設け、突出部に1個または複数個のV字状の突出部を設け、突出部の両側に凹溝を設けたスリーブカバーが提案されていた。(特許文献1参照)この特許文献には、このような常温収縮チューブを電線の上に収縮させると、肉厚部では肉厚が厚い分だけより強力な収縮力を発生させることができると記載されている。
【0007】
【特許文献1】登録実用新案第3002642号公報(段落0004、0005等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電線被覆用チューブの肉厚を大きくするとその分だけ強力な収縮力を発生できるが、一方で幾つかの課題を有する。電線被覆用チューブはそれが電線上に収縮される前に拡径された状態でコア部材に配されているため、その大きい弾性収縮力によってコア部材へのチューブの取り付けが困難となる。また、コア部材は収縮チューブからの弾性収縮力に耐えるだけの高い強度が必要であり、コア部材を電線被覆用チューブから抜去するのに大きい力が必要になり作業性が低下する。更に、チューブ内径に複雑な凹凸を有すると、射出成形のような一般的なチューブの成形方法では金型が複雑になるという課題を有する。
【0009】
そこで本発明は、上記のような課題に鑑み、コア部材への取付けに困難を伴わず、複雑な金型形状をとらずに成形可能であり、被覆表面に突条を有する電線に十分なシールを発揮する電線被覆用チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一端にシール部を備えるエラストマ材料からなる電気絶縁性の第1筒状部材と、そのシール部の半径方向内側表面に突設され、その第1筒状部材の円周方向に延在し、それぞれが離間して配されている複数の環状突部と、そのシール部の半径方向内側に配置され、そのシール部をその半径方向外側へ拡大した状態に維持する除去可能なコア部材とを備えた電線被覆用チューブを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電線被覆用チューブによれば、コア部材の取付けに困難を伴わず、環状突部と電線の被覆との間に高い密着力(面圧)が発生し、被覆表面に突条を有する電線に対しても高いシール性を得ることができる。また、チューブ内部に複雑な形状を有さなくともよいため、簡易な構造の金型で成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る電線被覆用チューブは、例えば電力の配電に使用される2本の電線を接続する箇所に適用でき、電気的接続のためにケーブルから除去された被覆を再構築して電線の接続部に電気的絶縁性、気密性や防水性等を提供し、接続部の導電体を外部環境から保護するために使用できる。
【0013】
本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図2は本発明による電線被覆用チューブの第1の実施形態を示す断面図である。電線被覆用チューブ1は、第1筒状部材10と、第1筒状部材10の両端部においてその内側に配されたコア部材20とを有している。第1筒状部材10はコア部材20が装着されている領域において、自然状態から内径を拡大させた拡径状態に置かれている。
【0014】
第1筒状部材10はその径方向の断面が略円形の概略円筒状の部材であり、その軸方向の中央に収容部11と、両端にシール部12とを備えている。
【0015】
収容部11は、その内部空間に電線の接続部を収容する領域であり、典型的にはコア部材20によって拡径されていない。収容部11は、その接続部で導体同士を接続するために使用される接続スリーブの最大外径よりも自然状態で大きい内径を有し、電線の接続時に除去された被覆を導電体上に再構築する。これによって、電線の導電体が外部から電気的に絶縁されると共に、水分、塩分などの外部環境からの劣化を防止する。
【0016】
シール部12は、後述のコア部材20によって第1筒状部材10が自然状態から拡径されている領域であり、電線70に電線被覆用チューブ1が収縮されたときに電線70の被覆74に対して締め付け力を発生させて密着する領域である。本実施形態ではシール部12はおよそ均一な肉厚に形成されている。電線被覆74上にシール部12の少なくとも一部が密着することでシール部と電線被覆74との間に防水性や気密性などのシール性が発現し、収容部11内の電線の接続部が電気的および機械的に劣化することを防止できる。
【0017】
