説明

静圧軸受

【課題】パーティクルが装置周辺に飛散することを防止することができる静圧軸受を提供する。
【解決手段】滑走面2a上を浮上するために噴出面11aから滑走面2aに対して空気A1を噴出し、ステージ2の表面に形成されている微細な孔部に入り込んだパーティクルP又はステージ表面上に付着したパーティクルPに空気A1が吹き付けられた場合であっても、吹き付けられた空気A1の一部である空気A2を、噴出部11の外周側に配置された吸引面12aで、パーティクルPごと吸引して回収する。また、吸引面12aを、噴出面11aの下端より後退して配置して、パーティクルPの吸引と空気の噴出とをバランスさせ易く、これによって、静圧軸受10を滑走面2a上で浮上させ非接触で滑走させながら、ステージ装置1周辺へ飛散するパーティクルPを確実に捕捉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、XYステージの滑走面上でスライダを非接触で滑走させるための静圧軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこのような分野の技術として、特開2000−155186号公報がある。この公報に記載された静圧軸受は、XYステージのスライダの下端部に設けられ、スライダの重みによってベース(構造物)の案内面(滑走面)側への力を受けると同時に、ベースの案内面に空気を噴出して空気圧を作用させることによって案内面から離れる方向に力を受ける。この静圧軸受は、前述の鉛直方向の両側から作用する力の拘束を受けながら、案内面に沿って非接触移動する。
【特許文献1】特開2000−155186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、空気の噴出によって案内面上で浮上する静圧軸受にあっては、ベースに形成される微小な孔部に入り込んでいたパーティクル又はベース表面上に付着したパーティクルに空気が吹き付けられることによって、そのパーティクルが舞い上がってしまい、装置周辺に飛散してしまう可能性があった。特に、ベース上に半導体基板などを載置する場合には、飛散するパーティクルが半導体基板に付着してしまうという問題があった。
【0004】
本発明は、パーティクルが装置周辺に飛散することを防止することができる静圧軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る静圧軸受は、所定の構造物の滑走面に沿って非接触で滑走する静圧軸受において、滑走面に対して空気を噴出する噴出面を有する噴出部と、噴出面から滑走面に対して噴出された空気を吸引する吸引面を有する吸引部とを備え、吸引面は、噴出部の内周側又は外周側の位置で、噴出部の下端より後退して配置されることを特徴とする。
【0006】
この静圧軸受では、滑走面上を浮上するために噴出面から滑走面に対して空気を噴出し、構造物の表面に形成されている微細な孔部に入り込んだパーティクル又は構造物表面上に付着したパーティクルに空気が吹き付けられた場合であっても、吹き付けられた空気の一部は、噴出部の内周側または外周側に配置された吸引面で、パーティクルごと吸引されて回収される。また、吸引面は、噴出部の下端より後退して配置されているため、パーティクルの吸引と空気の噴出とをバランスさせ易く、これによって、静圧軸受が滑走面上で浮上し非接触で滑走しながら、装置周辺に飛散するパーティクルを確実に捕捉することができる。
【0007】
また、吸引面は、噴出部の外周側における全外周に渡って設けられていることが好ましい。噴出面から滑走面に対して空気を噴出することによって、パーティクルに空気が吹き付けられた場合であっても、吹き付けられた空気の一部は、噴出部の外周側に設けられた吸引面で、パーティクルごと吸引されて回収される。これによって、装置周辺に飛散する前段階でパーティクルを回収することができ、また、吸引面は全外周に設けられているため、一部からパーティクルを漏らすことなく、確実に回収することができる。
【0008】
