説明

非接触型シール装置

【課題】基本的には静圧型シール装置としながらも、故障による不測のガス遮断時や停止に向けての減速回転時にシール面どうしが接触する不都合が回避され、半導体洗浄装置等のパーティクルを嫌う機器にも好適に使用できる非接触型シール装置を提供する。
【解決手段】基本的に静圧型である複合型非接触シール装置において、回転によって静止密封環5をコイルバネ9による付勢力に抗して押戻す動圧を発生するように回転密封環3のシール面3aに形成される動圧溝10と、シールガス圧で静止密封環5を軸心X方向で回転密封環3に押付けるシリンダ機構cとを設け、ガス供給により、コイルバネ9の付勢力とシリンダ機構cの付勢力との和に抗してシール面3aに静圧を生じさせてシールする静圧非接触シール状態を基本としながら、停止に向かう減速時には回転密封環3の回転による動圧により弾性機構dの付勢力に抗してシール面3aをシールする動圧非接触シール状態に自然に切換るように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体洗浄装置などに好適に使用される非接触型シール装置に係り、詳しくは、可燃性ガス、爆発性ガス、洗浄流体等の各種流体を扱う産業機器、半導体装置、食品、医薬等の分野における回転機器の軸封等に用いられる非接触型シール装置(非接触型メカニカルシール)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転密封環と静止密封環とのシール面にシール用のガスを供給してシールする構造のシール装置、即ち静圧型シール装置は、正規にシールガスが供給されておれば静圧型シールとして良好な非接触シールが行えるものであり、前述した半導体洗浄装置等のパーティクル発生を嫌う箇所に有効なシール手段として用いられてきている。この種の従来例としては、例えば、特許文献1において開示されるシール装置が知られている。
【0003】
静圧型シール装置は、シール面へのシールガスの供給により、静止密封環を回転密封環に押付ける弾性機構の付勢力にバランスさせて静止密封環と回転密封環との間にシールガスで満たされる極小の間隙を形成してシールさせるものである。このような構造上、良好なシール性を得るには弾性機構の付勢力をある程度強いものとし、かつ、シールガスによってシール面に生じる圧力がそれと同じ程度になるような設定が為される。
【0004】
しかしながら、何らかの原因によってシールガス供給が停止したような場合、弾性機構による付勢力で静止密封環と回転密封環とが押付けあって擦れながら相対回転する状態となるため、摩擦によるパーティクルが発生する原因となる不都合がある。そこで、ガス供給が止まった場合の静止密封環と回転密封環との擦れ合いを軽減又は解消可能なものとしては、シール装置を動圧型とすることも考えられる。動圧型シール装置とは、静止密封環と回転密封環との相対回転を利用してそれら両者をガス圧で軸心方向に離反させて間隙を設けるための力、即ち動圧を生じさせ、弾性機構による付勢力とバランスさせてシールさせる構造のものである。動圧型シール装置の例としては特許文献2において開示されるものが知られている。
【0005】
動圧型シール装置で発生される動圧は、シールガスを強制供給する静圧型のものに比べてシール圧が小さく、弾性機構の付勢力も小さくしてバランスさせるようになることから、シールガス供給が停止したような場合での静止密封環と回転密封環との擦れ合いが軽減又は殆ど解消されることが可能となる利点がある。ところが、この動圧型シール装置におけるシール圧は静圧型に比べて小さく、弾性機構の付勢力(スプリング力)を小さくする必要がある。
【0006】
また、動圧型にする手段とは異なる対策として、静止密封環と回転密封環との軸心方向の間隙をシール作用時の隙間程度に設定すること等により、静圧型シール装置における弾性機構を無くす又は極弱いものにすることが考えられる。この対策案では、シールガス供給停止時や減速回転時における前述の問題(パーティクル発生)は解決されるが、シールガス供給停止時や回転停止時にはシール面が開いたままとなって漏れが生じ、シールにならないという根本的な問題が新たに発生してしまう。故に、この対策は採用し難い。
【0007】
