説明

非動物由来安定剤およびその製造方法

本発明の実施形態は、全般的には、動物由来の賦形剤/成分を含有しない、生物学的製品用の安定剤を含み、そのような安定剤は凍結乾燥処置において良好に機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の種々の実施形態は、全般的には、生物学的物質の安定性を増強するための組成物および方法を含む。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは、しばしば、生物学的製剤または生物学的製品(生物学的産物)と呼ばれる。これは、動物由来の生きた組織細胞を基質として使用して、生きた微生物の培養により、ワクチンが製造されうるからである。さらに、微生物の満足しうる成長を達成するために、しばしば、動物由来の特定の物質、特に血清で培地を補足する。また、安定剤の場合のように、製造方法そのものにおいて動物由来の物質を使用することが多い。その結果、ワクチンが外因性「動物由来」因子で汚染されうるという潜在的リスクが存在する。
【0003】
易分解性成分の分解を防ぐために、あるいはワクチンの貯蔵寿命を延長させるために、あるいは凍結乾燥効率を改善するために、しばしば、ワクチンを安定剤と混合する。有用な安定剤としては、とりわけ、SPGA(Bovarnikら,1950,J.Bacteriology,vol.59,p.509)、脱脂乳、ゼラチン、ウシ血清アルブミン、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、デンプン、スクロース、デキストランまたはグルコースのような炭水化物、アルブミンもしくはカゼインまたはそれらの分解産物のようなタンパク質、およびリン酸アルカリ金属のようなバッファーが挙げられる。これらの安定剤は「動物由来」因子/成分源である。
【0004】
先行技術は、「動物由来」汚染のような汚染の無い生物学的物質の製造の必要性を認めている。生物学的物質は、しばしば、該物質が汚染を伴わないことを示すために多数の試験および/または評価に付される。したがって、動物由来成分を含有する安定剤を含有するワクチンまたは免疫原性組成物の製造そのものが汚染源となる。
【0005】
そのような動物由来成分は、しばしば、濾過滅菌のような更なる事前対策を要し、ワクチンのバッチ間のばらつきなどのような問題を伴う。実際、無血清培養内で培養されたワクチンは、しばしば、動物由来の安定剤と混合され、それにより、動物由来成分を含有しないとはもはや言えないワクチンになってしまう。
【0006】
したがって、当技術分野では、動物由来成分を含有しない安定剤が望まれている。動物由来成分非含有安定剤は高圧滅菌により滅菌されうるであろう。動物由来成分を含有しない安定剤(非動物由来(NAO)安定剤)は動物化合物のバッチ間のばらつきの複雑化を被らないであろう。一方、最も重要なことには、動物由来成分非含有安定剤は動物由来成分非含有ワクチンを可能にするであろう。なぜなら、現在までに、無血清培養は動物化合物における外因性因子のリスクを既に減少させているが、それらの製品は尚も、動物由来の化合物と共に凍結乾燥されており、汚染のリスクを再導入しているからである。
【0007】
本出願人の発明に先行する最新技術を示す先行技術文献の例には、WO 93/18790ならびに米国特許第5,948,411、第6,039,958および第6,258,362号が含まれる。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明の種々の実施形態は、一般には、生物学的物質の安定性を増強するための組成物および方法を含む。1つの実施形態においては、該生物学的物質は乾燥および/または凍結乾燥(例えば、限定的なものではないが凍結乾燥)中に安定化される。該乾燥組成物は、いわゆる「動物由来」成分からの賦形剤を使用することなく誘導される。1つの実施形態においては、本発明はアルコール、糖およびバッファーを含む。もう1つの実施形態においては、該糖は炭水化物である。
【0009】
