説明

電線被覆用絶縁テープ

【課題】高温高湿環境に暴露されたときの耐性の改善されたポリイミドフィルムとフッ素系樹脂との積層体を用いた、モーター用のコイル、ケーブル、航空機用電線等の絶縁被覆用絶縁テープを提供することを目的とする。
【解決手段】Ti元素を含有するポリイミドフィルムの片面または両面にフッ素樹脂層が積層されて構成される積層体をテープ状に加工したものであって、該ポリイミドフィルムの表面のTi元素の原子数濃度の範囲が0.2〜1原子数%であり、該積層体が、SAE AS4373method 602の方法に従い、70℃5重量%塩化ナトリウム水溶液に2000時間浸漬した後の耐電圧テストにパスする特性を有するものである、電線被覆用絶縁テープを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体およびその積層体をテープ状に加工した電線被覆用絶縁テープに関し、更に詳しくは耐加水分解性に優れたポリイミドとフッ素樹脂の積層体、および電線被覆用絶縁テープに関するものである。本発明のポリイミドとフッ素樹脂の積層体は、テープ状として銅などの導体に巻かれ、モーター用のコイル、ケーブルあるいは航空機用電線等に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性等の特性が優れており、ポリイミドフィルムの片面または両面をフッ素系樹脂で被覆したポリイミドフィルムとフッ素樹脂層の積層体として、これをテープ状に加工し、導体に被覆した電線被覆用途に好ましく用いられる。
【0003】
特に近年は電気機器の高性能、高機能化が進み、これらの電気機器が高温、高湿度の環境下で使用される用途も広がっている。更に、電線の電流量も増大し、発熱に伴い電線が一層高温に曝される場合が少なくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この様な環境下では、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体においてポリイミドフィルムの樹脂が加水分解を起こし被覆部の絶縁破壊電圧が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記従来の問題点を解決し、耐加水分解性に優れたポリイミドとフッ素樹脂の積層体及びこれを用いた電線被覆用絶縁テープを提供すべく鋭意研究を重ねた結果、高温・高湿環境に対する耐性の高いポリイミドフィルムを用いてポリイミドとフッ素樹脂の積層体を作製することにより耐加水分解性に優れるポリイミドとフッ素樹脂の積層体及び電線被覆用絶縁テープが得られることを見いだした。更に、Al、Si、Ti、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Sn、Sb、PbおよびBiからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含有するポリイミドフィルムが高温高湿環境に対する耐性に優れることを見いだし、本発明に至ったのである。
【0006】
本発明にかかるポリイミドとフッ素樹脂の積層体は、SAE AS4373method 602の方法に従い、70℃5重量%塩化ナトリウム水溶液に2000時間浸漬した後の耐電圧テストにパスすることを特徴とすることを内容とする。
【0007】
また、前記ポリイミドとフッ素樹脂の積層体は、前記ポリイミドフィルムが、Ti元素を含有することを内容とする。
【0008】
また、本発明にかかる電線被覆用絶縁テープは、本発明にかかるポリイミドとフッ素樹脂の積層体をテープ状に加工したことを内容とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明おいて使用されるポリイミドとフッ素樹脂の積層体は、高温・高湿環境に対する耐性が高いポリイミドを用いているので、耐加水分解性に優れ、これをテープ状に加工して導線に被覆すれば、耐加水分解性に優れた被覆電線を得ることができる。これによれば、高温高湿の厳しい環境下でも機能を損なうことなく動作するモーター用のコイル、ケーブルあるいは航空機用電線等に用いられる電線被覆用絶縁テープを提供することができるという有利性が与えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における用語「ゲルフィルム」とは、ポリアミド酸をイミド化してポリイミドとする反応過程において、部分的に硬化または部分的に乾燥された状態のフィルムであり、ポリアミド酸とイミド化されたポリイミドが混在している状態で、自己支持性を有するフィルムをいう。また、本発明における用語「保持率」とは、フィルムを150℃100%RH環境において12時間曝露した後の引き裂き伝播抵抗強度の、暴露前の初期引き裂き伝播抵抗強度に対する比率を表す。
【0011】
本発明において使用されるポリイミドフィルムとフッ素樹脂層で構成される積層体は、耐加水分解性に優れた特性を有する。詳細には、高温高湿環境下での耐性に優れたポリイミドフィルム、より具体的には、高温高湿環境に暴露された後の引裂伝播抵抗強度の保持率の高いポリイミドフィルムを用いた耐加水分解性の優れた積層体である。
【0012】
