説明

電解水素製造システムおよびその製造方法

【課題】希少元素FPあるいは希少元素の電解析出物を、水素製造用の触媒電極として利用し、アルカリ水溶液や海水等の電解液から水素を効率的に能率よく製造する技術。
【解決手段】本発明に係る電解水素製造システムは、アルカリ水溶液あるいは海水等の電解液を陽極および陰極間で電気分解して水素を発生させ、製造するものである。
この電解水素製造システム30において、陰極32は、希少元素FPであるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)およびテクネチウム(Tc)、ならびに希少元素のレニウム(Re)の希少元素を少なくとも1種類以上析出させた電解析出電極であり、この電解析出電極を触媒電極として陰極に用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核分裂生成物(FP)である希少元素FPおよびFPでない希少元素を触媒として用いる電解水素製造技術に係り、特に、希少元素を析出させた触媒電極を用い、アルカリ水溶液あるいは海水を電気分解して水素を製造する電解水素製造システムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉や加圧水型原子炉等の軽水型原子炉、高速増殖炉の使用済核燃料は、再処理工場で再処理されるようになっている。使用済核燃料の再処理工場から発生する硝酸溶液や放射性プロセス廃液中には、白金族元素であるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)およびテクネチウム(Tc)、銀(Ag)、テルル(Тe)という有用な希少元素核分裂生成物(以下、希少元素FPという。)が含まれている。
【0003】
この希少元素FPは、水素過電圧が低く、触媒活性が高いことから、燃料電池における電極材料や、燃料水素の製造・精製触媒として近い将来、需要が増加することが予想される。
【0004】
軽水型原子炉や高速増殖炉等の原子力発電施設からの使用済核燃料は、再処理施設に送られて再処理される。この使用済燃料の再処理工程で発生する希少元素FPを含む硝酸溶液から希少元素FPを分別回収する技術が特許文献1に提案されている。
【0005】
この希少元素FPを分別回収する方法は、使用済核燃料の再処理工程から発生する希少元素FPを含む硝酸溶液からPd2+またはFe2+を触媒として定電流電解法により電解還元して電極上に希少元素FPを一括析出させる。その際、電極上の電解析出物を電解酸化により一括溶融させ、この析出物電解液を、低電流密度、中電流密度および高電流密度で順次多段に電解還元させる。
【0006】
電流密度を異にした電解還元により、Ag、Pd群,Se、Te群およびRu、Rh、Tc群に群分離析出させて希少元素FPを分別回収するようになっている。
【0007】
一方、クリーンで環境汚染防止に優れたエネルギ変換システムとして、燃料電池発電の燃料となる水素の製造方法が注目されている。この水素の製造方法としては、炭化水素燃料の酸化による改質法あるいはアルカリ水電解法が広く用いられている。この改質法およびアルカリ水電解法では、白金族系元素触媒が極めて有効であることが知られている。
【0008】
また、一般的な電気分解では、陽極および陰極にそれぞれ白金を使用し、電解液に塩化ナトリウム(NaCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いると、陰極に水素が発生することは広く良く知られている。
【特許文献1】特開2003−161798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、定電流電解法により分別回収された希少元素FPである白金元素族のRu,Rh,Pd,およびTcを燃料電池の電極材料や、燃料水素の製造・精製触媒として有効利用できる概念が記載されているが、有効利用を図るための具体的な実施形態についての教示はない。
【0010】
また、定電流電解法により分別回収された希少元素FPを種々の用途に利用する場合、用途に合せて回収物の成分調整を行ない、形状を再加工する必要がある。
【0011】
さらに、アルカリ水電解法を用いて水素を製造する技術は、触媒電極として白金族系希少元素が用いられるため、白金族系元素触媒の安定供給と価格の安定化が求められる。今後、急速な増加が予想される燃料電池発電の燃料水素の需要を賄うためにも、触媒電極として利用される白金族系元素触媒の供給と価格の安定化が重要な課題となっている。
