説明

非侵襲性生体外機能組織検定システム

基板に一体化された多機能微小電極アレイに基づき、幹細胞技術を実施する機能細胞および組織の検定システム。このシステムにより、通常および病原性特性が網羅される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に一体化された多機能電極アレイと幹細胞技術との特別な組み合わせ一般に関する。
【背景技術】
【0002】
前駆細胞は、医学研究にとって特に関心の高い分野である。人体の多くの組織には、老化や、怪我や病気により損傷した細胞に代わるバックアップ前駆体が蓄積されている。近年、再生医療や創薬で使用される多くの異なる組織の前駆体を単離するため、多大な努力が払われている。比較的均質な細胞群が必要な場合に使用される、幹細胞群から分化された細胞を生成する供給源やシステムが米国特許出願US2003/0040111に提案されている。複数の多能性胚性幹(ES)細胞とマウスの胚生殖幹(EG)細胞は、培養時、心筋細胞を含む様々な種類の細胞へと分化するように誘導される。
【0003】
さらにES細胞技術は、毒性試験にも使用されている。新しい化合物が常に開発され、動物で試験される。産業および家庭用化学薬品に加え、多くの化学合成品が、薬剤として使用されるよう毎年開発されている。潜在的薬剤の試験に関する規則が、食品医薬品局(FDA)によって公布されており、候補薬剤が人体臨床試験に使用される前に、少なくとも二つの種において毒性、変異原性、その他の影響について包括的な試験を行うよう求められている。前臨床毒性試験を単独で実施する場合、数十万ドルのコストがかかる。このような高額な投資にも関わらず、想定されるすべてのヒトの治療の約三分の一は、予想外の毒性によって人体臨床試験の第一段階で失敗している。現在実施可能な毒物スクリーニング検定において、ヒトの治療や環境下で化学物質にさらされることに伴うすべての毒性の検出が不可能であることは明白である。潜在的な毒性に関して治療法や化学物質をスクリーニングする有用な手段により、例えば医療装置や、ヒトが毎日その影響下にさらされるその他の装置あるいは物に使用されるような、新しい治療や材料の開発コストや不確定性が低減される。
【0004】
化学物質の催奇性および/または胚毒性特性は、妊娠した実験用哺乳動物に一回あるいは複数回の投与後に検体の繁殖毒性を判断し、妊娠の初期の段階で胚毒性試験を実施することで検出される。さらに、催奇形成試験に対する体外試験は、哺乳動物の胎仔(Neubert and Merker、de Gruyter、ベルリン‐ニューヨーク(1981))および胚組織を用いて実施される。上記試験の手順の短所は、生きた哺乳動物、特にラットとマウスを多く使用しなければならない点にある。初代細胞培養(例えば「Limb Buds」、Kochhar、奇形学11(1975)、273−287)、ラット胎仔の脳部位(Flint and Orton、Toxicol. Appl. Pharmacol. 76(1984)、383−395)、あるいは卵巣腫瘍や胚口蓋細胞といった、胎児や成熟した哺乳動物の組織の永久細胞系などが使用される体外試験手順では、厳密に言えば、潜在的な発育不全や発育障害の兆候があり、胚形成時の催奇形性試験に課せられた要求事項が満たされていない。
【0005】
新しい医薬品の毒性あるいは効能を検出するため、細胞に基づく体外試験システムを利用するための努力がここ数年なされている。上記システムは、初代細胞培養あるいは永久細胞系のいずれかに依存している。初代細胞培養の短所としては、準備が困難であること、動物を使用すること、および動物に個体差があることなどがあげられる。永久細胞系は、生理学的条件を示すことができない場合がよくある。
【0006】
従って上記の代替となり、望ましくは改良された検定が常に望まれている。例えば、US−A−6,498,018では、細胞培養と生物因子とを接触させることで生物因子の影響を決定する方法が開示されている。細胞培養は、初代CNS神経組織から得られるヒト多能性CNS神経幹細胞と、予め選択された成長因子を有する培養基を含む。生物機能あるいは細胞培養に起因する特性の存在あるいは不在に対する生物因子の影響により読み出しが得られる。上記システムの短所は、特定の生物機能や、ある細胞培養に内在する特性の測定が困難であり、試験のために十分な材料を求めようとすると、培養基の大部分が破壊されてしまう点にある。
【0007】
WO02/086073には、神経幹細胞マーカーネクチンを利用して核移植胚性幹細胞から分化された神経細胞を明確に選択する方法が開示されている。上記方法は、ネクチンが自然に発現される型の神経細胞に限定される。
【0008】
US−A−6,007,993では、始原生殖細胞からの胚生殖(EG)細胞を使用し、マウスとラットからの分化多能性胚性幹(ES)細胞に基づく化学的に誘導された胚毒性(例えば催奇性)の影響を検出する体外試験手順が開示されている。安定したトランスジェニックESあるいはEG幹細胞クローンが構築され、細菌性レポーター遺伝子、LacZあるいは発光酵素遺伝子が、組織特異的プロモータ遺伝子あるいは発生制御遺伝子の制御下におかれる。さらに催奇性物質の存在下においてES細胞が異なる発芽経路誘導体へと分化され、組織特異的プロモータの活性により、細胞内で分化依存性が発現する。上記組織特異的遺伝子の活性化、抑制あるいは調節が、例えばX−Gal検定で用いられるレポーター遺伝子に依存する反応に基づき検出される。
【0009】
WO99/01552では、非細胞傷害蛍光タンパク質をコード化し、細胞依存性あるいは発達依存性プロモータ遺伝子に作動可能に結合されたDNAコンストラクトが安定した方法により導入される胚性幹(ES)細胞が開示されている。また、上記ES細胞培養による物質の毒性モニタ方法も開示されている。
【0010】
上記方法は、半定量的であり、かつ比較的単純で確実な試験を使用するが、これらの試験は通常不均質な細胞群と粗悪な検定方法によって制限されている。
【0011】
従って、信頼できる結果が得られる細胞に基づいた体外試験システムが求められている。上記の技術的課題は、特許請求の範囲および以下の説明を特徴とする実施形態により解決される。
【0012】
発明の要約
本発明は、
(a) 幹細胞、望ましくは胚性幹細胞から得られた細胞、細胞集合体、組織あるいは器官を含む生物由来物質を電極アレイ上で培養し;
(b) 前記生物由来物質を検体とし;
(c) 前記電極アレイにより前記生物由来物質の電気的活動を測定し、任意にパラメータを分析する、工程を含む、薬剤などの対象化合物を識別、取得および/またはプロファイリングするための機能細胞および組織の検定システムに関する。
【0013】
上記方法は、多重電極あるいは微小電極アレイ(MEA)によって実施されることが好ましい。本発明の試験システムは、一般に多大な時間とコストを要する心臓効果分析用の動物実験の代替として特に優れている。従って、機能性組織試験システムは、薬剤開発や、ヒトや動物が接触しうる任意の化合物の毒性試験に特に有用である。本発明の機能性組織試験システムの実施形態は、いわゆるカルディオボディ、すなわち心筋細胞へと分化し、心房と心室およびペースメーカー細胞からなる機能性心臓組織に相当する胚葉体(EB)を使用する。
【0014】
特に、本発明の技術の新規な点は、基板と一体化された多機能微小電極アレイ(M−MEA)を介して電気生理学的手法の細胞外記録を、pH電極、pO電極、電気生理学的手法の電場電位の細胞外記録用電極、デジタル光分析および胚性幹細胞(ES細胞)技術と組み合わせた点にある。
【0015】
さらに、本発明は、本発明の方法を実施する際に有用なキットおよび装置に関し、上記キットは、ベクターあるいはベクター構成、配列、多細胞あるいは多能性細胞、および任意の培養器、組み換え型核酸分子、標準成分などから構成される。
【0016】
本発明のその他の実施形態は、以下の説明によって明確にされる。
【0017】
定義
本発明の説明において、「幹細胞」は、例えば胚性幹(ES)および胚生殖(EG)といった幹細胞あるいは生殖細胞のいずれかを意味する。少なくとも幹細胞は、一つ以上の異なる表現型の細胞を増殖させ、形成させることができ、同一培養の一部として、あるいは異なる条件下での培養時に、自己再生が可能となる。胚性幹細胞は、典型的にはテロメラーゼ陽性およびOCT−4陽性である。テロメラーゼ活性は、TRAP活性試験を(Kim et al., Science 266(1997),2011)、市販キット(TRAPeze(R) XKテロメラーゼ検出キット, Cat. s7707、Intergen Co., Purchase N.Y.、あるいはTeloTAGGG(TM)テロメラーゼPCR ELISAplus, Cat. 2,013,89; Roche Diagnostics, Indianapolis)を使用して決定される。hTERT発現も、RT−PCRによりmRNAレベルで評価可能である。LightCycler TeloTAGGG(TM) hTERT定量化キット(Cat.3,012,344; Roche Diagnostics)が、調査用に市販されている。
【0018】
本発明によれば、胚性幹(ES)細胞という用語には、プレ胚、胚あるいは受精後任意の時期の胎生組織から採取された多幹細胞あるいは多能性幹細胞が含まれ、標準試験によれば、生後8−12週齢のSCIDマウスの奇形腫の形成能のような、適正条件下において全三種の胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)の誘導体である数種の異なる細胞型の子孫をつくれるような特徴を有する。
【0019】
「胚生殖細胞」あるいは「EG細胞」は、始原生殖細胞から得られる細胞である。「胚生殖細胞」という用語は、本発明において、胚多能性細胞表現型を有するものを説明する際に使用される。「ヒト胚生殖細胞(EG)」あるいは「胚生殖細胞」は、本発明において定義された多能性胚性幹細胞表現型を有する哺乳類、好ましくはヒトの細胞あるいはその細胞系を説明する際に適宜使用される。従ってEG細胞は、外胚葉、内胚葉、中胚葉の細胞層への分化が可能である。EG細胞は、特定の抗体結合により識別される特定のエピトープサイトによるマーカーの存在または不在下で、そして特定の抗体結合がないことにより識別される特定マーカーの不在において特徴付けられる。
【0020】
「多能性」は、生殖細胞系を含む広範な細胞系へと分化する発生能を保持する細胞を意味する。「胚性幹細胞表現型」および「胚性幹状細胞」も、未分化な多能性細胞、好ましくは同一動物の他の成熟細胞と視覚的に識別できるような細胞を説明する際に適宜使用される。
【0021】
ES細胞の定義には、Thomson et al., (Science 282 (1998),1145)によるヒト胚性幹細胞などの多種の胚細胞、アカゲサル幹細胞(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (1995), 7844)などの他の霊長類の胚性幹細胞、マーモセット幹細胞(Thomson et al., Biol. Reprod. 55 (1996), 254)およびヒト胚生殖(hEG)細胞(Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998), 13726)などが含まれる。他の多能性細胞も上記定義に含まれる。胚組織、胎生組織あるいはその他の供給源から得られたか否かに関わらず、全三種の胚葉の誘導体である子孫をつくることが可能な哺乳類由来の任意の細胞も含まれている。本発明の幹細胞は、核型として標準的であることが好ましいが、必ずしも必要ではない。悪性供給源からのES細胞を使用しないことが好ましい。
【0022】
「支持細胞」あるいは「フィーダー」は、第二型の細胞が成長する環境をもたらすような、別型の細胞と共培養される型の細胞を説明する際に使用される。支持細胞は、それが支持すべき細胞と任意に異なる種に由来する。例えば、特定型のES細胞は、初代マウスの胎仔線維芽細胞、不死化マウスの胎仔線維芽細胞(マウスSTO細胞など:Martin and Evans, Proc. Natl. Acad. Sci USA 72(1975), 1441−1445)、あるいは後述するヒトのES細胞から分化されたヒトの線維芽状細胞などにより支持される。「STO細胞」は、市販され、ATCC CRL−1503として保存されているものを含むマウス胎児線維芽細胞を意味する。
【0023】
「胚葉体」(EB)は、「集合体」の同義語として使用される。これは、ES細胞が単層培養で過剰成長した場合あるいは懸濁培養で保持される場合に生じる分化および未分化細胞の集合体を意味する。胚葉体は、いくつかの胚葉からの異なる型の細胞が混合されたもので、形態学的基準での識別が可能である(後述の説明を参照のこと)。ここで使用される「胚葉体」、「EB」あるいは「EB細胞」は、細胞群からなる形態学的構造を意味し、その大部分は、分化された胚性幹(ES)細胞から得られる。EB形成(例:白血病抑制因子あるいはその他類似のブロック因子の除去)に適した培養条件において、ES細胞は増殖し、分化し始める小さな細胞塊を形成する。分化の第一段階は、ヒトの場合の分化に要する約1−4日間に相当し、小細胞塊が外層に内胚葉細胞の層を形成し、「単純胚葉体」とされる。第二段階は、ヒトの場合の分化後約3−20日間に相当し、「複雑胚葉体」が形成され、外胚葉および中胚葉細胞の広範な分化および誘導体組織により特徴付けられる。ここで使用されているように、「胚葉体」あるいは「EB」には、文脈上特に求められない限り、単純および複雑胚葉体が含まれる。ES細胞の培養における胚葉体の形成時期は、例えば形態の外観検査のように、当業者により日常的に決定される。概ね20以上の細胞の浮遊塊が胚葉体とみなされる(Schmitt et al., Genes Dev. 5(1991), 728−740; Doetschman et al., J. Embryol. Exp. Morph. 87 (1985), 27−45を参照)。ここで使用される「胚葉体」、「EB」あるいは「EB細胞」には細胞群が含まれ、その大部分は適正な条件下での培養時に異なる細胞系への成長が可能な多能性細胞である。上記用語は、胚性線領域から抽出された基本細胞としての始原生殖細胞から得られるものと同等の構造を意味する(Shamblott et al., (1998)上記参考)。始原生殖細胞は、当該分野ではEG細胞あるいは胚生殖細胞とも呼ばれ、適正な因子で処理される場合、多能性ES細胞が形成され、これによって胚葉体が得られる(米国特許US−A−5,670,372; Shamblottなど上記を参照のこと)。
【0024】
「ポリヌクレオチド」および「核酸分子」は、任意の長さを有する「ヌクレオチド」ポリマーを意味する。上記には、遺伝子、遺伝子フラグメント、mRNA, tRNA, rRNA,リボザイム、cDNA、組み換え型ポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、単離DNAおよびRNA、核酸プローブ、およびプライマーなどが含まれる。ここで使用されているように、「ポリヌクレオチド」は、二本鎖および一本鎖分子を意味する。特に定めたり所望されない限り、ポリヌクレオチドとしての本発明の実施形態では、二本鎖の形態および二本鎖形態を形成することが既知であるあるいは想定された二つの相補一本鎖形態のそれぞれが含まれる。さらに、リンアミドやチオリンアミドなどの核酸類似体が含まれる。
【0025】
ポリヌクレオチドが人工操作の適正な手段により細胞内へと移送される際、あるいはポリヌクレオチドを受け変化した細胞の子孫である場合、細胞は、「遺伝子改変」、あるいは「遺伝的形質転換」される。ポリヌクレオチドは、当該タンパク質をコード化する転写可能な配列から成り、これによって細胞は高レベルのタンパク質を発現できる。遺伝子変化は、変性細胞の子孫に同様の変化が見られる場合、「遺伝性」と称される。
【0026】
「調節配列」あるいは「制御配列」は、ポリヌクレオチドの複製、重複、転写、スプライシング、ポリアデニル化、翻訳あるいは分解のようなポリヌクレオチドの機能調節に寄与する分子の相互作用に関するヌクレオチド配列である。転写制御因子はプロモーター、エンハンサー、およびリプレッサーを含む。
【0027】
「αMHC」や「コラーゲン」プロモータのようなプロモータとされる特定の遺伝子配列は、動作的に結合された遺伝子発現物質の転写をプロモートする遺伝子から得られるポリヌクレオチド配列である。上流およびイントロン非翻訳遺伝子配列の様々な部分がプロモータ活性に寄与する場合があり、上記部分のすべてあるいはサブセットが、遺伝子組み換えコンストラクトに存在することが認識されている。明白に制限されない限り、プロモータは、遺伝子を有する任意の種の遺伝子配列に基づき、標的組織で転写をプロモートする能力がある限り、追加、置換あるいは欠失を盛り込むことができる。ヒトの治療向けの遺伝子コンストラクトには、ヒトの遺伝子のプロモータ配列の少なくとも90%と一致するするセグメントが通常含まれている。
