説明

静脈内投与イブプロフェンを用いた患者の治療

治療を必要とする患者を治療する方法であって、疼痛、炎症、および発熱から選択される該患者における少なくとも1種の状態を治療し、かつ平均動脈圧の上昇なしまたは統計学的に有意な上昇なしを含む投与間隔の間の該患者の平均動脈圧に対する臨床的意義がある影響をもたらすのに有効な量で、イブプロフェンを含む静脈内投与用医薬組成物を重症患者に投与することを含む、上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有効量の2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン酸を含む医薬組成物を静脈内投与することにより、重症患者を治療するための方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン酸(国際一般名:イブプロフェン)は、分子量206.28を有する周知の抗炎症薬であり、以下の化学構造を有する(Merck Index第12版, n4925, 839ページ):
【化1】

元々は1960年代に特許取得されたイブプロフェンは、現在では一般的に販売されており、疼痛、炎症、および発熱の治療のために、モトリン(登録商標)、アドビル(登録商標)、ならびにNuprin(登録商標)の商品名でも知られる。米国食品医薬品局は、近年、静脈内投与のためのイブプロフェンの新規製剤を承認し、これはCaldolor(登録商標)の商品名で販売される。
【0003】
イブプロフェンは、(R)-イブプロフェンおよび(S)-イブプロフェンの2種類のエナンチオマーのラセミ混合物((RS)-イブプロフェン)として容易に入手可能である。(S)エナンチオマーが生物学的に活性な形であるにもかかわらず、(R)エナンチオマーはin vivoで活性な(S)型に変換されるので、ほとんどの製剤はラセミ混合物を含有する。簡潔化のために、本明細書中、以下では、「イブプロフェン」との用語は、(R)エナンチオマー、(S)エナンチオマー、またはラセミ化合物のうちいずれか1つを意味するために用いられるであろう。
【0004】
イブプロフェンは、アスピリンおよびアセトアミノフェンなどの他の鎮痛剤と比較して多くの利点を有するが、これは、水に非常に溶けにくい。つまり、イブプロフェンの一部の投与剤形、特に注射液は、開発するのが困難であった。いくつかの米国特許は、この問題を扱っている。
【0005】
例えば、米国特許第4,309,421号には、非経口投与に好適なイブプロフェンとリン脂質との水溶性複合体が記載されているようである。米国特許第4,859,704号および同第4,861,797号には、イブプロフェン液体製剤を調製するためのイブプロフェンのアルカリ金属塩の合成が記載されているようである。
【0006】
他の米国特許は、製薬用有効成分として塩基性アミノ酸とのイブプロフェン塩を調製し、続いて該塩を溶解させて液体投与剤形を作製することにより、この問題を解決しようとしているようである。
【0007】
例えば、米国特許第5,200,558号には、注射用溶液を含む種々の投与剤形での、アルギニンをはじめとするLおよびDアミノ酸の塩としてのS(+)イブプロフェンの強化された鎮痛作用が記載されているようである。米国特許第4,279,926号には、痛みを軽減し、かつ炎症状態を治療するための、プロピオン酸の塩基性アミノ酸塩の使用が記載されているようである。同様に、米国特許第5,463,117号には、塩基性アミノ酸とのイブプロフェンの塩の調製が記載されているようである。最後に、米国特許第6,005,005号には、イブプロフェンおよびアルギニンを含有する、経口用途のための液体組成物が記載されているようである。
【0008】
米国特許第6,727,286 B2号には、とりわけ、アルギニンとイブプロフェンとのモル比が1:1未満である、アルギニンおよびイブプロフェンの水溶液を含む医薬組成物、ならびにその製造方法が記載されている。この特許はまた、疼痛、炎症、発熱、および/またはイブプロフェンにより軽減される他の状態から選択される状態を治療する方法を提供し、該方法は、アルギニンとイブプロフェンとのモル比が1:1未満である、アルギニンおよびイブプロフェンの水溶液を含む医薬組成物を投与するステップを含む。米国特許第6,727,286 B2号の全内容が、参照により本明細書中に組み入れられる。
【0009】
米国食品医薬品局は、近年、静脈内投与のためのイブプロフェンの新規製剤を承認し、これは、Caldolor(登録商標)の商品名でCumberland Pharmaceuticals社から販売される。Caldolor(登録商標)は、有効成分イブプロフェンを含有する。Caldolor(登録商標)のためのラベルに記載されているように、「溶液各1mLが、注射用水(米国薬局方)中にイブプロフェン100mgを含有する。本製品は、アルギニン:イブプロフェンのモル比0.92:1で78mg/mLのアルギニンも含有する。溶液pHは、約7.4である」。Caldolor(登録商標)は、無菌であり、かつ静脈内投与のみが意図されている。
【0010】
Caldolor(登録商標)は、抗炎症活性、鎮痛活性、および解熱活性を有する。それにより、Caldolor(登録商標)は、成人で、軽度〜中等度の疼痛の管理、およびオピオイド系鎮痛剤の補助薬として中等度〜重度の疼痛の管理に用いられる。疼痛を治療するために、必要に応じて、400mg〜800mgのCaldolor(登録商標)を6時間毎に静脈内投与する。Caldolor(登録商標)はまた、成人での解熱にも用いられる。発熱を治療するために、必要に応じて、400mgのCaldolor(登録商標)を静脈内投与し、続いて、400mgを4〜6時間毎に、または100〜200mgを4時間毎に投与する。
【0011】
イブプロフェン、アスピリンおよびアセトアミノフェン(パラセタモール(paracetomol))などの非麻薬性鎮痛剤の使用は、独立して、血圧の中等度の上昇に関連することが、当業者により結論付けられている。イブプロフェンをはじめとするNSAIDは、新規高血圧の発症または既存の高血圧の悪化をもたらす場合がある。イブプロフェンをはじめとするNSAIDは、高血圧の患者では注意して用いなければならない。NSAID治療の開始の間および療法の過程を通じて、血圧を厳重にモニタリングしなければならない。
【0012】
この種類の投薬は全米で広く用いられているので、この知見は、公衆衛生に対して重要な意味を有する。高血圧は、心血管イベント(例えば、心臓発作、心不全、卒中、動脈瘤)および腎不全の発生率の増大に関連する。米国心臓学会は、高血圧を「サイレント・キラー」と呼ぶ。20歳以上の米国人7,200万人が高血圧を有し(成人約3人に1人)、そのうち50,000人超が毎年これにより死亡する。高血圧を有するほとんどの人が、その状態に気づいていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,309,421号