【0012】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、希少元素FPであるRu,Rh,PdおよびTc、さらには、希少元素であるレニウム(Re)等の希少元素の電解析出物を、水素製造用触媒電極として利用した電解水素製造システムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の他の目的は、白金族系元素である希少元素FPや希少元素であるReの電解析出物を、アルカリ水電解法による水素製造の触媒電極として利用し、核エネルギと燃料電池発電を統合したクリーンで持続的なエネルギ体系を提供する電解水素製造システムおよびその製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る電解水素製造システムは、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、アルカリ水溶液あるいは海水等の電解液を陽極および陰極間で電気分解して水素を発生させる電解水素製造システムにおいて、前記陰極は、希少元素FPであるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)およびテクネチウム(Tc)、ならびに希少元素のレニウム(Re)の希少元素を少なくとも1種類以上析出させた電解析出電極であり、この電解析出電極を触媒電極として用いたものである。
【0015】
本発明に係る電解水素製造方法は、上述した課題を解決するために、請求項8に記載したように、希少元素FPであるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)およびテクネチウム(Tc)、ならびに希少元素のレニウム(Re)を少なくとも1種類以上析出させた電解析出電極を作成し、この電解析出電極を触媒電極として陰極に使用し、アルカリ水溶液からなる電解液中で電気分解し、前記陰極に水素を発生させる方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電解水素製造システムおよびその製造方法によれば、希少元素電解析出電極を触媒電極として用い、アルカリ水溶液あるいは海水の電解液を定電流電解処理の電気分解を行なうことで、水素を製造することができる。
【0017】
本発明では、使用済核燃料中の希少元素FPであるRu,Rh,PdおよびTcさらには希少元素であるReの電解析出物を、アルカリ水溶液による水素製造に使用する触媒電極として利用することができ、この触媒電極を用いることで核エネルギと燃料電池発電を統合したクリーンで持続的なエネルギ体系を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る電解水素製造システムおよびその製造方法の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明に係る電解水素製造システムに用いられる触媒電極の製造装置10を示す概念図である。この触媒電極製造装置10は、陽極槽11と陰極槽12とが密閉構造に形成され、隔膜13を隔てて連通されている。
【0020】
陰極槽12は内部に陰極室15が形成され、この陰極室15に使用済核燃料の再処理工程から発生する高レベル廃液の溶液16が収容される一方、陰極室15内に白金電極からなる陰極17が挿入される。
【0021】
また、陽極槽11内には、陽極室20が形成され、この陽極室20に、高レベル廃液と類似の硝酸溶液等の電解液21が収容される。陽極室20には白金電極からなる陽極22が挿入され、設置される。
【0022】
陽極22および陰極17は直流電源23と接続される。
【0023】
陰極17を収容した陰極室15には、参照電極25が設置される。この参照電極25は、陰極電位を測定するようになっており、陰極室15には、高レベル廃液の溶液16中のイオンを均一にするために、撹拌子26が挿設され、溶液16を撹拌できる構造となっている。なお、陽極室20にも同様な撹拌子27が設けられている。
【0024】
陽極17には、白金(Pt)の他、チタン(Ti)、白金コーティング、金(Au)、金コーティング、タンタル(Ta)、および高密度黒鉛が電極材料として使用可能である。電極材料には、硝酸溶液に対する耐食性のある材料で水素過電圧が高い材料、すなわち、陰極で水素を発生しにくい材料が用いられる。
【0025】
また、陽極20には、白金(Pt)の他、チタン(Ti)、白金コーティング、金(Au)、金コーティングおよび高密度黒鉛等が陽極材料として用いられる。陽極材料には、硝酸溶液、アルカリ溶液または海水の電解液に対する耐食性がある不活性材料で酸素過電圧が低い材料、すなわち、酸素を発生し易い材料が用いられる。
【0026】
さらに、隔膜13には、硝酸溶液、アルカリ溶液または海水に対する耐食性があるパーフルオロ系スルフォン酸型イオン交換膜、多孔質ガラスやセラミックスが隔膜材料として使用可能である。
【0027】
原子炉核燃料の再処理工程から発生する放射線レベルの高い高レベル廃液を処理する電解槽や電極材料は耐放射線特性を有する材料が用いられる。
