説明

非対称ゲル化剤

本発明は、新規の三置換環状ゲル化剤または増粘剤に関する。本発明は、前記ゲル化剤または増粘剤の使用を含む溶媒の増粘化またはゲル化方法にさらに関する。本発明に従うゲル化剤または増粘剤は、たとえば医薬または美容上の目的で使用されてもよい。さらに、クロマトグラフィ材料または触媒活性材料における支持材として使用されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、新規のゲル化剤/増粘剤類、前記物質を作成する方法、ゲル/粘性溶液を調製するためのゲル化剤/増粘剤の使用、およびその結果得られるゲル/粘性溶液に関する。
【0002】
低分子量の増粘剤またはゲル化剤による、有機溶媒もしくは水の熱可逆的なゲル化または増粘化は、流出油および食用油の硬化剤、塗料の増粘剤、化粧品の原料、ならびにその他の技術的な用途のために、特に関心がもたれている。これらのゲル化剤/増粘剤分子の自己集合は、疎水的相互作用、π−π相互作用、電子的相互作用、水素結合相互作用などの非共有結合相互作用、またはその組合わせによって生じる。いくつかのゲル化剤/増粘剤分子が過去10年間で特定されたが、安価で再生可能な資源から容易に合成可能でき、様々な溶媒をゲル化または増粘化できる安定したゲル化剤/増粘剤に依然として関心が寄せられている。
【0003】
WO03/084508は、ゲル化剤として作用し得る三置換シクロヘキサン化合物を記載している。ゲル化剤に適したこれらの化合物は、置換基(Xn−Amn−Yn)がそれぞれ、アミノ酸またはオリゴペプチド部分(Am)を含むという意味では、対称である。置換基は異なってもよいが、同一であることが好ましい。
WO03/084508は、プロドラッグとして以下のような化合物も記載している。
【0004】
【化2】

【0005】
ゲル化剤または増粘剤としてのこの化合物の使用は、示唆されていない。むしろ、安定なゲルを作るために、プロドラッグがゲル化剤と混合されている。
【0006】
本発明は、新規のゲル化剤および増粘剤類を提供することを目的としている。本発明の目的は、簡単に入手でき、経済的に魅力的な出発物質に基づくゲル化剤/増粘剤を提供することである。本発明のさらなる目的は、様々な溶媒をゲル化または増粘化可能であり、さまざまな用途に用いられるのに適した、ゲル化剤/増粘剤を提供することである。本発明のその他の目的は、以下に示す本発明の議論および多くの実施形態から明らかとなるであろう。
【0007】
上述の目的が、アミノ酸、オリゴペプチド、またはその誘導体からゲル化剤または増粘剤を調製することによって、達成され得ることが見出されている。本発明に従うゲル化剤または増粘剤は、コア(炭素原子を含む環)を含み、コアは3個の置換基で特定の方法によって官能基化され、少なくとも1個の置換基は、アミド、尿素、チオアミド、カルバメート、またはチオカルバメート結合によってコアと結合するアミノ酸誘導基である。
【0008】
したがって、本発明は、非対称、三置換環式有機化合物、特にゲル化剤または増粘剤に関し、環は1個または2個のX−Am−Yn基で置換されており、残りの1個または2個の置換基が−X−Z基であり、
Xはそれぞれ、−N(H)−,−C(O)−,−NH−C(O)−,−O(CO)−,−OC(S)−,−C(S)−および−NHC(S)−部分から独立して選択され、
Amはそれぞれ独立して、1個のアミノ酸もしくはその誘導体、または多数のアミノ酸もしくはその誘導体に基づく部分であり、
Yはそれぞれ、−OR,−N(OH)R,−NR2,−C(O)R,−C(O)−NR2,−C(O)−OR,−C(S)R,−C(S)−NR2,−C(S)−ORおよびRから成る群から独立して選択され、ここでRはそれぞれ独立して、H、あるいは、置換もしくは非置換の、分岐、環状もしくは直鎖アルキル、アルケニル、またはアルキニル基であり、芳香族、エステル、もしくはエーテル部分、または1個以上のその他のヘテロ原子を含み、1〜40個の炭素原子を有してもよく、
Zはそれぞれ、−OH,−COOH,−C(O)NHR,−NHC(O)Rおよび−NHRから成る群から独立して選択され、ここでRはそれぞれ独立して選択され、上記のように定義され、
n=1または2である。
【0009】
3個の置換基は、好ましくは実質的に均等に、環状構造周辺に分散される。すなわち、6員環において、環は好ましくは1,3,5置換環である。
【0010】
本発明の増粘剤またはゲル化剤は非対称であり、三置換ゲル化剤/増粘剤の少なくとも2個の置換基が、互いに異なる。増粘剤またはゲル化剤が2個の同一の−X−Am−Yn基を含む場合、特に−X−Z基は−X−Am−Yn基と異なる必要があり、増粘剤またはゲル化剤が2個の同一の−X−Z基を含む場合、−X−Am−Ynは−X−Z基と異なる必要がある。好ましくは、本発明に従う増粘剤またはゲル化剤は、−X−Am−Ynで表される部分を表さない、少なくとも1個の−X−Z基が存在するという意味では非対称である。さらに、ここで定義するように、少なくとも1個の置換基は、好ましくはAm基ではない。
【0011】
本発明に従う非対称化合物(特にC3対称性を欠いている)は、均一性の高い、透明なゲル、またはゲル化流体、特に溶液を作るのに、非常に適していることが見出されている。さらに、本発明に従うゲルが、相対的に厚みが小さい(たとえば約2〜10nm、たとえば約5nm)ゲル繊維を含んでもよいことが見出されている。
【0012】
ゲル化剤/増粘剤は、ゲル化剤/増粘剤によって形成されるゲル構造(ゲル繊維など)が、均一性の高い外観(たとえば厚み)であるゲルの調製を可能にすることが見出されている。
【0013】
さらに、透明性の高い、ゲル化流体(溶液)またはゲルが、本発明に従う増粘剤またはゲル化剤で調製可能であることが見出されている。
【0014】
さらに、本発明は、ゲルもしくはゲル化流体(粘性溶液)中に存在するとき、チキソトロピックな挙動を示すゲル化剤/増粘剤を提供する。
【0015】
したがって、本発明に従うゲル/ゲル化流体(溶液)は、局所使用、たとえば目に使用する美容製品もしくは医薬品、またはデオドラントなどの透明な外観が求められる用途に魅力的である。同様に、そのような特性は、表面のコーティングで使用するためにも求められる。透明なゲルもしくは粘性溶液およびその他のゲル化流体は、特に肉眼で確認できる粒子を実質的に含まないゲル、溶液または流体としてここで定義され、少なくともいくらか可視光を通す。
【0016】
本発明の興味深い側面は、発明者が、非対称ゲル化剤または増粘剤に親水性の異なる置換基を与えてもよいと気付いたことである。したがって、ゲルには、WO03/084508に記載のゲル化剤と比較して、独特な構造が与えられる。
【0017】
本発明に従うゲル化剤/増粘剤の非対称な性質のために、ゲル化剤/増粘剤は、疎水性側部(1個または2個の相対的に疎水性の置換基によって形成される)および親水性側部(残りの、相対的に親水性の置換基によって形成される)を有してもよい。
【0018】
したがって、本発明は、特に1個もしくは複数のX−Z基が1個もしくは複数のX−Am−Y基より親水性である、または、1個もしくは複数のX−Z基が1個もしくは複数のX−Am−Y基より疎水性である、三置換増粘剤またはゲル化剤に関する。
【0019】
特に、1個または2個の基が親水性であり、残りの1個または複数の基が疎水性であることが好ましい。
【0020】
疎水性X−Z基の例は、COOH,C(O)NH(CH22OH,C(O)NH(CH22O(CH22OHである。
【0021】
疎水性X−Am−Y基の例は、AmPheAmβNA,AmPheAmDecyl,AmPheAm−2Heptyl,AmMetAmβNAおよびAmTyrAmβNAである。疎水基として非常に適しているものは、−X−Am−Yn基であり、ここでAmは疎水性アミノ酸残基を含み、特にPhe,Tyr,Met,Leu,Ala,Nle(ノルロイシン)から選択されるアミノ酸残基である。その他の疎水性天然アミノ酸残基は、Val, TrpおよびIleから選択される残基である。さらに、疎水性のY基が与えられる親水性Am(たとえばSer)は、疎水基、たとえばSerβNAであってもよい。
【0022】
理論にとらわれることなく、ゲル化剤/増粘剤として用いるとき、ゲル化剤/増粘剤の繊維を有するゲル/粘性溶液、またはその他のゲル化流体が形成され、WO03/084508から既知の対称ゲル化剤とは異なる構造を有することが考えられる。本発明に従うこれらの特定の非対称化合物は、疎水性内部および親水性外部を有する積層パイ状(くさび形)構造で集合する(図7参照。右側が本発明に従う非対称ゲル化剤であり、左側が対称ゲル化剤である)。
【0023】
したがって、本発明に従う非対称ゲル化剤/増粘剤に関して、ゲル化剤の積層内部に別の分子(たとえば薬物などの生物活性物質)を含有することが原理上可能であり、親水性溶媒(たとえばH2O)中で疎水性分子の可溶化および/または安定化を可能とする。対称ゲル化剤/増粘化剤は、本質的にそのような疎水性内部を有していないので、そのような目的には適さない。したがって、そのような本発明に従うゲル化剤/増粘剤は、疎水性物質、とりわけ20℃で水での溶解性が10mg/mL未満の物質の取込みに特に適している。
【0024】
さらに、本発明に従うゲル化剤/増粘剤で達成され得る繊維構造の結果として、本発明に従うゲル化剤/増粘剤のため、個々の繊維がより厚い束の中へ集まる傾向が小さいので、「繊維/束」の厚みは通常薄く、より均一であり、より透明なゲルとなることが考えられる。
【0025】
請求項1に定義される化合物を中間化合物として使用して、請求項1に従う追加の化合物も調製可能である。
【0026】
本発明に従う増粘剤またはゲル化剤は、次の式のうち1個で表され、Aが増粘剤またはゲル化剤の環(コア)を表し、X,Y,ZおよびAmがそれぞれ、同一のまたは異なるX,Y,ZおよびAmを表してもよい。
【0027】
【化3】

