説明

静電型アクチュエータ、液体吐出ヘッド及び画像形成装置

【課題】空隙内圧と大気圧の差圧解消や信頼性向上を目的とする空隙内へのガス導入を行う大気開放部を封止するときに封止材が不必要な部分に流れ出して接合不良、接続不良、特性不良を起こす。
【解決手段】空隙13に連通する連通路15と、連通路15を外部に連通させる大気開放孔42を有する大気開放部16と、大気開放部16の大気開放孔42を封止する封止材36と、大気開放部16の周囲を囲む凸段差部37とが設けられ、大気開放孔42を通じてガス導入を行った後に封止材36で大気開放孔42を封止するとき、封止材36の流動性が残っている段階でも凸段差部37で堰きとめられて、大気開放部16以外の箇所への流れ出しが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電型アクチュエータ、液体吐出ヘッド及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリンタ、ファックス、コピア、プロッタ、或いはこれらの内の複数の機能を複合した画像形成装置としては、例えば、インクの液滴を吐出する液体吐出ヘッドで構成した記録ヘッドを備え、媒体(以下「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、また、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。)を搬送しながら、インク滴を用紙に付着させて画像形成(記録、印刷、印写、印字も同義語で用いる。)を行なうものがある。
【0003】
なお、「画像形成装置」は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味し、また、「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する液体吐出装置を含む)ことをも意味する。また、「インク」とは、狭義のインクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、DNA、処理液、試料、レジスト、パターン材料なども含まれる。
【0004】
液体吐出ヘッドとしては、電気機械変換素子などの圧電型アクチュエータを用いたもの、電気熱変換素子に膜沸騰を利用するサーマル型アクチュエータを用いたもの、振動板と電極間の静電力を利用する静電型アクチュエータを用いたものなどがあり、この中でも静電型アクチュエータを用いたヘッドは、小型化、高速化、高密度化、省電力化において他の方式のヘッドに比べて優位であるという利点を有している。
【0005】
このような、静電型アクチュエータを用いた液体吐出ヘッドにおいては、振動板と電極との間の空隙(ギャップ)の寸法(ギャップ長)精度がその特性に大きく影響を及ぼし、特に、画像形成装置に使用する液体吐出ヘッドの場合、各アクチュエータの特性のバラツキが大きければ、印字精度、画質の再現性が著しく低下することとなる。そこで、特許文献1に記載されているような2枚の基板を接合する構成ではギャップ精度が低下することから、特許文献1、2に記載されているように犠牲層エッチングでギャップを形成することが行われる。
【0006】
そして、静電型アクチュエータにおいては、空隙内圧と大気圧の差圧解消あるいはアクチュエータの信頼性向上を目的として、空隙内へのガス導入のために各空隙を連通する連通路を設けることが行われている。例えば、特許文献2に開示されているように、アクチュエータの耐久性を向上させる目的で振動板と個別電極との空隙内部に疎水膜を形成する為に、アクチュエータ空隙と連通する連通路と、この連通路を外部に連通させる大気開放部を設けて、この大気開放部から連通路を介して疎水膜となるガス、液体をアクチュエータ空隙に導入し、空隙内部表面に疎水膜を形成後、大気開放部を封止材で封止したものが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−77864号公報
【特許文献2】特開2008−077849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えば、特許文献2に記載されている静電型アクチュエータ基板にあっては、アクチュエータ空隙、連通路、大気開放部の空隙を一度の犠牲層エッチングプロセスで形成されており、大気開放部から疎水膜となるガスや液体をアクチュエータ空隙に導入する場合、大気開放部のアクチュエータの振動板に相当する部分に大気開放孔を開口する必要がある。
【0009】
一方、アクチュエータ空隙内へ疎水膜を形成した後は、疎水膜となるガスをアクチュエータ空隙内に閉じ込める必要があり、また開口した大気開放孔から大気中水分や異物の混入を防ぐために封止材、例えばエポキシ系接着剤、で大気開放孔を封止し、アクチュエータ空隙内を密閉する必要がある。
【0010】
ところが、大気開放孔を封止するとき、封止材が本来封止を必要としない、例えば他の基板が接合する部分や外部への電極取り出し端子(パッド)となる部分、あるいは振動板領域に付着して、他の基板との接合や電気接続の障害、動作不良、接合不良、接続不良、特性不良などを引き起こしてしまうという課題がある。
【0011】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、大気開放部の封止に伴って封止材が不必要な箇所に及ばないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る静電型アクチュエータは、
変形可能な振動板及びこの振動板に空隙を介して対向する電極を備える静電型アクチュエータにおいて、
前記空隙に連通する連通路と、
前記連通路を外部に連通させる大気開放孔を有する大気開放部と、
前記大気開放部の大気開放孔を封止する封止材と、
前記大気開放部の周囲を囲む凸段差部と、が設けられている
構成とした。
【0013】
ここで、前記凸段差部は二重以上設けられている構成とできる。
【0014】
