説明

非接触IC内蔵用紙ならびにIC付き冊子またはICカード

【課題】IC付き冊子またはICカードに用いられる非接触IC内蔵用紙に内蔵される非接触型のICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部であるリードフレーム部の腐食耐性を高め、信頼性の高い非接触IC内蔵用紙を提供すること。
【解決手段】ICモジュール25とアルミニウムアンテナ21とを備えた非接触型のICインレット26が印刷媒体30に内蔵されている非接触IC内蔵用紙10であって、ICインレットを収納する中間層31と中間層の表裏面に設けられる表面層32および裏面層33を有し、前記ICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部であるリードフレーム23が、アルミニウムアンテナと同種金属であることを特徴とする非接触IC内蔵用紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固有の識別情報を格納したICチップと、この識別情報を送受信するアンテナとからなる非接触型のICインレットを内蔵している非接触IC内蔵用紙と、それを用いたIC付き冊子またはICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触ICカードや非接触ICタグを用いたシステムが普及している。例えば、パスポートや預貯金通帳冊子にICチップを含む非接触ICモジュールとそれに接続されたアンテナとからなるICインレットを外装基材で挟み込んだ非接触IC内蔵用紙を非接触型情報媒体とし、この非接触型情報媒体を表紙等に貼り合わせて装填した、電子データの記入や印字が可能な非接触型情報媒体付属冊子が、非接触IC付き冊子として開発され公知となっている。
【0003】
非接触ICカードや非接触IC付き冊子(パスポート等)などの如きにICチップを内蔵し、非接触状態で識別情報の送受信を行ってこの識別情報の記録・消去などが行える情報記録メディア(RFID(Radio Frequency Identification))の用途に用いられる非接触型ICインレットは、絶縁性を有する有機基材上に金属(銅やアルミニウム)の導電材よりなるアンテナとこれに接続するRFID用ICチップを実装した構成を有している。
【0004】
上記非接触型のICインレットを内蔵した非接触IC内蔵用紙を用いて、以下のような製品の事例がある。第1の基材シートの上面側に、所定の広さの開口部を有する第2の基材シートが接着されて凹部が形成され、前記凹部内にICチップ及びアンテナが備えられ、前記第1の基材シートの下面側に接着剤層が設けられている非接触IC内蔵用紙を、その機能に注目して非接触型データキャリアと称される非接触型情報媒体とし、この非接触型データキャリアが冊子の表表紙または裏表紙に貼付されてなる非接触型データキャリアを有するIC付き冊子がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−42068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記非接触型ICインレットを内蔵する製品の信頼性規格として、ある一定の試験時間の耐塩水試験を行った後に通信が可能であるという条件を満足しなければならない。しかし、この耐塩水試験の際に、水分を媒介として塩化物イオン、ナトリウムイオンが内部のICモジュールの接続端子とアンテナとの接続部まで透過する。そのため、前記ICモジュールの接続端子として使用されるリードフレームとアンテナとが異種金属で実装されたり、または同種金属実装だが異種金属がその実装部に接触した場合は、その実装部の周辺部はイオン化傾向の異なる金属が存在することで、塩水の接触による局部電池効果により腐食が発生することを見出した。その結果、非接触型ICインレットを内蔵する製品が故障するという問題が生じることもある。
【0007】
本発明は、前記の問題点に鑑みて提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、IC付き冊子またはICカードに用いられる非接触IC内蔵用紙に内蔵される非接触型のICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部であるリードフレーム部の腐食耐性を高め、信頼性の高い非接触IC内蔵用紙を提供することで
