説明

非対称型BF3錯体

【課題】本発明は、広い電位窓を有し、特に耐酸化性に優れた電気化学デバイス用電解液の溶媒として有用な非対称型BF錯体を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする非対称型BF錯体を提供することにより上記課題を解決する。


(一般式(1)中、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であり、互いに同じであっても良く、異なっていても良い。また、RおよびRは、分岐していても良く、環を形成していても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い電位窓を有し、特に耐酸化性に優れた電気化学デバイス用電解液を得ることができる非対称型BF錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池に用いられる電解液には、非水溶媒にリチウム塩を溶解した電解液が使用されている。さらに、非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等の混合溶媒が一般的に使用されている。
【0003】
上記のカーボネート系溶媒は、非水溶媒として一般的に使用されているものの、耐酸化性が十分でないという問題があった。そのため、リチウム二次電池の性能向上の観点から、より酸化され難い電解液が望まれていた。一般的には、電解液は酸化および還元を受け難いことが好ましく、言い換えると、電位窓が広い電解液が望まれている。
【0004】
一方、電解液にBF錯体を添加したリチウム二次電池が知られている。例えば特許文献1においては、容量減衰率抑制添加剤としてBF錯体を用いた非水系リチウム電池が開示されている。特許文献1は、添加剤としてBF錯体を用いることにより、長期使用に伴うリチウム二次電池の容量低下の防止を図るものであった。また、特許文献2においては、三フッ化ホウ素のウェルナー型錯体を含有する非水電解質二次電池が開示されている。特許文献2は、添加剤としてBF錯体を用いることにより、LiF等のハロゲンリチウムの被膜が負極表面に生じることを防止し、電池インピーダンスの増加を抑制することを目的とするものであった。
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2のいずれにおいても、BF錯体はあくまで添加剤としての使用であり、その使用量は極少量であった。具体的には、特許文献1においては、電解質に対して1〜5重量%程度であり、特許文献2においては、電解液全体に対して0.5〜5重量%程度であった。さらに、特許文献1および特許文献2においては、電解液の電位窓を広くし、リチウム二次電池の性能を向上させる旨の記載は一切無かった。
【0006】
なお、特許文献3には、電極活物質に、さらにBF錯体等の両性化合物を含むリチウム二次電池用電極活物質が開示されている。
【特許文献1】特開平11−149943号公報
【特許文献2】特開2000−138072号公報
【特許文献3】特開2005−510017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、広い電位窓を有し、特に耐酸化性に優れた電気化学デバイス用電解液の溶媒として有用な非対称型BF錯体を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては、下記一般式(1)で表されることを特徴とする非対称型BF錯体を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(1)中、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であり、互いに同じであっても良く、異なっていても良い。また、RおよびRは、分岐していても良く、環を形成していても良い。)
本発明によれば、BFのホウ素の空軌道に配位する有機分子(エステル)が、B−O結合に対して、非対称となる構造を有していることから、結晶構造が形成されにくく、類似の対称型BF錯体と比較して、融点および融解熱の低い錯体とすることができる。そのため、本発明の非対称型BF錯体は、例えば電気化学デバイス用電解液の溶媒として有用である。
【0011】
上記発明においては、上記非対称型BF錯体が、下記構造式(1a)〜(1c)で表される錯体からなる群から選択される一種であることが好ましい。電気化学デバイス用電解液の溶媒として特に有用だからである。
【0012】
【化2】

【0013】
また、本発明においては、上述した非対称型BF錯体を溶媒として含有することを特徴とする電気化学デバイス用電解液を提供する。本発明によれば、非対称型BF錯体を溶媒として用いることにより、広い電位窓を有する電気化学デバイス用電解液を得ることができる。
【0014】
また、本発明においては、下記一般式(2)で表される非対称型BF錯体を溶媒として含有することを特徴とする電気化学デバイス用電解液を提供する。
【0015】
【化3】

【0016】
(一般式(2)中、RおよびRは、炭素数1〜5のアルキル基であり、互いに異なるアルキル基である。)
本発明によれば、非対称型BF錯体を溶媒として用いることにより、広い電位窓を有する電気化学デバイス用電解液を得ることができる。
【0017】
上記発明においては、上記非対称型BF錯体が、下記構造式(2a)で表される錯体であることが好ましい。電気化学デバイス用電解液の溶媒として特に有用だからである。
【0018】
【化4】