また、前記凸段差部はアクチュエータを構成する1又は2以上の構成膜で形成されている構成とできる。
【0015】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、本発明に係る静電型アクチュエータを備えたものである。
【0016】
本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る静電型アクチュエータによれば、大気開放部の周囲を囲む凸段差部が設けられているので、大気開放孔を封止する封止材が不必要な箇所に及ぶことが防止され、封止材が他の不必要な箇所の及ぶことで生じる動作不良、接合不良、接続不良、特性不良などを防止できる。
【0018】
本発明に係る液体吐出ヘッドによれば、本発明に係る静電型アクチュエータを備えているので、信頼性の高い静電型液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0019】
本発明に係る画像形成装置によれば、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、信頼性の高い静電型液体吐出ヘッドを備える画像形成装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明に係る液体吐出ヘッドの斜視説明図、図2は同ヘッドの分解斜視説明図、図3は図1の面S1に沿う液室長辺方向の断面説明図、図4は図1の面S2に沿う液室長辺方向の断面説明図である。
【0021】
この液体吐出ヘッド100は、基板面部に設けたノズル孔から液滴を吐出させるサイドシュータタイプのものであり、第1の基板であるアクチュエータ基板1と第2の基板である流路基板2と第3の基板であるノズル基板3を順次積層して構成し、これら3枚の基板1〜3を接合して液滴吐出を吐出するノズル4がノズル連通路5を介して連通する液室(吐出室)6と、液室6にインクを供給するための流体抵抗部7及び共通液室8を形成している。各液室は液室間隔璧9で仕切られている。
【0022】
アクチュエータ基板1は、図2に示すように、液室6の一部の壁面を形成する振動板領域(変形可能領域)12Aを形成する振動板12と、この振動板12の振動領域12Aを犠牲層エッチングによって形成した空隙(ギャップ)13を介して対向する個別電極14を備え、これらの振動板12と個別電極14によって各液室6に対応する静電型アクチュエータを構成する。
【0023】
また、アクチュエータ基板1には、ノズル4の並び方向に、各空隙13を相互に連通させるとともにアクチュエータ基板1自体の外部又は連通させるための共通連通路(連通管)15を形成し、この共通連通路15に個別連通路15Aを介して空隙13を連通させ、共通連通路15の他端部は共通連通路15を大気に開放するための大気開放部16に連通されている。この大気開放部16はアクチュエータ基板1を形成した段階で封止剤によって封止される。
【0024】
のアクチュエータ基板1は、図3に示すように、シリコン基板21上に絶縁膜22を介して個別電極14となるエッチング可能な電極形成層24を形成し、この電極形成層24上に絶縁膜25を形成し、更に絶縁膜25上に空隙13と共通連通路15と個別連通路15A及び大気開放部16の大気開放空隙を形成する為の犠牲層27を形成し、この犠牲層27上に絶縁膜28を形成して、この絶縁膜28に、図4に示すように、犠牲層除去孔29を形成し、この犠牲層除去孔29から犠牲層27を除去して空隙13と共通連通路15と個別連通路15A及び大気開放部16の大気開放空隙を形成するとともに絶縁膜28上に振動板部材30を積層形成している。
【0025】
なお、個別電極14の表面に形成した絶縁膜25は、振動板12との電気的短絡を防止するとともに、空隙13を形成するために犠牲層エッチング時に個別電極14を保護するためのものである。また、振動板12側の絶縁膜28も個別電極14との電気的短絡を防止するとともに、空隙13を形成するための犠牲層エッチング時に絶縁膜28上に形成される振動板部材30の一部の層を保護するためのものである。また、アクチュエータ基板1には流路基板2の共通液室8に外部からインクを供給するための供給口18を形成している。
【0026】
アクチュエータ基板1の上に接合する流路基板2は、例えば、結晶方位(110)のシリコン基板に、液室(吐出室)5と、各々の液室6に流体抵抗部7を介して連通する溝部又は凹部からなる共通液室8を設けている。
【0027】
流路基板2の上に接合するノズル基板3は、例えば、厚さ50μmのニッケルを用い、ノズル4はドライ又はウェットエッチングやレーザー加工など周知の方法で形成することができる。
【0028】
このように構成した液体吐出ヘッド100においては、各液室6内にインクが満たされた状態で、図示しない制御部から画像データに基づいて、インク滴の吐出を行うノズル4に対応する個別電極14に対して、駆動パルス発生回路により、40Vのパルス電圧を印加する。この電圧を印加することにより、個別電極14に表面にプラス電荷が帯電し、個別電極14と、振動板電極を含む振動板12との間に静電力による吸引作用が働いて、振動板12が下方に撓む。これにより、液室6の容積が広げられことから、その容積分のインクが共通液室9より流体抵抗部7を介して液室6へ流入する。
【0029】
その後、個別電極14へ印加するパルス電圧を0Vにする(印加を止める)ことにより、静電力により下方に撓んでいた振動板12は自身の剛性により元の位置へ戻る。これにより、液室6内の圧力が急激に上昇して、液室6に連通するノズル4よりインク滴が吐出される。そして、この動作を繰り返してノズル4から液滴を連続的に吐出することにより、液体吐出ヘッド100に対向して配置した被記録媒体(用紙)に画像を形成する。
【0030】
ここで、静電型アクチュエータにおいて、個別電極14と振動板12との間に作用する静電力は、F:電極間に働く静電力、ε:誘電率、S:電極の対向する面の面積、d:電極間距離、V:印加電圧としたとき、次の(1)式で与えられる。
【0031】
【数1】

【0032】