以下、本発明において使用されるポリイミドとフッ素樹脂の積層体の実施の形態を具体的に説明する。まず、本発明にかかるポリイミドとフッ素樹脂の積層体に用い得るポリイミドフィルムについて説明する。
【0013】
本発明において使用されるポリイミドフィルムは、公知の方法で製造することができる。即ちポリイミドの前駆体物質であるポリアミド酸を含む有機溶媒溶液を支持体に流延、塗布し、化学的にあるいは熱的にイミド化することで得られる。
【0014】
本発明に用いられるポリイミドの前駆体物質であるポリアミド酸は、通常、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、制御された温度条件下で、重合が完了するまで攪拌することによって製造される。
【0015】
本発明に用いられるポリアミド酸を合成するための適当な酸無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物 )、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物を含む。
【0016】
これらのうち、本発明において使用されるポリイミドとフッ素樹脂の積層体における使用のための最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)であり、これらを単独または、任意の割合の混合物が好ましく用い得る。
【0017】
本発明に用いられるポリアミド酸を合成するための適当なジアミンは、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p
−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、及びそれらの類似物を含む。
【0018】
これらのうち、本発明において使用されるポリイミドとフッ素樹脂の積層体における使用のための最も適当なジアミンは、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びp−フェニレンジアミンが特に好ましく、また、これらをモル比で100:0から10:90の割合で混合した混合物が好ましく用い得る。
【0019】
ポリアミド酸を合成するための溶媒は、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミドが特に好ましく用い得る。
【0020】
上記の有機溶媒中で、酸無水物及びジアミンを重合して得られたポリアミド酸溶液は、ポリアミド酸固形分として15〜25wt%の濃度で得られることが好ましい。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得るためである。
【0021】
また、ポリイミドはポリアミド酸をイミド化して得られるが、イミド化には、熱キュア法及びケミカルキュア法のいずれかを用いる。これらのうち、ケミカルキュア法による方が好ましい。熱キュア法は、脱水閉環剤等を作用させずに加熱だけでイミド化反応を進行させる方法である。
【0022】
ケミカルキュア法は、ポリアミド酸有機溶媒溶液に、化学的転化剤と触媒とを作用させる方法である。化学的転化剤は、例えば脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N ' - ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物またはそれら2種以上の混合物が挙げられる。それらのうち、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ラク酸等の脂肪族無水物またはそれらの2種以上の混合物が、好ましく用い得る。
【0023】
触媒としては脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等が用いられる。それらのうちイソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等が特に好ましく用い得る。
【0024】
ケミカルキュア法に熱キュア法を併用してもよい。イミド化の反応条件は、ポリアミド酸の種類、フィルムの厚さ、熱キュア法及び/またはケミカルキュア法の選択等により、変動し得る。
【0025】
具体的に、ケミカルキュア法を例としてポリアミド酸有機溶媒溶液からポリイミドフィルムを製造する方法について、以下説明する。上記得られたポリアミド酸組成物に化学的転化剤と触媒を混合した後、支持体に流延、塗布する。次に、例えば100℃程度で緩やかに加熱し、化学的転化剤と触媒を活性化させて、部分的に硬化または部分的に乾燥したポリアミド酸フィルム(以下ゲルフィルムという)に転移させる。
【0026】
ゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへのイミド化の中間段階にあり、自己支持性を有する。ゲルフィルムは、部分的に硬化または部分的に乾燥された状態であり、ポリアミド酸とイミド化されたポリイミドが混在している。このゲルフィルムは、揮発成分含量およびイミド化率が一定の範囲であるように調整される。揮発成分含量は、式1から算出される。
【0027】