【特許文献2】米国特許第4,859,704号
【特許文献3】米国特許第4,861,797号
【特許文献4】米国特許第5,200,558号
【特許文献5】米国特許第4,279,926号
【特許文献6】米国特許第5,463,117号
【特許文献7】米国特許第6,005,005号
【特許文献8】米国特許第6,727,286 B2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、治療を必要とする患者における、疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、NSAIDを用いて患者を治療する方法を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、血圧の上昇を引き起こさない様式で、NSAIDを用いて患者を治療する方法を提供することである。本発明の別の目的は、患者の血圧(例えば、平均動脈圧「MAP」により測定される)を上昇させずに、疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する様式で、NSAIDを用いて患者を治療する方法を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、心血管イベントの高リスクを有する患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これらの目的その他は本発明により達成され、本発明は、部分的には、治療を必要とする患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法に関し、該方法は、患者の平均動脈圧が、投与間隔中にイブプロフェン用量の静脈内投与前に測定したベースラインレベルから上昇しないように、静脈内投与用NSAID(イブプロフェン)を患者に投与するステップを含む。
【0019】
本発明はまた、部分的に、心血管イベントの高リスクを有する患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法も対象とし、該方法は、該患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療するのに有効な量で静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物の用量を該患者に静脈内投与するステップを含み、静脈内投与用NSAID(イブプロフェン)の該用量は、該患者の平均動脈圧に対して臨床的意義がある影響(例えば、平均動脈圧の上昇なしまたは統計学的に有意な上昇なし)をもたらす。
【0020】
一部の好ましい実施形態では、NSAIDはイブプロフェンであり、投与される用量は、約100mg〜約1600mgである。一部の実施形態では、投与されるイブプロフェンの用量は、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、800mg、1000mg、1200mg、1400mg、1600mg、2400mg、および3200mgから選択される。一部の実施形態では、投与される用量は、100mg、200mg、400mg、および800mgから選択される。
【0021】
NSAIDがイブプロフェンである一部の好ましい実施形態では、医薬組成物は、4〜6時間毎に約400mg〜約800mgの用量で投与される。
【0022】
さらなる好ましい実施形態では、方法は、疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態が満足いくように治療されるまで、慢性的に、患者にNSAID(イブプロフェン)の追加用量を静脈内投与するステップをさらに含む。
【0023】
さらなる好ましい実施形態では、方法は、NSAIDの静脈内投与の投与レジメンの期間中、定期的に、患者の血圧を測定するステップをさらに含む。
【0024】
一部の実施形態では、方法は、第一投与レジメンを用いて、イブプロフェンを含む静脈内投与用医薬組成物を重症患者に投与するステップを含み、ここで、該第一投与レジメンは、非重症患者にイブプロフェンの第二投与レジメンを用いて該静脈内投与用医薬組成物を投与することによりもたらされる第二の薬物動態プロフィールとほぼ同等である重症患者における第一の薬物動態プロフィールをもたらし、該重症患者の少なくとも1種の状態がそれにより治療される。
【0025】
一部の実施形態では、本発明はさらに、部分的には、昇圧サポートおよび人工呼吸のうち少なくとも1つを施されている、治療を必要とする患者における、疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を対象とし、該方法は、該患者に対して所望されるCmaxおよびAUCを達成するために十分な治療をするのに有効な量で、静脈内投与用NSAID(イブプロフェン)医薬組成物を該患者に投与するステップを含み、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は、非重症患者集団に投与した場合に実質的に同等なCmaxおよびAUCをもたらす静脈内投与用イブプロフェンの用量の約2倍であり、それにより、該用量は、重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を軽減させ、該患者の平均動脈圧に対して臨床的意義がある影響(例えば、平均動脈圧の上昇なしまたは統計学的に有意な上昇なし)をもたらす。そのような実施形態では、医薬組成物は、約4〜約6時間の投与間隔で、疼痛、炎症、および発熱からなる群より選択される患者の少なくとも1種の状態を治療するのに有効な量で、約20.8μg/ml〜約75μg/mlの平均Cmaxを達成するために、4〜6時間毎に約400mg〜約800mgの用量で投与される。
【0026】
一部の実施形態では、本発明はまた、部分的には、昇圧サポートおよび人工呼吸のうち少なくとも1つを施されている、治療を必要とする重症患者における、疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を対象とし、該方法は、(i)約8.2μg/ml±6.3の平均Cmaxを達成するために100mgのイブプロフェン;または(ii)約11.5μg/ml±2.8の平均Cmaxを達成するために200mgのイブプロフェン;または(iii)約25.7μg/ml±8.3の平均Cmaxを達成するために400mgのイブプロフェンまたは(iv)約60μg/mlの80〜125%の平均Cmaxをもたらすために800mgのイブプロフェンの投与量でイブプロフェンを含む静脈内投与用医薬組成物を該重症患者に投与するステップを含み、イブプロフェンの該用量は、該患者の平均動脈圧に対して臨床的意義がある影響(例えば、平均動脈圧の上昇なしまたは統計学的に有意な上昇なし)をもたらす。
