説明

静電容量圧力センサ

【課題】配線構造によって安定した圧力測定が可能な静電容量圧力センサを提供すること。
【解決手段】
本発明の一実施形態に係る静電容量圧力センサは、第1絶縁層1a〜第3絶縁層1cを有する基板1と、基板1との間に基準チャンバ8が形成されるように、基板1と向き合うように配置されたダイアフラム2と、基板1上に設けられ、ダイアフラム2と対向した第1の電極6と、ダイアフラム2上でかつ第1の電極6と対向して設けられた第2の電極5と、第1の電極6に接続され、該第1の電極6と外部とを電気的接続するための配線42と、第2の電極5に接続され、該第2の電極5と外部とを電気的接続するための第2の配線42とを備える。上記配線42は、第1絶縁層1aを基板1の基準チャンバ8側から基板1の該基準チャンバ8と反対側に向かって貫通するとともに、各絶縁層間で屈曲されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量圧力センサは良く知られている技術である。温度調節型の静電容量圧力センサでは、温度に対して敏感な素子の温度を一定に維持するためにヒータが使用される。特許文献1の図7には、静電容量型圧力センサにおいて、基板内にヒータが設けられている旨が開示されている。
【0003】
特許文献2には、歪みゲージ抵抗器素子を備えた、高級鋼等による膜が低温同時焼成セラミクス(LTCC)基板上に取り付けられている圧力センサが開示されている。特許文献2の圧力センサは静電容量圧力センサではないが、LTCC基板の熱膨張係数を圧力によって歪む高級鋼等による膜の熱膨張係数と一致させられ得ることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−86002号公報
【特許文献2】特表2008−527313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の圧力センサは、固定電極やヒータへの配線について、具体的な記載はない。同様に特許文献2のLTCC基板を用いた圧力センサについても、配線について具体的な記載はない。
本願発明者は、静電容量圧力センサの内部に設けられた、外部との電気的な接続が必要な導電部材(例えば、電極)への配線構造が、静電容量圧力センサの測定精度や安定性に大きく影響することを発見した。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、配線構造によって安定した圧力測定が可能な静電容量型圧力センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明は、静電容量圧力センサであって、複数の絶縁層を有し、該複数の絶縁層を積層して構成された基板と、前記基板との間に空間が形成されるように、前記基板と向き合うように配置されたダイアフラムと、前記基板上に設けられ、前記ダイアフラムと対向した第1の電極と、前記ダイアフラム上でかつ前記第1の電極と対向して設けられた第2の電極と、前記第1の電極に接続され、該第1の電極と外部とを電気的に接続するための第1の配線と、前記第2の電極に接続され、該第2の電極と外部とを電気的に接続するための第2の配線とを備え、前記第1の配線および第2の配線は、前記複数の絶縁層のうち、前記空間側の少なくとも一つの層を前記基板の前記空間側から前記基板の該空間と反対側に向かって貫通するとともに、前記複数の絶縁層のある層と該ある層に積層された別の層の間で屈曲されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の静電容量圧力センサでは、静電容量圧力センサの内部に設けられた、外部との電気的な接続が必要な導電部材への配線構造を工夫することで、高精度かつ安定した圧力測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に従った静電容量センサの構造を示す断面図である。
【図2】図1に示すLTCC基板1bの中間層を示す上面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る、真空チャンバ中への圧力センサを設置した状態を示す図である。
【図4A】本発明の一実施形態に係る静電容量圧力センサの、ダイアフラムと対向して設けられる基板の製作プロセスを示す図である。
