説明

電解質膜、並びに、それを使用した膜−電極接合体および燃料電池

【課題】固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノ−ル形燃料電池、に用いる、電解質膜、並びに、それを使用した膜−電極接合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、あるいは直接メタノール形燃料電池、に用いる、(A)芳香族単位を有する高分子化合物と(B)芳香族単位がない高分子化合物と(C)プロトン伝導性基と(D)ケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物前駆体とを含む電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、あるいは直接メタノ−ル形燃料電池、に用いる電解質膜、並びに、それを使用した膜−電極接合体および燃料電池、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸基などのプロトン伝導性基を含有する高分子電解質は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料として使用される。これらの中でも、固体高分子形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴を有し、自動車などの移動体、家庭用コージェネレーションシステム、および民生用小型携帯機器などへの適用が検討されている。直接液体形燃料電池、特に、メタノールを直接燃料に使用する直接メタノール形燃料電池は、単純な構造と燃料供給やメンテナンスの容易さ、さらには高エネルギー密度化が可能などの特徴を有し、リチウムイオン二次電池代替として、携帯電話やノート型パソコンなどの民生用小型携帯機器への応用が期待されている。
【0003】
高分子電解質膜のプロトン伝導性を上げるには、スルホン酸基に代表されるプロトン伝導性基の含有量を増やすことが好ましいが、それに伴って、実質的に水やメタノールなどに膨潤しやすくなり、燃料や酸化剤の透過量が著しく増大したり、燃料電池の作動雰囲気下で高分子電解質が徐々に溶解する場合があり、所望の耐久性を満たせないという問題が有る場合もあった。
【0004】
メタノールの透過量を抑制させる方法として、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸膜とは異なり、種々のスルホン酸基を含有した炭化水素系電解質膜が提案されている。例えば、特許文献1には、スルホン化芳香族ポリエーテルケトンからなる電解質膜などが提案されている。しかしながら、ここに提案されている電解質膜は、プロトン伝導性が不充分であったり、それを向上させるために、スルホン酸基導入量を増加させ、水やメタノールに対する膨潤性や溶解性の増加を引き起こし、結果としてメタノールの透過量を充分抑制できない場合が有り、実用化には至っていない。
【0005】
また、耐久性を向上させる方法としては、例えば、特許文献2には、スルホン酸基を有するポリアリーレンと架橋剤がイオン架橋した構造を有する電解質膜が開示されている。しかしながら、架橋構造導入後のプロトン伝導性を確保するためには、スルホン酸基の導入量を増やす必要があり、膜強度の低下やメタノール透過量の増大を伴うなどの問題が有る場合があった。
【特許文献1】特開平6−93114号公報。
【特許文献2】特開2005−187495号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題を鑑みてなされたものであり、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノ−ル形燃料電池に用いる電解質膜、並びに、それを使用した膜−電極接合体および燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
の第1は、
「固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池、に用いる、
(A)芳香族単位を有する高分子化合物と
(B)芳香族単位がない高分子化合物と
(C)プロトン伝導性基と
(D)ケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物前駆体
を含む電解質膜。」、
である。
【0008】
この構成により、高いプロトン伝導性と燃料遮断性を発現し、耐水性や耐メタノール性などの耐久性を有する電解質膜を実現できる。
【0009】
また、本発明は、
「前記(A)が、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニレンサルファイド、並びに、それらの共重合体、および、それらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、電解質膜。」、
であることが好ましい。
【0010】
芳香族単位を有する高分子化合物として、これらを使用することによって、プロトン伝導性基が導入しやすく、高いプロトン伝導性を有する電解質膜を実現できる。
【0011】
また、本発明は、
「前記(A)が、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン―ポリスチレングラフト共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、電解質膜。」、
であることが好ましい。
【0012】
芳香族単位を有する高分子化合物として、これらを使用することによって、高いプロトン伝導性の発現と耐水性や耐メタノール性などの耐久性を有する電解質膜を実現できる。
【0013】
また、本発明は、
「前記(B)が、下記一般式(1)
【0014】
【化3】

(式中、X14は、H、CH3、Cl、F、OCOCH3、CN、COOH、COOCH3、及びOC49、からなる群から選択されるいずれかであって、X14は互いに独立で同一であっても異なっていてもよい)からなる高分子化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、電解質膜。」、
