説明

非常に高効率のフレキシブルな進行波増幅器

【課題】 非常に高効率のフレキシブルな進行波増幅器を提供する。
【解決手段】 カソード、ヘリックス、RF入力部、RF出力部、および複数のコレクタを備える進行波管(226)と、
前記進行波管(226)に電源および電極分極を与える電子電力調整器と
を少なくとも備える進行波管増幅器であって、
前記電子電力調整器が、データバスによって送られる制御コマンドにより、ヘリックス・カソード間電圧およびコレクタ電圧を調節することを可能にするフレキシビリティ制御手段(24)を備える、進行波管増幅器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に高効率のフレキシブルな進行波増幅器に関する。本発明は、とりわけ通信衛星に適用される。
【背景技術】
【0002】
通信衛星は通常、プラットフォームとペイロードとを含み、後者はすべての機器、とりわけ高出力の高周波信号(本明細書では以下RF信号と呼ぶ)を生成し、地面に向けて伝送することを目的とするすべての装置を備える。高出力のRF信号を伝送するために、様々な既知の技法が用いられている。
【0003】
第1の技法は固体技術に基づき、一般にSSPAと呼ばれる固体電力増幅器を伴う。SSPAは、通常要求されるRF電力のレベルを管理する立場にないという欠点をとりわけ有する。
【0004】
第2の技法は、本明細書では以下TWTAと呼ぶ、進行波管増幅器を使用することに基づく。TWTAは、本明細書では以下TWTと呼ぶ、進行波管をとりわけ備える。通信衛星ペイロードは、今日ではTWTAを広範に使用する。TWTAは、高出力のRF伝送チャネルを得るための著しく効率的な装置であり、非常に高レベルの伝送RF電力を管理できるようにする。しかし、TWTAは真空管に基づく技術に依拠し、その技術は非常に厳密なチューニングを、製造段階だけでなく、電気的インターフェイスの精度に関しても要求する。TWTについては、図1を参照して以下により詳細に説明しており、基本的にはRF入力部およびRF出力部と、ヘリックスと、電子ビームを形成する電子を放出するカソード、その電子ビームを集束する「アノードゼロ」または「アノード0」と一般に呼ばれるアノードを含む電極と、複数のコレクタとを備える。
【0005】
さらに、生産される各TWTAは独自のものであり、伝送周波数、伝送電力レベル、および効率の点で、独自の用途のために最適化される。ひとたび設計され、製造され、ことによると最適化されると、TWTAおよびその関連する制御機器は、衛星の組み立て、組み込みおよび試験、ならびにそれらが据え付けられる衛星の飛行中ミッションの間ずっと同じ方法で動作し続けなければならない。つまり、ひとたび通信衛星が組み立てられると、これらの機器は、これらの機器向けに設計された特定の条件の下で運転されなければならない。その上、TWTAの効率性能は周波数に依拠する。したがって、同時に、複数のチャネルにより伝送することを目的とする衛星は、それと同数のTWTAを含まなければならず、費用、重量、および体積の点で関係する結果を伴う。また、15年を超える典型的なミッション期間にわたり、1つのTWTAが通常1つの所与のチャネルにより伝送するように定めることは、ペイロードの設計およびTWTAの調達を非常に制約的にし、リスクマネジメントに関して厳しい制約を生じさせる。
【0006】
広帯域TWTAが従来技術で知られているが、既存の装置は、より狭いRF帯域において最適化されるアナログTWTAに比べ、一般的に約2パーセントの効率低下をきたす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したすべての理由から、通信衛星ペイロード開発の非常に長期にわたり、かつ費用のかかる部分は、チャネルの数、周波数および電力の割当、プラットフォームに対する電力需要の最小化の点で、所与の信頼性要件の範囲内で最終的な顧客のニーズに対する技術的対処法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの狙いは、広帯域TWTAのように幅広い周波数にわたり動作させることができながら、チューニングされた既知の狭帯域TWTAの効率と同様の効率を示すTWTAを提案することにより、少なくとも上記に述べた欠点を軽減することである。
