非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法ならびにその粒子
【課題】 被覆率が向上された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造する製造方法ならびにこの製造方法により得られる非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の提供を課題としている。
【解決手段】 鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法であって、酸処理工程、洗浄工程、アルカリ工程、リン酸カルシウム被覆工程が実施されることを特徴とする非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法ならびに該製造方法により製造された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を提供する。
【解決手段】 鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法であって、酸処理工程、洗浄工程、アルカリ工程、リン酸カルシウム被覆工程が実施されることを特徴とする非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法ならびに該製造方法により製造された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質リン酸カルシウムを含有する粒子の製造方法ならびにその粒子に関し、より詳しくは、化粧料、塗料、インキ、トナー、グリース、ゴム、プラスチックス、セラミックスなどの配合成分として有用な非晶質リン酸カルシウムを含有する粒子の製造方法ならびにその粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鱗片状または板状の粒子形状を有する、タルク、カオリン(白土)、ベントナイト、雲母族鉱物(セリサイト、白雲母、金雲母、黒雲母)、焼成カオリンなどの、天然または人造の粘土鉱物やその加工品、あるいは表面処理品(以下、これらを総称する場合は「粘土鉱物類」とする)は、その粒子形状ゆえに肌に対するすべり感にすぐれることから、粉白粉、固形白粉、ファンデーションなどの、いわゆる粉物のベースメーク化粧料の主原料として、詳しくは着色顔料の色を薄める体質顔料や、あるいは肌からの分泌物である皮脂(油分)や汗(水分)を吸着する吸着剤などの数種の機能を兼ね備えた成分として、多用されてきた。
【0003】
このうちタルクは透明感があり、また肌に塗り伸ばす際の感触がとくに滑らかで、かつ付着性にすぐれるという特性を有している。またカオリンは、タルクに比べて滑らかさの点で劣るものの、肌からの分泌物を吸着する吸着力や、下地を隠ぺいする隠ぺい力が比較的大きい上、肌の健康に適した弱酸性を示すという特性を有している。
【0004】
それゆえこれまでは、この2者が、ベースメーク化粧料の主原料として併用される場合が多かった。しかし近時、雲母族でも透明感の高い化粧効果を持つセリサイトや、あるいは真珠の光沢を持つ酸化チタン被覆粒子(チタン雲母など)も、新たな化粧感を持ったベースメーク化粧料用としてその需要を広げつつある。
【0005】
特にセリサイトについては、粘土鉱物類の中でも人気が高く、国内産の純度の高い原料が不足をきたしたり、高価であったりし、海外産の純度の低い原料を輸入して、精製して使用しているのが現状である。そのため、通常、セリサイトと他の雲母族鉱物とは“セリサイト”と“マイカ”との呼び名で区別されて用いられている。またチタン雲母などの酸化チタン被覆粒子は、白雲母、金雲母などの粉砕物や、セリサイト、タルク、合成雲母などの表面に、屈折率の高い酸化チタンの細かな粒子を被覆した加工品で、チタン層の厚みによって多様な干渉色を生じ、それが真珠光沢として好まれている。さらに、近年、酸化チタンに代えて酸化鉄や酸化クロムなどを被覆したものや、酸化チタンにさらに酸化鉄や酸化クロムなどを被覆したもの、もしくはこれらに染料、顔料が複合されたものなどが開発され、それを称してパール顔料もしくはパール光沢顔料といわれている。このパール顔料は、チタン雲母、ベンガラ被覆雲母、ベンガラ被覆チタン雲母、黒酸化鉄被覆チタン雲母、カルミン被覆チタン雲母、コンジョウ被覆チタン雲母、カルミン・コンジョウ被覆チタン雲母、酸化クロム被覆チタン雲母、ベンガラ・黒酸化鉄被覆チタン雲母、黒酸化鉄カルミン被覆チタン雲母、黒酸化鉄コンジョウ被覆チタン雲母、チタン雲母+黄色4号、チタン雲母+赤色202号、チタン雲母+青色1号、チタン雲母+青色1号+黄色4号などがあげられる。
【0006】
実際の使用に際しては、これらの粘土鉱物類、即ち、鱗片状または板状の粒子形状を有する鉱物粒子が、その目的に応じて適宜、配合された上、少量の油性成分や着色顔料などの他の成分と混合されて、ベースメーク化粧料が製造される。
【0007】
ところで、従来、ヒドロキシアパタイトやリン酸三カルシウムなどのリン酸カルシウムは、油などの有機物の吸着性能に優れることから、消臭剤や化粧料などに用いられている。
特許文献1には、ヒドロキシアパタイトを主成分とするアルカリ剤を含んだ無臭コールドパーマ液が開示されている。上記無臭コールドパーマ液は、大きな比表面積(100m2/g以上)を有するヒドロキシアパタイトを用いることにより、主剤のチオグリコール酸臭、システイン臭を除去できアミノ酸吸着能によるアミノ酸溶出時間の短縮、イオン交換能による毛髪経由の人体の有害重金属排除等の効果を有するものである。
【0008】
このようなリン酸カルシウムの吸着性能は、リン酸カルシウムの配合量が同一であっても、その粒子の比表面積をより大きなものとすることで優れたものとすることができる。
したがって、前述のような鱗片状または板状の粒子形状を有する鉱物粒子が用いられる化粧料、塗料、インキ、トナー、グリース、ゴム、プラスチックス、セラミックスなどに吸着性能を付与すべくリン酸カルシウムを配合する場合には、例えば単なる粒状リン酸カルシウムを配合するのではなく、リン酸カルシウムを前述の鉱物粒子上に被覆させて配合する方がリン酸カルシウムの比表面積を大きくすることができ、その吸着性能を優れたものとすることができる。
また、その場合には、より高い被覆率、即ち、リン酸カルシウムで鉱物粒子の表面を広範囲に被覆させてリン酸カルシウムが被覆されていない部分を少なくすることで吸着性能をさらに優れたものとすることができる。
【0009】
このことに対し、特許文献2には、鱗片状または板状の粒子の表面を非晶質リン酸カルシウムの微粒子で被覆した非晶質リン酸カルシウム複合粒子の製造方法が記載されており、特許文献3には、顔料の表面に非晶質リン酸カルシウムを沈着させる方法について記載されている。また、この特許文献3には、顔料としてセリサイトを用いることも記載されている。
しかし、これらの特許文献においては、鱗片状または板状の粒子形状を有する鉱物粒子を非晶質リン酸カルシウムで被覆させることが記載されているものの、前記鉱物粒子に非晶質リン酸カルシウムが被覆されていない部分が生じることを抑制させることに対しては、何等検討がなされていない。
したがって、従来、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の被覆率を向上させて吸着性能を向上させることについても何等検討されてはいない。
即ち、従来、吸着性能の向上が求められているこれらの非晶質リン酸カルシウム被覆粒子ごとく、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料に非晶質リン酸カルシウムを高い被覆率で被覆させることが要望される非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法においては、被覆率が向上された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造することが困難であるという問題を有している。
【0010】
【特許文献1】特開昭58−83607号公報
【特許文献2】特開2000−169122号公報
【特許文献3】特許第2914460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、非晶質リン酸カルシウムでの被覆率が向上された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造する製造方法ならびにこの製造方法により得られる非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の被覆率を向上させるべく鋭意検討を行った結果、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造する場合において、このような基体材料の表面に鉄、チタン、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、カリウム、マグネシウムなどが付着していることならびに基体材料同士が凝集を起こしていることが個々の基体材料粒子表面が非晶質リン酸カルシウムで被覆されることを阻害していること、さらには、基体材料を酸で処理して、洗浄した後に、水酸化カルシウムと混合して懸濁液を作成して該懸濁液にリン酸を加えることにより、前述の阻害状況を改善させ得ることを見出し本発明の完成に至ったのである。