(A−B)×100/B・・・・式1
式1中、A、Bは、以下のものを表す。
Aは、ゲルフィルムの重量
Bは、ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量
【0028】
また、イミド化率は、赤外線吸光分析法を用いて、式2から算出される。
【0029】
(C/D)×100/(E/F)・・・・式2
式2中、C、D、E、Fは以下のものを表す。
C:ゲルフィルムの1370cm-1の吸収ピーク高さ
D:ゲルフィルムの1500cm-1の吸収ピーク高さ
E:ポリイミドフィルムの1370cm-1の吸収ピーク高さ
F:ポリイミドフィルムの1500cm-1の吸収ピーク高さ
【0030】
揮発成分含量は、5〜300%の範囲、好ましくは、5〜100%の範囲、より好ましくは5〜50%の範囲である。また、イミド化率は50%以上の範囲、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上の範囲である。
【0031】
得られたゲルフィルムは、テンター工程での収縮を抑制するため、収縮抑制用のテンタークリップまたピンを用いてフィルムの端部を保持し、段階的にフィルムを加熱して乾燥かつイミド化して、ポリイミドフィルムとする。具体的には、200℃程度から段階的に加熱し、最終的には500℃以上の温度で15〜400秒加熱するのが好ましい。
【0032】
本発明において使用されるポリイミドとフッ素樹脂の積層体に用いられるポリイミドフィルムは、150℃100%RHの環境に12時間曝露した後の引き裂き伝播抵抗強度の保持率が、曝露する前の引裂き伝播抵抗強度の80%以上であることを必須とする。
【0033】
引き裂き伝播抵抗強度が高温・高湿環境に対して上記のような保持率を発現するポリイミドフィルムは、これをフッ素樹脂との積層体に用いることにより、高温・高湿環境に対する耐性が高い積層体、さらには耐加水分解性に優れた電線被覆用絶縁テープを得ることができる。
【0034】
この150℃100%RHの環境に12時間曝露した後の引き裂き伝播抵抗強度の保持率が曝露する前の引裂き伝播抵抗強度の80%以上である条件を具備したポリイミドフィルムには、例えばAl、Si、Ti、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Sn、Sb、PbおよびBiからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の元素を含有するポリイミドフィルムをあげることができる。これらの元素は、上記ポリイミドフィルムの製造工程のいずれかの段階において、ポリイミドフィルムに含有させることができる。
【0035】
上記性質を有するポリイミドフィルムに含有される、Al、Si、Ti、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Sn、Sb、PbおよびBiからなる群から選ばれる元素は、上記元素を含む有機または無機化合物の形のものが好ましく用いられる。具体的には、無機化合物としては、例えば塩化物、臭化物等のハロゲン化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩、縮合リン酸塩等が挙げられる。
【0036】
また、有機化合物としては、たとえば、アルコキシド、アシレート、キレートやジアミン、ジホスフィン等の中性分子やアセチルアセトナートイオン、カルボン酸イオン、ジチオカルバミン酸イオン等を有する有機化合物、またポリフィリン等の環状配位子等が挙げられる。
【0037】
この中で、好ましい元素はSi、Ti、Snであり、特に好ましい元素はチタンである。これらの元素を含む化合物はアルコキシド、アシレート、キレート、あるいは金属塩の形で与えられる。
【0038】
チタン元素を含む化合物は一般式、化2
【0039】
【化2】

【0040】
で示されるものが好ましく、具体的にはトリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ブチルチタネートダイマー、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2ーエチルヘキシル)チタネート、チタンオクチレングリコレートなどが例示される他、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジヒドロキシチタンビスラクテート等も使用可能である。最も好ましいのはトリ−n−ブトキシチタンモノステアレートあるいはジヒドロキシチタンビスラクテートである。
【0041】
フィルム表面のこれらの元素の原子数濃度は、X線光電子分光法で測定することができる。原子数濃度の範囲は、0.01〜10原子数%、より好ましくは0.2〜1原子数%である。これらの範囲である場合、耐加水分解性の良好なフィルムを得ることができる。
【0042】
上記元素をポリイミドフィルムに含有させる方法としては、種々ある。例えば、ポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液に、Al、Si、Ti、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Sn、Sb、PbおよびBiからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の元素を含む化合物を混合した後に、ポリアミド酸をポリイミドに転化する方法がある。
