説明

電荷輸送膜用組成物及びイオン化合物、それを用いた電荷輸送膜及び有機電界発光素子、並びに、有機電界発光素子の製造方法及び電荷輸送膜の製造方法

【課題】 耐熱性に優れるとともに高い正孔注入・輸送能を有し、低電圧で駆動可能な有機電界発光素子を得ることができる、優れた電荷輸送膜用組成物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)等で表わされるイオン化合物と、電荷輸送性化合物とを少なくとも含有する。


(一般式(1)中、R11は、A1と炭素原子で結合する有機基を表わす。R12は、任意の
基を表わす。R11及びR12が互いに結合して環を形成していても良い。
1は、長周期型周期表の第17族に属する第3周期以降の元素を表わす。
1n1-は、対アニオンを表わす。
1は、対アニオンのイオン価を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電荷輸送膜用組成物及びイオン化合物、それを用いた電荷輸送膜及び有機電界発光素子、並びに、有機電界発光素子の製造方法及び電荷輸送膜の製造方法に関する。詳しくは、耐熱性に優れ、低電圧で駆動可能な有機電界発光素子を得ることができる、優れた電荷輸送膜用組成物及びイオン化合物に関するとともに、それを用いた電荷輸送膜及びその製造方法に関し、更には、それを用いた有機電界発光素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電界発光(electroluminescence:EL)素子としては、ZnS等の無機材料に代わり、有機材料を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行なわれている。有機電界発光素子において、その発光効率の高さは重要な要素の1つであるが、発光効率については、芳香族アミン化合物を含む正孔輸送層と、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体からなる発光層とを設けた有機電界発光素子により、大幅に改善された。
【0003】
有機電界発光素子の需要拡大に向けた大きな課題は、駆動電圧の低下である。例えば、携帯機器の表示素子ではバッテリーからの低電圧駆動が要請され、また、携帯用途以外の一般的用途においても、駆動ICのコストは駆動電圧に依存し、駆動電圧が低い方が低コストになる。また、連続駆動時に徐々に駆動電圧が上昇していくことも、表示素子の安定した表示特性を維持する上で大きな課題となっている。
【0004】
これらの課題を解決するために、正孔輸送性化合物に各種の電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(4−ブロモフェニルアミニウムヘキサクロロアンチモネート)(tris(4-bromophenyl aminiumhexachloroantimonate):TBPAH)を混合することで、低電圧駆動が可能な有機電界発光素子が得られることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、正孔輸送性化合物に、電子受容性化合物として塩化鉄(III)(FeCl3)を真空蒸着法により混合して用いることが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(tris(pentafluorophenyl)borane:PPB)を、湿式成膜法により混合して正孔注入層を形成することが開示されている。
【0008】
正孔輸送性化合物に電子受容性化合物を混合すると、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へ電子が移動し、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと電子受容性化合物由来の対アニオンからなるイオン化合物が生成する。
【0009】
特許文献1に記載のTBPAHを電子受容性化合物に用いた場合、対アニオンはSbCl6-であり、特許文献2に記載のFeCl3を電子受容性化合物に用いた場合、対アニオンはCl-(若しくはFeCl4-)であり、特許文献3に記載のPPBを電子受容性化合物として用いた場合、対アニオンは下記のアニオンラジカルである。
【0010】
【化1】

(なお、アニオンラジカルとは不対電子と負電荷を有する化学種である。また、負電荷は分子全体に広がっていると考えられるが、上の式では最も寄与が大きいと考えられる共鳴構造を示した。)
【0011】
また、特許文献4には、光起電力装置(有機太陽電池)の電荷輸送膜の成分として、アミニウムカチオンラジカルと、SbF6-又はBF4-からなるイオン化合物を用いることが開示されている。
【0012】
また、特許文献5には、導電性被膜(電荷輸送膜)の成分として、アミニウムカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物を用いることが開示され、対アニオンとしては、I-などのハロゲン化物イオン、Br3-などのポリハロゲン化物イオン、ClO4-、PO3-などのオキソ酸イオン、BF4-、FeCl4-、SiF62-、RuCl62-などの中心元素とハロゲンからなるイオン、CF3COO-などのカルボン酸イオン、CF3SO2-などのスルホン酸イオン、(CF3SO34Al-などのスルホン酸イオン由来のアート錯体、C60-、C602-、B12122-が例示されている。
【0013】
また、アミニウムカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物は、近赤外領域に吸収を持つことから、特許文献6には、赤外線カットフィルター用途に用いることが開示されており、対アニオンとしては、テトラフェニルホウ酸イオンが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−283750号公報
【特許文献2】特開平11−251067号公報
【特許文献3】特開2003−31365号公報
【特許文献4】特開2003−197942号公報
【特許文献5】米国特許第5853906号公報
【特許文献6】特開2000−229931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載されたTBPAHは、耐熱性が低く、蒸着時に熱分解するため、共蒸着による正孔注入層の形成には不適当である。このため、通常は湿式成膜法により正孔輸送性化合物と混合されるが、溶解性が低いため、湿式成膜法にも適さないという課題を有している。更に、TBPAHは電子受容性が小さいため、正孔輸送性化合物に混合して用いても、駆動電圧の低下には限界がある。また、TBPAHはアンチモン原子を含むため強い毒性を有し、好ましくない。
【0016】
また、特許文献2に記載されたFeCl3は、腐食性を有し、真空蒸着装置にダメージを与えるので好ましくない。また、有機電界発光素子の陽極として一般的に用いられるITO(インジウム・スズ酸化物)は、その表面粗さが10nm程度の粗さ(Ra)を有するのに加えて、局所的に突起を有することが多く、短絡欠陥を生じ易いという課題があるため、陽極の上に形成される正孔注入層は湿式成膜法により形成することが好ましいが、FeCl3は溶媒への溶解性が極めて低く、湿式成膜法にも適さない。
【0017】
更に、前述のTBPAH又はFeCl3を電子受容性化合物に用いた場合、生成するイオン化合物の対アニオンは、SbCl6-又はCl-(若しくはFeCl4-)であり、負電荷が局在しているため、正孔輸送性化合物のラジカルカチオンと強く相互作用し、正電荷が移動しにくく、駆動電圧が十分に低下しない。
【0018】
また、特許文献4又は特許文献5に記載の、対アニオンがI-などのハロゲン化物イオン、Br3-などのポリハロゲン化物イオン、ClO4-、PO3-などのオキソ酸イオン、BF4-、FeCl4-、SiF62-、RuCl62-などの中心元素とハロゲンからなるイオン、CF3COO-などの対アニオンがカルボン酸イオン、CF3SO2-などのスルホン酸イオンのいずれかである、アミニウムカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物を有機電界発光素子の正孔注入層の成分として用いた場合にも、負電荷が局在しているため、アミニウムカチオンラジカルと強く相互作用し、正電荷が移動しにくく、駆動電圧が十分に低下しないと考えられる。
【0019】
また、特許文献3に記載されたPPBは、耐熱性が低く、PPBを含む有機電界発光素子は耐熱性が低く、実用特性を満たしていない。更に、PPBは昇華性が非常に高いことから、PPBを含む正孔注入層を湿式成膜法により形成する際に、例えば120℃以上の高温で加熱乾燥を行なうと、該化合物が気化してしまうため、例えば120℃未満で加熱乾燥したときに比べて、得られる有機電界発光素子の駆動電圧が上昇してしまうという課題がある。特に、有機電界発光素子の製造においては、製造工程の簡便性及び素子特性の安定性の面から、より高温、例えば200℃以上での加熱乾燥に耐え得る正孔注入層が求められているが、この点でもPPBは好ましくない。また、PPBはその非常に高い昇華性のため、共蒸着時の濃度制御が困難であり、正孔輸送材料との共蒸着による正孔注入層の形成にも不適当である。
【0020】
更に、特許文献3に記載のPPBを電子受容性化合物として用いた場合、生成するイオン化合物の対アニオンは前述のアニオンラジカルであるため、オクテット則を満たしていなく、熱力学的にも電気化学的にも不安定であり、塗布液(組成物)及び素子特性の耐熱性を含めた安定性に問題がある。
【0021】
また、特許文献5に記載の、対アニオンがCF3COO-などのカルボン酸イオン、CF3SO2-などのスルホン酸イオン、(CF3SO34Al-などのスルホン酸イオン由来のアート錯体、C60-、C602-、B12122-のいずれかであり、アミニウムカチオンラジカルをカチオンとするイオン化合物を、有機電界発光素子の正孔注入層の成分として用いた場合にも、対アニオンの構造から、熱力学的及び/又は電気化学的安定性に乏しく、塗布液(組成物)及び素子特性の耐熱性を含めた安定性十分でないと考えられる。
【0022】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、耐熱性に優れるとともに高い正孔注入・輸送能を有し、低電圧で駆動可能であり、耐熱性を含めた駆動安定性に優れた有機電界発光素子を得ることができる、優れた電荷輸送膜用組成物及びイオン化合物を提供すること、並びに、それを用いた低電圧で駆動可能であり、耐熱性を含めた駆動安定性に優れた有機電界発光素子及びその製造方法、更にはそれを用いた電荷輸送膜及びその製造方法を提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは鋭意検討した結果、電子受容性化合物として、周期表の第15〜17族に属する元素に、少なくとも一つの有機基が炭素原子で結合した構造を有するイオン化合物を、電荷輸送性化合物と混合して用いることにより、耐熱性に優れるとともに高い正孔注入・輸送能を有する電荷輸送膜用組成物を得ることができ、更にこの組成物を用いることにより、低電圧で駆動可能な有機電界発光素子を得ることが可能となり、上記課題を効果的に解決できることを見出した。
【0024】
更に、電子受容性化合物と電荷輸送性化合物とを混合したときに生成する、電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物について、検討を重ねた結果、電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと周期表の第13族に属する元素に4つの芳香族置換基が結合した構造を有する対アニオンからなるイオン化合物を用いることにより、耐熱性に優れるとともに高い正孔注入・輸送能を有する電荷輸送膜用組成物を得ることができ、更にこの組成物を用いることにより、低電圧で駆動可能な有機電界発光素子を得ることが可能となり、上記課題を効果的に解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、本発明の要旨は、電荷輸送性化合物と、下記一般式(1)〜(3)で表わされる化合物からなる群より選ばれるイオン化合物(以下、この電荷輸送性化合物のカチオンラジカルを、後述の一般式(7)で表わされる対アニオンからなるイオン化合物と区別するため、便宜上、適宜「電子受容性イオン化合物」と称す。)とを少なくとも含有することを特徴とする、電荷輸送膜用組成物に存する。
【化2】