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法であって、(1)基体材料とpH1.5以下の酸とを混合することにより、前記基体材料の表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程、(2)基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%で水に分散させた懸濁液のpHが2.0以上となるように、前記酸処理工程にて処理された基体材料を洗浄する洗浄工程、(3)該洗浄工程により洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成するアルカリ工程、(4)該アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させるリン酸カルシウム被覆工程、が実施されることを特徴とする非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法ならびに該製造方法により製造された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非晶質リン酸カルシウムの表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程が行われるため、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料の表面に付着している鉄、チタン、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、カリウム、マグネシウムなどを酸で除去することができ、しかも、基体材料の凝集を抑制し得る。したがって、基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させることがこれらの要因により阻害されている状況を改善させることができる。
すなわち、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の被覆率を従来に比べて向上させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態における非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法においては、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料が用いられる。
また、本実施形態の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法においては、前記基体材料と酸とを混合して基体材料の表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程、基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%で水に分散させた懸濁液のpHが2.0以上となるように前記酸処理工程にて処理された基体材料を洗浄する洗浄工程、該洗浄工程により洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成するアルカリ工程、および、該アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させるリン酸カルシウム被覆工程を実施して、基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させる。
【0015】
前記酸処理工程においては、酸による洗浄処理を行い、基体材料表面に付着している鉄、チタン、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、カリウム、マグネシウムなどの付着物を基体材料の表面から付着物イオンなどとして除去するとともに、基体材料どうしの凝集を抑制させる。この酸処理工程としては、基体材料に酸性液体をシャワーリングする方法や、酸性液体に基体材料を漬け洗いする方法など、一般の粒状物の洗浄処理方法を採用することができるが、基体材料を全体的に均一かつ十分に洗浄処理し得る点から、酸性液体に基体材料を漬け洗いする方法を行うことが好ましい。
なお、このような点において、漬け洗い時の酸に分散させる基体材料の固形分濃度としては、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましく、5〜30質量%であることがさらに好ましい。この固形分濃度がこのような範囲であることが好ましいのは、固形分濃度が50質量%を超えると、前述の付着物イオン除去、凝集の抑制などの効果が基体材料全体に均一かつ十分に得られないおそれを有し、0.1質量%未満の固形分濃度としても、前述の効果を、それ以上、均一かつ十分とすることが期待できないばかりでなく、使用する設備が大掛かりとなることや使用する酸の量に対して得られる非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の量が少なくなることなど生産性が低下するおそれを有するためである。
また、前述した効果と同様な効果が得られる点において、前記漬け洗いとしては、基体材料を0.1〜200時間、好ましくは、1〜72時間、さらに好ましくは1〜24時間pH1.5以下の酸に浸漬させて行うことが好ましい。
【0016】
この酸性液体に基体材料を漬け洗いする方法に用いる酸としては、特に限定されるものではないが、通常、脱鉄などに用いられる塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの強酸類、クエン酸、りんご酸、酢酸、シュウ酸などの弱酸類を単独または複数組み合わせて使用することができる。また、これらの酸は、そのままの濃度あるいは希釈して用いることができる。なお、このような酸としては、後段のアルカリ工程で添加されるカルシウムイオンが、リン酸イオン以外のアニオンにより消費されることを抑制することができ、リン酸カルシウム被覆工程において、基体材料の表面に、より効率良く非晶質リン酸カルシウムを生成させ得る点においてリン酸を用いることが好ましい。
【0017】
前記基体材料としては、例えば、セリサイト、マイカ(白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、合成雲母)、タルク、カオリン、バーミキュライト、スメクタイト、酸化チタン被覆雲母(チタン雲母)、酸化チタン被覆セリサイト、酸化チタン被覆タルクといったパール顔料などの各種の鱗片状または板状の鉱物粒子があげられる。
【0018】
なかでも基体材料としては、非晶質リン酸カルシウムを均一に被覆させ得る点からセリサイト、マイカ、タルクが好適である。
なお、この基体材料としてタルクを用いる場合には、基体材料の重量に対する0.1〜3倍の水と混練させる水練り工程を前記酸処理工程に先立って実施することが好ましい。
タルクが用いられた基体材料にこのような水練り工程を実施することが好ましいのは、タルクは、通常、鉱石から乾式粉砕により製造され、撥水性を呈する状態となっているためであり、このような水練り工程を実施することでタルクの親水性を高めて酸処理工程における酸性液体への分散性を高めて酸処理工程の作業性を向上させ得るためである。
また、このような乾式粉砕により製造されたタルクに対して水練り工程を実施することに代えて湿式粉砕により製造されたタルクを用いることも可能である。この湿式粉砕により製造されたタルクとしては、例えば、株式会社山口雲母工業所製のフィットパウダーFK−500S、FK−300S、FKG−30、CT−30、CT−35、AT−350EXなどの商品名で市販されているものを使用することができる。
また、この水練り工程が行われた乾式粉砕タルクや湿式粉砕により製造されたタルクが酸処理工程の作業性向上効果を奏するような親水性が備えられているか否かについては、例えば、常温で静置されたイオン交換水の水面に、乾燥状体のタルクを0.5g程度浮かべて、1時間経過後にその90%以上が水没するかどうかを確認することで判定できる。
【0019】
また、このような基体材料としては、例えば、平均粒径が1〜300μmの鱗片状または板状の鉱物粒子を用いることができる。なお、本明細書中における、前記平均粒径とは、レーザ回折法により求められる累積粒度分布を示す曲線の50vol%の値を意味し、例えば、日本レーザー株式会社から「ロドス」の商品名にて市販のレーザ回折式粒度分布測定装置などにより測定することができる。
【0020】
なお、通常、このような基体材料は、市販品をそのまま使用することができるが、要すれば、分級などを行ってもよい。上記基体材料の表面を被覆する非晶質リン酸カルシウムとは、一般式:Ca3(PO4)2・nH2Oで表されるように結晶水を含んだリン酸三カルシウムであって、特にその結晶構造が非晶質のものを言う。なお、結晶構造が非晶質であることは、非晶質リン酸カルシウムは、結晶水を多く保有しているため、粉末X線回折法のパターンが図5に例示のごとく、結晶質リン酸カルシウムに比べてブロードとなることから確認することができる。
また、本発明の効果を損ねない限りにおいては、上記非晶質リン酸カルシウムのカルシウムの一部に、例えば、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、チタンなどの元素が固溶していたり、あるいは、イオン交換または置換されていたりしてもよく、PO4の一部が、例えば、VO4、SiO4、CO4などの原子団の1種で置換されていても良い。
さらに、リン酸カルシウムが、1種または2種以上の金属酸化物と複合してもよい。金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどがあげられる。
【0021】