【0043】
ポリアミド酸溶液に、元素を含む化合物を混合する工程において、Al、Si、Ti、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Sn、Sb、PbおよびBiからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の元素の化合物の形状は、液状、コロイド状、スラリー状、あるいは固形状のものが可能であり、適当な溶媒に希釈した溶液で混合するのが、作業性、混合の均一性等の観点から好ましい。酸無水物、ジアミン、元素を含む化合物、化学的転化剤、触媒の混合順序は、基本的には、限定されない。
【0044】
また、上記元素をポリイミドフィルムに含有させる他の方法としては、ゲルフィルムを製造する工程の後に、Al、Si、Ti、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Sn、Sb、PbおよびBiからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の元素を含む化合物の溶液をこのゲルフィルムに塗布し、その後、このフィルムを加熱乾燥してイミド化しポリイミドフィルムを得る方法がある。
【0045】
上記ゲルフィルムに、上記元素を含む溶液を塗布する工程においては、塗布方法は、当業者が用い得る公知の方法を用い得るが、例えば、グラビアコート、スプレーコート、ナイフコート、ディップコート等を用いた塗布方法が利用可能であり、作業性や設備の単純さの観点より、ディップコート方式が特に好ましく用い得る。
【0046】
なお、本発明において使用される積層体に用いられる元素を含有ポリイミドの種々の製造方法において、ポリアミド酸溶液に元素を含む化合物を混合する場合の元素を含む溶液、ゲルフィルムに塗布する場合の元素を含む化合物の溶液、ゲルフィルムを浸漬する場合に用いる浸漬液の元素を含む化合物の溶液に使用される溶剤は、該化合物を溶解するものであれば良い。例示すると、水、トルエン、テトラヒドロフラン、2−プロパノール、1−ブタノール、酢酸エチル、N,N−ジメチルフォルムアミド、アセチルアセトンなどが使用可能である。これらの溶剤を2種類以上混合して使用しても良い。本発明において、N,N−ジメチルフォルムアミド、1−ブタノール、2−プロパノールおよび水が特に好ましく用いられ得る。
【0047】
ゲルフィルムは、上記元素を含む化合物の溶液を塗布または浸漬した後フィルム表面の余分な液滴を除去する工程を加えることにより、フィルム表面にムラのない外観の優れたポリイミドフィルムを得ることができるので好ましい。
【0048】
液滴の除去は、ニップロール、エアナイフ、ドクターブレードなどの公知の方法が利用可能であり、フィルムの外観、液切り性、作業性等の観点より、ニップロールが好ましく用いられ得る。
【0049】
上記元素を含有した元素を含む溶液を塗布または浸漬したゲルフィルムを支持体から剥離し、硬化時の収縮を回避するため端部を固定して、乾燥し、水、残留溶媒、残存転化剤及び触媒を除去し、ポリアミド酸をポリイミドに転化して、本発明において使用されるポリイミド積層体に用いられるポリイミドフィルムを得る。乾燥条件は、上記ポリイミドの製造方法と同様である。
【0050】
上記種々の方法で得られるポリイミドフィルムは、公知の方法で無機あるいは有機物のフィラー、有機リン化合物等の可塑剤や酸化防止剤を添加してもよく、またコロナ放電処理やプラズマ放電処理等の公知の表面処理を施しても良い。
【0051】
本発明に使用するポリイミドフィルムの膜厚は、用途に応じて適切な厚さを選択し得るが、具体的には5〜300μm、好ましくは5〜125μm、より好ましくは、5〜75μmである。
【0052】
次に、本発明において使用されるポリイミドとフッ素樹脂の積層体について説明する。本発明に係るポリイミドとフッ素樹脂の積層体は、上記得られたポリイミドフィルムの両面または片面にフッ素樹脂を積層したものであり、かかるフッ素樹脂を積層した後加熱焼成するものである。このポリイミドとフッ素樹脂の積層体の製造方法は、当業者が周知のあらゆる方法により可能であるが、たとえば、この積層体は、通常、フィルム状のフッ素樹脂をポリイミドフィルムにラミネートする方法、あるいはポリイミドフィルムにフッ素樹脂のディスパージョンを塗布する方法により得ることができる
【0053】
本発明において使用されるフッ素樹脂は、フッ素含有量が、通常20重量%以上、好ましくは50〜76重量%のものが用いられる。具体的には、テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンーエチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂をあげることができる。
【0054】