これらの製剤の実施形態は、細胞系、ウイルス(生/弱毒化/ベクター化および/または組換え体)、細菌(生/弱毒化/ベクター化/ウイルスタンパク質および/または組換え体)、細菌またはウイルス成分(毒素、タンパク質)、真菌、プラスミド(全イソ型)、および細胞培養から得られるウイルス運搬ベクター、および/または他のタンパク質(限定的なものではないが組換えタンパク質を含む)の安定化において使用されうる。
【0010】
さらに、この製剤の種々の実施形態は、ヒト、ネコ、動物成分、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、水産養殖および/または任意の他の種のワクチン、および/またはそれらの安定化に適用されうる。
【0011】
本概要は、添付の特許請求の範囲の範囲を限定するものではない。本発明の更なる理解のためには、以下の詳細な説明、実施例および添付の特許請求の範囲に注目すべきである。
【0012】
発明の詳細な説明
本明細書中で用いる「凍結乾燥」なる語およびその活用語は、乾燥、凍結乾燥を意味し指している。本明細書中で用いる「動物由来」なる語は、動物に由来していることを意味し指している。同様に、「非動物由来」なる語は、直接的または間接的に動物に由来しないことを意味し指している。
【0013】
本明細書中で用いる「安定化」なる語およびその活用語は、安定で変動しない不動の状態にする又はそれを保つこと、ならびにほぼ与えられた又は実質的に不変動なレベル、ほぼ与えられた又は実質的に不変動な質およびほぼ与えられた又は実質的に不変動な量を維持することを意味し指している。しかし、安定化組成物のレベル、質および/または量におけるいくらかの変動が生じうると理解される。本発明の実施形態は、そのような変動を許容する安定剤を含むと意図される。また、安定剤は、しばしば、乾燥安定剤、バルク安定剤、凍結保護物質、熱安定剤、浸透圧保護物質、乾燥保護剤などと称され、またはそれらとして使用される。そのような用語は、特に、本発明の安定剤に含まれると意図される。
【0014】
本明細書中で用いる「タンパク質」なる語はアミノ酸の分子鎖を意味し指している。タンパク質は特定の長さのものではなく、必要に応じて、例えばグリコシル化、アミド化、カルボキシル化またはリン酸化により、インビボまたはインビトロで修飾されうる。とりわけ、ペプチド、オリゴペプチドおよびポリペプチドが該定義に含まれる。タンパク質またはペプチドは生物由来および/または合成由来でありうる。
【0015】
本明細書中で用いる「核酸」なる語はデスオキシ−またはリボ核酸の分子鎖を意味し指している。核酸は特定の長さのものではなく、したがって、ポリヌクレオチド、遺伝子、オープンリーディングフレーム(ORF)、プローブ、プライマー、リンカー、スペーサーおよびアダプターが該定義に含まれる。核酸は生物由来および/または合成由来でありうる。核酸は一本鎖または二本鎖形態でありうる。一本鎖はセンスまたはアンチセンス配向でありうる。修飾RNAまたはDNAも該定義に含まれる。核酸の塩基内に修飾が施されることが可能であり、例えばイノシンのような塩基が組込まれうる。他の修飾は例えばバックボーンの修飾を含みうる。
【0016】
本明細書中で用いる医薬上許容される担体は、ワクチン接種される動物または生物の健康に悪影響を及ぼさない化合物であり、少なくとも、該動物にワクチン接種しない場合に見られる影響より悪い程度の悪影響を及ぼさないと理解される。医薬上許容される担体、例えば無菌水または無菌生理的塩類溶液でありうる。より複雑な形態においては、該担体は例えばバッファーでありうる。
【0017】
本明細書中で用いる「炭水化物」なる語は、糖の4つの主要群、すなわち、単糖、二糖、オリゴ糖および多糖を意味し指している。
【0018】
本発明の種々の実施形態は、一般に、生物学的物質の安定性を増強するための組成物および方法を含む。1つの実施形態においては、該生物学的物質は乾燥および/または凍結乾燥(例えば、限定的なものではないが凍結乾燥)および後続の貯蔵中に安定化される。該乾燥組成物は、いわゆる「動物由来」成分からの賦形剤を使用することなく誘導される。1つの実施形態においては、本発明はアルコール、糖およびバッファーを含む。もう1つの実施形態においては、糖は炭水化物である。
【0019】
