説明

静電容量型隔膜真空計、真空装置

【課題】 真空計の取り付け条件によらず、高精度の圧力測定が可能な静電容量型隔膜真空計を提供する。
【解決手段】 静電容量型隔膜真空計100の傾斜角を検出する傾斜角センサ14を具備する。また、静電容量型隔膜真空計100を真空装置2に対して第一の傾斜角(+90度)、第二の傾斜角(0度)及び第三の傾斜角(−90度)で取り付けた場合の静電容量圧力依存性を記憶部に記憶させておく。そして、傾斜角センサ14で検出された傾斜角情報に基づいて圧力測定値は補正され、静電容量−圧力特性データは第一乃至第三の傾斜角において実際に測定され、記憶される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力測定に用いられる静電容量型隔膜真空計、特に、スパッタ装置やエッチング装置等の真空装置の圧力測定に好適な静電容量型隔膜真空計、この静電容量型隔膜真空計を有する真空装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は特許文献1に記載された静電容量型隔膜真空計を簡略して示す図である。図中100は真空装置2の内部の圧力を測定する静電容量型隔膜真空計、16は真空計100を覆うケースである。ケース16の内部には、ゲッタ13、絶縁部材6、固定電極5、回路基板9等が配置されている。
【0003】
また、導電性筐体15には、ゲッタ13によってその内部が常に高真空に保たれた状態で封止された基準圧力室(真空封止室)1が配置されている。この基準圧力室1は真空装置2に連通する領域3とはダイヤフラムで仕切られ、ダイヤフラムに対向して固定電極5が配置されている。以降、ダイヤフラムは以下で説明するが電極としても機能するのでダイヤフラム電極4と称することとする。
【0004】
固定電極5は剛性の絶縁部材6上に形成され、固定電極5から絶縁部材6に形成された貫通配線7を介して反対面に配線が伸びている。その配線から更に真空シールフィードスルー8を通して固定電極5は回路基板9に接続されている。
【0005】
一方、ダイヤフラム電極4は導電性材料で作られていたり、或いは絶縁性材料に導電性膜を形成して作られていたりする等して電極として機能する構造となっており、導電性筐体15の間に配置されている。ダイヤフラム電極4は導電性筐体15から導電線17を介して回路基板9に接続されている。
【0006】
ここで、基準圧力室1と真空装置2に連通する領域3との間に圧力差があると、ダイヤフラム電極4は圧力差に応じて固定電極5側に向かって変位する。その際、ダイヤフラム電極4と固定電極5間の静電容量は両者の距離に反比例するので、貫通配線7と真空シールフィードスルー8や導電線17等を通して、これら電気情報が回路基板9上のユニットに伝えられる。そして、回路基板9上の容量検知部21によって検出された静電容量は電圧値或いは電流値に変換される。圧力補正部22は、その電圧値または電流値を補正する。これら電圧値又は電流値は電気入出力端子10より真空計外に出力され、圧力を測定することができる。
【0007】
なお、ケース16はシールド機能を有しており、導電性筐体15、容量検知部21、圧力補正部22や回路基板9等の本真空計全体を覆う構造とすることで外来ノイズの影響を防ぐ効果がある。容量検知部21及び圧力補正部22は回路基板9上に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,785,669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の静電容量型隔膜真空計は真空装置2の内部に連通する領域3に存在する気体圧力によってダイヤフラム電極4が変位し、その変位を静電容量変化として検出後、電気信号に変換することで気体圧力を測定する。また、静電容量型隔膜真空計100を使用する際には、真空装置2に連通する領域3の圧力を十分に下げることによってダイヤフラム電極4の変位量を極限まで小さくする。
【0010】
その状態で電気入出力端子10から出力される信号値をゼロ圧力として基準点に設定し(一般にゼロ点調整と言う)、その状態からダイヤフラム電極4が変位した量を検出し、それを圧力値として電気入出力端子10から出力する。回路基板9にはこの調整を行うためのゼロ点調整ポテンショメータ11が備わっている。
