説明

静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法及びその装置

【課題】迅速、かつ容易に判別を行うことができる静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法及びその装置を提供する。
【解決手段】静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法において、静電搬送電極基板102を化学的に不活性な液体で覆い、そこに既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴106をアレイ状に配置しておき、続いて未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴105を静電気により移動させ、前記既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴106と結合させハイブリダイゼーションを行い、両者が一致したときには前記蛍光試薬がインターカレートされ、しかも合致の状況に応じて蛍光強度変化が現れることを利用して、ハイブリダイゼーション状況を判別する。
【選択図】図2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような技術分野の文献として、例えば、以下のようなものがある。
【特許文献1】なし
【非特許文献1】「分子生物学イラストレイテッド」 編集 田村隆明 山本雅 羊土社発行 pp.168−180
【非特許文献2】「バイオ実験イラストレイテッド」 著者 中山広樹 秀潤社発行 pp.14−46
【非特許文献3】「分子生物学プロトコール」 編集 小池克郎 関谷剛男 近藤寿人 南江堂発行 pp.217−224 昨今、バイオの技術分野において、簡便で、的確に操作を行うことができるポスト・ゲノム・アプリケーション(Post Genome Application)に用いる試験用のデバイスが要請されている。
【0003】
図1に示すように、二重螺旋DNAを形成する水素結合は、高温やアルカリ条件下で壊れ、DNAは変性して一本鎖となる。相補的な塩基配列をもつ一本鎖DNAやRNAは、適当な条件下でアニールして二重鎖となる。これをハイブリダイゼーションと呼ぶ。
【0004】
従来のハイブリダイゼーション方法では、主に、DNAチップ中で、既知の一本鎖DNAと未知の一本鎖DNAサンプルを混合させて、その反応を見ることにより、ハイブリダイゼーション状況を判別するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
来のDNAチップでは、サンプルとの接触面積が小さいため検出感度が低いという問題があり、接触面積を増やすために、微小なビーズ表面にcDNA(相補的デオキシリボ核酸)等を修飾するなどの方法も考えられている。また、ハイブリダイゼーション方法は手作業が主であり、煩雑であるとともに、的確でなく、時間を要するものであった。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、迅速、かつ容易に判別を行うことができる静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法及その装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〕静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法において、静電搬送電極基板を化学的に不活性な液体で覆い、そこに既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴をアレイ状に配置しておき、続いて未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴を静電気により移動させ、前記既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴と結合させハイブリダイゼーションを行い、両者が一致したときには前記蛍光試薬がインターカレートされ、しかも合致の状況に応じて蛍光強度変化が現れることを利用して、ハイブリダイゼーション状況を判別することを特徴とする。
【0008】
〕静電搬送活用のハイブリダイゼーション装置において、化学的に不活性な液層を満たした静電搬送電極基板と、この静電搬送電極基板上にアレイ状に配置される、既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴と、前記静電搬送電極基板の電極の駆動により移動される未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴と、前記既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴に前記未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴とを作用させて、そのハイブリダイゼーション状況を判別する手段とを具備することを特徴とする。
【0009】
なお、本発明においては、既知の一本鎖DNAにはcDNAを含むものと定義する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0011】
)ハイブリダイゼーションの判別を迅速、かつ容易に行うことができる。
【0012】
)実験に用いるサンプルを液滴化して用いるため、サンプル量は極微量で済む。また、ハイブリダイゼーションに要する時間も極僅かであるため、現行のDNAチップによる判別法に比べて優れた特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法は、静電搬送電極基板を化学的に不活性な液体で覆い、そこに既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴をアレイ状に配置しておき、続いて未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴を静電気により移動させ、前記既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴と結合させハイブリダイゼーションを行い、両者が一致したときには前記蛍光試薬がインターカレートされ、しかも合致の状況に応じて蛍光強度変化が現れることを利用して、ハイブリダイゼーション状況を判別する。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明では、液体を満たした静電搬送基板上に、既知の一本鎖DNAを保持し、未知の一本鎖DNAサンプルを静電気により移動・反応させ、発光状況からハイブリダイゼーション状況を判する静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法およびその装置を提供する。
【0016】
は本発明の実施例を示す静電搬送活用のハイブリダイゼーション装置の模式図である。
【0017】
この図において、101は静電搬送活用のハイブリダイゼーション装置、102は静電搬送用電極基板、103は静電搬送用電極、104は液層、105は未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴、106は塩基配列が分かっている一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴(DNA11,DNA12,…,DNA41,DNA42,…)、107は電圧制御機器であり、この電圧制御機器107は静電搬送用電極基板102の全般にわたる静電搬送用電極103に接続されている。