または
【0028】
【化4】

【0029】
本発明に従う化合物は、特に有機溶媒、水またはその混合溶媒のゲル化剤あるいは増粘剤として適していることが見出されている。増粘剤は、溶媒に溶解したとき、溶媒の粘度を増加させる化合物として、ここでは定義される。ゲル化剤は、適切な条件下で溶媒のゲル化をもたらし得る試薬である。ゲルという用語は、当該技術分野で一般的に理解されている。特に、ゲルは、調製した容器の倒置によい、瞬時の流動が観察されない場合として通常定義されている。ゲルは、溶媒またはエマルション、サスペンションもしくは分散などのその他の流体と混合されたゲル化剤から形成され得る。
【0030】
本発明に従う化合物は、キラル認識のためのクロマトグラフ保持体として使用されてもよい(エナンチオマの分離、たとえばG.Gubitz et al., Biopharm.Drug Dipos.22(2001)291-336を参照)。
【0031】
Ranganathan et al.は、Biopolymers,54(2000)289-295において、オリゴペプチドの分岐構造が結合したベンゼンコアに基づく、ペプチドデンドリマの結晶情報を開示している。開示されている化合物はすべて、オリゴペプチドにおいて唯一のアミノ酸であるグルタミンに基づいている。3世代のデンドリマが結晶とならず、ゲルを形成することが述べられている。しかしながら、下の世代のデンドリマは結晶になる。
【0032】
国際出願00/35998は、アミノ酸に基づいてもよい、二酸化炭素のためのゲル化剤を開示している。その他の溶媒については述べられていない。開示される化合物は、高度にフッ素化されており、極性媒体、特に水媒体のゲル化または増粘化にあまり適さない。
【0033】
特開2000−072736号公報は、ベンゼントリカルボン酸アミドおよび、廃油、ディーゼル燃料、潤滑油などの固化剤としてのそれらの使用を開示している。ベンゼン基への置換基は、アミノ残基に付加された−NHR基を含み、ここでRは、8〜22個の炭素原子によるアルキル基である。これらの基は、相対的に無極性で巨大であり、開示されるベンゼントリカルボン酸アミドを極性媒体、特に水媒体のゲル化または増粘化にあまり適さないものとしている。
【0034】
本発明に従う環式有機増粘剤またはゲル化剤は、三置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、芳香族またはヘテロ芳香族化合物であってもよい。非常に良好な結果は、三置換環が炭素原子のみで形成された増粘剤またはゲル化剤で達成された。
【0035】
本発明は、置換基が立体化学的配向にあるゲル化剤/増粘剤を含む。非常に良好な結果は、置換基がすべてエクアトリアル位にあるゲル化剤/増粘剤(すなわち、シクロヘキシルコアを有するゲル化剤/増粘剤の場合、化合物は「cis,cis」の配置を有する)で達成された。
【0036】
本発明との関連において、シクロアルキル基は、4〜18個の炭素原子を有する飽和または不飽和環式アルキル基として定義される。好ましくは、5または6員環を含むシクロアルキル基、特にシクロペンチル、シクロペンタジエニルまたはシクロヘキシル基である。多環系もシクロアルキル基という用語によって包含されることに注意されたい。例は、デカヒドラナフタレン、ドデカヒドラフェナレン、およびヘキサデカヒドロピレンである。
【0037】
ヘテロシクロアルキル基は、環において1以上のヘテロ原子(すなわち、炭素原子以外の原子)を有する、飽和または不飽和環式基として定義される。ヘテロシクロアルキル基は、縮合もしくは共役の、好ましくは4〜16員環、より好ましくは5または6員環を、好ましくは1以上含む。環に存在し得る好ましいヘテロ原子は、酸素、硫黄および窒素である。存在するのであれば、1、2または3個のヘテロ原子が環に存在することが好ましい。これらは、同一または異なってもよい。多環系もヘテロシクロアルキル基という用語によって包含されることに注意されたい。例は、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ジオキサン、trans−ヘキサヒドロ−イソクロマン、およびtrans−ヒドロ−イソチオクロマンである。
【0038】
芳香族基は、環系が炭素原子のみ含み、6〜18個の炭素原子を含む特性を有する環式基として定義される。縮合または共役の多環系も、芳香族基という用語によって包含されるということに注意されたい。例は、フェニル、ナフチル、アントリル、およびピレンである。好ましくは、三置換芳香族環は、三置換ベンゼン環である。
【0039】
ヘテロ原子基は、環における1以上の炭素原子をヘテロ原子で置換えた芳香族基である。環に存在し得る好ましいヘテロ原子は、酸素、硫黄および窒素である。1,2または3個のヘテロ原子が環に存在することが好ましい。これらの原子は、同一または異なってもよい。縮合または共役の多環系も、ヘテロ原子基という用語によって包含されるということに注意されたい。例は、フラン、ピリジン、ピラジン、キノリン、およびチオフェンである。
【0040】
Aがシクロヘキシルまたはフェニル基を表すことが好ましい。好ましくは、シクロヘキシルまたはフェニル基は、1,3,5置換される。より好ましい実施の形態において、Aは1,3,5置換シクロヘキシル基である。
【0041】
Xはそれぞれ、同一または異なってもよい。したがって、AmおよびZ基は、C=O,C=S、またはNH基との結合によって、それぞれ独立してAに結合され得る。X−Am−Yn基におけるXのそれぞれの選択は、それぞれのAm基がそれらのNH2末端またはCOOH末端で結合されるかどうかに依存するであろう。アミノ酸またはオリゴペプチドが、そのNH2末端を介して結合されるならば、特定のXは、−C(O)−、−C(S)−、−OC(O)−、−OC(S)−、−NH−C(O)−、または−NHC(S)−である。同様に、アミノ酸またはオリゴペプチドがCOOH末端を介して結合されるならば、特定のXはNH基である。
【0042】
Am基はそれぞれアミノ酸またはその誘導体に基づく。特に、少なくとも1個の−NHもしくは−NH2基、ならびに少なくとも1個の−COOH基を含む基がアミノ酸と見なされる。当然のことながら、Amはそれぞれ完全なアミノ酸を表してはいないと認識されるであろう。アミノ酸は、NH2末端を介して対応するX基に結合され、COOH末端を介して対応するY基に結合されるか、その逆で結合される。結合は、たとえばアミド、尿素、チオアミドまたはカルバメート結合であってもよい。したがって、NH2末端の1個もしくは2個のH原子、ならびにCOOH末端の−OHは、全体構造の一部ではない。
【0043】
Am基はいずれも2個以上のアミノ酸またはその誘導体に基づくので、ジ、トリ、またはさらに高次のオリゴペプチドなどのペプチドを含むことが可能である。好ましくは、オリゴペプチドがそれぞれ12個までの、より好ましくは2〜5個のアミノ酸に基づき、直鎖ペプチド鎖を形成し、アミノ酸は頭−尾で互いに結合されている。アミノ酸は天然および非天然(合成物質、たとえばβ−アミノ酸、またはα−アルキル化アミノ酸)のすべてのアミノ酸から選択されてもよい。好ましくは、アミノ酸は、DおよびL異性体の両方が適したα−、β、またはγ−アミノ酸である。特に好ましくは、α−アミノ酸である。アミノ酸の適切な例は、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、リジン、バリン、プロリン、メチオニン、グリシン、ヒスチジン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびアルギニンである。
【0044】
非常に良好な結果は、Am基がフェニルアラニンまたはメチオニンに基づく増粘剤またはゲル化剤で達成された。別の好ましいAm基は、システインに基づく。ジスルフィド架橋を形成し得るシステイン中の−SH基の存在が、架橋ゲルを形成するために、適切に用いられるであろう。本発明との関連において、アミノ酸の誘導体は、エステルまたはアミド(たとえば、アスパラギン酸、リジンまたはシステイン)および(チオ)エステル(たとえば、セリン、チロシンまたはシステイン)を含むとして定義される。
【0045】
アミノ酸はそれぞれ置換基で置換えられてもよく、置換基はそれぞれ置換もしくは非置換、分岐、環式もしくは直鎖アルキルまたはアルケニル基であってもよく、場合によっては、芳香族、エステルもしくはエステル部分、またはN,S,O,PおよびBから成る群から選択される1以上のヘテロ原子を含む。好ましくは、それぞれの置換基は炭素原子を12個以上含まない。好ましくは、Am基はそれぞれ置換基を含まない、または1個含む。
【0046】
末端基Yはそれぞれ、対応するXの性質に依存する基から、独立して選択されてもよい。たとえば、Xが−C(O)−,−C (S) −,−OC (O)−,−OC (S)−,−NH−C (O)−,または−NH−C (S) −であれば、Yは−OR,−N(OH)R、および−NR2であってもよい。たとえば、Xが−NH−であれば、Yは−C(O)R,−C(O)−NR2,−C (O)−OR,−C (S) R,−C(S)−NR2,−C(S)ORおよびRであってもよい。この点において記載されるR基はそれぞれ、Hと、置換もしくは非置換、分岐、環式もしくは直鎖アルキル、アルケニル、またはアルキニル基とから成る群から独立して選択されてもよく、場合によっては、芳香族、エステルもしくはエーテル部分、または1以上のヘテロ原子を含み、1〜40個の炭素原子、好ましくは12個以下の炭素原子を有してもよい。とりわけ、非常に良好な結果が、ヘテロ原子が存在しないR基、−ナフチル(−C107)または−CH2−フェニル(−C77)などで達成された。
【0047】
R−基が1以上のヘテロ原子を含むならば、ヘテロ原子は、好ましくはO,N,S,PおよびBから選択される。
【0048】
n=2以上であれば、同一の−X−Am−Ynの2個のY基は、R−基(H以外)によって相互に結合されてもよい。
【0049】
実施の形態において、Yはそれぞれ、−OH,−O−alk(alkは、直鎖または分岐アルキル基である),直鎖もしくは分岐−O−(CH2i−OH,−NH2,直鎖もしくは分岐−NH(CH2) iO(CH2)jOH,直鎖もしくは分岐−NH(CH2) iO(CH2) jCH3,直鎖もしくは分岐−O(CH2)iO(CH2) jCH3,直鎖もしくは分岐−O(CH2) iO (CH2) jOH,−NHOH,−NH−(CH2i+1) ((CH2i+1)は、直鎖もしくは分岐である)、直鎖もしくは分岐−NHC(CH3)(CH2) i(CH3),− NH (CH2) iOH,ナフチル基,−NH−ナフチル基,−NH− (CH2) iPh ((CH2) iは、直鎖もしくは分岐である),−NH−Ph−O−alk (alkは、直鎖または分岐アルキル基であり、好ましくはメチル基である)ならびに−NH−キノリンから独立して選択される。前記の基において、i,jは、好ましくは1〜9、より好ましくは1〜8の範囲で、それぞれ独立して選択され、より好ましくはそれぞれが1または2である。
【0050】
実施の形態において、Yはそれぞれ、−OCH3,−OCH2CH3,−O−(CH2) 2−OH,−NH2,−NH(CH2) 2O(CH2) 2OH,−NH(CH2) 2OCH2CH3,−O(CH2) 2OCH2CH3,−O(CH2) 2O(CH2)OH,−NHOH,−NH−CH3,NHC1021,−NH(CH2)2OH,ナフチル基,−NH−ナフチル基,−NH−(CH2)Ph,−NH(CH2) 2Ph,NH−Ph−OMe,NHCH2Pyr,−OCH2PhおよびNH−キノリンから独立して選択される。
【0051】
好適な実施の形態において、Yはそれぞれ、−OH,−OCH3,−OCH2CH3,−NHCH3,直鎖および分岐の−NH(CH2)x+1(xは、1〜9の整数である)、直鎖および分岐のNHC(CH3)(CH2)y+lCH3(yは、0〜7の整数である)、−NH(CH2)9CH3,−NH(CH210CH3,−NHC(CH3)(CH2) 5(CH3),−NH−ナフチル,−NHCH2Ph,−NH(CH2)2Ph, −NHPhOMe,−NH−キノリンならびにNHPhNO2から選択される。
【0052】
増粘剤またはゲル化剤が2個の−X−Am−(Y)n基を含む場合、−X−Am−(Y)n基は好ましくは同一である。
【0053】
実施の形態において、本発明に従うゲル化剤/増粘剤、特に本発明に従うゲル化剤は、架橋を形成することによって、ゲル化または増粘化に寄与し得る反応基を含む。適切な反応基を選択することによって、本発明に従うゲル化剤または増粘剤は、ゲルまたはゲル化流体、特に粘性溶液の形成に用いられ、さらなる反応を受け得る。Am,Zおよび/またはYは、いずれもそのような反応基を含んでもよい。反応基の例は、−C=C−基(たとえば、YまたはZのR部分において)および−SH基(たとえば、Am部分において)である。
【0054】
たとえば、反応基、たとえば末端アルケニル基(C=C)を有するゲル化剤または増粘剤は、たとえばJ.Am.Chem.Soc.(1995)117, 12364で見出される標準的な手順に従うメタセシス反応によって、相互に結合され得る。メタセシス反応は、粘性の溶液またはゲルを、たとえばクロマトグラフのカラムに使用可能な硬いゲルに変える(Sinner et al., Angew.Chem.Int.Ed.39(2000)1433-1436およびSinner et al., Macromolecules 33(2000)5777-5786を同様に参照)。
【0055】
そのうえ、反応基を化学物質と反応させることによって、ゲル化または増粘化が達成可能であり、たとえば、ある化学物質が、本発明に従って、ビスマレイミドまたは同様のものを有するチオール基を含むゲル化剤/増粘剤と反応してもよい。
【0056】
Z基は、Yで定義される基であってもよい。好ましくは、−X−Zが−COOH、Rがより好ましくはHまたはアルキルであり、より好ましくは、Hまたは−CH3である−C(O)NHR、−NHC(O)R、−NHR、iが好ましくは1〜8であり、たとえば2であるC(O)−NH−(CH2) i−OH、i,jが好ましくは1〜8であり、たとえば2であるC(O)−NH−(CH2)i−O−(CH2)j−OH、ならびにiが好ましくは1,2または3であるC (O) NH (CH2) i−pyrから成る群から独立して選択される。これらのX−Y基はいずれも、増粘剤またはゲル化剤の置換環が置換シクロヘキサンまたは置換ベンゼンである場合、特に適すると見出されている。
【0057】
とりわけ、1,3,5−置換シクロヘキサンまたは1,3,5−置換ベンゼン化合物の場合、ゲル化または増粘化の非常に良好な結果は、−X−Zが−COOH,−C(O)−NH2,−C(O)−NHCH3,−C (O)−NH−(CH2) 2−OH,−C (O)−NH−(CH2) 2−O−(CH2) 2−OH,C(O)OCH2PhおよびC(O)NHCH2−pyrから成る群から選択される増粘剤、またはゲル化剤で達成された。
【0058】
好ましくは、ゲル化剤/増粘剤のすべての置換基X−Am−Ynおよび−X−Zは、ゲル化剤/増粘剤が非両性イオン化合物となるようなものである。したがって、水(25℃でpH7)などのpH−中性溶液に溶解したとき、ゲル化剤/増粘剤は好ましくは実質的に非イオン性、実質的に陽イオン性または実質的に陰イオン性のどれかである。
【0059】
式IまたはIIに従う両性イオン三置換化合物、カルボン酸基およびアミノ基
を含む化合物などは、どちらかといえばゲル化剤としてあまり効率的ではない。理論にとらわれることなく、特に水または水溶液などのプロトン性溶液に使用するとき、化合物の両性イオン特性がある程度ゲル化を妨げるということが考えられる。
【0060】
本発明に従うゲル化剤または増粘剤を調製する代表的な方法は、化合物の2個の好ましい基に関して、これから述べるであろう。当然のことながら、当業者は、本発明の範囲を離れずに、多くの変形が合成において可能であるということを認識するであろう。当業者は、本明細書および請求項で与えられる情報、ならびに共通の一般的な知識に基づいて、本発明に従うその他のゲル化剤/増粘剤を調製する方法を理解するであろう。
グループ1
【0061】
【化5】