であることが好ましい。
【0015】
芳香族単位がない高分子化合物として、これらを使用することによって、メタノールなどの燃料遮断性に優れた電解質膜を実現できる。
【0016】
また、本発明は、
「前記(B)が、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリメチルペンテン、及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、電解質膜。」、
であることが好ましい。
【0017】
芳香族単位がない高分子化合物として、これらを使用することによって、化学的安定性が高く、メタノールなどの燃料遮断性に優れた電解質膜を実現できる。
【0018】
また、本発明は、
「前記(C)が、スルホン酸基であることを特徴とする、電解質膜。」、
であることが好ましい。
【0019】
プロトン伝導性基をスルホン酸基とすることで、高いプロトン伝導性を発現できる電解質膜を実現できる。
【0020】
また、本発明は、
「前記(D)が、下記一般式(2)、(3)および(4)の群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする電解質膜。
【0021】
【化4】

(式中、Xは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基(フェニル基など)、炭素数1〜20のフルオロカーボン基などの有機基である。また、R1〜R6は、炭素数1〜5のアルキル基などであればよく、R1〜R6はそれぞれ同種の組み合わせでもよく、異種の組み合わせでもよい。)」、
であることが好ましい。
【0022】
これによって、耐水性や耐メタノールなどの耐久性が向上した電解質膜を実現できる。
【0023】
また、本発明は、
「前記(D)が、テトラエトキシシラン(TEOS)を含むことを特徴とする、電解質膜。」、
であることが好ましい。
【0024】
これによって、耐水性や耐メタノールなどの耐久性が向上した電解質膜を実現できる。
【0025】
また、本発明は、
「前記(A)〜(D)に加えて、(E)リン酸誘導体、を含むことを特徴とする、電解質膜。」、
であることが好ましい。
【0026】
これによって、耐水性や耐メタノールなどの耐久性に加え、プロトン伝導性が向上した電解質膜を実現できる。
【0027】
また、本発明は、
「前記の電解質膜を使用した膜−電極接合体。」、
であることが好ましい。
【0028】
また、本発明は、
「前記に記載の電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、あるいは直接メタノール形燃料電池。」、
であることが好ましい。
【0029】
本発明に示す通り、本発明の電解質膜を使用した膜−電極接合体や固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池は、優れた発電特性や長期耐久性を実現でき、好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、芳香族単位を有する高分子化合物と、芳香族単位がない高分子化合物と、プロトン伝導性基と、ケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物前駆体、を含む電解質膜は、高いプロトン伝導性と耐水性や耐メタノール性などの耐久性に優れる。さらに、これらの電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池は高い発電特性と長期耐久性を発現しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の電解質膜は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池、に用いる電解質膜であって、
(A)芳香族単位を有する高分子化合物と
(B)芳香族単位がない高分子化合物と
(C)プロトン伝導性基
(D)ケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物前駆体
を含むものである。
【0032】
本発明の電解質膜の構成成分である(A)芳香族単位を有する高分子化合物としては、例えば、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリスルホン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルホキシド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリエーテルスルホン、ポリ1,4−ビフェニレンエーテルエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、シアン酸エステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどが例示できる。また、それらの誘導体および共重合体なども本発明の範疇である。特に、他の高分子化合物成分に対する相溶性や分散性、プロトン伝導性基の導入のし易さ、電解質膜を製造する際の加工性や得られる電解質膜のハンドリング性、さらにはプロトン伝導性やメタノール遮断性、化学的・熱的安定性などを考慮すると、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニレンサルファイド、並びに、それらの誘導体および共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。さらにポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン―ポリスチレングラフト共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが、プロトン伝導性やメタノール等の燃料遮断性のバランスに優れており好ましい。