【図4B】図1に示す基板1c上の回路パターンを示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る、静電容量圧力センサが備えるダイアフラムの製作プロセスを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る、ダイアフラムが高圧力を受けて基板に接したときの状態を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る、異なるダイナミックレンジのセンサ・チップを設計するときのシミュレーション結果の曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態では、耐食性、熱的安定性および優れた精度の特性を有する静電容量圧力センサを説明する。実施形態は、材料の選択、デバイスの製作、およびデバイス設計の事項を含む。図1、2および3を参照して、本発明の一実施形態に係る本圧力センサの構造を説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に従った静電容量圧力センサの構造の断面図である。動作可能な静電容量圧力センサは、互いに向き合って離間して配置された第1及び第2の電極5、6を備える。第1の電極(容量電極)6は、固定された基板1上にあり、固定電極となる。第2の電極(可動電極)5は薄いダイアフラム2上にあり、このダイアフラム2は該ダイアフラム2の周囲の圧力変化によって撓む。これらの2つの電極5、6間のスペースは、基準チャンバ8を形成し、真空に維持されている。すなわち、電極5および電極6は、空洞部(空間)としての基準チャンバ8を介して対向して配置されている。ダイアフラム2が圧力によって撓んだとき、第1及び第2の電極5、6間の距離は変化する。その結果、初期状態として平行に配置された電極5、6間の静電容量が変化し、該静電容量の変化が圧力の変化として検出される。なお、センサ構成部品の熱膨張率の違い(環境温度変化)に起因する機械的歪みによる誤差を補正するために基準電極7が容量電極6の近傍に設けられている。
【0012】
精巧な静電容量圧力センサを作るのには幾つかの課題がある。高感度を達成するために、2つの平行電極5、6は、数μmから数百μmの範囲の小さな間隔で配置されなければならない。さらに、ダイアフラム2の厚さもまた、そのような数μmから数百μmの範囲で製作されなければならない。本例のダイアフラム2は10μmから1000μmまでの厚さを有する。従来の機械加工法を使用して、この位置およびサイズの精度を保証することは困難である。さらに、基準チャンバ8を小さな寸法および高い精度で密封することは困難である。
【0013】
ダイアフラム2の外表面と内表面の間に圧力差がないとき、ダイアフラム2は平らな状態のままでなければならず、どんな望ましくない変形も精度を悪くする。ダイアフラムの望ましくない変形は、通常、ダイアフラム2中への応力によって引き起こされ、この内部応力は、製造プロセス中に導入されるか、温度が変化するときにセンサ材料の異なる熱膨張によって引き起こされる。本実施形態では、低熱膨張の低温同時焼成セラミクス(以下で、LTCCと呼ばれる)基板1と炭化珪素(SiC)ダイアフラム2が、上記の問題を解決するために使用される。さらに、MEMS製造プロセスが、μmスケールで寸法精度を制御するために使用される。
【0014】
本実施形態では、ダイアフラム2の材料として単結晶SiCが選ばれるが、その理由は、SiCが高耐食性および高熱伝導率を有するからである。CVDにより形成されるSiC膜と比べて、単結晶SiCは、より優れた結晶構造を有し、このことはピン・ホールの発生を防止ないしは低減する。ダイアフラム2は、数十μmから数百μmの厚さで製作されることができる。SiCの熱膨張係数(CTE)は、Alの7ppm/℃およびインコネル合金の10ppm/℃以上と比べて小さく、4.5ppm/℃である。SiCの熱伝導率(TCE)は、約370〜490W/m/Kであり、これは、Alおよびインコネル合金よりも1桁以上大きい。最新の熱特性によって、優れた温度均一性および高い安定性を持ったセンサ・ダイアフラムを組み立てることが容易になる。表1は、従来の真空ゲージで使用される材料の熱伝導率を比較する。
【0015】
【表1】

【0016】
本実施形態では、複数の絶縁層を有するLTCC基板1が、静電容量圧力センサの基板1を組み立てるために選ばれる。LTCC基板1の熱膨張係数は、同時焼成材料の組成を調整することによって、SiCダイアフラム2とほとんど同じに調節することができる。このようにして、ダイアフラム2と基板1の間の熱膨張による不整合を最小限にし、ダイアフラムへの応力の発生を防止ないしは低減する。
【0017】
