説明

非フッ素化界面活性剤を用いたフルオロポリマーの重合

本発明は、非フッ素化界面活性剤を用いた水性媒体中でのモノマー、特にフルオロモノマーの重合方法、及び生成されるフルオロポリマーに関する。特定的には、この重合方法は、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩より成る群から選択される1種以上の非フッ素化界面活性剤を用いる。追加的に、水性フリーラジカル重合における界面活性剤としてポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸を使用することもまた新規である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非フッ素化界面活性剤を用いた水性媒体中でのモノマー、特にフルオロモノマーの重合方法、及び生成されるフルオロポリマーに関する。特定的には、この重合方法は、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、及びそれらの塩より成る群から選択される1種以上の非フッ素化界面活性剤を用いる。追加的に、水性フリーラジカル重合における界面活性剤としてポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸を使用することもまた新規である。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは、懸濁液、エマルション及びミクロエマルション系を含めた不均一系重合反応によって主として製造される。一般的に、これらの反応のそれぞれは、好適な反応媒体中で、少なくとも1種のモノマー及びラジカル開始剤を必要とする。さらに、ハロゲン含有モノマーの乳化重合は一般的に、重合反応の間中、反応成分及び反応生成物の両方を乳化させることができる界面活性剤を必要とする。フルオロポリマーの合成において最適な界面活性剤は一般的に、ペルフルオロアルキル界面活性剤である。ハロゲン化ポリマーの製造において最も一般的なペルフルオロアルキル界面活性剤は、ペルフルオロオクタン酸アンモニウム(AFPO)である。
【0003】
米国特許第3475396号明細書には、フッ素化界面活性剤及びフリーラジカル開始剤としてのイソプロピルペルオキシジカーボネート(IPP)を用いたフッ化ビニリデン(VF2)の乳化重合が教示されている。この重合方法はその後、様々な改善された特性を有するポリマーを提供するために改良されてきた。米国特許第3857827号明細書、米国特許第4076929号明細書、米国特許第4360652号明細書、米国特許第4569978号明細書、米国特許第6187885号明細書を参照されたい。
【0004】
しかしながら、フルオロ界面活性剤は高価な特殊材料である。さらに、これらは安定性が高いので、環境中に残留する傾向がある。化学的分解に対して耐性があるため、フルオロアルキル界面活性剤は環境及び有機体中に蓄積する可能性を有する。また、この界面活性剤の高いフッ素化度は、成長するポリマー鎖と界面活性剤との間の原子移動が重合中に起こるのを防止し、これが生成物の分子量の低下をもたらし、そして反応の阻害をももたらすようである。
【0005】
非ペルフルオロアルキル界面活性剤を用いる新たな重合方法又はペルフルオロアルキル界面活性剤の使用量が減少した新たな重合方法が必要とされている。この問題に取り組むために、ハロゲン含有モノマーの重合においてペルフルオロアルキル界面活性剤の使用を減らし又は排除するためのいくつかの異なるアプローチが試みられてきた。
【0006】
ペルフッ素化界面活性剤の代わりに部分フッ素化界面活性剤を用いる乳化重合方法がいくつか示されている。米国特許第4524197号明細書、米国特許第5763552号明細書を参照されたい。不均一系重合におけるペルフルオロアルキル界面活性剤の量を減らすための別の試みは、慣用のフッ素化界面活性剤を非フッ素化炭化水素界面活性剤と組み合わせて添加するプロトコルを伴うものだった。しかしながら、この変法は反応速度を実質的に低下させる働きをした。国際公開WO95−08598A号パンフレットを参照されたい。その開示の全体を参考用に本明細書に取り入れる。
【0007】
不均一系重合におけるペルフルオロアルキル界面活性剤の量を減らすための別の試みは、慣用のフッ素化界面活性剤を非フッ素化炭化水素界面活性剤と組み合わせて添加するプロトコルを伴うものだった。しかしながら、この変法は反応速度を実質的に低下させる働きをした。国際公開WO95−08598A号パンフレットを参照されたい。その開示の全体を参考用に本明細書に取り入れる。
【0008】