本発明の組成物は、タンパク質(安定化される生物学的物質の部分を構成する任意のタンパク質を除く)を含有しない具体例を含み、特に、ゼラチンもしくは他の動物タンパク質またはその加水分解産物、例えば限定的なものではないが酸加水分解産物もしくは酵素加水分解産物または他の動物由来物質を含有しない具体例を含む。
【0020】
これらの製剤の実施形態は、細胞系、ウイルス(生/弱毒化/ベクター化/ウイルスタンパク質および/または組換え体)、細菌(生/弱毒化/ベクター化および/または組換え体)、細菌成分(毒素、タンパク質)、真菌、プラスミド(全イソ型)、および細胞培養から得られるウイルス運搬ベクターなどの安定化において使用されうる。1つの実施形態においては、本発明は、一般には、ポリヒドロキシルアルコール(ポリアルジトール)、ダイズペプトンおよびデキストランと多糖および/または単糖およびバッファーとの組合せを含む。種々の他の実施形態においては、本発明は、ポリヒドロキシアルコール、ダイズペプトンおよびデキストランと多糖および/または単糖およびバッファーとの組合せより実質的になる。
【0021】
さらに、この製剤の種々の実施形態は、ヒト、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、水産養殖および/または任意の他の種のワクチン、および/またはそれらの安定化に適用されうる。
【0022】
本発明の1つの実施形態においては、非動物由来ペプトン、バッファーならびに糖および/またはポリアルジトールおよび/または他の単糖もしくはオリゴ糖またはそれらの誘導体を含む安定化組成物を提供する。該組成物はデキストランまたは他の多糖をも含みうる。所望により使用しうる更なる成分には、他のアミノ酸、例えば二酸アミノ酸、例えばL−グルタミン酸ナトリウムもしくはL−アスパラギン酸ナトリウムまたはアミノ酸の混合物が含まれうる。適当でありうる他の成分としては、前記の先行技術文献に記載されているもの、非常に好ましくは、植物、細菌および/または無機物由来のものが挙げられる。
【0023】
ある他の実施形態においては、該安定化組成物は、(i)約5000以上、好ましくは約100,000〜約180,000の分子量を有する多糖(もう1つの実施形態においては、該多糖は例えばデキストランのように約800,000未満の分子量を有する)、(ii)非動物由来、例えば植物または細菌由来の混合アミノ酸およびペプチドの源、例えば植物ペプトン、例えばダイズタンパク質の酵素加水分解または酸加水分解により製造されたペプトンなど、(iii)バッファー、例えばトリス−HCl、炭酸水素塩(ビカルボナート)、リン酸塩(ホスファート)、クエン酸塩(シトラート)など、ならびに(iv)糖または糖アルコール、例えばラクトース、スクロース、ソルビトールなどを含みうる。。また、本発明の組成物は更に、追加的な成分、例えば他のアミノ酸および/またはアミノ酸混合物を含みうる。
【0024】
本発明の実施形態は、貯蔵後の力価の良好な維持を示している。1つの実施形態においては、該安定化組成物は18ヶ月までの期間にわたって貯蔵されうる。もう1つの実施形態においては、該安定化組成物は36ヶ月までの期間にわたって貯蔵されうる。さらに、もう1つの実施形態においては、該安定化組成物は60ヶ月までの期間にわたって貯蔵されうる。本発明の種々の他の実施形態は、用途に応じた種々の貯蔵時間/期間のための安定化組成物の製剤化を含む。
【0025】
本発明のもう1つの態様は、ウイルスを安定化するための組成物における、ならびにワクチンおよび本明細書に記載の他の用途のための乾燥安定化ウイルス組成物の製造における、動物タンパク質もしくは動物タンパク質加水分解産物、または動物由来の他の物質を含有しない植物ペプトン、または植物もしくは細菌由来の他の混合アミノ酸の使用に関する。
【0026】
適当な植物ペプトンは、約300〜400の範囲の平均分子量を有し分子量約2000を超える高分子量構成成分を実質的に含有しない産物を与えるプロテアーゼでの加水分解消化による清潔な可食性溶媒抽出ダイズ粉からの調製物を含むが、これらに限定されるものではない。植物由来の可溶性炭水化物も、そのようなペプトン調製物中に存在しうる。あるいは、前記のとおりペプトンの代わりに植物または細菌由来の混合アミノ酸を使用することが可能である。