LTCCは、集積回路用のパッケージを形成するために一般に使用される材料である。LTCC基板の回路の製造プロセスは、プリント回路基板と同様である。LTCC基板は、ガラスおよびセラミクス材料の混合物を含む多層のセラミックグリーンシート(絶縁層)から作られる。最初に、Al、ガラスおよびBの粉末がイソプロピル・アルコール中に溶かされ、ポットミル中で混合されて、スラリを形成し、混合物粒子の粒径は5μm未満である。次に、スラリはキャリヤ・テープ上で平らにされて、セラミックグリーンシート(セラミック粉末と分散媒を含むセラミック・スラリによって形成された薄い平らなシート)を作り、このシートの厚さは20μmから300μmである。セラミックグリーンシート上には、設計された回路パターンおよび接続ビアが印刷法を使用して生成される。その後で、セラミックグリーンシートのいくつかの層が互いに積み重ねられて、約900℃までの温度プログラムによって加熱されながら、200気圧の下で薄板にされる。この条件下で、セラミック材料は、高密度化され、同時焼成されて単一LTCC回路基板を形成する。
【0018】
本実施形態においては、LTCC基板1は、第1絶縁層1a、第2絶縁層1b、第3絶縁層1cを積層して構成されている。
第3絶縁層1cは、応力の影響を少なくするため、第2絶縁層1bより厚く構成され、2mm以上であることが望ましい。第3絶縁層1cは、耐食性の高い材質が好適であり、たとえば、AlN、セラミック、アルミナ(Al)が挙げられる。一方、第2絶縁層1bは、ヒータ3の熱を伝達するため、熱伝導性が高い材質が好適であり、たとえば、AlN、Si、SiCが挙げられる。第1絶縁層1aには、複数の貫通孔が設けられ、この貫通孔を通じて、第1の電極6を外部接続するための第1の配線としての配線42,及び第3の電極7を外部接続するための第2の配線としての配線42が設けられている。同様に、第2絶縁層1b、第3絶縁層1cにおいても、第1絶縁層1aの貫通孔とはずらして、複数の貫通孔が設けられ、電極6,7と外部接続するための配線42が設けられている。このようにずらして設けられた、第1絶縁層1aの貫通孔を通る配線42と第2絶縁層1bの貫通孔を通る配線42とは、第1絶縁層1aと第2絶縁層1bとの層間において配線42により接続されている。
なお、本明細書では、上記第1の電極6に接続される第1の配線および第2の電極5に接続される第2の配線を共に、配線(電極への電気接続配線)42と称する。
【0019】
さらに、第1絶縁層1aと第2絶縁層1bとの間には、複数のヒータ3が設けられている。第2絶縁層1bには、複数の貫通孔が設けられ、この貫通孔を通じて、複数のヒータ3と外部接続するための第3の配線としての配線(ヒータへの電気接続配線)41が設けられている。同様に、第3絶縁層1cにおいても、第2絶縁層1bの貫通孔とはずらして、複数の貫通孔が設けられ、複数のヒータ3と外部接続するための配線41が設けられている。このようにずらして設けられた、第2絶縁層1bの貫通孔を通る配線41と第3絶縁層1cの貫通孔を通る配線41とは、第1絶縁層1aと第2絶縁層1bとの層間において配線41により接続されている。
【0020】
このように、貫通孔や配線41、42を基板1の一方面(電極6が設けられた面、すなわち空間側)から該一方面に対向する他方面(該空間と反対側)に向かって屈曲(ぎざぎざ)して設けることで、配線41、42が設けられる貫通孔を通して外部から基準チャンバ8内へのガスの流入を低減することができる。
【0021】
なお、本実施形態では、ヒータや電極への配線をすべて第3絶縁層1cの表面から、外部へ接続するようにしたが、これに限定されず、第1絶縁層1aと第2絶縁層1bとの層間や第2絶縁層1bと第3絶縁層1cの層間から基板の側面側から外部へ配線してもよい。例えば、配線42の配線構造について、第1絶縁層1aと第2絶縁層1bその層間から基板1の側面側に配線する場合、配線42は、第1絶縁層1a中では上記基板1の一方面から他方面に向かう方向に沿って延び、第1絶縁層1aと第2絶縁層1bとの界面において、該界面に沿って基板1の側面側に屈曲する。
【0022】
ダイアフラム上の電極(第2の電極)5を外部接続する配線42は、第1絶縁層1aを貫通し、第1絶縁層1aと第2絶縁層1bとの層間で、屈曲して設けられている。これにより、配線と貫通孔との隙間からチャンバ8へのガス混入を防止ないしは低減することができる。
【0023】
