非晶質合金の熱可塑鋳造
【課題】好適なガラス形成合金を熱可塑鋳造するための方法、装置およびそれにより製造される金属製品を提供する。
【解決手段】この方法は、結晶化抵抗が最小である温度Tnoseより低くガラス転移温度Tgより高い熱可塑ゾーン内の温度に合金を保持して連続処理またはバッチ処理する熱可塑鋳造を行なった後に、急冷工程により外囲温度にまで冷却する。この熱可塑鋳造プロセスを実施するための装置および熱可塑鋳造プロセスによって形成された製造物も提供する。
【解決手段】この方法は、結晶化抵抗が最小である温度Tnoseより低くガラス転移温度Tgより高い熱可塑ゾーン内の温度に合金を保持して連続処理またはバッチ処理する熱可塑鋳造を行なった後に、急冷工程により外囲温度にまで冷却する。この熱可塑鋳造プロセスを実施するための装置および熱可塑鋳造プロセスによって形成された製造物も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質合金の新規な鋳造方法に関し、詳しくは、非晶質合金の熱可塑鋳造に関する。
【背景技術】
【0002】
今日用いられている合金の多くは、何らかの形の凝固鋳造で処理されている。凝固鋳造では、合金を溶解し、金属製またはセラミック製の鋳型に鋳造し、凝固させる。その後、鋳型を取り外して、鋳造物をそのまま用いるか、あるいは更に処理を施す。工業規模の鋳造技術は、大きく分けて2つのグループがあり、1つは消耗鋳型方式で、他の1つは永久鋳型方式である。消耗鋳型方式は、鋳型を1回だけ使う方式であり、一例としてインヴェストメント鋳造では鋳型として耐火物のシェルを用いる。永久鋳型方式では、金属製またはグラファイト製の鋳型を繰返し使用して何回も鋳造を行なう。
【0003】
永久鋳型方式は鋳型への注湯機構によって分類できる。1つの形式は、重力下すなわち小さい溶湯圧の下で金属溶湯を鋳型へ注入(注型)する。もう1つの形式はダイキャストであり、水圧ピストンなどを用いて例えば500psi(ポンド/平方インチ)というような比較的高い圧力下で注型する。この形式では、鋳型内壁面が構成する形状に金属溶湯を強制的に当て嵌める。深い窪み等を含む複雑な形状を持つダイキャスト鋳型に金属溶湯を強制的に押し込むことができるので、重力鋳造で簡単に得られえる形状に比べて複雑な形状の鋳造が可能である。ダイキャスト鋳型は通常、割り型形式であり、二つの半型を分離すれば鋳造製品が現われるので、型からの鋳造製品の取り出しが容易である。
【0004】
高速ダイキャスト機が開発されて製造コストが安くなったため、一般消費者向けや工業用の小さい金属鋳造品の多くがダイキャストで製造されている。このダイキャスト機は、溶融金属の1チャージまたは「1ショット」を融点より高温に加熱して、少なくとも数千ポンド/平方インチのピストン加圧下で閉鎖鋳型内に注型する。金属が急速に凝固し、半型が開いて、鋳造品が排出される。工業生産用ダイキャスト機の構成としては、多数の鋳型セットを備えていて、次の製品を鋳造するのと併行して、前の製品が冷えて型から排出され、更に次の鋳造に備えて型に潤滑剤を塗布して準備するという構成にしてもよい。
【0005】
上記の方法は高速で製品を製造するには有効であるが、特有の問題点が幾つかある。例えば、工業生産用ダイキャスト機で溶融金属をダイキャスト型内に押し込むと、先ず溶融金属は両側の型壁面で凝固する。その結果、鋳造製品の表面に乱流による欠陥が生ずる。
更に、凝固シェルの内側に未凝固の液体が捕捉されて、ダイキャスト型の中心線に沿った位置に引け巣やポロシティー(多孔質巣)が発生する傾向がある。
【0006】
また、高圧・高速で注型が行なわれるため、金属溶湯が乱流状態になる。実際、多くの場合に、金属溶湯を粒状化した「スプレー」として注型されている。この乱流のために、鋳造品の表面に切れ目が発生するばかりでなく、凝固途中の金属内にガスが捕捉されて鋳造品の中心にポロシティーが発生する。液体金属が粒状化するため、鋳造品の内部に内部境界も生じて、製品の強度が低下する。そのため、全体としてダイキャスト鋳造品は多孔質で健全性が低く、機械的性質が劣る。その結果、ダイキャスト品は、高い機械的強度および性能の必要な用途には通常用いられていない。
【0007】
非晶質合金(ガラス形成合金、金属ガラス合金)は原子レベルの構造が従来の結晶質合金とは異なっており、結晶質合金のような長範囲の規則性が無い。一般に非晶質合金を製造するには、溶融合金を結晶相の融点(熱力学的な融点)より高温から非晶質相の「ガラス転移温度」より低温にまで「十分速い」冷却速度で冷却することにより、合金の結晶の核発生および成長を回避する。したがって、これまで非晶質合金の処理方法といえば、非晶質相の生成を確保するために、必ず「十分速い冷却速度」すなわち「臨界冷却速度」を求めることが関係していた。
【0008】
初期の非晶質合金は「臨界冷却速度」が極めて高速であり、106℃/secのオーダーであった。一般的な鋳造方法はこのような高速冷却には適さないため、特殊な鋳造方法として溶湯スピニング法や平坦溶湯流法などが開発された。溶湯からの抜熱を極めて短時間(10-3sec以下のオーダー)で行なう必要があるため、初期の非晶質合金は少なくとも一方向については寸法が限定されていた。例えば、上記の特殊な方法で製造できるのは非常に薄い箔やリボン(厚さ25μmのオーダー)のみであった。
