説明

電鋳金型及びその製造方法

【課題】LIGA製法においてNi金属を電解メッキして析出積層を微細テンプレ−ト開口部に充填し高精度の電鋳金型を製造する方法を提供する。
【解決手段】LIGA製法においてNi金属を電解メッキして析出積層を微細テンプレ−ト開口部に充填する電鋳工程で、Ni金属を電解メッキして析出積層させる還元電解のマイナス電解と逆となる溶解電解のプラス電解とを交互にパルス状に印加すると共に、溶解電解の強さが還元電解の強さの2倍以上であり且つ溶解電解の印加時間が還元電解の印加時間の1/10以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂表面に微細なエンボス加工等を行うための電鋳金型及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂成形品の用途は広がる一方であり、樹脂成形品の表面形態も微細なエンボス加工を施したものなど多種多様なものが要求されるようになってきている。そして、樹脂成形品の表面形態がマイクロオーダ、ナノオーダのエンボス加工を有するものの場合、現在では、リソグラフィー法によって樹脂微細構造体を形成するのがほとんどであり、近年はこの種の技術の進歩により、高アスペクト比の微細構造を有するものが作製されるようになっている。
【0003】
ところが、このリソグラフィー法は、精度良く微細構造を形成するのに適しているが、工業的な大量生産には不向きである。従って、これに代わる方法として、微細構造体を持つ金型を用いた成形方法が検討されている。しかしながら、マイクロオーダ、ナノオーダのエンボス加工を行うための金型を製造する場合には、金型を電解Niメッキで析出積層してテンプレートに充填形成させる方法において電解メッキで析出したNiが析出過程で金属内部に応力が発生して積層膜に反りを起こし金型としての精度が得られない。
【0004】
電解Niメッキで析出積層して形成させる方法において電解メッキで析出したNiが析出過程で金属内部に応力が発生して積層膜に反りを起こす問題は多くの研究者が研究報告を行っている。
非特許文献1には電解Niメッキにおける水素発生メッキ膜内部応力に及ぼす影響は3つに分類され、
(1)水素発生が電極近傍のpHを上昇させ電極近傍にコロイド状水酸化物が発生してメッキ膜に取り込まれ膜に応力を与える
(2)Ni析出時に共析水素が水酸化物を形成し応力を与える
(3)メッキ膜に水素が吸収離脱されてNi膜の結晶欠陥を起こし応力を与える水素の影響がメッキ膜の応力発生に大きく関わる報告が有る。
非特許文献2には電解Niメッキにおける水素発生に寄る応力の影響を調査する方法としてメッキ条件を変更して、Ni金属を電解メッキして析出積層させる還元電解のマイナス電解と逆となる溶解電解のプラス電解とを3対1の強度で周期的に交互に反転電流を等時間印加する方法で膜内部の歪み発生を観察した結果を報告されておりプラス・マイナスに交互に通電を行うと連続に通電する時に比べて歪みの進行を幾分遅らせれるが歪みの発生を抑制する事は出来なかったと報告されている。
非特許文献3には上記非特許文献2の現象がニッケル酸化物及び水酸化物の発生がメッキ膜の応力拡大に大きく寄与している事が報告されている。
非特許文献4、5には電解メッキ電解液の中における水素イオンの挙動を研究しており水素イオンはカソ−ド近傍に形成されるヘルムホルツ電気二重層の外側に集められ金属Niと水素イオンが共析される現象が詳細に報告されている。
【特許文献1】特許第3619863号明細書
【非特許文献1】津留 豊、「電気めっきにおける水素発生とめっき膜内部応力」、表面技術Vol.54 No1.2003、表面技術学会
【非特許文献2】津留 豊、玉井 智和、徳田 朋念、「電気めっき」、電気化学Vol.63 No1001.1995、電気化学学会
【非特許文献3】津留 豊、井元 宏幸、高松 亮太、細川 邦典、「電気めっき」、表面技術Vol.45 No82.1994、表面技術学会
【非特許文献4】C.J.Raub、「電気メッキ中の水素(その1)」、Plating & Surface Finishing Vol.80 No9.1993
【非特許文献5】C.J.Raub、「電気メッキ中の水素(2)」、Plating & Surface Finishing Vol.80 No9.1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金型の平面度が得られないために、金型を用いて工業的な大量生産を行い精度良く微細構造体を成形することが困難であるという問題は解消されていない。