【0028】
本発明において「細胞依存性および/または発生依存性プロモータ」は、細胞培養(胚葉体)および本発明にかかるES細胞からのトランスジェニックなヒト以外の哺乳動物の双方において特定の細胞型および/または細胞発生の特定段階においてのみプロモータ活性を示すプロモータを意味する。さらに、例えば神経細胞、心臓細胞、ニューロン、グリア細胞、造血細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、軟骨細胞、線維芽細胞および上皮細胞など他の既知の細胞特異的プロモータの利用も可能である。
【0029】
遺伝因子は、想定される機能を果たせるような構造的関係にある場合、「動作的に結合されている」と称される。例えば、プロモータがコード化配列の転写の開始を補助した場合、コード化配列は、プロモータと動作的に結合されている(あるいは制御下にある)と称される。この機能的関係が維持される限り、プロモータとコード化領域間には、配列が介在しうる。
【0030】
コード化配列、プロモータおよび他の遺伝因子という点において、「異種」という用語は、比較されるべき要素から遺伝子型で識別可能な要素によって得られるものを意味する。例えば、遺伝子工学によって異なる種の動物へと導入されるプロモータや遺伝子は、異種ポリヌクレオチドと称される。「内因性」遺伝要素は、実際に発生する染色体と同じ位置にある要素を意味し、その他の要素は人工的に隣接位置へと導入される。
【0031】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、任意の長さを有するアミノ酸ポリマーについて言及する際に適宜使用される。上記ポリマーは、変性アミノ酸を含み、直線あるいは分岐し、非アミノ酸によって分断されている。
【0032】
特に記載がない場合、「化合物」、「物質」、および「(化学)合成品」が交換可能に使用され、治療薬(あるいは潜在的治療薬)、食品添加物および栄養補助食品、そして例えば神経毒、肝毒、造血細胞毒、筋毒、発ガン物質、催奇系物質、あるいはひとつ以上の生殖器官に対する毒などの既知の毒性薬剤が含まれるが、これらに限定されることはない。化学合成品としては、殺虫剤、殺菌剤、線虫駆除剤などの農薬、化学肥料、薬用化粧品を含む化粧品、産業廃棄物、副産物、あるいは環境汚染物質などが挙げられる。上記物質は、動物治療薬あるいは潜在的な動物治療薬になりうる。
【0033】
本発明にかかる方法で試験される産業製品には、漂白剤、洗浄剤、ブロック、食器洗い洗剤、粉石鹸、液体石鹸、柔軟剤、窓、オーブン、床、風呂、台所およびカーペット用クリーナー、食洗器用洗剤、リンスエイド、軟水剤、湯垢落とし、染み抜き剤、研磨剤、油脂製品、塗料、塗料剥離剤、接着剤、溶剤、ニス、エアフレッシュナー、防虫剤および殺虫剤が含まれる。
【0034】
家庭用製品の新しい原料が常に開発され、試験されねばならない。最近では新しい酵素(シミ消し用)と「蛍光増白剤」(洗濯物を白く仕上げる)が、洗濯用粉石鹸あるいは液体石鹸に使用されるように開発された。新しい界面活性剤(グリースにより、しみこんだ汚れを除去)と化学「材料」(軟水剤として界面活性剤がより効果的に働く)が、洗濯用粉石鹸あるいは液体石鹸、食器洗い用洗剤および様々な洗浄剤に使用されるよう開発されている。一方、例えば新しい充填ポリマー、合金および生体活性セラミックのような歯科素材などの医用素材の試験も必要である。さらに、カテーテル、電極、接着剤、ペースト、ゲル、あるいはクリームなどの手段の任意の部分の化学合成物質が、異なる濃度かつ異なる原料および不純物の存在下において、本発明にかかる方法によって試験される。
【0035】
ここで使用される科学合成物あるいは化合物の「プロファイル」あるいは「プロファイリング」は、培養基のみに接触する細胞、胚葉体あるいは組織との比較において、化学合成物質に接触するES細胞、胚葉体、組織などにおける遺伝子および/またはタンパク質発現、あるいは生理学特性の変化のパターンを意味する。
【0036】
発明の実施形態の詳細な説明
本発明は、
(a) 細胞、細胞集合体、組織、あるいは幹細胞、望ましくは胚性幹細胞から得られた器官、を含む生物由来物質を電極アレイ上で培養し;
(b) 前記生物由来物質を検体とし;
(c) 前記電極アレイにより前記生物由来物質の電気的活動を測定し、任意にパラメータを分析する、工程を含む、薬剤などの対象化合物を取得および/またはプロファイリングするための機能的な組織の検定システムに関する。
【0037】
生物由来物質は、少なくともひとつの胚性第二細胞型の存在下において、第一細胞型からの胚性幹(ES)細胞を培養することで得られる組織あるいは組織状構造であるか、あるいはそれらから得られるものとし、上記少なくとも二種の細胞型が組織あるいは組織様構造へと統合および整列が可能となることが好ましい。様々な組織あるいは組織状の構造および類似の生物由来物質の対応生成方法は、国際出願WO2004/113515に詳細に記載されており、その開示内容は、本発明に取り入れられている。
【0038】
ある実施形態では、生物由来物質は、ヒト以外の幹細胞から得ている。
【0039】
本発明は、任意の脊椎動物種の幹細胞により実施可能である。ここでは、ヒトはもとより、ヒト以外の霊長類、家庭での飼育動物、家畜およびその他ヒト以外の哺乳動物の幹細胞が含まれる。上記において、妊娠中の任意の時期に採取された胚盤胞、胎児組織あるいは胚組織などの、妊娠後に形成された組織から得られる霊長類の多能性幹細胞が、本発明での使用に適している。例えば初代培養あるいは胚性幹細胞の樹立系などが挙げられるが、これに限定されることはない。本発明は、成熟幹細胞についても適用可能である。これについては、文献 Anderson et al., Nat. Med. 7(2001), 393−395およびProckop, Science 276(1997), 71−74に説明されており、上記細胞の抽出と培養が記載されている。
【0040】
幹細胞の単離および増殖用培地には、得られた細胞が所望の特徴を有し、さらに増殖可能である限り、任意の製法がいくつかある。適性な供給源としてイスコフ改良ダルベッコ培地(IMDM)、Gibco, #12440−053; ダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)、Gibco #11965−092; ノックアウト ダルベッコ改良イーグル培地(KO DMEM)、Gibco #10829−018; 200 mM L−グルタミン, Gibco #15039−027; 非必須アミノ酸溶液、Gibco 11140−050; ベータメルカプトエタノール、 Sigma #M7522; ヒト組み換え型基礎線維芽成長因子(bFGF)、Gibco #13256−029が含まれる。血清を含むES媒体および幹細胞の培養条件は既知であり、細胞型に応じて最適化が可能である。前述の項に記載されている特定型の細胞の培地および培養技術については、ここに引用する。
【0041】
前述のように、ES細胞のいくつかの供給源は、当業者によって利用されており、本発明の大半の実施形態では、ヒトの幹細胞が好ましいとしている。ヒトの胚性幹細胞と、それらの、異なる細胞および組織の型の準備のための使用が、Reprod. Biomed. Online 4(2002), 58−63に記載されている。胚性幹細胞は、霊長類種の胚盤胞から単離することができる(Thomson et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92(1995), 7844)。ヒトの胚生殖(EG)細胞は、最終月経期間から約8‐11週間を経たヒトの胎児材料の始原生殖細胞から作製することができる。適正な作製方法は、Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95(1998),13726に記載されている。ヒトの胚の生殖隆起など、ヒトの胚組織から分離された始原生殖細胞に由来する、形態学的および多能性の点で共通する胚性幹細胞あるいは胚生殖細胞の生成方法が、米国特許US−A−6,245,566に開示されている。
【0042】
近年、利用しやすい組織として、抜けた乳歯に、神経系細胞、含脂肪細胞および象牙芽細胞を含む様々な型の細胞へと分化可能な増殖性の強いクローン化可能細胞群として識別された多能性幹細胞が含まれていることが報告されている(Miura et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA 100(2003), 5807−5812参照)。生体内移植後、上記細胞は、神経系マーカーの発現に伴い骨形成、象牙質生成およびマウスの脳での存続を誘発できることがわかった。さらに、中期II卵母細胞からの同型幹細胞の多分化能について文献Lin et al. in Stem Cells 21(2003), 152−161に記載されている。生後筋肉における前駆細胞の様々な供給源や、生体内の新たな骨格筋や心筋の形成に対して幹細胞の寄与を高めることのできる因子などが文献Grounds et al., J. Histochem. Cytochem. 50(2002), 589−610に記載されている。骨髄に関して同質の希造血幹細胞(HSC)の精製について、US2003/0032185に記載されている。上記成熟した骨髄細胞については、肝臓、肺、胃腸管、皮膚の上皮細胞への分化が可能なことから、優れた分化能力を有するとの記載がなされている。
【0043】
幹細胞の技術分野について、Kiessling and Anderson, Harvard Medical School,ヒト胚性幹細胞; 科学および治療可能性への導入; (2003) Jones and Bartlett Publishers; ISBN: 076372341X において検討されている。
【0044】
幹細胞は、分化を促進させることなく増殖を促進させる培養条件の組み合わせにより、培養中での継続的な増殖が可能となる。従来から、幹細胞は胚組織あるいは胎児組織からの線維芽型細胞のような支持細胞層で培養されている。細胞系は、合流点までプレーティングされ、増殖を防ぐために放射線照射を受け、特定細胞(例えば、Koopman and Cotton, Exp. Cell 154(1984), 233−242; Smith and Hooper, Devel. Biol. 121(1987), 1−91)あるいは白血病抑制因子(LIF)の外部添加などで調整された培地で培養される際の支持に使用される。上記細胞は分化することなく、適正な培養条件により概ね無制限に成長することができる。
【0045】
支持細胞の不在下で、外部白血病抑制因子(LIF)や調整媒体、ES細胞またはEG細胞は、内胚葉、中胚葉、外胚葉層のそれぞれで見られる細胞を含む、広範な型の細胞に自然分化する。成長因子と分化因子との適正な組み合わせにより、細胞の分化を制御することができる。例えば、マウスのES細胞およびEG細胞により、造血系の細胞が体外で生成される(Keller et al., Mol. Cell. Biol. 13(1993), 473−486; Palacios et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 92(1995), 7530−7534; Rich, Blood 86(1995), 463−472)。さらに、マウスのES細胞は、ニューロン(Bain et al., Developmental Biology 168(1995), 342−357; Fraichard et al., J. Cell Science 108(1995), 3161−3188)、心筋細胞(心臓筋肉細胞)(Klug et al., Am. J. Physiol. 269(1995), H1913−H1921)、骨格筋細胞(Rohwedel et al., Dev. Biol. 164(1994), 87−101)、血管細胞(Wang et al., Development 114(1992), 303−316)の体外培養発生に使用されていた。米国特許US−A−5,773,255は、グルコース反応インスリン分泌ベータ細胞系に関し、米国特許US−A−5,789,246は、肝細胞前駆細胞に関する。マウス胚性幹細胞の肝臓分化について、Johns et al., Exp. Cell Res. 272(2002)15−22に記載されている。
【0046】
他の前駆体は、軟骨細胞、骨葉細胞、網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎臓上皮細胞、平滑筋および骨格筋細胞、精巣前駆体および血管内皮細胞を含むが、これらに限定されることはない。心臓発生、筋形成、神経発生、上皮および血管平滑筋細胞の体外分化用胚性幹細胞分化モデルは、Guan et al., Cytotechnology 30(1999), 211−226 に記載されている。
【0047】
本発明の実施形態において、未分化細胞の成長を促し、分化抑制の役を果たす一つ以上の培地成分を離脱させることで、分化が促進される。上記要素の例として、特定の成長因子、マイトジェン、白血球抑制因子(LIF)および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が含まれる。分化は、所望の細胞系への分化を促進し、あるいは好ましくない特徴を有する細胞の成長を抑制する培地成分を付加することで促進される。
【0048】
本発明によれば、当該検定に使用される分化細胞群は、不要な細胞および細胞型にとって致命的な選択システムを使用することで、例えば、遺伝子が所望の細胞型および/または特定の成長段階で優先的に示されるような調節配列の制御下において、特定の細胞型に対して外部物質の致命的影響への耐性を付与するような選択可能なマーカー遺伝子を示すことにより、比較的未分化な細胞および/または不要な細胞を除くことが望ましい。このため、所望の第一細胞型に対する特定の調節配列に動作的に結合された選択可能なマーカーを有するよう、細胞を所望の系に分化させる方法の前に細胞の遺伝子的な変性が実施される。
【0049】
この目的のため、任意の適正な発現ベクターを使用することができる。本発明に従い変性される幹細胞の生成に適したウィルスベクターシステムは、市販のウィルス成分により作製できる。ベクターコンストラクトは、既知の手法、例えばトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションあるいはウィルスベクターの助けにより、胚性幹細胞へと導入される。エフェクター遺伝子を有するウィルスベクターは、後半に記載する文献に説明されている。あるいは、ベクタープラスミドは、エレクトロポレーションあるいは脂質/DNAとの複合体の使用により細胞へと導入される。例として、Gibco/Life Technologiesから入手されるリポフェクタミン2000(TM)の処方が挙げられる。他の試薬の例として、Roche Diagnostics Corporationから入手される、非リポゾーム型脂質とエタノール80%中の他の化合物との混合が挙げられる。WO02/051987のベクターコンストラクトとトランスフェクション方法の使用が好ましく、上記開示内容は、本発明の記載に組み込まれている。
【0050】
耐性遺伝子自体は周知である。これらの例として、例えば、ピューロマイシン(ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ)、ストレプトマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシンあるいはハイグロマイシンなどのヌクレオシドおよびアミノ配糖体抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。さらに耐性遺伝子の別の例として、ビンブラスチン、ドキソルビシン、アクチノマイシンD等多くの抗生剤に対する耐性を付与する多薬剤耐性遺伝子と同様、アミノプテリン、メトトレキサートに対する耐性を付与するデヒドロ葉酸還元酵素が挙げられる。
【0051】