シール部12には、その円周方向内面に環状突部14が第1筒状部材の軸方向に離間して複数配されている。環状突部14は、第1筒状部材10の円周方向に沿って第1筒状部材の軸方向と略垂直な面内に延在し、端部を有さない状態、つまり環状に形成されている。環状突部14は2以上あれば良く、適用する電線の形状や第1筒状部材10のシール部12の寸法、また1つの電線被覆チューブで適用する電線の数にあわせて適宜必要な数の環状突部14(例えば3個や5個)を配することができる。環状突部14はシール部12が電線被覆74上に収縮したときに、突条76に対応する部分では突条76に追従して大きく変形する(圧縮される)が、突条76と被覆74との境界部78に対応する部分では変形をしないもしくは変形の度合いが小さくなって境界部78付近の隙間を埋めることで、この境界部78に対してもシール性を発揮できる。
【0018】
環状突部14の延在方向における断面形は各種のものとすることが可能であり、略半円形、略矩形、略台形や略三角形などとすることができる。シール部12で高いシール性を発揮するためには、環状突部14は突条76形状に対して高い変形追従性を有すると共に、電線70表面と面的に、つまり電線の長手方向にある程度の幅を有して接触することが好ましい。このため、環状突部14の断面形状としては、略半円形や略台形がより好ましい。
【0019】
環状突部14の高さは任意に決定することができるが、その高さは適用する電線70の突条76の被覆74表面からの高さよりも高いものとすることが好ましい。このように構成すると、環状突部14が突条76と被覆74との境界部78をより効果的に止水することができる。環状突起14のシール部12内面からの高さは適用される電線70の突条76の高さによるが、典型的には1mm以上であり5mm以下である。
【0020】
本実施形態では複数の環状突部14が離間して1のシール部12に配されているので、2つの環状突部14の間にある第1筒状部材10の収縮力も環状突部に重畳的に環状突部14に印加される。たとえ2つの環状突部14間にあるシール部が電線70表面に接触していても、その接触している部位の隣接部位を弾性収縮力で強く引張っている。つまり電線上に第1筒状部材のシール部を収縮させたときに、複数の突条間にある第1筒状部材の収縮力によって環状突部の電線の被覆への締め付け力が高められる。したがって、環状突部14と電線被覆74との接触部により高い面圧を生じさせることができるし、環状突部14が電線70の突条76に応じてより大きく変形することができる。環状突起14間の距離は任意に選択できるが、通常は1mm以上であり30mm以下とすることができ、10mm以上であり20mm以下とすることができる。
【0021】
環状突部14の高さや、複数の環状突部14間の距離は、電線被覆用チューブ1を電線70上に収縮させたときに、環状突部14間のシール部12の円周方向内側表面が電線70の被覆74表面に接触しないように設定することが好ましい。このように構成すると、複数の環状突部14間に存する第1筒状部材1の収縮力がより効果的に環状突部14に作用し、それによってより高い締め付け圧が得られるからである。
【0022】
各シール部12に配された複数の環状突部14の寸法や断面形状は同一とすることもできるし、それぞれ異なったものとすることもできる。複数の環状突起14の寸法や断面形状を、それぞれ異なる形状および/または高さの突条76を有する電線70に合わせて設定することで、一つの第1筒状部材でより多くの異なった形状や大きさの突条76を有する電線に対して高いシール性を発揮することができる。例えば、2つの環状突部14をシール部12に有する場合、一つの環状突部14の高さを、突条76の高さが高い電線70に適するように高く設定し、他の環状突部14の大きさを、突条76の高さが低い電線70に適するように低く設定することができる。または、一つの環状突部14を突条76への変形追従性が高くなるように幅の狭い環状突部14とし、他の環状突部14を被覆74との接触面積を増やすように幅の広い環状突部14とすることもできる。
【0023】
第1筒状部材10は常温収縮チューブとして必要な特性を有する任意のエラストマから形成することが可能であり、例えばシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、フッ素系ゴム、シリコーン変性EPDMなどから、公知の方法、例えば射出成形によって成形することができる。
【0024】