(一般式(1)〜(3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A1〜A3と炭素原子で結合する有機基を表わす。R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の基を表わす。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに結合して環を形成していても良い。
1〜A3は何れも周期表第3周期以降の元素であって、A1は長周期型周期表の第17族に属する元素を表わし、A2は長周期型周期表の第16族に属する元素を表わし、A3は長周期型周期表の第15族に属する元素を表わす。
1n1-〜Z3n3-は、各々独立に、対アニオンを表わす。
n1〜n3は、各々独立に、対アニオンのイオン価を表わす。)
【0026】
また、本発明の別の要旨は、基板と、該基板上に設けられた陽極及び陰極と、該陽極と該陰極との間に存在する発光層とを有する有機電界発光素子において、該陽極と該発光層との間に、上述の電荷輸送膜用組成物を用いて形成される層が設けられていることを特徴とする、有機電界発光素子に存する。
【0027】
また、本発明の別の要旨は、基板と、該基板上に設けられた陽極及び陰極と、該陽極と該陰極との間に存在する発光層とを有する有機電界発光素子において、該陽極と該陰極との間に、上記の一般式(1)〜(3)で表わされる化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の電子受容性イオン化合物を含有する層が設けられていることを特徴とする、有機電界発光素子に存する。
【0028】
また、本発明の別の要旨は、上記の有機電界発光素子を製造する方法において、該電荷輸送性化合物のガラス転移温度よりも高い温度で該電荷輸送膜用組成物を加熱、乾燥する工程を有することを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法に存する。
【0029】
また、本発明の別の要旨は、上記の電荷輸送膜用組成物を用いて、湿式成膜法により電荷輸送膜を製造する方法において、該電荷輸送性化合物のガラス転移温度よりも高い温度で該電荷輸送膜用組成物を加熱、乾燥する工程を有することを特徴とする、電荷輸送膜の製造方法に存する。
【0030】
また、本発明の別の要旨は、電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物(以下、上述の一般式(1)〜(3)で表わされる化合物からなる群より選ばれるイオン化合物と区別するため、便宜上、適宜「イオンラジカル化合物」と称す。)において、対アニオンが下記一般式(7)で表わされることを特徴とするイオンラジカル化合物に存する。
【化3】

(一般式(7)中、E4は長周期型周期表の第13族に属する元素を表し、Ar71〜Ar74は各々独立に、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は、置換基を有しても良い芳香族複素環基を表わす。)
【0031】
また、本発明の別の要旨は、前述のイオンラジカル化合物を少なくとも含有することを特徴とする電荷輸送膜用組成物に存する。
【0032】
また、本発明の別の要旨は、前述のイオンラジカル化合物を少なくとも含有することを特徴とする電荷輸送膜に存する。
【0033】
また、本発明の別の要旨は、前述のイオンラジカル化合物を少なくとも含有する層が設けられていることを特徴とする有機電界発光素子に存する。
【0034】
また、本発明の別の要旨は、電荷輸送性化合物とともに電荷輸送膜に含有される電子受容性化合物であって、電子受容性化合物及び電荷輸送性化合物からなる電荷輸送膜1の抵抗率RR1[Ωcm]と、電荷輸送性化合物からなる電荷輸送膜2の抵抗率RR0[Ωcm]が、
RR1/RR0 < 8×10-2
の関係を満たすことを特徴とする、電子受容性化合物に存する。
(但し、電荷輸送膜1及び電荷輸送膜2に含まれる電荷輸送性化合物としては、同じ化合物を用いる。また、上記抵抗率は、(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])の値である。(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])は、陽極と陰極との間に、膜厚100〜200nm、通電面積0.04cm2の電荷輸送膜を挟持させ、4〜6mA/cm2の電流密度に相当する電流を通電したとき、電荷輸送膜に印加した電界強度から求められる。)
【0035】
また、本発明の別の要旨は、上述の電子受容性化合物及び電荷輸送性化合物を含有することを特徴とする電荷輸送膜用組成物及び電荷輸送膜、並びに、前記電荷輸送膜を有することを特徴とする有機電界発光素子に存する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の電荷輸送膜用組成物は、電荷輸送性化合物とともに、上述の電子受容性イオン化合物を含有する。これによって、形成された電荷輸送膜は優れた耐熱性と高い正孔注入・輸送能を発揮する。
【0037】
また、本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極又は発光層との間に存在する層に、上述の電子受容性イオン化合物を含有する。これによって、優れた耐熱性を発揮するとともに、低電圧での駆動が可能となり、駆動安定性に優れる。
【0038】
また、本発明の有機電界発光素子の製造方法及び電荷輸送膜の製造方法によれば、上述の電荷輸送膜用組成物を用いて湿式成膜法により層又は膜を形成する際に、高温で加熱乾燥することが可能となるので、製造工程の簡便性及び素子特性又は膜特性の安定性の向上が期待できる。
【0039】
また、本発明のイオン化合物(イオンラジカル化合物)は、電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと、上述の一般式(7)で表わされる対アニオンからなる。一般式(7)で表わされる対アニオンは熱力学的にも電気化学的にも安定であるため、本発明のイオン化合物(イオンラジカル化合物)は、耐熱性、電気化学的耐久性に優れる。また、一般式(7)で表わされる対アニオンは負電荷が非局在化しているため、カチオンとの相互作用が小さく、電荷輸送の妨げになりにくい。
【0040】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物は、上述のイオンラジカル化合物を含有する。これによって、形成された電荷輸送膜は優れた耐熱性、電気化学的耐久性と高い正孔注入・輸送能を発揮する。
【0041】
また、本発明の電荷輸送膜は、上述のイオンラジカル化合物を含有する。これによって、優れた耐熱性、電気化学的耐久性と高い正孔注入・輸送能を発揮する。
【0042】
また、本発明の有機電界発光素子は、上述のイオンラジカル化合物を少なくとも含有する層が設けられている。これによって、優れた耐熱性を発揮するとともに、低電圧での駆動が可能となり、駆動安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)〜(c)は何れも、本発明の一実施形態に係る有機電界発光素子の構成の例を模式的に示す断面図である。
【図2】目的物3、例示化合物(A−1)及び目的物4の1×10-4M塩化メチレン溶液の吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の一実施形態につき詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明はあくまでも本発明の実施態様の代表的な例であって、本発明はこれらの構成要件に特定されるものではない。
【0045】
[I.イオン化合物(イオンラジカル化合物)]
本発明のイオン化合物は、電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと、後述の一般式(7)で表わされる対アニオンとからなる。以下、このイオン化合物を便宜上、「イオンラジカル化合物」と呼ぶ。なお、本発明において、電荷輸送性化合物は、通常、正孔輸送性化合物である。よって、本明細書では、特に断らない限り、電荷輸送性化合物は正孔輸送性化合物であるものとして説明を行なう。
【0046】
〔I−1.対アニオン〕
本発明のイオンラジカル化合物のアニオンである対アニオンは、下記一般式(7)で表わされる化学種である。
【化4】

(一般式(7)中、E4は長周期型周期表の第13族に属する元素を表し、Ar71〜Ar74は各々独立に、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は、置換基を有しても良い芳香族複素環基を表わす。)
【0047】
一般式(7)中、E4は、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わす。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が特に好ましい。
【0048】
一般式(7)中、Ar71〜Ar74は、各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。
【0049】
芳香族炭化水素基としては、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基が好ましく、その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオレン環等が挙げられる。中でも、安定性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、ピレン環、フルオレン環由来の1価の基が好ましい。
【0050】
芳香族複素環基としては、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が好ましく、その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等が挙げられる。中でも、負電荷を効率良く非局在化すること、安定性、耐熱性に優れることから、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環由来の1価の基が好ましい。
【0051】
Ar71〜Ar74として例示した芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていても良い。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能であるが、電子吸引性の基であることが好ましい。
【0052】
Ar71〜Ar74が有しても良い置換基として好ましい電子吸引性の基を例示するならば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常1以上、通常12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アミノカルボニル基;アミノスルホニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、などが挙げられる。
【0053】
中でも、Ar71〜Ar74のうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、負電荷を効率よく非局在化する点、及び、適度な昇華性を有する点から、Ar1〜Ar4の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが最も好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ−2−ナフチル基、テトラフルオロ−4−ピリジル基等が挙げられる。
【0054】
また、Ar71〜Ar74は、下記式(7’)で表わされる置換基で置換されていることも好ましい。
【化5】

(式(7’)中、E5は長周期型周期表の第13族に属する元素を表し、Ar75〜Ar77は各々独立に、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は、置換基を有しても良い芳香族複素環基を表す。)
【0055】
式(7’)中、E5は、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わす。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が特に好ましい。
【0056】
式(7’)中、Ar75〜Ar77は、各々独立に、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基又は置換基を有しても良い芳香族複素環基を表わし、具体例、好ましい例、置換基の具体例、置換基の好ましい例は、前述のAr71〜Ar74と同様である。
【0057】
式(7)で表わされる対アニオンは、その構造中、式(7’)で表わされる部分構造を2つ以上有していることが好ましい。2つ以上有する場合、これらの式(7’)で表わされる部分構造はそれぞれ同一であっても異なっていても良いが、同一であることが好ましい。
【0058】
また、Ar71〜Ar74の分子量は、その置換基を含めて、それぞれ、通常1000以下、好ましくは500以下、更に好ましくは300以下の範囲である。
【0059】
対アニオンの分子量は、通常100以上、好ましくは200以上、更に好ましくは300以上、また、通常4000以下、好ましくは2000以下、更に好ましくは1000以下の範囲である。対アニオンの分子量が小さすぎると、負電荷の非局在化が不十分なため、カチオンとの相互作用が強く、電荷輸送能が低下するおそれがあり、対アニオンの分子量が大きすぎると、対アニオン自体が電荷輸送の妨げとなる場合がある。
【0060】
なお、本発明において置換基を有していても良いとは、置換基を少なくとも1つ以上有していても良いことを意味する。
【0061】
以下に、本発明のイオンラジカル化合物のアニオンである対アニオンの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化6】

【0062】
〔I−2.正孔輸送性化合物のカチオンラジカル〕
本発明のイオンラジカル化合物のカチオンである正孔輸送性化合物のカチオンラジカルは、後述の〔II−2.正孔輸送性化合物〕に示す電気的に中性の化合物から、一電子取り除いた化学種である。ただし、正孔輸送性化合物が高分子化合物である場合には、その繰り返し単位から一電子取り除いた化学種である。具体例、好ましい例は後述の正孔輸送性化合物と同様である。
【0063】
特に、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルが下記一般式(10)で表わされる構造であることが、適度な酸化還元電位を有する点、安定なイオンラジカル化合物が得られる点から好ましい。
【化7】

(一般式(10)中、Ar81〜Ar84は各々独立に、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は、置換基を有しても良い芳香族複素環基を表わし、R81〜R84は各々独立に、任意の基を表わす。)
【0064】
Ar81〜Ar84の具体例、好ましい例、有していても良い置換基の例及び好ましい置換基の例は、後述のAr21、Ar22と同様である。R81〜R84として好ましくは、水素原子、又は後述の[置換基群W]に記載されている置換基であり、更に好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族炭化水素基、芳香族炭化水素基である。
【0065】
また、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルが、重量平均分子量1000以上、1000000以下の芳香族三級アミン高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造の化学種であることが、耐熱性の点、成膜性の点から好ましい。該芳香族三級アミン高分子化合物としては、後述する〔II−2.正孔輸送性化合物〕に記載のものが挙げられる。その好ましい例も、後述の記載と同様である。
【0066】
〔I−3.その他〕
本発明のイオンラジカル化合物は、対アニオンとして〔I−1.対アニオン〕で示したアニオンを有するイオン化合物(後述の「電子受容性イオン化合物」)と、〔II−2.正孔輸送性化合物〕で後述する正孔輸送性化合物とを混合することによって合成することができ、種々の溶媒に容易に溶解する。
【0067】
本発明のイオンラジカル化合物の分子量は、カチオンラジカルが高分子化合物由来である場合を除いて、通常300以上、好ましくは500以上、更に好ましくは700以上、また、通常9000以下、好ましくは5000以下、更に好ましくは3000以下の範囲である。
【0068】
[II.電荷輸送膜用組成物]
本発明の電荷輸送膜用組成物は、
(A)後述の一般式(1)〜(3)で表わされる化合物からなる群より選ばれる一種又は二種以上のイオン化合物と、電荷輸送性化合物(正孔輸送性化合物)とを少なくとも含有する組成物(以下、適宜「本発明の電荷輸送膜用組成物(A)」という。)、又は、
(B)正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと、前述の一般式(7)で表わされる対アニオンからなるイオン化合物(イオンラジカル化合物)とを少なくとも含有する組成物(以下、適宜「本発明の電荷輸送膜用組成物(B)」という。)である。
【0069】
なお、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)(B)は、電荷輸送材料の用途に広く用いることが可能な組成物(電荷輸送材料用組成物)である。但し、通常はこれを成膜し、電荷輸送材料膜、即ち「電荷輸送膜」として用いるため、本明細書では特に「電荷輸送膜用組成物」と呼ぶことにする。
【0070】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物(B)が含有する電荷輸送性化合物も、通常は正孔輸送性化合物である。よって、本明細書では特に断らない限り、電荷輸送性化合物は正孔輸送性化合物であるものとして説明を行なう。
【0071】
〔II−1.イオン化合物〕
本発明の電荷輸送膜用組成物に含有されるイオン化合物は、下記一般式(1)〜(3)で表わされる化合物である。以下、このイオン化合物を便宜上、「電子受容性イオン化合物」と呼ぶ。
【0072】
【化8】

