説明

電荷輸送性化合物、それを用いた電荷輸送膜、有機電界発光素子、電子写真感光体、電荷輸送膜の製造方法及び新規電荷輸送性化合物。

【課題】優れた電荷輸送性を示し、酸素存在下でも優れた硬化性を示す電荷輸送膜及びそれに有用な新規電荷輸送性化合物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物を含有する組成物を用いてなる架橋物を含む電荷輸送膜。一般式(1)中、Ar11、Ar12はアリール基を表す。nは1又は2を表す。R11は、nが1のときアリール基、アルケニル基等を表し、nが2のときアリーレン基、アルケニレン基等を表わす。一般式(2)中、R21、R22はアルキル基、アリール基、アシル基を表す。一般式(2)で表される架橋基は、前記一般式(1)で表される部分構造とR21、R22のいずれかを介して結合し、その結合数は1ないし6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規電荷輸送性化合物、それを用いた電荷輸送膜並びにその製造方法、および電荷輸送膜の好ましい使用態様である有機電界発光素子、電子写真感光体に関し、特に電気特性、耐久性に優れた電荷輸送膜、その製造に用いる電荷輸送性化合物、電荷輸送膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブル、軽量かつ安価など種々の特徴が期待され種々の有機デバイスが開発されている。代表的な有機デバイスとして有機電界発光素子、有機光電変換素子(太陽電池や撮像素子など)、有機トランジスター、タッチパネルなどの開発が行われているが、それらに用いられる電荷輸送膜は、電荷輸送性ばかりでなく、光安定性、酸化還元安定性、機械的強度などの耐久性、薄膜の製造適性など、種々の特性が要求される。
代表的な有機電荷輸送膜の形成方法としては、真空蒸着法や湿式成膜法が挙げられ、真空蒸着法は積層化が可能であるが、真空プロセスが必要で装置が大かがりとなる。一方、塗布による湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点があるが、特に有機電界発光素子などの1μm以下の薄膜形成において積層化が困難であるため、真空蒸着法による素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。特に、湿式成膜法での積層化は、有機溶媒と水系溶媒を使用するなどして二層の積層は可能であるが、三層以上の積層化は困難であった。
【0003】
そこで、多層膜形成に適した技術として、電荷輸送材料に架橋基を導入し、それを架橋させることで不溶化し、多層塗布を実現することが示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、電子写真感光体において、電荷輸送材料に架橋基を導入し、それを硬化させることで、機械的強度が向上し、かつ感度や残留電位等の電子写真特性に優れ、繰り返し使用時も安定した性能を発揮する電荷輸送膜を得る技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)
しかしながら、ラジカル架橋性の二重結合においては、空気中で硬化反応を行った場合、酸素に起因する重合阻害が生じ、十分な硬化性が得られないという問題がある。
【0004】
また、電子写真方式の画像形成装置は、一般的には、電子写真感光体表面を帯電手段で所定の極性および電位に一様に帯電させ、帯電後の電子写真感光体表面を、像露光により選択的に除電することにより静電潜像を形成させた後、現像手段で該静電潜像にトナーを付着させることにより、潜像をトナー像として現像し、トナー像を転写手段で被転写媒体に転写させることにより、画像形成物として排出させる。
近年、電子写真感光体は、高速、かつ高印字品質が得られるという利点を有するため、複写機及びレーザービームプリンター等の分野において著しく利用され、従来からのセレン、セレン−テルル合金、セレン−ヒ素合金、硫化カドミウム等無機光導電材料を用いた電子写真感光体に比べ、安価で製造性及び廃棄性の点で優れた利点を有する有機光導電材料を用いた有機感光体が主流を占める様になってきている。
有機感光体では、帯電方式として、低コストの接触帯電方式を用いた場合、感光体表面で直接放電させることにより、感光体の劣化、磨耗を発生しやすいという欠点を有する。
また、転写方式としては中間転写体を用いる場合に、画質形成装置内に混入する異物が中間転写体と感光体に挟まり、感光体を傷つける懸念があり、その結果、感光体リーク(感光体に局所過大電流が流れる現象)を発生しやすいという課題も有する。
このため、電子写真感光体の強度向上が求められ、例えば、表面に保護層を設けて強度を向上させることが提案され、種々の保護層を形成する材料系に工夫がなされている。例えば、近年ではアクリル系材料による保護層が注目され、光硬化型アクリル系モノマーを含有する液を塗布し硬化した膜(例えば、特許文献3参照。)や、炭素−炭素二重結合を有するモノマー、炭素−炭素二重結合を有する電荷移動材及びバインダー樹脂の混合物を熱、あるいは光のエネルギーによって反応させることにより形成された膜(例えば、特許文献4参照。)が、それぞれ提案されている。
これらアクリル系材料の重合にも酸素による阻害の問題がなお存在するため、例えば、真空中、あるいは不活性ガス中で放射線照射後に加熱して硬化する方法が(例えば、特許文献5、6参照。)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−198989号
【特許文献2】特開2000−147814号
【特許文献4】特開平7−146564号公報
【特許文献5】特開平2006−84711号公報
【特許文献7】特開平5−40360号公報
【特許文献6】特開平7−72640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のごとく、膜強度向上のための架橋基のうち、高い架橋率が確保されるアクリル基、メタクリル基等を有するラジカル重合系の二重結合では、酸素による重合阻害による架橋率低下が問題となり、脱酸素下で重合を行う場合、設備化が必要となり、簡便な設備で塗布膜を作製できると言う塗布のメリットが低減する。
これを鑑みた上、本発明が解決しようとする第一の課題は、酸素存在下でも十分重合が進行し、簡便に製造可能であり、機械的強度に優れ、積層塗布可能な電荷輸送膜を提供することである。また、本発明の第二の課題は同時に良好な電気特性、耐久性を保持する電荷輸送膜及びその好適な応用態様である有機電界発光素子、有機光電変換素子及び電子写真感光体を提供することである。
さらに、本発明の第三の課題は、前記本発明の電荷輸送膜の簡易に製造しうる電荷輸送膜の形成方法を提供することである。
また、本発明の第四の課題は前記本発明の電荷輸送膜に有用な新規架橋性電荷輸送性化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは検討の結果、特定構造を有する重合性基を電荷輸送性化合物に導入することで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明の構成は以下に示すとおりである。
<1> 一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物を含有する組成物を用いてなる架橋物を含む電荷輸送膜である。
【0008】
【化1】

【0009】
[前記一般式(1)中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に置換もしくは無置換のアリール基を表し、R11は、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、及び、置換もしくは無置換のアルキニル基かならなる群より選択される置換基を表す。Qは単結合又はn価の連結基を表し、nが1の時は存在しない。nは1又は2を表す。前記一般式(2)中、R21、R22はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基又は、置換もしくは無置換のアシル基を表す。一般式(2)で表される架橋基は、前記一般式(1)で表される部分構造とR21、R22のいずれかを介して結合し、その結合数は1ないし6である。]
<2> 前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物が、下記一般式(A)で表される化合物である<1>に記載の電荷輸送膜。
【0010】
【化2】

【0011】
[前記一般式(A)中、R31、R32、R33はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、炭素数12〜20のジアリールアミノ基、n31、n32、n33はそれぞれ0ないし6の整数を表す。L31、L32は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n37、n38は0ないし1を表す。R35は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R36は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n35、n36は0ないし6の整数を表し、n35、n36は同時に0ではない。]
該化合物は、酸化電位が高いために、酸化安定性に優れるという利点を有する。
<3> 前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物が、下記一般式(B)で表される化合物である<1>に記載の電荷輸送膜。
【0012】
【化3】

【0013】
[前記一般式(B)中、R41、R42、R43はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n41、n42、n43はそれぞれ0ないし6の整数を表し、n40は0ないし2の整数を表す。R44は水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。L41、L42は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n47、n48は0ないし1を表す。R45は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R46は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n45、n46は0ないし6の整数を表し、n45、n46は同時に0ではない。]
該化合物は、分子内に共役鎖を有するために、正孔移動性が良好であり、正孔輸送材料に好適であるという利点を有する。
<4> 前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物が、下記一般式(C)で表される化合物である<1>に記載の電荷輸送膜。
【0014】
【化4】

【0015】
[前記一般式(C)中、R51、R52、R53、R54、R55、R56はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n51、n52、n53、n54はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n55、n56はそれぞれ0ないし4の整数を表す。L56は、単結合、又は、2価の連結基を表す。L51、L52は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n57、n58は0ないし1を表す。R57は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R58は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n59、n60は0ないし6の整数を表し、n59、n60は同時に0ではない。]
該化合物は、L56が単結合である態様では電荷移動性に優れるという利点を有し、L56が二価の連結基である態様では、酸化電位が高いために、酸化安定性に優れるという利点を有する。
<5> 前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物が、下記一般式(D)で表される化合物である<1>に記載の電荷輸送膜。
【0016】
【化5】

【0017】
[前記一般式(D)中、R61、R62、R63、R64及びR65はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n61、n62、n63、n64はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n65、n66はそれぞれ0ないし4の整数を表す。L61、L62は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n67、n68は0ないし1を表す。R67は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R68は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n69、n70は0ないし6の整数を表し、n69、n70は同時に0ではない。]
該化合物は、電荷移動性が良好であり、形成された硬化膜の熱安定性に優れるという利点を有する。
<6> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の電荷輸送膜を備えてなる有機EL素子。
<7> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の電荷輸送膜を備えてなる有機光電変換素子。
<8> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の電荷輸送膜を備えてなる電子写真感光体。
<9> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の電荷輸送膜が最表面層に位置する請求項9記載の電子写真感光体。
<10> 前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物と重合開始剤を混合した塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、前記塗布膜を加熱して架橋物を得る架橋物形成工程と、を有する<1>〜<5>のいずれか1項に記載の電荷輸送膜の製造方法。
<11> 前記架橋物形成工程が、前記塗布膜表面における酸素濃度が200ppm以上の条件下で行われる<10>に記載の電荷輸送成膜の製造方法。
<12> 下記一般式(A)又は下記一般式(B)で表される電荷輸送性化合物。
【0018】
【化6】

【0019】
[前記一般式(A)中、R31、R32、R33はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、炭素数12〜20のジアリールアミノ基、n31、n32、n33はそれぞれ0ないし6の整数を表す。L31、L32は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n37、n38は0ないし1を表す。R35は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R36は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n35、n36は0ないし6の整数を表し、n35、n36は同時に0ではない]
【0020】
【化7】

【0021】
[前記一般式(B)中、R41、R42、R43はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n41、n42、n43はそれぞれ0ないし6の整数を表し、n40は0ないし2の整数を表す。R44は水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。L41、L42は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n47、n48は0ないし1を表す。R45は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R46は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n45、n46は0ないし6の整数を表し、n45、n46は同時に0ではない。]
<13> 下記一般式(C)、又は、一般式(D)で表される電荷輸送性化合物。
【0022】
【化8】

【0023】
[前記一般式(C)中、R51、R52、R53、R54、R55、R56はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n51、n52、n53、n54はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n55、n56はそれぞれ0ないし4の整数を表す。L56は、単結合又は2価の連結基を表す。L51、L52は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n57、n58は0ないし1を表す。R57は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R58は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n59、n60は0ないし6の整数を表し、n59、n60は同時に0ではない。]
【0024】
【化9】

【0025】
[前記一般式(D)中、R61、R62、R63、R64及びR65はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n61、n62、n63、n64はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n65は0ないし4の整数を表す。L61、L62は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、又は、これらの組合せからなる連結基を表し、n67、n68は0ないし1を表す。R67は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R68は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n69、n70は0ないし6の整数を表し、n69、n70は同時に0ではない。]
【0026】
前記一般式(A)〜一般式(D)で表される電荷輸送性化合物は新規化合物であり、これら化合物は、優れた電気輸送特性を示すとともに、これら化合物が備える架橋性基、即ち、前記一般式(2)で示される部分構造である架橋性基は、酸素存在下で優れた架橋性を示す。
本発明における新規架橋性電荷輸送性化合物、および、その作製方法を用いれば、酸素存在下でも重合可能で、機械的強度(耐傷性、耐摩耗性)に優れ、良好な電気特性、耐久性を保持し、積層塗布可能な電荷輸送膜を提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、酸素存在下でも十分重合が進行し、簡便に製造可能であり、機械的強度に優れ、積層塗布可能であり、良好な電気特性、耐久性が長期間維持される電荷輸送膜を提供することができ、また、この電荷輸送膜を適用することで、電気的特性と耐久性に優れた有機EL素子、有機光電変換素子及び電子写真感光体を提供することができる。
さらに、本発明によれば、上記の利点を有する電荷輸送膜を簡易に製造しうる電荷輸送膜の形成方法を提供することができる。
さらに本発明によれば、前記本発明の電荷輸送膜に有用な新規架橋性電荷輸送材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の電子写真感光体の好適な一実施形態を示す概略部分断面図である。
【図2】本発明の電子写真感光体の他の好適な一実施形態を示す概略部分断面図である。
【図3】本発明の電子写真感光体の他の好適な一実施形態を示す概略部分断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の電荷輸送膜、その製造方法、新規電荷輸送材料とその応用について順次説明する。
<一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物>
本発明で用いられる架橋型電荷輸送材料は、一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物(以下、適宜、特定電荷輸送性化合物と称する)であり、これを含有する組成物を加熱などのエネルギー付与により架橋構造を形成させてなる架橋物とすることで、本発明の電荷輸送膜を得ることができる。
【0030】
【化10】

