説明

非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル、その製造方法、このゾルをバインダーとする光触媒体コーティング液、およびその光触媒体コーティング液を塗布した光触媒機能製品の製造方法

【課題】バインダー成分として光触媒体コーティング液に添加することにより、少ない添加量で、十分な密着力を示す塗膜を形成し得るバインダー成分を提供する。
【解決手段】本発明の第一のゾルは、粒子径D50が1〜20nmであり非晶質であるZr−O系粒子が分散媒中に分散されてなり、無機酸とカルボン酸またはその塩を含み、ゼータ電位が20mV以上であることを特徴とする。また本発明の第二のゾルは、粒子径D50が1〜20nmであり非晶質であるZr−O系粒子が分散媒中に分散されてなり、カルボン酸またはその塩を含み、ゼータ電位が−20mV以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル、その製造方法、このゾルをバインダーとする光触媒体コーティング液、およびその光触媒体コーティング液を塗布した光触媒機能製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒体は、光を照射されることで活性を示す触媒であって、例えば特許文献1〔WO98/15600パンフレット〕、特許文献2〔特開2003−105262号公報〕、特許文献3〔特開平9−328336号公報〕、特許文献4〔特開2004−59686号公報〕、特許文献5〔WO01/023483パンフレット〕、特許文献6〔特開平11−209691号公報〕、特許文献7〔WO99/028393パンフレット〕などに開示されるように、バインダー成分と共に基材に塗布して、塗膜として使用されている。
【0003】
しかし、従来の光触媒体コーティング液から形成される塗膜は、基材への密着強度が必ずしも十分ではなく、このため、コーティング液中の光触媒体に対するバインダー成分の使用量を多くする必要があった。バインダー成分の使用量が多いと、光触媒体が十分にその活性を発現しにくくなる。
【0004】
光触媒体に対するバインダー成分として、金属無機塩が使用されることがあるが、光触媒体コーティング液の処方によっては、この金属無機塩には不純物が含まれやすく、しかも、この不純物が光触媒能や光触媒体塗膜の特性を阻害することもある。また、金属無機酸塩の水溶液は含有イオン濃度が高いために光触媒体との均一な混合が困難になる場合がある。
【0005】
一方、金属酸化物や金属水酸化物のゾルをバインダー成分として使用する場合、金属酸化物や金属水酸化物は金属無機塩類よりも不純物濃度が低い点で有利である。
【0006】
【特許文献1】WO98/15600号公報
【特許文献2】特開2003−105262号公報
【特許文献3】特開平9−328336号公報
【特許文献4】特開2004−59686号公報
【特許文献5】WO01/023483パンフレット
【特許文献6】特開平11−209691号公報
【特許文献7】WO99/028393パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明者は、バインダー成分として光触媒体コーティング液に添加することにより、少ない添加量で、十分な密着力を示す塗膜を形成し得るバインダー成分を開発するべく鋭意検討した結果、光触媒体コーティング液にとって悪影響を及ぼす可能性のある不純物が混入しにくい非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルが優れたバインダー特性を有することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、下記の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル、その製造方法、このゾルをバインダーとする光触媒体コーティング液、およびその光触媒体コーティング液を塗布した光触媒機能製品の製造方法に関する。
【0009】
(1)粒子径D50が1〜20nmであり非晶質であるZr−O系粒子が分散媒中に分散されてなり、無機酸とカルボン酸またはその塩を含み、ゼータ電位が20mV以上であることを特徴とする非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(2)1モルのZrに対して0.05〜1モルのカルボン酸またはその塩を含むことを特徴とする上記(1)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(3)カルボン酸がギ酸または酢酸から選ばれる1種または2種であることを特徴とする上記(1)または上記(2)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(4)無機酸/カルボン酸またはその塩のモル比が0.1〜5であることを特徴とする上記(1)〜上記(3)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(5)無機酸が硝酸であることを特徴とする上記(1)〜上記(4)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【0010】
(6)粒子径D50が1〜20nmであり非晶質であるZr−O系粒子が分散媒中に分散されてなり、カルボン酸またはその塩を含み、ゼータ電位が−20mV以下であることを特徴とする非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(7)1モルのZrに対して0.05〜1モルのカルボン酸またはその塩を含むことを特徴とする上記(6)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(8)カルボン酸がクエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする上記(6)または上記(7)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(9)カルボン酸が、(1)クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸から選ばれる1種または2種以上と(2)ギ酸、酢酸および蓚酸から選ばれる1種または2種以上の組み合わせであることを特徴とする上記(7)〜上記(8)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(10)((1)クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸から選ばれる1種または2種以上)/((2)ギ酸、酢酸および蓚酸から選ばれる1種または2種以上)のモル比が0.1〜3であることを特徴とする上記(9)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
(11)分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの無機酸または無機酸の中和により生成した無機酸塩を、カルボン酸またはその塩と置換することを特徴とする、非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法。
【0011】
(12)分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルが、水酸化ジルコニウム、無機酸および溶媒からなり、ZrO2換算のジルコニウム濃度をX重量%、1モルのZrに対する無機酸のグラム当量数Yとした場合、XおよびYが以下の式(A)
3≦X≦20 (A)
および式(B)
(2.0−0.07X)≦Y≦(3.0−0.08X) (B)
を満足する反応分散液を調製し、ついで該反応液を80℃以上で加熱して得られたゾルであることを特徴とする上記(11)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法。
(13)1モルのZrに対して0.05〜1モルのカルボン酸またはその塩を含むように置換することを特徴とする上記(11)または上記(12)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法。
(14)無機酸が硝酸であることを特徴とする上記(11)〜上記(13)に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法。