【0027】
種々の実施形態は、一般には、ワクチンウイルスを含む。本発明の安定化組成物は、凍結乾燥の途中および後ならびに後続の貯蔵中にワクチンウイルスまたは細菌を安定化するのに好適であることが判明している。凍結乾燥は、当技術分野で一般的な方法で行うことが可能である。限定的なものではないが特定の具体例においては、凍結乾燥の実施は約−50.0℃〜約40℃の温度範囲で約1〜約14日間にわたるものでありうる。1つの実施形態においては、凍結乾燥の期間は約31時間である。もう1つの実施形態においては、凍結乾燥の期間は約24時間〜約120時間である。もう1つの実施形態においては、凍結乾燥の期間は約20時間〜約240時間である。
【0028】
典型的な凍結乾燥は、安定剤を含む産物を含有するバイアルを、凍結乾燥装置(凍結乾燥器など)の棚上、10〜300ミクロン(約1.3〜40Pa)の真空状態で−20℃〜−60℃(またはより一層低い温度)で2〜24時間凍結乾燥する構成要素および工程を含みうる。凍結乾燥産物の最低温度は一般には約−10℃であり、一方、一次乾燥においては最も典型的には−25℃であるが−100℃より大きくはならない。一次乾燥のための時間は数分間〜数日間の範囲でありうる。
【0029】
常にというわけではないが典型的には、一次乾燥が完了した後、産物の温度を二次乾燥を通じて約76℃の最高温度まで、約96時間の最長時間、上昇させる(しかし、該時間および/または温度の数値は産物に応じて様々となりうる)。1つの実施形態においては、二次乾燥の完了後、産物を最終容器内で4℃に維持し、真空下で栓を配置する。しかし、当技術分野では一般的なとおり、最終温度は様々となりうる。
【0030】
典型的には、残留水分に関してバイアルを試験する。最適水分範囲は約1%〜約10%、最も好ましくは約3%である。凍結乾燥合計時間(凍結を含む)の範囲は、約1〜約80%の安定剤を含有する0.5mlの産物が充填された3mlバイアルの場合で1〜720時間である。
【0031】
また、本発明の実施形態は更に、ワクチンウイルス株を含有する安定化組成物の製造方法を含み、該製造方法は、(i)ワクチンウイルス株、(ii)アルコール、(iii)糖および(iv)バッファーを混合する工程を含み、ここで、該ワクチンは動物由来成分を含有しない。もう1つの実施形態においては、該組成物は更に、植物ペプトンを含む。該組成物は、所望により更に、(v)デキストランまたは他の多糖を含みうる。
【0032】
該産物の凍結乾燥は、通常の凍結乾燥の慣例に従い、例えば、凍結乾燥すべき凍結液のガラス転移温度未満の温度で、任意の適当な期間(時間)にわたって行うことが可能であり、産物は、ガラスバイアル中、好ましくは無菌条件下、固体乾燥ケークの形態でありうる。
【0033】
産物を、適宜、無菌水性液、例えば注射用水で再水和させることが可能である。
【0034】
本発明の実施形態に適したワクチンウイルスまたは細菌ウイルスの具体例は、任意のウイルスまたは細菌株を含む。
【0035】
該組成物は安定性において改良されているか又は少なくとも同等であり、非動物由来であるため該ワクチンの製造の規制の観点からもより効率的となり、低い反応性により潜在的に、より安全であることが判明している。これらの安定剤は、ポリヒドロキシアルコール、バッファー、単糖もしくは多糖、および/または植物由来ペプトン、例えばダイズペプトンおよびその等価体を含む。
【0036】
1つの実施形態においては、凍結乾燥からの力価の喪失は約0.4 log未満である。もう1つの実施形態においては、力価の喪失は約0.2 log未満である。もう1つの実施形態においては、凍結乾燥からの力価の喪失は約0.0 logである。しかし、力価の実際の喪失は抗原によって様々であるが、本発明の非動物由来安定剤は、あらゆるワクチン抗原で力価喪失を最小にする一般的適用可能性を示している。
【0037】
(実施例)
【実施例1】
【0038】
組換え大腸菌(E.coli)株の凍結乾燥のための本発明の1つの実施形態(以下、NAOと称する)の試験において、以下の結果を得た。
【0039】
【表1】

該NAO安定剤は高いcfu計数を与える。
