説明

非接触型通信装置、その受信回路

【課題】パッシブモードやアクティブモードの各種通信方式に対応可能な装置において、通信方式に応じて通信可能距離が最大となるようにする。
【解決手段】制御部16は、通信方式に応じて、バンドパスフィルタ11の通過帯域を決定・設定する。すなわち、各通信方式に応じた信号の電力スペクトル密度から、出力の信号対雑音比を最大化するための通過帯域を設定する。また、制御部16は、磁界強度検出部15から入力された磁界強度と、伝送速度(変調度)とに応じて、可変利得増幅器12からの出力振幅が一定になるように、利得の制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に非接触ICカード通信技術の拡張としてのNFC(近接通信)技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子マネーや電子乗車券などの分野において、非接触ICカードの普及が進んでいる。非接触ICカード通信技術の拡張として、近接通信(Near Field Communication、以下NFC)技術がISO/IEC 18092(NFCIP−1)やISO/IEC 21481(NFCIP−2)として標準化され、携帯電話などへの適用が始まっている。
【0003】
NFCの通信モードには、パッシブモードとアクティブモードの2種類があり、いずれかのモードを選択して通信を行う。パッシブモードは、既存の非接触ICカードとの後方互換性を担保するための通信モードであり、通信を開始する側(イニシエータ)が伝送する情報で変調をかけた磁界を発生し、相手側(ターゲット)は、通信を開始した側が発生する無変調の磁界に対して、負荷変調を行うことにより応答を返すモードである。
【0004】
一方、アクティブモードは、イニシエータとターゲットが相互に伝送する情報により変調をかけた磁界を発生させる(情報伝送後、磁界の発生を止める)ことにより通信を行うモードである。アクティブモードとパッシブモードのどちらを使用するかは、イニシエータが選択することになっている。
【0005】
通信速度(伝送速度;転送レート)については、106kbps、212kbps、424kbps等の複数の伝送速度が規定されている。パッシブモードにおけるイニシエータからターゲットへの通信およびアクティブモードにおいては、106kbpsで通信を行うときには、変調度100%のASK変調で、符号は変形ミラー符号を用い、それ以上の伝送速度(212kbps、424kbps等)の時には、変調度8〜30%のASK変調とし、符号はマンチェスタ符号を用いることになっている。
【0006】
一方、パッシブモードにおける、ターゲットからイニシエータへの通信には負荷変調が用いられるが、106kbpsの時は、マンチェスタ符号化された符号によりOOK(ON−OFF Keying)変調された847kHz(13.56MHz/16)のサブキャリアによる負荷変調を用い、212kbps/424kbpsの時には、サブキャリアを用いない、マンチェスタ符号化された符号による負荷変調を用いることになっている。
【0007】
上述したように、NFCでは複数種類の通信方式(上記伝送速度、変調方式、符号化方式、変調度、通信モード(アクティブ/パッシブ)等より成る)が規定されている。
通信時は、通信を行う両方の端末が、自身の対応可能である通信方式(伝送速度、変調方式、モード)についての情報を交換し、その中から選択するような手順が定められている(ISO/IEC18092、もしくは、特に通信を行う端末のいずれかがNFCIP−1を越える通信能力を持つような場合については、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2006−211519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ISO/IEC 18092においては、磁界強度の最大値および最小値については規定しているものの、通信距離に関しては規定していない。またNFCが適用される対象を考慮すると、アンテナの形状やサイズは多種多様である。
【0009】
これにより、NFC機能を搭載した端末によって通信可能距離が異なることが発生する。このとき、通信は双方向で行うことから、その成否は通信距離が短い方の端末によって制約されることになるので、もう一方の端末から見ると、通信範囲内に存在するのに通信できないような状況が発生する、と言う問題があった。また、採用した通信方式(伝送速度、変調方式、モード等)によっても、通信可能な距離が異なる可能性があり、通信方式に関わる情報をやり取りしている間は互いに通信可能であったのに、特定の通信方式を選択した瞬間に、通信が出来なくなってしまう、と言う問題が発生する懸念があった。
【0010】
本発明の課題は、近接通信における複数種類の通信方式に対応可能な非接触型通信装置に係り、通信方式に応じてバンドパスフィルタの通過帯域を決定・設定することにより、更に変調度も考慮した利得決定を行うことにより、通信距離の最大化、つまり安定的に通信できるエリアを拡大することができる、非接触型通信装置、その受信回路等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の非接触型通信装置における受信回路は、近接通信における複数種類の通信方式に対応可能な非接触型通信装置における受信回路であって、アンテナによる受信信号を検波器を介して入力するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタの出力を入力して増幅する増幅器と、該増幅器の出力を2値化して復号器へ出力する2値化回路と、制御部とを有し、前記バンドパスフィルタは通過帯域可変のバンドパスフィルタであり、前記制御部は、前記受信信号に係る通信方式に応じて、前記バンドパスフィルタの通過帯域を決定・設定する。
【0012】
上記構成の非接触型通信装置における受信回路では、受信信号に係る通信方式に応じて、バンドパスフィルタの通過帯域を決定・設定する。これは、バンドパスフィルタ出力の信号対雑音比(S/N比)を略最大化するための通過帯域を決定・設定するものである。