【0011】
通常、静電容量型隔膜真空計は製造する過程においても、図5に示すように真空装置2と接続するための接続継手12が下側を向いた状態で組立・調整を行う。ユーザも同様に接続継手12が下側を向くように真空装置2に設置すれば、特に問題なく圧力測定ができる。
【0012】
しかし、静電容量型隔膜真空計を使用する環境においては真空装置2の取り付け口の条件等から、真空計の接続継手12が上を向いたり、横を向いたりして設置せざるを得ないこともある。その場合には、その設置状況に合わせて特別に静電容量型隔膜真空計の組立・調整を行わなければならない。
【0013】
特に、測定圧力が100Pa以下の高感度の静電容量型真空計においては、接続継手12が真空計の組立調整時の場合とは異なる方向を向いて真空装置2に設置される場合には測定圧力精度が無視できないほどに影響する。例えば、図5に示す静電容量型隔膜真空計において、厚さ50μm、大きさφ40mmのステンレス製のダイヤフラム電極4を有するものとする。そして、ダイヤフラム電極4と固定電極5との間の距離が20μmとなる寸法で静電容量型隔膜真空計を製造すれば、フルスケール圧力10Paの静電容量型隔膜真空計となる。
【0014】
図6はこの静電容量型隔膜真空計のダイヤフラム電極4に加わる圧力に対するダイヤフラム固定電極間の静電容量の関係をシミュレーション計算した結果を示す。横軸は圧力(Pa)、縦軸は静電容量(pF)である。図6に示すように上述の構造を持つ静電容量型隔膜真空計は10Paの圧力変化に対して静電容量は2.92pFから5.2pFに変化し、約2.28pFの静電容量変化が得られる。
【0015】
しかしながら、図6に示すシミュレーション結果にはダイヤフラム電極4自体の重さは考慮されていない。即ち、ステンレスの比重は8.4であるため、厚さ50μm、大きさφ40mmのステンレス製ダイヤフラム電極4は重さが0.71mgある。その際、重力加速度9.8kg/m2である地上では6.9×10−3Nの下方向の力が常にダイヤフラム電極4に加わることになる。これは、大きさφ40mm(面積1.26×10−3)のダイヤフラム電極4に最大で5.5Paの圧力(約2.5μmのダイヤフラム変位量に相当)が加わることに等しい。
【0016】
従って、ここに例として示す静電容量型隔膜真空計では、上述の事実を考慮すると、真空計の接続継手12が下方向にある場合の、圧力に対するダイヤフラム電極−固定電極間の静電容量の関係は図7に実線で示す通りとなる。
【0017】
また、図7には真空計の接続継手12が上方向である場合の静電容量の圧力依存性を破線で示す。更に、接続継手12が横方向(水平方向)である場合の静電容量の圧力依存性を一点鎖線で示す。図7に示す関係から真空計の取り付け条件によって圧力に対する静電容量特性がかなり異なることが分かる。
【0018】
ところで、上述したように通常の静電容量型隔膜真空計は接続継手12が下方向に来る状態で使用することを前提に組立・調整されていることが多い。つまり、図7に示す特性(実線で示す特性)では圧力がゼロの場合にダイヤフラム電極4−固定電極5間に2.36pFの静電容量があり、10Paに圧力が上昇すると、静電容量は3.65Paとなり、最終的に1.29pFの静電容量変化が得られる。
【0019】
実際の組立・調整時には、図8に実線で示すように、例えば、ゼロ圧力時の2.36pFの時には出力電圧が0Vになり、10Paの3.65pFの時には出力電圧が10Vとなるように回路基板9を調整する。また、圧力に対する出力電圧の関係が比例関係となるように圧力補正部22を調整する。
【0020】
しかしながら、本真空計を横方向(水平方向)に取り付けたり或いは逆さ方向に取り付けると、ゼロ圧力時や10Pa圧力時の静電容量はかなり異なった値となり、同時に特性の直線性も異なってしまう。図8には本真空計を横方向(水平方向)に取り付けた場合の圧力と出力電圧の関係を一点鎖線で、本真空計を逆さ方向に取り付けた場合の圧力と出力電圧の関係を破線で示す。
【0021】
また、真空計に備わっているゼロ点調整ポテンショメータ11によってゼロ点の出力電圧を補正できたとしても、10Paに対する出力電圧値や直線性は補正できず、最終的には図8に一点鎖線や破線で示すような特性になってしまう。そのため、高精度の圧力測定が要求される場合には無視できない。
【0022】