前記洗浄工程においては、前述の酸処理時に基体材料の表面から除去された付着物イオンの濃度を低下させて、後段のリン酸カルシウム被覆工程においてこの付着物イオンが基体材料表面への非晶質リン酸カルシウムの被覆を阻害することを抑制させる。
このとき、洗浄後の基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%、好ましくは1〜50質量%で水に分散させた懸濁液がpH2.0以上となるよう洗浄する。
この洗浄工程における洗浄方法としては、前述の漬け洗い状態の基体材料に単に水を加えることで洗浄してもよく、漬け洗い状態の基体材料から遠心脱水法などにより酸性液体とともに前述のような付着物イオンを系外に排出させ脱水した後に基体材料を分散させた懸濁液のpHが2.0以上となるまで水を加えてすすぐ方法などを用いることができ、要すれば、脱水/すすぎを繰り返し行う方法を採用することもできる。
【0022】
なお、前記酸として、塩酸、硝酸、硫酸または、クエン酸などが用いられる場合には、塩素イオン、硫酸イオンなどのリン酸イオン以外のアニオンによりカルシウムイオンが消費されることを抑制し得る点において、この洗浄工程は、基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%、好ましくは1〜50質量%で水に分散させた懸濁液がpH6.0以上となるまで実施することが好ましい。
前記アルカリ工程においては、前述の洗浄工程で洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成する。ここで、基体材料と水酸化カルシウムとを混合して懸濁液をアルカリ性とするのは、酸性状態で後段のリン酸カルシウム被覆工程を行った場合には、加えたリン酸がリン酸水素カルシウムの形成に消費されて、基体材料表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆することが困難となるためである。
【0023】
前記リン酸カルシウム被覆工程においては、アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面に非晶質リン酸カルシウムを付着させる。このとき、前述のごとく懸濁液が酸性状態、特に、pH5.0未満の状態となればリン酸水素カルシウムの形成が生じるおそれを有することから、このリン酸カルシウム被覆工程におけるアルカリ性懸濁液へのリン酸の添加は、pHが5.0以上に維持された状体で行うことが好ましい。なお、要すれば、アルカリ工程とリン酸カルシウム被覆工程とを交互に実施しつつ、pHを5.0以上に維持させてリン酸水素カルシウムの形成を抑制させてもよい。なお、リン酸カルシウム被覆工程においては、リン酸を加えることにより、反応熱で懸濁液の温度が上昇するため、例えば、50℃以下の温度となるよう懸濁液を冷却しつつ実施することが好ましい。この冷却を行うことにより、リン酸を加える工程を複数回に分けて行うことを抑制でき、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法をより効率的なものとすることができる。
【0024】
以上のごとく、製造された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子は、噴霧乾燥やケーキ乾燥など一般的な乾燥手段を採用することができるが、解砕などの工程を必要とせず、解砕時に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子同士が擦れあって、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の表面から非晶質リン酸カルシウムが脱落してしまうことを抑制し得る点から、噴霧乾燥による乾燥手段を採用することが好ましい。
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(試験例)
株式会社山口雲母工業所製マイカ(商品名「Y−2400」)、三信鉱工株式会社製セリサイト(商品名「FSE」)及び日本光研工業株式会社製チタン雲母(商品名「PEARL−GLAZE MV−100R」)の元素分析を蛍光X線分析装置(株式会社リガク製「RIX−2100」)を用いて行った。この結果を、表1に示す。この表からも解るように、セリサイト、マイカの主成分であるK2O、Al2O3、SiO2以外に不純物としてTiO2、Fe2O3などの不純物が含まれている。
そこで、これらマイカ、セリサイト、チタン雲母のそれぞれを0.5gずつ秤量して別々の三角フラスコに入れたものを二組用意し、一組目には、イオン交換水を15g加え、二組目には7.5質量%リン酸(pH0.5)を加えて、スターラーにて1時間攪拌した。ついで、それぞれをNo.1ろ紙を用いてろ過したろ液をイオン交換水で5倍希釈してICP(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「SPS−4000」)にて元素分析を行った。
また、マイカおよびセリサイトについては、2規定の塩酸、1規定の硝酸、2規定の硫酸、1mol/Lのクエン酸を用いて、同様に元素分析を行った。結果を表2に示す。
この表から鱗片状または板状の鉱物粒子をpH1.5以下の酸で処理することによりTiO2、Fe2O3などの不純物が鱗片状または板状の鉱物粒子の表面から除去し得ることが解る。
【0026】
(実施例1)
イオン交換水1リットルに、基体材料としての鱗片状マイカ(株式会社山口雲母工業所製「Y−2400」:平均粒径約9.66μm)450g入れ、攪拌下で7.5質量%リン酸水溶液を1500g加えて10分間攪拌して懸濁液とした後に、この懸濁液を一昼夜静置することにより酸処理工程を実施した。このときの懸濁液のpHをpHメーターにて測定したところ、0.1であった。
さらに、吸引ろ過により鱗片状マイカをろ別し、固形分濃度20%でpHが2.0以上となるまでイオン交換水を加えて再懸濁液を作成することにより洗浄工程を実施した。
次いで、ホモミキサーを用いて水酸化カルシウム37.3gをイオン交換水1リットルに分散させた水酸化カルシウム懸濁液を作成し、前記再懸濁液に対して、該再懸濁液のpHが12.5となるまでこの水酸化カルシウム懸濁液を加えてアルカリ工程を実施しアルカリ懸濁液を作成した。
さらに、このアルカリ懸濁液の液温を、50℃以下になるよう維持しつつ、7.5質量%リン酸水溶液を最終的なpHが6.5となるまで加え30分間攪拌しリン酸カルシウム被覆工程を実施した。
さらに、前述のアルカリ工程とこのリン酸カルシウム被覆工程とを交互に2回ずつ(合計3回ずつ)実施したものをスプレードライヤー(大川原化工機械株式会社製「L−8」)を用いて、噴霧乾燥造粒を行い、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0027】
(実施例2)
洗浄工程でpHが6.0以上となる再懸濁液が得られるまで、イオン交換水での洗浄を実施し、アルカリ工程とこのリン酸カルシウム被覆工程とを交互に合計4回ずつ実施したこと以外は、実施例1と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0028】
(実施例3)
基体材料として、三信鉱工株式会社製セリサイト(商品名「FSE」:平均粒径約8.17μm、平板平面長径平均値約8μm、同短径平均値約5μm、厚さ平均値約0.1μm)を用いた以外は、実施例1と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0029】
(実施例4)
基体材料として、日本光研工業株式会社製チタン雲母(商品名「PEARL−GLAZE MV−100R」:平均粒径約17.65μm)を用いた以外は、実施例1と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0030】
(実施例5)
イオン交換水0.9リットルに、基体材料として乾式粉砕により製造されたタルク(浅田製粉株式会社製「JA−46R」:平均粒径約15.40μm)450g入れ、混練機にて10分間の混練を行い、水練り工程を実施した。この水練り工程後一昼夜放置したものにイオン交換水1リットル加えて、攪拌下で7.5質量%リン酸水溶液を1500g加えて10分間攪拌して懸濁液とした後に、この懸濁液を一昼夜静置することにより酸処理工程を実施した。このときの懸濁液のpHをpHメーターにて測定したところ、0.9であった。
さらに、吸引ろ過によりタルクをろ別し、固形分濃度20%でpHが2.0以上となるまでイオン交換水を加えて再懸濁液を作成することにより洗浄工程を実施した。
次いで、ホモミキサーを用いて水酸化カルシウム37.3gをイオン交換水1リットルに分散させた水酸化カルシウム懸濁液を作成し、前記再懸濁液に対して、該再懸濁液のpHが12.5となるまでこの水酸化カルシウム懸濁液を加えてアルカリ工程を実施しアルカリ懸濁液を作成した。
さらに、このアルカリ懸濁液の液温を、50℃以下になるよう維持しつつ、7.5質量%リン酸水溶液を最終的なpHが6.5となるまで加え30分間攪拌しリン酸カルシウム被覆工程を実施した。
さらに、前述のアルカリ工程とこのリン酸カルシウム被覆工程とを交互に2回ずつ(合計3回ずつ)実施したものをスプレードライヤー(大川原化工機械株式会社製「L−8」)を用いて、噴霧乾燥造粒を行い、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0031】
(実施例6)
乾式粉砕により製造されたタルクに代えて湿式粉砕されたタルク(株式会社山口雲母工業所製「フィットパウダーFK−300S」:平均粒径約15.40μm)を用い、水練り工程を実施しなかったこと以外は実施例5と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0032】