【0006】
そこで、本発明は、高精度の電鋳金型及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、LIGA製法においてNi金属を電解メッキして析出積層を微細テンプレ−ト開口部に充填し電鋳金型を製造する方法であって、Ni金属を電解メッキして析出積層させる還元電解のマイナス電解と逆となる溶解電解のプラス電解とを交互にパルス状に印加すると共に、前記溶解電解の強さが前記還元電解の強さの2倍以上であり且つ前記溶解電解の印加時間が前記還元電解の印加時間の1/10以下であることを特徴とする電鋳金型の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、LIGA製法においてNi金属を電解メッキして析出積層を微細テンプレ−ト開口部に充填し製造された電鋳金型であって、Ni金属を電解メッキして析出積層させる還元電解のマイナス電解と逆となる溶解電解のプラス電解とを交互にパルス状に印加すると共に、前記溶解電解の強さが前記還元電解の強さの2倍以上であり且つ前記溶解電解の印加時間が前記還元電解の印加時間の1/10以下である電解Niメッキ電解制御により製造されたことを特徴とする電鋳金型を提供する。
【0009】
また、本発明の電鋳金型の製造方法では、前記溶解電解の強さが前記還元電解の強さの2倍〜5倍であり且つ前記溶解電解の印加時間が前記還元電解の印加時間の1/10〜1/50であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の電鋳金型の製造方法では、前記還元電解の強さが1〜10A/dm2で印加時間が50msec〜500msecであり、前記溶解電解の強さが2〜20A/dm2で印加時間が1msec〜10msecであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、樹脂表面に微細なエンボス加工等を行うための電鋳金型を製造する場合に、Ni金属電解メッキによる析出積層構造体の内部応力による歪のそり発生を防止して金型精度を向上させることができる。従って、マイクロオーダの均質なエンボス加工等を金型を用いて行うことで工業的に大量生産を可能とできる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態の一例を図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電鋳金型の製造方法が用いられるLIGAプロセスの工程説明概念図を示す。
【0013】
図1(a)はリソグラフィー工程を示し、メンブレンにX線吸収材料を配置したX線マスクを通して放射光を金属基板上の樹脂面に照射させた後に放射光に感光した樹脂を現像液で現像して高いアスペクト比を持つ立体樹脂構造体が形成される。図1(b)は電鋳工程を示し、リソグラフィー工程で形成された立体樹脂構造体に電解ニッケルメッキを行いニッケル金属を還元析出させて電鋳金型を製造する。図1(c)は電鋳工程で製造された電鋳金型を使いプレススタンプ方法で立体樹脂構造体を量産工程で生産する。本発明は図1(b)に示す電鋳工程に関わるものである。
【0014】
図2はリソグラフィー工程で形成された立体樹脂構造体に電解ニッケルメッキを行いニッケル金属を還元析出させ電鋳金型を製造する工程の電解電鋳原理を図解した説明図である。電解槽の中に陽極と陰極を設置して電解液を充填する。陽極にはNi金属のペレットを耐酸性の良い袋(チタンバスケットを布袋)に詰めて電極とし直流電源から陽極(アノ−ド)を接続する。陰極は耐腐食性の高い金属(ステンレス・クロム・チタン等)にLIGAプロセスの金属基板に立体樹脂構造体が形成された金型のテンプレ−トを設置し電解NiメッキによるNiの還元析出を立体樹脂構造体が形成された金型のテンプレ−トの中に電鋳する。
【0015】
電解槽は耐酸性の強い材料で構成されており、電解槽内の電解液はスルファミン酸ニッケル(日鉱メタルプレ−テイング株)を使用しており50℃前後の恒温制御を行なう様に構成されている。電解槽には温度制御機能の他に電解液pH制御装置等が装備されており、pHを3.9に制御する。また、電解槽にはNi金属中水素分析装置(RH-404:LOCO Corporation)を品質管理として設けており、メッキされたサンプルを切り出して不活性ガス中で溶解してNi金属中の水素の含有量を分析出来る様にして有る。