【0073】
一般式(1)〜(3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A1〜A3と炭素原子で結合する有機基を表わし、R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の置換基を表わす。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに結合して環を形成していても良い。
【0074】
11、R21及びR31としては、A1〜A3との結合部分に炭素原子を有する有機基であれば、本発明の趣旨に反しない限り、その種類は特に制限されない。R11、R21及びR31の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。R11、R21及びR31の好ましい例としては、正電荷を非局在化させる点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。中でも、正電荷を非局在化させるとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
【0075】
芳香族炭化水素基としては、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0076】
芳香族複素環基としては、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0077】
アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であって、その炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0078】
アルケニル基としては、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等が挙げられる。
【0079】
アルキニル基としては、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
【0080】
12、R22、R23及びR32〜R34の種類は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されない。R12、R22、R23及びR32〜R34の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。R12、R22、R23及びR32〜R34の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シアノ基、水酸基、チオール基、シリル基等が挙げられる。中でも、R11、R21及びR31と同様、電子受容性が大きい点から、A1〜A3との結合部分に炭素原子を有する有機基が好ましく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。特に、電子受容性が大きいとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
【0081】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、R11、R21及びR31について先に説明したものと同様のものが挙げられる。
【0082】
アミノ基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基等が挙げられる。
アルキルアミノ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミノ基が挙げられる。具体例としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基等が挙げられる。
アリールアミノ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を1つ以上有するアリールアミノ基が挙げられる。具体例としては、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、トリルアミノ基、ピリジルアミノ基、チエニルアミノ基等が挙げられる。
アシルアミノ基としては、炭素数が通常2以上、また、通常25以下、好ましくは15以下のアシル基を1つ以上有するアシルアミノ基が挙げられる。具体例としては、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0083】
アルコキシ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルコキシ基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0084】
アリールオキシ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシ基が挙げられる。具体例としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0085】
アシル基としては、炭素数が通常1以上、また、通常25以下、好ましくは15以下のアシル基が挙げられる。具体例としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0086】
アルコキシカルボニル基としては、炭素数が通常2以上、また、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基が挙げられる。具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0087】
アリールオキシカルボニル基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するものが挙げられる。具体例としては、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0088】
アルキルカルボニルオキシ基としては、炭素数が通常2以上、また、通常10以下、好ましくは7以下のアルキルカルボニルオキシ基が挙げられる。具体例としては、アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基等が挙げられる。
【0089】
アルキルチオ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基が挙げられる。具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。
【0090】
アリールチオ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基が挙げられる。具体例としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
【0091】
アルキルスルホニル基及びアリールスルホニル基の具体例としては、メシル基、トシル基等が挙げられる。
【0092】
スルホニルオキシ基の具体例としては、メシルオキシ基、トシルオキシ基等が挙げられる。
【0093】
シリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基など挙げられる。
【0094】
以上、R11、R21、R31及びR12、R22,R23、R32〜R34として例示した基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に他の置換基によって置換されていても良い。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、上記R11、R21、R31及びR12、R22,R23、R32〜R34としてそれぞれ例示した基の他、ハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基等が挙げられる。中でも、イオン化合物(電子受容性イオン化合物)の耐熱性及び電子受容性の妨げにならない観点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。
【0095】
一般式(1)〜(3)中、A1〜A3は、何れも周期表第3周期以降(第3〜第6周期)の元素であって、A1は、長周期型周期表の第17族に属する元素を表わし、A2は、第16族に属する元素を表わし、A3は、第15族に属する元素を表わす。
【0096】
中でも、電子受容性及び入手容易性の観点から、周期表の第5周期以前(第3〜第5周期)の元素が好ましい。即ち、A1としてはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子のうち何れかが好ましく、A2としてはテルル原子、セレン原子、硫黄原子のうち何れかが好ましく、A3としてはアンチモン原子、ヒ素原子、リン原子のうち何れかが好ましい。
【0097】
特に、電子受容性、化合物の安定性の面から、一般式(1)におけるA1が臭素原子又はヨウ素原子であるイオン化合物、一般式(2)におけるA2がセレン原子又は硫黄原子であるイオン化合物が好ましく、中でも、一般式(1)におけるA1がヨウ素原子であるイオン化合物が最も好ましい。
【0098】
一般式(1)〜(3)中、Z1n1-〜Z3n3-は、各々独立に、対アニオンを表わす。対アニオンの種類は特に制限されず、単原子イオンであっても錯イオンであっても良い。但し、対アニオンのサイズが大きいほど負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、単原子イオンよりも錯イオンの方が好ましい。
【0099】
n1〜n3は、各々独立に、対アニオンZ1n1-〜Z3n3-のイオン価に相当する任意の正の整数である。n1〜n3の値は特に制限されないが、何れも1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。
【0100】
1n1-〜Z3n3-の具体例としては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、イソシアン酸イオン、水硫化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサクロロアンチモン酸イオン;酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオン等のカルボン酸イオン;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;メトキシイオン、t−ブトキシイオン等のアルコキシイオンなどが挙げられる。
【0101】
特に、対アニオンZ1n1-〜Z3n3-としては、化合物の安定性、溶媒への溶解性の点で、下記一般式(4)〜(6)で表わされる錯イオンが好ましく、サイズが大きいという点で、負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、一般式(6)で表わされる錯イオンが更に好ましい。
【0102】
【化9】

【0103】
一般式(4)、(6)中、E1及びE3は、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わす。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が好ましい。
【0104】
一般式(5)中、E2は、長周期型周期表の第15族に属する元素を表わす。中でもリン原子、ヒ素原子、アンチモン原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さ、毒性の点から、リン原子が好ましい。
【0105】
一般式(4)、(5)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を表し、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点からフッ素原子、塩素原子であることが好ましく、フッ素原子であることが最も好ましい。
【0106】
一般式(6)中、Ar1〜Ar4は、各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。芳香族炭化水素基、芳香族複素環基の例示としては、R11、R21及びR31について先に例示したものと同様の、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。中でも、化合物の安定性、耐熱性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環由来の1価の基が好ましい。
【0107】
Ar1〜Ar4として例示した芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていても良い。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能であるが、電子吸引性の基であることが好ましい。
【0108】
Ar1〜Ar4が有しても良い置換基として好ましい電子吸引性の基を例示するならば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常1以上、通常12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アミノカルボニル基;アミノスルホニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、などが挙げられる。
【0109】
中でも、Ar1〜Ar4のうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、負電荷を効率よく非局在化する点、及び、適度な昇華性を有する点から、Ar1〜Ar4の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが最も好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ−2−ナフチル基、テトラフルオロ−4−ピリジル基等が挙げられる。
【0110】
本発明において使用される電子受容性イオン化合物の分子量は、通常100以上、好ましくは300以上、更に好ましくは400以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下の範囲である。電子受容性イオン化合物の分子量が小さすぎると、正電荷及び負電荷の非局在化が不十分なため、電子受容能が低下するおそれがあり、電子受容性イオン化合物の分子量が大きすぎると、電子受容性イオン化合物自体が電荷輸送の妨げとなるおそれがある。
【0111】
以下に本発明において使用される電子受容性イオン化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
【表5】

【0117】
【表6】

【0118】
【表7】

【0119】
【表8】

【0120】
【表9】

【0121】
【表10】

【0122】
【表11】

【0123】
上記具体例のうち、電子受容性、耐熱性、溶解性の点で、好ましくは、A−1〜48、A−54、A−55、A−60〜62、A−64〜75、A−79〜83、B−1〜20、B−24、B−25、B−27、B−30〜37、B−39〜43、C−1〜10、C−19〜21、C−25〜27、C−30、C−31の化合物であり、より好ましくは、A−1〜9、A−12〜15、A−17、A−19、A−24、A―29、A−31〜33、A−36、A−37、A−65、A−66、A−69、A−80〜82、B−1〜3、B−5、B−7〜10、B−16、B−30、B−33、B−39、C−1〜3、C−5、C−10、C−21、C−25、C−31の化合物であり、最も好ましくは、A−1〜7、A−80の化合物である。
【0124】
以上説明した電子受容性イオン化合物を製造する方法は特に制限されず、各種の方法を用いて製造することが可能である。例としては、Chem.Rev.、66巻、243頁、1966年、及び、J.Org.Chem.、53巻、5571頁、1988年に記載の方法等が挙げられる。
【0125】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)は、上述の電子受容性イオン化合物のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していても良い。二種以上の電子受容性イオン化合物を含有する場合には、一般式(1)〜(3)のうち何れか一つの式に該当する電子受容性イオン化合物を二種以上組み合わせても良く、それぞれ異なる式に該当する二種以上の電子受容性イオン化合物を組み合わせても良い。
【0126】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)における上述の電子受容性イオン化合物の含有量は、後述の正孔輸送性化合物に対する値で、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは40重量%以下である。電子受容性イオン化合物の含有率が少な過ぎるとフリーキャリア(正孔輸送性化合物のカチオンラジカル)が十分に生成しないため好ましくない一方で、電子受容性イオン化合物の含有率が多過ぎると電荷輸送能が低下する虞があるためやはり好ましくない。二種以上の電子受容性イオン化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0127】
〔II−2.正孔輸送性化合物〕
次に、本発明の電荷輸送膜用組成物に含まれる正孔輸送性化合物(以下、適宜「本発明の正孔輸送性化合物」と略称する。)について説明する。
【0128】
上記の正孔輸送性化合物としては、4.5eV〜5.5eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が正孔輸送能の点で好ましい。例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも非晶質性、溶媒への溶解度、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0129】
芳香族アミン化合物の中でも、本発明では特に、芳香族三級アミン化合物が好ましい。なお、本発明でいう芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0130】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物が更に好ましい。
【0131】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(11)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【化10】

【0132】
(式(11)中、Ar21、Ar22は各々独立して、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有していても良い芳香族複素環基を表わす。
Ar23〜Ar25は、各々独立して、置換基を有していても良い2価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していても良い2価の芳香族複素環基を表わす。
Yは、下記の連結基群Y1の中から選ばれる連結基を表わす。)
【0133】
【化11】