【0013】
また、例えば、前記増幅器は可変利得増幅器であり、前記検波器出力を入力して前記アンテナにより受信した磁界の磁界強度を検出して前記制御部へ出力する磁界強度検出部を更に有し、前記制御部は、前記受信信号に係る通信方式における伝送速度及び前記磁界強度に基づいて、前記可変利得増幅器の利得を算出して設定する。
【0014】
例えば、アクティブモードにおける各種通信方式では、伝送速度106kbpsでは変調度が100%、212kbpsや424kbpsの場合は変調度が8〜30%となっている。これより、単に磁界強度に応じるだけでなく、伝送速度(それによる変調度)にも応じて、可変利得増幅器の利得を算出して設定することで、適切な利得を設定することができ、安定的に通信できるエリアを拡大することに貢献できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の非接触型通信装置、その受信回路等によれば、近接通信における複数種類の通信方式に対応可能な非接触型通信装置に係り、通信方式に応じてバンドパスフィルタの通過帯域を決定・設定することにより、更に変調度も考慮した利得決定を行うことにより、通信距離の最大化、つまり安定的に通信できるエリアを拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1に、本例の非接触型通信装置の受信回路の構成図を示す。
図示の本例の非接触型通信装置(上記NFCによる近接通信を行う装置)の受信回路10は、通過帯域可変のバンドパスフィルタ(BPF)11、可変利得増幅器12、2値化回路13、復号器14、磁界強度検出部15、制御部16、及び通信方式検出部17から構成される。
【0017】
尚、上記非接触型通信装置は、例えば非接触型ICカード・リーダ/ライタや非接触型ICカード機能搭載携帯電話等であるが、この例に限らない。また、上記非接触型通信装置は、上述したNFCによる複数種類の通信方式(符号化方式や伝送速度(転送レート)、変調度等が異なる複数の通信方式)に対応可能である。また、上記非接触型通信装置は、アクティブモードとパッシブモードの両方の通信モードに対応可能であってもよい。更に、上記非接触型通信装置は、アクティブモードとパッシブモードのそれぞれに通信モードにおける複数種類の通信方式に対応可能であってもよい。
【0018】
通過帯域可変のバンドパスフィルタ11には、アンテナ1により受信した磁界が検波器2により振幅復調された信号が入力される。通過帯域可変のバンドパスフィルタ11の通過帯域は、制御部16によって設定・変更される。
【0019】
バンドパスフィルタ11の出力は、可変利得増幅器12に入力して増幅された後、2値化回路13によって2値化される。2値化回路13の出力は、復号器14及び通信方式検出部17に入力される。
【0020】
可変利得増幅器12の利得は、制御部16によって設定・変更される。
復号器14は、制御部16から設定される通信モード(以下、単に、モードという)および伝送速度に応じて、復号を行う。
【0021】
磁界強度検出部15は、アンテナ1により受信した磁界の磁界強度を、検波器2の出力の直流成分を観測することにより検出し、制御部16へ出力する。
制御部16は、上記アンテナ1により受信した信号に係る通信方式に応じて、バンドパスフィルタ11の通過帯域を決定・設定する。つまり、送信側は何等かの通信方式により非接触で(磁界により)信号送信してくるので、この送信側が用いる通信方式に応じて、バンドパスフィルタ11の通過帯域を決定・設定する。
【0022】
これは、後述するように、特に各通信方式におけるモードおよび伝送速度に応じて(更に場合によっては自己がイニシエータであるかターゲットであるかによって)、バンドパスフィルタ11の通過帯域が決められているものである。これは、後述するように、バンドパスフィルタ出力の信号対雑音比(S/N比)を最大化するための通過帯域が決定されているものである。
【0023】
例えばモードがアクティブモードの場合、伝送速度106kbpsの場合には後述する図6(a)に示す通過帯域、伝送速度212kbpsの場合には後述する図6(b)に示す通過帯域、伝送速度424kbpsの場合には後述する図6(c)に示す通過帯域が決められることになる(尚、アクティブモードの場合、自己がイニシエータであるかターゲットであるかは関係ない)。
【0024】
また、例えば、モードがパッシブモードで自己がイニシエータである場合には、伝送速度106kbpsの場合には後述する図10(a)に示す通過帯域、伝送速度212kbpsの場合には後述する図10(b)に示す通過帯域、伝送速度424kbpsの場合には後述する図10(c)に示す通過帯域が決められることになる。
【0025】
尚、通過帯域の決定には後述するように符号化方式も関係するが、上記NFCの通信では、モード及び伝送速度(場合によっては、イニシエータ/ターゲット)に応じて、符号化方式も決まることになる。
【0026】
予め、各通信方式(特にそのモードおよび伝送速度)に応じた信号の電力スペクトル密度から、バンドパスフィルタ出力の信号対雑音比(S/N比)を最大化するための通過帯域が決定されて、各通信方式に対応付けて登録されている。これは制御部16内のメモリ等に記憶されるものである。これより制御部16は、上記送信側が用いる通信方式に応じた通過帯域を登録データから取得して、これに応じてバンドパスフィルタ11の通過帯域を制御する(例えば後述するスイッチを切り替え制御することにより通過帯域を設定する)ことが可能となっている。
【0027】
上記「各通信方式に対応付けて登録」は、例えば、モードおよび伝送速度に対応付けて通過帯域を登録するものであってもよい。あるいは、自己がターゲットである場合に関しては、伝送速度のみに対応付けて登録するものであってもよい。
【0028】
自己がイニシエータである場合には、自己で通信方式を決めてポーリング等を行っているので、このポーリングに対する返信の通信方式は分かっていることになる。一方、自己がターゲットである場合には、通信方式検出部17によって送信側が用いる通信方式を判別する必要がある。