【0062】
この式に従う増粘剤またはゲル化剤(Z=Z’=OH)は、任意のカルボン酸基の活性化後、アミノ酸アルキルエステルもしくはアミド、またはアミノ酸アリールエステルもしくはアミドなどのアミノ酸誘導体の遊離アミノ酸基と、シクロヘキサントリカルボン酸との反応によって調製可能である(とりわけ、M.Kunishima, C.Kawachi, J.Morita, K.Tereao, F.Iwasaki, S.Tani, Tetrahedron (1999) 13159−13170; M.B.Smith, J.March, March's Advanced Organic Chemistry, 2001, 5th edition, Wiley Interscience; E.Muller, O.Bayer, Houben-Weyl, Methoden der Organischen Chemie, Synthesen von Peptiden, Band XV/1 および2, 1974, George Thieme Verlag; N.Yamada, K.Okuyama, T.Serizawa, M.Kawasaki, S.Oshima, J.Chem.Soc., Perkin Trans. 2, (1996) 2707-2713; H.Tamiaki, A.Kiyomori, K.Maruyama, Bull.Chem.Soc.Jpn, 66, (1993) 1768-1772; S.Bhattacharya, S.N.G.Acharya, Chem.Mater. (1999) 3121−3132)で述べられる(アミノ酸の)アミドおよびエステル形成の標準的な有機化学手法に従う)。この反応において、過剰のシクロヘキサントリカルボン酸を使用することによって、二官能および三官能シクロヘキサンの形成が制限され得る。1付加体の単離は、結晶化/沈殿、カラムクロマトグラフィ、抽出などを含む、標準的な有機化学手順によって達成可能である。
【0063】
あるいは、シクロヘキサンカルボン酸誘導体は、2個のカルボン酸部分が保護基で覆われて合成されてもよい(たとえば、ベンジルエステルへの変換だが、その他の保護基も使用されてよい。T.W.Greene, P.G.M.Wuts, Protective groups in organic synthesis, 1999, 3rd edition, Wiley Interscience参照)。アミノ酸誘導体(上述)の遊離基と残りのカルボン酸との反応が、カルボン酸の保護基の除去に続き(ベンジルエステルの場合、H2+Pd/Cが用いられ得る。その他の保護基の除去は、T.W.Greene, P.G.M.Wuts, Protective groups in organic synthesis, 1999, 3rd edition, Wiley Interscienceを参照)、1付加体が得られる。
【0064】
上述の得られた1付加体(Z=Z’=OH)は、C(O)Zおよび/またはC(O)Z’(Z=Z’=OH)の変換によって多数の誘導体の形成に用いられ、Zおよび/またはZ’が−OR,NHR,NHC(O)Rから成る群から選択される化合物が得られる。Rはそれぞれ独立して選択され、上述のように定義される(1付加体の出発物質を表すR=H以外)。そのような変換は、当業者に既知の標準的な有機化学手順に従って行われ得る。次の反応段階は、化合物の構造をさらに変えるために行われてもよい。そのような段階の例は、アミノ酸のメチルエステルの加水分解であり(アルカリ条件下)、対応する遊離酸が得られる。
グループ2
【0065】
【化6】

