説明

非円形歯車対を用いたステアリング機構

【課題】 ステアリングホイールの操舵角に対する外輪の転舵角を大きく設定できる非円形歯車対を用いたステアリング機構を提供すること。
【解決手段】 旋回外輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転に対して、第2ギヤ61が一定の割合で回転するように車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。すなわち、第1ギヤ60と第2ギヤ61のギヤ比(dφ/dθ)は一定であり、ステアリングホイール1の操舵に対して操向車輪7は一定の割合で切れるように設定した。一方、旋回内輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転角が増加するほど、第2ギヤ61の回転が増加するように車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。すなわち、第1ギヤ60と第2ギヤ61のギヤ比(dφ/dθ)は、第1ギヤ60の回転の増加に伴って増加し、ステアリングホイール操舵角に対して操向車輪7の切れ角が大きくなるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操向車輪転舵時に、外輪と内輪の転舵角を異ならせるように非円形歯車対を用いたステアリング機構に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、非円形歯車対により入力操作(ステアリングホイールの操舵角等)を操舵車輪の転舵角に変換している。この非円形歯車対は、仮想二輪車を想定し、この仮想二輪車の後輪を原点(0,0)、後輪の車軸に沿った座標軸をξ軸、後輪の前進方向に沿った座標軸をη軸とする直交座標(ξ,η)を用いて仮想二輪車の操舵車輪Soの座標を(0,1)、実在する操舵車輪Sjの座標を(ξj,ηj)、仮想操舵車輪Soの操舵角をθo,実操舵車輪Sjの操舵角をθjで表すとき、contθo-ηj・contθj=ξjを満たし、かつ互いに噛合うように、各ピッチ曲線が定められている。これにより、車両の旋回中心を任意の点に設定できるので、小回り性が向上する。
【特許文献1】特許3237872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術においては、仮想二輪車の操舵車輪に基づいて非円形歯車対を設計しているため、非円形歯車は楕円形状となる。車両の左右の操舵車輪に設けられた非円形歯車対を同形状に設計されているとすると、旋回外輪側の非歯車対のギヤ比が小さくなり、旋回外輪側の車輪はステアリングホイールの操舵に対する切れ角が鈍くなるといった問題があった。
【0004】
本発明に上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、ステアリングホイールの操舵角に対する外輪の転舵角を大きく設定できる非円形歯車対を用いたステアリング機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、操向車輪に設けられ、ステアリングホイールの操舵角を操向車輪の転舵角に変換する非円形歯車対を用いたステアリング機構において、非円形歯車対は、前記ステアリングホイールに接続される第1ギヤと、操向車輪に接続される第2ギヤと、を有し、第1ギヤの回転角をθ、第2ギヤの回転角をφとし、dφ/dθをギヤ比と定義すると、旋回外輪側の非円形歯車対のギヤ比は1以上であって、旋回内輪側の非円形歯車対のギヤ比は、旋回外輪側の非円形歯車対のギヤ比以上となるようにした。
【発明の効果】
【0006】
よって、旋回外輪側の操向車輪の切れ角に対して旋回内側の操向車輪の切れ角を大きく設定するとともに、ステアリングホイールの操舵に対して旋回外側の操向車輪の十分な切れ角を成すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の非円形歯車対を用いたステアリング機構を実現する最良の形態を、実施例1および実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず構成を説明する。