E. I. du Pont de Nemours社に譲渡された米国特許第2559752号の明細書に記載された発明は、「ポリマーの水性コロイド分散体」に関するものである。過硫酸アルカリや脂肪族アゾ化合物のような水溶性重合開始剤(米国特許第2471959号明細書及び「ケミカル・アブストラクツ」(C.A.)436002gを参照されたい)、並びにポリフッ素化されたイオン化可能分散剤(I)を存在させた下で重合を実施することによって、重合させたエチレン性不飽和有機化合物の安定な水性コロイド分散体が得られる。前記の(I)は、以下のものを含む様々な群の化合物から選ばれる:
・ポリフルオロアルカン酸X(CF2)nCO2H、ポリフルオロアルキル二水素ホスフェートX(CF2)nCH2OPO(OH)2[X(CF2)nCH2OHとP25又はPOCl3とから得ることができる]及びそれらのNH4又はアルカリ金属塩;
・ポリフルオロアルキル水素サルフェートX(CF2)nCH2OSO3H及びそれらのNH4又はアルカリ金属塩;
・ポリフルオロアルカンホスホン酸H(CF2)nPO(OH)2[フリーラジカル生成用触媒の存在下でC24とジアルキルホスファイトとから、次いで加水分解によって得ることができる]及びそれらのNH4又はNa塩。
【0009】
米国特許第6869997号明細書(参考用に本明細書に取り入れる)には、フルオロポリマーの製造における界面活性剤として3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸塩を使用することが記載されている。
【0010】
米国特許第6841616号明細書(参考用に本明細書に取り入れる)には、フルオロポリマーの製造における界面活性剤としてシロキサンをベースとする界面活性剤を使用することが記載されている。
【0011】
上記の先行技術のいずれにも、フッ素化ポリマーの合成における界面活性剤として非フッ素化ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸又はそれらの塩を使用することは記載されていない。
【特許文献1】米国特許第3475396号明細書
【特許文献2】米国特許第3857827号明細書
【特許文献3】米国特許第4076929号明細書
【特許文献4】米国特許第4360652号明細書
【特許文献5】米国特許第4569978号明細書
【特許文献6】米国特許第6187885号明細書
【特許文献7】米国特許第4524197号明細書
【特許文献8】米国特許第5763552号明細書
【特許文献9】国際公開WO95−08598A号パンフレット
【特許文献10】米国特許第2559752号明細書
【特許文献11】米国特許第2471959号明細書
【特許文献12】米国特許第6869997号明細書
【特許文献13】米国特許第6841616号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
驚くべきことに、ポリマー、特にフッ素化ポリマーの水をベースとする合成における界面活性剤としてポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸又はそれらの塩を用いることができ、それによってフッ素化界面活性剤の使用を排除し又は有意に減らすことができることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は、水性反応媒体中でのフルオロポリマーの製造方法であって、
(a)少なくとも1種のラジカル開始剤と少なくとも1種の非フッ素化界面活性剤と少なくとも1種のフルオロモノマーとを含む水性エマルションを形成させ;そして
(b)前記フルオロモノマーの重合を開始させる:
ことを含み、
前記非フッ素化界面活性剤がポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩より成る群から選択される、前記製造方法に関する。
【0014】
本発明はさらに、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩より成る群から選択される非フッ素化界面活性剤を用いて水性媒体中で生成させたフルオロポリマーにも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳しい説明
本発明は、界面活性剤ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸及び/又はポリビニルスルホン酸又はそれらの塩を界面活性剤として用いるフルオロポリマーの重合に関する。
【0016】