(15)光触媒体、粒子径D50が1〜20nmであり非晶質であるZr−O系粒子カルボン酸とその塩、または、無機酸とカルボン酸またはその塩を含み、光触媒体100重量部に対する前記Zr−O系粒子のZrO2換算の含有量が15〜120重量部であることを特徴とする光触媒体コーティング液。
【0012】
(16)上記(15)に記載の光触媒体コーティング液を基材上に塗布し、溶媒を揮発させることを特徴とする光触媒機能製品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルによれば、バインダー成分として光触媒体コーティング液に添加することにより、光触媒体の機能を阻害することなく、少ない添加量で、十分な密着力を示す塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル、その製造方法、そのゾルをバインダーとする光触媒体コーティング液、およびその光触媒体コーティング液を塗布した光触媒機能製品の製造方法について詳細を説明する。
【0015】
(1)ゼータ電位が20mV以上のゾル
本発明の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルは、粒子径D50が1〜20nmである非晶質のZr−O系粒子を分散質とし、無機酸とカルボン酸またはその塩を含み、ゼータ電位が20mV以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明において、粒子径D50とはレーザードップラー法によってゾルの粒子径測定を行ったときの体積換算累積頻度が50%となる粒子径を意味する。
【0017】
本発明のゾルは、非晶質のZr−O系粒子を分散質とする。
分散質であるZr−O系粒子の粒子径D50は、1〜20nm、好ましくは1〜15nmである。粒子径D50が1nm未満では、ジルコニウム塩類の水溶液としての性質が強くなりそれとの区別が明確にならず好ましくない。又、20nmを超えると本発明のゾルの特徴である、光触媒体のバインダーとしての反応活性や溶液としての性質が低下するので好ましくない。
なお、該Zr−O系粒子は非晶質であるため、200℃以下の温度で恒量となるまで乾燥し、X線回折測定を行ったとき2θ=10〜50°で特定の結晶系に帰属されるパターンを示さない。なお、Zr−O系粒子には、少なくともZrとOが含まれればよく、例えばジルコニウムの水酸化物、酸化物、水和物のいずれでもよく、これらの混合物でも良い。
【0018】
一方、本発明のゾルにおいて、ジルコニウム濃度はZrO2換算で3〜20重量%、好ましくは、5〜18重量%の範囲内であるとよい。3重量%未満の場合非効率であり、20重量%を超える場合は増粘、ゲル化のおそれがあり好ましくない。
【0019】
本発明のゾルは、カルボン酸またはその塩を必須成分として含有しており、通常pH7以下、好ましくはpH5以下である。pHが7を超えると分散質の凝集、沈殿やゲル化等を起こしゾルとして安定でなくなるため好ましくない。また、ゾルの安定性はゼータ電位とも相関があり、ゼータ電位が20mV以上、好ましくは30mV以上、特に好ましくは40mV以上、であればゾルの安定性が確保される。本発明のゾルの分散媒は特に限定されるものでなく、例えば水、メタノール、エタノール、アセトン、エーテル等であってもよい。好ましくは、通常、水が用いられる。
【0020】
カルボン酸またはその塩の含有量は、1モルのZrに対して0.05〜1モル、好ましくは0.1〜0.5モルである。
【0021】
0.05モル未満では、ゾルに含有される無機酸をカルボン酸またはその塩で置換し、光触媒体コーティング液の特性を向上させるという本発明のゾルの特徴が十分に発揮されず、1モルを超える場合は、ゾルの主用途である光触媒体コーティング液における特性発現の妨げになる可能性があり好ましくない。
【0022】
本発明のゾルは硝酸、塩酸等の無機酸を含有するが、製品への不純物の混入の少ない硝酸が好ましい。
【0023】
さらに、本発明のゾル中の無機酸/カルボン酸またはその塩のモル比は、0.1〜5、好ましくは0.3〜3である。
【0024】
このモル比が0.1未満の場合、光触媒コーティング液として用いた際、得られる塗膜が充分な密着性を示さない。またこのモル比が5を超える場合、ゾル中の非晶質Zr−O系粒子の分散安定性が損なわれ、凝集粒子が生成して、光触媒コーティング液として用いた際、得られる塗膜の意匠性に不具合が生じることがある。
【0025】
ゾルが無機酸とカルボン酸またはその塩の両方を上記モル比で含有するとき、ゼータ電位の絶対値が極大をとるため、正のゼータ電位を持つ光触媒体との均一な混合がより容易となる。
【0026】
上記のゼータ電位の絶対値の極大については次のように解釈できる。ゾルに含有される非晶質のZr−O系粒子に表面電位を与えるのはプロトンであり、硝酸や塩酸などの無機酸はプロトンの供給能に優れる。表面電位から電気二重層に分布するカウンターイオンの電位を幾分差し引いたものがゼータ電位として観測されるから、表面電位を低下させにくいカウンターイオンの導入や、電気二重層内のカウンターイオンの濃度を低下させることによって高いゼータ電位が得られると推測される。そして、おそらく、カルボン酸またはその塩には、表面電位を低下させにくいカウンターイオンを供給したり、電離していないカルボン酸またはその塩がZr−O系粒子表面に吸着するなどしてカウンターイオンの濃度を低下させる効果があり、プロトンを放出して表面電位を与える無機酸と表面電位を低下させにくいカルボン酸またはその塩のゾル中の濃度バランスがゼータ電位の重要な要因であると考えられる。
【0027】
Zr−O系粒子が分散した状態を安定して保つためには1モルのZrに対する無機酸とカルボン酸またはその塩の合計が0.05モル、好ましくは0.1モル以上は必要であるが、それ以上の無機酸とカルボン酸またはその塩の合計の量はゾルに必要な特性、用途に応じて自由に選択できる。なお、1モルのZrに対する無機酸とカルボン酸またはその塩の合計が1モルを超えることは、添加量に見合うZr−O系粒子の分散性の向上などが見られない為、経済的な点から好ましくない。
【0028】
本発明で用いるカルボン酸またはその塩としては、ギ酸、ギ酸塩、酢酸、酢酸塩、プロピオン酸及びプロピオン酸塩等があげられ、これらの1種または2種以上を用いることが出来る(すなわち、本発明において、「カルボン酸またはその塩」とは、「カルボン酸および/またはその塩」、すなわち、(1)カルボン酸単独、(2)カルボン酸塩単独および(3)カルボン酸とカルボン酸塩との混合物、の3通りを含むことを意味する)。
【0029】
これらのなかでもギ酸、ギ酸塩、酢酸および酢酸塩を用いるのが好ましい。ギ酸塩としては、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、およびギ酸カリウムが、また酢酸塩としては、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、および酢酸カリウムがあげられる。
【0030】
(2)ゼータ電位が−20mV以下のゾル
本発明の第二のゾルは、粒子径D50が1〜20nmである非晶質のZr−O系粒子を分散質とし、カルボン酸またはその塩を含み、ゼータ電位が−20mV以下であることを特徴とする。
【0031】
非晶質のZr−O系粒子および分散媒としては、上記(1)ゼータ電位が20mV以上のゾルの場合と同じものを用いることが出来る。
【0032】
なお、本発明の第二のゾルにおいて、ジルコニウム濃度はZrO2換算で3〜20重量%、好ましくは、5〜18重量%の範囲内であるとよい。3重量%未満の場合非効率であり、20重量%を超える場合は増粘、ゲル化のおそれがあり好ましくない。
【0033】
本発明の第二のゾルは、カルボン酸またはその塩を必須成分として含有しており、pH3〜12、好ましくは6〜10である。pH3未満または、pH12を超える場合、含有する酸または塩基などの不純物が過剰となり、光触媒体コーティング液にとって好ましくない場合がある。
【0034】
カルボン酸またはその塩/Zrのモル比は、0.05〜1、好ましくは0.1〜0.5である。カルボン酸またはその塩はZr−O系粒子表面に吸着し、負の表面電位を与え、ゾルを安定化するものと考えられる。
【0035】
0.05未満では、Zr−O系粒子に十分な表面電位を与えられずゾルの安定が確保できない。1を超える場合は、ゾルの主用途である光触媒体コーティング液における特性発現の妨げになる可能性があり好ましくない。
【0036】
上記の負の表面電位の指標としてゼータ電位を基準とすることができ、ゾルの安定性を確保するには該ゾルのゼータ電位が−20mV以下、好ましくは−30mV以下、特に好ましくは−40mV以下である。これは上記のカルボン酸またはその塩/Zrのモル比に依存したものとなる。該ゾルのゼータ電位が−20mV以下の場合、ゼータ電位が負の光触媒体との均一な混合が容易となる特徴がある。