第1筒状部材10を構成するエラストマは、JIS(日本工業規格)K−6301基準にて、300%引張応力値(300%モジュラス)において、0.98MPa〜9.8MPaの範囲内の値を有するものが好ましい。300%引張応力値が0.98MPa未満では、電線の接続部分への締付力が不足し上記接続部分の気密性、防水性等に支障を生じるおそれがあり、9.8MPaを越えると第1筒状部材を半径方向に拡張するために過大な力を要し取り扱いが困難となり、突条を有する電線の表面への追従性が劣るからである。尚、上記接続部分において有効に気密性、防水性等を得るために、300%引張応力値としては、好ましくは1.96MPa〜5.88MPaの範囲内、さらに好ましくは2.94MPa〜4.9MPaの範囲内の値である。
【0025】
第1筒状部材10の厚さは、適用電線の太さや電線被覆用チューブの拡径率(拡径時のチューブ内径を、自然状態のチューブ内径で除した値)、電線被覆に対する必要な締め付け力などによって適宜設定することができる。第1筒状部材10の厚さは典型的に1mm以上であり、15mm以下である。1mm未満では、上記接続部分における電気絶縁性、防水性、機械的強度が劣るからであり、15mmを越えると第1筒状部材10を半径方向に拡張するために過大な力を要し取り扱いが困難となり電線の表面形状への追従性が劣るからである。尚、上記接続部分において有効に気密性、防水性等を得るために、上記厚さは、好ましくは2mm以上であり10mm以下であり、さらに好ましくは3mm以上であり7mm以下である。
【0026】
さらに第1筒状部材10は、JIS(日本工業規格)K6301に準拠した測定方法に基づいてA基準にてHsが20から60の範囲内の値の硬度を有すもの、さらには30から50の範囲内の値であることが好ましい。その理由は、硬度値が20未満では、材料が軟らか過ぎて表面に容易に損傷を受ける虞があり、硬度値が60を越えると材料の伸びが低下し半径方向への拡張が困難となり取り扱いが困難になり、又、電線の表面の形状への追従性が劣るからである。
【0027】
図3および図4に本発明で使用できるコア部材の一実施形態を示す。コア部材20は、拡径部材22と、拡径部材22の円筒状の表面に沿って配置された滑り部材30とから構成されている。コア部材20は、第1筒状部材10の自然状態での外径よりも大きい外径を有した略円筒形の部材であり、第1筒状部材10のシール部にその前端面29を第1筒状部材10の中心方向に向けて配置されている。コア部材20を第1筒状部材10の軸方向に引っ張ると、コア部材20が摺動して離脱するとともに電線被覆用チューブを電線上に収縮させることができる。
【0028】
拡径部材22は、円筒をその長軸が属する平面で2分割した形状を有する一対の本体部24、26と、一対の本体部24、26それぞれから延出しているハンドル部28とからなっている。一対の本体部24、26は略円筒を構成するように嵌合されており、その嵌合部には、それらの相対位置がずれないように位置決めする図示しない突起を有している。
【0029】
ハンドル部28は本体24、26の後端部から延出し、本体24と本体26とを連結している。本体24、26が円筒状に組み合わせられると、ハンドル部28は略U字型になり、その部分を指などで引っ張ることでコア部材20を第1筒状部材10より離脱させることができる。本体部22の径方向断面形状は、円形に限られず多角形であっても良い。
【0030】
拡径部材22は、第1筒状部材の弾性収縮力に対抗できる強度を有する任意の材料、例えば酢酸または酪酸セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルなどの樹脂材料やアルミや亜鉛などの金属材料から、公知の方法、例えば射出成型によって作ることができる。
【0031】
滑り部材30は矩形のシート状の部材であり、その一端に第1部分36と、他端に第2部分38を備えている。さらに、滑り部材30は第1表面32とその裏面の第2表面34とを備えている。滑り部材30は拡径部材22の本体24、26の外周面をおおよそ全面的に覆うように、拡径部材に取付けられている。滑り部材30は任意の固定手段で、その第1部分36が拡径部材22に対して固定されている。たとえば接着剤や両面テープなどの固定手段で、第1部分36の第1表面32を拡径部材22の外周表面に固定することができる。もしくは、拡径部材22の外周面側もしくは内周面側に係止突起を形成し、滑り部材30の第1部分36に設けた係止孔を係止突起に係合させることで固定することもできる。滑り部材30は、少なくとも拡径部材22の1部分で固定されていればよい。滑り部材30は本体部24、26の前端部29付近において、第2表面34同士が対向するように折り返されて、第1部分36の外周側に第2部分38が重畳して配置されている。