【0019】
また、本発明においては、正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置されたセパレータと、少なくとも上記セパレータに含浸された電解液とを有するリチウム二次電池であって、上記電解液が、上述した電気化学デバイス用電解液であることを特徴とするリチウム二次電池を提供する。
【0020】
本発明によれば、上述した非対称型BF錯体を溶媒として含有する電解液を用いることにより、高電圧で使用可能なリチウム二次電池とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、電気化学デバイス用電解液の溶媒として有用な非対称型BF錯体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の非対称型BF錯体、電気化学デバイス用電解液、およびリチウム二次電池について詳細に説明する。
【0023】
A.非対称型BF錯体
まず、本発明の非対称型BF錯体について説明する。本発明の非対称型BF錯体は、上述した一般式(1)で表されることを特徴とするものである。
【0024】
本発明によれば、BFのホウ素の空軌道に配位する有機分子(エステル)が、B−O結合に対して、非対称となる構造を有していることから、結晶構造が形成されにくく、類似の対称型BF錯体と比較して、融点および融解熱の低い錯体とすることができる。そのため、本発明の非対称型BF錯体は、例えば電気化学デバイス用電解液の溶媒として有用である。
【0025】
一般的に、BFに有機分子が配位したBF錯体は、常温で固体である場合が多く、例えば電気化学デバイス用電解液の溶媒として使用するためには、他の有機溶媒と混合する必要がある。この時、BF錯体の融点が高く、融解エネルギーが大きい場合、常温で液体の混合溶媒を得るには多量の有機溶媒を混合する必要があり、BF錯体の特徴である電気化学的な安定性が低下してしまうという問題がある。本発明においては、結晶構造を形成しにくくするために、有機分子の対称性を敢えて崩した非対称型BF錯体とした。これにより、類似する対称型BF錯体と比較して、非対称型BF錯体の融点および融解熱を低くすることができ、その結果、単独で溶媒として使用可能な非対称型BF錯体、または少量の有機溶媒の添加で液体となる非対称型BF錯体とすることができる。
【0026】
すなわち、本発明の非対称型BF錯体は、電気化学デバイス用電解液の溶媒として非常に有用である。そのため、本発明においては、上記一般式(1)で表されることを特徴とする、電気化学デバイス用電解液の溶媒を提供することができる。
【0027】
一般式(1)において、RおよびRは、通常、炭素数1〜6のアルキル基であるが、その炭素数は1〜3の範囲内であることが好ましく、1〜2の範囲内であることがより好ましい。なお、RおよびRは、分岐を有しないアルキル基であっても良く、分岐を有するアルキル基であっても良いが、分岐を有しないアルキルであることが好ましい。また、RおよびRは、互いに同じであっても良く、異なっていても良い。本発明において、RおよびRは、分岐していても良く、環を形成していても良い。中でも、本発明においては、BFに配位するエステル分子が、5員環または6員環を有していることが好ましい。
【0028】
本発明においては、BFに配位するエステル分子が、環状エステルであっても良く、鎖状エステルであっても良い。上記環状エステルとしては、例えば、ガンマブチロラクトン(GBL)およびガンマバレロラクトン(GVL)等を挙げることができる。一方、上記鎖状エステルとしては、例えば、エチルプロピオネート(EP)、メチルプロピオネート(MP)、エチルアセテート(EA)、メチルアセテート(MA)等を挙げることができる。
【0029】
本発明においては、非対称型BF錯体が、下記構造式(1a)〜(1c)で表される錯体からなる群から選択される一種であることが好ましい。電気化学デバイス用電解液の溶媒として特に有用だからである。なお、本発明においては、構造式(1a)を「BF−GBL錯体」、構造式(1b)を「BF−EP錯体」、構造式(1c)を「BF−MP錯体」と称する場合がある。
【0030】
【化5】