【0027】
一部の実施形態では、第一投与レジメンは、第二投与レジメンで投与されるイブプロフェンのいずれの用量よりも多いイブプロフェンの少なくとも一用量の投与を含む。一部の実施形態では、第一投与レジメンは、第二投与レジメンで用いられるいずれの投与間隔よりも短い投与間隔を含む。一部の実施形態では、重症患者へのイブプロフェンの第一投与レジメンの投与によりもたらされる第一の薬物動態プロフィールは、非重症患者へのイブプロフェンの第二投与レジメンの投与によりもたらされる第二の薬物動態プロフィールの時間に対するAUCとほぼ同等である、時間に対する血漿濃度-時間曲線下面積(AUC)を含む。
【0028】
一部の実施形態では、第一投与レジメンは、第二投与レジメンで非重症患者に投与される用量よりも多いイブプロフェンの用量の投与を含み、第一投与レジメンで投与される用量は、100〜1600mgである。一部の実施形態では、第一投与レジメンで投与される用量は、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、800mg、1000mg、1200mg、1400mg、1600mg、2400mg、および3200mgから選択される。一部の実施形態では、第一投与レジメンで投与される用量は、100mg、200mg、400mg、および800mgから選択される。
【0029】
一部の実施形態では、第一投与レジメンは、第二投与レジメンで用いられるいずれの投与間隔よりも短い投与間隔を含む。一部の実施形態では、少なくとも1種の状態は疼痛である。一部の実施形態では、少なくとも1種の状態は炎症である。一部の実施形態では、少なくとも1種の状態は発熱である。
【0030】
一部の実施形態では、医薬組成物は、アルギニンおよびイブプロフェンの水溶液である。
【0031】
一部の実施形態では、アルギニンとイブプロフェンとのモル比は、1:1以下、0.99:1以下、0.98:1以下、0.97:1以下、0.96:1以下、0.95:1以下、0.94:1以下、0.93:1以下、0.92:1以下、0.91:1以下、0.90:1以下、0.60:1以下から選択される。一部の実施形態では、医薬組成物は、Caldolor(登録商標)である。
【0032】
一部の実施形態では、重症患者に第一投与レジメンを投与するステップは、第二投与レジメンが投与される非重症患者で達成される疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態の減少とほぼ同等な程度まで、疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を減少させる。
【0033】
本発明はさらに、治療を必要とする重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を対象とし、該方法は、約20.8μg/ml〜約75μg/mlの平均Cmaxを達成するために、4〜6時間毎に約400mg〜約800mgの用量で、静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物を重症患者に投与するステップを含む。
【0034】
一部の好ましい実施形態では、方法は、約36.8μg.h/ml〜約117.5μg.h/mlの平均AUCを達成するために、4〜6時間毎に約400mg〜約800mgの用量で、静脈内イブプロフェン医薬組成物を重症患者に投与するステップをさらに含む。
【0035】
本発明はさらに、治療を必要とする重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を対象とし、該方法は、それらの患者に対して所望されるCmaxおよびAUCを達成するために十分な量で、静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物を重症患者に投与するステップを含み、ここで、該重症患者に投与される静脈投与用イブプロフェンの用量は、非重症患者集団に投与した場合に実質的に同等なCmaxおよびAUCをもたらす静脈内投与用イブプロフェンの用量の約2倍であり、それにより、該用量は、該重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を減少させる。
【0036】
本明細書中で用いる場合、「治療する」「治療すること」または「治療」との用語は、イブプロフェンの投与により減少もしくは軽減させることができる疾患または状態の少なくとも1種の症状を、既に呈しているか、過去に呈したことがあるか、かつ/あるいは呈するリスクを有する個体へのイブプロフェンの投与を意味する。そのような疾患および状態の例としては、疼痛、炎症、および発熱が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】重症患者と非重症患者における100mg IVIbの投与後の平均イブプロフェン血漿濃度(0〜4時間)を示す図である。
【図2】重症患者と非重症患者における200mg IVIbの投与後の平均イブプロフェン血漿濃度(0〜4時間)を示す図である。
【図3】重症患者と非重症患者における400mg IVIbの投与後の平均イブプロフェン血漿濃度(0〜4時間)を示す図である。
【図4】400mg IVIbとプラセボでの体温を階層により時間に対して示す図である。
【図5】実施例1の研究で得られた重症患者における平均動脈圧(MAP)のまとめを表す表である。
【図6】実施例1の研究で得られた非重症患者における平均動脈圧(MAP)のまとめを表す表である。
【図7】実施例1についての重症患者における48時間MAPを図示するグラフである。
【図8】実施例1についての非重症患者における48時間MAPを図示するグラフである。
【図9】IVIbとプラセボについての実施例3の重症患者における平均体温の差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書中では、治療を必要とする患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法が提供される。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、部分的には、患者における、疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療し、かつ血圧(例えば、平均動脈圧により測定される)の上昇、高血圧の悪化、または新規高血圧の発症を引き起こさない様式における、患者における静脈内投与用NSAIDの投与を対象とする。イブプロフェンをはじめとするNSAIDを用いた治療が、NSAIDを投与されたことがある患者における新規高血圧の発症または高血圧の悪化をもたらす場合があることが十分に立証されているという事実に従えば、これは予想外のことである。一部の好ましい実施形態では、NSAID(イブプロフェン)の用量は、患者の平均動脈圧に対して臨床的意義がある影響(例えば、平均動脈圧の上昇なしまたは統計学的に有意な上昇なし)をもたらす。
