説明

露点計及び露点測定方法

【課題】 構成の簡素化と小型化を可能にするとともに、測定精度の向上を図ることが可能な露点計を提供する。
【解決手段】 球形基材11と、弾性表面波が周回可能に伝搬できるように球形基材11の表面に形成した伝搬路12を有し、伝搬路12の表面温度を設定温度から降下方向に制御するとともに設定温度の降下制御に伴い変化する伝搬路12の伝搬速度と前記降下温度を基に弾性表面波の伝搬速度が一定の割合で上昇方向に変化する状態から低下方向に急速に反転した時に伝搬路12に被測定気体12が結露したことを制御解析及び表示部19で判定し、結露したと判定した時の弾性表面波の伝搬速度と設定温度及び一定の割合で上昇方向に変化する時の伝搬速度の変化値を基に制御解析及び表示部19で被測定気体の露点を算出するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水やアルコール等の気体の露点を検出する露点計及び露点測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、気体中に含まれる水蒸気等の溶存ガスが液化する温度を、その気体の露点と呼ぶ。露点は気体中に含まれる溶存ガスの量によって変化する。主成分の気体に比較して溶存ガスの露点が低い場合、温度を下げると、気体として存在していた溶存ガスが固体表面で液化する。露点は、気体中に含まれる溶存ガスの量を示す指標としても用いられている。
このような露点を計測する露点計の従来技術としては、様々なものがある。そのうちの一つとして、例えば、レーザ光を用いた光学式の露点計がある。これは、レーザ光源から発せられたレーザを、鏡により反射させた後の反射レーザを受光して、レーザの強度を測定する構成になっている。このような構成の露点計では、露点に達すると鏡の表面に溶存ガスが結露し、レーザ光を散乱するために、受光されるレーザの強度が低下する。これにより、この時点における温度を露点と判定することができる。
【0003】
また、従来においては、例えば非特許文献1に示すように、弾性表面波を利用した露点計も利用されている。ここで、弾性表面波とは、固体表面上を表面付近にエネルギーを集中した形で伝搬する音波のことをいう。このような弾性表面波のエネルギーが露によって散乱吸収される。
【0004】
以下、図6により弾性表面波を利用した露点計について説明する。
この種の露点計50は、図6に示すように、基材51の一端側表面に、一方の電極が高周波電源52に接続され、他方の電極が接地された一対の電極を対向させてなるすだれ状電極54を設け、基材51の一端側表面に、一方の電極が高周波電源58に接続され、他方の電極が接地された一対の電極を対向させてなるすだれ状電極60を設け、すだれ状電極54から発生させた弾性表面波Wを直線状の伝搬路56に沿って伝搬させ、この伝搬路56の伝搬端に位置するすだれ状電極60において弾性表面波Wの強度を測定する構成になっている。そして、計測対象である溶存ガスが露点に達して伝搬路56に結露すると、伝搬路56に沿って伝搬する弾性表面波Wのエネルギーが、この露によって吸収され、すだれ状電極60によって測定され信号出力強度が低下する。これにより、この時点における温度を露点と判定することができる。
このような弾性表面波を利用した露点計50では、光学式の露点計が検出可能な量よりも1/10以下の結露であっても検出することができる。したがって、光学式の露点計よりも、結露の検出に対する応答時間が短く、かつより優れた測定精度(±0.1℃)を実現することができる。
【非特許文献1】ヴァイサラ株式会社 SAW露点計 DM500 カタログ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザ光などを鏡面部分に反射させてその強度を測定することで結露を検出する方法では、例えば光の行路や鏡面の大きさを小さくすることが難しく、露点計の小型化が困難である。また、鏡面の高精度の温度計測が高精度化に重要であるが、鏡面の温度を正確に計測する際に温度計の熱容量に起因する誤差によって高精度の露点計測は望めない。
【0006】
また、従来の弾性表面波を利用した露点計では、以下のような問題がある。
すなわち、弾性表面波を利用した露点計50は、すだれ状電極54のような弾性表面波Wを発生させる部位と、すだれ状電極60のような弾性表面波Wを検出する部位との両方を備えねばならない。しかも、弾性表面波が基材51の端面で反射され雑音として検出されないように吸収体を設ける必要もある。このため、露点計が大型になるという問題がある。