このように静電容量型隔膜真空計は、通常は真空装置への接続継手を下方向に向けた状態で組立調整を行っているため、これ以外の傾斜角度で真空計を使用した場合には誤差が生じる。この誤差は低圧力を測定する高感度型真空計になればなるほど影響が大きくなる。
【0023】
そのため、様々な事情により接続継手を下方向に向けて静電容量型隔膜真空計を真空装置に取り付けられない場合には、特別に真空計を調整する必要があり、真空計自体が割高になることは避けられなかった。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の目的は、真空計の取り付け条件によらず、高精度の圧力測定が可能な静電容量型隔膜真空計を提供することにある。
【0025】
上記の目的を達成する本発明に係る静電容量型隔膜真空計は、
ダイヤフラム電極を有する真空封止室と、
前記真空封止室の内部に前記ダイヤフラム電極に対向して設けられた固定電極と、
静電容量型隔膜真空計の傾斜角度を検出するための傾斜角センサと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、真空計の傾斜角度に応じて圧力測定値を補正することにより、真空計の傾斜角度によらず圧力を高精度で測定することができる。従って、様々な事情により接続継手を下方向に向けて取り付けられない場合でも、特別に真空計を調整する必要がなく、安価に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る静電容量型隔膜真空計の一実施形態を示す断面構造図である。
【図2】本発明に用いる傾斜角センサの検出傾斜角度の範囲を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる静電容量型隔膜真空計が傾斜角45度で真空装置に取り付けられた状態を示す断面構造図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる静電容量型隔膜真空計の圧力測定値の補正方法を説明する図である。
【図5】従来例の真空計を示す断面構造図である。
【図6】ダイヤフラム電極に加わる圧力に対するダイヤフラム固定電極間の静電容量の圧力依存性をシミュレーション計算した結果を示す図である。
【図7】静電容量型隔膜真空計の傾斜角の違いによる静電容量の圧力依存性違いを示す図である。
【図8】静電容量型隔膜真空計の傾斜角の違いによる出力電圧の圧力依存性の違いを示す図である。
【図9】本発明の実施形態にかかる静電容量型隔膜真空計の動作を制御するための電気的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る静電容量型隔膜真空計の一実施形態を示す断面構造図である。図1では図5と同一部分には同一符号を付している。
【0029】
図1に示す回路基板上に、ゼロ点調整ポテンショメータ11、傾斜角センサ14、容量検知部21、圧力補正部22、記憶部23が配置されている。図5と異なる点は、傾斜角センサ14および記憶部23等を設けている点である。圧力補正部22および記憶部23は、後述するように、傾斜角センサ14で検出された静電容量型隔膜真空計100の傾斜角に基づいて圧力測定値を補正する。傾斜角センサ14等を用いた圧力測定値の補正方法については詳しく後述する。
【0030】
真空装置2としては、例えば、スパッタ装置、エッチング装置、CVD装置等が挙げられ、本発明に係る静電容量型隔膜真空計は、測定対象である真空装置2の内部の圧力測定に用いるものである。特に、静電容量型隔膜真空計はガスの種類に依存せず、高精度で再現性良く圧力を測定できる真空計として使用されている。真空装置2の内部に連通する領域3の圧力を測定する原理や構造に関しては従来の静電容量型隔膜真空計と同様である。
【0031】
導電性筐体15の内部には、ゲッタ13、絶縁部材6、固定電極5等が配置されている。また、導電性筐体15内には、ゲッタ13によってその内部が常に高真空に保たれた状態で封止された基準圧力室1が設けられている。絶縁部材6は、円柱形のベース部の上に該ベース部の当該部位での直径より若干小さな直径を有する円柱形の部分が積み重なった形状をしている。導電性筐体15に対して位置出しを行う為である。基準圧力室1は真空装置2に連通する領域3とはダイヤフラム電極4で仕切られ、基準圧力室1内にはダイヤフラム電極4に対向して固定電極5が配置されている。
