非抜歯根管充填材及び非抜歯による歯組織再生方法
【課題】歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞に滑らかに並ぶ歯組織再生を図る非抜歯根管充填材を提供する。
【解決手段】非抜歯根管充填材200は、歯髄幹細胞220及び細胞外基質210を有し、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後、非抜歯の根管の根尖側に挿入される。歯髄幹細胞は、例えば歯髄CXCR4陽性細胞である。根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子、及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させることが好ましい。
【解決手段】非抜歯根管充填材200は、歯髄幹細胞220及び細胞外基質210を有し、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後、非抜歯の根管の根尖側に挿入される。歯髄幹細胞は、例えば歯髄CXCR4陽性細胞である。根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子、及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非抜歯の根管に充填される非抜歯根管充填材、及び、その非抜歯根管充填材を使用する非抜歯における歯組織再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、歯を失う原因は、破折を含めると約半分がう蝕によるもので、歯髄を抜くと歯を失う可能性が激増することが知られている。
【0003】
歯の平均寿命は現在57歳といわれ、一生自分の歯で咬むことを考えると、歯の寿命は20年以上高める必要がある。8020運動(80歳になっても自分の歯を20本以上残す運動)にもかかわらず、現在80歳の人の歯の平均本数は約8本で、高齢者の残存歯数はほとんど増加しておらず、う蝕治療の抜本的改革が必要である。
【0004】
歯の歯髄を除去(抜髄)すると、修復象牙質形成能及び感染防御機構が喪失し、痛みという警告信号の喪失により、う蝕拡大の危険性が増加する。また、抜髄治療に完璧な方法はなく、抜髄・根管充填後、歯冠側からの漏えいにより根尖病巣が生じたり、垂直性破折や審美性の消失、術後疼痛の可能性もある。
【0005】
従って、超高齢社会では、安易に抜髄を行うことを避け、歯の延命化をめざして、歯再生医療技術を組み入れた象牙質・歯髄再生による新しいう蝕・歯髄炎治療法を開発することは非常に重要である。
【0006】
象牙質再生に関しては、細胞治療法あるいは遺伝子治療法として、生体外で歯髄幹細胞/前駆細胞にBMP (Bone morphogenetic proteins, 骨形成因子)等の蛋白質あるいは遺伝子を導入し、三次元培養して分化した象牙芽細胞をその細胞外基質とともに生活歯髄切断面上に自家移植し、大量の象牙質を再生させることができる(非特許文献1及び2)。
【0007】
しかしながら、歯髄炎が生じている場合には、象牙質ばかりでなく、歯髄組織そのものも再生させる必要がある。
【0008】
一方、歯髄組織は非常に血管と神経に富む組織である。歯髄は創傷を受けると局所から遊走因子が放出され、歯髄深部血管周囲から幹細胞が創傷部に遊走し、増殖・分化し、血管が新生され、修復象牙質が形成される自然治癒メカニズムが存在する。特に歯髄の血管系は栄養や酸素の供給源、代謝産物の排出路、歯髄の恒常性維持に重要である。また、歯髄神経は血流・象牙細管内溶液の流れ・歯髄内圧の調節に重要な役割を有し、血管新生、免疫応答細胞あるいは炎症性細胞浸潤に関与して炎症を調節し、歯髄の恒常性の維持、歯髄防御反応の強化に寄与する。よって、象牙質・歯髄再生においては血管と神経の相互作用及び血管新生・神経再生を考慮する必要がある。
【0009】
SP細胞はCD31-/CD146-SP細胞とCD31-/CD146+SP細胞がほぼ半々の割合で含まれ、CD31-/CD146-SP細胞は、CD31-/CD146+SP細胞に比べ、非常に有意に血管新生・神経再生・歯髄再生を促進し、Stromalcell-derived factor-1(SDF−1)に対するケモカインレセプター、CXCR4 mRNAを有意に発現している。
【0010】
皮フ等の創傷部位からはSDF−1が分泌され、SDF−1に対するヒト幹細胞の遊走はCXCR4の発現に依存することが知られている。CXCR4は幹細胞のマーカーともいわれ、ヒト臍帯血からは胚性幹細胞様細胞がCXCR4+/SSEA-4+/Oct-4+として分取されている(非特許文献3)。
【0011】
また、マウス胎児の脳からは神経幹細胞として、中枢神経部位に遊走し顕著な神経分化能を有するCXCR4+/SSEA-1+細胞が分取されている(非特許文献4)。
【0012】
更に、ヒト膵臓において、CXCR4陽性細胞は多潜能性を有し、インシュリンを分泌する細胞に分化可能な幹細胞・前駆細胞を分取するために用いることができるといわれている(非特許文献5)。
【0013】
一方、歯髄再生に関しては、これまで、歯根未完成歯において、抜歯して抜髄・根管治療をした後に再度移植すると歯髄が再生されるといわれている。根尖部に病変を伴う歯根未完成歯でも、抜歯して徹底的な根管拡大・清掃を行い、セメント・象牙境まで血餅を満たしMineral trioxide aggregate(MTA)で窩洞を完全封鎖することにより、歯髄様組織が再生されるとの報告がある。
【0014】
また、イヌの健全歯根完成歯においては、抜歯後抜髄し、根尖部を切断するあるいは根尖部を1.1mm以上拡大し再び移植し、血餅を充填すると歯髄様組織の再生がみられるといわれている(非特許文献6)。
【0015】
上述の根管内歯髄再生は、歯根未完成歯についての報告が大半であり、根管内に再生された組織が血管や神経を伴う歯髄固有の組織であることの証明もなされていない。また、すべて、一旦抜歯して生体外で根管拡大・清掃を行い、再移植して血餅を充填している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Nakashima and Reddi、2003 (PMID 12949568 doi 10.1038/nbt864)
【非特許文献2】Nakashima and Akamine、2006 (PMID 16186748)
【非特許文献3】Kucia M et al、2007 (PMID: 17136117doi:10.1038/sj.leu.2404470)
【非特許文献4】Corti S et al、2005(PMID: 16150803 doi:10.2478/v10042-008-0045-0)
【非特許文献5】Koblas T et al、2007(PMID: 17328838)
【非特許文献6】Laureys et al、2001 (PMID:11298308doi:10.1067/mod.2001.113259)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、一旦抜歯して生体外で根管拡大・清掃を行い、再移植して血餅を充填する手法では、歯髄腔や根管内の象牙質に起こる特発性の歯質の吸収(内部吸収)が発生する場合があり、この内部吸収が大きくなると象牙質に穿孔が生じることもある。また、臨床で一般的に行われている歯根の完成した正常智歯等を他の歯喪失部位に再植する治療法については、再植後数年後に内部吸収や外部吸収による歯の動揺や脱落が生じる可能性がある。更に、歯根完成歯の場合における抜髄や感染根管治療における歯髄組織再生方法及び歯髄組織再生のための根管充填材の開発は全く確立されていない。
【0018】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図る新規で独創的で適切な根管充填材、及び、そのような根管充填材を使用する歯組織再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の観点に係る非抜歯根管充填材は、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後、非抜歯の根管の根尖側に挿入される、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有することを特徴とする。
【0020】
前記歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことが好ましい。
【0021】
前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかであることが好ましい。
【0022】
前記非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させていることが好ましい。
【0023】
前記細胞遊走因子が、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0024】
前記細胞増殖因子が、IGF、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0025】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NGF、NeuropeptideY及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0026】
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることが好ましい。
【0027】
前記細胞外基質における前記歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下であることが好ましい。
【0028】
また、本発明の第2の観点に係る非抜歯による歯組織再生方法は、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後の非抜歯の根管の根尖側に、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有する非抜歯根管充填材を注入することで、根管内の歯組織を再生することを特徴とする。
【0029】
前記歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことが好ましい。
【0030】
前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかであることが好ましい。
【0031】
前記非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させていることが好ましい。
【0032】
前記細胞遊走因子が、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0033】
前記細胞増殖因子が、IGF、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0034】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NGF、NeuropeptideY及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0035】
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることが好ましい。
【0036】
前記根管充填材を前記根管の根尖側に注入する前に、前記根管を拡大することで根尖部の根管の太さを所定の大きさにすることが好ましい。
【0037】
前記細胞外基質における前記歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態に係る非抜歯根管充填材の説明図である。
【図2】第1実施形態に係る非抜歯根管充填材の製造工程を説明する説明図である。
【図3A】歯髄炎に罹患している歯の説明図である。
【図3B】抜髄後の根管拡大処置を行ったところを説明する模式図である。
【図3C】非抜歯根管充填材を充填するところを説明する模式図である。
【図3D】スポンゼル(ゼラチン)及びレジンを注入したところを説明する模式図である。
【図3E】歯髄再生及び血管再生を示す模式図である。
【図3F】形態形成因子及びレジンを注入したところを説明する模式図である。
【図3G】象牙質再生を示す模式図である。
【図3H】細菌が根管壁の象牙質及び根尖歯周組織に及んでいる根尖性歯周炎の模式図である。
【図4A】根管の歯冠側に遊走因子を付着させている非抜歯根管充填材の説明図である。
【図4B】根管の歯冠側に遊走因子を付着させ、歯冠部側に細胞外基質を残している非抜歯根管充填材の説明図である。
【図5】第2実施形態に係る非抜歯根管充填材の製造工程を説明する説明図である。
【図6A】抜歯後、生体外で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入して再移植した14日後を説明する図である。
【図6B】抜歯後、生体外で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入して再移植した14日後における根管内部の象牙質壁の高倍像図である。
【図6C】抜歯後、生体外で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入して再移植した14日後における歯根外側の象牙質・セメント質壁の高倍像図である。
【図7A】抜歯せず生体内で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入した14日後を説明する図である。
【図7B】抜歯せず生体内で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入した14日後における根管内部の象牙質壁の高倍像図である。
【図8A】抜歯せず生体内で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCXCR4陽性細胞を吸着させて、根管内に注入した14日後を説明する図である。
【図8B】抜歯せず生体内で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCXCR4陽性細胞を吸着させて、根管内に注入した14日後における根管内部の象牙質壁の高倍像図である。
【図9A】イヌ永久歯歯髄組織から分離したフローサイトメトリーによる歯髄由来のCD105陽性細胞の割合を示す図である。
【図9B】イヌ脂肪組織から分離したフローサイトメトリーによる脂肪由来のCD105陽性細胞の割合を示す図である。
【図9C】イヌ永久歯歯髄組織から分離した培養3日目の初代歯髄CD105陽性細胞を示す図である。
【図9D】イヌ永久歯歯髄組織から分離した培養10日目の初代歯髄CD105陽性細胞を示す図である。
【図9E】脂肪組織から分離した培養3日目の初代脂肪CD105陽性細胞を示す図である。
【図9F】脂肪組織から分離した培養10日目の初代脂肪CD105陽性細胞を示す図である。
【図10A】30日目において、歯髄CD105陽性細胞の脂肪誘導能を示す図である。
【図10B】30日目において、未分取のトータル歯髄細胞の脂肪誘導能を示す図である。
【図10C】30日目において、脂肪CD105陽性細胞の脂肪誘導能を示す図である。
【図10D】歯髄CD105陽性細胞、未分取のトータル歯髄細胞、及び脂肪CD105陽性細胞の脂肪誘導能の遺伝子発現比較を示す図である。
【図10E】12時間後において、歯髄CD105陽性細胞の血管誘導能を示す図である。
【図10F】12時間後において、未分取のトータル歯髄細胞の血管誘導能を示す図である。
【図10G】12時間後において、脂肪CD105陽性細胞の血管誘導能を示す図である。
【図10H】14日目において、歯髄CD105陽性細胞のNeurosphere形成能を示す図である。
【図10I】14日目において、未分取のトータル歯髄細胞のNeurosphere形成能を示す図である。
【図10J】28日目において、歯髄CD105陽性細胞のニューロフィラメントによる免疫染色を示す図である。
【図10K】歯髄CD105陽性細胞のニューロフィラメント、neuromodulin及び電位依存性ナトリウムチャンネル、type Ia(Scn1A) mRNA 発現を示す図である。
【図10L】28日目において、歯髄CD105陽性細胞の象牙質・骨形成誘導能を示す図である。
【図10M】28日目において、未分取のトータル歯髄細胞の象牙質・骨形成誘導能を示す図である。
【図10N】28日目において、脂肪CD105陽性細胞の象牙質・骨形成誘導能を示す図である。
【図10O】歯髄CD105陽性細胞、未分取のトータル歯髄細胞、及び脂肪CD105陽性細胞の象牙芽細胞への分化能の比較を示す図である。
【図10P】SDF−1最終濃度50ng/mlを添加した歯髄CD105陽性細胞、分取していないトータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞の増殖能を示す図であり、培養2,12,24,及び36時間後の細胞数である。
【図11A】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11B】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生のうちの一部拡大図である。
【図11C】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生のうちの一部拡大図である。
【図11D】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生における象牙芽細胞分化を示す図である。
【図11E】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内に歯髄CD105陽性細胞のみを自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11F】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1のみを移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11G】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11H】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図であり、再生組織上部の新生血管を示す。
【図11I】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図であり、再生組織中央部の新生血管を示す。
【図11J】正常歯髄組織の細胞を示す図である。
【図11K】イヌの抜髄後、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植して、90日目における、象牙質側壁に沿って新しく形成された骨様・細管象牙質(OD)に並列する象牙芽細胞を示す図である。
【図11L】イヌの抜髄後、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植して、90日目における、In situ hybridization分析による象牙芽細胞分化を示す図であり、Enamelysin/MMP20である。
【図11M】イヌの抜髄後、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植して、90日目における、In situ hybridization分析による象牙芽細胞分化を示す図であり、Dentin sialophosphoprotein(Dspp)である。
【図11N】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともにトータル歯髄細胞を移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11O】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともにトータル歯髄細胞を移植することによる歯髄再生における血管新生を示す拡大図である。
【図11P】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともにトータル歯髄細胞を移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11Q】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともにトータル歯髄細胞を移植することによる歯髄再生を示す拡大図である。
【図11R】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに脂肪CD105陽性細胞を移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11S】14日目の新生再生組織の根管表面積に対する割合を示す図であり、データは5サンプルで平均値±SDで表したものである。
【図11T】BS-1 lectinによる免疫染色を示す図である。
