説明

非接触通信媒体を備えた冊子体

【課題】冊子用シートに設けられたコイル状アンテナが、冊子用シートの折り曲げ部を跨ぐ構成で形成されていても、繰り返し開閉を行うことにより折り曲げ部のアンテナ材料が金属疲労し断線することのないアンテナを持つ非接触通信媒体を備えた冊子体を提供すること。
【解決手段】コイル状アンテナを構成する導体パターンが折り目線を跨ぐ部位を含む断線防止部で、線幅が2mm以上、前記折り目線とは垂直方向の長さが、冊子用シートを折り畳んだ状態に於ける折り曲げ部の冊子用シートの曲率半径の2倍以上であることを特徴とする非接触通信媒体を備えた冊子体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で外部とのデータ通信が可能な非接触通信媒体を備えた冊子体のスキミング防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、非接触で外部とのデータ通信が可能な非接触通信媒体を備えた冊子体として、非接触通信媒体を備えたパスポートが実用されている。
【0003】
非接触通信媒体はICチップに記録された情報がスキミングによって予期せぬ他者から読み取られるという弱点があった。
【0004】
スキミング防止の方法として、例えば特許文献1には、冊子体の内部に設けられた非接触通信媒体が装着された冊子の表裏に電磁波シールド機能を持つシートを配置することによって非接触通信を不能とし、スキミングを防止する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、冊子用シートの内部に設けられた非接触通信媒体の送受信用のコイル状アンテナが、冊子用シートの折り目線を中心にしてほぼ対称に形成され、冊子用シートが開いた際、情報の送受信を可能とする有効面積を有し、冊子用シートが折り畳まれた際、有効面積がほぼゼロとなり、情報の送受信が不能となる技術が開示されている。
【0006】
特許文献2に開示されている技術は、電磁波シールド材を必要とせず、コスト面で優れた技術であるが、コイル状アンテナが、冊子用シートの折り目にある折り曲げ部を跨ぐ構成であるため、繰り返し開閉を行うことにより折り曲げ部のアンテナ材料が金属疲労を起し断線する、という問題を抱えている。
【0007】
冊子体がパスポートである場合は、5年または10年間の使用に耐える必要があるため、上記の問題は特に重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−99562号公報
【特許文献2】特開2001−92934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、冊子用シートに設けられたコイル状アンテナが、冊子用シートの折り目にある折り曲げ部を跨ぐ構成で形成されていても、繰り返し開閉を行うことにより折り曲げ部のアンテナ材料が金属疲労し断線することのないアンテナを持つ非接触通信媒体を備えた冊子体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題点を解決する手段として請求項1に記載の発明は、非接触通信媒体を備えた冊子体であって、
折り曲げ部を有する冊子用シートを含み、
前記冊子用シートには、情報を記憶したICと非接触で外部との通信を可能とするコイル状アンテナとが相互に電気的に接続されてなる非接触通信媒体が形成されており、
前記コイル状アンテナは前記冊子用シートの折り曲げ部を跨いで形成されており、
前記コイル状アンテナは、少なくとも前記折り曲げ部を跨ぐ領域に断線防止部を有し、該断線防止部は、コイル状アンテナの他の部分より線幅が太いことを特徴とする非接触通信媒体を備えた冊子体である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記断線防止部の線幅が、2.0mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の非接触通信媒体を備えた冊子体である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記断線防止部の長さが、前記冊子用シートを前記折り曲げ部で折り畳んだ状態に於ける該折り曲げ部の曲率半径の2倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非接触通信媒体を備えた冊子体である。