本実施形態では、静電容量圧力センサの内部に設けられた電極5〜7と外部とを電気的に接続するための配線42を、基板1の内部において、基板上の電極6、7が形成された一方面から屈曲するように設けて基板1の外部に引き出している。従って、配線42を設けるための貫通孔と配線42との間に隙間がある場合、該隙間を通過するガスにとってはラビリンス構造を経験することになる。よって、電極5〜7を外部と電気的に接続するための配線42を形成するための貫通孔と該配線42との間を通して、外部から基準チャンバ8へのガスの流入を低減することができる。よって、基準チャンバ8内に意図しないガスの流入が低減されるので、高精度かつ安定した圧力測定を行うことができる。
【0024】
図2は、中間層としての、LTCC基板1の第2絶縁層1bの下面図である。ヒータ膜のパターンは、均一な温度分布を実現するために熱伝達を釣り合わせるように設計することができる。第2絶縁層1b上に、3つの接続ビア41の付いた2つの部分ヒータ膜31、32が設けられている。第2絶縁層1b上の異なる領域は、異なるヒータ膜31、32を使用して別々に加熱することができる。2つの部分ヒータ膜31、32に異なる電力を加えることによって、第2絶縁層1b上の均一性温度分布を改善することができる。なお、ヒータ膜の数は、2以上であってもよく、それぞれのヒータ膜が個別に温度調整可能(加熱電力が調節可能)であることが望ましい。
【0025】
図3は、図1に示す静電容量圧力センサの設置状態を示す図である。静電容量圧力センサは、ヒートシンク9に取り付けられて、不図示の真空チャンバ中へ直接設置することができる。ヒートシンク9の機能は、温度制御システムに対する応答速度を改善するように周囲と静電容量圧力センサとの間の安定な熱伝導を確保することにある。ヒートシンク9を取り付けていない場合は、容器50内が真空排気されると、センサと容器50間の熱伝導はほとんど配線51の熱伝導によって行われる。配線51は細く熱伝導が小さいため、真空チャンバの排気開始時に生じる断熱膨張による温度低下から基の温度に戻るのに長時間を要するため、センサ温度と相関するセンサのゼロ点がドリフトし続け、元の値に戻るのに長時間を要する。本発明の一実施形態では、耐食性及び熱伝導性が高いAlNからなるヒートシンク9が、静電容量圧力センサの応答を改善する。さらに、ヒートシンク9は、内蔵ヒータ3により発生した熱を安定して静電容量圧力センサの外部に逃がすことができる。そのような構造は、正確な温度制御を可能にし、安定性および精度を改善する。
【0026】
なお、図3に示す容器50内では、静電容量型圧力センサの図中上方部分は、室温部分(大気側)と隣接し、ヒータ3の熱が放熱するため、相対的に温度が低く、逆に静電容量型圧力センサの図中下方部分は、相対的に温度が高い。そのため、前述したように静電容量型圧力センサの基板内に複数のヒータ3を備え、各ヒータ3を個別に温度調整が可能にすることで、容器内の温度を均一に保つことができる。
【0027】
図4Aおよび図5を参照して本発明の一実施形態に係る圧力センサの製造プロセスを説明する。
LTCC基板1の回路パターンおよびビア4は、センサ電極5、6、7の外部接続を実現する。混合物粉末の組成を調整することによって、LTCCの熱膨張係数(CTE)は約4.5ppm/℃に調節され、この値はSiCのCTEにほとんど等しい。その後で、LTCC基板1とSiCダイアフラム2とは陽極接合される。陽極接合法は、いかなる接着材料も使用することなしに気密封止を実現し、このことで、接合部品の位置精度が保証される。接合されたLTCC基板1とSiCダイアフラム2は、わずか4.5ppm/℃の同様な熱膨張係数を有し、このことで、センサ・チップ中の応力が最小限になる。したがって、ダイアフラムの望ましくない変形は抑制できる。基板の材料とダイアフラムの材料の間のCTE差は、1ppm/℃以下である。
【0028】
図4Aは、本発明の一実施形態に従ったLTCC基板の製造プロセスを示す図である。図4Aでは、3つの第1〜第3絶縁層(以降、“セラミック層”と呼ぶこともある)1a、1b、1cの断面図が示されている。図4Bは、第3絶縁層(後部層)1c上の電気回路パターンであり、ヒータ膜パターンの一例が図2に示されている。
【0029】
工程41では、LTCC基板1の構成部材である、3つのセラミック層1a、1b、1cを用意する。後部層である第3絶縁層1cは、複数のセラミックグリーンシートを有する厚い板であり、最終的に、約800μmまで焼結され高密度化(同時焼成)される。これによって、第3絶縁層1cは他の層の剛体支持体となる。
【0030】