【0037】
カルボン酸としてはクエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸が挙げられ、これらはゾルの表面電位への寄与が特に大きいため必須成分である。
【0038】
本発明のゾルは硝酸、塩酸等の無機酸を含有しても良いが、この場合、製品への不純物の混入の少ない硝酸が好ましい。これらの無機酸は、本発明のゾルの製造段階で、1モルのZrに対して0.1〜3モルの塩基が加えられ、その後、精製されるため、通常の場合、これらの無機酸は確認されない場合が多い。
【0039】
カルボン酸は(1)クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸から選ばれる1種または2種以上またはそれらと(2)ギ酸、酢酸および蓚酸から選ばれる1種または2種以上との組み合わせとしてもよい。
【0040】
クエン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸またはそれらの塩は該ゾルの用途である光触媒体コーティング液の特性発現の妨げになる可能性が高いため、該ゾルにはクエン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸またはそれらの塩が必要最低限含有されていることが好ましい。一方、ギ酸、酢酸、蓚酸またはそれらの塩はゼータ電位への寄与は小さいが、光触媒体塗膜の特性を向上させる効果が期待でき、ゾルに含有させた場合、該ゾルの応用製品の特性発現の妨げになる傾向が強いクエン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸またはそれらの塩の含有量を減らしても、上記ゼータ電位を−20mV以下に維持することを可能とする。
【0041】
上記カルボン酸の種類や組み合わせは、該ゾルの用途である光触媒体コーティング液の必要特性に応じて選択すればよく、特に限定されるものではない。また、(1)クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸またはそれらの塩から選ばれる1種または2種以上と(2)ギ酸、酢酸、蓚酸またはそれらの塩から選ばれる1種または2種以上のモル比((1)/(2))は0.1〜3が好ましい。0.1未満では、ゾルが不安定となるため、また、3を超えると光触媒コーティング液の特性に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。
【0042】
以下に、非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法、このゾルをバインダーとする光触媒体コーティング液、およびその光触媒体コーティング液を塗布した光触媒機能製品の製造方法、について、詳細に説明する。
【0043】
まず、非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法について説明する。
本発明のゾルの原料として用いる、分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法は特に限定されないが、以下の方法で製造することができる。
【0044】
分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの原料として用いる水酸化ジルコニウムは特に限定されない。一例を示せば、ジルコニウム塩類の水溶液を水酸化アルカリやアンモニア水で中和することで得られる沈殿を水洗し不純物を取り除いて得た水酸化ジルコニウムを用いることができる。
【0045】
ジルコニウム塩類としては、特に限定されず、塩基性硫酸塩、オキシ塩化塩、硝酸塩、酢酸塩、その他有機酸塩等が例示され、オキシ塩化塩が安価で純度が高いという点で好ましい。
【0046】
水酸化ジルコニウム、無機酸及び溶媒、好ましくは、水からなる反応分散液の調製に際して、まず、反応容器に必要量の水を入れそれを適度に攪拌しながら、ついで所定量の水酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、無機酸及び水の投入順序は特に限定されないが、作業性を考慮すると上記が好ましい。
【0047】
該分散液を調製する際の該分散液のジルコニウム濃度はZrO2換算で3〜20重量%、好ましくは、5〜18重量%の範囲内であるとよい。3重量%未満の場合非効率であり、20重量%を超える場合は増粘、ゲル化のおそれがあり好ましくない。
【0048】
このジルコニウム濃度が高いほど該分散液に添加される無機酸の量が少なくなるため経済的に有利であり、生成するゾルが含む無機酸が少なくなることから環境負荷、不純物の低減が期待できる。
【0049】
ここで、ゾルの生成と無機酸の関係について簡単に述べる。水酸化ジルコニウムが解膠され非晶質のZr−O系のゾル粒子が生成すると同時に酸由来のプロトンがゾル粒子の界面に吸着することでゾル粒子は帯電しその界面には電気二重層が形成される。この電気二重層の反発力によってゾル粒子同士は凝集せずに分散状態を保つことができる。酸濃度が低すぎる場合、十分な電気二重層を得られないためゾルは生成しない。
【0050】
無機酸には上記のゾル粒子に電気二重層を与える役割以外に水酸化ジルコニウムからの結晶性ジルコニアの生成を促す作用がある。この結晶性ジルコニアの生成機構は定かでないが、水酸化ジルコニウムを水に分散したものを加熱保持するよりも、いくらかの無機酸の存在下に加熱保持するとき結晶性ジルコニアの生成速度は速くなる。そして、結晶性ジルコニアが生成する場合には同時にジルコニアゾルの粒子径D50は大きくなる傾向にある。おそらく無機酸が水酸化ジルコニウムに作用する事で結晶性ジルコニアの前駆体が生成されると考えられる。
【0051】
結晶性ジルコニアの生成速度は反応分散液中の無機酸濃度に依存し、その生成速度が最大となる無機酸濃度は、上記の電気二重層形成のためには十分な濃度であるが本発明の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルを得るために適当な無機酸濃度よりは低濃度である。厳密には適当な無機酸濃度は反応分散液のジルコニウム濃度によって変化し、ジルコニウム濃度が高いほどより高い無機酸濃度を必要とするが、1モルのZrに対し必要な無機酸のグラム当量数で換算した場合に反応分散液のジルコニウム濃度が高いほどそのグラム当量数は低下する。
【0052】
本発明の反応活性があり、溶液に近い性質を持ち、粒子径D50が小さく、かつ、非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルを製造するには、反応分散液を調製する際に、1モルのZrに対する無機酸のグラム当量数Yが、上記ジルコニウム濃度をX重量%としたとき、下記の式(1)かつ式(2)を満足する範囲内にすることが望ましい。
3≦X≦20 (1)
(2.0−0.07X)≦Y≦(3.0−0.08X) (2)
【0053】
この無機酸のグラム当量数Yがとる範囲は上記で述べたゾル粒子に電気二重層を与えるには十分で、かつ、結晶性ジルコニアが生成しない無機酸濃度となるような範囲である。このグラム当量数Yが上記範囲の下限未満の場合、生成するゾルの粒子径が大きくなり過ぎたり、結晶性ジルコニアが生成し目的とする本発明の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルが得られない。
【0054】
図1にX、Yの値を変化させ、合成したゾルの結晶性についてX線回折測定によって調べた結果を示す。
【0055】
ゾルの結晶性は、ゾルを200℃以下の温度で恒量となるまで乾燥しX線回折測定によって得られる回折パターンにおいて2θ=10〜50°で特定の結晶系に帰属されるパターンを示さないものを非晶質とし、それ以外を結晶質と分類した。
【0056】
上記の式(1)を満足するX、Yの範囲において非晶質のゾルが得られ、それ以外では結晶性のゾルが得られた。そのうち非晶質のゾルは1〜20nmの粒子径D50であった。
すなわち、上記の式(1)を満足するようにX、Yを制御することで本発明のゾルが得られることが判る。
なお、上限を超える場合は、ゾルの生成には過剰量となり不経済であるばかりでなく、環境負荷や生成するゾルの不純物を増加させるため好ましくない。
【0057】
上記無機酸は特に限定されるものではないが、不純物が少なく、ゾルの生成速度が速いという点で硝酸が好ましい。
【0058】