また、吸引面は、噴出部の内周側における全内周に渡って設けられていてもよい。噴出面から滑走面に対して空気を噴出することによって、パーティクルに空気が吹き付けられた場合であっても、吹き付けられた空気の一部は、噴出部の内周側に設けられた吸引面で、パーティクルごと吸引されて回収される。これによって、噴出面の外周側へ向かわせることなくパーティクルを回収することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る静圧軸受によれば、パーティクルが装置周辺に飛散することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るチルトステージの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0011】
[第1の実施形態]
図1に示すように、本実施形態に係る静圧軸受10を採用したXYステージ装置1は、静圧軸受10の滑走面2aを有するステージ(構造物)2と、ステージ2上をY軸方向に移動する第1の移動体3と、ステージ2上のX軸方向の両端において延在し第1の移動体3の移動を案内するレール部4と、第1の移動体3に沿ってX軸方向へ移動する第2の移動体6とを備える。このXYステージ装置1の第1の移動体3の両端にはレール部4に沿って移動するスライダ部3aが形成されており、このスライダ部3aの下端部には静圧軸受10が設けられている。また、第2の移動体6の下端部にも静圧軸受10が設けられている。なお、図1に示すように、X及びYは水平面上で互いに90度をなす。
【0012】
静圧軸受10は、スライダ部3aあるいは第2の移動体6の重みによって下方への力を受けると同時に、ステージ2の滑走面2aに空気を噴出して空気圧を作用させることによって上方へ力を受ける。これによって、静圧軸受10は鉛直方向の両側から作用する力の拘束を受けながら、滑走面2a上を浮上する。そして、第1の移動体3又は第2の移動体6の移動に伴って、滑走面2aを非接触で滑走する。
【0013】
静圧軸受10は、図2に示すように、滑走面2aに対して空気を噴出する噴出部11を有し、噴出部11の下面側に円形の噴出面11aを有する。また、静圧軸受10は、噴出部11の外周側に、噴出部11から滑走面2aに対して噴出された空気及びステージ2中のパーティクルを吸引して回収する吸引部12を有し、吸引部12の下面側に噴出部11を取り囲む円環状の吸引面12aを有する。
【0014】
噴出部11は、図3に示すように、カーボン材を焼結させることによって内部に微細な孔が形成された円柱状の焼結材13と、焼結材13の外周面に密着して取り囲み空気の漏れを防止する外周壁部14と、焼結材13の上面13a側に設けられ空気の漏れを防止する上壁部16と、上壁部16に取り付けられて上面13a側から焼結材13へ空気を供給するエアノズル17とを備える。なお、エアノズル17には空気の噴出量を調節することのできる調整弁が取り付けられている。
【0015】
焼結材13の底面13bは、滑走面2aに対向して配置され、この底面13bが静圧軸受10の噴出面11aとされる。なお、噴出面11aと滑走面2aとの間にはギャップが形成されている。
【0016】
上壁部16は、カップ状の円柱体をなし、焼結材13の上面13aと接触する底面が開口部として形成されている。これによって、焼結材13との間に空間18が形成される。また、上壁部16の下端部16aには径方向へ拡大する円環状の段部16bが設けられ、この段部16bは焼結材13の上面13aにおける縁部と全周に渡って密着し、焼結材13よりも外周側へ拡がる。
【0017】
吸引部12は、上壁部16の段部16bの外周側の端部から下方へ向かって延在する円筒状の外周壁部19と、外周壁部19と外周壁部14と段部16bとで挟まれることにより形成される吸引空間21と、外周壁部19に取り付けられて吸引空間21内の空気を吸引するエアノズル22とを備える。なお、エアノズル22には空気の吸引量を調節することのできる調整弁が取り付けられている。
【0018】
外周壁部19は噴出面11aの上方側まで延び、これによって、外周壁部19の下端部19aと外周壁部14との間に形成される吸引面12aは、噴出面11aの下端より後退して配置される。なお、吸引面12aと噴出面11aとの間にはギャップGが形成されている。
【0019】
次に、静圧軸受10の動作について説明する。
【0020】
まず、エアノズル17から空間18へ空気を吹き込むことによって焼結材13へ空気を供給し、焼結材13の微細な孔を通過させることによって噴出面11aから空気A1を噴出する。空気A1の噴出量は、エアノズル17に取り付けられた調節弁によって調節することができる。
【0021】
このとき、ステージ2の表面に形成されている微細な孔部に入り込んだパーティクルP又はステージ表面上に付着したパーティクルPに空気が吹き付けられ、これによってパーティクルPが空気A1の移動に伴って、噴出面11aの外周側へ向かって移動する。