【0032】
固定電極5は絶縁部材6に配置され、固定電極5から絶縁部材6に形成された貫通配線7を介して反対面に配線が伸びており、その配線から更に真空シールフィードスルー8を通して固定電極5は回路基板9に接続されている。
【0033】
一方、ダイヤフラム電極4は導電性材料又は絶縁性材料に導電性膜を形成して作られており、電極として機能する構造となっている。ダイヤフラム電極4は絶縁部材6と導電性筐体15の間に配置されている。ダイヤフラム電極4は導電性筐体15から導電線17を介して回路基板9に接続されている。
【0034】
ここで、基準圧力室1と真空装置2に連通する領域3との間に圧力差があると、ダイヤフラム電極4は圧力差に応じて固定電極5側に向かって変位する。ダイヤフラム電極4と固定電極5間の静電容量は両者の距離に反比例する。そのため、貫通配線7と真空シールフィードスルー8や導電線17等を通して、これらの電気情報が回路基板9に伝えられる。回路基板9上の容量検知部21は静電容量をデジタルデータに変換し、そして、圧力に正比例する電圧値又は電流値は圧力補正部22およびデジタル/電圧変換部906を介して得られる。これら電圧値又は電流値は電気入出力端子10より真空計外に出力され、圧力を測定することができる。ここで、上記容量を検知する手段を容量検知部と称し、符号21で表す。本実施形態では、後述するように容量検知部21(図9)が容量検知部21とデジタルコンバータの機能を兼ねている。もちろん、別々に設けても良い。
【0035】
また、本実施形態では、静電容量型隔膜真空計100が何度の傾斜角度で取り付けられているかを検出するための傾斜角センサ14を備えている。傾斜角センサ14は回路基板9上に搭載されている。ゼロ点調整ポテンショメータ11も同じ回路基板上に搭載されている。傾斜角センサ14によって検出された静電容量型隔膜真空計100の傾斜角度情報は回路基板9上の圧力補正部22(図9)に出力される。圧力補正部22は後述するように傾斜角に応じて電気入出力端子10から出力される圧力測定値の補正を行う。
【0036】
ここで、本発明の実施形態にかかる静電容量型隔膜真空計100の動作を制御する制御回路のブロック図を図9に示す。ダイヤフラムに加わる圧力は、ダイヤフラムと固定電極間の静電容量に補正される。そして、容量検知部21は静電容量をデジタル値への変換により検出し、実測圧力と共に記憶部23に記憶させておく。一方、傾斜角センサ14は真空計の傾斜角度情報を回路基板9上の圧力補正部22に送る。回路基板9上の圧力補正部22は上述の圧力-静電容量データに傾斜角度の情報を加味して補正を行い、適切なデジタル圧力値をデジタル/電圧変換部906に送る。そしてその結果、圧力に相当する電圧が電気入出力端子907から出力される。傾斜角センサ14、圧力補正部22、および記憶部23は、圧力補正手段として機能する。
【0037】
即ち、回路基板9上の圧力補正部22は傾斜角センサ14からの傾斜角情報や予め記憶部に記憶しているデータに基づいて圧力測定値を補正する。
【0038】
傾斜角センサ14としては、例えば、ピエゾ抵抗型3軸加速度センサを用いている。この3軸加速度センサには、例えば、北陸電気工業株式会社のピエゾ抵抗型3軸加速度センサHAAM−312B等が好適である。この3軸加速度センサを使用すれば、小型であるため真空計の大きさを変えることも無い。
【0039】
また、傾斜角度θを図2に示すように定義する場合、−90〜+90度の傾斜角を検出できる。本実施形態では、例えば、図2に示すように水平方向をゼロ(θ=0)とする場合、水平方向と90度異なる+90度を第二の傾斜角(θ=+90度)とする(第二の傾斜角とは上方向の鉛直方向)。また、第二の傾斜角とは90度異なるθ=0を第一の傾斜角とする。更に、水平方向と−90度異なる−90度を第三の傾斜角(θ=−90度)とする(第三の傾斜角とは下方向の鉛直方向)。
【0040】
本明細書を通じて傾斜角とはダイヤフラム電極4が平らな状態、即ち凹にも凸にもなっていないときにその中心を通るダイヤフラム電極4に垂直な基準圧力室1側に向く直線が水平なときの(図2のθ=0)静電容量型隔膜真空計100の傾斜角に対する使用時の傾斜角をいう。この傾斜角は、傾斜角センサ14の出力信号から直接又は間接に得ることが出来る。