【0009】
本発明の1つのさらなる利点は、TWTAが、地上のみならず、衛星ミッションにわたる飛行中運転の間も容易に制御される能力を提供することである。
【0010】
本発明の1つのさらなる利点は、記載する実施形態のうちの1つによるTWTAが、既存の任意の高圧電子回路に適応可能であり得る制御電子機器を使用することである。
【0011】
本発明の1つのさらなる利点は、本発明の実施形態に従うTWTAのうちで制御されるすべてのTWTが広帯域にわたって動作可能なので、本発明が、所与の応用例について、搭載されたTWTの冗長性(redundancy)に頼るのを減らすことである。
【0012】
本発明の1つのさらなる利点は、本発明が、衛星ペイロードの寿命全体を通して、ペイロードの全体的な効率に影響を及ぼすことなく、ミッションプロファイル適応を可能にすることである。
【0013】
本発明の1つのさらなる利点は、本発明が、特定の応用例において移相器専用ハードウェアを置換する機会を与える、位相のフレキシビリティを提供することである。
【0014】
以下に挙げるすべての利点は、計画、重量、費用、および障害処理の最適化の点で利益を示す。
【0015】
そのために本発明は、カソード、ヘリックス、RF入力部、RF出力部、および複数のコレクタCを備える進行波管と、前記進行波管に電源および電極分極を与える電子電力調整器とを少なくとも備える進行波管増幅器であって、前記電子電力調整器が、TWTの動作周波数を最適な効率を示す決められた範囲内で調節できるようにするために、制御コマンドによりヘリックス・カソード間電圧を調節することを可能にするフレキシビリティ制御手段を備えることを特徴とする、進行波管増幅器を提案する。
【0016】
本発明の例示的実施形態では、フレキシビリティ制御手段は、コレクタC電圧を調節するように構成することもでき、ヘリックス・カソード間電圧と、コレクタC電圧との間の比は一定のままである。
【0017】
本発明の例示的実施形態では、制御コマンドはデータバスを介して送ることができる。
【0018】
本発明の例示的実施形態では、電子電力調整器は、多段高圧トランスを含む高圧発生/制御手段を駆動する電力セルを含む一次制御手段を備えることができ、その多段高圧トランスの一次側は前記電力セルによって制御され、前記少なくとも1つのコレクタ、カソード、およびヘリックスによって要求される高圧を発生させ、前記フレキシビリティ制御手段は、電圧制御ループを駆動する電圧基準を調節するための手段を備え、前記電圧制御ループは、パルス幅変調により電力セルを駆動する。
【0019】
本発明の例示的実施形態では、高圧発生/制御手段は、前記多段高圧トランスの二次側に取り付けられ、前記フレキシビリティ制御手段内に含まれるヘリックス・カソード間電圧基準に合わせて調節されるヘリックス・カソード間電圧を供給するレギュレータを備えることができる。
【0020】
本発明の例示的実施形態では、フレキシビリティ制御手段は、前記制御コマンドから信号制御ワードを発行するデコーダをさらに備えることができ、前記ヘリックス・カソード間電圧基準は、前記データバスを介して送られる入力2進ワードに基づいてデコーダによって生成される2進出力ワードを変換する第1のデジタル−アナログ変換器を備えることができる。
【0021】
本発明の例示的実施形態では、電圧基準を調節するための前記手段は、前記データバスを介して送られる入力2進ワードに基づいてデコーダによって生成される2進出力ワードを変換する、第2のデジタル−アナログ変換器を備えることができる。
【0022】
本発明の例示的実施形態では、前記デコーダは、ヘリックス・カソード間電圧基準に向けてnビットの出力ワードを生成し、データバスから受け取るnビットの入力ワードに基づき、電圧基準を調節するための手段に向けてnよりも小さいmビットの出力ワードを生成することができる。
【0023】
本発明の例示的実施形態では、電圧基準を調節するための手段に向けられる出力ワードのビット数mは、RF信号の位相を調節可能なように選択することができる。
【0024】