【0032】
第2表面34は低摩擦係数を有する表面であり、コア部材20を引き抜くときに第2表面34同士が低摩擦で摺動することでコア部材20を小さい力で引き抜くことを可能にする。低摩擦表面とは、その表面が接触して摺動する相手側の表面との間で、コア部材20を第1筒状部材10から引き抜ける程度に摩擦が低いことを意味する。一方、第1表面32は低摩擦性を有していてもよいが、低摩擦性を必ずしも要求しない。
【0033】
滑り部材30は紙やポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン等の樹脂材料からなる基材表面に、例えばシリコーンなどの低摩擦性を有する層をコーティングもしくはラミネートしたフィルムを使用することができる。あるいは低摩擦性を有する材料からなるフィルムを使用することもできる。滑り部材30は一枚のフィルムから構成することができるし、コア部材20への組み付け性を向上するために、コア部材20の長手方向に沿って複数に分割していてもよい。また、必要に応じて、第2表面34に潤滑剤等の摺動性を改善する物質を更に適用してもよい。
【0034】
上述のコア部材20は、拡径された第1筒状部材10のシール部12の半径方向内側に装着される。被覆すべきケーブルを電線被覆用チューブ1に挿通したのち、コア部材20のハンドル部28を電線被覆用チューブ1から離れる方向に引っ張ると、コア部材20が摺動して第1筒状部材10から離脱する。第1筒状部材10は、シール部12の収容部11側の端部から、順次電線70上に収縮していく。このとき、拡径部材22が移動すると、それに対して固定されている滑り部材30の第1部分36も、第2部分38と摺動しながら移動する。第1部分36と第2部分38とは低摩擦係数を有している第2表面で接触しているため、比較的弱い力でスムースに拡径部材22を摺動させることができる。しかしシール部12が本体部24、26の外周面と接触していると、それらの間での摩擦力によってコア部材20の引き抜きに必要な力が増大するので、滑り部材30は本体部24、26の前端部29側で本体部24、26の外周面を露出しないように配置することが好ましく、シール部12はコア部材20の第2部分38の第1表面32上に配置され、他の部分、例えばコア部材20の本体部24、26や滑り部材30の第2表面34などと接しないことが好ましい。第1筒状部材10から離脱したコア部材20は、本体部24、26との嵌合面から2つに分離できるので、容易にケーブルから離脱することができる。
【0035】
摺動して引き抜くタイプのコアの他の形態として、図5に示すものも使用できる。この形態では、滑り部材30aは第2部分の幅が狭く、第1部分の幅がそれよりも広い略T字型の形状をしている。そして第2表面34aが本体部24a、26aの外周面と対向する向きで、滑り部材30aの第1部分36aが本体部24a、26aの外側に配されている。滑り部材30aはその第1部分36aの一部で、本体部24a、26aの一部に固定することができる。そして第2部分38aが本体部24a、26aの内側に位置するように、前端部29aで滑り部材30aが折り返されている。このとき、第2部分38aが本体部24a、26aの後端部(前端部29aとは反対側の本体部の端部)から突出するように第1部分36aと第2部分38aの長さを設定することができる。このようにすると、滑り部材30aの第2部分を第1筒状部材10aの軸方向であって第1筒状部材から離れる方向に引っ張ることで、滑り部材30aの第2表面と拡径部材22aの外周面との間で滑りが生じ、コア部材20aが引き抜かれて電線被覆用チューブ1を電線70の被覆74上に収縮することができる。この実施形態では、拡径部材22aは、ハンドル部を有さなくともよく、滑り部材30aの第2表面34aには拡径部材22aに対して低摩擦性を有するような材料を選択する。
【0036】