【0022】
エアノズル22から吸引空間21内の空気を吸引することによって、一部の空気A2を吸引面12aから吸引する。また、パーティクルPも空気A2と共に吸引面12aに吸引されて回収される。ことのときの吸引量は、エアノズル22に取り付けられた調節弁によって調節することができる。
【0023】
吸引面12aは噴出面11aの下端より後退して配置されているため、空気A1の全てが吸引面12aに吸引されることはなく、一部の空気A3は、吸引面12aより外周側へ流出する。これによって、静圧軸受10と滑走面2aとの間に空気圧が作用し、静圧軸受10は滑走面2a上で浮上する。
【0024】
以上によって、静圧軸受10は、滑走面2a上を浮上するために噴出面11aから滑走面2aに対して空気A1を噴出し、ステージ2の表面に形成されている微細な孔部に入り込んだパーティクルP又はステージ表面上に付着したパーティクルPに空気A1が吹き付けられた場合であっても、吹き付けられた空気A1の一部である空気A2は、噴出部11の外周側に配置された吸引面12aで、パーティクルPごと吸引されて回収される。また、吸引面12aは、噴出面11aの下端より後退して配置されているため、パーティクルPの吸引と空気の噴出とをバランスさせ易く、これによって、静圧軸受10が滑走面2a上で浮上し非接触で滑走しながら、ステージ装置1周辺へ飛散するパーティクルPを確実に捕捉することができる。また、空気の噴出により舞い上がるパーティクルP以外の、大気中のパーティクルも捕捉することができる。
【0025】
また、吸引面12aは、噴出部11の外周側における全外周に渡って設けられているため、パーティクルPに空気A1が吹き付けられた場合であっても、一部の空気A2は、噴出面11aの外周側に設けられた吸引面12aで、パーティクルPごと吸引されて回収される。これによって、ステージ装置1周辺に飛散する前段階でパーティクルPを回収することができ、また、吸引面12aは全外周に設けられているため、一部からパーティクルPを漏らすことなく、確実に回収することができる。
【0026】
[第2の実施形態]
静圧軸受30は、図4に示すように、滑走面2aに対して空気を噴出する噴出部31を有し、噴出部31の下面側に円環状の噴出面31aが形成される。また、噴出部31の内周側には、噴出部31から滑走面2aに対して噴出された空気及びステージ2中のパーティクルを吸引して回収する吸引部32を有し、吸引部32の下面側に円形の吸引面32aが形成される。
【0027】
噴出部31は、図5に示すように、カーボン材を焼結させることによって内部に微細な孔が形成されたカップ状の円柱体をなす焼結材33と、焼結材33の内部空間33cにおける内周面及び上面に密着して空気の漏れを防止する内壁部34と、焼結材33を外側から取り囲んで空気の漏れを防止する外壁部36と、外壁部36に取り付けられて上面33a側から焼結材33へ空気を供給するエアノズル37とを備える。なお、エアノズル37には空気の噴出量を調節することのできる調整弁が取り付けられている。
【0028】
焼結材33の底面33bは、滑走面2aに対向して配置され、この底面33bが静圧軸受30噴出面31aとされる。なお、噴出面31aと滑走面2aとの間にギャップが形成されている。
【0029】
外壁部36は、焼結材33の外周面と密着するとともに上側の端部が上面33aよりも上方へ延びる外周壁部36aと、外周壁部36aの上端部を封止して焼結材33の上面33a及び外周壁部36aとの間で内部空間38を形成する上面壁部36bとを備える。
【0030】
吸引部32は、内部空間33cに配置される仕切部39と、内壁部34及び仕切部39で挟まれることにより形成される吸引空間41と、外壁部36及び焼結材33を貫通して内壁部34に取り付けられ吸引空間41内の空気を吸引するエアノズル42とを備える。なお、エアノズル42には空気の吸引量を調節することのできる調整弁が取り付けられている。
【0031】
仕切部39は、内壁部34の上壁部34aから下方に向かってする円筒状の円筒部39aと、円筒部39aの下端部から径方向へ拡大する円環状の段部39bと、段部39bの外周側の端部から下方へ向かって延在する円筒状の円筒部39cとからなる。また、円筒部39cは噴出面31aの上方側まで延び、これによって円筒部39cの下端部39dと内壁部34との間に形成される吸引面32aは、噴出面31aの下端より後退して配置される。なお、吸引面32aと噴出面31aとの間にギャップGが形成されている。