【0009】
図1は、実施例1のステアリング装置の全体構成図である。
【0010】
実施例1のステアリング装置は、前輪転舵機構を備えている。この前輪転舵機構は、ステアリングホイール1と、ステアリングホイール1と接続するコラムシャフト2と、コラムシャフト2の回転を増速してステアリングシャフト4に伝達する第1交差歯車3と、ステアリングシャフト4の回転を車輪操向歯車6に伝達する第2交差歯車5とから構成される。
【0011】
コラムシャフト2には操舵力アシストモータ20が設けられ、運転者の操舵力負担を軽減することができる。
【0012】
車輪操向歯車6は、非円形の第1ギヤ60と第2ギヤ61とから構成される非円形歯車対である。第1ギヤ60は第2交差歯車と接続され、ステアリングシャフト4の車幅方向を軸とした回転を、上下方向を軸とした回転に変換されて伝達される。第2ギヤ61の回転軸は、操向車輪7のナックル回転軸と一致して設けられ、操向車輪7と一体に回転する。
【0013】
左右の操向車輪7は、共通の一点を中心に旋回するように設定されており、その中心が後輪の延長線と一致するとき、以下のアッカーマン・ジャントの式に一致する。
W/L=cotβ-cotα
ここで、内輪の切れ角をα、外輪の切れ角をβ、前後輪の車軸間距離をL、左右キングピン間距離をWとする。
【0014】
図2は、左の操向車輪7に設けた車輪操向歯車6のピッチ曲線の形状を示した図である。車輪操向歯車6の第1ギヤ60および第2ギヤ61はピッチ曲線が非円形状に形成されたギヤである。第1ギヤ60と第2ギヤ61の回転軸間距離はaに設定されている。
【0015】
ステアリングホイール1を右に操舵すると操向車輪7は右に転舵し、この操向車輪7と一体に回転する第2ギヤ61も右に回転する(図中のR方向)。一方、第2ギヤ61と噛合う第1ギヤ60は左に回転する(図中のR方向)。このとき左の操向車輪7は旋回外輪側となる。左の操向車輪7が旋回外輪側となるとき、第1ギヤ60は中立位置から角度θ1の範囲(第1外側噛合い部60a)で、第2ギヤ61の中立位置から角度φ1の範囲(第2外側噛合い部61a)と噛合う。
【0016】
逆にステアリングホイール1を左に操舵すると操向車輪7は左に転舵し、この操向車輪7と一体に回転する第2ギヤ61も左に回転する(図中のL方向)。一方、第2ギヤ61と噛合う第1ギヤ60は右に回転する(図中のL方向)。このとき左の操向車輪7は旋回内輪側となる。左の操向車輪7が旋回内輪側となるとき、第1ギヤ60は中立位置から角度θ2の範囲(第1内側噛合い部60b)で、第2ギヤ61の中立位置から角度φ2の範囲(第2内側噛合い部61b)と噛合う。
【0017】
図3は、図2に示した車輪操向歯車6の第1ギヤ60と第2ギヤ61の回転角の関係を示したものである。横軸は第1ギヤ60の回転角(操向車輪7中立位置のときを基準とした回転変位)θを示し、縦軸は第2ギヤ61の回転角(操向車輪7中立位置のときを基準とした回転変位)φを示す。
【0018】
図3に示すように、旋回外輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転に対して、第2ギヤ61が一定の割合で回転するようにピッチ曲線が形成される。一方、旋回内輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転角が増加するほど、第2ギヤ61の回転が増加するようにピッチ曲線が形成される。
【0019】
また、第1ギヤ60の回転角がθa以下の場合には、旋回外輪側と旋回内輪側の第1ギヤ60と第2ギヤ61の回転角の関係は一致するように形成される。この第1ギヤ60の回転角θaは、高速走行時に通常使用する操向車輪7の転舵範囲(転舵角γ)に対応する角度に設定する。
【0020】
また、第2ギヤ60のピッチ曲線の回転軸からの距離をrφ、第1ギヤ60の回転角をθ、第2ギヤ61の回転角をφ、第1ギヤ60と第2ギヤ61の回転軸間の距離をaとし、車輪操向歯車6のピッチ曲線およびピッチ曲線の導関数を極座標表示すると、以下の式で表される。

