説明

霊長類胚幹細胞からの神経幹細胞、運動ニューロン及びドーパミンニューロンのインビトロでの分化の方法

【課題】胚幹細胞を神経及び運動細胞へと分化させる方法を提供する。
【解決手段】一実施の形態で、神経管様ロゼット形態を特徴とし、且つPax6+/Sox1+である同調化した神経幹細胞の集団を創出する方法。初期ロゼット形態を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞を、FGF2、FGF4、FGF8又はレチノイン酸の存在下で4〜6日間培養する工程を含む。神経幹細胞集団の例として、中脳ドーパミンニューロンの集団、脊髄運動ニューロンの集団、前脳ドーパミンニューロンの集団等をあげることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2001年10月3日に出願された米国特許出願第09/970,382号
(本明細書中に援用される)の一部継続出願であり、同様に2003年8月29日に出願
された米国仮特許出願第60/498,831号(本明細書中に援用される)及び200
3年9月2日に出願された米国仮特許出願第60/499,570号(本明細書中に援用
される)に対して優先権を主張する。
【0002】
[連邦政府により後援される研究又は開発に関する記述]
本発明は、米国政府の後援を受けずに行われた。
【背景技術】
【0003】
[発明の背景]
ヒト幹細胞(ES)細胞は、着床前の胚の内細胞塊に由来する多分化能性細胞である(
Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147,1998)。マウスES細胞に類似し
て、ヒトES細胞は、様々な体細胞タイプの3つすべての胚葉へ分化するそれらの潜在性
を維持しながら多数に増殖させることができる(上述のThomson,J.A.,et al.,1998;
Reubinoff,B.E.,et al.,Nat.Biotech.18:399,2000;Thomson,J.A. and Odori
co,J.S.,Trends Biotech 18:53-57,2000;Amit,M.,et al.,Dev.Biol.227:2
71-278,2000)。ES細胞のin vitroにおける分化は、初期発生の細胞上及び分
子機構及び移植治療用の供与細胞の産生について、新たな展望を提供するものである。実
際に、マウスES細胞は、造血細胞(Wiles,M.V. and Keller,G.,Development 111
:259-267,1991)、心筋細胞(Klug,M.G.,et al.,J.Clin.Invest.98:216-224,
1996)、インスリン分泌細胞(Soria,B.,et al.,Diabetes 49:157-162,2000)並
びにニューロン及びグリア(Bain,G.,et al.,Dev.Biol.168:342-357,1995;Okab
e,S.,et al.,Mech.Dev.59:89-102,1996;Mujtaba,T.,et al.,Dev.Biol.21
4:113-127,1999;Brustle,O.,et al.,Science 285:754-756,1999)を含む多く
の臨床的に意義ある細胞型へin vitroで分化することがわかっている。げっ歯類
中枢神経系(CNS)への移植後に、ES細胞由来の神経前駆体(precursor)は、宿主組
織へ統合し、場合によっては、機能的改善をもたらすことがわかっている(McDonald,J.
W.,et al.,Nat.Med.5:1410-1412,1999)。ヒトES細胞の臨床的用途は、特定の
組織及び器官用の高度純度のドナー細胞の産生を要する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分化ヒトES細胞培養物からの移植可能な神経及び運動ニューロン前駆体の単離に関す
る簡素でさらには効率的な戦略が、当該技術分野で必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施の形態では、本発明は、神経管様ロゼット形態を特徴とし、且つPax6+
Sox1+である同調化した神経幹細胞の集団を創出する方法である。初期ロゼット形態
を特徴とし、且つSox1-,Pax6+である細胞を、FGF2、FGF4、FGF8又
はRAの存在下で4〜6日間培養する工程を含む方法。本発明はまた、この方法により創
出される細胞の集団である。
【0006】
一実施の形態では、初期ロゼット細胞は、FGF8を用いて、好ましくは4〜7日間培
養され、EN1+である。別の実施の形態では、細胞は、FGF2を用いて、好ましくは
4〜7日間培養され、Bf1+である。別の実施の形態では、細胞は、RAを用いて、好
ましくは4〜7日間培養され、Hox+である。
【0007】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をFGF8の存在下でSHHを用いて培養
する工程を含む、中脳ドーパミンニューロンの集団を単離する方法である。得られる細胞
は、TH、AADC、EN−1、VMAT2及びDATを発現するが、DbH及びPNM
Tを発現しない。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0008】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をSHHを用いてRAの存在下で前述の細
胞を培養する工程を含む、脊髄運動ニューロンの集団を単離する方法である。得られる細
胞は、HB9、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8、ChAT及びVAC
hTを発現する。本発明はまた、この方法により創出される細胞の集団である。
【0009】
別の実施の形態では、本発明は、上記の細胞をSHHを用いて培養する工程を含む、前
脳ドーパミンニューロンの集団を単離する方法である。本発明はまた、この方法により創
出される細胞の集団である。
【0010】
本発明はまた、正常なヒト神経発達に影響を及ぼす能力に関して作用物質をスクリーニングするための、上記の細胞集団を試験する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、分化ヒトES細胞培養物からの移植可能な神経及び運動ニューロン前駆体の単離に関する簡素でさらには効率的な戦略を提供する。
【0012】
本発明の他の目的、利点及び特徴は、明細書、特許請求の範囲及び図面を参照した後に
明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1A〜図1。ES細胞からの神経前駆体の分化及び単離。(図1A)FGF2の存在下で5日間成長させた付着EBは、外縁での扁平な細胞を及び中心に集まった小伸長細胞を示す。(図1B)7日目までには、多くのロゼット形成(矢印)が分化EB中心に出現した。右上部の挿入図は、トルイジンブルーで染色したロゼットの1μm切片であり、管状構造に整列された円柱状細胞を示す。バー=20μm。(図1C〜図1E)ロゼットのクラスター(左下)及び小形成ロゼット(中心)における細胞は、ネスチン(図1C)及びMusashi−1(図1D)に関して陽性であるのに対して、周辺扁平細胞は陰性である。(図1E)図1C及び図1Dと、DAPIで標識したすべての細胞核との複合画像である。(図1F)ディスパーゼで20分間処理した後、ロゼット形成は退縮したのに対して、周辺扁平細胞は、付着したままであった。(図1G〜図1I)単離細胞は、繊維状パターンにおいてネスチン(図1G)、細胞質においてMusashi−1(図1H)及び主として膜上でPSA−NCAM(図1I)に関して陽性に染色される。核をすべて、DAPIで染色する。バー=100μm。
【図2】図2A〜図2G。in vitroでのES細胞由来の神経前駆体の特性化。(図2A)解離されたES細胞由来の神経前駆体によるBrdU取り込みは、FGF2(20ng/ml)の存在下で上昇するが、上皮成長因子(EGF)(20ng/ml)又は白血病阻害因子(LIF)(5ng/ml)を用いた場合は上昇しない。これは、3回の反復実験のうちの1つからの代表データである。*は、実験群と対照群との間の差を示す(p<0.01、n=4、スチューデントt検定)。(図2B)ES細胞に由来する神経前駆体のクラスターの3週間の分化は神経突起束を示し、細胞はそれらと一緒に遊走する。(図2C)3週の分化後の免疫染色は、細胞の大部分がβIII−チューブリン+ニューロン(赤色)であること、またほんのわずかな細胞がGFAP+アストロサイト(緑色)であることを示す。(図2D)45日の分化後、さらに多くのGFAP+アストロサイト(緑色)が、NF200+神経突起(赤色、緑色のGFAPとの重複のため黄色がかっている)と一緒に出現する。(図2E〜G)様々な形態を有するES由来のニューロンは、グルタメート(図2E)、GABA(図2F)及び酵素チロシンヒドロキシラーゼ(図2G)のような別個の神経伝達物質を発現する。O4+オリゴデンドロサイト(矢印)は、グリア分化培地における2週の分化後に観察される。バー=100μm。
【図3】図3A〜図3K。in vivoでのES細胞由来の神経前駆体の取り込み及び分化。移植細胞は、ヒトalu反復要素に対するプローブ(図3A〜図3E、図3G)又はヒト特異的核抗原に対する抗体(図3F)を用いたin situハイブリッド形成法により検出される。(図3A)8週齢のレシピエントの宿主皮質における個々のドナー細胞(矢印)。(図3B)海馬形成におけるES細胞由来の神経前駆体の広範囲にわたる取り込み。ヒトaluプローブとハイブリダイズさせた細胞は、赤色ドットで標識される(偽性有色)。(図3C)P14での海馬錐体層の近傍で取り込まれたヒト細胞。(図3D)4週齢のレシピエントマウスの中隔におけるES細胞由来の細胞。(図3E)視床下部における個々のドナー細胞の高倍率図である。隣接する未標識宿主細胞間のとぎれのない取り込みに留意されたい。(図3F)ヒト特異的核抗原に対する抗体を用いて検出される4週齢の宿主の線条におけるドナー細胞。(図3G)水道から背側中脳への移植細胞の広範囲にわたる遊走。(図3H)極形態及び長い突起を示す2週齢の宿主の皮質におけるヒトES細胞由来のニューロン。細胞は、ヒト特異的核マーカー(緑色)及びβIII−チューブリン(赤色)に対する抗体で二重標識される。(図3I)ヒト神経フィラメントに対する抗体で同定した海馬の采におけるドナー由来の軸索のネットワーク。(図3J)MAP2のa及びbアイソフォームを認識する抗体で二重標識したドナー由来の多極ニューロン(図3K)ヒト特異的核マーカー(緑色)及びGFAPに対する抗体(赤色)で二重標識した4週齢の動物の皮質におけるES細胞由来のアストロサイト。二重標識はすべて、共焦点画像であり、単一光切断により確認されることに留意されたい。バー:図3A、図3B、図3G 200μm、図3C、図3D 100μm、図3E、図3F、図3H〜図3K 10μm。
【図4】神経外胚葉細胞の産生及び局所的特定化。図4A。円柱状細胞は、20ng/mlのFGF2の存在下での9日目に分化ES細胞コロニーにおいて出現した。図4B。円柱状細胞は、14日目に神経管様ロゼットを形成した。図4C。円柱状形態を有するロゼットにおける細胞は、Sox1(赤色)に対して陽性であった。図4D。FGF2で処理した培養物における神経ロゼット細胞は、Bf1(赤色)を発現したが、En−1(緑色)は発現しなかった。図4E。En−1(緑色)発現は、9日目に線維芽細胞成長因子8(FGF8)(100ng/ml)で6日間処理し、FGF8中で4日間増殖させた後、ラミニン基質上でさらに6日間ソニックヘッジホッグ(SHH)(200ng/ml)で処理したネスチン+(赤色)神経外胚葉細胞において観察された。図4F。これらのEn−1+細胞(緑色)は、図4Eのように処理した培養物においてBf1(赤色)に対して陰性であった。細胞核は、ヘキスト(c、d;青色)で染色した。バー=50μm。
【図5】DAニューロンの分化。図5A。分化した細胞の約1/3は、3週間の分化後にFGF8、SHH及びアスコルビン酸(AA)で処理した培養物においてチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性であった。図5B。培養物におけるTH+細胞(赤色)はすべて、ニューロンマーカーβIII−チューブリン(緑色)で陽性に染色された。図5C〜図5E。培養物におけるTH+細胞(d、緑色)はすべて、芳香族酸デカルボキシラーゼ(AADC)(d及びe、赤色)で陽性に染色されたが、幾つかのAADC+細胞は、TH-であった(e、矢じり)。図5F。TH+細胞は、ノルアドレナリン作動性ニューロンマーカードーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(DβH)(緑色)に対して陰性であった。挿入図は、DβHが成体ラット脳幹の切片における細胞を陽性に染色することを示した。細胞核は、ヘキスト(a、b、f;青色)で染色した。バー=50μm。
【図6】ヒトES細胞由来のDAニューロンの特性化。図6A。分化DAニューロンは、RT−PCRにより現される中脳発生運命の特徴である遺伝子を発現した。EB:胚様体、NE:神経外胚葉細胞、3w:3週間分化させたDA培養物、NC:陰性対照。図6B。培養物におけるTH+細胞(赤色)の大部分は、中脳マーカーEn−1(緑色)を発現した。図6C。GABA発現細胞(赤色)は、培養物中に存在したが、極わずかのTH+細胞(緑色)がGABA(赤色、挿入図)を共発現した。図6D。TH+細胞(赤色)は、カルビンジン(緑色)に対して陰性であった。バー=50μm。
【図7】ヒトES細胞由来のDAニューロンにおける受容体及び輸送体の発現。図7A〜図7C。TH+細胞(a、緑色)はすべて、c−Ret(赤色)を発現した。図7D〜図7F。TH+細胞(d、緑色)は、VMAT2(e及びf;赤色)を共発現した。図7G〜I。TH+ニューロン(j、緑色)は、シナプトフィジン(k及びl、赤色)を共発現した。バー=25μm。
【図8】in vitroで産生したDAニューロンの機能的特徴。図8A。三週間の分化後の対照及び処理培養物における自発的及び脱分極(HBSS中の56mMKCl)誘導性DA放出。データは、3回の実験からの平均値±SDとして提示した。*p<0.05(対応のないスチューデントt検定により対照に対して)。図8B。30日間分化させた2つのニューロンにおいて電流段階(0.2nA)を脱分極させることにより誘起される活動電位。受動膜特性:(i)Vrest−49mV、Cm15.5pF、Rm5.0GΩ、(ii)Vrest−72mV、Cm 45pF、Rm885GΩ;図8C。36日間分化させたニューロンにおける自発的シナプス後電位。図8D。培養に30日間維持されたニューロンにおける自発的なシナプス後電位。ニューロンは、K−グルコナートベースのピペット溶液を用いて−40mVで電圧固定した。外向き電流は、阻害性事象を反映し、内向き電流は、この低塩化物記録溶液において興奮性事象を反映する。(ii)パネル(i)で示される細胞からの平均事象。加重減衰時間定数は、阻害(n=17事象)及び興奮性(n=14事象)電流に関して、61.4ms及び9.9msである。図8E〜図8G。免疫染色は、記録されたニューロン(f、緑色)がTH+(e及びg、赤色)であることを示した。バー=50μm。