【0066】
この式に従う増粘剤またはゲル化剤(Z=OH)は、任意のカルボン酸基の活性化後、アミノ酸アルキルエステルもしくはアミド、またはアミノ酸アリールエステルもしくはアミドなどのアミノ酸誘導体の遊離アミノ酸基と、シクロヘキサントリカルボン酸との反応によって調製可能である(とりわけ、M. Kunishima, C. Kawachi, J. Morita, K. Tereao, F. Iwasaki, S. Tani, Tetrahedron (1999) 13159−13170; M. B. Smith, J. March,March's Aduanced Organic Chemistry, 2001, 5th edition, Wiley Interscience ; E. Muller,O. Bayer,Houben−Weyl, Methoden der Organischen Chemie, Synthesen von Peptiden, Band XV/1 and 2, 1974, George Thieme Verlag; N. Yamada, K. Okuyama, T. Serizawa, M. Kawasaki, S. Oshima, J. Chem. Soc. , Perkin Trans. 2, (1996) 2707−2713; H. Tamiaki, A. Kiyomori, K. Maruyama, Bull. Chem. Soc.Jpn, 66, (1993) 1768−1772 ; S. Bhattacharya, S. N. G. Acharya, Chem. Mater. (1999) 3121−3132)で述べられる、アミノ酸のアミドおよびエステル形成の標準的な有機化学手順に従う)。1、2および3付加体の混合物が形成され、2付加体は、結晶化/沈殿、カラムクロマトグラフィ、抽出などを含む標準的な有機化学手順によって単離可能である。
【0067】
あるいは、この式に従う増粘剤またはゲル化剤(Z=OH)は、1個のカルボン酸部分が保護基で保護されたシクロヘキサンカルボン酸誘導体を使用することによって調製可能である(たとえば、ベンジルエステルへの変換だが、他の保護基を使用してもよい。T. W. Greene, P. G. M. Wuts, Protective groups in organic synthesis, 1999, 3rd edition, Wiley Interscience参照)。アミノ酸誘導体(上述)の遊離基と残りのカルボン酸それぞれとの反応が、カルボン酸の保護基の除去に続き、2付加体が得られる(ベンジルエステルの場合、H2+Pd/Cが使用可能である。他の保護基の除去は、T. W. Greene, P. G. M. Wuts, Protective groups in organic synthesis, 1999, 3rd edition, Wiley Interscience参照)。
【0068】
上述の得られた2付加体(Z=OH)は、C(O)Z(Z=OH)の変換による多数の誘導体の形成に用いることができ、Zが−OR,NHR,NHC(O)Rから成る群から選択される化合物を与える。ここでRは独立して選択され、上述のように定義される(2付加体の出発物質を表すR=H以外)。そのような変換は、当業者に周知の標準的な有機化学手順に従って行われ得る。次の反応段階は、化合物の構造をさらに変えるために行われてもよい。そのような段階の例は、アミノ酸のメチルエステルの加水分解であり(アルカリ条件下)、対応する遊離酸が得られる。
【0069】
一般的に、ここで述べる三置換化合物は、芳香族、非芳香族炭化水素、アルコール、エーテル、エステル、アルデヒド、ケトン、アルカン酸、エポキシド、アミン、ハロゲン化炭化水素、シリコン油、植物油、リン酸、スルホキシド、アミド、ニトリル、水およびその混合物を含む多数の溶媒から、1以上を増粘化またはゲル化できることが見出されている。ここで用いる「混合物」という用語は、単相流体系(溶液)だけでなく、乳濁液、分散液、懸濁液およびその他の多相流体系も含む。適切な化合物またはその混合物を用いることによって、ゲル化もしくは粘性溶媒またはその他のゲル化/粘性流体の範囲が調整でき、溶媒またはその他の流体をゲル化または増粘化できる。
【0070】
好適な実施の形態において、水もしくは水性溶媒またはその他の流体をゲル化する。実施の形態に従って、ゲル化剤は、好ましくは1,3,5−置換シクロヘキシルコア(上記の式(I)(II)におけるA)を有する。X−ZにおけるX
は、好ましくは−C(O)−であり、X−Am−YnにおけるXは、好ましくは−C(O)−であり、2個のX−Am−Ynが存在するとき、Amは好ましくは同一であり、DおよびL異性体の両方が適するα−、β、またはγ−アミノ酸から成る群から選択される。非常に良好な結果が、フェニルアラニンまたはメチオニンで達成される。別の好適なアミノ酸はシステインであり、本発明に従うそのような化合物は、架橋可能な−SH基を含み、本発明に従うゲル化剤/増粘剤のゲル化/増粘化特性に有利である。
【0071】
本発明は、本発明に従うゲル化剤または増粘剤を溶媒に適量混合することを含む、溶媒のゲル化または増粘化の方法にも関する。
【0072】
本発明に従うゲル化剤/増粘剤は、ハイドロゲル、すなわち溶媒が水または水溶液であり、水が主成分であるゲルの調製に特に適していることが見出されている。本発明に従って、非常に透明なハイドロゲルが調製可能なことが見出されている。
【0073】
増粘剤またはゲル化剤の適切な濃度は、溶媒ならびに増粘剤もしくはゲル化剤に依存する。実際には、良好な結果は、組成の重量に基づく0.01〜50wt.%の量の増粘剤またはゲル化剤で達成された。好ましくは、ゲル/粘性流体/粘性溶液の量は、0.1〜50wt.%、特に0.4〜50wt.%である。
【0074】
混合は、充分にゲル化をもたらし得る。任意で、増粘化またはゲル化は、ゲル化誘導成分の添加および/または環境刺激によって引き起こされる。
【0075】
好ましくは、成分の混合は、20〜200℃、好ましくは50〜150℃の温度でともに加熱することによって行われる(場合によっては、成分の均質化に役立つ、たとえば渦によって)。これらの熱混合物を−20〜100℃、好ましくは4〜100℃、より好ましくは15〜30℃の範囲の好適な温度に冷却することで、ゲルもしくは粘性溶媒または他の粘性流体が得られる。得られたゲルは、薄い絡み合った繊維を含むことが見出されている。別の形態において、ゲル化剤は極性または非極性溶媒に最初に溶解し、ゲルに変換される成分、溶媒またはその他の流体に次に添加、または噴霧される。もちろん、ゲルに変換される成分または溶媒を、極性または非極性溶媒に溶けたゲル化剤の溶液に、添加または噴霧することも可能である。
【0076】
ゲルを作成する別の方法は、環境刺激のような光、pHおよび/または化学的刺激の使用を含む。光制御ゲル化およびpH制御ゲル化は、ゾル−ゲル転換を誘導し得る2つの機構であるが、場合によってこの製法は可逆的であるので、ゾル−ゲル転換に使用できる。ゲル−ゾルまたはゾル−ゲル形成をもたらす化学誘導物質は、たとえばジスルフィド還元酵素およびチオール酸化酵素であり、自然界において人間の体内でも起こる。同様に、トリス−(2−カルボキシエチル)フォスフィン、メルカプトエタノール、1,4−ジチオスレイトール、グルタチオンおよびジメチルスルホキシド(DMSO)が化学的誘導に用いることができる。
【0077】
ゲルを形成するさらなる方法は、2種類のゲル化剤の溶液を混合することであり、2種類のゲル化剤は、それぞれ反応温度およびゾル相に残っている濃度に依存しないが、混合するとゲル相に移動する。
【0078】
環境刺激の別の形態は、超音波処理である。たとえば、ゲルは
超音波処理の影響下でゲル化剤を溶媒と混合し、ゲルの形成が超音波処理の停止によって誘導される方法により、適切に作成される。
【0079】
本発明に従う増粘剤またはゲル化剤を含むゲルは、キラル認識または触媒の共有結合のためのクロマトグラフィ支持体として用いることができる。
【0080】
さらなる側面において、本発明は、本発明に従うゲル化剤/増粘剤および関心物質の粒子を含むゲルもしくは粘性溶媒またはその他の粘性流体に関し、特に粒子は1nm〜100μmの範囲の直径を有し、好ましくは1〜250nmの範囲であり、より好ましくは1〜100nmの範囲である。粒子は、好ましくは生理活性物質であり、好ましくは薬剤活性物質である。本発明に従う増粘剤またはゲル化剤を含むゲルは、関心物質、たとえば薬のデリバリビークルとして用いることができる。
【0081】
そのような使用は、たとえば国際特許出願WO03/084508に開示されるような、ドラッグデリバリビークルとしてのゲル化剤/増粘剤の使用に類似しているであろう。この実施の形態に従えば、ゲルは関心物質、特に薬を生体内の予め定められた場所へ運搬するためのデリバリビークルのビークルとして用いることができ、前記ビークルは前記物質と、外側に向かって前記ビークルの少なくとも1コンパートメントを利用可能に誘導し、それによって前記予め定められた場所での前記物質の前記ビークルの外側へのアクセスを可能にする手段とを含む。
【0082】
好ましくは、予め定められた場所に誘導されるようにした物質は、ゲル形成の時点でゲルの中に取り込まれる。しかし、必ずしもこうである必要はない。物質は、適切な条件下で、成形されるゲルに入れられてもよい。薬の放出の場合、使用はゲルのゾルへの転移であってもよい。
【0083】
驚いたことに、運搬を制御された薬を含むゲルの形成は、粉砕などの従来の方法では作成不可能であると考えられていた、非常に小さい薬の粒子の作成に用いることができるということが見出されている。これは水もしくは水溶液系に溶けない、またはほとんど溶けない薬の(経口)投与に特に重要である。小さい粒径を実現するために、薬を本発明に従うゲル化剤または増粘剤とともに、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはエタノールなどの有機溶媒に溶解させてもよい。水の添加により、ゲル形成が起こる。同時に、水に不溶/水にほとんど溶けない薬は、非常に小さい粒子の形で沈殿する(通常500nm未満、または約70nm以下)。必要に応じて、小さな薬の粒子を含む水溶性ゲルを残して、DMSOまたはエタノールを押流すことができる。これはそのようなものとして用いられてもよい(「ウェット」ゲルの形で)、または凍結乾燥して医薬品に製剤されてもよい。医薬品の製剤に用いられる小さな薬の粒子だけを残して、ゲル化剤または増粘剤を押流すことが可能である。
【0084】
薬の粒子の形成に加えて、増粘剤/ゲル化剤は様々な種類の粒子を形成するために使用されてもよい。特に化粧品の原料、顔料(たとえば、コーティング/塗料に使用される)または蛍光プローブ(ピレンなど)に使用されてもよい。
【0085】
ゲル化剤/増粘剤が生理活性物質(より好ましくは薬剤活性物質)などの関心物質のデリバリシステムに存在する系の好適な実施の形態において、ゲルから抜出るようにした物質の予期せぬ漏れは、少ない、または無視してもよい。これは好ましくはゲルと物質との相互作用を考慮に入れることによって達成される。前記相互作用は、いずれの共有結合を用いても達成できる。共有結合の場合、ゲル化剤/増粘剤の少なくとも1個の置換基が開裂可能な部分を含み、開裂が関心物質の放出となる。関心物質は、非共有結合(静電または疎水相互作用、H結合など)を介してゲル化剤/増粘剤に結合されてもよい。そのような実施の形態は、ここでは錯体として見なされる。ゲルからの物質の放出は、当業者に周知の多数の方法で、ゲル、物質および環境の種類に依存して達成できる。共有結合は、pH、温度、酵素活性、光などの一定の条件下で断つことが可能な不安定なリンクを含む。関心物質とゲル化剤との不安定なリンカを使用することは、ほぼ完全に漏れを防ぎ、環境条件が該リンクを断つ閾値に取って代わるとき、関心物質の即座の放出を可能とする。好ましくは、酵素的に不安定なリンカは、標的細胞の近傍に存在する酵素によって開裂される。関心物質が、ゲル化剤またはプロドラッグ−ゲル化剤複合体(ゲル構造に取り込まれる)のいずれかに、酵素的に不安定なリンカを介して共有結合するならば、ゲル状態における酵素開裂は、強く嫌われるであろう。しかしながら、ゲル−ゾル転移は、プロドラッグを酵素に使用でき、薬の開裂およびその後の放出となる。非常に良好な結果が、特にL−フェニルアラニン部分などのC=O末端で開裂するアミノ酸部分を含むリンカと組合わせて、酵素のα−キモトリプシンで達成された。
【0086】
本発明は、以下の実施の形態によってさらに明らかにされるであろう。
実施例
使用される略語は、以下のとおり表す。
【0087】
DMSO =ジメチルスルホキシド
CDI =1,1−カルボニルジイミダゾール
DMT−MM =4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド
β−NA =β−ナフチル
MeOH =メタノール
Phe =フェニルアラニン
Met =メチオニン
Bn =ベンジル
TFA =トリフルオロ酢酸
Ph =フェニル
EA =酢酸エチル
iPrOH =イソプロパノール
6−AQ =6−アミノキノリン
EtOH =エタノール
PEG 400 =ポリエチレングリコール(400)
MeCN =アセトニトリル
PG =プロピレングリコール
TBA =ter−ブチルアルコール
p−NA =para−ニトロアニリン
【0088】
数種類の化合物を合成した(実施例IおよびIIに説明する)。これらの多く
の化合物に以下の複数のテストを行った。
【0089】
ゲルテスト
秤量した固体を、密封型の2.0mlバイアルびん中で、ヒートガンまたは加熱ブロックを用いて、0.5または1mLの溶媒に溶かし、続いて大気中に放置することによって、室温まで徐冷した。ゲル化は、バイタルびんを逆さにし、軽く振ることによって決定した。塊の流動が確認されなければ、塊はゲルであると定義した。あるいは、秤量した固体を、酸または塩基の添加によって1mLの溶媒に溶かした。続く塩基または酸の添加がゲル化をもたらした。あるいは、秤量した固体を、少量の溶媒に溶かした。続く多量の非溶媒の添加がゲル化をもたらした。あるいは、ゲル化剤/増粘剤の溶液を非溶媒に添加し、ゲル化させた。あるいは、秤量した固体を、超音波処理によって、1mLの溶媒に混合した。超音波処理の停止後、ゲル化が起こった。あるいは、秤量した固体を、ゲル化が起こった後、短時間のボルテックスによって1mLの溶媒に混合した。
【0090】
融解温度の決定
ゲルの融解温度(Tgel)は、dropping ball法(H.M.Tan, A.Moet, A.Hiltner, E.Baer, Macromolecules 1983,16,28)によって決定した。
【0091】
透過型電子顕微鏡測定
ゲルは、上述の手順の1つに従って調製した。少量のゲルを、スパチュラを用いて、炭素被覆銅グリッドに注意深くのせた。過剰の溶液をろ紙で吸取り、薄いサンプルフィルムが残った。サンプルは、JEOL 1200EX(80〜100kV)を用いて検査し、代表的な部分の写真を撮った。サンプルはすべて2個ずつ作製した。
【0092】
低温透過型電子顕微鏡測定
ゲルは、上述の手順の1つに従って調製した。少量のゲルを、スパチュラを用いて、むき出しの銅グリッドに注意深く載せた。過剰の溶液を、ろ紙で吸取り、薄いサンプルフィルムが残った。ガラス固化のために、グリッドを続いて液体エタンに漬けた。ガラス固化した試料は、Gatan model 626の低温ステージに移し、Philips CM 120電子顕微鏡において、120kVで動作させて観察した。画像は、約−170℃、低線量条件下で記録した。サンプルはすべて2個ずつ作製した。
【0093】
実験例I:次の一般式で表される化合物の合成
【0094】
【化7】