【0031】
前記一般式(1)中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に置換もしくは無置換のアリール基を表し、nは1又は2を表す。nが1のとき、R11は、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、及び、置換もしくは無置換のアルキニル基かならなる群より選択される置換基を表す。Qは単結合又はn価の連結基を表し、nが1の時は存在しない。nが2の場合には、R11は、前記した置換基より水素原子が一つ除かれてなる置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のアルケレン基、及び、置換もしくは無置換のアルキニレン基かならなる群より選択される2価の連結基となり、一般式(1)で表される部分構造は連結基となったR11を介してQと連結する。
【0032】
前記一般式(2)中、R21、R22はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基又は、置換もしくは無置換のアシル基を表す。一般式(2)で表される架橋基は、前記一般式(1)で表される部分構造とR21、R22のいずれかを介して結合するが、その場合、結合部位にあたる置換基R21又はR22から水素原子が一つ除かれた連結基として、一般式(1)で表される部分構造と連結する。本発明の電荷輸送材料1分子には、一般式(2)で表される重合性の部分構造は1ないし6有することができる。
この一般式(2)で表される部分構造(架橋性基)は、酸素存在下での重合性に優れ、これを導入することで、後述する本発明の新規電荷輸送材料により、酸素雰囲気下でも高強度の硬化膜が形成される。
【0033】
【化11】

【0034】
一般式(1)におけるAr11、Ar12、R11で表されるアリール基としては、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えばフェニル、o−メチルフェニル、m−メチルフェニル、p−メチルフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルなどが挙げられる。Ar11、Ar12で表されるアリール基は置換基を有してもよく、置換基としては例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニル、スチリル、1,1−ジフェニルエテン、フェニルブタジエン、1,1−ジフェニルブタジエンなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルなどが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10であり、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含み、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、芳香族ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)。
【0035】
アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)。
【0036】
芳香族ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。
置換基として好ましくは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環基が挙げられ、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ジアリールアミノ基が挙げられる。
【0037】
11で表されるアルケニル基は、好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニル、スチリル、1,1−ジフェニルエテン、フェニルブタジエン、1,1−ジフェニルブタジエンなどが挙げられ、さらに前述の置換基で置換されていてもよい。R11で表されるアルキニル基は、好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニル、フェニルアセチニルなどが挙げられる。
【0038】
一般式(2)で表される部分構造は、一般式(1)で表される部分構造に直接結合していてもよく、また、連結基を介して結合してもよいが、連結基を介する場合の好ましい連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、さらに好ましくは下記具体例で表される連結基を表す。n12は0ないし1を表す。
【0039】
【化12】

【0040】
また、一般式(2)で表される架橋基において、R21は置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表し、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、より好ましくは炭素数1から12のアルキル基(具体的には、メチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、n−デシル、シクロプロピルなど)、炭素数6〜14のアリール基(具体的にはフェニル、p−メチルフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルなど)、特に好ましくは炭素数1から6のアルキル基である。
【0041】
また、R22は、R21と同義であるが、好ましくは、−OR22が、アルコキシ基、アリールオキシ基、又は、アシルオキシ基であり、より好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数2〜20のアシルオキシ基、さらに好ましくは炭素数1から12のアルコキシ基(具体的には、メトキシ、エトキシ、iso−プロピルオキシ、tert−ブチルオキシ、n−オクチルオキシ、n−デシルオキシ、シクロプロピルオキシなど)、炭素数1〜14のアリール基(具体的にはフェニル、p−メチルフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルなど)、炭素数1〜12のアシルオキシ基(具体的にはアセチルオキシ、ベンゾイルオキシ、ピバロイルオキシなど)、特に好ましくは炭素数1から6のアルコキシ基、炭素数2〜6のアシルオキシ基である。
ここで、一般式(2)が−OR22を介して一般式(1)で表される部分構造と連結するとき、R22が除かれ、酸素原子を介して連結する態様をとることができる。また、一般式(2)が−OR21を介して一般式(1)で表される部分構造と連結するとき、R21は前述の連結基を表す。
一般式(1)に導入される一般式(2)で表される架橋性の部分構造の数は1ないし6であり、好ましくは1ないし4であり、特に好ましくは2ないし4である。
【0042】
一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物は、好ましくは一般式(A)又は一般式(B)で表される化合物であり、特に好ましくは一般式(C)又は一般式(D)で表される化合物である。一般式(A)で表される化合物は、ホール輸送性に優れるトリフェニルアミンに、酸素存在下で重合可能な一般式(2)で表される架橋性基を導入したものであり、該架橋基はトリフェニルアミンのフェニル環に、もしくはトリフェニルアミン上の置換基上に直接又は既述の如き連結基を介して連結している。
【0043】
【化13】

【0044】
31、R32、R33で表されるアルキル基としては置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル基である。R31、R32、R33で表されるアルケニル基としては置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基であり、より好ましくは置換基として炭素数が1から4のアルキル基、アルコキシ基を有してもよいスチリル、1,1−ジフェニルエテン、フェニルブタジエン、1,1−ジフェニルブタジエンを表す。R31、R32、R33で表されるアリール基としては置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基であり、好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基が置換してもよいフェニル、ジアリールアミノ基が置換してもよいフェニル、p−メチルフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルである。R31、R32、R33で表されるジアリールアミノ基としては炭素数が12〜20であり、ジアリールアミノ基が有するアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントラニル基が好ましい。n31、n32、n33はそれぞれ0ないし6の整数を表し、好ましくは0ないし3の整数を表し、特に好ましくは0ないし2の整数を表す。L31、L32は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、好ましい範囲は一般式(1)で説明したLと同様である。n37、n38は0ないし1である。R35は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、より好ましくは炭素数1から12のアルキル基(具体的には、メチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、n−デシル、シクロプロピルなど)、炭素数1〜14のアリール基(具体的にはフェニル、p−メチルフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルなど)、特に好ましくは炭素数1から6のアルキル基である。R36は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表し、n35、n36は0ないし6の整数を表し、n35、n36は同時に0ではない。
【0045】
一般式(A)で表される化合物は特に好ましくは一般式(C)で表される態様をとる。
【0046】
【化14】

【0047】
51、R52、R53、R54、R55、R56で表されるアルキル基としてはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル基である。R51、R52、R53、R54、R55、R56で表されるアルケニル基としては置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基であり、より好ましくは置換基として炭素数が1から4のアルキル基、アルコキシ基を有してもよいスチリル、1,1−ジフェニルエテン、フェニルブタジエン、1,1−ジフェニルブタジエンを表す。R51、R52、R53、R54、R55、R56で表されるアリール基としては置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基であり、好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基が置換してもよいフェニル、ジアリールアミノ基が置換してもよいフェニル、p−メチルフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルである。n51、n52、n53、n54はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n55、n56はそれぞれ0ないし4の整数を表す。L51、L52は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、好ましい範囲は一般式(1)で説明したLと同様である。n57、n58は0ないし1である。R57は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R58は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n59、n60は0ないし6の整数を表し、n59、n60は同時に0ではない。
56は単結合又は2価の連結基を表し、好ましくは、単結合もしくは置換基を有しても良いメチレン基、エチレン基、フェニレン基、及び、ビニレン基から選択される2価の置換基並びに、前記2価の置換基が2以上組合せてなる2価の連結基である。
2価の連結基が置換基を有する場合の導入可能な置換基としては、好ましくはアルキル基、アルコキシ基、及び、アリール基が挙げられる。L56としては、より好ましくは、単結合もしくは置換基を有しても良いメチレン基、エチレン基、又はフェニレン基であり、置換基としてはアルキル基である。
また、本発明に係る電荷輸送化合物の他の好ましい態様として、一般式(B)で表される化合物が挙げられる。
【0048】
【化15】

【0049】
41、R42、R43で表されるアルキル基としてはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル基である。R41、R42、R43で表されるアルケニル基としてはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基であり、より好ましくは置換基として炭素数が1から4のアルキル基、アルコキシ基を有してもよいスチリル、1,1−ジフェニルエテン、フェニルブタジエン、1,1−ジフェニルブタジエンを表す。R41、R42、R43で表されるアリール基としてはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n41、n42、n43はそれぞれ0ないし6の整数を表し、n40は0ないし2の整数を表す。
44は水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。アルキル基、アリール基が置換基を有する場合に導入可能な置換基としては、R41〜R41における置換基と同様のものを挙げることができる。
41、L42は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、好ましい範囲は一般式(1)で説明したLと同様である。n47、n48は0ないし1を表す。R45は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R46は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n45、n46は0ないし6の整数を表し、n45、n46は同時に0ではない。
また、本発明に係る電荷輸送化合物の他の好ましい態様として、一般式(D)で表される化合物が挙げられる。
【0050】
【化16】

【0051】
前記一般式(D)中、R61、R62、R63、R64、R65、R66はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n61、n62、n63、n64はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n65、n66はそれぞれ0ないし4の整数を表す。L61、L62は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n67、n68は0ないし1を表す。R67は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R68は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基を表す。n69、n70は0ないし6の整数を表し、n69、n70は同時に0ではない。
以下に、前記一般式(A)、一般式(B)、一般式(C)、及び一般式(D)のいずれかで表される電荷輸送性化合物の具体例[例示化合物(H−A1)〜(H−D4)]を示すが、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0052】
【化17】

【0053】
【化18】

【0054】
【化19】

【0055】
【化20】

【0056】
【化21】

【0057】
【化22】

【0058】
【化23】

【0059】
【化24】

【0060】
【化25】

【0061】
【化26】

【0062】
【化27】

【0063】
【化28】

【0064】
【化29】

【0065】
【化30】

【0066】
次に、本発明に係る特定電荷輸送性化合物の合成法について説明する。
本発明に係る特定電荷輸送性化合物(正孔輸送材料)は、公知の手法を用いて合成できる。例えば、まず、公知の合成法により、連結基を介してOH基やCOORa(Ra:水素、アルキル基、アリール基)を有するトリアリールアミン化合物を合成する。この合成方法としては、例えは、特開2008−198989号公報や特開2000−147814号公報に記載の方法が挙げられる。次に、得られたトリアリールアミン化合物の連結基を介して存在するOH基やCOORa(Ra:水素、アルキル基、アリール基)を下記式に従い反応させることで、架橋性基を導入し、目的とする架橋性基をもつ特定電荷輸送性化合物を合成できる。下記式において、R21、R22はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基又は、置換もしくは無置換のアシル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。
【0067】
【化31】