すなわち、静電力Fは、電極間距離dの2乗に反比例し、印加電圧Vの2乗に正比例していることがかわる。従って、静電型アクチュエータ又はそれを搭載した液滴吐出ヘッド100の駆動電圧の低電圧化を図るためには、個別電極14と振動板12との間隔(空隙高さ:ギャップ長)を小さくすることが重要となる。
【0033】
そこで、前述したように、空隙13を犠牲層エッチングで形成することにより、微小な空隙間隔を精度良くバラツキなく安定して形成することができるので、各アクチュエータ間での動作特性のバラツキが少なく静電型アクチュエータを得ることができ、また、この静電型アクチュエータを液体吐出ヘッド100に適用することによりノズル4間での液滴吐出特性にバラツキが少なくなって、高品質画像を形成することができる。
【0034】
次に、この液体吐出ヘッドにおける本発明の第1実施形態に係る静電型アクチュエータについて図5ないし図10をも参照して説明する。なお、図5は同アクチュエータにおけるアクチュエータ基板1を透過状態で示す平面説明図、図6は図5のX1−X1線に沿う断面説明図、図7は図5のX2−X2線に沿う断面説明図、図8はアクチュエータ基板1の大気開放部の平面説明図、図9は図8のX3−X3線に沿う断面説明図、図10は図8のY3−Y3線に沿う断面説明図である。
【0035】
このアクチュエータ基板1の振動板12は、前述したように絶縁膜28及び振動板部材30で構成され、この振動板部材30の振動板領域12Aは、図5に示すように、分離溝31で分離されている。この振動板部材30は、図6に示すように、絶縁膜28上に振動板電極(上部電極)32と膜剛性調整膜(窒化膜)33と撓み防止膜34及び樹脂膜35を順次積層して形成している。また、シリコン基板21表面に形成した絶縁膜22上の各振動板領域12Aは、図5に示すように、短辺長a及び長辺長bは、例えば短辺長aが60μm、長辺長bが1000μmとしている。
【0036】
これらの振動板領域12Aと個別電極14との間の空隙13は、犠牲層エッチングで形成する。犠牲層エッチングでは、絶縁膜25上に空隙13の高さ厚みを有する犠牲層27を形成した後、絶縁膜28と振動板電極32と膜剛性調整膜(窒化膜)33を順次積層形成して、これらを貫通する犠牲層除去孔29を形成し、この犠牲層除去孔29を介して空隙13部分の犠牲層27を除去する。
【0037】
また、この犠牲層27を除去する犠牲層エッチングでは、空隙13形成とともに共通連通路15及び個別連通路15Aと大気開放部16の大気開放空隙41を形成する。このように、振動板−電極間の空隙13、共通連通路15及び個別連通路15Aと、大気開放部16の大気開放空隙41を同じ犠牲層を除去して同時形成することによって、それぞれの空隙又は通路を相互に連通させることができ、構成が簡単で、製造工数が少なく、量産性、歩留まりが向上する。
【0038】
ここで、犠牲層除去孔29は、図5に示すように、振動板領域12Aの長辺方向に等間隔で配置するとともに、振動板領域12Aの短辺長a以下の間隔で、かつ、振動板領域12Aの対向する辺の同一に形成している。犠牲層エッチングは、等方性のため、振動板領域12Aの中央に犠牲層除去孔29が並んでいる方が犠牲層除去効率が高く、処理時間が短縮できるが、振動板領域12Aに犠牲層除去孔29があると、アクチュエータの振動特性に影響を及ぼす可能性があるため、犠牲層除去孔29は振動板領域12Aの外側に配置することが好ましい。また、犠牲層除去孔29を複数配置することにより、効率的に犠牲層27を除去することができて空隙13を効率良く形成することができる。
【0039】
また、大気開放部16の大気開放空隙41を形成するための犠牲層除去孔29については、図8ないし図10に示すように振動板領域12Aとの面積比を考慮して、効率良く犠牲層27が除去されるように犠牲層除去孔29を配置する。
【0040】
そして、犠牲層エッチング後は、犠牲層除去孔29が膜撓み防止膜34で完全封止する。その後、図示しないが外部電極への取り出しのための配線と、共通液室8にインクを供給する供給口18を形成し、液滴と接液する樹脂膜35を形成する。このとき、外部電極への取り出しのための配線形成工程で、同時に大気開放部16の大気開放孔42の周囲を取り囲むように、凸段差部37を形成し、この凸段差部37と大気開放部16で凹部となるようにする。
【0041】
さらに、大気開放部16に内部の大気開放空隙41に通じる大気開放孔42を開口し、大気開放孔42と大気開放空隙41との共通連通路15及び個別連通路15Aを通して空隙13の大気開放、あるいは空隙13へのヘキサメチルジシラザン(HMDS)などの疎水膜形成材料の導入を行う。このとき、大気開放部16領域の大気開放孔42を形成するためには、レーザー法や物理的に大気開放部16領域の振動板12を除去する。あるいは、微細加工が可能なリソエッチ法で大気開放部16の大気開放孔42を形成すると、レーザー法や物理的方法に比べて、大気開放部16の面積が小さくでき、また異物発生が抑えられるだけでなく、表面状態が平易なため、次工程への影響がほとんどないためより好ましい。
【0042】
大気開放や疎水膜形成材料を導入後、エポキシ系樹脂などで大気開放部16の大気開放孔42を完全に封止する。
【0043】
ここで、大気開放部16の大気開放孔42の封止時に、封止材が硬化までに流動し本来封止を必要としない、例えば他の基板が接合する部分や外部への電極取り出し端子(パッド)となる部分、あるいは、振動板領域に流動し付着してしまうと、他の基板との接合や電気接続の障害、動作不良となり、接合不良、接続不良、特性不良を起こしてしまう。また、封止材36が流動することにより、大気開放孔42を十分封止性を確保した状態で封止できないことがあり、耐久性の経時劣化等の信頼性に係る問題も起こる。
【0044】
そこで、本発明のように、凸段差部37で大気開放部16の周囲を取り囲む構成にしておくことで、封止材36が凸段差部37で囲まれた領域で留まり、且つ、大気開放孔42を十分の膜厚をもって封止できる。これにより、動作不良のない静電型アクチュエータが得られ、また、静電型アクチュエータの製造歩留まりが向上し、安定した静電型アクチュエータが得られる。
