説明

静電型スピーカ

【課題】振動板の振動状態に悪影響を与えずに、振動板への給電に対する耐久性を向上させる。
【解決手段】本発明の静電型スピーカ1は、電極20と、静電力によって変位可能な振動板10とを有する静電型スピーカであって、前記振動板は、その周縁部の境界Bに沿って配置された複数のスリット102と、前記スリットの外側に設けられた給電部101とを有することを特徴とする。このような構成によれば、内側の領域Rvでは音響波の発生に適した振動を実現することができる一方、外側の領域Reでは給電に適した強度が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型スピーカの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型スピーカ(コンデンサスピーカ)といわれるスピーカが知られている。静電型スピーカは、その構造が比較的簡易であるため、軽量、コンパクトに設計することができるという点、および理論的な取り扱いも簡単であるという点などにおいて注目されている。静電型スピーカは、典型的には、空隙を隔てて向かい合う2枚の平行平面電極と、電極の間に挿入されその両端等を筐体等に支持された導電性のシート状の部材(以下、振動板または振動膜という)とから構成される(いわゆるプッシュ・プル型)。振動板に所定のバイアス電圧を印加しておき、両電極に印加する電圧を変化させると、振動板に作用する静電力は変化し、これにより振動板は変位する。振動板は、通常、その淵や辺などを筐体に固定されているため、中央部分ほど変位が大きくなり、振動板全体としては撓んだ状態になる。電極に印加する電圧を入力楽音信号に応じて変化させれば、それに応じて振動板は変位を繰り返し(すなわち振動し)、入力楽音信号に応じた音響波が振動板から発生する。発生した楽音は、例えば金属板電極に空けられた穴などを通り抜けてスピーカ外部へ放音される(非特許文献1を参照)。ここで、振動板に電圧を供給するためには、電源ケーブルの先端に取り付けられたクリップ端子を振動板の縁に噛ませる方法や、電源ケーブルと振動板の縁を半田付けする方法が用いられる。あるいは、例えば振動板の一辺の縁に導電性テープを貼り付け、このテープを電極やスピーカ筐体の外に取り回し、このテープと電源ケーブルとを半田やクリップ等で接合させる方法もある。
【非特許文献1】岡崎正倫,木村洋介,柳允善,及川靖広,山崎芳男著、「全帯域でピストン振動する振動板を持つコンデンサスピーカとその応用」、日本音響学会講演論文集 p.563−564、2004年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、通常用いられている振動板の厚さは数〜数十ミクロン程度であるため、一般的に機械的な強度が低い。例えば、振動板と電源ケーブルとの接合部(以下、給電部という)において、経年変化による腐食や剥離が起こり、断線が発生する虞がある。また、断線まではいかなくとも、給電部の接触抵抗値が上昇することによって、振動板によって発生する音波の特性(音圧や音質など)が低下する。また、振動板には自己の振動のために力(弾性応力)がかかるから、継続して使用しているうちに強度の低い給電部から振動板が破損する虞もある。ここで、振動板の機械的強度を確保するために振動板の厚さを増すことも考えられるが、厚さが変われば振動状態も変化するため、音質や音圧といった音響特性に悪影響が出る虞がある。また、導電性テープ等を用いる場合においては、給電部にかかる力をある程度軽減することはできるが、テープを貼り付けた部分とそうでない部分とで振動板の厚さが異なることになるため、振動板の振動状態への悪影響が考えられるし、導電性テープを取り回すことに起因した抵抗値の上昇に伴う音質の劣化も考えられる。
【0004】
このように、従来の技術においては、振動板の振動状態に悪影響を与えずに、給電部の耐久性を維持しつつ振動板に電圧を印加することができなかった。
そこで、本発明は、振動板の振動状態に悪影響を与えずに、接触部の強度を保ちつつ電圧を印加することができる振動板および当該振動板への給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、一の態様において、平面電極と前記平面電極に対向して設けられ静電力によって変位可能な振動板とを有する静電型スピーカであって、前記振動板は、その周縁部に所定の間隔で形成された複数の開口部と、前記開口部の外側に設けられた給電部とを有することを特徴とする。
【0006】
本発明は、他の態様において、平面電極と、前記平面電極に対向して設けられ静電力によって変位可能な振動板とを有する静電型スピーカであって、前記振動板は、少なくとも1つの閉じた領域と、前記領域を定義する境界に沿って所定の間隔で形成された複数の開口部と、前記領域の外側に設けられた給電部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、振動板上の所定領域に開口部が形成されるため、開口部を境にその内側の領域では音響波の発生に適した振動を実現することができる一方、その外側では給電部を設けるのに適した強度が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好適な態様について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の1つの実施例に係る静電型スピーカ1の大略構造の斜視図である。同図に示すように、静電型スピーカ1は、振動板10と、これに対向する2つの平面電極(以下、単に電極という)20とから大略構成される。