【0040】
一部の実施形態では、患者は重症患者である。「重症」患者は、昇圧サポート、人工呼吸のうち少なくとも1つを施されているか、(例えば、病院の)集中治療室(「ICU」)で治療されているか、多量の血液製剤(特に、濃縮赤血球)を投与されているか、透析(特に、持続的静脈-静脈血液濾過)を受けているか、複数の抗生物質を投与されているか、または肺動脈カテーテルを挿入されているか、もしくは動脈圧カテーテルを挿入されている患者である。重症患者についてのこれらの基準は単に例示的なものであり、当業者であれば、重症状態にある患者の他の兆候が考えられかつ本明細書中で用いる場合の「重症」との用語により包含されるとみなされることを理解するであろう。本明細書中で用いる場合、「昇圧サポート」を施されている患者とは、十分な血圧を維持することができず、その結果、患者の血圧を上げるために昇圧剤を用いて治療されている患者を意味する。昇圧サポート薬物治療の例としては、ノルエピネフリン(例えば、レボフェド(Levophed)(登録商標)のブランド名で販売されている)が挙げられる。
【0041】
本明細書中に記載される一部の方法は、イブプロフェンを含む静脈投与用医薬組成物を患者に投与するステップを含む。イブプロフェンの静脈内投与用医薬組成物としては、ボーラス注入をはじめとするいずれかの静脈内投与法により患者に投与するのに好適ないずれかの製剤が挙げられる。一部の実施形態では、注入速度は、用量が約30分間にわたって投与されるようなものである。一部の実施形態では、注入速度は、30分間未満にわたって用量が投与されるようなものである。一部の実施形態では、注入速度は、30分間超にわたって用量が投与されるようなものである。
【0042】
本明細書中に記載される治療方法の別の実施形態では、イブプロフェンを含む医薬製剤は、注射法により患者に投与される。そのような実施形態では、イブプロフェンの医薬製剤は、注射法による患者への投与に好適な製剤である。好適な注射法としては、静脈内注射に加えて、動脈内注入、筋内注射、経皮注射、および皮下注射が挙げられる。
【0043】
静脈内投与のための好適な担体としては、限定するものではないが、生理食塩水またはリン酸緩衝食塩水(PBS)、ならびにグルコース、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコールならびにそれらの混合物などの可溶化剤を含有する溶液が挙げられる。
【0044】
製剤は、水性ビヒクルを含有することができる。水性ビヒクルとしては、例として、限定ではなく、塩化ナトリウム注射、リンゲル注射、等張デキストロース注射、滅菌水注射、デキストロース、および乳酸加リンゲル注射が挙げられる。非水性非経口投与用ビヒクルとしては、例として、限定ではなく、植物由来の固定油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油およびラッカセイ油が挙げられる。静菌性または静真菌性原液中の抗微生物剤を、複数用量容器にパッケージされた非経口用製剤に添加しなければならず、そのようなものとしては、フェノールまたはクレゾール、水銀剤、ベンジルアルコール、クロロブタノール、pヒドロキシ安息香酸メチルおよびプロピルエステル、チメロサール、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが挙げられる。等張剤としては、例として、限定ではなく、塩化ナトリウムおよびデキストロースが挙げられる。バッファーとしては、リン酸およびクエン酸が挙げられる。抗酸化剤としては、硫酸水素ナトリウムが挙げられる。局所麻酔薬としては、塩酸プロカインが挙げられる。懸濁剤および分散剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンが挙げられる。乳化剤としては、ポリソルベート80(TWEEN(登録商標)80)が挙げられる。金属イオン封鎖剤またはキレート剤としては、EDTAが挙げられる。製薬用担体としてはまた、例として、限定ではなく、水混和性ビヒクル用にエチルアルコール、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコール、ならびにpH調整のために水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸または乳酸が挙げられる。
【0045】
典型的には、治療上有効な投与量を製剤化して、少なくとも約0.1%w/wから約90%w/wまでまたはそれ以上(1%w/w超など)のイブプロフェンを含有させる。
【0046】
本明細書中で用いる場合、「投与レジメン」とは、患者にイブプロフェンを含む静脈内投与用医薬製剤を投与するために用いられるプロトコールを意味する。一部の実施形態では、投与レジメンは、投与量および投与間隔を含む。一部の実施形態では、投与レジメンは、投与時間をさらに含む。本明細書中で用いる場合、「投与時間」とは、用量が投与される時間を意味する。例えば、400mgのイブプロフェンを含む医薬組成物の一定量を、30分間の投与時間にわたって投与し、用量の投与を6時間毎に開始し、したがって、投与レジメンは、400mg、6時間毎、30分間にわたって投与である。一部の実施形態では、投与時間は、単純に、400mg、6時間毎と規定される。
【0047】
本明細書中に記載された一部の実施形態では、重症患者のための投与レジメンは、非重症患者へのイブプロフェンの第二投与レジメンの投与によりもたらされる第二の薬物動態プロフィールとほぼ同等である、重症患者における第一の薬物動態プロフィールをもたらすものとして定義される。本明細書中で用いる場合、2つのプロフィールの間でほぼ同等である少なくとも1種類のパラメータにより定義した場合に、2つの薬物動態プロフィールは「ほぼ同等」である。そのようなパラメータの非限定的な例としては、血漿濃度-時間曲線下面積(AUC)および一用量の投与後に到達する最大血漿濃度(Cmax)が挙げられる。
【0048】
一部の実施形態では、低い方の値が、高い方の値の70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、96%超、97%超、98%超、または99%超である場合、2つの薬物動態プロフィールはほぼ同等である。
【0049】
2つの投与レジメンの薬物動態プロフィールは、第一投与レジメンを投与された患者集団での平均薬物動態プロフィールを決定するステップ、第二投与レジメンを投与された患者集団での平均薬物動態プロフィールを決定するステップ、および続いて、それら2つの集団投与レジメンを比較するステップにより比較する。