【0028】
図1に示された触媒電極の製造装置10では、希少元素FPであるRu、Rh、Pd、Tcや希少元素のReの各元素イオンを含有する硝酸溶液を電解して、各元素イオンを電解析出させた触媒電極を製造している。
【0029】
この触媒電極を製造するに際し、実験段階では、希少元素FPや希少元素のReの各元素イオンを一種または二種以上含む硝酸溶液を高レベル廃液16の代わりに陰極槽12内に満たし、陰極電流密度を1.0mA/cm〜1.0A/cmの範囲、好ましくは、2.5mA/cm〜0.1A/cmの範囲に電流制御した電解条件で定電流電解を行なう。
【0030】
各希少元素の元素イオンは、陰極17に電解析出して触媒電極となる。この触媒電極を形成する陰極17には、水素の発生しにくい、水素過電圧が大きな電極材料、例えば、Ti,Pt,白金コーティング,Au,金コーティングおよび高密度黒鉛等が用いられる。
【0031】
また、Ru、Rh、PdおよびTc等の希少元素FPを含む硝酸溶液として、高レベル廃液が用いられる。軽水型原子炉や高速増殖炉の使用済核燃料の再処理工程から発生する硝酸廃液、すなわち高レベル廃液は、Ru,Rh,PdおよびTc等の希少元素核分裂生成物(希少元素FP)を含む硝酸溶液である。
【0032】
これらの希少元素FPを含む硝酸溶液に定電流電解により希少元素FPを電解析出させた硝酸電極は、含有する放射能に準じて遮蔽容器に入れて保存される。この触媒電極は、遮蔽容器内に一定期間貯蔵することにより、短半減期放射性核種FPへの放射線量を相対的に低下させることができる。
【0033】
実験段階では、図1に示された触媒電極の製造装置10を用いて希少元素FPであるRu,Rh,PdおよびTc、または希少元素のReの各元素イオンの一種または二種以上を含む硝酸溶液を高レベル廃液の溶液16の代わりに陰極室15に満たし、図2に示した電解条件で定電流電解を行い、各元素イオンを陰極17上に電解析出させて触媒電極を製造した。
【0034】
実験に用いた触媒電極の製造装置10の他の条件は、一例として、
隔膜13:イオン交換膜(ディポン製の「デュポン117ナフィオン膜」)
陰極17:Pt薄板(電極面:縦10mm・横10mm・厚さ0.1mmの両面)
陽極22:Pt薄板(電極面:縦20mm・横20mm・厚さ0.1mmの両面)
参照電極:Ag/AgCl
である。
【0035】
なお、希少元素イオンとしてPd2+イオンを含む硝酸溶液を用いる場合には、電解初期の陰極電流密度を低電流密度2.5mA/cmとして約1時間電解した後に、通常の電流密度0.1A/cmに高くして定電流電解を行なった。
【0036】
また、硝酸溶液に4元素の希少元素イオンが含まれる場合のうち、Pd2+イオンが他の希少元素イオンより多く含まれる場合は、電解析出電極にPd2+が均一に析出するように、Pd2+を一括で投入する条件の他に分割、例えば5分割して投入する条件においても定電流電解を行なった。
【0037】
この触媒電極の製造装置10で製造された触媒電極は、図3に示された電解水素製造システム30に用いられる。なお、図1に示された触媒電極の製造装置10は、実験レベルで触媒電極を製造する例を示したが、充分に実用化でき、実用化レベルでも触媒電極の製造が可能であることを知見することができた。
【0038】
図3は、本発明に係る電解水素製造システム30の一実施形態を示す概念図である。
【0039】
この電解水素製造システム30は、図1の触媒電極の製造装置10で製造された触媒電極を用いて水素を製造する電解装置である。
【0040】
電解水素製造システム30は、触媒電極の製造装置10と同様に陽極槽36と陰極槽31とが隔壁33を隔てて設けられる。
【0041】
陰極槽31内には陰極室34が形成され、この陰極室34は、アルカリ水溶液もしくは海水の溶液(電解液)35で満たされている。陰極室34には、陰極32が挿入される。陰極32には、図1に示された触媒電極の製造装置10で製造された電解析出電極が触媒電極として用いられる。すなわち、電解水素製造システム30の陰極32には、希少元素FPあるいは希少元素が析出(一種のコーティング)した触媒電極が用いられる。
【0042】
なお、符号38は参照電極であり、符号39は撹拌子である。参照電極38は陰極室35に設置されて陰極電位を測定できるようになっている。撹拌子39は陰極室35内の電解液36中の元素イオンを均一にするために撹拌するものである。
【0043】
また、陽極槽36内には、陽極室41が形成されており、この陽極室41は、アルカリ室もしくは海水と類似の電解液42で満たされる。陽極室41には、陽極43が挿入される一方、陰極室34と同様な撹拌子44が設けられている。
【0044】