【0134】
(上記各式中、Ar31〜Ar41は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は芳香族複素環由来の1価又は2価の基を表わす。
31及びR32は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
【0135】
Ar21〜Ar25及びAr31〜Ar41としては、任意の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環由来の、1価又は2価の基が適用可能である。これらは各々同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、任意の置換基を有していても良い。
【0136】
芳香族炭化水素環としては、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などが挙げられる。
【0137】
芳香族複素環としては、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などが挙げられる。
【0138】
また、Ar23〜Ar25、Ar31〜Ar35、Ar37〜Ar40としては、上に例示した1種類又は2種類以上の芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環由来の2価の基を2つ以上連結して用いることもできる。
【0139】
Ar21〜Ar41の芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環由来の基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に置換基を有していても良い。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、下記の置換基群Wから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0140】
[置換基群W]
メチル基、エチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは8以下のアルキル基;ビニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルケニル基;エチニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上、通常20以下、好ましくは12以下のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上、通常30以下、好ましくは22以下のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常6以上、好ましくは7以上、通常25以下、好ましくは17以下のアリールアルキルアミノ基;アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアシル基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上、通常8以下、好ましくは4以下のハロアルキル基;メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシリル基;トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシロキシ基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上、通常30以下、好ましくは18以下の芳香族炭化水素環基;チエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常28以下、好ましくは17以下の芳香族複素環基。
【0141】
Ar21、Ar22としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の1価の基が好ましく、フェニル基、ナフチル基が更に好ましい。
【0142】
また、Ar23〜Ar25としては、耐熱性、酸化還元電位を含めた正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環由来の2価の基が好ましく、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基が更に好ましい。
【0143】
31、R32としては、水素原子又は任意の置換基が適用可能である。これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。置換基の種類は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されないが、適用可能な置換基を例示するならば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。これらの具体例としては、先に置換基群Wにおいて例示した各基が挙げられる。
【0144】
特に、式(11)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物の中でも、下記式(12)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が、正孔注入・輸送性が非常に高くなるので好ましい。
【0145】
【化12】

【0146】
式(12)中、R21〜R25は各々独立に、任意の置換基を表わす。R21〜R25の置換基の具体例は、式(11)のAr21〜Ar25が有しても良い置換基(即ち、[置換基群W]に記載されている置換基)と同様である。
p、qは各々独立に、0以上、5以下の整数を表わす。
r、s、tは各々独立に、0以上、4以下の整数を表わす。
【0147】
Y’は、下記の連結基群Y2の中から選ばれる連結基を表わす。
【化13】

【0148】
上記各式中、Ar31〜Ar37は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は芳香族複素環由来の1価又は2価の基を表わす。Ar31〜Ar37は、上記のAr31〜Ar37と同様である。
【0149】
以下に、本発明において適用可能な、式(11)で表わされる繰り返し単位の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0150】
【化14】

【0151】
【化15】

【0152】
【化16】

【0153】
【化17】

【0154】
上記具体例のうち、耐熱性、電荷輸送性の点で、より好ましくはP−1〜P−11、P−13〜P−18、P−20、P−21、P−23、P−25、P−26の繰り返し単位であり、更に好ましくは、P−1、P−3、P−4、P−6、P−9、P−10の繰り返し単位である。
【0155】
他の芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(13)及び/又は式(14)で表わされる繰り返し単位を含む高分子化合物が挙げられる。
【0156】
【化18】

【0157】
【化19】

【0158】
(式(13)、式(14)中、Ar45、Ar47及びAr48は各々独立して、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有していても良い芳香族複素環基を表わす。Ar44及びAr46は各々独立して、置換基を有していても良い2価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していても良い2価の芳香族複素環基を表わす。R41〜R43は各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
【0159】
Ar45、Ar47、Ar48及びAr44、Ar46の具体例、好ましい例、有していても良い置換基の例及び好ましい置換基の例は、それぞれ、Ar21、Ar22及びAr23〜Ar25と同様である。R41〜R43として好ましくは、水素原子又は[置換基群W]に記載されている置換基であり、更に好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族炭化水素基、芳香族炭化水素基である。
【0160】
以下に、本発明において適用可能な、式(13)、式(14)で表わされる繰り返し単位の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化20】

【0161】
【化21】

【0162】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)を湿式成膜法による薄膜形成に使用する場合には、種々の溶媒に溶解し易い正孔輸送性化合物が好ましい。芳香族三級アミン化合物としては、例えば、下記一般式(15)で表わされるビナフチル系化合物が好ましい。また、従来、有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の薄膜精製材料として利用されてきた化合物の中から、種々の溶媒に溶解し易い化合物を適宜選択してもよい。
【0163】
【化22】

【0164】
一般式(15)中、Ar51〜Ar58は各々独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は置換基を有していても良い芳香族複素環基を表わす。Ar51とAr52、Ar55とAr56は、各々結合して環を形成していても良い。Ar51〜Ar58の具体例、好ましい例、有していても良い置換基の例及び好ましい置換基の例は、それぞれ、Ar21〜Ar25と同様である。
【0165】
u及びvは、各々独立に、0以上、4以下の整数を表わす。但し、u+v≧1である。特に好ましいのは、u=1かつv=1である。
1及びQ2は各々独立に、直接結合又は2価の連結基を表わす。
【0166】
一般式(15)中のナフタレン環は、−(Q1NAr53Ar57(NAr51Ar52)及び−(Q2NAr54Ar58(NAr55Ar56)に加えて、任意の置換基を有していても良い。また、これらの置換基−(Q1NAr53Ar57(NAr51Ar52)及び−(Q2NAr54Ar58(NAr55Ar56)は、ナフタレン環のいずれの位置に置換していても良いが、中でも、一般式(15)におけるナフタレン環の、各々4−位、4’−位に置換したビナフチル系化合物がより好ましい。
【0167】
また、一般式(15)で表わされる化合物におけるビナフチレン構造は、2,2’−位に置換基を有することが好ましい。2,2’−位に結合する置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0168】
なお、一般式(15)で表わされる化合物において、ビナフチレン構造は2,2’−位以外に任意の置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、2,2’−位における置換基として前掲した各基等が挙げられる。一般式(15)で表わされる化合物は、2−位及び2’−位に置換基を有することにより、2つのナフタレン環がねじれた配置になるため、溶解性が向上すると考えられる。
【0169】
一般式(15)で表わされるビナフチル系化合物の分子量は、通常2000未満、好ましくは1200未満であり、但し、通常500以上、好ましくは700以上である。
【0170】
以下に、本発明において適用可能な、一般式(15)で表わされるビナフチル系化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化23】

【0171】
その他、本発明の正孔輸送性化合物として適用可能な芳香族アミン化合物としては、有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の層形成材料として利用されてきた、従来公知の化合物が挙げられる。例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報);4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報);トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号);N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号);α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報);分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報);ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報);エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報);スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報);チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報);スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報);ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報);フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473号公報);トリアミン化合物(特開平5−239455号公報);ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報);N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報);フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報);ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報);ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報);シラザン化合物(米国特許第4,950,950号公報);シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報);ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報);キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの芳香族アミン化合物は、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0172】
また、本発明の正孔輸送性化合物として適用可能な芳香族アミン化合物のその他の具体例としては、ジアリールアミノ基を有する8−ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体が挙げられる。上記の金属錯体は、中心金属がアルカリ金属、アルカリ土類金属、Sc、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Sm、Eu、Tbのいずれかから選ばれ、配位子である8−ヒドロキシキノリンはジアリールアミノ基を置換基として1つ以上有するが、ジアリールアミノ基以外に任意の置換基を有することがある。
【0173】
また、本発明の正孔輸送性化合物として適用可能なフタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体の好ましい具体例としては、ポルフィリン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンコバルト(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン銅(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィリン、29H,31H−フタロシアニン銅(II)、フタロシアニン亜鉛(II)、フタロシアニンチタン、フタロシアニンオキシドマグネシウム、フタロシアニン鉛、フタロシアニン銅(II)、4,4’,4”,4'''−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン等が挙げられる。
【0174】
また、本発明の正孔輸送性化合物として適用可能なオリゴチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、α−セキシチオフェン等が挙げられる。
【0175】
なお、これらの正孔輸送性化合物の分子量は、上述した特定の繰り返し単位を有する高分子化合物の場合を除いて、通常5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1700以下、特に好ましくは1400以下、また、通常200以上、好ましくは400以上、より好ましくは600以上の範囲である。正孔輸送性化合物の分子量が高過ぎると合成及び精製が困難であり好ましくない一方で、分子量が低過ぎると耐熱性が低くなる虞がありやはり好ましくない。
【0176】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)は、上述の正孔輸送性化合物のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を含有していても良い。二種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物一種又は二種以上と、その他の正孔輸送性化合物一種又は二種以上とを併用するのが好ましい。前述の高分子化合物と併用する正孔輸送性化合物の種類としては、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0177】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)における正孔輸送性化合物の含有量は、上述したイオン化合物との比率を満たす範囲となるようにする。二種以上の電荷輸送膜用組成物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0178】
〔II−3.イオン化合物(イオンラジカル化合物)〕
本発明の電荷輸送膜用組成物(B)は、前述したイオン化合物(イオンラジカル化合物)のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を含有していても良い。イオン化合物(イオンラジカル化合物)は一種を単独で含有することが好ましい。
【0179】
本発明の電荷輸送膜用組成物(B)には、イオン化合物(イオンラジカル化合物)の他に、〔I−2.正孔輸送性化合物〕で説明した正孔輸送性化合物を含有することが好ましい。本発明の電荷輸送膜用組成物(B)における正孔輸送性化合物の含有量は、イオン化合物(イオンラジカル化合物)に対する値で、好ましくは10重量%以上、更に好ましくは100重量%以上であり、また、10000重量%以下であることが好ましい。
【0180】
イオン化合物(イオンラジカル化合物)から、近傍の中性の正孔輸送性化合物に正電荷が移動することにより、本発明の電荷輸送膜用組成物(B)から形成される電荷輸送膜は、高い正孔注入・輸送能を発揮することから、イオン化合物(イオンラジカル化合物)と中性の正孔輸送性化合物とが、1:100〜100:1程度の割合でともに存在することが好ましく、1:20〜20:1程度の割合でともに存在することが更に好ましい。
【0181】
なお、〔II−5.その他〕に後述するように、前述の一般式(1)〜(3)で表わされる電子受容性イオン化合物と正孔輸送性化合物とを含有する、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)においては、正孔輸送性化合物から電子受容性イオン化合物への電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物が生成している。
【0182】
〔II−4.溶媒等〕
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)は、上述の電子受容性イオン化合物及び正孔輸送性化合物に加え、必要に応じてその他の成分、例えば溶媒や各種の添加剤等を含んでいても良い。特に、本発明の電荷輸送膜用組成物を用いて、湿式成膜法により電荷輸送膜を形成する場合には、溶媒を用いて前述の電子受容性イオン化合物及び正孔輸送性化合物を溶解させた状態とすることが好ましい。
【0183】
ここで、本発明のイオンラジカル化合物は、対アニオンとして〔I−1.対アニオン〕で前述したアニオンを有する電子受容性イオン化合物と、〔II−2.正孔輸送性化合物〕で前述する正孔輸送性化合物とを混合することによって生成する。すなわち、イオンラジカル化合物は電子受容性イオン化合物と正孔輸送性化合物とに由来する化合物である。このため、本発明のイオンラジカル化合物を含有する電荷輸送膜用組成物(B)は、電荷輸送膜用組成物(A)と同様に必要に応じてその他の成分を含んでいても良く、湿式成膜法により電荷輸送膜を形成する場合には、溶媒を用いて本発明のイオンラジカル化合物を溶解させた状態とすることが好ましい。
【0184】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)に含まれる溶媒としては、前述の電子受容性イオン化合物及び前述の正孔輸送性化合物をともに溶解することが可能な溶媒であれば、その種類は特に限定されない。また、本発明の電荷輸送膜用組成物(B)に含まれる溶媒としては、本発明のイオンラジカル化合物を溶解することが可能な溶媒であれば、その種類は特に限定されない。ここで、前述の電子受容性イオン化合物及び前述の正孔輸送性化合物を溶解する溶媒とは、正孔輸送性化合物を通常0.005重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは1重量%以上溶解する溶媒であり、また、イオン化合物を通常0.001重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.2重量%以上溶解する溶媒である。本発明に用いられる前述のイオン化合物は高い溶解性を有するため、種々の溶媒が適用可能である。また、本発明のイオンラジカル化合物を溶解する溶媒とは、本発明のイオンラジカル化合物を通常0.001重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.2重量%以上溶解する溶媒である。
【0185】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)に含まれる溶媒としては、電子受容性イオン化合物、正孔輸送性化合物、それらの混合から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)を失活させるおそれのある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まないものが好ましい。同様に、本発明の電荷輸送膜用組成物(B)に含まれる溶媒としては、本発明のイオンラジカル化合物を失活させるおそれのある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まないものが好ましい。
【0186】
本発明に用いる電子受容性イオン化合物、正孔輸送性化合物、それらの混合から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)、及び、本発明のイオンラジカル化合物は、熱力学的、電気化学的に安定であるため、種々の溶媒を用いることが可能である。好ましい溶媒としては、例えば、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒が挙げられる。具体的には、エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いても良い。
【0187】
上述のエーテル系溶媒及びエステル系溶媒以外に使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いても良い。また、これらの溶媒のうち一種又は二種以上を、上述のエーテル系溶媒及びエステル系溶媒のうち一種又は二種以上と組み合わせて用いてもよい。特に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒は、電子受容性化合物、フリーキャリア(カチオンラジカル)を溶解する能力が低いため、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒と混合して用いることが好ましい。
【0188】
なお、ハロゲン系溶媒は、環境負荷が大きい点で好ましくない。
また、前述のイオン化合物、正孔輸送性化合物、フリーキャリア(カチオンラジカル)、本発明のイオンラジカル化合物を失活させるおそれのある失活物質又は失活物質を発生させるものを含む溶媒として、ベンズアルデヒド等のアルデヒド系溶媒;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のα−位に水素原子を有するケトン系溶媒が挙げられるが、これらのアルデヒド系溶媒及びケトン系溶媒は、溶剤分子間で縮合反応したり、又はフリーキャリア(カチオンラジカル)と反応して不純物を生成したりするため、好ましくない。
【0189】
溶媒を使用する場合、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)に対する溶媒の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50%重量以上、また、通常99.999重量%以下、好ましくは99.99重量%以下、更に好ましくは99.9重量%以下の範囲である。なお、二種以上の溶媒を混合して用いる場合には、これらの溶媒の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0190】
なお、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を有機電界発光素子に用いる場合、有機電界発光素子は多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、各層がいずれも均一な層であることが要求される。湿式成膜法で層形成する場合、薄膜形成用の溶液(電荷輸送膜用組成物)に水分が存在すると、塗膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるため、溶液中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。また、一般に有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、素子の劣化の観点からも水分の存在は好ましくない。
【0191】
具体的に、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)に含まれる水分量は、通常1重量%以下、中でも0.1重量%以下、更には0.05重量%以下に抑えることが好ましい。
【0192】
組成物中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶媒を予め脱水する、水の溶解度が低い溶媒を使用する等が挙げられる。中でも、塗布工程中に溶液塗膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐという観点からは、水の溶解度が低い溶媒を使用することが好ましい。
【0193】
湿式成膜法により成膜する用途に用いる場合、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)は、水の溶解度が低い溶媒、具体的には、例えば25℃における水の溶解度が1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下である溶媒を、組成物全体に対して通常10重量%以上、中でも30重量%以上、特に50重量%以上の濃度で含有することが好ましい。
【0194】
その他、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)が含有していても良い成分としては、バインダー樹脂、塗布性改良剤等が挙げられる。これらの成分の種類や含有量は、電荷輸送膜用組成物の用途に応じて適宜選択すれば良い。
【0195】
〔II−5.その他〕
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)により形成される電荷輸送膜は、耐熱性に優れるとともに、高い正孔注入・輸送能を有する。この様な優れた特性が得られる理由を以下に説明する。
【0196】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)は、前述した一般式(1)〜(3)の電子受容性イオン化合物と正孔輸送性化合物とを含有している。一般式(1)〜(3)の電子受容性イオン化合物中のカチオンは、超原子価の中心原子を有し、その正電荷が広く非局在化しているため、高い電子受容性を有している。これによって、正孔輸送性化合物から電子受容性イオン化合物のカチオンへと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるイオンラジカル化合物が生成する。この正孔輸送性化合物のカチオンラジカルが電荷のキャリアとなるため、電荷輸送膜の電気伝導度を高めることができる。
【0197】
例えば、下記の式(16)で表わされる正孔輸送性化合物から式(1’)で表わされる電子受容性イオン化合物へ電子移動が起きる場合、式(17)で表わされる正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなるイオンラジカル化合物が生成する。
【化24】