(比較例1)
酸処理工程を実施せず、リン酸カルシウム被覆工程において、8.5質量%のリン酸水溶液を用い最終的なpHが9.0〜10.0のとなるまで加えた事以外は、実施例3と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0033】
(比較例2)
酸処理工程をpH2.0で実施した以外は、実施例1と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0034】
(比較例3)
酸処理工程を実施せず、90℃のイオン交換水3リットルに基体材料を分散させたこと、アルカリ工程において酢酸カルシウム25g/リットルのアルカリ水溶液を用いてアルカリ懸濁液を作成したこと、リン酸カルシウム被覆工程において、前記アルカリ懸濁液を90℃の液温に維持しつつリン酸水素ナトリウム水溶液を用いて最終的なpHが7.0となるまで加えた事以外は、実施例3と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。なお、本比較例は、前記特許文献3に記載の製造方法に準じて非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造したものである。
【0035】
(比較例4)
酸処理工程を実施せず、リン酸カルシウム被覆工程において、8.5質量%のリン酸水溶液を用い最終的なpHが9.0〜10.0のとなるまで加えた事以外は、実施例6と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0036】
(比較例5)
酸処理工程をpH2.0で実施した以外は、実施例6と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0037】
(粒度変化)
実施例1〜4、比較例1〜3にて製造された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の平均粒径を測定し、基体材料の平均粒径との比較を行った。結果を表3に示す。
【0038】
(油分吸着量)
まず、ブランク試料として非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を350℃×1hの条件で乾燥させたものを準備した。次にこのブランク試料0.5gにオレイン酸4.5gを加え、37℃×24h静置しオレイン酸を吸着させた。さらに、ジエチルエーテル15mlで3回洗浄して風乾し吸着試料とした。
このブランク試料と吸着試料とを、それぞれ14〜17mg程度採取し、窒素ガス気流中にて30℃から600℃までの昇温速度20℃/minでのTG−DTA測定を行い吸油量を求めた。
より具体的には、30〜600℃における加熱残率(%)と30〜150℃における加熱残率(%)との差を減量率(%)として求め、ブランク試料と吸着試料とのそれぞれの減量率(%)の差を吸着率(%)とし、さらにこの吸着率(%)に10を乗じて油分吸着量(mg/g)を求めた。
また、同様にマイカ(「Y−2400」)単体についても同様に油分吸着量を求めた。実施例1、3〜6、比較例2〜5の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の測定結果とマイカ単体の測定結果を併せて表4に示す。
【0039】
(顕微鏡観察)
実施例1、5、6、比較例1〜5の走査型電子顕微鏡写真を図1〜4に示す。
この図から、実施例1では、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子Aが基体材料状態と同等にばらばらな状態となっており、さらに、細かな球状の非晶質リン酸カルシウムBが基体材料の表面全体に均一に付着していることがわかる。また、この細かな球状の非晶質リン酸カルシウムが基体材料の表面全体に均一に付着している状態は実施例5、6でも同様である。なお、ここでは実施例5の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子のより拡大された走査型電子顕微鏡写真は実施例6のものと同様であるため省略している。
また、比較例1、2、4、5では、基体材料の表面は大きな棒状の非晶質リン酸カルシウムCで粗く覆われ、部分的には、基体材料が露出している基体露出部Dが見られる。さらに、比較例3では、多くの基体粒子が凝集した直径100μm近くの巨大粒子Eが形成されてしまっている。さらに、この比較例3の巨大粒子Eの表面も大きな棒状の非晶質リン酸カルシウムCで粗く覆われ、部分的には、基体材料が露出している基体露出部Dが見られる。
このような、非晶質リン酸カルシウムの被覆状況や非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の形状の違いは、表3、表4に示す平均粒径や油分吸着量にも表れている。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
以上に示す通り、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造するに際し、基体材料とpH1.5以下の酸とを混合することにより、前記基体材料の表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程、該酸処理工程にて処理された基体材料を洗浄して、該洗浄された基体材料を分散させた懸濁液のpHを2.0以上とする洗浄工程、該洗浄工程により洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成するアルカリ工程、該アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面に非晶質リン酸カルシウムを付着させるリン酸カルシウム被覆工程が実施されることにより、基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムにて、より広範囲な部分に被覆させることができ、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の被覆率を向上させ得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1a】実施例1の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図1b】図1aの拡大写真。
【図1c】図1bの拡大写真。
【図2】実施例5の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図3a】実施例6の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図3b】図3aの拡大写真。
【図4】比較例1の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図5】比較例2の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図6a】比較例3の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図6b】図6aの拡大写真。
【図7】比較例4の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図8】比較例5の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図9】非晶質リン酸カルシウムと結晶質リン酸カルシウムとの粉末X線回折チャート。
【符号の説明】
【0046】
A 非晶質リン酸カルシウム被覆粒子
B 球状の非晶質リン酸カルシウム
C 棒状の非晶質リン酸カルシウム
D 基体露出部
E 巨大粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質リン酸カルシウムを含有する粒子の製造方法ならびにその粒子に関し、より詳しくは、化粧料、塗料、インキ、トナー、グリース、ゴム、プラスチックス、セラミックスなどの配合成分として有用な非晶質リン酸カルシウムを含有する粒子の製造方法ならびにその粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鱗片状または板状の粒子形状を有する、タルク、カオリン(白土)、ベントナイト、雲母族鉱物(セリサイト、白雲母、金雲母、黒雲母)、焼成カオリンなどの、天然または人造の粘土鉱物やその加工品、あるいは表面処理品(以下、これらを総称する場合は「粘土鉱物類」とする)は、その粒子形状ゆえに肌に対するすべり感にすぐれることから、粉白粉、固形白粉、ファンデーションなどの、いわゆる粉物のベースメーク化粧料の主原料として、詳しくは着色顔料の色を薄める体質顔料や、あるいは肌からの分泌物である皮脂(油分)や汗(水分)を吸着する吸着剤などの数種の機能を兼ね備えた成分として、多用されてきた。
【0003】
このうちタルクは透明感があり、また肌に塗り伸ばす際の感触がとくに滑らかで、かつ付着性にすぐれるという特性を有している。またカオリンは、タルクに比べて滑らかさの点で劣るものの、肌からの分泌物を吸着する吸着力や、下地を隠ぺいする隠ぺい力が比較的大きい上、肌の健康に適した弱酸性を示すという特性を有している。
【0004】
それゆえこれまでは、この2者が、ベースメーク化粧料の主原料として併用される場合が多かった。しかし近時、雲母族でも透明感の高い化粧効果を持つセリサイトや、あるいは真珠の光沢を持つ酸化チタン被覆粒子(チタン雲母など)も、新たな化粧感を持ったベースメーク化粧料用としてその需要を広げつつある。
【0005】