ディスパージョンとしては、例えばテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下FEPという)やポリテトラフルオロエチレンを水又は有機溶剤に分散したものが好ましく用いられる。
【0055】
具体的には、ディスパージョンを塗布する場合は、上記フッ素系樹脂のディスパ−ジョンを調製する。ここで用いられるディスパージョンの固形成分濃度は、特に制限されないが、10重量%〜70重量%が取り扱いの面において好ましく用いられる。
【0056】
ラミネートする場合のフィルムとしては、代表的にはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体および塩素を含むポリクロロトリフルオロエチレン等のフィルムがある。
【0057】
本発明において使用されるポリイミドとフッ素樹脂の積層体に使用するフッ素樹脂の厚さは、ディスパージョンの場合は、適切な厚みに達するまで数回の塗布が可能である。また、フィルムとして積層する場合、フィルムの膜厚は、7.5〜125μmが好適である。
【0058】
これらのディスパージョン、またはフィルムには公知の方法で無機あるいは有機物のフィラー等を添加しても良い。また、フッ素樹脂の表面やポリイミドフィルムとの接着面にコロナ放電処理やプラズマ放電処理などの公知の表面処理を施しても良い。
【0059】
次に、本発明にかかる電線被覆用絶縁テープについて説明する。この電線被覆用絶縁テープは、導体表面の絶縁性を確保するため、導体に被覆して使用する。被覆される導体としては、基本的には、電気伝導性の良好な材料であれば、限定されるものでなく、例えば、軟銅、硬銅、無酸素銅、クロム鉱、アルミニウム等の線材、棒状あるいは板状体材料等が用いられる。また、これらに機械的強度が要求される場合は、上記材料にマグネシウム、ケイ素、鉄などが添加され得る。
【0060】
本発明において使用される電線被覆用絶縁テープは、被覆電線に適する幅にテープ状に加工し、上記導体に被覆する。具体的にはテープ状のポリイミドとフッ素樹脂の積層体を導体に巻きつけ、その後所定の熱処理によりフッ素樹脂を熱融着して被覆電線を製造する。本発明にかかるポリイミドとフッ素樹脂の積層体を被覆することにより、耐加水分解性の優れた被覆電線を得ることができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、及び改変を行い得る。
【0062】
実施例中の引裂伝播抵抗強度は、ASTM D−1938の方法に従い測定した。非暴露フィルムの引裂き伝播抵抗強度に対する、150℃、100%RHの環境に12時間暴露後の引裂き伝播抵抗強度の比率を保持率とした。
【0063】
また、耐加水分解性は、SAE AS4373method 602の方法に従い、70℃5重量%塩化ナトリウム水溶液に2000時間浸漬した後の耐電圧テストにパスするか否かで、合否を判断した。
【0064】
(比較例1)
ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル/p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の17wt%のDMF溶液90gに、無水酢酸17gとイソキノリン2gからなる転化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に厚さ350μm で流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を110℃2分間加熱し、揮発分含量40%、イミド化率85%の自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各1分間加熱して厚さ25μmのポリイミドフィルムを製造した。このポリイミドフィルムを150℃、100%RHの環境に12時間暴露する前後の引裂き伝播抵抗を測定し、表1に示した。保持率は、38%であった。
【0065】
【表1】

【0066】
このポリイミドフィルムの両面に焼成後のFEP層がそれぞれ2.5μmとなるようにFEP水性ディスパージョンを塗布し、150℃1分間乾燥、415℃15秒間焼成してポリイミドとフッ素樹脂の積層体を作製した。得られたポリイミドとフッ素樹脂の積層体を作成した。得られたポリイミドとフッ素樹脂の積層体を用いて被覆電線を作成し耐電圧を判定した。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例1)
ポリアミド酸のDMF溶液90gにトリ−N−ブトキシチタンモノステアレート0.1g、トルエン10gからなる有機チタン溶液を添加する以外は比較例1と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
ゲルフィルムを、チタン元素濃度100ppmのトリ−N−ブトキシチタンモノステアレート/1−ブタノール溶液に10秒間浸漬し、余分な液滴を除去する以外は比較例1と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
ゲルフィルムを、チタン元素濃度100ppmのジヒドロキシチタンビスラクテート/1−ブタノール溶液に10秒間浸漬し、余分な液滴を除去する以外は比較例1と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