本発明の例示的実施形態では、高圧発生/制御手段は、レギュレータによって駆動され、そのエミッタが放散要素を介してグラウンドに取り付けられる、バイポーラトランジスタによって形成されるヘリックス電圧精度コントローラにも接続される高圧トランスの二次側をその入力部において備える、高圧発生/制御モジュール内に実装することができる。
【0025】
説明的かつ非限定的な例としてのみ与える、以下に示す好ましい実施形態の詳細な説明ならびに添付図面に照らし、本発明のこれらのおよび他の特徴ならびに利点をより明確にする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来技術で知られている典型的なTWTを示す透視図である。
【図2】本発明の例示的実施形態による、フレキシブルな進行波管増幅器、すなわちTWTA内に含まれる電子電力調整器つまりEPCを示す機能ブロック図である。
【図3】本発明の例示的実施形態による、フレキシブルな進行波増幅器の一部であるEPCを示す簡略化した電気回路図である。
【図4】本発明の例示的実施形態による、フレキシブルなTWTAの一部であるEPCの高圧ステージの一部を示す簡略化した電気回路図である。
【図5】本発明の例示的実施形態による、フレキシブルなTWTA内に含まれるフレキシビリティ制御モジュールを示す簡略化した電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、従来技術で知られている典型的なTWTを示す透視図を提示する。TWTは、TWTA内に含まれる主要な要素の1つである。
【0028】
TWT10は、基本的には高周波入力部12および高周波出力部14と、アノードゼロ13によって集束/調節され、複数のコレクタ19に至るまでヘリックス18を通る電子ビーム17を生成する電子銃を形成するカソード15とを備える、細長い真空管である。
【0029】
カソード15は熱せられ、その端部の一方において電子を放出する。集束された電子ビーム17としてその電子を含むように、実質的にヘリックス18の周りに磁界を発生させる。電子ビームは、ヘリックス18の中間軸(middle axis)に沿って通過する。ヘリックス18は、RF入力部12からRF出力部14へと伸びている。電子ビーム17は最終的にコレクタ19に衝突している。RF信号が、電子ビーム17の速度に近い速度でヘリックス18に沿って進む。増幅効果は、ヘリックス18内のRF信号によって誘起される電磁界と、電子ビーム17との間の量子現象による相互作用に起因する。エネルギに関してTWTの発生量を改善する、つまり電子ビーム17の終端において依然として入手可能なエネルギを再利用することを最適化するために、複数、典型的には4つまたは5つのコレクタ19を用いることができる。
【0030】
TWTAは通常、本明細書では以下EPCと呼ぶ追加の電子電力調整器に関連するTWTを備え、EPCの目的は、TWTに所要の電気的動作条件を供給することである。このEPCは、通常はバスを介してエネルギを供給され、TWTの性能、つまり電力伝達の効率および安定性を保証できるようにする精度レベルで、TWT内に含まれる電極のそれぞれに関して要求される電圧供給レベルを生成するDC−DC変換器である。とりわけ、ヘリックス18とカソード15との間の高圧は、TWTの性能を決定するので十分に正確でなければならない。実際に、ヘリックス−カソード間電圧について言えば、数キロボルトに達する部類の電圧では1ボルト程度の精度が要求され、例えば、Kuバンド内の応用例でのヘリックスとカソードとの間の所要電圧は、典型的には6キロボルトから7.5キロボルト程度である。前記電圧レベルの制御はEPCによって管理される。
【0031】
アノードゼロ13または「アノード0」と呼ばれる電極は、カソード15によって生成される電子ビーム17を制御できるようにする。
【0032】
TWTAのある特定の種類は一般にLTWTAと呼ばれ、「線形化TWTA」を意味する。LTWTAは、RF入力部12とともにRF信号レベルを調整し、特にTWTによってもたらされるスプリアス非線形現象(spurious nonlinearity phenomena)に対する補償を行うことを目指す追加の線形前置増幅器を備える。本明細書の以下に記載する本発明の実施形態は、とりわけ両方の種類のTWTAに適用することができる。