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、前記断線防止部が、長方形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非接触通信媒体を備えた冊子体である。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記断線防止部が、両端部が緩やかに細くなっている形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非接触通信媒体を備えた冊子体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、コイル状アンテナが金属疲労により断線する事故を低減した、スキミングを防止することが可能な非接触通信媒体を備えた冊子体およびパスポートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来のアンテナパターンの一例を示す概念図
【図2】本発明に至る途中経過のアンテナパターンの一例を示す概念図
【図3】本発明に至る途中経過のアンテナパターンの一例を示す概念図
【図4】本発明に至る途中経過のアンテナパターンの一例を示す概念図
【図5】本発明のアンテナパターンの一例を示す概念図
【図6】本発明のアンテナパターンの一例を示す概念図
【図7】図6の丸で囲んだ部分の拡大図
【図8】図2に示したアンテナパターンの例を用いて、冊子用シートの折り目で繰り返し折り曲げた際の、アンテナパターンの線幅とアンテナパターンが折り曲げ部で断線に至る折り曲げ回数を調べる実験結果をプロットしたグラフの一例。
【図9】冊子体の構造を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、非接触通信媒体を備えた冊子体において、スキミングを防止できる構成で且つ耐久性を向上させた冊子体についての発明である。
【0018】
本発明における冊子体として、例えばパスポート等が挙げられる。具体的には、空港における入出国手続の際に押印などの記録を行うための複数の中紙と、それらの中紙に表紙をつけて綴じた構成の冊子体である。その表紙に相当する部分に、非接触通信媒体を備えた冊子用シートを備えている。
【0019】
図7は、本発明における冊子体10の一実施形態例を示す図である。図7に示した冊子体は、中綴じによる冊子体の一例であるが、本発明における冊子体は、中綴じによるものに限らず、無線綴じ、平綴じ等、製本の種類が特に限定されるものではない。
【0020】
図7の上側の図は、表紙7と中紙8が折り曲げ部(冊子用シート1を折り目線6で折り
曲げる冊子用シート1の部位を指す。)で折り曲げられた状態で、両者が重ねられる前の状態の例を示している。下側の図は、両者が重ねられたあと、糸などを用いて綴じ部9で綴じられた状態の断面図の例を示している。冊子体10の一番外側は、表紙7である。その内側には、例えばパスポートの場合であれば、空港などの入出国時の押印をする複数ページにわたる中紙8がある。表紙7と中紙8は冊子体10の背の部分で糸などを用いて綴じた綴じ部9により留められている。綴じ部9で表示7と中紙8は折り曲げられて、冊子体10となる。
【0021】
冊子体10には、冊子用シート1が表紙7と一体になるように作製されている。例えば、表紙7の内側に冊子用シート1を貼り合わせることによって、表紙7と冊子用シート1を一体にすることができる。
【0022】
冊子用シートには、情報を記憶したICチップと、非接触で外部との通信を可能とするコイル状アンテナとが相互に電気的に接続されてなる非接触通信媒体が形成されている。
【0023】
非接触通信媒体のコイル状アンテナが、冊子用シートの折り曲げ部を跨いで形成されていることで、冊子用シートが開いた際には、情報の送受信を可能とする有効面積を有し、情報の送受信が可能であり、冊子用シートが折り畳まれた際には、有効面積が小さくなり、情報の送受信を不能とすることができる。特に、折り曲げ部を対称軸にしてそれを跨ぐ形でほぼ左右対称にコイル状アンテナを形成すると、冊子用シートが折り畳まれた際、有効面積がほぼゼロとなり、確実に情報の送受信を不能とすることができる。
【0024】