【0041】
更に、回路基板9における静電容量を電圧に変換する手段としては、例えば、アナログデバイセス社のデジタルコンバータAD7745を好適に使用できる。このデジタルコンバータまたは容量検知部21は接続された圧力センサ素子(圧力/静電容量変換部)の静電容量をデジタル数値に変換する機能を有する。圧力補正部22はセンサ素子の特性の直線性と範囲を調整することによって、デジタルデータを変換することができる。
【0042】
図3は静電容量型隔膜真空計100を有する真空装置2の一例を示す。即ち、静電容量型隔膜真空計100を真空装置2に取り付けた状態の一例を示すものである。図3は静電容量型隔膜真空計100を45度(図2のゼロ度に対して45度)で取り付けた状態の断面構造図である。通常、静電容量型隔膜真空計100は+90度(接続継手12が下向き)の角度で取り付けられる場合が多い。本実施形態では、このように静電容量型隔膜真空計100をどのような角度で取り付けた場合でも、圧力測定値を補正することによって真空装置2の圧力を精度良く測定することが可能である。図3中101はバルブ、102は真空ポンプ、103は電源兼表示器を示す。
【0043】
次に、本実施形態の傾斜角情報に基づく圧力測定値の補正方法について説明する。まず、静電容量−圧力特性データを記憶部23に記憶させておく。この場合、静電容量−圧力特性データは、真空装置内部に連通する領域3の圧力の変化を伴う固定電極5とダイヤフラム電極4間の静電容量を実際に測定しておくことにより取得される。
【0044】
具体的には、実際に基準圧力を測定するための真空計と、静電容量型隔膜真空計100と、を同じ真空装置に取り付けてその内部を真空排気し、その真空装置内に気体を導入して所定の圧力になった時に固定電極5−ダイヤフラム電極4間の静電容量を測定する。その際、基準圧力を測定するため真空計を用いて圧力測定を行う。そして、圧力を変えながら、この作業を繰り返すことにより所定の傾斜角度に応じて静電容量−圧力特性データが得られ、それを記憶部23に記憶させておく。記憶部23は記憶手段を構成する。
【0045】
この操作により、記憶部23には、基準圧力に対する静電容量データの表が作成される。そのため、逆に真空装置内部に連通する領域3の圧力が変化して、固定電極5−ダイヤフラム電極4間の静電容量がある値になった時に、それが何気圧に相当する静電容量であるかを逆算することが可能である。そして、その圧力に相当する出力値(電圧値や電流値)を図1の電気入出力端子10より出力する。静電容量−圧力特性データは図7に示すような測定傾斜角に対する静電容量の圧力依存性として、記憶部23等の記憶手段に保存される。
【0046】
ここで、本発明の効果を得るためには、記憶部23に記憶させるデータを採取するための上記作業を実施する際に、本真空計が何度の角度で傾いているかの傾斜角情報を傾斜角センサ14で検出する。その傾斜角情報を静電容量−圧力特性データと別々に記憶部23に記憶させておく。また、傾斜角情報と静電容量−圧力特性データを異なる記憶手段に記憶させておいても良い。
【0047】
具体的には、例えば、本真空計の接続継手12が垂直下方向(図2に示すθ=+90度)、水平方向(同θ=0度)、垂直上方向(同θ=−90度)のそれぞれの状態で静電容量−圧力特性データは測定され、記憶部23に傾斜角情報と共に静電容量−圧力特性データを記憶させておく。
【0048】
尚、以上の説明においては、容量検出部21、記憶部23及び圧力補正部22は、静電容量型隔膜真空計のケース16内に収納したが、ケース16外に置いても良い。その場合には、ダイヤフラム電極4−固定電極5間の容量に係わる信号と傾斜角情報を、電気入出力端子10から出力し、外部の容量検出部、記憶部及び圧力補正部を備えたユニットでデータの処理を行えば良い。
【0049】
また、接続継手12が垂直下方向とは本真空計が図1に示す状態、即ち、接続継手12が垂直に下方向に向いた状態(第二の傾斜角)、接続継手12が水平方向とは本真空計が水平方向に向いた状態(第一の傾斜角)を言う。また、接続継手12が垂直上方向とは接続継手12が上方向(静電容量型隔膜真空計100が図1とは反対方向)に向いた状態(第三の傾斜角)を言う。
【0050】