【0198】
また、前述した一般式(1)〜(3)の電子受容性イオン化合物は、容易には昇華したり、分解したりせずに、効率よく正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなるイオンラジカル化合物を生成させるという特徴を有している。こうした特徴によって、一般式(1)〜(3)の電子受容性イオン化合物、及び、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物は、優れた耐熱性、電気化学的耐久性を発揮する。その結果として、電荷輸送膜用組成物の耐熱性、電気化学的耐久性も向上する。
【0199】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物(B)は、耐熱性、電気化学的耐久性に優れるイオンラジカル化合物を含有する。その結果として、電荷輸送膜用組成物(B)は、耐熱性及び電気化学的耐久性に優れる。
【0200】
この様に、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)により形成される電荷輸送膜及び本発明のイオン化合物を含む電荷輸送膜は、優れた耐熱性と高い正孔注入・輸送能とを併せ持っているので、有機電界発光素子、電子写真感光体、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等の各種用途に好適に使用できる。中でも、有機電界発光素子の材料として使用することが好ましい。特に、電界発光素子の電荷輸送層を形成する用途で用いるのが好適である。中でも、有機電界発光素子の陽極と発光層との間に存在する層、特に正孔注入層を形成することにより、陽極と正孔輸送層又は発光層との電気的接合が改善され、駆動電圧が低下すると同時に連続駆動時の安定性も向上する。
【0201】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)により形成される電荷輸送膜又は本発明のイオン化合物を含む電荷輸送膜を各種の用途に使用する場合には、膜状に成形することが好ましい。成膜に用いる手法は特に制限されないが、電子受容性イオン化合物及びイオンラジカル化合物は溶媒に対する溶解性に優れているため、湿式成膜法による薄膜生成に好適に使用できる。
【0202】
特に、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を用いて電荷輸送膜を形成する場合には、成膜時に高温で加熱乾燥することが可能であり、製造工程の簡便性及び素子特性の安定性を向上させることができる。特に、湿式塗布法により有機電界発光素子の正孔注入層を形成する場合、塗膜中の水分量を低減する方法として有用である高温での加熱乾燥が可能となり、素子を著しく劣化させる要因となる水分及び残留溶媒の存在を低減することができる。また、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)により形成される電荷輸送膜は耐熱性が高いため、製造された有機電界発光素子の耐熱性も大きく改善される。
【0203】
更に、本発明の電子受容性イオン化合物は耐熱性が高く、高い電子受容性を有するとともに、適度な昇華性を有するため、前記の湿式成膜法の他に真空蒸着法による薄膜生成にも使用でき、有機電界発光素子等の設計の自由度を拡大することができる。
【0204】
[III.有機電界発光素子]
次に、本発明の有機電界発光素子について、図1(a)〜図1(c)を参照しながら説明する。なお、図1(a)〜図1(c)は何れも、本発明の一実施形態に係る有機電界発光素子の構成の例を模式的に示す断面図である。
【0205】
図1(a)に示された有機電界発光素子100aは、基板101と、基板101上に順次積層された陽極102と、正孔注入層103と、発光層105と、陰極107とを有する。
【0206】
基板101は、有機電界発光素子100aの支持体である。基板101を形成する材料としては、石英板、ガラス板、金属板、金属箔、プラスチックフィルム及びプラスチックシート等が挙げられる。これらの中でも、ガラス板、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明なプラスチックシートが好ましい。なお、基板101にプラスチックを用いる場合には、基板101の片面又は両面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を高めることが好ましい。
【0207】
陽極102は、基板101上に設けられ、正孔注入層103への正孔注入の役割を果たすものである。陽極102の材料としては、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の導電性の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック;ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。陽極102の形成方法としては、通常、基板101上へのスパッタリング、真空蒸着等;銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子又は導電性高分子微粉末等を適当なバインダー樹脂溶液中に分散させて基板101上に塗布する方法;電解重合により基板101上に直接導電性重合薄膜を形成する方法;基板101上に導電性高分子溶液を塗布する方法等が挙げられる。陽極102は、可視光の透過率が通常60%以上、特に80%以上であることが好ましい。陽極102の厚さは、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下であり、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。
【0208】
正孔注入層103は、陽極102の上に設けられる。
正孔注入層103は、前述の〔II−1.電子受容性イオン化合物〕に記載の電子受容性イオン化合物と、前述の〔II−2.正孔輸送性化合物〕に記載の正孔輸送性化合物とを含む層であることが好ましい。この場合、正孔注入層103における電子受容性イオン化合物の含有量は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは25重量%以下の範囲である。電子受容性イオン化合物の含有量が多過ぎると電荷輸送能が低下する虞があるため好ましくない一方で、電子受容性イオン化合物の含有量が少な過ぎるとフリーキャリア(カチオンラジカル)が十分に生成しないためやはり好ましくない。なお、ここで規定する電子受容性イオン化合物の含有量の範囲は、電子受容性イオン化合物を含有する層が素子における正孔注入層以外の層として設けられた場合も同様である。
【0209】
正孔注入層103は、電子受容性イオン化合物と正孔輸送性化合物が低分子化合物の場合は湿式成膜法又は真空蒸着法により、高分子化合物の場合は湿式成膜法により、前記陽極102上に形成される。
【0210】
又は、正孔注入層103は、前述の[I.イオン化合物(イオンラジカル化合物)]に記載のイオンラジカル化合物を含む層であることが好ましい。この場合、正孔注入層103における本発明のイオンラジカル化合物の含有量は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下の範囲である。イオンラジカル化合物から、近傍の電気的に中性の化合物に正電荷が移動することにより、正孔注入層103は、高い正孔注入・輸送能を発揮することから、イオンラジカル化合物の含有量は多すぎても少なすぎても好ましくない。なお、ここで規定するイオンラジカル化合物の含有量の範囲は、イオンラジカル化合物を含有する層が素子における正孔注入層以外の層として設けられた場合も同様である。
【0211】
正孔注入層103は、イオンラジカル化合物が低分子化合物の場合は湿式成膜法又は真空蒸着法により、高分子化合物の場合は湿式成膜法により、前記陽極102上に形成される。
【0212】
ここで、本発明のイオンラジカル化合物及び電子受容性イオン化合物は、前述の如く、耐熱性に優れ、高い電子受容性を有するとともに、適度な昇華性を有し、かつ溶媒への溶解性が高いため、真空蒸着法による層形成にも、湿式成膜法による層形成にも対応可能である。
【0213】
真空蒸着法による層形成の場合には、電子受容性イオン化合物と正孔輸送性化合物とを真空容器内に設置された別々のるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、各々のるつぼを加熱して、電子受容性イオン化合物と正孔輸送性化合物を独立に蒸発量を制御して蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極102上に正孔注入層103を形成させる。
【0214】
又は、イオンラジカル化合物を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して、蒸発量を制御して蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極102上に正孔注入層103を形成させる。好ましくは、正孔輸送性化合物をイオンラジカル化合物とは別のるつぼに入れ、蒸発量を制御して蒸発させて、陽極102上にイオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物からなる正孔注入層103を形成させる。
【0215】
湿式成膜法による層形成の場合は、電子受容性イオン化合物と正孔輸送性化合物の所定量を、必要により電荷のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤を添加して、塗布溶液、即ち、電荷輸送膜用組成物(A)を調製し、スピンコート法やディップコート法等の湿式成膜法により陽極102上に塗布し、乾燥して、正孔注入層103を形成させる。
【0216】
又は、イオンラジカル化合物の所定量を、必要により正孔輸送性化合物や電荷のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤を添加して、塗布溶液、即ち、電荷輸送膜用組成物(B)を調製し、スピンコート法やディップコート法等の湿式成膜法により陽極102上に塗布し、乾燥して、正孔注入層103を形成させる。
【0217】
陽極102上に、フリーキャリア(カチオンラジカル)を含む正孔注入層103を形成する場合、前述したように陽極の表面粗さを緩和するため、正孔注入層103は本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を用いて湿式成膜法により形成されることが好ましい。このようにして形成される正孔注入層103の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0218】
発光層105は、正孔注入層103上に設けられ、電界を与えられた電極間において陰極107から注入された電子と正孔注入層103から輸送された正孔を効率よく再結合し、かつ、再結合により効率よく発光する材料から形成される。発光層105を形成する材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられる。
【0219】
また、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体をホスト材料として、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等を、ホスト材料に対して通常0.1重量%以上、10重量%以下の範囲の量となるようにドープすることにより、素子の発光特性、特に駆動安定性を大きく向上させることができる。
【0220】
これらの材料は、正孔注入層103上に、真空蒸着法又は湿式成膜法により正孔注入層103上に塗布して薄膜形成される。このようにして形成される発光層105の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0221】
陰極107は、発光層105に電子を注入する役割を果たす。陰極107として用いられる材料は、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。陰極107の膜厚は通常、陽極102と同様の範囲である。低仕事関数金属から成る陰極107を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す上で有効である。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。更に、陰極107と発光層105との界面にLiF、MgF2、Li2O等の極薄絶縁膜(膜厚0.1〜5nm)を挿入することにより、素子の効率を向上させることができる。
【0222】
図1(b)は、機能分離型発光素子を説明するための図である。図1(b)に示された有機電界発光素子100bは、素子の発光特性を向上させるために、正孔注入層103と発光層105との間に正孔輸送層104が設けられ、その他の層は、図1(a)に示した有機電界発光素子100aと同様な構成を有する。正孔輸送層104の材料としては、正孔注入層103からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、適度なイオン化ポテンシャルを有し、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層105と直接接する層であるために、発光を消光する物質が含まれていないことが望ましい。
【0223】