すなわち、第1ギヤ60と第2ギヤ61とはdθ/dφおよびd2θ/dφ2が、第1ギヤ60と第2ギヤ61の噛合い範囲内で連続であればよい。
【0021】
また、車輪操向歯車6はピッチ曲線が滑らかに連結するように、第1ギヤ60の第1外輪側噛合い部60aと第1内輪側噛合い部60bとは、その接続部において接線方向が一致するように形成される。同じく、第2ギヤ61の第2外輪側噛合い部61aと第2内輪側噛合い部61bとは、その接続部において接線方向が一致するように形成される。
【0022】
次に作用について説明する。
【0023】
従来の非円形歯車対を用いたステアリング機構においては、非円形歯車として楕円形の歯車が用いられていた。図4は従来の左の操向車輪7に設けた車輪操向歯車6のピッチ曲線の形状を示した図である。車輪操向歯車6の第1ギヤ62および第2ギヤ63はピッチ曲線が楕円形状に形成されたギヤである。第1ギヤ62と第2ギヤ63の回転軸間距離はaに設定されている。
【0024】
ステアリングホイール1を右に操舵すると操向車輪7は右に転舵し、この操向車輪7と一体に回転する第2ギヤ63も右に回転する(図中のR方向)。一方、第2ギヤ63と噛合う第1ギヤ62は左に回転する(図中のR方向)。このとき左の操向車輪7は旋回外輪側となる。左の操向車輪7が旋回外輪側となるとき、第1ギヤ62は中立位置から角度θ3の範囲で、第2ギヤ63の中立位置から角度φ3の範囲と噛合う。
【0025】
逆にステアリングホイール1を左に操舵すると操向車輪7は左に転舵し、この操向車輪7と一体に回転する第2ギヤ61も左に回転する(図中のL方向)。一方、第2ギヤ61と噛合う第1ギヤ60は右に回転する(図中のL方向)。このとき左の操向車輪7は旋回内輪側となる。左の操向車輪7が旋回内輪側となるとき、第1ギヤ60は中立位置から角度θ4の範囲で、第2ギヤ61の中立位置から角度φ4の範囲と噛合う。
【0026】
図5は、車輪操向歯車6のピッチ曲線を楕円形状に形成した非歯車対を用いたときの第1ギヤ62と第2ギヤ63との回転変位の関係を示すグラフである。横軸は第1ギヤ62の回転角(操向車輪7中立位置のときを基準として回転変位)θを示し、縦軸は第2ギヤ63の回転角(操向車輪7中立位置のときを基準として回転変位)φを示す。図5中の点線は第1ギヤ62の回転に対して、第2ギヤ63が一定の割合で回転する場合を示している。つまり、第1ギヤ62と第2ギヤ63のギヤ比(dφ/dθ)は一定であり、ステアリングホイール1の操舵に対して操向車輪7は一定の割合で切れる場合を示す。
【0027】
図5に示すように、旋回内輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ62の回転角が増加するほど、第2ギヤ63の回転が増加する。すなわち、第1ギヤ62と第2ギヤ63のギヤ比(dφ/dθ)は、第1ギヤ62の回転の増加に伴って増加し、ステアリングホイール1の操舵角に対して操向車輪7の切れ角が大きくなる。一方、旋回外輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ62の回転角が増加するほど、第2ギヤ63の回転が減少する。すなわち、第1ギヤ62と第2ギヤ63のギヤ比(dφ/dθ)は、第1ギヤ62の回転の増加に伴って減少し、ステアリングホイール操舵角に対して操向車輪7の切れ角が小さくなる。
【0028】
これは、車輪操向歯車6にピッチ曲線を楕円形状に形成した非円形歯車対を用いたため、次のように設定する必要があるからである。
【0029】
車輪操向歯車6のピッチ曲線を楕円形状に形成した場合、第1ギヤ62および第2ギヤ63の回転によって、ピッチ曲線と回転軸との距離は絶えず変化する。すなわち、第1ギヤ62と第2ギヤ63とのギヤ比(dφ/dθ)は回転に伴い増減する。車両の旋回半径を小さくするためには、操向車輪7の旋回外輪側の転舵角βに対して、旋回内輪側の転舵角αを大きくすることが望ましい。
【0030】