また、±0.1℃程度の測定精度を実現するためには、ある程度の伝搬路56の長さが必要となる。このように伝搬路56の直線距離を確保する必要性から、伝搬に要する時間が温度依存性を持つことを利用して温度測定を行う場合にも、露点計50のサイズを小型化することに限界がある。
さらに、露点計測においては、±0.1℃程度よりも厳しい測定精度が要求される場合もあり、このような場合には使用することができない。また、露点計の大型化は、昇温と降温により大きなエネルギーを必要とする問題がある。
【0007】
一方、球状弾性表面波素子と呼ばれる弾性表面波素子において、その弾性表面波周回経路上に結露が生じた場合には、その結露が弾性表面波の伝搬を阻害する。また、周回経路上に結露が生じた場合には、その結露が質量負荷効果によって、弾性表面波の伝搬速度を急激に低下させる現象が起こる。
また、露点を測定する際に重要となる弾性表面波素子の表面温度は弾性表面波の周回速度が温度依存性を持っていることから、この周回速度から弾性表面波を測定することが可能になる。しかしながら、上記の方法においては、弾性表面波の出力が低下(周回する弾性表面波の強度低下)する過程で、その表面温度を周回速度から算出することが、その信号の強度の急激な減少により困難になる。また、周回速度から周回経路表面の温度測定を行うに際し、温度低下過程において周回速度は低下するが、露点に達すると質量負荷効果による周回速度効果が重畳され、測定精度を上げるには周回速度の低下の速度変化を測定する必要がある。しかし、周回速度低下の変化率の測定は解析的に難しくなる場合がある。
【0008】
特に、従来のATカット水晶を用いたQCMや、平面型のSAW(弾性表面波)デバイスのように共振周波数を追跡し、共振周波数が伝搬速度に反比例することから、デバイス表面への結露を検出する方法を採用した場合、振動面の振動強度の観測を行うための回路は通常作られていない。そのために、強度の減少を持って結露の判定を行うことは通常困難であり、周回速度の計測や位相計測あるいは共振周波数の計測で振動部位の温度を測定するとともに結露を判定することが望まれている。しかし、前述したように、それは結露を原因とする質量負荷効果に基づく伝搬速度の低下と温度変化による伝搬速度の低下が重畳されることによってそれらを独立に判断できなくなり、正確な露点測定ができないという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、構成の簡素化と小型化を可能にするとともに、露点の測定精度を向上できる露点計及び露点測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明の露点計は、弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ上昇方向に変化する温度依存性を有する基材と、弾性表面波が周回伝搬できるように前記基材の表面に形成された伝搬路と、前記伝搬路上に弾性表面波を励起するとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波を検出する励起兼用検出素子と、前記励起兼用検出素子に電気信号を供給して前記伝搬路に周回可能な弾性表面波を励起させる励起信号発生手段と、少なくとも前記伝搬路の表面温度を降下させ前記伝搬路に前記基材の周囲に存在する被測定気体を結露させる温度制御手段と、前記温度制御手段により前記伝搬路の表面温度を降下させる過程で弾性表面波の伝搬速度が上昇方向に変化する状態から低下方向に反転した時に前記伝搬路に前記被測定気体が結露したと判定する判定手段と、前記判定手段が結露したと判定した時の前記伝搬路の温度を基に前記被測定気体の露点を算出する演算手段とを備えること。
【0011】
また、本発明の露点計は、弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ上昇方向に変化する温度依存性を有する基材と、弾性表面波が周回伝搬できるように前記基材の表面に形成された伝搬路と、前記伝搬路上に弾性表面波を励起するとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波を検出する励起兼用検出素子と、前記励起兼用検出素子に電気信号を供給して前記伝搬路に周回可能な弾性表面波を励起させる励起信号発生手段と、少なくとも前記伝搬路の表面温度を上昇させ前記伝搬路に結露した被測定気体を気化させる温度制御手段と、前記温度制御手段により前記伝搬路の表面温度を上昇させる過程で前記弾性表面波の伝搬速度が低下方向に変化する状態から上昇方向に反転した時に前記伝搬路に前記被測定気体が気化したと判定する判定手段と、前記判定手段が気化したと判定した時の前記伝搬路の温度を基に前記被測定気体の露点を算出する演算手