次に、調製された反応分散液を適度に攪拌しながら80℃以上、好ましくは90℃以上に加熱し、保持する。保持する温度はゾルの生成速度に影響し、80℃未満では十分な生成速度を得られず非効率である。100℃以上で保持する場合は溶媒の蒸発を避けるためオートクレーブ等の密閉容器を使用することが望ましい。保持時間は特に限定されず、反応分散液が完全に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルとなったことを反応分散液の粒子径分布測定及び恒量まで100℃で乾燥後のX線回折測定などで確認すればそこで加熱を終了してよいが、通常12〜96時間である。
【0059】
上記の様にして作製された、分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルは、以下の「ゼータ電位が20mV以上のゾルの製造方法」および「ゼータ電位が−20mV以下のゾルの製造方法」において、その原料として用いられる。
【0060】
(1)ゼータ電位が20mV以上のゾルの製造方法
本発明の第一の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法は、分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの無機酸を、カルボン酸またはその塩と置換することを特徴とする。
【0061】
無機酸をカルボン酸またはその塩に置換する方法については、特に限定されるものでないが、その一例として以下に記載する。
【0062】
上記で得られたゾル中の無機酸を限外ろ過、透析、逆浸透等の方法で除去し、カルボン酸またはその塩を添加する。カルボン酸またはその塩の添加は、無機酸を所定の濃度まで除去した後に行ってもよいし、無機酸を除去しながら行ってもよい。この処理によって、無機酸の濃度を低減させ、カルボン酸またはその塩の濃度を高め、しかもゾルのジルコニウム濃度を濃縮することが可能であるため、ゾルの用途によって処理の回数、時間を任意に選択できる。用いるカルボン酸またはその塩としては、ギ酸、ギ酸塩、酢酸、酢酸塩、プロピオン酸及びプロピオン酸塩があげられ、これらのなかでもギ酸、ギ酸塩、酢酸および酢酸塩を用いるのが好ましい。ギ酸塩としては、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、およびギ酸カリウムが、また酢酸塩としては、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、および酢酸カリウムがあげられる。
【0063】
なお、カルボン酸またはその塩/Zrのモル比が0.05〜1、好ましくは0.1〜0.5となるように置換(添加)することが好ましい。0.05未満では、Zr−O系粒子に十分な表面電位を与えられずゾルの安定が確保できない。1を超える場合は、ゾルの主用途である光触媒体コーティング液における特性発現の妨げになる可能性があり好ましくない。
【0064】
上記塩類を使用する場合は、ギ酸や酢酸を用いた場合よりもゾルのpHを上昇させることになるが、ゾルの分散を安定に保ったままpH7超にすることはできない。即ち、上記の方法ではゼータ電位が正のゾルのみが製造できる。
【0065】
なお、本発明のゾルは、pH7以下、好ましくはpH5以下である。pHが7を超えると分散質の凝集、沈殿やゲル化等を起こしゾルとして安定でなくなるため好ましくない。
【0066】
なお、上記の様にカルボン酸またはその塩を添加しない場合は、限外ろ過、透析、逆浸透等を繰り返しても、カルボン酸またはその塩を添加した場合と同等以下に無機酸をゾル中から排除することは非常に困難である。つまり、カルボン酸またはその塩の添加によってゾルからの無機酸の除去効率を高めているのが本発明の特徴である。
【0067】
得られるゾル中の無機酸/カルボン酸またはその塩のモル比は0.1〜5、好ましくは0.3〜3の範囲である。このモル比が0.1未満の場合、光触媒コーティング液として用いた際、得られる塗膜が充分な密着性を示さない。またこのモル比が5を超える場合、ゾル中の非晶質Zr−O系粒子の分散安定性が損なわれ、凝集粒子が生成して、光触媒コーティング液として用いた際、得られる塗膜の意匠性に不具合が生じることがある。
【0068】
なお、本発明のゾルは硝酸、塩酸等の無機酸を含有するが、製品への不純物の混入の少ない硝酸が好ましい。一方、本発明のゾルの粒子径およびZrO2換算のジルコニウム濃度は、原料として用いたゾルと同等のものが得られる。
【0069】
以上に記載した製造方法により、本発明のゾルのゼータ電位は20mV以上、好ましくは30mV以上、特に好ましくは40mV以上となる。
【0070】
(2)ゼータ電位が−20mV以下のゾルの製造方法
本発明の第二の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法は、分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの無機酸を塩基で中和した後、中和により生成した無機酸塩をカルボン酸またはその塩と置換することを特徴とする。
【0071】
中和により生成した無機酸塩をカルボン酸またはその塩に置換する方法については、特に限定されるものでないが、その一例として以下に記載する。
【0072】
まず、上記で得られた無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルへカルボン酸またはその塩を添加する。ここで添加するカルボン酸またはその塩としては、Zr−O系粒子の表面電位を負にする効果の高い、クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸またはそれらの塩が挙げられる。カルボン酸またはその塩/Zrのモル比が0.05〜1、好ましくは0.1〜0.5となるように置換(添加)することが好ましい。0.05未満では、Zr−O系粒子に十分な表面電位を与えられずゾルの安定が確保できない。1を超える場合は、ゾルの主用途である光触媒体コーティング液における特性発現の妨げになる可能性があり好ましくない。
【0073】
なお、本発明のゾルは硝酸、塩酸等の無機酸を含有する場合もあるが、製品への不純物の混入の少ない硝酸が好ましい。
【0074】
次に、上記ゾルへ塩基を添加する。塩基としては、水酸化アルカリ、アンモニア、アミン類が例示される。塩基はゾルの用途に応じて、適当なものを選択すればよいが、光触媒体コーティング液用途においては、アルカリ金属が光触媒活性を低下させる可能性があるため、アンモニアやアミン類の使用が好ましい。塩基は、Zr−O系粒子表面からプロトンを遊離させる、また、カルボン酸を電離させて、より多くのアニオンをZr−O粒子表面に吸着させることによってZr−O系粒子の表面電位を低下させる目的で添加される。塩基を添加する前にはZr−O系粒子の表面電位は必ずしも負ではなく、Zr−O系粒子の表面電位が負になるような量の塩基を添加する必要がある。塩基の添加量については、使用されるカルボン酸またはその塩および無機酸の価数および量に依存するため一義的に決めることはできないが、概ね、1モルのZrに対して、モル比0.1〜3の塩基の添加が好ましい。
【0075】
0.1未満では、Zr−O系粒子に十分な表面電位を与えることができず、結果としてゾルが不安定化するため、また、3を超えると逆に表面電位を与えるには過剰で、不純物が増加するため好ましくない。
【0076】
塩基を添加した後、ゾルのZr−O系粒子のゼータ電位は負となり、無機酸から供給されたアニオンは溶媒バルクに遊離した状態となる。該ゾルを限外ろ過や透析等によって、精製することで該アニオンを効率的に除去できる。
【0077】
本発明のゾルのpHは、3〜12、好ましくは6〜10である。pH3未満または、pH12を超える場合、含有する酸または塩基などの不純物が過剰となり、光触媒体コーティング液にとって好ましくない場合がある。
【0078】
クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸またはそれらの塩および塩基を添加した後にギ酸、酢酸および蓚酸またはそれらの塩を添加(2回目の添加)しさらに精製することで、前段で添加した、クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸またはそれらの塩を効率的に除去できる。この2回目のカルボン酸またはその塩の添加は、添加時にゾルが塩基性であるため、該ゾルのpH変動を抑制するためアンモニウム塩やアルカリ塩などの塩の形態で行うことが好ましい。
【0079】