そのため、車輪操向歯車6のピッチ曲線を楕円形状に形成した場合、ステアリングホイール1の転舵によって、車輪操向歯車6の第1ギヤ62と第2ギヤ63とのギヤ比(dφ/dθ)が小さくなる範囲を旋回外輪側で用い、第1ギヤ62と第2ギヤ63とのギヤ比(dφ/dθ)が大きくなる範囲を旋回内輪側で用いる。
【0031】
そこで実施例1では、旋回外輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転に対して、第2ギヤ61が一定の割合で回転するように車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。すなわち、第1ギヤ60と第2ギヤ61のギヤ比(dφ/dθ)は一定であり、ステアリングホイール1の操舵に対して操向車輪7は一定の割合で切れるように設定した。一方、旋回内輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転角が増加するほど、第2ギヤ61の回転が増加するように車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。すなわち、第1ギヤ60と第2ギヤ61のギヤ比(dφ/dθ)は、第1ギヤ60の回転の増加に伴って増加し、ステアリングホイール操舵角に対して操向車輪7の切れ角が大きくなるように設定した。
【0032】
そのため、旋回外輪側の操向車輪7の切れ角に対して旋回内側の操向車輪7の切れ角を大きく設定するとともに、ステアリングホイール1の操舵に対して旋回外側の操向車輪7の十分な切れ角を成すことができる。
【0033】
また、実施例1では第1ギヤ60の第1外輪側噛合い部60aと第1内輪側噛合い部60bの接続部において接線方向が一致するように形成した。同じく第2ギヤ61の第2外輪側噛合い部61aと第2内輪側噛合い部61bの接続部において接線方向が一致するように形成した。そのため、操向車輪7が中立位置付近における第1ギヤ60と第2ギヤ61との回転力伝達を滑らかに行うことができる。
【0034】
また、実施例1では、第1ギヤ60と第2ギヤ61とはdθ/dφおよびd2θ/dφ2が、第1ギヤ60と第2ギヤ61の噛合い範囲内で連続であるように形成した。そのため、第1ギヤ60と第2ギヤ61との回転力伝達を滑らかに行うことができる。
【0035】
また、実施例1では、第1ギヤ60の回転角がθa以下の場合には、旋回外輪側と旋回内輪側の第1ギヤ60と第2ギヤ61の回転角の関係は一致するように形成した。すなわち、ステアリングホイール1の左右の操舵角が設定値以下の範囲(高速走行時に通常使用する操向車輪7の転舵範囲に対応)においては、旋回外輪側の車輪操向歯車6のギヤ比と旋回内輪側の車輪操向歯車6のギヤ比が等しくなるように、車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。
【0036】
図6は、操向車輪7の転舵角に対するギヤ比の関係を示す図である。図6に示すように、高速走行時に通常使用する操向車輪7の転舵範囲(転舵角γ)においては、旋回外輪側も旋回内輪側もギヤ比は等しくなる。そのため、操向車輪7の旋回外輪側も旋回内輪側も同一方向に転舵されるため、高速走行時の操舵の安定性を向上させることができる。
【0037】
また実施例1では、旋回内輪側の車輪操向歯車6を、第1ギヤ60の回転角が増加するほど、第2ギヤ61の回転が増加するように形成した。すなわち、第1ギヤ60と第2ギヤ61のギヤ比(dφ/dθ)は、操向車輪7の中立位置において最も小さく、転舵角が大きくなるほど大きくなる。そのため、中立位置付近では、ステアリングホイール1の操作に対して操向車輪7の転舵が鈍くなるため車両の直進安定性が向上する。
【0038】