正孔輸送層104を形成するために用いられる材料としては、本発明の電荷輸送膜用組成物及び有機電界発光素子に含まれる正孔輸送性化合物として例示した化合物と同様なものが挙げられる。正孔輸送層104は、これらの正孔輸送性化合物を湿式成膜法又は真空蒸着法により正孔注入層103上に積層することにより形成される。このようにして形成される正孔輸送層104の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0224】
図1(c)は、機能分離型発光素子の他の実施形態を説明するための図である。図1(c)に示された有機電界発光素子100cは、発光層105と陰極107との間に電子輸送層106が設けられ、その他の層は、図1(b)に示した有機電界発光素子100bと同様の構成を有する。電子輸送層106に用いられる化合物には、陰極107からの電子注入が容易で、電子の輸送能力が更に大きいことが要求される。このような電子輸送性材料としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、オキサジアゾール誘導体又はそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系、フェナントロリン誘導体、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。電子輸送層106の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。但し、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0225】
なお、図1(a)〜図1(c)に示した有機電界発光素子100a〜100cは、図示のものに限定されるものではない。例えば、図1(a)〜図1(c)に示したものとは逆の構造、即ち、基板101上に陰極107、発光層105、正孔注入層103、陽極102の順に積層することも可能である。また、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、図1(a)〜図1(c)に示した各層の間に更に別の任意の層を設けたり、任意の二以上の層を一体に設けたりすることも可能である。更に、少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0226】
なお、本発明のイオン化合物を含有する層は、陽極102に接する正孔注入層103である必要はなく、陽極102と陰極107との間に設けられるいずれの層でもよいが、陽極102と発光層105との間、即ち、正孔注入層103又は正孔輸送層104であることが好ましく、正孔注入層103であることが更に好ましい。
【0227】
本発明の電荷輸送膜用組成物を用いて、湿式成膜法により形成した薄層を有する有機電界発光素子100a〜100cの製造方法について、更に詳細に説明する。有機電界発光素子100a〜100cは、基板101上へのスパッタリング、真空蒸着等により陽極102を形成し、形成された陽極102の上層に、正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を、本発明の電荷輸送膜用組成物を用いて湿式成膜法により形成し、形成された正孔注入層103及び/又は正孔輸送層104の上層に、真空蒸着法又は湿式成膜法により発光層105を形成し、形成された発光層105の上層に、必要に応じて、真空蒸着法又は湿式成膜法により電子輸送層106を形成し、形成された電子輸送層106上に陰極107を形成することにより製造される。
【0228】
正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を、湿式成膜法により形成する場合は、通常、イオン化合物及び正孔輸送性化合物の所定量に、必要により電荷のトラップにならないバインダー樹脂又は塗布性改良剤等の添加剤等を添加し、溶解して塗布液、即ち、電荷輸送膜用組成物を調製し、スピンコート法やディップコート法等の湿式成膜法により陽極102上に塗布し、乾燥し、正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を形成する。
【0229】
バインダー樹脂の含有量は、正孔移動度の面から、これらの層に対して通常50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、実質的にバインダー樹脂を含有しない状態が最も好ましい。
【0230】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を用いて形成される薄膜は、乾燥工程の後、更に加熱工程を経ることにより、得られる膜に含まれる分子のマイグレーションを活性化し、熱的に安定な薄膜構造に到達させることができ、これにより膜の表面平坦性が向上するとともに、素子劣化の原因となる薄膜中に含まれる水分の量を低減するため好ましい。
【0231】
具体的には、湿式成膜法による薄膜形成及び乾燥工程の後、加熱処理による表面平坦化効果及び脱水効果を十分に得るために、通常60℃以上、中でも90℃以上、更には120℃以上、特に150℃以上、また、通常350℃以下の温度で処理することが好ましい。但し、該組成物中に正孔輸送性化合物が含まれ、正孔輸送性化合物の結晶性が高い場合、加熱によって結晶化が進行し膜の表面平坦性が低下するおそれがあるため、正孔輸送性化合物のガラス転移温度Tgより低い温度、好ましくは10℃以上低い温度で加熱することが好ましい。一方、該組成物中に含まれる正孔輸送性化合物の非晶質性が高い場合、正孔輸送性化合物分子のマイグレーションがより活性化すると考えられ、膜の表面平坦性がより向上するために、正孔輸送性化合物のガラス転移温度Tg以上の温度で処理することが好ましい。
【0232】
なお、本発明において、正孔輸送性化合物の結晶性が高いとは、DSC測定においてガラス転移温度Tg以上、350℃以下の範囲で結晶化温度Tcが観測されること、又は、DSC測定において350℃以下の範囲で明確なガラス転移温度Tgが観測されないことをいう。一方、正孔輸送性化合物の非晶質性が高いとは、DSC測定においてガラス転移温度Tg以上、350℃以下の範囲で結晶化温度Tcが観測されないことをいう。
【0233】
加熱時間は、通常1分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、また、通常8時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは90分以下の範囲である。
【0234】
この様に、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を用いて湿式成膜法により形成される層は、表面が平滑なものとなるため、ITO等の陽極102の表面粗さに起因する素子作製時の短絡の問題を解消することができる。
【0235】
なお、本発明は、電荷輸送性化合物とともに電荷輸送膜に含有される電子受容性化合物であって、電子受容性化合物及び電荷輸送性化合物からなる電荷輸送膜1の抵抗率RR1[Ωcm]と、電荷輸送性化合物からなる電荷輸送膜2の抵抗率RR0[Ωcm]が、
RR1/RR0 < 8×10-2
の関係を満たす、電子受容性化合物にも関する。
(但し、電荷輸送膜1及び電荷輸送膜2に含まれる電荷輸送性化合物は同じ化合物を用いる。また、上記抵抗率は、(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])の値である。(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])は、陽極と陰極との間に、膜厚100〜200nm、通電面積0.04cm2の電荷輸送膜を挟持させ、4〜6mA/cm2の電流密度に相当する電流を通電したとき、電荷輸送膜に印加した電界強度から求められる。)
【0236】
ここで、該電子受容性化合物とは、電荷輸送性化合物を酸化することができる化合物である。具体的には、該関係を満たすことが出来る化合物であればよく、前記本発明のイオン化合物(電子受容性イオン化合物及びイオンラジカル化合物)や、その他のルイス酸などが挙げられるが、好ましくは本発明のイオン化合物である。
【0237】
上記抵抗率は以下の方法により測定される。
まず、電子受容性化合物及び電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜1を以下の方法に従い作製する。電荷輸送膜は、測定のため、陽極と陰極との間に挟持される。
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したものを通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成する。
パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液中での超音波洗浄、超純水での水洗、超純水中での超音波洗浄、超純水での水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なう。
その後、電子受容性化合物、電荷輸送性化合物及び溶媒からなる組成物を調製する。該組成物は、電子受容性化合物を1.0重量%、電荷輸送性化合物を5.0重量%含有するものである。また、溶媒は通常アニソールを用いるが、アニソールに電子受容性化合物及び電荷輸送性化合物が1重量%以上溶解しない場合には、適宜1重量%以上溶解する溶媒を用いる。
この組成物を、上記ITO基板上にスピンコートし、膜厚100〜200nmの均一な膜である電荷輸送膜1を形成する。
スピンコートは通常大気中で行ない、環境条件としては、23℃、相対湿度40%で行なう。また、スピナ回転数は、1500ppmで、スピナ回転時間は30秒で実施する。
【0238】
電荷輸送膜を形成後、ホットプレート上で、50〜100℃で1分間加熱乾燥する。その後、オーブンで80〜250℃、15分間加熱乾燥する。
乾燥後、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10-4Pa以下になるまで排気する。陰極として、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.2〜1.0nm/秒、真空度5×10-4Paで膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成する。以上の陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持する。以上の様にして、0.04cm2(2mm×2mm)のサイズの通電面積をもつ、電荷輸送膜をITO陽極と陰極で挟持した非発光素子1を得る。
【0239】
同様にして、電荷輸送性化合物からなる電荷輸送膜2を作製する。すなわち、電荷輸送性化合物及び溶媒を含有する組成物を用いて、ITO基板上にスピンコートして電荷輸送膜を形成する以外は、上記電荷輸送膜1と同様にして非発光素子2を作製する。尚、電荷輸送膜2の作製に使用する電荷輸送性化合物及び溶媒は、それぞれ、電荷輸送膜1で使用した化合物及び溶媒と同じものを使用する。
【0240】
非発光素子1及び非発光素子2に、それぞれ、以下の通り電流を通電し、その結果からそれぞれの抵抗率を算出する。
非発光素子に、5〜6mA/cm2の電流密度に相当する電流を通電し、その際の電圧を測定する。本測定の場合、電流密度が小さすぎる場合は測定誤差が大きくなり、電流密度が大きすぎる場合は測定素子の短絡等の問題を生じることから、5〜6mA/cm2の電流密度で測定することが重要である。この電圧Vと電荷輸送膜の膜厚から、電界強度[V/cm]を求める。抵抗率は、この(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])により算出される。
【0241】
RR1/RR0の値としては、好ましくは8×10-2未満、より好ましくは1×10-2未満、特に好ましくは3×10-3未満である。ここで、RR1/RR0の値が小さい方が、電荷輸送膜の電荷輸送特性に対する、電子受容性化合物の添加効果が大と判定できる。
【0242】
RR1/RR0<8×10-2
の関係を満たす電子受容性化合物は、抵抗率の低い電荷輸送膜を得ることができる。従って、該電子受容性化合物及び電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜は、有機電界発光素子に用いると、駆動電圧の低い素子となる。よって、該電子受容性化合物は、好ましくは有機電界発光素子に用いられる。
【0243】
ここで、該電子受容性化合物と電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜に用いられる電荷輸送性化合物としては、前述の正孔輸送性化合物として例示したものを使用することが出来、好ましいものも前記と同様である。また、適宜、電子受容性化合物と電荷輸送性化合物以外のものを含んでいてもよい。この電荷輸送膜は、抵抗率が低く、有機電界発光素子に用いられることが好ましいが、その他、電子写真感光体、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等の各種用途に使用できる。
【0244】
通常、該電荷輸送膜は、該電子受容性化合物と電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜用組成物を用いて、湿式成膜法により形成されることが好ましい。該組成物に含有される電荷輸送性化合物は、前記と同じである。また、湿式成膜法により形成される場合には、該組成物は、通常溶媒を含有するものであって、溶媒としては、前述のイオン化合物を含有する電荷輸送膜用組成物に使用する溶媒として例示したものと同様である。尚、該組成物は、電子受容性化合物、電荷輸送性化合物及び溶媒以外のものを含んでいてもよい。
【実施例】
【0245】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、「tBu」は三級ブチル基を表わす。
【0246】
[目的物1の合成]
【化25】