【0031】
本発明の非対称型BF錯体の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料エステルに、BFガスを通気する方法等を挙げることができる。なお、非対称型BF錯体は、例えば炭素−核磁気共鳴法(13C−NMR法)および水素−核磁気共鳴法(H−NMR法)により同定することができる。
【0032】
B.電気化学デバイス用電解液
次に、本発明の電気化学デバイス用電解液について説明する。本発明の電気化学デバイス用電解液は、非対称型BF錯体を溶媒として含有するものであるが、その非対称型BF錯体の構造に応じて、2つの実施態様に大別することができる。以下、本発明の電気化学デバイス用電解液について、第一実施態様と第二実施態様とに分けて説明する。
【0033】
1.第一実施態様
まず、本発明の電気化学デバイス用電解液の第一実施態様について説明する。本実施態様の電気化学デバイス用電解液は、上述した一般式(1)で表される非対称型BF錯体を溶媒として含有することを特徴とするものである。
【0034】
本実施態様によれば、非対称型BF錯体を溶媒として用いることにより、広い電位窓を有する電気化学デバイス用電解液を得ることができる。本実施態様に用いられる非対称型BF錯体は、BF部分の酸性が非常に強いため、配位している有機分子(エステル)の電子はBF部分に引き寄せられる。そのため、錯体の有機分子部分の耐酸化性が向上し、広い電位窓を有する電解液とすることができる。
【0035】
さらに、上記「A.非対称型BF錯体」に記載したように、本実施態様に用いられる非対称型BF錯体は、非対称構造を有するため、類似する対称型BF錯体と比較して、非対称型BF錯体の融点および融解熱を低くすることができる。そのため、例えば非対称型BF錯体が常温で固体であっても、少量の有機溶媒の添加で液体とすることができ、溶媒組成を幅広く選択できるという利点を有する。
【0036】
本実施態様の電気化学デバイス用電解液は、上述した一般式(1)で表される非対称型BF錯体を溶媒として含有するものである。本実施態様においては、非対称型BF錯体が、全溶媒に対して、通常10重量%以上であり、20重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましい。
以下、本実施態様の電気化学デバイス用電解液について、構成ごとに説明する。
【0037】
(1)非対称型BF錯体
本実施態様に用いられる非対称型BF錯体については、上記「A.非対称型BF錯体」に記載した内容と同様である。
【0038】
中でも、本実施態様においては、非対称型BF錯体のBFに配位するエステルが、環状エステルであることが好ましい。具体的には、環状エステルがGBLまたはGVLであることが好ましく、中でもGBLが好ましい。すなわち、本実施態様においては、非対称型BF錯体が、BF−GBL錯体(上述した構造式(1a)で表される錯体)であることが好ましい。耐酸化性が顕著に優れた電気化学デバイス用電解液とすることができるからである。具体的には、後述するように、ジエチルカーボネート(DEC)およびエチレンカーボネート(EC)の混合溶媒を用いた場合と比較して、DECおよびBF−GBL錯体の混合溶媒を用いると、電気化学デバイス用電解液の耐酸化性が大きく向上する。
【0039】
また、本実施態様においては、非対称型BF錯体が、BF−MP錯体(上述した構造式(1c)で表される錯体)であることが好ましい。耐酸化性のみならず、耐還元性にも優れた電気化学デバイス用電解液とすることができるからである。耐還元性に優れる理由は、必ずしも明らかではないが、非対称型BF錯体が還元分解することで、良好な皮膜を形成するためであると考えられる。MP(メチルプロピオネート)は、BFに配位することで錯体となり、耐酸化性を大きく向上させる。耐酸化性を向上させると、耐還元性が相対的に低下する場合もあるが、BF−MP錯体を用いた場合は、耐還元性をも向上させることができるという異質な効果を有する。
【0040】
(2)電気化学デバイス用電解液の溶媒
本実施態様においては、上述した一般式(1)で表される非対称型BF錯体を溶媒として用いる。例えば非対称型BF錯体の融点が充分に低い場合は、電気化学デバイス用電解液に用いる溶媒が、全て非対称型BF錯体であっても良い。一方、非対称型BF錯体の融点が常温よりも高い場合は、通常、非対称型BF錯体以外の溶媒を併用する。本実施態様に用いられる非対称型BF錯体は、融解熱が低いため、溶媒組成を幅広く選択することができるという利点を有している。なお、好ましい溶媒組成については、上述した通りである。
【0041】
非対称型BF錯体以外の溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、およびエチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、およびメチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;メトキシプロピオニトリル、およびアセトニトリル等のニトリル類;酢酸メチル等のエステル類;トリエチルアミン等のアミン類;メタノール等のアルコール類;およびアセトン等のケトン類;等を挙げることができ、中でもカーボネート類が好ましい。また、非対称型BF錯体以外の溶媒として、非対称型BF錯体のBFに配位する有機分子を用いても良い。
【0042】
(3)電気化学デバイス用電解液の電解質
本実施態様に用いられる電解質は、上記非対称型BF錯体を含む溶媒に溶解するものであれば特に限定されるものではない。また、上記電解質の種類としては、電解液の用途により異なるものであるが、例えば、Li塩、Na塩および四級アンモニウム塩等を挙げることができ、中でもLi塩が好ましい。リチウム二次電池に用いることができるからである。
【0043】
上記Li塩としては、一般的なLi塩を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、LiN(SOCF(LiTFSIと称する場合がある。)、LiN(SO(LiBETIと称する場合がある。)、LiClO、LiBFおよびLiPF等を挙げることができ、中でもLiN(SOCFおよびLiN(SOが好ましい。LiTFSIやLiBETI等のリチウムイミド塩は熱分解温度が高く、フッ化水素(HF)の発生を抑制することができるからである。
【0044】
電気化学デバイス用電解液における電解質の濃度は、特に限定されるものではなく、一般的な電解液の濃度と同様であり、特に限定されるものではないが、通常1mol/L程度である。
【0045】
(4)その他
本実施態様の電気化学デバイス用電解液の用途としては、例えば、二次電池、キャパシタまたはセンサ等を挙げることができ、中でも二次電池およびキャパシタが好ましく、特に二次電池が好ましい。さらに、上記二次電池の中でも、本実施態様の電気化学デバイス用電解液は、リチウム二次電池用として用いることが好ましい。
【0046】
2.第二実施態様
次に、本発明の電気化学デバイス用電解液の第二実施態様について説明する。本実施態様の電気化学デバイス用電解液は、下記一般式(2)で表される非対称型BF錯体を溶媒として含有することを特徴とするものである。
【0047】
【化6】