【0009】
電極20は、厚さkで辺の長さがそれぞれwである、金属板に孔Hを開けたパンチングメタル、あるいはスパッタ加工済み不織布、導電性塗料が塗布された不織布などの導電性を備え且つ音波透過性の高い材料から構成され、静電型スピーカ1の筐体(図示せず)に固定される。このとき、振動板10から両電極20までの距離dが等しくなるように配置される。換言すれば、対向する電極のちょうど中間の位置が振動板10 (正確には、信号が入力されていないときの状態である無変位状態における振動板10) の固定位置となる。
【0010】
また、静電型スピーカ1は、図示せぬ電源を備え、所望の電圧をそれぞれの電極20に印加するとともに、振動板10上にバイアス電圧を印加することができるようになっている。電極20への給電方法については従来技術を採用することができるため、図示および説明を省略する。振動板10上への給電においては、同図に示すように、振動板10上に設けられた給電部101を介し、電源と接続された電源コードから給電が行われるようになっている。具体的には、給電部101において電源コードと振動板10とを半田付けによって接合してもよいし、給電部101付近において剛性の高い金属板を振動板10の両面から挟み込み、圧着端子等で電源コード30を振動板10にネジ止めしてもよい。静電型スピーカ1は、更に、外部から音声信号を入力する入力部を備え、この音声信号に応じて印加電圧の値を変化させることにより、振動板10に音声信号に応じた振動をさせることができるようになっている。振動板10の振動によって発生した音波は、少なくとも一方の電極20を通り抜けてスピーカ外部に放音される。
【0011】
振動板10は、例えば、PET(polyethylene terephthalate、ポリエチレンテレフタレート)、PP(polypropylene、ポリプロピレン)などのフィルムに金属膜を蒸着したものあるいは導電性塗料を塗布したものであって、例えば厚さ数ミクロン〜数十ミクロン程度の導電性の板状(膜状)部材である。振動板10は、塩化ビニル、アクリル(メチルメタアクリレート)、ゴム等の絶縁材料により形成された固定手段(図示せず)において、所定の張力が振動板10に作用している状態で、例えばその縁の一辺が静電型スピーカ1の筐体(図示せず)に支持される。振動板10には、複数の開口部(スリット102)が形成されている。以下、詳細に説明する。
【0012】
図2は振動板10の詳細な構造を説明するための図である。同図に示すように、振動板10の周縁部には長さdw、dsの長方形の孔(スリット102)が、一定間隔tで配置されている。そして、このスリットによって振動板は内側の領域Rvと外側の領域Reとを定義することができる。換言すれば、振動板10には同図中点線で表される境界Bが定義され、内側の閉じた領域Rvと外側(すなわち振動板10の周辺部)の領域Reとを隔てている境界Bに沿ってスリット102が配置される。領域Re内の任意の場所には、給電部101が設けられる。
【0013】
このように複数のスリット102を境界Bに沿って配置すると、境界Bの内側の領域Rvの部分は強度(剛性)が低下する一方、外側の領域Reの部分は強度がほとんど低下しない。このように、本発明においては、1枚の振動板10の強度(剛性)を部分的に変更するのである。同図の例では、いわば、境界Bを境として振動板10の内側部分(領域Rv)が、スリット間の振動板部分を介して振動板10の「外枠」(領域Re)に吊られたような状態となる。これによって、領域Rvの部分は領域Reに比べて振動し易くなる。このため、領域Rvの部分によって発生する音響波の音圧や音質を向上させることができる。
【0014】
一方、給電部101はほぼ元の剛性が保たれた領域Reに設けられるため、給電部の劣化等の問題が生じない。ここで、境界Bを十分に周縁部に設定すれば(換言すれば、領域Rvの面積を領域Reの面積に対して十分大きくすれば)、実質的に音響波を発生させているのは領域Rvであるといえるから、例えば給電部101の剛性を上げるために金属板などによって給電部101を補強することも可能である。図3(a)および図3(b)に給電部101の一例を拡大した図およびその断面図を示す。図3(b)に示すように、給電部101は、振動板10を両面から挟み、ネジ孔が空けられた2枚の補強用アルミ板103と、アルミ板103と電源ケーブルとをネジ止めするためのネジ104とで構成される。このような補強の結果、領域Reにおける振動が抑制されたとしても、その影響はスリットによって領域Rvの振動状態にはほとんど及ばないため、振動板10全体として音圧や音質に与える悪影響は実質的に無視できる。