【0247】
窒素雰囲気下、60℃に昇温したN−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(23.3g)、9−ブロモフェナントレン(25.0g)、t−ブトキシナトリウム(13.1g)、トルエン(190ml)の混合物に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.25g)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(0.40g)、トルエン(10ml)を窒素雰囲気下、60℃で10分間攪拌して調製した溶液を加えて、85℃で4時間攪拌した。室温まで放冷した後、トルエン(200ml)、活性白土(60g)を加え、加熱還流下、10分間攪拌した。室温まで放冷した後、活性白土を濾別し、活性白土(20g)を加え、室温で20分間攪拌した。活性白土を濾別した溶液をエバポレータにより濃縮した後、ヘキサン(150ml)を加え、析出した結晶を濾取した後、減圧乾燥することにより、目的物1(31.6g、収率90%)を薄黄色粉末として得た。
【0248】
[目的物2の合成]
【化26】

【0249】
窒素気流中、目的物1(10.2g)、9−ヨードフェナントレン(23.2g)、銅粉末(5.01g)、炭酸カリウム(15.6g)、テトラグライム(50ml)を、190℃に加熱下、8時間撹拌し、室温まで放冷した。反応終了後、反応液に酢酸エチルを加え、不溶物を濾別した。濾液に含まれる酢酸エチルを減圧留去し、メタノールを加え、析出物を50℃に加熱下、懸濁洗浄した後、濾過により回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/トルエン=2/1)で精製した。塩化メチレン/メタノール混合液で洗浄した後、減圧乾燥することにより、目的物2(12.8g、収率65%)を黄色粉末として得た。
【0250】
[目的物3の合成]
【化27】

【0251】
窒素雰囲気下、0℃に冷却した目的物3(10.0g)のDMF溶液(60ml)に、N−ブロモスクシンイミド(2.50g)のDMF溶液(17ml)を1時間かけて滴下した後、0℃で4時間攪拌した。反応液を水(200ml)に加え、トルエン(250ml)で抽出した。有機層を水(100ml)で洗浄した後、エバポレータにより濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘプタン/トルエン=2/1)で精製した。塩化メチレン/メタノール混合液で洗浄した後、減圧乾燥することにより、目的物3(10.5g、収率95%)を黄色粉末として得た。
【0252】
[目的物4の合成]
【化28】

【0253】
窒素雰囲気下、目的物3(0.500g)、例示化合物(A−1)4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(0.670g)、塩化メチレン(50ml)を室温で5時間撹拌した後、エバポレータにより塩化メチレンを減圧留去した。得られた析出物をヘキサンで懸濁洗浄した後、濾過により回収し、減圧乾燥することにより、目的物4(0.846g、収率91%)を暗緑色粉末として得た。
【0254】
目的物3、例示化合物(A−1)及び目的物4の1×10-4M塩化メチレン溶液の吸収スペクトルを図2に表す。図2に表わすが如く、目的物3及び例示化合物(A−1)では見られなかった、700〜1200nm付近に極大吸収をもつブロードな、アミニウムカチオンラジカルに特徴的な吸収が目的物4では観測されたことから、目的物4のイオン化合物が生成していることが確かめられた。
【0255】
目的物4の質量分析(MALDI−TOF−MS法)において、ポジティブイオン測定では目的物イオンに相当するm/z790(M+)が観測され、ネガティブイオン測定では目的物イオンに相当するm/z679(M−)が観測された。
【0256】
[実施例1]
図1(b)に示した有機電界発光素子100bと同様の層構成を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0257】
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0258】
まず、先の表1に示す(A−1)の構造を有するイオン化合物と、先に例示した繰り返し構造(P−1)を有する電荷輸送性高分子化合物(重量平均分子量29600;ガラス転移温度177℃)と、下記の構造式(H−2)に示す正孔輸送性化合物(ガラス転移温度147℃)とを含有する組成物を、下記表12に示す条件で、上記ガラス基板上にスピンコートし、膜厚30nmの均一な薄膜を形成した。スピンコートは大気中で行なった。このときの環境条件は、気温23℃、相対湿度40%であった。
【0259】
【化29】

【0260】
【表12】

【0261】
次に、正孔注入層を塗布成膜した基板を真空蒸着装置内に設置し、装置の粗排気を油回転ポンプにより行なった後、装置内の真空度が2×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気し、装置内に配置されたセラミック製ルツボに入れた下記の構造式(H−1)に示す芳香族アミン化合物、4,4’−ビス[N−(9−フェナントリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルを加熱して蒸着を行なった。蒸着時の真空度は1.3×10-6Torr(約1.7×10-4Pa)、蒸着速度は0.2nm/秒で、膜厚45nmの膜を正孔注入層の上に積層して正孔輸送層を形成した。
【0262】
【化30】

【0263】
引続き、発光層の材料として、下記の構造式(E−1)に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体、Al(C96NO)3をルツボを用い、加熱して蒸着を行なった。
蒸着時の真空度は1.3×10-6Torr(約1.7×10-4Pa)、蒸着速度は0.2nm/秒で、膜厚60nmの膜を正孔輸送層の上に積層して正孔輸送層を形成した。
【0264】
【化31】

【0265】
正孔輸送層及び発光層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、発光層までの蒸着を行なった素子を一度真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して、有機層蒸着時と同様にして装置内の真空度が2×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで排気した。陰極として、先ず、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.01nm/秒、真空度7.0×10-6Torr(約9.3×10-4Pa)で、0.5nmの膜厚で発光層の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5nm/秒、真空度1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成した。以上の2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を下記の表15に表わす。
【0266】
表15の結果から、イオン化合物(A−1)を含む正孔注入層を200℃、60分間加熱乾燥を行ない形成した場合、低電圧で発光可能な素子が得られたことがわかる。これは、電荷輸送性高分子化合物(P−1)及び正孔輸送性化合物(H−2)からイオン化合物(A−1)への電子移動が起こり、カチオンラジカル(フリーキャリア)が生成することにより、電荷輸送性(正孔注入・輸送性)に優れた正孔注入層が形成されたためであると考えられる。
【0267】
[実施例2]
イオン化合物として、イオン化合物(A−1)の代わりに先の表に示す(B−30)を0.2重量%を添加したこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
得られた素子の発光特性を下記の表15に表す。200℃の加熱乾燥でも低電圧で発光可能な素子が得られた。
【0268】
[比較例1]
正孔注入層を下記の表13に示す条件で形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作成した。
【表13】

【0269】
【化32】

【0270】
得られた素子の発光特性を下記の表15に表わす。表15の結果に表わすが如く、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(PPB)を含む正孔注入層を200℃、60分間加熱乾燥を行ない形成した場合、駆動電圧が非常に高い。これは、PPBの耐熱性が低いためであると考えられる。
【0271】
[比較例2]
正孔注入層を下記の表14に示す条件で形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作成した。
【表14】

【0272】
得られた素子の発光特性を下記の表15に表わす。表15の結果に表わすが如く、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(PPB)を含む正孔注入層を100℃、60分間加熱乾燥を行ない形成した場合も、得られた素子の駆動電圧は高い。これは、正孔注入層の形成時の加熱温度が低温であったため、及び、PPBが(実施例1で使用したイオン化合物(A−1)に比べて)電子受容性に乏しいために、素子特性が劣化したものと考えられる。
【0273】
【表15】

【0274】
[実施例3]
正孔注入層を形成する条件を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作成した。
【0275】
【表16】

【0276】
得られた素子の発光特性を表20に表す。表20の結果に表すが如く、230℃、15分間加熱乾燥を行なっても、低電圧で発光する素子が得られた。
【0277】
[実施例4]
正孔注入層を形成する条件を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作成した。
【0278】
【表17】

【0279】
得られた素子の発光特性を表20に表す。表20の結果に表すが如く、230℃、15分間加熱乾燥を行なっても、低電圧で発光する素子が得られた。
【0280】
[実施例5]
正孔注入層を形成する条件を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作成した。
【0281】
【表18】

【0282】
得られた素子の発光特性を表20に表す。表20の結果に表すが如く、230℃、15分間加熱乾燥を行なっても、低電圧で発光する素子が得られた。
【0283】
[比較例3]
正孔注入層を形成する条件を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作成した。
【0284】
【表19】

【0285】
【化33】

【0286】
得られた素子の発光特性を表20に表す。表20の結果に表すが如く、TBPAHを含む組成物を塗布した正孔注入層を230℃、15分間加熱乾燥を行なった場合、素子の駆動電圧は高かった。アニオンであるヘキサクロロアンチモネートが、正孔輸送性化合物のラジカルカチオンと強く相互作用し、正電荷の移動が抑制され、駆動電圧が十分に低下しなかったと考えられる。
【0287】
【表20】