そこで、特許文献1の図4(及び明細書におけるその説明の文章)において開示されるように、静圧型シール装置における回転密封環のシール面に動圧溝を設けて、静圧型と動圧型とをミックスしたような複合型シール装置も開示されている。この構造のシール装置では、特許文献1の明細書の段落番号「0032」に、『……シールガス10による静圧によっては密封端面5a,7aを適正な非接触状態に保持し得ない事態が発生したときにも、動圧によって適正な非接触状態を維持することができる。また、静圧のみで非接触状態に保持する静圧形ノンコンタクトガスシールに比して、シールガス10による静圧によってシールガス10の必要供給量を少なくすることができる……』と記載されている。
【0008】
ところが、特許文献1の図2に示される静圧型シール装置と図4に示される複合型シール装置とは、動圧溝の有無以外は同じであると記載されており、弾性機構であるスプリング8も同じ強さである。従って、図4に示される複合型シール装置でも、ガス供給停止時や前記減速回転時における不都合、即ち静止密封環と回転密封環とが擦れてパーティクルが生じる問題は依然として存在しており、さらなる改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−017242号公報
【特許文献2】特開2006−022834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、さらなる構造工夫により、基本的には静圧型シール装置としながらも、シールガス供給停止時や停止に向けての減速回転時等における前記不都合が回避され、半導体洗浄装置等のパーティクルを嫌う機器にも好適に使用できる非接触型シール装置を開発して提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、非接触型シール装置において、被軸封機器Bの回転部材2と一体に回転する回転密封環3と、前記回転部材2の軸心X方向への移動が可能に前記被軸封機器Bのケーシング側Kに支持され、かつ、前記軸心X方向において前記回転密封環3に弾性機構dによって付勢される静止密封環5と、前記回転密封環3と前記静止密封環5とが対向するシール面3aにシール用のガスを供給するべく前記静止密封環5に貫通形成されるガス供給路13と、前記回転密封環3の回転によって前記静止密封環5を前記弾性機構dによる付勢力に抗して押し戻し可能な動圧を生じさせるべく前記回転密封環3又は前記静止密封環5のシール面3aに形成される動圧溝10と、供給される前記ガスによって前記静止密封環5を前記軸心X方向において前記回転密封環3に押付けるシリンダ機構cとを有するとともに、前記ガスの供給により、前記弾性機構dの付勢力と前記シリンダ機構cの付勢力との和に抗して前記シール面3aに静圧を生じさせてシールする静圧非接触シール状態と、前記回転密封環3が回転しての前記動圧溝10によって生じる動圧により前記弾性機構dの付勢力に抗して前記シール面3aを非接触に保持してシールする動圧非接触シール状態との切換が可能に構成されるとともに、
ガスが供給されている通常時は前記静圧非接触シール状態が維持されており、ガスの供給が止まる非通常時には前記動圧非接触シール状態に切換るように、前記弾性機構d及び前記シリンダ機構cによる付勢力と前記ガス圧とが関係付けられて設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の非接触型シール装置において、前記シリンダ機構cが、前記ケーシング側Kにおける前記静止密封環5を内嵌する部分に前記軸心Xを中心とする環状空間部を設けて成るシリンダ室6と、前記シリンダ室6を横切って前記ガス供給路13に連通するケーシング側kのガス導入経路4dとを設けるとともに、前記ケーシング側Kにおける前記静止密封環5の回転密封環側を内嵌する先端側内周面4bの径を、前記静止密封環5の反回転密封環側を内嵌する基端側内周面8tの径より大に設定することにより構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の非接触型シール装置において、前記ガス供給路13の基端が前記シリンダ室6の前記軸心X方向中間部に開口しており、前記ガス導入経路4dの前記シリンダ室6への開口部18が前記ガス供給路