【0048】
(一般式(2)中、RおよびRは、炭素数1〜5のアルキル基であり、互いに異なるアルキル基である。)
本実施態様によれば、非対称型BF錯体を溶媒として用いることにより、広い電位窓を有する電気化学デバイス用電解液を得ることができる。本実施態様に用いられる非対称型BF錯体は、BF部分の酸性が非常に強いため、配位している有機分子(カーボネート)の電子はBF部分に引き寄せられる。そのため、錯体の有機分子部分の耐酸化性が向上し、広い電位窓を有する電解液とすることができる。
【0049】
さらに、上記「A.非対称型BF錯体」に記載したように、本実施態様に用いられる非対称型BF錯体も、非対称構造を有するため、類似する対称型BF錯体と比較して、非対称型BF錯体の融点および融解熱を低くすることができる。そのため、例えば非対称型BF錯体が常温で固体であっても、少量の有機溶媒の添加で液体とすることができ、溶媒組成を幅広く選択できるという利点を有する。
【0050】
本実施態様の電気化学デバイス用電解液は、上述した一般式(2)で表される非対称型BF錯体を溶媒として含有するものである。本実施態様において、非対称型BF錯体は、全溶媒に対して、通常10重量%以上であり、20重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましい。
以下、本実施態様の電気化学デバイス用電解液について、構成ごとに説明する。
【0051】
(1)非対称型BF錯体
まず、本実施態様に用いられる非対称型BF錯体について説明する。本実施態様に用いられる非対称型BF錯体は、上述した一般式(2)で表されるものである。なお、本実施態様に用いられる非対称型BF錯体は非対称構造を有することから、上述した第一実施態様と同様に、電気化学デバイス用電解液の溶媒として非常に有用である。そのため、本実施態様においては、上記一般式(2)で表される、電気化学デバイス用の溶媒を提供することができる。
【0052】
一般式(2)において、RおよびRは、通常、炭素数1〜5のアルキル基であるが、その炭素数は1〜3の範囲内であることが好ましく、1〜2の範囲内であることがより好ましい。なお、RおよびRは、分岐を有しないアルキル基であっても良く、分岐を有するアルキル基であっても良いが、分岐を有しないアルキルであることが好ましい。また、RおよびRは、互いに異なるアルキル基である。同じアルキル基であると、非対称構造とならないからである。
【0053】
特に、本実施態様においては、非対称型BF錯体が、下記構造式(2a)で表される錯体であることが好ましい。電気化学デバイス用電解液の溶媒として特に有用だからである。なお、本実施態様においては、構造式(2a)を「BF−EMC錯体」と称する場合がある。
【0054】
【化7】