【0033】
本発明の電解質膜の構成成分である(B)芳香族単位がない高分子化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテンなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体などのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−オレフィン共重合体などの塩化ビニル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライドなどのフッ素系樹脂などが例示できる。特に他の高分子化合物成分に対する相溶性や分散性、電解質膜を製造する際の加工性や得られる電解質膜のハンドリング性、さらにはメタノール等の燃料遮断性、化学的安定性などを考慮すると、下記一般式(1)からなる高分子化合物であることが好ましい。
【0034】
【化5】

(式中、X14は、H、CH3、Cl、F、OCOCH3、CN、COOH、COOCH3、及びOC49、からなる群から選択されるいずれかであって、X14は互いに同一であっても異なっていてもよい)
さらに、工業的入手の容易さや得られる電解質膜の機械的特性やハンドリング性、プロトン伝導性やメタノール遮断性、化学的安定性などを考慮すると、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリメチルペンテン、並びに、それらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0035】
本発明の電解質膜において、(A)芳香族単位を有する高分子化合物と(B)芳香族単位がない高分子化合物との混合比は、(A)と(B)の重量の総和100重量%に対して、(A)が10重量%〜70重量%、(B)が90重量%〜30重量%であることが好ましい。(A)が10重量%よりも少ないと、プロトン伝導性基を導入可能な芳香族単位が少なくなり、所望のプロトン伝導性を発現しにくくなる恐れがある。一方、(A)が70重量%よりも多い、即ち(B)が30重量%よりも少ない場合は、電解質膜の水やメタノールに対する膨潤抑制効果が不充分となり、所望の燃料(水素、メタノールなど)遮断性や酸化剤遮断性を発現しない恐れがある。
【0036】
本発明において、(A)芳香族単位を有する高分子化合物と(B)芳香族単位がない高分子化合物の混合方法は、任意のものが選択可能である。例えば、共通の良溶媒が存在する場合には、(A)と(B)を所定の重量比となるように混合した後、良溶媒に混合させる方法が、また、(A)と(B)の良溶媒が異なる場合であっても、(A)、(B)それぞれの良溶媒が混合可能である場合には、それぞれの溶液を所定の重量比となるように混合することができる。前記方法に従って(A)と(B)が所定の重量比で溶解した高分子溶液が作製できる場合には、キャスト法によって製膜することで、本発明の電解質膜の前駆体となりうる複合高分子フィルムを作製することができる。
【0037】
また、(A)芳香族単位を有する高分子化合物と(B)芳香族単位がない高分子化合物がともに熱可塑性の場合には、(A)、(B)が互いに溶融する温度にした押出機や混練機を使用して混合することが可能である。これらはインフレーション法、Tダイ法などの溶融押出成形、カレンダー法、切削法、エマルション法、ホットプレス法、などの公知の方法でフィルム化することができ、本発明の電解質膜の前駆体となりうる複合高分子フィルムを作製することができる。
【0038】
また通常用いられる各種添加剤、例えば本来相溶性はよい系であるがいっそうの相溶性向上のための相溶化剤、樹脂劣化防止のための酸化防止剤、フィルムとしての成型加工における取り扱いを向上するための帯電防止剤や滑剤などは、電解質膜としての加工や性能に影響を及ぼさなければ適宜用いることも可能である。
【0039】
本発明の電解質膜の構成成分である(C)プロトン伝導性基としては、含水状態でプロトンを解離するものであれば使用可能である。例えば、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、フェノール性水酸基などが例示できるが、これらのみに限定されるものではない。特にプロトン伝導性基の導入のし易さや得られる電解質のプロトン伝導性などを考慮すると、スルホン酸基であることが好ましい。
【0040】
本発明の電解質膜において、スルホン酸基の導入は公知のスルホン化方法に従って実施することができる。例えば、有機溶媒存在下で(A)芳香族単位を有する高分子化合物と、スルホン化剤を接触させることで、スルホン酸基を導入方法が例示できる。このとき、(A)芳香族単位を有する高分子化合物とスルホン化剤の接触は、前記(A)の均一溶液中で行ってもよいし、(A)と(B)からなる複合高分子フィルムをスルホン化剤を含む有機溶媒に浸漬して接触させても良い。本発明で使用可能なスルホン化剤としては、例えば、クロロスルホン酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、三酸化硫黄−トリエチルフォスフェート、濃硫酸、トリメチルシリルクロロサルフェートなどの公知のスルホン化剤が例示でき好ましい。工業的入手の容易さやスルホン酸基の導入の容易さや得られる電解質膜の特性を考慮すると、クロロスルホン酸であるが好ましい。
【0041】
本発明の電解質膜の構成成分である(D)ケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物前駆体としては種々のものが選択できる。例えば、種々の粒径や表面積のシリカなどが例示できる。これらを電解質膜中に混合することによって、電解質膜の保水性が向上し、低湿度雰囲気下での高いプロトン伝導性を発現したり、メタノールの吸着体やバリア材として作用して、メタノール遮断性を向上させることができ、好ましい。
【0042】