【0050】
本明細書および特許請求の範囲で用いられる成分の量、反応条件などを表すすべての数字は、「約」との用語によりすべての場合で修飾されるものと理解されるべきである。したがって、逆のことが示されていない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数的パラメータは近似値であり、本発明により取得しようとする所望の特性によって変わり得る。最低限でも、そして特許請求の範囲に対する等価物の原理の適用を限定しようとするものではなく、各数的パラメータは、有効桁数および通常の四捨五入アプローチに照らして理解されるべきである。
【0051】
本発明は、本明細書中に開示されたCaldolor(登録商標)製剤および投与に対する生物学的等価物である、通常のFDA基準により定義しされているようなイブプロフェンの静脈内投与用製剤の使用を考慮する。特に、製剤および方法が、静脈内投与用イブプロフェン(Caldolor(登録商標))の投与に関して本明細書中で考慮されるCmaxおよびAUC値の80〜125%のCmaxおよびAUCプロフィールのうち少なくとも1つを示すことが考慮される。
【0052】
つまり、一部の実施形態では、本発明は、例えば、昇圧サポートおよび人工呼吸のうち少なくとも1つを施されている、治療を必要とする重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を対象とし、該方法は、約20.8μg/ml〜約75μg/mlの平均Cmaxを達成するために、4〜6時間毎に約400mg〜約800mgの用量で、静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物を該重症患者に投与するステップを含む。20.8μg/mlの平均Cmaxの値は、実施例1で取得された約26(25.7)μg/mlのCmax値の80%を算出することにより取得される。約75μg/mlの平均Cmaxの値は、実施例2〜3から推量される約60μg/mlのCmax値の125%を算出することにより取得される(段落076を参照されたい)。
【0053】
一部の好ましい実施形態では、方法は、約36.8μg.h/ml〜約117.5μg.h/mlの平均AUCを達成するために、4〜6時間毎に約400mg〜約800mgの用量で、静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物を重症患者に投与するステップをさらに含む。36.8μg.h/mlの平均AUCの値は、実施例1で取得された約46(45.937)μg.h/mlのAUC値の80%を算出することにより取得される。117.5μg.h/mlの平均AUCの値は、実施例2〜3から推量される約94μg.h/mlの125%を算出することにより取得される(段落076を参照されたい)。
【0054】
本発明はさらに、昇圧サポートおよび人工呼吸のうち少なくとも1つを施されている、治療を必要とする重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を対象とし、該方法は、それらの患者に対して所望されるCmaxおよびAUCを達成するのに十分な量で、静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物を該重症患者に投与するステップを含み、該重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は、非重症患者集団に投与した場合に実質的に同等なCmaxおよびAUCをもたらす静脈内投与用イブプロフェンの用量の約2倍であり、それにより、該用量は、該重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を減少させる。この方法の一部の好ましい実施形態では、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は200mgであり、11.5μg/mlの約80%〜約125%の平均Cmaxをもたらす。この方法の一部のさらなる好ましい実施形態では、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は200mgであり、19.6μg.h/mlの約80%〜約125%の平均(AUC)0-4をもたらす。この方法の一部の好ましい実施形態では、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は400mgであり、25.7μg/mlの約80%〜約125%の平均Cmaxをもたらす。この方法の一部のさらなる好ましい実施形態では、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は400mgであり、45.9μg.h/mlの約80%〜約125%の平均(AUC)0-4をもたらす。この方法の他の実施形態では、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は800mgであり、60μg/mlの約80%〜約125%の平均Cmaxをもたらす。この方法の一部のさらなる好ましい実施形態では、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は800mgであり、94μg.h/mlの約80%〜約125%の平均(AUC)0-tをもたらす。
【0055】
本発明はさらに、昇圧サポートおよび人工呼吸のうち少なくとも1つを施されている、治療を必要とする重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法を対象とし、該方法は、(i)約8.2μg/ml±6.3の平均Cmaxをもたらすために100mgのイブプロフェン;または(ii)約11.5μg/ml±2.8の平均Cmaxをもたらすために200mgのイブプロフェン;または(iii)約25.7μg/ml±8.3の平均Cmaxをもたらすために400mgのイブプロフェンまたは(iv)約60μg/mlの80〜125%の平均Cmaxをもたらすために800mgのイブプロフェンの投与量でイブプロフェンを含む静脈内投与用医薬組成物を該重症患者に投与するステップを含む。この方法の一部の好ましい実施形態では、イブプロフェンの用量は、100mgのイブプロフェンの一用量について約16.1μg.h/ml±14.6の平均血漿濃度-時間曲線下面積(AUC)0-4;200mgのイブプロフェンの一用量について約19.6μg.h/ml±7.0の平均血漿濃度-時間曲線下面積(AUC)0-4;400mgのイブプロフェンの一用量について約45.9μg.h/ml±16.2の平均血漿濃度-時間曲線下面積(AUC)0-4;または800mgのイブプロフェンの一用量について約94μg.h/mlの80〜125%の平均血漿濃度-時間曲線下面積(AUC)0-tをもたらす。