13の開口部19と前記軸心X方向で対応する位置に形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の非接触型シール装置において、前記静止密封環5に、前記シリンダ室6における前記軸心X方向の中間において径外側に張り出るフランジ部5Aが一体形成され、前記フランジ部5Aの外周面5dに前記ガス供給路13の開口部19が設けられるとともに、前記シリンダ室6における前記フランジ部5Aの回転密封環側となる大径内周シリンダ部6b、及び前記フランジ部5Aの反回転密封環側となる小径内周シリンダ部6aのそれぞれにシール用のOリング17,14が装備されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、シール用のガスを用いて動作するシリンダ機構を設け、そのシリンダ機構と弾性機構との押圧力の和とシール用ガスによる静圧とがバランスする静圧非接触シール状態と、回転密封環と静止密封環との相対回転で生じる動圧と弾性機構の押圧力とがバランスする動圧非接触シール状態とが切換え可能に構成されている。これにより、通常の回転動作時には静圧非接触シール状態として良好な非接触シール状態を得るとともに、不測のガス供給停止時やガス供給を遮断しての停止に向けての減速回転時には静圧非接触シール状態から動圧非接触シール状態に切換ってから回転停止するようになるから、定格回転時だけでなく回転停止時においても回転密封環と静止密封環との非接触状態を維持しながらシール面をシールすることが可能となる。その結果、基本的には静圧型シール装置としながらも、シールガス供給停止時や停止に向けての減速回転時における不都合(回転密封環と静止密封環とが一時的に接触する不都合)が回避され、半導体洗浄装置等のパーティクルを嫌う機器にも好適に使用可能となる非接触型シール装置を提供することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、弾性機構で付勢すべく静止密封環を軸心方向にスライド可能にケーシング側に嵌合する構造を利用し、その嵌合径を変えての面積差により供給ガスによって静止密封環を押付けるシリンダ機構を設けてある。つまり、構造工夫によって、静圧型シール装置として必要なシール用ガスを用いてシリンダ機構を構成するという兼用化構成ができており、これにより、コストの大幅な上昇なく機能を向上させること、即ち一層の合理化が図られているという利点がある
【0017】
そして、請求項3の発明のように、ガス導入経路のシリンダ室への開口部がガス供給路の開口部と軸心方向で対応する位置に形成すれば、シリンダ室にガス圧を供給してシリンダ機構を所期通りに動作させながらも、効率よくシールガスを静止密封環のガス供給路に導くことができる。また、請求項4のように、静止密封環に形成されるフランジ部の外周面にガス供給路の開口部を設ける構成を採れば、シールガスがシリンダ室を横切る距離をより短くすることができ、請求項3による前記効果が強化される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】非接触型シール装置の構造を示す要部の断面図(実施例1)
【図2】回転密封環のシール面を示す正面図
【図3】シールフランジの取付側の側周面を示す正面図
【図4】シールフランジが異なる非接触型シール装置の断面図(変形例)
【図5】静止密封環のシール面を示す半円部の正面図
【図6】回転密封環の第1別構造シール面を示す半円部の正面図(実施例2)
【図7】回転密封環の第2別構造シール面を示す半円部の正面図(実施例3)
【図8】回転密封環の第3別構造シール面を示す半円部の正面図(実施例4)
【図9】静止密封環の別構造シール面を示す半円部の正面図(実施例2,3,4)
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明による非接触型シール装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。尚、図1〜図3、及び図5は実施例1によるシール装置を、図4は変形例を、図6と図9は実施例2のシール部を、図7と図9は実施例3のシール部を、図8と図9は実施例4のシール部をそれぞれ示している。