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の露点計は、弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ一定の関数に従って上昇方向に変化する温度依存性を有する基材と、弾性表面波が周回伝搬できるように前記基材の表面に形成された伝搬路と、前記伝搬路上に弾性表面波を励起するとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波を検出する励起兼用検出素子と、前記励起兼用検出素子に電気信号を供給して前記伝搬路に周回可能な弾性表面波を励起させる励起信号発生手段と、少なくとも前記伝搬路の表面温度を降下させ前記伝搬路に前記基材の周囲に存在する被測定気体を結露させる温度制御手段と、前記温度制御手段により前記伝搬路の表面温度を降下方向に制御するとともに温度の降下制御に伴い変化する前記伝搬路の伝搬速度と降下温度を基に弾性表面波の伝搬速度が一定の関数に従って上昇方向に変化する状態から低下方向に反転した時に前記伝搬路に前記被測定気体が結露したと判定する判定手段と、前記判定手段が結露したと判定した時の弾性表面波の伝搬速度と降下温度及び前記一定の関数に従って上昇方向に変化する時の前記伝搬速度の変化値を基に前記被測定気体の露点を算出する演算手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の露点計は、弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ一定の関数に従って上昇方向に変化する温度依存性を有する基材と、弾性表面波が周回伝搬できるように前記基材の表面に形成された伝搬路と、前記伝搬路上に弾性表面波を励起するとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波を検出する励起兼用検出素子と、前記励起兼用検出素子に電気信号を供給して前記伝搬路に周回可能な弾性表面波を励起させる励起信号発生手段と、少なくとも前記伝搬路の表面温度を上昇させ前記伝搬路に結露した被測定気体を気化させる温度制御手段と、前記温度制御手段により前記伝搬路の表面温度を上昇方向に制御するとともに温度の上昇制御に伴い変化する前記伝搬路の伝搬速度と上昇温度を基に弾性表面波の伝搬速度が一定の関数に従って低下方向に変化する状態から上昇方向に反転した時に前記伝搬路に前記被測定気体が気化したと判定する判定手段と、前記判定手段が結露したと判定した時の弾性表面波の伝搬速度と降下温度及び前記一定の関数に従って低下方向に変化する時の前記伝搬速度の変化値を基に前記被測定気体の露点を算出する演算手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の露点測定方法は、弾性表面波の周回速度が温度の降下につれ一定の割合で上昇方向に変化する球状の弾性表面波伝搬面を有する球状弾性表面波素子の弾性表面波の伝搬路の表面温度を制御するとともに、温度が上昇あるいは降下する過程において、弾性表面波の伝搬速度が極大となる時に前記伝搬路に被測定気体が結露あるいは気化したと判定し、前記結露あるいは気化したと判定した時の弾性表面波の伝搬速度と温度及び前記一定の割合で上昇方向に変化する時の前記伝搬速度の変化値を基に前記被測定気体の露点を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の露点計及び露点測定方法によれば、弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ一定の割合で上昇方向に変化する伝搬速度が温度依存性を持つ基材を用い、これにより、結露したと判定した時の弾性表面波の伝搬速度と前記設定温度及び前記一定の割合で上昇方向に変化する時の前記伝搬速度の変化値を基に前記被測定気体の露点を算出するようにしたので、露点測定の演算回路を簡素化できるとともにサイズの小型化と露点の測定精度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明にかかる露点計及び露点測定方法の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明にかかる露点計及び露点測定方法は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
なお、本発明における球形とは、完全な球である必要は必ずしもなく、例えば球状弾性表面波素子を構成し得る、つまり最大外周円を少なくとも含む帯状の伝搬路の領域が球形の一部をなしていれば、それ以外の領域がカットされた、例えば樽型であってもよい(赤道を最大外周円とした両極がカットされた状態)。