また、本発明においては、ケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物を予め電解質膜に含有させるのではなく、これらの合成するためのモノマーや前駆体などを前記(A)〜(C)を含む電解質膜中に含浸や混合して、後処理することでケイ素酸化物やケイ素酸化物前駆体を生成させることも好ましい。このような方法でケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物を電解質膜に含ませることによって、電解質膜の構成成分である高分子化合物鎖とケイ素酸化物のSi−Oマトリックスが相互作用し、水やメタノールなどに膨潤しにくく、メタノールなどの燃料遮断性が向上でき、好ましい。
【0043】
本発明における前記(D)は、下記一般式(2)〜(4)の群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0044】
【化6】

(式中、Xは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基(フェニル基など)、炭素数1〜20のフルオロカーボン基などの有機基である。また、R1〜R6は、炭素数1〜5のアルキル基などであればよく、R1〜R6はそれぞれ同種の組み合わせでもよく、異種の組み合わせでもよい。)
本発明において、一般式(2)〜(4)のR1〜R6の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基などの炭素数1〜5のアルキル基や、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、カプロイル基などの炭素数1〜6のアシル基などが例示できる。
【0045】
また、一般式(2)の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラアセチルオキシシラン、テトラフェノキシシランなどが例示できる。
【0046】
また、一般式(3)の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシラン、アリルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、4−クロロフェニルトリメトキシシラン、4−クロロフェニルトリエトキシシラン、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、3−トリフルオロアセトキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヘプタフルオロイソプロポキシプロピルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチルアミノメチルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アリルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−〔2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ〕プロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン、2−シアノエチルトリエトキシシラン、ベンジルトリエトキシシランなどが例示できる。
【0047】
また、一般式(4)の具体例としては、ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アミン、ビス〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕アミン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、N,N’−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕テトラスルフィドなどが例示できる。
【0048】
上記ケイ素酸化物前駆体の中でも、電解質膜への導入のし易さ、工業的入手の容易さ、電解質膜の特性やハンドリング性などを考慮すると、テトラエトキシシラン(TEOS)を含むことが好ましい。
【0049】
上述したケイ素酸化物前駆体は、1種のもので構成しても良いし、複数のものを任意に組み合わせて使用しても構わない。例えば、一般式(3)や(4)のXに有機基を、電解質膜の構成成分の高分子化合物種に応じて設定することによって、電解質膜中での分散性や得られた電解質膜のハンドリング性などを制御することができる。
【0050】
さらに、本発明の電解質膜は、前記(A)〜(D)に加えて、(E)リン酸誘導体、を含むことが、ケイ素酸化物やケイ素酸化物前駆体にプロトン伝導性を付与でき、好ましい。リン酸誘導体としては、前記一般式(2)〜(4)に示したケイ素酸化物前駆体と反応するものが好ましく、下記一般式(5)〜(6)で示されるものが好ましい。
【0051】
【化7】

[式中、Rは炭素数1〜6の1価の有機基を示し、yおよびzは0〜3の整数である。]
一般式(5)における炭素数1〜6の1価の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、フェニル基などを例示することができる。一般式(2)においてyは0〜3であるが、yが0の具体的な例としては、例えば、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル、リン酸トリプロピルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステルなどを例示することができる。また、yが1または2の具体的な例としては、例えば、リン酸ジメチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸ジプロピルエステル、リン酸ジブチルエステル、リン酸ジフェニルエステル、リン酸メチルエステル、リン酸エチルエステル、リン酸プロピルエステル、リン酸ブチルエステル、リン酸フェニルエステルなどが例示できる。さらに、yが3の場合はオルトリン酸となる。
【0052】