本発明の方法において、重合反応は、反応器に水(好ましくは脱イオン水)、少なくとも1種の非フッ素化界面活性剤、少なくとも1種のモノマー(好ましくは少なくとも1種のフルオロモノマー)、並びに随意としての連鎖移動剤及び防汚剤を装填することによって実施される。フルオロモノマーを導入する前に反応器から空気をパージすることができる。水は、反応器を所望の出発温度にする前に反応器に添加するが、しかし、その他の材料は、反応器をその温度にする前又は後に添加することができる。重合反応を開始させて継続させるために、少なくとも1種のラジカル開始剤を添加する。消費されるモノマーを補充するために追加のモノマーを随意に添加してもよく、そして反応を継続させて最終生成物の特性を制御するために随意にその他の材料を重合の間に添加してもよい。
【0017】
界面活性剤
【0018】
用語「界面活性剤」とは、疎水性部分と親水性部分との両方を有するタイプの分子であって、疎水性分子を安定化させ且つ分散させることができ、水性系中で疎水性分子を凝集させるものを意味する。本発明で用いられるポリ酸類には、当該酸だけではなく、完全に又は部分的に中和された酸(特にアンモニウム又はナトリウム塩として)も包含される。
【0019】
ポリアクリル酸には、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸の両方が包含される。
【0020】
ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びポリビニルホスホン酸界面活性剤は、全モノマーを基準として0.001〜2重量%、好ましくは0.001〜0.5重量%の割合で用いられる。
【0021】
本発明のアルキルホスホン酸、ポリホスホン酸、ポリアクリル酸及びポリビニルスルホン酸界面活性剤並びにそれらの塩はすべて、水溶性又は水分散性低分子量分子である。
【0022】
本発明のポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸及びポリビニルスルホン酸界面活性剤には、当該酸と1種以上の他のエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーも包含されるが、但し、該コポリマー自体が水溶性又は水分散性でなければならない。
【0023】
また、他の共界面活性剤(補助界面活性剤)を本発明のポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸及びポリビニルスルホン酸界面活性剤と共に用いることもできる。好ましい共界面活性剤には、非フッ素化炭化水素界面活性剤、シロキサン界面活性剤又はそれらの組合せがある。
【0024】
モノマー
【0025】
ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸及び/又はポリビニルスルホン酸界面活性剤を用いる本発明の水をベースとする重合において有用なモノマーは、任意のエチレン性不飽和モノマーである。有用なモノマーの非限定的な例には、アクリル酸及びアクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸アルキル)、ビニルエステル(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル)、マレイン酸エステル(例えばマレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ−n−プロピル、マレイン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジ−2−メトキシエチル)、フマル酸エステル(例えばフマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジ−n−プロピル、フマル酸ジイソプロピル)、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン及びアクリロニトリル、酸無水物、ビニルエステル、α−オレフィン、不飽和ジカルボン酸の置換又は非置換モノ及びジアルキルエステル、ビニル芳香族、環状モノマーが包含される。
【0026】
フルオロモノマー
【0027】
「フルオロモノマー」という用語又は「フッ素化モノマー」という表現は、重合させるべきアルケンの二重結合に結合する少なくとも1個のフッ素原子、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基を含有する重合性アルケンを意味する。用語「フルオロポリマー」とは、少なくとも1種のフルオロモノマーの重合によって生成するポリマーを意味し、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー及びそれ以上のポリマーであって熱可塑性性状のものが包含される。熱可塑性性状とは、型成形や押出のプロセスにおいて行われるように熱を加えられた時にポリマーが流動することによって有用なピースに成形されることができることを意味する。フルオロポリマーは、1種以上のフルオロモノマーを少なくとも50モル%含有するのが好ましい。熱可塑性ポリマーは典型的には結晶融点を示す。