【0033】
通常、従来技術で既に知られているTWTでは、TWTの製造業者が、真空管のチューニングパラメータに従い、EPCに分極パラメータ(polarization parameters)を指定する。特に、ヘリックス電圧は周波数動作点を固定する一方で、コレクタ電圧はTWTの全体的な効率を最適化するようにチューニングされる。TWTAの動作点が固定された途端、そのTWTAは、動作点がチューニングされた周波数とは別の周波数における安全かつ効率的な条件で動作することができなくなる。本発明は、予期される周波数偏位によって固定される範囲内にヘリックス電圧値を制御することとともに、効率の最適条件を維持するためにコレクタ電圧を関連して補正することにより、TWTAにフレキシビリティを与えることを提案する。制御することは、例えばミッションに着手する前に地上で行うことができるが、衛星の飛行中ミッションの間中、遠隔的に、例えば衛星に搭載された通信データバスを介して行うこともできる。
【0034】
最大範囲のフレキシビリティにわたりヘリックス電圧を制御することは、例えばTWTの動作周波数を許容RF帯域の下部から上部に、またはその逆に移すことを可能にする一方で、その制御の分解能は、関連のある電圧変化に由来する、RF信号位相の小さな変化も与えられるようにする。したがって、提案するフレキシビリティはTWTの出力位相を補正する機会も与え、出力位相を補正できることは、高価な移相装置に通常は頼る非常に正確な位相チューニングを並列化TWTAが必要とする、頭字語MPAの形で一般に呼ばれるマルチポート増幅器において特に有用であり得る特徴である。MPAは、複数の並列化TWTAによって生成される位相コヒーレント信号を追加することにより、より強力な信号を生成できるようにする。
【0035】
本発明によれば、TWTの動作周波数の起こり得る変化に関係なく最適な効率を可能にするためにヘリックス・カソード間電圧を適応させることができ、増幅器の効率を最適に保つために、専用の制御機器により、ヘリックス・カソード間電圧を制御するのと同時にコレクタ電圧を制御することを提案する。
【0036】
本発明は、TWTAのEPC内に実装される適切な手段によって実現可能である。
【0037】
図2は、本発明の例示的実施形態による、フレキシブルな進行波管増幅器、すなわちTWTA内に含まれる電子電力調整器つまりEPCを示す機能ブロック図を提示する。
【0038】
図面によって示す非限定的な例では、フレキシブルなTWTAが、高圧発生/制御手段22を駆動し、かつフレキシビリティ制御手段24とインターフェイスする、一次電力制御手段20を備える。
【0039】
この一次電力制御手段20は、一次電力バスから一次電力を受電し、以下に記載する高圧トランス220の一次側の制御を保証する電力セル200を備え、そのようにして例えば2つの入れ子型ループにより電力調節(power regulation)を管理し、1つの電流制御ループ204がパルス幅変調により電力セルを駆動し、その電流制御ループ204は、電流検出手段202および電圧制御ループ206によって駆動される。本発明の1つの特性は、調節可能な電圧基準208により電圧制御ループ206を駆動できることである。電圧基準208を調節するための手段は、フレキシビリティ制御手段24内に含まれ、本明細書の以下でさらに説明する。一次電力制御手段20は、高圧発生/制御手段22を駆動する。図4を参照することにより、高圧発生/制御モジュールの例示的実施形態を本明細書の以下で説明する。
【0040】
高圧発生/制御手段22は、その入力レベルにおいて多段高圧トランス220を備える。多段高圧トランス220は、整流器およびフィルタをさらに備えることができる。多段高圧トランス220は、進行波管226によって要求される高圧を発生させ、とりわけこの多段高圧トランス220は、複数iのコレクタCのために複数iの電圧を発生させることができ、その上この高圧トランス220は、不図示のレギュレータにより、放出される電力を調節できるようにする「アノード0」電極電圧A0、およびことによると「アノード1」電極電圧A1を発生させることもできる。本発明のもう1つの特性は、ヘリックス・カソード間電圧VKHを、多段高圧トランス220の二次側に取り付けられ、ヘリックス・カソード間電圧設定モジュール224によって駆動されるレギュレータ222を介して供給できることである。ヘリックス・カソード間電圧VKH設定モジュール224は、フレキシビリティ制御手段24内に含まれるヘリックス・カソード間電圧基準244に合わせて調節される。ヘリックス・カソード間電圧基準244は、例えばDACを含むことができ、その例示的実施形態を図5を参照して以下でさらに説明する。