図3に示された電解水素製造システム30は、希少元素FPであるRu,Rh,Pd,Tc、および希少元素のReを電解析出させた電解析出電極を触媒電極として陰極に用いて水素を製造する電解装置であり、陰極槽31に設けられる陰極32には、Ti、Pt、白金コーティング、Au、金コーティング、Тa、および高密度黒鉛等が陰極32の電極材料として用いられる。陰極槽31の陰極32には、具体的には、触媒電極の製造装置10で製造された触媒電極が用いられる。陰極32には、希少元素FPあるいは希少元素が析出(一種のコーティング)した電解析出電極(触媒電極)が用いられる。
【0045】
陰極32は、アルカリ溶液や海水等の電解液35に対する耐食性のある電極材料で形成され、水素過電圧が低い材料、すなわち陰極で水素を発生し易い材料であることが重要である。電解液にはアルカリ水溶液あるいは海水が用いられる。
【0046】
一方、陽極槽36に設けられる陽極43には、Тi、Pt、白金コーティング、Au、金コーティングおよび高密度黒鉛が電極材料として使用可能である。この陽極43は、硝酸溶液、アルカリ溶液や海水等の電解液42に対する耐食性に優れた不活性材料で、かつ酸素過電圧が低い材料、すなわち酸素を発生し易い材料であることが重要である。陽極43および陰極32はポテンショスタット46と接続されている。
【0047】
また、電解水素製造システム30に用いられる隔壁33には、硝酸溶液、アルカリ水溶液または海水に対する耐食性に優れた、パーフルオロ系のスルフォン酸型イオン交換膜、多孔質ガラスあるいはセラミックスが隔壁材料として使用可能である。さらに、使用済核燃料の再処理工程から発生する高レベル廃液を処理する電解槽や電極材料には、耐放射線性の優れた材料を使用することが重要である。
【0048】
図3に示された電解水素製造システム30は、水素製造用電解装置として機能し、この電解装置の陰極32には、触媒電極の製造装置10で製造された触媒電極が用いられる。
【0049】
この電解水素製造システム30は、触媒電極を陰極32に使用してNaOHやKOHのアルカリ水溶液もしくは海水等の溶液(電解液)35,42を陰極室34および陽極室41に満たす。電解水素製造システム30は、陰極室34内の陰極電流密度を0.1A/cm〜1.0A/cm、好ましくは、2.5A/cm〜1.0A/cmの範囲に電流制御した電解条件で定電流電解を行なう。
【0050】
この定電流電解により、陰極32から水素が発生する。陰極室34から発生する水素ガスは回収され、タンク(図示せず)等に貯蔵される。また、陽極43から発生する酸素ガスも同様に回収され、タンク等が貯蔵される。回収された水素や酸素は再利用に供されたり、また酸素ガスは大気中に放出することもできる。
【0051】
次に、本発明に係る電解水素製造システム30の作用を説明する。
【0052】
この電解水素製造システム30では、図1に示された触媒電極製造装置10で製造された触媒電極を水素製造用電解装置の陰極32として用いる。陰極槽31の陰極室34内をアルカリ水溶液または(人工)海水の電解液35で満たす。同様にして陽極槽36の陽極室41内もアルカリ水溶液、または海水あるいは硝酸溶液の電解液42で満たす。
【0053】
一方、図3の電解水素製造システム30に用いられる触媒電極は、触媒電極製造装置10により製造された電解析出電極である。この電解析出電極は、使用済核燃料に含まれる希少元素FPであるRu、Rh、PdおよびTcを含む硝酸溶液を低電流電解により電解還元して陰極17上に電解析出物として得られるものである。
【0054】
電解析出電極は、電極(陰極)17上の析出物の成分調整や形状の再加工を必要とせず、電解水素製造システム30の陰極32として、そのまま用いることができる。
【0055】
電解水素製造システム30の陰極32には、電解析出電極である触媒電極を用い、この触媒電極32をアルカリ水溶液あるいは海水の電解液35中に浸漬させることにより、触媒電極32の希少元素FPは触媒として機能し、アルカリ水溶液あるいは海水を電気分解し、触媒電極である陰極32側から水素を生成させることができる。
【0056】
アルカリ水溶液や海水の電気分解により水素を発生させる陰極32に触媒電極を直接そのまま使用できるので、水素を効果的に製造できる。製造された水素ガスは、回収され、図示しないタンク等に貯蔵され、再利用に供される。
【0057】
また、アルカリ水溶液や海水の電気分解により陽極43側に発生する酸素も、水素ガスと同様に回収され、タンク等に貯蔵され、再利用に供される。また、酸素ガスは大気中に放出することもできる。
【0058】
一方、FPではないが希少元素であるReを含む硝酸溶液についても、希少元素FP同様に定電流電解によりReイオンを電極(陰極17)上に電解析出させて電解析出電極を形成する。この電解析出電極も電解水素製造システム30の陰極32に、触媒電極として効果的に使用できることを知見した。
【0059】