【0028】
本発明の実施に当たって有用なフルオロモノマーには、例えばフッ化ビニリデン(VF2)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ化ビニル、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペンタフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロペン、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アリルエーテル、非フッ素化アリルエーテル、フッ素化ジオキソール及びそれらの組合せが包含される。
【0029】
本発明の方法によって作られる特に好ましいコポリマーは、VDF約71〜約99重量%及びそれに応じてTFE約1〜約29重量%を含むコポリマー;VDF約71〜99重量%及びそれに応じてHFP約1〜29重量%を含むコポリマー(米国特許第3178399号明細書に開示されたようなもの);並びにVDF約71〜99重量%及びそれに応じてトリフルオロエチレン約1〜29重量%を含むコポリマーである。
【0030】
特に好ましいターポリマーは、VDFとHFPとTFEとのターポリマー、及びVDFとトリフルオロエタンとTFEとのターポリマーである。特に好ましいターポリマーは、VDFを少なくとも10重量%有し、その他のコモノマーは様々な割合で存在することができるが、しかし一緒になってターポリマーの90重量%までを占めるものとする。
【0031】
開始剤
【0032】
「開始剤」という用語並びに「ラジカル開始剤」及び「フリーラジカル開始剤」という表現は、フリーラジカル源を提供することができる化学物質を指す(自然に誘導されるもの又は熱若しくは光に曝すことによって誘導されるもの)。開始剤の例には、ペルオキシド、ペルオキシジカーボネート及びアゾ化合物が包含される。この用語/表現にはまた、フリーラジカル源を提供するのに有用なレドックス系も包含される。「ラジカル」という用語及び「フリーラジカル」という表現は、少なくとも1つの不対電子を含有する化学種を指す。
【0033】
ラジカル開始剤は、重合反応を所望の反応速度で開始させて継続させるのに充分な量で反応混合物に添加する。添加順序は、所望のプロセス及びラテックスエマルション特徴に応じて変えることができる。
【0034】
ラジカル開始剤は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウムのような過硫酸塩を含むことができる。反応混合物に添加される過硫酸塩の量は、(反応混合物に添加されるモノマーの総重量を基準として)約0.005〜約1.0重量%である。
【0035】
ラジカル開始剤は、アルキル、ジアルキル又はジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート及びペルオキシエステルのような有機ペルオキシドを、全モノマーの約0.5〜約2.5重量%の量で含むことができる。
【0036】
連鎖移動剤
【0037】
連鎖移動剤は、生成物の分子量を調節するために重合に添加される。これらは、単一の部分において反応開始時に又は反応を通じて増量的に若しくは連続的に、重合に添加することができる。連鎖移動剤の添加量及び添加態様は、用いる連鎖移動剤の活性及びポリマー生成物に望まれる分子量に依存する。重合反応に添加される連鎖移動剤の量は、反応混合物に添加されるモノマーの総重量を基準として約0.05〜約5重量%であるのが好ましく、約0.1〜約2重量%であるのがより一層好ましい。
【0038】
本発明において有用な連鎖移動剤の非限定的な例には、酸素含有化合物、例えばアルコール類、カーボネート類、ケトン類、エステル類、エーテル類(連鎖移動剤としての働きをすることができるもの);ハロカーボン類及びヒドロハロカーボン類、例えばクロロカーボン類、ヒドロクロロカーボン類、クロロフルオロカーボン類及びヒドロクロロフルオロカーボン類;エタン及びプロパンが包含される。
【0039】
緩衝剤
【0040】
重合反応混合物には、重合反応を通じて制御されたpHを維持するために、随意に緩衝剤を含有させることができる。生成物の望ましくない着色を最小限に抑えるためには、pHを約4〜約8の範囲内で制御するのが好ましい。
【0041】
緩衝剤は、有機若しくは無機酸又はそれらのアルカリ金属塩、或は約4〜約10、好ましくは約4.5〜約9.5の範囲の少なくとも1つのpKa値及び/又はpKb値を有するかかる有機又は無機酸の塩又は塩基を含むことができる。本発明の実施に当たって好ましい緩衝剤には、例えばリン酸塩緩衝剤及び酢酸塩緩衝剤が包含される。「リン酸塩緩衝剤」はリン酸の塩(群)である。「酢酸塩緩衝剤」は酢酸の塩である。
【0042】