特にセリサイトについては、粘土鉱物類の中でも人気が高く、国内産の純度の高い原料が不足をきたしたり、高価であったりし、海外産の純度の低い原料を輸入して、精製して使用しているのが現状である。そのため、通常、セリサイトと他の雲母族鉱物とは“セリサイト”と“マイカ”との呼び名で区別されて用いられている。またチタン雲母などの酸化チタン被覆粒子は、白雲母、金雲母などの粉砕物や、セリサイト、タルク、合成雲母などの表面に、屈折率の高い酸化チタンの細かな粒子を被覆した加工品で、チタン層の厚みによって多様な干渉色を生じ、それが真珠光沢として好まれている。さらに、近年、酸化チタンに代えて酸化鉄や酸化クロムなどを被覆したものや、酸化チタンにさらに酸化鉄や酸化クロムなどを被覆したもの、もしくはこれらに染料、顔料が複合されたものなどが開発され、それを称してパール顔料もしくはパール光沢顔料といわれている。このパール顔料は、チタン雲母、ベンガラ被覆雲母、ベンガラ被覆チタン雲母、黒酸化鉄被覆チタン雲母、カルミン被覆チタン雲母、コンジョウ被覆チタン雲母、カルミン・コンジョウ被覆チタン雲母、酸化クロム被覆チタン雲母、ベンガラ・黒酸化鉄被覆チタン雲母、黒酸化鉄カルミン被覆チタン雲母、黒酸化鉄コンジョウ被覆チタン雲母、チタン雲母+黄色4号、チタン雲母+赤色202号、チタン雲母+青色1号、チタン雲母+青色1号+黄色4号などがあげられる。
【0006】
実際の使用に際しては、これらの粘土鉱物類、即ち、鱗片状または板状の粒子形状を有する鉱物粒子が、その目的に応じて適宜、配合された上、少量の油性成分や着色顔料などの他の成分と混合されて、ベースメーク化粧料が製造される。
【0007】
ところで、従来、ヒドロキシアパタイトやリン酸三カルシウムなどのリン酸カルシウムは、油などの有機物の吸着性能に優れることから、消臭剤や化粧料などに用いられている。
特許文献1には、ヒドロキシアパタイトを主成分とするアルカリ剤を含んだ無臭コールドパーマ液が開示されている。上記無臭コールドパーマ液は、大きな比表面積(100m2/g以上)を有するヒドロキシアパタイトを用いることにより、主剤のチオグリコール酸臭、システイン臭を除去できアミノ酸吸着能によるアミノ酸溶出時間の短縮、イオン交換能による毛髪経由の人体の有害重金属排除等の効果を有するものである。
【0008】
このようなリン酸カルシウムの吸着性能は、リン酸カルシウムの配合量が同一であっても、その粒子の比表面積をより大きなものとすることで優れたものとすることができる。
したがって、前述のような鱗片状または板状の粒子形状を有する鉱物粒子が用いられる化粧料、塗料、インキ、トナー、グリース、ゴム、プラスチックス、セラミックスなどに吸着性能を付与すべくリン酸カルシウムを配合する場合には、例えば単なる粒状リン酸カルシウムを配合するのではなく、リン酸カルシウムを前述の鉱物粒子上に被覆させて配合する方がリン酸カルシウムの比表面積を大きくすることができ、その吸着性能を優れたものとすることができる。
また、その場合には、より高い被覆率、即ち、リン酸カルシウムで鉱物粒子の表面を広範囲に被覆させてリン酸カルシウムが被覆されていない部分を少なくすることで吸着性能をさらに優れたものとすることができる。
【0009】
このことに対し、特許文献2には、鱗片状または板状の粒子の表面を非晶質リン酸カルシウムの微粒子で被覆した非晶質リン酸カルシウム複合粒子の製造方法が記載されており、特許文献3には、顔料の表面に非晶質リン酸カルシウムを沈着させる方法について記載されている。また、この特許文献3には、顔料としてセリサイトを用いることも記載されている。
しかし、これらの特許文献においては、鱗片状または板状の粒子形状を有する鉱物粒子を非晶質リン酸カルシウムで被覆させることが記載されているものの、前記鉱物粒子に非晶質リン酸カルシウムが被覆されていない部分が生じることを抑制させることに対しては、何等検討がなされていない。
したがって、従来、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の被覆率を向上させて吸着性能を向上させることについても何等検討されてはいない。
即ち、従来、吸着性能の向上が求められているこれらの非晶質リン酸カルシウム被覆粒子ごとく、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料に非晶質リン酸カルシウムを高い被覆率で被覆させることが要望される非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法においては、被覆率が向上された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造することが困難であるという問題を有している。
【0010】
【特許文献1】特開昭58−83607号公報
【特許文献2】特開2000−169122号公報
【特許文献3】特許第2914460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、非晶質リン酸カルシウムでの被覆率が向上された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造する製造方法ならびにこの製造方法により得られる非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の被覆率を向上させるべく鋭意検討を行った結果、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造する場合において、このような基体材料の表面に鉄、チタン、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、カリウム、マグネシウムなどが付着していることならびに基体材料同士が凝集を起こしていることが個々の基体材料粒子表面が非晶質リン酸カルシウムで被覆されることを阻害していること、さらには、基体材料を酸で処理して、洗浄した後に、水酸化カルシウムと混合して懸濁液を作成して該懸濁液にリン酸を加えることにより、前述の阻害状況を改善させ得ることを見出し本発明の完成に至ったのである。
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法であって、(1)基体材料とpH1.5以下の酸とを混合することにより、前記基体材料の表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程、(2)基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%で水に分散させた懸濁液のpHが2.0以上となるように、前記酸処理工程にて処理された基体材料を洗浄する洗浄工程、(3)該洗浄工程により洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成するアルカリ工程、(4)該アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させるリン酸カルシウム被覆工程、が実施されることを特徴とする非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法ならびに該製造方法により製造された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非晶質リン酸カルシウムの表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程が行われるため、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料の表面に付着している鉄、チタン、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、カリウム、マグネシウムなどを酸で除去することができ、しかも、基体材料の凝集を抑制し得る。したがって、基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させることがこれらの要因により阻害されている状況を改善させることができる。
すなわち、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の被覆率を従来に比べて向上させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態における非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法においては、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料が用いられる。
また、本実施形態の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法においては、前記基体材料と酸とを混合して基体材料の表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程、基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%で水に分散させた懸濁液のpHが2.0以上となるように前記酸処理工程にて処理された基体材料を洗浄する洗浄工程、該洗浄工程により洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成するアルカリ工程、および、該アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させるリン酸カルシウム被覆工程を実施して、基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させる。
【0015】