図示のLTCC基板1は3つのセラミック層を含むが、この基板に限定されない。LTCC基板1の内部を少なくとも一回屈曲するような配線を設けるために、LTCC基板は少なくとも2つのセラミック層を含むことが好ましい。なお、基板はLTCC基板に限定されるものではなく、HTCC(High Temperature Co-fired Ceramic)基板を用いてもよい。すなわち、本発明の一実施形態では、電極6,7が設けられる基体としての基板は、例えばLTCC基板やHTCC基板といった少なくとも2つの絶縁層を有するものである。本実施形態において、該基体として少なくとも2つの絶縁層を設ける理由は、該基体の、電極6,7が形成される一方面から、該基体の、該一方面と対向する他方面に向かって、少なくとも一回屈曲した配線を、上記基体の内部に設けるためである。本実施形態のように、ガスに対するラビリンス構造を形成するために上記基体の内部において上記一方面から他方面に向かって屈曲する配線であって、該配線の一方端が記一方面に位置する場合、少なくとも2つの絶縁層を積層させることにより、該2つの絶縁層の界面において、配線の屈曲構造を容易に形成することができる。
【0031】
セラミック層1a、1bの中間には、ヒータ3(図2のヒータ膜31および32)が形成されている。ヒータ3の温度は、45℃から250℃の範囲内の実質的一定値に維持される。一定温度を維持することによって、基板1とダイアフラム2の間の熱膨張係数の差による歪みは抑制される。セラミック層によって挟まれたヒータ3は外部環境にさらされないので、ヒータ3は、腐食から保護され、また高い熱効率を有する。すなわち、ヒータ3を基板1の内部に設けることによって、ヒータ3を外部に晒すことなく保護することができ、ヒータの耐久性を向上することができる。
【0032】
前部層(セラミック層)1aには、電極5、6、7のための貫通接続用接続ビア42があり、LTCC前部層1aの厚さは、ほんの50μmであり、ヒータ3からSiCダイアフラム2までの熱伝導の効率を高めることができる。中間層(セラミック層)1bは、内蔵ヒータ3の担体(キャリヤ)として機能し、約200μmの厚さを有する。後部層(セラミック層)1cはヒータ1bおよびダイアフラム2の剛体支持体を形成し、800μm以上の厚さを有し、また厚ければ厚いほどよい。後部層1cの表面には、電気パッド11が形成され、センサ・チップを設置するための外部接続として作用する(図4B)。内部電気ビア4はAgを含み、表面回路パターン12は耐食性に関する限りではNi/Auを含む。
【0033】
さて、工程42では、図2に示されるように、内蔵ヒータ3(ヒータ膜31および32)を、中間層としての第2絶縁層1bの第1絶縁層1aと接する面上に製作する。ヒータ3として、印刷法を使用してAu/Pt膜を形成する。というのは、Ptは高いTCR(抵抗の温度係数)を有するからである。ヒータ膜31、32は、また、内部温度センサとしても使用される。ヒータ膜31、32のパターンは、均一な温度分布を達成するために注意深く設計される。
【0034】
また、工程42では、ガラス粉末とセラミックス粉末とを含むセラミックグリーンシートである第1絶縁層1aの所望の位置に配線42用貫通孔を形成し、該配線42用貫通孔の中に配線用ペースト(例えばAuの粉末とバインダー)を埋め込む。同様に、第2絶縁層1b、第3絶縁層1cにそれぞれ配線42用貫通孔を形成し、これら配線42用貫通孔の中に配線用ペーストを埋め込む。この場合、図1に示すように、第1絶縁層1aに形成された配線42用貫通孔、第2絶縁層1bに形成された配線42用貫通孔、および第3絶縁層1cに形成された配線42用貫通孔は、互いにずらして配置する。
【0035】
上述のように、第2絶縁層1bの一面には図2に示すようなヒータ膜31、32が形成されている。そこで、第2絶縁層1bの、配線42用貫通孔とは異なる位置であって、ヒータ膜31、32の一部と重なるように配線41用貫通孔を形成し、該配線41用貫通孔の中に配線用ペーストを埋め込む。同様に、第3絶縁層1cの配線42用貫通孔とは異なる位置に配線41用貫通孔を形成し、該配線41用貫通孔の中に配線用ペーストを埋め込む。この場合、図1に示すように、第2絶縁層1bに形成された配線41用貫通孔、および第3絶縁層1cに形成された配線41用貫通孔は、互いにずらして配置する。
【0036】
次に、第3絶縁層1cの第2絶縁層と接する面において、配線42の一部であって該配線42の屈曲部となる配線パターン421が、上記配線42用貫通孔に埋め込まれた配線用ペーストと接するように形成される。同様に、第2絶縁層1bの第1絶縁層と接する面において、配線42の一部であって該配線42の屈曲部となる配線パターン422が、上記配線42用貫通孔に埋め込まれた配線用ペーストと接するように形成される。
また、第3絶縁層1cの第2絶縁層と接する面において、配線41の一部であって該配線41の屈曲部となる配線パターン411が、上記配線41用貫通孔に埋め込まれた配線用ペーストと接するように形成される。