【図11U】ホールマウントlectin染色による新生血管の三次元解析であり、移植歯髄CD105陽性細胞が新生毛細血管周囲に存在していることを示す図である。
【図11V】ホールマウントlectin染色による新生血管の三次元解析であり、14日目における再生組織の誘導血管の三次元像を示す図である。
【図11W】ホールマウントlectin染色による新生血管の三次元解析であり、DiIラベルの移植細胞が再生組織全体に散在していることを示す図である。
【図11X】正常歯髄組織を示す図である。
【図11Y】14日目の新生再生組織のPGP 9.5.免疫染色を示す図である。
【図11Z】下顎第三切歯に再生された歯髄組織のDiIラベルを示す図である。
【図12A】正常歯髄組織の二次元電気泳動を示す図である。
【図12B】再生歯髄組織の二次元電気泳動を示す図である。
【図12C】正常歯髄組織の二次元電気泳動と再生歯髄組織の二次元電気泳動とを重ね合わせた図である。
【図12D】正常歯髄組織の二次元電気泳動を示す図である。
【図12E】歯根膜組織の二次元電気泳動を示す図である。
【図12F】正常歯髄組織の二次元電気泳動と歯根膜組織の二次元電気泳動とを重ね合わせた図である。
【図13A】イヌの感染根管治療後、14日目における、抜歯した根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図13B】イヌの感染根管治療後、14日目における、抜歯していない根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図13C】イヌの感染根管治療後、14日目における、抜歯していない根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す一部拡大図である。
【図14A】イヌの抜髄後、14日目における、抜歯した根管内にG−CSFとともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図14B】イヌの抜髄後、14日目における、抜歯していない根管内にG−CSFとともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図14C】イヌの抜髄後、14日目における、抜歯していない根管内にG−CSFとともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
≪第1実施形態≫
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。本実施形態に係る非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有し、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後、非抜歯の根管の根尖側に挿入される。
【0041】
図1は、本実施形態に係る非抜歯根管充填材200の説明図である。非抜歯根管充填材200は、細胞外基質210に歯髄幹細胞220を付着させて形成される。歯髄幹細胞220は、非抜歯根管充填材200の根管の根尖側に付着される。
【0042】
歯髄幹細胞は、永久歯又は乳歯由来の歯髄幹細胞である。歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含む。例えばイヌ永久歯歯髄細胞は、CXCR4細胞陽性を0.8%含み、血管新生能等の組織再生能力が高い。
【0043】
歯髄SP細胞は、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかとすることが好ましい。
【0044】
なお、CD31-/CD146- side population(SP)細胞は、マウス下肢虚血部に移植すると血流回復・血管新生が促進され、ラット脳梗塞虚血部に移植すると神経細胞の分化促進、運動麻痺が回復する。また、イヌの生活歯髄切断面上に移植すると生活歯髄切断面上の窩洞内に血管新生・神経再生・歯髄再生が見られる。このように、歯髄幹細胞としてCD31-/CD146-SP細胞を用いる場合、歯髄再生能力は高いと考えられるが、SP細胞を分取するためには、DNA結合蛍光色素であるHoechst 33342で細胞をラベルする必要があり、臨床応用をする際、安全性に問題を生じる可能性がある。
【0045】
しかしながら、歯髄CXCR4陽性細胞は、コンタミネーションの可能性があるため臨床で使用できないフローサイトメトリー法や高価で使用が限定されている抗体ビーズ法を用いずに、SDF−1やAMD3100、あるいはG−CSF等を用いた遊走法により分取できるので、安全且つ安価に分取することができる。そのため、歯髄幹細胞としてCXCR4陽性細胞を用いる場合は、臨床にて即座に使用することができ、且つ、経済的であるという重大な利点がある。
【0046】
歯髄幹細胞は、歯組織再生の処置を受ける対象動物自身から抽出した自家細胞でもよいし、また、歯組織再生の処置を受ける対象動物以外の動物から抽出した同種細胞でもよい。
【0047】
非抜歯根管充填材200における歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下とすることが好ましい。歯髄幹細胞の含有率が、1×103セル/μlよりも少ないと、根管内の歯組織の再生が不十分なものとなる可能性があるからである。一方、歯髄幹細胞の含有率が、1×106セル/μlよりも多いと、対象の歯に対して予期せぬ副作用が生じる可能性があるからである。
【0048】
細胞外基質(Scaffold)210は、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA(ポリ乳酸)、PLGA(乳酸グリコール酸共重合体)、PEG(ポリエチレングリコール)、PGA(ポリグリコール酸)、PDLLA(ポリ−DL−乳酸)、PCL(ポリカプロラクトン)、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることが好ましい。なお、プロテオグリカンは、タンパク質と糖鎖(グリコサミノグリカン)が共有結合した複合糖質の一種である。また、細胞外基質は、熱可塑性高分子等の高分子体で作製された数平均直径が1nm〜1000nmのナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体も使用できる。そのような三次元構造体の空隙率は80%〜99.99%とすることが好ましい。
【0049】
細胞外基質として使用されるコラーゲンは、I型コラーゲンとIII型コラーゲンとの混合であるI型・III型混合コラーゲンを用いることが好ましい。I型コラーゲンとは、基本的コラーゲンであり、線維性コラーゲンである。III型コラーゲンは、コラーゲン線維とは別の、細網線維と呼ばれる細い網目状の構造を形成し、細胞等の足場を作る。
【0050】
上述の混合コラーゲンにおける、III型コラーゲンの割合は10重量%以上50重量%以下とすることが好ましい。III型コラーゲンの割合が50重量%よりも多くなると、混合コラーゲンが固化できないおそれがあるからである。一方、III型コラーゲンの割合が10重量%よりも少なくなると、I型コラーゲンの割合が多くなり、後述するような血管新生が起こるのではなく、象牙質が再生される可能性があるからである。
【0051】
次に、図2を用いて、本実施形態に係る非抜歯根管充填材200の製造方法を説明する。図2は、非抜歯根管充填材200の製造方法を説明する説明図である。
【0052】
非抜歯根管充填材200は、細胞外基質210の根尖側に歯髄幹細胞220を付着させて形成される。歯髄幹細胞220は非抜歯根管充填材200の根尖部の1/4〜2/3に付着されているのが望ましく、より望ましくは根尖部の1/3である。根管充填材の製造方法の一具体例としては、まず、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップ等に10μリットル〜13μリットルのI型・III型混合コラーゲンを吸い込み、次に、歯髄幹細胞を混合させたI型・III型混合コラーゲン(例えばコラーゲンXYZ(新田ゼラチン))を7μリットル〜10μリットル吸い込む。ピペットマンのチップ等に吸い込む際には気泡が発生しないように吸引速度は緩やかにすることが好ましい。根管充填材内部に気泡が発生すると、発生した気泡が細胞の遊走を妨げて歯組織再生の促進が損なわれるからである。ピペットマンのチップの内径は細いものが好ましく、例えばチップの下内径が0.5〜0.7mmのものが使用でき、例えばQSP社のH−010−96RSマイクロキャピラリーチップを使用できる。非抜歯根管充填材の形状は、特に限定されるものではなく、例えば円錐、円錐台、円柱等である。
【0053】
次に、図3A〜図3Fを用いて、非抜歯根管充填材200を使用する歯組織再生方法について説明する。
【0054】
本実施形態に係る歯髄組織再生方法は、図3Aに示すように、例えば歯髄炎が発生している対象となる歯100について、非抜歯にて歯組織再生を行う。対象となる歯とは、う蝕、歯髄炎等により、細菌感染が冠部歯髄又は根部歯髄まで波及している歯をいう。
【0055】
対象となる歯100について、図3Bに示すように、抜髄又は感染根管の根管拡大清掃が行われる。抜髄とは、歯牙の内部に存在する歯髄を取り去る行為である。また、感染根管とは、細菌が歯髄に到達後、根管壁の象牙質に及んでいる場合の根管をいい、根管拡大清掃後とは、感染根管における細菌を除去した後をいう。
【0056】
抜髄後は、対象となる歯の根管を拡大することで、根尖部の根管の大きさを所定の太さにすることが望ましい。なぜならば、後述するように、抜髄あるいは感染根管治療した根管内に非抜歯根管充填材200を充填する際に、根管を拡大しておくほうが非抜歯根管充填材200を充填しやすいからであり、また根尖歯周組織から血管及び神経が進入しやすいからである。ここで、根尖とは、対象となる歯の歯槽骨に結合される端部(歯根の先端部分)をいう。
【0057】
例えば、図3Bにおいて、根尖部の根管の太さdは、根管の直径において0.7mm以上1.5mm以下とすることが望ましい。根管の太さdが0.7mmよりも小さいと、血管及び神経が根尖歯周組織から進入しにくく、また非抜歯根管充填材200の充填が難しいおそれがあるからであり、一方、根管の太さが1.5mmよりも大きいと、対象となる歯に対して必要以上の負担を与えて割れやすくなるおそれがあるからである。
【0058】
次に、図3Cに示されるように、根管の根尖側にピンセット等により非抜歯根管充填材200を充填する。非抜歯根管充填材200は、生物学的材質を含有するので、生物学的根管充填材とすることもできる。非抜歯根管充填材200は、根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填することが望ましい。なお、細胞外基質210がゲル状の場合はピンセット等でつまむことができないので、ピペットマン、注射等により注入することになる。
【0059】
根管の根尖側に非抜歯根管充填材200を注入した後は、図3Dに示されるように、非抜歯根管充填材200の上部にゼラチン610を注入し、レジン620により蓋をする。
【0060】
これにより、根管内の歯組織が再生される。再生される歯組織は、図3Eに示されるように、例えば根管内の歯髄固有組織、血管400、神経等である。また、BMPs等の形態形成因子を用いることにより、再生される歯組織としては象牙質がある。更に、感染根管に対して非抜歯根管充填材200を充填する場合は、再生される歯組織として歯根膜(歯槽骨に歯を植立する歯周組織)やセメント質等の歯周組織がある。
【0061】
その後は、レジン620を一度除去して、図3Fに示すように、BMPs等の形態形成因子630又は象牙質形成因子を歯冠部歯髄に塗布し、レジン620により蓋をする。形態形成因子630又は象牙質形成因子を歯冠部歯髄に塗布したことにより、図3Gに示されるように象牙質500も再生される。
【0062】
更に、本実施形態に係る非抜歯根管充填材200を用いる歯組織再生では、再生組織に内部吸収及び外部吸収が見られず、且つ、破歯細胞も見られずに、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並んでいる。また、出血による血餅が多量に存在すると歯髄組織再生の障害になると考えられるところ、本実施形態に係る発明は非抜歯であるため、血餅の発生を低く抑えられ、効率的に歯組織再生を促進させることができる。また、本実施形態に係る発明は非抜歯であるので、根管拡大後の出血や症状が消失するまで根管貼薬して根管充填を待つことができ、実際の臨床治療に近接させることができる。
【0063】
なお、上述したように、対象となる歯100は、う蝕、歯髄炎等により、細菌感染が冠部歯髄又は根部歯髄まで波及している歯であったが、これに限定されず、対象となる歯100には神経機能が低下して咬合感覚が弱くなっている歯も含まれる。係る場合は、抜髄後に、非抜歯根管充填材200を充填することにより、歯髄を再生させることで咬合感覚を向上させることができる。また、図3Hに示すように、対象となる歯100には、細菌感染が根尖歯周組織まで波及している歯(細菌が歯髄に到達後、根管壁の象牙質及び根尖歯周組織に及んでいる歯)も含まれる。このような歯は根尖性歯周炎110を伴うことが多い。感染根管の根管拡大清掃後に、非抜歯根管充填材200が注入される。
【0064】
≪第2実施形態≫
図4A及び図4Bは、本発明の第2実施形態に係る非抜歯根管充填材200の説明図である。図4Aに示すように、非抜歯根管充填材200は、歯髄幹細胞220を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側(例えば根管の上部1/2〜2/3)に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子230を付着させている。
【0065】
歯髄幹細胞220を根管の根尖側に付着させ、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させる理由は、歯髄幹細胞220を根管の歯冠側にまで付着させても組織からの栄養が供給されずに壊死する可能性があるからであり、また、根管の根尖側に付着している歯髄幹細胞220が根管の歯冠側に付着している遊走因子に引っぱられて歯組織再生が促進されやすいからである。なお、図4Bに示すように、非抜歯根管充填材200の根管の歯冠側に細胞外基質210を残しておくことも可能である。
【0066】
細胞遊走因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の遊走に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。また、細胞増殖因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の増殖に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。そして、神経栄養因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の生存に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。血管新生因子とは、それが受容体に結合することによって血管内皮細胞の増殖・遊走・抗アポトーシスに関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。
【0067】
細胞遊走因子は、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つを用いることが好ましい。特に、MMP3は、細胞遊走能が高く好適に使用することができる。
【0068】
細胞増殖因子は、IGF,bFGF及びPDGFの少なくとも何れか一つを用いることが好ましい。
【0069】
神経栄養因子は、GDNF、BDNF、NGF、Neuropeptide Y及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つを用いることが好ましい。
【0070】
血管新生因子は、E-selectin、VCAM1、ECSCR及びSLC6A6のうち少なくとも何れか一つを用いることが好ましい。
【0071】
遊走因子を付着させた細胞外基質における、遊走因子の含有率は、0.1ng/μl以上500ng/μl以下とすることが好ましい。遊走因子の含有率が0.1ng/μlよりも少ないと、遊走の程度が少なくなる可能性がありうるからである。一方、遊走因子の含有率が500ng/μlよりも多いと、対象となる歯100に対して予期せぬ副作用が生じる可能性があり得るからである。
【0072】
次に、図5を用いて、本実施形態に係る非抜歯根管充填材200の製造方法を説明する。図5は、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させる非抜歯根管充填材200の製造方法を説明する説明図である。
【0073】
実施形態2に係る非抜歯根管充填材200の製造方法の一具体例としては、まず、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップ等に遊走因子を混合させたI型・III型混合コラーゲン(I型コラーゲンとIII型コラーゲンとの混合割合は1:1)を10μリットル〜13μリットル吸い込む。次に、歯髄幹細胞を混合させたI型・III型混合コラーゲンを7μリットル〜10μリットル吸い込む。実施形態2においても、ピペットマンのチップ等に吸い込む際には気泡が発生しないように吸引速度は緩やかにすることが好ましい。また、ピペットマンのチップの内径は細いものが好ましい。このようにして、図4Aに示す根管充填材200が製造される。
【0074】
実施形態2に係る非抜歯根管充填材200の使用形態は、実施形態1と同様に、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後の非抜歯の根管の根尖側に充填される。
【0075】
本実施形態に係る非抜歯根管充填材200によれば、遊走因子を有しているため更に効率的に、歯組織再生を行うことができ、再生組織には、内部吸収は無く、破歯細胞も見られずに、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並んでいる。
【0076】
≪第3実施形態≫
上述の第1実施形態では、歯髄幹細胞220が非抜歯根管充填材200の根管の根尖側に付着されて非抜歯根管充填材200は構成されていた。しかし、そのような実施形態に限定されることはなく、歯髄幹細胞220は、非抜歯根管充填材200の全体に均一に混合されていても良い。このような非抜歯根管充填材200も、歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図ることができる。
【0077】
このような非抜歯根管充填材200は、例えば、歯髄幹細胞と、I型・III型混合コラーゲン(例えばコラーゲンXYZ(新田ゼラチン))とを気泡を発生させないように均一に混合させることにより製造される。
【0078】
また、上述の第2実施形態では、歯髄幹細胞220を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させて、非抜歯根管充填材200は構成されていた。しかし、そのような実施形態に限定されることはなく、歯髄幹細胞220及び遊走因子230は共に非抜歯根管充填材200の全体に均一に混合されていても良い。このような非抜歯根管充填材200も、歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図ることができる。
【0079】
この非抜歯根管充填材200は、例えば、歯髄幹細胞と、遊走因子と、I型・III型混合コラーゲン(例えばコラーゲンXYZ(新田ゼラチン))とを気泡を発生させないように均一に混合させることにより製造される。
【実施例】
【0080】
≪実施例1≫
〈細胞分取と特徴化〉
ヒト歯髄を摘出後、37℃で1時間半、コラーゲナーゼで酵素消化して歯髄細胞を分離した後、2%血清を含むDMEM中に1×106cells/mlで細胞を分散させ、CXCR4抗体を用いて4℃で30分ラベル後、フローサイトメトリーを行った。ヒト歯髄由来のCXCR4陽性細胞は全体の20%を占めた。
【0081】
表1にフローサイトメトリーの結果を示す。CD29及びCD44については、CXCR4陽性細胞は、CD105陽性細胞と同様に90%以上であった。また、CD105については、CD105陽性細胞は90.0%であったが、CXCR4陽性細胞は1.7%であった。CD146については、CXCR4陽性細胞はCD105陽性細胞と同様に低い値であった。また、より未分化な幹細胞のマーカーのCD150については、CXCR4陽性細胞は、CD105陽性細胞に比べてやや高い値を示した。
【0082】
【表1】
【0083】
Real-time RT-PCRにて、歯髄由来CXCR4陽性細胞と歯髄由来CD105陽性細胞を表2及び表3に示すプライマーを用いてRNA発現を比較すると、前血管誘導因子VEGF−Aはほぼ同様の発現量を示し、サイトカインGM−CSFはCXCR4陽性細胞が2.5倍高く、神経栄養因子NGFはCD105陽性細胞の方が2倍高く、NeuropeptideY、Neurotrophine 3及びBDNFはCXCR4陽性細胞がやや高く、幹細胞マーカーSOX2はCXCR4陽性細胞の方が高く、Stat3及びRex1発現はほぼ同等であった。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