ゲルフィルムに、チタン元素濃度100ppmのジヒドロキシチタンビスラクテート/水溶液をスプレーコート方式で余分な液がフィルムに付着しないように塗布する以外は比較例1と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表1に示す。
【0071】
(実施例5)
ポリアミド酸のDMF溶液90gに塩化第1スズを0.2gを添加する以外は比較例1と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
ピロメリット酸二無水物/p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)/p−フェニレンジアミン/4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1/1/1の割合で合成する以外は比較例1と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表2に示す。
【0073】
(実施例6)
ピロメリット酸二無水物/p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)/p−フェニレンジアミン/4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1/1/1の割合で合成する以外は実施例2と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
(比較例3)
ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1の割合で合成する以外は比較例1と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表3に示す。
【0076】
(実施例7)
ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1の割合で合成する以外は実施例2と同様の方法でポリイミドフィルム、ポリイミドとフッ素樹脂の積層体、及び被覆電線を作製し、引き裂き伝播抵抗と耐電圧を判定した結果を表3に示す。
【0077】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti元素を含有するポリイミドフィルムの片面または両面にフッ素樹脂層が積層されて構成される積層体をテープ状に加工したものであって、該ポリイミドフィルムの表面のTi元素の原子数濃度の範囲が0.2〜1原子数%であり、該積層体が、SAE AS4373method 602の方法に従い、70℃5重量%塩化ナトリウム水溶液に2000時間浸漬した後の耐電圧テストにパスする特性を有するものである、電線被覆用絶縁テープ。
【請求項2】
前記ポリイミドフィルムが、
ポリアミド酸を部分的にイミド化したゲルフィルムを製造するステップと、
該ゲルフィルムの表面に、Ti元素を含有する化合物の有機溶媒溶液をディップコート方式により塗布するステップと、
その後ポリアミド酸をポリイミドに転化するステップと、
該フィルムを乾燥するステップと
を含む工程により製造されるポリイミドフィルムである、請求項1記載の電線被覆用絶縁テープ。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムが、
前記有機溶媒溶液を塗布された前記ゲルフィルムの表面の余分な液滴をニップロールにより除去するステップを含む工程により製造されるポリイミドフィルムである、請求項2記載の電線被覆用絶縁テープ。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムが、
ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸に
化1
【化1】

で示される有機チタン化合物を添加するステップと、
その後ポリアミド酸をポリイミドに転化させるステップと
を含む工程により製造されるポリイミドフィルムである、請求項1記載の電線被覆用絶縁テープ。
【請求項5】
前記ポリイミドフィルムが、
ポリアミド酸を部分的にイミド化したゲルフィルムを製造するステップと、
該ゲルフィルムの表面に、
化1
【化1】

で示される有機チタン化合物の有機溶媒溶液を塗布するステップと、
その後ポリアミド酸をポリイミドに転化するステップと、
該フィルムを乾燥するステップと
を含む工程により製造されるポリイミドフィルムである、請求項1記載の電線被覆用絶縁テープ。

【公開番号】特開2006−339164(P2006−339164A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168270(P2006−168270)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【分割の表示】特願平11−310944の分割
【原出願日】平成11年11月1日(1999.11.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】