【0045】
次に、アクチュエータ基板の製造工程について図11ないし図18を参照して説明する。図11は図5のX1−X1線に沿う部分を示す製造工程の断面説明図、図12は図11に続く製造工程の断面説明図、図13は図5のX2−X2線に沿う部分を示す製造工程の断面説明図、図14は図13に続く製造工程の断面説明図、図15は図8のX3−X3線に沿う部分を示す製造工程の断面説明図、図16は図15に続く製造工程の断面説明図、図17は図8のY3−Y3線に沿う部分を示す製造工程の断面説明図、図18は図17に続く製造工程の断面説明図である。
【0046】
図11、図13、図15、図17の各(a)に示すように、例えば厚さ400μmのシリコン(Si)基板21に表面(ここでは両面)に厚さ1.5μmの絶縁膜(熱酸化膜)22を形成し、この絶縁膜22上に個別電極14を形成する電極形成層として、リンドープポリシリコン(大気開放部16の部分での符号14A)を厚さ0.3μmに成膜する。
【0047】
そして、ポリシリコン(電極形成層)をリソエッチ法によって分離溝40を形成して、個別電極14と隔壁を構成する部分51とに分離及びパターニングするとともに、後にシリコン基板21に貫通した供給口18を形成する部分53を除去する。その後、CVD酸化膜を厚さ0.1μmで堆積させて、ポリシリコンで形成された個別電極14と隔壁を構成する部分51上及び分離溝40内に絶縁膜25を形成する。そして、後に共通連通路15を形成する部分54と個別連通路15Aを形成する部分及び大気開放空隙41を形成する部分55の絶縁膜25をリソエッチ法により除去する。
【0048】
次に、図11、図13、図15、図17の各(b)に示すように、絶縁間膜25上に犠牲層27として、ノンドープポリシリコンを空隙である0.2μmの厚さにCVD法により成膜する。そして、ポリシリコンをリソエッチ法により空隙13となる部分57と隔壁を構成する部分58と個別連通路15Aとなる部分59と共通連通路15となる部分60とに分離及びパターニングし分離溝61を形成するとともに、供給口18となる部分53に対応する部分を除去する。
【0049】
このとき、大気開放部16となる部分では、図15、図17の各(b)に示すように、大気開放空隙41となる部分70と隔壁を構成する部分71とに分離及びパターニングして分離溝61を形成する。このように、犠牲層を形成する材料をポリシリコンとすることにより、犠牲層除去工程として一般的に知られた汎用技術を用いることができ、他材料との選択性があり、プロセスの自由度が高く、低コストで、量産性に優れ、安定したアクチュエータを得ることができる。
【0050】
この犠牲層27の形成、分離及びパターニング後、空隙13となる部分57と隔壁を構成する部分58と個別連通路15A及び共通連通路15となる部分59,60上に、また、大気開放部16の大気開放空隙41となる部分70と共通連通路となる部分59と隔壁を構成する部分71上にCVD酸化膜を堆積させて絶縁膜28を厚さ0.1μmで形成する。このとき絶縁膜28は分離溝61内にも形成される。
【0051】
次に、図11、図13、図15、図17の各(c)に示すように、絶縁膜28上に振動板電極層32となるリンドープポリシリコン層を厚さ0.1μmで形成し、このポリシリコン層をリソエッチ法により、振動板電極層32と、隔壁を構成する部分61とに分離するとともに、供給口18となる部分53は除去して開口を形成する。
【0052】
このとき、同時に犠牲層27と同じ材料からなる振動板電極層32が犠牲層エッチング時にエッチングされないようにするため、後に形成する犠牲層除去孔29よりも大きな開口径を有する開口62を形成する。また、大気開放部16となる部分では、図15、図17の各(c)に示すように、振動板電極層32となるポリシリコン層をリソエッチ法により、分離及びパターニングし、後に形成する犠牲層除去孔29よりも大きな開口62を形成する。そして、振動板電極層32上に振動板12の剛性調整層33として、LP−CVD法により0.15μmの厚さの窒化膜を堆積させる。この窒化膜からなる剛性調整膜33は、開口62内にも形成されることで振動板電極層32の開口62端面側を被覆する。
【0053】
その後、図11、図13、図15、図17の各(d)に示すように、リソエッチ法により膜剛性調整層33である窒化膜及び絶縁膜28を通じて開口径2μmの犠牲層除去孔29を形成し、また、供給口18となる部分の膜剛性調整層(窒化膜)33と絶縁膜25及び絶縁膜28を除去して供給口18の加工孔63を形成する。そして、例えば、SF6プラズマ処理や、XeF2ガスによるドライエッチなどの犠牲層エッチングを行って空隙13となる部分57の犠牲層27を完全に除去することにより、空隙13と個別連通路15A及び共通連通路15を形成する。なお、犠牲層エッチングをドライエッチでおこなっているが、TMAH溶液、KOH溶液のウェットエッチ法を用いても構わない。
【0054】
このとき、大気開放部16でも図15、図17の各(d)に示すように、リソエッチ法により剛性調整層33である窒化膜及び絶縁膜28を通じて開口径2μmの犠牲層除去孔29を形成する。犠牲層エッチングによって、大気開放空隙41となる部分55と共通連通路15が形成される。
【0055】
次に、図12、図14、図16、図18の各(a)に示すように、犠牲層除去孔29の封止を目的として、常圧CVD法により膜撓み防止膜34を形成する。このときの膜厚は、犠牲層除去孔29を封止可能な膜厚、例えば厚さ0.6μmとする。この工程を実施することにより空隙13及び大気開放空隙41は封止されて外気と完全に遮断される。
【0056】
その後、外部に電極を取り出すためにAl材料を用いて電極取出し配線パターンを形成する。このとき、図16、図18の各(b)に示すように配線形成工程で同時に大気開放部16を取り囲むように配線層で凸段差部37を形成する。
【0057】