【0041】
フレキシビリティ制御手段24は、データバスから2進ワードを受け取るnビットデコーダ240をさらに備える。データバスは、例えば通信衛星に通常搭載されてある通信データバスとすることができる。デコーダ240は、ヘリックス・カソード間電圧基準244に向けてnビットの2進ワード出力を生成するとともに、mビットのワード(mはnよりも小さい)を、接地絶縁(grounding isolation)モジュール242を介して上述の電圧基準208に向けて生成することができる。
【0042】
図3は、本発明の例示的実施形態による、フレキシブルな線形化進行波増幅器の一部であるEPCを示す簡略化した電気回路図を提示する。
【0043】
EPC300は、電圧VBUSを示す衛星の電力バスとインターフェイスする入力フィルタ302を備える。この入力フィルタ302は、図2を参照して上記に記載した電力セル200の一部を形成する降圧型レギュレータ304を介してインバータ306に結合する。降圧型レギュレータ304は、例えばスイッチングトランジスタ3041および還流ダイオード3042を含む降圧スイッチングセル、出力コンデンサ3045に関連する降圧コイル3044に基づく出力フィルタなど、典型的なコンポーネントを実装する。逆電流制御ループ3055のために、例えば抵抗器3043に基づく専用の電流測定を使用することができる。スイッチングトランジスタ3041および還流ダイオード3042によって形成される降圧型レギュレータの電力セルは、調節モジュール305内に含まれる専用の調節電子機器によって駆動することができる。調節モジュール305内で、調節ループからの制御信号を、例えばその信号を専用の鋸波信号3053と比較し、パルス幅変調コマンドを専用ドライバ3051を介し、次いでことによるとグリッド抵抗器3059を介して降圧トランジスタ3041グリッドに提供する、比較器3052によってデジタル化することができる。調節モジュール305は、図2を参照することにより以下に述べる入れ子型電圧制御ループ206、および電流制御ループ204を実装する。
【0044】
モジュール305内に含まれる調節電子機器は、出力電圧ループによって駆動される逆電流制御ループ3055に基づくことができる。電圧ループは、降圧出力電圧の測定値を提供する抵抗ブリッジ3057、3058を含むことができ、その測定値は、例えば電圧制御ループブロック3056内に含まれる誤差増幅器によって設定電圧VKCiと比較することができる。電圧制御ループの利得は、専用の利得制御ブロックK3054によって制御することができる。電流制御ループ用の基準として、電圧制御ループの出力信号を使用することができる。電圧制御ループ内に含まれるツェナダイオードVlimitは、電圧制御ループの信号出力の十分なクランプを行い、その結果、電流制御ループによって許容される最大値を固定することができる。
【0045】
本発明のある特性によれば、調節モジュール305は、電圧制御調節手段3056をさらに含むことができ、その動作を、図5を参照することにより以下に詳しく説明する。
【0046】
インバータ306は、図2を参照して以下に述べる多段高圧トランス220を形成する、または多段高圧トランス220の一部である高圧トランス308に取り付けられる。高圧トランス308には高圧信号整形モジュール310が取り付けられ、TWT312によって要求される高い直流電圧を提供することを目指す。この高圧信号整形モジュール310は、例えば高圧コンデンサやブリッジダイオードを含むことができる。TWT312は、RF信号入力部を備え、出力RF信号をRF負荷314に出力する。
【0047】
図4は、本発明の例示的実施形態による、フレキシブルな線形化進行波増幅器の一部であるEPCの高圧ステージの一部を示す簡略化した電気回路図を提示する。