【図9】FGF2により誘導される神経外胚葉細胞は、吻状表現型を示す。FGF2中で10日間分化させたES細胞は、コロニー中心で小円柱状形態を示し、ロゼット形成へと体系化した。ロゼットにおける円柱状細胞は、Pax6に対して陽性であり、Sox1に対して陰性であったが、周辺の扁平細胞はそうではなかった(A)。14日目までに、円柱状細胞は、神経管様ロゼットを形成し(B)、Pax6(C)及びSox1(D)の両方に対して陽性であった。ロゼットにおけるPax6+細胞(E)はまた、Otx2+(F)であったが、En−1-(G)であった。神経管様ロゼットにおける細胞は、Otx2に対して陽性であり、HoxC8に対して陰性であった(H)。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図10】神経外胚葉細胞からの運動ニューロンの産生。(A)2週間のSox1+神経外胚葉細胞の分化(一番上の行)は、成長領域における広範囲にわたるニューロン産生、Isl1の発現を明らかにしたが、HB9+細胞はわずかであることを明らかにした。Pax6+/Sox1-神経外胚葉細胞の処理(二番目の行)は、わずかに遊走している細胞を伴う広範囲にわたる神経突起成長、Isl1の発現及び大比率のHB9+細胞をもたらした。初期神経外胚葉細胞から分化したIsl1/2+の約50%はまた、HB9+であった(B)。HB9+細胞はまた、βIII−チューブリンに対して陽性であった(C)。クラスターにおける細胞の約21%は、培養物がレチノイン酸(RA)及びSHHの両方の存在下で分化された場合にはHB9+であったのに対して、RA単独若しくはSHH単独で、又はともに存在せずに培養される場合にはわずかなHB9+細胞が観察された。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図11】神経外胚葉細胞におけるRA、FGF2及びSHHの影響。(A)RT−PCR分析は、RA又は20ng/mlのFGF2を用いて神経誘導培地中で1週間培養された初期ロゼット細胞からの吻側尾側遺伝子の変動を示した。(B)RA0.1μMで1週間処理した初期及び後期神経外胚葉細胞におけるホメオボックス遺伝子発現の比較。RAで処理した後、12日間分化させた初期神経外胚葉細胞は、Otx2に対して大部分陰性となった(C)が、HoxC8に対して陽性となった(D)。HoxC8+細胞はすべて、βIII−チューブリン+(E)であった。Pax6発現神経外胚葉細胞は、Olig2に対して陰性であった(F)。RAによる1週間の処理及びSHH(100ng/ml)の存在下での2週間の分化後に、多くの細胞は、Olig2を発現した(G)。後期神経外胚葉細胞をRAで処理した後、同培養条件下で分化させた場合、わずかなOlig2+細胞が観察された(H)。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図12】培養における運動ニューロンの成熟。ChAT発現細胞は、クラスターにおいて大部分は局在化され(A)、大きな多極細胞であった(B)。共焦点画像は、3週間の培養物において、神経細胞体及び突起内のChAT、並びに核におけるHB9の共局在化を示した(C)。クラスターにおけるほとんどの細胞が、VChATを発現した(D)。多くのChAT+細胞はまた、培養における5週間後に神経細胞体及び突起内のシナプシンに対して陽性であった(E)。(F)42DIVに関して維持されるニューロンにおける電流段階(0.15nA)を脱分極させることにより誘起されるAP。静止膜電位(Vm)−59mV(fi)及び70mV(fii)。(G)42DIVに関して維持されるニューロンにおける自発的AP。Vm−50mV。(H)対照条件下でK−グルコネートベースのピペット溶液を用いた−40mVでの自発的内向き及び外向きシナプス電流(Hi)。ビククリン(20μM)及びストリキニーネ(5μM)の両方の適用は、外向き電流を阻止した(IPSC、Hii)。AP−5(40μM)及びCNQX(20μM)の続く適用は、残存する内向き電流を阻止した(EPSC、Hiii)。(i)パネルHで示される細胞からの平均sIPSC及びsEPSC。(J)ビオチン(記録用電極から)及びChATに関する二重免疫染色。青色は、ヘキスト染色した核を示す。バー=50μm。
【図13】in vitroで産生された運動ニューロンの電気生理学的特性化。(A)42DIVに関して維持されるニューロンにおける電流段階(0.15nA)を脱分極させることにより誘起されるAP。静止膜電位(Vm)−59mV(ai)及び70mV(aii)。(B)42DIVに関して維持されるニューロンにおける自発的AP。Vm−50mV。(C)対照条件下でK−グルコネートベースのピペット溶液を用いた−40mVでの自発的内向き及び外向きシナプス電流(ci)。ビククリン(20μM)及びストリキニーネ(5μM)の両方の適用は、外向き電流を阻止した(IPSC、cii)。AP−5(40μM)及びCNQX(20μM)の続く適用は、残存する内向き電流を阻止した(EPSC、ciii)。(D)パネルcで示される細胞からの平均sIPSC及びsEPSC。(E及びF)記録後に、カバーガラスクラスターをChATで免疫染色し、ビオチン充填したニューロンはChATに対して陽性であることを示した。バー=50μm。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発明の詳細な説明]
本発明における出願人等は、ヒト胚幹細胞からのドーパミン(前脳及び中脳)並びに運
動神経の発生方法を開示する。好ましい方法は概して、以下に、及び表1〜表3に記載さ
れる。
【0015】
具体的には、出願人等は、ES細胞から、胚様体中間体を通じて初期ロゼット(Pax
+/Sox1-)を分化させる方法を開示する。差次的処理(differential treatment)
により、出願人等は、これらの初期ロゼットを、3つの異なる形態の神経管様ロゼットへ
分化させることができ、続いて3つの異なる形態の神経管様ロゼットは、前脳ドーパミン
ニューロン、中脳ドーパミンニューロン又は運動ニューロンへの発達に適している。
【0016】
【表1】

【0017】
出願人等は、ドーパミン及び運動ニューロンを産生するための相1及び相2について記
載している以下の表2について言及する。表2はまた、出願人等が適切な発達のマーカー
であるとみなす様々な中間産生物についても記載している。
【0018】
【表2】

【0019】
上述のように、本発明は、2つの主な実施形態を包含する。1つの実施形態は、神経管
様ロゼットの形態の神経幹細胞(又は神経上皮細胞)の同調集団の産生、及び神経上皮マ
ーカーPax6、Sox1、ネスチン、Musashi−1の発現に関する手順である。
本明細書中で使用する場合、「同調する」は、異種分化をもたらすRAにより誘導される
ものに対比して、同じ発達段階にある細胞の集団を意味する。すなわち、培養物は、前駆
体(progenitor)から分化ニューロンへの発達段階にある細胞を含有する。本発明の場合で
は、本発明者等は、初期段階にあるPax6+/Sox1-初期神経上皮細胞、又は後期段
階にあるPax6+/Sox1+神経上皮細胞のいずれかを想定する。いずれの段階でも、
本発明者等は、いかなる分化ニューロンも想定しない。この同調化された発生は、本願で
記載されるように、特殊ニューロンへ直接の分化を可能にする。
【0020】
第2の実施形態は、特殊ニューロン(例えば、中脳ドーパミンニューロン、前脳ドーパ
ミンニューロン及び脊髄運動ニューロン)への神経上皮細胞のさらなる分化方法である。
【0021】
以下の表3は、本発明の細胞を得る好ましい方法について記載している。表3は、類似
した培養ブロスで置き換えることができる一般的な培養ブロス構成成分、並びに重要な成
長因子及びタイミング構成成分の両方を包含する。出願人等が神経細胞培地について言及
する場合、多くの培養構成成分が適切である。以下のセクションは、正確な分化に必要な
培養構成成分を強調している。
【0022】
概して、適切な培地は、神経細胞を成長させるのに使用される任意の培地である。以下
の参照文献(上述のBain,G.,et al,1995;上述のOkabe,S.,et al.,1996;上述の
Mujtaba,T.,et al.,1999;上述のBrustle,O.,et al.,1999;Zhang,S.-C.,et
al.,J.Neurosci.Res.59:421-429,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Natl.Aca
d.Sci.USA 96:4089-4094,1999;Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Neurol.137:376
-388,1996;Carpenter,M.K.,et al.,Exp.Neurol.158:265-278,1999;Vescovi,
A.L.,et al.,Exp.Neurol.156:71-83,1999)は、同じか、又は類似した培地を使用
している。
【0023】
1.ヒトES細胞からの神経上皮細胞(神経幹細胞)の分化
神経上皮細胞の産生は、初期コロニーの中心にある細胞が円柱状となり、且つロゼット
形態へ体系化する(organize)場合に、4〜6日間の懸濁培養、続く成長因子、好ましくは
FGF2又はFGF8の存在下で4〜5日間の付着培養における胚様体の形成に関与する
(図1A、図4A、図9A、図9B)(Zhang,et al.,Nature Biotechnol.,2001を
参照)。FGF4及びFGF9もまた、適切な成長因子である。
【0024】
これらのロゼットにおける円柱状細胞は、神経転写因子Pax6を発現するが、別の神
経転写因子Sox1を発現しない(図9C、図9D)。本発明者等は、これらのロゼット
が初期に出現して、管腔なしの円柱状細胞の単層により形成されるため、「初期ロゼット
」と称する。あらゆる単一コロニーは、初期ロゼットを保有する。これらの初期ロゼット
の総比率(total population)は、総細胞の少なくとも70%である。
【0025】
これらの初期ロゼットの4〜6日間のさらなる培養は、神経管様ロゼットの形成を招く
(図1B、図4B、図9E)。神経管様ロゼットは、明らかな管腔を伴う円柱状細胞の多
層により形成される。ロゼットにおける細胞は、Pax6のほかにSox1を発現する(
図4C、図9F、図9G、図9H)。初期ロゼットから神経管様ロゼットへの進行には、
本発明者等の無血清培養条件下で、10〜20ng/mlでのFGF2、FGF4、FG
F8、FGF9又は0.001〜1μMでのRAの存在下で、約4〜6日かかる。
【0026】
ES細胞から神経管様ロゼットの形成への神経上皮分化のプロセスには、14〜16日
かかる。ヒトES細胞は、5.5日齢のヒト胚に由来する(上述のThomson,J.A.,et a
l.,1998)。したがって、本発明者等の培養系におけるヒトES細胞からの神経上皮細胞
の発達は、ヒト胚において発達にかかる19〜21日に十分に匹敵する。正常なヒト発達
では、神経管は、20〜21日目に形成される。したがって、ヒトES細胞からの神経上
皮分化は、正常なヒト胚発達を反映する(Zhang,S.C.,J.Hematother.Stem Cell Re
s.12:625-634,2003)。
【0027】
形態変化及び明快な遺伝子発現パターンにより明らかであるような2段階の神経上皮発
達は、先に記載されていない。Pax6及びSox1は、神経管がカエル、ゼブラフィッ
シュ、ヒヨコ及びマウスにおいて同時に形成される場合、神経上皮細胞により発現される
ことが示されている(Pevny,et al.,Development 125:1967-1978,1998)。したが
って、本発明者等は、ヒトES細胞における神経上皮分化に沿った順次Pax6及びSo
x1発現の見解は新規であり、ヒトにとって特有であり得ると考える。Pax6+/So
x1−神経上皮細胞は、最古の神経上皮細胞を表し、したがってはるかに(far)同定さ
れている。これらの細胞の機能的有意性は、初期ロゼットにおけるPax6+/Sox1
−神経上皮細胞が前脳以外のニューロン保有位置的(carrying positional)アイデンティ
ティー(例えば、中脳ドーパミンニューロン及び脊髄運動ニューロン)となるように効率
的に誘導され得るが、神経管様ロゼットにおけるPax6+/Sox1+神経上皮細胞は
、効率的に誘導され得ない(表1、上記を参照)という点で、本発明に関連している。
【0028】
あらゆる分化しているES細胞コロニーは、神経管様ロゼットを形成する。神経上皮細
胞は、総分化した細胞の少なくとも70〜90%を表す。
【0029】
神経管様ロゼットの形態の神経上皮細胞は、低濃度のディスパーゼによる処理及び差次
的接着により精製することができる(米国特許第09/960,382号に記載)。
【0030】
2.中脳ドーパミンニューロンの産生
潜在的な治療上の用途を有する機能的ニューロンは、ニューロンであることのほかに、
少なくとも2つのさらなる特徴を保有しなくてはならない:特異的な位置的アイデンティ
ティー並びに神経伝達物質を合成、放出及び取り込む能力。
【0031】
中脳ドーパミンニューロンを産生する際の第1の工程は、中脳アイデンティティーの誘
導である。FGF8(50〜200ng/ml)による6〜7日間のPax6+/Sox
-初期ロゼット細胞の処理は、中脳転写因子エングレイルド1(En−1)及びPax
2を発現し(図4E、図4F)、且つ前脳マーカーBf−1をダウンレギュレートする(
図4D)前駆体への細胞の効率的な分化をもたらすが、Pax6+/Sox1+神経管様ロ
ゼット細胞はもたらさない。
【0032】
第2の工程は、ソニックヘッジホッグ(SHH、50〜250ng/ml)の存在下で
6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培地(例えば、表3に記載するもの)中でさら
に2週間、ドーパミンニューロンが発生するまで中脳前駆体を培養することである。好ま
しくは、総分化細胞の少なくとも35%が、ドーパミンニューロンとなる。
【0033】
好ましい分化培地は、表3に記載している。
【0034】
ドーパミンニューロンは、ドーパミンの合成を可能にするが、ノルエピネフリン又はネ
フリンへのさらなる代謝を可能にしないTH、AADCを発現するが、DbH及びPNM
Tを発現しない(図5)。
【0035】
ドーパミンニューロンは、中脳ドーパミンニューロン発達に必要とされる転写因子であ
るEn−1、ptx3、Nurr1及びLmx1bを発現する(図6A、図6B)。