【0037】
次いで、工程43では、第1絶縁層1a、第2絶縁層1b、および第3絶縁層1cが接合され、焼結プロセスを経て、単一セラミック基板としての基板1を形成するように溶融される。
この結果、第3絶縁層の配線42用貫通孔の中に形成された導電体(配線用ペースト)と、第3絶縁層1cと第2絶縁層1bとの間に形成された配線パターン421と、第2絶縁層の配線42用貫通孔の中に形成された導電体とが、第3絶縁層1cおよび第2絶縁層1b間で屈曲して電気的に接続される。同様に、第2絶縁層の配線42用貫通孔の中に形成された導電体と、第2絶縁層1bと第1絶縁層1aとの間に形成された配線パターン422と、第1絶縁層の配線42用貫通孔の中に形成された導電体とが、第2絶縁層1bおよび第1絶縁層1a間で屈曲して電気的に接続される。このようにして、基板1内において屈曲した配線42が形成される。
配線41についても配線42と同様に、第3絶縁層の配線41用貫通孔の中に形成された導電体と、第3絶縁層1cと第2絶縁層1bとの間に形成された配線パターン411と、第2絶縁層の配線41用貫通孔の中に形成された導電体とが、第3絶縁層1cおよび第2絶縁層1b間で屈曲して電気的に接続される。このようにして、基板1内において屈曲した配線41が形成される。
【0038】
なお、上記屈曲した配線41、42の形成方法は、上記形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、第3絶縁層の第2絶縁層と接する面において、上記配線パターン421に相当する溝を形成し、該溝の一部を含むようにして、該溝が形成された面から、該面と対向する面に向かって貫通孔を形成する。次いで、該貫通孔および溝の中に導電体を埋め込む。そして、第2絶縁層にも貫通孔を形成し、該貫通孔内に導電体を埋め込む。次いで、第2絶縁層の貫通孔に埋め込まれた導電体と、第3絶縁層に埋め込まれた導電体であって、第3絶縁層の貫通孔と重ならない部分とを接続するように、第2絶縁層と第3絶縁層とを接合する。これにより、第2絶縁層と第3絶縁層との界面において屈曲部を有する配線を、基板1内に設けることができる。
【0039】
上述のように、セラミック層1a、1b、1cの各々は、互いに接合され(工程43)、焼結プロセスで1つの単一セラミック基板を形成するように溶融される。各層の電気回路パターンおよびビアは、パターン設計に従って位置合せされ接続されることができるので、各層のビア4は焼結プロセスで接続されて、内部電気回路を形成する。製造物400に示されるように、第1絶縁層1a、第2絶縁層1bおよび第3絶縁層1cの電気ビア4は、層間をぎざぎざに接続される。つまり、第1絶縁層1aの貫通孔、第2絶縁層1bの貫通孔、および第3絶縁層1cの貫通孔は、それぞれずらして設けられ、層間を沿って、配線が接続されている。このような屈曲した配線構造により、センサ・チップ外から基準チャンバ8への気体の漏れを最小限にすることができる。漏れ気体の経路は、ぎざぎざのパターンになっており、直線的に層を貫通して形成された接続の経路よりも遥かに長いからである。
【0040】
工程43、陽極接合を行うために、前部層1aの表面13は、Ra<0.1μmに研磨される。その後で、工程44において、研磨された表面上に、パターニングされたAu/Cr電極6、7およびゲッタ材10が堆積される。
【0041】
上で述べたように、静電容量圧力センサの精度および感度は、主に、SiCダイアフラム2に依存している。ダイアフラム2の厚さ、ダイアフラム2と基板1の間のギャップは、静電容量圧力センサにとって非常に重要である。特に、0.1Torr台のような圧力センサでは、ダイアフラム2と基板1の間のギャップは、10μm未満が好ましい。従来、ダイアフラムは機械的加工によって製造され、ギャップは、封止プロセス中にある種のストッパを使用して形成され、このストッパがダイアフラム2と基板1との間の距離を保っている。そのようなプロセスは非常に注意深く行われなければならず、実際には、μmスケールではあまり正確でない。本発明の一実施形態では、MEMS製作プロセスが、SiCダイアフラム2および基準チャンバ8を作るために使用される。MEMS技術は、小型化センサを製作するために一般に使用されて、ナノメートルからマイクロメートルの寸法精度を実現する。
【0042】