【0048】
図2を参照することによる高圧発生/制御手段22を実装する高圧発生/制御モジュール40は、その入力部において高圧トランス220の二次側402を備える。二次側402の特定の出力を、整流し、フィルタした後、TWTのコレクタCに直接送ることができる。各コレクタは、その専用の巻線のみならず、とりわけそのフィルタリングコンデンサに関連する。すべてのコレクタCのために設けられるコンデンサの静電容量の合計を、等価静電容量Cequivとして図面に示す。また、整流ダイオードDを、高圧トランス220の二次側402と直列に、かつ等価静電容量Cequiv枝路と並列に図面に示す。二次側402は、レギュレータ222によって駆動されるヘリックス電圧精度コントローラV3にも接続することができる。そのヘリックス電圧コントローラV3は、それ自体が例えばグラウンドに取り付けられる放散要素403に結合される。レギュレータ222は、ヘリックス・カソード間電圧VKHの設定によって駆動される。ヘリックス電圧精度コントローラV3は、バイポーラトランジスタによって形成することができ、そのバイポーラトランジスタのエミッタは、それ自体が抵抗によって形成可能な放散要素403に取り付けられる。バイポーラトランジスタのコレクタは、高圧トランス220の二次側402に取り付けられる。ヘリックス・カソード間電圧VKHの設定は、例えばツェナダイオードの電圧を適切な電圧調節手段によって調節することで行うことができる。
【0049】
本発明は、例えば図3を参照することによる降圧型レギュレータ304によって一次電力変換器20を制御することにより、フレキシビリティ範囲の一部を高圧トランス220の一次側401に直接移すことを提案する。実際に、レギュレータ222により最大範囲のフレキシビリティをヘリックス電圧に直接与えることは、ヘリックス電圧コントローラV3に高いストレスを負わせ、過度の放散を引き起こす。高圧コンポーネントは、アーク現象が原因で起こり得るバーストの任意のリスクを防ぐことを目的とする絶縁樹脂で通常囲まれることにここで気付くべきである。例えば、ヘリックス・カソード間電圧を非常に広い範囲にわたって制御しなければならない場合、放散すべき過度の熱エネルギ、そしてストレスをヘリックス電圧コントローラV3に負わせることになる。この問題は、高圧トランス220の一次側401における電圧を低下させる結果多少とも解決することができ、電圧を低下させることは、例えば降圧型レギュレータ304により、例えば一次電力変換器20を調節することで達成することができる。一次電力変換器20を調節することは、図3を参照することによる調節モジュール305により、より詳細には、例えばその電圧を適切な手段によって調節することができるツェナダイオードによって形成される基準電圧VKCi調節手段によって行うことができる。すなわち、降圧レギュレータ設定電圧VKCiが一次側401に作用し、その後すべてのコレクタCの電圧に、それらの専用巻線を介して作用する。
【0050】
有利には、ヘリックス・カソード間電圧とコレクタ電圧との間の比VKH/VKCiが一定であることを条件として、ヘリックス直列レギュレータ222へのストレスレベルを減らしながら、高圧トランス220の出力電圧を同じ比率で変えることができる。ヘリックス・カソード間電圧とコレクタ電圧との間で一定比VKH/VKCiを保つことは、TWTの安定性を保証できるようにし、TWTがKuバンド内で動作する状態で、広範囲のヘリックス・カソード間電圧にわたる、例えば50ボルトを上回る範囲にわたる動作についてとりわけ有利である。この比を一定に保つもう1つの利点は、動作の全範囲にわたりTWTの出力(つまりRF電力と消費電力との間の比)を本質的に一定に保てるようにすることにある。
【0051】
図5は、本発明の例示的実施形態による、フレキシブルな線形化進行波増幅器内に含まれるフレキシビリティ制御モジュールを示す簡略化した電気回路図を提示する。
【0052】