【0036】
ドーパミンニューロンは、GABAを発現しない(図6C)。GABAとの共発現は、嗅球におけるドーパミンニューロンの特徴である。
【0037】
ドーパミンニューロンは、カルビンジンを発現しない(図6D)。カルビンジンとの共
発現は、中脳の被蓋(tegamental)野におけるドーパミンニューロンの特徴である。
【0038】
総合して、上記特徴は、本発明者等の培養系で産生されるドーパミンニューロンが中脳
ドーパミンニューロン、パーキンソン病において損失されるドーパミンニューロンである
黒質のより綿密に類似した中脳ドーパミンニューロンである。
【0039】
ドーパミンニューロンは、ドーパミンニューロンの生存及び機能に必要とされる成長因
子であるGDNFに対する受容体であるc−retを保有する(図7A、図7B、図7C
)。
【0040】
ドーパミンニューロンはまた、ドーパミンの貯蔵及び放出に必要とされる輸送体である
VMAT2を発現する(図7D、図7E、図7F)。ドーパミンニューロンはまた、放出
後のドーパミン取り込みに必要な輸送体であるDAT(図7G、図7H、図7I)を発現
する。したがって、本発明者等の培養系において産生されるドーパミンニューロンは、伝
達物質ドーパミンの合成、貯蔵、放出及び取り込みに必須の機構を保有する。
【0041】
ドーパミンニューロンは、シナプスの形成のためのシナプトフィジンを発現する(図7
)。ドーパミンニューロンは、刺激に応答して、活動電位を興奮(誘発:fire)させるこ
とができ、ドーパミンを分泌することができる(図8)。したがって、ドーパミンニュー
ロンは機能的である。
【0042】
3.脊髄運動ニューロンの産生
脊髄運動ニューロンを産生する際の第1の工程は、脊髄(仙骨)アイデンティティーの
誘導である。RA(0.001〜1μM)で6〜7日間のPax6+/Sox1−初期ロ
ゼット細胞の処理は、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8のような脊髄転
写因子であるHox遺伝子を発現するが、前脳マーカーであるOxt2及びBf−1又は
中脳マーカーであるEn−1を発現しない(図11A、図11C、図11D、図11E)
前駆体への細胞の効率的な分化をもたらすが、Pax6+/Sox1+神経管様ロゼット
細胞はもたらさない(図10A)。
【0043】
第2の工程は、唯一腹側神経前駆体により発現される転写因子であるOlig2の発現
から明らかであるような腹側化前駆体の特質を誘導するためにソニックヘッジホッグ(S
HH、50〜250ng/ml)の存在下で6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培
地中でさらに7〜10日間、脊髄運動ニューロンが発生するまで脊髄前駆体を培養するこ
とである。
【0044】
好ましい分化培地は、表3に記載している。
【0045】
好ましい実施形態では、総分化細胞の少なくとも22%が、脊髄運動ニューロンとなる
。運動ニューロンは、脊髄運動ニューロンにより特異的に発現される転写因子であるHB
9、islet1/2及びLim3を発現する(図10)。運動ニューロンはまた、Ho
xB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8を発現するが、前脳マーカーであるOtx
2及びBf−1又は中脳マーカーであるEn−1は発現しない(図11A、図11C、図
11D、図11E)ことから、運動ニューロンは脊髄運動ニューロンであることを示す。
【0046】
運動ニューロンは、運動ニューロン伝達物質アセチルコリンを合成するのに必要な酵素
であるChATを発現する(図12A、図12B、図12C、図12D)。運動ニューロ
ンはまた、VAChTを発現し(図12E)、運動ニューロンが、伝達物質アセチルコリ
ンを貯蔵することができ、且つ取り込むことができることを示唆する。
【0047】
さらに、運動ニューロンは、シナプスの形成のためのシナプシン(図12F)を発現す
る。運動ニューロンは、活動電位を興奮させることができる(図13)。したがって、運
動ニューロンは機能的である。本発明者等は、運動ニューロンが、HPLCにより分析さ
れるように、アセチルコリンを放出することを示すデータを有する。
【0048】
4.前脳ニューロンの産生
別の実施形態では、本発明は、前脳ドーパミンニューロン、好ましくは神経系修復に適
した移植可能な神経前駆体へと霊長類ES細胞(好ましくは、ヒトES細胞)を分化させ
る方法である。好ましくは、中脳ドーパミンニューロン産生に関して上述するような方法
を開始するであろう。前脳ニューロンを産生するために、Pax6+/Sox1-細胞をF
GF2でさらに4〜6日間処理した後、SHHで処理する。前脳ドーパミンニューロンを
産生する際の工程及びドーパミンニューロンの特質を決定するための分析は、中脳ドーパ
ミンニューロンに関して記載するものと同様である。主な差異は、特定の期間でのモルフ
ォゲンの使用及びドーパミンニューロンの特徴である。
【0049】
前脳ドーパミンニューロンを産生する際の第1の工程は、中脳アイデンティティーの誘
導である。FGF2(10〜20ng/ml)による6〜7日間のPax6+/Sox1
−初期ロゼット細胞の処理は、前脳転写因子であるBf−1及びOtx2を発現する前駆
体への細胞の効率的な分化をもたらす。
【0050】
第2の工程は、ソニックヘッジホッグ(SHH、50〜250ng/ml)の存在下で
6〜7日間、続いて正規のニューロン分化培地中でさらに2週間、ドーパミンニューロン
が発生するまで前脳前駆体を培養することである。総分化細胞の35%が、ドーパミンニ
ューロンとなる。米国特許出願第09/970,382号から得た以下の説明は、好まし
い方法について記載している。
【0051】
まず、霊長類ES細胞系、好ましくはヒトES細胞系を獲得して増殖させる。Thomson
,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147(1998)並びに米国特許第5,843,78
0号及び同第6,200,806号に記載される方法で、ES細胞(系)を得てもよいし
、または、正常な核型(karyotype)を有しており、少なくとも11ヶ月、好ましくは12
ヶ月間の連続培養後に未分化状態で増殖する能力を有するES細胞系を得るのに適した他
の方法により、ES細胞(系)を得てもよい。胚幹細胞系はまた、培養全体にわたって、
トロホブラスト(栄養芽細胞)を形成し、且つ3つ全ての胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚
葉)に由来する組織へ分化する能力を保持する。
【0052】
続いて、細胞を培養する。本発明の好ましい実施形態では、細胞は、好ましくは以下に
また上述のThomson,J.A.,et al.,1998並びに米国特許第5,843,780号及び同
第6,200,806号に開示されるように、照射した哺乳類、好ましくはマウス胚線維
芽細胞のフィーダー(支持)細胞層上で増殖させる。本発明者等はまた、細胞がフィーダ
ー細胞層なしで増殖され得ることも想定する。
【0053】
ES細胞コロニーは通常、ディスパーゼによる処理により接着細胞から無傷で取り出さ
れ、以下に記載するように胚様体(EB)と呼ばれる浮動性ES細胞凝集体として懸濁液
中で好ましくは4日間成長される。
【0054】
続いて、EBを、好ましくは20ng/mlでFGF2を含有する培地中で培養して、
初期ロゼット細胞を産生する。培地の他の好ましい構成成分は、表3に記載している。し
かしながら、多くの他の培地構成成分が適切である。概して、適切な培地は、神経細胞を
成長させるのに使用される任意の培地である。以下の参照文献(上述のBain,G.,et al
,1995;上述のOkabe,S.,et al.,1996;上述のMujtaba,T.,et al.,1999;上述の
Brustle,O.,et al.,1999;Zhang,S.-C.,et al.,J.Neurosci.Res.59:421-429
,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4089-4094,1999;
Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Neurol.137:376-388,1996;Carpenter,M.K.,et a
l.,Exp.Neurol.158:265-278,1999;Vescovi,A.L.,et al.,Exp.Neurol.156:7
1-83,1999)は、同じか、又は類似した培地を使用している。
【0055】
培地中のおよそ5日の培養後に、平板培養されたEBは、扁平な細胞の成長(outgrowth
)を生み出し、7日目までには、中心小伸長細胞は、図1Bに見られるようなロゼット形
成を生み出す。これらの形成は、初期神経管に類似している(図1Bの挿入図)。以下に
記載するように、形態学により、又はネスチン及びMusahi Iのような神経マーカ
ー抗原を用いた免疫蛍光分析により、神経前駆体の存在を確認し得る。好ましくは、神経
前駆体は、総細胞の少なくとも72%、最も好ましくは少なくとも84%を構成する。
【0056】
以下で実施例に記載するように、好ましくは差次的酵素処理及び接着により、神経管様
ロゼットをさらに単離し得る。簡潔に述べると、ディスパーゼによる処理は、中枢神経上
皮島の優先的な脱離を招く。ロゼット細胞のクラスターを、周辺扁平細胞から分離するた
めに、8〜10日間培養した分化EBを、好ましくは0.1〜0.2mg/ml ディス
パーゼ(Gibco BRL,Lifetechnologies,Rochville,MD)とともに、37℃で15〜2
0分間インキュベートする。あるいは、0.2mg/mlのディスパーゼを使用してもよ
い。ロゼットクランプは退縮するのに対して、周辺扁平細胞は、接着したままである。こ
の時点で、ロゼットクランプは、フラスコを揺らすことにより取り外され(dislodge)得て
、扁平細胞は接着した状態のままである。クランプをペレット化して、5mlピペットで
穏かに粉砕して、培養フラスコへ30分間平板培養し、混入している個々の細胞を接着さ
せる。続いて、浮遊しているロゼットクランプを、好ましくは結合を妨げるためにポリ(
2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)でコーティングされた新たなフラスコへ移して
、ヒト神経前駆体で使用される培地中で、FGF2(通常20ng/ml)の存在下で培
養する。以下で実施例に記載するように、ディスパーゼによる処理、続く差次的接着は、
通常少なくとも90%で、最も好ましくは少なくとも96%で、神経前駆体細胞の高度に
濃縮された集団を生じる。さらに、PSA−NCAMに対する抗体を使用した免疫分離の
ような他の方法を使用して、神経前駆体細胞を分離してもよい。
【0057】
以下の実施例は、ヒトES細胞由来の神経前駆体が3つすべてのCNS細胞型をin
vitroで産生することができることを実証する。
【0058】
以下の表は、本発明の本実施形態の様々な態様のフローチャートである:
【0059】
【表3】

【0060】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも72%、好ましくは84%の神経前駆体細胞
を含む細胞集団である。これらの神経前駆体細胞は、ネスチン及びMusashi I陽
性であることにより規定され得る。図1Bは、これらの細胞を特性化しているロゼット形
成を示す。ロゼット形成とは、本発明者等は、細胞が円柱形状であり、管状(ロゼット)
構造に整列され、身体中の神経管(発達中の脳)に類似していることを意味する。円柱状
細胞形態及び管状構造は、図1Bの挿入図に示される。
【0061】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも96%の神経
前駆体細胞を含む細胞集団である。好ましくは、以下で実施例に記載するように、差次的
酵素処理及び接着後にこれらの細胞を得る。
【0062】
5.本発明の細胞集団の使用
特異的な伝達物質表現型及び特有の位置的アイデンティティーを有する特殊ヒトニュー
ロン細胞型の産生は、神経障害における治療のための移植可能な細胞の供給源、例えばパ
ーキンソン病のための中脳ドーパミンニューロン、精神的疾患のための前脳ドーパミンニ
ューロン、脊髄障害及び運動ニューロン疾患(ALSを含む)のための脊髄運動ニューロ
ンを提供する。
【0063】
ヒト胚幹細胞をまず神経上皮細胞へ、続いて特殊ニューロンへと指向性分化させるため
の段階的且つ化学的に規定される培養系の確立はまた、毒性及び治療剤のスクリーニング
に前例のない新しい系を提供する。現在では、毒物学的及び治療用薬物のスクリーニング
は、動物、動物細胞培養物又は遺伝的に異常なヒト細胞系を用いて実施される。ヒト胚幹
細胞及び特殊ニューロン細胞へのそれらの分化は、ヒト神経発達の正常なプロセスを表す
。したがって、本明細書中に記載する本発明は、正常なヒト神経発達に影響を及ぼす作用
物質、又は異常な脳発達を潜在的にもたらす作用物質、並びに罹患状態におけるニューロ
ン型の再生を刺激し得る作用物質をスクリーニングに適しているであろう。さらに、上述
の系は、ドーパミンニューロンの死(パーキンソン病で見られるような)又は運動ニュー
ロンの死(ALSで見られるような)を招く病理学的プロセスを模倣するように容易に修
飾することができ、これらの疾患を治療するように設計される治療用作用物質をスクリー
ニングするのに有効に使用され得る。
【0064】
本発明のこの実施形態の好ましい方法では、本発明の細胞集団の1つを試験化合物に接
触させて、かかる接触の結果を、接触させていない対照細胞集団と比較する。培養物の特
徴を検査すること及びそれらを本出願内に含まれる既知の発達的特徴と比較することによ
り、特定の試験化合物が細胞集団に影響を及ぼしたかどうかを理解することができる。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【実施例1】
【0069】
前脳ドーパミン作動性ニューロンの産生
結果
ヒトES細胞は、FGF2の存在下で分化して、神経管様構造を形成する。ヒトES細
胞系であるH1、H9及びH9に由来するクローン細胞であるH9.2(上述のAmit,M.
,et al.,2000)を、照射したマウス胚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で増殖させた
(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)。分化を開始させるために、ES細胞コロニー
を剥離させて、胚様体(EB)として懸濁液中で4日間成長させた。続いて、EBを組織
培養処理フラスコにおいて、FGF2を含有する化学的に規定される培地(Zhang,S.-C.