【0055】
本実施態様に用いられる非対称型BF錯体の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料カーボネートに、BFガスを通気する方法等を挙げることができる。なお、非対称型BF錯体は、例えば炭素−核磁気共鳴法(13C−NMR法)および水素−核磁気共鳴法(H−NMR法)により同定することができる。
【0056】
(2)電気化学デバイス用電解液の溶媒
本実施態様においては、上述した一般式(2)で表される非対称型BF錯体を溶媒として用いる。例えば非対称型BF錯体の融点が充分に低い場合は、電気化学デバイス用電解液に用いる溶媒が、全て非対称型BF錯体であっても良い。一方、非対称型BF錯体の融点が常温よりも高い場合は、通常、非対称型BF錯体以外の溶媒を併用する。本実施態様に用いられる非対称型BF錯体は、融解熱が低いため、溶媒組成を幅広く選択することができるという利点を有している。なお、好ましい溶媒組成については、上述した通りである。
【0057】
非対称型BF錯体以外の溶媒については、上記「1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。また、本実施態様に用いられる電解質、本実施態様の電気化学デバイス用電解液の用途、およびその他の事項についても、上記「1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0058】
C.リチウム二次電池
次に、本発明のリチウム二次電池について説明する。本発明のリチウム二次電池は、正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置されたセパレータと、少なくとも上記セパレータに含浸された電解液とを有するリチウム二次電池であって、上記電解液が、上述した電気化学デバイス用電解液であることを特徴とするものである。
【0059】
本発明によれば、上述した非対称型BF錯体を溶媒として含有する電解液を用いることにより、高電圧で使用可能なリチウム二次電池とすることができる。
【0060】
本発明のリチウム二次電池は、少なくとも正極層、負極層、セパレータおよび電解液を有するものである。なお、電解液については、上記「B.電気化学デバイス用電解液」に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0061】
本発明に用いられる正極層は、少なくとも正極活物質を含有するものである。上記正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiNi0.8Co0.2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.5Mn1.5、LiCoPO、LiMnPO、LiFePO等を挙げることができ、中でもLiCoOが好ましい。また、上記正極層は、通常、導電化材および結着材を含有する。上記導電化材としては、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。上記結着材としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂等を挙げることができる。また、本発明のリチウム二次電池は、通常、正極層の集電を行う正極集電体を有する。上記正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン等を挙げることができる。
【0062】
本発明に用いられる負極層は、少なくとも負極活物質を含有するものである。上記負極活物質としては、例えば金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、およびグラファイト等の炭素材料等を挙げることができ、中でもグラファイトが好ましい。上記負極層は、必要に応じて、導電化材および結着材を含有していても良い。導電化材および結着材については、上記正極層と同様のものを用いることができる。また、本発明のリチウム二次電池は、通常、負極層の集電を行う負極集電体を有する。上記負極集電体の材料としては、例えば銅、ステンレス、ニッケル等を挙げることができる。
【0063】
本発明に用いられるセパレータとしては、一般的なリチウム二次電池に用いられるセパレータ基材と同様のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロースおよびポリアミド等の樹脂を挙げることができ、中でもポリエチレンおよびポリプロピレンが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースの形状としては、上述した正極層、負極層およびセパレータを収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1−1]