ある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、ICモジュールとアルミニウムアンテナとを備えた非接触型のICインレットが印刷媒体に内蔵されている非接触IC内蔵用紙であって、ICインレットを収納する中間層と中間層の表裏面に設けられる表面層および裏面層を有し、前記ICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部であるリードフレームが、アルミニウムアンテナと同種金属であることを特徴とする非接触IC内蔵用紙である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、ICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部にいかなる異種金属も接触させないことを特徴とする請求項1記載の非接触IC内蔵用紙である。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、ICインレットを構成するアルミニウムアンテナの金属素材と、前記アンテナと接触するICモジュールのリードフレームの金属素材との融点の差が、50度以下であることを特徴とする請求項1または2記載の非接触IC内蔵用紙である。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、ICインレットを構成するアルミニウムアンテナの金属素材と、前記アンテナと接触するICモジュールのリードフレームの金属素材との純金属に対する酸化比率の差が、X線光電子分光分析において、10atomic%以下であり、かつ、ケミカルシフトしたメタルAl及びAl−Oの強度比の差が10%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の非接触IC内蔵用紙である。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか記載の非接触IC内蔵用紙を用いたことを特徴とするIC付き冊子またはICカードである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上の構成であり、IC付き冊子またはICカードに用いられる非接触IC内蔵用紙に内蔵される非接触型のICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部であるリードフレームがアルミニウムアンテナと同種金属であるから、アルミニウムアンテナとリードフレーム部の両素材のイオン化傾向を同一にして、両者間の局部電池効果を抑制するので、前記接続部の腐食耐性を高め、信頼性の高い非接触IC内蔵用紙を提供することができる。
【0014】
また、上記請求項2に係る発明によれば、前記非接触型のICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部にいかなる異種金属も接触させないことで、アルミニウムアンテナと接触する面での局部電池効果発現の可能性をさらに排除するので、前記接続部の腐食耐性を高め、信頼性の高い非接触IC内蔵用紙を提供することができる。
【0015】
また、上記請求項3に係る発明によれば、前記非接触型のICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールのリードフレームとの金属素材の融点の差を50度以下とすることによって、両金属素材の結晶性や不純物含有率を含めた同種性を益々高めて前記接続部の腐食耐性を高め、信頼性の高い非接触IC内蔵用紙を提供することができる。さらに、アルミニウムアンテナ及び、アンテナと接触するモジュールのリードフレームの溶接の条件出しの簡便化、および工程負荷の減少により、工程の安定性を保つことができる。
【0016】
また、上記請求項4に係る発明によれば、前記非接触型のICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールのリードフレームとの金属素材の酸化比率の差を、X線光電子分光分析装置において、10atomic%以下とし、かつ、ケミカルシフトしたメタルAlに対するAl−Oの強度比の差を10%以下とすることによって、アルミニウムアンテナ及び、アンテナと接触するモジュールのリードフレームを構成する金属素材の酸化状態を同程度とするために電位差を生じない、つまり局部電池効果をさらに抑制して、前記接続部の腐食耐性を高め、信頼性の高い非接触IC内蔵用紙を提供することができる。
【0017】
また、上記請求項5に係る発明によれば、上記請求項1〜4に係る発明によって得られる信頼性の高い非接触IC内蔵用紙を用いるので、多様な環境で使用される最終製品として、総合的に信頼性の高いIC付き冊子またはICカードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の非接触IC内蔵用紙の構造を説明するための模式断面図である。
【図2】本発明の非接触IC内蔵用紙を用いたIC付き冊子の一事例を説明するための斜視図である。
【図3】本発明に用いる非接触ICインレットの実施の形態を説明するための模式平面図である。
【図4】本発明に用いるアルミニウムアンテナとリードフレームとの接触箇所を示す模式平面図である。
【図5】本発明の非接触IC内蔵用紙を用いたICカードの一事例を説明するための模式断面図であって、(a)は各層の分解図を示し、(b)は合体図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の非接触IC内蔵用紙10の構造は、ICモジュール25とアルミニウムアンテナ21とを備えた非接触型のICインレット26が印刷媒体30に内蔵されており、ICインレット26を収納する中間層31と中間層の表裏面に設けられる表面層32および裏面層33を有し、前記ICインレットを構成するアルミニウムアンテナ21とICモジュール25との接続部であるリードフレーム23が、アルミニウムアンテナ21と同種金属である。