【0068】
前記特定電荷輸送性化合物は、エネルギー付与により、酸素存在下でも十分重合が進行して機械的強度に優れた電荷輸送性の硬化膜を形成しうるため、電荷輸送膜の形成に有用であり、電荷輸送性を必要とする種々のデバイスへの応用が可能である。また、前記化合物のうち、一般式(A)〜一般式(D)で表される構造の化合物は新規化合物である。
【0069】
<電荷輸送膜及びその製造方法>
次に、本発明の電荷輸送膜及びその製造方法について説明する。
本発明の電荷輸送製膜の製造方法は、前記特定電荷輸送性化合物と重合開始剤を含有する塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、前記塗布膜を加熱して架橋物を得る架橋物形成工程と、を有する電荷輸送膜の製造方法である。
本発明の製造方法では、前記本発明の特定電荷輸送性化合物に起因して高感度で硬化し、酸素阻害の影響を受け難いために、前記架橋物形成工程を、塗布膜表面における酸素濃度が200ppm以上の条件下で行うことができる。
(塗布膜作製工程)
本発明に用いられる前記特定電荷輸送性化合物を用いて電荷輸送膜を形成する方法としては、特定電荷輸送性化合物を湿式製膜方法により塗布する方法が挙げられる。電荷輸送膜の製膜に湿式製膜方法を適用することで、容易に大面積塗布できることから、効率よく素子を作製でき、コスト低減の観点からも好ましい。
【0070】
本発明に適用しうる湿式製膜方法としては、ディッピング法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法、グラビアコート法、スプレー塗布法、インクジェット法等が使用可能である。これらの製膜法のいずれを適用するかについては、形成する電荷輸送膜に含まれる有機化合物等の材料に応じて適宜選択すればよい。
湿式製膜方法により製膜した場合には、塗膜を形成した後に乾燥工程を実施してもよい。乾燥工程では、湿式製膜方法により形成した塗膜層が損傷しないように、温度、圧力等の条件を選択して行う。
【0071】
上記湿式製膜方法で用いる電荷輸送膜形成用塗布液(以下、適宜、単に塗布液と称する)は、少なくとも本発明に係る特定電荷輸送性化合物及び重合開始剤を含有し、通常、さらに所望により併用される有機化合物やその他の添加剤などの塗布膜形成用材料、及び、それを溶解又は分散するための溶剤を含有する。
電荷輸送膜形成用塗布液の調製に用いられる溶剤は特に限定されず、塗布液に含まれる各種化合物に応じて選択すればよい。
溶剤の具体例としては、ハロゲン系溶剤(クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n−プロピルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、メントン等)、芳香族系溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン、デカリン、ナフタレン、ビフェニル、アルキル置換ビフェニル等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、炭酸ジエチル等)、エーテル系溶剤(テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、アルコール類(例えば1価アルコール又は2価アルコール、具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。
なお、塗布液中の溶剤に対する固形分量は特に制限はなく、塗布液の粘度も製膜方法に応じて任意に選択することができる。
有機溶剤は2種以上混合して用いても良い。2種以上混合する場合、少なくとも一方の溶媒は沸点が80℃以上300℃以下であることが好ましく、より好ましくは沸点が100℃以上250℃以下である。沸点がこの範囲にあると、均一な膜を形成するのに好ましい。
溶媒は、精製処理したものが好ましい。溶媒の精製処理方法としては、具体的には、(1)シリカゲル、アルミナ、カチオン性イオン交換樹脂、アニオン性イオン交換樹脂等のカラム精製処理、(2)無水硫酸ナトリウム、無水硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、モレキュラーシーブス、ゼオライト等の脱水処理、(3)蒸留処理、(4)不活性ガス(窒素、アルゴン)等によるバブリング処理、(4)濾過、遠心沈降等による不純物の除去処理等が挙げられ、任意の方法を用いることができる。より好ましくは、(1)カラム精製処理と(2)脱水処理による精製処理である。
【0072】
次に、電荷輸送膜形成用塗布液に含まれる各成分について述べる。
(特定電荷輸送性化合物)
本発明に係る塗布液には、前記本発明の特定電荷輸送性化合物を含有する。これらは前述の化合物を任意に選択して用いることができる。
これら特定電荷輸送性化合物は、塗布液中に1種のみを含んでもよく、2種以上を併用してもよい。
塗布液中(又は電荷輸送膜)における特定電荷輸送性化合物の含有量は、固形分全量に対して30質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは、40〜100質量%、さらに好ましくは、50〜100質量%で用いられる。
【0073】
本発明の特定電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜は、以下に述べる架橋物形成工程により架橋構造を形成させてなるものであり、架橋物の効率的な形成を目的として、塗布液中に、前記特定電荷輸送性化合物とともに、重合開始剤を含有する。
ここで、用いられる重合開始剤としては、熱により発生したラジカルや他の活性種が前記特定電荷輸送性化合物における重合性官能基と反応するものであれば特に制限はない。
使用可能な熱重合開始剤の例には、アゾビス化合物、パーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、レドックス触媒などが含まれる。
より具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;t−ブチルパーオクトエート、ベンゾイルパーオキサイド、イソプロピルパーカーボネート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビスシアノ吉草酸、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル2,2’―アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド、2,2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}等;が含まれる。これらの開始剤は油溶性であることが好ましく、またアゾビス化合物であることが特に好ましい。従って、特に好ましい熱重合開始剤の例としては、2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0074】
電荷輸送膜形成用塗布液中の固形分量における熱重合開始剤の含有量は、0.1〜10質量%が好ましく、0.2〜8質量%がより好ましい。
【0075】
(バインダーポリマー)
本発明の電荷輸送膜形成用塗布液には、ポリマーバインダーを含有してもよく、ポリマーバインダーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等が使用可能である。ポリマーバインダーを含有すると、湿式製膜法によって、容易に且つ大面積に塗布形成することができる。
【0076】
(その他の添加剤)
本発明に係る電荷輸送膜形成用塗布液には、特定電荷輸送性化合物、重合開始剤、溶媒及び所望により併用されるバインダーポリマーに加え、目的に応じて種々の添加剤(例えば、酸化防止剤、電荷輸送剤、膜質調整剤等)を含んでもよい。
これらを含有する塗布液を、上記塗布等方法により、製膜する。塗布膜は、電荷輸送膜を形成使用とする任意の基体上に形成する。電荷輸送膜の目的に応じ、支持体上に直接形成してもよく、或いは、形成された他の層の表面に形成してもよい。
塗布膜の厚みも目的に応じて適宜選択されるが、例えば、有機電界発光素子や光電変換素子の場合には、数nmから1μm程度、電子写真用途では1μm〜100μmであることが好ましい。
【0077】
(架橋物形成工程)
次に、形成した塗布膜を加熱して架橋物を得る架橋物形成工程を行う。加熱方法は公知の方法を任意に適用することができる。架橋物の均一な形成という観点からは、70℃〜200℃の温度をかけ、1分〜2時間加熱することが好ましい。
本発明においては、前記特定電荷輸送性化合物と重合開始剤とを含有する塗布膜の加熱による硬化は、脱酸素下でも酸素存在下のいずれでも行えるが、脱酸素の為の設備化の負荷低減の観点からは、酸素存在下でも充分硬化できることが好ましい。本発明の前記特定電荷輸送性化合物は高感度で硬化しうることから、本発明の製造方法においては、塗布膜表面の酸素濃度が200ppm以上の条件でも塗布膜の架橋硬化を実施できるという利点を有する。
このようにして形成された電荷輸送膜は、電荷輸送性に優れ、硬化性が良好で高強度の架橋膜であるために、種々の用途に好適に用いうる。
【0078】
(有機電界発光素子)
次に、本発明の電荷輸送膜の応用態様の一つである電荷輸送膜を用いた発光素子について説明する。まず有機電界発光素子について説明する。
本発明の有機電界発光素子は基板上に陽極と陰極を有し、両極の間に発光層を含む有機層を有する。発光素子の性質上、陽極および陰極のうち少なくとも一方の電極は透明であることが好ましい。
本発明の発光素子は通常、その透明電極と背面電極との間に2〜40ボルト程度の直流電圧(交流成分を含んでもよい)又は直流電流を印加すると発光する。また、本発明の発光素子を駆動する際には、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号、米国特許5828429号、同6023308号、日本特許第2784615号等に記載の駆動方法を利用することができる。以下、本発明で用いる発光積層体をなす各層について詳述するが、本発明はそれらにより限定されない。
【0079】
本発明の有機電界発光素子は前記特定電荷輸送性化合物の架橋物である本発明の電荷輸送膜を少なくとも一層含む素子であり、好ましくは陽極と発光層の間の少なくとも一層、もしくは発光層が一般式(1)で表される電荷輸送化合物が架橋したものであり、より好ましくは、陽極と発光層の間の少なくとも一層が一般式(1)で表される電荷輸送化合物が架橋したものである。
本発明における有機層の積層の形態としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。更に、正孔輸送層と陽極との間に正孔注入層、及び/又は発光層と電子輸送層との間に、電子輸送性中間層を有する。また、発光層と正孔輸送層との間に正孔輸送性中間層を、同様に陰極と電子輸送層との間に電子注入層を設けても良い。尚、各層は複数の層に分かれていてもよい。
(A)基材
本発明で使用する基材は、水分を透過させない材料又は水分透過率が極めて低い材料からなるのが好ましい。該材料は、好ましくは有機化合物層から発せられる光を散乱又は減衰させない。その具体例としては、ジルコニア安定化イットリウム(YSZ)、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルやポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料等が挙げられる。中でも、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性及び加工性に優れ、且つ低通気性及び低吸湿性である有機材料が特に好ましく使用できる。基材は単一材料で形成しても、2種以上の材料で形成してもよい。基材の材料は透明電極材料に応じて適宜選択してよく、例えば透明電極が酸化インジウムスズ(ITO)である場合には、ITOとの格子定数の差が小さい材料を用いるのが好ましい。
【0080】
基材の形状、構造、大きさ等は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。形状は板状とするのが一般的である。構造は単層構造であっても積層構造であってもよい。基材は無色透明であっても有色透明であってもよいが、発光層から発せられる光を散乱又は減衰させることがない点で無色透明であるのが好ましい。
【0081】
基材の電極側の面、電極と反対側の面又はその両方に透湿防止層(ガスバリア層)を設けてもよい。透湿防止層を構成する材料としては窒化ケイ素、酸化ケイ素等の無機物を用いるのが好ましい。透湿防止層は高周波スパッタリング法等により成膜できる。また、基材には必要に応じてハードコート層やアンダーコート層を設けてもよい。
【0082】
(B)透明電極
通常、透明電極は有機化合物層に正孔を供給する陽極としての機能を有するが、陰極として機能させることもでき、この場合背面電極を陽極として機能させる。以下、透明電極を陽極とする場合について説明する。
【0083】
透明電極の形状、構造、大きさ等は特に制限されず、発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。透明電極を形成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の材料を用いる。具体例としては、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、半導性金属酸化物(酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等)、金属(金、銀、クロム、ニッケル等)、これら金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、無機導電性物質(ヨウ化銅、硫化銅等)、有機導電性材料(ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等)及びこれとITOとの積層物等が挙げられる。
【0084】
透明電極は印刷法、コーティング法等の湿式方法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方法、CVD、プラズマCVD法等の化学的方法等によって基材上に形成することができる。形成方法は透明電極材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、透明電極の材料としてITOを用いる場合には、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等を用いればよい。また透明電極の材料として有機導電性材料を用いる場合には、湿式製膜法を用いてよい。
【0085】
透明電極のパターニングはフォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザー等を用いた物理的エッチング等により行うことができる。また、マスクを用いた真空蒸着やスパッタリング、リフトオフ法、印刷法等によりパターニングしてもよい。
【0086】
透明電極の形成位置は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択してよいが、基材上に形成するのが好ましい。このとき透明電極は基材の表面全体に形成しても一部のみに形成してもよい。
【0087】
透明電極の厚みはその材料に応じて適宜選択すればよいが、通常10nm〜50μmであり、好ましくは50nm〜20μmである。透明電極の抵抗値は10Ω/□以下とするのが好ましく、10Ω/□以下とするのがより好ましい。透明電極は無色透明であっても有色透明であってもよい。透明電極側から発光を取り出すためには、その透過率は60%以上とするのが好ましく、70%以上とするのがより好ましい。透過率は分光光度計を用いた公知の方法に従って測定することができる。
【0088】
また、「透明導電膜の新展開」(沢田豊監修、シーエムシー刊、1999年)等に詳細に記載されている電極も本発明に適用できる。特に耐熱性の低いプラスチック基材を用いる場合は、透明電極材料としてITO又はIZOを使用し、150℃以下の低温で製膜するのが好ましい。
【0089】
(C)背面電極
通常、背面電極は有機化合物層に電子を注入する陰極としての機能を有するが、陽極として機能させることもでき、この場合上記透明電極を陰極として機能させる。以下、背面電極を陰極とする場合について説明する。
【0090】
背面電極の形状、構造、大きさ等は特に制限されず、発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。背面電極を形成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができ、好ましくは仕事関数が4.5eV以下の材料を用いる。具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Mg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、希土類金属(イッテルビウム等)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させるためには2種以上を併用するのが好ましい。これら材料の中で、電子注入性の観点からはアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性の観点からはアルミニウムを主体とする材料が好ましい。ここでアルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01〜10質量%のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との合金又は混合物(リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金等)を指す。背面電極の材料としては、特開平2−15595号、特開平5−121172号等に詳述されているものも使用できる。
【0091】
背面電極は印刷法、コーティング法等の湿式方法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方法、CVD、プラズマCVD法等の化学的方法等によって形成することができる。形成方法は背面電極材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、背面電極の材料として2種以上の金属等を用いる場合には、その材料を同時又は順次にスパッタして形成できる。
【0092】
背面電極のパターニングはフォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザー等を用いた物理的エッチング等により行うことができる。また、マスクを用いた真空蒸着やスパッタリング、リフトオフ法、印刷法等によりパターニングしてもよい。
【0093】
背面電極の形成位置は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択してよいが、有機化合物層上に形成するのが好ましい。このとき背面電極は有機化合物層の表面全体に形成しても一部のみに形成してもよい。また、背面電極と有機化合物層との間にアルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物等からなる誘電体層を0.1〜5nmの厚みで設置してもよい。誘電体層は真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により形成することができる。
【0094】
背面電極の厚みはその材料に応じて適宜選択すればよいが、通常10nm〜5μmであり、好ましくは50nm〜1μmである。背面電極は透明であっても不透明であってもよい。透明背面電極は、上述した材料の層を1〜10nmの厚みに薄く製膜し、更にITOやIZO等の透明導電性材料を積層して形成してよい。
【0095】
(D)発光層
本発明の発光素子において、発光層は燐光発光性化合物を含有する。本発明で用いる燐光発光性化合物は、三重項励起子から発光することができる化合物であれば特に限定されることはない。燐光発光性化合物としては、オルトメタル化錯体又はポルフィリン錯体を用いるのが好ましく、オルトメタル化錯体を用いるのがより好ましい。ポルフィリン錯体の中ではポルフィリン白金錯体が好ましい。燐光発光性化合物は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0096】
本発明でいうオルトメタル化錯体とは、山本明夫著「有機金属化学 基礎と応用」,150頁及び232頁,裳華房社(1982年)、H.Yersin著「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」,71〜77頁及び135〜146頁,Springer−Verlag社(1987年)等に記載されている化合物群の総称である。オルトメタル化錯体を形成する配位子は特に限定されないが、2−フェニルピリジン誘導体、7,8−ベンゾキノリン誘導体、2−(2−チエニル)ピリジン誘導体、2−(1−ナフチル)ピリジン誘導体又は2−フェニルキノリン誘導体であるのが好ましい。これら誘導体は置換基を有してもよい。また、これらのオルトメタル化錯体形成に必須の配位子以外に他の配位子を有していてもよい。オルトメタル化錯体を形成する中心金属としては、遷移金属であればいずれも使用可能であり、本発明ではロジウム、白金、金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム等を好ましく用いることができる。中でもイリジウムが特に好ましい。このようなオルトメタル化錯体を含む有機化合物層は、発光輝度及び発光効率に優れている。オルトメタル化錯体については、特願2000−254171号の段落番号0152〜0180にもその具体例が記載されている。
【0097】
発光層中の燐光発光性化合物の含有量は特に制限されないが、例えば0.1〜70質量%であり、1〜20質量%であるのが好ましい。燐光発光性化合物の含有量が0.1質量%未満であるか、又は70質量%を超えると、その効果が十分に発揮されない場合がある。
【0098】
本発明において、発光層は必要に応じてホスト化合物、正孔輸送材料、電子輸送材料、電気的に不活性なポリマーバインダー等を含有してもよい。
【0099】
ホスト化合物としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン化合物、ポルフィリン化合物、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール等を配位子とする金属錯体、ポリシラン化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。ホスト化合物は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0100】
正孔輸送材料は陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、及び陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば特に限定されず、低分子材料であっても高分子材料であってもよい。その具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン化合物、ポルフィリン化合物、ポリシラン化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。これらは単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。発光層に含まれる正孔輸送材料として、前記本発明の特定電荷輸送性化合物を用いてもよい。
【0101】
電子輸送材料は陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、及び陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば特に限定されず、例えばトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタロフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール等を配位子とする金属錯体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が使用可能である。
【0102】
ポリマーバインダーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等が使用可能である。ポリマーバインダーを含有する発光層は、湿式製膜法によって、容易に且つ大面積に塗布形成することができる。
【0103】
発光層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nmを超えると駆動電圧が上昇する場合があり、10nm未満であると発光素子が短絡する場合がある。
【0104】
(E)電子輸送層
本発明の発光素子は、必要に応じて前述した電子輸送層は上述のポリマーバインダーを含有してもよい。電子輸送層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nmを越えると駆動電圧が上昇する場合があり、10nm未満であると発光素子が短絡する場合がある。
【0105】
(F)正孔輸送層
本発明の発光素子は、前述した正孔輸送材料からなる正孔輸送層を有し、正孔輸送層は上述のポリマーバインダーを含有してもよい。本発明の発光素子は、必要に応じて前述した特定電荷輸送性化合物からなる正孔輸送層を有してよい。本発明の正孔輸送材料からなる層の内、少なくとも1つは一般式(1)で表される正孔輸送材料と重合開始剤を混合した塗布膜であってもよく、加熱することにより架橋させ膜を硬化させることによって製造される。正孔輸送層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nmを越えると駆動電圧が上昇する場合があり、10nm未満であると発光素子が短絡する場合がある。
【0106】
(G)その他
本発明の発光素子は、特開平7−85974号、同7−192866号、同8−22891号、同10−275682号、同10−106746号等に記載の保護層を有していてもよい。保護層は発光素子の最上面に形成する。ここで最上面とは、基材、透明電極、有機化合物層及び背面電極をこの順に積層する場合には背面電極の外側表面を指し、基材、背面電極、有機化合物層及び透明電極をこの順に積層する場合には透明電極の外側表面を指す。保護層の形状、大きさ、厚み等は特に限定されない。保護層をなす材料は、水分や酸素等の発光素子を劣化させ得るものが素子内に侵入又は透過するのを抑制する機能を有しているものであれば特に限定されず、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、二酸化ゲルマニウム等が使用できる。
【0107】
保護層の形成方法は特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子センエピタキシ法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等が適用できる。
【0108】
また、発光素子には水分や酸素の侵入を防止するための封止層を設けるのが好ましい。封止層を形成する材料としては、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとの共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリユリア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン又はジクロロジフルオロエチレンと他のコモノマーとの共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質、金属(In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Tl、Ni等)、金属酸化物(MgO、SiO、SiO、Al、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe、Y、TiO等)、金属フッ化物(MgF、LiF、AlF、CaF等)、液状フッ素化炭素(パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等)、該液状フッ素化炭素に水分や酸素の吸着剤を分散させたもの等が使用可能である。
【0109】
(光電変換素子)
次に本発明の電荷輸送膜を光電変換素子にて起床する場合の詳細について説明する。
本発明の光電変換素子は少なくとも2つの電極に挟まれた有機光電変換膜が正孔輸送性光電変換材料又は電子輸送性光電変換材料からなり、該光電変換膜で生じた正孔を輸送する膜として又は電子を輸送する少なくとも1つの電荷輸送層を有することを特徴とする撮像素子に関するものであり、正孔輸送層もしくは電子ブロック層として本発明の電荷輸送膜を適用する。
【0110】
まず、光電変換層について説明する。
[有機pn化合物]
正孔輸送性光電変換膜を構成する有機p型半導体(化合物)、及び電子輸送性光電変換膜を構成する有機n型半導体(化合物)としてはいかなるものでも良い。また、紫外域、可視域及び赤外域に吸収を持っていても持っていなくても良いが、好ましくは可視域に吸収を持っている化合物(有機色素)である。更に、無色のp型化合物又はn型化合物との組合せや、これらに有機色素を加えても良い。
【0111】
有機p型半導体(化合物)は、ドナー性有機半導体(化合物)であり、主に正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物をいう。したがって、ドナー性有機化合物は、電子供与性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、キナクリドン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等を用いることができる。なお、これに限らず、上記したように、また、n型(アクセプター性)化合物として用いた有機化合物よりもイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物であればドナー性有機半導体として用いてよい。
【0112】
有機n型半導体(化合物)は、アクセプター性有機半導体(化合物)であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、フラーレン類、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。また、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプター性有機半導体として用いてよい。
【0113】
p型有機色素、又はn型有機色素としては、いかなるものを用いても良いが、好ましくは、シアニン色素、スチリル色素、ヘミシアニン色素、メロシアニン色素(ゼロメチンメロシアニン(シンプルメロシアニン)を含む)、3核メロシアニン色素、4核メロシアニン色素、ロダシアニン色素、コンプレックスシアニン色素、コンプレックスメロシアニン色素、アロポーラー色素、オキソノール色素、ヘミオキソノール色素、スクアリウム色素、クロコニウム色素、アザメチン色素、クマリン色素、アリーリデン色素、アントラキノン色素、トリフェニルメタン色素、アゾ色素、アゾメチン色素、スピロ化合物、メタロセン色素、フルオレノン色素、フルギド色素、ペリレン色素、フェナジン色素、フェノチアジン色素、キノン色素、インジゴ色素、ジフェニルメタン色素、ポリエン色素、アクリジン色素、アクリジノン色素、ジフェニルアミン色素、キナクリドン色素、キノフタロン色素、フェノキサジン色素、フタロペリレン色素、ポルフィリン色素、クロロフィル色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、金属錯体色素、縮合芳香族炭素環系色素(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、フラーレン誘導体が挙げられる。
その中でも、高い光電変換性能を有すること、分光する際の色分離に優れていること、長時間の光照射に対する耐久性が高いこと、真空蒸着を行いやすいこと、等の観点から、キナクリドン骨格を含む材料やフタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格を含む有機材料やフラーレン(C60やC70及びその誘導体)が特に好ましい。
【0114】
これらの有機化合物を含む層は、乾式成膜法あるいは湿式成膜法により成膜される。乾式成膜法の具体的な例としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法,MBE法等の物理気相成長法あるいはプラズマ重合等のCVD法が挙げられる。湿式成膜法としては、キャスト法、スピンコート法、ディッピング法、LB法等が用いられる。
p型半導体(化合物)、又は、n型半導体(化合物)のうちの少なくとも一つとして高分子化合物を用いる場合は、作製の容易な湿式成膜法により成膜することが好ましい。蒸着等の乾式成膜法を用いた場合、高分子を用いることは分解のおそれがあるため難しく、代わりとしてそのオリゴマーを好ましく用いることができる。一方、低分子を用いる場合は、共蒸着等の乾式成膜法により成膜することが好ましい。
【0115】
〔光電変換膜の吸収の波長依存性規定〕
さらに、有機光電変換膜の400nm以上における膜吸収スペクトルが青色光、緑色光、赤色光の少なくとも1つに領域に選択的に対応した膜吸収スペクトルを有し、該領域の膜吸収強度の最大値が該領域以外の膜吸収強度最大値の3倍以上であることが好ましく、更に好ましくは5倍以上、特に好ましくは10倍以上である。また、吸収スペクトルの極大値を示す波長は400nm以上500nm以下、500nm以上600nm以下又は600nm以上700nmのいずれかであり、より好ましくは420nm以上480nm以下、520nm以上580nm以下又は620nm以上680nm以下であり、特に好ましくは430nm以上470nm以下、530nm以上570nm以下又は620nm以上670nm以下である。
【0116】
〔Ip、Ea規定〕
また、BGR分光可能な光電変換素子の光電変換膜のイオン化ポテンシャル(Ip)、電子親和力(Ea)が次の要件を満たしていると、効率が向上することを見出した。
正孔輸送性光電変換膜のイオン化ポテンシャル(Ip)、電子親和力(Ea)、電子輸送性光電変換膜のイオン化ポテンシャル(Ip)、電子親和力(Ea)においてIp<IpかつEa<Eaである。
【0117】
次に、光電変換層で生じた正孔又は電子を輸送する電荷輸送層について説明する。
本発明の素子は電荷輸送性層を光電変換層と別に有しており、特定電荷輸送性化合物を熱架橋して得られる、少なくとも一層の正孔輸送層(電子ブロック層:本発明における電荷輸送膜)を有する。
〔電荷輸送層〕
本発明の素子はさらに電荷輸送層を有してもよく、該電荷輸送層に用いられる電荷輸送材料は正孔輸送性、電子輸送性のいずれであってもよい。正孔輸送材料としては、前述の有機p型半導体(化合物)で説明の例が挙げられ、好ましくはトリアリールアミン化合物、チオフェン化合物、縮合芳香族炭素環化合物、フタロシアニン化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体であり、特に好ましくはトリアリールアミン化合物、フタロシアニン化合物である。
また、電子輸送材料としては。前述の有機N型半導体(化合物)で説明の例が挙げられ、好ましくは窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(更に縮環してもよい)、縮合芳香族炭素環化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体であり、より好ましくは含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(更に縮環してもよい)であり、さらに好ましくは一般式(IV)で表される化合物、一般式(V)で表される化合物、一般式(VI)で表される化合物であり、特に好ましくは、一般式(VII)で表される化合物である。なお、一般式(IV)記載の電子輸送性材料の詳細及び好ましい範囲については、特願2004−082002号において詳細に説明されている。
【0118】
【化32】