原料エステルとしてガンマブチロラクトン(GBL)を用意し、0℃窒素雰囲気中でBFガスを20分以上通気したところ、白濁した液体を得た。得られた液体から固体を濾別し、白色のBF−GBL錯体を得た。
次に、得られたBF−GBL錯体の融点および融解熱の測定を行った。この測定は、BF−GBL錯体をSUS密閉容器に封入し、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温条件を2℃/minとし上限温度を180℃とした。その結果、図1に示すように、BF−GBL錯体の融点は70.23℃であり、融解熱は54.16J/gであった。
【0066】
[実施例1−2]
原料エステルとしてエチルプロピオネート(EP)としたこと以外は、実施例1−1と同様にしてBF−EP錯体を得た。
次に、得られたBF−EP錯体の融点および融解熱を、実施例1−1と同様に測定したところ、図2に示すように融点は43.06℃であり、融解熱は76.30J/gであった。
【0067】
[実施例1−3]
原料エステルとしてメチルプロピオネート(MP)としたこと以外は、実施例1−1と同様にしてBF−MP錯体を合成した。なお、本実施例においては、BFガスを通気させた後に、液体を冷却した状態で固体を濾別した。得られたBF−MP錯体は、常温で液体であった。
【0068】
[実施例1−4]
原料エステルの代わりに、原料カーボネートとしてエチルメチルカーボネート(EMC)を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にしてBF−EMC錯体を得た。
次に、得られたBF−EMC錯体の融点および融解熱を、実施例1−1と同様に測定したところ、図3に示すように融点は65.43℃であり、融解熱は63.98J/gであった。
【0069】
[比較例1−1]
対称型の有機分子として、ジメチルカーボネート(DMC)を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてBF−DMC錯体を得た。
次に、得られたBF−DMC錯体の融点および融解熱を、実施例1−1と同様に測定したところ、融点は110.79℃であり、融解熱は125.5J/gであった。
【0070】
[比較例1−2]
対称型の有機分子として、ジエチルカーボネート(DEC)を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてBF−DEC錯体を得た。
次に、得られたBF−DEC錯体の融点および融解熱を、実施例1−1と同様に測定したところ、融点は58.45℃であり、融解熱は156.4J/gであった。
以上の結果を下記表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、実施例においては、いずれも融点および溶解熱が低かった。これに対して、比較例1−1の対称型BF錯体は、融点および融解熱の両方が高かった。比較例1−2の対称型BF錯体は、融点は低いものの、溶融熱が高く、常温で液体の電解液を得るためには、他の有機溶媒を多量に添加しなければならなかった。
【0073】
[実施例2−1]
実施例1−1で得られたBF−GBL錯体とジエチルカーボネート(DEC)とを、モル比1:1となるように混合し、均一な混合溶媒を得た。得られた混合溶媒にLiPFを1M溶解し電気化学デバイス用電解液を得た。
【0074】
[比較例2−1]
BF−GBL錯体の代わりに、エチレンカーボネート(EC)を用いたこと以外は、実施例2−1と同様にして電気化学デバイス用電解液を得た。
【0075】
[評価]
実施例2−1および比較例2−1で得られた電気化学デバイス用電解液の酸化電位を測定した。酸化電位の測定は、作用極にグラッシーカーボン、並びに、対極および参照極にリチウム金属を備えた3極式セルを用いて、リニアスィープボルタンメトリー法により行った。測定の際、作用極の電位を浸漬電位から高電位側に掃引した。掃引速度は5mVsec−1であった。
その結果(LSV曲線)を図4に示す。図4に示されるように、比較例2−1の電気化学デバイス用電解液では、電位約6.5VvsLi/Li程度から、電流値の上昇が確認された。作用極にグラッシーカーボンを用いる場合、特に活性なRedOx系が電極中および溶液中に存在しないため、ここで確認された電流は電解液自身の酸化分解によるものであると考えられる。一方、実施例2−1の電気化学デバイス用電解液では、6.5VvsLi/Li以上の電位でもほとんど電流が流れず、本発明の電気化学デバイス用電解液は、耐酸化性に優れていることが明らかになった。
【0076】
[実施例2−2]
実施例1−3で得られたBF−MP錯体とジエチルカーボネート(DEC)とを、モル比1:1となるように混合し、均一な混合溶媒を得た。得られた混合溶媒にLiPFを1M溶解し電気化学デバイス用電解液を得た。
【0077】