〈イヌ抜髄後の歯髄再生〉
次に、CD105陽性細胞及びCXCR4陽性細胞を用いたイヌ抜髄後の歯髄再生を示す。
【0087】
イヌ歯髄組織よりCD105陽性細胞及びCXCR4陽性細胞を分取した。トータルで60μリットルとし、ピペットマンのチップSDF−1(200ng)を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を40μリットル吸い込み、次に、1×106個のCD105陽性細胞を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を20μリットル吸い込むことにより、抜歯根管への挿入用の根管充填材を作成した。イヌ上顎前歯を抜去後、培地中で歯髄を除去して#70まで拡大し、根尖部の根管の太さを0.7mm以上にした。抜去後30分以内に上記の根管充填材を、拡大した根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填した。30分以内にイヌの抜歯窩に再移植し、上部は燐酸セメント及び化学重合レジンで封鎖した。14日後、抜歯し、パラフィン標本を作製した。この結果を図6Aに示す。また、根管内象牙質壁の高倍像図を図6Bに示す。更に、歯根外側の象牙質・セメント質壁の高倍像図6Cに示す。図6A、図6B及び図6CはH・E染色である。
【0088】
次に、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップSDF−1(200ng)を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を13μリットル吸い込み、次に、1×106個のCD105陽性細胞を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を7μリットル吸い込むことにより、非抜歯根管充填材200を作成した。この非抜歯根管充填材200は、根管の歯冠部2/3にSDF−1が付着されており、根管の根尖側1/3にCD105陽性細胞が付着されていた。イヌ上顎前歯を抜去しないで、そのまま歯髄を除去して#70まで拡大し、根尖部の根管の太さを0.7mm以上にした。抜去後30分以内に上記の非抜歯根管充填材200を、拡大した根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填した。30分以内に上部は燐酸セメント及び化学重合レジンで封鎖した。14日後、抜歯し、パラフィン標本を作製した。この結果を図7Aに示す。また、根管内象牙質壁の高倍像図を図7Bに示す。図7A及び図7BはH・E染色である。
【0089】
次に、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップSDF−1(200ng)を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を13μリットル吸い込み、次に、1×106個のCXCR4陽性細胞を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を7μリットル吸い込むことにより、非抜歯根管充填材200を作成した。この非抜歯根管充填材200は、根管の歯冠部2/3にSDF−1が付着されており、根管の根尖側1/3にCXCR4陽性細胞が付着されていた。イヌ上顎前歯を抜去しないで、そのまま歯髄を除去して#70まで拡大し、根尖部の根管の太さを0.7mm以上にした。抜去後30分以内に上記の非抜歯根管充填材200を、拡大した根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填した。30分以内に上部は燐酸セメント及び化学重合レジンで封鎖した。14日後、抜歯し、パラフィン標本を作製した。14日後、抜歯し、パラフィン標本を作製した。この結果を図8Aに示す。また、根管内象牙質壁の高倍像図を図8Bに示す。図8A及び図8BはH・E染色である。
【0090】
新生歯髄組織では、抜歯した場合(図6A・図6B・図6C)は、抜歯しない場合(図7A・図7B及び図8A・図8B)と比較して、血餅が残存しやや炎症がみられた。特に、図6Aには、再生された歯髄組織内の図中上部に血塊が見られ、更に再生された歯髄組織内の全般に小径の血塊が多数点在している状態が見られた。また、抜歯した場合の根管内象牙質壁には破歯細胞がみられ、内部吸収が見られた(図6B)。また、歯根外側の象牙質・セメント質に外部吸収が見られた(図6C)。内部吸収及び外部吸収は、いずれも軽度で吸収が終息している場合は生活に支障が出ないものの、吸収が高度に進行した場合は、歯の動揺、脱落等の危険性が高まり、また虫歯や歯周病に対するリスクも高まる。
【0091】
一方、抜歯しない場合の根管内象牙質壁には破歯細胞が見られず、内部吸収及び外部吸収も見られず、更に、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並んでいた(図7B、図8B)。また、歯髄幹細胞として、CD105陽性細胞を用いる場合と、CXCR4陽性細胞を用いる場合とでは、再生歯髄の新生毛細血管、神経及び固有歯髄組織の程度は両者に差は見られなかった。
【0092】
以上の結果より、抜歯した根管に充填する場合より、非抜歯の根管に充填する場合の方が、明らかに歯髄再生に有利であることが判明した。また、歯髄由来のCXCR4陽性細胞は、CD105陽性細胞と同様に、歯髄再生に有効であることが判明した。
【0093】
≪実施例2≫
次に、実施例2では、非抜歯根管充填材の歯組織再生能をより詳細に検証する。
〈フローサイトメトリ―による細胞分取〉
歯髄細胞を上顎犬歯より分離した。初代脂肪細胞は同一個体のイヌの脂肪組織よりコントロールとして分離した。細胞をマウスIgG1 陰性コントロール(W3/25) (AbD Serotec Ltd., Oxford, UK)として免疫染色した。細胞は、mouseIgG1 negative control (Phycoerythrin, PE) (MCA928PE) (AbD Serotec)及びmouseanti-human CD105 (PE) (43A3) (BioLegend, San Diego, CA, USA)で4℃、90分免疫染色した。2μg/ml propidium iodide 含有HEPESbuffer (Sigma)に、再溶解し、JSAN (Bay Bioscience, Kobe,Japan)にて分取した。歯髄及び脂肪由来のCD105陽性細胞、CD105陰性細胞及び、分取していないトータル歯髄細胞は35mmcollagen type Iコートディッシュ (Asahi Technoglass Corp., Funabashi, JAPAN)に播種し、10ng/mlIGF (Cambrex Bio Science)、5ng/ml EGF(Cambrex Bio Science)及び10% fetal bovineserum (Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA, USA)を添加したEBM2(Cambrex Bio Science, Walkersville, Maryland, USA)中で培養し、細胞の形質を維持した。培地は4〜5日に一度交換し、60〜70%コンフレントに達した後、37℃、10分、0.02%EDTAで反応させ、細胞を剥離し、1:4希釈にて継代した。
【0094】
歯髄CD105陽性細胞は、更に三代目にて特徴化し、脂肪CD105陽性細胞及び未分取のトータル 歯髄細胞と比較した。mouse IgG1 negativecontrol (AbD Serotec Ltd.), mouse IgG1 negative control (fluoresceinisothiocyanate, FITC) (MCA928F) (AbD Serotec),mouse IgG1 negative control (Phycoerythrin-Cy5,PE-Cy5)(MCA928C) (AbD Serotec), mouse IgG1 negative control (Alexa 647) (MRC OX-34) (AbDSerotec),及びCD24 (Alexa Fluor 647) (ML5) (BioLegend), CD29 (PE-Cy5)(MEM-101A) (eBioscience), CD31 (FITC) (Qbend10) (Dako), CD33 (FITC) (HIM3-4)(BD Bioscience), CD34 (Allophycocyanin, APC) (1H6) (R&D Systems, Inc.,Minneapolis, MN, USA), CD44 (Phycoerythrin-Cy7, PE-Cy7) (IM7) (eBioscience),CD73 (APC) (AD2) (BioLegend), CD90 (FITC) (YKIX337.217) (AbD Serotec), CD146(FITC) (sc-18837) (Santa Cruz, Biotech,Santa Cruz, CA, USA), CD150(FITC) (A12) (AbD Serotec), MHC class I (R-PE) (3F10) (AncellCorporation, Bayport, MN, USA), MHC class II (APC) (TDR31.1) (Ancell), 及びCXCR4 (FITC) (12G5) (R&D)に対する抗体でそれぞれ染色した。
【0095】
〈幹細胞マーカー、血管新生、神経栄養因子のReal-time RT-PCRによる発現分析〉
細胞画分の形質を更に特徴化するために、Trizol (Invitrogen) を用いて三代目の歯髄及び脂肪CD105陽性細胞及びトータル歯髄細胞からトータル RNAを分離した。それぞれの実験において細胞数は5×104個に標準化した。First-strand cDNA 合成はReverTra Ace-α(Toyobo, Tokyo, Japan)を用いてトータルRNAから合成し、Light Cycler-Fast Start DNAmaster SYBR Green I (Roche Diagnostics, Pleasanton, CA)を用いてLight Cycler (RocheDiagnostics)にて95℃で10秒,62℃で15秒,72℃で8秒のプログラムで、上記表2及び表3に示す幹細胞マーカーのイヌCXCR4,Sox2,Stat3,Bmi1及びRex1のReal time RT-PCRを行った。oligonucleotideプライマーは、公表されているイヌcDNAシークエンスを用いて作成した。イヌシークエンスが登録されていない場合、ヒトシークエンスを用いた。血管新生因子及び神経栄養因子のmRNA発現を検討するため、イヌmatrix metalloproteinase(MMP)-3,VEGF−A,granulocyte-monocytecolony-stimulating factor(GM−CSF),SDF−1,NGF,BDNF,Neuropeptide Y,Neurotrophin 3,E-selectin,VCAM1,rhombotin 2,ECSCR及びSLC6A6のreal-time RT-PCRを行った。RT-PCR産物は登録されたcDNAシークエンスを用いて確定した。三代目歯髄CD105陽性細胞及び脂肪CD105陽性細胞は、β-actinで標準化してトータル歯髄細胞と比較した。
【0096】
〈増殖及び遊走分析〉
stromal cell-derived factor-1(SDF−1)(Acris, Herford, Germany)に対する歯髄CD105陽性細胞の増殖能を、0.2% bovine serum albumin (Sigma)及びSDF−1(50ng/ml)添加EBM2中で96wellに103個播種し、トータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞と、四代目において比較した。10μl Tetra-colorone(登録商標、Seikagaku Kogyo, Co., Tokyo, JAPAN)を96well plateに添加し、細胞数を吸光度450nmにて吸光度計を用いて2,12,24及び36時間後に計測した。細胞を入れてないサンプルをnegativecontrolとした。
【0097】
歯髄CD105陽性細胞のSDF−1に対する遊走能を、水平化学走化性分析法にてトータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞と比較した。TAXIScan-FL (Effector Cell Institute, Tokyo, JAPAN)を用いてreal-time水平化学走化性分析を行った。TAXIScan-FL は6μmの孔のあいたsilicon及びガラスプレートの間に、細胞の大きさに最適化したチャンネルを形成し、チャンネル内の一端に細胞(105個/mlを1μl)を入れ、もう一端に10ng/μlのSDF−1を一定濃度勾配に形成させるように投入して、遊走する細胞を顕微鏡下で6時間撮影した。
【0098】
〈歯髄及び脂肪由来CD105陽性細胞の分取及び特徴化〉
CD105抗体を用いてイヌ永久歯歯髄組織からフローサイトメトリーにより分離した歯髄由来のCD105陽性細胞及び同一個体の脂肪組織由来のCD105陽性細胞は、図9A及び図9Bに示すように、それぞれトータル細胞の6%及び5.8%であった。また、図9C、図9D、図9E及び図9Fに示すように、歯髄及び脂肪CD105陽性細胞は、ともに星状で長い突起を有していた。図示しないが、歯髄CD105陰性細胞は、不規則な形で短い突起を有していた。IGF1,EGF及び10%ウシ胎児血清をEBM2に添加すると、CD105陽性細胞の形質が維持され、6代目でも98%以上CD105が陽性であった。35mmcollagen type I コートディッシュにCD105陽性細胞を一個播種すると、10日でコロニーを形成し、この細胞のコロニー形成能を示した。歯髄、脂肪CD105陽性細胞及び歯髄CD105陰性細胞の細胞付着及び増殖効率はそれぞれ8%,3.7%,1%であった。三代目で限界希釈法により、コロニーフォーミングユニット(CFU)は、歯髄CD105陽性細胞では、80%であり、トータル歯髄細胞では30%、脂肪CD105陽性細胞では50%であった。
【0099】
歯髄CD105陽性細胞の特徴化を進めるために細胞表面抗原マーカーを用いて、フローサイトメトリーを行い、歯髄CD105陽性細胞を脂肪CD105陽性細胞及びトータル歯髄細胞と比較した。歯髄CD105陽性細胞、脂肪CD105陽性細胞及びトータル歯髄細胞は三代目でCD29、CD44、CD90及びCD105が陽性であり、CD31が陰性であった。下記の表4に示すように、歯髄CD105陽性細胞は、脂肪CD105陽性細胞及びトータル歯髄細胞に比べてCD73,CD150及びCXCR4を強く発現していることは特筆すべきことである。
【0100】
【表4】
【0101】
歯髄CD105陽性細胞においては、トータル歯髄細胞に比べ、CXCR4,Sox2及びBmi1 mRNA等の幹細胞マーカーを16.8,64及び3.5倍高く発現しており、歯髄CD105陽性細胞の幹細胞としての性質が示唆された。CXCR4,Sox2及びBmi1mRNAは歯髄CD105陽性細胞において脂肪CD105陽性細胞に比べて高く発現していた。表5に示すように、VEGF−A,GM−CSF,nerve growth factor(NGF),brain-derivedneurotrophic factor(BDNF),neuropeptideY,neurotrophin 3,E-selectin及びVCAM−1等の血管新生因子あるいは神経栄養因子は、脂肪CD105陽性細胞に比べ歯髄CD105陽性細胞において高く発現していた。
【0102】
【表5】
【0103】
〈in vitroにおける多分化能〉
三代目から五代目において歯髄CD105陽性細胞の脂肪、血管、神経、及び象牙質/骨への分化誘導を行い、脂肪CD105陽性細胞及び未分取の歯髄細胞と比較した。
【0104】
図10A及び図10Dに示すように、歯髄幹細胞は脂肪細胞への分化能を示した。また、図10Eに示すように、歯髄幹細胞は血管内皮細胞への分化能を示した。また、図10H、図10J及び図10Kに示すように、歯髄幹細胞は神経細胞への分化能を示した。また、図10L及び図10Oに示すように、歯髄幹細胞は、象牙芽細胞あるいは骨芽細胞系譜への分化能を示した。
【0105】
しかしながら、図10L及び図10Mに示すように、歯髄CD105陽性細胞に比べてトータル歯髄細胞においては石灰化基質が多く認められた。また、図10C、図10D、図10N、図10O及び図10Gに示すように、脂肪CD105陽性細胞は脂肪誘導能及び骨誘導能はあるが、血管誘導能あるいは神経誘導能は見られなかった。図10Pに示すように、SDF−1による増殖活性は、歯髄CD105陽性細胞においてトータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞に比べて高かった。なお、図10Pにおいて、データは4サンプルで平均値±SDで表しており(*P<0.01)、実験は3回繰り返し行った典型例を示したものである。TAXIScan-FLにおいて示されるように、SDF−1による遊走活性は歯髄CD105陽性細胞においてトータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞よりも高かった。
【0106】
〈幹細胞/前駆細胞の抜髄後根管内自家移植〉
イヌ(Narc, Chiba, Japan)永久歯完全根尖完成歯を全部歯髄除去し、細胞画分を移植して歯髄を再生させる実験的モデルを確立した。sodiumpentobarbital(Schering-Plough, Germany)で全身麻酔後、上顎第二切歯及び下顎第三切歯の完全歯髄除去を行い、根尖部を#70K-file (MANI. INC, Tochigi, Japan)を用いて0.7mmに拡大した。細胞外基質としてcollagen XYZを用い、根尖側に歯髄幹細胞を付着させると共に歯冠側にSDF−1を付着させた根管充填材を用いた。即ち、1x106個の、三代目から四代目の歯髄CD105陽性細胞、脂肪CD105陽性細胞あるいはトータル歯髄細胞をcollagen XYZ(新田ゼラチン,Osaka,Japan)とともにDiIラべリング後、根管内の下部に自家移植した。根管上部は更にcollagenXYZとともに最終濃度15ng/μlのSDF−1を移植した。窩洞はリン酸亜鉛セメント(Elite Cement, GC, Tokyo, Japan)及びボンディング材(ClearfilMega Bond, Kuraray)で処理した後、コンポジットレジン(ClearfilFII,Kuraray,Kurashiki,Japan)で修復した。15匹のイヌ60歯を用いた。10歯は歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1、5歯は脂肪CD105陽性細胞及びSDF−1、5歯はトータル歯髄細胞及びSDF−1、5歯は細胞を入れずSDF−1のみ、5歯はSDF−1を入れず歯髄CD105陽性細胞のみ、5歯は細胞を入れずscaffoldのみ注入し、14日後に標本を作製した。6歯は歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1を注入し、28日後に二次元電気泳動分析した。4歯に、歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1、脂肪CD105陽性細胞及びSDF−1、並びに、トータル歯髄細胞及びSDF−1を注入し、90日後に標本を作製した。7歯の正常歯をcontrolとして用いた。形態分析のために4%paraformaldehyde(PFA) (Nakarai Tesque, Kyoto, Japan)で4℃一晩固定し、10%蟻酸にて脱灰後、paraffin wax (Sigma)に包埋した。paraffin切片(厚さ5μm)をhematoxylin-eosin(HE)染色し、形態学的に観察した。
【0107】
血管染色のため、5μm厚みのparaffin切片を脱パラフィンし、Fluorescein Griffonia (Bandeiraea)Simplicifolia Lectin 1/fluorescein-galanthus nivalis (snowdrop) lectin (20μg/ml, Vector laboratories, Inc., Youngstown,Ohio)にて15分染色し、fluorescence microscope BIOREVO, BZ−9000(KEYENCE, Osaka, Japan)にて新生血管に対する移植細胞の存在及び局在性を観察した。移植後14日後の再生歯髄と正常歯髄を4% paraformaldehydeで45分固定した後、0.3%Triton X 含有PBSで処理後、ブロッキングを行い、GS-IB4 (Griffoniasimplicifolia, Alexa Fluor 488)レクチンにて12時間4℃にてホールマウント免疫染色した。新生血管と移植細胞は二光子顕微鏡FV1000MPE (Olympus)にて三次元的に撮影した。
【0108】