【0056】
この方法の一部の好ましい実施形態では、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は200mgであり、11.5μg/mlの約80%〜約125%の平均Cmaxをもたらす。この方法の一部のさらなる好ましい実施形態では、重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量は200mgであり、19.6μg.h/mlの約80%〜約125%の平均(AUC)0-4をもたらす。
【実施例】
【0057】
以下の実施例は、前述の知見の具体的な実施形態を表すものであり、本発明の全範囲を表すものではない。
【0058】
実施例1
本研究は、重症度により階層化した入院患者(重症-非重症)で実施した。重症患者は、昇圧サポートおよび/または人工呼吸を施されている患者として定義した。患者には、示した投与量で静脈内投与用イブプロフェン(Caldolor(登録商標))を投与した。
【0059】
本研究に適格であるために、本研究の患者は以下の基準のすべてを満たした:入院している;101.0°F(38.3℃)以上の体温により実証される発熱の新規発症(過去7日間で慢性でない)(体温測定の好ましい方法は体幹であった。非体幹経路を用いた場合、体温測定は追加の測定経路により確認していなければならない;無作為化の直前に用いた体温測定経路を、投与直前および治療期間中のすべての体温測定に用いた);適切な静脈内アクセスを有した;かつ研究要件を理解し、これを順守した。無作為化は、無作為化の時点での患者の状態の重症度(重症または非重症)に基づいて階層化した。無作為化された被験体のうち少なくとも33%が重症である必要があり(入院中で、呼吸不全のための人工呼吸器、低血圧のための昇圧サポート、またはその両方を必要とする)、少なくとも33%は重症でない必要がある。
【0060】
被験製品、用量および投与様式は、静脈内投与用イブプロフェン:100、200または400mg、静脈内投与であった;参照製品、用量および投与様式は、生理食塩水、100ml、静脈内投与であった。治療の持続時間は、4時間毎に6用量とした。血漿イブプロフェンレベルは、被験体のサブセット(n=98)から、ベースラインならびに0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22および24時間で、薬物動態解析のために取得した。非重症および重症入院患者における発熱の治療のための静脈内投与用イブプロフェン(IVIb)の有効性を評価するデータセットの解析により、薬物動態および体温の低下に対する治療効果の差異が明らかになった。IVIbのすべての用量についてのCmaxおよびAUCは、非重症患者と比較して重症患者で著明に減少し、薬物動態は両方の患者集団で一次に留まった。表1は、研究に参加した患者から決定した薬物動態パラメータをIVIb用量レベルおよび階層により示すまとめを表す。
【表1】

【0061】
図1、2および3は、治療群についてのCmaxを階層により図示する。
【0062】
本研究で示された薬物動態学的差異の臨床的意義をよりよく理解するために、非重症患者および重症患者における発熱の治療に対するIVIbの有効性を調べた。図4では、非重症および重症入院患者における体温に対するプラゼボとIVIbの400mg用量の効果を比較する。これらのデータは、疾患の重症度がIVIbのCmaxおよびAUCを低下させているようであること、これが治療効果を限定しているようであることを示唆している。
【0063】
4時間で、「治療意思」(ITT)集団では、プラセボ群の28名のうち9名(32%)と比較して、400mg IVIb群の被験者の31名のうち24名(77%)が、101.0°F(または38.3℃)未満の体温を有しており(p=0.0005)、このことはまた、発熱を減少させ、一次エンドポイントを満たすことに対するIVIbの400mg用量の有効性を明らかに実証する。
【0064】
さらに、100mgおよび200mgの用量もまた、4時間の一次エンドポイントでの発熱の減少において統計学的に有意であることが見出された。
【0065】
有害事象の発生率に関しては、100mg治療群で13%(n=4)でありプラセボ群では0%の発生率であった菌血症(p=0.045)を除いて、治療群とプラセボとの間に統計学的有意差はなかった(少なくとも3名の被験者で生じた事象に限る)。プラセボと比較したいずれの治療群でも、重症有害事象または死亡の発生率において統計学的に有意な差異はなかった。
【0066】
400mgが発熱の減少への適応に対する有効用量として提案されるが、低用量での発熱の減少が適切でなければ、発熱の治療のための800mgまでの用量調整が支持される場合がある。表2は、AUC0-4およびCmax0-4薬物動態学的パラメータについての重症階層と非重症階層との差異%を表す。
【表2】

【0067】
重症患者についてのAUCおよびCmax薬物動態学的パラメータの値は、非重症患者についてのパラメータと比較して約50%であった。この差異により、治療対象の患者についての疾患の重症度に応じて、発熱の治療のために用量を400mgから800mgまで増加させる必要がある場合があることが示唆される。
【0068】
有効性および安全性の全体的な結果に基づけば、IVIbは、重症患者および非重症患者の両方で、発熱の減少で安全かつ有効であると考えられる。
【0069】
図5および6は、実施例1の研究で得られた治療による平均動脈圧(MAP)のまとめ(すなわち、重症と非重症)を与える表である。このデータは、図7および8でさらに示され、図7は重症患者における48時間MAPを図示し、図8は非重症患者における48時間MAPを図示する。
【0070】
図5〜8に与えられたデータから、平均動脈圧の上昇を引き起こすのではなく、IVIbの一用量を投与された重症および非重症患者は、平均動脈圧の上昇を示さなかったことが明らかである。
【0071】
実施例2
本研究は、健常成人ボランティアでのイブプロフェン注射(IVIb)の薬物動態、安全性および忍容性の無作為化二重盲検プラセボ対照単回用量交差試験である。これにより、5〜7分間にわたって投与されたIVIbの単回用量の薬物動態プロフィールを評価した。
【0072】
12名の被験者を2シーケンスのうちの一方に等しい割合で無作為化した:
シーケンスA:治療期間の第1日に同時に投与されるIVIbおよび経口投与プラセボの単回用量と、それに続く治療期間の第8日に同時に投与される経口投与イブプロフェンおよび静脈内プラセボの単回用量。第2〜7日はウォッシュアウト期間とした。
シーケンスB:治療期間の第1日に同時に投与される経口投与イブプロフェンおよび静脈内投与プラセボの単回用量と、それに続いて治療期間の第8日に同時に投与されるIVIbおよび経口投与プラセボの単回用量。第2〜7日はウォッシュアウト期間とした。