【0020】
〔実施例1〕
図1には、半導体洗浄装置に用いられる被軸封機器Bに採用されている複合型の非接触型シール装置Aの構造が示されている。この非接触型シール装置(複合型非接触シール装置)Aは、モータ側であるケーシング1(ケーシング側Kの一例)と、プロセス側であるスピンテーブル2との間に設けられており、ケーシング1に内嵌されるシールフランジ8(ケーシング側Kの一例)、シールケース4(ケーシング側Kの一例)、これら両者8,4に跨る状態で内嵌される静止密封環5、スピンテーブル2と一体回転する回転密封環3、静止密封環5を軸心X方向で回転密封環3に押圧付勢するための弾性機構d及びシリンダ機構c等を有して構成されている。
【0021】
図1において、ケーシング1を貫通して設けられた軸心Xを有するスピンテーブル(回転部材の一例)2には、ボルト止めされるアダプタ7を介して例えばSic製の回転密封環3が一体回転状態に嵌装されている。12はOリングである。回転密封環3は、その静止密封環側の面が回転シール面3aであって、図2に示すように、回転シール面3aには周方向に並ぶ多数の動圧溝10が軸心Xに関する均等角度ごとに形成されている。各動圧溝10は、幅の太い径方向溝10aとその周方向の両側で内外の円弧溝10b,10cとから成る軸心X方向視でカタカナの略「エ」を呈し、かつ、軸心Xを通る放射線に対して対称となる形状の溝に形成されている。
【0022】
ケーシング1にはシールフランジ8及びシールケース4が軸心X方向で隣合う状態で内嵌され、静止密封環5は、シールフランジ8の中間周面(基端側内周面の一例)8tに内嵌する径d2の小径外周面5aとシールケース4の内突出周面(先端側内周面の一例)4bに内嵌される径d1の大径外周面5bとを有して、それらシールフランジ8とシールケース4とを介してケーシング1に内装されている。シールケース4には、その一側面4aと内周面4cの開口部18とに繋がるシールガスの導入経路、即ちガス導入経路4dが形成されている。
【0023】
図3にも示されるシールフランジ8は、その内周部8aがケーシング側Kの部材である内ケース部1Aにボルト(図示省略)止めされており、回転密封環側に凹入する周溝8mが形成される中間周部8b、及びシールガスの供給経路8dが軸心X方向に貫通形成される外周部8cとを有する例えばステンレス材製で環状の部材に形成されている。尚、図3において、8eは位置決め用のピンであり、8fはケーシング1にボルト止めするための複数の取付孔(又はナット部)である。
【0024】
静止密封環5は、図1,図5に示すように、周方向の均等角度毎に形成される凹入穴に配置されてシールフランジ8の中間周部8bに当接する複数のコイルバネ(弾性機構dの一例)9により、軸心X方向で回転密封環3側に押圧付勢されている。静止密封環5における回転密封環3の回転シール面3aに当接する静止シール面5cには、動圧溝10に対向する長円弧状の静圧溝11が周方向に若干の間隙をあけて複数箇所(実施例1では5箇所)形成されている。
【0025】
そして、小径外周面5aと大径外周面5bとの間には、シリンダ室6を二分するが如く径外側に大きく突出する状態のフランジ部5Aが一体形成されており、その外周面5dに形成される開口部19と静圧溝11への先端開口部(噴出し口)13aとを結ぶガス供給路13が各静圧溝11ごとに形成されている。ガス供給路13にはガス圧を制御するオリフィス20が形成されている。尚、フランジ部5Aの外周面5dは、これとシールケース4の内周面4cとの間に間隙が形成されるように、内周面4cより明確に小さい径に設定されている。
【0026】
さて、静止密封環5がケーシング1に装備された状態では、図1に示すように、シールフランジ8とシールケース4と静止密封環5とで囲まれる環状の空間部、即ちシリンダ室6が形成されている。シリンダ室6は、フランジ部5Aの存在によってそのモータ側周面15に面し、かつ、大Oリング14が配備されるモータ側シリンダ室(小径内周シリンダ部の一例)6aと、フランジ部5Aのプロセス側周面16に面し、かつ、小Oリング17が配備されるプロセス側シリンダ室(大径内周シリンダ部の一例)6bとに区分されている。シールケース4のガス導入経路4dは、シリンダ室6におけるフランジ部5Aの外周面5dに形成されるガス供給路13の開口部19に軸心X方向で対応する位置において開口する開口部18を有している。