【実施例2】
【0040】
Protex−Bb(ネコボルデテラ・ブロンキセプチカ(Feline Bordetella bronchiseptica))ワクチンにおける安定剤の最適化および動物由来成分の置換
2回の18ヶ月にわたる及び1回の加速安定性研究を、動物成分安定剤およびNAO安定剤と共に製剤化されたPROTEX−BB(Intervet Inc.から入手可能;以下、該ワクチンと称する)ワクチンに対して行った。集められたデータは、これらの研究においてNAO安定剤が動物成分安定剤と少なくとも同等に(さらに、いくつかの場合には、それより良好に)機能したことを示している。有効期限の推定は、NAOで安定化されたワクチンおよび動物成分で安定化されたワクチンの両方が、製造の少なくとも36ヶ月後に最小力価試験に合格すると妥当に予想されうることを示した。
【0041】
緒言
この報告は、NAO安定剤と共に製剤化されたワクチンの長期的および加速安定性試験に焦点が絞られている。
【0042】
材料および方法
Labconco凍結乾燥器
3mlバイアル
13mm 凍結(lyo)栓
候補安定剤のためのバルク成分
1N NaOH
1N HCl
pH計
オートクレーブ
攪拌器/ホットプレート
PPLO溶媒
遠心分離機
血液寒天プレート
マイクロタイターピペット
使い捨てプレートスプレッダー
スナップキャップチューブ
インキュベーター(湿気を伴って37℃)
0.85% NaCl溶液
無菌WFI
凍結乾燥(lyo)トレー
マトリックス(Matrix)自動ピペット
プレート回転台
X+2 Bb 042501種(seed)
TSB
【0043】
1.研究用種を250mlのTSBに0.1%で接種し、攪拌しながら37℃で一晩増殖させた。
2.Bb培養を3500rpmで35分間遠心し、6〜10倍濃縮物の生成を促す量のPPLOに懸濁させた。
3.安定剤を製造し、せいぜい80℃に加熱して溶解を促した。
4.pHを1N NaOHおよび/または1N HClで7.4に調節した。
5.安定剤候補を30分間高圧滅菌し、全量0.6mlの25%のBbバルク抗原で満たした。製剤をLabconco凍結乾燥器内で凍結乾燥した。サイクルについては以下の表を参照されたい。
6.凍結乾燥ケークを美的外観に関して観察した。
【0044】
【表2】

【0045】
考察
図1および2は、18ヶ月の経過にわたって力価測定された該ワクチンの2つの凍結乾燥研究からの結果を示している。NAOおよび動物成分安定剤を含有するワクチンを凍結乾燥し、4℃で維持し、3ヶ月間隔で力価測定を行った。どちらのグラフにおいても、NAO安定剤は、動物成分安定剤の場合と比較しうる力価低下を示している。該グラフのY軸上の目盛りが狭いことに留意すべきである。
【0046】
該ワクチンのための安定剤としてのNAOの有用性の更なる証拠は図3において認められうる。実験3で調製した物質に関して加速安定性を調べた。ワクチンの凍結乾燥バイアルを37℃で14日間貯蔵し、2〜3日ごとに力価測定を行った。NAO安定化ワクチンは貯蔵3年の時点における最小力価試験に合格すると予想される。
【0047】
動物成分安定剤はNAO安定剤で置換されることが可能であり、この変化は凍結乾燥喪失、安定性、商品価格または貯蔵寿命に悪影響を及ぼさないという見解を、本明細書に示すデータは支持している。
【実施例3】
【0048】
PROTEX BB(ネコボルデテラ・ブロンキセプチカ(Feline Bordetella bronchiseptica))ワクチンにおける安定剤製剤および動物由来成分の置換
本実施例の目的は、動物成分先行技術安定剤と共に製剤化された製品と等しい又はそれより大きな力価を凍結乾燥後にもたらす、ワクチン組成物中で使用する動物由来成分を含有しない安定剤製剤を設計することであった。もう1つの目的は、非経口使用ワクチンにおける部位反応を軽減するのに役立つ、タンパク質を含有しない安定剤製剤を得ることであった。
【0049】
実験計画
研究する候補安定剤のそれぞれを、意図される増量剤、凍結保護物質(lyoprotectant)(タンパク質および糖)およびバッファーの使用により製剤化した。可能な場合には、動物由来成分の置換を検討した。
【0050】