緩衝剤は、過硫酸カリウムをラジカル開始剤として用いる場合に、好ましく用いられる。過硫酸塩ラジカル開始剤と共に用いるのに好ましい緩衝剤は、酢酸ナトリウムである。酢酸ナトリウム緩衝剤の好ましい量は、反応に添加される過硫酸塩開始剤の重量を基準として約50重量%〜約150重量%である。
【0043】
防汚剤
【0044】
反応へのパラフィンワックス又は炭化水素オイルの添加は、反応器部品へのポリマーの付着を最小限に抑え又は防止するための防汚剤としての働きをする。任意の長鎖飽和炭化水素ワックス又はオイルは、この機能を果たすことができる。反応器に添加されるオイル又はワックスの量は、反応器部品へのポリマー付着物の形成を最小限に抑える働きをする量である。この量は一般的に反応器の内部表面積に比例し、反応器内部表面積1cm2当たり約1〜約40mgの範囲であることができる。パラフィンワックス又は炭化水素オイルの量は、反応器内部表面積1cm2当たり約5mgであるのが好ましい。
【0045】
重合条件
【0046】
重合のために採用する温度は、選択する開始剤系に応じて20〜160℃の範囲で変えることができる。この重合温度は、35〜130℃であるのが好ましく、65〜130℃であるのがより一層好ましい。1つの実施形態においては、反応の間にこの温度を変化させる。
【0047】
重合のために採用する圧力は、反応装置の能力、選択する開始剤系及び選択するモノマーに応じて、280〜20000kPaの範囲で変えることができる。この重合圧力は、2000〜11000kPaであるのが好ましく、2750〜6900kPaであるのがより一層好ましい。
【0048】
この重合は、撹拌下で行われる。撹拌は、一定であることもでき、重合進行中にプロセス条件を最適化するために変化させることもできる。1つの実施形態においては、反応を制御するために複数の撹拌速度及び複数の温度を採用する。
【0049】
本発明の方法の1つの実施形態に従えば、撹拌機及び熱制御手段を備えた加圧式重合反応器に、水(好ましくは脱イオン水)、1種以上の本発明の界面活性剤及び少なくとも1種のフルオロモノマーを装填する。この混合物には、1種以上の追加の非フッ素化界面活性剤、緩衝剤、防汚剤及びポリマー生成物の分子量を調節するための連鎖移動剤を随意に含有させることができる。
【0050】
モノマーを導入する前に、重合反応について酸素が存在しない環境を得るために反応器から空気を除去するのが好ましい。
【0051】
重合成分を一緒にする順序は、フルオロモノマーの重合の開始前に水性反応媒体中に本発明の界面活性剤を存在させることを条件として、変えることができる。
【0052】
1つの実施形態においては、水、開始剤、界面活性剤並びに随意としての防汚剤、連鎖移動剤及び緩衝剤を反応器に装填し、この反応器を所望の反応温度に加熱する。次いでこの反応器にモノマーを、好ましくは本質的に一定の圧力を提供する速度で、供給する。
【0053】
別法として、モノマー及び開始剤を1種以上の随意成分と一緒に反応器に供給することができる。フルオロポリマー重合法についてのその他の変法も当技術分野において知られているように期待される。
【0054】
反応器圧力は、主に反応への気体状モノマーの供給を調節することによって制御される。反応圧力は典型的には約280〜約20000kPa、好ましくは約2000〜約11000kPa、より一層好ましくは約2750〜約6900kPaとする。
【0055】
所望の重量のモノマーが反応器に供給された時に、モノマーの供給を終了させる。随意に追加のラジカル開始剤を添加し、適当な時間の間、反応させておく。反応器内のモノマーが消費されるにつれて、反応器圧力が低下する。
【0056】
重合反応が完了したら、反応器を周囲温度にし、残留未反応モノマーを排出させて大気圧にする。次いでポリマー(フルオロポリマー)を含有する水性反応媒体を反応器からラテックスとして回収する。このラテックスは、反応成分の安定な混合物、即ち水、界面活性剤、開始剤(及び/又は開始剤の分解生成物)並びにフルオロポリマー固体の安定な混合物から成る。
【0057】
一般的に、前記ラテックスは約10〜約50重量%のポリマー固体を含有する。ラテックス中のポリマーは、約30nm〜約500nmの範囲の寸法を有する小さい粒子の形にある。
【0058】
この重合の生成物はラテックスであり、これはその形で(通常は重合プロセスからの固体状副生成物を濾過した後に)用いることもでき、また、凝集させて固体を単離し、次いでこれを洗浄して乾燥させることもできる。ラテックスの形で用いるためには、さらなる界面活性剤を添加することによってラテックスを安定化させることができ、この界面活性剤は、同一の又は異なるイオン性界面活性剤であることもでき、また、異なるタイプのもの、例えば非イオン性界面活性剤であることもできる。固体状生成物については、ラテックスを機械的に又は塩若しくは酸を添加することによって凝固させ、次いで濾過のようなよく知られた手段によって単離することができる。単離したら、洗浄又はその他の技術によって固体状生成物を精製することができ、そして粉体として用いるために乾燥させることができ、これはさらに加工して粒体にすることができる。