【0095】
【化8】

【0096】
cis,cis−1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸(11.18g、51.71mmol)およびHOBT(2.55g、18.87mmol)のDMSO(200mL)溶液に、CDI(2.80g、17.27mmol)を添加した。室温で2時間撹拌後、Phe−βNA(5.00g、17.22mmol)を添加し、一晩撹拌を続けた後、溶液をH2O(600mL)に注ぎ、ゲル状の沈殿を形成させた。沈殿を濾別し、H2O(4×100mL)で繰返し洗った後、冷MeOH(50mL)で洗った。残ったゲル状の固体を、熱アセトン(約400mL)に溶かして濾過した後、溶媒を減圧下で除去した。残った固体は、熱MeOH(400mL)と2N NaOH(aq)(200mL)との混合物中に溶解させることによって、さらに精製した。溶液を濾過した後、氷(約150mL)と濃HCl(aq)(50mL)との混合物に注いだ。得られた沈殿を濾別し、H2Oで洗って(2×150mL)熱アセトン(約200mL)に溶かし、二重のろ紙上で濾過した。ろ液は減圧下で濃縮し、純粋な化合物1を白い固体として得た。収率:5.20g(10.64mmol=61.8%)。
ゲルテスト:3mg/mLのH2O:わずかに結晶性のゲル
【0097】
【化9】

【0098】
化合物1(1.50g、3.16mmol)、2−(2−アミノエトキシ)−1−エタノール(1.00g、9.49mmol)、およびDMT−MM(1.92g,6.95mmol)のMeOH(65mL)とDMSO(20mL)との溶液を、室温で一晩撹拌した。形成したゲル状の沈殿を濾別し、H2O(4×50mL)で洗って、熱MeOH/H2O(20:1、150mL)に溶かした。溶液を濾過して、続いてトルエンと繰返し共沸蒸留することによって乾燥するまで蒸発させ、すべての水分を除去した。化合物2を白い固体として単離した。収率:1.20g(1.85mmol=58.6%)。
ゲルテスト:1mg/mLのH2O:透明なゲル
【0099】
【化10】

【0100】
この化合物は、Met−βNA(3.00g、10.93mmol)を用いて、化合物1で述べた手順に従って合成した。反応後、DMSO(75mL)をH2O(500mL)に注いだ。得られた沈殿を濾別し、H2O(3×200mL)で洗って、熱MeOH/H2O(20:1、200mL)に溶かした後、溶液を濾過して、続いてトルエンと繰返し共沸蒸留することによって乾燥するまで蒸発させ、すべての水分を除去した。化合物3を白い固体として単離した。収率:4.70g(9.95mmol=91.0%)。
ゲルテスト:3mg/mLのH2O:わずかに結晶性のゲル
【0101】
【化11】

【0102】
この化合物は、化合物3(2.00g、4.23mmol)を用いて、化合物2で述べた手順に従って合成した。反応後に形成したゲル状沈殿を濾別し、H2O(4×50mL)で洗って、熱MeOH(3×100mL)で洗って、最後に減圧下で乾燥させ、純粋な化合物4を白い固体として得た。収率:2.20g(3.41mmol=80.7%)。
ゲルテスト:1mg/mLのH2O:透明なゲル;3mg/mLのMeOH
【0103】
【化12】

【0104】
この化合物は、エタノールアミン(0.39g,6.35mmol)を用いて、化合物4で述べた手順に従って合成した。収率:0.78g(1.40mmol=65.8%)。
ゲルテスト:2mg/mLのH2O:透明なゲル
【0105】
【化13】

【0106】
この化合物は、4−ピコリルアミン(0.34g、3.18mmol)を用いて、化合物4で述べた手順に従って合成した。反応後形成したゼリー状沈殿を濾別し、MeOH(2×20mL)で洗って、減圧下で乾燥させた。粗生成物をMeOHと2N HCl(aq)(各50mL)との混合物に溶かして、得られた溶液をろ紙で濾過した。ろ液を5N NaOHの添加によってpH12まで調整し、得られた沈殿を濾別し、H2O(2×50mL)で洗って、減圧下で乾燥させ、純粋な化合物6を橙褐色の固体として得た。収率:0.41g(0.63mmol=59.2%)。
ゲルテスト:1mg/mLのH2O:わずかに濁ったゲル
【0107】
【化14】

【0108】
この化合物は、Phe−AmBn−TFA(4.00g、9.88mmol)およびEt3N(2.0g、20.0mmol)を用いて、化合物1で述べた手順に従って合成した。形成したゲル状の沈殿を濾別し、H2O(3×100mL)で洗って、MeOH(冷MeOH 3×100mL,熱MeOH 3×30mL)で抽出した。合わせた抽出液を蒸発させ、純粋な化合物7を白い固体として得た。収率:2.00g(4.42mmol=44.8%)。
ゲルテスト:3mg/mLのH2O:わずかに濁ったゲル
【0109】
【化15】

【0110】
この化合物は、化合物7(2.00g、4.42mmol)をよび溶媒としてMeOH(120mL)を用いて、化合物2で述べた手順に従って合成した。形成したゲル状の沈殿を濾別し、MeOH(2×50mL)で洗って、熱MeOH/H2O(3:1、800mL)に溶かして濾過した。ろ液を乾燥するまで蒸発させ、純粋な化合物8を白い固体として得た。収率:1.80g(2.87mmol=65.0%)。
【0111】
ゲルテスト:1mg/mLのH2O:透明なゲル(チキソトロピック);EtOH:ゲル;PG:ゲル;t−BuOH:ゲル;H2O/PGまたはH2O/t−BuOHの混合物:ゲル;オリーブ油:弱いゲル;MeCN:ゲル; PEG 400:ゲル
化合物8のヒドロゲル(2mg/ml)にオリーブ油(200μL)を添加した。混合物を5秒間ボルテックスして、ゲル化した乳濁液を得た。
【0112】
【化16】

【0113】
この化合物は、Phe−AmPh−OMe(1.95g、7.22mmol)を用いて、化合物3で述べた手段に従って合成した。最終生成物をMeOHから再結晶/再ゲル化し、純粋な化合物9を白い固体として得た。収率:2.85g(6.09mmol=84.3%)
ゲルテスト:3mg/mLのH2O :透明なゲル
【0114】
【化17】

【0115】
この化合物は、化合物9(0.95g、2.03mmol)を用いて、化合物2で述べた手順に従って合成した。最終生成物をMeOHから再結晶/再ゲル化し、純粋な化合物10を白い固体として得た。収率:0.76g(1.18mmol=58.3%)。
ゲルテスト:3mg/mLのH2O:透明なゲル
【0116】
【化18】

【0117】
【化19】

【0118】
この化合物は、Phe−6AQ2HBr(4.51g、10.0mmol)およびEt3N(4.04g、40.0mmol)を用いて、化合物1で述べた手順に従って合成した。濾過によって集めた沈殿をDMSO/H2O/アセトンに溶かして濾過した後、アセトンをゆっくりと蒸発させ、濾過で集めて乾燥させた沈殿を形成させ、純粋な化合物11を薄いオレンジの固体として得た。収率:2.95g(6.03mmol=60.3%)。
【0119】
【化20】

【0120】
この化合物は、化合物11(2.80g、5.73mmol)を用いて、化合物2で述べた手順に従って合成した。反応の完了後、H2O(300mL)を添加し、得られた沈殿を濾別し、H2O(3×100mL)で洗って、乾燥させた。粗生成物をカラムクロマトグラフィ(SiO2,CH2Cl2:MeOH=9:1〜8:2)によって精製し、薄い黄色の固体として純粋な化合物12を得た。収率:1.60g(2.41mmol=42.1%)。
【0121】
ゲルテスト:0.3mg/mLのH2OまたはPBS:透明なゲル;0.5mg/mLのH2O/DMSO(19:1):透明なゲル;0.6mg/mLのH2O/EtOH(19:1):透明なゲル;25mg/mLのEtOH:濁ったゲル
【0122】
小角X線回折とともに低温TEM検査を1個の化合物(12)に行い、ゲルが約4.5nm(分子2個の長さに相当する)の均一な厚みを有する繊維から成ることがわかった。恐らく、(C3−)対称性の欠如は、繊維の凝集が大きな束となることを防ぎ、かなり均一で非常に小さな繊維の直径となり、後者は順に透明なゲルを導く。
【0123】
化合物12のゲル(0.4wt%のヒドロゲル)の低温TEM写真を図1で示す。図1は、本明細書で述べるゲル化剤のヒドロゲルの低温TEMの代表例を示す。左側の画像は、低倍率であり、右側の画像は、高倍率である(右側の画像における左上4分の1の白い筋は、4.5nmに相当する)。図1は、溶媒の固定化に関与する、密集して絡み合った繊維構造を明らかに示している。高い均一性の繊維の厚みが右側の拡大画像で明らかに確認できる。
【0124】
【化21】