実験用PROTEX−BB(ネコボルデテラ・ブロンキセプチカ(Feline Bordetella bronchiseptica)ワクチン)ワクチン製剤を、動物成分安定剤を含有する実際のPROTEX−BB(ネコボルデテラ・ブロンキセプチカ(Feline Bordetella bronchiseptica)ワクチン)製剤と比較して、8通りの研究を行った(該ワクチンはIntervet Inc.から入手可能である)。安定剤を含有しないサンプルも加えた。候補群および対照群を製剤化し、凍結乾燥した。動物成分安定剤および陰性対照と比較した場合の候補安定剤の凍結保護活性を測定するために、凍結乾燥の前および後に力価測定を行った。
【0051】
材料および方法
凍結乾燥器
3mlバイアル
13mm 凍結(lyo)栓
候補安定剤のためのバルク成分
1N NaOH
1N HCl
pH計
オートクレーブ
攪拌器/ホットプレート
充填剤
遠心分離機
血液寒天プレート
マイクロタイタープレート
使い捨てプレートスプレッダー
スナップキャップチューブ
インキュベーター(湿気を伴って37℃)
0.85% NaCl溶液
無菌WFI
凍結乾燥(lyo)トレー
マトリックス(Matrix)マルチチャンネルピペット
TSB
プレート回転台
PROTEX−BB(ネコボルデテラ・ブロンキセプチカ(Feline Bordetella bronchiseptica)ワクチン)研究用種(seed)
【0052】
生産種を500mlのTSBに0.1%で接種し、攪拌しながら37℃で一晩増殖させた。ついで該研究用種を30% グリセロールと共に製剤化し、貯蔵のために−70℃で凍結した。
【0053】
1.Bb研究用種を500mlのTSBに0.1%で接種し、攪拌しながら37℃で一晩増殖させた。
2.PROTEX−BB(ネコボルデテラ・ブロンキセプチカ(Feline Bordetella bronchisepticaワクチン)培養を3000rpmで20分間遠心し、等容量の食塩水に再懸濁させた。この懸濁液を候補安定剤の最終製剤において使用した。
3.候補安定剤をR&Dにおいて製造し、せいぜい80℃に加熱して溶解を促した。
4.pHを1N NaOHおよび/または1N HClで7.4に調節した。
5.安定剤候補を30分間高圧滅菌し、Bb抗原と共に製剤化した。安定化抗原をUsifroid凍結乾燥器またはLabconco凍結乾燥器内で凍結乾燥した。
6.凍結乾燥ケークを美的外観に関して観察した。凍結乾燥の前および後に、力価測定を行った。
【0054】
プレートが読み取られうる希釈度を決定するために、サンプルの各群に関して試験的な力価測定を行った。
【0055】
結果および考察
【0056】
【表3】

【0057】
これらの群の3つすべては動物由来成分を含有しておらず、群AおよびCはタンパク質を全く含有していない。群Bはタンパク質を含有しているが、それはダイズ由来である。この研究は、NAO安定剤が、力価喪失率およびケークの魅力の両方において許容されうる凍結乾燥産物ケークを与えうることを示している。
【実施例4】
【0058】
ウエストナイルキメラウイルスの凍結乾燥を最適化するために、3つの実験を行った。これらの実験は安定剤の同定および適当な凍結乾燥サイクルの開発を含むものであった。
【0059】
NAO安定剤は、その他の安定剤より良好に又はそれらと同等に機能し、凍結乾燥の際の力価の喪失を実質的に示さないことが判明した。NAO安定剤の種々の実施形態を最終製剤容量の25%で、27時間の凍結乾燥サイクルで使用して、優れた視覚的魅力を有する淡桃色のケークを得た。
【0060】
さらに、もう1つの実施形態は、タンパク質を含有しないワクチン候補を含むものであった。
【0061】
材料および方法
凍結乾燥器
3mlバイアル
13mm 縦溝付き凍結(lyo)栓
候補安定剤のためのバルク成分(製剤の節)
1N NaOHまたは1N HCl
pH計
オートクレーブ

製剤容器
磁気攪拌棒
攪拌器/ホットプレート
凍結乾燥トレー
けん縮機
13mm キャップ
充填剤
キメラWNバルク抗原
【0062】
1.製剤シートに従い安定剤を製造する。製剤の節を参照されたい。必要に応じて、溶解を促すために加熱(せいぜい80℃まで)する。