【0027】
導入経路4dからシリンダ室6にシールガスが供給されると、前述した小径外周面5aと大径外周面5bとの径差(d1−d2)によるフランジ部5Aの各側周面15,16の面積差により、静止密封環5が回転密封環3に向けて押圧されるようになる。即ち、ケーシング側Kであるシールケース4及びシールフランジ8とに軸心X方向にスライド可能に内嵌される静止密封環5が、シリンダ室6に対するピストンとなる構造のシリンダ機構cが構成されている。つまり、シールガス供給時には、静止密封環5はシリンダ機構cと弾性機構dとの双方によって回転密封環3に押付けられ、シールガス非供給時(供給停止時)には弾性機構dのみによって回転密封環3に押付けられるように構成されている。
【0028】
次に、回転作動中における非接触型シール装置Aの動作状況について説明する。まず、シールガスG(図1参照)が供給されている場合は、弾性機構d及びシリンダ機構cによって静止密封環5を回転密封環3に押付けようとする押圧力と、静圧溝11から噴出されるシールガスによって静止密封環5を回転密封環3から遠ざけようとする圧力(押し退け圧力)とがバランスしてシール面3a,5c間が非接触状態でガスシールされる静圧型シール装置として機能する。そして、シールガス供給が無くなると、シリンダ機構cが機能しなくなるので、弾性機構dのみによって静止密封環5を回転密封環3に押付けようとする押圧力と、回転移動する動圧溝10によって静止密封環5を回転密封環3から遠ざけようとする方向に生じる動圧とがバランスしてシール面3a,5c間が非接触状態でシールされる動圧型シール装置として機能する。
【0029】
つまり、シールガスGの供給により、弾性機構dの付勢力とシリンダ機構cの付勢力との和に抗してシール面3a,5cに静圧を生じさせてガスシールする静圧非接触シール状態と、回転密封環3が回転しての動圧溝10によって生じる動圧により弾性機構dの付勢力に抗してシール面3a,5cをシールする動圧非接触シール状態との切換が可能に構成されるとともに、ガスが供給されている通常時は静圧非接触シール状態が維持されており、ガスの供給が止まる非通常時には動圧非接触シール状態に切換るように、弾性機構d及びシリンダ機構cによる付勢力とガス圧とが関係付けられて設定されている。
【0030】
静圧非接触シール状態における各シール面5c,3aの間隙に比べて、動圧非接触シール状態における各シール面5c,3aの間隙は十分に小さい。従って、ガス供給が遮断されてから実際に先端開口部13aからガス供給されなくなるに若干のタイムラグがある場合では、ガスの圧が所定圧からゼロ圧に急速漸減されるような場合には、各シール面5c,3aの間隙が次第に小さくなって行くガス静圧非接触シール状態から動圧非接触シール状態に変化し、そしてその動圧非接触シール状態のまま回転停止する、という挙動を示すと考えられる。
【0031】
以上のように、本発明による非接触型シール装置においては、シールガスが供給される通常時には静圧型の非接触シールとして機能し、機器が停止するときや故障時には、即ちシールガス供給を断っての減速回転時には、静圧非接触シール状態から動圧型の非接触シールとして機能するように自動的に切換りながら回転停止するようになる。従って、従来の複合型シール装置における不都合、即ち、ガス供給停止時や減速回転時(装置を停止すべく定常回転から停止するまでの減速回転時等)に、静止密封環と回転密封環とが擦れてパーティクルが生じる問題がまず生じないようになる。
【0032】
その結果、シールガスの圧を用いて静止密封環5を回転密封環3に押付ける力に変換する機構、即ちシリンダ機構cを設ける等の工夫により、基本的に静圧型の非接触シール装置としながらも動圧非接触シール状態としても機能可能となる工夫により、シールガス供給停止時や停止に向けての減速回転時等にパーティクル発生のおそれがあるという従来の不都合が回避され、半導体洗浄装置等のパーティクルを嫌う機器にも好適に使用できる改善された非接触型シール装置Aを実現させることに成功している。
【0033】