【0029】
通信方式検出部17は、例えば参考文献(特開2002−342725号公報)に記載の従来手法によって、通信方式を検出する。すなわち、2値化回路13によって2値化された信号の立ち上がりと立下りを検出して、その間の時間(時間幅)を計測し、この計測結果から変調方式を判別することができる。但し、この例に限らないものであり、何等かの方法で送信側が用いる通信方式を検出するものである。
【0030】
また、制御部16は、復号器14のモードおよび伝送速度を設定する。
また、制御部16は、磁界強度検出部15にて検出された磁界強度と、上記伝送速度とに基づいて、可変利得増幅器12の利得を算出して設定する。本手法では、詳しくは後述するように、磁界強度だけでなく、伝送速度に応じた(変調度に応じた)所定の値を用いて、利得を算出する。
【0031】
アンテナ1より受信される磁界は、振幅変調されている。このとき、変調信号はモードおよび伝送速度に応じて異なる。イニシエータは、自身がアクティブモードで通信するか、パッシブモードで通信するか、について上位アプリケーションより指示される。一方、ターゲットは、イニシエータが発生させている磁界が存在する時はパッシブモードで、磁界が存在しないときは(上述した、イニシエータが情報伝送後に磁界の発生を止めた場合)アクティブモードで通信する。
【0032】
以降、アクティブモードの場合とパッシブモードの場合に分けて説明を行う。
尚、以下の説明では、アクティブモードにおける複数種類の通信方式は、特に以下の3種類の通信方式であるものとして説明するが、この例に限るものではない。
・通信方式A;伝送速度106kbps、変調度100%のASK変調、変形ミラー符号化方式。
・通信方式B;伝送速度212kbps、変調度8〜30%のASK変調、マンチェスタ符号化。
・通信方式C;伝送速度424kbps、変調度8〜30%のASK変調、マンチェスタ符号化。
【0033】
アクティブモードの場合、伝送速度が106kbpsの時は変形ミラー符号化(図2)、212kbps以上(ここでは、212kbpsや424kbpsとするが、この例に限らない)の時はマンチェスタ符号化された信号である(図3)。
【0034】
図2に示すように、変形ミラー符号の場合、概ね1ビット時間の1/4の長さのパルスが、データの“1”の時には1ビットの後半に発生し、データの“0”の時は無変調状態となる。ただし、“0”が2ビット以上連続する場合は、2ビット目以降のビットの最初に上記1ビット時間の1/4の長さのパルスを発生させる。
【0035】
アクティブモードで伝送速度が106kbpsの場合、受信磁界波形は例えば図4に示すような波形となる。
変形ミラー符号の電力スペクトル密度の周波数特性は、概ねパルス幅(時間)の2倍の逆数である周波数と、伝送速度の半分の周波数との間に制限される。パルス幅は上記の通り1ビット時間の1/4の長さであり、その2倍は1ビット時間の半分となるので、その逆数となる周波数である。伝送速度は106kbpsであるので、その1ビット長は9.43μsであるので、その半分の時間(4.715μs)を周期とする周波数は、約212kHzとなる。一方、伝送速度106kbpsの半分の周波数は53kHzである。
【0036】
よって、この場合には、バンドパスフィルタ11の通過帯域をほぼ53kHz〜212kHz程度とすることで、バンドパスフィルタ11の出力の信号対雑音比(S/N比)をほぼ最大化することができることになる。尚、これは、復号器14に入力される信号のS/N比が最大になることを意味することになる。
【0037】
一方、図3に示すように、マンチェスタ符号の場合は、1ビットの中間において、必ずHi→Lo(‘0’)もしくはLo→Hi(‘1’)の遷移が発生するような符号化である。アクティブモードで伝送速度が212kbpsや424kbpsの場合、受信磁界波形は例えば図5に示すような波形となる。ここでは、特に212kbpsの場合を示すが、波形自体は424kbpsの場合も同様である(当然、1bit長は異なるが)。
【0038】
マンチェスタ符号の場合、その電力スペクトル密度の周波数特性は、伝送速度から決まる周波数とその半分の周波数の間に制限される。
すなわち、この場合には基本的に、後述する図5に示す波形における図示のAの周波数成分と図示のBの周波数成分を抽出できればよい。図示のBの周波数成分が上記伝送速度から決まる周波数である。ここで、図上縦の点線で区切られる各区間が上記伝送速度による1bit長を意味し、図5は伝送速度212kbpsの例なので1bit長=4.715μsとなる。図示の通り、Bの周波数成分はこの1bit長を周期とするものなので、212kHzとなる。また、図示のAの周波数成分は、図示の通りこの1bit長の2倍を周期とするものなので、106kHzとなる(つまり、212kHzの半分の周波数)。
【0039】
よって、この場合には、バンドパスフィルタ11の通過帯域をほぼ106kHz〜212kHz程度とすることで、バンドパスフィルタ11の出力の信号対雑音比(S/N比)をほぼ最大化することができることになる。
【0040】
同様にして、アクティブモードで伝送速度424kbpsの場合には、バンドパスフィルタ11の通過帯域をほぼ212kHz〜424kHz程度とすることで、バンドパスフィルタ11の出力の信号対雑音比(S/N比)をほぼ最大化することができることになる。
【0041】
アンテナ1にて受信された磁界は、検波器2に入力される。検波器2は、受信磁界信号の包絡線を出力する。検波出力信号の電力スペクトル密度の周波数特性は、モードおよび伝送速度に応じて、上述の各符号の電力スペクトル密度と同等になる。
【0042】
検波出力信号は、通過帯域が可変であるバンドパスフィルタ11に入力される。制御部16は、通信相手(送信側)が用いる通信方式(特にモードや伝送速度)に応じて、バンドパスフィルタ11の出力の信号対雑音比(S/N比)がほぼ最大になるように、バンドパスフィルタ11の通過帯域を制御する。例えば、アクティブモードの106kbpsの時は、変形ミラー符号を用いているので、上記のとおりその周波数はパルス幅(時間)の倍の周波数である212kHzと、伝送速度の半分の周波数である53kHzの間に制限されるので、バンドパスフィルタ11の通過帯域の上限周波数を212kHz程度、下限周波数を53kHz程度とする(図6(a))。