,et al.,J.Neurosci.Res.59:421-429,2000;Zhang,S.-C.,et al.,Proc.Nat
l.Acad.Sci.USA 96:4089-4094,1999)中で培養した。FGF2は、Peprotech,Inc
.,Rocky Hill,NJから入手した。FGF2中での5日の培養後に、平板培養されたEB
は、扁平な細胞の成長をもたらした。同時に、小伸長細胞の数の増大が、分化EBの中心
で観察された(図1A)。規定培地中で7日までには、中心小伸長細胞は、ロゼット形成
を生み出し(generate)(図1B)、トルイジンブルー染色した切片により示されるように
、初期神経管に類似していた(図1Bの挿入図)。免疫蛍光分析は、神経マーカー抗原ネ
スチン及びMusashi−1(Lendahl,U.,et al.,Cell 60:585-595,1990;Kan
eko,Y.,et al.,Dev.Neurosci.22:139-153,2000)の発現が、ロゼット中の細胞に
主として制限されるが、分化EB細胞の周辺における扁平細胞には制限されないことを明
らかにした(図1C〜図1E)。未分化ES細胞は、これらのマーカーに対して免疫陰性
であった。神経管様構造の形成は、FGF2の存在下でEBの大部分で観察された(H9
及びH9.2系から総350EBの94%、3回の別個の実験)。FGF2の非存在下で
は、十分体系化された(organized)ロゼットは観察されなかった。
【0070】
神経管様ロゼットは、差次的酵素処理及び接着により単離することができる。FGF2
への連続接触により、円柱状ロゼット細胞は増殖して、多層を形成した。円柱状ロゼット
細胞は、高い頻度で、EBの大部分を構成し、周辺扁平細胞とはっきり分けられた。ディ
スパーゼによる処理は、中枢神経上皮島の優先的な脱離を招き、周辺細胞は主として接着
したままであった(図1F)。混入している単細胞は、細胞培養皿への短期間の接着によ
り分離した。この単離及び濃縮手順直後に実施した細胞計数により、単離された神経上皮
クラスターに関連する細胞が、分化EB培養物における細胞の72〜84%を構成するこ
とが示された。免疫細胞化学分析により、4回の別個の実験で検査された13,324個
の細胞に基づいて、単離ロゼット細胞の96±0.6%が、ネスチンに関して陽性に染色
されることが示された。これらの細胞の大多数はまた、Musashi−1及びPSA−
NCAMに関しても陽性であった(図1G、図1H、図1I)。
【0071】
ヒトES細胞由来の神経前駆体は、3つすべてのCNS細胞型をin vitroで産
生する。単離した神経前駆体細胞は、ヒト胎児脳組織に由来する「ニューロスフェア」培
養物に類似して、懸濁培養で浮動性細胞凝集体として増殖させた(上述のZhang,S.-C.,
et al.,2000;上述のSvendsen,C.N.,et al.,1996;上述のCarpenter,M.K.,et a
l.,1999;上述のVescovi,A.L.,et al.,1999)。BrdU取り込み試験は、前駆体細
胞増殖の刺激が、FGF2に依存性であり、EGF又はLIF単独により誘発され得ない
ことを明らかにした。さらに、FGF2をEGF及び/又はLIFと組み合わせた場合、
相加効果又は相乗効果は観察されなかった(図2A)。
【0072】
ES細胞由来の神経前駆体のin vitro分化は、FGF2の除去並びにオルニチ
ン及びラミニン基質上での平板培養により誘導された。数日以内に、個々の細胞及び無数
の成長円錐体が球体から生じ、スターバーストの外観を呈した。平板に播種後7〜10日
までには、球体から発した突起は、顕著な線維束を形成した。高い頻度で、小遊走細胞は
、線維と密接に関連して観察された(図2B)。分化した培養物の免疫蛍光分析は、成長
領域における細胞の大多数が、ニューロンマーカーであるMAP2ab及びβIII−チュ
ーブリンを発現したことを明らかにした(図2C)。低分子量神経線維(NF)と高分子
量NFの発現が、平板培養後7〜10日目まで及び10〜14日目までのそれぞれにおい
て観察された(図2D)。様々な神経伝達物質に対する抗体を使用して、ES細胞由来の
ニューロンをさらに特性化した。ニューロンの大部分がグルタミン酸作動性表現型を示し
た(図2E)のに対して、より小比率が、GABAに対する抗体で標識された。高い頻度
で、これらのニューロンは、極形態を示した(図2F)。少数のニューロンが、ドーパミ
ン合成に関する律速酵素であるTHを発現することがわかった(図2G)。GFAP+
ストロサイトは、成長因子退薬後の最初の2週間以内にはまれにしか見出されなかった(
図2C)が、長期にわたるin vitro分化後にはより頻繁になった。4週までには
、GFAP+アストロサイトは、分化されたニューロンの真下に広範囲にわたる層を形成
した(図2D)。オリゴデンドロサイトは、標準的な培養条件下では観察されなかったの
に対して、細胞を血小板由来成長因子A(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000)の存在
下で2週間以上培養した場合に、典型的なオリゴデンドロサイト形態を有するわずかなO
4−免疫反応性細胞が観察された(図2H)。したがって、ES細胞由来の神経前駆体は
、CNSの3つすべての主要な細胞型を産生する。
【0073】
ヒトES細胞由来の神経前駆体は、in vivoで遊走し、合体して、且つ分化する
。ヒトES細胞由来の神経前駆体のin vivoでの分化を評価するために、本発明者
等は、ヒトES細胞由来の神経前駆体を新生マウスの側脳室へ移植した(Flax,J.D.,et
al.,Nat.Biotech.16:1033-1039,1998)。移植された細胞は、脳室系の様々な領域
でクラスターを形成し、大量に各種宿主脳領域へ取り込まれた。移植の1週後と4週後と
の間で分析した22個の脳のうち、脳室内クラスター及び取り込まれた細胞は、それぞれ
19個及び18個のレシピエント脳において見出された。より長期間後に分析した個々の
動物により、移植された細胞が、移植の少なくとも8週間後に検出可能であることが示さ
れた。クラスター内の細胞は、ネスチン、βIII−チューブリン及びMAP2abに対す
る抗体に対して強力な免疫反応性を示した。凝集体におけるほんのわずかな細胞がGFA
Pを発現した。未分化ES細胞及び非神経上皮で通常発現されるマーカーであるアルカリ
ホスファターゼ及びサイトケラチンは、クラスター内では検出されなかった。奇形腫形成
は観察されなかった。
【0074】
ヒト特異的プローブによるDNA in situハイブリッド形成法及びヒト核特異
的抗原の免疫組織化学的検出は、多数の脳領域において移植された細胞の存在を明らかに
した。広範囲に及ぶドナー細胞取り込みを示す灰白質領域は、皮質(図3A)、海馬(図
3B、図3C)、嗅球、中隔(図3D)、視床、視床下部(図3E)、線条(図3F)及
び中脳(図3G)を包含した。白質領域への取り込みは、脳梁、内包及び海馬線維路で最
も顕著であった。形態学的には、取り込まれたヒト細胞は、周辺宿主細胞と区別できず、
ヒト特異的マーカーを用いることでのみ検出可能であった(図3)。細胞型特異的抗体に
よる二重標識は、取り込まれた細胞が、ニューロン及びグリアの両方へ分化したことを明
らかにした。ヒトES細胞由来のニューロンは、βIII−チューブリン及びMAP2に対
する抗体を用いてはっきりと描写することができた(図3H、図3J)。高い頻度で、ヒ
トES細胞由来のニューロンは、長い突起を伴う極形態を示した(図3H)。さらに、多
極及び未熟単極形態を有するニューロンが見出された(図3J)。ドナー由来のニューロ
ンは、宿主脳へと長距離を突出させる無数の軸索を産生し、灰白質及び白質の両方で検出
された。ドナー由来のニューロンは、脳梁、前交連及び海馬采のような線維路内で特に豊
富であり、そこではドナー由来のニューロンは、しばしば、単一切片内の数百マイクロメ
ートルにわたって見出され得た(図3I)。
【0075】
ニューロンのほかに、少数のES細胞由来のアストロサイトが、宿主脳組織内に検出さ
れた。少数のES細胞由来のアストロサイトは、星状形態を示し、GFAPの強力な発現
を示した(図3K)。対比して、ミエリンタンパク質に対する抗体による取り込まれたヒ
ト細胞の二重標識は、成熟オリゴデンドロサイトを検出することができなかった。宿主脳
へ遊走したドナー細胞の幾つかは、移植の最大4週間でさえ、ネスチン陽性表現型を保持
した。これらの細胞の多くは、血管周囲位置に見られた。
【0076】
論考
本研究は、成熟ニューロン及びグリアを産生することが可能な移植可能な神経前駆体が
、高収率でヒトES細胞から産生することができることを示している。本明細書中に記載
されるin vitro分化手順である成長因子媒介性増殖/分化、並びに神経前駆体細
胞の差次的接着を利用することは、神経発達の研究に関する新たな土台、及び神経系修復
のためのドナー細胞の産生を提供する。
【0077】
この研究の重要な見解は、ヒトES細胞からの神経前駆体の分化が、in vitro
で神経管様構造の形成を伴う神経系発達の初期工程を反復するようであるということの観
察である。この現象はここでは、制御された条件下でヒト神経発達の初期段階を研究及び
実験的に操作するのに利用することができる。化学的に規定された培養系は、in vi
troでのヒト神経上皮増殖及び特定化に対する単一因子の影響を探索するための特有の
機会を提供する。発達中のヒト脳に由来する前駆体と同様に、ヒトES細胞由来の前駆体
は、FGF2に対して強力な増殖性応答を示す(上述のFlax,J.D.,et al.,1998)。
しかしながら、増殖に対する相加効果も相乗効果も、EGF又はLIFにより誘発され得
ない。この見解は、初代細胞を用いて得られるデータ(上述のZhang,S.-C.,et al.,2
000;上述のSvendsen,C.N.,et al.,1996;上述のCarpenter,M.K.,et al.,1999;
上述のVescovi,A.L.,et al.,1999)と異なり、ES細胞由来の神経前駆体の増殖が、
胎児ヒト脳に由来する前駆体細胞よりも多くの未熟段階を表すということを示唆すること
ができる。げっ歯類細胞に関する研究は実際に、初期神経発生から単離された神経幹細胞
が、増殖に関してFGF2に依存し、FGFに対する応答性が、神経前駆体細胞分化の後
期段階でのみ獲得されるということを示している(Kalyani,A.D.,et al.,Dev.Biol
.186:202-223,1997;Fricker,R.A.,et al.,J.Neurosci.19:5990-6005,1999)

【0078】
神経管様構造のin vitroでの産生及びそれらの差次的接着に基づいてこれらの
構造を単離することができることは、ヒトES細胞由来の神経前駆体を高純度で産生する
ための簡素だが効率的なアプローチを提供する。具体的には、神経上皮構造内の強力な細
胞間及び組織培養基材へのそれらの低い接着性が、未分化ES細胞又は他の体細胞系の細
胞の著しい混入を伴わずに神経細胞の選択的単離を可能にする。この手順の高い効率は、
単離細胞の95%以上がネスチン陽性表現型を示し、ES細胞又は非神経上皮が移植レシ
ピエントにおいて検出不可能であるという事実により反映される。未分化ES細胞及び他
の系統に対する前駆体は、腫瘍及び外来組織を形成し得るため、精製された体細胞集団の
産生が、ES細胞ベースの神経移植戦略の開発にとって重要な前提条件である。
【0079】
新生児マウス脳への移植後、ES細胞由来の神経前駆体は、多種多様の脳領域へ取り込
まれ、そこでES細胞由来の神経前駆体は、ニューロン及びグリアへ分化した。in v
ivoで成熟をオリゴデンドロサイト検出することができないことは、それらのげっ歯類
相当物と対比して、ヒト神経前駆体の低いオリゴデンドロサイト分化効率に起因する可能
性が高い(Svendsen,C.N.,et al.,Brain Pathol.9:499-513,1999)。意外にも、
ドナー由来のニューロンは、生後の神経発生を示す部位に制限されず、脳の多くの他の領
域にも見出された。同様のデータが、成体げっ歯類脳へのヒトCNS由来の前駆体の移植
に関与する研究で得られた(Tropepe,V.,et al.,Dev.Biol.208:166-188,1999)
。有糸分裂後脳領域への個々の前駆体細胞の取り込みは、成体脳及び脊髄における細胞置
換に関して特に関連性が高い。さらに、取り込まれた細胞が、領域特異的特性を獲得して
、機能的に活性となるかどうか、並びに取り込まれた細胞が、どの程度まで領域特異的特
性を獲得して、機能的に活性となるかを決定するのに、より詳細な研究が必要とされる。
【0080】
成熟及び未熟の神経上皮細胞から構成される脳室内クラスターを除いて、占拠性病変は
、宿主脳内では検出されなかった。最も顕著なことに、奇形腫形成は、最大8週間の術後
期間中観察されなかった。特に非ヒト霊長類におけるより厳格な長期安全性研究が、潜在
的な臨床用途を検討するまえに必要とされることが明らかであるが、本発明者等のデータ
は、分化ヒトES細胞培養物から単離された神経前駆体が神経修復用の有望なドナー供給
源を表すことを示している。
【0081】
実験プロトコル
ES細胞の培養。ES細胞であるH1(継代16〜33)、H9(p34〜55)及び
H9に由来するクローン細胞であるH9.2(p34〜46)(上述のAmit,M.,et al
.,2000)を、過去に記載されたように(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)、照射
したマウス胚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で、ダルベッコ変法イーグル培地(DME
M)/F12、20%血清代替物(Gibco)、0.1mM β−メルカプトエタノール、
2μg/mlヘパリン、及び4ng/mlのFGF2(Pepro Tech Inc.,Rochy Hill
,NJ)から構成される培地を毎日交換して培養した。核型分析により、所定の継代での系
は二倍体であることが示された。
【0082】
ES細胞培養物の分化。ES細胞培養物を、ディスパーゼ(Gibco BRL、0.1mg/
ml)とともに37℃で30分間インキュベートし、無傷のES細胞コロニーを取り出し
た。ES細胞コロニーをペレット化して、FGF2なしのES細胞培地中に再懸濁させて
、毎日培地交換しながら25cm2組織培養フラスコ(Nunc)において4日間培養した。
ES細胞コロニーは、浮遊EBとして成長したのに対して、あらゆる残存フィーダー細胞
は、フラスコに接着した。EBを新たなフラスコへ移すことにより、フィーダー細胞を除
去した。続いて、EB(およそ50個/フラスコ)を25cm2組織培養フラスコ(Nunc
)において、インスリン(25μg/ml)、トランスフェリン(100μg/ml)、
プロゲステロン(20nM)、プトレシン(60μM)、亜セレン酸ナトリウム(30n
M)及びヘパリン(2μg/ml)を補充(添加)したDMEM/F12中で、FGF2
(20ng/ml)の存在下で平板培養した(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000、上
述のZhang,S.-C.,et al.,1999)。
【0083】
神経前駆体細胞の単離及び培養:周辺扁平細胞からロゼット細胞のクラスターを分離す
るために、培養物を0.1mg/mlのディスパーゼとともに37℃で15〜20分間イ
ンキュベートした。ロゼットクランプは退縮したのに対して、周辺扁平細胞は、付着した
ままであった。この時点で、ロゼットクランプは、フラスコを揺らすことにより取り外さ
れ、扁平細胞は接着した状態のままであった。クランプをペレット化して、5mlピペッ
トで穏かに粉砕して、培養フラスコへ30分間平板培養して、混入している個々の細胞を
接着させた。続いて、浮遊しているロゼットクランプを、結合を妨げるためにポリ(2−
ヒドロキシエチル−メタクリレート)でコーティングされた新たなフラスコへ移して、ヒ
ト神経前駆体で使用される培地中(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000)、FGF2(
20ng/ml)の存在下で培養した。神経分化及び単離の効率を定量化するために、分
離したての細胞クラスター及び残された扁平細胞をトリプシン(0.1%EDTA中0.