【0125】
この化合物は、AlaβNAを用いて、化合物1で述べた方法に従って合成した。
ゲルテスト:水: ゲル
【0126】
【化22】

【0127】
この化合物は、化合物1および2で述べた手順に従って、2段階で合成した。
ステップIでは、反応混合物を弱酸性のH2Oに注ぎ、得られた沈殿を濾別し、H2O(3×200mL)ですすぎ、アセトンに溶かして、MgSO4で乾燥させ、乾燥するまで蒸発させ、純粋なジカルボキシ酸化合物を得た。収率:8.04g(16.63mmol=95.0%)。
【0128】
ステップIIでは、沈殿を濾別し、MeOH(3×40mL)ですすぎ、CH2Cl2/MeOH(1/1,約700mL)に溶かした。混合物を濾過し、ろ液を乾燥するまで蒸発させ、白い固体として純粋な化合物14を得た。収率:3.3g(5.02mmol=69.3%)。
【0129】
ゲルテスト:水中で化合物を加熱すると、黄色(p−NA)により確認されるPheAmPhNO2アミドの加水分解が起こる。冷却すると、黄色の弱いゲルが形成される。
【0130】
【化23】

【0131】
【化24】

【0132】
cis,cis−1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸(50.0g;0.24mol)のDMSO(750mL)溶液に、CDI(46g、0.29mol)を添加した。CO2の発生が停止した後(約2時間)、ベンジルアルコール(35mL、0.34mol)を添加し、溶液を60℃で一晩撹拌した後、溶媒の大部分を減圧下で除去した。続いて、粗生成物をEA(1000mL)と1N HCl(aq)(1000mL)とで分配し、有機相をH2O(2×500mL)、ブライン(500mL)で抽出し、MgSO4で乾燥させ、乾燥するまで蒸発させ、油を得て、カラムクロマトグラフィ(SiO2,CH2Cl2:MeOH=100:0〜80:20)で精製し、白い固体として化合物15を与えた。収率:25.6g(64.64mmol=26.9%)。
【0133】
【化25】

【0134】
化合物15(5.15g,13.0mmol)およびHOBT(1.82g、13.5mmol)の撹拌、冷却(0℃)したEA(200mL)溶液にCDI(2.18g、13.5mmol)を添加した。溶液を室温に戻し、撹拌を2時間続けた後、Et3N(2.83g、28.0mmol)およびPheAmCHexTFA(14.44mmol)のEA(50mL)溶液を滴下した。混合物を1日半撹拌した後、沈殿を濾別し、EA(3×100mL)で洗って、乾燥させ、白い固体として純粋な化合物16を得た。収率:3.95(6.32mmol=48.7%)。
【0135】
ゲルテスト:オリーブ油:ゲル;EtOH:ゲル;MeCN:ゲル; PEG 400:ゲル
【0136】
【化26】

【0137】
この化合物は、化合物16(3.50g、5.60mmol)を用いて、化合物30で述べる手順に従って合成した。収率:1.47g(3.31mmol=59.1%)。
【0138】
【化27】

【0139】
この化合物は、化合物17を用いて、化合物2で述べた手順に従って合成した。形成した沈殿を濾別し、MeOH(3×50mL)で洗って乾燥させ、白い固体として純粋な化合物18を得た。収率:1.42g(2.17mmol=71.4%)。
【0140】
ゲルテスト:2mg/mLのH2O:透明なゲル;20mg/mLのDMSO:濁ったゲル
【0141】
【化28】

【0142】
この化合物は、PheAmDecylを用いて、化合物16および17で述べた手順に従って2段階で合成した。収率:ステップI:0.65g(0.95mmol=17.1%);収率:ステップII:0.45g(0.90mmol=94.4%)。
ゲルテスト:H2O:透明なゲル;トルエン:ゲル
【0143】
【化29】

【0144】
この化合物は、化合物19を用いて、化合物18で述べた手順に従って合成した。
ゲルテスト:H2O:ゲル;EtOH:ゲル;PEG:ゲル;トルエン:ゲル
【0145】
【化30】

【0146】
この化合物は、PheAm2−Heptylを用いて、化合物16および17で述べた手順に従って合成した。収率:ステップI:2.00g(3.13mmol=50.5%);収率:ステップII:1.25g(2.72mmol=96.7%)
ゲルテスト:H2O:ゲル;トルエン:ゲル
【0147】
【化31】

【0148】
この化合物は、PheAmPheOMeを用いて、化合物16および17で述べた手順に従って合成した。収率:ステップI:1.60g(2.27mmol=45.0%);収率:ステップII:0.60g(1.15mmol=53.8%)
ゲルテスト:トルエン:ゲル
【0149】
【化32】

【0150】
この化合物の水性ゲルは、1N NaOH(aq)中の化合物22の懸濁液を透明になるまで加熱して生成した。冷却した(室温の)溶液への2N HCl(aq)の添加が、化合物23のゲルの形成となった。
【0151】
【化33】

【0152】
この化合物は、TyrβNAを用いて、化合物18で述べた手順に従って4段階で合成した。
【0153】
しかし、ステップIIIでは、DMSO/2N NaOH(aq)(30+10mL)中での15分間の塩基性加水分解を経て(1gスケール)、ベンジル部分の開裂が起こった。その後、混合物を氷/水(150mL)に注ぎ、濃酢酸を用いて酸性にし、白い固体の沈殿を濾別し、H2O(4×50mL)およびアセトン(50mL)ですすぎ、乾燥させ、純粋なジカルボキシ酸化合物を得た。収率:vvv(menno)。
【0154】
ステップIVの合成において、形成した沈殿をMeOH/アセトン/H2Oから再沈殿させて(緩やかな蒸発)遠心分離および凍結乾燥を経て単離した。収率:0.14g(0.21mmol=20.8%)。
【0155】
ゲルテスト:1mg/mLのH2O:透明なゲル;オリーブ油:ゲル状沈殿;EtOH:ゲル;MeCN:ゲル
【0156】
【化34】

【0157】
この化合物は、PheAmEtPhを用いて、化合物16(アミノ酸の結合)および化合物24のステップIIIの合成(すなわち、塩基性加水分解を経るカルボキシ酸の脱保護)で述べた手順に従って、2段階で合成した。収率:ステップI:2.20g(3.41mmol=46.8%);収率:ステップII:1.28g(3.02mmol=97.5%)。
ゲルテスト:H2O:ゲル;トルエン:ゲル
【0158】
【化35】

【0159】
この化合物は、化合物25を用いて、化合物18で述べた手順に従って合成した。収率:0.9g(1.40mmol=61.1%)。
【0160】
ゲルテスト:H2O:ゲル(チキソトロピック);プロピレングリコール(PG):ゲル;t−BuOH:ゲル;H2O/PGまたはH2O/t−BuOHの混合物:ゲル
【0161】
【化36】

【0162】
この化合物は、PheAmGlyAmβNAを用いて、化合物16(アミノ酸の結合)および化合物24のステップIIIの合成(すなわち、塩基性加水分解を経るカルボキシ酸の脱保護)で述べた手順に従って、2段階で合成した。収率:ステップI:1.30g(1.79mmol=63.3%);収率:ステップII:0.28g(0.51mmol=39.0%)。
【0163】
ゲルテスト:H2O:ゲル
実施例II:以下の一般式で表される化合物の合成
【0164】
【化37】

【0165】
【化38】

【0166】
【化39】

【0167】
cis,cis−1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸(25.00g;0.12mol)のDMSO(250mL)溶液に、CDI(18.75g、0.12mol)を添加した。CO2の発生が停止した後(約2時間)、ベンジルアルコール(12.4g、0.12mol)を添加し、溶液を60℃で一晩撹拌した後、溶媒の大部分を減圧下で除去した。続いて、粗生成物をEA(500mL)と1N HCl(aq)(500mL)とで分配し、水相をEA(2×250mL)で抽出した。合わせた有機相をMgS04で乾燥させ、乾燥するまで蒸発させ、得た油をカラムクロマトグラフィ(SiO2,CHCl3:MeOH=99:1〜98:2)で精製し、白い固体として化合物28を得た。収率:15.1g(49.30mmol=41.1%)。
【0168】
【化40】

【0169】
化合物28(3.06g、10.00mmol)、Phe−OMe・HCl(4.73g、22.00mmol)、Et3N(3.03g、30.00mmol),およびDMT−MM(6.08g、22.00mmol)のMeOH(50mL)溶液を室温で一晩撹拌した。形成したゲル状の沈殿を濾別し、MeOH(50mL)で洗った。その後、粗生成物をCH2Cl2(200mL)に溶かし、1N HCl(3×100mL)およびブライン(100mL)で洗って、MgSO4で乾燥させた。CH2Cl2/MeOH(約75+100mL)からの再結晶で、白い固体として純粋な化合物29を得た。収率:2.8g(4.45mmol=44.5%)。
【0170】
ゲルテスト:オリーブ油:ゲル;トルエン:ゲル;EtOH:ゲル;MeOH:ゲル
【0171】
【化41】

【0172】
化合物29(2.40g、3.81mmol)のMeOH/iPrOH/CH2Cl2(100+100+200mL)溶液に、10%Pd/C(50mg)を添加し、混合物を水素雰囲気下で3日間激しく撹拌した後、触媒を二重のろ紙で濾過し、取除いた。その後溶液を乾燥するまで蒸発させ、白い固体として純粋な30を得た。収率:2.00g(3.71mmol=97.4%)。
【0173】
ゲルテスト:3mg/mLのH2O:透明なゲル;オリーブ油:ゲル; トルエン:ゲル;EtOH/H2OおよびPEG 400/H2Oの混合物:ゲル
【0174】
【化42】

【0175】
この化合物は、化合物30で述べた手順に従って3段階で合成した。ステップIIでは、PheOMeの代わりにNleOMeを用いた。
【0176】
ゲルテスト:EtOH:ゲル;PEG 400:ゲル
【0177】
【化43】

【0178】
MeOH(2mL)、2N NaOH(aq)(20mL)、EtOH(10mL)およびH2O(50mL)中の化合物31(0.20g、0.43mmol)の混合物をほぼ透明になるまで加熱し、その後10分間超音波処理をした。続いて、溶液を濾過し、1N HC1(90mL)で酸性にした。形成した沈殿を濾別し、H2O(3×50mL)で洗って、減圧下で乾燥させ、白い固体として純粋な化合物32を得た。収率:0.17g(0.38mmol=89.4%)。
ゲルテスト:H2O:ゲル
【0179】
【化44】

【0180】
この化合物は、PheAmMeを用いて、化合物29で述べた手順に従って合成した。収率:最終段階:1.47g(2.35mmol=42.8%)。
ゲルテスト:DMSO:濁ったゲル
【0181】
【化45】

【0182】
この化合物は、化合物28から始めて、2段階で合成した。ステップIは、PheβNAを用いて、化合物29で述べた手順に従って合成した。ステップIでは、沈殿を濾別し、MeOH(3×40mL)ですすぎ、乾燥させて、ベンジル保護した前駆体を収率96.2%で得た。ステップIIは、化合物24のステップIIIの合成に従って、行った。収率:0.71g(0.93mmol=79.2%)。
ゲルテスト:H2O:ゲル;TBA/H2O混合物:ゲル
【0183】
【化46】