[比較例2−2]
BF−MP錯体の代わりに、エチレンカーボネート(EC)を用いたこと以外は、実施例2−2と同様にして電気化学デバイス用電解液を得た。
【0078】
[評価]
実施例2−2および比較例2−2で得られた電気化学デバイス用電解液の還元電位を測定した。還元電位の測定は、作用極にグラッシーカーボン、並びに、対極および参照極にリチウム金属を備えた3極式セルを用いて、リニアスィープボルタンメトリー法により行った。測定の際、作用極の電位を浸漬電位から低電位側に掃引した。掃引速度は5mVsec−1であった。
その結果(LSV曲線)を図5に示す。図5に示されるように、比較例2−2の電気化学デバイス用電解液では、電位約0.5VvsLi/Li程度から、還元電流が確認された。これは、電解液自身の還元分解によるものであると考えられる。一方、実施例2−2の電気化学デバイス用電解液では、−0.2VvsLi/Liまで電流がほとんど流れず電解液の耐還元性が向上していることが確認された。
【0079】
[実施例2−3]
実施例1−4で得られたBF−EMC錯体とEMCとを、モル比1:1となるように混合し、均一な混合溶媒を得た。得られた混合溶媒にLiTFSIを1M溶解し電気化学デバイス用電解液を得た。
【0080】
[比較例2−3]
溶媒としてEMCのみを用いたこと以外は、実施例2−3と同様にして電気化学デバイス用電解液を得た。
【0081】
[評価]
実施例2−3および比較例2−3で得られた電気化学デバイス用電解液の酸化電位を測定した。酸化電位の測定は、作用極にグラッシーカーボン、並びに、対極および参照極にリチウム金属を備えた3極式セルを用いて、リニアスィープボルタンメトリー法により行った。測定の際、作用極の電位を浸漬電位から高電位側に掃引した。掃引速度は5mVsec−1であった。
その結果(LSV曲線)を図6に示す。図6に示されるように、比較例2−3の電気化学デバイス用電解液では、電位約5.2VvsLi/Li程度から、電流値の上昇が確認された。一方、実施例2−3の電気化学デバイス用電解液では、5.6VvsLi/Li程度までほとんど電流が流れず、本発明の電気化学デバイス用電解液は、耐酸化性に優れていることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】BF−GBL錯体のDSCの結果である。
【図2】BF−EP錯体のDSCの結果である。
【図3】BF−EMC錯体のDSCの結果である。
【図4】実施例2−1および比較例2−1で得られた電気化学デバイス用電解液のLSV曲線である。
【図5】実施例2−2および比較例2−2で得られた電気化学デバイス用電解液のLSV曲線である。
【図6】実施例2−3および比較例2−3で得られた電気化学デバイス用電解液のLSV曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする非対称型BF錯体。
【化1】

(一般式(1)中、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であり、互いに同じであっても良く、異なっていても良い。また、RおよびRは、分岐していても良く、環を形成していても良い。)
【請求項2】
前記非対称型BF錯体が、下記構造式(1a)〜(1c)で表される錯体からなる群から選択される一種であることを特徴とする請求項1に記載の非対称型BF錯体。
【化2】

【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非対称型BF錯体を溶媒として含有することを特徴とする電気化学デバイス用電解液。
【請求項4】
下記一般式(2)で表される非対称型BF錯体を溶媒として含有することを特徴とする電気化学デバイス用電解液。
【化3】

(一般式(2)中、RおよびRは、炭素数1〜5のアルキル基であり、互いに異なるアルキル基である。)
【請求項5】
前記非対称型BF錯体が、下記構造式(2a)で表される錯体であることを特徴とする請求項4に記載の電気化学デバイス用電解液。
【化4】

【請求項6】
正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置されたセパレータと、少なくとも前記セパレータに含浸された電解液とを有するリチウム二次電池であって、
前記電解液が、請求項3から請求項5までのいずれかの請求項に記載の電気化学デバイス用電解液であることを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−297219(P2008−297219A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142401(P2007−142401)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】