025%)で解離(分離)させて、計数した。ES細胞から分化した総細胞間での推定神
経前駆体(ロゼット細胞)の割合は、H9及びH9.2系に関する3回の別個の実験に基
づいて得られた。ES細胞由来の神経前駆体の分化潜在性の分析のために、細胞をオルニ
チン/ラミニン基質上で、DMEM/F12、N2サプリメント(Gibco)、cAMP(
100ng/ml)及びBDNF(10ng/ml、PeproTech)から構成される培地中
で、FGF2の存在なしで培養した。突起膠細胞分化に関しては、記載されるように(上
述のZhang,S.-C.,et al.,2000)、ES細胞由来の神経前駆体を、N1(Gibco)及び
血小板由来成長因子A(PDGFA)(2ng/ml)を補充したDMEM中で培養した
。形態学的観察並びに前駆体及びより成熟した神経細胞に関するマーカーによる免疫染色
は、分化の過程中に実施された。
【0084】
組織化学的及び免疫組織化学的染色。ロゼット形成をより良好に可視化するために、ロ
ゼットを伴う培養物を、PBS中ですすいで、4%パラホルムアルデヒド及び0.25%
グルタルアルデヒド中で1時間固定した。続いて、記載されるように(上述のZhang,S.-
C.,et al.,1999)、固定した細胞をプラスチック樹脂中に包埋するために加工した。
続いて、培養細胞を1μm厚に切片化して、トルイジンブルーで染色した。免疫染色に関
して、他の箇所で詳述される適切な蛍光二次抗体(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000
、Zhang,S.-C.,et al.,1999)により検出される以下の一次抗体で、カバーガラス培
養物を免疫染色した:抗ネスチン(ポリクローナル、NINDSのDr.R.McKayから贈与
、1:1,000)、抗ポリシアル酸化ニューロン細胞接着分子(PSA−NCAM、マ
ウスIgM、フランスのマルセイユ大学のDr.G.Rougonから贈与、1:200)、抗M
usashi−1(ラットIgG、日本の東京大学のDr.H.Okanoから贈与、1:500
)、抗GFAP(ポリクローナル、Dako、1:1,000)、抗ヒトGAFP(スタンバ
ーグポリクローナル、1:10,000)、O4(マウスIgM、ハイブリドーマ上清、
1:50)、抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH、Pel Freez、1:500)。残りの抗
体は、Sigmaからのものであった:抗βIII−チューブリン(マウスIgG,1:500)
、抗神経フィラメント(NF)68(マウスIgG、1:1,000)、抗NF200(
ポリクローナル、1:5,000)、抗MAP2ab(マウスIgG、1:250)、抗
γ−アミノ酪酸(GABA、ポリクローナル、1:10,000)、抗グルタメート(マ
ウスIgG、1:10,000)。ブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みに関し
て、各群における4つのカバーガラス培養物を2μMのBrdUとともに16時間インキ
ュベートした後、培養物を4%パラホルムアルデヒド中で固定して、1N HClで変性
させて、免疫標識及び細胞計数用に加工した(上述のZhang,S.-C.,et al.,2000、Zha
ng,S.-C.,et al.,1999)。
【0085】
脳室内移植及びin vivo分析。神経前駆体の凝集体をトリプシンで解離させた後
(0.1%EDTA中0.025%、37℃で5〜10分間)、100,000個の生細
胞/μlの懸濁液を、L15培地(Gibco)中に調製した。頭部の下方から照明を使用し
て、寒冷麻酔をした新生マウス(C3HeB/FeJ)の側脳室それぞれに、細胞懸濁液
2〜3μlをゆっくりと注射した。移植された動物を、シクロスポリンA(10mg/k
g、i.p.)の毎日の注射により免疫抑制した。移植の1週後、2週後、4週後及び8
週後に、リンゲル液、続いて4%パラホルムアルデヒドを経心的にマウスに灌流させた。
脳を切開して、使用するまで同じ固定液中で4℃にて後固定させた。ドナー細胞は、ヒト
alu反復要素に対するジゴキシゲニン標識プローブ(Brustle,O.,et al.,Nat.Bio
tech.16:1040-1044,1998)又はヒト特異的核抗原に対する抗体(MAB1281、Che
micon、1:50)を使用して、in situハイブリダイゼイションにより、50μ
mの冠状ビブラトーム切片で同定された。免疫陽性細胞を、GFAP(1:100)、ネ
スチン、βIII−チューブリン(TUJ1、BabCo、1:500)、MAP2a(Sigma、
クローンAP−20及びHM−2、1:300)及びリン酸化中程度分子量ヒト神経フィ
ラメント(クローンHO−14、1:50、J.Trojanowskiから贈与)に対する抗体で二
重標識した。一次抗体を、適切なフルオロフォア結合二次抗体で検出した。切片を、Ze
iss Axioskop2及びLeicaレーザスキャン顕微鏡上で分析した。
【実施例2】
【0086】
中脳ドーパミンニューロンの産生
神経学的状態における幹細胞療法の潜在的適用に対する第1の工程は、正確なアイデン
ティティー及び伝達物質の表現型を有する神経細胞の有向性分化である。ここでは、本発
明者等は、モルフォゲン作用の特異的配列によるヒト胚幹(ES)細胞からの機能的ドー
パミン作動性(DA)ニューロンの頑強な産生を示す。Sox1を発現する前に、初期段
階でヒトES由来の神経外胚葉細胞をFGF8によって処理することは、正確な中脳DA
突出ニューロン表現型を有するDAニューロンの特定化に必須である。in vitro
で産生されたDAニューロンは、毒物学的且つ薬学的スクリーニングに、及びパーキンソ
ン病における潜在的細胞療法に使用され得る。
【0087】
パーキンソン病(PD)は、中脳、特に黒質におけるDAニューロンの進行性退化に起
因する。PDに対する現在の療法は、主として、レバドパのようなDA前駆体の全身投与
による症状軽減に依存する。かかる療法は、最初の数年間は有効であるが、ほぼ必ずその
有効性を失い、重症の副作用を生じる。グリア細胞系由来の神経栄養因子(GDNF)の
ような成長因子の投与は、小規模の臨床試験において有効であることが示されている(Gi
ll,S.S.,et al.,Nat.Med.9:589-595,2003)。この療法は、十分数の生存DAニ
ューロンに依存し、その長期にわたる治療上の可能性は、いまだ調査されていない。ニュ
ーロン退化の限局的性質のため、細胞移植が代替的療法として提唱されている(Bjorklun
d,A.and Lindvall,O.,Nat.Neurosci.3:537-544,2000)。幾つかの成功事例では
、移植された胎児中脳細胞は、10年にわたって生存し、症状の軽減に寄与する(Kowdow
er,J.H.et al.,N.Engl.J.Med.332:1118-1124,1995;Piccini,P.,et al.,N
at.Neurosci.2:1137-1140,1999)が、最近規制された臨床試験では、PDに対する胎
児組織移植療法の有効性に疑問を投じている(Freed,C.R.,et al.,N.Engl.J.Med
.344:710-719,2001;Olanow,C.W.,et al.,Ann.Nuerol.54:403-414,2003)。
これらの現象は、PDの複雑さを示している。機能的ヒト中脳DAニューロンの信頼性高
い再生可能な供給源は、DA系の起源、DAニューロンの生存及び機能に影響を及ぼす発
病プロセス並びにPDに対する持続可能な治療法の開発に関する系統だった研究に緊急に
必要とされる。
【0088】
DAニューロンは、マウスES細胞から効率的に産生することができることが示されて
おり、マウスES細胞は、胚盤胞段階での着床前胚の内細胞塊に由来する(Evans,M.J.
and Kaufman,M.H.,Nature 292:154-156,1981;Martin,G.R.,Proc.Natl.Acad.
Sci.USA 78:7634-7638,1981)。マウスES細胞はまず、FGF2により(Lee,S.H.
,et al.,Nat.Biotechnol.18:675-679,2000)、或いは間質細胞由来の誘導活性に
より(Kawasaki,H.,et al.,Neuron 28:31-40,2000;Barberi,T.,et al.,Nat
.Biotechnol.21:1200-1207,2003)、神経外胚葉細胞へと誘導される。続いて、神経
外胚葉細胞を、DAニューロン誘導のためにFGF8、続いてSHHに接触させる。この
研究では、本発明者等は、ヒトES細胞(Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145
-1147,1998)を誘導して、FGF8及びSHHに応答して中脳突出特徴を有する大比率
のDAニューロンを産生する神経外胚葉細胞(Zhang S.C.,et al.,Nat.Biotechnol
.19:1129-1133,2001)へ分化させるための頑強な系を確立した。本発明者等は、中脳
突出ニューロン表現型を有するDAニューロンを産生するために、前駆体細胞がSox1
+発現神経外胚葉細胞となる前に、ヒトES細胞をFGF8へ接触することが必要である
ことを見出した。
【0089】
結果
ヒトES由来の神経外胚葉細胞は、前脳特質を示す
フィーダー細胞層から剥離させたES細胞コロニーを、ES細胞成長培地中で4日間、
凝集体として懸濁液中で培養した後、接着性培養器で、FGF2(20ng/ml)を含
有する化学的に規定される神経細胞用培地中で成長させた(上述のZhang,S.C.et al.
,2001)。コロニー中心における細胞は、円柱状形態を現し、およそ9日目にロゼット形
成で整列した(図4A)。これらの円柱状細胞は、Pax6に対して陽性であったが、汎
神経転写因子であるSox1に対して陰性であり(図示せず)、初期神経外胚葉細胞を示
している。さらに5〜6日にわたって(14〜15日目)、円柱状細胞は増殖して、神経
管様ロゼットへと体系化して(図4B)、神経管閉鎖中に最終的な神経外胚葉細胞により
発現される転写因子であるSox1(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1
978,1998)を発現した(図4C)。円柱状細胞は、前脳細胞により発現される転写因子
である脳因子(Bf1)(Tao.W.and Lai,E.Neuron 8:057-966,1992)に対して
陽性であったが、中脳により発現される転写因子であるエングレイルド1(En−1)(
Davidson,D.,et al.,Development 104;305-316,1988;Wurst,W.,et al.,Deve
lopment 120:2065-2075,1994)に対して陰性であり(図4D)、in vitroで
産生された神経外胚葉細胞の前脳アイデンティティーを示唆した。
【0090】
中脳表現型の誘導は、FGF8の初期作用を要する
DAニューロンの分化のために、神経管様ロゼットにおける神経外胚葉細胞は、差次的
酵素及び接着処理により濃縮され(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)、FGF2を用
いて懸濁液中で凝集体として4日間増殖(expansion)させた後、ラミニン基質上に平板培
養し、SHH(50〜200ng/ml)及びFGF8(20〜100ng/ml)で6
日間処理した。免疫細胞化学分析により、大多数の神経外胚葉細胞が、Bf1に対して依
然として陽性であるが、En−1対しては陽性でないことが示された(図示せず)。
【0091】
FGF8が、Sox1+神経外胚葉細胞にEn−1を発現させるよう誘導することがで
きないことは、Sox1−発現神経外胚葉細胞が、パターニングシグナルに対して不応性
であり得ることを示唆する。Sox1−発現細胞は、ヒトES細胞の分化の2週後(6日
齢の胚に相当(上述のThomson,J.A.,et al.,1998)に産生され、神経管様構造を形成
するため、Sox1−発現細胞は、神経外胚葉細胞がSox1を発現し、且つ局所的に特
定化される神経管閉鎖での神経外胚葉細胞に相当し得る(Lumsden,A.and Krumlauf,R
.,Science 274:1109-1115,1996)。このことは、本発明者等に、神経外胚葉細胞がS
ox1を発現する前にFGF8が中脳特定化を促進し得ると仮定するに至らせた。したが
って、本発明者等は、コロニー中心における細胞が9日目に円柱状になった時点で、FG
F8(100ng/ml)を適用した。6日後に、コロニー中心における細胞は、FGF
2の存在下で見られるように、神経管様細胞に発生した。これらの神経外胚葉細胞は同様
に濃縮されて、FGF8中で4日間増殖された(expanded)後、ラミニン基質上で6日間、
SHHで処理した。この培養条件下では、En−1発現は、ネスチン発現神経外胚葉細胞
で観察された(図4E)が、依然としてBf1を発現する細胞が存在した(図4F)。し
たがって、神経外胚葉細胞は、それらがSox1+となる前に、効率的に局所化された。
【0092】
局所化された神経外胚葉細胞は、DAニューロンへ分化する
神経外胚葉細胞を解離して、神経分化培地中で分化させた。神経外胚葉細胞は、未分化
ヒトES細胞により高度に発現される糖タンパク質である段階特異的胚抗原4(SSEA
4)を発現しなかった。最初に均一に分布させた脱凝集神経外胚葉細胞は、平板培養の3
〜5日後に、ロゼットを再形成した。続いて、脱凝集神経外胚葉細胞は、突起を伸長して
、極形態を示した。分化後3週目に、総分化細胞集団の約3分の1(4回の実験から計数
された17,965個の細胞のうち31.8±3.1%のTH+細胞)が、チロシンヒド
ロキシラーゼ(TH)に対して陽性であった(図5A)。同様の割合のTH+細胞が、H
9及びH1ヒトES細胞系の両方から得られた。たいていのTH発現細胞は、直径が10
〜20μmであった。たいていのTH発現細胞は、分化可能な軸索及び樹状突起を有する
極形態を示した(図5A)。TH+細胞はすべて、ニューロンマーカーであるβIII−チュ
ーブリン+ニューロンで陽性に染色され、約50%がTH+であった(図5B、4回の実験
からの12,859個のβIII−チューブリン+ニューロンのうち6,383個がTH+
胞)。
【0093】
モノアミンの生合成において、THは、チロシンをL−DOPAへと加水分解し、続い
てL−DOPAは、AADCにより脱カルボキシル化されてDAとなる。別の2つの酵素
であるDβH及びフェニルエタノールアミンN−メチルトランスフェラーゼ(PNMT)
は、それぞれ、DAをノルエピネフリンへ変換し、ノルエピネフリンをエピネフリンへと
触媒する。免疫染色により、TH+細胞はすべて、AADCである(図5C〜図5E)が
、幾つかのAADC+細胞は、THに対して陰性である(図5E)ことが示された。しか
しながら、TH+細胞は、DβH(図5E)及びPNMT(図示せず)に対して陰性であ
ったが、DβHは、成体ラット及び胚サル脳幹においてノルアドレナリン作動性ニューロ
ンを強力に染色した(図5Fにおける挿入図)。これらのデータは、TH発現ニューロン
が、ドーパミン合成に必要である両方の酵素を保有すること、及びこれらのニューロンが
、ノルアドレナリン作動性及びアドレナリン作動性ニューロンではなくDAニューロンで
あることを示唆する。
【0094】
ES細胞により産生されたDAニューロンは、中脳表現型を示す
RT−PCR分析により、中脳DAニューロン発達に関与するNurr1、Limx1
b、En−1及びPtx3(Zetterstrom,R.H.,et al.,Science 276:248-259,199
7;Smidt,M.P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:13305-13310,1997;Sauc
edo-Cardenas,O.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:4013-4018,1998;Wall
en,A.,et al.,Exp.Cell Res.253:737-746,1999;Smidt,M.P.,et al.,Nat.
Neurpsci.3:337-341.2000;Simon,H.H.,et al.,J.Neruosci.21:3126-3134,20
01;Van den Munckhof,P.,et al.,Development 130:2535-2542,2003;Nunes,I
.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:4245-4250,2003)は、神経外胚葉細胞
がDAニューロンに分化されるまで、高レベルでは発現されなかったことが示された(図
6A)。免疫染色は、多数の突起を有するほとんどのTH+細胞が、核において中脳マー
カーEn−1を共発現することを明らかにした(図6B)。したがって、上記アプローチ
を用いて産生されたDAニューロンは、中脳位置的アイデンティティーを保有する。
【0095】
嗅球におけるDAニューロンは、多くの場合、γ−アミノ酪酸(GABA)を共発現す
る(Kosaka,T.,et al.,Exp.Brain Res.66:191-210,1987;Gall,C.M.,et al.