新生神経の染色は、5μm厚みのparaffin切片を脱パラフィンし、3% Triton X 含有PBSで処理後、2%ヤギ血清でブロッキングを行い、PGP-9.5にて12時間4℃にて一次染色した。三回PBSで洗浄した後、biotinylatedgoat anti-rabbit IgG (Vector)(1:200)で二次染色を1時間室温で行った。ABC reagent (VectorLaboratories, Burlingame, CA)にて処理した後、DABにて10分間発色させた。
【0109】
新生神経突起が下歯槽神経とつながっていることの確認のため、歯髄CD105陽性細胞をDiIラベルせずに下顎第三切歯に移植し、移植後に14日目にDiIを再生歯髄上に適用し、移植後17日目に下顎骨を摘出し、蛍光顕微鏡(Leica,M 205 FA, Wetzlar, Germany)にて観察した。
【0110】
14日目における再生歯髄の再生量を統計学的に解析するため、歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1、脂肪CD105陽性細胞及びSDF−1、トータル歯髄細胞及びSDF−1、細胞を入れずSDF−1のみ、SDF−1を入れず歯髄CD105陽性細胞のみ、並びに、細胞を入れずscaffoldのみの標本から5本ずつ150μm間隔で実体顕微鏡にて(Leica, M 205 FA)撮影、Leica Application Suite softwareを用いて解析した。根管の表面積に対する新生再生組織の割合はそれぞれの歯牙の三か所を平均して計算した。統計計算はスチューデントt検定を用いて行った。
【0111】
生体内における象牙芽細胞分化マーカーであるdentin sialophosphoprotein(Dspp)とenamelysinの発現は、歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1移植後90日目の5μm-paraffin切片において、in situ hybridizationにて根管の側壁において観察した。イヌDspp(183bp)及びenamelysin(195bp)のcDNAをそれぞれNcoI 及びSpe Iにて切断して線状にリニアライズし、anti-senseprobesを作製した。プローブはPCR productをsubcloning後プラスミドから作成し、real-time RT-PCRで用いた表2及び表3記載のプライマーから作成した。DIGシグナルはTSAsystem (PerkinElmer, Waltham, MA, USA)にて検出した。
【0112】
〈歯髄CD105陽性細胞の抜髄後根管内移植による歯髄再生〉
次に、上述の図3に示したような手順にて、イヌにおいて永久歯の完全根尖完成歯の抜髄後根管内に、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに自家移植した。図11Aは、SDF−1及び歯髄CD105陽性細胞による歯髄再生を示す図である。図11Bは、図11AにおけるエリアBの拡大図である。図11Cは、図11AにおけるエリアCの拡大図である。図11A、図11B及び図11Cに示すように、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植すると、歯髄様組織が14日までに形成された。図11Eに示すように、CD105陽性細胞のみを移植しても歯髄様組織が形成されたが、SDF−1とともに移植したほうが歯髄様組織の形成が促進された。一方、図11Fに示すように、SDF−1のみを移植すると、極めて少量の歯髄しか形成されなかった。図11Sに示すように、non-pairedスチューデントt検定で統計学的解析を行うと、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植すると、CD105陽性細胞のみあるいはSDF−1のみと比べて、再生された面積は有意に増加した(それぞれ3.3倍及び4.2倍)。図11Dに示すように、象牙芽細胞様細胞は、根管の象牙質壁に付着し、細管内に突起を伸ばしていた。図11Gに示すように、歯髄様組織は、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植すると、90日後にはセメント-エナメル質境まで達していた。図11Hに示すように、再生組織の上部に存在する細胞は、紡錘形であり、また図11Iに示すように、中央部では星状であった。これらの再生組織は、図11Jに示す正常歯髄組織の細胞に類似していた。図11G及び図11Kに示すように、象牙質側壁に沿って、細管象牙質が観察されたのは特筆すべきことである。図11L及び図11Mに示すように、象牙異質側壁に並んで存在する象牙芽細胞は、象牙芽細胞の二つのマーカーであるenamelysin/matrixmetalloproteinase(MMP)20及びDspp陽性であった。
【0113】
しかしながら、図11N及び図11Oに示すように、CD105陽性細胞の代わりに、未分取のトータル歯髄細胞を移植した場合には、より少量の歯髄組織しか再生されず、図11Pの矢印に示す石灰化組織及び図11QにODにて示す骨様象牙質のように、90日後には石灰化がみられた。図11Rに示すように、同様に脂肪由来のCD105陽性細胞を移植した場合にも、より少量の再生組織しか見られなかった。図11Sに示すように、更に、統計学的解析により、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植した場合、脂肪CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植、あるいはトータル歯髄細胞をSDF−1とともに移植した場合よりも、14日目で、根管の表面積に対する新生再生組織の割合は、有意に高いことが分かった(51.6倍及び2.2倍)。図11Tに示すように、凍結切片をBS-1 lectinで染色後、共焦点レーザー顕微鏡分析により、再生組織における血管新生が認められた。図11Uに示すように、二光子顕微鏡分析により、DiIでラベルした移植歯髄CD105陽性細胞の多くが、新生毛細血管の近くに観察され、血管新生におけるこれらの細胞の血管新生因子を放出する役割が示唆された。図11Vに示すように、14日目における再生組織の誘導血管の三次元像は、図11Xに示される正常歯髄の像と、密度及び方向性において類似していた。図11Wに示すように、移植したCD105陽性細胞は、新しく再生された歯髄のあらゆるところに観察され、SDF−1により、上部に遊走する能力を歯髄CD105陽性細胞が持つことが示唆された。図11Yに示すように、PGP9.5抗体で染色される神経突起は、根尖孔から新しく再生された組織中に伸長していた。図11Zに示すように、下顎第三切歯に再生された歯髄組織をDiIラベルしたところ、新生歯髄組織(点線で示す)において再生された神経は下歯槽神経とつながっていることが明らかとなった。
【0114】
〈歯髄再生の二次元電気泳動分析及び遺伝子発現分析〉
再生組織の二次元電気泳動分析のために、28日目の再生歯髄様組織、正常歯髄組織、及び歯根膜組織を細切し、lysis buffer(6M urea,1.97M thiourea,2%(w/v) CHAPS,64.8mM DTT,2%(v/v)Pharmalyte)に溶解し、超音波をかけた。15,000rpmで15分、4℃で遠心し、上清を二次元電気泳動した。等電点電気泳動(IEF)はCoolPhoreSter2-DE systemにて行った。IPG strips (Immobiline DryStrips,pH4〜7,18cm, GE)はmanufacturerの指示に従い用いた。IPGstripsはrehydration solution(6M urea,1.97M thiourea,2%(v/v)TritonX-100,13mM DTT,2%(v/v)Pharmalyte,2.5mMacetic acid,0.0025% BPB)により一晩20℃にて再度水和した。等電点電気泳動(IEF)は500V、2時間、700-3000V、1時間、及び3500V、24時間の電圧を徐々に上昇させる方法で行った。等電点電気泳動後、IPGstripsは平衡緩衝液equilibration buffer (6M urea,2.4mM DTT,5mM Tris-HCl,pH6.8,2%(w/v)SDS,0.0025%BPB,30%(v/v) Glycerol)にて30分室温にて反応させた。IPG stripsは更に5mM Tris-HCl、pH6.8、2%(w/v)SDS、0.0025%BPB、30%(v/v)Glycerol、243mM iodoacetamidにて20分室温にて平衡化させた。その後、二次元目は12.5% SDS-PAGEgel (20cm×20cm)にて25mA/gelで15分、その後30mA/gelで泳動した。GelはFlamingo Fluorescent GelStain (Bio-Rad Laboratories,CA,USA)で染色し、(FluoroPhorester 3000, Anatech, Tokyo,Japan)にてscanした。GelイメージはProgenesis (Nonlinear Dynamics, NC, USA)を用いて分析し、それぞれのパターンを比較した。
【0115】
歯根膜に特異的なイヌaxin2、periostin、及びasporin/periodontal ligament-associatedprotein 1 (PLAP-1)を用いてReal time RT-PCR 分析を行った。再生組織におけるCollagen type aI(I)、syndecan3、及びtenascin Cの発現を正常歯髄並びに歯根膜と比較した。
【0116】
〈再生歯髄の二次元電気泳動によるタンパク化学分析及び遺伝子発現解析〉
図12A、図12B及び図12Cに示すように、二次元電気泳動分析により、再生歯髄組織は28日目において同一個体由来の正常歯髄組織に定性及び定量的にタンパク発現パターンが類似していることが明らかとなった。正常及び再生歯髄組織両方に見られるタンパクスポットは85.5%(123 spots)であった。一方、図12D、図12E及び図12Fに示すように、正常歯髄組織のタンパクスポットは、歯根膜組織と比べて、違いがみられた。従って、二次元電気泳動分析により、再生組織は機能的に正常歯髄組織であることが判明した。
【0117】
歯髄組織に特異的なマーカーはこれまでに見つかっていない。従って、再生組織が正常の歯髄組織であることを証明するために、歯根膜組織に特異的なマーカーとして、axin2,periostin及びasporin/periodontal ligament-associated protein 1 (PLAP-1)を更に用いた。axin2、periostin及びPLAP-1 mRNA発現は、正常歯根膜において再生歯髄組織のそれに比べて28日目でそれぞれ25、531倍、179倍及び11倍と高い発現がみられた。表6に示すように、これらの遺伝子は、正常歯髄で再生組織と比べて、ほぼ同程度(0.4倍、0.4倍、及び2.4倍)に発現がみられた。
【0118】
【表6】
【0119】
表6に示すように、CollagenαI(I)は歯根膜において再生組織よりも9.3倍多く発現し、正常歯髄と再生歯髄の間ではほとんど違いが認められなかった。Syndecan 3及びTenascin Cは歯髄組織で高く発現していることが知られており、再生組織においては歯根膜組織と比較して、14.3倍及び50.0倍高く発現が見られた。従って二次元電気泳動分析及び、遺伝子発現分析により、再生組織は機能的に正常歯髄組織であることが判明した。
【0120】
〈歯髄CD105陽性細胞の感染根管治療後根管内自家移植による歯髄再生〉
イヌ永久歯完全根尖完成歯を全部歯髄除去し、根尖部をK-fileにて#30まで拡大し、そのまま根管を開放し2週間放置し、感染根管歯モデルを作製した。その後、次亜塩素酸ソーダおよびオキシドールにて交互洗浄し、さらにスメアクリーンを根管内に30秒間入れた後、生理食塩水にてさらに洗浄した。さらにFC(ホルムクレゾール)を根管内に一週間貼薬し、根管内の無菌化を図った。その後、再度、生理食塩水にて洗浄し、根管内をペーパーポイントにて乾燥させた。細胞外基質としてcollagenXYZを用い、根尖側に歯髄幹細胞を付着させると共に歯冠側にSDF−1を付着させた根管充填材を用いた。即ち、抜髄後の根管内自家移植と同様の方法にて、1x106個の、三代目から四代目の歯髄CD105陽性細胞をcollagen XYZとともに、根管内の下部に自家移植した。根管上部は更にcollagenXYZとともに最終濃度15ng/μlのSDF−1を移植し、窩洞をリン酸亜鉛セメント及びコンポジットレジンで修復した。14日後に標本を作製した。通法にて形態学的に観察した。
【0121】
図13Aは、SDF−1及び歯髄CD105陽性細胞による歯髄再生を示す図である。図13Bは、図13Aにおける根管内に再生された歯髄組織の中央部の拡大図である。図13Cは、図13Aにおける根管内に再生された歯髄組織の象牙質側壁に接する部位の拡大図である。図13A、図13B及び図13Cに示すように、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植すると、歯髄様組織が13日までに形成された。図13Bに示すように、歯髄組織内は血管が新生され、歯髄細胞がみられたが、炎症性細胞も若干散在していた。図13Cに示すように、象牙芽細胞様細胞は、根管の象牙質側壁に付着し、並列して存在していた。
【0122】
《実施例3》
次に、実施例3では、遊走因子G−CSF及び歯髄CD105陽性細胞を用いて、抜歯した根管に充填する場合と非抜歯の根管に充填する場合との比較を行った。
【0123】
上述の実施例1及び実施例2と同様に、イヌ前歯を抜歯した後、scaffoldとしてcollagen XYZとともに歯髄CD105陽性細胞を5x105cells(10μl)を根管内下部に、そして遊走因子としてG−CSFを200ng(10μl)を根管内上部に移植して、14日経過させた。その結果を図14Aに示す。図14Aに示されるように、歯髄様組織は少量しか形成せず、矢印で示すように、強い炎症像及び外部吸収がみられた。
【0124】
次に、イヌ前歯を抜歯せずに、scaffoldとしてcollagenXYZとともに歯髄CD105陽性細胞を5x105cells(10μl)を根管内下部に、そして遊走因子としてG−CSFを200ng(10μl)を根管内上部に移植して、14日経過させた。その結果を図14Bに示す。図14Bに示されるように、歯髄様組織が著明に形成され、炎症像はみられなかった。また外部吸収もみられなかった。図14Cは、図14Bに示した矢印部分の歯髄様組織の拡大図である。図14Cに示すように、再生歯髄様組織中には、細長い紡錘形の線維芽細胞様の歯髄細胞が存在し、炎症性細胞はみられなかった。
【符号の説明】
【0125】
100:対象となる歯
110:根尖性歯周炎
200:非抜歯根管充填材
210:細胞外基質
220:歯髄幹細胞
230:遊走因子
400:血管
500:象牙質
610:ゼラチン
620:レジン
630:形態形成因子
【配列表フリーテキスト】
【0126】
配列番号1〜64:プライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、非抜歯の根管に充填される非抜歯根管充填材、及び、その非抜歯根管充填材を使用する非抜歯における歯組織再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、歯を失う原因は、破折を含めると約半分がう蝕によるもので、歯髄を抜くと歯を失う可能性が激増することが知られている。
【0003】
歯の平均寿命は現在57歳といわれ、一生自分の歯で咬むことを考えると、歯の寿命は20年以上高める必要がある。8020運動(80歳になっても自分の歯を20本以上残す運動)にもかかわらず、現在80歳の人の歯の平均本数は約8本で、高齢者の残存歯数はほとんど増加しておらず、う蝕治療の抜本的改革が必要である。
【0004】
歯の歯髄を除去(抜髄)すると、修復象牙質形成能及び感染防御機構が喪失し、痛みという警告信号の喪失により、う蝕拡大の危険性が増加する。また、抜髄治療に完璧な方法はなく、抜髄・根管充填後、歯冠側からの漏えいにより根尖病巣が生じたり、垂直性破折や審美性の消失、術後疼痛の可能性もある。
【0005】
従って、超高齢社会では、安易に抜髄を行うことを避け、歯の延命化をめざして、歯再生医療技術を組み入れた象牙質・歯髄再生による新しいう蝕・歯髄炎治療法を開発することは非常に重要である。
【0006】
象牙質再生に関しては、細胞治療法あるいは遺伝子治療法として、生体外で歯髄幹細胞/前駆細胞にBMP (Bone morphogenetic proteins, 骨形成因子)等の蛋白質あるいは遺伝子を導入し、三次元培養して分化した象牙芽細胞をその細胞外基質とともに生活歯髄切断面上に自家移植し、大量の象牙質を再生させることができる(非特許文献1及び2)。
【0007】
しかしながら、歯髄炎が生じている場合には、象牙質ばかりでなく、歯髄組織そのものも再生させる必要がある。
【0008】
一方、歯髄組織は非常に血管と神経に富む組織である。歯髄は創傷を受けると局所から遊走因子が放出され、歯髄深部血管周囲から幹細胞が創傷部に遊走し、増殖・分化し、血管が新生され、修復象牙質が形成される自然治癒メカニズムが存在する。特に歯髄の血管系は栄養や酸素の供給源、代謝産物の排出路、歯髄の恒常性維持に重要である。また、歯髄神経は血流・象牙細管内溶液の流れ・歯髄内圧の調節に重要な役割を有し、血管新生、免疫応答細胞あるいは炎症性細胞浸潤に関与して炎症を調節し、歯髄の恒常性の維持、歯髄防御反応の強化に寄与する。よって、象牙質・歯髄再生においては血管と神経の相互作用及び血管新生・神経再生を考慮する必要がある。
【0009】
SP細胞はCD31-/CD146-SP細胞とCD31-/CD146+SP細胞がほぼ半々の割合で含まれ、CD31-/CD146-SP細胞は、CD31-/CD146+SP細胞に比べ、非常に有意に血管新生・神経再生・歯髄再生を促進し、Stromalcell-derived factor-1(SDF−1)に対するケモカインレセプター、CXCR4 mRNAを有意に発現している。
【0010】
皮フ等の創傷部位からはSDF−1が分泌され、SDF−1に対するヒト幹細胞の遊走はCXCR4の発現に依存することが知られている。CXCR4は幹細胞のマーカーともいわれ、ヒト臍帯血からは胚性幹細胞様細胞がCXCR4+/SSEA-4+/Oct-4+として分取されている(非特許文献3)。
【0011】
また、マウス胎児の脳からは神経幹細胞として、中枢神経部位に遊走し顕著な神経分化能を有するCXCR4+/SSEA-1+細胞が分取されている(非特許文献4)。
【0012】
更に、ヒト膵臓において、CXCR4陽性細胞は多潜能性を有し、インシュリンを分泌する細胞に分化可能な幹細胞・前駆細胞を分取するために用いることができるといわれている(非特許文献5)。
【0013】
一方、歯髄再生に関しては、これまで、歯根未完成歯において、抜歯して抜髄・根管治療をした後に再度移植すると歯髄が再生されるといわれている。根尖部に病変を伴う歯根未完成歯でも、抜歯して徹底的な根管拡大・清掃を行い、セメント・象牙境まで血餅を満たしMineral trioxide aggregate(MTA)で窩洞を完全封鎖することにより、歯髄様組織が再生されるとの報告がある。
【0014】
また、イヌの健全歯根完成歯においては、抜歯後抜髄し、根尖部を切断するあるいは根尖部を1.1mm以上拡大し再び移植し、血餅を充填すると歯髄様組織の再生がみられるといわれている(非特許文献6)。
【0015】
上述の根管内歯髄再生は、歯根未完成歯についての報告が大半であり、根管内に再生された組織が血管や神経を伴う歯髄固有の組織であることの証明もなされていない。また、すべて、一旦抜歯して生体外で根管拡大・清掃を行い、再移植して血餅を充填している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Nakashima and Reddi、2003 (PMID 12949568 doi 10.1038/nbt864)
【非特許文献2】Nakashima and Akamine、2006 (PMID 16186748)
【非特許文献3】Kucia M et al、2007 (PMID: 17136117doi:10.1038/sj.leu.2404470)
【非特許文献4】Corti S et al、2005(PMID: 16150803 doi:10.2478/v10042-008-0045-0)
【非特許文献5】Koblas T et al、2007(PMID: 17328838)
【非特許文献6】Laureys et al、2001 (PMID:11298308doi:10.1067/mod.2001.113259)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、一旦抜歯して生体外で根管拡大・清掃を行い、再移植して血餅を充填する手法では、歯髄腔や根管内の象牙質に起こる特発性の歯質の吸収(内部吸収)が発生する場合があり、この内部吸収が大きくなると象牙質に穿孔が生じることもある。また、臨床で一般的に行われている歯根の完成した正常智歯等を他の歯喪失部位に再植する治療法については、再植後数年後に内部吸収や外部吸収による歯の動揺や脱落が生じる可能性がある。更に、歯根完成歯の場合における抜髄や感染根管治療における歯髄組織再生方法及び歯髄組織再生のための根管充填材の開発は全く確立されていない。