【0018】
そこで、塩基配列が分かっている一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴106を静電搬送用電極基板102上にアレイ状に配置する。そして、未知の一本鎖DNAを含む液滴105を静電搬送により移動させて、塩基配列が分かっている一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴106と合体させる。
【0019】
合体により、蛍光が発生するメカニズムを図に示す。図(a)は塩基配列が分かっている一本鎖DNAの一本鎖を示し、図(b)は未知の一本鎖DNAと塩基配列が分かっている一本鎖DNAが完全に一致した場合、図(c)は一部のみ合致した場合、図(d)は全く合致しなかった場合を示している。
【0020】
に示すように、未知の一本鎖DNAと塩基配列が分かっている一本鎖DNAとの塩基配列が完全に合致した場合〔図(b)〕だけ、蛍光が強く発せられる。
【0021】
本発明は、液体中にある一本鎖DNAを含む液滴を静電気により移動・反応させて、遺伝子の存在を判別するDNAチップの機能を有する。
【0022】
DNAとは反応しない液体中に既知の各種一本鎖DNAおよび蛍光試薬が入った液滴をアレイ状に配置する。続いて、液体中に配置された未知の一本鎖DNAの液滴を静電気により移動させて、既知一本鎖DNAを含む液滴と結合させて、ハイブリダイゼーションを行う。既知の一本鎖DNAとサンプルが一致すれば、すべてハイブリダイゼーションするため、蛍光試薬がインターカレートされて蛍光を発する。もし、一致しない場合は、図(d)に示すように、蛍光試薬がインターカレートされないため蛍光を発しない。
【0023】
一般に遺伝子の塩基配列はプライマ(塩基対20base前後)で決定されるため、一本鎖DNAとして塩基対20baseを用いることにより、サンプル中に一本鎖DNAによって決定される塩基配列を持つ遺伝子が含まれるかどうかの判別が出来る(一般のDNAチップも同じ)。
【0024】
本発明によれば、実験に用いるサンプルを液滴化して用いるため、サンプル量は極微量で済む。また、ハイブリダイゼーションに要する時間も極僅かであるため、現行のDNAチップによる判別法に比べて優れた特徴がある。
【0025】
は左より蛍光試薬のみ、蛍光試薬と合致しない一本鎖DNA、蛍光試薬と一部のみ合致するDNA、蛍光試薬と完全に合致するDNAとの結合状態における蛍光強度を示す。
【0026】
この図に示すように、完全に配列が一致した場合のみ強い蛍光が生じることが分かる。また、一部のみ合致した場合には僅かな蛍光が生じる。ここで、基本となるDNA配列は、20baseで、配列はAGGGGACTTTCCTGACGTGTである。一部のみ合致とは10baseだけ合致していることを示す。
【0027】
は図におけるハイブリダイゼーションの蛍光強度の撮影装置の模式図である。
【0028】
この図において、110は基台、111は静電搬送用電極基板、112は液層、113はDNAを含む液滴、115は下部より紫外線を照射する紫外線光源、116はカメラ(撮像装置)である。
【0029】
は本発明の他の実施例を示すハイブリダイゼーションの蛍光強度の撮影装置を示す図である。
【0030】
この図において、120は基台、121は静電搬送用電極基板、122は液層、123はDNAを含む液滴、124はガラスカバー、125は斜め上方より紫外線を照射する紫外線光源、126はカメラ(撮像装置)である。なお、ガラスカバー124は不用の場合もある。
【0031】
このようにして、液層中のDNAを含む液滴のハイブリダイゼーション状況をカメラ(撮像装置)によって撮像することができる。
【0032】
なお、本発明に関する基礎技術として、本発明者らは不活性な液体中にある液体微小粒子のハンドリングに関する特許を出願している(特許願2001−48096および特許願2001−238624、「液体微粒子のハンドリング方法およびその装置」)。
【0033】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、静電搬送活用のハイブリダイゼーション装置として好適であり、簡便なチップを用いたバイオ試料の試験装置などに広範に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】二重螺旋DNAの変性と再生の模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す静電搬送活用のハイブリダイゼーション装置の模式図である。
【図3】蛍光が発生するメカニズムを示す模式図である。
【図4】本発明の実施例を示す静電搬送活用のハイブリダイゼーション装置による蛍光強度を示す図である。
【図5】図におけるハイブリダイゼーションの蛍光強度の撮影装置の模式図である。
【図6】本発明の他の実施例を示すハイブリダイゼーションの蛍光強度の撮影装置を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電搬送電極基板を化学的に不活性な液体で覆い、そこに既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴をアレイ状に配置しておき、続いて未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴を静電気により移動させ、前記既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴と結合させハイブリダイゼーションを行い、両者が一致したときには前記蛍光試薬がインターカレートされ、しかも合致の状況に応じて蛍光強度変化が現れることを利用して、ハイブリダイゼーション状況を判別することを特徴とする静電搬送活用のハイブリダイゼーション方法。
【請求項2】
(a)化学的に不活性な液層を満たした静電搬送電極基板と、
(b)該静電搬送電極基板上にアレイ状に配置される、既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴と、
(c)前記静電搬送電極基板の電極の駆動により移動される未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴と、
(d)前記既知の一本鎖DNAと蛍光試薬を含む液滴に前記未知の一本鎖DNAサンプルを含む液滴とを作用させて、そのハイブリダイゼーション状況を判別する手段とを具備することを特徴とする静電搬送活用のハイブリダイゼーション装置。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−259867(P2007−259867A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176904(P2007−176904)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【分割の表示】特願2003−558173(P2003−558173)の分割
【原出願日】平成15年1月8日(2003.1.8)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】