【0073】
各期間で、被験者に以下の一方のイブプロフェン800mgの単回用量を投与した:
・192mLの生理食塩水に添加した8mLのIVIb 100mg/mL、プラセボカプセルと共に;
・800mg錠剤イブプロフェン、200mLの生理食塩水IVと共に。
【0074】
経口用量は、約240mlの水と共に投与した。
【0075】
血漿中の薬物動態学的パラメータを、12名の被験者全員について測定した。イブプロフェン(IVIbおよび経口投与)の主要な血漿中薬物動態学的パラメータの平均(および標準偏差)を、治療毎に以下の表3に示す:
【表3】

【0076】
中央値Tmaxは、IVIbについて0.11時間(6.5分)であり、経口投与イブプロフェンについて1.50時間であった。
【0077】
治療間の比較により、AUC0-tlastの幾何的最小二乗平均の平均比(平均比100%、90%信頼区間90%〜112%)により決定した場合、静脈内投与イブプロフェン(IVIb)は経口投与イブプロフェンと同等なバイオアベイラビリティを有することが示された。IVIbの平均Cmaxは、経口用量の約2倍であった。経口用量の中央値Tmaxは1.50時間であり、5〜7分間にわたる静脈内注入については6.5分であった。本研究では、5〜7分間にわたって投与した場合、静脈内投与イブプロフェン(IVIb)が、安全でありかつ忍容性が高いことが見出された。
【0078】
実施例3
従前の研究(薬物動態学サンプルは取得されなかった)では、IVIb(Caldolor(登録商標))投与は、6時間毎の800mg IVIbまでであった。この投与レジメンは、48時間の投与時間を通して、発熱の有意かつ持続的な減少をもたらした。本実施例で報告する研究での定義によれば、この試験での患者の大多数は重症であるとみなされるので、従前の研究の結果は、必要であれば800mgまでの用量を支持する。
【0079】
より詳細には、これは、重症敗血症を有する参加者での静脈内投与イブプロフェンの無作為化二重盲検プラセボ対照試験であった。重症敗血症の基準を満たす参加者を登録し、無作為化して、生理食塩水、乳酸加リンゲル液、もしくはD5W(水中5%デキストロース)で希釈して投与する静脈内投与イブプロフェンまたはグリシンバッファービヒクルのいずれかを投与した。参加者には、イブプロフェン注射50mg/mlまたはグリシンバッファーからなるプラセボビヒクルのいずれかを投与し、これらはいずれも8用量について6時間毎に30〜60分間にわたって静脈内投与した。参加者を、合計30日間または退院もしくは死亡まで追跡した。
【0080】
ベースラインでのすべての登録患者に関して、プラセボ群についての平均体温は100.5±0.12であり、イブプロフェン治療群については100.4±0.14であった。IVIbの投与後2時間以内で、イブプロフェン治療群はプラセボ処置群よりも統計学的に有意に低い体温を有していた(100.2±0.14プラセボ、99.5±0.13イブプロフェン、p=0.001)。44時間の評価を通して、差異は有意なままであった;IVIbの最終用量の投与2時間後(図5)。IVIbを中止した後、プラセボ群とイブプロフェン群との間に統計学的に有意な差異は記録されなかった。
【0081】
重症敗血症を有する被験者に6〜8時間毎に10mg/kg(最大800mg)の用量で静脈内投与されたイブプロフェンは、14日または30日全死因死亡率を変化させず、また臓器不全率または臓器不全好転率も変化させないことが結論付けられた。イブプロフェンは、重症敗血症に伴う発熱、頻脈、多呼吸および乳酸アシドーシスを減少させる。比較的高用量の静脈内投与イブプロフェンの短期的使用は、臨床的に顕著な副作用または毒性をもたらさない。
【0082】
本研究で得られたデータに基づけば、実施例2で報告した研究から得られた薬物動態学的データと併せて、重症患者における800 IVIb用量について得られるCmaxおよびAUCレベルは、非重症患者について得られるCmaxおよびAUCの約1/2(50%)であると推論される。さらに、重症患者では、800mg IVIb用量は、約60μg/mlの80〜125%の平均Cmaxおよび約94μg.h/mlの80〜125%の(AUC)0-tをもたらすであろうと推論される。非重症患者における800mg IVIb用量についてのCmax(120μg/ml)の1/2を計算することにより、Cmaxの数字が得られる。同様に、非重症患者について得られた(AUC)0-t(188μg.h/ml)の1/2を計算することにより、AUCが得られる。
【0083】
結語
本明細書中に記載された方法および用途への他の好適な改変および調整が好適であり、本発明の範囲またはいずれかのその実施形態から逸脱することなくなされ得ることが、該当する技術分野の当業者には容易に明らかになるであろう。一部の実施形態に関して本発明を説明してきたが、記載した特定の形態に本発明を限定することを意図するものではなく、逆に、以下の特許請求の範囲に規定される本発明の精神および範囲に含まれ得るそのような代替、改変および等価物に及ぶことが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とするヒト患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法であって、静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物を、疼痛、炎症、および発熱からなる群より選択される該患者の少なくとも1種の状態を治療するのに有効な量で、投与間隔の間に該患者の平均動脈圧が該イブプロフェン用量の静脈内投与前に測定したベースラインレベルから上昇しないようにヒト患者に投与することを含む、上記方法。
【請求項2】
約4〜約6時間の投与間隔および約100mg〜約800mgの用量でイブプロフェンを投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者が重症であり、4〜6時間毎に約400mg〜約800mgの用量でイブプロフェンを投与して、約20.8μg/ml〜約75μg/mlの平均Cmaxを達成することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
4〜6時間毎に約400mg〜約800mgの用量で静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物を前記重症患者に投与して、約36.8μg.h/ml〜約117.5μg.h/mlの平均AUCを達成することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
