説明

電離層モデル補正方法

【課題】現実に則した電離層電子密度分布を決定することの可能な電離層モデル補正方法を提供する。
【解決手段】衛星信号(GPS、Galileo、QZS等)の複数周波を観測することにより衛星信号が通過する途中の総電子数TECをリアルタイムに求め、その値とIRIやBentモデルなどの電離層モデルに基づくTEC値とをと比較することにより、電離層モデルを補正するためのパラメータを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、IRI(International Reference Ionosphere)やBentモデルなどの電離層モデルを補正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波が電離層を通過する際、空間に分布する電子により伝播経路が屈折する(例えば非特許文献1〜6を参照)。HF帯を用いた電波通信はこの現象を利用するので、伝播経路を予測することができれば良好な通信環境を構築できる。そこで、屈折の仕方が電離層電子密度分布により決まることから、IRIやBentモデルと称する電離層モデルを利用することが考えられている。電離層モデルに関しては例えば非特許文献3,4に開示される。
【非特許文献1】前田憲一,後藤三男:”電波伝播”,岩波全書,1953年2月
【非特許文献2】K.G.Buden:”The Propagation of radio waves”.Cambridge University Press,1988.
【非特許文献3】Dieter Bilitza,et.al.,:”International Reference Ionosphere 1990”,November,1990.
【非特許文献4】Dieter Biliza:”International Reference Ionosphere 2000”,Radio.Science,Vol.36,Number2,PP261-275,March/April,2001
【非特許文献5】Pratap Misra,PerEnge,”GLOBAL POSITIONIG SYSTEM Signals,Measurements,and Performance.”,Ganga-Jamuna Press,2001.
【非特許文献6】“新訂版 GPS −人工衛星による精密測位システム−”,日本測地学会,9月,1989.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既存の電離層電子密度分布モデル(電離層モデル)は、たかだか月平均レベルの精度のデータを示すものに過ぎないので、ある時刻における状態を正確に示すものではない。時刻によっては現実とかけ離れたデータを示すこともあり、これを利用する通信環境に影響を及ぼすので何らかの対処が望まれる。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、現実に則した電離層電子密度分布を決定することの可能な電離層モデル補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、複数の測位衛星から送信され第1および第2の周波数を含む衛星信号を電離層の通過後に地上において観測し、その結果に基づいて前記第1および第2の周波数に基づく前記測位衛星までの擬似距離を算出し、前記第1の周波数に基づく擬似距離と前記第2の周波数に基づく擬似距離との差分に基づいて前記衛星信号の通過経路における総電子数の観測値を算出し、電離層モデルに基づいて前記衛星信号の通過経路における総電子数のモデル値を算出し、前記観測値と前記モデル値との差分を最小にすべく、前記電離層モデルを表現するパラメータの補正値を算出し、前記補正値に基づいて前記電離層モデルを補正することを特徴とする電離層モデル補正方法が提供される。
【0005】
このような手段を講じることにより、実測に基づく総電子数(TEC)と、電離層モデルに基づくTECとがそれぞれ独立に算出される。そして、両者の差を最小とすべく電離層モデルの各パラメータを補正することで、電離層モデルをリアルタイムで補正することが可能になる。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、現実に則した電離層電子密度分布を決定することの可能な電離層モデル補正方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、電離層モデルの一例を示す模式図である。電離層は最下層(約50km)から上層(1000km以上)までにわたって分布し、F2層高度(約300〜350km)を境界として下層部電離層モデルと上層部電離層モデルとがそれぞれ適用される。地上のある地点において複数の衛星(例えばGPS衛星)を用いた観測により、衛星信号の通過経路におけるTEC(Total Electron Content)値を算出することができる。また地上において実施されるHF通信においては、HF電波の伝播経路は電離層下層部において屈折する。この屈折経路を正確に算出するため電離層モデルを補正する手法を以下に開示する。
【0008】
図2は、この発明に係わる電離層モデル補正方法を実施する地上システムの一例を示す模式図である。複数の測位衛星(GPS衛星、Galileo衛星、QZS衛星など)から送信される衛星信号は地上システムの受信アンテナ1において受信され、衛星信号受信機2に置いて受信検波されたのちデータ処理装置3に入力される。データ処理装置3は受信信号に基づいて、測位処理に加えて衛星・受信機間のコード距離、キャリア位相、衛星から放送される航法情報などの各データの取得のほか、TEC算出などの処理を行う。その手順については後述する。処理されたデータは表示装置4において表示されるとともにデータ記録装置5に記録される。
【0009】
次に、電離層モデルを補正する処理につきGPS衛星を例として説明する。この手順では衛星から放送される2周波の信号(ここでは、L1とL2で表す)をもとに信号通過経路の総電子数、すなわちTECを求める。まず、次式(1)および(2)は、それぞれ衛星測位における擬似距離(コード距離、シュードレンジ)、および位相距離(フェーズ距離)である。なお式(1)、(2)における添え字中の”or”はL1またはL2のいずれかを示す。
【数1】