次に、図12、図14の各(b)に示すように、リソエッチ法により供給口18となる部分の封止膜(膜撓み防止膜)34を除去した後、異方性エッチ、例えば、ICPエッチャーにより、シリコン基板21を表面から背面まで貫通するようにエッチングし、供給口18を形成する。ここで、異方性エッチで供給口18を形成することにより、加工形状制御性、微細加工性及び加工精度並びに高密度化の面等において高い効果を得ることができる。
【0058】
その後、図12、図14、図16、図18の各(c)に示すように、アクチュエータ基板表面全体に被覆性の優れた蒸着重合法により接液膜として樹脂膜35を厚さ1μmで成膜する。その後、図示しない電極配線取り出しパッド部と図16、図18の各(c)に示す大気開放部16をリソエッチ法で開口する。ここで、樹脂膜35として用いる材料としては、例えば、PBO膜(ポリベンゾオキサゾール)、ポリイミド膜、ポリパラキシリレンなどが挙げられるが、液滴に対する耐腐食性がり、蒸着重合法で形成できる材料であれば他のものでもよい。
【0059】
次に、図16、図18の各(g)に示すように、リソエッチ法により大気開放孔42を開口する。これにより、空隙13は個別連通路15Aと共通連通路15と大気開放空隙41及び大気開放孔42を介して大気に連通する。
【0060】
そこで、静電型アクチュエータの信頼性を向上させるために、例えば撥水材料であるヘキサメチルジシラザン(HMDS)を大気開放孔42から大気開放空隙41と共通連通路15と個別連通路15Aを介して空隙13内へ導入する。
【0061】
その後、硬化樹脂36により大気開放孔42を封止する。このとき、大気開放孔16を取り囲むように形成した凸段差部37により、硬化するまで流動性のある硬化樹脂36が大気開放部16以外へ広がらず、確実に大気開放孔42を封止することができる。
【0062】
以上の工程より、本発明に係る静電型アクチュエータを形成したアクチュエータ基板1が完成する。そして、このアクチュエータ基板1と、流路基板2とノズル基板3を順次積層することにより、静電型アクチュエータを含む液体吐出ヘッド100を製造することができる。
【0063】
次に、本発明の静電型アクチュエータに係る第2実施形態について図19ないし図21を参照して説明する。図19は同実施形態におけるアクチュエータ基板の大気開放部の平面説明図、図20は図19のX4−X4線に沿う断面説明図、図21は図19のY4−Y4線に沿う断面説明図である。
【0064】
アクチュエータ基板1の大気開放部16の凸段差部38は、配線層と接液膜(樹脂膜)35の積層構造で形成されており、前記実施形態の配線層単層のみで形成した凸段差部37よりも凸段差部38の高さが高くなっている。
【0065】
したがって、流動性の硬化樹脂36の大気開放部16以外への広がりを更に確実に抑えることができるとともに、大気開放孔42の更なる確実な封止が可能となることから、製造歩留まりが低下することを防ぐことができる。
【0066】
次に、本発明の静電型アクチュエータに係る第3実施形態について図22ないし図24を参照して説明する。図22は同実施形態におけるアクチュエータ基板の大気開放部の平面説明図、図23は図22のX5−X5線に沿う断面説明図、図24は図22のY5−Y5線に沿う断面説明図である。
【0067】
アクチュエータ基板1の大気開放部16の凸段差部39は、配線層と接液膜(樹脂膜)35の積層構造で形成されており、且つ凸段差部39には溝40が形成されている。つまり、凸段差部39は凸段差部39a、39bからなる二重構造としている。このアクチュエータ基板1は、硬化樹脂36が大気開放部16の凸段差部39の内側の凸段差部39aから溢れた場合でも、外側の凸段差部39bとの間の溝40内でとどまり、流動性のある硬化樹脂36が大気開放部16以外への広がりを前記各実施形態の凸段差部構成よりさらに確実に抑えることができる。
【0068】
以上より、従来技術では困難であった良好な生産性、及び生産効率を有する高精度、高密度、且つ高い信頼性を持った圧力発生機構を備えたアクチュエータ基板が実現できる。
【0069】
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドの他の実施形態としての液体カートリッジ一体型液体吐出ヘッドについて図25を参照して説明する。
この液体カートリッジ一体型ヘッド80は、ノズル81等を有する本発明に係るヘッド部82と、このヘッド部82に対して記録液(インク)を供給するインクタンク(液体タンク)83とを一体化したものである。これにより、信頼性の高い静電型アクチュエータを備えた液体カートリッジ一体型液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0070】
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載した本発明に係る画像形成装置の一例について図26及び図27を参照して説明する。なお、図26は同画像形成装置の全体構成を説明する側面説明図、図27は同装置の要部平面説明図である。
【0071】
この画像形成装置は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド101とガイドレール102とでキャリッジ103を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータ104で駆動プーリ106Aと従動プーリ106B間に架け渡したタイミングベルト105を介して矢示方向(主走査方向)に移動走査する。
【0072】
このキャリッジ103には、例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色の記録液の液滴(インク滴)を吐出する独立した4個の本発明に係る液体吐出ヘッド107k、107c、107m、107yで構成した記録ヘッド107を主走査方向に沿う方向に配置し、液滴吐出方向を下方に向けて装着している。なお、ここでは独立した液体吐出ヘッドを用いているが、各色の記録液の液滴を吐出する複数のノズル列を有する1又は複数のヘッドを用いる構成とすることもできる。また、色の数及び配列順序はこれに限るものではない。
【0073】