【0184】
この化合物は、SerβNAを用いて、化合物34で述べた手順のステップIに従って合成した。収率:4.2g(5.75mmol=88.1%)。
【0185】
ゲルテスト:EtOH:ゲル;MeCN:ゲル;DMSO/MeOH、DMSO/トルエン、DMSO/EtOH、DMSO/MeCN、DMSO/CH2Cl2混合物:ゲル
【0186】
【化47】

【0187】
この化合物は、化合物35を用いて、化合物34で述べた手順のステップIIに従って合成した。収率:1.35g(2.11mmol=68.5%)。
【0188】
ゲルテスト:H2O:ゲル;MeCN:弱いゲル;TBA/H2O、DMSO/トルエン、DMSO/EtOH、DMSO/MeCN、DMSO/H2O、DMSO/CH2Cl2混合物/ゲル
【0189】
【化48】

【0190】
この化合物は、LeuβNAを用いて、化合物35および36で述べた手順に従って合成した。収率:ステップI:1.40g(1.79mmol=87.3%)。収率:ステップII:0.68g(0.98mmol=80.6%)。
【0191】
ゲルテスト:H2O/TBA、H2O/iPrOH、H2O/MeOHおよびH2O/DMSOの混合物:ゲル
【0192】
【化49】

【0193】
この化合物は、GlnβNAを用いて、化合物35および36で述べた手順に従って合成した。収率:ステップI:1.10g(1.35mmol=91.5%)。収率:ステップII:0.71g(0.98mmol=80.0%)。
【0194】
ゲルテスト:H2O:ゲル
実施例III:ゲル化剤−薬剤複合体の酵素的開裂
ゲル化剤−薬剤複合体の酵素的開裂を調べるために、酵素α−キモトリプシンを選択した。α−キモトリプシンは、化合物12(CHex(AmPhe−6AQ)(AmEtOEtOH)2)のようなL−フェニルアラニンに基づく置換体のC=O末端で、アミド結合を開裂可能であり、蛍光性「モデル薬剤」6−アミノキノリン(6−AQ)の放出をもたらす。この系は、この化合物のアミドおよびアミノ型の励起および発光極大が充分に分離されるという事実により(アミド型:λex=315nm,λem=370nm,アミン型:λex=339nm,λem=550nm)、容易に開裂速度をモニタできる。実際、化合物12が0.45mM(=0.03wt%)までの濃度で、水をゲル化可能であることがわかった。化合物12を少量のDMSO(100μL)に溶かし、α−キモトリプシンを緩衝液に溶かした(トリス−HCl,0.1M,pH7.75,900μL)。化合物12のDMSO溶液へのα−キモトリプシン水溶液の素早い添加は、蛍光実験に用いられる透明、均一なゲルの瞬時の形成となる。酵素的開裂へのゲル化の効果を決定するために、ゲル化剤12の構造に類似の構造を有する、水溶性、非ゲル化、モデル物質39を合成した。
【0195】
【化50】

【0196】
化合物12および39のα−キモトリプシン誘導開裂に6−AQの検出が続く蛍光実験が行われた。そのような一連の測定の結果は、図2で示される。この図は550nm(λex=400nm)での蛍光を検出して、6−AQの形成を経時的に示している。
【0197】
図2の説明(下から上):トレースa:ゲル化剤12(0.5wt%=7.54mM)のゲル;トレースb:ゲル化剤12(0.5wt%=7.54mM)+α−キモトリプシン(40mM)のゲル;トレースc:ゲル化剤12(0.5wt%=7.54mM)+化合物39(7.54mM)+α−キモトリプシン(40pM)のゲル;トレースd:化合物39(7.54mM)+α−キモトリプシン(40mM)の溶液。
【0198】
図に示すように、α−キモトリプシンがないときは、6−AQの形成がないため、ゲル化剤の開裂が観察されない(トレースa)。α−キモトリプシン(40mM)の存在下で、同じ実験を行うと、6−AQをわずかに形成するので(トレースb)、ゲル化剤がわずかに開裂する。ゲル化剤12の代わりに化合物39を含むサンプルを使用して、はるかに多量の6−AQが検出され、化合物がα−キモトリプシンでさらに容易に開裂されることがわかった(トレースc)。最後に、ゲル化剤12と非ゲル化剤39(濃度はともに前の実験で使用した濃度と同じ)をともに含むサンプルを用いて実験を行うと、トレースdとなった。
【0199】
化合物12および39の開裂実験を異なる基質濃度で行い、基質濃度の関数として初速度をプロットした結果、図3でプロットした点になった。この図は、基質(S)濃度の関数として初速度を示しており、基質は化合物39またはゲル化剤12である。図に示すように、化合物39の初速度の値は、濃度が増加するとき予想通り増加した。しかし、ゲル化剤12の初速度は、ある程度まで増加した後、かなり高濃度でも同じ状態である。対応するラインウィーバ−バークプロットおよびイ−ディ−ホフステプロットから、VmaxおよびKmの値が両方の化合物について得られた。化合物39の場合、以下の値が得られた:Vmax=22.3μmol/min,Km=4.9mM。ゲル化剤12の場合、Vが前の点に対して、まだ増加を示しているときのみ、これらの点が得られた。これらの点から、以下の値を計算した。Vmax=4.1μmol/min,Km=1.8mM。これらの値をVmaxおよびKmに用いて、両方の化合物に対して理論曲線をプロットした。化合物39の場合、実験的に決定した点が曲線と一致した。しかし、ゲル化剤12の場合、一部の点のみが曲線に一致し、実験的に決定したVmax=1.8μmol/minが決定できた。興味深いことに、理論曲線が実験曲線から外れる点はゲル濃度1.5mMに一致し、H2O:DMSO=9:1におけるゲル化剤12の臨界ゲル化剤濃度(CGC)にも一致する(すなわち、溶媒または混合溶媒において、ゲル化をもたらすために必要な最小限のゲル化剤濃度)。この濃度以下でゲル化剤12のサンプルは溶液として存在する。したがって、たとえゲル中の分子が溶液中の分子と常に平衡で、全ゲル化剤濃度がCGC以上で非常に増加し得るとしても(その結果ゲル化をもたらす)、溶液中のゲル化剤の濃度はCGCを越えるはずがない。基質(すなわち、ゲル化剤)濃度がCGCを越えた時点で、ゲル化剤12の初速度はもはや増加しないという事実は、溶液中のゲル化剤分子のみが酵素によって開裂されるということを示す。
【0200】
実施例IV:関心化合物の粒子を含むゲルの調製
IV.1 ピレンの含有
100μLのDMSOに4mg(6.0×10-3mmol)のゲル化剤12(CHex(AmPhe−6AQ)(AmEtOEtOH)2)と1.22mg(6.0×10-3mmol)のピレンとを含む溶液に、蒸留水900μLを素早く添加した。水の添加が、瞬時かつ完全な溶液のゲル化となった。ゲルのTEM解析はゲル繊維およびピレン粒子の存在を示し、後者は37〜185nmの平均サイズを有している。
【0201】
時間に依存する粒度の決定
ゲル中にピレン粒子が存在するときの安定性を決定するために、サンプルを前段落で述べたように調製し、7日後、18日後、1ヶ月後および2ヵ月後TEMで検査した。比較サンプルとして、DMSO/H2O(100μL/900μL)中にピレンのみを含有するサンプルも調製した。さらに、溶液中のゲル化剤の効果、すなわちゲル中に存在しないときの効果を決定するために、4mg(6.0×10-3mmol)のゲル化剤12(CHex(AmPhe−6AQ)(AmEtOEtOH)2)、1.22mg(6.0×10-3mmol)のピレン、100μLのDMSOおよび900μLの1N HClを調製した。HClの存在は、ゲル化剤を分解するので、サンプルはゲル化しない。すべてのサンプルは、室温で暗所にて保管した。TEMの結果は、図4、図5および図6に示される。
【0202】
図4:DMSO/H2O(100μL/900μL)中にモル比1:1(6.0×10-3mmol)でピレンを含有するゲル化剤12(CHex(AmPhe−6AQ)(AmEtOEtOH)2)のゲルのTEM画像。左から右に、それぞれ7日後、18日後、1ヶ月後および2ヵ月後に検査した。7日後、サンプル中に37〜185nmの粒子がごくわずかに存在している。18日後、30〜190nmの粒子がより多く観察できる。1ヵ月後、150nm以下の結晶もいくらか観察できる。2ヵ月後、80〜200nmの大きさを有する結晶がさらに存在している。
【0203】
図5:DMSO/H2O(100μL/900μL)中にゲル化剤12(CHex(AmPhe−6AQ)(AmEtOEtOH)2)およびピレンをモル比1:1(6.0×10-3mmol)で含むサンプルのTEM画像。左から右に、それぞれ7日後、18日後、1ヶ月後および2ヵ月後に検査した。
【0204】
7日後、0.2〜3μmの結晶が観察できる。18日後、そのような結晶がさらに観察できる。1ヵ月後、6μmのより大きな結晶が見られる。2ヵ月後、そのような結晶がさらに観察できる。
【0205】
図6:DMSO/H2O(100μL/900μL)中にピレン(6.0×10-3mmol)を含むサンプルのTEM画像。左から右に、それぞれ7日後、18日後、1ヶ月後および2ヵ月後に検査した。
【0206】
7日後、18日後または1ヶ月後、0.4〜9μmの結晶が存在している。2ヵ月後、2〜12μmの結晶が観察できる。
【0207】
IV.2 ダナゾールの含有、I
50μLのDMSO中に1.96mg(2.9×10-3mmol)のゲル化剤12と1.0mg(2.9×10-3mmol)の(CHex(AmPhe−6AQ)(AmEtOEtOH)2)とを含む溶液に、950μLの蒸留水を素早く添加した。水の添加が、瞬時かつ完全な溶液のゲル化となった。ゲルのTEM解析はゲル繊維およびダナゾール粒子の存在を示し、後者は140〜700nmの平均サイズを有し、幅0.7μmおよび長さ9μmの棒状のダナゾール粒子もいくらか存在した。100μLのDMSOおよび900μLの蒸留水にダナゾールのみを含む比較サンプルでは、棒状ダナゾール粒子は幅0.5〜10μmおよび長さ15〜53μmであった。
【0208】
IV.3 ダナゾールの含有、II
前のサンプルにおいて、ダナゾールに対するゲル化剤のモル比が1:1から2:1に増加したとき、TEM解析はゲル繊維およびダナゾール粒子の存在を示し、後者は28nmの平均サイズを有し、いくつかの粒子は2μmであり、10μmの粒子はほとんど存在せず、棒状のダナゾール粒子は存在していない。モル比が2:1から5:1に同様に増加したとき、ゲルのTEM解析はゲル繊維およびダナゾール粒子の存在を示し、後者は14nmの平均サイズを有し、いくつかの粒子は400nmであり、棒状のダナゾール粒子は存在していない。
【0209】
ダナゾール含有ゲルの凍結乾燥
DMSO/H2O(50μL/950μL)中にモル比5:1でゲル化剤12(CHex(AmPhe−6AQ)(AmEtOEtOH)2)とダナゾール粒子とを含むゲルの凍結乾燥により、ゲル化剤およびダナゾールの乾燥粉末が得られる。この粉末のTEM解析は、対応するゲルサンプル(先のサンプル)に類似の特徴を示し、ゲル繊維およびダナゾール粒子が存在し、後者は14〜70nmの平均サイズを有し、棒状粒子は存在しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】化合物12のゲルの低温TEM写真。
【図2】化合物12および39の蛍光実験の測定結果。
【図3】化合物12および39の開環実験の初速度。
【図4】DMSO/HO中にモル比1:1でピレンを含むゲル化剤12のゲルのTEM画像。
【図5】DMSO/HO中にゲル化剤12およびピレンをモル比1:1で含むサンプルのTEM画像。
【図6】DMSO/HO中にピレンを含むサンプルのTEM画像。
【図7】対称ゲル化剤および非対称ゲル化剤によるゲルの構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環が1個または2個のX−Am−Yn基で置換され、残りの1個または2個の置換基が−X−Z基である三置換環式化合物の使用であって、該化合物は、少なくとも1個の前記−X−Z基がAm部分を含んでいないという点で非対称であり、
Xはそれぞれ、−N(H)−,−C(O)−,−O(CO)−,−OC(S)−,−C(S)−,−NHC(S)−および−NH−C(O)−部分から独立して選択され、
Amはそれぞれ、1個のアミノ酸もしくはその誘導体、または多数のアミノ酸もしくはその誘導体に基づく独立した部分であり、
Yはそれぞれ、−OR,−N(OH)R,−NR2,−C(O)R,−C(O)−NR2,−C(O)OR,−C(S)R,−C(S)−NR2,−C(S)−ORおよびR基から独立して選択され、
Rはそれぞれ独立して、H、あるいは置換もしくは非置換の、分岐、環状もしくは直鎖アルキル、アルケニル、またはアルキニル基であり、芳香族、エステル、もしくはエーテル部分、または1個もしくは複数のその他のヘテロ原子を含み、1〜40個の炭素原子を有してもよく、
Zはそれぞれ、−OH,−COOH,−C(O)NHR,−NHC(O)Rおよび−NHRから成る群から独立して選択され、Rはそれぞれ独立して選択され、上記のように定義され、n=1または2であり、ゲル化剤または増粘剤であることを特徴とする三置換環式化合物の使用。
【請求項2】
環が1個または2個のX−Am−Yn基で置換され、残りの1個または2個の置換基が−X−Z基である、非対称の三置換環式ゲル化剤または増粘剤であって、該化合物は、少なくとも1個の−X−Z基がAm部分を含んでいないという点で非対称であり、
Xはそれぞれ、−N(H)−,−C(O)−,−O(CO)−,−OC(S)−,−C(S)−,−NHC(S)−および−NH−C(O)−部分から独立して選択され、
Amはそれぞれ独立して、1個のアミノ酸もしくはその誘導体、または多数のアミノ酸もしくはその誘導体に基づく部分であり、
Yはそれぞれ、−OR,−N(OH)R,−NR2,−C(O)R,−C(O)−NR2,−C(O)−OR,−C(S)R,−C(S)−NR2,−C(S)−ORおよびR基から独立して選択され、
Rはそれぞれ独立して、H、あるいは置換もしくは非置換の、分岐、環状または直鎖アルキル、アルケニル、またはアルキニル基であり、芳香族、エステル、もしくはエーテル部分、または1個もしくは複数のその他のヘテロ原子を含み、1〜40個の炭素原子を有してもよく、
Zはそれぞれ、−OH,−COOH,−C(O)NHR,−NHC(O)Rおよび−NHRから成る群から独立して選択され、Rはそれぞれ独立して選択され、上記のように定義され、n=1または2であり、
【化1】