加えて、弾性機構dで付勢すべく静止密封環5を軸心X方向にスライド可能にケーシング側Kに嵌合する構造を利用し、その嵌合径を変えての面積差により供給ガスによって静止密封環5を押付けるシリンダ機構cを設けてあるから、構造工夫により、静圧型シール装置として必要なガスをシリンダ機構cとして兼用させる合理化が図られている。これにより、コストの大幅な上昇なく機能を向上させることが可能となる利点がある。
【0034】
尚、静圧非接触シール状態であっても、動圧溝10がある以上、僅かながら動圧も生じているはずであるから、静圧非接触シール状態は、厳密には静圧+動圧の複合によるシール状態であると言うことも可能である。しかしながら、純然たる静圧非接触シール状態におけるシール面どうしの間隔を10とすれば、純然たる動圧非接触シール状態におけるシール面どうしの間隔は1程度の狭いもの(比率的に)であるから、実施例1の非接触シール装置における静圧非接触シール状態は、現実的には純然たる静圧非接触シール状態と大差なく、同等のものとして定義しても差し支えないと考えられる。
【0035】
〔変形例〕
図4に示すように、シールフランジ8の形状が異なる以外は実施例1と同じとされた非接触型シール装置Aでも良い。この変形例におけるシールフランジ8は、図1に示す実施例1のものと比べて、外周部8cの軸心X方向の幅が狭く、かつ、ナット部(符記省略)のある内周部8aが軸心X方向で逆向きに寄っており、周溝8mを持たない軸心X方向で小型になっている点が異なるが、機能的には同じである。
【0036】
〔実施例2〕
図6,図9に示すように、複合溝M1が回転密封環3に形成され、静止密封環5はシールガスの噴出し口である先端開口部13aのみ有するシール構造を持つ非接触型シール装置でも良い。即ち、実施例2(第1別構造)における回転密封環3のシール面3aに形成される複合溝M1は、実施例1において回転密封環3に形成されている動圧溝10に、その径方向中央を周方向に横切って4個分の動圧溝10を貫く状態で周方向に伸びる静圧溝11とで成るものである。先端開口部13aの径方向位置は、図5に示す実施例1の先端開口部13aの径方向位置と同じである。
【0037】
シール用ガスが供給される通常時は、ガスが噴出される先端開口部13aと静圧溝11とによる静圧非接触シール状態でシール機能され、故障による異常時やシール用ガスの供給が意図的に停止される回転停止時等の非通常時には動圧溝10による動圧非接触シール状態でシール機能される。尚、複合溝M1を形成する動圧溝10の数や形状、静圧溝11の周方向の数等は適宜に変更設定が可能である。
【0038】
〔実施例3〕
図7,図9に示すように、複合溝M2が回転密封環3に形成され、静止密封環5はシールガスの噴出し口である先端開口部13aのみ有するシール構造を持つ非接触型シール装置でも良い。即ち、実施例3(第2別構造)における回転密封環3のシール面3aに形成される複合溝M2は、中心Xに向かう状態で略「土」字を呈して周方向に並列される動圧溝21と複数(4個)の動圧溝21の径方向内側端を連通する状態で形成される長円弧状の静圧溝22とで成っている。この場合、静圧溝22と対を為す先端開口部13aの径方向位置は、図示は省略するが、図9に描かれている実施例2の先端開口部13aの径方向位置よりも径内側に寄った位置に形成される。
【0039】
実施例3においても、シール用ガスが供給される通常時は、ガスが噴出される先端開口部13aと静圧溝22とによる静圧非接触シール状態でシール機能され、故障による異常時やシール用ガスの供給が意図的に停止される回転停止時等の非通常時には動圧溝21による動圧非接触シール状態でシール機能される。尚、複合溝M2を形成する動圧溝21の数や形状、静圧溝22の周方向の数等は適宜に変更設定が可能である。
【0040】
〔実施例4〕
図8,図9に示すように、複合溝M3が回転密封環3に形成され、静止密封環5はシールガスの噴出し口である先端開口部13aのみ有するシール構造を持つ非接触型シール装置でも良い。即ち、実施例4(第3別構造)における回転密封環3のシール面3aに形成される複合溝M3は、径外方側に向う状態で略「土」字を呈して周方向に並列される動圧溝23と複数(4個)の動圧溝23の径方向外側端を連通する状態で形成される長円弧状の静圧溝24とで成っている。この場合、静圧溝24と対を為す先端開口部13aの径方向位置は、図示は省略するが、図9に描かれている実施例2の先端開口部13aの径方向位置よりも径外側に寄った位置に形成される。