前記酸処理工程においては、酸による洗浄処理を行い、基体材料表面に付着している鉄、チタン、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、カリウム、マグネシウムなどの付着物を基体材料の表面から付着物イオンなどとして除去するとともに、基体材料どうしの凝集を抑制させる。この酸処理工程としては、基体材料に酸性液体をシャワーリングする方法や、酸性液体に基体材料を漬け洗いする方法など、一般の粒状物の洗浄処理方法を採用することができるが、基体材料を全体的に均一かつ十分に洗浄処理し得る点から、酸性液体に基体材料を漬け洗いする方法を行うことが好ましい。
なお、このような点において、漬け洗い時の酸に分散させる基体材料の固形分濃度としては、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましく、5〜30質量%であることがさらに好ましい。この固形分濃度がこのような範囲であることが好ましいのは、固形分濃度が50質量%を超えると、前述の付着物イオン除去、凝集の抑制などの効果が基体材料全体に均一かつ十分に得られないおそれを有し、0.1質量%未満の固形分濃度としても、前述の効果を、それ以上、均一かつ十分とすることが期待できないばかりでなく、使用する設備が大掛かりとなることや使用する酸の量に対して得られる非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の量が少なくなることなど生産性が低下するおそれを有するためである。
また、前述した効果と同様な効果が得られる点において、前記漬け洗いとしては、基体材料を0.1〜200時間、好ましくは、1〜72時間、さらに好ましくは1〜24時間pH1.5以下の酸に浸漬させて行うことが好ましい。
【0016】
この酸性液体に基体材料を漬け洗いする方法に用いる酸としては、特に限定されるものではないが、通常、脱鉄などに用いられる塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの強酸類、クエン酸、りんご酸、酢酸、シュウ酸などの弱酸類を単独または複数組み合わせて使用することができる。また、これらの酸は、そのままの濃度あるいは希釈して用いることができる。なお、このような酸としては、後段のアルカリ工程で添加されるカルシウムイオンが、リン酸イオン以外のアニオンにより消費されることを抑制することができ、リン酸カルシウム被覆工程において、基体材料の表面に、より効率良く非晶質リン酸カルシウムを生成させ得る点においてリン酸を用いることが好ましい。
【0017】
前記基体材料としては、例えば、セリサイト、マイカ(白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、合成雲母)、タルク、カオリン、バーミキュライト、スメクタイト、酸化チタン被覆雲母(チタン雲母)、酸化チタン被覆セリサイト、酸化チタン被覆タルクといったパール顔料などの各種の鱗片状または板状の鉱物粒子があげられる。
【0018】
なかでも基体材料としては、非晶質リン酸カルシウムを均一に被覆させ得る点からセリサイト、マイカ、タルクが好適である。
なお、この基体材料としてタルクを用いる場合には、基体材料の重量に対する0.1〜3倍の水と混練させる水練り工程を前記酸処理工程に先立って実施することが好ましい。
タルクが用いられた基体材料にこのような水練り工程を実施することが好ましいのは、タルクは、通常、鉱石から乾式粉砕により製造され、撥水性を呈する状態となっているためであり、このような水練り工程を実施することでタルクの親水性を高めて酸処理工程における酸性液体への分散性を高めて酸処理工程の作業性を向上させ得るためである。
また、このような乾式粉砕により製造されたタルクに対して水練り工程を実施することに代えて湿式粉砕により製造されたタルクを用いることも可能である。この湿式粉砕により製造されたタルクとしては、例えば、株式会社山口雲母工業所製のフィットパウダーFK−500S、FK−300S、FKG−30、CT−30、CT−35、AT−350EXなどの商品名で市販されているものを使用することができる。
また、この水練り工程が行われた乾式粉砕タルクや湿式粉砕により製造されたタルクが酸処理工程の作業性向上効果を奏するような親水性が備えられているか否かについては、例えば、常温で静置されたイオン交換水の水面に、乾燥状体のタルクを0.5g程度浮かべて、1時間経過後にその90%以上が水没するかどうかを確認することで判定できる。
【0019】
また、このような基体材料としては、例えば、平均粒径が1〜300μmの鱗片状または板状の鉱物粒子を用いることができる。なお、本明細書中における、前記平均粒径とは、レーザ回折法により求められる累積粒度分布を示す曲線の50vol%の値を意味し、例えば、日本レーザー株式会社から「ロドス」の商品名にて市販のレーザ回折式粒度分布測定装置などにより測定することができる。
【0020】
なお、通常、このような基体材料は、市販品をそのまま使用することができるが、要すれば、分級などを行ってもよい。上記基体材料の表面を被覆する非晶質リン酸カルシウムとは、一般式:Ca3(PO4)2・nH2Oで表されるように結晶水を含んだリン酸三カルシウムであって、特にその結晶構造が非晶質のものを言う。なお、結晶構造が非晶質であることは、非晶質リン酸カルシウムは、結晶水を多く保有しているため、粉末X線回折法のパターンが図5に例示のごとく、結晶質リン酸カルシウムに比べてブロードとなることから確認することができる。
また、本発明の効果を損ねない限りにおいては、上記非晶質リン酸カルシウムのカルシウムの一部に、例えば、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、チタンなどの元素が固溶していたり、あるいは、イオン交換または置換されていたりしてもよく、PO4の一部が、例えば、VO4、SiO4、CO4などの原子団の1種で置換されていても良い。
さらに、リン酸カルシウムが、1種または2種以上の金属酸化物と複合してもよい。金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどがあげられる。
【0021】
前記洗浄工程においては、前述の酸処理時に基体材料の表面から除去された付着物イオンの濃度を低下させて、後段のリン酸カルシウム被覆工程においてこの付着物イオンが基体材料表面への非晶質リン酸カルシウムの被覆を阻害することを抑制させる。
このとき、洗浄後の基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%、好ましくは1〜50質量%で水に分散させた懸濁液がpH2.0以上となるよう洗浄する。
この洗浄工程における洗浄方法としては、前述の漬け洗い状態の基体材料に単に水を加えることで洗浄してもよく、漬け洗い状態の基体材料から遠心脱水法などにより酸性液体とともに前述のような付着物イオンを系外に排出させ脱水した後に基体材料を分散させた懸濁液のpHが2.0以上となるまで水を加えてすすぐ方法などを用いることができ、要すれば、脱水/すすぎを繰り返し行う方法を採用することもできる。
【0022】
なお、前記酸として、塩酸、硝酸、硫酸または、クエン酸などが用いられる場合には、塩素イオン、硫酸イオンなどのリン酸イオン以外のアニオンによりカルシウムイオンが消費されることを抑制し得る点において、この洗浄工程は、基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%、好ましくは1〜50質量%で水に分散させた懸濁液がpH6.0以上となるまで実施することが好ましい。
前記アルカリ工程においては、前述の洗浄工程で洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成する。ここで、基体材料と水酸化カルシウムとを混合して懸濁液をアルカリ性とするのは、酸性状態で後段のリン酸カルシウム被覆工程を行った場合には、加えたリン酸がリン酸水素カルシウムの形成に消費されて、基体材料表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆することが困難となるためである。
【0023】
前記リン酸カルシウム被覆工程においては、アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面に非晶質リン酸カルシウムを付着させる。このとき、前述のごとく懸濁液が酸性状態、特に、pH5.0未満の状態となればリン酸水素カルシウムの形成が生じるおそれを有することから、このリン酸カルシウム被覆工程におけるアルカリ性懸濁液へのリン酸の添加は、pHが5.0以上に維持された状体で行うことが好ましい。なお、要すれば、アルカリ工程とリン酸カルシウム被覆工程とを交互に実施しつつ、pHを5.0以上に維持させてリン酸水素カルシウムの形成を抑制させてもよい。なお、リン酸カルシウム被覆工程においては、リン酸を加えることにより、反応熱で懸濁液の温度が上昇するため、例えば、50℃以下の温度となるよう懸濁液を冷却しつつ実施することが好ましい。この冷却を行うことにより、リン酸を加える工程を複数回に分けて行うことを抑制でき、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法をより効率的なものとすることができる。
【0024】
以上のごとく、製造された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子は、噴霧乾燥やケーキ乾燥など一般的な乾燥手段を採用することができるが、解砕などの工程を必要とせず、解砕時に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子同士が擦れあって、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の表面から非晶質リン酸カルシウムが脱落してしまうことを抑制し得る点から、噴霧乾燥による乾燥手段を採用することが好ましい。