一般式(6)における炭素数1〜6の1価の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、フェニル基などを例示することができる。一般式(3)においてzは0〜3であるが、zが0の具体的な例としては、例えば、亜リン酸トリメチルエステル、亜リン酸トリエチルエステル、亜リン酸トリプロピルエステル、亜リン酸トリブチルエステル、亜リン酸トリフェニルエステルなどが例示できる。また、zが1の具体的な例としては、例えば、亜リン酸ジメチルエステル、亜リン酸ジエチルエステル、亜リン酸ジプロピルエステル、亜リン酸ジブチルエステル、亜リン酸ジフェニルエステルなどが例示でき、zが2の具体的な例としては、例えば、亜リン酸メチルエステル、亜リン酸エチルエステル、亜リン酸プロピルエステル、亜リン酸ブチルエステル、亜リン酸フェニルエステルなどが例示できる。さらにzが3の場合には亜リン酸となる。
【0053】
本発明の電解質膜において、(D)ケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物前駆体の添加量は、前記(A)〜(C)の重量の総和100重量部に対し、0.01〜50重量部、より好ましくは1〜20重量部である。(D)がこの範囲よりも少ない場合は、添加効果が不充分であり、電解質膜の特性が向上しない恐れがある。また、(D)がこの範囲よりも多い場合は、得られた電解質膜が脆くなるなど、ハンドリング性が低下する恐れがある。
【0054】
本発明の電解質膜において、(E)リン酸誘導体の添加量は、前記(D)が、下記一般式(2)〜(4)の群から選択される少なくとも1種である場合に、(D)100mol%に対して、1〜100mol%であることが好ましい。
【0055】
【化8】

(式中、Xは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基(フェニル基など)、炭素数1〜20のフルオロカーボン基などの有機基である。また、R1〜R6は、炭素数1〜5のアルキル基などであればよく、R1〜R6はそれぞれ同種の組み合わせでもよく、異種の組み合わせでもよい。)」
(E)の添加量がこの範囲よりも少ない場合は、添加効果が不充分であり、電解質膜のプロトン伝導性が向上しない恐れがある。また、この範囲よりも多い場合は、電解質膜が膨潤しやすくなり、ハンドリング性が低下したり、メタノールなどの燃料遮断性が低下する恐れがある。
【0056】
本発明における(D)の添加方法は、(D)がシリカなどの固体の場合には、(A)〜(C)を含む電解質膜を調製する際に、予め添加しておくことが好ましい。具体例を示すと、キャスト製膜時の溶液にシリカを分散して、複合高分子フィルムや電解質膜を作製する方法や、溶融混合時にシリカを分散させて、公知の方法で、複合高分子フィルムを作製する方法などが例示できる。
【0057】
一方、(D)が、下記一般式(2)〜(4)の群から選択される少なくとも1種である場合には、(D)の均一溶液(原液でも可)に、前記(A)〜(C)を含む電解質膜を浸漬し、(D)を電解質膜中に含浸させた後、50〜200℃の範囲で熱処理することが好ましい。熱処理温度がこの範囲よりも低い場合は、(D)の反応が充分に完結せず、燃料電池用電解質膜として使用した場合に、使用中に未反応の(D)が流出する恐れがある。熱処理温度の上限は、電解質膜の耐熱性に応じて適宜設定すればよい。この範囲を超える場合には、プロトン伝導性基が脱離するなど、電解質膜の特性が低下する恐れがある。
【0058】
【化9】

(式中、Xは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基(フェニル基など)、炭素数1〜20のフルオロカーボン基などの有機基である。また、R1〜R6は、炭素数1〜5のアルキル基などであればよく、R1〜R6はそれぞれ同種の組み合わせでもよく、異種の組み合わせでもよい。)」
このとき、(D)の均一溶液調製する際の溶媒は、(D)を均一に溶解させ、電解質膜を劣化させないものであれば、特に制約なく使用することができる。
【0059】
本発明において、(E)の添加方法は、上述した(D)方法に順じて行なうことができる。
【0060】
本発明の電解質膜のイオン交換容量は、好ましくは0.2〜5.0ミリ当量/g、より好ましくは0.5〜3.0ミリ当量/gである。イオン交換容量が前記範囲よりも小さい場合は、所望のプロトン伝導性が発現しない恐れがある。また、前記範囲よりも大きい場合は、水やメタノールなどに対する膨潤を充分抑制することができないばかりでなく、これらで劣化あるいは溶解する恐れが生じる。
【0061】
つぎに、本発明の電解質膜を使用した膜−電極接合体および固体高分子形燃料電池(直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池)について、一例として、図面を引用して説明する。
【0062】
図1は、本発明の電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池(直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池)の要部断面図である。
【0063】
これは、電解質膜1と、電解質膜1に接触する触媒層2、触媒層2に接触する拡散層3、さらにその外側にセパレーター5が配置され、固体高分子形燃料電池(直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池)のセルが構成される。セパレーター5には、燃料ガスまたは液体(メタノール水溶液など)、並びに、酸化剤を送り込むための5が形成されている。
【0064】
一般的に、電解質膜1に触媒層2を接合したものや、電解質膜1に触媒層2と拡散層3を接合したものは、膜−電極接合体(以下、MEAと表記)といわれ、固体高分子形燃料電池(直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池)の基本部材として使用される。
【0065】
MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。