例示的実施形態では、図2を参照することにより以下に記載するフレキシビリティ制御手段24を実装するフレキシビリティ制御モジュール50は、データバスを介して制御データを受け取り、2つの2進ワードを出力するデコーダ240を含むことができる。入力される制御2進ワードはnビットワードとすることができ、デコーダ240は、ヘリックス・カソード間基準電圧VKH用のアナログ設定値を生成するために、第1の整形回路505に取り付けられる第1のDAC504に1つのVKH設定制御ワードを転送することができ、同時に、デコーダ240は、例えばガルバニ絶縁体503を介して第2のDAC506に1つのVKCi設定制御ワードを発行することができ、第2のDAC506も同様に、降圧レギュレータ基準電圧VKCi用のアナログ設定値を生成する第2の整形回路507に取り付けられる。第1の整形回路505および第2の整形回路507は、例えば増幅器およびフィルタを備えることができる。
【0053】
より具体的な例として、データバスは8ビットの制御ワードをデコーダ240に入力することができる。デコーダは、例えばその8ビットの制御ワードを第1のDAC504に転送し、例えばその8ビットワードのうちの4つの最上位ビットからなる4ビットワードを第2のDAC506に送ることができる。したがって、ヘリックス・カソード間基準電圧VKHに比べ、降圧型レギュレータの基準電圧は比例的にかつより低い分解能で設定される。
【0054】
有利には、遷移段階(transient phase)中のTWT226への任意のストレスを回避するために、EPCのスイッチを入れるとき、設定点をフレキシビリティ範囲の中央値に強制することができる。
【0055】
例えば、EPC300は、TWTを効率的なものにしておきながら、衛星に搭載された通信データバスを介した遠隔コマンドにより、ヘリックス電圧の制御を8キロボルトまで行うとともに、500ボルトから3500ボルトに及ぶコレクタの高圧を同時に制御することができる。ヘリックス電圧は、例えば8ビットの制御ワードによって与えられる2.5ボルトより低い分解能で、公称動作点前後の0ボルトから550ボルトまでの範囲内でフレキシブルに設定することができる。公称設定動作点は、例えばCバンド、Kuバンド、Kaバンド等内の意図する用途によって要求される周波数帯域に応じて、典型的には2.5キロボルトから7.7キロボルトの間で変えることができることにここで気付くべきである。ヘリックス・カソード間電圧を調節するためのこうして得られる高分解能は、TWTの位相応答を、典型的には1ボルト当たり約1度程度精細に適応できるようにし、それ故に、出力されるRF信号の位相を微調整する機会を与えることに気付くべきである。
【符号の説明】
【0056】
10 TWT
12 高周波入力部
13 アノードゼロ
14 高周波出力部
15 カソード
17 電子ビーム
18 ヘリックス
19コレクタ
20 一次電力制御手段
22 高圧発生/制御手段
24 フレキシビリティ制御手段
40 高圧発生/制御モジュール
50 フレキシビリティ制御モジュール
200 電力セル
202 電流検出手段
204 電流制御ループ
206 電圧制御ループ
208 電圧基準
220 高圧トランス
222 レギュレータ
224 ヘリックス・カソード間電圧設定モジュール
226 進行波管
240 デコーダ
242 接地絶縁モジュール
244 ヘリックス・カソード間電圧基準
300 EPC
302 入力フィルタ
304 降圧型レギュレータ
305 調節モジュール
306 インバータ
308 高圧トランス
310 高圧信号整形モジュール
312 TWT
314 RF負荷
401 一次側
402 二次側
403 放散要素
503 ガルバニ絶縁体
504 第1のDAC
505 第1の整形回路
506 第2のDAC
507 第2の整形回路
3041 スイッチングトランジスタ
3042 還流ダイオード
3043 抵抗器
3044 降圧コイル
3045 出力コンデンサ
3051 専用ドライバ
3052 比較器
3053 鋸波信号
3054 利得制御ブロック
3055 逆電流制御ループ
3056 電圧制御ループブロック
3057 抵抗ブリッジ
3058 抵抗ブリッジ
3059 グリッド抵抗器
V3 ヘリックス電圧精度コントローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード(15)、ヘリックス(18)、RF入力部(12)、RF出力部(14)、および複数のコレクタC(19)を備える進行波管(10、226)と、