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(試験例)
株式会社山口雲母工業所製マイカ(商品名「Y−2400」)、三信鉱工株式会社製セリサイト(商品名「FSE」)及び日本光研工業株式会社製チタン雲母(商品名「PEARL−GLAZE MV−100R」)の元素分析を蛍光X線分析装置(株式会社リガク製「RIX−2100」)を用いて行った。この結果を、表1に示す。この表からも解るように、セリサイト、マイカの主成分であるK2O、Al2O3、SiO2以外に不純物としてTiO2、Fe2O3などの不純物が含まれている。
そこで、これらマイカ、セリサイト、チタン雲母のそれぞれを0.5gずつ秤量して別々の三角フラスコに入れたものを二組用意し、一組目には、イオン交換水を15g加え、二組目には7.5質量%リン酸(pH0.5)を加えて、スターラーにて1時間攪拌した。ついで、それぞれをNo.1ろ紙を用いてろ過したろ液をイオン交換水で5倍希釈してICP(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「SPS−4000」)にて元素分析を行った。
また、マイカおよびセリサイトについては、2規定の塩酸、1規定の硝酸、2規定の硫酸、1mol/Lのクエン酸を用いて、同様に元素分析を行った。結果を表2に示す。
この表から鱗片状または板状の鉱物粒子をpH1.5以下の酸で処理することによりTiO2、Fe2O3などの不純物が鱗片状または板状の鉱物粒子の表面から除去し得ることが解る。
【0026】
(実施例1)
イオン交換水1リットルに、基体材料としての鱗片状マイカ(株式会社山口雲母工業所製「Y−2400」:平均粒径約9.66μm)450g入れ、攪拌下で7.5質量%リン酸水溶液を1500g加えて10分間攪拌して懸濁液とした後に、この懸濁液を一昼夜静置することにより酸処理工程を実施した。このときの懸濁液のpHをpHメーターにて測定したところ、0.1であった。
さらに、吸引ろ過により鱗片状マイカをろ別し、固形分濃度20%でpHが2.0以上となるまでイオン交換水を加えて再懸濁液を作成することにより洗浄工程を実施した。
次いで、ホモミキサーを用いて水酸化カルシウム37.3gをイオン交換水1リットルに分散させた水酸化カルシウム懸濁液を作成し、前記再懸濁液に対して、該再懸濁液のpHが12.5となるまでこの水酸化カルシウム懸濁液を加えてアルカリ工程を実施しアルカリ懸濁液を作成した。
さらに、このアルカリ懸濁液の液温を、50℃以下になるよう維持しつつ、7.5質量%リン酸水溶液を最終的なpHが6.5となるまで加え30分間攪拌しリン酸カルシウム被覆工程を実施した。
さらに、前述のアルカリ工程とこのリン酸カルシウム被覆工程とを交互に2回ずつ(合計3回ずつ)実施したものをスプレードライヤー(大川原化工機械株式会社製「L−8」)を用いて、噴霧乾燥造粒を行い、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0027】
(実施例2)
洗浄工程でpHが6.0以上となる再懸濁液が得られるまで、イオン交換水での洗浄を実施し、アルカリ工程とこのリン酸カルシウム被覆工程とを交互に合計4回ずつ実施したこと以外は、実施例1と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0028】
(実施例3)
基体材料として、三信鉱工株式会社製セリサイト(商品名「FSE」:平均粒径約8.17μm、平板平面長径平均値約8μm、同短径平均値約5μm、厚さ平均値約0.1μm)を用いた以外は、実施例1と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0029】
(実施例4)
基体材料として、日本光研工業株式会社製チタン雲母(商品名「PEARL−GLAZE MV−100R」:平均粒径約17.65μm)を用いた以外は、実施例1と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0030】
(実施例5)
イオン交換水0.9リットルに、基体材料として乾式粉砕により製造されたタルク(浅田製粉株式会社製「JA−46R」:平均粒径約15.40μm)450g入れ、混練機にて10分間の混練を行い、水練り工程を実施した。この水練り工程後一昼夜放置したものにイオン交換水1リットル加えて、攪拌下で7.5質量%リン酸水溶液を1500g加えて10分間攪拌して懸濁液とした後に、この懸濁液を一昼夜静置することにより酸処理工程を実施した。このときの懸濁液のpHをpHメーターにて測定したところ、0.9であった。
さらに、吸引ろ過によりタルクをろ別し、固形分濃度20%でpHが2.0以上となるまでイオン交換水を加えて再懸濁液を作成することにより洗浄工程を実施した。
次いで、ホモミキサーを用いて水酸化カルシウム37.3gをイオン交換水1リットルに分散させた水酸化カルシウム懸濁液を作成し、前記再懸濁液に対して、該再懸濁液のpHが12.5となるまでこの水酸化カルシウム懸濁液を加えてアルカリ工程を実施しアルカリ懸濁液を作成した。
さらに、このアルカリ懸濁液の液温を、50℃以下になるよう維持しつつ、7.5質量%リン酸水溶液を最終的なpHが6.5となるまで加え30分間攪拌しリン酸カルシウム被覆工程を実施した。
さらに、前述のアルカリ工程とこのリン酸カルシウム被覆工程とを交互に2回ずつ(合計3回ずつ)実施したものをスプレードライヤー(大川原化工機械株式会社製「L−8」)を用いて、噴霧乾燥造粒を行い、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0031】
(実施例6)
乾式粉砕により製造されたタルクに代えて湿式粉砕されたタルク(株式会社山口雲母工業所製「フィットパウダーFK−300S」:平均粒径約15.40μm)を用い、水練り工程を実施しなかったこと以外は実施例5と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0032】
(比較例1)
酸処理工程を実施せず、リン酸カルシウム被覆工程において、8.5質量%のリン酸水溶液を用い最終的なpHが9.0〜10.0のとなるまで加えた事以外は、実施例3と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0033】
(比較例2)
酸処理工程をpH2.0で実施した以外は、実施例1と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0034】
(比較例3)
酸処理工程を実施せず、90℃のイオン交換水3リットルに基体材料を分散させたこと、アルカリ工程において酢酸カルシウム25g/リットルのアルカリ水溶液を用いてアルカリ懸濁液を作成したこと、リン酸カルシウム被覆工程において、前記アルカリ懸濁液を90℃の液温に維持しつつリン酸水素ナトリウム水溶液を用いて最終的なpHが7.0となるまで加えた事以外は、実施例3と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。なお、本比較例は、前記特許文献3に記載の製造方法に準じて非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造したものである。
【0035】
(比較例4)
酸処理工程を実施せず、リン酸カルシウム被覆工程において、8.5質量%のリン酸水溶液を用い最終的なpHが9.0〜10.0のとなるまで加えた事以外は、実施例6と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0036】
(比較例5)
酸処理工程をpH2.0で実施した以外は、実施例6と同様に非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造した。
【0037】
(粒度変化)
実施例1〜4、比較例1〜3にて製造された非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の平均粒径を測定し、基体材料の平均粒径との比較を行った。結果を表3に示す。
【0038】
(油分吸着量)
まず、ブランク試料として非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を350℃×1hの条件で乾燥させたものを準備した。次にこのブランク試料0.5gにオレイン酸4.5gを加え、37℃×24h静置しオレイン酸を吸着させた。さらに、ジエチルエーテル15mlで3回洗浄して風乾し吸着試料とした。
このブランク試料と吸着試料とを、それぞれ14〜17mg程度採取し、窒素ガス気流中にて30℃から600℃までの昇温速度20℃/minでのTG−DTA測定を行い吸油量を求めた。
より具体的には、30〜600℃における加熱残率(%)と30〜150℃における加熱残率(%)との差を減量率(%)として求め、ブランク試料と吸着試料とのそれぞれの減量率(%)の差を吸着率(%)とし、さらにこの吸着率(%)に10を乗じて油分吸着量(mg/g)を求めた。
また、同様にマイカ(「Y−2400」)単体についても同様に油分吸着量を求めた。実施例1、3〜6、比較例2〜5の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の測定結果とマイカ単体の測定結果を併せて表4に示す。
【0039】
(顕微鏡観察)