実際に静電容量型隔膜真空計100を真空装置2に取り付けて圧力を測定する場合には、静電容量型隔膜真空計100がθ=+90、0、−90度の角度で設置されている時には傾斜角センサ14はその傾斜角度を検出する。傾斜角センサ14の傾斜角情報は圧力補正部22に出力され、その傾斜角情報から予め記憶部23に記憶しているどの傾斜角度に対応する静電容量−圧力特性データを参照するかが分かる。従って、圧力補正部22は傾斜角情報に対応する静電容量−圧力特性データを参照し、その圧力に対応する出力値(電圧値又は電流値)を出力する。
【0051】
次に、接続継手12が垂直下方向、水平方向、垂直上方向以外の角度で静電容量型隔膜真空計100が取り付けられた場合の補正方法を説明する。例えば、図3に示すように接続継手12がθ=45度の角度で取り付けられた場合には、傾斜角センサ14によりその傾斜角度θが検出され、圧力補正部22に出力される。その際、圧力補正部22は予め記憶している上記3つの状態のデータ(鉛直下方向、水平方向、鉛直上方向の傾斜角度に対応する静電容量−圧力特性データ)に加え、検出されたこの傾斜角度θを用いて圧力測定値を補正する。
【0052】
具体的には、接続継手12が鉛直下方向(θ=+90度;第二の傾斜角)に向いている場合の圧力−静電容量データからの検知静電容量に対する圧力をAとする。接続継手12が水平方向(θ=0度;第一の傾斜角)に向いている場合の圧力−静電容量データからの検知容量に対応する圧力をBとする。また、接続継手12が鉛直上方向(θ=−90度;第三の傾斜角)に向いている場合の圧力−静電容量データからの検知容量に対する圧力をCとする。ここで、傾斜角センサ14の検出角度θが、0≦θ≦90度(第一の傾斜角≦θ≦第二の傾斜角)の場合には圧力補正部22は、
圧力=A×sinθ+B×cosθ …(式1)
の演算を行い、圧力測定値を近似補正する。
【0053】
また、傾斜角センサ14の検出角度θが、−90≦θ<0度(第三の傾斜角≦θ<第一の傾斜角)の場合には圧力補正部22は、
圧力=B×cosθ+C×sinθ …(式2)
の演算を行い、圧力測定値を近似補正する。このように三角関数を用いて圧力測定値を補正することにより、静電容量型隔膜真空計100の傾斜角度に関係なく、正確に真空装置の圧力を測定することが可能となる。
【0054】
次に、この補正方法を図4を用いて更に詳細に説明する。図4は図7において接続継手12が水平の場合(θ=0度)と、垂直下方向(θ=+90度)の場合の特性を抽出して示す図である。例えば、図3に示すように接続継手12が下方向に45度となるように真空計を取り付けられた場合には(θ=45度)、図4に一点砂線で示す静電容量−圧力特性となる。その際、例えば、真空装置2内部に連通する領域3の圧力が5.3Paの時にはダイヤフラム4と固定電極5間の静電容量は3.3pFとなる。
【0055】
この時、記憶部23には接続継手12が垂直下方向(θ=+90度、図4に実線で示す。以降データAと示すこともある)、水平方向(θ=0度、図4に破線で示す。以降データBと示すこともある)、垂直上方向(θ=−90度、図4には不図示。以降データCと示すこともある)の場合の静電容量−圧力特性データしか記憶されていない。そのため、この3.3pFの静電容量が検出されても5.3Paという実際の圧力はそのままでは求められない。そこで、以下の手順によって5.3Paという圧力を算出する。
【0056】
まず、傾斜角センサ14により真空計の傾斜角度θが45度であることが検出され、回路基板9の圧力補正部22に出力される。圧力補正部22は接続継手12が下方向(θ=+90度)にある場合と水平方向(θ=0)にある場合の静電容量−圧力特性データを用いて圧力測定値の補正を行う。
【0057】
具体的には、接続継手12が垂直下方向にある場合の静電容量−圧力特性データ(θ=+90度、図4に実線で示す)では、3.3pFは8.1Paの圧力に相当することが分かる。また、接続継手12が水平方向にある場合の静電容量−圧力特性データ(θ=0、図4に破線で示す)では、3.3pFは2.5Paの圧力に相当することが分かる。
【0058】
つまり、この例では、(式1)を用いて、A=8.1Pa、B=2.5Paを代入して、圧力=8.1×sin(45度)+2.5×cos(45度)=5.3Paと演算して圧力測定値を近似補正する。
【0059】