(1)旋回外輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転に対して、第2ギヤ61が一定の割合で回転するように車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。すなわち、第1ギヤ60と第2ギヤ61のギヤ比(dφ/dθ)は一定であり、ステアリングホイール1の操舵に対して操向車輪7は一定の割合で切れるように設定した。一方、旋回内輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転角が増加するほど、第2ギヤ61の回転が増加するように車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。すなわち、第1ギヤ60と第2ギヤ61のギヤ比(dφ/dθ)は、第1ギヤ60の回転の増加に伴って増加し、ステアリングホイール操舵角に対して操向車輪7の切れ角が大きくなるように設定した。
【0039】
そのため、旋回外輪側の操向車輪7の切れ角に対して旋回内側の操向車輪7の切れ角を大きく設定するとともに、ステアリングホイール1の操舵に対して旋回外側の操向車輪7の十分な切れ角を成すことができる。
【0040】
(2)第1ギヤ60の第1外輪側噛合い部60aと第1内輪側噛合い部60bの接続部において接線方向が一致するように形成した。同じく第2ギヤ61の第2外輪側噛合い部61aと第2内輪側噛合い部61bの接続部において接線方向が一致するように、車輪操向歯車6を形成した。
【0041】
そのため、操向車輪7が中立位置付近における第1ギヤ60と第2ギヤ61との回転力伝達を滑らかに行うことができる。
【0042】
(3)第1ギヤ60と第2ギヤ61とはdθ/dφおよびd2θ/dφ2が、第1ギヤ60と第2ギヤ61の噛合い範囲内で連続であるように、車輪操向歯車6を形成した。
【0043】
そのため、第1ギヤ60と第2ギヤ61との回転力伝達を滑らかに行うことができる。
【0044】
(4)車輪操向歯車6は、第1ギヤ60の回転角がθa以下の場合には、旋回外輪側と旋回内輪側の第1ギヤ60と第2ギヤ61の回転角の関係は一致するように形成した。すなわち、ステアリングホイール1の左右の操舵角が設定値以下の範囲(高速走行時に通常使用する操向車輪7の転舵範囲に対応)においては、旋回外輪側の車輪操向歯車6のギヤ比と旋回内輪側の車輪操向歯車6のギヤ比が等しくなるように、車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。
【0045】
よって、高速走行時に通常使用する操向車輪7の転舵範囲においては、旋回外輪側も旋回内輪側もギヤ比は等しくなる。そのため、操向車輪7の旋回外輪側も旋回内輪側も同一方向に転舵されるため、高速走行時の操舵の安定性を向上させることができる。
【0046】
(5)旋回内輪側の車輪操向歯車6を、第1ギヤ60の回転角が増加するほど、第2ギヤ61の回転が増加するように形成した。
【0047】
よって、第1ギヤ60と第2ギヤ61のギヤ比(dφ/dθ)は、操向車輪7の中立位置において最も小さく、転舵角が大きくなるほど大きくなる。そのため、中立位置付近では、ステアリングホイール1の操作に対して操向車輪7の転舵が鈍くなるため車両の直進安定性が向上する。そのため、中立位置付近では、ステアリングホイール1の操作に対して操向車輪7の転舵が鈍くなるため車両の直進安定性が向上する。
【実施例2】
【0048】
実施例1では、操向車輪7の旋回外輪側は、ステアリングホイール1の操舵に対して一定の割合で切れるように設定していた。一方、実施例2では、操向車輪7の旋回外輪側もステアリングホイール1を大きく操舵するほど、大きな割合で切れるように設定した点において、実施例1と異なる。
【0049】
まず、構成について説明する。実施例1と同様の構成については同一の符号を付して、説明を省略する。
【0050】
図7は、左の操向車輪7に設けた車輪操向歯車6のピッチ曲線の形状を示した図である。車輪操向歯車6の第1ギヤ64および第2ギヤ65はピッチ曲線が非円形状に形成されたギヤである。第1ギヤ64と第2ギヤ65の回転軸間距離はaに設定されている。
【0051】
ステアリングホイール1を右に操舵すると操向車輪7は右に転舵し、この操向車輪7と一体に回転する第2ギヤ65も右に回転する(図中のR方向)。一方、第2ギヤ65と噛合う第1ギヤ64は左に回転する(図中のR方向)。このとき左の操向車輪7は旋回外輪側となる。左の操向車輪7が旋回外輪側となるとき、第1ギヤ64は中立位置から角度θ5の範囲(第1外側噛合い部64a)で、第2ギヤ65の中立位置から角度φ5の範囲(第2外側噛合い部65a)と噛合う。