【実施例】
【0059】
例1〜4
【0060】
ポリアクリル酸界面活性剤を過硫酸カリウム開始剤と共に用いて、フッ化ビニリデンホモポリマーを製造した。この実験は、25ミリリットルの反応器(Argonaut社からのEndeavor反応器)中で実施した。この反応器に0.25重量%界面活性剤水溶液480マイクロリットル(即ち300ppm)及び1重量%過硫酸カリウム水溶液250マイクロリットル(即ち625ppm)を添加した。次いで、脱イオン水を添加して全反応器装填量を4gにした。この反応器を窒素ガスでパージした。この反応器をシールし、500rpmで撹拌を開始する。実験を通じて撹拌を継続した。この反応器を83℃に加熱した。この反応器に圧力が490psiに達するまでフッ化ビニリデンを装填した。反応温度を83℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧力を490psiに保った。VF2の消費量が所望の割合に達した時に、VF2の供給を停止した。30分間の間、撹拌を続け、温度を保った。撹拌及び加熱を停止した。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、ラテックスを回収した。ラテックスの固形分の重量分析測定を行った。これらの例を表1にまとめる。
【0061】
【表1】

Coag=ラテックス凝固
L7210はRhodia社からの界面活性剤であり、そのまま用いた
【0062】
例5:
【0063】
ポリアクリル酸界面活性剤及び過硫酸カリウム(KPS)開始剤を用いて、ポリフッ化ビニリデンを製造した。脱イオン水を用いた。試薬は、別途記載がない限り、ACS試薬グレード品質のものだった。ポリアクリル酸は45重量%溶液として入荷した。7.5リットルのステンレス鋼製反応器に、水4030g、パラフィンワックス4g、界面活性剤水溶液(ポリアクリル酸1.26重量%)100.0g並びに開始剤水溶液(過硫酸カリウム1.2重量%及び酢酸ナトリウム0.72重量%)100gを添加した。この混合物をアルゴンでパージし、0.5時間撹拌した。反応器をシールし、撹拌を続け、反応器を121℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデン362gを装填して4454kPaの圧力にした。開始剤溶液17gを最初に240g/時間の速度で装填し、次いで約60.0g/時間の速度で開始剤溶液を定常供給した。反応温度を121℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧力を4480kPaに保った。1.65時間後に、フッ化ビニリデンの供給を停止した。2202gの量のフッ化ビニリデンを反応器に添加した。0.3時間の間、撹拌を続け、温度を保ち、開始剤水溶液の供給を続けた。開始剤水溶液の供給を停止し、次いで0.17時間の間、撹拌及び反応温度を維持した。撹拌及び加熱を停止した。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、ラテックスをステンレス鋼製メッシュに通して、反応器を空にした。反応の間に、約1.0重量%の凝塊が生成した。このラテックスの重量測定による固形分測定は、反応器に供給したフッ化ビニリデンの重量を基準として固体状ポリマーの収率が88.5重量%であることを示した。モノマーをポリマーに転化させるために用いた過硫酸カリウムの量は、フッ化ビニリデンモノマーの重量を基準として0.13重量%だった。
【0064】
例6:
【0065】
ポリアクリル酸界面活性剤及び過硫酸カリウム(KPS)開始剤を用いて、ポリフッ化ビニリデンを製造した。脱イオン水を用いた。試薬は、別途記載がない限り、ACS試薬グレード品質のものだった。ポリアクリル酸は45重量%溶液として入荷した。7.5リットルのステンレス鋼製反応器に、水4330g、パラフィンワックス4g及び界面活性剤水溶液(ポリアクリル酸1.31重量%)100.0gを添加した。この混合物をアルゴンでパージし、0.5時間撹拌した。反応器をシールし、撹拌を続け、反応器を121℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデン362gを装填して4454kPaの圧力にした。過硫酸カリウム1.2重量%及び酢酸ナトリウム0.72重量%の開始剤水溶液19gを最初に120g/時間の速度で装填し、次いで約60.0g/時間の速度で開始剤溶液を定常供給した。75分後に、開始剤溶液の供給速度を36g/時間に落とし、反応の残りの部分を通じてこの速度を維持した。