【0043】
尚、実際には、通過帯域内に53kHzと212kHzとが確実に含まれるように、上限周波数は212kHzより多少大きく、下限周波数は53kHzより多少小さくなるように設定する。これは、他の伝送速度の場合にも同様である。
【0044】
同様にして、アクティブモードの212kbpsの時は、マンチェスタ符号を用いているので、制御部16は、バンドパスフィルタ11の通過帯域を、その上限周波数が212kHz程度、下限周波数が106kHz程度となるように制御する(図6(b))。アクティブモードの424kbpsの時も同様に、制御部16は、バンドパスフィルタ11の通過帯域を、その上限周波数が424kHz程度、下限周波数が212kHz程度となるように制御すればよい(図6(c))。
【0045】
上述したように、通信相手による通信方式におけるモードがアクティブモードである場合、制御部16は、自己がイニシエータであるかターゲットであるかは関係なく、当該通信方式における伝送速度に応じて、バンドパスフィルタ11の通過帯域を制御する。
【0046】
但し、自己がイニシエータである場合には通信相手は自己(イニシエータ)が決定した通信方式により通信を行うが、自己がターゲットである場合には、通信相手による通信方式(特に伝送速度)を上記通信方式検出部17により検出する必要がある。
【0047】
図7、図8に、通過帯域を可変とするためのバンドパスフィルタ11の例(その1)、(その2)を示す。図示の例では、1次のアクティブバンドパスフィルタとなっている。
尚、図7、図8に示す構成は、基本的にはオペアンプを用いた一般的なバンドパスフィルタの構成であり、これについては特に説明せず、通過帯域を可変とするための構成についてのみ説明するものとする。
【0048】
図7においては、通過域の下限周波数はコンデンサC1および抵抗R1から求まる時定数により決定され、通過域の上限周波数はコンデンサC2および抵抗R2から求まる時定数により決定される。そして、抵抗R1は複数の異なる抵抗値の抵抗からスイッチS1により選択するものである。同様に、抵抗R2も複数の異なる抵抗値の抵抗からスイッチS2により選択するものである。
【0049】
図8においても、図7と同様に、通過域の下限周波数はコンデンサC3および抵抗R3から求まる時定数により決定され、通過域の上限周波数はコンデンサC4および抵抗R4から求まる時定数により決定される。そして、コンデンサC3は複数の異なる容量のコンデンサからスイッチS3により選択するものである。同様に、コンデンサC4も複数の異なる容量のコンデンサからスイッチS4により選択するものである。
【0050】
バンドパスフィルタ11が図7に示す構成の場合、制御部16は、スイッチS1、S2を切り換え制御して、上記異なる抵抗値の複数の抵抗のなかから任意の抵抗を上記抵抗R1,R2として選択することにより、通過域を制御する。
【0051】
バンドパスフィルタ11が図8に示す構成の場合、制御部16は、スイッチS3,S4を切り換え制御して、異なる容量の複数のコンデンサのなかから任意のコンデンサを上記コンデンサC3,C4として選択することにより、通過域を制御する。
【0052】
なお、図7において、上記複数の抵抗を用意する代わりに例えばPINダイオードのような可変抵抗素子を用いてもよい。図8においても同様に、上記複数のコンデンサを用意する代わりに、バラクタダイオードのような可変容量素子も用いてもよい。当然、この場合には、制御部16は、上記スイッチの切り替え制御に代えて、可変抵抗素子の抵抗値や可変容量素子の容量を変更する制御を行うことになる。
【0053】
図7には、図中に示す通り、上記コンデンサC1、C2の容量、及び抵抗R1,R2として選択される複数の抵抗の抵抗値の具体例を示してある。図8においても同様に、図中に図示の通り、上記コンデンサC3、C4として選択される複数のコンデンサの容量、及び抵抗R3,R4の抵抗値の具体例を示してある。勿論、これは単なる一例を示しているものであり、この例に限るものではない。
【0054】
図7に示す例では、コンデンサC1、C2の容量はそれぞれ1000pF、100pFである。抵抗R1として選択される4つの抵抗の抵抗値は、それぞれ、4.7kΩ、2.7kΩ、1.2kΩ、330kΩである。尚、抵抗値を4種類用意しているのは、図6(a)〜(c)に示す3種類の下限周波数(53kHz、106kHz、212kHz)だけではなく、後述する図10(a)に示すパッシブモード時の下限周波数(741kHz)にも対応する為である。
【0055】
また、抵抗R2として選択される3つの抵抗の抵抗値は、それぞれ、5.6kΩ、2.7kΩ、1.2kΩである。この場合も、上記と同様、抵抗値を3種類用意しているのは、図6(a)〜(c)に示す2種類の上限周波数(212kHz、424kHz)だけでなく、後述する図10(a)に示すパッシブモード時の下限周波数(953kHz)にも対応する為である。
【0056】
また、図8に示す例では、抵抗R3,R4の抵抗値はそれぞれ1.5kΩ、15kΩである。そして、上記コンデンサC3として選択される複数のコンデンサの容量は、図示の通り、3300pF、1500pF、820pF、220pFである。4種類ある理由は、上記抵抗R1が4種類ある理由と同じである。また、上記コンデンサC4として選択される複数のコンデンサの容量は、図示の通り、27pF、15pF、7pFである。3種類ある理由は、上記抵抗R2が3種類ある理由と同じである。
【0057】
尚、上記図7、図8に示す抵抗値R1,R2やコンデンサ容量C3,C4の具体的な数値例は、例えば、図6、図10に示す各下限周波数、上限周波数が、通過周波数帯内に入るようにして、且つE12系列(もしくは素子として標準的な値→7pFのみ)にて実現できるような数値を用いている。
【0058】