上述の様に電線被覆用チューブ1の軸方向に摺動させて除去するタイプのコア部材20、20aでは、拡径部材22、22aの本体部24、26、24a、26aの前端部29、29aが本体部24、26、24a、26aの軸方向に略垂直な端部を有している。コア部材20、20aを引き抜くと、前端部29、29aの収容部側に隣接するシール部の部位から順次電線上に収縮する。電線上に収縮したシール部と収縮途中にあるシール部との境界は、第1筒状部材10の軸方向に略垂直な平面に存在する円形となり、その境界が順次第1筒状部材10の端部に向けて順次移動する。その結果、一の環状突部14は電線の被覆上にその全長(全周)がほぼ同時に収縮する。このため、収縮したシール部の環状突部14に部分的な応力が残留しにくく、電線被覆用チューブ1との間で高いシールを構成することができる。
【0037】
コア部材20としては、上述のような摺動して引き抜くタイプをコアに加え、リボン状部材をらせん状に巻いて円筒形を構成し、リボン状部材の両側面を相互に接合したらせん状コア部材も使用できる。リボン状部材は、酢酸または酪酸セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルなどの樹脂材料から構成することが可能であり、リボン状部材相互間の接合には、溶着、融着、接着剤、機械的な係止機構などの公知の方法が適用できる。らせん状コア部材では、リボン状部材の1端部を電線被覆チューブから離れる方向に引っ張ると、第1筒状部材10の軸方向中心側に位置するらせん状コア部材の端部から順次リボン状部材が解かれて破壊していく。第1筒状部材は、そのシール部が収容部に近い端部から順次電線上に収縮していくが、収縮する第1筒状部材の部位はらせん状コアの破壊に対応するので、収縮もらせん状に進行する。
【0038】
図6は本発明の第1の実施形態に係る電線被覆用チューブ1を電線接続部に適用した状態を示している。2本の電線70、70それぞれの端部の被覆74が一定長さだけ除去され、導電体72、72が露出している。2本の導電体72は金属製の接続スリーブ80にその両端から挿入されて突き合わせられ、接続スリーブ80を導電体72、72ごと圧縮して縮径することで2本の電線70、70を機械的におよび電気的に接続している。接続スリーブには公知の電線接続用スリーブが使用でき、通常は銅などの金属から略円筒形に構成されている。電線被覆用チューブ1は、導電体72の接続部を跨いで双方の電線70の被覆74上に収縮され、電線接続部を外部の環境から保護する。
【0039】
図7に本発明の第2の実施形態に係る電線被覆用チューブ101を示す。本実施形態が第1の実施形態と異なるところは、第1筒状部材110のシール部112とコア部材120との間に、第2筒状部材140を有する点である。
【0040】
第2筒状部材140は略円筒形の部材であり、電線被覆74上に密着してシールを構成する部材である。第2筒状部材140は、典型的には第1筒状部材110よりも軟らかい材料で構成される。第2筒状部材140はシール部112とほぼ同じ軸方向長さを有することができるし、シール部112よりも短くすることもできる。
【0041】
電線被覆用チューブ101が電線上に収縮されたとき、第2筒状部材140は突条76と当接する部分では大きく変形することで電線70形状に高い追従性を示すことができる。また、環状突部114の直下では、被覆74表面との間で広い接触面積を得ることができる。
【0042】
電線70の被覆74上には、その敷設作業時に無数の小さな傷が電線70の軸方向に生じることがある。これらの傷がシール部112を越えて存在する場合、その傷の深さや幅によっては水分が接続部に浸入する虞がある。このような場合に第2筒状部材140を備えると、傷の少なくとも一端部を第2筒状部材140で塞いで被覆74上の傷がシール部114を超えて連通することをより効果的に防止できる。
【0043】
さらに、上述の通り環状突部114と電線被覆74との界面では非常に高い面圧が発生するので、環状突部114直下の第2筒状部材140と被覆74との界面では、環状突部114直下ではない界面よりも、高い面圧を発生できる。そのため被覆74上の傷や突条76と被覆74との境界部78に環状突部114が第2筒状部材140を押し込み、これらの場所の空間を効果的に塞ぐことができる。
【0044】
第2筒状部材140は、さらにその内表面に環状突部を1以上有しても良い。そのような構成とすることで、さらに部分的に高い面圧で電線の被覆表面をシールすることができる。また、第1筒状部材110より硬度の低い材料を使用した場合には、被覆74と突条76との境界部78をより一層効果的に塞ぐことができる。
【0045】
第2筒状部材は第1筒状部材と同様にエラストマ材料から構成することもできるし、一般にパテと呼ばれる粘土状の材料から構成することもできる。
【0046】