【0066】
MEAの具体的作製方法の一例を下記に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0067】
触媒層2の形成は、高分子電解質の溶液あるいは分散液に、金属担持触媒を分散させて、触媒層形成用の分散溶液を調合する。この分散溶液をポリテトラフルオロエチレンなどの離型フィルム上にスプレーで塗布して分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、離型フィルム上に所定の触媒層2を形成させる。この離型フィルム上に形成した触媒層2を電解質膜1の両面に配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスし、電解質膜1と触媒層2を接合し、離型フィルムをはがすことによって、電解質膜1の両面に触媒層2が形成されたMEAが作製できる。また、前記分散溶液をコーターなどを用いて拡散層3上に塗工して、分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、拡散層3上に触媒層2が形成された触媒担持ガス拡散電極を作製し、電解質膜1の両側にその触媒担持ガス拡散電極の触媒層2側を配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスすることによって、電解質膜1の両面に触媒層2と拡散層3とが形成されたMEAが製造できる。前記触媒担持ガス拡散電極には、市販のガス拡散電極(米国E−TEK社製、など)を使用しても構わない。
【0068】
前記高分子電解質の溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物のアルコール溶液(アルドリッチ社製ナフィオン(登録商標)溶液など)やスルホン化された芳香族高分子化合物(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)の有機溶媒溶液などが使用できる。前記金属担持触媒としては、高比表面積の導電性粒子が担体として使用可能であり、例えば活性炭、カーボンブラック、ケッチェンブラック、バルカン、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素材料が例示できる。金属触媒としては、燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進するものであれば使用可能であり、燃料極と酸化剤極で同じであっても異なっていても構わない。例えば、白金、ルテニウムなどの貴金属あるいはそれらの合金などが例示でき、それらの触媒活性の促進や、反応副生物による被毒を抑制するための助触媒を添加しても構わない。前記触媒層形成用の分散溶液は、スプレーで塗布したり、コーターで塗工しやすい粘度に調整するため、水や有機溶媒で適宜希釈しても構わない。また、必要に応じて触媒層2に撥水性を付与するため、テトラフルオロエチレンなどのフッ素系化合物を混合してもよい。前記拡散層3としては、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの多孔質の導電性材料が使用可能である。これらは燃料や酸化剤の拡散性や反応副生物や未反応物質の排出性を促進するため、テトラフルオロエチレンなどで被覆して撥水性を付与したものを使用するのが好ましい。また、電解質膜1と触媒層2との間に必要に応じて前述したような高分子電解質からなる接着層を設けてもよい。電解質膜1と触媒層2を加熱・加圧条件下でホットプレスする条件は、使用する高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の種類に応じて適宜設定する必要がある。一般的には、電解質膜や高分子電解質の熱劣化や熱分解温度以下であって、電解質膜1あるいは高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度、さらには電解質膜1および高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度条件下で実施するのが好ましい。加圧条件としては、概ね0.1MPa〜20MPaの範囲であることが、電解質膜1と触媒層2が充分に接触するとともに、使用材料の著しい変形にともなう特性低下がなく好ましい。特にMEAが電解質膜1と触媒層2とからのみ形成される場合は、拡散層3を触媒層2の外側に配置して特に接合することなく接触させるのみで使用しても構わない。
【0069】
上記のような方法で得られたMEAを、燃料ガスまたは液体、並びに、酸化剤を送り込む流路5が形成された一対のセパレーター4などの間に挿入することにより、本発明の電解質膜からなる固体高分子形燃料電池(直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池)が得られる。これに燃料ガスまたは液体として、水素を主たる成分とするガスや、メタノールを主たる成分とするガスまたは液体を、酸化剤として、酸素を含むガス(酸素あるいは空気)を、それぞれ別個の流路5より、拡散層3を経由して触媒層2に供給することにより、固体高分子形燃料電池は発電する。このとき燃料として含水素液体を使用する場合には直接液体形燃料電池となるし、メタノールを使用する場合には直接メタノール形燃料電池となる。
【0070】
前記セパレーター4としてはカーボングラファイトやステンレス鋼の導電性材料のものが使用できる。特にステンレス鋼などの金属製材料を使用する場合は、耐腐食性の処理を施していることが好ましい。
【0071】
本発明の固体高分子形燃料電池を単独で、あるいは複数積層して、スタックを形成し、使用することや、それらを組み込んだ燃料電池システムとすることもできる。
【0072】
さらに、本発明の電解質膜を使用した直接メタノール形燃料電池について、一例として、図面を引用して説明する。
【0073】