【0009】
非晶質合金材料は多くの特性が優れているにもかかわらず、臨界冷却速度を満たせる製品サイズが極めて限られていたため、初期の非晶質合金はバルク材料として用いるには限界があった。何年かを経た後に、「臨界冷却速度」は非晶質合金の化学組成に強く依存していることが判明した。(ここで、「組成」は酸素などの付随不純物も含めた意味で用いる。)そこで、臨界冷却速度が大幅に低い合金組成が探し求められてきた。
【0010】
この十年くらいの間に、バルク凝固による非晶質合金系(バルク金属ガラス合金、バルク非晶質合金)が幾つか開発された。例えば、アメリカ合衆国特許5,288,344、同5,368,659、同5,618,359、同5,735,975に開示された合金がある。これらの各合金系は臨界冷却速度が数℃/sec程度という低さであり、それ以前に比べて遥かに大きいバルク非晶質合金製品を得ることが可能になった。
【0011】
低い「臨界冷却速度」ならバルク凝固非晶質合金に適用できるので、従来の鋳造法を用いて、非晶質相を持つバルク製品を形成することが可能になった。「熱流」の方程式を用い単純な近似を行なえば、臨界冷却速度に基づいて非晶質製品の「臨界鋳造寸法」すなわち非晶質相を維持できる鋳造品の最大寸法を求めることができる。例えば、「臨界鋳造寸法」は非晶質合金製品の形状で異なり、長尺の棒材なら鋳造可能な最大直径であり、板材なら鋳造可能な最大厚さであり、管材なら鋳造可能な最大肉厚である。
【0012】
バルク鋳造非晶質合金は、「臨界冷却速度」が低いばかりでなく、アメリカ合衆国特許5,711,363に記載されているように、ダイキャスト鋳造を適用した際に有利な点が他にもある。例えば、バルク凝固非晶質合金は多くの場合、共晶組成の近傍にあるため、ダイキャストを行なうための温度が比較的低い。更に、高温からの冷却過程で、これまでの凝固のような意味では液体/固体の変態が起きない。その代わりに、バルク凝固非晶質合金は温度低下に伴って粘性が高まり、最終的には極めて粘性の高い状態になって固体として振舞うようになる(過冷却液体とも表現されている)。非晶質合金は液体/固体の変態が起きないので、凝固温度で急激に不連続的に体積変化する、ということがない。通常の合金では、この体積変化が鋳造品の中心線引け巣やポロシティー発生の主因であった。これはバルク凝固非晶質合金では発生しないので、ダイキャスト製品の健全性や品質が一般合金のダイキャスト製品より優れている。
【0013】
上記のように、バルク凝固非晶質合金は特にダイキャスト法および永久鋳型法における従来の基本的な凝固欠陥に対してある程度の改善策とはなっているが、更に対処すべき問題点が残されている。先ず、バルク凝固非晶質合金の製品寸法を更に大きくすることであり、加えて、バルク凝固製品を製造できる合金組成の範囲を広げることである。現状では、臨界鋳造寸法の大きいバルク凝固非晶質合金は、特性やコストの観点からは必ずしも最適ではない金属をベースにした数グループの合金組成に限られている。そこで、このような組成上の限界を打ち破ることが急務である。
【0014】
バルク凝固非晶質合金を処理および形成する従来の方法では、溶融合金を熱力学的な溶融温度より高い温度からガラス転移温度より低い温度にまで冷却する過程を、一段階の単調な冷却によって行なっていた。例えば、金属製の鋳型(銅、鋼、タングステン、モリブデン、これらの複合材料、等の高熱伝導率材料で作製)を外囲温度のまま用いて、合金溶湯からの抜熱を促進していた。そのため、従来の技術では、臨界冷却速度と「臨界鋳造寸法」との関係は一段階単調冷却方式に基づいていた。そして、従来方法では「臨界鋳造寸法」が厳しく限定されており、広範囲の組成のバルク凝固非晶質合金についてバルク製品の寸法を大きくするのには適さなかった。
【0015】
バルク凝固非晶質合金を一段階単調冷却する方式では、融点より高い温度からガラス転移温度より低い温度までの温度降下が急速なので、両側の型壁面での凝固シェル生成も急速に起きる。この凝固シェルが鋳型壁近傍の溶湯の流れを妨害するため、非常に微細な鋳型形状の転写が不十分になる。そのため多くの場合、特に鋳造品が複雑形状で高精度のものであれば、合金が凝固する前に十分な量の溶湯を型内に導入できるように、溶湯を高速かつ高圧で鋳型内に注入することが必要になる。溶湯が高圧・高速で型内に供給されるので、加圧ダイキャストと同様に、溶湯が乱流状態になる。実際、多くの場合に、バルク凝固非晶質合金溶湯の粒状化した「スプレー」を用いて型を充填する。従来材料を用いた加圧ダイキャスト法においてと同様に、この乱流の作用によって鋳造品の表面に切れ目が発生するばかりでなく、凝固途中の金属内にガスが捕捉されて鋳造品の中心にポロシティーが発生する。液体金属が粒状化するため、鋳造品の内部に内部境界も生じて、製品の強度が低下する。最終的には、乱流によって流れパターンに沿ったシアバンドおよびセレーションが形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、非晶質合金の新規な鋳造方法、詳しくは、非晶質合金の熱可塑鋳造方法および装置およびそれにより製造される金属製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、適切なガラス形成合金の熱可塑鋳造を行なうための熱可塑鋳造方法および装置に関する。