2回目のカルボン酸またはその塩の添加後の精製によって、ゾルの用途の都合に応じて((1)クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸から選ばれる1種または2種以上)/((2)ギ酸、酢酸および蓚酸から選ばれる1種または2種以上)のカルボン酸(塩)の種類やモル比を任意に選択、調整できるが、そのモル比((1)/(2))は0.1〜3であることが望ましい。0.1未満では、ゾルが不安定となるため、また、3を超えると光触媒コーティング液の特性に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。
【0080】
また、上記のカルボン酸(塩)の種類やモル比の調整によってゾルの多岐にわたる光触媒体コーティング液処方への順応性を高めることができる。
【0081】
なお、本発明のゾルの粒子径およびZrO2換算のジルコニウム濃度は、原料として用いたゾルと同等のものが得られる。
【0082】
以上に記載した製造方法により、本発明のゾルのゼータ電位は−20mV以下、好ましくは−30mV以下、特に好ましくは−40mV以下となる。
【0083】
2回目のカルボン酸添加や精製の具体的な例としては、クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸またはそれらの塩と塩基を添加したゾル100重量部に対して、1〜2重量%のカルボン酸塩水溶液100重量部を添加し、分散質のZr−O系粒子が透過しない膜によって限外ろ過し、100重量部のゾルの分散媒を除去し、次に、上記のゾルへの1〜2重量%のカルボン酸塩水溶液100重量部の添加、およびそれ以降の操作を4〜8回繰り返す方法等が挙げられる。
【0084】
以下、本発明の光触媒体コーティング液について詳細に説明する。
本発明の光触媒体コーティング液は、光触媒体、粒子径D50が1〜20nmである非晶質のZr−O系粒子とカルボン酸とその塩、または、無機酸とカルボン酸またはその塩を含み、光触媒体100重量部に対する前記Zr−O系粒子のZrO2換算の含有量が15〜120重量部であることを特徴とする。
本発明の光触媒体コーティング液に含まれる光触媒体とは、例えば紫外線や可視光線の照射により光触媒活性を発現する物質であり、具体的には、X線回折で求められる結晶構造を示し、金属元素と酸素、窒素、イオウ及び弗素との化合物の粉末が挙げられる。例えばTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceのような金属元素の1種または2種以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。中でも、Ti、WまたはNbの酸化物が好ましく、とりわけアナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、ルチル型酸化チタン〔TiO2〕などが好ましい。
【0085】
本発明で用いる酸化チタンは、例えば非特許文献1〔「酸化チタン」(清野学著、技報堂出版)に記載されている硫酸法や塩素法により製造することができる。
【0086】
また、本発明で用いる酸化チタンとしては、特開2001−72419号公報、特開2001−190953号公報、特開2001−316116号公報、特開2001−322816号公報、特開2002−29749号公報、特開2002−97019号公報、WO01/10552パンフレット、特開2001−212457公報、特開2002−239395号公報)、WO03/080244パンフレット、WO02/053501パンフレット、特開2007−69093号公報、Chemistry Letters, Vol.32, No.2, P.196-197(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.4, P.364-365(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.8, P.772-773(2003)、Chem. Mater., 17, P.1548-1552(2005)等に記載の酸化チタンを用いてもよい。更に、特開2001−278625号公報、特開2001−278626号公報、特開2001−278627号公報、特開2001−302241号公報、特開2001−335321号公報、特開2001−354422号公報、特開2002−29750号公報、特開2002−47012号公報、特開2002−60221号公報、特開2002−193618号公報、特開2002−249319号公報などに記載の方法により得られる酸化チタンなども用いることができる。
【0087】
これらの酸化チタンは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0088】
また、酸化チタンの分散液を用いると、酸化チタン粉末の分散処理工程を省け、バインダーと溶媒を添加・混合するだけで光触媒体コーティング液を得ることができる為、好適に用いられる。このような酸化チタン分散液としては、PC−201(酸化チタンゾル、チタン工業製)や、TS−S4110、4420、及び4440(酸化チタンゾル、住友化学製)が市販されている。
【0089】
光触媒体として使用しうる酸化タングステン〔WO3〕は、例えばメタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、およびタングステン酸(H2WO4)のようなタングステン化合物を焼成する方法で製造することができる。焼成は、タングステン化合物を酸化タングステンにすることができる条件で行えばよく、例えば、350℃〜700℃の空気中で行うことができる。
【0090】
光触媒体として用い得る酸化ニオブ〔Nb25〕は、例えばシュウ酸水素ニオブのようなニオブ化合物を焼成する方法で製造することができる。またニオブペンタエトキシド、ニオブペンタイソプロポキシドのようなニオブアルコキシドをアルコールに溶解し、この溶液に無機酸とアルコールとからなる酸性溶液を混合し、濃縮して粘稠溶液を得、これを焼成する方法で得ることもできる。
【0091】
これら酸化チタン、酸化タングステンおよび酸化ニオブ以外の酸化物を光触媒体として用いる場合、この酸化物は、例えばセラミックスを構成する金属の塩化物、硫酸塩、オキシ硫酸塩もしくはオキシ塩化物とアンモニアを反応させ、この生成物を空気中で焼成する方法、または光触媒体を構成する金属のアンモニウム塩を空気中で焼成する方法などで調製することができる。
【0092】
光触媒体は、光触媒コーティング液を基準にして通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上であり、通常30重量%以下、好ましくは15重量部以下である。光触媒体の濃度が0.1重量%未満の場合、得られる塗膜中の光触媒体の量が少なくなり、十分な光触媒活性が得られない。また30重量%を越える場合、得られる塗膜の透明性が低下する等の不具合が生じる。
【0093】
コーティング液において光触媒体 光触媒体は通常、分散粒子径200nm以下の2次粒子を形成して安定に分散している。この2次粒子径が小さいほど、分散液の安定性が向上して光触媒粒子の沈降を抑制することができるので好ましく、例えば150nm以下、さらには100nm以下が好ましい。
【0094】
本発明の光触媒体コーティング液における、光触媒体100重量部に対する非晶質Zr−O粒子の重量比は、酸化物(ZrO2)換算で15重量部〜120重量部、好ましくは20重量部〜70重量部である。15重量部未満では、密着性のよい強固な塗膜が得られなくなる場合があり、また120重量部を超えて含有させると、光触媒体がバインダー成分中に埋没してしまい、十分な光触媒活性の塗膜が得にくくなる。
【0095】
本発明の光触媒体コーティング液は溶媒を含み、溶媒としてはカルボン酸(塩)を溶解し、光触媒体及び非晶質Zr−O系粒子を安定に分散させるものであれば特に制限は無いが、水、メタノール、エタノール、イソポロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、トルエン、キシレン等が用いられ、これらの中でも特に水、メタノール、エタノール、及びイソプロパノ-ルを用いるのが好ましい。
【0096】
本発明のコーティング液は、コーティング液から揮発成分を揮発させて得られる固形分の含有量が通常0.5重量%〜30重量%、好ましくは1重量%〜20重量%、より好ましくは2重量%〜10重量%程度となるように水や溶媒で希釈されて用いられる。固形分含有量が0.5重量%未満のでは、十分な厚さの塗膜を形成しにくくなり、また固形分含有量が30重量%を超えると、得られる塗膜の透明性が損なわれ易くなる。
【0097】