【0017】
(実施の形態1)
図1は本発明の露点測定方法を用いた露点計の実施の形態を示す概念図である。
本実施の形態に示す露点計は、図1に示すように、球形を呈する基材11を備え、この球形基材10はニオブ酸リチウム単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶から構成されている。このような球形基材10は、弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ一定の割合で上昇方向に変化するとともに結露する温度で前記伝搬速度が低下方向に反転する特性を有している。
球形基材11の中心を通る軸線と直角な面に対応する球形基材11の外周面には、弾性表面波が伝搬される伝搬路12がエンドレスに形成されている。なお、本実施の形態に使用される球形基材10の直径は、例えば1mmである。
【0018】
図1で使用している球状弾性表面波の基材は完全な球形であるが、球形基材の上下を切断した形状(樽型形状)でも良い。弾性表面波の周回する領域が球形をなしていれば弾性表面波は円環状領域以外の領域にエネルギーを漏洩せず、また散乱されずに伝搬する。球形状の素子ではなく樽型形状あるいは円環状領域以外の一面などをカットすることは、基材の体積を減らし温度の制御に大きなエネルギーを必要としなくなる利点を有している。また、球状弾性表面波素子は、このように伝搬路が赤道(最大外周線)を含む領域であれば、弾性表面波は多重周回しその表面の結露あるいはその気化を高精度に検出することが可能である。
【0019】
伝搬路12上に位置する球形基材11の表面箇所には、図1に示すように、すだれ状電極13が配設されている。このすだれ状電極13は、図2に示すような、櫛形形状をした一対の電極13a,13bで構成される。そして、一方の電極13aが高周波バースト信号発生部14に接続され、他方の電極13bが接地されている。
また、電極13a及び電極13bは、クロムと金を例えば3000×10−8cmの厚さに蒸着した後に、フォトリソグラフィー手法に従ってレジストをパターニングし、しかる後にエッチングを施すことによって形成される。この電極13a及び電極13bを形成している電極片13a1,13a2,13a3及び電極片13b1,13b2,13b3のうち、隣接する電極片のピッチPは一定で、例えば21μmである。また、電極13aの電極片と、電極13bの電極片との長さ方向のオーバラップ寸法Hは、伝搬路の球形半径,超音波の波長によって最適な寸法の範囲がある。最適な寸法についてあるいはその形状の設計方法については既に公知であり、これ以上の説明を要しない。この例では、1.2mmである。
【0020】
すだれ状電極13の電極13aと13bとの間に高周波バースト信号発生部14から発生する、周波数が150MHzで継続時間0.1マイクロ秒のバースト信号が印加されると、球状基材11の表面が励起されて30μm程度の波長の弾性表面波が発生し、この弾性表面波は伝搬路12に沿って帯状に多重周回する。また、このすだれ状電極13は、このように周回した弾性表面波に伴う電界を検出する検出手段も兼ねている。したがって、この電界を検出すると、検出した電界の強度に応じた電気信号がデジタルオシロスコープ15に出力される。ここで、弾性表面波とは、境界波、回廊波、内郭を周回する表面波、弾性表面波、漏洩弾性表面波、擬似弾性表面波、擬似漏洩弾性表面波等、球形表面にエネルギーを集中させて伝搬する弾性波をいう。
【0021】
また、本実施の形態における露点計は、図1に示すように、熱伝導板16を備え、この熱伝導板16には球形基材11の下部形状に合わせた凹部16aが形成され、この凹部16aに銀ペーストによって球形基材11の下部が接着され固定されている。さらに、熱伝導板16の下部には、伝搬路12の温度を制御するためのペルチェ素子17が配設されている。このペルチェ素子17は、温度制御部18から供給される電流の方向及びその値に応じて温度が増減する周知の素子である。また、熱伝導板16は、表面をクロムめっきした銅材によって構成され、ペルチェ素子17の熱を効率良く球形基材11に伝達する。このような構成とすることによって、伝搬路12の温度を制御できる。
なお、伝搬路12を昇温する場合、このようなペルチェ素子17を用いて行うのみならず、弾性表面波が伝搬路12に沿って周回する際に、伝搬路12に吸収される弾性表面波のエネルギーによって、伝搬路12の表面を加熱することで行っても良い。また、球形基材1は、その直径を1mm程度の小さな球とすることができるので、昇温、降温の何れの場合であっても、小さな電力によって実現可能である。
【0022】