すなわち、本発明の実施形態では、希少元素FPであるRu,Rh,Pd,Tcまたは希少元素であるReのいずれか一種あるいは2種以上の元素イオンを含む硝酸溶液を定電流電解し、電解還元することにより電極上に希少元素FPまたはFPでない希少元素(Re)の元素イオンを析出させた後、電解析出させた電極を触媒電極として用いることができることを知見した。希少元素FPイオンおよび希少元素イオンの電解液中の濃度は70mg/l〜400mg/lの範囲に設定される。
【0060】
この実施形態では、触媒電極製造装置10で製造された触媒電極を、電解水素製造システム30の陰極32としてそのまま使用することができ、この触媒電極32を用いてアルカリ水溶液あるいは海水の電解液35,42を電気分解させることで、陰極32側に水素ガスを、陽極43側に酸素ガスを効率的に生成することができる。
【0061】
電解水素製造システム30では、陰極槽31内の陰極電流密度を0.1mA/cm〜1.0A/cmに制御し、定電流電解を行なうと、図1の触媒電極製造装置10で製造された各種の触媒電極を陰極としてそのまま用いることができる。この触媒電極を用いて水素発生電流を比較した結果を図4に示す。
【0062】
図4に表わされた水素発生電流の比較図から、電解液35,42として1M−NaOHを用いた場合、Pt電極と比較して、電極としてRu,Pd−Ru,Ru−Rh,Ru−Re,Rh−ReおよびPd:Ru:Rh:Re系にて希少元素を電解析出させた触媒電極を用いると、水素製造能力が高いことが分かった。
【0063】
電解液35として人工海水を用いた場合は、Rh系を除く全ての触媒電極で水素製造能力が高い。特に、Ru,Ru−Rh,およびPd:Ru:Rh:Re比を3.5:4:1:1として触媒電極の水素製造能力が高いことを知見した。
【0064】
電解析出電極として析出される希少元素FPイオンおよび希少元素イオンの電解液中の割合は、Pd:Ru:Rh:Re比が1:1:1:1から3.5:4.0:1:1の割合の範囲、もしくはPd:Ru:Rh:Reの比が1:1:1:0.5から3.5:4.0:1:1の範囲である。
【0065】
希少元素を電解析出させた触媒電極を用いた電解水素製造方法によれば次の効果を奏する。
【0066】
(i)使用済み核燃料中の再処理工程で得られる希少元素FPを含む硝酸溶液を定電流電解する場合には、希少元素FPであるRu,Rh,Pd,Tcを陰極に電解析出させることにより得られる触媒電極を、そのまま直接、電解水素製造システム30のアルカリ水電解の触媒電極として使用できる。その結果、従来の希少元素FPの分離方法であるイオン交換方等を用いた場合と比較して、触媒としての分離工程や調整工程が不要となり、触媒製造工程の簡素化が図れる。
【0067】
(ii)希少元素FPと同様にその硝酸溶液を定電流電解することによりFPではない希少元素のReを陰極に電解析出させて触媒電極を得ることができ、電解水素製造に有効利用することができる。
【0068】
(iii)希少元素のRu,Rh,Pd,Tc,Reを電解析出させる触媒電極の製造および電解水素の製造のいずれも、電気化学的工程のみの単位操作で行えるため、全工程を一貫して簡素化でき、プラントの設計・建設コストや水素生産コストを低く抑えることが可能となる。また、電気化学的工程のみであるため有機試薬は原則として使用しなくて済み、プロセスの安全性を高度に保つことができ、二次廃棄物の発生量を極めて少なくできる。
【0069】
(iv)希少元素のRu,Rh,Pd,Tc,Reを電解析出させた触媒電極の触媒活性は、電解水素製造に従来から使用されていたニッケル電極やチタン電極と同等またはそれを上回り、あらゆる触媒の中で最も触媒活性に優れたPtに匹敵する触媒活性を示す。その触媒結果、Ni,Ti及びPtの代替触媒として電解水素製造プロセスの経済性を大幅に改善できる。
【0070】
なお、電解析出された希少元素の触媒電極を用いる電解水素製造方法の別の実施形態は、希少元素FPであるRu,Rh,Pd,Tc、およびFPではない希少元素のReからなる群からなる2種以上の元素イオンを含む硝酸溶液を定電流電解して電解還元することにより、電極(負極)上に希少元素イオンを一括析出させた後、得られた電解析出電極を触媒電極として用いてアルカリ水を電気分解し水素を発生させることができる。
【0071】
希少元素FPであるRu,Rh,Pd,Tcを含む硝酸溶液は、軽水型原子炉または高速増殖炉からなる原子力発電施設で使用された使用済核燃料の再処理工程ならびに放射性プロセスから発生する高レベル廃液の硝酸溶液を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る電解水素製造システムに適用される触媒電極を製造する触媒電極の製造装置の概念を示す図。
【図2】前記触媒電極を製造する電解条件および溶液条件を示す図。
【図3】本発明に係る電解水素製造システムの一実施形態を示す概念図。