また、尚、図7の回路構成とした場合、抵抗値R1,R2の変更により、1次のアクティブバンドパスフィルタとなっているバンドパスフィルタ11の通過帯域内の増加率(R2/R1)も変化してしまう為、後段の可変利得増幅器12で補正する必要がある。具体的には、制御部16が、後述する(1)式の代わりに、以下の式により利得Gを算出して、これを可変利得増幅器12に設定する。
【0059】
G = A・R/H・R1/R2
図8の回路構成の場合には、上記問題は発生しないので、後述する(1)式をそのまま用いればよい。
【0060】
以上説明したように、制御部16は、そのときの送信側による通信方式(特にモードおよび伝送速度)に応じた信号の電力スペクトル密度に対応する通過帯域を設定することができ、これによってバンドパスフィルタ11の出力の信号対雑音比(S/N比)をほぼ最大化することができる。
【0061】
次に、以下、可変利得増幅器12の利得を決定する処理について説明する。
ここで、振幅変調の変調度は、106kbpsの時は100%、212kbps以上の時は8〜30%程度となっている。したがって、受信される磁界の波形は、それぞれ、106kbpsの場合は図4、212kbps以上(ここでは212kbpsや424kbpsとするが、この例に限らない)の場合は図5のようになる。
【0062】
図4、図5より明らかなように、バンドパスフィルタ11による出力信号の振幅は、212kbps以上の場合は106kbpsの場合に比べて小さいものとなる。これより、本手法では、以下に説明するように、磁界強度だけでなく伝送速度にも応じて、利得を決定する。すなわち、仮に磁界強度が同じとした場合でも、212kbps以上の場合は106kbpsの場合に比べて利得が大きくなるように利得を決定する。
【0063】
検波出力信号は、バンドパスフィルタ11の他に、磁界強度検出部15にも入力される。磁界強度検出部15では、受信磁界の包絡線検波出力である検波器出力のDC成分を、信号受信時にサンプリングし、受信磁界強度として制御部16に出力する。
【0064】
バンドパスフィルタ11の出力信号は、可変利得増幅器12に入力される。可変利得増幅器12の利得Gは制御部16により設定される。制御部16は、磁界強度検出部15から入力された磁界強度と伝送速度に基づいて、可変利得増幅器12からの出力振幅がほぼ一定になるように、利得Gの制御を行う。利得Gの決定には、例えば下式((1)式)を用いる。
【0065】
G = A・R/H ・・・(1)式
ここで、Gは設定する電圧利得、Aは予め定められた定数、およびHは磁界強度(A/m)である。Rは伝送速度より決まる値であり、例えば伝送速度106kbps(変調度:100%)を基準とするものとして例えばR=‘1’とすると、212/424kbpsの時は、変調度が8〜30%であり、変調度が100%の時に対して包絡線の振幅は約15〜45%となることから、例えばR=‘3’とする。こうすることにより、変調度が8〜30%の場合でも、後段の2値化回路13で変換するのに十分な振幅精度が得られる。換言すれば、上記(1)式により利得を算出することで、変調度が小さい場合でも可変利得増幅器12からの出力振幅が小さくなることがなく、変調度が100%の場合と略同様に、十分な振幅が得られるようになる。
【0066】
これによって、通信距離の最大化、つまり通信方式(この場合、特に変調度)に係らず安定的に通信できるエリアを拡大することができる。
尚、上記Rの値は、予め設計者等が決定して制御部16内のメモリ等に設定しておくものである(各伝送速度に対応付けて登録しておく)。これより、制御部16は、伝送速度に応じたRの値を用いて、上記(1)式により利得Gを算出することになる。
【0067】
可変利得増幅器12の出力は、2値化回路13によって、2値のデータに変換され、さらに復号器14において、モードおよび伝送速度の設定に応じて、復号される。
次にパッシブモードの場合における、説明を行う。
【0068】
パッシブモードにおいて、ターゲットが受信する場合は、イニシエータからターゲットへ通信を行う場合の変調方式は、アクティブモードの場合と同等であるので(変形ミラー符号で伝送速度が106kbps、もしくはマンチェスタ符号化で伝送速度が212kbpsや424kbps)、上記アクティブモードと同様の制御を適用することが可能である。尚、自己がイニシエータではない状態でアンテナ1によって信号(磁界)受信した場合に、自己がターゲットであると判定する。
【0069】
すなわち、パッシブモードで自己がターゲットとしてイニシエータからの信号を受信するときには、例えば伝送速度212kbpsや424kbpsではマンチェスタ符号を用いる通信方式が用いられるので、伝送速度212kbpsの場合には、図10(b)に示すように、すなわち上記図6(b)に示すものと同様に、バンドパスフィルタ11の通過域の上限周波数を212kHz程度、下限周波数を106kHz程度とする。424kbpsの時も同様に、図10(c)に示すように、通過域の上限周波数を424kHz程度、下限周波数を212kHz程度とすればよい(図6(c)と同様)。
【0070】
伝送速度が106kbpsの場合も、同様に考えてよい(図6(a)と同様)。
また、パッシブモードで自己がターゲットとして受信するときには、可変利得増幅器12の利得の決定・設定処理も、上記アクティブモードの場合と同様に行う。すなわち、制御部16は上記(1)式により磁界強度と伝送速度(変調度)に応じた利得Gを算出して可変利得増幅器12に設定する。
【0071】
また、特に、パッシブモードで伝送速度が212kbpsおよび424kbpsの場合は、ターゲットが受信する場合もイニシエータが受信する場合も、送信側による通信方式はアクティブモードの時と同様の変調方式/符号化(マンチェスタ符号化)であり、受信波形も同様になる(図5と同様)。したがって、アクティブモードの時と同様に、伝送速度に応じて、バンドパスフィルタ11の帯域を切り替えることにより、その出力のS/N比が最大化される。
【0072】