【0052】
逆にステアリングホイール1を左に操舵すると操向車輪7は左に転舵し、この操向車輪7と一体に回転する第2ギヤ65も左に回転する(図中のL方向)。一方、第2ギヤ65と噛合う第1ギヤ64は右に回転する(図中のL方向)。このとき左の操向車輪7は旋回内輪側となる。左の操向車輪7が旋回内輪側となるとき、第1ギヤ64は中立位置から角度θ6の範囲(第1内側噛合い部64b)で、第2ギヤ65の中立位置から角度φ6の範囲(第2内側噛合い部65b)と噛合う。
【0053】
図8は、図7に示した車輪操向歯車6の第1ギヤ64と第2ギヤ65の回転角の関係を示したものである。横軸は第1ギヤ64の回転角(操向車輪7中立位置のときを基準として回転変位)θを示し、縦軸は第2ギヤ65の回転角(操向車輪7中立位置のときを基準として回転変位)φを示す。
【0054】
図8に示すように、旋回外輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ64の回転に対して、第2ギヤ65が一定の割合で回転するようにピッチ曲線が形成される。一方、旋回内輪側の車輪操向歯車6は、第1ギヤ64の回転角が増加するほど、第2ギヤ65の回転が増加するようにピッチ曲線が形成される。
【0055】
また、第1ギヤ64の回転角がθb以下の場合には、旋回外輪側と旋回内輪側の第1ギヤ64と第2ギヤ65の回転角の関係は一致するように形成される。この第1ギヤ64の回転角θaは、高速走行時に通常使用する操向車輪7の転舵範囲(転舵角γ)に対応する角度に設定する。
【0056】
また、第2ギヤ64のピッチ曲線の回転軸からの距離をrφ、第1ギヤ64の回転角をθ、第2ギヤ65の回転角をφ、第1ギヤ64と第2ギヤ65の回転軸間の距離をaとし、車輪操向歯車6のピッチ曲線およびピッチ曲線の導関数を極座標表示すると、以下の式で表される。

すなわち、第1ギヤ64と第2ギヤ65とはdθ/dφおよびd2θ/dφ2が、第1ギヤ64と第2ギヤ65の噛合い範囲内で連続であればよい。
【0057】
また、車輪操向歯車6はピッチ曲線が滑らかに連結するように、第1ギヤ64の第1外輪側噛合い部64aと第1内輪側噛合い部64bとは、その接続部において接線方向が一致するように形成される。同じく、第2ギヤ65の第2外輪側噛合い部65aと第2内輪側噛合い部65bとは、その接続部において接線方向が一致するように形成される。
【0058】
次に効果について述べる。
【0059】
(6)旋回外輪側の車輪操向歯車6も、第1ギヤ64の回転角が増加するほど、第2ギヤ65の回転が増加するように車輪操向歯車6のピッチ曲線を形成した。すなわち、第1ギヤ64と第2ギヤ65のギヤ比(dφ/dθ)は、第1ギヤ64の回転の増加に伴って増加し、ステアリングホイール操舵角に対して操向車輪7の切れ角が大きくなるように設定した。
【0060】
そのため、旋回内側の操向車輪7の切れ角に対して旋回内側の操向車輪7の切れ角を大きく設定するとともに、ステアリングホイール1の操舵に対して旋回外側の操向車輪7の切れ角を大きくすることができる。
【0061】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1および実施例2に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例および実施例2に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0062】
たとえば、実施例1ではステアリングホイールから操向車輪まで機械的に接続されていたが、ステアリングホイールと操向車輪との間で電気的信号によって制御するバイワイヤなどでおこなってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1のステアリング装置の全体構成図である。
【図2】実施例1の左の操向車輪に設けた車輪操向歯車のピッチ曲線の形状を示した図である。