デジタルオシロスコープ15は、すだれ状電極13で検出された電気信号を表示するとともに、その表示結果を制御解析及び表示部19に出力する。弾性表面波は、伝搬路12に沿って帯状に多重周回し、周回する毎にすだれ状電極13によって検出され、その検出信号はデジタルオシロスコープ15を通して制御解析及び表示部19に出力される。例えば、直径が1mmの球形基材11の場合、弾性表面波が伝搬路12を1周するのに要する時間は約1μ秒である。したがって、例えば図3及び図4に示すように、デジタルオシロスコープ15からは、1μ秒毎に弾性表面波がすだれ状電極13を通過する度にバースト状の電気信号が出力される。
ここで、図1に示す球形基材11に対して、その左側から右側方向に被測定気体20が供給されている場合、伝搬路12の温度が被測定気体20の露点よりも高く、伝搬路12の表面に結露しない場合に得られる電圧の発生パターンは図3に示すようになる。また、伝搬路12の温度が被測定気体20の露点以下であり、伝搬路12の表面に被測定気体20が結露している場合に得られる電圧の発生パターンは図4に示すようになる。なお、図3はペルチェ素子の制御温度を32℃に設定した時の電圧強度の時間変化を表したものであり、図4はペルチェ素子の制御温度を30℃に設定した時の電圧強度の時間変化を表したものである。
【0023】
図3では、弾性表面波が球形基材11の周囲を1周回する毎に電圧強度が約10%ずつ減衰している。この減衰は、主に球形基材11へ弾性表面波のエネルギーが漏出する効果や、弾性表面波のエネルギーが伝搬路12において熱に変換される効果や、すだれ状電極13において僅かに反射されることによって、見かけの振幅が小さくなる効果等によるものである。これらの効果によって、弾性表面波を基に検出される電圧は、1周回毎に、更に1回前の周回時よりも約10%ずつ減衰する。
一方、図4においても、弾性表面波が球形基材11の周囲を弾性表面波が1周回する毎にその電圧強度が減衰しているが、減衰の割合が図3に示す場合よりも大きく、弾性表面波を基に検出される電圧は、さらに1周回毎に、1回前の周回時よりも20%以上減衰する。このため、図4に示す例では、5周目以降は電圧が検出されなくなっている。このように周回毎に弾性表面波の電圧強度が大きく減衰するのは、伝搬路12の表面に被測定気体20が結露し、被測定気体20の液滴によって、弾性表面波が散乱あるいは吸収されるためである。
【0024】
したがって、被測定気体12の露点を計測する場合、始めに図3に示すような周回毎に約10%程度ずつ減衰する電圧強度パターンが得られていた状態、つまり露点より高い温度から、温度制御部18によりペルチェ素子17を冷却することによって伝搬路12の表面温度を徐々に下げて行き、そして、図4に示すように周回毎に電圧強度が50%以上減衰するようになった時点における伝搬路12の表面温度を測定すれば、その値が露点となる。しかしながら、伝搬路12を33℃から徐々に冷却して行き、一旦露点になってしまうと、電圧強度が急激に低下してしまう。
【0025】
図5は、本実施の形態における伝搬路の温度に対する電圧強度及び弾性表面波の伝搬速度変化を表した特性図である。この図5において、横軸に伝搬路12の温度を、左縦軸にデジタルオシロスコープ15に表示される電圧強度を、右縦軸に弾性表面波の伝搬速度変化をそれぞれ示している。
図5において、伝搬路12の温度をペルチェ素子17と温度制御部18により28℃から徐々に冷却して行き、伝搬路12の温度が一旦露点になってしまうと、その電圧強度は実線で示す曲線Aのように急激に低下する。これに対して、球形基材11をニオブ酸リチウム単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶から構成した場合、弾性表面波の伝搬速度は図5の破線に示す曲線Bのようになる。すなわち、弾性表面波の伝搬速度は設定温度28℃から徐々に降下につれ一定の割合で上昇方向に変化する特性を持つ。このように本実施の形態に示す球形基材11の場合、温度が低下すると伝搬速度は速くなるという、所謂、温度に対して伝搬速度が負の特性を持っているために右上がりの数値となる。
【0026】
ここで、設定温度28℃の位相を0として、その位相変化を多重周回した後のある周回数における遅延時間の変化に直し(遅延時間の変化=位相変化/360deg×周期)、その変化量をppm単位で表示している。また、伝搬路12を周回する弾性表面波の伝搬速度の低下は、伝搬路12上に結露あるいは霜が生成されることによる質量負荷効果によるものである。ニオブ酸リチウム単結晶からなる球形基材11の場合、その弾性表面波の伝搬速度は、本来温度が低下すると80ppm/℃の割合で速くなることが判明している。このような周回速度の温度依存性は10mm直径の球状弾性表面波素子を作成して、例えば50周するために必要な時間(420マイクロ秒)の変化を異なる温度で測定することで得られたものである。