ところで、真空計の傾斜角度θが45度の時に圧力が7.1Pa以上になると、静電容量は3.65pFとなる。その際、(式1)のAとして参照する容量、つまり、接続継手12が垂直下方向にある時の静電容量−圧力特性データ(θ=+90度、図4に実線で示す)では10Pa以上の圧力に相当するデータが必要となる。
【0060】
そこで、例えば、本例で示す真空計のフルスケール圧力が10Paであっても、上記不都合を回避するためには記憶部23に記憶しておくべき静電容量-圧力特性データはその真空計の使用圧力範囲より広い範囲のデータが必要である。即ち、この例の場合には、図4に示すように10Paよりも広い圧力範囲でのデータを実測して内部に記憶しておく必要がある。
【0061】
つまり、上記例の場合には、図4に示すように接続継手12が垂直下方向にある場合の特性は18Paの圧力までデータを実測して記憶部23に保存しておけば良い。その結果、静電容量が3.65pF以上となっても傾斜角度に応じて補正を行って正確な圧力を測定することができる。
【0062】
なお、以上の実施形態では、真空計の傾斜角θが0〜+90度の場合を想定して説明したが、真空計の傾斜角θが−90〜0度のように接続継手12が水平よりも上方を向いて設置する場合も同様の手法により圧力測定値を補正すれば良い。但し、この場合には、(式2)を用いて真空計内に予め記憶する静電容量−圧力特性データとしては、接続継手12が水平方向にあるときのデータBと、接続継手12が垂直上方向にあるときのデータCを用いて補正する。
【0063】
以上の説明から明らかな様に、傾斜角が0≦θ≦90度、或いは−90度≦θ<0に限定されているときには、3つの傾斜角に対する静電容量の圧力依存性を記憶部23に記憶しておく必要はない。つまり、上述のようなAとB或いはBとCの2組の角度に対する静電容量の圧力依存性を記憶しておくだけでよい。この2つの傾斜角での静電容量の圧力依存性に基づき圧力測定値の補正を行う。
【0064】
以上のように本発明の静電容量型真空計は、その傾斜角度がどのような角度であっても、真空計の傾斜角度に応じて圧力測定値を補正することが可能となる。従って、接続継手を下方向に向けて取り付けられない場合でも、特別に真空計を調整する必要がなく、安価に作製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラム電極を有する真空封止室と、
前記真空封止室の内部に前記ダイヤフラム電極に対向して設けられた固定電極と、
静電容量型隔膜真空計の傾斜角度を検出するための傾斜角センサと、
を有することを特徴とする静電容量型隔膜真空計。
【請求項2】
前記ダイヤフラム電極と前記固定電極との間の静電容量を検知する容量検知手段と、
所定の傾斜角における前記ダイヤフラム電極と前記固定電極との間の静電容量の圧力依存性を記憶する記憶手段と、
前記傾斜角センサによって検出された傾斜角情報及び前記記憶手段が記憶している前記静電容量の圧力依存性に基づいて前記傾斜角情報に係わる傾斜角における圧力を補正する圧力補正手段と、
を更に有することを特徴とする請求項1に記載の静電容量型隔膜真空計。
【請求項3】
前記所定の傾斜角は、水平方向である第一の傾斜角、上方向の鉛直方向である第二の傾斜角及び下方向の鉛直方向である第三の傾斜角であることを特徴とする請求項2に記載の静電容量型隔膜真空計。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記静電容量型隔膜真空計の使用圧力範囲によりも広い圧力範囲の前記所定の傾斜角における前記静電容量の圧力依存性を記憶していることを特徴とする請求項2又は3に記載の静電容量型隔膜真空計。
【請求項5】
前記所定の傾斜角は、水平方向である第一の傾斜角及び前記第一の傾斜角とは90度異なる第二の傾斜角であり、
前記圧力補正手段は、2つの前記傾斜角での前記圧力依存性に基づき、前記第一の傾斜角及び前記第二の傾斜角の間の前記傾斜角情報に係わる傾斜角における前記圧力を補正することを特徴とする請求項2に記載の静電容量型隔膜真空計。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の静電容量型隔膜真空計を有することを特徴とする真空装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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