【0119】
(一般式(IV)中、Aは二つ以上の芳香族ヘテロ環が縮合したヘテロ環を表し、Aで表されるヘテロ環基は同一又はことなってもよい。mは2以上の整数を表す。Lは連結基を表す。)
前記一般式(V)〜(VI)で表される化合物は、特開2002−338957号記載の一般式(9)〜(10)で表される化合物およびその互変異性体と同義であり、具体例、合成法も同様である。
また、電荷輸送層を構成する材料は、一般式(VII)で表される化合物であってもよい。
【0120】
【化33】

【0121】
(一般式(VII)中、XはO、S、Se、Te又はN−Rを表す。Rは水素原子、脂肪族炭化水素基、アリール基又はヘテロ環基を表す。Qは含窒素芳香族ヘテロ環を形成するに必要な原子群を表す。mは2以上の整数を表す。Lは連結基を表す。)
【0122】
次に金属錯体化合物について説明する。
金属錯体化合物は金属に配位する少なくとも1つの窒素原子又は酸素原子又は硫黄原子を有する配位子をもつ金属錯体であり、金属錯体中の金属イオンは特に限定されないが、好ましくはベリリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、インジウムイオン、錫イオンであり、より好ましくはベリリウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオンであり、更に好ましくはアルミニウムイオン、亜鉛イオンである。
【0123】
前記金属錯体中に含まれる配位子としては種々の公知の配位子が有るが、例えば、「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」 Springer−Verlag社 H.Yersin著 1987年発行、「有機金属化学−基礎と応用−」 裳華房社 山本明夫著 1982年発行等に記載の配位子が挙げられる。
【0124】
前記配位子として、好ましくは含窒素ヘテロ環配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数3〜15であり、単座配位子であっても2座以上の配位子であっても良い。好ましくは2座配位子である。例えばピリジン配位子、ビピリジル配位子、キノリノール配位子、ヒドロキシフェニルアゾール配位子(ヒドロキシフェニルベンズイミダゾール、ヒドロキシフェニルベンズオキサゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾール配位子)などが挙げられる)、アルコキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ、2,4,6−トリメチルフェニルオキシ、4−ビフェニルオキシなどが挙げられる。)。
【0125】
ヘテロアリールオキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、アルキルチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロアリールチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、シロキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数3〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えば、トリフェニルシロキシ基、トリエトキシシロキシ基、トリイソプロピルシロキシ基などが挙げられる)であり、より好ましくは含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、ヘテロアリールオキシ基、シロキシ配位子であり、更に好ましくは含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、シロキシ配位子が挙げられる。
【0126】
これらの電子輸送性の有機材料を用いるとき、得られる光電変換膜の光電変換効率が著しく高くなり、耐久性も良化することを見出した。
また、耐久性の観点からは、素子内に400nm以下の光を吸収するフィルター効果を有する層を設け、電荷輸送層が光を吸収しない素子構造が好ましく、電荷輸送層の吸収スペクトルの長波長端が素子に照射されたスペクトルの短波長端より短波長であることが更に好ましい。
【0127】
〔電荷輸送層の成膜方法〕
光電輸送層は乾式成膜法あるいは湿式成膜法により成膜される。乾式成膜法の具体的な例としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法,MBE法等の物理気相成長法あるいはプラズマ重合等のCVD法が挙げられる。湿式成膜法としては、キャスト法、スピンコート法、ディッピング法、LB法等が用いられる。電荷輸送層の成膜方法は好ましくは乾式法であり、特に好ましくは真空蒸着法である。
本発明の特定電荷輸送性化合物である正孔輸送材料と重合開始剤を混合した組成物から形成される電荷輸送層(電荷輸送膜)は、湿式成膜法で塗布後、加熱することにより架橋させ膜を硬化させることによって製造されることが好ましい。
【0128】
〔電極〕
陽極は正孔輸送性光電変換膜又は正孔輸送層から正孔を取り出す電極と定義し、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物などを用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の材料である。具体例としては酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、あるいは金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、シリコン化合物およびこれらとITOとの積層物などが挙げられ、好ましくは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性等の点からITOが好ましい。陽極の膜厚は材料により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、更に好ましくは100nm〜500nmである。
【0129】
陽極は通常、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、透明樹脂基板などの上に層形成したものが用いられる。ガラスを用いる場合、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。また、ソーダライムガラスを用いる場合、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分であれば特に制限はないが、ガラスを用いる場合には、通常0.2mm以上、好ましくは0.7mm以上のものを用いる。陽極の作製には材料によって種々の方法が用いられるが、例えばITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾルーゲル法など)、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法で膜形成される。陽極は洗浄その他の処理により、素子の駆動電圧を下げて、発光効率を高めることも可能である。例えばITOの場合、UV−オゾン処理、プラズマ処理などが効果的である。
【0130】
陰極は電子輸送性光電変換層又は電子輸送層から電子を取り出すものであり、電子輸送性光電変換層、電子輸送層などの隣接する層との密着性や電子親和力、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選ばれる。陰極の材料としては金属、合金、金属ハロゲン化物、金属酸化物、電気伝導性化合物、ITO、IZO又はこれらの混合物を用いることができ、具体例としてはアルカリ金属(例えばLi、Na、K等)及びそのフッ化物又は酸化物、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)及びそのフッ化物又は酸化物、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金又はそれらの混合金属、リチウム−アルミニウム合金又はそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金又はそれらの混合金属、インジウム、イッテリビウム等の希土類金属等が挙げられ、好ましくは仕事関数が4eV以下の材料であり、より好ましくはアルミニウム、銀、金又はそれらの混合金属等である。陰極は、上記化合物及び混合物の単層構造だけでなく、上記化合物及び混合物を含む積層構造を取ることもできる。例えば、アルミニウム/フッ化リチウム、アルミニウム/酸化リチウム の積層構造が挙げられる。陰極の膜厚は材料により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、更に好ましくは100nm〜1μmである。
【0131】
陰極の作製には電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、コーティング法などの方法が用いられ、金属を単体で蒸着することも、二成分以上を同時に蒸着することもできる。さらに、複数の金属を同時に蒸着して合金電極を形成することも可能であり、またあらかじめ調整した合金を蒸着させてもよい。陽極及び陰極のシート抵抗は低い方が好ましく、数百Ω/□以下が好ましい。
〔一般的要件〕
本発明において好ましくは、少なくとも光電変換膜が2層以上、さらに好ましくは3層又は4層、特に好ましくは3層積層した光電変換素子を用いる場合であり、具体的な素子としては特開2009−99866号で説明した例などが挙げられる。
【0132】
本発明のこれらの光電変換素子を特に撮像素子として好ましく用いることができる。
また、本発明においては、これらの光電変換膜、光電変換素子、及び、撮像素子に電圧を印加する場合が好ましい。
[電圧印加]
本発明に係る光電変換膜に電圧を印加した場合、光電変換効率が向上する点で好ましい。印加電圧としては、いかなる電圧でも良いが、光電変換膜の膜厚により必要な電圧は変わってくる。すなわち、光電変換効率は、光電変換膜に加わる電場が大きいほど向上するが、同じ印加電圧でも光電変換膜の膜厚が薄いほど加わる電場は大きくなる。従って、光電変換膜の膜厚が薄い場合は、印加電圧は相対的に小さくでも良い。光電変換膜に加える電場として好ましくは、10V/m以上であり、さらに好ましくは1×10V/m以上、さらに好ましくは1×10V/m以上、特に好ましくは1×10V/m以上、最も好ましくは1×10V/m以上である。上限は特にないが、電場を加えすぎると暗所でも電流が流れ好ましくないので、1×1012V/m以下が好ましく、さらに1×10V/m以下が好ましい。
【0133】
〔バルクへテロ接合構造〕
本発明においては、1対の電極間に、p型半導体層とn型半導体層とを有し、該p型半導体とn型半導体の少なくともいずれかが有機半導体であり、かつ、それらの半導体層の間に、該p型半導体およびn型半導体を含むバルクヘテロ接合構造層を中間層として有する光電変換膜(感光層)を含有する場合が好ましい。このような場合、光電変換膜において、有機層にバルクへテロ接合構造を含有させることにより有機層のキャリア拡散長が短いという欠点を補い、光電変換効率を向上させることができる。
なお、バルクへテロ接合構造については、特願2004−080639号において詳細に説明されている。
〔タンデム構造〕
本発明において、1対の電極間にp型半導体の層とn型半導体の層で形成されるpn接合層の繰り返し構造(タンデム構造)の数を2以上有する構造を持つ光電変換膜(感光層)を含有する場合が好ましく、さらに好ましくは、前記繰り返し構造の間に、導電材料の薄層を挿入する場合である。pn接合層の繰り返し構造(タンデム構造)の数はいかなる数でもよいが、光電変換効率を高くするために好ましくは2〜50であり、さらに好ましくは2〜30であり、特に好ましくは2又は10である。導電材料としては銀又は金が好ましく、銀が最も好ましい。
本発明において、タンデム構造をもつ半導体としては無機材料でもよいが有機半導体が好ましく、さらに有機色素が好ましい。
なお、タンデム構造については、特願2004−079930号において詳細に説明されている。
〔配向規定〕
本発明は1対の電極間にp型半導体の層、n型半導体の層、(好ましくは混合・分散(バルクヘテロ接合構造)層)を持つ光電変換膜を有する撮像素子において、p型半導体及びn型半導体のうちの少なくとも1方に配向制御された有機化合物を含むことを特徴とする光電変換膜の場合が好ましく、さらに好ましくは、p型半導体及びn型半導体の両方に配向制御された(可能な)有機化合物を含む場合である。
光電変換膜の有機層に用いられる有機化合物としては、π共役電子を持つものが好ましく用いられるが、このπ電子平面が、基板(電極基板)に対して垂直ではなく、平行に近い角度で配向しているほど好ましい。基板に対する角度として好ましくは0°〜80°であり、さらに好ましくは0°〜60°であり、さらに好ましくは0°〜40°であり、さらに好ましくは0°〜20°であり、特に好ましくは0°〜10°であり、最も好ましくは0°(すなわち基板に対して平行)である。
上記のように、配向の制御された有機化合物の層は、有機層全体に対して一部でも含めば良いが、好ましくは、有機層全体に対する配向の制御された部分の割合が10%以上の場合であり、さらに好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%である。
このような状態は、光電変換膜において、有機層の有機化合物の配向を制御することにより有機層のキャリア拡散長が短いという欠点を補い、光電変換効率を向上させるものである。
【0134】
本発明の有機化合物の配向が制御されている場合において、さらに好ましくはヘテロ接合面(例えばpn接合面)が基板に対して平行ではない場合である。ヘテロ接合面が、基板(電極基板)に対して平行ではなく、垂直に近い角度で配向しているほど好ましい。基板に対する角度として好ましくは10°〜90°であり、さらに好ましくは30°〜90°であり、さらに好ましくは50°〜90°であり、さらに好ましくは70°〜90°であり、特に好ましくは80°〜90°であり、最も好ましくは90°(すなわち基板に対して垂直)である。
上記のような、ヘテロ接合面の制御された有機化合物の層は、有機層全体に対して一部でも含めば良い。好ましくは、有機層全体に対する配向の制御された部分の割合が10%以上の場合であり、さらに好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%である。このような場合、有機層におけるヘテロ接合面の面積が増大し、界面で生成する電子、正孔、電子正孔ペア等のキャリア量が増大し、光電変換効率の向上が可能となる。
以上の、有機化合物のヘテロ接合面とπ電子平面の両方の配向が制御された光電変換膜(光電変換膜)において、特に光電変換効率の向上が可能である。
これらの状態については、特願2004−079931号において詳細に説明されている。
【0135】
(電子写真感光体)
以下、本発明の電荷輸送膜を電子写真に適用した場合の詳細について説明する。
本発明の電子写真感光体は、前記本発明の電荷輸送膜を備える。電子写真感光体について説明する。
図1は、本発明の電子写真用感光体の好適な一実施形態を示す模式断面図である。
図1においては導電性基体4上に下引層1が設けられ、その上に電荷発生層2、電荷輸送層3からなる感光層が設けられ、表面に保護層5が設けられている。
図2乃至図3はそれぞれ本発明の電子写真感光体の他の好適な実施形態を示す模式断面図である。
図2に示す電子写真感光体は、図1に示す電子写真感光体と同様に電荷発生層2と電荷輸送層3とに機能が分離された感光層を備えるものである。また、図3は、電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一の層(電荷発生/電荷輸送層6)に含有するものである。
図2においては、導電性基体4上に下引層1が設けられ、その上に電荷輸送層3、電荷発生層2からなる感光層が設けられ、さらに、表面に保護層5が設けられている。また、図3においては、導電性基体4上に下引層1が設けられ、その上に電荷発生/電荷輸送層6が設けられ、さらに、表面に保護層5が設けられている。
図2乃至図3においては保護層5が上記した本発明の電荷輸送性化合物を含有する保護層となっている。
図1乃至図3において、下引層は設けても設けなくてもよい。
以下、代表例として図1に示す電子写真感光体に基づいて、各要素について説明する。
【0136】
<導電性基体>
導電性基体4としては、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、ステンレス、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、インジウム、金、白金等の金属又は合金を用いて構成される金属板、金属ドラム、及び金属ベルト、あるいは、導電性ポリマー、酸化インジウム等の導電性化合物やアルミニウム、パラジウム、金等の金属又は合金を塗布、蒸着又はラミネートした紙、プラスチックフィルム、ベルト等が挙げられる。
電子写真感光体7がレーザープリンターに使用される場合、レーザー光を照射する際に生じる干渉縞を防止するために、導電性基体4の表面は、中心線平均粗さRaで0.04μm〜0.5μmに粗面化することが好ましい。Raが0.04μm未満であると、鏡面に近くなるので干渉防止効果が不十分となる傾向があり、Raが0.5μmを越えると、被膜を形成しても画質が粗くなる傾向がある。なお、非干渉光を光源に用いる場合には、干渉縞防止の粗面化は特に必要なく、導電性基体4表面の凹凸による欠陥の発生が防げるため、より長寿命化に適する。