【0015】
なお、スリット102を形成するにあたっては、最も簡単には、一枚の振動板を用意し、これに同一形状の孔を形成していけばよい。以上説明したように、本発明によれば、一枚の振動板に簡単な加工を施すことにより、音圧や音質の向上と給電部の耐久性とを同時に向上させることが可能である。
【0016】
なお、スリットの配置方法は、図2に示した例に限られない。スリットの形状、大きさ、面積、スリットの数、隣り合うスリットとの間隔、スリットの位置については、適宜、変更可能である。振動板の剛性と、そこで発生する音響波の特性(出力や周波数特性など)との間には関連があるから、所望の音響特性に応じてスリットの配置を決定することも可能である。例えば、スリットの面積を小さく、間隔を大きく(荒く)すると、領域Rvにおける振動に対する復元力が大きく、振動板の振幅は小さくなるから、音響波の出力レベルは抑制されることになる。逆に、スリットの面積を大きく、間隔を小さく(密に)すると、復元力は小さく、振動板の振幅は大きくなるから、高出力を実現することができる。また、領域Rvの面積を小さくすることで、高周波数領域を支配的または選択的に出力させることができる。逆に、領域Rvの面積を大きくすれば、低音領域を含めた広い全周波数帯を出力させることができる。このように、所望の周波数帯域に応じて、領域Reの面積や数を適宜設定することができる。また、各スリット間の間隔は必ずしも一定である必要はない。
【0017】
図4は、異なる面積を有する2つの領域Rv1およびRv2が振動板10上に形成されるように、複数のスリット102を配置した例を示したものである。この例においては、領域Rv1からは中高音が支配的に出力される一方、領域Rv2からは全音域が出力されるように構成されている。なお、給電部101は両領域の外側に設けられるが、その図示については省略する。
【0018】
また、図5に示すように、同一面積の領域(Rv3〜Rv6)が複数連続して形成されるように、スリット102を配置してもよい。このように、いわば振動板10上に振動領域の集合(アレイ)を形成することにより、所望の周波数特性や指向特性を持った音響波を放音することが可能となる。なお、給電部101はこのアレイ領域の外側に設けられるが、その図示については省略する。
【0019】
なお、上述した実施例においては、本発明の振動板10を用いて一対の対向電極を用いたプッシュ・プル型の静電型スピーカ1について説明したが、振動板10を用いてシングル型の静電型スピーカを構成してよいことは勿論である。また、給電部101は一箇所ではなく、領域Re内ならば複数の箇所に設けても構わない。また、スリット102のような貫通孔を形成する代わりに、スリット102の配置位置に対応する位置を他の領域に比べて強度が弱い(剛性の低い)材料で形成してもよい。要は、振動板10上に、音響波の発生に適した相対的に剛性の低い領域と、給電部の形成に適した相対的に剛性の高い領域とが形成されていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る静電型スピーカ1の大略構成を表す外観斜視図である。
【図2】振動板10の構造を説明するための図である。
【図3(a)】給電部101を拡大した図である。
【図3(b)】給電部101の断面図である。
【図4】振動板10Aの構造を説明するための図である。
【図5】振動板10Bの構造を説明するための図である。
【符号の説明】
【0021】
1・・・静電型スピーカ、10、10A、10B・・・振動板、20・・・電極、30・・・電源コード、101・・・給電部、102・・・スリット、103・・・アルミ板、104・・・ネジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面電極と、前記平面電極に対向して設けられ静電力によって変位可能な振動板とを有する静電型スピーカであって、
前記振動板は、
その周縁部に沿って所定の間隔で形成された複数の開口部と、
前記開口部の外側に設けられた給電部と
を有することを特徴とする静電型スピーカ。
【請求項2】
平面電極と、前記平面電極に対向して設けられ静電力によって変位可能な振動板とを有する静電型スピーカであって、
前記振動板は、
少なくとも1つの閉じた領域と、
前記領域を定義する境界に沿って所定の間隔で形成された複数の開口部と、
前記領域の外側に設けられた給電部と
を有することを特徴とする静電型スピーカ。
【請求項3】
前記複数の開口部は、各々同一形状のスリットである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の静電型スピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4】
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【図5】
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