図2は、本発明の電解質膜からなる直接メタノール形燃料電池の要部断面図である。上記方法で得られたMEA6が、燃料(メタノールあるいはメタノール水溶液)充填部8や供給部8を有する燃料(メタノールあるいはメタノール水溶液)タンク7の両側に必要数が平面状に配置される。さらにその外側には、酸化剤流路10が形成された支持体9が配置され、これらに狭持されることによって、直接メタノール形燃料電池のセル、スタックが構成される。
【0074】
前記の例以外にも、本発明の電解質膜は、特開2001−313046号公報、特開2001−313047号公報、特開2001−93551号公報、特開2001−93558号公報、特開2001−93561号公報、特開2001−102069号公報、特開2001−102070号公報、特開2001−283888号公報、特開2000−268835号公報、特開2000−268836号公報、特開2001−283892号公報などで公知になっている直接メタノール形燃料電池の電解質膜として、使用可能である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0076】
(実施例1)
<高分子フィルムの調製>
芳香族単位を有する高分子化合物としてポリフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業株式会社製、LD10p11)、芳香族単位がない高分子化合物として高密度ポリエチレン(三井化学株式会社製、HI−ZEX 3300F)を使用した。
【0077】
ポリフェニレンサルファイドのペレット30重量部、高密度ポリエチレンのペレット70重量部とをドライブレンドした。ドライブレンドしたペレット混合物を、スクリュー温度290℃、Tダイ温度290℃の条件で、Tダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た(高分子フィルム中に高密度ポリエチレンを70重量%含有する)。
【0078】
<電解質膜の調製>
ガラス容器に、ジクロロメタン905g、クロロスルホン酸9.0gを秤量し、1重量%のクロロスルホン酸溶液を調製した。前記高分子フィルムを2.1g秤量し、前記クロロスルホン酸溶液に浸漬し、25℃で20時間、放置した。室温で20時間放置後に、高分子フィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。
【0079】
洗浄後の高分子フィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%および50%の湿度調節下で、それぞれ30分間放置してフィルムを乾燥し、プロトン伝導性基としてスルホン酸基が導入された電解質膜を得た。
【0080】
<テトラエトキシシラン(TEOS)処理>
ケイ素酸化物前駆体としてTEOS(和光純薬社製、試薬)を使用した。
【0081】
TEOSが0.1重量%のメタノール溶液を調製し、上記方法で得られた電解質膜を室温で24時間浸漬した。このとき、電解質膜100重量部に対して、溶液中のTEOS含有量は30重量部とした。所定時間経過後、電解質膜を回収し、イオン交換水で洗浄した。90℃で12時間乾燥した後、80℃で12時間減圧乾燥し、本発明の電解質膜を得た。
【0082】
<イオン交換容量の測定方法>
電解質膜(約10mm×40mm)を25℃での塩化ナトリウム飽和水溶液20mLに浸漬し、ウォ−タ−バス中で60℃、3時間イオン交換反応させた。25℃まで冷却し、次いで膜をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に、指示薬としてフェノ−ルフタレイン溶液を加え、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定し、イオン交換容量を算出した。結果を表1に示す。
【表1】

<プロトン伝導度の測定方法>
イオン交換水中に保管した電解質膜(約10mm×40mm)を取り出し、電解質膜表面の水をろ紙で拭き取った。2極非密閉系のポリテトラフルオロエチレン製のセルに電解質膜を設置し、さらに白金電極を電極間距離30mmとなるように、膜表面(同一側)に設置した。23℃での膜抵抗を、交流インピ−ダンス法(周波数:42Hz〜5MHz、印可電圧:0.2V、日置電機製LCRメ−タ− 3531Z HITESTER)により測定し、プロトン伝導度を算出した。結果を表1に示す。
【0083】
<メタノ−ル遮断性の測定方法>
25℃の環境下で、ビ−ドレックス社製膜透過実験装置(KH−5PS)を使用して、電解質膜でイオン交換水と64重量%のメタノ−ル水溶液を隔離した。所定時間(2時間)経過後にイオン交換水側に透過したメタノ−ルを含む溶液を採取し、ガスクロマトグラフ(島津製作所製ガスクロマトグラフィ−GC−2010)で透過したメタノ−ル量を定量した。この定量結果から、メタノ−ル透過速度を求め、メタノ−ル透過係数を算出した。メタノ−ル透過係数は、以下の数式1にしたがって算出した。結果を表1に示す。
【0084】
【数1】

<耐メタノール耐久性試験>
上記方法で得られた電解質膜を64重量%メタノール水溶液に浸漬し、60℃のオーブン中に静置した。所定時間経過後、電解質膜を回収し、イオン交換水で洗浄した。
【0085】
洗浄後の電解質膜を23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%および50%の湿度調節下で、それぞれ30分間放置して乾燥し、膜重量とイオン交換容量を測定した。浸漬時間と膜重量保持率の関係を表2に、浸漬時間とイオン交換容量の関係を表3に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

(実施例2)
TEOSのメタノール溶液の濃度を1重量%、電解質膜100重量部に対する溶液中のTEOS含有量は500重量部とした以外は実施例1と同様にして、本発明の電解質膜を得た。
【0088】
(実施例3)
TEOS処理を下記方法とした以外は実施例1と同様にして、本発明の電解質膜を得た。
【0089】
<TEOS処理>
TEOSの原液に、実施例1の方法で得られた電解質膜を室温で24時間浸漬した。所定時間経過後、電解質膜を回収し、イオン交換水で洗浄した。100℃で12時間乾燥した後、80℃で12時間減圧乾燥し、本発明の電解質膜を得た。