図5は、本発明の一実施形態に係る、SiCダイアフラム2が100μmよりも薄い場合の製造プロセスを示す図である。市販の単結晶SiCウェーハの厚さは、製品シリーズに依存して240μmから550μmである。製造プロセス中でSiC膜を取り扱いかつ保護するために、工程51にて用意されたSiCウェーハ21を、工程52において、ガラス製のキャリヤ・ウェーハ22に一時的に接合する。次に、工程53において、ウェーハ21とウェーハ22の接合構造は、従来のラップ盤を使用して、定められた厚さにより薄くラップ仕上げされる。ラップ仕上げプロセスの後で、SiCウェーハ21は、100μm未満に薄くされる。すなわち、工程53において、SiC21の表面211を、Ra<0.1μmの表面粗さに研磨し、この表面粗さは良好な陽極接合のために重要である。
【0043】
工程54では、エッチング・プロセスにおいて、パターニングされたNiマスク23をSiCウェーハ21の表面に形成して、エッチングされるべき円形領域を露出させる。次に、工程55では、SiCウェーハ21をドライリアクティブイオンエッチング(DRIE)法でエッチングして、約10μmの深さの空洞24を形成する。次いで、工程56では、エッチング・プロセスの後で、Niマスク23を、酸溶液ウェット・エッチングを使用して除去する。次に、工程57において、フォトレジスト・マスク25をSiC表面に形成し、その後にスパッタ・プロセスが続く。次いで、工程58および59において、スパッタ・プロセスによって、電気伝導性薄膜5を、電極として、エッチングされた空洞24の底表面に堆積し、さらにフォトレジスト・マスク25を除去する。
【0044】
封止プロセスとしての工程60において、ウェーハ21、22の構造と、図4Aに示す方法で形成されたLTCC基板1とは、真空中で、10−2Pa未満の圧力下で陽極接合される。SiCダイアフラム2になるウェーハ21とLTCC基板1の間に、高真空基準チャンバ8が形成される。接合プロセス中に、温度は約400℃に高められ、そのとき、LTCC基板1上のゲッタ材10が活性化される。ゲッタ材10は、ガス分子を効果的に吸収できる活性金属合金であり、長期の動作にわたって基準チャンバ8の真空条件を維持する。接合プロセスの後で、工程61において、仮接合ガラス22を除去することによって、SiCダイアフラム2が解放される。
【0045】
ダイアフラム2の厚さが100μmよりも厚い場合には、ガラス・キャリヤ・ウェーハ22が必要でないので、製造プロセスは簡略化される。単結晶SiCウェーハ21は、ラップ仕上げされ、定められた厚さに研磨され、その後直ぐに、次のエッチング、スパッタおよび接合プロセスが続く。
【0046】
図4Aおよび図5に示されるように、最終的に製作された静電容量圧力センサは、SiCダイアフラム2およびLTCC基板1を含む。これらの2つの部品は、互いに接合されて真空基準チャンバ8を形成する。SiCダイアフラムおよびLTCC基板の内表面に金属薄膜が堆積されて、SiCダイアフラム2上の接地電極5およびLTCC基板1上の検出電極6および基準電極7を形成する。これらの電極は、LTCC基板1のビア4および電気配線回路パターン12(図4Bを参照されたし)を通って外部電気パッドに接続される。センサ・チップが真空チャンバ中に設置されたとき、SiCダイアフラム2は、このチャンバ内気圧(外部圧力)のために撓む。検出電極6と接地電極5の間、または基準電極7と接地電極5の間の静電容量は、ダイアフラム2の撓みによって変化する。したがって、検出される圧力は電気信号に変換され、この電気信号が外部回路で測定される。
【0047】
図6および7を参照して本発明の一実施形態に係る圧力センサの設計事項を説明する。センサ・チップの設計に関して多くのパラメータがある。センサ・チップのダイアフラム2が外部圧力で撓むとき、ダイアフラム2の撓みは、外部圧力の増加によって大きくなる。図6に示されるように、ダイアフラム2の中心が基板1に接したとき、出力信号は飽和する。通常、センサ・チップのダイナミックレンジは、飽和点から3桁下までである(すなわち、1000:1)。
【0048】
センサ・チップのダイナミックレンジは、ダイアフラム材料の機械的特性、ダイアフラムの直径および厚さ、および2つの平行電極間のギャップ距離などのいくつかの要素によって決定される。異なる範囲の圧力を測定するために、様々な寸法を持つ一連のセンサ・チップが設計されなければならない。様々なダイナミックレンジのために、センサ・チップの寸法が、炭化珪素の特性に基づいて詳細にシミュレートされる。例えば、ダイアフラム2の直径は1インチ(25.4mm)に固定され、ギャップの距離は10μm(エッチング深さによって形成される)に固定されると想定する。要求されるダイナミックレンジが0.0001Torr〜0.1Torrの場合には、ダイアフラム2の厚さは約35μmとする。(図7の曲線A)。要求されるダイナミックレンジが0.01Torr〜10Torrの場合には(図7の曲線B)、ダイアフラム2の厚さは約130μmとする。要求されるダイナミックレンジが1Torr〜1000Torrの場合には(図7の曲線C)、ダイアフラムの厚さは約550μmとする。図7は、様々なダイナミックレンジを有するセンサのシミュレートされた応答曲線を示す図である。シミュレートされた結果は、比較のために0pF〜8pF範囲に規格化されている。