ではないということを特徴とするゲル化剤または増粘剤。
【請求項3】
カルボン酸基およびアミン基によって形成される両性イオン結合がないことを特徴とする請求項2に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項4】
Amがそれぞれ1〜5個のアミノ酸残基を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項5】
置換環が1,3,5置換6員環であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項6】
置換環が三置換シクロヘキサンであることを特徴とする請求項5に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項7】
置換環が三置換フェニルであることを特徴とする請求項5に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項8】
Yはそれぞれ、−OH,−OCH3,−OCH2CH3,−NHCH3,xが1〜9の整数である直鎖および分岐−NH(CH2)x+1、yが0〜7の整数である直鎖および分岐NHC(CH3)(CH2)y+lCH3、−NH(CH2)9CH3,−NH(CH210CH3,−NHC(CH3)(CH2) 5(CH3),−NH−ナフチル,−NHCH2Ph,−NH(CH2)2Ph, −NHPhOMe,−NH−キノリンならびにNHPhNO2から成る群から独立して選択されることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項9】
1個もしくは複数のX−Z基における、Xならびに1個もしくは複数の−X−Am−(Y)n基におけるXが−C(O)−であることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項10】
Zがそれぞれ、OH,COOH,C(O)NHR,NHC(O)RおよびNHRから成る群から独立して選択され、Rが請求項2に定義されるように、独立して選ばれることを特徴とする請求項2〜9のいずれか1項に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項11】
−X−Zが−COOH,−C(O)−NH2,−C(O)−NHCH3,−C(O)−NH−(CH22−OH,−C(O)−NH−(CH22−O−(CH22−OH,C(O)OCH2Phおよび−C(O)NHCH2−pyrから成る群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項12】
アミノ酸がα−アミノ酸から成る群、好ましくはロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、リジン、バリン、プロリン、メチオニン、グリシン、ヒスチジン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびアルギニンならびにそれらの誘導体から成る群から選択されることを特徴とする請求項2〜11のいずれか1項に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項13】
少なくとも1個の置換基が開裂部分を含み、開裂が関心物質の放出となることを特徴とする請求項2〜12のいずれか1項に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項14】
関心物質が、そのC=O末端で酵素的に開裂するアミノ酸部分を含むリンカを介して結合され、前記アミノ酸部分が好ましくはフェニルアラニンに基づき、前記関心物質が好ましくは生理活性剤であり、より好ましくは薬剤活性剤であることを特徴とする請求項13に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤。
【請求項15】
請求項2〜14のいずれか1項に記載の三置換増粘剤またはゲル化剤と、関心物質との複合体であって、関心物質が好ましくは生理活性剤、より好ましくは薬剤活性剤であることを特徴とする複合体。
【請求項16】
関心物質が疎水性物質であることを特徴とする請求項15に記載の複合体。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1項に定義される三置換増粘剤もしくはゲル化剤、または請求項15もしくは16に記載の複合体と溶媒とを混合することと、粘性またはゲル化溶媒を得るために混合物をトリガすることとを含む溶媒のゲル化または増粘化方法。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか1項に定義される三置換増粘剤もしくはゲル化剤、または請求項15もしくは16に記載の複合体を溶液の形で溶媒に噴霧すること、あるいは請求項1〜14のいずれか1項に定義される三置換増粘剤もしくはゲル化剤、または請求項15もしくは16に記載の複合体の溶液に溶媒を噴霧することを含む、溶媒のゲル化または増粘化方法。
【請求項19】
溶媒が、芳香族炭化水素、非芳香族炭化水素、アルコール、エーテル、エステル、アルデヒド、ケトン、アルカン酸、エポキシド、アミン、ハロゲン化炭化水素、シリコン油、植物油、リン酸、スルホキシド、アミド、ニトリル、水およびその混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ゲル化剤または増粘剤を、得られる混合物の重量に基づいて、0.01〜50wt.%の間、好ましくは0.1〜50wt.%、より好ましくは0.4〜50wt.%の量の溶媒と混合する、または溶媒に噴霧することを特徴とする請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ゲルの形成が、混合物の加熱の後の冷却、pHの変更、超音波処理、光の使用および/または化学誘導物質によってトリガされることを特徴とする請求項17〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
混合物が20〜200℃、好ましくは50〜150℃の温度まで加熱されることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
混合物が−20〜100℃、好ましくは15〜30℃の範囲の温度まで冷却されることを特徴とする請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜14のいずれかに定義される1以上の三置換増粘剤もしくはゲル化剤、または請求項15もしくは16に記載の複合体を含むことを特徴とする請求項17〜23のいずれか1項に記載の方法によって得られるゲルまたは増粘化流体。
【請求項25】
(i)請求項2〜16のいずれか1項に記載の1以上の三置換増粘剤もしくはゲル化剤、または請求項15もしくは16に記載の複合体と、(ii)1以上の溶媒、好ましくは請求項19で定義される1以上の溶媒とを含むことを特徴とするゲルまたは増粘化流体。
【請求項26】
請求項24または25に記載の粘性溶媒または粘性流体を、メタセシス反応を行うことによってゲルに変換する方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法によって得られるゲル。
【請求項28】
前記ゲル化剤または増粘剤によって形成される繊維を含み、繊維の数平均厚みが1〜10nmの範囲であることを特徴とする請求項24,25または27のいずれかに記載のゲル。
【請求項29】
特に1nm〜100μm、好ましくは1〜250nm、より好ましくは1〜100nmの範囲の直径を有する粒子を含むことを特徴とする請求項24,25,27または28のいずれか1項に記載のゲルまたは粘性流体。
【請求項30】
粒子が生理活性剤、好ましくは薬剤活性剤を含むことを特徴とする請求項29に記載のゲルまたは粘性流体。
【請求項31】
キラル認識、触媒の共有結合を目的とするクロマトグラフィ支持体、またはドラッグデリバリ媒体としての請求項24,25,または27〜30のいずれか1項に記載のゲルまたは粘性流体の使用。
【請求項32】
ゲルまたは粘性溶液などの粘性流体を含む医薬品であって、ゲルまたは粘性流体が請求項2〜14のいずれか1項に記載の増粘剤またはゲル化剤あるいは請求項15または16に記載の複合体を含むことを特徴とする医薬品。
【請求項33】
ゲルまたは粘性溶液などの粘性流体を含む化粧品であって、ゲルまたは粘性流体が請求項2〜14のいずれか1項に記載の増粘剤またはゲル化剤あるいは請求項15または16に記載の複合体を含むことを特徴とする化粧品。
【請求項34】
デオドラント、局所使用の化合物および目に使用する化合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項32または33に記載の化合物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−510791(P2007−510791A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539409(P2006−539409)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000723
【国際公開番号】WO2005/047231
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(506158876)アプライド ナノ システムズ ベー.フェー. (1)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANO SYSTEMS B.V.
【住所又は居所原語表記】Nieuwe Kerkhof 6,Groningen The Netherlands
【Fターム(参考)】