キャリッジ103には、記録ヘッド107に各色のインクを供給するための各色のサブタンク108を搭載している。このサブタンク108にはインク供給チューブ109を介して図示しないメインタンク(インクカートリッジ)からインクが補充供給される。
【0074】
一方、給紙カセット110などの用紙積載部(圧板)111上に積載した被記録媒体(用紙)112を給紙するための給紙部として、用紙積載部111から用紙112を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙ローラ)113及び給紙ローラ113に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド114を備え、この分離パッド114は給紙ローラ113側に付勢されている。
【0075】
そして、この給紙部から給紙された用紙112を記録ヘッド107の下方側で搬送するための搬送部として、用紙112を静電吸着して搬送するための搬送ベルト121と、給紙部からガイド115を介して送られる用紙112を搬送ベルト121との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ122と、略鉛直上方に送られる用紙112を略90°方向転換させて搬送ベルト121上に倣わせるための搬送ガイド123と、押さえ部材124で搬送ベルト121側に付勢された先端加圧コロ125とを備えている。また、搬送ベルト121表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ126を備えている。
【0076】
ここで、搬送ベルト121は、無端状ベルトであり、搬送ローラ127とテンションローラ128との間に掛け渡されて、副走査モータ131からタイミングベルト132及びタイミングローラ133を介して搬送ローラ127が回転されることで、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。なお、搬送ベルト121の裏面側には記録ヘッド107による画像形成領域に対応してガイド部材129を配置している。
【0077】
また、搬送ローラ127の軸には、スリット円板134を取り付け、このスリット円板134のスリットを検知するセンサ135を設けて、これらのスリット円板134及びセンサ135によってエンコーダ136を構成している。
【0078】
帯電ローラ126は、搬送ベルト121の表層に接触し、搬送ベルト121の回動に従動して回転するように配置され、加圧力として軸の両端に各2.5Nをかけている。
【0079】
また、キャリッジ103の前方側には、スリットを形成したエンコーダスケール142を設け、キャリッジ103の前面側にはエンコーダスケール142のスリットを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ143を設け、これらによって、キャリッジ103の主走査方向位置を検知するためのエンコーダ144を構成している。
【0080】
さらに、記録ヘッド107で記録された用紙112を排紙するための排紙部として、搬送ベルト121から用紙112を分離するための分離部と、排紙ローラ152及び排紙コロ153と、排紙される用紙112をストックする排紙トレイ154とを備えている。
【0081】
また、背部には両面給紙ユニット155が着脱自在に装着されている。この両面給紙ユニット155は搬送ベルト121の逆方向回転で戻される用紙112を取り込んで反転させて再度カウンタローラ122と搬送ベルト121との間に給紙する。
【0082】
さらに、キャリッジ103の走査方向の一方側の非印字領域には、記録ヘッド107のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構156を配置している。この維持回復機構156は、記録ヘッド107の各ノズル面をキャピングするための各キャップ157と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード158と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行なうときの液滴を受ける空吐出受け159などを備えている。
【0083】
このように構成した画像形成装置においては、給紙部から用紙112が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙112はガイド115で案内され、搬送ベルト121とカウンタローラ122との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド123で案内されて先端加圧コロ125で搬送ベルト121に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0084】
このとき、図示しない制御回路によってACバイアス供給部(高圧電源)から帯電ローラ126に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト121が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト121上に用紙112が給送されると、用紙112が搬送ベルト121に静電力で吸着され、搬送ベルト121の周回移動によって用紙112が副走査方向に搬送される。
【0085】
そこで、キャリッジ103を往路及び復路方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド107を駆動することにより、停止している用紙112にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙112を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙112の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙112を排紙トレイ154に排紙する。