【0137】
粗面化の方法としては、研磨剤を水に懸濁させて支持体に吹き付けることによって行う湿式ホーニング、又は回転する砥石に支持体を圧接し、連続的に研削加工を行うセンタレス研削、陽極酸化処理等が好ましい。
また、他の粗面化の方法としては、導電性基体4表面を粗面化することなく、導電性又は半導電性粉体を樹脂中に分散させて、支持体表面上に層を形成し、その層中に分散させる粒子により粗面化する方法も好ましく用いられる。
ここで、陽極酸化による粗面化処理は、アルミニウムを陽極とし電解質溶液中で陽極酸化することによりアルミニウム表面に酸化膜を形成するものである。電解質溶液としては、硫酸溶液、シュウ酸溶液等が挙げられる。しかし、陽極酸化により形成された多孔質陽極酸化膜は、そのままの状態では化学的に活性であり、汚染され易く、環境による抵抗変動も大きい。そこで、陽極酸化膜の微細孔を加圧水蒸気又は沸騰水中(ニッケル等の金属塩を加えてもよい)で水和反応による体積膨張でふさぎ、より安定な水和酸化物に変える封孔処理を行うことが好ましい。
陽極酸化膜の膜厚については、0.3〜15μmが好ましい。この膜厚が0.3μm未満であると、注入に対するバリア性が乏しく効果が不十分となる傾向がある。他方、15μmを超えると、繰り返し使用による残留電位の上昇を招く傾向にある。
【0138】
また、導電性基体4には、酸性水溶液による処理又はベーマイト処理を施してもよい。リン酸、クロム酸及びフッ酸からなる酸性処理液による処理は以下のようにして実施される。先ず、酸性処理液を調整する。酸性処理液におけるリン酸、クロム酸及びフッ酸の配合割合は、リン酸が10〜11質量%の範囲、クロム酸が3〜5質量%の範囲、フッ酸が0.5〜2質量%の範囲であって、これらの酸全体の濃度は13.5〜18質量%の範囲が好ましい。処理温度は42〜48℃が好ましいが、処理温度を高く保つことにより、一層速く、かつ厚い被膜を形成することができる。被膜の膜厚は、0.3〜15μmが好ましい。0.3μm未満であると、注入に対するバリア性が乏しく効果が不十分となる傾向がある。他方、15μmを超えると、繰り返し使用による残留電位の上昇を招く傾向がある。
ベーマイト処理は、90〜100℃の純水中に5〜60分間浸漬すること、又は90〜120℃の加熱水蒸気に5〜60分間接触させることにより行うことができる。被膜の膜厚は、0.1〜5μmが好ましい。これをさらにアジピン酸、硼酸、硼酸塩、燐酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の被膜溶解性の低い電解質溶液を用いて陽極酸化処理してもよい。
【0139】
<下引層>
下引層1は、結着樹脂のみで形成されても良いし、結着樹脂に無機粒子を含有して形成されてもよい。
無機粒子としては、粉体抵抗(体積抵抗率)10〜1011Ω・cm程度のものが好ましく用いられる。これは下引層1はリーク耐性、キャリアブロック性獲得のために適切な抵抗を得ることが必要でるためである。なお、上記範囲の下限よりも無機粒子の抵抗値が低いと十分なリーク耐性が得られず、この範囲の上限よりも高いと残留電位上昇を引き起こしてしまう懸念がある。
中でも上記抵抗値を有する無機粒子としては、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の無機粒子を用いるのが好ましく、特に酸化亜鉛は好ましく用いられる。
また、無機粒子は表面処理を行ったものでもよく、表面処理の異なるもの、あるいは、粒子径の異なるものなど2種以上混合して用いることもできる。
また、無機粒子としては、BET法による比表面積が10m/g以上のものが好ましく用いられる。比表面積値が10m/g以下のものは帯電性低下を招きやすく、良好な電子写真特性を得にくい傾向がある。
【0140】
さらに無機粒子とアクセプター性化合物を含有させることで電気特性の長期安定性、キャリアブロック性に優れたものが得られる。アクセプター性化合物としては所望の特性が得られるものならばいかなるものでも使用可能であるが、クロラニル、ブロモアニル等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールや2,5−ビス(4−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)1,3,4オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物、3,3’,5,5’テトラ−t−ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物等の電子輸送性物質などが好ましく、特にアントラキノン構造を有する化合物が好ましい。
これらのアクセプター性化合物の含有量は所望の特性が得られる範囲であれば任意に設定できるが、好ましくは無機粒子に対して0.01〜20質量%含有される。さらに電荷蓄積防止と無機粒子の凝集を防止する観点から0.05〜10質量%が好ましい。無機粒子の凝集は、導電路形成が不均一となり、繰り返し使用時に残留電位の上昇など維持性の悪化を招きやすくなるだけでなく、黒点などの画質欠陥も引き起こしやすくなる。
アクセプター化合物は、下引層の塗布時に添加するだけでも良いし、無機粒子表面にあらかじめ付着させておくこともできる。無機粒子表面にアクセプター化合物を付与させる方法としては、乾式法、あるいは、湿式法が挙げられる。
【0141】
乾式法にて表面処理を施す場合には無機粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接あるいは有機溶媒まに溶解させたアクセプター化合物を滴下、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させることによって均一に処理される。添加あるいは噴霧する際には溶剤の沸点以下の温度で行われることが好ましい。溶剤の沸点以上の温度で噴霧すると、均一に攪拌される前に溶剤が蒸発し、アクセプター化合物が局部的にかたまってしまい均一な処理ができにくい欠点があり、好ましくない。添加あるいは噴霧した後、さらに100℃以上で焼き付けを行うことができる。焼き付けは所望の電子写真特性が得られる温度、時間であれば任意の範囲で実施できる。
湿式法としては、無機粒子を溶剤中で攪拌、超音波、サンドミルやアトライター、ボールミル等を用いて分散し、アクセプター化合物を添加し攪拌あるいは分散したのち、溶剤除去することで均一に処理される。溶剤除去方法はろ過あるいは蒸留により留去される。溶剤除去後にはさらに100℃以上で焼き付けを行うことができる。焼き付けは所望の電子写真特性が得られる温度、時間であれば任意の範囲で実施できる。湿式法においては表面処理剤を添加する前に無機粒子含有水分を除去することもでき、その例として表面処理に用いる溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法を用いることもできる。
また、無機粒子はアクセプター化合物を付与する前に表面処理を施すことができる。表面処理剤としては所望の特性が得られるものであればよく、公知の材料から選択することができる。例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、界面活性材等が挙げられる。特に、シランカップリング剤は良好な電子写真特性を与えるため好ましく用いられる。さらにアミノ基を有するシランカップリング剤は下引層1に良好なブロッキング性を与えるため好ましく用いられる。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては所望の電子写真感光体特性を得られるものであればいかなる物でも用いることができるが、具体的例としてはγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、シランカップリング剤は2種以上混合して使用することもできる。前記アミノ基を有するシランカップリング剤と併用して用いることができるシランカップリング剤の例としてはビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
表面処理方法は公知の方法であればいかなる方法でも使用可能であるが、乾式法あるいは湿式法を用いることができる。また、アクセプター付与とカップリング剤等による表面処理を同時に行っても良い。
下引層1中の無機粒子に対するシランカップリング剤の量は所望の電子写真特性が得られる量であれば任意に設定できるが分散性向上の観点から、無機粒子に対して0.5質量%〜10質量%が好ましい。
【0142】
下引層1に含有される結着樹脂としては、良好な膜を形成できるもので、かつ所望の特性が得られるものであれば公知のいかなるものでも使用可能であるが、例えばポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等の公知の高分子樹脂化合物、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料を用いることができる。また電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂等を用いることができる。中でも上層の塗布溶剤に不溶な樹脂が好ましく用いられ、特にフェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。これらを2種以上組み合わせて使用する場合には、その混合割合は、必要に応じて適宜設定することができる。
下引層形成用塗布液中のアクセプター性を付与した金属酸化物とバインダー樹脂、又は無機粒子とバインダー樹脂との比率は所望する電子写真感光体特性を得られる範囲で任意に設定できる。
【0143】
下引層1中には電気特性向上、環境安定性向上、画質向上のために種々の添加物を用いることができる。添加物としては、多環縮合系、アゾ系等の電子輸送性顔料、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料を用いることができる。シランカップリング剤は金属酸化物の表面処理に用いられるが、添加剤としてさらに塗布液に添加して用いることもできる。ここで用いられるシランカップリング剤の具体例としてはビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン等である。ジルコニウムキレート化合物の例として、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシド等が挙げられる。
チタニウムキレート化合物の例としてはテトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。
アルミニウムキレート化合物の例としてはアルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
これらの化合物は単独にあるいは複数の化合物の混合物あるいは重縮合物として用いることができる。
下引層形成用塗布液を調整するための溶媒としては公知の有機溶剤、例えばアルコール系、芳香族系、ハロゲン化炭化水素系、ケトン系、ケトンアルコール系、エーテル系、エステル系等から任意で選択することができる。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤を用いることができる。
また、これらの分散に用いる溶剤は単独あるいは2種以上混合して用いることができる。混合する際、使用される溶剤としては、混合溶剤としてバインダー樹脂を溶かす事ができる溶剤であれば、いかなるものでも使用することが可能である。
分散方法としては、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル、ペイントシェーカーなどの公知の方法を用いることができる。さらにこの下引層1を設けるときに用いる塗布方法としては、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等の通常の方法を用いることができる。
このようにして得られた下引層形成用塗布液を用い、導電性基体上に下引層1が成膜される。
また、下引層1は、ビッカース強度が35以上とされていることが好ましい。
さらに、下引層1は、所望の特性が得られるのであれば、いかなる厚さに設定することができるが、厚さが15μm以上が好ましく、さらに好ましくは15μm以上50μm以下とされていることが好ましい。
下引層1の厚さが15μm未満であるときには、充分な耐リーク性能を得ることができず、また50μm以上であるときには長期使用時に残留電位が残りやすくなるため画像濃度異常を招きやすい欠点がある。
また、下引層1の表面粗さ(十点平均粗さ)はモアレ像防止のために、使用される露光用レーザー波長λの1/4n(nは上層の屈折率)〜1/2λに調整される。表面粗さ調整のために下引層中に樹脂などの粒子を添加することもできる。樹脂粒子としてはシリコーン樹脂粒子、架橋型PMMA樹脂粒子等を用いることができる。
また、表面粗さ調整のために下引層を研磨することもできる。研磨方法としては、バフ研磨、サンドブラスト処理、ウエットホーニング、研削処理等を用いることもできる。
塗布したものを乾燥させて下引層を得るが、通常、乾燥は溶剤を蒸発させ、製膜可能な温度で行われる。
【0144】
<電荷発生層>
電荷発生層2は電荷発生材料及び結着樹脂を含有する層である。
電荷発生材料としては、ビスアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料、ジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料、ペリレン顔料、ピロロピロール顔料、フタロシアニン顔料、酸化亜鉛、三方晶系セレン等が挙げられる。これらの中でも、近赤外域の露光に対しては、金属及又は無金属フタロシアニン顔料が好ましく、特に、特開平5−263007号公報、特開平5−279591号公報等に開示されたヒドロキシガリウムフタロシアニン、特開平5−98181号公報等に開示されたクロロガリウムフタロシアニン、特開平5−11172号公報、特開平5−11173号公報等に開示されたジクロロスズフタロシアニン、特開平4−189873号公報、特開平5−43823号公報等に開示されたチタニルフタロシアニンがより好ましい。また、近紫外域のレーザー露光に対してはジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料、チオインジゴ系顔料、ポルフィラジン化合物、酸化亜鉛、三方晶系セレン、特開2004−78147号公報、特開2005−181992号公報に開示されたビスアゾ顔料、等がより好ましい。
【0145】
電荷発生層2に使用される結着樹脂としては、広範な絶縁性樹脂から選択することができる、また、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン、ポリシラン等の有機光導電性ポリマーから選択することもできる。好ましい結着樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂(ビスフェノール類と芳香族2価カルボン酸の重縮合体等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等が挙げられる。これらの結着樹脂は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。電荷発生材料と結着樹脂の配合比は質量比で10:1〜1:10の範囲内であることが好ましい。
電荷発生層2は、上記電荷発生材料及び結着樹脂を所定の溶剤中に分散した塗布液を用いて形成することができる。
【0146】
分散に用いる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
また、電荷発生材料及び結着樹脂を溶剤中に分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の通常の方法を用いることができる。これらの分散方法により、分散による電荷発生材料の結晶型の変化を防止することができる。さらにこの分散の際、電荷発生材料の平均粒径を0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.15μm以下にすることが有効である。
また、電荷発生層2を形成する際には、ブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等の通常の方法を用いることができる。
このようにして得られる電荷発生層2の膜厚は、好ましくは0.1〜5.0μm、さらに好ましくは0.2〜2.0μmである。
【0147】
<電荷輸送層>
電荷輸送層3は、電荷輸送材料としては、p−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノビニル系化合物、エチレン系化合物等の電子輸送性化合物、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物などの正孔輸送性化合物があげられる。これらの電荷輸送材料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができるがこれらに限定されるものではない。
モビリティーの観点から、以下の構造のものが好ましい。
【0148】
【化34】