非接触通信媒体を備えた冊子用シートは、絶縁性シートであり、通常のRF−IDなどで使用されているものと同等の部材と技術で作製したものである。冊子用シートの材料としては、特に限定しないが、紙材、合成紙材、樹脂フィルム材等があげられる。具体的な合成紙材の例としてはTeslin(登録商標:PPG社)等のポリオレフィン系合成紙や、YUPO(登録商標:ユポ・コーポレーション)等のポリプロピレン系合成紙などがある。また、樹脂フィルムとしては、非晶質ポリエステルなどがあげられる。
【0025】
コイル状アンテナは、エナメル線などの巻き線、絶縁性シートに貼り合せた銅箔やアルミ箔を、エッチング法を用いてコイル状に形成した導体パターン、導電性インクなどの導電性物質をコイル状に印刷して得た導体パターン、パターンメッキ法を用いて形成した導体パターン、などを使用することができるが、本発明では、特にエッチング法および印刷法により形成した導体パターンによるコイル状アンテナを好適に使用することができる。
【0026】
図1は、従来のアンテナパターンの一例を示す概念図である。冊子用シート1に設けられたコイル状アンテナの導体幅を、冊子用シート1の折り曲げ部で太くする様な工夫はなされておらず、折り目線6に沿って冊子用シート1を閉じたり、開いたり、を繰り返すことによって、コイル状アンテナの導体が金属疲労するため、断線を起し易かった。
【0027】
図2は、本発明のアンテナパターンの一例を示す概念図である。コイル状アンテナのアンテナパターンのうち、冊子用シート1の折り曲げ部を跨ぐ辺全てに、他の部分のコイル状アンテナよりも線幅の太い断線防止部を設けたことによって、断線を起し難くすることが可能となった。
【0028】
表1に、耐折試験におけるアンテナパターン線幅(コイル状アンテナの導体の線幅)と断線時折り曲げ回数(折り曲げ部に沿って冊子用シート1を閉じたり、開いたり、することを繰り返すことで断線に至った時の折り曲げ回数)の実験結果を表1に示す。表1のデータをグラフにしたものが図8である。
【0029】
【表1】

【0030】
この耐折試験においては、長さ150mm、幅15mmのアンテナ試験片を作成し、厚さ2.0mmのパスポートを想定し、パスポートを開いた状態に相当する平面上に置いた状態を0度とし、そこから135度まで折り曲げ、また0度に戻して1回とした。試験片の折り曲げ線から約5mm両側に離れた位置から試験片を電気絶縁性の板で固定し、それらの板がなす角度を測定することで、135度を確認した。断線したことは、試験片の両端に電極をつけて、電気抵抗を測定する事によって把握した。断線したことの判定は、試験片の電気抵抗が急激に立ち上がるところとした。
【0031】
上記の結果から、アンテナパターン線幅が0.5mmから1.5mmまでは断線時折り曲げ回数は単調に増加する。3.0mmではデータのバラツキが大きくなるが、1.5mmまでよりなだらかな増加傾向を示すようになる。グラフから判断して、アンテナパターン線幅が2.0mm以上にすることで、断線時折り曲げ回数を、1500回を超える大きな値にすることができる条件であるとすることができる。よって、断線防止部の線幅は、2.0mm以上であることが望ましい。
【0032】
図3は、コイル状アンテナの、冊子用シートの折り曲げ部を跨ぐ領域に、図2に示した断線防止部より長さが短い断線防止部を設けたアンテナパターンの一例を示す概念図である。図3に示したように、折り曲げ部を跨ぐ領域に限定して、長方形状に線幅を太くした断線防止部を設けることで、材料の使用量を抑制している。このようにすることで、導体材料の使用量を殆ど増やさずに、コイル状アンテナの導体が金属疲労することで、断線することを抑制できる。
【0033】
図4も、アンテナパターンの一例を示す概念図である。コイル状アンテナの、冊子用シートの折り曲げ部を跨ぐ領域にのみ断線防止部を設け、断線防止部が長方形状に線幅を太くしている点は図3と同じであるが、断線防止部5における折り曲げ部と垂直な方向の長さを図3のものと比較して、長くしている点が異なる。具体的には、冊子用シート1の折り曲げ部の曲率半径の2倍以上の長さとしたものである。
【0034】
冊子用シート1の断線防止部5の、折り曲げ部とは垂直な方向の長さを長くすることによって、折り曲げ時の応力がかかる面積を大きくなることで、応力の集中を抑制することができ、断線防止効果をさらに高めることができる。このデータは、厚さ40μmのPETフィルムに厚さ3μmの接着剤層を介して厚さ30μmの銅箔を接着した材料の銅箔をパターニングする事によって得た図1または図2に示したのと同等のアンテナパターンを有する試験片(長さ150mm、幅15mm)を使用して、折り曲げを繰り返し、断線に至る折り曲げ回数を調べる、という実験から得たものである。