【0027】
つまり、温度低下に伴って、結露していない状態の本球状弾性表面波素子を周回する弾性表面波が周回に伴い出力する電子信号の伝搬速度は大きくなる。(所定の周回に要する時間:遅延時間は短くなる。)
一方、一旦結露が発生すると、結露によって伝搬面上に形成される水分子の凝集、液化、あるいはその固体化は弾性表面波の伝搬速度をその質量負荷効果に従い小さくする効果(遅延時間が長くなる)をもたらす。
よって、一方向に弾性表面波素子の伝搬面の温度を一方向に単調増加あるいは単調減少方向に変わる際に必ず極大を持つことになる。弾性表面波素子を伝搬する弾性表面波の周回速度が温度低下に伴って小さくなる基材の場合(たとえば水晶結晶球のZ軸シリンダー周回経路)は、基材本来の温度依存性による周回速度の低下と、結露による周回速度の低下が同じ符号を持つために極大を持たず、結果として計測は傾きの微分係数を求めるような複雑な解析を行う必要がある。
しかるに、結露の発生を弾性表面波素子を周回する弾性表面波の伝搬速度変化によって観測する場合、その極大を求めることは解析上非常に容易である。つまり、遅延時間のミニマムサーチを行えばよく演算回路が簡単ですむ利点を有する。特にニオブ酸リチウム(LiNbO3)あるいはタンタル酸リチウム(LiTaO3)は球状弾性表面波素子をその表面に形成する際に、伝搬速度の温度依存性がそれぞれ80ppm/度、及び52ppm/度であって比較的大きく温度計測が容易で、かつ質量負荷効果を受けやすい材料であって、極大をよく得ることができる。
【0028】
このように温度に対して伝搬速度が負の特性をもつ場合、温度低下とともに伝搬速度が最大になる位置の伝搬速度の値は容易に求めることができる。
図5に示す場合、82ppm変化した時点で観測される信号の位相はそれまでの直線的な変化から下降し始めており、82ppmの時点で球形基材11の伝搬路12上に結露が始まったことを判断できる。また、最大となる伝搬速度の値は、弾性表面波が周回する伝搬路12の温度依存性の大きさと、結露する量と質量負荷効果の積によって特徴づけられ、結晶基材の物性に従って最大となる伝搬速度から温度を算出する換算方法について工夫を行えば、より正確に結露する温度が伝搬速度のカーブから算出できる。
【0029】
すなわち、本実施の形態では、制御解析及び表示部19において、温度制御部18により伝搬路12の表面温度を設定温度28℃から降下方向に制御するのに伴い変化する伝搬路12の伝搬速度と前記降下温度に基づいて弾性表面波の伝搬速度が一定の割合で上昇方向に変化し、その伝搬速度が最大となる図5の曲線Bの点Pから低下方向に急激に反転した時に伝搬路12に被測定気体20が結露したと判定し、さらに、この結露したと判定した時点の弾性表面波の伝搬速度(82ppm)と前記設定温度(28℃)及び前記一定の割合で上昇方向に変化する時の伝搬速度の変化値(80ppm/℃)を基に被測定気体20の露点を次式から算出することができる。ここで、制御解析及び表示部19は、特許請求の範囲に記載した判定手段と演算手段の各機能を備えている。
露点=28℃−82ppm/80ppm=26.975℃
【0030】
このような本実施の形態によれば、弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ一定の割合で上昇方向に変化し、その伝搬速度が最大(82ppm)となる点Pから低下方向に急激に反転する(伝搬速度が負の特性を持つ)球形基材11を用い、かつ制御解析及び表示部19において上記計算式から被測定気体20の露点を算出するようにしたので、露点になった時点における温度を弾性表面波の伝搬速度を用いて換算することができ、これにより、露点をより高精度に求めることができるほか、電圧の強度情報を用いることなく露点計測が可能になるため、測定演算回路を簡素化できる。さらに、構成の簡素化と小型化も可能になるという効果がある。
【0031】
また、図5の曲線Bに示す点Pの読み取り数値は、厳密には実際の温度と乖離しているが、点Pの領域近傍をより詳しく数学的に解析したり、あるいは温度変化の速度の違いによって補正値が準備された校正用テーブルを用いれば、より正確な温度(露点)を求めることができる。
【0032】