【0149】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を示す。また、lは1又は2を意味する。Ar6及びArは置換又は未置換のアリール基あるいは、−C−C(R10)=C(R11)(R12)、−C−CH=CH−CH=C(R13)(R14)を表し、R10〜R14は水素原子、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアリール基を表す。置換基としてはハロゲン原子、炭素数が1〜5の範囲のアルキル基、炭素数が1〜5の範囲のアルコキシ基、又は炭素数が1〜3の範囲のアルキル基で置換された置換アミノ基を示す。)
【0150】
【化35】

【0151】
(式中R15、R15'は同一でも異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、を表わす。R16、R16'、R17、R17'は同一でも異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜2のアルキル基で置換されたアミノ基、置換又は未置換のアリール基、あるいは、−C(R18)=C(R19)(R20)、−CH=CH−CH=C(R21)(R22)を表わし、R18〜R22は水素原子、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアリール基を表す。mおよびnは0〜2の整数である。)
このうち特に−C−CH=CH−CH=C((R13)(R14)を有するトリアリールアミン誘導体、あるいは−CH=CH−CH=C(R21)(R22)を有するベンジジン誘導体がモビリティー、保護層との接着性、ゴーストなどの観点で優れ好ましい。
【0152】
電荷輸送層3に用いる結着樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーンアルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等が挙げられる。また、上述のように、特開平8−176293号公報、特開平8−208820号公報に開示されているポリエステル系高分子電荷輸送材料等高分子電荷輸送材料を用いることもできる。これらの結着樹脂は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。電荷輸送材料と結着樹脂との配合比は質量比で10:1〜1:5が好ましい。これらのうち、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が電荷輸送性、電荷輸送材料との相溶性に優れるため好ましい。さらに、電荷輸送性骨格と、アクリル、あるいは、メタクリル基を有する化合物を含有する層を表面層として電荷輸送層上に形成する場合、電荷輸送層に用いる結着樹脂は、粘度平均分子量50000以上、より好ましくは、55000以上であることが、接着性、上層形成時の耐クラック性などに優れ、より好ましい。
【0153】
また、電荷輸送材料として高分子電荷輸送材料を用いることもできる。高分子電荷輸送材料としては、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシランなどの電荷輸送性を有する公知のものを用いることができる。特に、特開平8−176293号公報、特開平8−208820号公報等に開示されているポリエステル系高分子電荷輸送材料は、高い電荷輸送性を有しており、特に好ましいものである。高分子電荷輸送材料はそれだけでも成膜可能であるが、後述する結着樹脂と混合して成膜してもよい。
電荷輸送層3は、上記構成材料を含有する電荷輸送層形成用塗布液を用いて形成することができる。電荷輸送層形成用塗布液に用いる溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロンゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、エチルエーテル等の環状もしくは直鎖状のエーテル類等の通常の有機溶剤を単独あるいは2種以上混合して用いることができる。また、上記各構成材料の分散方法としては、公知の方法を使用できる。
【0154】
電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層2の上に塗布する際の塗布方法としては、ブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等の通常の方法を用いることができる。
電荷輸送層3の膜厚は、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜30μmである。
本発明では、電荷輸送層3もしくは電荷発生/電荷輸送層6として本発明の電荷輸送膜を使用する。
【0155】
<保護層>
電子写真感光体には、表面保護のため、保護層を設けてもよい。前記本発明の電荷輸送膜は効率よく硬化し、高強度の膜を形成しうるため、本発明の下記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物からなる電荷輸送膜を最表面に設けることで、電荷輸送層に保護層としての機能を兼ねてもよい。下記一般式(1)におけるAr11、Ar12、n、R11、R21及びR22は既述の通りである。
【化36】