【0049】
センサの設計では、製造プロセスの寸法公差が守られなければならない。ダイアフラムの直径は約1インチであり、これは製造プロセス中で容易に制御することができる。ダイアフラム2の厚さおよびダイアフラム2と基板1の間のギャップの距離はμm台であり、これは制御するのが困難である。この場合、ダイアフラムおよびギャップを製作するための寸法公差が必要である。SiCウェーハ22は、ダイアフラム2の定められた厚さにラップ仕上げされ、さらにラップ仕上げプロセスは、約±2μmの精度を容易に制御することができる。エッチング・プロセスでは、ダイアフラムの厚さは、(ダイアフラム厚さ)+(空洞深さ)=(ウェーハ厚さ)の関係として、空洞のエッチング深さによって決定される。感度に対するダイアフラム厚さと空洞深さの影響は逆である。空洞深さの増加はセンサの感度を減少させ、そして一方でダイアフラムの厚さが減少し、このダイアフラム厚さの減少はセンサの感度を高める。ギャップ距離とダイアフラム厚さの効果が等しくなるときに、センサの感度の歩留まりが安定する釣合い点がある。0.0001Torr〜0.1Torrのセンサ(図7の曲線A)についてのシミュレーション結果の一例として、釣合い点は10μmと20μmの間にある。
【0050】
留意すべきことは、ギャップの距離が10μmから20μmまで変化するとき、センサの感度は少し変化するだけである。この結果は、より望ましい寸法公差を持つセンサ・チップを設計するのに役立つことができる。シミュレーション・データから、また、0〜5μmおよび30〜40μmなどの、非常に感度の高い点がいくつかある。したがって、パラメータは、異なる要求事項に従って決定されることができる。高感度がより重要である場合には、高感度に関するパラメータが使用される。寸法公差が必要とされる場合には、安定性に関するパラメータが選ばれる。寸法精度は、通常、製造プロセス中に制御することが困難である。安定パラメータを使用してセンサ・チップを設計することは、製造プロセスの困難さを軽減するのに役立ち、このことは、ときには歩留りを高めコストを下げることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 基板
1a 第1絶縁層
1b 第2絶縁層
1c 第3絶縁層
2 ダイアフラム
3 ヒータ
4 電気ビア
5 第2の電極(可動電極)
6 第1の電極(容量電極)
8 基準チャンバ
41 ヒータ膜の電気接続配線
42 電極への電気接続配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁層を有し、該複数の絶縁層を積層して構成された基板と、
前記基板との間に空間が形成されるように、前記基板と向き合うように配置されたダイアフラムと、
前記基板上に設けられ、前記ダイアフラムと対向した第1の電極と、
前記ダイアフラム上でかつ前記第1の電極と対向して設けられた第2の電極と、
前記第1の電極に接続され、該第1の電極と外部とを電気的に接続するための第1の配線と、
前記第2の電極に接続され、該第2の電極と外部とを電気的に接続するための第2の配線とを備え、
前記第1の配線および第2の配線は、前記複数の絶縁層のうち、前記空間側の少なくとも一つの層を前記基板の前記空間側から前記基板の該空間と反対側に向かって貫通するとともに、前記複数の絶縁層のある層と該ある層に積層された別の層の間で屈曲されていることを特徴とする静電容量圧力センサ。
【請求項2】
前記複数の絶縁層のうち、少なくとも一つの層間に設けられたヒータをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の静電容量圧力センサ。
【請求項3】
前記ヒータが、少なくとも2つの部分を有し、各部分の加熱電力が調節可能であることを特徴とする請求項2に記載の静電容量圧力センサ。
【請求項4】
前記基板は、LTCC基板又はHTCC基板であることを特徴とする請求項1に記載の静電容量圧力センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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