【0018】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図る新規で独創的で適切な根管充填材、及び、そのような根管充填材を使用する歯組織再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の観点に係る非抜歯根管充填材は、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後、非抜歯の根管の根尖側に挿入される、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有することを特徴とする。
【0020】
前記歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことが好ましい。
【0021】
前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかであることが好ましい。
【0022】
前記非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させていることが好ましい。
【0023】
前記細胞遊走因子が、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0024】
前記細胞増殖因子が、IGF、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0025】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NGF、NeuropeptideY及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0026】
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることが好ましい。
【0027】
前記細胞外基質における前記歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下であることが好ましい。
【0028】
また、本発明の第2の観点に係る非抜歯による歯組織再生方法は、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後の非抜歯の根管の根尖側に、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有する非抜歯根管充填材を注入することで、根管内の歯組織を再生することを特徴とする。
【0029】
前記歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことが好ましい。
【0030】
前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかであることが好ましい。
【0031】
前記非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させていることが好ましい。
【0032】
前記細胞遊走因子が、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0033】
前記細胞増殖因子が、IGF、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0034】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NGF、NeuropeptideY及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
【0035】
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることが好ましい。
【0036】
前記根管充填材を前記根管の根尖側に注入する前に、前記根管を拡大することで根尖部の根管の太さを所定の大きさにすることが好ましい。
【0037】
前記細胞外基質における前記歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態に係る非抜歯根管充填材の説明図である。
【図2】第1実施形態に係る非抜歯根管充填材の製造工程を説明する説明図である。
【図3A】歯髄炎に罹患している歯の説明図である。
【図3B】抜髄後の根管拡大処置を行ったところを説明する模式図である。
【図3C】非抜歯根管充填材を充填するところを説明する模式図である。
【図3D】スポンゼル(ゼラチン)及びレジンを注入したところを説明する模式図である。
【図3E】歯髄再生及び血管再生を示す模式図である。
【図3F】形態形成因子及びレジンを注入したところを説明する模式図である。
【図3G】象牙質再生を示す模式図である。
【図3H】細菌が根管壁の象牙質及び根尖歯周組織に及んでいる根尖性歯周炎の模式図である。
【図4A】根管の歯冠側に遊走因子を付着させている非抜歯根管充填材の説明図である。
【図4B】根管の歯冠側に遊走因子を付着させ、歯冠部側に細胞外基質を残している非抜歯根管充填材の説明図である。
【図5】第2実施形態に係る非抜歯根管充填材の製造工程を説明する説明図である。
【図6A】抜歯後、生体外で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入して再移植した14日後を説明する図である。
【図6B】抜歯後、生体外で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入して再移植した14日後における根管内部の象牙質壁の高倍像図である。
【図6C】抜歯後、生体外で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入して再移植した14日後における歯根外側の象牙質・セメント質壁の高倍像図である。
【図7A】抜歯せず生体内で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入した14日後を説明する図である。
【図7B】抜歯せず生体内で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCD105陽性細胞を吸着させて、根管内に注入した14日後における根管内部の象牙質壁の高倍像図である。
【図8A】抜歯せず生体内で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCXCR4陽性細胞を吸着させて、根管内に注入した14日後を説明する図である。
【図8B】抜歯せず生体内で抜髄後根管拡大して、I型・III型混合コラーゲンにSDF−1及びCXCR4陽性細胞を吸着させて、根管内に注入した14日後における根管内部の象牙質壁の高倍像図である。
【図9A】イヌ永久歯歯髄組織から分離したフローサイトメトリーによる歯髄由来のCD105陽性細胞の割合を示す図である。
【図9B】イヌ脂肪組織から分離したフローサイトメトリーによる脂肪由来のCD105陽性細胞の割合を示す図である。
【図9C】イヌ永久歯歯髄組織から分離した培養3日目の初代歯髄CD105陽性細胞を示す図である。
【図9D】イヌ永久歯歯髄組織から分離した培養10日目の初代歯髄CD105陽性細胞を示す図である。
【図9E】脂肪組織から分離した培養3日目の初代脂肪CD105陽性細胞を示す図である。
【図9F】脂肪組織から分離した培養10日目の初代脂肪CD105陽性細胞を示す図である。
【図10A】30日目において、歯髄CD105陽性細胞の脂肪誘導能を示す図である。
【図10B】30日目において、未分取のトータル歯髄細胞の脂肪誘導能を示す図である。
【図10C】30日目において、脂肪CD105陽性細胞の脂肪誘導能を示す図である。
【図10D】歯髄CD105陽性細胞、未分取のトータル歯髄細胞、及び脂肪CD105陽性細胞の脂肪誘導能の遺伝子発現比較を示す図である。
【図10E】12時間後において、歯髄CD105陽性細胞の血管誘導能を示す図である。
【図10F】12時間後において、未分取のトータル歯髄細胞の血管誘導能を示す図である。
【図10G】12時間後において、脂肪CD105陽性細胞の血管誘導能を示す図である。
【図10H】14日目において、歯髄CD105陽性細胞のNeurosphere形成能を示す図である。
【図10I】14日目において、未分取のトータル歯髄細胞のNeurosphere形成能を示す図である。
【図10J】28日目において、歯髄CD105陽性細胞のニューロフィラメントによる免疫染色を示す図である。
【図10K】歯髄CD105陽性細胞のニューロフィラメント、neuromodulin及び電位依存性ナトリウムチャンネル、type Ia(Scn1A) mRNA 発現を示す図である。
【図10L】28日目において、歯髄CD105陽性細胞の象牙質・骨形成誘導能を示す図である。
【図10M】28日目において、未分取のトータル歯髄細胞の象牙質・骨形成誘導能を示す図である。
【図10N】28日目において、脂肪CD105陽性細胞の象牙質・骨形成誘導能を示す図である。
【図10O】歯髄CD105陽性細胞、未分取のトータル歯髄細胞、及び脂肪CD105陽性細胞の象牙芽細胞への分化能の比較を示す図である。
【図10P】SDF−1最終濃度50ng/mlを添加した歯髄CD105陽性細胞、分取していないトータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞の増殖能を示す図であり、培養2,12,24,及び36時間後の細胞数である。
【図11A】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11B】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生のうちの一部拡大図である。
【図11C】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生のうちの一部拡大図である。
【図11D】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生における象牙芽細胞分化を示す図である。
【図11E】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内に歯髄CD105陽性細胞のみを自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11F】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1のみを移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11G】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11H】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図であり、再生組織上部の新生血管を示す。
【図11I】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図であり、再生組織中央部の新生血管を示す。
【図11J】正常歯髄組織の細胞を示す図である。
【図11K】イヌの抜髄後、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植して、90日目における、象牙質側壁に沿って新しく形成された骨様・細管象牙質(OD)に並列する象牙芽細胞を示す図である。
【図11L】イヌの抜髄後、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植して、90日目における、In situ hybridization分析による象牙芽細胞分化を示す図であり、Enamelysin/MMP20である。
【図11M】イヌの抜髄後、空洞の根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植して、90日目における、In situ hybridization分析による象牙芽細胞分化を示す図であり、Dentin sialophosphoprotein(Dspp)である。
【図11N】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともにトータル歯髄細胞を移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11O】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともにトータル歯髄細胞を移植することによる歯髄再生における血管新生を示す拡大図である。
【図11P】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともにトータル歯髄細胞を移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11Q】イヌの抜髄後、90日目における、空洞の根管内にSDF−1とともにトータル歯髄細胞を移植することによる歯髄再生を示す拡大図である。
【図11R】イヌの抜髄後、14日目における、空洞の根管内にSDF−1とともに脂肪CD105陽性細胞を移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図11S】14日目の新生再生組織の根管表面積に対する割合を示す図であり、データは5サンプルで平均値±SDで表したものである。
【図11T】BS-1 lectinによる免疫染色を示す図である。
【図11U】ホールマウントlectin染色による新生血管の三次元解析であり、移植歯髄CD105陽性細胞が新生毛細血管周囲に存在していることを示す図である。
【図11V】ホールマウントlectin染色による新生血管の三次元解析であり、14日目における再生組織の誘導血管の三次元像を示す図である。
【図11W】ホールマウントlectin染色による新生血管の三次元解析であり、DiIラベルの移植細胞が再生組織全体に散在していることを示す図である。
【図11X】正常歯髄組織を示す図である。
【図11Y】14日目の新生再生組織のPGP 9.5.免疫染色を示す図である。
【図11Z】下顎第三切歯に再生された歯髄組織のDiIラベルを示す図である。
【図12A】正常歯髄組織の二次元電気泳動を示す図である。
【図12B】再生歯髄組織の二次元電気泳動を示す図である。
【図12C】正常歯髄組織の二次元電気泳動と再生歯髄組織の二次元電気泳動とを重ね合わせた図である。
【図12D】正常歯髄組織の二次元電気泳動を示す図である。
【図12E】歯根膜組織の二次元電気泳動を示す図である。
【図12F】正常歯髄組織の二次元電気泳動と歯根膜組織の二次元電気泳動とを重ね合わせた図である。
【図13A】イヌの感染根管治療後、14日目における、抜歯した根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図13B】イヌの感染根管治療後、14日目における、抜歯していない根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図13C】イヌの感染根管治療後、14日目における、抜歯していない根管内にSDF−1とともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す一部拡大図である。
【図14A】イヌの抜髄後、14日目における、抜歯した根管内にG−CSFとともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図14B】イヌの抜髄後、14日目における、抜歯していない根管内にG−CSFとともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す図である。
【図14C】イヌの抜髄後、14日目における、抜歯していない根管内にG−CSFとともに歯髄CD105陽性細胞を自家移植することによる歯髄再生を示す一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
≪第1実施形態≫
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。本実施形態に係る非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有し、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後、非抜歯の根管の根尖側に挿入される。
【0041】
図1は、本実施形態に係る非抜歯根管充填材200の説明図である。非抜歯根管充填材200は、細胞外基質210に歯髄幹細胞220を付着させて形成される。歯髄幹細胞220は、非抜歯根管充填材200の根管の根尖側に付着される。
【0042】
歯髄幹細胞は、永久歯又は乳歯由来の歯髄幹細胞である。歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含む。例えばイヌ永久歯歯髄細胞は、CXCR4細胞陽性を0.8%含み、血管新生能等の組織再生能力が高い。
【0043】
歯髄SP細胞は、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかとすることが好ましい。
【0044】
なお、CD31-/CD146- side population(SP)細胞は、マウス下肢虚血部に移植すると血流回復・血管新生が促進され、ラット脳梗塞虚血部に移植すると神経細胞の分化促進、運動麻痺が回復する。また、イヌの生活歯髄切断面上に移植すると生活歯髄切断面上の窩洞内に血管新生・神経再生・歯髄再生が見られる。このように、歯髄幹細胞としてCD31-/CD146-SP細胞を用いる場合、歯髄再生能力は高いと考えられるが、SP細胞を分取するためには、DNA結合蛍光色素であるHoechst 33342で細胞をラベルする必要があり、臨床応用をする際、安全性に問題を生じる可能性がある。
【0045】
しかしながら、歯髄CXCR4陽性細胞は、コンタミネーションの可能性があるため臨床で使用できないフローサイトメトリー法や高価で使用が限定されている抗体ビーズ法を用いずに、SDF−1やAMD3100、あるいはG−CSF等を用いた遊走法により分取できるので、安全且つ安価に分取することができる。そのため、歯髄幹細胞としてCXCR4陽性細胞を用いる場合は、臨床にて即座に使用することができ、且つ、経済的であるという重大な利点がある。
【0046】
歯髄幹細胞は、歯組織再生の処置を受ける対象動物自身から抽出した自家細胞でもよいし、また、歯組織再生の処置を受ける対象動物以外の動物から抽出した同種細胞でもよい。
【0047】
非抜歯根管充填材200における歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下とすることが好ましい。歯髄幹細胞の含有率が、1×103セル/μlよりも少ないと、根管内の歯組織の再生が不十分なものとなる可能性があるからである。一方、歯髄幹細胞の含有率が、1×106セル/μlよりも多いと、対象の歯に対して予期せぬ副作用が生じる可能性があるからである。
【0048】
細胞外基質(Scaffold)210は、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA(ポリ乳酸)、PLGA(乳酸グリコール酸共重合体)、PEG(ポリエチレングリコール)、PGA(ポリグリコール酸)、PDLLA(ポリ−DL−乳酸)、PCL(ポリカプロラクトン)、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることが好ましい。なお、プロテオグリカンは、タンパク質と糖鎖(グリコサミノグリカン)が共有結合した複合糖質の一種である。また、細胞外基質は、熱可塑性高分子等の高分子体で作製された数平均直径が1nm〜1000nmのナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体も使用できる。そのような三次元構造体の空隙率は80%〜99.99%とすることが好ましい。
【0049】
細胞外基質として使用されるコラーゲンは、I型コラーゲンとIII型コラーゲンとの混合であるI型・III型混合コラーゲンを用いることが好ましい。I型コラーゲンとは、基本的コラーゲンであり、線維性コラーゲンである。III型コラーゲンは、コラーゲン線維とは別の、細網線維と呼ばれる細い網目状の構造を形成し、細胞等の足場を作る。
【0050】
上述の混合コラーゲンにおける、III型コラーゲンの割合は10重量%以上50重量%以下とすることが好ましい。III型コラーゲンの割合が50重量%よりも多くなると、混合コラーゲンが固化できないおそれがあるからである。一方、III型コラーゲンの割合が10重量%よりも少なくなると、I型コラーゲンの割合が多くなり、後述するような血管新生が起こるのではなく、象牙質が再生される可能性があるからである。
【0051】
次に、図2を用いて、本実施形態に係る非抜歯根管充填材200の製造方法を説明する。図2は、非抜歯根管充填材200の製造方法を説明する説明図である。
【0052】