本発明の特に好ましい実施形態において、上記選択可能なマーカーは、ピューロマイシンに耐性を付与する。ピューロマイシンは、トランスジェニックEBの付着培養における非心臓細胞の迅速な除去に特に適している。さらに、心臓細胞の薬剤選択が、トランスジェニックEBの懸濁培養で全体的に実施される。従って、心筋細胞由来の精製されたESは、未処理の対照物と比較して、その寿命が長いことが示されている。また、薬剤選択過程において未分化ES細胞の除去が、心筋細胞のような精製ES由来細胞の生存率や寿命に肯定的な影響を及ぼしていることが明確に示されている。さらに、周囲の未分化細胞を排出することで、心筋細胞の増殖が引き起こされるという事実も示されている。従って、薬剤選択は、精製および増殖の双方について影響を有している。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、前記ES細胞由来の第一細胞型の前記ES細胞は、レポーター遺伝子を有し、上記レポーターは、上記第一細胞型特異的な細胞型特異的調節配列に動的的に結合される。このような型のベクターは、分化の視覚化、薬剤選択開始時の定義作、薬剤選択の視覚化および精製細胞の運命のトレースなどを提供するという利点を有する。本発明の方法での使用が好ましい上記ベクターについて、WO02/051987に記載されている。通常、レポーター遺伝子の細胞型特異的調節配列は、マーカー遺伝子の第一細胞型特異的調節配列と概ね同じである。これは、好ましくは上記マーカー遺伝子とレポーター遺伝子が同一のシストロンに含まれるよう、上記マーカー遺伝子とレポーター遺伝子を同じ組み換え型核酸分子、例えば幹細胞トランスフェクションに使用されるベクターに導入することで有利に達成される。
【0053】
細胞を損傷せず、観察可能かつ測定可能な表現型が得られる限り、任意の種類のレポーターを使用することができる。本発明によれば、オワンクラゲ(WO95/07463, WO96/27675, WO95/21191に記載)からの緑色蛍光タンパク質(GFP)およびその派生物である「青色GFP」(Heim et al., Curr. Biol. 6(1996), 178−182)「赤方偏移GFP」(Muldoon et al., Biotechniques 22(1997),162−167)が使用できる。強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)の使用が特に好ましい。別の実施形態として、強化黄色蛍光タンパク質および強化シアン蛍光タンパク質(EYFP, ECFP)および赤色蛍光タンパク質(DsRed, HcRed)が使用される。細胞を傷つけることがない限り、当業者によりその他周知の蛍光タンパク質を本発明で使用することができる。蛍光タンパク質は、周知の蛍光検出方法により検出される(Kolossov et al., J. Cell Biol. 143(1998), 2045−2056、等を参照)。蛍光タンパク質の代替として、特に体内の適用では、他の検出可能なタンパク質、特にそれらのエピトープも使用可能である。タンパク質のエピトープの中には、細胞を傷つけるものがあるが、細胞を傷つけないエピトープを使用することができる(WO02/051987参照)。
【0054】
安定したトランスフェクトES細胞を選択する際、ベクターコンストラクトは、ネオマイシンなどの抗生剤に対する耐性を付与する選択可能なマーカー遺伝子を含む(上記文書も参照のこと)。例えば、蛍光タンパク質コード化遺伝子に伴う上記耐性遺伝子のように、その他の周知の耐性遺伝子を使用することもできる。安定したトランスフェクトES細胞を選択するための選択遺伝子は、検出可能なタンパク質の発現制御を調節するものとは異なるプロモータの制御下にある。例えばPGKプロモータなど、構成的に活性なプロモータがよく使用される。
【0055】
第二選択遺伝子の使用は、トランスフェクトに成功したクローン(効率は比較的低い)を識別する能力の点で有利である。そうでなければ、圧倒的に多数を占める非トランスフェクトES細胞が存在することとなり、分化の際、EGFP陽性細胞は全く検出されなくなる。
【0056】
本発明の実施形態において、細胞は付加的に操作され、特定の組織は生成されない。このような状況は、例えばドキシジクリン誘導リプレッサー要素などのリプレッサー要素の挿入によって起こりうる。従って、多能性で潜在的な発癌性細胞による所望分化細胞の汚染の可能性が排除される。
【0057】
幹細胞の分化を目的とした所望第一細胞型は、任意の種類のものでよく、神経細胞、グリア細胞、心筋細胞、グルコース反応インスリン分泌すい臓ベータ細胞、肝細胞、星状細胞、オルゴデンドロサイト、軟骨細胞、骨芽細胞、網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、樹状細胞、毛包細胞、腎臓管上皮細胞、血管内皮細胞、睾丸前駆体、平滑筋細胞および骨格筋細胞を含むが、これらに限定されることはない(上記文書も参照のこと)。
【0058】
本発明の特に好ましい実施形態において、上記第一細胞型は、心筋細胞である。この実施形態において、上記細胞型特異の調節配列は、心房および/または心室特異型であることが好ましい。対応する調節配列、例えば心筋特異的プロモータが先行技術として説明されている(上記文書も参照のこと)。例えばNkx−2.5は、非常に初期の心筋細胞と中胚葉の前駆細胞に特異であり(Lints et al., Development 119(1993), 419−431)、ヒト心臓αアクチンは、心臓組織に特異であり(Sartorelli et al., Genes Dev. 4(1990), 1811−1822)、MLC−2Vは、心室心筋細胞に特異である(O’Brien et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 90(1993), 5157−5161; Lee et al., Mol. Cell Biol. 14(1994), 1220−1229; Franz et al., Circ Res. 73(1993), 629−638, WO96/16163)。心房特異的αミオシン重鎖プロモータは、Palermo et al., Cell. Mol. Biol. Res. 41(1995),501−509 および Gulick et al., J. Biol. Chem. 266(1991),9180−91855に記載されている。心房特異的ミオシン重鎖AMHC1の発現および成長しているニワトリの心臓の前駆極性の樹立について、Yutzey et al., Development 120(1994), 871−883に記載されている。
【0059】
この実施形態によれば、上記少なくとも一つの胚性第二細胞型として線維芽細胞を使用することが好ましい。上記線維芽細胞は、必ずしも胎から採取する必要はなく、本発明の方法により、ES細胞から新たに生成してもよい。従って、ES細胞は、マーカーと、細胞型特異的調節配列、すなわち骨細胞では活性のa2(I)コラーゲンプロモータのような線維芽細胞特異的プロモータに動作的に結合されたレポーターを任意に有する組み換え型核酸分子でトランスフェクトされる(Lindahl et al., Biol. Chem. 277(2002), 6153−6161; Zheng et al., Am. J. Pathol. 160(2002), 1609−1617; Antoniv et al., J. Biol. Chem. 276(2001), 21754−21764; Finer et al., J. Biol. Chem. 262(1987), 13323−13333; Bou−Gharios et al., J. Cell. Biol. 134(1996), 1333−1344; Metsaranta et al., J. Biol. Chem. 266(1991), 16862−16869)。ただし他の実施形態でも線維芽細胞は使用可能であるが、内皮細胞や、その派生物のようなその他の支持細胞を代わりに使用することもできる。
【0060】
さらに好ましい実施形態において、本発明の検定で使用される生物由来物質は、第三細胞型由来の胚性あるいは胚性幹(ES)細胞の存在下において少なくとも二種の細胞型での培養から得られる。上記第三細胞型は、上記の任意の型でよい。上記第三細胞型は、内皮細胞であることが好ましい。従って、内皮細胞由来の胚内皮細胞あるいはES細胞を使用することができる。後の実施形態において、上記内皮細胞は、前述のようなベクターコンストラクトでトランスフェクトされたES細胞から採取され、上記細胞型特異的調製配列は、内皮特異的プロモータであり、例えば血管内皮カドヘリンプロモータ(Gory et al., Blood 93(1999), 184−192)、Tie−2プロモータ/エンハンサー(Schlaeger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94(1997), 3058−3063)、Flk−1プロモーター/エンハンサー(Kappel et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 276(2000), 1089−1099)が挙げられる。
【0061】
その他の細胞および組織特異的プロモータが周知であり、例えば軟骨細胞特異的プロアルファ1(II)コラーゲン鎖(コラーゲン2)プロモータフラグメント(Zhou et al., J. Cell Sci. 108(1995), 3677−3684)、神経α−1−チューブリン特異的プロモータ(Gloster et al., J Neurosci 14 (1994), 7319−7330)、およびグリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモータ(Besnard et al., J. Biol. Chem. 266(1991), 18877−18883)などが知られている。さらに、グリアおよび神経特異的プロモータについては、Kawai et al., Biochim. Biophys. Acta 1625(2003), 246−252およびKugler et al., Gene Ther. 10(2003), 337−347を参照すること。異なる培養システムの胚性幹細胞からの胚葉体形成や造血発生は、Dang et al., Biotechnol. Bioeng. 78(2002), 442−453に記載されている。「組織特異的」は、「細胞特異的」に含まれる。
【0062】
非心臓特異的プロモータの例として、PECAM1, FLK−1(内皮)、ネスチン(神経前駆細胞)、チロシン‐水酸化酵素‐1‐プロモータ(ドーパミン作動性ニューロン)、平滑筋αアクチン、平滑筋ミオシン(平滑筋)、α1‐フェトプロテイン(内胚葉)、平滑筋重鎖(SMHC最小プロモータ(平滑筋特異的))などが挙げられる(Kallmeier et al., J. Biol. Chem. 270(1995), 30949−30957)。
【0063】
成長特異的という用語は、成長における特定時点で活性なプロモータを意味する。上記プロモータの例として、マウスの心室において胎仔成長時に発現し、出生前段階でαMHCプロモータに代替されるβ−MHCプロモータ;中胚葉/心臓成長初期におけるプロモータNKx2.5;ペースメーカーを例外とする初期胎仔の心臓マーカーであり、成長後期では下方調節される心房性ナトリウム利尿因子;脈管形成初期に活性な内皮特異的プロモータであるFlk−1;神経前駆細胞(胚性神経細胞およびグリア細胞)で発現されるネスチン遺伝子のイントロン2セグメントおよび成熟グリア細胞(部分的に分割可能)が挙げられる(Lothian and Lendahl, Eur. J. Neurosci. 9(1997), 452−462U)。
【0064】
上記実施形態において、耐性遺伝子とレポーター遺伝子は、2シストロン性ベクターに含まれ、IRESによって分離されることが好ましい。特に、上記耐性遺伝子がピューロマイシンに耐性を付与し、上記マーカーがEGFPで、上記プロモータが心臓αMHCプロモータである構造の使用が好ましい。
【0065】
主細胞のような上記少なくとも二つの細胞型のうち任意のものと、対応する支持細胞とをES細胞から得ることができ、本発明の検定に使用できる。従って、本発明に従って検定される組織あるいは組織構造は、以下の工程から成る方法によって得られる。
(a) 少なくとも一つの選択可能なマーカーに動作的に結合される第一および第二細胞型特異的調節配列を有する組み換え型核酸分子を有する一つ以上の多細胞あるいは多能性細胞をトランスフェクトし;
(b) 細胞の分化が可能な条件下で細胞を培養し;
(c) 分化の過程で選択可能マーカーを活性化させる細胞型から任意の細胞型へと分化する細胞に伴い、少なくとも二種の分化細胞型を分離し、および/または未分化細胞を除去する。
【0066】
上記方法と同様、二種以上の細胞型の生成が望ましい。従って当該方法は、少なくとも一つの選択可能マーカーに動作的に結合される、さらに少なくとも一つの細胞型特異的調節配列を有する組み換え核酸分子を含む一つ以上の細胞をトランスフェクトする工程から成り、上記さらに少なくとも一つの細胞型は、第一および第二細胞型とは異なっていることが望ましい。この方法で使用される組み換え型核酸分子は、同一あるいは異なるベクターで構成される。
【0067】
細胞型は、神経細胞、グリア細胞、心筋細胞、グルコース反応インスリン分泌すい臓ベータ細胞、肝細胞、星状細胞、オリゴデンドロサイト、軟骨細胞、骨芽細胞、網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノ生成細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎臓管上皮細胞、血管内皮細胞、睾丸前駆細胞、平滑筋細胞および骨格筋細胞からなるグループより選択される(既出文献も参照のこと)。
【0068】
心臓組織が所望される場合、トランスフェクト幹細胞を心筋細胞、線維芽細胞、任意で内皮細胞へと分化させる際に使用されることが好ましいプロモータは上述のものから構成される。同様に、神経組織を生成するため、例えば多能性神経幹細胞などの一つ以上の幹細胞が使用され、ニューロン、星状細胞およびオリゴデンドロサイトへと分化させるため本発明に従って遺伝子操作される。同じ原理が例えば肝臓組織やすい臓組織についても適用される。対応する細胞型特異的プロモータの調節配列は、例えば「medline」およびNCBIの文書から入手できる。
【0069】
上記方法は、様々な様式で実施されうる。第一に、多重トランスジェニックESクローンが生成され、所望組織型を構成する細胞型に対して特定のプロモータによって駆動される薬剤選択カセットを有する特定数のベクターで安定的にトランスフェクトされる。従って、ES細胞あるいはその細胞クローンの少なくとも一つがトランスフェクトおよび選択され、上記細胞あるいは細胞クローンは、少なくとも二種の異なる細胞型特異的調節配列を有する遺伝子組み換え核酸分子を含む。上記変異体において、出現するすべての細胞型は、共通する一つのES細胞に由来し、その結果得られる異なる細胞成分の比率は、それぞれの相対分化速度によって決まる。
【0070】
少なくとも二種の異なるES細胞あるいはそれらのクローンがトランスフェクトおよび選択され、上記少なくとも二種の異なるES細胞あるいは細胞クローンは、異なる細胞型特異的調節配列を有する遺伝子組み換え核酸分子を含む構成としてもよい。上記構成により、単一のクローンが細胞型特異のプロモータのうちの一つによって駆動される薬剤耐性カセットを有するベクターを一つだけ有するような、多数のESクローンが生成される。組織のモデル化において、薬剤選択後出現する細胞型が、異なる対応ESクローンに由来し、細胞成分の最終比率が異なるES細胞系の初期比率によって制御されるようなES細胞集合体を形成するため、類似クローンは分化(「懸摘」あるいは「大量培養」)の初期段階で混合されるべきである。この方法により、結果的に細胞集合体がキメラ胚葉体(EB)となることが好ましい。
【0071】
本発明の検定にかかる特定の実施形態に関わらず、試験される生物由来物質を構成する細胞において、細胞型特異の異なる調節配列に動作的に結合された、上記選択可能マーカーの少なくとも二つは同一であることが好ましい。前述のように、マーカーあるいはマーカー遺伝子は、細胞毒性薬剤に耐性を付与するような選択可能なマーカーであることが好ましく、特にピューロマイシン、メトトレキサート、ネオマイシンであることが好ましい。
【0072】
