説明

静圧空気軸受式直線案内用ガイドの製造方法およびガイド

【課題】中空構造を形成するのに中空域成形のための型に頼らないで、より簡単な手順で中空域を形成する静圧空気軸受式直線案内用ガイドの製造方法およびガイドを提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は泥漿を型内に流し込み、相手の一面に相対する空域と、空域を間に分離した2つの接合面とを有する第1成形体および第2成形体を成形する工程、第1および第2成形体を焼成して第1焼結ピース15および第2焼結ピース16を焼結する工程(図2(a))、第1焼結ピース15および第2焼結ピース16の接合面14を平坦に仕上げる工程(図2(b))、第1焼結ピース15および第2焼結ピース16の接合面を突き合わせて一体のレール材17に組み立てる工程(図2(c))、レール材17を加工して決められた寸法を有するガイドレールに仕上げる工程(図2(d)(e))を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は個別に焼成した2個の焼結ピースを組み合わせて中空構造のガイドレールを形成する静圧空気軸受式直線案内用ガイドの製造方法およびガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
精密加工、測定の直線運動案内として静圧空気軸受式案内が多用されている。この静圧空気軸受式案内は、一般に静止要素に固定されるガイドと、ガイドに沿って移動するスライダとで構成され、これは精密加工、測定での精度維持のために加工時にこれらの要素には超精密加工が要求されると共に、長期にわたるガイド使用期間中の高精度の維持のために構成材として寸法安定性の良好なセラミックスが利用されている。セラミックスは周知のように脆性材料で、一般には硬さがあり、加工することは難しいが、金属材料との比較では加工中の弾性変形が少なく、また熱変形が小さく抑えられ、寸法安定性の維持には極めて好都合である。
【0003】
ところで、セラミックスの成形体は様々な方法を用いて製作することが可能であるが、大形の成形体を得るには泥漿鋳込み成形法と呼ばれる方法が用いられる。これは原料粉末と水または他の液体とからなる泥漿を調製し、これを石膏などで作られた型内に流して成形する方法で、この成形法では中空のガイドレールのような複雑な断面形状を有するガイドも比較的簡単に成形することが可能であり、直線案内に適する所望の精度を得るにはこうした中空の焼結体に超精密加工を施す必要がある。
【0004】
この種の中空のガイドを利用する精密測定装置の例は、たとえば特開平8−54204号に記載のものがある。
【特許文献1】特開平8−54204号公報、第2−3頁、図1−図3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミックス製の中実のガイドを直線案内装置に組み込んだときに直進誤差が発生することがある。これは中実のガイドが自重によりたわみ、テーブルなどの直進時に誤差を生じるためである。この対策として中空構造のガイドを使用することがある。中空に成形するガイドは泥漿鋳込み成形法で容易に得ることは可能であるが、この成形には泥漿を流し込む型が欠かせない。中空のガイドを使用する直線案内装置が多用される場合、ガイドレール特有の条件を満たす型を製作する必要が生じ、それぞれ専用の型を準備することは製造コストが大きく嵩む要因となる。もちろん、射出成形法などを用いても中空のガイドは製作することは可能であるが、この方法も型を使用するため同様に製造コストが嵩む。
【0006】
一方、型を使用する方法においては型の製作に一定の時間を要することから、ガイド製作のための工期が長引く難点がある。
【0007】
本発明の目的は中空構造を形成するのに中空域成形のための型に頼らないで、より簡単な手順で中空域を形成する静圧空気軸受式直線案内用ガイドの製造方法およびガイドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る製造方法は調製した泥漿を型内に流し込み、相手成形体の一面に相対する空域と、空域を間に分離した2つの接合面とを有する第1成形体および第2成形体を成形する工程、得られた第1および第2成形体から第1焼結ピースおよび第2焼結ピースを焼結する工程、第1焼結ピースおよび第2焼結ピースの接合面を平坦に加工する工程、第1焼結ピースおよび第2焼結ピースの接合面を突き合わせて一体のレール材に組み立てる工程、得られたレール材を加工して決められた寸法を有するガイドレールに仕上げる工程を含むものである。