反応温度を121℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧力を4480kPaに保った。1.87時間後に、フッ化ビニリデンの供給を停止した。2204gの量のフッ化ビニリデンを反応器に添加した。0.3時間の間、撹拌を続け、温度を保ち、開始剤水溶液の供給を続けた。開始剤水溶液の供給を停止し、次いで0.17時間の間、撹拌及び反応温度を維持した。撹拌及び加熱を停止した。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、ラテックスをステンレス鋼製メッシュに通して、反応器を空にした。反応の間に、0.54重量%の凝塊が生成した。このラテックスの重量測定による固形分測定は、反応器に供給したフッ化ビニリデンの重量を基準として固体状ポリマーの収率が98.0重量%であることを示した。モノマーをポリマーに転化させるために用いた過硫酸カリウムの量は、フッ化ビニリデンモノマーの重量を基準として0.071重量%だった。
【0066】
例7:
【0067】
ポリアクリル酸界面活性剤及び過硫酸カリウム(KPS)開始剤を用いて、ポリフッ化ビニリデンを製造した。脱イオン水を用いた。試薬は、別途記載がない限り、ACS試薬グレード品質のものだった。ポリアクリル酸は45重量%溶液として入荷した。7.5リットルのステンレス鋼製反応器に、水4330g、パラフィンワックス4g及び界面活性剤水溶液(ポリアクリル酸0.63重量%)100.0gを添加した。この混合物をアルゴンでパージし、0.5時間撹拌した。反応器をシールし、撹拌を続け、反応器を121℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデン432gを装填して4454kPaの圧力にした。過硫酸カリウム1.2重量%及び酢酸ナトリウム0.72重量%の開始剤水溶液13gを最初に72g/時間の速度で装填し、次いで約36.0g/時間の速度で開始剤溶液を定常供給した。90分後に、開始剤溶液の供給速度を24g/時間に落とし、試験を通じてこの速度を維持した。反応温度を121℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧力を4480kPaに保った。1.87時間後に、フッ化ビニリデンの供給を停止した。2204gの量のフッ化ビニリデンを反応器に添加した。0.3時間の間、撹拌を続け、温度を保ち、開始剤水溶液の供給を12g/時間で続けた。開始剤水溶液の供給を停止し、次いで0.17時間の間、撹拌及び反応温度を維持した。撹拌及び加熱を停止した。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、ラテックスをステンレス鋼製メッシュに通して、反応器を空にした。反応の間に、0.92重量%の凝塊が生成した。このラテックスの重量測定による固形分測定は、反応器に供給したフッ化ビニリデンの重量を基準として固体状ポリマーの収率が93.0重量%であることを示した。モノマーをポリマーに転化させるために用いた過硫酸カリウムの量は、フッ化ビニリデンモノマーの重量を基準として0.045重量%だった。
【0068】
例8:
【0069】
ポリアクリル酸及びT-5863ポリシロキサンの混合界面活性剤並びに開始剤としての過硫酸カリウム(KPS)を用いて、ポリフッ化ビニリデンを製造した。脱イオン水を用いた。試薬は、別途記載がない限り、ACS試薬グレード品質のものだった。ポリアクリル酸は45重量%溶液として入荷し、T-5863ポリシロキサンは純度100%のものだった。7.5リットルのステンレス鋼製反応器に、水4030g、パラフィンワックス4g、界面活性剤水溶液(ポリアクリル酸0.41重量%及びT-5863ポリシロキサン1.9重量%)100.0g並びに開始剤水溶液(過硫酸カリウム0.5重量%及び酢酸ナトリウム0.31重量%)350gを添加した。この混合物をアルゴンでパージし、0.5時間撹拌した。反応器をシールし、撹拌を続け、反応器を82℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデン478gを装填して4454kPaの圧力にした。開始剤溶液64gを最初に36g/時間の速度で装填し、次いで反応を通じて開始剤溶液を定常供給した。反応温度を121℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧力を4480kPaに保った。2.6時間後に、フッ化ビニリデンの供給を停止した。2200gの量のフッ化ビニリデンを反応器に添加した。0.3時間の間、撹拌を続け、温度を保ち、開始剤水溶液の供給を続けた。開始剤水溶液の供給を停止し、次いで0.17時間の間、撹拌及び反応温度を維持した。撹拌及び加熱を停止した。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、ラテックスをステンレス鋼製メッシュに通して、反応器を空にした。反応の間に、約0.8重量%の凝塊が生成した。このラテックスの重量測定による固形分測定は、反応器に供給したフッ化ビニリデンの重量を基準として固体状ポリマーの収率が90.3重量%であることを示した。モノマーをポリマーに転化させるために用いた過硫酸カリウムの量は、フッ化ビニリデンモノマーの重量を基準として0.104重量%だった。