上記一つ以上の遺伝子組み換え核酸分子は、さらに上記細胞型特異の配列に動作的に結合されたレポーターを有する(既出の文書も参照)。ここでは、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)の異なるカラーバージョン、特に異なる細胞型特異の配列に動作的に結合されたEYFP(黄色)、ECFP(青色)および/またはhcRFP(赤色)を有することが好ましい。同様に、上記選択可能マーカーと上記レポーターは、2シストロンベクターから発現され、上記選択可能マーカーと上記レポーターは、上記遺伝子の少なくとも一つと動作的に結合されている、分離された一つ以上の内部リボソーム侵入部位(IRES)であることが望ましい。
【0073】
試験される生物由来物質は、所定の化合物にさらされる哺乳類、好ましくはヒトの組織を反映すべき所望の組織あるいは組織状構造へと異なる細胞型の自己組み合わせが可能となるような方法により得られる。幹細胞は、本発明の好ましい実施形態において、胚葉体(EB)として知られる集合体として得られる。WO02/051987には、胚葉体を得るための手順が記載されている。製造は、「懸摘」方法あるいはメチルセルロース培地によって実施されることが好ましい(Wobus et al., Differentiation 48(1991), 172−182)。
【0074】
あるいは、培養方法としてスピナーフラスコ(攪拌培養)が使用できる。このため、未分化のES細胞が攪拌培地に導入され、樹立されている手順に従って永続的に混合される。従って、1000万個のES細胞がFCS20%で150mlの培地に導入され、20rpmで常に攪拌される。攪拌動作の方向は、定期的に変化される。ES細胞の導入から24時間後、血清を有するさらに100mlの培地が付加され、100から150mlの培地が毎日交換される(Wartenberg et al., FASEB J. 15(2001), 995−1005)。このような培養条件において、培地の組成によって定められる心筋細胞、内皮細胞、ニューロンなど、ES細胞由来の多くの細胞が得られる。細胞は、攪拌培養あるいはプレーティング後の耐性遺伝子によって選択される。
【0075】
上記の代替として、懸摘で分化したEBをプレーティングせず、懸濁液中に保持してもよい。上記の条件下でも、分化の進行が実験的に観察できる。不要な細胞型は、機械混合および低濃度の酵素(例:コラゲナーゼ、トリプシン)の追加によって洗い流され、不要な細胞型を洗い流すことで、単細胞の懸濁液が得られる。
【0076】
本発明の特に好ましい実施形態において、胚葉体は、添付された例で使用され、国際出願WO2005/005621に詳細に記載されている、最近開発された「大量培養」システムにより準備される。
【0077】
特に好ましい実施形態において、本発明の機能組織検定は、胚葉体(EB)、好ましくはキメラEBで実施される。
【0078】
胚葉体は、異なる組織へと分化する細胞の複合群を意味する。ある実施形態において、胚葉体内の細胞は、分化に同期している。従って、周知の間隔で、同期化細胞の大半が三つの胚生殖細胞層に分化し、さらに軟骨、骨、平滑筋および横紋筋、および胚性ガングリオンを含む神経組織などの複数の組織型に分化する。Snodgrass et al., 「胚性幹細胞:研究および臨床治療の可能性」 Smith and Sacher, eds. Peripheral Blood Stem Cells American Association of Blood Banks, Bethesda MD(1993)を参照のこと。従って、胚葉体内の細胞により、従来の単一細胞あるいは酵母検定の場合と比較して、有機体全体の複雑さにより近いモデルが得られ、マウスやより大型の哺乳動物の使用に伴うコストと困難さも回避できる。さらに、近年はヒトの胚葉体が入手しやすくなったため、毒性のモデル化およびヒトの臓器系およびヒトの心臓疾患の治療に使用される薬剤の識別にとってより近い媒体を提供することで、本発明の予測能力が向上される。
【0079】
本発明の検定に使用される胚葉体は、好ましくは細胞群から成り、その大半は、適正な条件下で培養される場合、異なる細胞系統へと成長できる多能性細胞である。胚葉体は、全能ES細胞由来の少なくとも51%の多能細胞を含むことが好ましい。胚葉体は、全能ES細胞由来の少なくとも75%の多能細胞を含むことがさらに好ましい。また胚葉体は、全能ES細胞由来の少なくとも95%の多能細胞を含むことがより好ましい。
【0080】
本発明の最も単純な態様の検定では、対象化学組成に接触する、電極アレイ上の胚葉体に関する分子像が作成され、上記電極アレイを通して生物由来物質の電気的活動変化が判断され、薬剤にさらされていない胚葉体(対照胚葉体)と比較して、化学組成にさらされた胚葉体(試験胚葉体)において下記のようなパラメータが任意に分析される。
【0081】
本発明の検定は、細胞が集合体、あるいは組織状構造が配列を自ら構成するように実施することもできる。あるいは、分化細胞はEBから分離され、細胞懸濁液の配列において、あるいは単一細胞レベルで分析される。例を参照のこと。したがって、好ましい実施形態においては、本発明の機能検定システムで分析される細胞は、胚葉体(EB)から分離され、好ましくは細胞集合体のトリプシン処理により得られる(例も参照のこと)。
【0082】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法は、幹細胞経由EGFP陽性心筋細胞、好ましくは心室状心筋細胞あるいは心房およびペースメーカー状心筋細胞により実施される(例も参照のこと)。
【0083】
実施形態において、例えば等尺性張力測定、心エコー図法などによる試験化合物への暴露前、暴露中および/または暴露後、細胞型および細胞集合体や組織形成の進行状況と、細胞あるいは細胞集合体の生理的および/または成長状態が分析される(下記の例も参照のこと)。細胞あるいは細胞集合体の状況は、配列上の細胞の電気的活動の分化をモニタすること、例えば微小電極アレイ(MEA)による細胞外電場電位を記録することで、分析される。微小電極アレイ(MEA)は、例えばES細胞由来の心筋細胞内における電位発生や増殖など複数の細胞外活動の記録が可能な装置を意味する。上記記録は、医師に使用されていることから、周知のECGとの共通点を有する。通常、MEAのマトリックスは特別に設計された細胞培養装置の底部に一体化された60の金電極から構成されている。ES細胞由来の胚葉体(EB)が上記装置で培養される。心筋細胞を含むEBの細胞は、表面に付着、拡散後、電極に接触する。発生するすべての細胞外活動電位は、短期および長期の観察実験中同期して記録できる。適正なプログラムによる頻度および遅延時間の分析により、拍動クラスタの「電気マップ」が得られる。
【0084】
例えば、心筋細胞へと分化する胚性幹細胞の進行中の分化過程での電気生理学的プロパティは、基板と一体化された60の電極を有する微小電極アレイ(MEA)による細胞外電場電位の記録後に得られる(Banach et al., Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 284(2003), 2114−2123に記載)。さらに、呼吸運動パターン発生に寄与する脳幹ニューロンの同時反応を記録するため、タングステンの微小電極の複数アレイが使用される(Morris et al., Respir. Physiol. 121(2000), 119−133を参照のこと)。
【0085】
さらに好ましい実施形態において、胚葉体あるいは選択、分離およびリプレートされた体外分化細胞は、フィブロネクチンに被覆された細胞培養皿上で培養され分析される。特に好ましい実施形態では、本発明の検定システムに従い使用される微小電極アレイは、フィブロネクチンで被覆されている(例2を参照のこと)。
【0086】
有核化細胞の個々の位置に常にフィブロネクチンが被覆される一方、細胞の成長や存続を妨げないことが、本実施形態の利点である。フィブロネクチンなどの表面被覆方法は、当業者にとって周知である(User Manual for the Micro−Electrode Array (MEA) of Multichannel Systemsも参照)。
【0087】
本発明にかかる機能検定システムの特に好ましい実施形態において、パラメータとして周波数、平均収縮性、最大収縮幅、および平均濃度曲線下面積(AUC)が分析される。平均収縮性および最大収縮(幅)は、例えばβアドレナリン作用受容体作用薬やカルシウム拮抗薬の生理学効果、すなわち適正な手法による収縮性や周波数の増減を反映するとともに、対応媒体の制御になんら変化が発生しないことが本発明で示されているが、これに限定されることはない。
【0088】
作用薬と拮抗薬との任意の比較において、上記パラメータについて任意の物質が試験される。培地の収縮性や最大収縮幅などのパラメータとして得られた値から、例えば作用薬か拮抗薬のいずれか、その効果は所定の標準値よりも高くあるいは低く示されているかなど、試験物質を定性的かつ定量的に特徴付けることができる。本発明の方法は、毒性試験および化合物のプロファイリングとして特に適している。
【0089】
マイクロアレイデータのコンピュータ分析方法は、周知である(例:Quackenbush, Nature Reviews 2(2001), 418−427およびBrazma et al., Nature Genetics 29(2001), 365−371)。一般に、統計分析はP<0.05またはP<0.01において重要な差を考慮し、両側t検定で実施される。線形回帰分析および相関係数の決定は、エクセル2000(Microsoft Seatle, WA, USA)で実行される。マイクロアレイデータ上でのクラスタ分析は、例えばMichael Eisen’s laboratory (http://rana.lbl.gov)のシェアウェアで得られるプログラムを使って実行できる。
【0090】
本発明の方法の好ましい実施形態において、ES細胞由来の体外分化心筋細胞は、トリプシン処理により、EBのような細胞集合体から酵素的に分離される。収縮性分析のため、好ましくは特定型の心筋細胞、すなわち心房およびペースメーカーあるいは心室が選択される。心筋細胞は、好ましくはフィブロネクチンで被覆されたMEAに設置し、37oCで132 mM NaCl, 4.8mM KCl, 12mM MgCl, 10mM HEPES, 5mMピルビン酸, 1.8mM CaCl2, pH 7.2の含酸素生理緩衝液により表面が常に還流されることでZeiss Axiovert 25(対物 20x)の倒立顕微鏡の試料台にのせられる。心筋細胞は、10nMイソプロテレノールの不在下あるいは存在下において、1、2、5および10Hzで収縮を発生させるため、Myopacer電場刺激装置(IonOptix, Milton, MA)によるペースが可能となる。IonOptixビデオシステム(Milton, MA)は、2エッジ検出により細胞長の記録に使用される。データは、サンプリング速度240Hzで取得され、IonOptixのSoftEdgeコンピュータプログラムにより分析される。上記データは、エクセルにエクスポートされ、Studentのt検定で統計分析が実施される。
【0091】
従って、本発明の検定は、例えば胚成長時の組織形成に対する因子および化合物の影響分析など様々な目的に使用することができる。
【0092】
さらに別の実施形態において、本発明の検定に使用される配列に関し、本発明の方法によって得られたまたは分化過程にある細胞、細胞集合体あるいは組織がそこに付着または懸濁される固体担体が含まれる。バイオセンサーとしての培養細胞および細胞集合体の微小電極アレイの使用が特に対象となる。上記アレイは、例えば金、プラチナ、インジウムスズ酸化物、イリジウムなどのコンダクタが蒸着、パターン形成された、ガラス、プラスチックあるいはシリコン基板から成る。フォトレジスト、ポリイミド、二酸化ケイ素、窒素化ケイ素などの絶縁層が導電電極に蒸着、相互接続され、その後記録箇所を定めるために電極上の領域において除去される。細胞は上記表面で直接培養され、絶縁性が除去された記録箇所で露出したコンダクタと接触する。電極と細胞のサイズに応じて、電気的活性の記録は、単一細胞、あるいは細胞集合体を含む細胞群からのいずれかについてなされる。各電極位置は、AC結合コンデンサーの有無を問わず、高入力インピーダンスで低ノイズ増幅器の入力に接続され、比較的小さな細胞外信号の増幅が可能とされる。上記バイオセンサーの例はNovak et al. IEEE Transactions on Biomedical Engineering BME−33(2) (1986), 196−202; Drodge et al., J. Neuroscience Methods 6(1986), 1583−1592; Eggers et al., Vac. Sci. Technol. B8(6)(1990), 1392−1398; Martinoia et al., J.Neuroscience Methods 48(1993), 115−121; Maeda et al., J. Neuroscience 15(1995), 6834−6845; Mohr et al. Sensors and Actuators B−Chemical 34(1996), 265−269 に記載されている。
上記アレイの分析に準備、適用された装置も、本発明の主題である。
【0093】
本発明の機能組織検定システムは、薬品スクリーニングおよび治療用途での使用が特に適している。例えば、分化幹細胞は、要素 (溶剤、小分子薬、ペプチド、ポリヌクレオチドなど)あるいは分化細胞の特性に影響を及ぼす環境条件(培養条件あるいは操作)のスクリーニングに使用される。本発明の特にスクリーニングへの適用は、薬剤研究での医薬品の試験に関連する。一般に標準テキスト「薬学研究での体外方法」、Academic Press, 1997および米国特許US−A−5,030,015が参考となる。対象医薬品の活性評価は、対象化合物と本発明の分化細胞との合成に関し、化合物(未処理の細胞あるいは不活性化合物により処理された細胞との比較において)に起因する細胞の形態、マーカー表現型、あるいは代謝活性に現れる変化を判断し、化合物の影響と観察された変化とを関連付ける。化合物は特定の細胞型に対して薬理的な効果をもたらすようにつくられており、あるいは何らかの影響を及ぼすように構成された化合物は、意図しない副作用が発生するため、スクリーニングが実施される。潜在的な薬剤相互作用効果を検出するため、二つ以上の薬品を組み合わせて(同時にあるいは順番に)試験がなされる。特定の適用において、化合物は潜在的な毒性について最初にスクリーニングされる(「薬学研究における体外方法」Castell et al., Academic Press,(1997), 375−410)。細胞毒性は、まず細胞の存続性、生存性、形態、および特定マーカー、受容体あるいは酵素の発現または開放に対する影響において判断される。染色体DNAに関する薬品の効果は、DNA合成あるいは修復の計測により判断される。細胞サイクルにおいて特に予想外の時点、あるいは細胞複製に必要なレベルを超えている場合、チミジンまたはBrdUの結合は、薬品の効果に一致する。望ましくない影響には、例外的な姉妹染色分体交換の速度が含まれ、中期拡散により判断される。「薬学研究における体外方法」(A. Vickers, Academic Press (1997), 375−410)が参考となる。
【0094】
上記電極アレイによる生物由来物質の電気的活性の測定を除くパラメータの任意のひとつとして、上記パラメータが本発明の機能組織検定システムにおいて使用できる。
【0095】
化学組成を試験するため、胚葉体を本発明の検定に使用することが好ましい(下記も参照のこと)。胚葉体が得られる特定の種の選択は、いくつかの要素のバランスを反映している。第一に、研究の目的により、一つ以上の種が対象となりうる。例えば、ヒトの胚葉体は、ヒトの治療に使用される可能性があるものとして試験される化合物とともに使用される対象となり、また工業化学薬品を含む物質の毒性試験の対象ともなる。ウマ、ネコ、ウシ、ブタ、ヤギ、イヌあるいはヒツジの胚葉体は、潜在的な動物治療において、さらに対象となる。臨床前の試験で共通して使用される他の種の胚葉体、例えばギニーピッグ、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌの使用も好ましい。上記種の胚葉体は、ヒトの毒性に関する詳細な情報が不要、またはネズミや他の実験種のひとつが周知の毒性またはヒトに対する他の効果に関連付けられる場合、初回通過スクリーニングにおいて使用される。さらにヒトの治療において、監督官庁は、ヒトへの試用を始める前に動物データの提出を求めている。臨床前動物研究で使用される種の胚葉体を使用することが望ましい。胚葉体の毒性試験結果により、研究者は動物実験中に予想される毒性のレベルと型について参考とする。ある特定の動物種が、異なる型のヒトの毒性モデルとして他の種よりも優れていることは周知であり、種の薬品に対する代謝能力も異なっている(Williams, Environ. Health Perspect. 22(1978), 133−138; Duncan, Adv. Sci. 23(1967), 537−541を参照のこと)。従って、特定の臨床前毒性研究で使用される好ましい特定種は、候補薬品の使用目的に応じて変化させることができる。例えば、繁殖システムに影響を及ぼすことを意図された薬品に適したモデルが得られる種が、神経系に影響を及ぼすモデルとして適しているとはいえない。臨床前試験の適正な種の選択基準は周知である。