また、上記の実施の形態では、時間的に限られたバースト信号を球状弾性表面波素子に印加して弾性表面波を励起する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、一般に良く知られる弾性波素子を使用した共振回路(たとえばQCM、あるいは平面型のSAW共振回路)を使用してデバイスの周波数特性の変化を追う方法で、素子表面を伝搬する弾性表面波の伝搬速度の変化を正確に測定することができる。つまり、遅延時間の変化率から温度と露点検出を行ったが、遅延時間の変化率は、周回速度の変化率や共振周波数の変化率に等しいことから、例えば球状弾性表面波素子の円周長が波長の整数倍の状態を共振状態を実現する周波数を追尾する計測方法を用いる場合でも露点の観察ができることは明らかであり、この場合も強度測定を行う必要がない。
また、共振回路の構成についてはATカットを用いたQCMによる表面分析方法として一般によく知られているので、ここでは詳しい説明は省略するが、共振周波数を用いて温度を計測できることは明らかである。この場合、バースト信号を用いた方法に比較して減衰量を検出する感度は低くなるが、温度計測は比較的簡単で、回路自体が安価にできる利点を有しており、本発明はこのような共振回路を形成してそのエネルギー吸収を計測して結露を判断する方法を除外するものではない。
また、本発明は、上記実施の形態に示す構成のものに限らず、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範疇において、各種の変更及び修正をすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の露点測定方法を用いた露点計の実施の形態を示す概念図である。
【図2】本実施の形態におけるすだれ状電極の構成例を示す平面図である。
【図3】本実施の形態において露点よりも高い温度の時のデジタルオシロスコープに表示される電圧強度の時間変化例を示す図である。
【図4】本実施の形態において温度が露点の時のデジタルオシロスコープに表示される電圧強度の時間変化例を示す図である。
【図5】本実施の形態における伝搬路の温度に対する電圧強度及び弾性表面波の伝搬速度変化をそれぞれ示す特性図である。
【図6】従来における弾性表面波を利用した露点計の構成例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0034】
11……球形基材、12……伝搬路、13……すだれ状電極、13a,13b……電極、14……高周波バースト信号発生部、15……デジタルオシロスコープ、16……熱伝導板、17……ペルチェ素子、18……温度制御部、19……制御解析及び表示部、20……被測定気体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ上昇方向に変化する温度依存性を有する基材と、
弾性表面波が周回伝搬できるように前記基材の表面に形成された伝搬路と、
前記伝搬路上に弾性表面波を励起するとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波を検出する励起兼用検出素子と、
前記励起兼用検出素子に電気信号を供給して前記伝搬路に周回可能な弾性表面波を励起させる励起信号発生手段と、
少なくとも前記伝搬路の表面温度を降下させ前記伝搬路に前記基材の周囲に存在する被測定気体を結露させる温度制御手段と、
前記温度制御手段により前記伝搬路の表面温度を降下させる過程で弾性表面波の伝搬速度が上昇方向に変化する状態から低下方向に反転した時に前記伝搬路に前記被測定気体が結露したと判定する判定手段と、
前記判定手段が結露したと判定した時の前記伝搬路の温度を基に前記被測定気体の露点を算出する演算手段と、
を備えることを特徴とする露点計。
【請求項2】
弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ上昇方向に変化する温度依存性を有する基材と、
弾性表面波が周回伝搬できるように前記基材の表面に形成された伝搬路と、
前記伝搬路上に弾性表面波を励起するとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波を検出する励起兼用検出素子と、
前記励起兼用検出素子に電気信号を供給して前記伝搬路に周回可能な弾性表面波を励起させる励起信号発生手段と、
少なくとも前記伝搬路の表面温度を上昇させ前記伝搬路に結露した被測定気体を気化させる温度制御手段と、
前記温度制御手段により前記伝搬路の表面温度を上昇させる過程で前記弾性表面波の伝搬速度が低下方向に変化する状態から上昇方向に反転した時に前記伝搬路に前記被測定気体が気化したと判定する判定手段と、
前記判定手段が気化したと判定した時の前記伝搬路の温度を基に前記被測定気体の露点を算出する演算手段と、
を備えることを特徴とする露点計。
【請求項3】
弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ一定の関数に従って上昇方向に変化する温度依存性を有する基材と、
弾性表面波が周回伝搬できるように前記基材の表面に形成された伝搬路と、
前記伝搬路上に弾性表面波を励起するとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波を検出する励起兼用検出素子と、
前記励起兼用検出素子に電気信号を供給して前記伝搬路に周回可能な弾性表面波を励起させる励起信号発生手段と、
少なくとも前記伝搬路の表面温度を降下させ前記伝搬路に前記基材の周囲に存在する被測定気体を結露させる温度制御手段と、
前記温度制御手段により前記伝搬路の表面温度を降下方向に制御するとともに温度の降下制御に伴い変化する前記伝搬路の伝搬速度と降下温度を基に弾性表面波の伝搬速度が一定の関数に従って上昇方向に変化する状態から低下方向に反転した時に前記伝搬路に前記被測定気体が結露したと判定する判定手段と、
前記判定手段が結露したと判定した時の弾性表面波の伝搬速度と降下温度及び前記一定の関数に従って上昇方向に変化する時の前記伝搬速度の変化値を基に前記被測定気体の露点を算出する演算手段と、
を備えることを特徴とする露点計。
【請求項4】
弾性表面波の伝搬速度が温度の降下につれ一定の関数に従って上昇方向に変化する温度依存性を有する基材と、
弾性表面波が周回伝搬できるように前記基材の表面に形成された伝搬路と、
前記伝搬路上に弾性表面波を励起するとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波を検出する励起兼用検出素子と、
前記励起兼用検出素子に電気信号を供給して前記伝搬路に周回可能な弾性表面波を励起させる励起信号発生手段と、
少なくとも前記伝搬路の表面温度を上昇させ前記伝搬路に結露した被測定気体を気化させる温度制御手段と、
前記温度制御手段により前記伝搬路の表面温度を上昇方向に制御するとともに温度の上昇制御に伴い変化する前記伝搬路の伝搬速度と上昇温度を基に弾性表面波の伝搬速度が一定の関数に従って低下方向に変化する状態から上昇方向に反転した時に前記伝搬路に前記被測定気体が気化したと判定する判定手段と、
前記判定手段が結露したと判定した時の弾性表面波の伝搬速度と降下温度及び前記一定の関数に従って低下方向に変化する時の前記伝搬速度の変化値を基に前記被測定気体の露点を算出する演算手段と、
を備えることを特徴とする露点計。
【請求項5】
前記伝搬路は最大外周円を少なくとも含んだ円環状球形領域に形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の露点計。
【請求項6】
前記基材は、ニオブ酸リチウム単結晶もしくはタンタル酸リチウム単結晶の何れかであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の露点計。
【請求項7】
前記基材は圧電性基材からなるとともに、前記励起兼用検出素子は、電気信号が印加されると前記伝搬路に電界を発生して弾性歪みを励起することにより弾性表面波を発生させるとともに前記伝搬路を周回する弾性表面波に応じた電気信号を出力するすだれ状電極から構成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の露点計。
【請求項8】
前記温度制御手段は、前記弾性表面波が前記伝搬路に沿って周回する時に前記伝搬路に吸収される前記弾性表面波のエネルギーによって前記伝搬路の表面を加熱することにより前記伝搬路の表面温度を変化させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の露点計。
【請求項9】
弾性表面波の周回速度が温度の降下につれ一定の割合で上昇方向に変化する球状の弾性表面波伝搬面を有する球状弾性表面波素子の弾性表面波の伝搬路の表面温度を制御するとともに、
温度が上昇あるいは降下する過程において、弾性表面波の伝搬速度が極大となる時に前記伝搬路に被測定気体が結露あるいは気化したと判定し、
前記結露あるいは気化したと判定した時の弾性表面波の伝搬速度と温度及び前記一定の割合で上昇方向に変化する時の前記伝搬速度の変化値を基に前記被測定気体の露点を算出する、
ことを特徴とする露点測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−263877(P2007−263877A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91946(P2006−91946)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】