,J.Comp.Neurol.266:307-318,1987)。TH及びGABAの二重免疫染色により、
DAニューロンのほとんどが、GABAに対して陰性であるが、GABA+ニューロンは
、培養物中に見出されることが示された(図6C)。すべてのTH+細胞のうち、8%の
TH+細胞(8.7±3.9%、4回の実験から計数される6,520個のTH+細胞)が
GABAを共発現した。これらの二重陽性細胞の多くが、小さな二極細胞であった(図6
Cにおける挿入図)。幾つかの中脳DAニューロン、特に腹側被蓋領域における中脳DA
ニューロンは、THと一緒にコレシストキニンオクタペプチド(CCK8)又はカルビン
ジンを共発現する(McRitchie,D.A.,et al.,J.Comp.Neurol.364:121-150,1996
;Hokfelt,T.,et al.,Neurosci.5:2093-2124,1980)。免疫組織化学分析により、
TH+ニューロンが観察されることが示された(図6D)。これらのカルビンジンニュー
ロンは、主として小さな細胞であった。CCK8陽性細胞は、培養物中で検出されなかっ
た。
【0096】
ES細胞により産生されるDAニューロンは、生物学的に機能的である
免疫染色により、すべてのTH+ニューロンが、GDNF用の受容体の構成成分である
c−Retを発現した(図7A〜図7C)。TH+細胞の大部分、特に分岐状神経突起を
有するTH+細胞は、モノアミンニューロンにおける細胞内コンパートメントへドーパミ
ンをパッケージングすることに関与する小胞モノアミン輸送体2(VMAT2、図7D〜
図7F)(Nirenberg,M.J.,et al.,J.Neurosci.16:4135-4145,1996)を発現した
。さらに、TH+ニューロンは、シナプス形成に必須の膜糖タンパク質であるシナプトフ
ィジン(Calakos,N.and Scheller,R.H.,J.Biol.Chem.269:24534-24537,1994)
を発現した(図7A〜図7I)。
【0097】
ドーパミン放出は、DAニューロンの機能的特徴である。高速液体クロマトグラフィ(
HPLC)分析は、アスコルビン酸(AA)、FGF8及びSSHで処理した培養物中で
は230.8±44.0pg/mlで、またAA、FGF8及びSHHの処理なしの対照
培養物中では46.3±9.2pg/mlで、DA分化培養物の培地中におけるドーパミ
ンの存在を明らかにした(図8A)。培養細胞を洗浄して、HBSS中で14分間インキ
ュベートした場合、ドーパミンレベルは、2つの培養物間で類似していた(図8A)。し
かしながら、HBSS中での56mM KClによる培養ニューロンの脱分極は、DAの
量を有意に増加させた(AA、FGF8及びSHH処理なし及びありで、それぞれ培養物
中に35.8±9.2及び111.0±15.0pg/ml、図8A)。これらの観察は
、in vitroで産生されたDAニューロンがDAを分泌することができ、DAの放
出が活性依存的であることを示唆する。
【0098】
電気生理学的記録を使用して、ESにより産生されたDAニューロンが機能的に活性で
あるかどうかを決定した。30〜38日間培養物中に維持した細胞(n=14)において
、静止膜電位(Vrest)は、−32〜−72mV(−54±2.9mV)の範囲であり、
細胞静電容量(Cm)は、11〜45pF(21±2.7pF)の範囲であり、入力抵抗
(Rin)は、480〜3500MΩ(1506±282MΩ)の範囲であった。脱分極性
電流段階(0.2nA×200〜500ms)は通常、単一活動電池を誘発したが、幾つ
かの場合では、減少しつつある一連の活動電位が観察された(図8bi及び図8bii)
。活動電位(AP)閾値は、−26〜ー5.2mV(−17.4±2.1mV)の範囲で
あり、−9.6〜30mVでピークに達した。最大50.2mVのAPが観察された(3
2±2.8mV)。AP持続期間は、3〜20.6ms(7.2±1.3ms)の範囲で
あった。自発興奮が、2つの細胞で観察された(図8C)。
【0099】
電圧クランプ様式では、内向き及び外向き電流の両方が、細胞すべてにおいて観察され
た(図示せず)が、それらの相対規模は、大幅に変化した。内向き電流は、迅速に活性化
され(1ms未満)、1〜3ms以内にピークに達した。活性化閾値は、−30±1.1
mVであり、最大ピーク電流振幅は、−13±1.9mVの平均電圧で得られ、電流は、
テトロドトキシン(TTX、n=3)により完全に阻止された。これらの特性は、活動電
位発生を引き起こす電圧作動型ナトリウムチャネルの存在と一致した。3つの細胞におい
て、本発明者等は、迅速な上昇及びよりゆっくりとした減衰相を含むシナプス電流の特徴
を有する自発的過渡電流を観察した。3つの記録のうちの1つは、K−グルコネートベー
スのピペット溶液を用いて行われ、この細胞を−40mVで保持することにより、本発明
者等は、外向き(阻害性)及び内向き(興奮性)電流の両方を観察することが可能であっ
た(図8di及び図8dii)。14個の細胞すべてにビオシチンを注入したが、免疫染
色手順の完了後、たった5個の細胞が回収されたに過ぎなかった。しかしながら、5個の
ビオシチン充填細胞はすべて、TH標識された(図8E〜図8G)。
【0100】
論考
本発明者等は、中脳ニューロン突出特徴を有する機能的DAニューロンが、3つの簡素
な非遺伝的工程:FGF2による神経外胚葉細胞の誘導、神経外胚葉形成中のFGF8及
びSSHによる腹側中脳アイデンティティーの特定化及び局所的に特定化された前駆体の
DAニューロンへの分化により、ヒトES細胞から効率的に産生することができることを
実証した。中脳特徴を有するDAニューロンが、増殖された神経外胚葉細胞から産生する
ことができるというマウスES細胞研究から得られる見解(上述のLee,S.H.,et al.,
2000)と異なり、本発明者等は、前駆体細胞がSox1+神経外胚葉細胞となる前にFG
F8により特定化又は局所化することが、正確な中脳及び機能的表現型を有するヒトDA
ニューロンの頑強な産生に必須であることを見出した。
【0101】
幹細胞生物学の観点から、Mckayと共同研究者等によって開発された段階的プロトコル
であるマウスES細胞を神経外胚葉細胞へ誘導し(direct)、それらを増殖させて、それら
をFGF8及びSHHにより局所化又は特定化し、続いてそれらをDAニューロンへ分化
させることは、非常に論理的であるように思われる(上述のLee,S.H.,et al.,2000)
。本発明者等は、同じ原理がヒト霊長類に適用できるはずであると仮定した。実際に、本
発明者等は、Sox1を発現し、且つFGF2の存在下で神経管様ロゼットへと体系化す
る神経外胚葉細胞へヒトES細胞を分化させること(上述のZhang,S.C.,et al.,2001
)、神経外胚葉細胞をFGF8及びSHHで処理して、腹側中脳発生運命を誘導すること
、及び最終的に細胞をニューロンへ分化させることにより、多数のDAニューロンを産生
することが可能である。しかしながら、このようにして産生されたDAニューロンの多く
は、中脳突出DAニューロンの重要な特徴、例えば、複雑な形態を伴う大きなサイズ、及
びタンパク質レベルでの中脳転写因子の発現を欠如している。Sox1陽性神経外胚葉細
胞は、FGF8及びSHHによる処理後でさえも、依然としてEn−1に対して陰性であ
るが、Bf1に対しては陽性であり、Sox1発現神経外胚葉細胞が、中脳発生運命への
特定化に不応性であることを示唆している。本発明者等の培養系中でのヒトES細胞から
の神経外胚葉細胞分化のプロセスは、in vivo発達中に見られるものに匹敵する(
上述のZhang,S.C.,2003)。in vivoでは、神経管は、ヒト妊娠の3週目の最後
に形成し、Sox1は、マウス発生学的研究に基づいて、神経管閉鎖中に神経外胚葉細胞
により発現される(Pevny,L.H.,et al.,Development 125:1967-1978,1998)。培
養では、神経外胚葉細胞は、神経管様ロゼットを形成し、6日齢のヒト胚に相当するヒト
ES細胞からの2週間の分化後に、Sox1を発現する(上述のThomson,J.A.,et al.
,1998)。中脳DAニューロンを含む突出ニューロンは、初期段階で神経管において神経
外胚葉細胞から分化され、これらの神経外胚葉細胞細胞は、神経管閉鎖のプロセス中にす
でに局所的に特定化されている(上述のLumsden,A.and Krumlauf,R.,1996)。この
ことは、前脳表現型を保有するヒトES細胞により産生されたSox1発現神経外胚葉細
胞が、中脳表現型を有するDAニューロンを産生するためのモルフォゲンに反応しない理
由を説明し得る。FGF8が、中脳アイデンティティーを選択(adopt)するように初期前
駆体を指示し得るという本発明者等の仮定は、初期ロゼットにおけるSox1-円柱状細
胞をFGF8で処理した後の、突出ニューロンの特徴(例えば、複雑な突起を有する大き
な細胞体及び中脳間マーカーであるEn1の発現)を有するDAニューロンの産生により
確認される。
【0102】
FGF2により誘導されるマウスES細胞由来の神経外胚葉細胞が、増殖後に効率的に
局所化され得るが、ヒトES細胞由来の神経外胚葉細胞はそうではない理由は現在明らか
ではない。マウス脊髄から単離された神経前駆体の背側又は腹側アイデンティティーが、
特にFGF2の存在下で、培養時に調節解除され得るという最近の徴候が見られ(Gabay
,L.,et al.,Neuron 40:485-499,2003)、これは、増殖したマウスES細胞由来の
神経外胚葉細胞が再び特定化する能力を一部について説明し得るかもしれない。脊髄運動
神経のような他の突出したニューロンの分化に関する本発明者らの研究は、大きな突出し
たニューロンの産生がモルフォルゲンの初期の作用を必要とするという今回の観察と一致
する。
【0103】
DAニューロンは、中脳、視床下部、網膜及び嗅球を含む脳の幾つかの領域に存在する
。この研究におけるヒトES細胞により産生されるDAニューロンは、中脳突出DAニュ
ーロンに類似している。DAニューロンのほとんどが、GABAを共発現しないが、GA
BA及びTHの共発現は、嗅覚DA介在ニューロンの主な特徴である(上述のKosaka,T.
,et al.,18987;上述のGall,C.M.,et al.,1987)。中脳では、DAニューロンの
少なくとも2つの主要な群、すなわち黒質におけるもの(A9)及び腹側被蓋領域におけ
るもの(A10)(それぞれ異なる標的を有する)が存在する(Bjorklund,A.and Lin
dvall,O.,Handbook of Chemical Neuroanatomy,Vol.2:Classical Transmitters
in the CNS(Bjorklund,A.,Hokfelt,T.,eds),Amsterdam,Elsevier Science
Publishers,pp.55-111,1984)。腹側被蓋領域におけるほとんどのDAニューロンは
、カルビンジン又はCCKを発現するのに対して、黒質におけるものは、ほとんど発現し
ない(McRitchie,D.A.,et al.,J.Comp.Neurol.364:121-150,1996;Horkfelt,T
.,et al.,Neurosci.5:2093-2124,1980;Haber,S.N.,et al.,J.Comp.Neurol
.362:400-410,1995)。ヒトES細胞により産生されるDAニューロンが、CCK8又
はカルビンジンとともにTHを共発現しないという本発明者等の観察は、これらのDAニ
ューロンが、黒質DNAニューロンとより密接に類似していることを示唆する。
【0104】
ヒトES細胞の、適切な局所的アイデンティティーを有する大きな突出ニューロン(例
えば、中脳DAニューロン)を産生する頑強な能力は、ヒトES細胞系を使用して神経発
達の初期段階を精査するための空前の機会を広げる。本発明者等のデータは、初期に生み
出される中脳突出DAニューロンの産生に関して、特定化されていない初期神経外胚葉細
胞に作用するモルフォゲン(例えば、FGF8)に対する要件を示している。このことは
、すでに特定化されている胚及び成体哺乳類脳から単離並びに増殖させた幹細胞又は前駆
体は、突出ニューロンを産生するのに不応性である(Svendsen,C.N.,et al.,Exp.Ne
urol.148:135-146,1997;Daadi,M.M.and Weiss,S.,J.Neurosci.19:4484-4497
,1999;Storch,A.,et al.,Exp.Neurol.170:317-325,2001)理由を説明し得る。
in vitroで産生されたヒトDAニューロンはまた、ヒトDAニューロンに影響を
及ぼし得る化学物質及び薬物に関する毒物学的並びに薬学的スクリーニング用の系を提供
する。培養ペトリ皿中で産生されたこれらのヒトDAニューロンが、PD動物モデルにお
いて機能的であるかどうかを決定するための研究は進行中である。
【0105】
方法
ES細胞培養。ヒトES細胞系である、H9(p21〜56)及びH1(p35〜40
)を、Thomsonにより記載されるように(上述のThomson,J.A.,et al.1998)、ダルベ
ッコ変法イーグル培地(DMEM)/F12(Gibco)、20%血清代替物(Gibco)、1
mM グルタミン(Sigma)、0.1mM非必須アミノ酸(Gibco)、2μg/mlのヘパ
リン(Sigma)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Sigma)及び4ng/mlのF
GF2(R&D Systems)から構成されるES細胞成長培地を毎日交換しながら、照射し
たマウス胚線維芽細胞(MEF)上で週に1度、培養(細胞)を継代した。分化したコロ
ニーは、湾曲状のパスツールピペットを用いて物理的に取り出して、未分化状態のES細
胞は、典型的な形態学並びにOct4及びSSEA4による免疫染色により確認した。
【0106】
神経外胚葉細胞の分化及び濃縮。ヒトES細胞コロニーは、0.2mg/mlのディス
パーゼ(Roche Diagnostitics)による培養物の処理により、MEF層から剥離させ、E
S細胞培地を毎日交換しながら、4日間、浮遊性細胞凝集体(胚様体)として成長させた
。続いて、それらを、N2(Gibco)、0.1mM非必須アミノ酸、2μg/mlヘパリ
ンを補充したDMEM/F12(2:1)から構成される神経培地中で、1日おきに培地
を交換しながら、接着基材において成長させた。ES細胞凝集体は、結合して、およそ6
日目に個々のコロニーを形成した。神経管様ロゼットへ体系化する円柱状細胞により示さ
れる神経外胚葉細胞は、およそ14日目に発生した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001
)。神経ロゼットを、差次的酵素応答により単離した(上述のZhang,S.C.,et al.,20
01)。成長因子は、分化の過程中に添加して、局所化に影響を与えた(結果を参照)。
【0107】
DAニューロン分化。濃縮された神経外胚葉細胞は、PBS中、37℃で10〜15分
間の0.025%トリプシン及び0.27mM EDTAにより解離させ、12mmカバ
ーガラス(100μg/mlのポリオルニチン及び10μg/mlのラミニンで予めコー
ティングした)上へ、40,000〜50,000個の細胞/カバーガラスの密度で播取
た。ニューロン分化培地は、N2、0.1mM非必須アミノ酸、0.5mMグルタメート
、1μg/mlのラミニン、1μMのcAMP、200μMのAA(Sigma)、10ng
/mlのBDNF(R&D Systems)及び10ng/mlのGDNF(R&D Systems)を
補充したneurobasal培地(Gibco)から構成された。細胞を、1日おきに培地
交換しながら3〜4週間培養した。
【0108】
免疫細胞化学及び細胞定量化。カバーガラス培養物をPBS中4%パラホルムアルデヒ
ド中で10〜20分間、又はメタノール(−20℃)中4%パラホルムアルデヒド中で5
分間固定化して、免疫染色用に加工した(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)。以下の
一次抗体を使用した:マウス抗SSEA4(1:40)、マウス抗En−1(1:50)
及びマウス抗Pax6(1:5000、すべてDevelopmental studies hybridoma ban
kから)、ウサギ抗Sox1(1:500)、ウサギ抗ヒトネスチン(1:200)、ウ
サギ抗AADC(1:1,000)、ヒツジ抗DβH(1:400)、マウス抗シナプト
フィジン(1:500)及びウサギ抗CCK8(1:2000、すべてChemiconから)、
マウス抗TH(1:1,000)、マウス抗βIIIチューブリン(1:500)、ウサ
ギ抗GABA(1:5000)及びマウス抗カルビンジン(1:400、すべてSigmaか
ら)、ウサギ抗TH(1:500)及びウサギ抗VMAT2(1:500、すべてPel-Fr
eezから)、ヤギ抗c−Ret(1:400)及びマウス抗Oct4(1:1,000、
ともにSanta Cruzから)、ウサギ抗Bf1(1:5000、Lorenz Studerから贈与)
。抗体−抗原反応は、適切な蛍光結合二次抗体により明らかとなった。細胞核は、ヘキス
ト33342で染色した。染色は、Nikon蛍光顕微鏡で可視化した。成体ラット及び
E38胎性サルからの脳切片を、ニューロンタイプ及び神経伝達物質に対する多くの抗体
に対する陽性対照として使用した。陰性対照はまた、免疫染色手順における一次又は二次
抗体を省略することにより設定した。細胞計数は、接眼レンズ上のレチクル及び40×対
物レンズを使用することにより無分別(randomly)に達成された。10個の視野における細
胞を無作為に選択して、各カバーガラスから計数した。
【0109】
RT−PCR
総RNAは、RNA Stat−60(Tel-Test,Friendswood,TX)を用いて培養細
胞から抽出し、続いてDNaseI(DNAフリー、Ambicon)で処理した。cDNAの
合成は、RT−PCR用のSuperscript First−Strand Syn
thesis System(Invitrogen)を用いて、製造業者の指示に従って行った。
PCR増幅は、Taqポリメラーゼ(Promega)により、標準的な手順を用いて実施した
。サイクル数は、特定のmRNA存在量(abundance)に応じて、94℃で15秒間の変性
、プライマーにより55℃又は60℃の温度で30秒間のアニーリング、及び72℃で4
5秒間の伸長を伴って、25〜35サイクルまで様々であった。陰性対照は、逆転写中の
転写酵素又はPCR中のcDNAサンプルを省略することにより達成した。プライマー及
び産生物長は、以下の通りであった:
【化1】

【0110】
DA測定
DAニューロン分化の21日後に、48時間のコンディションメディウムを収集した。
培養細胞からの活性依存性ドーパミン放出は、まずハンクス平衡塩溶液(HBSS)中で
15分間、培養細胞を調整し、続いて56mMのKClを含有するHBSSでそれを37
℃で14分間取り換えることにより測定した。培地中又はHBSS中のドーパミンは、安
定化緩衝液(0.1MのNaOH10ml中EGTA900mg及びグルタチオン700
mg)20μlを添加することにより安定化し、サンプルを−80℃で保管した。HPL
Cキット(Chromsystems)を使用して、モノアミンを抽出した。モノアミンのレベルは、
電気化学的検出器(CoulochemII,ESA Inc.)に結合させたHPLC(モデ
ル508オートサンプラー及びモデル118ポンプ、Beckman)により、MD−TM移動
相(ESA Inc.)を使用して決定した。各群における培養は三重反復され、データは、3
回の別個の実験から収集された。
【0111】
電気生理学的記録
ヒトES細胞から分化したDAニューロンの電気生理学的特性は、全細胞パッチ−クラ
ンプ記録技法を用いて調べた(Hammill,O.P.,et al.,Pflugers Arch.391:85-100
,1981)。ピペットに、(mM)KCl 140又はK−グルコネート 140、Na+
−HEPES 10、BAPTA 10、Mg2+−ATP 4を含有する細胞内溶液(p
H7.2、290mOsm、2.3〜5.0MΩ)を充填した。ビオシチン(0.5%、
Sigma)を記録溶液に添加して、ストレプトアビジン−Alex Flur 488(1
:1000、Molecular Probes)による続く標識及びTHに対する抗体を使用して、D
Aニューロンを同定した。バス溶液は、(mMで)NaCl 127、KH2PO4 1.