【0096】
胚葉体の培養が開始され、化学合成品に接触するようになる。この化学合成品として、水溶液、好ましくはDMSOのような細胞培養に従来使用されている溶剤を使用すると便利である。上記導入は、任意の手段でなされるが、ピペット、マイクロピペットあるいは注射器などが通常使用されている。スループットの高いスクリーニングなどの適用において、化学合成品は、ロボットアーム上でなされるような、自動化ピペットシステムなどの自動化手段によって導入される。化学合成品は、医薬品賦形剤、バインダーおよび医薬品で共通して使用される材料の使用の有無を問わず、あるいは目的の用途に使用される他のキャリアを使用して、粉末あるいは固体の培地への導入が可能である。例えば、農薬や石油化学剤としての使用が意図されている化学合成品は、それ自体が溶剤に導入され、化学薬品や薬剤の毒性試験が実施される。あるいは当該化学合成品と共に使用されたり、環境内に存在する物質との組み合わせで導入され、そのような化学薬品や薬剤の組み合わせに相乗効果があるか否かについて判断される。一般に化学合成品の導入後、合成品が培地全体に行き渡るよう、培養液が少なくとも一時的に揺動される。
【0097】
化学合成品を培養液に付加するタイミングは、作業者の裁量で決められ、特定の研究目的に応じて変化する。従来、化学合成品は、胚葉体が幹細胞から成長するとすみやかに付加され、胚葉体のすべての組織の成長においてタンパク質の変性や遺伝子の発現の判断がなされる。特定の組織型に及ぼす合成品の影響に研究の焦点をあてることが重要である。前述のように、筋肉組織、神経組織、肝臓組織などの個々の組織は、胚葉体が形成された後の特定のタイミングで成長することが知られている。対象組織の変性遺伝子やタンパク質発現に及ぼす影響を観察するため、化学合成品の付加は、対象組織が成長を開始するタイミングあるいは成長の開始後から所定の選択タイミングで化学合成品を付加することができる。
【0098】
胚葉体あるいは細胞に接触させる化学合成品の使用量は、そのような合成品の毒性に関する既知の情報量、研究の目的、作業にかけられる時間、および作業者に許容される資源に応じて異なる。化学合成品は、特に他の研究、過去の研究、あるいはその合成品との実地経験において、特定の濃度が人体で検出される最も共通した値であることが示されているような場合、単一の濃度で管理される。より一般的には、胚葉体の培養液あるいは細胞に付加される化学合成品の濃度を変えることで、遺伝子あるいはタンパク質発現に及ぼす異なる濃度の影響、すなわち異なる濃度の合成品の毒性の差が評価できる。例えば、標準あるいは中程度の濃度の化学合成品を付加し、所望の精度レベルに応じて濃度が二倍あるいは5倍ごとに増減される。
【0099】
合成品が周知でない毒性のひとつを有している場合、事前研究がまず実施され、合成品が試験される濃度範囲が決定される。濃度用量を決定する様々な手順は、周知である。例えば、薬剤が直接的な毒性を有するような用量に決定される手順もある。作業者は、用量を半分に減らし、対象型の細胞の平行培養液に対して、対象薬剤の濃度を五倍あるいは二倍に希釈するよう管理される。環境汚染については、合成品は、環境で見られる濃度で試験されることが一般的である。食料に残留する殺虫剤などの農薬については、薬剤は、残渣が発見される濃度で試験されるが、他の濃度でも試験は実施される。試験化合物の希釈は、DMSOの50あるいは100倍に濃縮された化合物に対して分離管にて実行される。それぞれの希釈の一つあるいは二つのμlは、細胞の懸濁拡散前に分散される。
【0100】
上記の如く化合物とEBとの接触、接触時間などについての考慮は、妥当な場合、ES細胞、組織およびヒト以外の動物で実施される本発明の検定に適用される。
【0101】
本発明は、以下の工程を含む、薬剤の識別、取得および/またはプロファイリングのための機能組織検定システムに関する。
(a) 電極アレイにおいて本発明に従って準備された細胞、細胞集合体、組織あるいは器官を有する生物由来物質を培養し;
(b) 前記生物由来物質を検体とし;
(c) 前記電極アレイと任意のパラメータにより、前記生物由来物質の電気的活性を測定する。
上記検定は、上述のような複数のあるいは微小電極アレイ(MEA)で実施されることが好ましい。本発明の検定システムは、従来多大な時間とコストがかかっていた心臓疾患の分析用動物実験の代役を果たすという利点を有する。このように、機能検定システムは、薬剤の開発や、ヒトあるいは動物が接触しうる任意の化合物の毒性試験において非常に有用である。上記細胞集合体は、EBであることが好ましい(上記説明を参照のこと)。
本発明の機能組織検定システムの好ましい実施形態において、いわゆるカルディオボディ、すなわち心筋細胞へと分化した胚葉体(EB)が使用され、ペースメーカー細胞と同様、心房および心室心筋細胞からなる機能心臓組織が示される。通常、前記電極アレイは、上記のような複数あるいは微小電極アレイ(MEA)である。
【0102】
本発明の検定システムに従い、以下のパラメータのうち任意の一つあるいはすべてが分析される。
(i) Naチャンネル
(ii) Ca2+/K チャンネル
(iii) K チャンネル
(iv) 振幅および/または電場電位期間(FDP)
(v) 心臓細胞のクロノトロフィまたは神経細胞の突発期間
(vi) 不整脈、EAD状現象
(vii) pH値
(viii) 酸素分圧(pO2)
(ix) 拍動停止
(x) AV分離収縮性、NO効果および/または形態変化
【0103】
生体細胞の分析に使用されるMEAおよび方法は、当業者にとって周知である。例えば、国際出願WO97/05922では、漏出、局所解、電気的細胞電位あるいは細胞培養、「体外」組織切片、「体内」生体細胞などの生体細胞ネットワークの電気シミュレーションのための微小電極アレイが開示されている。複数の微量元素が使用され、微小電極として基板上に配列され、液体環境内の細胞と接触するよう構成された、国際出願WO98/22819に記載されている微量元素装置を使用することができる。上記細胞は微小電極に導かれ、分離され、あるいは微小電極に機械的に誘引される。国際出願WO01/65251に開示された電極アレイの使用は、本発明の説明に従って適用される。
【0104】
多重電極データの分析に、従来技術で得られるいくつかのツールを使用することができる(Egert et al., 「MEAツール:複数電極データ分析のためのオープンソースツールボックス」MATLAB. J. Neuroscience Methods 117(2002), 33−42およびBanach et al., Am. J. Phsyiol. Heart Circ. Physiol. 284(2003), H2114−2123を参照のこと)。
【0105】
好ましい実施形態において、生物由来物質には、心筋細胞に分化した胚葉体(EB)、最も好ましくは自立的に拍動し、ペースメーカー細胞と同様、心房および心室心筋細胞の電気生理学的プロパティを網羅する機能心臓組織が含まれる。
【0106】
ここに記載された方法および検定は、様々な動物モデルの置き換えや、ヒトをベースとした新しい試験および極限環境でのバイオセンサーの形成が可能である。特に本発明の方法は、毒物、変異原性および/または催奇性体外試験に使用される。本発明に従って得られた細胞や組織は、体内状況により近いため、本発明の毒性検定の結果も、試験された化合物の体内催奇形成との相互関連が見込まれている。
【0107】
本発明の特に有利な実施形態において、上記検定は、かなりの時間とコストを要する化合物の心臓効果に関する動物試験の代替となるシステムとして使用される。この実施形態は、「カルディオボディ」すなわち心筋細胞へと分化した胚葉体(EB)、好ましくは国際出願WO2005/005621に記載された方法で入手されたものに基づいている。上記カルディオボディは、好ましくはマウスの胚性幹細胞から得られ、自立して拍動し、ペースメーカー同様、心房および心室の心筋細胞の電気生理学プロパティを網羅する機能心臓組織から構成される。
【0108】
特に好ましい実施形態において、マウス細胞系R1のES細胞(Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 90(1993), 8424−8428; ATCC Number SCRC−1011)あるいは上記からの細胞系が本発明の検定に使用される。本発明に従って実行された実験において、マウスからの心筋細胞の使用によりES細胞系R1が、D3細胞系からの心筋細胞を使用する場合に比べ、本発明の複数電極アレイシステムの信号ノイズ比がかなり向上したことが示されている(Doetschman et al., J. Embryol. Exp. Morphol. 87(1985), 27−45; Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85(1988), 8583−8587; ATCC Number CRL−1934, CRL−11632)。ここでは、特定の細胞系の複数電極アレイへの付着が良好であるため検定が向上したとされているが、これに制約されることはない。
【0109】
ある実施形態において、カルディオボディあるいはそれから分離した細胞は、複数電極アレイシステム(MEA, MultiChannel Systems, Reutlingen, Germany)にプレーティングされる。基板に一体化された60の電極から構成される微小電極による細胞外電場電位の記録は、以下の文献の記載のように実行される(Banach et al., Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 284(2003), H2114−2123)。電場電位の細胞外記録は、「カルディオボディ」の心筋細胞への励磁中の電気生理学的変化を反映する。特定の好ましい実施形態において、Axiogenesis AG, Cologne, Germanyによって開発されたソフトウェアAxioToolsを使用して自動化分析が実施される。
【0110】
本発明の検定は、例えばシサプリド、リドカイン、イソプロテレノオール、ニフェジピンなど、本発明の検定か、ラビットのランゲンドルフ調製のいずれかでテストされた心臓組織のイオンチャンネルにおいて周知の効果を有する化合物で評価が実施された。すべての化合物は、両者の試験システムにおいて、パッチクランプおよびMEA分析の相関関係と共に、類似の結果を示し、心臓安全スクリーニング手順に本発明の検定が組み込まれることとなった。信頼性を有する結果を得るため、できれば以下のすべてのパラメータの分析が好ましい。
(i) Naチャンネル
(ii) Ca2+/K チャンネル
(iii) K チャンネル
(iv) 振幅および/または電場電位期間(FDP)
(v) 心臓細胞のクロノトロフィまたは神経細胞の突発期間
(vi) 不整脈、EAD状現象
(vii) pH値
(viii) 酸素分圧(pO2)
(ix) 拍動停止
(x) AV分離収縮性、NO効果および/または形態変化
【0111】
従来の対外検定と比較して本発明のスクリーニング検定の実施形態の優れた点を以下に示す。
・ 高度に標準化された細胞培養モデル、カルディオボディの均質かつ再生可能な生成;
・ 正常な生理学的作用が得られる心房、心室およびペースメーカー細胞の存在(例:イオンチャンネルの発現と調節);
・ 全イオンチャンネル、変時性および不整脈の出現に対する効果を含む、カルディオボディのすべての電気生理学的プロパティのECG的スクリーニング;
・ すべて生体外ベースのシステム、困難な細胞準備が不要;
・ 時間とコストの節約。
【0112】
従って、本発明の化合物の様々な検定において、特に心臓活性化合物は、以下の文献に記載の方法により試験される(DE195 25 285 A1; Seiler et al., ALTEX 19 Suppl 1(2002), 55−63; Takahashi et al., Circulation 107(2003), 1912−1916; Schmidt et al., Int. J. Dev. Biol. 45(2001), 421−429)。後者には、心臓細胞と筋原細胞との濃度依存的差別化を決定することで実行される胚毒性薬剤のスクリーニングのためのEU検証研究でES細胞を使用するES細胞試験(EST)が説明されている。
【0113】
本発明の方法により、あるいはその方法での分化時に生成された中枢神経系(CNS)の細胞と組織は、例えば米国特許US−A−6,498,018に開示された細胞培養液にて試験される。肝臓に関連する細胞と組織も同様に試験される(US2003/0003573も参照のこと)。胚の成長に対する化学的に誘発された効果の検出および始原生殖細胞からの胚生殖(EG)細胞によるマウスとラットからの分化された多能性胚性幹(ES)細胞に基づく胚毒性/催奇形性スクリーニングを目的とする分化のための体外試験手順がWO97/01644に記載され、本発明の記載事項への適合が可能である。
【0114】
CNSの細胞と組織は、上記の電極アレイにより分析される。微小電極アレイでの細胞と組織培養液のニューロン活動の調節相互作用を分析する手段と方法は当業者にとって周知である(van Bergen et al., Brain Res. Brain Res. Protocol 2003/11(2003), 123−133および国際出願WO01/65251を参照のこと)。
【0115】
試験に望ましい化合物の形成では、形成全体に大きな影響を及ぼすような防腐剤などの添加成分を含まない(上記文献も参照のこと)。このような好ましい形成は、生物活性化合物および水、エタノール、DMSOなどの生理学的に許容されたキャリアとから基本的に構成される。しかし、化合物が賦形剤の形成のない液体である場合、上記形成は基本的にその化合物自身で構成される。さらに、様々な濃度に対する分化反応を得るため、複数の検定を、濃度の異なる化合物に対して平行に実行することができる。当該分野において周知のように、化合物の効果的な濃度を決定するため、1:10または他の対数スケール、希釈から得られた濃度範囲が使用される。必要な場合、第二の希釈により、濃度はさらに精製される。一般的に、上記のうちのある濃度は、例えば濃度がゼロの場合、あるいは検出レベルを下回る場合の負の対照物として機能する。
【0116】
対象化合物は多くの化学分類を含み、一般的には有機分子である(上記文献も参照のこと)。候補薬剤は、例えば水素結合など、タンパク質との構造的相互作用に必要な官能基を含み、少なくともアミン、カルボニル基、ヒドロキシル基あるいはカルボキシル基、好ましくは化学官能基のうち少なくとも二つ、を含む。候補薬剤は、上記官能基の一つ以上と置き換えられた炭素環化合物あるいは複素環構造および/または芳香族あるいは多環芳香族構造から構成される。候補薬剤は、ペプチド、単糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、派生物、構造類似体あるいは上記の組み合わせを含む生体分子とされる。
【0117】
化合物と候補薬剤は、合成品や天然化合物のライブラリを含む広範な供給源から得られる。例えば、オリゴヌクレオチドとオリゴペプチドの無作為な発現を含む広範な有機化合物と生体分子の無作為かつ方向付けされた合成のため、多くの手段が使用される。あるいは、細菌、菌、植物および動物の抽出物としての天然化合物のライブラリが使用可能あるいは容易に作製できる。例えば、胚葉体と腫瘍球の比較培養液での腫瘍による血管形成やマトリクスメタロプロテイナーゼ発現が漢方薬で使用される植物成分で阻害されることがWartenberg et al. in Lab. Invest. 83(2003), 87−98に記載されている。
【0118】