【0086】
また、両面印刷の場合には、表面(最初に印刷する面)の記録が終了したときに、搬送ベルト121を逆回転させることで、記録済みの用紙112を両面給紙ユニット155内に送り込み、用紙112を反転させて(裏面が印刷面となる状態にして)再度カウンタローラ122と搬送ベルト121との間に給紙し、タイミング制御を行って、前述したと同様に搬送ベル121上に搬送して裏面に記録を行った後、排紙トレイ154に排紙する
【0087】
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ103は維持回復機構155側に移動されて、キャップ157で記録ヘッド107のノズル面がキャッピングされて、ノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ157で記録ヘッド107をキャッピングした状態でノズルから記録液を吸引し(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)し、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作を行い、この回復動作によって記録ヘッド107のノズル面に付着したインクを清掃除去するためにワイパーブレード158でワイピングを行なう。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作を行う。これによって、記録ヘッド107の安定した吐出性能を維持する。
【0088】
このように、この画像形成装置によれば、信頼性の高い液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置を得ることができる。
【0089】
次に、本発明に係る静電型アクチュエータを備えたマイクロデバイスとしてのマイクロポンプについて図28を参照して説明する。なお、同図は同マイクロポンプの要部断面説明図である。
このマイクロポンプは、本発明に係る静電型アクチュエータで構成したアクチュエータ基板201と、流路基板202とを有し、流路基板202には流体が流れる流路203を形成している。アクチュエータ基板201は、流路203の壁面を形成する振動板部材212と、この振動板部材212の変形可能領域(振動板)211に犠牲層エッチングで形成した空隙(ギャップ)213を介して対向する個別電極214とを備えている。
【0090】
このアクチュエータ基板201の構成も前記液体吐出ヘッドの実施形態と同様であり、シリコン基板221上に絶縁膜222を形成し、この絶縁膜222上に個別電極214を形成して絶縁膜225で被覆し、この絶縁膜225上に犠牲層227を形成し、更に振動板212のうちの一部の膜を形成した後犠牲層エッチングを行なって空隙213を形成し、図示しないが、空隙213に個別連通路を介して連通する共通連通路を形成したものである。
【0091】
このマイクロポンプの動作原理を説明すると、前述した液体吐出ヘッドの場合と同様に、個別電極214に対して選択的にパルス電位を与えることによって振動板211との間で静電力による吸引作用が生じるので、振動板211が電極214側に変形する。ここで、振動板211を図中右側から順次駆動することによって流路203内の流体は、矢印方向へ流れが生じ、流体の輸送が可能となる。
【0092】
このように、本発明に係る静電型アクチュエータを備えることで、信頼性の高い静電型アクチュエータを備え、安定した液体輸送が可能な小型で低消費電力のマイクロポンプを得られる。なお、輸送効率を上げるために、変形可能領域間に1又は複数の弁、例えば逆止弁などを設けることもできる。
【0093】
次に、本発明に係る静電型アクチュエータを備えた光学デバイスの一例について図29を参照して説明する。なお、同図は同デバイスの概略構成図である。
この光学デバイスは、表面が光を反射可能でかつ変形可能な振動板に相当するミラー300を含むアクチュエータ基板301を有している。ミラー300の表面は反射率を増加させるため誘電体多層膜や金属膜を形成する(これらは樹脂膜表面に形成する)と良い。
【0094】
アクチュエータ基板301は、絶縁膜322を形成したベース基板321上に、変形可能なミラー300と、このミラー300の変形可能領域(振動板)311に所定の空隙313を介して対向する電極314とを備えている。また、電極314上には絶縁膜325を形成し、空隙313は犠牲層327をエッチングして形成している。その他の構成についても、振動板がミラー面を有する構成となっている点が、前述の液体吐出ヘッドの実施形態で説明した静電型アクチュエータと異なるだけであるので、詳細な図示及び説明は省略する。
【0095】
この光学デバイスの原理を説明すると、前述した静電型アクチュエータの場合と同様に、電極314に対して選択的にパルス電位を与えることによって、電極314と対向するミラー300の変形可能領域311間で静電力による吸引作用が生じるので、ミラー300の変形可能領域311が凹状に変形して凹面ミラーとなる。したがって、光源330からの光がレンズ331を介してミラー300に照射された場合、ミラー300を駆動しないときには、光は入射角と同じ角度で反射するが、ミラー300を駆動した場合は駆動された変形可能領域311が凹面ミラーとなるので反射光は発散光となる。これにより光変調デバイスが実現できる。
【0096】
このように、本発明に係る静電型アクチュエータを備えることで、小型で低消費電力の光学デバイスを得ることができる。
【0097】
そこで、この光学デバイスを応用した例を図30をも参照して説明する。この例は、上述した光学デバイスを2次元に配列し、各ミラー300の変形可能領域311を独立して駆動するようにしたものである。なお、ここでは、4×4の配列を示しているが、これ以上配列することも可能である。
【0098】