非抜歯根管充填材200は、細胞外基質210の根尖側に歯髄幹細胞220を付着させて形成される。歯髄幹細胞220は非抜歯根管充填材200の根尖部の1/4〜2/3に付着されているのが望ましく、より望ましくは根尖部の1/3である。根管充填材の製造方法の一具体例としては、まず、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップ等に10μリットル〜13μリットルのI型・III型混合コラーゲンを吸い込み、次に、歯髄幹細胞を混合させたI型・III型混合コラーゲン(例えばコラーゲンXYZ(新田ゼラチン))を7μリットル〜10μリットル吸い込む。ピペットマンのチップ等に吸い込む際には気泡が発生しないように吸引速度は緩やかにすることが好ましい。根管充填材内部に気泡が発生すると、発生した気泡が細胞の遊走を妨げて歯組織再生の促進が損なわれるからである。ピペットマンのチップの内径は細いものが好ましく、例えばチップの下内径が0.5〜0.7mmのものが使用でき、例えばQSP社のH−010−96RSマイクロキャピラリーチップを使用できる。非抜歯根管充填材の形状は、特に限定されるものではなく、例えば円錐、円錐台、円柱等である。
【0053】
次に、図3A〜図3Fを用いて、非抜歯根管充填材200を使用する歯組織再生方法について説明する。
【0054】
本実施形態に係る歯髄組織再生方法は、図3Aに示すように、例えば歯髄炎が発生している対象となる歯100について、非抜歯にて歯組織再生を行う。対象となる歯とは、う蝕、歯髄炎等により、細菌感染が冠部歯髄又は根部歯髄まで波及している歯をいう。
【0055】
対象となる歯100について、図3Bに示すように、抜髄又は感染根管の根管拡大清掃が行われる。抜髄とは、歯牙の内部に存在する歯髄を取り去る行為である。また、感染根管とは、細菌が歯髄に到達後、根管壁の象牙質に及んでいる場合の根管をいい、根管拡大清掃後とは、感染根管における細菌を除去した後をいう。
【0056】
抜髄後は、対象となる歯の根管を拡大することで、根尖部の根管の大きさを所定の太さにすることが望ましい。なぜならば、後述するように、抜髄あるいは感染根管治療した根管内に非抜歯根管充填材200を充填する際に、根管を拡大しておくほうが非抜歯根管充填材200を充填しやすいからであり、また根尖歯周組織から血管及び神経が進入しやすいからである。ここで、根尖とは、対象となる歯の歯槽骨に結合される端部(歯根の先端部分)をいう。
【0057】
例えば、図3Bにおいて、根尖部の根管の太さdは、根管の直径において0.7mm以上1.5mm以下とすることが望ましい。根管の太さdが0.7mmよりも小さいと、血管及び神経が根尖歯周組織から進入しにくく、また非抜歯根管充填材200の充填が難しいおそれがあるからであり、一方、根管の太さが1.5mmよりも大きいと、対象となる歯に対して必要以上の負担を与えて割れやすくなるおそれがあるからである。
【0058】
次に、図3Cに示されるように、根管の根尖側にピンセット等により非抜歯根管充填材200を充填する。非抜歯根管充填材200は、生物学的材質を含有するので、生物学的根管充填材とすることもできる。非抜歯根管充填材200は、根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填することが望ましい。なお、細胞外基質210がゲル状の場合はピンセット等でつまむことができないので、ピペットマン、注射等により注入することになる。
【0059】
根管の根尖側に非抜歯根管充填材200を注入した後は、図3Dに示されるように、非抜歯根管充填材200の上部にゼラチン610を注入し、レジン620により蓋をする。
【0060】
これにより、根管内の歯組織が再生される。再生される歯組織は、図3Eに示されるように、例えば根管内の歯髄固有組織、血管400、神経等である。また、BMPs等の形態形成因子を用いることにより、再生される歯組織としては象牙質がある。更に、感染根管に対して非抜歯根管充填材200を充填する場合は、再生される歯組織として歯根膜(歯槽骨に歯を植立する歯周組織)やセメント質等の歯周組織がある。
【0061】
その後は、レジン620を一度除去して、図3Fに示すように、BMPs等の形態形成因子630又は象牙質形成因子を歯冠部歯髄に塗布し、レジン620により蓋をする。形態形成因子630又は象牙質形成因子を歯冠部歯髄に塗布したことにより、図3Gに示されるように象牙質500も再生される。
【0062】
更に、本実施形態に係る非抜歯根管充填材200を用いる歯組織再生では、再生組織に内部吸収及び外部吸収が見られず、且つ、破歯細胞も見られずに、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並んでいる。また、出血による血餅が多量に存在すると歯髄組織再生の障害になると考えられるところ、本実施形態に係る発明は非抜歯であるため、血餅の発生を低く抑えられ、効率的に歯組織再生を促進させることができる。また、本実施形態に係る発明は非抜歯であるので、根管拡大後の出血や症状が消失するまで根管貼薬して根管充填を待つことができ、実際の臨床治療に近接させることができる。
【0063】
なお、上述したように、対象となる歯100は、う蝕、歯髄炎等により、細菌感染が冠部歯髄又は根部歯髄まで波及している歯であったが、これに限定されず、対象となる歯100には神経機能が低下して咬合感覚が弱くなっている歯も含まれる。係る場合は、抜髄後に、非抜歯根管充填材200を充填することにより、歯髄を再生させることで咬合感覚を向上させることができる。また、図3Hに示すように、対象となる歯100には、細菌感染が根尖歯周組織まで波及している歯(細菌が歯髄に到達後、根管壁の象牙質及び根尖歯周組織に及んでいる歯)も含まれる。このような歯は根尖性歯周炎110を伴うことが多い。感染根管の根管拡大清掃後に、非抜歯根管充填材200が注入される。
【0064】
≪第2実施形態≫
図4A及び図4Bは、本発明の第2実施形態に係る非抜歯根管充填材200の説明図である。図4Aに示すように、非抜歯根管充填材200は、歯髄幹細胞220を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側(例えば根管の上部1/2〜2/3)に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子230を付着させている。
【0065】
歯髄幹細胞220を根管の根尖側に付着させ、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させる理由は、歯髄幹細胞220を根管の歯冠側にまで付着させても組織からの栄養が供給されずに壊死する可能性があるからであり、また、根管の根尖側に付着している歯髄幹細胞220が根管の歯冠側に付着している遊走因子に引っぱられて歯組織再生が促進されやすいからである。なお、図4Bに示すように、非抜歯根管充填材200の根管の歯冠側に細胞外基質210を残しておくことも可能である。
【0066】
細胞遊走因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の遊走に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。また、細胞増殖因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の増殖に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。そして、神経栄養因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の生存に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。血管新生因子とは、それが受容体に結合することによって血管内皮細胞の増殖・遊走・抗アポトーシスに関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。
【0067】
細胞遊走因子は、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つを用いることが好ましい。特に、MMP3は、細胞遊走能が高く好適に使用することができる。
【0068】
細胞増殖因子は、IGF,bFGF及びPDGFの少なくとも何れか一つを用いることが好ましい。
【0069】
神経栄養因子は、GDNF、BDNF、NGF、Neuropeptide Y及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つを用いることが好ましい。
【0070】
血管新生因子は、E-selectin、VCAM1、ECSCR及びSLC6A6のうち少なくとも何れか一つを用いることが好ましい。
【0071】
遊走因子を付着させた細胞外基質における、遊走因子の含有率は、0.1ng/μl以上500ng/μl以下とすることが好ましい。遊走因子の含有率が0.1ng/μlよりも少ないと、遊走の程度が少なくなる可能性がありうるからである。一方、遊走因子の含有率が500ng/μlよりも多いと、対象となる歯100に対して予期せぬ副作用が生じる可能性があり得るからである。
【0072】
次に、図5を用いて、本実施形態に係る非抜歯根管充填材200の製造方法を説明する。図5は、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させる非抜歯根管充填材200の製造方法を説明する説明図である。
【0073】
実施形態2に係る非抜歯根管充填材200の製造方法の一具体例としては、まず、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップ等に遊走因子を混合させたI型・III型混合コラーゲン(I型コラーゲンとIII型コラーゲンとの混合割合は1:1)を10μリットル〜13μリットル吸い込む。次に、歯髄幹細胞を混合させたI型・III型混合コラーゲンを7μリットル〜10μリットル吸い込む。実施形態2においても、ピペットマンのチップ等に吸い込む際には気泡が発生しないように吸引速度は緩やかにすることが好ましい。また、ピペットマンのチップの内径は細いものが好ましい。このようにして、図4Aに示す根管充填材200が製造される。
【0074】
実施形態2に係る非抜歯根管充填材200の使用形態は、実施形態1と同様に、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後の非抜歯の根管の根尖側に充填される。
【0075】
本実施形態に係る非抜歯根管充填材200によれば、遊走因子を有しているため更に効率的に、歯組織再生を行うことができ、再生組織には、内部吸収は無く、破歯細胞も見られずに、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並んでいる。
【0076】
≪第3実施形態≫
上述の第1実施形態では、歯髄幹細胞220が非抜歯根管充填材200の根管の根尖側に付着されて非抜歯根管充填材200は構成されていた。しかし、そのような実施形態に限定されることはなく、歯髄幹細胞220は、非抜歯根管充填材200の全体に均一に混合されていても良い。このような非抜歯根管充填材200も、歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図ることができる。
【0077】
このような非抜歯根管充填材200は、例えば、歯髄幹細胞と、I型・III型混合コラーゲン(例えばコラーゲンXYZ(新田ゼラチン))とを気泡を発生させないように均一に混合させることにより製造される。
【0078】
また、上述の第2実施形態では、歯髄幹細胞220を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させて、非抜歯根管充填材200は構成されていた。しかし、そのような実施形態に限定されることはなく、歯髄幹細胞220及び遊走因子230は共に非抜歯根管充填材200の全体に均一に混合されていても良い。このような非抜歯根管充填材200も、歯根完成歯に対して、内部吸収や外部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図ることができる。
【0079】
この非抜歯根管充填材200は、例えば、歯髄幹細胞と、遊走因子と、I型・III型混合コラーゲン(例えばコラーゲンXYZ(新田ゼラチン))とを気泡を発生させないように均一に混合させることにより製造される。
【実施例】
【0080】
≪実施例1≫
〈細胞分取と特徴化〉
ヒト歯髄を摘出後、37℃で1時間半、コラーゲナーゼで酵素消化して歯髄細胞を分離した後、2%血清を含むDMEM中に1×106cells/mlで細胞を分散させ、CXCR4抗体を用いて4℃で30分ラベル後、フローサイトメトリーを行った。ヒト歯髄由来のCXCR4陽性細胞は全体の20%を占めた。
【0081】
表1にフローサイトメトリーの結果を示す。CD29及びCD44については、CXCR4陽性細胞は、CD105陽性細胞と同様に90%以上であった。また、CD105については、CD105陽性細胞は90.0%であったが、CXCR4陽性細胞は1.7%であった。CD146については、CXCR4陽性細胞はCD105陽性細胞と同様に低い値であった。また、より未分化な幹細胞のマーカーのCD150については、CXCR4陽性細胞は、CD105陽性細胞に比べてやや高い値を示した。
【0082】
【表1】
【0083】
Real-time RT-PCRにて、歯髄由来CXCR4陽性細胞と歯髄由来CD105陽性細胞を表2及び表3に示すプライマーを用いてRNA発現を比較すると、前血管誘導因子VEGF−Aはほぼ同様の発現量を示し、サイトカインGM−CSFはCXCR4陽性細胞が2.5倍高く、神経栄養因子NGFはCD105陽性細胞の方が2倍高く、NeuropeptideY、Neurotrophine 3及びBDNFはCXCR4陽性細胞がやや高く、幹細胞マーカーSOX2はCXCR4陽性細胞の方が高く、Stat3及びRex1発現はほぼ同等であった。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
〈イヌ抜髄後の歯髄再生〉
次に、CD105陽性細胞及びCXCR4陽性細胞を用いたイヌ抜髄後の歯髄再生を示す。
【0087】
イヌ歯髄組織よりCD105陽性細胞及びCXCR4陽性細胞を分取した。トータルで60μリットルとし、ピペットマンのチップSDF−1(200ng)を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を40μリットル吸い込み、次に、1×106個のCD105陽性細胞を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を20μリットル吸い込むことにより、抜歯根管への挿入用の根管充填材を作成した。イヌ上顎前歯を抜去後、培地中で歯髄を除去して#70まで拡大し、根尖部の根管の太さを0.7mm以上にした。抜去後30分以内に上記の根管充填材を、拡大した根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填した。30分以内にイヌの抜歯窩に再移植し、上部は燐酸セメント及び化学重合レジンで封鎖した。14日後、抜歯し、パラフィン標本を作製した。この結果を図6Aに示す。また、根管内象牙質壁の高倍像図を図6Bに示す。更に、歯根外側の象牙質・セメント質壁の高倍像図6Cに示す。図6A、図6B及び図6CはH・E染色である。
【0088】
次に、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップSDF−1(200ng)を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を13μリットル吸い込み、次に、1×106個のCD105陽性細胞を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を7μリットル吸い込むことにより、非抜歯根管充填材200を作成した。この非抜歯根管充填材200は、根管の歯冠部2/3にSDF−1が付着されており、根管の根尖側1/3にCD105陽性細胞が付着されていた。イヌ上顎前歯を抜去しないで、そのまま歯髄を除去して#70まで拡大し、根尖部の根管の太さを0.7mm以上にした。抜去後30分以内に上記の非抜歯根管充填材200を、拡大した根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填した。30分以内に上部は燐酸セメント及び化学重合レジンで封鎖した。14日後、抜歯し、パラフィン標本を作製した。この結果を図7Aに示す。また、根管内象牙質壁の高倍像図を図7Bに示す。図7A及び図7BはH・E染色である。
【0089】
次に、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップSDF−1(200ng)を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を13μリットル吸い込み、次に、1×106個のCXCR4陽性細胞を混合させたコラーゲンXYZ(新田ゼラチン I型・III型混合コラーゲン)を7μリットル吸い込むことにより、非抜歯根管充填材200を作成した。この非抜歯根管充填材200は、根管の歯冠部2/3にSDF−1が付着されており、根管の根尖側1/3にCXCR4陽性細胞が付着されていた。イヌ上顎前歯を抜去しないで、そのまま歯髄を除去して#70まで拡大し、根尖部の根管の太さを0.7mm以上にした。抜去後30分以内に上記の非抜歯根管充填材200を、拡大した根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填した。30分以内に上部は燐酸セメント及び化学重合レジンで封鎖した。14日後、抜歯し、パラフィン標本を作製した。14日後、抜歯し、パラフィン標本を作製した。この結果を図8Aに示す。また、根管内象牙質壁の高倍像図を図8Bに示す。図8A及び図8BはH・E染色である。
【0090】
新生歯髄組織では、抜歯した場合(図6A・図6B・図6C)は、抜歯しない場合(図7A・図7B及び図8A・図8B)と比較して、血餅が残存しやや炎症がみられた。特に、図6Aには、再生された歯髄組織内の図中上部に血塊が見られ、更に再生された歯髄組織内の全般に小径の血塊が多数点在している状態が見られた。また、抜歯した場合の根管内象牙質壁には破歯細胞がみられ、内部吸収が見られた(図6B)。また、歯根外側の象牙質・セメント質に外部吸収が見られた(図6C)。内部吸収及び外部吸収は、いずれも軽度で吸収が終息している場合は生活に支障が出ないものの、吸収が高度に進行した場合は、歯の動揺、脱落等の危険性が高まり、また虫歯や歯周病に対するリスクも高まる。
【0091】
一方、抜歯しない場合の根管内象牙質壁には破歯細胞が見られず、内部吸収及び外部吸収も見られず、更に、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並んでいた(図7B、図8B)。また、歯髄幹細胞として、CD105陽性細胞を用いる場合と、CXCR4陽性細胞を用いる場合とでは、再生歯髄の新生毛細血管、神経及び固有歯髄組織の程度は両者に差は見られなかった。
【0092】
以上の結果より、抜歯した根管に充填する場合より、非抜歯の根管に充填する場合の方が、明らかに歯髄再生に有利であることが判明した。また、歯髄由来のCXCR4陽性細胞は、CD105陽性細胞と同様に、歯髄再生に有効であることが判明した。
【0093】
≪実施例2≫
次に、実施例2では、非抜歯根管充填材の歯組織再生能をより詳細に検証する。
〈フローサイトメトリ―による細胞分取〉
歯髄細胞を上顎犬歯より分離した。初代脂肪細胞は同一個体のイヌの脂肪組織よりコントロールとして分離した。細胞をマウスIgG1 陰性コントロール(W3/25) (AbD Serotec Ltd., Oxford, UK)として免疫染色した。細胞は、mouseIgG1 negative control (Phycoerythrin, PE) (MCA928PE) (AbD Serotec)及びmouseanti-human CD105 (PE) (43A3) (BioLegend, San Diego, CA, USA)で4℃、90分免疫染色した。2μg/ml propidium iodide 含有HEPESbuffer (Sigma)に、再溶解し、JSAN (Bay Bioscience, Kobe,Japan)にて分取した。歯髄及び脂肪由来のCD105陽性細胞、CD105陰性細胞及び、分取していないトータル歯髄細胞は35mmcollagen type Iコートディッシュ (Asahi Technoglass Corp., Funabashi, JAPAN)に播種し、10ng/mlIGF (Cambrex Bio Science)、5ng/ml EGF(Cambrex Bio Science)及び10% fetal bovineserum (Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA, USA)を添加したEBM2(Cambrex Bio Science, Walkersville, Maryland, USA)中で培養し、細胞の形質を維持した。培地は4〜5日に一度交換し、60〜70%コンフレントに達した後、37℃、10分、0.02%EDTAで反応させ、細胞を剥離し、1:4希釈にて継代した。
【0094】