天然あるいは合成品のライブラリおよび化合物は、従来の化学、物理および生化学手段により容易に修飾され、組み合わせライブラリの形成に使用できる。周知の薬剤は、構造的類似体を生成するため、例えばアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化など定方向またはランダムに化学修飾される。
【0119】
追加成分が付加された流体、例えばイオン強度、pH、全体のタンパク濃度などに影響する成分を含む試料に化合物を含めることができる。さらに上記試料は、少なくとも部分的な分画あるいは濃縮が達成されるように処理される。例えば窒素充填、凍結あるいはそれらの組み合わせなど、化合物の劣化を抑えるような配慮がとられれば、生体試料の保存は可能である。使用される試料の容量は、生体試料の約0.1μlから1mlの範囲で測定検出が可能な程度で十分である。
【0120】
化合物は、上記全クラスの分子を含み、未知の成分の試料も含む。多くの試料は溶液中の化合物を含み、適正な溶剤に溶解する固体試料も検定される。対象試料は、例えば地下水、海水、鉱山水などの環境試料、農作物、組織試料からの溶解物などの生体試料、分析向けの化合物ライブラリと同様、薬品の準備時の時間経過における製造試料などを含む。対象化合物の試料は、候補薬剤として、潜在的な治療の価値について査定される。
【0121】
試験化合物を、複数の化合物のスクリーニング向けの組み合わせライブラリとすることもできる。試験物質の集合体は、約10から約10の多様性を有し、この数字は、他との二回以上の組み合わせにより、上記方法の実施時に緩和される。本発明の方法で識別される化合物は、溶液中、あるいは固体担体への結合後、PCR、オリゴマー調整(Saiki et al., Bio/Technology, 3(1985), 1008−1012)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)電極分析(Conner et al., Proc. Natl. Acad. Aci. USA, 80(1983), 278)、オリゴヌクレオチド結合検定(OLAs)(Landegren et al., Science, 241(1988),1077)など特定のDNA配列の検出のため、さらに評価、検出、クローン化、配列が実施される。DNA分析の分子技術が検討されている(Landegren et al., Science, 242(1988), 229−237)。従って、本発明の方法は、胚性幹細胞および成熟幹細胞の転写プロファイリングにも使用される(Ramalho−Santos et al., Science 298(2002), 597−600およびTanaka et al., Genome Res. 12(2002), 1921−1928を参照のこと)。
【0122】
培養には、試験化合物とES細胞あるいはES由来細胞との接触が可能な状態が含まれる。前述したように、化合物配列あるいは「チップ」あるいは他の固体担体上の単一あるいはいくつかのES細胞を試験することが望ましい。有害なあるいは少なくとも生物活性環境剤を検出するため、例えば、チップ上の心筋細胞あるいはニューロンの化合物との反応による収縮比あるいは発火回数が読み出される。
神経生物学的に適合する電極アレイにより、そのアレイ上で幹細胞は分化することができる。上記アレイにより、既知あるいは未知の薬剤の存在に反応し、ES由来のニューロンの電気活性でのリアルタイムの変化が測定できる。心筋細胞の電気的活動は、細胞外微小電極アレイ上に細胞をプレーティングすることでモニタできる(Connolly et al., Biosens. Biores. 5(1990), 223−234)。上記細胞は通常の収縮を示し、記録された細胞外の信号は、細胞内の電圧記録に対する関連性を示す(Connolly et al., 上記文献を参照のこと)。この無侵襲方法により、従来の全細胞パッチクランプ技術よりも簡単かつ確実な長期にわたるモニタが可能となった。
【0123】
本発明の検定は、調節参照パターンや、広範な生物活性化合物の調節参照パターンのデータベースの提供に特に適している。参照パターンは、試験化合物の識別および分類に使用される。試験化合物の評価は、異なる結果を達成するために使用される。細胞電位で誘発された変化のスペクトル密度の形跡に基づく生物剤の分類方法は、当業者にとって周知である(米国特許US−A−6,377,057を参照のこと)。従って、生物活性化合物は、イオンチャンネル、膜電位の変化、イオン電流への影響、そして化合物が励起細胞で誘発する活動電位の周波数成分に基づき分類される。上記誘発膜電位あるいは活動電流でのスペクトル密度の変化は、試験化合物で調節される各チャンネル型の特徴を示す。膜電位でのスペクトルの変化パターンは、反応細胞を化合物と接触させ、膜電位あるいはイオン電流を長期にわたりモニタすることで決定される。このような変化は、反応細胞のイオンチャンネル上での当該化合物の効果あるいは化合物の分類と相互に関連している。スペクトル変化パターンは、化合物に対する独特の形跡が得られ、チャンネル調整剤を特徴付けるための有用な方法がもたらされる。イオンチャンネルおよび生体細胞の活動電位における化合物への影響により、化合物の分類および識別に関する有用な情報が得られる。上記情報の抽出方法は、薬学スクリーニング、創薬、環境モニタ、生物兵器の検出と分類などに適用される生体活性化合物の分析において特に関心の高い分野である。全細胞に基づくバイオセクタの例が以下の文献に記載されている(Gross et al., Biosensors and Bioelectronics 10(1995), 553−567; Hickman et al. Abstracts of Papers American Chemical Society 207(1994), BTEC 76; およびIsrael et al. American Journal of Physiology: Heart and Circulatory Physiology 27(1990), H1906−1917)。
【0124】
Connoly et al., Biosens. Biores. 5(1990), 223−234には、培養液中の細胞の電気的活動をモニタするため開発された微小電極の平面アレイが記載されている。上記装置により、電極上の絶縁層の表面局所特性の組み込みが可能となる。金電極の製造や、窒化ケイ素の絶縁層の沈着およびパターン化に、半導体技術が使用される。ヒヨコ胎仔の筋細胞の心臓細胞培養液を使用し、細胞外電圧測定と同期した培養細胞の拍動を得ることで電極が試験される。心臓イオンチャンネルの分子制御がClapham, Heart Vessels Suppl. 12(1997), 168−169で評価されている。Oberg and Samuelsson, J. Electrocardiol. 14(1981), 13942において、心臓活動電位の再分極位相に関するフーリエ解析がなされた。Rasmussen et al. American Journal of Physiology 259(1990), H370−H389において、食用カエルの心房の電気生理学的活性数学モデルについて記載されている。
【0125】
イオンチャンネルの全領域において、多くの文献が存在する。一連の本に文献の評価が載せられている(The Ion Channel Factsbook, 1−4巻、Edward C. Conley and William J. Brammar, Academic Press)。以下に概説が記載されている(「細胞外リガンド依存性イオンチャンネル」(ISBN:0121844501)、「細胞間リガンド依存性チャンネル」(ISBN:012184451X)、「内向き整流と細胞間チャンネル」(ISBN0121844528)および「電位依存性チャンネル」(ISBN: 0121844536))。Hille, B. (1992)「励起膜のイオンチャンネル」2nd Ed. Sunderland MA: Sinauer Associatesにより、カリウムチャンネルも評価されている。
【0126】
別の態様において、生物由来物質は、生物活性物質についてスクリーニングされる。ある例において、例えば生物活性物質についてスループットの高いスクリーニングとして使用するため、外部刺激に反応して細胞の電気生理学的変化が測定できるよう、細胞が基板に結合されている。このような細胞は、特定遺伝子あるいは細胞中の遺伝子産物を標的とし、発現し、あるいはノックアウトするDNAにトランスフェクトされる。コンピュータなどの測定装置に接続された実装細胞を提供することで、多くの化合物が早くかつ正確にスクリーニングされる。細胞あるいはチップは、大規模なパラレルスクリーニングのアレイの測定装置にも接続される。
【0127】
本発明の検定方法は、従来の実験室のフォーマットに沿うものでも、ハイスループットに適合したものでもよい。「ハイスループット(HTS)」は、多数の試料を同時に簡単に分析させ、ロボット操作も許容するような検定設計を意味する。ハイスループット検定の他の所望特性として、試薬使用を低減するため、あるいは所望の分析とするよう操作回数を減らすために最適化された検定設計が挙げられる。
【0128】
他の好ましい実施形態において、本発明の方法は、アレイ内の任意に異なる位置で2、3、4、5、7、10回あるいはそれ以上の計測がなされる。本発明のスクリーニング方法の実施形態において、分化過程および/または組織構造形成を活性化あるいは阻害するために知られる化合物が、例えばレチノイン酸などの試料や培養基に付加される。適正な化合物については上記文献を参照のこと。
【0129】
さらに上記方法は、上述あるいは周知のスクリーニング方法のうち一つ以上の任意の工程と組み合わせることが可能であることは言うまでもない。臨床用化合物の発見方法は、例えばリード識別についての超ハイスループットスクリーニング(Sundberg, Curr. Opin. Biotechnol. 11(2000), 47−53)および構造に基づく薬剤設計(Verlinde and Hol, Structure 2(1994), 577−587)とリード最適化についての組み合わせ化学(Salemme et al., Structure 15(1997), 319−324)を含む。薬剤が選択されると、上記方法には、変性薬剤を使用して合理的な薬剤設計を実施し、上記変性薬剤が相互作用/エネルギー解析に基づき、より良好な類似性を示しているか否かについて評価するために使用される方法を繰り返す工程が付加される。化合物の上記集合体の多様性が良好に低減されるように、本発明の方法が一回以上繰り返される。
【0130】
物質は、排出あるいは一つ以上の活性あるいは不活性代謝産物に対する代謝により除去されるため、体内投与後に代謝される(Meyer, J. Pharmacokinet. Biopharm. 24(1996), 449−459)。従って、実際に本発明の方法によって識別かつ取得された化合物あるいは薬剤を使用せず、プロドラッグとして対応形成を使用することで、患者自らの代謝によって活性状態に変化される。プロドラッグおよび薬剤の適用についてとられる予防手段について文献に記載されている(評価については、Ozama, J. Toxicol. Sci. 21(1996), 323−329を参照のこと)。
【0131】
さらに、本発明は、例えば損傷組織、異常組織あるいは異常器官の形成、心不全などに関する疾患の治療用の成分の生成方法のうちの任意のものによって識別、分離および/または生成された化合物の使用に関する(上記文献を参照のこと)。分離された化合物あるいは対応薬剤は、傷の回復および/または損傷した組織の回復をサポートすることが望ましい。治療法として、識別された物質あるいはこれを含む成分が、そのような障害を負う対象に投与される。上記方法によって識別、分離および/または生成された化合物は、薬剤発見、および薬剤あるいはプロドラッグの作製におけるリード化合物として使用される。これは、上記物質を変化させる修飾、毒性の原因と疑われる部分の除去および/または誘導、生体内利用効率、溶解性および/または半減期の向上等、上記のようにリード化合物あるいはその派生物もしくは分離された化合物の修飾に関する。上記方法は、薬理的に許容されるキャリアによる分離あるいは修飾された物質の混合工程を含む。上記の様々な工程は周知である。例えば、上記技術を実施するためのコンピュータプログラムは以下のように取得できる(Rein, Computer−Assisted Modeling of Receptor−Ligand Interactions, Alan Liss, New York, 1989)。化学派生物と類似物の準備方法は、当業者にとって周知であり、以下に記載されている(Beilstein, Handbook of Organic Chemistry Springer edition New York Inc., 175 Fifth Avenue, New York, N.Y. 10010 U.S.A.およびOrganic Synthesis, Wiley, New York, USA)。さらに、上記方法に基づき、ペプチド模倣薬および/または適正な派生物および類似物のコンピュータ支援設計が使用される。薬発見でのリード発生方法は、タンパク質の使用と、質量分析のような検出方法(Cheng et al., J. Am. Chem. Soc. 117(1995), 8859−8860)と、核磁気共鳴(NMR)方法(Fejzo et al., Chem. Biol. 6(1999), 755−769; Lin et al., J. Org. Chem. 62(1997),8930−8931)とを含む。定量的構造‐作用関係(QSAR)分析(Kubinyi, J. Med. Chem. 41(1993),2553−2564, Kubinyi, Pharm. Unserer Zeit 23(1994),281−290)、組み合わせ生化学、古典化学などが含まれ、あるいは依存される(例えばHolzgrabe and Bechtold, Pharm. Acta Helv. 74(2000),149−155を参照のこと)。さらに、形成用キャリアおよび形成方法の例がRemingtonの「Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0132】
薬剤が本発明の上記任意の一つの方法に基づき選択されると、薬剤やそのプロドラッグが治療に効果的な量だけ合成される。「治療に効果的な量」とは、治療、回復、予防あるいは損傷した組織の改良など、患者にとって意義のある利点が十分に得られ、治療、回復、予防あるいは上記状態の改善速度が速くなることを示せるような薬剤あるいはプロドラッグの総量を意味する。さらに、あるいは代替として、特に薬剤の臨床前試験について、「治療に効果的な量」には、ヒト以外の動物実験での生理反応を引き出すのに十分な薬剤あるいはプロドラッグの総量という意味が含まれている。
【0133】
ある実施形態において、本発明の方法は、薬学的に許容できるキャリアにより分離あるいは変性された物質の混合を含む。キャリアおよび形成方法の例は、Remingtonの「Phamaceutical Sciences」に記載されている。
【0134】
上記のように、本発明の方法と検定は、毒物、胚毒性、変異原性および/または催奇性の体外試験で使用できる(上記文書を参照のこと)。本発明の他の重要な態様は、化合物の毒性、好ましくは催奇形性、胚毒性、慢性または急性毒性の決定方法が、ここに記載の方法の工程を含む点にある。
【0135】
対照物と比較して反応変化があるか否かについて決定するため、検定は単純な「イエス/ノー」の形式としてもよい。試験化合物あるいは複数の試験化合物が試験細胞、好ましくは異なる濃度あるいは希釈の胚葉体、そして好ましくは試験化合物の対応型の生理レベルに対応する投与量にて供される。従って、WO00/34525の記載と同様の目的において、化合物のプロファイルを簡単に生成することができる。例えば、二つ以上の検定が使用でき、および/またはパラメータが評価される。上記検定/パラメータは、同時にあるいは順番に実行/評価され、あるいは一つの検定結果は、任意で実行された対応検定の結果と比較される。従って、試験化学合成品の分子プロファイルは、前述した試験化学合成品によって接触された胚葉体の「電気的活動」の変化を検出することで得られる。試験合成品の分子プロファイルが決定されると、所定の毒性を有する化学合成品と比較され、あるいは所定の毒性を有する化学合成品の分子プロファイルのライブラリと比較されることが好ましい。上記比較により、試験合成品が毒性を有するかどうかの可能性や、他の周知の毒性合成品との比較における毒性の状況を予測するための情報が得られる。