第2筒状部材をエラストマ材料から構成する場合、第1筒状部材110と同じまたは硬度が高い材料から構成することもできるが、典型的には第1筒状部材110よりも硬度の低い材料から構成される。第2筒状部材140は、JIS−K6301に準拠した測定方法(A形)に基づいて、典型的には60Hs以下の材料から構成することができるが、第2筒状部材140は電線被覆用チューブ101の内層を構成するため、外層となる第1筒状部材が有するような機械的強度等が要求されず、第1筒状部材110よりも硬度の低い材料を使用することができるので、30Hs以下の硬さを有する材料から構成することが好ましい。硬度が高すぎると材料が硬過ぎて、電線の表面の突条に対する変形追従性が低下し、シール部12の弾性収縮時に電線被覆表面と第2筒状部材140との間に隙間が生じて接続部に対する気密性、防水性等が不足する虞がある。また、第2筒状部材140の材料は、JIS−K6301に準拠した測定方法(A形)に基づいて5Hs以上の硬さを有することが好ましい。硬さが5Hs未満では、電線外被表面の凹凸に追従する変形に時間を要し、耐熱性が低下する。第2筒状部材140の材料のさらに好ましい硬さは7Hs〜25Hsの範囲であり、最も好ましい硬さは10Hs〜20Hsの範囲である。
【0047】
また第2筒状部材140は、JIS−K6301に準拠した測定方法に基づいて、典型的には9.8MPa以下の300%引張応力値を有するエラストマ材料から構成できるが、第1筒状部材110よりも300%引張応力値が小さいエラストマ材料、具体的には0.098MPa〜4.9MPaの範囲の300%引張応力値を有するエラストマ材料からなることが好ましい。第2筒状部材140は電線被覆用チューブ101の内層を構成するため、外層となる第1筒状部材が有するような機械的強度等が要求されないので、第1筒状部材110よりも300%引張応力値が低く突条を有する電線の表面に対する変形追従性に優れる材料を使用することができる。300%引張応力値が0.098MPa未満では、コア部材30上に拡径したときに切断する虞がある。なお、さらに好ましい300%引張応力値は、0.294MPa〜1.96MPaの範囲である。
【0048】
第2筒状部材140も、第1筒状部材110と同様に射出成形等の方法により、円筒形に成形することができる。第2筒状部材140も自然状態から拡径された状態でコア部材120に装着されており、コア部材120を除去することで電線上に収縮することができる。
【0049】
第2筒状部材140を構成する材料には、上述のようにパテ材料を使用することができる。パテ材料は応力が加えられたときに塑性変形を示し、その形状を任意の形に変化させることができる材料である。パテ材料としては、ブチルゴム系、エポキシ系、シリコーン系などの材料が使用できる。このようなパテ材料を一般的な拡径された電線被覆用チューブのシール部に適用すると、チューブの締め付け圧によってシール部の外に排出されて、施工前にシール部に十分なパテ材料がなくなってしまう虞がある。本発明の第1円筒状部材のシール部にパテ材料を適用すると、その環状突部14によってパテ材料の移動が制限され、複数の環状突部14に挟まれた空間にパテ材料が残留することが可能となる。したがって、第2筒状部材としてパテ材料を使用する場合は、第2筒状部材140が2の環状突部114の間に位置するように配置することが好ましい。第2筒状部材をパテ材料で構成する場合、板状に成形されたパテ材料をコア部材の外周面上に巻きつけることで、円筒形状に成形することができる。そののち、第1筒状部材をそれらの上に装着することで電線被覆用チューブを構成することができる。
【0050】
パテ材料を第2円筒部材として使用した場合、電線被覆用チューブを電線の被覆上に収縮させるとパテ材料が圧力の高い領域から低い領域へ流動する。これによって、電線の被覆と突条との境界部78にパテ材料が流動し、環状突部によるシールを補完することができる。
【0051】