上述したことから、自己がターゲットである場合には、モードに関係なく、伝送速度に応じて、バンドパスフィルタ11の通過帯域が決められると考えてよい。一方、自己がイニシエータである場合には、上記の通り、通信方式におけるモードおよび伝送速度に応じて、バンドパスフィルタ11の通過帯域が決められるものであるが、これは特に伝送速度が106kbpsの場合に、モードがパッシブモードであるかアクティブモードであるかによって、図6(a)と後述する図10(a)に示すように通過帯域が異なるからである。よって、もし伝送速度106kbpsの通信方式には対応しない装置であるならば、自己がイニシエータであるかターゲットであるかに関係なく、更にモードも関係なく、伝送速度に応じて、バンドパスフィルタ11の通過帯域が決められると考えてもよい。
【0073】
尚、自己がターゲットの場合は、モードや伝送速度は通信方式検出部17が検出し、制御部16はこの検出結果に応じた上記の通りバンドパスフィルタ11の通過帯域を設定する。自己がイニシエータの場合は、モードや伝送速度は事前に特定できているので、通信方式検出部17を用いる必要性は特にないが、確認的な意味で、通信方式検出部17による検出結果も用いても良い。
【0074】
一方、パッシブモードにおいてイニシエータが受信する場合には、伝送速度が106kbpsの場合は、受信磁界波形は例えば図9のようになる。この場合、受信磁界波形の包絡線の周波数帯域は、サブキャリアの周波数である847kHzを中心とした、マンチェスタ符号化による帯域制限による±106kHzの間に制限される。すなわち、図9に示す信号波形は、106kbpsのマンチェスタ符号化された信号に対して847kHzを掛けた信号と見做せるので、抽出したい(バンドパスフィルタを通過させたい)周波数帯は、847kHz±106kHz程度となる。よって、この場合には、制御部16は、図10(a)に示すように、バンドパスフィルタ11の通過帯域の上限周波数を953kHz程度、下限周波数を741kHz程度とする。
【0075】
なお、パッシブモードにおいてイニシエータが受信する場合の伝送速度は、イニシエータが送信した時と同じ伝送速度を用いることになっている。これは、アクティブモードでも同様である。よって、この場合には、制御部16は、通信方式検出部17による検出を行う必要なく、モードや伝送速度を認識できており、これに応じて通過帯域や利得を決定することができる。
【0076】
また、パッシブモードのイニシエータの受信時は、自身の発する磁界に対してターゲットが負荷変調を行ったものを受信することから、受信磁界強度と包絡線振幅は線形関係にはなく、また負荷変調の変調度は伝送速度に依存しないことから、増幅器12の利得Gは固定にする。
【0077】
尚、制御部16は、例えばCPU/MPU等であり、内蔵のメモリ内に記憶されているアプリケーションプログラムを実行することにより、上記通過帯域可変のバンドパスフィルタ11の通過帯域の決定処理や、上記可変利得増幅器12の利得の算出処理を実行する。この処理の際に必要なデータも、当該メモリ内に予め記憶・登録されている。
【0078】
この登録データとしては、例えば、図6、図10等に示した、各モード・伝送速度毎に対応する通過帯域(通過域の下限周波数と上限周波数)のデータである。勿論、この各通過帯域に応じたスイッチS1,S2又はS3,S4の切り替え制御方法を示すデータ又はプログラムも、メモリに記憶されている。
【0079】
また、上記登録データとしては、上記(1)式におけるRの値も、各モード・伝送速度に対応付けて登録されている。上記説明の例では、アクティブモードで伝送速度106kbpsの場合にはR=‘1’、アクティブモードで伝送速度212/424kbpsの場合にはR=‘3’が登録されていることになる。この様に、磁界強度だけでなくモード・伝送速度に応じた所定の値も用いて、上記(1)式により利得を算出することで、変調度が小さい場合でも可変利得増幅器12からの出力振幅が十分な大きさとなるように、利得の制御を行うことができる。
【0080】
上述したように、本例の受信回路によれば、モード(通信モード)および伝送速度に応じて通過帯域可変のバンドパスフィルタ11の通過帯域の決定・設定を行うことにより、受信機の設定が最適となり、復号器に入力される信号のS/N比がほぼ最大となる。これにより通信可能距離がほぼ最大となる近接通信装置が実現可能となる。さらには、受信した磁界強度と伝送速度に応じて、可変利得増幅器12の利得を算出・設定することによって、変調度に係らず可変利得増幅器12からの出力振幅がほぼ一定になるように、利得の制御を行うことができる。これも、通信距離の最大化、つまり安定的に通信できるエリアを拡大することに貢献できる。
【0081】
尚、上記「モード(通信モード)および伝送速度に応じて」の通信モードは、上記のようにアクティブモード、パッシブモードの何れかであると考えてよいが、これに限らず、例えば、アクティブモードでターゲット受信、アクティブモードでイニシエータ受信、パッシブモードでターゲット受信、パッシブモードでイニシエータ受信の何れかであると考えても良い。
【0082】
図11に、上記通信方式検出部17の構成例を示す。
上述したように、パッシブモードにおいては、本例の非接触型通信装置(ICカード・リーダ・ライタ装置等)がイニシエータとして通信方式を決めてポーリングを行ってICカードからの返信を待つことになるので、通信方式を特定して(自己が決めた通信方式で)待ち受けることができる。これは、他の非接触型通信装置等と通信を行うモードであるアクティブモード(双方向通信)においても、自己がイニシエータである場合には同様である。よって、自己がターゲットとなる場合に、通信方式検出部17によって通信方式を検出する必要がある。
【0083】
そして、上記の通り、自己がターゲットの場合、伝送速度が分かれば、通過帯域も利得も決定することができる。よって、ここでは、通信方式検出部17による検出結果は、例えば、「424kbps」、「212kbps」、「106kbps」の何れかであるものとする。つまり、ここでは、通信方式検出部17は受信信号に係る通信方式における伝送速度を判別するものと考えてよい。
【0084】
図11に示す例では、通信方式検出部17は、データ変化点検出部21、基準時間生成タイマー部22、変化点検出カウンタ部23、通信方式判定部24を有する。通信方式判定部24による判定結果が、上記通信方式検出部17による検出結果であり、制御部16へと出力される。