【0136】
本発明を実施するため、ES細胞、組織など特にEB細胞での分子プロファイルに基づく試験化合物の毒性の予測は、100%正確である必要はない。主に薬剤開発の効率とコストにプラスの効果を付与するには、低い毒性と候補薬剤の成功について、例えば新しい薬剤リードの優先リストの半分より上位となる可能性を緩やかに上昇させる必要がある。
【0137】
本発明に基づき取得された細胞と組織は、従来の細胞を基本とする検定と比較して、体内状態により近いため、本発明の検定結果は、試験化合物の体内の催奇性あるいは胚毒性に相互に関連していると考えられる。
【0138】
いくつかの試験物質が組み合わされ、これらは同時にあるいは段階的に付加されることで、強化あるいは消失効果に関する情報が得られる。従って、本発明のさらなる態様において、上記方法に関連し、接触工程は、前記試験試料を第一試験物質の存在下で少なくとも一つの第二試験物質と接触させることを含む。二つ以上の物質を組み合わせて試験することで、一般にそれらの相互作用に関する情報が得られる。
【0139】
本発明にかかる方法の好ましい実施形態は、特に試験物質が治療薬剤あるいはその混合物である場合、分化過程の活性化あるいは阻害が周知である化合物を培養基に付加することに関する。化合物が特定の細胞型の分化に影響を及ぼし、他の細胞型の分化を導く可能性を決定するために試験される、あるいは任意の箇所に影響を及ぼすよう設計された化合物に意図しない副作用が発生する、のいずれかの理由により、上記スクリーニングが実行される。
【0140】
本発明は、上記方法のうちひとつを実施する際に有用な特定の試薬を含み、上記ベクターおよびその合成、多細胞あるいは多能性細胞、および任意で培養基、組み換え型核酸分子、標準化合物などを含むキット構成に関する。このようなキットは、少なくともひとつの容器への強固な保持に適したコンパートメント化されたキャリアを含む。このキャリアは、上記方法の実施に有用な試薬をさらに含む。キャリアは、標識酵素基質などの検出手段も含む。
【0141】
さらに、本発明は上記のように定義された電極アレイを含むチップに関する。特に好ましい実施形態において、本発明は、固体担体、これに付着あるいは懸濁された細胞、本発明の方法で取得された細胞集合体あるいは組織を含み、あるいは分化過程にあるアレイとチップに関する。上記アレイは、一般に試験細胞集合体あるいは組織が特定パターンで堆積されるガラス、プラスチックあるいはシリコン基板から構成される。アレイの型に応じて、細胞の伝導性による直接測定が可能な金、プラチナ、インジウムスズ酸化物、イリジウムなどのコンダクタで付加的にカバーされる。培養液中の細胞やバイオセンサーとしての細胞集合体の上記平面微小電極アレイを使用することに、特に焦点があてられている。
【0142】
本発明のチップは、本発明に記載され、例に示された方法によって取得可能な胚葉体あるいは心筋細胞の存在により特徴付けられる。特に好ましい実施形態において、本発明のチップは、カルディオボディ、すなわちペースメーカー細胞と共に心房および心室心筋細胞を含む心筋状組織を含む。特に好ましい実施形態において、上記チップは、図1に示す表面を有する。
【0143】
本発明は、上記の方法および検定で使用される装置に関連する。例えば、複数の微小電極を有し、本発明の記載に基づき使用および/または適用される細胞電位測定装置が欧州特許出願EP0 689 051 A3に開示されている。
【0144】
さらに、国際出願WO98/54294では、細胞のモニタ装置および方法、検体を細胞環境へと付加し、細胞の変化をモニタする方法について記載され、細胞培養室に配された微小電極アレイを含み、このアレイにおいて、細胞は部分的に微小電極の表面に付着している。細胞の径は、微小電極の径より大きく設定されている。電圧信号がそれぞれ微小電極と参照電極の間に印加される。電圧信号の印加から得られる信号の検出およびモニタにより、インピーダンス(細胞膜容量と伝導性の組み合わせ)、活動電位パラメータ、細胞膜容量、細胞膜伝導および細胞/基板のシール抵抗を含む各細胞の電気特性に関する影響が得られる。
【0145】
本発明の記載に基づき実施される手段と方法は、以下の文献に示されている(Egert et al., Brain Res. Brain Res. Protoc. 2(1998), 229−242; Duport et al., Biosens. Bioelectron. 14(1999), 369−376およびドイツ特許出願 DE 195 29 371 A1)。
【0146】
従って、上記本発明の手段と方法は、同型変異遺伝子を含むES細胞による「機能喪失」検定、外来遺伝子が過剰発現するES細胞による「機能取得」検定、催奇性/胚毒性化合物の体外発生解析、薬理検定および病理学細胞機能のモデルシステム設定、組織片の供給源として使用可能で、選択的な分化細胞の誘導の分化および成長要因の適用などを含む様々な用途に使用されるが、上記に限定されることはない(Guan et al., Altex 16(1999),135−141の評価を参照のこと)。
【0147】
本発明の別の態様は、以下を含む薬剤発見業務の実施方法に関する。
‐ 薬剤候補を識別するため、上述の一つ以上の検定システムあるいはその構成要素の提供および/または
‐ 前工程で識別された薬剤あるいはさらにその類似体の本発明に基づく効果および毒性に関する治療プロファイリングの実施;そして
‐ 許容可能な治療プロファイリングを有する、前工程で識別された一つ以上の薬剤を含む医薬品の設定。
【0148】
上記方法を使用することで、薬剤の識別が決定される。薬剤は、MEAについて上記したように、特定のパラメータの変性能力により識別される。識別される適正なリード化合物については、動物に対する効果と毒性を評価するため、薬剤あるいはその類似体の治療プロファイリングが実施される。動物試験後の治療プロファイルを有する化合物は、ヒトに対し、あるいは獣医により使用される医薬品として設定される。当該業務方法は、販売する医薬品の流通システムの確立工程をさらに含み、当該医薬品のマーケティングを担当するセールスグループの設定も任意に含めることができる。
【0149】
識別された薬剤を社内で開発する代わりに、別の会社がその薬剤の開発を行ってもよい。本発明のさらに別の態様は、以下を含む、標的発見業務の実施方法に関する。
‐ 薬剤の識別に関する上記の一つ以上の検定システムあるいはその構成要素の提供と;
‐ 本発明の検定に基づく効果と毒性に関する薬剤の治療プロファイリングの代替的あるいは付加的な実施と;
‐ 識別あるいはプロファイルされた薬剤あるいはその類似体の開発および/または販売の権利に関する第三者へのライセンス供与。
識別された適正なリード化合物について、各第三者の合意様式において、動物への効果および毒性を評価するため、薬剤およびその類似体のプロファイリングが実施される。ヒトに対しあるいは獣医により使用される上記化合物の開発は、当該第三者により実施される。上記業務方法は、上記化合物の販売あるいは開発に関するライセンス供与に関する。ただし手数料の支払により、薬剤開発会社によって実施されることもできる。
【0150】
本発明は、上記方法および検定に基づき識別された薬剤および当該薬剤を含む治療に使用される医薬品に関する。
【0151】
本発明にかかる薬剤は、適正な希釈剤あるいはキャリア、好ましくは薬学上許容可能なものと組み合わせることができる。上記キャリア、希釈剤および方法の設定は、RemingtonのPharmaceutical Sciencesに記載されている。効果的な管理に適し、薬学上許容可能とするため、そのような組成には、効果的な量のモジュレータを含める。キャリアあるいは希釈剤は、通常無菌かつ非毒性で、動物あるいはヒトに投与される薬剤組成の設定に通常使用される媒体と定義されている。希釈剤は、組み合わせの生物活動に影響を与えないように選択されている。上記希釈剤の例としては、蒸留水、生理食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液およびハンク溶液などが挙げられる。さらに、薬剤組成や設定には、例えばアジュバントや非毒性、非治療性、非免疫原性安定剤などのその他のキャリアが含まれる。治療上有効な投与量とは、標的細胞の分化に所望の影響を及ぼすのに十分なモジュレータ量を意味する。
適正な薬剤キャリアの例としては、当業者にとって周知であり、リン酸緩衝生理食塩水、オイル/水エマルジョンなどのエマルジョン、様々な種類の湿潤剤、無菌溶液などが含まれる。上記キャリアを含む組成は、周知である従来の方法で設定される。従って、本発明によれば、細胞分化の調節に使用され、適正な希釈剤あるいはキャリアにより本発明の方法に基づき識別された細胞分化のモジュレータの混合が含まれる。
【0152】
上記の内容が本発明に記載されている。後述する例を参照することで、本発明はより明確に理解されるが、この例は、説明を目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0153】
上記実施形態は、本発明の記載および例によって開示され、これらに含まれる。本発明に基づき使用される材料、方法、用途および化合物のうちの任意のひとつに関連する文献は、公立図書館や、例えば電子機器などのデータベースでサーチできる。例えば、全米バイオテクノロジー情報センターおよび/または国立健康研究所の医学図書館が主催する公的データベース「Medline」を使用することができる。ヨーロッパ分子生物学研究所内の欧州バイオインフォマティクス研究所から得られるようなデータベースやウェブアドレスは、当業者にとっては周知であり、インターネットサーチエンジンで入手できる。バイオテクノロジーの特許情報や、遡及調査や最新の認識事項に有用な特許情報の関連ソースの調査などの概要は、Berks, TIBTECH 12(1994), 352−364に記載されている。
【0154】
上記内容が本発明に記載されている。後述する例を参照することで、本発明はより明確に理解されるが、この例は、説明を目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すべての引例(本出願に記載されている文献、特許、公報の内容および製造業者の仕様書、指示書など)の内容は、本明細書の内容に組み込まれている。ただし、引用されている任意の文書が本発明の先行技術であるか否かについての承認はなされていない。
【0155】
本発明の実施には、特に記載のない限り、従来技術である周知の細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、細菌学、組み換えDNAおよび免疫学などが使用される。幹細胞技術に関する一般技術の詳細について、実施者は以下に示す標準テキストや評価を参照できる(「奇形細胞癌と胚性幹細胞:実践アプローチ」(E.J. Robertson, ed., IRL Press Ltd. 1987); 「マウス成長技術ガイド」(P.M. Wasserman et al., eds., Academic Press 1993); 体外胚性幹細胞分化(Wiles, Meth. Enzymol. 225(1993),900);「胚性幹細胞のプロパティと用途:ヒト生物学と遺伝子治療への適用考察」(Rathjen et al., Reprod. Fertil. Dev. 10(1998),31))。胚性幹細胞は、Robertson, Meth. Cell Biol. 75(1997),173およびPedersen, Reprod. Fertil. Dev.10(1998),31で評価されている。上記幹細胞の供給源とは別に、さらに以下の文献を示す(Evans and Kaufman, Nature 292(1981), 154−156; Handyside et al., Roux’s Arch. Dev. Biol., 196(1987), 185−190; Flechon et al., J. Reprod. Fertil. Abstract Series 6(1990),25; Doetschman et al., Dev.Biol. 127(1988), 224−227; Evans et al., 動物繁殖学 33 (1990), 125−128; Notarianni et al., J. Reprod. Fertil. Suppl., 43(1991), 255−260; Giles et al., Biol. Reprod. 44 (Suppl. 1)(1991), 57; Strelchenko et al., 動物繁殖学 35(1991), 274; Sukoyan et al., Mol. Reprod. Dev. 93(1992), 418−431; Iannaccone et al., Dev. Biol. 163(1994), 288−292)。分子遺伝学および遺伝子工学の方法は、最新版「分子クローニング:実験室マニュアル」(Sambrook et al., (1989);「分子クローニング:実験室マニュアル」第二版(Cold Spring Harbor Laboratory Press); 「DNAクローニング」I, II巻(D.N. Glover ed., 1985); 「オリゴヌクレオチド合成」(M.J. Gait ed., 1984);「核酸ハイブリッド形成」(B.D.Hames & S.J. Higgins eds. 1984); 「転写および翻訳」(B.D. Hames & S.J. Higgins eds. 1984);「動物細胞の培養」(R.I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987);「哺乳類細胞の遺伝子転写ベクター」(Miller & Calos, eds.); 「分子生物学の最新プロトコルと分子生物学のショートプロトコル」第三版 (F.M. Ausubel et al., eds);および「組み換えDNA方法」(R. Wu ed., Academic Press)に記載されている。「哺乳類細胞の遺伝子転写ベクター」(J.H.Miller and M.P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); 「酵素学方法」154巻, 155巻(Wu et al. eds); 「固定化細胞および酵素」(IRL Press, 1986);「分子クローニングの実践ガイド」(B. Perbal, 1984);論文「酵素学方法」(Academic Press, Inc., N.Y.);「細胞および分子生物学における免疫化学方法」(Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987);「実験免疫学ハンドブック」I−IV巻(D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds., 1986)。本開示で参照される試薬、クローニングベクターおよび遺伝子操作キットは、BioRad、Stratagene、InvitrogenおよびClonTechなどのベンダーから入手できる。細胞培養および培地収集の一般技術は、以下の文献にその概要が記載されている(「ラージスケール哺乳類細胞培養(Hu et al., Curr. Opin. Biotechnol. 8(1997),148);「無血清媒体」(Kitano, Biotechnology 17(1991), 73);「ラージスケール哺乳類細胞培養」(Curr. Opin. Biotechnol. 2(1991),375)および「哺乳類細胞の懸濁培養」(Birch et al., Bioprocess Technol. 19(1990),251)」。培地および培地の培養環境への影響に関する他の観察は、Marshall McLuhanおよびFred Allenによってなされている。
【実施例】
【0156】
実施例1:心室心筋細胞の作製およびMEA記録に関するES細胞の分化プロトコル
ES細胞を心室心筋細胞へ分化させるため、細胞系R1のES細胞(Nagy et al, Proc. Natl. Acad. Sci. 90(1993),8424−8428を参照)が、支持細胞(マウスの胎仔線維芽細胞に照射)の層上に15%のウシ胎仔血清(FCS)と白血病抑制因子(LIF)が追加されたダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)において10cmのペトリ皿で培養された。細胞は、温度37℃、CO 7%、湿度95%で増殖された。