【0041】
実施例4においても、シール用ガスが供給される通常時は、ガスが噴出される先端開口部13aと静圧溝24とによる静圧非接触シール状態でシール機能され、故障による異常時やシール用ガスの供給が意図的に停止される回転停止時等の非通常時には動圧溝23による動圧非接触シール状態でシール機能される。尚、複合溝M3を形成する動圧溝23の数や形状、静圧溝24の周方向の数等は適宜に変更設定が可能である。
【符号の説明】
【0042】
2 回転部材
3 回転密封環
3a シール面
4b 先端側内周面
4d ガス導入経路
5 静止密封環
5A フランジ部
5d フランジ部の外周面
6 シリンダ室
6a 小径内周シリンダ部
6b 大径内周シリンダ部
8a 基端側内周面
10 動圧溝
13 ガス供給路
14 Oリング
17 Oリング
18 ガス導入経路の開口部
19 ガス供給路の開口部
B 被軸封機器
K ケーシング側
X 軸心
c シリンダ機構
d 弾性機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被軸封機器の回転部材と一体に回転する回転密封環と、
前記回転部材の軸心方向への移動が可能に前記被軸封機器のケーシング側に支持され、かつ、前記軸心方向において前記回転密封環に弾性機構によって付勢される静止密封環と、
前記回転密封環と前記静止密封環とが対向するシール面にシール用のガスを供給するべく前記静止密封環に貫通形成されるガス供給路と、
前記回転密封環の回転によって前記静止密封環を前記弾性機構による付勢力に抗して押し戻し可能な動圧を生じさせるべく前記回転密封環又は前記静止密封環のシール面に形成される動圧溝と、
供給される前記ガスによって前記静止密封環を前記軸心方向において前記回転密封環に押付けるシリンダ機構とを有し、
前記ガスの供給により、前記弾性機構の付勢力と前記シリンダ機構の付勢力との和に抗して前記シール面に静圧を生じさせてシールする静圧非接触シール状態と、前記回転密封環が回転しての前記動圧溝によって生じる動圧により前記弾性機構の付勢力に抗して前記シール面を非接触に保持してシールする動圧非接触シール状態との切換が可能に構成されるとともに、
ガスが供給されている通常時は前記静圧非接触シール状態が維持されており、ガスの供給が止まる非通常時には前記動圧非接触シール状態に切換るように、前記弾性機構及び前記シリンダ機構による付勢力と前記ガス圧とが関係付けられて設定されている非接触型シール装置。
【請求項2】
前記シリンダ機構が、前記ケーシング側における前記静止密封環を内嵌する部分に前記軸心を中心とする環状空間部を設けて成るシリンダ室と、前記シリンダ室を横切って前記ガス供給路に連通するケーシング側のガス導入経路とを設けるとともに、前記ケーシング側における前記静止密封環の回転密封環側を内嵌する先端側内周面の径を、前記静止密封環の反回転密封環側を内嵌する基端側内周面の径より大に設定することにより構成されている請求項1に記載の非接触型シール装置。
【請求項3】
前記ガス供給路の基端が前記シリンダ室の前記軸心方向中間部に開口しており、前記ガス導入経路の前記シリンダ室への開口部が前記ガス供給路の開口部と前記軸心方向で対応する位置に形成されている請求項2に記載の非接触型シール装置。
【請求項4】
前記静止密封環に、前記シリンダ室における前記軸心方向の中間において径外側に張り出るフランジ部が一体形成され、前記フランジ部の外周面に前記ガス供給路の開口部が設けられるとともに、前記シリンダ室における前記フランジ部の回転密封環側となる大径内周シリンダ部、及び前記フランジ部の反回転密封環側となる小径内周シリンダ部のそれぞれにシール用のOリングが装備されている請求項3に記載の非接触型シール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−265921(P2010−265921A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115578(P2009−115578)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】