【0016】
図3(a)はタバコサイズの導光板エンボス金型の概観写真を示し、図3(b)は微細立体構造金型の概観写真及びその拡大写真を示す。図3(b)では一例として高さ100μm開口径60μmΦのエンボス形状を示す。
【0017】
図4は本実施形態の電解メッキ電解制御方法を示す図である。図5は電解メッキ電解制御方法の違いによる導光板エンボス用Ni金属電解メッキ電鋳金型含有水素分析結果を示す。
【0018】
図4の破線は従来方法の電解メッキ電解制御方法の一例を示しており、電解Niメッキの通電を直流で連続して−8A/dm2の電流密度で供給しメッキ時間(電流X時間)を9000A・minを液温43℃で通電されている。
【0019】
一方、図4の実線は本発明の電解メッキ電解制御方法の一例を示しており、電解Niメッキの通電をパルス状に制御して反転を繰り返して行い、電解Niメッキの通電を−5A/dm2の電流密度で50msec供給した時点で反転電流を12.5A/dm2の電流密度で2msec供給しこのサイクルの繰り返しでメッキ時間(電流X時間)を9000A・minを液温50℃で通電されている。
【0020】
また、図5の結果から、従来方法では電解メッキ析出Ni中の水素含有量が7.6〜13ppmと大きく、新開発方法では電解メッキ析出Ni中の水素含有量が0.5〜1.2ppmと非常に小さいことが分かる。従って、電解メッキ析出Ni中の水素含有量が7.6〜13ppmと大きいことが金型の歪の原因となっており、新開発方法では電解メッキ析出Ni中の水素含有量が0.5〜1.2ppmと非常に小さくなり、金型の歪の原因となる環境が取り除かれている。
【0021】
つまり、新開発方法では、導光板エンボス用Ni金属電解メッキ工程におけるNi金型の歪み発生の原因と考えられる水素イオンがカソ−ド近傍に形成されるヘルムホルツ電気二重層の外側に集められて電解Niメッキ析出メカニズムに悪影響を与える環境を作らない工夫をする事で電解Niメッキ析出膜の歪を解消する事が可能となる。
【0022】
図6は図3のタバコサイズの導光板エンボス金型の表面歪特性と板厚分布の実測値を示す。図6(a)に示す測定点(1)は図3のタバコサイズの導光板エンボス金型の中心部を示し、従来方法の電解Niメッキの通電方法では85μmの歪が発生しており、本発明による電解Niメッキの通電方法では0μmと歪が全く発生していない事を示している、又図6(a)に示す測定点(2)は図3のタバコサイズの導光板エンボス金型の中心部より外側に20mmの場所を示し、従来方法の電解Niメッキの通電方法では30μmの歪が発生しており、本発明による電解Niメッキの通電方法では6μmと歪が非常に少ない事を示している。
【0023】
図6(b)に示す測定点(1)は図3のタバコサイズの導光板エンボス金型の中心部を示し、従来方法の電解Niメッキの通電方法ではメッキ厚みは3.56mmであり、本発明による電解Niメッキの通電方法では3.08mmと有意な差がない事を示している。又図6(b)に示す測定点(2)は図3のタバコサイズの導光板エンボス金型の中心部より外側に20mmの場所を示し、従来方法の電解Niメッキの通電方法では厚みは3.15mmであり、本発明による電解Niメッキの通電方法では3.78mmと有意な差がない事を示している。
【0024】
図7は図4〜図6に説明した本発明による電解Niメッキの通電方法を実証実験した時の解析表の一部であり、組織的な実証実験で新技術の最適条件を見出した実験の内容の一例を示し、導光板エンボス用Ni金属電解メッキ電鋳条件と金型厚み・Ni金属電解メッキ歪み及び硬度等の要因分析結果比較の諸特性の詳細解析検証の一例を示す。
【0025】
本発明の再現データはNo11でこのNo11に対してNo5は反転電流を12.5A/dm2の電流を2倍の25A/dm2に増やしたものでNo11に比較してひずみは同程度で有意差はないが硬度が1.5倍に上昇することを示す。No7は時間比率はNo11と同じであるが通電サイクル時間をNo11の半分の時間にしたものでNo11と同程度のひずみと硬度を示す。No8はメッキ反転電流を12.5A/dm2から半分の6.2A/dm2に電流密度を下げたものでヘルムホルツ電気二重層の外側に集められる水素量が増加した事により電解Niメッキ析出メカニズムに悪影響を与えてひずみがNo11の1.5倍に増大することを示す。これ等の検証に裏付けされて最適条件を導き出した。