0日:細胞は単細胞懸濁へとトリプシン処理され、遠心分離で収集された。細胞は、15%の血清代替物(SR)が追加されたノックアウト(KO)培地において1mlあたり約2x10の密度まで再懸濁された。本懸濁液のペトリ皿6cmあたり4mlが、50rpmにて温度37℃、CO 5%および湿度 95%で揺動テーブル上で翌日から増殖される。
1日:15%のSRが追加されたKO培地においてES細胞集合体(胚葉体;EB)が2000 EB/20mlの密度となるまで希釈され、増殖される。
3日:15%のSRが追加されたKO培地により媒体が変更される(MW)。
4日:20%のFCSが追加されたイスコフ培地へと変更される。
5日:20%のFCSが追加されたイスコフ培地へと変更される。
6日:15%のSRが追加されたKO培地へと変更される。
7日:本発明のMEA検定でEBを使用するため、培養領域あたり1EBにより15%のFCSが追加された100μlのイスコフ培地にEBがプレーティングされ、ポリジメチルシラン(PDMS)により封止され、10日目からの検定で使用された。
【0157】
検定用に心臓細胞を準備するため、心臓特異的プロモータ(心房およびペースメーカー細胞あるいは心室細胞のRLC−2v)の制御下において、ピューロマイシン耐性遺伝子を発現する組み換え型ES細胞を9日目において2μgピューロマイシン/mlとし、さらに三日間増殖させた。12日目のコラゲナーゼによる細胞分離後、心筋細胞は1:1の比で胎児線維芽細胞と混合され、1cmあたり3x10の密度の細胞で複数電極上に播種される。三日後、心臓状組織が成長し、本発明の複数電極検定で分析される。例えば、心筋細胞およびEBからの自立的電気活動の長期記録について、基板に一体化された平面MEA(Multi Channel Systems, Reutlingen, German)を使用することができる(Egert et al., (1998)、 Banach et al., (2003)およびここで記載された文献を参照すること)。EBは、60個のチッ化チタンが被覆された金電極(径=30μm;電極間の間隔は正方格子で200μm)からなる無菌MEAの中間に配される。別個の無菌Ag/AgCl電極は、記録のために接地電極としての皿へと一時的に挿入される。MEAは、増幅器と、温度を37度に維持するための加熱装置が含まれているデータ収集システム(Multi Channel Systems, Reutlingen, Germany)に接続される。無菌状態において、60チャンネルまで(サンプリング周波数は40kHzまで)のデータを同時に記録できる。上記データは電場電位の検出のためMATLAB向けにプログラムされたカスタム化ツールボックスにより、オフラインで分析できる。
【0158】
実施例2: 精製心筋細胞の電場活動電位(FAP)の細胞外記録
国際出願WO02/051987およびWO099/01552が組み込まれたWO2004/113515およびWO2005/005621に記載された方法によれば、EGFP陽性心房およびペースメーカー状心臓細胞は、選択可能なプロモーターでピューロマイシン耐性遺伝子が担持された制御下において、組み換え型GFP遺伝子により遺伝子操作された幹細胞から得られる。(Kolossov et al., FASEB J. 19(2005),577−579を参照のこと)。例えば約4000 EB/20mlで12 x 12 cm の10個の培養皿から成り、2日あるいは3日おきに培地が交換される(IMDM + 20% FCS)と、国際出願WO2005/005621に記載されているように、大量培養後、ナイロン膜で仕切られた細胞および9から14日間のピューロマイシン選択の結果として得られたEBは、50mlのチューブへと移送され、PBSで二回洗浄される。1mlのピペットを二回使用してトリプシンで10分間処理を施した後、ほぼ完璧に分離され、1.5 x 10のグリーン細胞が得られる。分離された細胞は、フィブロネクチン上にプレーティングされ、翌日に培地が交換される。すなわち15日目に、培養後、細胞のデブリや死細胞の大半が除去される。
【0159】
MEA上にプレーティングするため、得られた心臓細胞は氷で冷やしたCa2+/Mg2+のPBSで二回洗浄される。その後、細胞は氷上で30分間増殖され、Ca2+/Mg2+w/oPBSで二回洗浄される。その後37度でトリプシン処理が5分間実施され、約8 x 10 EGFP陽性細胞が得られる。
【0160】
細胞は、フィブロネクチン被覆されたMEA(3.3 x 10 EGFP陽性心臓細胞)でプレーティングされる。このため、MEAはプラズマ洗浄され、ウシ胎盤フィブロネクチンで温度4℃で約4時間被覆される。残りのフィブロネクチンは吸引され、MEAはクリーンベンチ上で乾燥される。
【0161】
フィブロネクチンで被覆されたMEA上の選択、分離および再プレーティングされたペースメーカー細胞は、基板に一体化された微小電極からの記録により、個別あるいは全体的に急性ならびに長期分析で使用できる。
【0162】
他の実験において、心室心筋細胞は、マウスの胚性幹細胞系D3由来のEBから生成され(Doetschman et al., 1985, 1988ならびに上記文献も参照のこと)、親pIRES2−EGFPベクター(Clontech)に基づくマウスのMLC2vプロモータ(RPLC2v、遺伝子バンク登録番号AF302688)の制御下においてピューロマイシン耐性およびEGFP発現カセットを有する構造でトランスフェクトされた。
【0163】
大量培養を設定するため、遺伝子操作により調整されたES細胞はトリプシン処理され、KO−DMEM+15%SRにおいて、2 x 10細胞/mlで播種され、シェイカー上の懸濁液で培養される。4日目、得られたEBは、ゼラチン被覆された15cmの細胞培養皿あたり500から2000個のEBでプレーティングされる(20皿)。
11日目、0.4μl/mlのピューロマイシンが細胞培養皿に付加され、翌日には上記培地は交換され、さらに1μl/mlのピューロマイシンが付加される。14日目、細胞が組み合わされ、トリプシン処理される。これらの1.1 x 10 EGFP陽性細胞は、ピューロマイシン(0.4μl/ml)が付加されたフィブロネクチンの6cmの皿上でプレーティングされ、1個のEBにつき約27個の心室心筋細胞が得られる。17日目、心室細胞はトリプシン処理され、1個のEBにつき約15個の心室心筋細胞に対応し、6 x 10の精製細胞を生成するMEA上にプレーティングされる。
【0164】
MEA記録は、MEA上のプレーティング後、1、2、および7日目の精製心室心筋細胞の単層から実行される。本発明によれば、選択された電極からの記録は、心室心筋細胞について想定されているように、長い電場活動電位期間(fAPD)を反映していることが示されている。
【0165】
上記のように、精製されたES細胞で駆動される心筋細胞は、低密度(MEAあたり細胞が5 x 10)で播種され、単細胞分析は、例えば光透過、蛍光描画およびMEA電極の単細胞からの記録により自立的に拍動する細胞上で実行される。
【0166】
本発明によれば、微小電極アレイ技術と組み合わされたES細胞由来の体外分化組織および細胞は、定量的かつ定性的な毒性試験および薬剤評価で使用される。例で記載したように、試験されるパラメータに応じて、胚葉体が使用あるいは選択され、分離され、そこから得られる分化細胞にリプレーティングされる。従って、非侵襲的体外機能細胞および組織検定システムが提供される。
【0167】
本発明に記載された組成および手順は、本発明のクレームの範囲を逸脱することなく、当業者により効果的に調整されることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明の検定システムに使用されるチップを示す。本発明の検定システムに基づき使用されるチップは、後の記載および例で説明されるように、市販の微小電極アレイから得られる。チップの光学部は通常、写真チップを含み、写真チップ上には光導体や光ファイバーによって培養領域が構築され、コンピュータに格納され、分析されうる動画列の記録に役立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象化合物を取得および/またはプロファイリングするための機能細胞および組織の検定システムにおいて:
(a) 細胞、細胞集合体、組織あるいは幹細胞、好ましくは胚性幹(ES)細胞から得られた器官を含む生物由来物質を電極アレイ上で培養し;
(b) 前記生物由来物質を検体とし;
(c) 前記電極アレイにより前記生物由来物質の電気的活動を測定し、任意にパラメータを分析する検定システム。
【請求項2】
前記幹細胞は、胚性幹(ES)細胞である、請求項1に記載の検定。
【請求項3】
前記生物由来物質は、ES細胞由来の第一細胞型の培養から得られる組織または組織状構造であり、あるいは上記組織または組織状構造より得られ、少なくとも1つの胚性第二細胞型の存在下であることが好ましい、請求項2に記載の検定。
【請求項4】
前記ES細胞由来の第一細胞型のES細胞は、第一細胞型に対して特異的な調節配列に作動的に結合された選択可能マーカーを含む、請求項3に記載の検定。
【請求項5】
前記選択可能マーカーは、ピューロマイシンに対する耐性を付与する、請求項4に記載の検定。
【請求項6】
前記ES細胞由来の第一細胞型のES細胞は、前記第一細胞型の細胞型特異的調節配列に作動的に結合されたレポーター遺伝子を含む、請求項3から5のいずれか一項に記載の検定。
【請求項7】
前記レポーター遺伝子の前記細胞型特異的調節配列は、前記マーカー遺伝子の前記第一細胞型特異的調節配列と実質的に同じである、請求項6に記載の検定。
【請求項8】
前記生物由来物質は、心筋細胞である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞集合体は、胚葉体(EB)である、請求項1から8のいずれか一項に記載の検定。
【請求項10】
前記電極アレイは、多極あるいは微小電極アレイ(MEA)である、請求項1から9のいずれか一項に記載の検定。
【請求項11】
前記電極アレイは、フィブロネクチンで被覆されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の検定。
【請求項12】
以下のパラメータのいずれか1つあるいはすべてが分析される、請求項1から11のいずれか一項に記載の検定。
(i) Naチャンネル;
(ii) Ca2+/K チャンネル;
(iii) K チャンネル;
(iv) 振幅および/または電場電位期間(FDP);
(v) 心臓細胞のクロノトロフィまたは神経細胞の突発期間;
(vi) 不整脈、EAD状現象;
(vii) pH値;
(viii) 酸素分圧(pO2);
(ix) 拍動停止;および/または
(x) AV分離収縮性、NO効果および/または形態変化。
【請求項13】
拍動周波数、平均収縮性、最大収縮率(振幅)および収縮の平均面積を含むパラメータのうち少なくとも1つが分析される、請求項1から12のいずれか一項に記載の検定。
【請求項14】
前記生物由来物質は胚葉体(EB)を含み、前記EBは、ペースメーカー細胞と同様、自立的に拍動し、心房および/または心室心筋細胞の電気生理学的プロパティを網羅する機能心臓組織から成る、請求項1から13のいずれか一項に記載の検定。
【請求項15】
前記生物由来物質は、全体的あるいは部分的に、マウスのES細胞系に由来する、請求項1から14のいずれか一項に記載の検定。
【請求項16】
前記接触工程は、前記第一検体の存在下において、前記試験試料と少なくとも1つの第二検体との接触をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の検定。
【請求項17】
第一のスクリーニングにおいて、前記検体は、検体の集合体に含まれ、集合体として供される、請求項1から16のいずれか一項に記載の検定。
【請求項18】
前記検体の集合体は、約10から約10の多様性を有する請求項17に記載の検定。
【請求項19】
前記検体の集合体の多様性が継続的に縮小される、請求項18に記載の検定。
【請求項20】
前記パラメータは、分化過程の進行時における電気生理学的特性を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の検定。
【請求項21】
前記生物由来物質は、標的遺伝子を(過剰)発現又は発現阻害するよう遺伝子操作された1つ以上の細胞を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の検定。
【請求項22】
分化過程および/または組織構造形成を活性化あるいは阻害するものとして既知の化合物が、培養基に付加されている、請求項1から21のいずれか一項に記載の検定。
【請求項23】
前記アレイ内の任意に異なる位置で3回以上の測定を実行する工程を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の検定。
【請求項24】
あるいは請求項1から23のいずれか一項に記載の検定における工程を含む薬剤リード化合物の供給方法又は薬剤の製造方法。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか一項に記載の検定の工程を含む、創傷治癒および/または損傷組織の治癒を支援する薬剤の製造方法。
【請求項26】
毒性の原因と想定される部分を変性、除去および/または誘導体化するよう前記物質を調整し、生体利用効率、溶解性および/または半減期を向上させる工程をさらに含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
薬学上許容されるキャリアにより分離あるいは調整された物質を混合する工程をさらに含む、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ベクターあるいはベクター合成、複数あるいは多能性細胞、および任意に培養基、組み換え型核酸分子、アレイおよび/または標準成分を含む、請求項1から23のいずれか1つの検定あるいは請求項24から27のいずれか1つの方法を実行する際に使用されるキットあるいは構成。
【請求項29】
請求項1から23のいずれか1つに定められた電極領域を含むチップ。
【請求項30】
請求項1から23のいずれか1つに記載された検定あるいは請求項24から27のいずれか1つに記載された方法における電極の分析装置。
【請求項31】
請求項1から23のいずれか一項に記載の検定あるいは請求項24から27のいずれか一項に記載の方法における、幹細胞、細胞集合体、組織、ベクターあるいはベクター合成、アレイ、装置あるいはチップの使用。
【請求項32】
以下を含む薬剤発見業務の実施方法:
(a) 請求項1から23のいずれか一項に記載の検定あるいは請求項24から27のいずれか一項に記載の方法の1つ以上の検定システム、あるいはその構成要素および/または請求項29に記載のチップを提供し;および/または
(b) (a)の検定に基づく薬剤の有効性および毒性についての治療プロファイリングを代替的あるいは付加的に実施し;
(c) 許容可能な治療プロファイルを有する、工程(b)で定められた1つ以上の薬剤を含む医薬品を製剤する、方法。
【請求項33】
以下を含む薬剤および/または標的発見業務の実施方法:
(a) 請求項1から23のいずれか1つあるいは請求項24から27のいずれか一項に記載の1つ以上の検定システム、あるいはその構成要素および/または請求項29に記載のチップを提供し;および/または
(b) (a)の検定に基づく薬剤の有効性および毒性についての治療プロファイリングを代替的あるいは付加的に実施し;
(c) (a)または(b)の方法または検定システムで識別された薬剤あるいはプロファイル情報についてさらに薬剤開発および/または販売する権利を第三者に対してライセンス供与する、方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−532103(P2007−532103A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506726(P2007−506726)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003662
【国際公開番号】WO2005/098425
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(505460260)
【氏名又は名称原語表記】AXIOGENESIS AG
【住所又は居所原語表記】Nattermannallee 1,Gebaude S20,50829 Koln,Germany
【Fターム(参考)】