実施例1、5、6、比較例1〜5の走査型電子顕微鏡写真を図1〜4に示す。
この図から、実施例1では、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子Aが基体材料状態と同等にばらばらな状態となっており、さらに、細かな球状の非晶質リン酸カルシウムBが基体材料の表面全体に均一に付着していることがわかる。また、この細かな球状の非晶質リン酸カルシウムが基体材料の表面全体に均一に付着している状態は実施例5、6でも同様である。なお、ここでは実施例5の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子のより拡大された走査型電子顕微鏡写真は実施例6のものと同様であるため省略している。
また、比較例1、2、4、5では、基体材料の表面は大きな棒状の非晶質リン酸カルシウムCで粗く覆われ、部分的には、基体材料が露出している基体露出部Dが見られる。さらに、比較例3では、多くの基体粒子が凝集した直径100μm近くの巨大粒子Eが形成されてしまっている。さらに、この比較例3の巨大粒子Eの表面も大きな棒状の非晶質リン酸カルシウムCで粗く覆われ、部分的には、基体材料が露出している基体露出部Dが見られる。
このような、非晶質リン酸カルシウムの被覆状況や非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の形状の違いは、表3、表4に示す平均粒径や油分吸着量にも表れている。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
以上に示す通り、鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子を製造するに際し、基体材料とpH1.5以下の酸とを混合することにより、前記基体材料の表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程、該酸処理工程にて処理された基体材料を洗浄して、該洗浄された基体材料を分散させた懸濁液のpHを2.0以上とする洗浄工程、該洗浄工程により洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成するアルカリ工程、該アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面に非晶質リン酸カルシウムを付着させるリン酸カルシウム被覆工程が実施されることにより、基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムにて、より広範囲な部分に被覆させることができ、非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の被覆率を向上させ得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1a】実施例1の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図1b】図1aの拡大写真。
【図1c】図1bの拡大写真。
【図2】実施例5の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図3a】実施例6の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図3b】図3aの拡大写真。
【図4】比較例1の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図5】比較例2の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図6a】比較例3の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図6b】図6aの拡大写真。
【図7】比較例4の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図8】比較例5の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の走査型電子顕微鏡写真。
【図9】非晶質リン酸カルシウムと結晶質リン酸カルシウムとの粉末X線回折チャート。
【符号の説明】
【0046】
A 非晶質リン酸カルシウム被覆粒子
B 球状の非晶質リン酸カルシウム
C 棒状の非晶質リン酸カルシウム
D 基体露出部
E 巨大粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法であって、
(1)基体材料とpH1.5以下の酸とを混合することにより、前記基体材料の表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程、
(2)基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%で水に分散させた懸濁液のpHが2.0以上となるように、前記酸処理工程にて処理された基体材料を洗浄する洗浄工程、
(3)該洗浄工程により洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成するアルカリ工程、
(4)該アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させるリン酸カルシウム被覆工程、
が実施されることを特徴とする非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項2】
前記酸処理工程の酸としてリン酸を用いる請求項1記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項3】
前記酸処理工程の酸として塩酸、硝酸、硫酸または、クエン酸の何れかを用い、且つ、前記洗浄工程の洗浄として、基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%で水に分散させた懸濁液のpHが6.0以上となるように洗浄を行う請求項1記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項4】
マイカ、セリサイト、タルクのいずれかが用いられてなる基体材料を用いる請求項1乃至3のいずれかに記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項5】
タルクが用いられてなる基体材料を用い、該基体材料と基体材料の0.1〜3倍の重量の水とを混練する水練り工程を前記酸処理工程前に実施する請求項4に記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法により製造されたことを特徴とする非晶質リン酸カルシウム被覆粒子。
【請求項1】
鱗片状または板状の鉱物粒子の少なくとも1種からなる基体材料を非晶質リン酸カルシウムで被覆した非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法であって、
(1)基体材料とpH1.5以下の酸とを混合することにより、前記基体材料の表面をpH1.5以下の酸で洗浄処理する酸処理工程、
(2)基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%で水に分散させた懸濁液のpHが2.0以上となるように、前記酸処理工程にて処理された基体材料を洗浄する洗浄工程、
(3)該洗浄工程により洗浄された基体材料と水酸化カルシウムとを混合したアルカリ性の懸濁液を作成するアルカリ工程、
(4)該アルカリ工程において作成されたアルカリ性懸濁液にリン酸を加えることにより基体材料の表面を非晶質リン酸カルシウムで被覆させるリン酸カルシウム被覆工程、
が実施されることを特徴とする非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項2】
前記酸処理工程の酸としてリン酸を用いる請求項1記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項3】
前記酸処理工程の酸として塩酸、硝酸、硫酸または、クエン酸の何れかを用い、且つ、前記洗浄工程の洗浄として、基体材料を固形分濃度0.1〜50質量%で水に分散させた懸濁液のpHが6.0以上となるように洗浄を行う請求項1記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項4】
マイカ、セリサイト、タルクのいずれかが用いられてなる基体材料を用いる請求項1乃至3のいずれかに記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項5】
タルクが用いられてなる基体材料を用い、該基体材料と基体材料の0.1〜3倍の重量の水とを混練する水練り工程を前記酸処理工程前に実施する請求項4に記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の非晶質リン酸カルシウム被覆粒子の製造方法により製造されたことを特徴とする非晶質リン酸カルシウム被覆粒子。
【図9】
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2007−1851(P2007−1851A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273957(P2005−273957)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】
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