【0010】
二つの周波数の観測値を引いた結果とTECとの関係は、次式(3),(4)のように示される。
【数2】

【0011】
式(3)によれば、TECは次式(5)のように求められる。
【数3】

【0012】
式(5)のままでは誤差ε′が多きいので、位相を使ったスムージングにより誤差ε′を小さくする。これにより次式(6)が得られる。
【数4】

【0013】
式(6)において、mはデータ収集の時間順につけた番号であり、Kはスムージングの定数である。Kの値は適宜変更することができ、サンプリング時間間隔にも依存することから時定数を180秒程度に取る。従ってK=180/dt(dt:サンプリング時間間隔)となる。
【0014】
一方、TECについての考えから、通過経路の電子密度を式(7)に示すように積分することにより求めることができる。式(7)における関数fをIRIモデルなどの電離層電子密度モデル関数とし、モデル値を決めるパラメータを、s,α、β、…等のように定める。なおsは位置を示すパラメータとし、その他のパラメータは電子密度の分布形状を決めるものである。
【数5】

【0015】
式(7)におけるgは衛星を識別するための識別子であり、式(7)は衛星Mgから受信観測点Rまでに渡って電離層電子密度関数fを経路に沿って積分した結果を示す。
【0016】
先に述べたように電離層密度分布モデルは月平均レベルのものであり、誤差を含む。そこで式(7)のモデルTECと衛星観測により求められた式(6)の観測TECとを比較し、式(8)により定まる両者の誤差(ΔTECg)が最小になるようなパラメータα,β・・・を求める。
【数6】

【0017】
式(8)を可視衛星全体に対して行列表現で表すと次式(9)のようになる。式(9)を簡略化して式(9′)で示す。
【数7】

【0018】
【数8】

【0019】
最小二乗法によりパラメータ変化行列Pを求めると、次式(10)が得られる。
【数9】

【0020】
式(10)におけるパラメータ変化分(δPLMS)から、次式(11)に示すようにモデルTECにおけるパラメータα、β、・・・を補正することができる。
【数10】

【0021】
すなわち、モデルを表現するパラメータPmodは、衛星観測により得られる補正パラメータδPLMSにより補正することができる。補正パラメータは衛星観測によりリアルタイムで得られるので、電離層モデルをリアルタイムで補正することができる。補正されたモデルは衛星信号が通過する以外の領域においても適用することができるので、例えばHF通信における伝播経路をこの補正された電子密度分布モデルから求めることができる。
【0022】
以上説明したようにこの実施形態では、衛星信号(GPS、Galileo、QZS等)の複数周波を観測することにより衛星信号が通過する途中の総電子数TECをリアルタイムに求め、その値とIRIやBentモデルなどの電離層モデルに基づくTEC値とをと比較することにより、電離層モデルを補正するためのパラメータを算出するようにしている。このパラメータを用いることで既存の電離層モデルをリアルタイムに補正することができ、より現実に則した電離層電子密度分布を決定することができるようになる。その結果、HF帯の通信をより効率的に行うなどの効果を得ることができる。
【0023】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】電離層モデルの一例を示す模式図。
【図2】この発明に係わる電離層モデル補正方法を実施するシステムの一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0025】
1…受信アンテナ、2…衛星信号受信機、3…データ処理装置、4…表示装置、データ記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測位衛星から送信され第1および第2の周波数を含む衛星信号を電離層の通過後に地上において観測し、その結果に基づいて前記第1および第2の周波数に基づく前記測位衛星までの擬似距離を算出し、
前記第1の周波数に基づく擬似距離と前記第2の周波数に基づく擬似距離との差分に基づいて前記衛星信号の通過経路における総電子数の観測値を算出し、
電離層モデルに基づいて前記衛星信号の通過経路における総電子数のモデル値を算出し、
前記観測値と前記モデル値との差分を最小にすべく、前記電離層モデルを表現するパラメータの補正値を算出し、
前記補正値に基づいて前記電離層モデルを補正することを特徴とする電離層モデル補正方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−333527(P2007−333527A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165048(P2006−165048)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】