【0009】
本発明に従いセラミックスからなる成形体は型構造を簡素化するため単純な断面形状の成形体に成形する。本工程は原料粉末と水とを用いて調製した泥漿を型内に流し込み、第1成形体および第2成形体を得る。この第1成形体および第2成形体は空域と分離した2つの接合面と備える。
【0010】
次いで、緻密な焼結体を得るべく高温雰囲気の炉内に入れて第1成形体および第2成形体を焼結する。本工程でセラミックス粉末は凝固し、第1焼結ピースと第2焼結ピースを得る。
【0011】
次いで、第1焼結ピースと第2焼結ピースとを組み合わせて一体の要素とするため突き合わせる双方の接合面を前もって加工する。硬さのある焼結ピースを加工するのに適する方法として本工程は研削による。
【0012】
次いで、接合面を仕上げた第1焼結ピースと第2燒結ピースとを組み合わせてレール材を得る。本工程は強固な結合を得るべく予め双方の接合面に、たとえば接着剤を塗布しておき、成形体同士を付き合わせて一体にする。この組み立ての完了で2つの接合面間の空域により中空域を形成することができる。
【0013】
このレール材は本発明に従い基準レールに付加するある調整長さを見込む。このため、レール寸法は調整長さを含むことで仕上げ寸法よりも大きい。図5に示すように、基準レールの幅をW0、高さをH0、そして長さをL0とすると、それぞれの部分に対して調整長さC1、C2およびC3を見込んでおり、レール材はその全幅がW0+C1、全高がH0+C2そして全長がL0+C3となる。このような調整長さC1、C2およびC3について後の工程ではその一部または全部を削り落とし、決められた寸法を有するガイドレールに仕上げる。
【0014】
次に、決められた寸法のガイドレールを得るためにレール材を加工する。本工程はレール材を研削してその幅および高さを所定の寸法に仕上げる。また、レール材の長さを所定の寸法に仕上げる。これは上述した調整長さC1、C2およびC3の一部または全部を加工して仕上げる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明によるガイドの製造方法について説明する。本発明に係るガイドは超精密工作機械、半導体用測定装置などのテーブルの直線運動案内に利用でき、ここでは静圧空気軸受式ガイドへの適用例を説明する。図3において、この静圧空気軸受式ガイドはスライダ1と、このスライダ1を直線案内するガイドレール2とからなる。このスライダ1は後記の空気軸受によって支承されており、ガイドレール2上を移動する。このガイドは図示しないベースとなる構造体に支持体3を介して固定される。
【0016】
図4に示すように、スライダ1は断面矩形に形成したスライダ本体4の各内面にそれぞれ配置される空気軸受5a、5bを備える。この軸受5a、5bは無機材料の多孔質体からなる軸受材で構成される。さらに、スライダ本体4はその内面に案内装置内を流動する空気を排出する排気口6を有する。本実施の形態ではこの排気口6はガイドレール2の結合部に合わせて設けている。多孔質体から吹き出す空気はスライダ1とガイドレール2との間の微小な隙間を流動し、移動するスライダ1にある圧力を及ぼす。この空気は排気口6から案内装置の外に流出する。上記のガイドレール2の結合部に合わせて設ける排気口6により、たとえば結合部に僅かな段差が生じても、空気圧の変動の影響を少なくすることができ、直線運動精度を維持することが可能である。
【0017】
中空のガイドレール2は後記のようにアルミナセラミックスからなる2個の焼結体を組み合わせて製作される。本実施の形態では2個の焼結体は接着剤で一体のレール材として接着される。
【0018】
上記のガイドレール2は次の手順で製造される。鋳込み工程において、アルミナ粉末を水と共に攪拌して懸濁体を得る。この調製した泥漿を石膏で作られた型内に流し込み、脱水し、脱型し、図1に示すような個別の第1成形体11および第2成形体12を形成する。この双方の成形体11、12は同一の形状からなり、組み立て工程において焼結ピースの一方を反転して一体に組み合わせる。
【0019】
この第1成形体11は相手第2成形体12の一面に相対する空域13を備える。また、この空域13を間に分離させた2つの接合面14を有する。第2成形体12は同様な空域13を備え、空域13を間に分離させた同様な2つの接合面14を有する。この双方の空域13により焼結ピースの組み立てを完了したとき、焼結ピース内に一定の断面積の中空域を形成することができる。