【0021】
前記同種金属とは、本発明において、第一義的には、アルミニウムを主成分とする金属をリードフレームに使用していることを指し、その結果、アルミニウムアンテナ21とICモジュール25との接続が、異種金属間のイオン化傾向の差による局部電池効果を抑制し、塩水中における接続部の腐食耐性を高めることができる。
【0022】
また、アルミニウムアンテナ21とICモジュール25との接続部に、接続補助目的であれ、他の目的であれ、いかなる異種金属も接触させないことにより、アルミニウムアンテナと接触する面での局部電池効果発現の可能性をさらに排除することができる。
【0023】
また、アルミニウムアンテナ21とリードフレーム23との両金属素材の同種金属の関係が第一義的に成り立つ場合であっても、両金属素材の結晶性や不純物含有率を含めた同種性が不充分な場合に、両金属素材の融点の差が大きくなる。従って、両金属素材の同種性を益々高めて前記接続部の腐食耐性を高めるために、融点の差の小さい素材を選択した方が好ましい。望ましくは融点の差を50度以下とすることにより、信頼性の高い非接触IC内蔵用紙を提供することができる。さらに、アルミニウムアンテナ21及び、アンテナと接触するモジュールのリードフレーム23の溶接の条件出しの簡便化、および工程負
荷の減少により、工程の安定性を保つという点でも、上記の選択が望ましい。
【0024】
また、アルミニウム金属は酸化被膜を作りやすいが、前記両金属素材の結晶性や不純物含有率を含めた同種性を高める意味と同様な意味で、酸化の程度も同等とすることが望ましい。具体的には、ICインレットを構成するアルミニウムアンテナ21の金属素材と、前記アンテナと接触するICモジュールのリードフレーム23の金属素材との純金属に対する酸化比率の差が、X線光電子分光分析において、10atomic%以下であり、かつ、ケミカルシフトしたメタルAlに対するAl−Oの強度比の差が10%以下であることが望ましい。このように両金属素材の同種性を高めることが、前記接続部の腐食耐性を高めるだけでなく、溶接工程の条件出しの簡便化等により、工程の安定性を保つ上でも有利である。
【0025】
非接触IC内蔵用紙10の一部である非接触ICインレット26は図3に示すように、アンテナシート基材20とアルミニウムアンテナ21、ICチップ22、リードフレーム23とから構成される。この内、ICチップ22とリードフレーム23とは、ICモジュール25として結線及び樹脂封止した部品形状で供給することができる。前記ICインレット26は、例えば図1に示すように、アンテナシート基材20の所定の位置に開口部24を刻設してICモジュール25の突起部を埋設することにより、部材の平坦性を保つように準備することができる。
【0026】
図3に示すICインレット26は、アンテナシート基材20上にエッチング方式やワイヤボンディング方式、印刷アンテナ方式などによってアルミニウムアンテナ21が通常はコイル状に形成される。このアルミニウムアンテナ21と電気的に接続するリードフレーム23とは溶接方式など一般的な方法によって実装される。図4に、本発明に用いるアルミニウムアンテナ21とリードフレーム接合部27との接触箇所を模式平面図で示す。図の斜線部が露出したリードフレームとアンテナとの接触箇所であり、この部分の腐食耐性を本発明により高めることができる。
【0027】
また、ICモジュール25とアルミニウムアンテナ21とアンテナシート基材20とからなるICインレット26は、ICチップ自身の厚みや、アンテナの厚み、ジャンパ線とアンテナの接合部や、アンテナシート基材自体の厚みなどにより、前記平坦性保持のための施策を行ってもなお、凹凸のあるシートとなっている。このICインレット26を、後述のように、冊子基材層34等の間に挟んで非接触IC内蔵用紙10に加工する際、外観上はこれらの凹凸を無くすることが望ましい。
【0028】
図1に示すように、前記印刷媒体30は、中間層31と、その表裏面に設けられ、各種パターンが印刷される表面層32および裏面層33とを含み、中間層31にICインレット26を収納することで、非接触IC内蔵用紙10となる。例えば、IC付き冊子に使用する非接触IC内蔵用紙10において、中間層31は、パルプ繊維を主体とした原紙を加工した冊子基材層34を基礎としている。冊子基材層34の所定の位置に、前記アルミニウムアンテナ21の外周を最大とする平面形状に応じた、もしくはやや大きめの穴が刻設され、前記非接触型のICインレット26が穴内に載置されることにより、外平面を平坦にした中間層31を作ることができる。
【0029】
本発明の非接触IC内蔵用紙10を使用したIC付き冊子15は、図2に示すような形状であり、表紙用部材11とその内面に貼着する内貼り用紙12との間に非接触IC内蔵用紙10を挟み込んで接着され、これに複数の本文用紙13を加えたものである。
【0030】