【図3】実施例1の車輪操向歯車の第1ギヤと第2ギヤの回転角の関係を示したものである。
【図4】従来の左の操向車輪に設けた車輪操向歯車のピッチ曲線の形状を示した図である。
【図5】従来の車輪操向歯車の第1ギヤと第2ギヤの回転角の関係を示したものである。
【図6】実施例1の操向車輪の転舵角に対するギヤ比の関係を示す図である。
【図7】実施例2の左の操向車輪に設けた車輪操向歯車のピッチ曲線の形状を示した図である。
【図8】実施例1の車輪操向歯車の第1ギヤと第2ギヤの回転角の関係を示したものである。
【符号の説明】
【0064】
1 ステアリングホイール
4 ステアリングシャフト
6 車輪操向歯車
7 操向車輪
20 操舵力アシストモータ
60,64 第1ギヤ
60a,64a 第1外輪側噛合い部
60b,64b 第1内輪側噛合い部
61,65 第2ギヤ
61a,65a 第2外輪側噛合い部
61b,65b 第2内輪側噛合い部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操向車輪に設けられ、ステアリングホイールの操舵角を操向車輪の転舵角に変換する非円形歯車対を用いたステアリング機構において、
前記非円形歯車対は、前記ステアリングホイールに接続される第1ギヤと、前記操向車輪に接続される第2ギヤと、を有し、
前記第1ギヤの回転角をθ、前記第2ギヤの回転角をφとし、dφ/dθをギヤ比と定義すると、
前記ステアリングホイールの操舵に対する旋回外輪側の前記非円形歯車対のギヤ比の変化率(d2φ/dθ2)が0(ゼロ)以上であって、旋回内輪側の前記非円形歯車対のギヤ比の変化率(d2φ/dθ2)は、旋回外輪側の前記非円形歯車対のギヤ比の変化率(d2φ/dθ2)以上となることを特徴とする非円形歯車対を用いたステアリング機構。
【請求項2】
請求項1に記載の非円形歯車対を用いたステアリング機構において、
旋回外輪側に設けられた前記第1ギヤが前記第2ギヤと噛合う第1外輪側噛合い部と、旋回内輪側に設けられた前記第1ギヤが前記第2ギヤと噛合う第1内輪側噛合い部の接線方向が、前記第1外輪側噛合い部と第1内輪側噛合い部との接続部において一致し、旋回外輪側に設けられた前記第2ギヤが前記第1ギヤと噛合う第2外輪側噛合い部と、旋回内輪側に設けられた前記第2ギヤが前記第1ギヤと噛合う第2内輪側噛合い部の接線方向が、前記第2外輪側噛合い部と第2内輪側噛合い部との接続部において一致することを特徴とする非円形歯車対を用いたステアリング機構。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非円形歯車対を用いたステアリング機構において、
前記操向車輪の転舵範囲において、dφ/dθおよびd2φ/dθが連続となるように前記非円形歯車対のピッチ曲線を設定したことを特徴とする非円形歯車対を用いたステアリング機構。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の非円形歯車対を用いたステアリング機構において、
前記ステアリングホイールの左右の操舵角が設定値以下のときには、外輪側の非円形歯車対のギヤ比と、内輪側の非円形歯車対のギヤ比とが等しくなるようにピッチ曲線を設定することを特徴とする非円形歯車対を用いたステアリング機構。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の非円形歯車対を用いたステアリング機構において、
前記非円形歯車対は、前記ステアリングホイールの中立位置において前記ギヤ比が最も小さくなるようにピッチ曲線を設定したことを特徴とする非円形歯車対を用いたステアリング機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−331625(P2007−331625A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166851(P2006−166851)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】