医薬組成物がアルギニンとイブプロフェンの水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アルギニンのイブプロフェンに対するモル比が、1:1以下、0.99:1以下、0.98:1以下、0.97:1以下、0.96:1以下、0.95:1以下、0.94:1以下、0.93:1以下、0.92:1以下、0.91:1以下、0.90:1以下、0.60:1以下から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ヒト患者を治療する方法であって、静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物を、該患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療するのに有効な量で該患者に投与すること、ならびに該患者に平均動脈圧の統計学的に有意な上昇をもたらさないことを含む、上記方法。
【請求項8】
前記ヒト患者が重症であり、非重症患者集団に投与した場合に実質的に同等なCmaxおよびAUCをもたらす静脈内投与用イブプロフェンの用量の約2倍である静脈内投与用イブプロフェンの用量を該患者に投与することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量が400mgであり、かつ25.7μg/mlの約80%〜約125%の平均Cmaxをもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量が400mgであり、かつ45.9μg.h/mlの約80%〜約125%の平均(AUC)0-4をもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量が800 mgであり、かつ60μg/mlの約80%〜約125%の平均Cmaxをもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記重症患者に投与される静脈内投与用イブプロフェンの用量が800mgであり、かつ94μg.h/mlの約80%〜約125%の平均(AUC)0-tをもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記患者に投与される用量が100〜1600mgである、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
第一投与レジメンで投与されるイブプロフェンの用量が、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、800mg、1000mg、1200mg、1400mg、1600mg、2400mg、および3200mgから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
第一投与レジメンで投与されるイブプロフェンの用量が、100mg、200mg、400mg、および800mgから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
約4時間毎、約6時間毎、および6時間毎超からなる群より選択される投与間隔で前記患者にイブプロフェンの用量を投与することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
アルギニンとイブプロフェンの水溶液として前記医薬組成物を投与することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
治療を必要とする重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法であって、(i)約8.2μg/ml±6.3の平均Cmaxを達成するための100mgのイブプロフェン;または(ii)約11.5μg/ml±2.8の平均Cmaxを達成するための200mgのイブプロフェン;または(iii)約25.7μg/ml±8.3の平均Cmaxを達成するための400mgのイブプロフェンまたは(iv)約60μg/mlの80〜125%の平均Cmaxを達成するための800mgのイブプロフェンの投与量でイブプロフェンを含む静脈内投与用医薬組成物を重症患者に投与することを含み、該イブプロフェンの用量が該患者に平均動脈圧の統計学的に有意な上昇をもたらさない、上記方法。
【請求項19】
前記重症患者が、昇圧サポート;人工呼吸;集中治療室で治療されている;多量の血液製剤を投与されている;透析を受けている;複数の抗生物質を投与されている;肺動脈カテーテルまたは動脈血圧カテーテルを挿入されている;および上記のいずれかの組み合わせからなる群より選択される治療を施されている患者である、請求項5に記載の方法。
【請求項20】
前記重症患者が、昇圧サポート;人工呼吸;集中治療室で治療されている;多量の血液製剤を投与されている;透析を受けている;複数の抗生物質を投与されている;肺動脈カテーテルまたは動脈血圧カテーテルを挿入されている;および上記のいずれかの組み合わせからなる群より選択される治療を施されている患者である、請求項8に記載の方法。
【請求項21】
前記重症患者が、昇圧サポート;人工呼吸;集中治療室で治療されている;多量の血液製剤を投与されている;透析を受けている;複数の抗生物質を投与されている;肺動脈カテーテルまたは動脈血圧カテーテルを挿入されている;および上記のいずれかの組み合わせからなる群より選択される治療を施されている患者である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
心血管イベントの高リスクを有する重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療する方法であって、該重症患者における疼痛、炎症、および発熱から選択される少なくとも1種の状態を治療するのに有効な量で静脈内投与用イブプロフェン医薬組成物の用量を重症患者に静脈内投与することを含み、該静脈内投与用イブプロフェンの用量が該患者に平均動脈圧の統計学的に有意な上昇をもたらさない、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−533542(P2012−533542A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520637(P2012−520637)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/036015
【国際公開番号】WO2011/008347
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504154171)カンバーランド ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】