2、KCl 1.9、NaHCO3 26、 CaCl2 2.2、MgSO4 1.4、
グルコース 10、95%O2/5%CO2を含有していた(pH7.3、300mOsm
)。幾つかの実験に関して、TTX(1μm)をバス溶液中で適用して、電圧作動型ナト
リウム電流を阻止した。
【0112】
電流クランプ及び電圧クランプ記録は、MultiClamp 700A増幅器(Axon
Instruments)を用いて実施した。シグナルは、4kHzでフィルタリングして、Di
gidata 1322Aアナログ−ディジタル変換器(Axon Instruments)を用いて
10kHzでサンプリングして、市販のソフトウェア(pClamp9、Axon Instrume
nts)を用いて、コンピュータハードディスクに蓄積(acquire)及び格納された。アクセス
抵抗は通常、8〜18MΩであり、増幅器回路を用いて50〜80%相殺した。電圧は、
+13mVの液相界面電位に関して補正した(Neher,E.,Methods Enzymol.207:1213
-131,1992)。Vrest及び活動電位は、電流クランプモードで検査した。自発的興奮性(
内向き)及び阻害性(外向き)シナプス電流は、K−グルコネートベースのピペット溶液
及びVhold=−40mVを用いて、電圧クランプモードで特性化した。シナプス事象は、
テンプレート検出アルゴリズム(Mini Analysis Program 4.6
.28、Synaptosoft)を用いて検出し、脱活性化相は、Levenberg-Marquardtアルゴリズ
ムを用いて、二重指数関数へ適合させた。データは、平均値±SEとして提示される。
【実施例3】
【0113】
運動ニューロンの産生
脊椎動物における運動ニューロンの産生は、少なくとも3つの工程:外胚葉細胞の神経
誘導、神経外胚葉細胞の尾側化(caudalization)及び尾側化された神経前駆体の腹側化(ve
ntralization)を包含する(Jessell,T.M.,Nat.Rev.Genet.1:20-29,2000)。本発
明者等はまず、脊椎動物神経外胚葉がFGF及び/又は抗BMP(骨形成タンパク質)シ
グナルに応答して発生するという原理(Wilson,S.I.and Edlund,T.,Nat.Neurosci.
4:Suppl.:1161-1168,2001)に基づいて、FGF2の存在下での接着コロニー培養(Zh
ang,S.C.,et al.,Nat.Biotechnol.19:1129-1133,2001)を用いて、hES細胞(
Thomson,J.A.,et al.,Science 282:1145-1147,1998)(H1及びH9系統)から
の効率的な神経神経外胚葉分化のための培養系を樹立した。神経分化の最初の徴候は、E
S細胞を分化のためにフィーダー細胞から取り外した8〜10日後に、コロニーの中心で
ロゼットを形成する円柱状細胞の出現であった。ロゼットにおける円柱状細胞は、神経外
胚葉マーカーであるPax6を発現したが、神経管形成中に神経上皮細胞により発現され
る汎神経外胚葉転写因子であるSoxIを発現しなかったが(Pevny,L.H.,et al.,De
velopment 125:1967-1978,1998)、成長領域における平坦細胞はそうではなかった(
図9A)。同じ培地中でさらに4〜5日間のさらなる培養により、円柱状細胞は、管腔を
伴う神経管様ロゼットへと体系化して(図9B)、Pax6及びSox1の両方を発現し
た(図9C、図9D)。したがって、hES細胞からの神経外胚葉細胞の分化は、少なく
とも2つの特徴的な段階、すなわち神経誘導の8〜10日後の初期ロゼットにおけるPa
x6+/Sox1-円柱状細胞、及び誘導の14日後の神経管様後期ロゼットを形成するP
ax6+/Sox1+細胞を包含する。
【0114】
免疫細胞化学分析は、Pax6(図9E)、Sox1及びネスチンを発現するロゼット
細胞が、前脳及び中脳細胞により発現されるホメオドメインタンパク質であるOtx2に
対して陽性である(図9F、図9H)であるが、脊髄における細胞により生産されるホメ
オドメインタンパク質であるHoxC8に対しては陰性である(図9H)ことを明らかに
した。これらのロゼット細胞は、中脳細胞により発現されるEn1に対しても陰性であっ
た(図9G)。これらの結果は、神経神経外胚葉細胞が、初期のin vivoでの発達
中に神経外胚葉細胞により初期に獲得される前脳表現型に類似した前脳表現型を保有する
ことを示唆する(Stem,D.C.,Nat.Rev.Neurosci.2:92-98,2001)。
【0115】
神経外胚葉細胞から運動ニューロンを分化させるために、神経管様ロゼットにおけるS
ox1+神経外胚葉細胞を、酵素処理(Zhang,S.C.,et al.,Nat.Biotechnol.19:11
29-1133,2001)により単離して、レチノイン酸(RA、0.001〜1μM)、尾側化
試薬(Blumberg,B.,et al.,Development 124:373-379,1997)及びSHH(50〜
500ng/ml)、腹側化モルフォゲン(Jessell,T.M.,Nat.Rev.Genet.1:20-29
,2000;Briscoe,J.and Ericson,J.,Curr.Opin.Neurobiol.11:43-49,2001)の
存在下で、ラミニン基質上で分化させた。平板に播種後14日目までに、成長領域におけ
る多数の細胞が、それらの突起を通じてネットワークを形成した(図10A)。免疫染色
分析により、分化細胞が、ニューロンマーカーであるβIII−チューブリン及びMAP2
に対して陽性であることが示された。それらの大部分(50%を超える)はまた、運動ニ
ューロン発生に関連する転写因子であるIsl 1(図10A)及びLim3(図示せず
)に対しても陽性であった(上述のJessell,T.M.;上述のBriscoe,J.and Eriscon,J
.,2001;Shirasaki,R.and Pfaff,S.L.,Annu.Rev.Neurosci.25:251-281,2002
)。しかしながら、1〜3週間の培養物におけるほんの数少ない細胞が、運動ニューロン
特異的転写因子であるHB9を発現した(Arber,S.,et al.,Neuron 23:659-674,1
999)(図10A)。これらは、Sox1+神経外胚葉が、運動ニューロン誘導に対して不
応性であり得ることを示唆する。
【0116】
Sox1発現細胞は、3週齢のヒト胚に相当する時期での神経管様ロゼットの形成及び
Sox1の発現を仮定すると、神経管における神経外胚葉細胞に相当し得る。神経管にお
ける神経外胚葉細胞は、局所的に特定化される(Lumsden,A.and Krumlauf,R.,Scien
ce 274:1109-1115,1996)。この考慮により、本発明者等に、神経外胚葉細胞がSox
1を発現する前に、RAが尾側化及び/又は運動ニューロン特定化を促進し得るというこ
とを仮定するに至らせた。したがって、本発明者等は、より初期段階で、すなわち円柱状
細胞がロゼットへ体系化し始め、且つPax6を発現した場合に、神経外胚葉細胞をRA
(0.001〜1μM)で処理した。このようにして6日間処理した培養物は、神経管様
ロゼットへと発生して、Sox1を発現し、FGF2処理した培養物と区別できなかった
。ロゼットクラスターを単離して、ラミニン基質へ接着させた後、平板に播種後の24〜
48時間程度と初期に、無数の神経突起(neurites)がクラスターから伸長した。平板に播
種後14日目までに、神経突起成長領域は、カバーガラスをほぼ全体(直径11mm)覆
ったが、成長領域におけるニューロン細胞体の数は限られていた(図10A)。細胞の大
部分が、Isl 1/2に対して陽性であり、それらのうち、約50%はまた、HB9+
であり(図10B)、これらの二重陽性細胞が運動ニューロンであることを示唆した。I
sl 1/2+及びHB9-細胞は、介在ニューロンである可能性が高かった。
【0117】
HB9発現細胞はまず、6日目に出現して、神経ロゼットを分化のために平板に播種後
したおよそ10〜12日後に、高比率に到達した。HB9発現細胞は、主としてクラスタ
ーへと局在化され、クラスターでは総細胞の約21%であり、成長領域では数少ない細胞
が見られた(図10A、図10D)。最も高い比率のHB9+細胞は、0.1〜1.0μ
MのRAの存在下で誘導された。1.0μMを超える用量でのRAは、本発明者等の化学
的に規定される接着培養において、幾つかの細胞に退化(又は変質)をもたらした。RA
又はSHH、或いは両方の非存在下では、ほんわずかなHB9+細胞しか存在しなかった
(図10D)。HB9発現細胞はすべて、βIII−チューブリンで染色された(図10C
)。したがって、初期神経外胚葉に対するRAによる処理は、運動ニューロンの効率的な
誘導に必要とされる。
【0118】
RAが初期神経外胚葉細胞を運動ニューロンへと分化させるが、後期神経外胚葉細胞は
分化させない理由を理解するために、本発明者等はまず、神経外胚葉細胞の尾側化に対す
るRAの影響を検査した。RA(0.001〜1.0μM)又はFGF2(20ng/m
l)による7日間の初期ロゼット細胞(Pax6+/Sox1-)の処理は、用量依存的様
式で、Otx2の発現の減少、並びにHox遺伝子(例えば、Hox B1、B6、C5
及びC8)の発現の増加をもたらした(図11A)。より多くの尾側細胞により発現され
る遺伝子が、より高い用量のRAにより誘導された。RAによる1週間の後期ロゼット細
胞(Pax6+/Sox1+)の処理は、FGF2により誘導されるHox遺伝子発現パタ
ーンを変更させなかった(図示せず)。ニューロン分化培地中で単離及び培養したRA処
理した初期ロゼット細胞は、免疫細胞化学により明らかであるように、まず分化の6日後
に、及び大部分が分化の10〜12日後にHoxC8タンパク質を発現した(図11D)
。この段階の細胞は、Otx2発現を欠如していた(図11C)。HoxC8+細胞はす
べて、βIII−チューブリン+ニューロンであった(図11E)。対比して、RAで1週間
処理した後、2週間分化させた後期ロゼット細胞は、数少ないHoxC8+細胞を生じた
が、Otx2発現細胞は減少した(図示せず)。したがって、RAによる初期神経外胚葉
細胞の処理は、脊髄運動ニューロンに関連するHoxCタンパク質の発現を伴う効率的な
尾側化をもたらすが、RAによる後期神経外胚葉細胞の処理はもたらさない(Liu,J.P.