つぎに本発明の第3の実施形態にかかる電線被覆用チューブ201を図8に示す。この実施形態では、第3円筒状部材250の両端に、それぞれ第1筒状部材210が配されている。第1筒状部材210はその両端にシール部を有している。一方のシール部のみが環状突部214を備え、コア部材220上に拡径された状態で配されている。他方のシール部は、そのシール部の自然状態の内径よりも大きい外径を有する第3筒状部材250上に、予め収縮されている。第3筒状部材250が第1の実施例に係る第1筒状部材10の収容部11の機能を有するため、この実施例に係る第1筒状部材210は収容部を備えなくとも良い。第3筒状部材は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂や金属などの硬質の材料からなっており、収縮されている第1筒状部材との界面で気密状態を構成している。このような形態の電線被覆用チューブ201も他の実施形態と同様に、被覆表面に突起を有するケーブル上に取り付けることができる。電線の接続部を外力から保護したい場合には、本実施形態の電線被覆用チューブが好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】被覆表面に突条を有する電線の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態にかかる電線被覆用チューブの断面図である。
【図3】本発明に使用できるコア部材の一形態を示す斜視図である。
【図4】図3に示すコア部材の断面図である。
【図5】本発明に使用できるコア部材の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態にかかる電線被覆用チューブの使用状態を説明する断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態にかかる電線被覆用チューブの断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態にかかる電線被覆用チューブの断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1、101、201 電線被覆用チューブ
10、110、210 第1筒状部材
12、112、212 シール部
14、114、214 環状突部
20、20a、120、220 コア部材
22、22a 拡径部材
24、26、24a、26a 本体部
29、29a 前端部
30、30a 滑り部材
32、32a 第1表面
34、34a 第2表面
36、36a 第1部分
38、38a 第2部分
140 第2筒状部材
250 第3筒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にシール部を備えるエラストマ材料からなる電気絶縁性の第1筒状部材と、
前記シール部の半径方向内側表面に突設され、前記第1筒状部材の円周方向に延在し、それぞれが離間して配されている複数の環状突部と、
前記シール部の半径方向内側に配置され、前記シール部をその半径方向外側へ拡大した状態に維持する除去可能なコア部材と、
を備えた電線被覆用チューブ。
【請求項2】
前記電線被覆用チューブに前記電線を挿通し、前記第1筒状部材から前記コア部材を除去して前記電線上に前記第1筒状部材の前記シール部を収縮させたときに、前記シール部の突条間部が前記電線の被覆と接触しないように複数の前記環状突部の高さ及び間隔が設定されている請求項1に記載の電線被覆用チューブ。
【請求項3】
前記シール部に配された複数の前記環状突部が、それぞれ異なる高さおよび/または形状を有する請求項1または2のいずれか1項に記載の電線被覆用チューブ。
【請求項4】
前記コア部材が、筒状の本体部を有する拡径部材と、該本体部の表面に配置されたフィルム状の滑り部材とを備え、前記電線被覆用チューブから摺動して離脱可能なコア部材である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線被覆用チューブ。
【請求項5】
前記滑り部材が、第1表面と、前記第1表面の裏面に低摩擦性の第2表面とを有し、
前記滑り部材は、その一部で前記第1表面が外側、前記第2表面が内側になるように折り返された状態で前記コア部材の前記本体部の表面に配置されている請求項4に記載の電線被覆用チューブ。
【請求項6】
前記筒状部材よりも硬度の低い材料で構成された筒状の第2筒状部材を、前記シール部と前記コア部材との間に備える請求項1〜5のいずれか1項に記載の電線被覆用チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−165214(P2009−165214A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339758(P2007−339758)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】