【0035】
パスポート用冊子を閉じた状態の厚さは2mm或いはそれ以上であることが殆どである。厚さが2mmの場合は、パスポート用冊子の折り曲げ部に於ける曲率半径は約1mm或いはそれ以上とすることができる。
【0036】
図3、図4においては、断線防止部の形状が、長方形状である実施例を示したが、これらの実施例においては、従来と比較すると高い断線防止効果が得られたが、導体線幅が急峻な変化を起した部分が、他の部分に比べて若干断線しやすいことが分かった。これは、線幅が急峻に変化した部分に折り曲げによる応力が集中し易いためと考えられる。
【0037】
そのため、図5、図6に例を示したが、断線防止部5の両端部が緩やかに細くなっている形状にすることによって、断線を抑制することができる。図5、図6は、直線状に変化させた場合の例であるが、これらに限定するものではない。例えば、指数関数、対数関数
、二次曲線、三次曲線、双曲線関数など、急激な変化をしない方法で線幅を変化させれば良い。
【0038】
図7は、図6の丸で囲った断線防止部を拡大した図である。説明の為、図6の断線防止部5の下半分は図6とは異なっており、折り目線6と平行な方向に、断線防止部5以外の導体幅と同じ線幅の導体が、折り目線6を中心にして形成されている図としている。断線防止部5において、折り目線6に水垂直な方向にYだけ進んだ時に、折り目線6と平行な方向にXだけ直線的に減少させる場合についての最低限の条件として、Y=Xとすることが必要である。好ましくは、Y≧1.5X、更に、Y≧2Xなる条件を満たすことがより好ましい。
【符号の説明】
【0039】
1・・・冊子用シート
2・・・アンテナパターン
3・・・断線防止部(折り目線と垂直な方向の長さが冊子用シートの曲率半径の2倍より短い場合)
4・・・断線防止部(折り目線と垂直な方向の長さが冊子用シートの曲率半径の2倍以上の場合)
5・・・断線防止部(折り目線と垂直な方向の長さが冊子用シートの曲率半径の2倍以上で、且つ折り目線と平行な方向の導体幅が階段状に変化しない場合)
6・・・折り目線
7・・・表紙
8・・・中紙
9・・・綴じ部
10・・・冊子体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触通信媒体を備えた冊子体であって、
折り曲げ部を有する冊子用シートを含み、
前記冊子用シートには、情報を記憶したICと非接触で外部との通信を可能とするコイル状アンテナとが相互に電気的に接続されてなる非接触通信媒体が形成されており、
前記コイル状アンテナは前記冊子用シートの折り曲げ部を跨いで形成されており、
前記コイル状アンテナは、少なくとも前記折り曲げ部を跨ぐ領域に断線防止部を有し、該断線防止部は、コイル状アンテナの他の部分より線幅が太いことを特徴とする非接触通信媒体を備えた冊子体。
【請求項2】
前記断線防止部の線幅が、2.0mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の非接触通信媒体を備えた冊子体。
【請求項3】
前記断線防止部の長さが、前記冊子用シートを前記折り曲げ部で折り畳んだ状態に於ける該折り曲げ部の曲率半径の2倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非接触通信媒体を備えた冊子体。
【請求項4】
前記断線防止部が、長方形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非接触通信媒体を備えた冊子体。
【請求項5】
前記断線防止部が、両端部が緩やかに細くなっている形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非接触通信媒体を備えた冊子体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−105306(P2013−105306A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248581(P2011−248581)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】