歯髄CD105陽性細胞は、更に三代目にて特徴化し、脂肪CD105陽性細胞及び未分取のトータル 歯髄細胞と比較した。mouse IgG1 negativecontrol (AbD Serotec Ltd.), mouse IgG1 negative control (fluoresceinisothiocyanate, FITC) (MCA928F) (AbD Serotec),mouse IgG1 negative control (Phycoerythrin-Cy5,PE-Cy5)(MCA928C) (AbD Serotec), mouse IgG1 negative control (Alexa 647) (MRC OX-34) (AbDSerotec),及びCD24 (Alexa Fluor 647) (ML5) (BioLegend), CD29 (PE-Cy5)(MEM-101A) (eBioscience), CD31 (FITC) (Qbend10) (Dako), CD33 (FITC) (HIM3-4)(BD Bioscience), CD34 (Allophycocyanin, APC) (1H6) (R&D Systems, Inc.,Minneapolis, MN, USA), CD44 (Phycoerythrin-Cy7, PE-Cy7) (IM7) (eBioscience),CD73 (APC) (AD2) (BioLegend), CD90 (FITC) (YKIX337.217) (AbD Serotec), CD146(FITC) (sc-18837) (Santa Cruz, Biotech,Santa Cruz, CA, USA), CD150(FITC) (A12) (AbD Serotec), MHC class I (R-PE) (3F10) (AncellCorporation, Bayport, MN, USA), MHC class II (APC) (TDR31.1) (Ancell), 及びCXCR4 (FITC) (12G5) (R&D)に対する抗体でそれぞれ染色した。
【0095】
〈幹細胞マーカー、血管新生、神経栄養因子のReal-time RT-PCRによる発現分析〉
細胞画分の形質を更に特徴化するために、Trizol (Invitrogen) を用いて三代目の歯髄及び脂肪CD105陽性細胞及びトータル歯髄細胞からトータル RNAを分離した。それぞれの実験において細胞数は5×104個に標準化した。First-strand cDNA 合成はReverTra Ace-α(Toyobo, Tokyo, Japan)を用いてトータルRNAから合成し、Light Cycler-Fast Start DNAmaster SYBR Green I (Roche Diagnostics, Pleasanton, CA)を用いてLight Cycler (RocheDiagnostics)にて95℃で10秒,62℃で15秒,72℃で8秒のプログラムで、上記表2及び表3に示す幹細胞マーカーのイヌCXCR4,Sox2,Stat3,Bmi1及びRex1のReal time RT-PCRを行った。oligonucleotideプライマーは、公表されているイヌcDNAシークエンスを用いて作成した。イヌシークエンスが登録されていない場合、ヒトシークエンスを用いた。血管新生因子及び神経栄養因子のmRNA発現を検討するため、イヌmatrix metalloproteinase(MMP)-3,VEGF−A,granulocyte-monocytecolony-stimulating factor(GM−CSF),SDF−1,NGF,BDNF,Neuropeptide Y,Neurotrophin 3,E-selectin,VCAM1,rhombotin 2,ECSCR及びSLC6A6のreal-time RT-PCRを行った。RT-PCR産物は登録されたcDNAシークエンスを用いて確定した。三代目歯髄CD105陽性細胞及び脂肪CD105陽性細胞は、β-actinで標準化してトータル歯髄細胞と比較した。
【0096】
〈増殖及び遊走分析〉
stromal cell-derived factor-1(SDF−1)(Acris, Herford, Germany)に対する歯髄CD105陽性細胞の増殖能を、0.2% bovine serum albumin (Sigma)及びSDF−1(50ng/ml)添加EBM2中で96wellに103個播種し、トータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞と、四代目において比較した。10μl Tetra-colorone(登録商標、Seikagaku Kogyo, Co., Tokyo, JAPAN)を96well plateに添加し、細胞数を吸光度450nmにて吸光度計を用いて2,12,24及び36時間後に計測した。細胞を入れてないサンプルをnegativecontrolとした。
【0097】
歯髄CD105陽性細胞のSDF−1に対する遊走能を、水平化学走化性分析法にてトータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞と比較した。TAXIScan-FL (Effector Cell Institute, Tokyo, JAPAN)を用いてreal-time水平化学走化性分析を行った。TAXIScan-FL は6μmの孔のあいたsilicon及びガラスプレートの間に、細胞の大きさに最適化したチャンネルを形成し、チャンネル内の一端に細胞(105個/mlを1μl)を入れ、もう一端に10ng/μlのSDF−1を一定濃度勾配に形成させるように投入して、遊走する細胞を顕微鏡下で6時間撮影した。
【0098】
〈歯髄及び脂肪由来CD105陽性細胞の分取及び特徴化〉
CD105抗体を用いてイヌ永久歯歯髄組織からフローサイトメトリーにより分離した歯髄由来のCD105陽性細胞及び同一個体の脂肪組織由来のCD105陽性細胞は、図9A及び図9Bに示すように、それぞれトータル細胞の6%及び5.8%であった。また、図9C、図9D、図9E及び図9Fに示すように、歯髄及び脂肪CD105陽性細胞は、ともに星状で長い突起を有していた。図示しないが、歯髄CD105陰性細胞は、不規則な形で短い突起を有していた。IGF1,EGF及び10%ウシ胎児血清をEBM2に添加すると、CD105陽性細胞の形質が維持され、6代目でも98%以上CD105が陽性であった。35mmcollagen type I コートディッシュにCD105陽性細胞を一個播種すると、10日でコロニーを形成し、この細胞のコロニー形成能を示した。歯髄、脂肪CD105陽性細胞及び歯髄CD105陰性細胞の細胞付着及び増殖効率はそれぞれ8%,3.7%,1%であった。三代目で限界希釈法により、コロニーフォーミングユニット(CFU)は、歯髄CD105陽性細胞では、80%であり、トータル歯髄細胞では30%、脂肪CD105陽性細胞では50%であった。
【0099】
歯髄CD105陽性細胞の特徴化を進めるために細胞表面抗原マーカーを用いて、フローサイトメトリーを行い、歯髄CD105陽性細胞を脂肪CD105陽性細胞及びトータル歯髄細胞と比較した。歯髄CD105陽性細胞、脂肪CD105陽性細胞及びトータル歯髄細胞は三代目でCD29、CD44、CD90及びCD105が陽性であり、CD31が陰性であった。下記の表4に示すように、歯髄CD105陽性細胞は、脂肪CD105陽性細胞及びトータル歯髄細胞に比べてCD73,CD150及びCXCR4を強く発現していることは特筆すべきことである。
【0100】
【表4】
【0101】
歯髄CD105陽性細胞においては、トータル歯髄細胞に比べ、CXCR4,Sox2及びBmi1 mRNA等の幹細胞マーカーを16.8,64及び3.5倍高く発現しており、歯髄CD105陽性細胞の幹細胞としての性質が示唆された。CXCR4,Sox2及びBmi1mRNAは歯髄CD105陽性細胞において脂肪CD105陽性細胞に比べて高く発現していた。表5に示すように、VEGF−A,GM−CSF,nerve growth factor(NGF),brain-derivedneurotrophic factor(BDNF),neuropeptideY,neurotrophin 3,E-selectin及びVCAM−1等の血管新生因子あるいは神経栄養因子は、脂肪CD105陽性細胞に比べ歯髄CD105陽性細胞において高く発現していた。
【0102】
【表5】
【0103】
〈in vitroにおける多分化能〉
三代目から五代目において歯髄CD105陽性細胞の脂肪、血管、神経、及び象牙質/骨への分化誘導を行い、脂肪CD105陽性細胞及び未分取の歯髄細胞と比較した。
【0104】
図10A及び図10Dに示すように、歯髄幹細胞は脂肪細胞への分化能を示した。また、図10Eに示すように、歯髄幹細胞は血管内皮細胞への分化能を示した。また、図10H、図10J及び図10Kに示すように、歯髄幹細胞は神経細胞への分化能を示した。また、図10L及び図10Oに示すように、歯髄幹細胞は、象牙芽細胞あるいは骨芽細胞系譜への分化能を示した。
【0105】
しかしながら、図10L及び図10Mに示すように、歯髄CD105陽性細胞に比べてトータル歯髄細胞においては石灰化基質が多く認められた。また、図10C、図10D、図10N、図10O及び図10Gに示すように、脂肪CD105陽性細胞は脂肪誘導能及び骨誘導能はあるが、血管誘導能あるいは神経誘導能は見られなかった。図10Pに示すように、SDF−1による増殖活性は、歯髄CD105陽性細胞においてトータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞に比べて高かった。なお、図10Pにおいて、データは4サンプルで平均値±SDで表しており(*P<0.01)、実験は3回繰り返し行った典型例を示したものである。TAXIScan-FLにおいて示されるように、SDF−1による遊走活性は歯髄CD105陽性細胞においてトータル歯髄細胞及び脂肪CD105陽性細胞よりも高かった。
【0106】
〈幹細胞/前駆細胞の抜髄後根管内自家移植〉
イヌ(Narc, Chiba, Japan)永久歯完全根尖完成歯を全部歯髄除去し、細胞画分を移植して歯髄を再生させる実験的モデルを確立した。sodiumpentobarbital(Schering-Plough, Germany)で全身麻酔後、上顎第二切歯及び下顎第三切歯の完全歯髄除去を行い、根尖部を#70K-file (MANI. INC, Tochigi, Japan)を用いて0.7mmに拡大した。細胞外基質としてcollagen XYZを用い、根尖側に歯髄幹細胞を付着させると共に歯冠側にSDF−1を付着させた根管充填材を用いた。即ち、1x106個の、三代目から四代目の歯髄CD105陽性細胞、脂肪CD105陽性細胞あるいはトータル歯髄細胞をcollagen XYZ(新田ゼラチン,Osaka,Japan)とともにDiIラべリング後、根管内の下部に自家移植した。根管上部は更にcollagenXYZとともに最終濃度15ng/μlのSDF−1を移植した。窩洞はリン酸亜鉛セメント(Elite Cement, GC, Tokyo, Japan)及びボンディング材(ClearfilMega Bond, Kuraray)で処理した後、コンポジットレジン(ClearfilFII,Kuraray,Kurashiki,Japan)で修復した。15匹のイヌ60歯を用いた。10歯は歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1、5歯は脂肪CD105陽性細胞及びSDF−1、5歯はトータル歯髄細胞及びSDF−1、5歯は細胞を入れずSDF−1のみ、5歯はSDF−1を入れず歯髄CD105陽性細胞のみ、5歯は細胞を入れずscaffoldのみ注入し、14日後に標本を作製した。6歯は歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1を注入し、28日後に二次元電気泳動分析した。4歯に、歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1、脂肪CD105陽性細胞及びSDF−1、並びに、トータル歯髄細胞及びSDF−1を注入し、90日後に標本を作製した。7歯の正常歯をcontrolとして用いた。形態分析のために4%paraformaldehyde(PFA) (Nakarai Tesque, Kyoto, Japan)で4℃一晩固定し、10%蟻酸にて脱灰後、paraffin wax (Sigma)に包埋した。paraffin切片(厚さ5μm)をhematoxylin-eosin(HE)染色し、形態学的に観察した。
【0107】
血管染色のため、5μm厚みのparaffin切片を脱パラフィンし、Fluorescein Griffonia (Bandeiraea)Simplicifolia Lectin 1/fluorescein-galanthus nivalis (snowdrop) lectin (20μg/ml, Vector laboratories, Inc., Youngstown,Ohio)にて15分染色し、fluorescence microscope BIOREVO, BZ−9000(KEYENCE, Osaka, Japan)にて新生血管に対する移植細胞の存在及び局在性を観察した。移植後14日後の再生歯髄と正常歯髄を4% paraformaldehydeで45分固定した後、0.3%Triton X 含有PBSで処理後、ブロッキングを行い、GS-IB4 (Griffoniasimplicifolia, Alexa Fluor 488)レクチンにて12時間4℃にてホールマウント免疫染色した。新生血管と移植細胞は二光子顕微鏡FV1000MPE (Olympus)にて三次元的に撮影した。
【0108】
新生神経の染色は、5μm厚みのparaffin切片を脱パラフィンし、3% Triton X 含有PBSで処理後、2%ヤギ血清でブロッキングを行い、PGP-9.5にて12時間4℃にて一次染色した。三回PBSで洗浄した後、biotinylatedgoat anti-rabbit IgG (Vector)(1:200)で二次染色を1時間室温で行った。ABC reagent (VectorLaboratories, Burlingame, CA)にて処理した後、DABにて10分間発色させた。
【0109】
新生神経突起が下歯槽神経とつながっていることの確認のため、歯髄CD105陽性細胞をDiIラベルせずに下顎第三切歯に移植し、移植後に14日目にDiIを再生歯髄上に適用し、移植後17日目に下顎骨を摘出し、蛍光顕微鏡(Leica,M 205 FA, Wetzlar, Germany)にて観察した。
【0110】
14日目における再生歯髄の再生量を統計学的に解析するため、歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1、脂肪CD105陽性細胞及びSDF−1、トータル歯髄細胞及びSDF−1、細胞を入れずSDF−1のみ、SDF−1を入れず歯髄CD105陽性細胞のみ、並びに、細胞を入れずscaffoldのみの標本から5本ずつ150μm間隔で実体顕微鏡にて(Leica, M 205 FA)撮影、Leica Application Suite softwareを用いて解析した。根管の表面積に対する新生再生組織の割合はそれぞれの歯牙の三か所を平均して計算した。統計計算はスチューデントt検定を用いて行った。
【0111】
生体内における象牙芽細胞分化マーカーであるdentin sialophosphoprotein(Dspp)とenamelysinの発現は、歯髄CD105陽性細胞及びSDF−1移植後90日目の5μm-paraffin切片において、in situ hybridizationにて根管の側壁において観察した。イヌDspp(183bp)及びenamelysin(195bp)のcDNAをそれぞれNcoI 及びSpe Iにて切断して線状にリニアライズし、anti-senseprobesを作製した。プローブはPCR productをsubcloning後プラスミドから作成し、real-time RT-PCRで用いた表2及び表3記載のプライマーから作成した。DIGシグナルはTSAsystem (PerkinElmer, Waltham, MA, USA)にて検出した。
【0112】
〈歯髄CD105陽性細胞の抜髄後根管内移植による歯髄再生〉
次に、上述の図3に示したような手順にて、イヌにおいて永久歯の完全根尖完成歯の抜髄後根管内に、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに自家移植した。図11Aは、SDF−1及び歯髄CD105陽性細胞による歯髄再生を示す図である。図11Bは、図11AにおけるエリアBの拡大図である。図11Cは、図11AにおけるエリアCの拡大図である。図11A、図11B及び図11Cに示すように、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植すると、歯髄様組織が14日までに形成された。図11Eに示すように、CD105陽性細胞のみを移植しても歯髄様組織が形成されたが、SDF−1とともに移植したほうが歯髄様組織の形成が促進された。一方、図11Fに示すように、SDF−1のみを移植すると、極めて少量の歯髄しか形成されなかった。図11Sに示すように、non-pairedスチューデントt検定で統計学的解析を行うと、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植すると、CD105陽性細胞のみあるいはSDF−1のみと比べて、再生された面積は有意に増加した(それぞれ3.3倍及び4.2倍)。図11Dに示すように、象牙芽細胞様細胞は、根管の象牙質壁に付着し、細管内に突起を伸ばしていた。図11Gに示すように、歯髄様組織は、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植すると、90日後にはセメント-エナメル質境まで達していた。図11Hに示すように、再生組織の上部に存在する細胞は、紡錘形であり、また図11Iに示すように、中央部では星状であった。これらの再生組織は、図11Jに示す正常歯髄組織の細胞に類似していた。図11G及び図11Kに示すように、象牙質側壁に沿って、細管象牙質が観察されたのは特筆すべきことである。図11L及び図11Mに示すように、象牙異質側壁に並んで存在する象牙芽細胞は、象牙芽細胞の二つのマーカーであるenamelysin/matrixmetalloproteinase(MMP)20及びDspp陽性であった。
【0113】
しかしながら、図11N及び図11Oに示すように、CD105陽性細胞の代わりに、未分取のトータル歯髄細胞を移植した場合には、より少量の歯髄組織しか再生されず、図11Pの矢印に示す石灰化組織及び図11QにODにて示す骨様象牙質のように、90日後には石灰化がみられた。図11Rに示すように、同様に脂肪由来のCD105陽性細胞を移植した場合にも、より少量の再生組織しか見られなかった。図11Sに示すように、更に、統計学的解析により、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植した場合、脂肪CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植、あるいはトータル歯髄細胞をSDF−1とともに移植した場合よりも、14日目で、根管の表面積に対する新生再生組織の割合は、有意に高いことが分かった(51.6倍及び2.2倍)。図11Tに示すように、凍結切片をBS-1 lectinで染色後、共焦点レーザー顕微鏡分析により、再生組織における血管新生が認められた。図11Uに示すように、二光子顕微鏡分析により、DiIでラベルした移植歯髄CD105陽性細胞の多くが、新生毛細血管の近くに観察され、血管新生におけるこれらの細胞の血管新生因子を放出する役割が示唆された。図11Vに示すように、14日目における再生組織の誘導血管の三次元像は、図11Xに示される正常歯髄の像と、密度及び方向性において類似していた。図11Wに示すように、移植したCD105陽性細胞は、新しく再生された歯髄のあらゆるところに観察され、SDF−1により、上部に遊走する能力を歯髄CD105陽性細胞が持つことが示唆された。図11Yに示すように、PGP9.5抗体で染色される神経突起は、根尖孔から新しく再生された組織中に伸長していた。図11Zに示すように、下顎第三切歯に再生された歯髄組織をDiIラベルしたところ、新生歯髄組織(点線で示す)において再生された神経は下歯槽神経とつながっていることが明らかとなった。
【0114】
〈歯髄再生の二次元電気泳動分析及び遺伝子発現分析〉