【0085】
2値化回路13の出力(受信信号の復調データ)は、データ変化点検出部21に入力される。データ変化点検出部21は、この復調データのレベル変化点を検出して、この検出信号を基準時間生成タイマー部22と変化点検出カウンタ部23へ出力する。変化点検出カウンタ部23は、レベル変化点の検出回数をカウントする。基準時間生成タイマー部22は最初のレベル変化点検出時点から所定時間の計測を行う。通信方式判定部24は、この所定時間内のレベル変化点検出回数に応じて、通信方式(伝送速度)を判定して、判定結果を制御部16へと出力する。
【0086】
図12(a)〜(c)に、通信方式検出部17の動作タイミングチャートを示す。本例では、前述の双方向通信106kbps,212kbps,424kbps受信時の動作タイミングチャートを、それぞれ図12(a)、図12(b)、図12(c)に示す。
【0087】
データ変化点検出部21は、入力された復調データを基準クロック(例えば、1.695MHz)でサンプリングし、レベル変化点(復調データの立上り又は立下り)を検出して、この検出信号を基準時間生成タイマー部22と変化点検出カウンタ部23へ出力する。図12(a)〜(c)に示す「データ変化点」がこの検出信号の一例であり、図示の通り、復調データの立上り又は立下りがある毎に1パルス‘1’出力される。
【0088】
基準時間生成タイマー部22は、データ変化点検出部21からの検出信号に基づき、受信開始タイミングを決定し、そこから基準クロックで動作するタイマーを起動して、所定時間の計測を行なう。図12(a)〜(c)の例では図示の通り、データ変化点の先頭(最初の検出信号を受信した時点)を受信開始タイミングとし、所定時間=9.43μs(1.695MHz基準クロックで16カウント,106kbpsの1bit時間に相当)の時間計測を行う。尚、図12(a)〜(c)に示す「受信開始タイミング」信号は、基準時間生成タイマー部22が受信開始タイミングに上記変化点検出カウンタ部23へ出力する。
【0089】
変化点検出カウンタ部23は、上記「受信開始タイミング」信号がON(‘1’)になった時点からレベル変化回数のカウントを開始する。すなわち、この開始時点から上記データ変化点検出部21からの検出信号1パルスがある毎に、+1カウントアップする。カウンタの初期値は例えば‘0’である。このカウンタ値は、次段の通信方式判定部24へ出力される。図12(a)〜(c)に示す「データ変化点カウンタ」の数値が、このカウンタ値の一例である。
【0090】
通信方式判定部24では、所定期間内の復調データのレベル変化回数の結果から、受信信号の通信方式(伝送速度)を判定する。例えば、基準時間生成タイマー部22が上記所定の時間経過することでタイマアップすると、このタイマアップ信号を通信方式判定部24へ出力するものとした場合、通信方式判定部24は、このタイマアップ信号受信時の上記カウンタ値を、上記「所定期間内の復調データのレベル変化回数の結果」(以下、単に、レベル変化回数という)として、この“レベル変化回数”と後述する通信方式判定テーブル(図13に一例を示す)とによって、受信信号の通信方式を判定する。
【0091】
ここで、図12(a)〜(c)では、上記タイマアップ時を黒逆三角(▼)のマークで示してある。図示の通り、図12(a)に示す伝送速度(転送レート)が424(kbps)の通信方式の場合には、タイマアップ時のカウンタ値は‘8’であるので、上記レベル変化回数は‘8’となる。同様に、図12(b)に示す転送レートが212(kbps)の通信方式の場合にはレベル変化回数は‘4’であり、図12(c)に示す転送レートが106(kbps)の通信方式の場合にはレベル変化回数は‘2’となっている。
【0092】
この様に、各通信方式によって所定期間内の復調データのレベル変化回数が異なることから、これに応じて予め後述する通信方式判定テーブルに判定条件と判定結果を登録しておけば、上記レベル変化回数を用いてこのテーブルを参照することで、受信信号の通信方式(伝送速度)を判定することができる。
【0093】
尚、上記の通りここでは、通信方式判定部24による通信方式の判定結果は、「424kbps」、「212kbps」、「106kbps」の何れかとなる。
図13は、通信方式判定部24における判定条件を示す図である。すなわち、通信方式判定テーブル30の一例を示す図である。
【0094】
図示の通信方式判定テーブル30には、判定条件である各データ変化点カウンタ値31に対応付けて、判定結果32が登録されている。図示の例では、判定条件が、判定条件1、判定条件2の2つあるが、これらを両方用いるのではなく、どちらか一方を用いる。
【0095】
判定条件1は、レベル変化点回数の条件を固定値で設定した場合である。図12(a)〜(c)に示す例では、上記の通りレベル変化回数がそれぞれ‘8’、‘4’、‘2’であるので、これに応じて判定条件1は‘8’、‘4’、‘2’となっている。当然、例えば判定条件1が‘8’の場合には、判定結果32は「424(kbps)」となっている。よって、上記レベル変化回数=‘8’の場合には、このテーブル30を参照することで、判定結果は「424(kbps)」となり、受信信号の通信方式を正しく判定することができる。
【0096】
但し、必ずしも常に図12(a)〜(c)に示す例の通りになるとは限らず、多少の変動が生じたりノイズ等の影響を受ける可能性がある。例えば、「424(kbps)」の場合にレベル変化回数が‘7’等となる可能性もある。図13に示す判定条件2は、この様なことも考慮した判定条件である。
【0097】
すなわち、判定条件2は、レベル変化点回数の判定条件で上限値・下限値を任意に設定可能とした構成の場合の設定例である。換言すれば、多少の変動が生じたりノイズ等の影響を受ける可能性を考慮して、判定条件にある程度の幅(マージン)を持たせるようにしたものである。図示の通り、例えば、「212(kbps)」に対しては、判定条件2は‘3〜5’となっている。
【0098】