【図4】希少元素を電解析出させた触媒電極をナトリウム水溶液および(人工)海水の電解液中の水素発生電流の比較図。
【符号の説明】
【0073】
10 触媒電極の製造装置
11 陽極槽
12 陰極槽
13 隔膜
15 陰極室
16 溶液(高レベル廃液)
17 陰極
20 陽極室
21 電解液
22 陽極
23 直流電源
25 参照電極
26 撹拌子
30 電解水素製造システム
31 陰極槽
32 陰極
33 隔壁
34 陰極室
35 電解液(アルカリ水溶液、海水)
36 陽極槽
38 参照電極
39 撹拌子
41 陽極室
42 電解液
43 陽極
44 撹拌子
46 ポテンショスタット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ水溶液あるいは海水等の電解液を陽極および陰極間で電気分解して水素を発生させる電解水素製造システムにおいて、
前記陰極は、希少元素FPであるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)およびテクネチウム(Tc)、ならびに希少元素のレニウム(Re)の希少元素を少なくとも1種類以上析出させた電解析出電極であり、この電解析出電極を触媒電極として陰極に用いたことを特徴とする電解水素製造システム。
【請求項2】
前記陰極は、使用済核燃料の再処理工程ならびに放射性プロセスから発生する高レベル廃液を定電流電解処理により電解析出して構成される電解析出電極である請求項1記載の電解水素製造システム。
【請求項3】
前記陰極は、触媒電極の製造装置で製造される希少元素を電解析出させた電解析出電極であり、この電解析出電極を製造する触媒電極製造装置の陰極は電解の電流密度が2.5mA/cm〜0.1A/cmで定電流電解し、初期は電流密度が低い低電流密度で電解し、それ以降は電流密度を高くした中電流密度もしくは高電流密度で電解することにより均一な組成の希少元素を電解析出させた電解析出電極を構成する請求項1記載の電解水素製造システム。
【請求項4】
前記触媒電極の製造装置で製造される触媒電極は、電解における陰極の電流密度が1.0mA/cm〜0.1A/cmの範囲の定電流電解により製造され、陰極に希少元素が電解析出されて電解析出電極を構成した請求項3記載の電解水素製造システム。
【請求項5】
前記触媒電極の製造装置は、定電流電解処理により希少元素FPであるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、テクネチウム(Tc)およびレニウム(Re)の少なくとも1種類以上を陰極に析出させて電解析出電極を製造し、この電解析出電極を水素製造用の電解析出処理の陰極としてそのまま用いられる請求項3記載の電解水素製造システム。
【請求項6】
前記電解析出電極として析出される希少元素FPイオンおよび希少元素イオンの電解液中の割合は、Pd:Ru:Rh:Re比が1:1:1:1から3.5:4:1:1の割合の範囲、もしくは、Pd:Ru:Rh:Re比が1:1:1:0.5から3.5:4:1:1の割合の範囲であり、かつPdは一括添加もしくは分割添加が可能な構成とした請求項1記載の電解水素製造システム。
【請求項7】
前記電解析出電極として析出される希少元素FPイオンおよび希少元素イオンの電解液中の濃度は70mg/l〜400mg/lの範囲である請求項1記載の電解水素製造システム。
【請求項8】
希少元素FPであるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)およびテクネチウム(Tc)、ならびに希少元素のレニウム(Re)を少なくとも1種類以上析出させた電解析出電極を作成し、
この電解析出電極を触媒電極として陰極に使用し、
アルカリ水溶液からなる電解液中で電気分解し、
前記陰極に水素を発生させることを特徴とする電解水素製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ水溶液は海水である請求項8に記載の電解水素製造方法。
【請求項10】
前記陰極は、使用済核燃料の再処理工程ならびに放射性プロセスから発生する高レベル廃液を定電流電解処理により電解析出して構成される電解析出電極である請求項8または9記載の電解水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−46130(P2007−46130A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233612(P2005−233612)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000224754)核燃料サイクル開発機構 (51)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】