【0020】
次に、焼結工程において、得られた第1成形体11および第2成形体12を炉内に搬入して焼成する。ここで、原料粉末は高温に保たれる炉内において固まり、緻密な焼結体になる。すなわち、第1焼結ピース15および第2焼結ピース16を得ることができる(図2(a)参照)。炉から取り出したとき、第1および第2焼結ピース15、16の各接合面14の表面にはスケールが付着したままである。また、空域13も同様にスケールで汚れたままである。このスケールを取り除いて次に研削工程に掛ける。
【0021】
研削工程において、砥石を用いて第1焼結ピース15および第2焼結ピース16の各接合面14を研削する(図2(b)参照)。この研削はレール材組み立て後の寸法安定性および再現性を良好に保つために十分な平坦面に仕上げる。
【0022】
次に、組み立て工程において、第1焼結ピース15の接合面14と第2焼結ピース16の接合面14とを突き合わせ、双方の焼結ピース15、16を接着し、一体のレール材17を得る(図2(c)参照)。ここでは強固な結合を得るため双方の接合面14には予め接着剤(たとえば、エポキシ接着剤)を塗布して接合する。
【0023】
上記の製造手順の説明は全工程を一貫して述べるものであるが、上記の工程のうち、焼結工程までは単独に実施してこのとき得られる焼結ピースから標準レールとするために標準ピースを数多く製作することが可能である。ガイドレールは、たとえば先に述べた寸法関係(図5参照)が得られるように多数の標準ピースから適した寸法のものを選択してもよい。
【0024】
なお、本組み立て工程は接着剤を使用しないで後記のように双方の焼結ピースを適当な締結部材を用いて組み立ててもよい。
【0025】
次に、研削工程において、砥石を用いて得られたレール材17の幅および高さをそれぞれ研削する(図2(d)および(e)参照)。また、レール材17の長さを決められた長さに加工する。幅、高さおよび長さは予め見込む調整長さC1、C2およびC3(図5参照)の一部または全部を加工して決められた寸法に仕上げる。この調整長さC1、C2およびC3の加工は標準ピースを多数準備しておくことにより研削に要する時間を短縮することができる。
【0026】
以上の手順で中空構造のガイドレール2を製作することができる。アルミナセラミックス製のガイドレール2であるので、原料粉末から成形体を得るには型を用いるが、本発明方法では中空の成形体としないので、型構造を簡素化することができる。また、標準レールを予め準備することで、その都度ガイドレールの幅、高さおよび長さに適合する型を製作する場合と比べて製造コストを大きく引き下げることが可能になる。
【0027】
一方、予め準備した標準レールから必要な条件を満たすガイドレールを選択することによりガイド製作のための工期を短縮することができる。
【0028】
本発明の異なる実施の形態について説明する。図6において、静圧空気軸受式ガイドはスライダ1とガイドレール18とからなる。本実施の形態の中空構造のガイドレール18はアルミナセラミックスからなる2個の焼結ピースを組み合わせて製作される。2個の焼結ピースは複数のボルト19およびナット20で一体に結合されている。
【0029】
このガイドレール18の製造方法は次に述べる工程を除いて上記実施の形態のガイドレール2の製造方法と同じであり、同一工程については説明が重複するため省略する。
【0030】
すなわち、孔明け工程において、第1焼結ピース15および第2焼結ピース16に超硬ドリルを用いて所定数のボルト孔21を穿孔する(図7(a)参照)。本工程に続いて第1焼結ピース15および第2焼結ピース16の接合面14を仕上げる研削工程(図2(b参照))に掛ける。
【0031】
一方、組み立て工程において、第1焼結ピース15の接合面14と第2焼結ピース16の接合面14とを突き合わせ、第1および第2焼結ピース15、16を貫通している各ボルト孔21にそれぞれボルト19を通し、ボルト19のねじとナット20のねじとを螺合して締め付ける(図7(b)参照)。このような手順でレール材17を形成する。
【0032】
上記の手順で中空構造のガイドレール18を製作することができる。本発明方法においても、標準レールを予め準備することで、その都度ガイドレールに適合する型を製作する場合と比べて製造コストを大きく引き下げることができる。また、予め準備した標準レールから所望の寸法のガイドレールを選択することにより一定の時間を要するガイド製作のための工期を短縮することが可能になる。
【0033】