【0070】
【表2】

すべての濃度はVDFに基づく。
【0071】
【表3】

すべての濃度はVDFに基づく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性反応媒体中でのポリマーの製造方法であって、
(a)少なくとも1種のラジカル開始剤と少なくとも1種の非フッ素化界面活性剤と少なくとも1種のモノマーとを含む水性エマルションを形成させ;そして
(b)前記モノマーの重合を開始させる:
ことを含み、
前記非フッ素化界面活性剤がポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩より成る群から選択される、前記製造方法。
【請求項2】
前記ポリマーがフルオロポリマーを含み且つ前記の少なくとも1種のモノマーが少なくとも1種のフルオロモノマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非フッ素化界面活性剤がアンモニウム塩又はナトリウム塩の形にある、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアクリル酸がポリアクリル酸又はポリメタクリル酸又はそれらの塩である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記のポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸又はそれらの塩をモノマーの総重量を基準として0.001〜2.0%存在させる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記のポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸又はそれらの塩をモノマーの総重量を基準として0.005〜0.5%存在させる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記の少なくとも1種のフルオロモノマーがフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル及びそれらの組合せより成る群から選択される、請求項2〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記の少なくとも1種のフルオロモノマーがフッ化ビニリデンを含む、請求項2〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記フルオロポリマーがテトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル及びそれらの組合せより成る群から選択される少なくとも1種のコモノマーを含むフッ化ビニリデンコポリマーである、請求項2〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
(a)少なくとも1種のラジカル開始剤;
(b)少なくとも1種の非フッ素化界面活性剤;及び
(c)少なくとも1種のフルオロポリマー:
を含み、前記非フッ素化界面活性剤がポリホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩より成る群から選択される、水性フルオロポリマー組成物。
【請求項11】
フルオロポリマーと、フルオロポリマーの重量を基準として0.001〜2.0%のポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩より成る群から選択される少なくとも1種の非フッ素化界面活性剤とを含む、フルオロポリマー樹脂組成物。

【公表番号】特表2009−504841(P2009−504841A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526003(P2008−526003)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/024704
【国際公開番号】WO2007/018783
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】