【0288】
[実施例6]
実施例3に記載する方法で素子を作製し、作製した素子を、保管中に大気中の水分で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行なった。
【0289】
窒素で内部を充填したグローブボックス中で、20mm×60mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂を塗布し、中央部に乾燥剤シート(サエス・ゲッターズ社製ゲッタードライヤー)を設置した。この上に、実施例1に示す陰極蒸着を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0290】
封止処理を終了した基板を、ドライボックスより取り出し、7.5mA/cm2の順方向電流を通電し素子を発光させ、そのときの電圧を測定した。その後、100℃に設定した恒温槽内で500時間保管した。恒温槽内は大気雰囲気とした。保管後の素子を取り出し、7.5mA/cm2の順方向電流を通電し素子を発光させ、そのときの電圧を測定した。保管前後の電圧を表21に示す。例示化合物(A−1)を含む正孔注入層を有する素子は、100℃で500時間保管することによる、駆動電圧の上昇が小さかった。
【0291】
[比較例4]
例示化合物(A−1)に代えてTBPAHを、組成物中の濃度が0.40重量%となるようにして用いたこと以外は、実施例6と同様にして素子を作製し、100℃保管前後の電圧を測定した。結果を表21に示す。TBPAHを含む正孔注入層を有する素子は、作製直後の電圧も高く、更に100℃で500時間保管した前後の電圧の差も大きかった。
【0292】
【表21】

【0293】
[実施例7]
実施例6と同様の手順で作製した素子に、室温(24℃)で21mA/cm2の定電流を連続通電し、同時に素子の駆動電圧を測定した。通電開始時の電圧と、1000時間通電時の素子電圧を表22に示す。例示化合物(A−1)を0.40重量%含む塗布液から形成した正孔注入層を有する素子は、連続通電による、駆動電圧の上昇が小さかった。
【0294】
[実施例8]
例示化合物(A−1)を0.40重量%の代わりに、例示化合物(A−1)を0.20重量%含む塗布液から正孔注入層を成膜したこと以外は、実施例6と同様の手順で作製した素子に、室温(24℃)で21mA/cm2の定電流を連続通電し、同時に素子の駆動電圧を測定した。通電開始時の電圧と、1000時間通電時の素子電圧を表22に示す。例示化合物(A−1)を0.20重量%含む塗布液から形成した正孔注入層を有する素子も、連続通電による、駆動電圧の上昇が小さかった。
【0295】
[実施例9]
例示化合物(A−1)を0.40重量%の代わりに、例示化合物(A−1)を0.60重量%含む塗布液から正孔注入層を成膜したこと以外は、実施例6と同様の手順で作製した素子に、室温(24℃)で21mA/cm2の定電流を連続通電し、同時に素子の駆動電圧を測定した。通電開始時の電圧と、1000時間通電時の素子電圧を表22に示す。例示化合物(A−1)を0.60重量%含む塗布液から形成した正孔注入層を有する素子も、連続通電による、駆動電圧の上昇が小さかった。
【0296】
[実施例10]
例示化合物(A−1)を0.40重量%の代わりに、例示化合物(A−1)を0.80重量%含む塗布液から正孔注入層を成膜したこと以外は、実施例6と同様の手順で作製た素子に、室温(24℃)で21mA/cm2の定電流を連続通電し、同時に素子の駆動電圧を測定した。通電開始時の電圧と、1000時間通電時の素子電圧を表22に示す。例示化合物(A−1)を0.80重量%含む塗布液から形成した正孔注入層を有する素子も、連続通電による、駆動電圧の上昇が小さかった。
【0297】
[比較例5]
例示化合物(A−1)を0.40重量%の代わりに、TBPAHを0.80重量%含む塗布液から正孔注入層を成膜したこと以外は、実施例6と同様の手順で作製した素子に、室温(24℃)で21mA/cm2の定電流を連続通電し、同時に素子の駆動電圧を測定した。通電開始時の電圧と、1000時間通電時の素子電圧を表22に示す。TBPAHを0.80重量%含む塗布液から形成した正孔注入層を有する素子は、通電開始時の素子電圧が高く、連続通電による、駆動電圧の上昇も大きかった。
【0298】
[比較例6]
例示化合物(A−1)を0.40重量%の代わりに、TBPAHを0.20重量%含む塗布液から正孔注入層を成膜したこと以外は、実施例6と同様の手順で作製した素子に、室温(24℃)で21mA/cm2の定電流を連続通電し、同時に素子の駆動電圧を測定
した。通電開始時の電圧と、1000時間通電時の素子電圧を表22に示す。TBPAHを0.20重量%含む塗布液から形成した正孔注入層を有する素子は、TBPAHを0.80重量%含む塗布液から形成した正孔注入層を有する素子よりも通電開始時の素子電圧が更に高く、連続通電による、駆動電圧の上昇も大きかった。
【0299】
【表22】

【0300】
[実施例11]
(電荷輸送膜1及び非発光素子1)
実施例1に記載する手順で陽極パターニング後洗浄したITO基板上に、電子受容性化合物(例示化合物(A−1))と電荷輸送性化合物(例示化合物(P−1)、重量平均分子量29,600;ガラス転移温度177℃)及び溶媒を含有する組成物を、下記の条件で、上記ガラス基板上にスピンコートし、膜厚200nmの均一な薄膜である電荷輸送膜1を形成した。スピンコートは大気中で行なった。このときの環境条件は、気温23℃・相対湿度40%である。
【0301】
【表23】

【0302】
乾燥後、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10-4Pa以下になるまで排気した。陰極として、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5nm/秒、真空度5×10-4Paで膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成した。以上の陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの通電面積をもつ、電荷輸送膜1をITO陽極と陰極で挟持した非発光素子1が得られた。
【0303】
この素子に、(印加電圧/電荷輸送膜厚)で求められる電界強度が3.0×104[V/cm]となる電圧0.6Vを印加したときの電流密度は、5.7×10-3「A/cm2]であった。
【0304】
このとき(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])で求められる抵抗率は、5.3×107[Ωcm]である。
【0305】
(電荷輸送膜2及び非発光素子2)
電荷輸送膜を形成する条件を以下のようにしたこと以外は、電荷輸送膜1と同様にして電荷輸送膜2を作製し、非発光素子1と同様にして非発光素子2を作製した。このときの電荷輸送膜2の膜厚は180nmであった。
【0306】
【表24】

【0307】
この素子に、(印加電圧/電荷輸送膜厚)で求められる電界強度が1.3×106[V/cm]となる電圧24Vを印加したときの電流密度は、5.4×10-3「A/cm2]であった。
【0308】
このとき(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])で求められる抵抗率は、2.4×1010[Ωcm]である。
表27に抵抗率の値を示す。また、表27に、電荷輸送膜1と電荷輸送膜2の抵抗率の比を示す。
【0309】
[比較例7]
(電荷輸送膜1′及び非発光素子1′)
電荷輸送膜を形成する条件を以下のようにしたこと以外は、実施例11の電荷輸送膜1と同様にして電荷輸送膜1′を作製し、非発光素子1と同様にして非発光素子1′を作製した。このときの電荷輸送膜1′の膜厚は120nmであった。
【0310】
【表25】

【0311】
この素子に、(印加電圧/電荷輸送膜厚)で求められる電界強度が9.5×104[V/cm]となる電圧1.1Vを印加したときの電流密度は、5.4×10-3「A/cm2]であった。
【0312】
このとき(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])で求められる抵抗率は、1.8×107[Ωcm]である。
【0313】
(電荷輸送膜2′及び非発光素子2′)
電荷輸送膜を形成する条件を以下のようにしたこと以外は、電荷輸送膜1′と同様にして電荷輸送膜2′を作製し、非発光素子1′と同様にして非発光素子2′を作製した。このときの電荷輸送膜2′の膜厚は100nmであった。
【0314】
【表26】

【0315】
この素子に、(印加電圧/電荷輸送膜厚)で求められる電界強度が1.0×106[V/cm]となる電圧10Vを印加したときの電流密度は、4.8×10-3「A/cm2]であった。
【0316】
このとき(電界強度[V/cm]/電流密度「A/cm2])で求められる抵抗率は、2.1×108[Ωcm]である。
表27に、抵抗率の値を示す。また、表27に、電荷輸送膜1′と電荷輸送膜2′の抵抗率の比を示す。
【0317】
【表27】

【0318】
実施例11及び比較例7より、本発明の電子受容性化合物は、抵抗率の低い膜を得ることができることが分かった。従って、本発明の電子受容性化合物を含有する電荷輸送膜を用いた有機電界発光素子は、駆動電圧が低い素子となると予想される。
【産業上の利用可能性】
【0319】
本発明の電荷輸送膜用組成物は、耐熱性の高いイオン化合物、及び、該イオン化合物への電子移動によって生じた熱的に安定なフリーキャリアを含むため、耐熱性が高く、また、電荷輸送性(正孔注入・輸送性)にも優れている。よって、電荷輸送材料として、有機電界発光素子、電子写真感光体、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等の各種用途に好適に使用できる。
【0320】
また、本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極又は発光層との間に存在する層に、上述のイオン化合物を含有する。これによって、優れた耐熱性を発揮するとともに、低電圧での駆動が可能となる。よって、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、特に、高耐熱性が要求される車載用表示素子として、その技術的価値は大きい。
【符号の説明】
【0321】
100a,100b,100c 有機電界発光素子
101 基板
102 陽極
103 正孔注入層
104 正孔輸送層
105 発光層
106 電子輸送層
107 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物において、対アニオンが下記一般式(7)で表わされる
ことを特徴とする、イオン化合物。
【化1】

(一般式(7)中、E4は長周期型周期表の第13族に属する元素を表し、Ar71〜Ar74は各々独立に、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は、置換基を有しても良い芳香族複素環基を表わす。)
【請求項2】
電荷輸送性化合物のカチオンラジカルがアミニウムカチオンラジカルである
ことを特徴とする、請求項1記載のイオン化合物。
【請求項3】
上記一般式(7)において、E4がホウ素原子又はガリウム原子であり、Ar71〜Ar74のうち少なくとも1つの基が、1又は2以上の電子吸引性置換基を有する基であるか、
又は、含窒素芳香族複素環基である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のイオン化合物。
【請求項4】
対アニオンが下記の式(8)又は式(9)で表わされる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のイオン化合物。
【化2】

【請求項5】
電荷輸送性化合物のカチオンラジカルが下記一般式(10)で表わされる
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のイオン化合物。
【化3】

(一般式(10)中、Ar81〜Ar84は各々独立に、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、又は、置換基を有しても良い芳香族複素環基を表わし、R81〜R84は各々独立に、任意の基を表わす。)
【請求項6】
電荷輸送性化合物のカチオンラジカルが、重量平均分子量1000以上、1000000以下の芳香族三級アミン高分子化合物の繰り返し単位から一電子を取り除いた構造である
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のイオン化合物。
【請求項7】
電荷輸送膜の成分として使用される
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のイオン化合物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のイオン化合物を含有する
ことを特徴とする、電荷輸送膜用組成物。
【請求項9】
有機電界発光素子の電荷輸送層を形成する材料として用いられる
ことを特徴とする、請求項8記載の電荷輸送膜用組成物。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか一項に記載のイオン化合物を含有する
ことを特徴とする、電荷輸送膜。
【請求項11】
基板上に、陽極、陰極及び該両極間に存在する発光層を有する有機電界発光素子において、陽極と陰極との間に、請求項1〜7の何れかに記載のイオン化合物を含有する層が設けられている
ことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項12】
基板上に、陽極、陰極及び該両極間に存在する発光層を有する有機電界発光素子において、陽極と陰極との間に、請求項8又は請求項9に記載の電荷輸送膜用組成物を用いた湿式塗布法により、形成された層が設けられている
ことを特徴とする、有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26325(P2011−26325A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192216(P2010−192216)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【分割の表示】特願2005−62541(P2005−62541)の分割
【原出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】