【0090】
(実施例4)
TEOS処理を下記方法とした以外は実施例1と同様にして、本発明の電解質膜を得た。
【0091】
<TEOS処理>
TEOSと85%リン酸とイオン交換水の重量比が、3:3:2であって、TEOSの濃度が0.1重量%となるメタノール溶液を調製し、実施例1の方法で得られた電解質膜を室温で24時間浸漬した。このとき、電解質膜100重量部に対して、溶液中のTEOS含有量は10重量部とした。所定時間経過後、電解質膜を回収し、イオン交換水で洗浄した。100℃で12時間乾燥した後、80℃で12時間減圧乾燥し、本発明の電解質膜を得た。
【0092】
(比較例1)
電解質膜として、デュポン社製ナフィオン(登録商標)115を使用した。この電解質膜にはTEOS処理を施さなかった。各種特性評価は実施例1と同様にした。
【0093】
表1の実施例1〜2と比較例1との比較より、本発明の電解質膜は公知の燃料電池用電解質膜と同オーダーのプロトン伝導性を発現し、燃料電池用の電解質膜として有用であることが示された。さらに、メタノール透過係数は公知のものに対して低く、高いメタノール遮断性を有し、直接メタノール形燃料電池用の電解質膜として有用であることが示された。
【0094】
表2の実施例1〜4と比較例1との比較より、本発明の電解質膜は64重量%メタノール水溶液浸漬下において、高い膜重量保持率を示し、耐メタノール性に優れ、直接メタノール形燃料電池用の電解質膜として有用であることが示された。
【0095】
表3より、本発明の電解質膜は64重量%メタノール水溶液浸漬下において、イオン交換容量の低下がなく、耐メタノール性に優れ、直接メタノール形燃料電池用の電解質膜として有用であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の固体高分子形燃料電池(直接メタノール形燃料電池)の要部断面図である。
【図2】本発明の直接メタノール形燃料電池の要部断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 電解質膜
2 触媒層
3 拡散層
4 セパレーター
5 流路
6 膜−電極接合体(MEA)
7 燃料タンク
8 燃料充填部
9 支持体
10 酸化剤流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、あるいは直接メタノール形燃料電池、に用いる、
(A)芳香族単位を有する高分子化合物と
(B)芳香族単位がない高分子化合物と
(C)プロトン伝導性基と
(D)ケイ素酸化物および/またはケイ素酸化物前駆体と
を含む電解質膜。
【請求項2】
前記(A)が、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンおよびポリフェニレンサルファイド、並びに、それらの共重合体、および、それらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1記載の電解質膜。
【請求項3】
前記(A)が、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、及びポリエチレン―ポリスチレングラフト共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項4】
前記(B)が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、X14は、H、CH3、Cl、F、OCOCH3、CN、COOH、COOCH3、及びOC49、からなる群から選択されるいずれかであって、X14は互いに独立で同一であっても異なっていてもよい)からなる高分子化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項5】
前記(B)が、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリメチルペンテン、及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項6】
前記(C)が、スルホン酸基であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項7】
前記(D)が、下記一般式(2)、(3)及び(4)からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の電解質膜。
【化2】

(式中、Xは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基(フェニル基など)、炭素数1〜20のフルオロカーボン基などの有機基である。また、R1〜R6は、炭素数1〜5のアルキル基などであればよく、R1〜R6はそれぞれ同種の組み合わせでもよく、異種の組み合わせでもよい。)
【請求項8】
前記(D)が、テトラエトキシシラン(TEOS)を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項9】
前記(A)〜(D)に加えて、さらに(E)リン酸誘導体、を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項10】
前記請求項1〜9のいずれかに記載の電解質膜を使用した膜−電極接合体。
【請求項11】
前記請求項1〜9のいずれかに記載の電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、あるいは直接メタノール形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−280846(P2007−280846A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107720(P2006−107720)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】