また、図1において、印刷媒体30を構成する表面層32および裏面層33は、パルプ繊維を主体とした薄紙で、その片面に予め接着剤層が形成されていて、この接着剤層の面
にて前記非接触型のICインレット26が穴内に載置された中間層31を貼り合わせて、嵌め込まれているICインレット26を隠蔽し、かつ保護することができる。なお、中間層31の平坦性の不足を接着剤層により補うこともできる。
【0031】
図5は、本発明の非接触IC内蔵用紙を用いたICカードの一事例を説明するための模式断面図であって、(a)は各層の分解図を示し、(b)は合体図を示す。
PVC(ポリ塩化ビニル)等の樹脂を成形したカード基材層35に穴あけ加工を施しておき、前記ICインレット26の表裏からカード基材層35で挟みこみ貼り合わせて中間層31とすることができる。中間層31の表裏から、印刷等を施した表面層32および裏面層33が積層され、本発明の非接触IC内蔵用紙が形成できる。その後、非接触IC内蔵用紙の外表面に、保護層36等の必要に応じて設ける各層を追加形成して、ICカード16が形成できる。
【実施例1】
【0032】
アルミニウムアンテナとアンテナに接触するICモジュールのリードフレームが同種金属で作製された非接触IC内蔵用紙について、一定時間の塩水試験を行った。その結果、非接触IC内蔵用紙12ピース中に通信NGは無かった。また、モジュール部における腐食は確認されなかった。
【実施例2】
【0033】
〈比較例1〉
アルミニウムアンテナとアンテナに接触するICモジュールのリードフレームが異種金属で作製された非接触IC内蔵用紙について、一定時間の塩水試験を行った。その結果、非接触IC内蔵用紙12ピース中1ピースが通信NGとなった。通信NG品には、モジュール部における腐食が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
従って、本発明に係る非接触IC内蔵用紙は耐塩水性に優れ、腐食を抑制することが可能である。
また、従来のリードフレームは銅合金系素材で作製されており、本発明に係る非接触型のICインレット内蔵のIC付き冊子及びICカードに設置されるアルミニウムアンテナと同金属でアンテナと接触するICモジュールのリードフレームを作製することで、素材コスト、製造コストの削減、重金属の使用をさけることで環境への負荷を減らすことが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
10・・・非接触IC内蔵用紙
11・・・表紙用部材
12・・・内貼り用紙
13・・・本文用紙
15・・・IC付き冊子
16・・・ICカード
20・・・アンテナシート基材
21・・・アルミニウムアンテナ
22・・・ICチップ
23・・・リードフレーム
24・・・開口部
25・・・ICモジュール
26・・・ICインレット
27・・・リードフレーム接合部
30・・・印刷媒体
31・・・中間層
32・・・表面層
33・・・裏面層
34・・・冊子基材層
35・・・カード基材層
36・・・保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICモジュールとアルミニウムアンテナとを備えた非接触型のICインレットが印刷媒体に内蔵されている非接触IC内蔵用紙であって、ICインレットを収納する中間層と中間層の表裏面に設けられる表面層および裏面層を有し、前記ICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部であるリードフレームが、アルミニウムアンテナと同種金属であることを特徴とする非接触IC内蔵用紙。
【請求項2】
ICインレットを構成するアルミニウムアンテナとICモジュールとの接続部にいかなる異種金属も接触させないことを特徴とする請求項1記載の非接触IC内蔵用紙。
【請求項3】
ICインレットを構成するアルミニウムアンテナの金属素材と、前記アンテナと接触するICモジュールのリードフレームの金属素材との融点の差が、50度以下であることを特徴とする請求項1または2記載の非接触IC内蔵用紙。
【請求項4】
ICインレットを構成するアルミニウムアンテナの金属素材と、前記アンテナと接触するICモジュールのリードフレームの金属素材との純金属に対する酸化比率の差が、X線光電子分光分析において、10atomic%以下であり、かつ、ケミカルシフトしたメタルAlに対するAl−Oの強度比の差が10%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の非接触IC内蔵用紙。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の非接触IC内蔵用紙を用いたことを特徴とするIC付き冊子またはICカード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−210015(P2011−210015A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77132(P2010−77132)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】