【0026】
図8は導光板エンボス金型の諸特性を示す。本発明技術の成果として、高いアスペクト比を持つ微細立体構造体金型が電解Niメッキ法で製法可能と成り新開発のNi金属電鋳で直径50mmΦサイズの金型を厚みが3mm以上で歪が±10μm程度以下で歪の少ない金型が安価に生産可能と成った。更に本発明の成果により第二世代の大型のA4サイズの製造技術の基本技術が確立出来た事で次世代の導光板エンボス金型の諸特性を現在の性能と比較して示し産業界に貢献出来る事を期す。
【0027】
尚、本発明は、上記の好ましい実施形態に記載されているが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることができることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る電鋳金型の製造方法が用いられるLIGAプロセスの工程説明概念図を示す。
【図2】電鋳金型を製造する工程の電解電鋳原理を図解した説明図である。
【図3】図3(a)はタバコサイズの導光板エンボス金型の概観写真を示し、図3(b)は微細立体構造金型の概観写真及びその拡大写真を示す。
【図4】本実施形態の電解メッキ電解制御方法を示す図である。
【図5】電解メッキ電解制御方法の違いによる導光板エンボス用Ni金属電解メッキ電鋳金型含有水素分析結果を示す。
【図6】図3のタバコサイズの導光板エンボス金型の表面歪特性と板厚分布の実測値を示す。
【図7】導光板エンボス金型の歪対策の最適条件解明実証実験の一例
【図8】導光板エンボス金型の次世代諸特性比較
【符号の説明】
【0029】
1LIGAプロセス金型基板
2LIGAプロセス金型基板上のポリイミド樹脂(レジスト)
3LIGAプロセスX線マスク
4LIGAプロセス放射光
5LIGAプロセス金型テンプレ−ト(プラスチイック微細構造体)
6電鋳製作金属微細構造体金型
7ゲート基板
8モールド材
9射出孔
10鋳型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LIGA製法においてNi金属を電解メッキして析出積層を微細テンプレ−ト開口部に充填し電鋳金型を製造する方法であって、
Ni金属を電解メッキして析出積層させる還元電解のマイナス電解と逆となる溶解電解のプラス電解とを交互にパルス状に印加すると共に、前記溶解電解の強さが前記還元電解の強さの2倍以上であり且つ前記溶解電解の印加時間が前記還元電解の印加時間の1/10以下であることを特徴とする電鋳金型の製造方法。
【請求項2】
前記溶解電解の強さが前記還元電解の強さの2倍〜5倍であり且つ前記溶解電解の印加時間が前記還元電解の印加時間の1/10〜1/50であることを特徴とする請求項1に記載の電鋳金型の製造方法。
【請求項3】
前記還元電解の強さが1〜10A/dm2で印加時間が50msec〜500msecであり、前記溶解電解の強さが2〜20A/dm2で印加時間が1msec〜10msecであることを特徴とする請求項2に記載の電鋳金型の製造方法。
【請求項4】
LIGA製法においてNi金属を電解メッキして析出積層を微細テンプレ−ト開口部に充填し製造された電鋳金型であって、
Ni金属を電解メッキして析出積層させる還元電解のマイナス電解と逆となる溶解電解のプラス電解とを交互にパルス状に印加すると共に、前記溶解電解の強さが前記還元電解の強さの2倍以上であり且つ前記溶解電解の印加時間が前記還元電解の印加時間の1/10以下である電解Niメッキ電解制御により製造されたことを特徴とする電鋳金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−88530(P2008−88530A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273249(P2006−273249)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(505442819)株式会社ナノクリエート (11)
【出願人】(591025657)佐和鍍金工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】