,et al.,Neuron 32:997-1012,2001)。
【0119】
続いて、本発明者等は、腹側化に関する初期及び後期神経外胚葉細胞に対するSHHの
影響を比較した。hES細胞由来の神経外胚葉細胞は、それらがPax6+であってもS
ox+であっても、脊髄において運動ニューロン及びオリゴデンドロサイトとなる運命に
ある腹側神経前駆体細胞において発現されるホメオドメインタンパク質であるOlig2
を発現しなかった(Lu,Q.R.,et al.,Cell 109:75-86,2002;Zhou,Q.,et al.,
Neuron 31:791-807,2001)(図11F)。Pax6+/Sox-神経外胚葉細胞をRA
の存在下で1週間培養した後、単離して、SHHの非存在下でさらに2週間、さらに分化
させた場合、ほんの数少ない細胞が、Olig2を発現した(図示せず)。しかしながら
、SHH(50〜500ng/ml)の存在下では、多くの細胞が、核においてOlig
2を発現した(図11G)。対比して、同条件下で2週間分化させたPax6+/Sox+
神経外胚葉細胞は、数少ないOlig2発現細胞を産生した(図11H)。したがって、
初期段階でRAにより処理した神経外胚葉細胞は、SHHに応答して、腹側神経前駆体発
生運命へと効率的に誘導させることができるが、後期段階でRAにより処理した神経外胚
葉細胞はできない。
【0120】
FGF2も尾側発生運命を誘導する(図11A)にもかかわらず、運動ニューロン特定
化に初期RA処理が必要とされる理由をさらに認識するために、本発明者等は、脊髄にお
いて前駆体ドメインを精製するのに重要であるクラスI(Irx3、Pax6)及びクラ
スII(Olig2、Nkx2.2、Nkx6.1)分子の発現を検査した(上述のJess
ell,T.M.,2000;上述のBriscoe,J.,and Ericson,J.,2001)。RAは、後期神経外
胚葉細胞よりも初期神経外胚葉細胞において、SHH及びクラスII遺伝子、特にOli
g2及びNkx6.1のかなり活発な(robust)発現を誘導した(図11B)。したがって
、初期神経外胚葉細胞は、運動ニューロン特定化に必須であるSHH及びクラスII因子
の発現をアップレギュレートする際に、RAに対してより応答性である。
【0121】
コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を発現する細胞は、尾側化された神経
外胚葉細胞を運動ニューロン分化のために平板に播種した3週後に出現し、これらの細胞
は、本研究で分析した最長の培養期間である7週間に至るまで着実に増加した(図12A
)。ChAT発現細胞は、主としてクラスターへと局在化され(図12A)、HB9+
胞の局在化に相当する。これらの細胞は、主に多極細胞であり、直径15〜20μmの大
きな細胞体(somas)を有し、幾つかは、30μm程度と大きかった(図12A、図12B
)。核におけるHB9及び体細胞と突起におけるChATの共発現が、培養3週間後に観
察された(図12C)。ニューロンの多くはまた、アセチルコリンの貯蔵及び放出に必須
である小胞アセチルコリン輸送体(VAChT、図12D)に関して陽性に染色された。
多くのChAT+細胞は、特に培養の5週後に、細胞体及び突起上のシナプシンに関して
陽性に標識された(図12E)。
【0122】
本発明者等は、電気生理学的技法を用いて機能的成熟を評価した(n=28個の細胞)
。平均静止電位は、−36.9±2.6mVであり、入力抵抗は、920±57MΩであ
った。単一活動電位(AP、図12Fi)又は減少する過程(図12Fii)は、試験し
た13個のニューロンのうち11個において、脱分極性電流工程(0.15〜0.2nA
×1s)より誘発された。自発的脱分極性シナプス入力により誘発される自発的APも観
察された(図12G)。すべての細胞が、記録、続く免疫組織化学分析を生き残るわけで
はないが、ビオシチン及びChATによる二重免疫染色により、本発明者等が記録した細
胞の多くは、運動ニューロンであることが実証された(図12J)。
【0123】
電圧クランプ分析により、ナトリウム及び遅延整流性カリウム電流と一致した時間及び
電圧依存性内向き並びに外向き電流が示された。内向き電流及び活動電位は、1.0μM
のテトロドトキシン(TTX、n=3)により阻止され、電圧作動型ナトリウムチャネル
の存在を確認した。外向き電流は、さらに特性化されなかった。本発明者等はまた、シナ
プス電流も観察した(図12H、試験した23個の細胞のうちn=21)。これらは、1
.0μMのTTXにより、振動数が減少されたが、排除はされず、機能的に無傷のシナプ
ス神経伝達の存在を実証した。Csグルコネートベースのピペット溶液を用いると、外向
き(阻害性)電流はゆっくりと減衰し(13.6ms、n=10回の事象)、ストリキニ
ーネ及びビククリンの組合せにより阻止されたのに対して、残存する内向き(興奮性)電
流は、迅速に減衰し(2.1ms、n=17回の事象)、D−AP5及びCNQXの組合
せにより阻止され(図12H、図12J)、阻害性(GABA/グリシン)及び興奮性(
グルタメート)神経伝達が、無傷脊髄で見られるのと同様に行われることを実証した(Ga
o,B.X.,et al.,J.Neurophysiol.79:2277-2287,1998)。
【0124】
本発明者等の本研究は、機能的運動ニューロンが、FGF2による神経外胚葉分化、神
経誘導の後期相中のRAによる特定化及び/又は尾側化、並びに腹側化用モルフォゲンS
HHの存在下での有糸分裂後運動ニューロンへの続く分化により、ヒトES細胞から効率
的に産生することができることを実証する。したがって、動物から学んだ神経発達の基本
原理をヒト霊長類へ適用させて、in vitroで反復させ得る。マウスES細胞から
の運動ニューロン分化の最近の実証(Wichterle,H.,et al.,Cell 110:385-397,20
02)と対比して、本発明者等は、神経外胚葉分化のプロセスを細かく調べて、前駆体がS
ox1-発現神経外胚葉細胞となる前に、初期に生み出される突出ニューロン(例えば、
脊髄運動ニューロン)の特定化がモルフォゲンによる処理を必要とすることを発見した。
【0125】
マウスES細胞はまず、神経外胚葉細胞へと導かれた。続いて、神経外胚葉は、ドーパ
ミン作動性ニューロンへの分化に関してはFGF8及びSHH(Barberi,T.,et al.,
Nat.Biotechnol.21:1200-1207,2003;Lee,S.H.,et al.,Nat.Biotechnol.18:6
75-679,2000)又は運動ニューロン分化に関してはRA及びSHH(上述のWichterle,H
.,et al.,2002)のようなモルフォゲンで処理する。これらの観察は、ニューロンが神
経管における上皮から特定化されるという概念に適合するようである。本発明者等の本観
察により、前脳表現型も保有するhES由来のSox1発現神経外胚葉細胞は、脊髄運動
ニューロンを産生するのに不応性であることが示される。本発明者等の培養系においてh
ES細胞から産生されるSox1発現細胞は、それらが神経管様構造を形成し、且つ6日
齢のヒト胚に相当するhES細胞からの分化の2週後に、Sox1を発現するため、神経
管におけるものと類似している(Zhang,S.C.,J.Hematother.Stem Cell Res.12:6
25-634,2003)。in vivoでは、神経管は、ヒト妊娠の第3週目の最後に形成され
(Wood,H.B.and Episkopou,V.,Mech.Dev.86:197-201,1999)、Sox1は、動
物において神経管の形成中に神経外胚葉により発現される(Pevny,L.H.,et al.,Deve
lopment 125:1967-1978,1998;上述のWood,H.B.and Episkopou,V.,1999)。本発
明者等の見解は、幹細胞がSox1−発現神経外胚葉細胞となる前に、ニューロンの種類
、すなわち少なくとも大きな突出ニューロン(例えば、運動ニューロン)の特定化が開始
することを示唆し、したがって脳由来の神経上皮細胞が、異なる局所的アイデンティティ
ーの突出ニューロンを産生することができない理由を説明し得る。
【0126】
hES細胞の再生可能な供給源からの機能的運動ニューロンは、ALSのような運動ニ
ューロン関連障害を治療するように設計される医薬品をスクリーニングするための包括的
なヒト運動ニューロンを提供する。これらの細胞はまた、運動ニューロンに対する実験的
細胞代替物のための有用な供給源を提供し、将来、運動ニューロン疾患又は脊髄障害を伴
う患者における適用を導き得る。
【0127】
方法
ES細胞の培養及び神経分化
ヒトES細胞(系統H1及びH9、継代19〜42)を、記載されるように(上述のTh
omson,J.A.,et al.,1998)、照射した胚マウス線維芽細胞のフィーダー層上で週に1
度継代培養した。未分化状態のES細胞は、典型的な形態並びにOct4及びSSEA4
の発現により確認された。神経外胚葉は分化に関して、hES細胞を4日間凝集させた後
、N2、ヘパリン(2ng/ml)及びFGF2(20ng/ml)又はRAを補充した
F12/DMEM中で10日間、接着性プラスチック表面上で培養した(上述のZhang,S
.C.,et al.,2001)。
【0128】
運動ニューロン誘導に関して、モルフォゲン処理した神経外胚葉細胞を、Neurob
asal培地(Gibco)、N2サプリメント及びcAMP(Sigma、IgM)から構成され
るニューロン分化培地中のオルニチン/ラミニンコーティングしたカバーガラス上へ、R
A(0.1μM)及びSHH(10〜500ng/ml、R&D)の存在下で1週間平板培
養した。その後、BDNF、GDNF及びインスリン様成長因子−1(IGF1)(10
ng/ml、PeproTech Inc.)を培地に添加して、SHHの濃度を50ng/mlへ低
減させた。
【0129】
免疫細胞化学及び顕微鏡法(上述のZhang,S.C.,et al.,2001)
この研究で使用される一次抗体としては、ニューロンクラスIIIβ−チューブリンに
対するポリクローナル抗体(Convance Research Products,Richmond,CA、1:2,0
00)、ネスチン(Chemicon,Temecula,CA、1:750)、Sox1(Chemicon、1:
1000)、シナプシンI(Calbiochem,Darmstadt,German、1:500)、ChAT
(Chemicon、1:50)及びVAChT(Chemicon、1:1000)、Isll/2(S
.Pfaff)、Otx2(F.Vaccarino)及びOlig2(M.Nakafuku)が挙げられる。M
NR2又はHB9(81.5C10)、Islet1(40.2D6)、Lim3(67
.4E12)、Pax6及びNkx2.2に対する抗体は、Developmental Studies Hy
bridoma Bank(DSHB、Iowa City,IA)から購入し、抗HoxC8は、Convance R
esearch Products(1:200)から購入した。電気生理学的に記録される細胞の識別
のために、ビオシチン(Molecular Probes)充填細胞を、ストレプトアビジン−FIT
C(Sigma、1:200)で標識して、ChATで染色した。画像は、Nikon蛍光顕
微鏡600(FRYER INC,Huntley,IL)又は共焦点顕微鏡(Nikon,Tokyo,Japan)上へ
取り付けたSpotディジタルカメラを使用して収集した。本来は非霊長類組織に対して
開発された運動ニューロン転写因子及びホメオドメインタンパク質に対する抗体の特異性
を、胎性(E34又はE36)アカゲザル脊髄及び脳組織(Wisconsin Primate Resear
ch Centerにより提供)において確証された。
【0130】
定量化
総分化細胞のうちのHB9発現細胞の集団(ヘキスト標識した)は、Methamor
phソフトウェア(Universal Imaging Corporation,Downingtown,PA)を用いて手動
により、或いは立体解析学的測定により、実験群を知らされていない人物により計数され
た。測定されるべき面積は、トレーサーにより輪郭が描かれ、Stereo Inves
tigatorソフトウェア(MicroBrightField Inc,Williston,VT)により作動され
る自動段階移動(automated stage movement)を用いて、スコープが無作為に測定部位を
サンプリングするように、計数用フレームの数を予め設定した。重複細胞を伴う計数領域
に関しては、顕微鏡は、異なる層における陽性細胞上で上下に移動して焦点を合わせるよ
うに予め設定され、クラスターにおける総細胞数は、ソフトウェアにより推定された。各
群における3〜4個のカバーガラスを計数し、データは、平均値±SDとして表した。
【0131】
RT−PCRアッセイ
RT−PCR増幅は、異なる段階でのhES細胞由来の神経外胚葉細胞及び運動ニュー
ロン分化培養物から実施した。
【化2】

【0132】
電気生理学的記録
hES細胞由来の運動ニューロンの電気生理学的特性は、全細胞パッチ−クランプ記録
技法(Gao,B.X.,et al.,J.Neurophysiol.79:2277-2287,1998)を用いて、5〜6
週間分化させた培養物において研究した。テトロドトキシン(TTX、1μM、Sigma)
、ビククリン(20μM、Sigma)、ストリキニーネ(5μM、Sigma)、D−2−アミノ
−5−ホスホノ吉草酸(AP−5、40μM、Sigma)又は6−シアノ−7−ニトロキノ
キサリン−2,3−ジオン(CNQX、20μM、RBI,Natick,MA)をバス溶液に適用
させて、電圧作動型又はシナプス電流のアイデンティティーを確認した。幾つかの実験に
関して、1%ビオシチンを記録溶液に添加した。電流及び電圧クランプ記録は、Mult
iClamp 700A増幅器(Axon Instruments,Union City,CA)を用いて実施し
た。シグナルは、4kHzでフィルタリングして、Digidata 1322Aアナロ
グ−ディジタル変換器(Axon Instruments)を用いて10kHzでサンプリングして、
市販のソフトウェア(pClamp9、Axon Instruments)を用いて、コンピュータハ
ードディスクに蓄積及び格納された。アクセス抵抗は通常、8〜15MΩであり、増幅器
回路を用いて50〜80%相殺した。自発的シナプス電流は、テンプレート検出アルゴリ
ズム(Mini Analysis Program 5.6.28、Synaptosoft,Dec
atur,GA)を用いて検出し、Levenberg-Marquardtアルゴリズムを用いて、単一指数関数
へ適合させた。結果は、平均値±SEとして提示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経管様ロゼット形態を特徴とするPax6+/Sox1+同調神経幹細胞の集団を創出
する方法であって、
初期ロゼット形態のSox1-,Pax6+細胞を、FGF2、FGF8又はRAの存在
下で4〜6日間培養する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記培養が4〜6日間である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項4】
前記細胞が、FGF8を用いて培養されたEN1+である請求項3に記載の細胞。
【請求項5】
前記細胞が、FGF2を用いて培養されたBf1+である請求項3に記載の細胞。
【請求項6】
前記細胞が、RAを用いて培養されたHox+である、請求項3に記載の細胞。
【請求項7】
請求項4に記載の細胞をFGF8の存在下にSHHへ培養する工程を含む、中脳ドーパ
ミンニューロンの集団を創出する方法であって、
得られた細胞が、TH、AADC、EN−1、VMAT2及びDATを発現するが、D
bH及びPNMTを発現せず、そして、前記細胞が、ドーパミンを生産することを特徴と
する方法。
【請求項8】
SHHへの前記培養が6〜7日間である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項10】
SHHを用いて請求項6に記載の細胞を培養する工程を含む、脊髄運動ニューロンの
集団を単離する方法であって、
得られた細胞が、HB9、HoxB1、HoxB6、HoxC5、HoxC8、ChA
T及びVAChTを発現し、且つアセチルコリンを生産することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記細胞を6〜7日間前記SHHへ接触させる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項13】
SHHを用いて請求項5に記載の細胞を培養する工程を含む、前脳ドーパミンニュー
ロンの集団を創出する方法であって、
得られた細胞が、TH、AADC、Bf1、Otx2を発現するが、DBH及びPNM
Tを発現せず、そして、前記細胞が、ドーパミンを生産することを特徴とする方法。
【請求項14】
前記細胞を6〜7日間前記SHHへ接触させる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法により創出される細胞の集団。
【請求項16】
神経細胞発生を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、
前記試験化合物を請求項9に記載の細胞へ接触させる工程と、前記試験化合物に接触
していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程と、を含むことを特徴と
する方法。
【請求項17】
神経細胞発達を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、
前記試験化合物を請求項12に記載の細胞へ接触させる工程と、前記試験化合物に接触
していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程と、を含むことを特徴と
する方法。
【請求項18】
神経細胞発達を攪乱させる能力に関して試験化合物を検査する方法であって、
前記試験化合物を請求項15に記載の細胞へ接触させる工程と、前記試験化合物に接触
していない細胞の対照集団を比較して接触の結果を検査する工程と、を含むことを特徴と
する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−162024(P2010−162024A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17013(P2010−17013)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【分割の表示】特願2006−524872(P2006−524872)の分割
【原出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ フオンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】