【0156】
また、単層型感光層(電荷発生/電荷輸送層)6中においても、特定電荷輸送性化合物は、電荷輸送層形成用塗布液中の固形分全量に対して強度の観点から、5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上で使用される。電荷発生材料の含有量は、10〜85質量%程度、好ましくは20〜50質量%である。また、電荷輸送材料の含有量は5〜50質量%とすることが好ましい。単層型感光層(電荷発生/電荷輸送層)6の形成方法は、電荷発生層3や電荷輸送層4の形成方法と同様である。単層型感光層(電荷発生/電荷輸送層)6の膜厚は5〜50μm程度が好ましく、10〜40μmとするのがさらに好ましい。
【実施例】
【0157】
以下に、本発明について実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって限定して解釈されるものではない。
【0158】
(実施例1)
(合成例1:特定電荷輸送性化合物:化合物101の合成)
本発明に係る特定電荷輸送性化合物:化合物101を下記スキームに従って合成した。
(1−1.化合物202の合成)
大気下で、フラスコに化合物201(下記構造)を97.7g、N−メチルピロリドン(以下、NMPと表記する)1.5Lを加え、80℃に加熱した。ここに、N−ブロモサクシイミド150gを少量ずつ加えた。反応液を80℃で3時間攪拌した。反応液を室温まで冷却したあと、メタノール2.5Lを加えた。析出した粉末をろ取することで、化合物202(下記構造)を133g得た。得られた化合物202のNMRスペクトルを下記に示す。
H−NMR(CDCl):δ6.95(d,8H),7.12(d,4H),7.37(d,8H),7.44(d,4H)
【0159】
前述の化合物202の合成において、反応溶媒をNMPからトルエン、臭素化剤N−ブロモサクシイミドから1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインに替えてそれぞれ上記と同じ反応を行なったところ、同様に化合物202が得られた。
【0160】
(1−2.化合物203の合成)
窒素雰囲気下、前記のようにして得られた化合物202(一般式(1)で表される部分構造を有する化合物)を30.0g、アクリル酸ブチル(一般式(2)で表される化合物)を24mL、トリエチルアミンを60mL、NMPを300mL、フラスコに加え、外温を150度に加熱した。ここにt−BuP・HBFを0.32g、酢酸パラジウムを82mgを加え、さらに2時間攪拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、反応液に塩酸300mLを加えた。酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を濃縮し、ヘキサンを加えることで、黄色の粉末を得た。この粉末をろ取することで化合物203(一般式(C)で表される特定電荷輸送性化合物)を31g得た。得られた化合物203のNMRスペクトルを下記に示す。
H−NMR(CDCl):δ0.96(t,12H),1.47(tq,8H),1.68(dt,8H),4.23(t,8H),6.34(d,4H),7.12(d,8H),7.20(d,4H),7.45(d,8H),7.53(d,8H),7.63(d,4H)
【0161】
前述の化合物203の合成において、反応溶媒をNMPからトルエンに替えて上記と同じ反応を行なったところ、同様に化合物203を得ることができた。
【0162】
(1−3.化合物204の合成)
大気下で、化合物203を31g、パラジウム炭素1.7g、ギ酸アンモニウム32g、イソプロピルアルコール500mLをフラスコに加え、還流条件下で1時間攪拌した。得られた反応液をセライト濾過し、ろ液に食塩水500mLを加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することで、化合物204を26.2g得た。得られた化合物204のNMRスペクトルを下記に示す。
H−NMR (CDCl):δ0.94(t,12H), 1.38(tq,8H), 1.63(dt,8H), 2.63(t,8H), 2.92(t,8H), 4.10(t,8H), 7.00−7.15(m,20H) ,7.42(d,4H)
【0163】
(1−4.化合物205の合成)
大気下で、化合物204を15g、水酸化カリウム30g、水125mL、イソプロピルアルコール125mLを500mLフラスコに加え、加熱還流条件下で10時間攪拌した。室温まで放冷後、氷水浴で冷却しながら、6M塩酸水溶液を100mL加え、30分間攪拌した。すると、粘性固体が析出した。上澄み液を取り除いた後、水200mLを加え、30分間攪拌した。得られた個体を濾取し、乾燥することで、化合物205を8.24g得た。得られた化合物205のNMRスペクトルを下記に示す。
H−NMR (CDCl):δ2.53(t,8H),2.78(t,8H),6.90−7.00(m,12H),7.17(d,8H),7.50(d,4H),12.07−12.20(bs,4H)
【0164】
(1−5.化合物101の合成)
大気下、室温で、化合物205を2.0g、テトラヒドロフラン10mLを50mLフラスコに加え、攪拌を開始した。ここに、トリエチルアミン1.77mL、化合物207(下記構造)を順次加え、さらに5時間攪拌した。析出した結晶をろ過で取り除き、得られた溶液に1M塩酸水溶液50mLを加えた。この混合物を酢酸エチル50mLで抽出し、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。得られた粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で生成することで、黄色の粘性液体として化合101を2.78g得た。得られた化合物101のNMRスペクトルを下記に示す。
H−NMR (CDCl):δ1.30(t,12H),2.69(t,8H),2.92(t,8H),4.24(q,8H),4.83(s,8H),5.76(s,4H),6.35(s,4H),6.98−7.14(m,20H),7.43(d,4H)
【0165】
【化37】

【0166】
【化38】

【0167】
(実施例2)
(合成例2:特定電荷輸送性化合物:化合物102の合成)
本発明に係る特定電荷輸送性化合物:化合物102を下記スキームに従って合成した。
(2−1.化合物211の合成)
窒素気流下、氷冷下で、塩化亜鉛19.6g、トルエン100mLの混合物の入ったフラスコに、DMF18.2g、オキシ塩化リン38gを順次加え20分間攪拌した。ここに、化合物210(下記構造)を10g加え、100度で12時間攪拌した。これを50度まで冷却し、水を加えた。水層を取り除き、得られた有機層を炭酸カリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。得られた、トルエン溶液をフラスコに移し、ここにマロン酸12.9g、ピペリジン10.5gを加え、ディーンスタークで水分を除去しながら3時間還流条件下で攪拌した。室温まで冷却した後、ここにメタノール200mL、濃硫酸10mLを加え、15時間還流条件下で攪拌した。得られた溶液に水を加えて抽出し、有機層を集めた。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮し、化合物211(下記構造)を15.3g得た。
【0168】
(2−2.化合物212の合成)
得られた化合物211を原料として用い、化合物204を合成した手法と同様の手法で化合物212(下記構造)合成した。
【0169】
(2−3.化合物213の合成)
化合物212を原料として用い、化合物205を合成した手法と同様の手法で合成した。
【0170】
(2−4.化合物102の合成)
化合物213を原料として用い、塩基をピリジン、溶媒をアセトンに変更した他は、化合物101を合成した手法と同様の手法にて化合物102(一般式(A)に包含される特定電荷輸送性化合物)を合成した。
【0171】
【化39】

【0172】
(実施例3)
(合成例3:特定電荷輸送性化合物:化合物103の合成)
本発明に係る特定電荷輸送性化合物:化合物103(一般式(C)に包含される特定電荷輸送性化合物)を下記スキームに従って合成した。用いた化合物207は前記したものと同様である。
【0173】
【化40】

【0174】
(実施例4)
(合成例4:特定電荷輸送性化合物:化合物104の合成)
本発明に係る特定電荷輸送性化合物:化合物104(一般式(C)に包含される特定電荷輸送性化合物)を下記スキームに従って合成した。用いた化合物207は前記したものと同様である。
【0175】
【化41】

【0176】
(実施例5)
(合成例5:特定電荷輸送性化合物:化合物105の合成)
本発明に係る特定電荷輸送性化合物:化合物105(一般式(C)において、二価の連結基を含む化合物に包含される特定電荷輸送性化合物)を下記スキームに従って合成した。
【化42】

【0177】
(実施例6)
(合成例6:特定電荷輸送性化合物:化合物106の合成)
本発明に係る特定化合物:化合物106(一般式(D)に包含される特定電荷輸送性化合物)を下記スキームに従って合成した。用いた化合物207は前記したものと同様である。
【0178】
【化43】

【0179】
(実施例7:電荷輸送膜)
(7−1.電荷輸送膜形成用塗布液による製膜)
下記組成に記載の化合物を混合し、各成分を溶解させて電荷輸送膜形成用塗布液1を調整し、塗布バーを用いてスライドガラス上にサンプル溶液を膜厚70μmに塗布して塗膜を形成した。
(電荷輸送膜形成用塗布液1組成)
電荷輸送性化合物(特定電荷輸送性化合物又は比較化合物
:下記表1記載の化合物) 1.60g
ポリアリレート樹脂(ポリアリレートUポリマー
U−100:ユニチカ(株)製) 0.40g
ラジカル開始剤(V−601:和光純薬もしくはOT−azo:大塚化学)0.04g
トルエン 4.00g
テトラヒドロフラン 4.00g
【0180】
(7−2.塗膜の酸素存在雰囲気下での硬化性の確認)
形成された塗膜を、酸素濃度をコントロールした窒素雰囲気下で、150℃30分間加熱して硬化させて電荷輸送膜を形成した。冷却後、JIS−K5400に従い、鉛筆硬度を測定した。
また、前記塗布液においてバインダーであるポリアリレート樹脂を含有しない特定電荷輸送材料とラジカル開始剤のみからなるサンプル溶液を作製し、ポリイミド膜上に塗布し、上記と同様の条件で加熱硬化させ、同様に評価した。結果を下記表1に示す。
【0181】
【化44】

【0182】
【化45】

【0183】
【表1】

【0184】
表1に明らかなように、本発明の特定電荷輸送性化合物を用いた電荷輸送膜は、酸素の存在下においても硬化性に優れ、高硬度の硬化膜が形成されることがわかる。他方、重合性基を有する電荷輸送性化合物であっても、比較化合物を用いたものは、低酸素濃度では高度に優れた膜が形成されるが、酸素濃度の向上につれ、硬化性が低下した。
【0185】
(7−3.硬化物形成における反応率の評価)
比較例7−1、比較例7−4、実施例7−1、実施例7−2と同様の電荷輸送膜形成用塗布液を調製し、銅板上に塗布し、同様の条件下で硬化した。これらサンプルの硬化前の膜、硬化後の膜をそれぞれ、IRスペクトルを測定することで架橋基の反応率を測定した。なお、測定手順としては、得られた膜を赤外分光計(島津製作所製IRAffinity−1)にて反射モードで測定した。反応率はポリアリレート樹脂のカルボニル吸収のピークを内部標準として、相対値で2重結合の吸収強度を算出し、架橋基の反応率を計算した。
【0186】
【表2】

【0187】
上記の結果より、通常のアクリル系架橋基は200ppm以上の酸素存在下で充分に硬化しないのと対照的に、本発明の特定電荷輸送性化合物は、酸素存在下の硬化条件で、優れた機械強度・耐傷性の硬化膜が得られることが反応率からも裏付けされた。
【0188】
(実施例8:光による電荷輸送膜の形成)
(8−1.塗膜の形成酸素存在雰囲気下での光硬化性の確認)
下記組成の電荷輸送膜形成用塗布液2を調整し、塗布棒を用いてスライドガラス上にサンプル溶液を膜圧70μmに塗布し、送風乾燥機で120℃、1時間の条件で乾燥して塗膜を形成した。
(電荷輸送膜形成用塗布液2組成)
電荷輸送性化合物(特定電荷輸送性化合物又は比較化合物
:下記表3記載の化合物) 1.60g
ポリアリレート樹脂(ポリアリレートUポリマー
U−100:ユニチカ(株)製) 0.40g
ラジカル開始剤(IRGACURE369:Ciba社製) 0.04g
トルエン 4.00g
テトラヒドロフラン 4.00g
【0189】
(8−2.酸素存在雰囲気下での光硬化性の確認)
次に、形成された塗膜に対し、酸素濃度をコントロールしながら、120℃に加熱しながら、ハロゲンランプ:照射強度:67mW/cm、照射時間:30秒の条件で光照射を行い硬化させ、厚さ25μmの硬化膜を得た。その後、JIS−K5400に従い、鉛筆硬度を測定した。結果を下記表3に示す。
【0190】
【表3】

【0191】
上記の結果より、本発明の特定電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜形成用塗布液によれば、酸素存在下の硬化条件で、優れた機械強度・耐傷性の膜が得られることが分かる。
【0192】
(実施例9:有機電界発光素子)
(9−1.有機電界発光素子の作製)
150nmの厚みのITOからなる陽極を有する、25mm×25mm×0.7mmのガラス基板上に、スピンコーティング法によって、以下に記述の塗布液を塗布した後、以下に記述の手法により、膜厚が40nmの硬化膜を作製した。
(熱硬化用電荷輸送膜形成用塗布液3と硬化方法)
(電荷輸送膜形成用塗布液3組成)
電荷輸送性化合物(表4記載の化合物)1.60g、ラジカル開始剤(V−601:和光純薬)0.04g、トルエン10.00g、テトラヒドロフラン10.00gの混合溶液。
前記塗布液を塗布して塗膜を形成した後、150℃30分間加熱して硬化させて電荷輸送膜を形成した。
【0193】
(光硬化用電荷輸送膜形成用塗布液4と硬化方法)
(電荷輸送膜形成用塗布液4組成物)
電荷輸送性化合物(表4記載の化合物)1.60g、ラジカル開始剤(IRGACURE369:Ciba)0.04g、トルエン10.00g、テトラヒドロフラン10.00gの混合溶液。
前記溶液を塗布して塗膜を形成した後、送風乾燥機で120℃、1時間の条件で乾燥した。次に、120℃に加熱しながら、ハロゲンランプ:照射強度:67mW/cm、照射時間:30秒の条件で光照射を行い硬化させて電荷輸送膜を形成した。
【0194】
この上に、発光層構成材料のクロロホルム溶液をスピンコーティング法によって塗布し、送風乾燥機で120℃、1時間の条件で乾燥して発光層を形成した。
(発光層形成用塗布液)
ポリ(N−ビニルカルバゾール)(東京化成)2.00g、fac−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム0.10g、クロロホルム30.00gの混合溶液。
形成された発光層上に、電子輸送材料として、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)錯体を50nm、真空蒸着法により成膜して、さらにその上に、アルミニウム蒸着して膜厚200nmの電極層を形成した後封止し、ITOコートガラス基板上に電荷輸送層、発光層、電子輸送層及び電極層をこの順に積層した有機電界発光素子を得た。
上記有機電界発光素子のITO膜を陽極、Al電極層を陰極として、室温、大気中で両電極間に12Vの駆動電圧で直流電場を印加して発光させ、その発光輝度を、輝度計(BM−8;トプコン社製)を用いて測定した。
【0195】
【表4】