2.pHを1N NaOHおよび/または1N HClで7.0に調節する。
3.安定剤を121℃で20分間高圧滅菌する。
4.当技術分野における常法に従い、各実験群を安定剤、WNキメラバルク抗原および充填剤と共に製剤化する。
5.バイアルに0.5mlの製剤を充填する。
6.凍結乾燥中に水蒸気が脱気しうるよう、バイアル内に栓を挿入する。凍結乾燥器内に入れ、当技術分野における常法に従いサイクルを開始させる。
7.サイクルの終了時に、バイアルに栓をし、バイアルを取り出す。バイアルにキャップをし、4℃で貯蔵する。
8.凍結乾燥ケークを美的外観に関して観察する。力価測定の前に1mlのWFIでケークを再水和させるべきである。
【0063】
製剤の節
【0064】
【表4】

【0065】
結果
【0066】
【表5】

【0067】
考察
表1は、実験1から記録されたデータを示す。14群が研究に加わり、それらのうちの半分は6.5 log10/用量で充填され(A〜E)、残りの半分は4.5 log10/用量で充填された(F〜J)。各半分は、それらの安定剤において、残り半分と同じであった。群AおよびFは25% NAO安定剤を含有していた、などである。群Bにおいて使用した安定剤は非タンパク質NAOであり、群Cは、2種ではなく3種の炭水化物を使用した別形態のNAOを含有していた。群Dは安定剤を含有せず、殺ウイルス活性の検出において有用であった。
【0068】
該実験においては31時間のサイクルで凍結乾燥を行い、これにより、25% 安定剤を含有するほとんどすべての群において、許容されうるケークが得られた。12.5% 安定剤を含有する群からのケークはそれほど魅力的なものではなく、全体的には、より高い力価喪失を示した。この情報に基づき、より高い安定剤レベルを使用した製剤についての研究を続行することに決めた。
【0069】
力価喪失に関しては、NAO安定剤は、6.5 log10/用量の充填力価で、他のすべての安定剤より良好に機能した。動物成分安定剤は、4.5 log10/用量で最も良く機能したが、動物成分安定剤含有群からの凍結乾燥前の結果を安定剤非含有群と比較した場合、明らかな殺ウイルス活性が認められうる。他のNAO安定剤も6.5で非常に良く機能した。6.5の充填力価での平均喪失(平均喪失0.6)は4.5における平均喪失(平均喪失1.5)より遥かに良好であった。
【0070】
表2および3は、凍結乾燥実験2および3から得られたデータを示す。充填力価4.5 log10/用量および12.5% 安定剤で製剤化した群を除外したため、各研究において試験した群は少なくなっている。
【0071】
実験2および3からの力価の結果は、NAO安定剤が他のすべての群より良好に機能し、力価を実質的に喪失しないという結論と一致した。
【0072】
表4は、3つすべての凍結乾燥実験に共通の群およびブランク(群A〜D)からの平均的な結果を示す。NAO安定剤は、WNキメラワクチンに適した選択肢であり、力価喪失の観点からは、先行技術の動物由来安定剤より優れていることを、この結果は示している。
【0073】
さらなる研究(結果は非表示)は、NAO安定剤が、ウマ、ネコおよびイヌ動物モデルにおいて他の安定剤と共に試験した場合に、部位または全身反応を引き起こさないことを示している。
【0074】
本発明はその特定の実施形態に関して説明されているが、さらなる修飾が施されうる理解され、本出願は、一般には本発明の原則に従う本発明の任意の変更、使用または応用を包含し、また、本発明に関連した技術分野における公知または通常の実施の範囲内に含まれる及び前記の本質的特徴に適用されうる及び添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれる本開示からの逸脱を含む本発明の任意の変更、用途または応用を包含すると意図される。酸および/または塩基の付加を該発酵に対して行いうる、そのような更なる及び他の実施形態が予想される。さらに、本明細書中に挙げてあるすべての特許を、参照により本明細書に組み入れることとする。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、18ヶ月の経過にわたって力価測定された、動物由来成分安定化ワクチンと比較した場合のNAO安定化ワクチンの凍結乾燥研究の例示である。