本発明の光触媒体コーティング剤は、例えば光触媒体を単独で溶媒に分散させた光触媒体分散液と、カルボン酸(塩)を含む非晶質Zr−O系粒子のゾルを混合する方法で製造することができる。
【0098】
本発明のコーティング液は、必要に応じて、金属や金属(水)酸化物として光触媒体表面に担持されることにより、電子吸引性を発現する金属化合物を含むことができる。この金属化合物が酸化チタン表面に担持されることにより、光励起により光触媒体中に生じた電子と正孔の電荷分離が促進されて、高い光触媒活性を発現することができる。このような金属化合物として、Cu、Pt、Ag、Fe、Nb、W、Pd、Ru、Rh、Co等のコロイド粒子、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、蓚酸塩等があげられる。
【0099】
本発明のコーティング液には、光触媒以外の無機化合物を添加することができる。無機化合物としては、例えば、シリカゾル、コロイダルシリカなどのようなケイ素(水)酸化物、非晶質アルミナ、アルミナゾルのようなアルミニウム(水)酸化物、ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムのようなアルカリ土類金属(水)酸化物、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブまたは活性炭等があげられ、これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0100】
以下、本発明の光触媒機能製品の製造方法について説明する。
本発明の光触媒機能製品の製造方法は、上記のようにして作製された光触媒体コーティング液を基材上に塗布し、溶媒を揮発させることを特徴とする。
【0101】
具体的には、本発明のコーティング液の被膜形成方法としては、床、壁、天井、タイル、硝子、プラスチック、金属、陶磁器およびコンクリートのような基材に、例えばスピンコート、ディップコート、ドクターブレード、スプレーまたはハケ塗りなどにより行い、その後、室温〜200℃の温度範囲で溶媒を乾燥蒸発させる。その後可視光線を多く含む蛍光灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、発光ダイオード、太陽光線等を照射すればよい。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0103】
1.粒子径D50(非晶質Zr−O系粒子のゾル)
粒度分布測定装置(商品名「UPA150」、日機装製)を用いて、ゾルの体積換算粒度分布において累積頻度が50%となる粒子径を測定した。
【0104】
2.ゼータ電位(非晶質Zr−O系粒子のゾル)
ゼータ電位測定装置(商品名「ELS−Z2」、大塚電子製)を用いてゾルのゼータ電位を測定した。
【0105】
3.分散粒子径(光触媒分散液)
サブミクロン粒度分布測定装置(商品名「N4Plus」、コールター製)を用いて、試料の粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトで、自動的に単分散モード解析して得られた結果を平均分散粒子径とした。
【0106】
4.結晶構造
X線回折装置(商品名「RINT2000/PC」、リガク製)を用いて、酸化チタン分散液を真空乾燥して得られた酸化チタン粉末のX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから主成分の結晶構造を求めた。
【0107】
5.硬度試験
塗膜の硬度は、鉛筆硬度試験法(JIS5600-5-4)により測定した。
【0108】
6.耐擦れ性試験
基板との耐擦れ性は、12枚に重ねたチーズクロス(サマーズ社製)を消しゴム摩擦試験機(三光製作所製)に固定し、試料が塗布されたガラス基板を10往復して擦った後、塗膜の状態を目視により下記3段階で評価した。
A:塗膜に傷がない
B:塗膜に傷がついている部分が見られる。
C:塗膜に剥離が見られる。
【0109】
7.透明性評価
塗膜の透明性は、ヘイズ・透過・反射率計(商品名「HR−100」、村上色彩技術研究所製)を用いて測定し、下記3段階で評価した。
A:ヘイズ率1.0%未満
B:ヘイズ率1.0%以上5.0%未満
C:ヘイズ率5.0%以上
【0110】
8.付着性評価
付着性試験はJIS K5600に準拠した碁盤目テープ法で行った.切り傷間隔 1mm、升目数25で行った。
【0111】
9.光触媒活性評価用塗布膜の作製
外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mLのガラス製シャーレ容器内に、固形分で1g/m2となるように光触媒コーティング液を滴下し、シャーレ全体に均一となるように展開した。これを110℃の乾燥機で1時間乾燥させ、光触媒塗布膜を作製した。その後ブラックライト(紫外線強度2mW/cm2,トプコン製紫外線強度計UVR−2及び受光部UD−36で測定)を16時間照射して、光触媒塗膜を初期化した。
【0112】
10.光触媒活性:アセトアルデヒド分解能
1Lガスバッグに測定サンプルを入れて密閉し、ガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガスを600ml封入した。さらに1%アセトアルデヒドを含む窒素ガス3 ml封入し暗所で1時間安定化させた後、試料表面の照度が1000ルクス(ミノルタ製照度計T−10で測定)になるようにシャーレを設置し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。試料表面付近の紫外光の強度は6.5μW/cm2(トプコン製紫外線強度計UVR−2及び受光部UD−36で測定)であった。光源には、市販の白色蛍光灯を用いた。蛍光灯照射後よりガスバッグ内のガスを1.5時間毎にサンプリングして、アセトアルデヒドの残存濃度をガスクロマトグラフ(商品名「GC−14A」、島津製作所製)にて測定した。
照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度減少を対数軸にプロットし、得られた直線の傾きから一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能とした。一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能は大きい。
【0113】
実施例1
〔光触媒分散液〕
光触媒体分散液には、酸化チタン光触媒ゾル(PC−201、チタン工業製)を用いた。分散粒径は55nmで、TiO2濃度は20重量%、結晶型はアナターゼであった。
【0114】
〔ギ酸を含む非晶質Zr−O系粒子を分散質とするゾル〕
水酸化ジルコニウム(ZrO2換算で30重量%含有)300gを純水1070gに分散し、適度に攪拌しながらそこへ67.5重量%硝酸126gを添加し反応分散液を調製した。このとき反応分散液のジルコニウム濃度はZrO2換算で6重量%であり、1モルのZrに対する硝酸(HNO3)のグラム当量数は1.85であった。
【0115】
次に、該分散液を95℃まで加熱し、24時間保持した後静置し自然冷却し非晶質のゾルを得た。該ゾルはジルコニウム濃度がZrO2換算で6重量%であり、pHは0.7であった。
【0116】
さらに、該ゾルの限外ろ過処理によって該ゾル中の硝酸を除去し、ジルコニウム濃度を濃縮することで、ジルコニウム濃度がZrO2換算で10重量%であり、pHが3.2、ケルダール法によって測定された1モルのZrに対する硝酸(HNO3)のグラム当量数が0.4である以外は上記と同様のゾルを得た。
【0117】
得られた非晶質のゾル1000gに対して、1000gの1重量%ギ酸水溶液を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を5回繰り返した後、純水1000gを添加し、限外ろ過処理によって溶媒を取り除く操作を行い、ジルコニウム濃度がZrO2換算で10重量%であり、pHが3.2のゾル、すなわちギ酸を含む非晶質Zr−O系粒のゾルを得た。
【0118】
酸塩基滴定で求めた、該ゾル中のZrに対する酸のモル比は、0.4であった。また、ケルダール法によって測定された硝酸/Zrのモル比は0.2であった。上記Zrに対する酸のモル比および硝酸/Zrのモル比から計算されたギ酸/Zrのモル比は0.2であり、硝酸/ギ酸のモル比は1であった。
【0119】
上記のゾルの粒度分布測定より、ゾルの粒子径D50は15nmであった。また、このゾルを100℃で恒量まで乾燥したもののX線回折パターンは特定の結晶系に帰属されなかった。また、このゾルのゼータ電位は42mVであった。
【0120】
〔光触媒体コーティング液〕