【0032】
次に、静圧軸受30の動作について説明する。
【0033】
まず、エアノズル37から内部空間38へ空気を吹き込むことによって焼結材33へ空気を供給し、焼結材33の微細な孔を通過させることによって噴出面31aから空気A1を噴出する。空気A1の噴出量は、エアノズル37に取り付けられた調節弁によって調節することができる。
【0034】
また、エアノズル42から吸引空間41内の空気を吸引することによって、一部の空気A2を吸引面32aから吸引する。このとき、ステージ2の表面に形成されている微細な孔部に入り込んだパーティクルP又はステージ表面上に付着したパーティクルPは、噴出面31aから噴出する空気A1が吹き付けられた時に、空気A2の移動に伴って吸引面32aへ向かって移動する。そして、パーティクルPは空気A2と共に吸引面32aに吸引されて回収される。このときの吸引量は、エアノズル42に取り付けられた調節弁によって調節することができる。
【0035】
吸引面32aは噴出面31aの下端より後退して配置されているため、空気A1の全てが吸引面32aに吸引されることはなく、一部の空気A3は、噴出面31aより外周側へ流出する。これによって、静圧軸受30と滑走面2aとの間に空気圧が作用し、静圧軸受30は滑走面2a上で浮上する。
【0036】
以上によって、吸引面32aは、噴出部31の内周側における全内周に渡って設けられているため、噴出面31aから滑走面2aに対して空気を噴出することによって、パーティクルPに空気A1が吹き付けられた場合であっても、一部の空気A2は、噴出部31の内周側に設けられた吸引面32aで、パーティクルPごと吸引されて回収される。これによって、噴出面31aの外周側へ向かわせないようにパーティクルPを回収しようとするので、外周側へのパーティクルPを減らすことができる。
【0037】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0038】
例えば、静圧軸受は円形状としているが、矩形状としてもよい。
【0039】
また、焼結材としてカーボン材を焼結させたものを適用しているが、金属材を焼結させたものを用いてもよい。
【0040】
また、吸引面は噴出面の全外周あるいは全内周に渡って設けられているが、一部に設けられていない部分があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1の実施形態に係る静圧軸受を適用したXYステージ装置の斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係る静圧軸受の斜視図である。
【図3】図2の静圧軸受の横断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る静圧軸受の斜視図である。
【図5】図4の静圧軸受の横断面図である。
【符号の説明】
【0042】
2…ステージ(構造物)、2a…滑走面、10,30…静圧軸受、11,31…噴出部、11a,31a…噴出面、12,32…吸引部、12a,32a…吸引面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の構造物の滑走面に沿って非接触で滑走する静圧軸受において、
前記滑走面に対して空気を噴出する噴出面を有する噴出部と、
前記噴出面から前記滑走面に対して噴出された空気を吸引する吸引面を有する吸引部とを備え、
前記吸引面は、前記噴出部の内周側又は外周側の位置で、前記噴出部の下端より後退して配置されることを特徴とする静圧軸受。
【請求項2】
前記吸引面は、前記噴出部の前記外周側における全外周に渡って設けられていることを特徴とする請求項1記載の静圧軸受。
【請求項3】
前記吸引面は、前記噴出部の前記内周側における全内周に渡って設けられていることを特徴とする請求項1記載の静圧軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−19688(P2009−19688A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182600(P2007−182600)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】