【図2】図2は、18ヶ月の経過にわたって力価測定された、動物由来成分安定化ワクチンと比較した場合のNAO安定化ワクチンのもう1つの凍結乾燥研究の例示である。
【図3】図3は、動物由来成分安定化ワクチンと比較した場合のNAO安定化ワクチンのもう1つの凍結乾燥研究の例示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール、糖およびバッファーを含んでなる、生物学的製品用の非動物由来安定剤。
【請求項2】
安定剤がタンパク質を含有しない、請求項1記載の安定剤。
【請求項3】
ウイルスまたは細菌と、医薬上許容される担体とを更に含む、請求項1記載の安定剤。
【請求項4】
安定剤が、細胞系、生細菌および弱毒化細菌、ベクター化細菌、組換え細菌、細菌成分、真菌、真核生物タンパク質、プラスミドならびにベクターウイルスよりなる群から選ばれる成分を含む医薬上許容される担体中にある、請求項1記載の安定剤。
【請求項5】
ウイルスが、生、生弱毒化、不活化、ベクター化および組換えウイルスから選ばれる、請求項3記載の安定剤。
【請求項6】
アルコールがポリヒドロキシアルコールである、請求項1記載の安定剤。
【請求項7】
糖が二糖または単糖である、請求項1記載の安定剤。
【請求項8】
ペプトンを更に含む、請求項1記載の安定剤。
【請求項9】
ペプトンがダイズペプトンである、請求項8記載の安定剤。
【請求項10】
ポリヒドロキシルアルコールがデキストランである、請求項6記載の安定剤。
【請求項11】
凍結乾燥からの力価の喪失が約0.4 log未満である、請求項1記載の安定剤。
【請求項12】
凍結乾燥の期間が約31時間である、請求項8記載の安定剤。
【請求項13】
糖が炭水化物である、請求項1記載の安定剤。
【請求項14】
非動物由来ペプトン、バッファー、ならびに糖および/またはポリヒドロキシルアルコール、および/または他の単糖もしくはオリゴ糖またはそれらの誘導体を含む非動物由来安定剤を含んでなる、生物への投与のためのワクチン。
【請求項15】
ワクチンが、ヒト、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジおよび/または水産養殖への投与のためのものである、請求項14記載のワクチン。
【請求項16】
ワクチンがタンパク質を含有しない、請求項14記載のワクチン。
【請求項17】
(i)ワクチンウイルス株、(ii)アルコール、(iii)糖および(iv)バッファーを混合する工程を含んでなり、該ワクチンが動物由来成分を含有しない、ワクチンウイルス株を含有する安定化組成物の製造方法。
【請求項18】
組成物が植物ペプトンを更に含む、請求項17記載の製造方法。
【請求項19】
組成物を凍結乾燥する工程を更に含む、請求項17記載の製造方法。
【請求項20】
組成物を凍結乾燥する工程を更に含む、請求項18記載の製造方法。
【請求項21】
組成物からタンパク質を除去する工程またはタンパク質を含有しない組成物を凍結乾燥する工程を更に含む、請求項20記載の製造方法。
【請求項22】
ワクチンウイルス株と共にデキストランまたは別の多糖を凍結乾燥する工程を更に含む、請求項20記載の製造方法。
【請求項23】
凍結乾燥からの力価の喪失が約0.4 log未満である、請求項20記載の製造方法。
【請求項24】
凍結乾燥の期間が約31時間である、請求項20記載の製造方法。
【請求項25】
安定剤を希釈する工程を更に含む、請求項18記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−517888(P2007−517888A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549394(P2006−549394)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/000359
【国際公開番号】WO2005/071067
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】