以上説明したように、通信方式検出部17は、例えば図11に示す構成によれば、所定期間内の復調データのレベル変化回数と予め登録される通信方式判定テーブル30とに基づいて、自装置が「ターゲット」である場合でも、イニシエータが送信するポーリングコマンドを受信する際に、その通信方式を判別することができる。よって、NFCの双方向通信に関しても複数種類の通信方式で通信を行うことが可能となる。
【0099】
また、上記参考文献記載の従来手法では、復調信号にノイズなどの影響で正規の信号とは異なるパルス幅になった場合、誤受信・誤検出する可能性があるが、上述した本手法によれば、データ変化点の検出回数に基づいて通信方式を判別するので、ノイズ等の影響により多少検出回数が変わっても、判定条件にある程度のマージンを加えておけば、誤受信・誤検出を低減することが可能となる。
【0100】
尚、通信方式判定部24による上記判定動作は、例えばマイクロプロセッサ等が、メモリ等に予め記憶されている所定のアプリケーションプログラムを実行することにより(その際、上記通信方式等判定テーブル30を参照することで)実現してもよいし、専用のハードウェア回路を構成することにより実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本例の非接触型通信装置の受信回路の構成図である。
【図2】変形ミラー符号化について説明する為の図である。
【図3】マンチェスタ符号化について説明する為の図である。
【図4】アクティブモードで伝送速度106kbpsの場合の受信磁界波形例である。
【図5】アクティブモードで伝送速度212kbpsの場合の受信磁界波形例である。
【図6】(a)〜(c)は各伝送速度に応じたバンドパスフィルタの特性例(アクティブモード)である。
【図7】通過帯域を可変とするためのバンドパスフィルタの構成例(その1)である。
【図8】通過帯域を可変とするためのバンドパスフィルタの構成例(その2)である。
【図9】パッシブモードで伝送速度106kbpsの場合のイニシエータの受信磁界波形例である。
【図10】(a)〜(c)は各伝送速度に応じたバンドパスフィルタの特性例(パッシブモード)である。
【図11】通信方式検出部の構成例である。
【図12】通信方式検出部の動作タイミングチャート図である。
【図13】通信方式判定テーブルの一例である。
【符号の説明】
【0102】
10 非接触型通信装置の受信回路
11 通過帯域可変のバンドパスフィルタ(BPF)
12 可変利得増幅器
13 2値化回路
14 復号器
15 磁界強度検出部
16 制御部
17 通信方式検出部
21 データ変化点検出部
22 基準時間生成タイマー部
23 変化点検出カウンタ部
24 通信方式判定部
30 通信方式判定テーブル
31 データ変化点カウンタ値(判定条件)
32 判定結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近接通信における複数種類の通信方式に対応可能な非接触型通信装置における受信回路であって、
アンテナによる受信信号を検波器を介して入力するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタの出力を入力して増幅する増幅器と、該増幅器の出力を2値化して復号器へ出力する2値化回路と、制御部とを有し、
前記バンドパスフィルタは通過帯域可変のバンドパスフィルタであり、
前記制御部は、前記受信信号に係る通信方式に応じて、前記バンドパスフィルタの通過帯域を決定・設定することを特徴とする非接触型通信装置における受信回路。
【請求項2】
前記増幅器は可変利得増幅器であり、
前記検波器出力を入力して前記アンテナにより受信した磁界の磁界強度を検出して前記制御部へ出力する磁界強度検出部を更に有し、
前記制御部は、前記受信信号に係る通信方式における伝送速度及び前記磁界強度に基づいて、前記可変利得増幅器の利得を算出して設定することを特徴とする請求項1記載の非接触型通信装置における受信回路。
【請求項3】
前記複数種類の通信方式はアクティブモードにおける各種通信方式であることを特徴とする請求項1又は2記載の非接触型通信装置における受信回路。
【請求項4】
前記複数種類の通信方式には更にパッシブモードにおける各種通信方式も含まれることを特徴とする請求項3記載の非接触型通信装置における受信回路。
【請求項5】
近接通信における複数種類の通信方式に対応可能な非接触型通信装置における受信回路であって、
アンテナによる受信信号を検波器を介して入力するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタの出力を入力して増幅する増幅器と、該増幅器の出力を2値化して復号器へ出力する2値化回路と、制御部と、前記検波器出力を入力して前記アンテナにより受信した磁界の磁界強度を検出して前記制御部へ出力する磁界強度検出部とを有し、
前記増幅器は可変利得増幅器であり、
前記制御部は、前記受信信号に係る通信方式における伝送速度及び前記磁界強度に基づいて、前記可変利得増幅器の利得を算出して設定することを特徴とする非接触型通信装置における受信回路。
【請求項6】
近接通信における複数種類の通信方式に対応可能な非接触型通信装置であって、
受信回路を有し、該受信回路は、アンテナによる受信信号を検波器を介して入力するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタの出力を入力して増幅する増幅器と、該増幅器の出力を2値化して復号器へ出力する2値化回路と、制御部とを有し、
前記バンドパスフィルタは通過帯域可変のバンドパスフィルタであり、
前記制御部は、前記受信信号に係る通信方式に応じて、前記バンドパスフィルタの通過帯域を決定・設定することを特徴とする非接触型通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−278389(P2009−278389A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127791(P2008−127791)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】