上記の酸化チタン分散液5.0gに純水17.6g、およびギ酸を含む非晶質Zr−O系粒子のゾル(ZrO2換算濃度10.4重量%)2.4gを添加して光触媒体コーティング液を調製した。酸化チタン分散液の酸化チタン量は1.0gで、非晶質Zr−O系粒子のZrO2換算の重量は0.25gであった。ここからバインダー中の上の成分は酸化物換算で、酸化チタン100重量部に対して25重量部で混合したことになる。
【0121】
〔バインダー含有光触媒体塗膜の形成〕
上記で得た光触媒体コーティング液を、縦80mm、横80mm、厚さ3mmの十分に脱脂した硝子板に塗布した後、スピンコーター(商品名「1H−D7」、ミカサ製)を用いて、450rpmで180秒間回転させて、過剰のコーティング液を取り除き、室温で乾燥させた後、この硝子板を 110℃で1時間乾燥して、硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0122】
実施例2
実施例1と同様の酸化チタン分散液5.0gに純水15.9 g、およびギ酸を含む非晶質Zr−O系粒子のゾル(ZrO2換算濃度10.4重量%)4.1gを添加して光触媒体コーティング液を調製した。酸化チタン分散液の酸化チタン量は1.0gで、非晶質Zr−O系粒子のZrO2換算の重量は0.43gであった。ここからバインダー中の上の成分は酸化物換算で、酸化チタン100重量部に対して43重量部で混合したことになる。
【0123】
この光触媒体コーティグを用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0124】
実施例3
実施例1と同様の酸化チタン分散液5.0gに純水10.4 g、およびギ酸を含む非晶質Zr−O系粒子のゾル(ZrO2換算濃度10.4重量%)9.6 gを添加して光触媒体コーティング液を調製した。酸化チタン分散液の酸化チタン量は1.0gで、非晶質Zr−O系粒子のZrO2換算の重量は1.0gであった。ここからバインダー中の上の成分は酸化物換算で、酸化チタン100重量部に対して100重量部で混合したことになる。
【0125】
この光触媒体コーティグを用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0126】
実施例4
実施例1で得られた非晶質のゾル1000gに対して、1.5重量%酢酸水溶液1000gを添加した以外は上記実施例1と同様にしてジルコニウム濃度がZrO2換算で9重量%、pH3.6のゾルを得た。
【0127】
酸塩基滴定で求めた、該ゾル中のZrに対する酸のモル比は、0.5であった。また、ケルダール法によって測定された硝酸/Zrのモル比は0.3であった。上記Zrに対する酸のモル比および硝酸/Zrのモル比から計算された酢酸/Zrのモル比は0.2であり、硝酸/酢酸のモル比は1.5であった。
【0128】
該ゾルの粒子径分布は、実施例1とほぼ同じで、粒子径D50は12nmであり、また、該ゾルを100℃で恒量まで乾燥したもののX線回折パターンは、実施例1とほぼ同様であり、特定の結晶系に帰属されなかった。また、該ゾルのゼータ電位は45mVであった。
【0129】
実施例5
実施例1で得られた非晶質のゾル1000gに対して、64gの無水クエン酸を添加し、次に、120gの25重量%アンモニア水を添加し、ジルコニウム濃度がZrO2換算で6重量%、pH9.5のゾルを得た。
【0130】
該ゾル中のクエン酸/Zrのモル比は0.4、硝酸/Zrのモル比は0.4、および硝酸/クエン酸のモル比は1であった。
【0131】
該ゾルの粒子系分布は、実施例1とほぼ同じで、粒子径D50は12nmであり、また、該ゾルを100℃で恒量まで乾燥したもののX線回折パターンは、実施例1とほぼ同様であり、特定の結晶系に帰属されなかった。また、該ゾルのゼータ電位は−45mVであった。
【0132】
実施例6
実施例5で得られたゾルに1000gの純水を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を5回繰り返した後、1000gの1.5重量%ギ酸アンモニウム水溶液を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を5回繰り返し、次に、1000gの純水を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を2回繰り返してジルコニウム濃度がZrO2換算で7重量%、pH7.7のゾルを得た。
【0133】
該ゾル中のギ酸/Zrモル比は0.2、クエン酸/Zrモル比は0.15およびクエン酸/酢酸のモル比は0.75であった。
【0134】
該ゾルの粒子系分布は、実施例1とほぼ同じで、粒子径D50は12nmであり、また、該ゾルを100℃で恒量まで乾燥したもののX線回折パターンは、実施例1とほぼ同様であり、特定の結晶系に帰属されなかった。また、該ゾルのゼータ電位は−43mVであった。
【0135】
実施例7
実施例5で得られたゾルに1000gの純水を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を5回繰り返した後、1000gの2重量%酢酸アンモニウム水溶液を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を5回繰り返し、次に、1000gの純水を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除きジルコニウム濃度がZrO2換算で6.5重量%、pH6.5のゾルを得た。
【0136】
該ゾル中の酢酸/Zrのモル比は0.3、クエン酸/Zrのモル比は0.1およびクエン酸/酢酸のモル比は0.25であった。
【0137】
該ゾルの粒子系分布は、実施例1とほぼ同じで、粒子径D50は12nmであり、また、該ゾルを100℃で恒量まで乾燥したもののX線回折パターンは、実施例1とほぼ同様であり、特定の結晶系に帰属されなかった。また、該ゾルのゼータ電位は−48mVであった。
【0138】
実施例8
実施例5で得られたゾルに1000gの純水を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を5回繰り返した後、1000gの1重量%蓚酸アンモニウム水溶液を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を5回繰り返し、次に、1000gの純水を添加し、限外ろ過処理によって1000gの溶媒を取り除く操作を2回繰り返してジルコニウム濃度がZrO2換算で6重量%、pH7.9のゾルを得た。
【0139】
該ゾル中の蓚酸/Zrモル比が0.2、クエン酸/Zrモル比が0.2およびクエン酸/蓚酸のモル比は1であった。
【0140】
該ゾルの粒子系分布は、実施例1とほぼ同じで、粒子径D50は12nmであり、また、該ゾルを100℃で恒量まで乾燥したもののX線回折パターンは、実施例1とほぼ同様であり、特定の結晶系に帰属されなかった。また、該ゾルのゼータ電位は−45mVであった。
【0141】
比較例1
実施例1で用いた酸化チタン分散液5gに純水18.8g、および炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液(ZrO2換算濃度20重量%)1.3gを添加して光触媒体コーティング液を調製した。酸化チタン分散液の酸化チタン量は1.0gで、ジルコニウム化合物のZrO2換算の重量は0.25gであった。ここからバインダー中の上の成分は酸化物換算で、酸化チタン100重量部に対して25重量部で混合したことになる。
【0142】
この光触媒体コーティグを用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0143】
比較例2
実施例1で用いた酸化チタン分散液5gに純水18.3g、および酢酸ジルコニウム水溶液(ZrO2換算濃度15重量%)1.7gを添加して光触媒体コーティング液を調製した。酸化チタン分散液の酸化チタン量は1.0gで、ジルコニウム化合物のZrO2換算の重量は0.25gであった。ここからバインダー中の上の成分は酸化物換算で、酸化チタン100重量部に対して25重量部で混合したことになる。
【0144】
この光触媒体コーティグを用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0145】
比較例3
実施例1で用いた酸化チタン分散液5gに純水14g、およびプロピオン酸ジルコニウム・エタノール溶液(ZrO2換算濃度20重量%)1.3gを添加して光触媒体コーティング液を調製した。酸化チタン分散液の酸化チタン量は1.0gで、ジルコニウム化合物のZrO2換算の重量は0.25gであった。ここからバインダー中の上の成分は酸化物換算で、酸化チタン100重量部に対して25重量部で混合したことになる。