したがって、前述した図29と同様に、光源330からの光はレンズ331を介してミラー300に照射され、ミラー300を駆動していないところに入射した光は、投影用レンズ332へ入射する。一方、電極314に電圧を印加してミラー300の変形可能領域311を変形させている部分は凹面ミラーとなるので光は発散し投影用レンズ332にほとんど入射しない。この投影用レンズ332に入射した光はスクリーン(図示しない)などに投影され、スクリーンに画像を表示することができる。
【0099】
なお、上記実施形態においては、液体吐出ヘッドとしては、インク以外にも、例えば、液体レジストを液滴として吐出する液体吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液体吐出ヘッドなどの他の液体吐出ヘッドにも適用できる。また、静電型アクチュエータは、マイクロポンプ、光学デバイス(光変調デバイス)、マイクロスイッチ(マイクロリレー)、マルチ光学レンズのアクチュエータ(光スイッチ)、マイクロ流量計、圧力センサなどにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの斜視説明図である。
【図2】同ヘッドの分解斜視説明図である。
【図3】図1の面S1に沿う断面説明図である。
【図4】図1の面S2に沿う断面説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る静電型アクチュエータにおけるアクチュエータ基板を透過状態で示す平面説明図である。
【図6】図5のX1−X1線に沿う断面説明図である。
【図7】図5のX2−X2線に沿う断面説明図である。
【図8】同アクチュエータ基板の大気開放部の平面説明図である。
【図9】図8のX3−X3線に沿う断面説明図である。
【図10】図8のY3−Y3線に沿う断面説明図である。
【図11】同アクチュエータ基板の製造工程の説明に供する図5のX1−X1線に沿う部分を示す製造工程の断面説明図である。
【図12】図11に続く製造工程の断面説明図である。
【図13】同じく図5のX2−X2線に沿う部分を示す製造工程の断面説明図である。
【図14】図13に続く製造工程の断面説明図である。
【図15】同じく図8のX3−X3線に沿う部分を示す製造工程の断面説明図である。
【図16】図15に続く製造工程の断面説明図である。
【図17】同じく図8のY3−Y3線に沿う部分を示す製造工程の断面説明図である。
【図18】図17に続く製造工程の断面説明図である。
【図19】本発明の静電型アクチュエータに係る第2実施形態におけるアクチュエータ基板の大気開放部の平面説明図である。
【図20】図19のX4−X4線に沿う断面説明図である。
【図21】図19のY4−Y4線に沿う断面説明図である。
【図22】本発明の静電型アクチュエータに係る第3実施形態におけるアクチュエータ基板の大気開放部の平面説明図である。
【図23】図22のX5−X5線に沿う断面説明図である。
【図24】図22のY5−Y5線に沿う断面説明図である。
【図25】本発明に係る液体吐出ヘッドの他の例の説明に供する斜視説明図である。
【図26】本発明に係る画像形成装置の一例を説明する側面説明図である。
【図27】同画像形成装置の要部平面説明図である。
【図28】本発明に係るマイクロポンプの一例を説明する模式的説明図である。
【図29】本発明に係る光学デバイスの一例を説明する説明図である。
【図30】同光学デバイスの応用例の説明に供する斜視説明図である。
【符号の説明】
【0101】
1…アクチュエータ基板
2…流路基板
3…ノズル基板
4…ノズル
5…ノズル連通路
6…液室(吐出室)
7…流体抵抗部
9…液室間隔壁
10…共通液室
11…振動板
12…振動板部材
13…空隙
14…個別電極
15…共通連通路
15A…個別連通路
16…大気開放部
21…シリコン基板
22…絶縁層(膜)
24…電極形成層
25…絶縁膜(中間膜)
26…開口
27…犠牲層
28…絶縁膜
29…犠牲層除去孔
32…振動板電極(上部電極)
33…膜撓み防止膜(窒化膜)
34…膜剛性調整膜
35…樹脂膜(接液膜)
36…樹脂膜(封止膜)
37、38、39…凸段差部
40…溝
42…大気開放孔
80…液体カートリッジ
107k、107c、107m、107y…記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
201、301…アクチュエータ基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形可能な振動板及びこの振動板に空隙を介して対向する電極を備える静電型アクチュエータにおいて、
前記空隙に連通する連通路と、
前記連通路を外部に連通させる大気開放孔を有する大気開放部と、
前記大気開放部の大気開放孔を封止する封止材と、
前記大気開放部の周囲を囲む凸段差部と、が設けられている
ことを特徴とする静電型アクチュエータ。
【請求項2】
前記凸段差部は二重以上設けられていることを特徴とする請求項1に記載の静電型アクチュエータ。
【請求項3】
前記凸段差部はアクチュエータを構成する1又は2以上の構成膜で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の静電型アクチュエータ。
【請求項4】
ノズルから液滴を吐出させるための静電型アクチュエータを備えた液体吐出ヘッドにおいて、前記静電型アクチュエータが請求項1ないし3のいずれかに記載の静電型アクチュエータであることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
液滴を吐出する液体吐出ヘッドを搭載した画像形成装置において、前記液体吐出ヘッドが請求項4に記載の液体吐出ヘッドであることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2010−143159(P2010−143159A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324829(P2008−324829)
【出願日】平成20年12月21日(2008.12.21)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】