前記進行波管(10、226)に電源および電極分極を与える電子電力調整器(300)と
を少なくとも備える進行波管増幅器であって、
前記電子電力調整器(300)が、前記進行波管(10、226)の動作周波数範囲を調節できるようにするために、制御コマンドにより前記ヘリックス・カソード間電圧を調節するフレキシビリティ制御手段(24)を備えることを特徴とする、
進行波管増幅器。
【請求項2】
前記フレキシビリティ制御手段は、コレクタC電圧を調節するようにも構成され、前記ヘリックス・カソード間電圧と、コレクタC電圧との間の比は一定のままである、請求項1に記載の進行波管増幅器。
【請求項3】
前記制御コマンドがデータバスを介して送られる、請求項1または2のいずれかに記載の進行波管増幅器。
【請求項4】
前記電子電力調整器(300)が、多段高圧トランス(220)を含む高圧発生/制御手段(22)を駆動する電力セル(200)を含む一次制御手段(20)を備え、前記多段高圧トランスの一次側は前記電力セル(200)によって制御され、前記少なくとも1つのコレクタ(19)、カソード(15)、およびヘリックス(18)によって要求される高圧を発生させ、前記フレキシビリティ制御手段(24)は、電圧制御ループ(206)を駆動する電圧基準(208)を調節するための手段を備え、前記電圧制御ループ(206)は、パルス幅変調により前記電力セル(200)を駆動する、請求項1から3のいずれかに記載の進行波管増幅器。
【請求項5】
前記高圧発生/制御手段(22)が、前記多段高圧トランス(220)の二次側(402)に取り付けられ、前記フレキシビリティ制御手段(24)内に含まれるヘリックス・カソード間電圧基準(244)に合わせて調節されるヘリックス・カソード間電圧(VKH)を供給するレギュレータ(222)を備える、請求項4に記載の進行波管増幅器。
【請求項6】
フレキシビリティ制御手段(24)が、前記制御コマンドから信号制御ワードを発行するデコーダ(240)をさらに備え、前記ヘリックス・カソード間電圧基準(244)が、前記デコーダ(240)によって生成される2進出力ワードを、前記ヘリックス・カソード間電圧(VKH)を制御するアナログ信号へと変換する第1のデジタル−アナログ変換器(504)を備える、請求項5に記載の進行波管増幅器。
【請求項7】
前記電圧基準(208)を調節するための前記手段が、前記データバスを介して送られる入力2進ワードに基づいて前記デコーダ(240)によって生成される2進出力ワードを変換する、第2のデジタル−アナログ変換器(506)を備える、請求項4に記載の進行波管増幅器。
【請求項8】
前記デコーダ(240)が、前記ヘリックス・カソード間電圧基準(244)に向けてnビットの出力ワードを生成し、前記データバスから受け取るnビットの入力ワードに基づき、前記電圧基準(208)を調節するための前記手段に向けてnよりも小さいmビットの出力ワードを生成する、請求項6または7のいずれかに記載の進行波管増幅器。
【請求項9】
前記電圧基準(208)を調節するための前記手段に向けられる前記出力ワードのビット数mは、RF信号の位相を調節可能なように選択される、請求項8に記載の進行波管増幅器。
【請求項10】
高圧発生/制御手段(22)が、前記レギュレータ(222)によって駆動され、そのエミッタが放散要素(403)を介してグラウンドに取り付けられる、バイポーラトランジスタによって形成されるヘリックス電圧精度コントローラ(V3)にも接続される前記高圧トランス(220)の前記二次側(402)をその入力部において備える、高圧発生/制御モジュール(40)内に実装される、請求項5から9のいずれかに記載の進行波管増幅器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−94517(P2012−94517A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−232927(P2011−232927)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(505157485)テールズ (231)
【Fターム(参考)】