【0146】
この光触媒体コーティグを用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0147】
比較例4
実施例1と同様の酸化チタン分散液5.0gに純水15.6g、およびカルボン酸またはその塩を含まず、硝酸を含む非晶質Zr−O系粒子の分散液(ZrO2換算濃度10重量%,商品名ZSL−10T,第一稀元素化学工業(株)製)4.3gを添加して光触媒体コーティング液を調製した。酸化チタン分散液の酸化チタン量は1.0gで、非晶質Zr−O系粒子のZrO2換算の重量は0.43gであった。ここからバインダー中の上の成分は酸化物換算で、酸化チタン100重量部に対して43重量部で混合したことになる。
【0148】
この光触媒体コーティグを用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0149】
比較例5
実施例1と同様の酸化チタン分散液5.0gに純水10.0 g、およびカルボン酸またはその塩を含まず、硝酸を含む非晶質Zr−O系粒子の分散液(ZrO2換算濃度10重量%,商品名ZSL−10T,第一稀元素化学工業(株)製)10.0gを添加して光触媒体コーティング液を調製した。酸化チタン分散液の酸化チタン量は1.0gで、非晶質Zr−O系粒子のZrO2換算の重量は1.0gであった。ここからバインダー中の上の成分は酸化物換算で、酸化チタン100重量部に対して100重量部で混合したことになる。
【0150】
この光触媒体コーティグを用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0151】
比較例6
実施例1の酸化チタン分散液5.0gに純水20.0 gを添加し、バインダーを含まない酸化チタン分散液を調製した。この液を用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0152】
この光触媒体コーティグを用いて、実施例1と同様にして硝子板の片面全体にバインダー含有光触媒体塗膜を形成した。塗膜の物性を表1に示した。
【0153】
【表1】

【0154】
次に、表1の塗膜物性総合判定で○若しくは△であった、実施例1〜3、比較例2、比較例5の光触媒コーティング液の光触媒性能を評価した。また比較例6の酸化チタン分散液の光触媒性能も評価した。結果を表2に示した。
【0155】
【表2】

【0156】
表1と2を比較すると、本発明のギ酸で安定化した非晶質Zr−O系粒子分散液をバインダーとする光触媒コーティング液(実施例1〜3)は、良好な塗膜物性を示し、しかもバインダーを含んでいるにも関わらず、バインダーを含まない酸化チタン分散液(比較例6)よりも高い光触媒活性を示した。
【0157】
本発明の光触媒コーティング液によれば、硝子、プラスチック、金属、陶磁器、コンクリートのような基材に、透明性と密着性に優れ、高い光触媒活性を示す膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】ジルコニウム濃度をX重量%、1モルのZrに対するそのグラム当量数Yとし、X、Yの値を変化させ、合成したゾルの結晶性について、X線回折測定によって調べた結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径D50が1〜20nmであり非晶質であるZr−O系粒子が分散媒中に分散されてなり、無機酸とカルボン酸またはその塩を含み、ゼータ電位が20mV以上であることを特徴とする非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項2】
1モルのZrに対して0.05〜1モルのカルボン酸またはその塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項3】
カルボン酸がギ酸または酢酸から選ばれる1種または2種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項4】
無機酸/カルボン酸またはその塩のモル比が0.1〜5であることを特徴とする請求項1〜請求項3に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項5】
無機酸が硝酸であることを特徴とする請求項1〜請求項4に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項6】
粒子径D50が1〜20nmであり非晶質であるZr−O系粒子が分散媒中に分散されてなり、カルボン酸またはその塩を含み、ゼータ電位が−20mV以下であることを特徴とする非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項7】
1モルのZrに対して0.05〜1モルのカルボン酸またはその塩を含むことを特徴とする請求項6に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項8】
カルボン酸がクエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項9】
カルボン酸が、(1)クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸から選ばれる1種または2種以上と(2)ギ酸、酢酸および蓚酸から選ばれる1種または2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項7〜請求項8に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項10】
((1)クエン酸、酒石酸、グリコール酸および乳酸から選ばれる1種または2種以上)/((2)ギ酸、酢酸および蓚酸から選ばれる1種または2種以上)のモル比が0.1〜3であることを特徴とする請求項9に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項11】
分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの無機酸または無機酸の中和により生成した無機酸塩を、カルボン酸またはその塩と置換することを特徴とする、非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法。
【請求項12】
分散媒中に無機酸を含有し非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルが、水酸化ジルコニウム、無機酸および溶媒からなり、ZrO2換算のジルコニウム濃度をX重量%、1モルのZrに対する無機酸のグラム当量数Yとした場合、XおよびYが以下の式(A)
3≦X≦20 (A)
および式(B)
(2.0−0.07X)≦Y≦(3.0−0.08X) (B)
を満足する反応分散液を調製し、ついで該反応液を80℃以上で加熱して得られたゾルであることを特徴とする請求項11記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法
【請求項13】
1モルのZrに対して0.05〜1モルのカルボン酸またはその塩を含むように置換することを特徴とする請求項11または請求項12に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法。
【請求項14】
無機酸が硝酸であることを特徴とする請求項11〜請求項13に記載の非晶質のZr−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法。
【請求項15】
光触媒体、粒子径D50が1〜20nmであり非晶質であるZr−O系粒子とカルボン酸とその塩、または、無機酸とカルボン酸またはその塩を含み、光触媒体100重量部に対する前記Zr−O系粒子のZrO2換算の含有量が15〜120重量部であることを特徴とする光触媒体コーティング液。
【請求項16】
請求項15に記載の光触媒体コーティング液を基材上に塗布し、溶媒を揮発させることを特徴とする光触媒機能製品の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−270040(P2009−270040A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123114(P2008−123114)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】