再生組織の二次元電気泳動分析のために、28日目の再生歯髄様組織、正常歯髄組織、及び歯根膜組織を細切し、lysis buffer(6M urea,1.97M thiourea,2%(w/v) CHAPS,64.8mM DTT,2%(v/v)Pharmalyte)に溶解し、超音波をかけた。15,000rpmで15分、4℃で遠心し、上清を二次元電気泳動した。等電点電気泳動(IEF)はCoolPhoreSter2-DE systemにて行った。IPG strips (Immobiline DryStrips,pH4〜7,18cm, GE)はmanufacturerの指示に従い用いた。IPGstripsはrehydration solution(6M urea,1.97M thiourea,2%(v/v)TritonX-100,13mM DTT,2%(v/v)Pharmalyte,2.5mMacetic acid,0.0025% BPB)により一晩20℃にて再度水和した。等電点電気泳動(IEF)は500V、2時間、700-3000V、1時間、及び3500V、24時間の電圧を徐々に上昇させる方法で行った。等電点電気泳動後、IPGstripsは平衡緩衝液equilibration buffer (6M urea,2.4mM DTT,5mM Tris-HCl,pH6.8,2%(w/v)SDS,0.0025%BPB,30%(v/v) Glycerol)にて30分室温にて反応させた。IPG stripsは更に5mM Tris-HCl、pH6.8、2%(w/v)SDS、0.0025%BPB、30%(v/v)Glycerol、243mM iodoacetamidにて20分室温にて平衡化させた。その後、二次元目は12.5% SDS-PAGEgel (20cm×20cm)にて25mA/gelで15分、その後30mA/gelで泳動した。GelはFlamingo Fluorescent GelStain (Bio-Rad Laboratories,CA,USA)で染色し、(FluoroPhorester 3000, Anatech, Tokyo,Japan)にてscanした。GelイメージはProgenesis (Nonlinear Dynamics, NC, USA)を用いて分析し、それぞれのパターンを比較した。
【0115】
歯根膜に特異的なイヌaxin2、periostin、及びasporin/periodontal ligament-associatedprotein 1 (PLAP-1)を用いてReal time RT-PCR 分析を行った。再生組織におけるCollagen type aI(I)、syndecan3、及びtenascin Cの発現を正常歯髄並びに歯根膜と比較した。
【0116】
〈再生歯髄の二次元電気泳動によるタンパク化学分析及び遺伝子発現解析〉
図12A、図12B及び図12Cに示すように、二次元電気泳動分析により、再生歯髄組織は28日目において同一個体由来の正常歯髄組織に定性及び定量的にタンパク発現パターンが類似していることが明らかとなった。正常及び再生歯髄組織両方に見られるタンパクスポットは85.5%(123 spots)であった。一方、図12D、図12E及び図12Fに示すように、正常歯髄組織のタンパクスポットは、歯根膜組織と比べて、違いがみられた。従って、二次元電気泳動分析により、再生組織は機能的に正常歯髄組織であることが判明した。
【0117】
歯髄組織に特異的なマーカーはこれまでに見つかっていない。従って、再生組織が正常の歯髄組織であることを証明するために、歯根膜組織に特異的なマーカーとして、axin2,periostin及びasporin/periodontal ligament-associated protein 1 (PLAP-1)を更に用いた。axin2、periostin及びPLAP-1 mRNA発現は、正常歯根膜において再生歯髄組織のそれに比べて28日目でそれぞれ25、531倍、179倍及び11倍と高い発現がみられた。表6に示すように、これらの遺伝子は、正常歯髄で再生組織と比べて、ほぼ同程度(0.4倍、0.4倍、及び2.4倍)に発現がみられた。
【0118】
【表6】
【0119】
表6に示すように、CollagenαI(I)は歯根膜において再生組織よりも9.3倍多く発現し、正常歯髄と再生歯髄の間ではほとんど違いが認められなかった。Syndecan 3及びTenascin Cは歯髄組織で高く発現していることが知られており、再生組織においては歯根膜組織と比較して、14.3倍及び50.0倍高く発現が見られた。従って二次元電気泳動分析及び、遺伝子発現分析により、再生組織は機能的に正常歯髄組織であることが判明した。
【0120】
〈歯髄CD105陽性細胞の感染根管治療後根管内自家移植による歯髄再生〉
イヌ永久歯完全根尖完成歯を全部歯髄除去し、根尖部をK-fileにて#30まで拡大し、そのまま根管を開放し2週間放置し、感染根管歯モデルを作製した。その後、次亜塩素酸ソーダおよびオキシドールにて交互洗浄し、さらにスメアクリーンを根管内に30秒間入れた後、生理食塩水にてさらに洗浄した。さらにFC(ホルムクレゾール)を根管内に一週間貼薬し、根管内の無菌化を図った。その後、再度、生理食塩水にて洗浄し、根管内をペーパーポイントにて乾燥させた。細胞外基質としてcollagenXYZを用い、根尖側に歯髄幹細胞を付着させると共に歯冠側にSDF−1を付着させた根管充填材を用いた。即ち、抜髄後の根管内自家移植と同様の方法にて、1x106個の、三代目から四代目の歯髄CD105陽性細胞をcollagen XYZとともに、根管内の下部に自家移植した。根管上部は更にcollagenXYZとともに最終濃度15ng/μlのSDF−1を移植し、窩洞をリン酸亜鉛セメント及びコンポジットレジンで修復した。14日後に標本を作製した。通法にて形態学的に観察した。
【0121】
図13Aは、SDF−1及び歯髄CD105陽性細胞による歯髄再生を示す図である。図13Bは、図13Aにおける根管内に再生された歯髄組織の中央部の拡大図である。図13Cは、図13Aにおける根管内に再生された歯髄組織の象牙質側壁に接する部位の拡大図である。図13A、図13B及び図13Cに示すように、歯髄CD105陽性細胞をSDF−1とともに移植すると、歯髄様組織が13日までに形成された。図13Bに示すように、歯髄組織内は血管が新生され、歯髄細胞がみられたが、炎症性細胞も若干散在していた。図13Cに示すように、象牙芽細胞様細胞は、根管の象牙質側壁に付着し、並列して存在していた。
【0122】
《実施例3》
次に、実施例3では、遊走因子G−CSF及び歯髄CD105陽性細胞を用いて、抜歯した根管に充填する場合と非抜歯の根管に充填する場合との比較を行った。
【0123】
上述の実施例1及び実施例2と同様に、イヌ前歯を抜歯した後、scaffoldとしてcollagen XYZとともに歯髄CD105陽性細胞を5x105cells(10μl)を根管内下部に、そして遊走因子としてG−CSFを200ng(10μl)を根管内上部に移植して、14日経過させた。その結果を図14Aに示す。図14Aに示されるように、歯髄様組織は少量しか形成せず、矢印で示すように、強い炎症像及び外部吸収がみられた。
【0124】
次に、イヌ前歯を抜歯せずに、scaffoldとしてcollagenXYZとともに歯髄CD105陽性細胞を5x105cells(10μl)を根管内下部に、そして遊走因子としてG−CSFを200ng(10μl)を根管内上部に移植して、14日経過させた。その結果を図14Bに示す。図14Bに示されるように、歯髄様組織が著明に形成され、炎症像はみられなかった。また外部吸収もみられなかった。図14Cは、図14Bに示した矢印部分の歯髄様組織の拡大図である。図14Cに示すように、再生歯髄様組織中には、細長い紡錘形の線維芽細胞様の歯髄細胞が存在し、炎症性細胞はみられなかった。
【符号の説明】
【0125】
100:対象となる歯
110:根尖性歯周炎
200:非抜歯根管充填材
210:細胞外基質
220:歯髄幹細胞
230:遊走因子
400:血管
500:象牙質
610:ゼラチン
620:レジン
630:形態形成因子
【配列表フリーテキスト】
【0126】
配列番号1〜64:プライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後、非抜歯の根管の根尖側に挿入される、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有することを特徴とする非抜歯根管充填材。
【請求項2】
前記歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項1記載の非抜歯根管充填材。
【請求項3】
前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかであることを特徴とする請求項2記載の非抜歯根管充填材
【請求項4】
前記非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の非抜歯根管充填材。
【請求項5】
前記細胞遊走因子が、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項4記載の非抜歯根管充填材。
【請求項6】
前記細胞増殖因子が、IGF、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項4記載の非抜歯根管充填材。
【請求項7】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NGF、NeuropeptideY及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項4記載の非抜歯根管充填材。
【請求項8】
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の非抜歯根管充填材。
【請求項9】
前記細胞外基質における前記歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の非抜歯根管充填材。
【請求項10】
抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後の非抜歯の根管の根尖側に、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有する非抜歯根管充填材を注入することで、根管内の歯組織を再生することを特徴とする非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項11】
前記歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項10記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項12】
前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかであることを特徴とする請求項11記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項13】
前記非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させていることを特徴とする請求項10乃至12の何れか1項に記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項14】
前記細胞遊走因子が、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項13記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項15】
前記細胞増殖因子が、IGF、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項13記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項16】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NGF、NeuropeptideY及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項13記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項17】
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることを特徴とする請求項10乃至16の何れか1項に記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項18】
前記根管充填材を前記根管の根尖側に注入する前に、前記根管を拡大することで根尖部の根管の太さを所定の大きさにすることを特徴とする請求項10乃至17の何れか1項に記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項19】
前記細胞外基質における前記歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下であることを特徴とする請求項10乃至18の何れか1項に記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項1】
抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後、非抜歯の根管の根尖側に挿入される、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有することを特徴とする非抜歯根管充填材。
【請求項2】
前記歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項1記載の非抜歯根管充填材。
【請求項3】
前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかであることを特徴とする請求項2記載の非抜歯根管充填材
【請求項4】
前記非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の非抜歯根管充填材。
【請求項5】
前記細胞遊走因子が、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項4記載の非抜歯根管充填材。
【請求項6】
前記細胞増殖因子が、IGF、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項4記載の非抜歯根管充填材。
【請求項7】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NGF、NeuropeptideY及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項4記載の非抜歯根管充填材。
【請求項8】
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の非抜歯根管充填材。
【請求項9】
前記細胞外基質における前記歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の非抜歯根管充填材。
【請求項10】
抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後の非抜歯の根管の根尖側に、歯髄幹細胞及び細胞外基質を有する非抜歯根管充填材を注入することで、根管内の歯組織を再生することを特徴とする非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項11】
前記歯髄幹細胞は、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、及びCD90陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項10記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項12】
前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、又はCD90陽性細胞の何れかであることを特徴とする請求項11記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項13】
前記非抜歯根管充填材は、歯髄幹細胞を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に細胞遊走因子、細胞増殖因子、神経栄養因子及び血管新生因子のうち少なくとも何れか一つを含む遊走因子を付着させていることを特徴とする請求項10乃至12の何れか1項に記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項14】
前記細胞遊走因子が、SDF−1、VEGF、G−CSF、SCF、MMP3、Slit及びGM−CSFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項13記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項15】
前記細胞増殖因子が、IGF、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項13記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項16】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NGF、NeuropeptideY及びNeurotrophin 3のうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項13記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項17】
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む生体親和性材料から構成されていることを特徴とする請求項10乃至16の何れか1項に記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項18】
前記根管充填材を前記根管の根尖側に注入する前に、前記根管を拡大することで根尖部の根管の太さを所定の大きさにすることを特徴とする請求項10乃至17の何れか1項に記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【請求項19】
前記細胞外基質における前記歯髄幹細胞の含有率は、1×103セル/μl以上1×106セル/μl以下であることを特徴とする請求項10乃至18の何れか1項に記載の非抜歯による歯組織再生方法。
【図1】
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図9A】
【図9B】
【図10P】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図10G】
【図10H】
【図10I】
【図10J】
【図10K】
【図10L】
【図10M】
【図10N】
【図10O】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
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【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図11K】
【図11L】
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【図11O】
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【図11Q】
【図11R】
【図11S】
【図11T】
【図11U】
【図11V】
【図11W】
【図11X】
【図11Y】
【図11Z】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
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【図12F】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図9A】
【図9B】
【図10P】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
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【図3H】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
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【図9F】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
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【図10G】
【図10H】
【図10I】
【図10J】
【図10K】
【図10L】
【図10M】
【図10N】
【図10O】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
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【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図12E】
【図12F】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【公開番号】特開2011−78752(P2011−78752A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202663(P2010−202663)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
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