スライダ本体に装着する軸受は、図8に示すように、ガイドレール2全周をほぼ取り囲むように配置する複数の軸受5aによって構成してもよい。この配置はスライダ1内面に働く空気圧を均一化することができる。また、レール材結合部の接合不良で極微量の隙間が生じたとき、結合部付近で空気圧の変動が大きくなるのを防ぐ働きがある。
【0034】
上記の各実施の形態においては軸受部の剛性を保つために静圧空気軸受式ガイドの絞り方式として多孔質体を説明したが、絞りは微細孔による自成絞り方式、類似のオリフィス絞り方式、浅い溝による表面絞り方式によって構成してもよい。
【0035】
また、セラミックスとしてアルミナセラミックスを使用するものを述べたが、ガイドレールはジルコニアセラミックス、炭化ケイ素セラミックス、窒化ケイ素セラミックスを用いて製作してもよい。
【0036】
さらに、セラミックス成形体を得る方法として泥漿成形工程で成形するものを説明したが、成形体は金型プレス成形工程、静水圧成形工程および射出成形工程で成形してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による直線案内用ガイドを製作するセラミックス成形体の射視図である。
【図2】本発明によるガイドの製造工程を示すもので、(a)はガイドの焼結工程図、(b)はガイドの研削工程図、(c)はガイドの組み立て工程図、(d)、(e)はガイドの研削工程図である。
【図3】本発明によるガイドが適用される静圧空気案内装置を示す斜視図である。
【図4】図3に示されるガイドの断面図である。
【図5】本発明によるガイド材の調整長さを説明する概念図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係るガイドの断面図である。
【図7】他の実施の形態に係るガイドの製造工程を示すもので、(a)はガイドの孔明け工程図、(b)はガイドの組み立て工程図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係るガイドの断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1… スライダ
2、18… ガイドレール
11… 第1成形体
12… 第2成形体
14… 接合面
15… 第1焼結体
16… 第2焼結体
17… レール材
19… ボルト
20… ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調製した泥漿を型内に流し込み、相手成形体の一面に相対する空域と、前記空域を間に分離した2つの接合面とを有する第1成形体および第2成形体を成形する工程、得られた前記第1および第2成形体から第1焼結ピースおよび第2焼結ピースを焼結する工程、前記第1焼結ピースおよび第2焼結ピースの接合面を平坦に加工する工程、前記第1焼結ピースおよび第2焼結ピースの接合面を突き合わせて一体のレール材に組み立てる工程、得られた前記レール材を加工して決められた寸法を有するガイドレールに仕上げる工程を含む静圧空気軸受式直線案内用ガイドの製造方法。
【請求項2】
前記組み立て工程が接着剤を用いて前記第1燒結ピースと第2燒結ピースとを接合することを含む請求項1記載の静圧空気軸受式直線案内用ガイドの製造方法。
【請求項3】
前記組み立て工程が締結部材を用いて前記第1ピースと第2ピースとを結合することを含む請求項1記載の静圧空気軸受式直線案内用ガイドの製造方法。
【請求項4】
前記鋳込み工程に代えて、金型プレス成形工程、静水圧成形工程または射出成形工程をで第1成形体および第2成形体を成形する請求項1記載の静圧空気軸受式直線案内用ガイドの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の製造方法を用いて製作されるガイドレールを備える静圧空気軸受式直線案内用ガイド。
【請求項6】
請求項1の製造方法を用いて製作されるガイドレールと、前記ガイドレールのレール材結合部に合わせて形成される排気口を有するスライダとを備える静圧空気軸受式直線案内ガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−281506(P2009−281506A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134396(P2008−134396)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】