【0196】
比較化合物を含有する電荷輸送膜形成用塗布液は、酸素存在下の熱硬化では十分硬化せず、発光層塗布時にホール輸送層と発光層の混合がおこり、発光ムラが大きく発光輝度が低い。これに対し本発明の特定電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜形成用塗布液によれば同条件でも優れた硬化膜が形成されることから、発光素子に用いた場合にも良好な性能を示す。
【0197】
(実施例10:光電変換素子)
25mm角のITO電極付ガラス基板上に、スピンコーティング法によって、以下に記述のホール輸送材料塗布液を塗布して電荷輸送膜を形成した。
(熱硬化用電荷輸送膜形成用塗布液5と硬化方法)
(電荷輸送膜形成用塗布液5組成)
電荷輸送性化合物(表5記載の化合物)1.60g、ラジカル開始剤(V−601:和光純薬)0.04g、トルエン10.00g、テトラヒドロフラン10.00gの混合溶液。
前記塗布液を塗布して塗膜を形成した後、150℃30分間加熱して硬化させて膜厚が40nmの電荷輸送膜を形成した。
【0198】
(光硬化用電荷輸送膜形成用塗布液6と硬化方法)
(電荷輸送膜形成用塗布液6組成物)
電荷輸送性化合物(表5記載の化合物)1.60g、ラジカル開始剤(IRGACURE369:Ciba)0.04g、トルエン10.00g、テトラヒドロフラン10.00gの混合溶液。
前記溶液を塗布して塗膜を形成した後、送風乾燥機で120℃、1時間の条件で乾燥した。次に、120℃に加熱しながら、ハロゲンランプ:照射強度:67mW/cm、照射時間:30秒の条件で光照射を行い硬化させて膜厚が40nmの電荷輸送膜を形成した。
【0199】
電荷輸送膜を形成した後、真空下で、光電変換層のp型有機半導体として、Silicon 2,3−naphthalocyanine bis(trihexylsilyloxide)(シグマアルドリッチジャパン株式会社から購入し昇華精製を施したもの)と、N型有機半導体であるフラーレンC60(シグマアルドリッチジャパン株式会社昇華品)とを、体積比を1:1に保ちながら合計10nmとなるように共蒸着してp型有機半導体とフラーレンC60が混合された光電変換層を作製した。さらにその上に、光電変換層としてSilicon 2,3−naphthalocyanine bis(trihexylsilyloxide)(同上)を膜厚20nmとなるように蒸着してp型有機半導体のみの光電変換層を形成した。続いて、昇華精製を行ったAlq3を厚み30nmとなるように蒸着した。この上に更にアルミニウムを厚み100nmとなるように蒸着したのち、封止した。
【0200】
次に、この基板を、真空中を保ちながら金属蒸着室に搬送した。有機薄膜上に、対向電極としてアルミを厚み1000Åとなるように蒸着した。また、最下層のITO電極と、アルミ対向電極とが形成する光電変換領域の面積は2mm×2mmとした。この基板を大気に曝すことなく、水分、酸素をそれぞれ1ppm以下に保ったグローブボックスに搬送し、UV硬化性樹脂を用いて、吸湿剤を張ったガラスで封止を行った。
【0201】
このようにして作製した素子を、オプテル製定エネルギー量子効率測定装置(ソースメータはケースレー6430を使用)を用いて、素子に対して1.0×10V/cmの外部電界(電界強度1.0×10V/cm)を与えた場合において、光非照射時に流れる暗電流値と光照射時に流れる光電流値を測定し外部量子効率を算出した。光電変換領域の面積は2mm×2mmのうち1.5mmφの領域に対して光照射を行った。照射した光量は50μW/cmとした。
【0202】
【表5】

【0203】
実施例10−1,10−2と実施例10−3、10−4との対比より光硬化したものは光電変換効率が低く、熱硬化により形成された電荷輸送膜が性能が良好であることが判る。ただし、比較例化合物を含有する電荷輸送膜形成用塗布液によれば、脱酸素下では良好な光電変換効率を示すが酸素存在下の熱硬化では光電変換効率が低い。これに対し、発明の特定電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜形成用塗布液により形成された電荷輸送膜を有する素子は、酸素存在下でも優れた光電変換効率を示した。また、本発明の特定電荷輸送性化合物を用いた場合、比較例に比べ予想外に暗電流が小さく優れたSN比を与える。
【0204】
(実施例11:電子写真感光体)
(実施例11−1)
厚さ1mmのアルミ板上にジルコニウム化合物(商品名:オルガノチックスZC540、マツモト製薬社製)20部、シラン化合物(商品名:A1100、日本ユニカー社製)2.5部及びポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBM−S、積水化学社製)とブタノール45部からなる溶液をワイヤーバーで塗布し、150℃において10分間加熱乾燥し膜厚1.0μmの下引層を形成した。
ついで、電荷発生物質として、チタニルフタロシアニン15質量部、結着樹脂として塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(VMCH、日本ユニカー社製)10質量部、n−ブチルアルコール300質量部からなる混合物をガラスビーズとともにペイントシェーカーで1時間処理して分散した後、得られた塗布液を前記下引き層上にワイヤーバーで塗布し、100℃で10分間加熱乾燥して膜厚約0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0205】
次に、この電荷発生層上に、前記合成例1で得られた化合物101を80質量部、ポリアリレート樹脂(ポリアリレートUポリマーU−100)を20質量部、V601(和光純薬製)を0.5質量部、をクロルベンゼン300質量部に加えて溶解して電荷輸送膜形成用塗布液を調製し、ワイヤーバーで電荷発生層上に塗布した。得られた塗膜を、酸素濃度をコントロールした窒素雰囲気(酸素濃度2%)下で、150度30分間加熱して硬化させた18μmの電荷輸送層を作製した。
【0206】
(実施例11−2)
電荷輸送層の硬化時の酸素濃度を200ppmとした以外は実施例9−1と同様に感光体を作製した。
(実施例11−3)
実施例11−1の電荷輸送層形成に用いた重合開始剤V601(和光純薬製)0.5質量部をIRGACURE369(Ciba製)0.05gにかえて電荷輸送膜形成用塗布液を調製した他は、実施例9−1と同様にして電荷発生層上に電荷輸送膜形成用塗布液による塗膜を形成した。これを120℃、1時間乾燥し、ついで、酸素濃度をコントロールした窒素雰囲気(酸素濃度2%)下で、120℃に加熱しながら、ハロゲンランプ:照射強度:67mW/cm、照射時間:30秒の条件で光照射を行い硬化させ、厚さ18μmの電荷輸送膜を得た。
【0207】
(実施例11−4)
電荷輸送層の硬化時の酸素濃度を200ppmとした以外は実施例9−3と同様にして感光体を作製した。
(実施例11−5〜11−12)
電荷輸送膜形成用塗布液の調製に用いた材料を下記表6のように変えた他は、実施例11−1又は11−2と同様にして電荷輸送膜を形成し、感光体を作製、評価した。
(比較例11−1〜11−8)
電荷輸送膜形成用塗布液の調製に用いた材料を下記表6のように変えた他は、実施例11−1又は11−2と同様にして電荷輸送膜を形成し、感光体を作製、評価した。
【0208】
(感光体の評価)
この作製した感光体を、静電複写紙試験装置((株)川口電機製作所製、SP−428型)を用いて、次のようにして電子写真特性を評価した(スタチック方式で測定)。まず感光体を−6kVのコロナ放電により帯電せしめ、30秒間暗所に放置した時の表面電位V0を測定した。次いでタングステンランプの光を感光体表面における照度を3luxになるようにして露光し、表面電位が初期表面電位V0の半分に減衰するのに要する露光量E50を測定した。また同様の測定を3000回繰り返して行った。
【0209】
【表6】

【0210】
実施例の対比において、光硬化では比較的残留電位が大きくなる(表面電位が減衰し難くなる)ために、残留電位の観点からは熱硬化がより好適であることがわかる。しかし熱硬化させた場合、高酸素濃度下では比較例化合物を用いた電荷輸送膜形成用塗布液は充分に硬化せず、膜強度に問題がある。
一方、本発明の特定電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜形成用塗布液によれば、酸素存在下でも、熱硬化において、良好な硬化性を有し、この電荷輸送膜を備えた感光体は低露光で表面電位を下げることができた。
また、同じ電荷輸送機能骨格を有する材料であっても、重合官能基の構造により大きく特性が異なっており、本発明の特定電荷輸送性化合物における重合官能基が電気特性向上にも極めて有効である。理由については明確ではないが、本発明の重合官能基が酸素の存在化でも有効に重合できることから、反応性が高く、そのために電気特性の悪化をもたらす副反応が抑制されているものと推察される。
【0211】
以上の実施例が示すように本発明の化合物は、酸素存在(大気)下で熱重合させることができ、脱酸素環境を用いずに耐溶剤性や耐傷性等の機械特性や電気特性に優れる素子を作製できる。
【符号の説明】
【0212】
1…下引層、2…電荷発生層、3…電荷輸送層、4…導電性基体、5…保護層、6…電荷発生/電荷輸送層、7…電子写真感光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される部分構造と下記一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物を含有する組成物を用いてなる架橋物を含む電荷輸送膜。
【化1】


[前記一般式(1)中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に置換もしくは無置換のアリール基を表す。nは1又は2を表す。R11は、nが1を表す場合置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、及び、置換もしくは無置換のアルキニル基かならなる群より選択される置換基を表し、nが2を表す場合置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基、及び、置換もしくは無置換のアルキニレン基かならなる群より選択される2価の連結基を表す。Qは単結合又は2価の連結基を表し、nが1の時は存在しない。前記一般式(2)中、R21、R22はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換のアシル基を表す。一般式(2)で表される部分構造は、前記一般式(1)で表される部分構造とR21、R22のいずれかを介して結合し、その結合数は1ないし6である。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物が、下記一般式(A)で表される化合物である請求項1に記載の電荷輸送膜。
【化2】


[前記一般式(A)中、R31、R32、R33はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数12〜20のジアリールアミノ基を表し、n31、n32、n33はそれぞれ0ないし6の整数を表す。L31、L32は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、又は、これらの組合せからなる連結基を表し、n37、n38は0又は1を表す。R35は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R36は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n35、n36は0ないし6の整数を表し、n35、n36は同時に0ではない。]
【請求項3】
前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物が、下記一般式(B)で表される化合物である請求項1に記載の電荷輸送膜。
【化3】


[前記一般式(B)中、R41、R42、R43はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n41、n42、n43はそれぞれ0ないし6の整数を表し、n40は0ないし2の整数を表す。R44は水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。L41、L42は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、又は、これらの組合せからなる連結基を表し、n47、n48は0又は1を表す。R45は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R46は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n45、n46は0ないし6の整数を表し、n45、n46は同時に0ではない。]
【請求項4】
前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物が、下記一般式(C)で表される化合物である請求項1に記載の電荷輸送膜。
【化4】

[前記一般式(C)中、R51、R52、R53、R54、R55、R56はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n51、n52、n53、n54はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n55、n56はそれぞれ0ないし4の整数を表す。L56は、単結合、又は、2価の連結基を表す。L51、L52は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、又は、これらの組合せからなる連結基を表し、n57、n58は0又は1を表す。R57は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R58は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n59、n60は0ないし6の整数を表し、n59、n60は同時に0ではない。]
【請求項5】
前記一般式(1)で表される部分構造と一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物が、下記一般式(D)で表される化合物である請求項1に記載の電荷輸送膜。
【化5】

[前記一般式(D)中、R61、R62、R63、R64及びR65はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n61、n62、n63、n64はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n65は0ないし4の整数を表す。L61、L62は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、又は、これらの組合せからなる連結基を表し、n67、n68は0ないし1を表す。R67は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R68は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n69、n70は0ないし6の整数を表し、n69、n70は同時に0ではない。]
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電荷輸送膜を備えてなる有機電界発光素子。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電荷輸送膜を備えてなる有機光電変換素子。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電荷輸送膜を備えてなる電子写真感光体。
【請求項9】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電荷輸送膜が最表面層に位置する請求項9記載の電子写真感光体。
【請求項10】
下記一般式(1)で表される部分構造と下記一般式(2)で表される部分構造とを有する電荷輸送性化合物と重合開始剤を混合した塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、
前記塗布膜を加熱して架橋物を得る架橋物形成工程と、を有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電荷輸送膜の製造方法。
【化6】


[前記一般式(1)中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に置換もしくは無置換のアリール基を表す。nは1又は2を表す。R11は、nが1を表す場合置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルケニル基、及び、置換もしくは無置換のアルキニル基かならなる群より選択される置換基を表し、nが2を表す場合置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基、及び、置換もしくは無置換のアルキニレン基かならなる群より選択される2価の連結基を表す。Qは単結合又は2価の連結基を表し、nが1の時は存在しない。前記一般式(2)中、R21、R22はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は、置換もしくは無置換のアシル基を表す。一般式(2)で表される部分構造は、前記一般式(1)で表される部分構造とR21、R22のいずれかを介して結合し、その結合数は1ないし6である。]
【請求項11】
前記架橋物形成工程が、前記塗布膜表面における酸素濃度が200ppm以上の条件下で行われる請求項10に記載の電荷輸送成膜の製造方法。
【請求項12】
下記一般式(A)又は下記一般式(B)で表される電荷輸送性化合物。
【化7】


[前記一般式(A)中、R31、R32、R33はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数12〜20のジアリールアミノ基を表し、n31、n32、n33はそれぞれ0ないし6の整数を表す。L31、L32は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、又は、これらの組合せからなる連結基を表し、n37、n38は0ないし1を表す。R35は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R36は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n35、n36は0ないし6の整数を表し、n35、n36は同時に0ではない]
【化8】


[前記一般式(B)中、R41、R42、R43はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n41、n42、n43はそれぞれ0ないし6の整数を表し、n40は0ないし2の整数を表す。R44は水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。L41、L42は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、又は、これらの組合せからなる連結基を表し、n47、n48は0又は1を表す。R45は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R46は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n45、n46は0ないし6の整数を表し、n45、n46は同時に0ではない。]
【請求項13】
下記一般式(C)、又は、下記一般式(D)で表される電荷輸送性化合物。
【化9】

[前記一般式(C)中、R51、R52、R53、R54、R55、R56はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n51、n52、n53、n54はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n55、n56はそれぞれ0ないし4の整数を表す。L56は、単結合又は2価の連結基を表す。L51、L52は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、及び、これらの組合せからなる連結基を表し、n57、n58は0ないし1を表す。R57は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R58は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n59、n60は0ないし6の整数を表し、n59、n60は同時に0ではない。]
【化10】

[前記一般式(D)中、R61、R62、R63、R64及びR65はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1〜20のアルケニル基、又は、置換もしくは無置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、n61、n62、n63、n64はそれぞれ0ないし5の整数を表し、n65は0ないし4の整数を表す。L61、L62は炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、−O−、−COO−、−CO−基、又は、これらの組合せからなる連結基を表し、n67、n68は0ないし1を表す。R67は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、又は、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基を表し、R68は炭素数1〜12のアルキル基、又は、炭素数6〜20のアリール基を表す。n69、n70は0ないし6の整数を表し、n69、n70は同時に0ではない。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−114322(P2011−114322A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272348(P2009−272348)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】