本発明は、本発明の熱可塑鋳造により製造された非晶質合金製品も含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非晶質合金の新規な鋳造方法、詳しくは、非晶質合金の熱可塑鋳造方法および装置およびそれにより製造される金属製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の熱可塑鋳造方法の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明の熱可塑鋳造方法を説明するグラフである。
【図3】2種類の非晶質合金について結晶化特性を比較して示すグラフである。このグラフは時間−温度−変態(Time-Temperature-Transformation:TTT)図と呼ばれるものであり、種々の過冷温度で液体の結晶化が開始するまでの時間を示している。
【図4a】本発明の第一例の非晶質合金についてDSCを示す模式グラフである。
【図4b】本発明の第二例の非晶質合金についてDSCを示す模式グラフである。
【図5】本発明の合金の時間−温度−変態(Time-Temperature-Transformation:TTT)図である。
【図6】非晶質合金の性質に及ぼす歪み速度と温度の影響を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。
【図8】液体合金が鋳型を通過する際の液体中心の温度の経時変化を示すグラフである。
【図9】本発明の熱可塑鋳造プロセスを従来の鋳造プロセスと比較して示すグラフである。
【図10】本発明の非晶質合金の時間−温度−変態図(TTT図)である。
【図11】非晶質合金の粘度と温度との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置の一部分を模式的に示す断面図であり、溶湯と鋳型との界面において非滑り状態を維持するのに必要な条件を示している。
【図14】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置の拡張セクションを模式的に示す断面図である。
【図15】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。この装置は、非晶質合金と第二の材料との混合物を含む複合材料を製造するために用いる。
【図16】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。この装置は、紐状線材を製造するために用いる。
【図17】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。
【図18】図17に示した本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置の熱交換器セクションを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1つの実施形態においては、本発明により連続プロセスでバルク凝固非晶質合金を熱可塑鋳造する方法および装置は、先ず工程Aとして合金を中間熱可塑成形温度にまで冷却し、次に工程Bとして均一な温度分布をほぼ一定に加熱・維持して固化させる。工程Bに次いで、最終の急冷工程である工程Cとして、最終的な鋳造製品を外囲温度にまで冷却する。この実施形態においては、ガラス転移温度の上方にある熱可塑帯域内に熱可塑成形温度を設定し、液体のレオロジー特性を利用して実用的な圧力を用い合金の結晶化を回避できる十分な短時間内で合金の成形および形成を行なうことができる。
【0021】
もう1つの実施形態においては、バッチプロセスにより熱可塑鋳造を行なう。
【0022】
更にもう1つの実施形態においては、工程Bで用いる熱可塑成形温度をガラス転移温度より高温で結晶化温度Tnoseより低温にする。ここでTnoseは、結晶化が最も急速に最短時間で起きる温度である。Tnoseより低温では、結晶化開始までの時間tx(T)は温度に依存しており、温度低下に伴って単調に増加する。この実施形態では、熱可塑成形温度を適切に設定することにより、結晶化開始時間をTnoseでの最短結晶化時間に対して大幅に長時間側に移動させ、十分な固化時間を得ることができる。
【0023】
更にもう1つの実施形態においては、加熱した鋳型あるいは金型内で合金を固化させる。この実施形態では、鋳型あるいは金型を望ましくは合金のガラス転移温度から150℃以内に保持する。合金溶湯が鋳型または金型と平衡し、鋳型または金型の温度と等しい温度にほぼ均熱化される。一例として、フィードバック制御システムを用い、ガス冷却等による積極的な冷却と積極的な加熱とを行なって、鋳型または金型の温度を一定に維持する。
【0024】
更にもう1つの実施形態においては、工程Aにおいて鋳型または金型の温度をTgから約150℃以内に維持し、工程Bにおいて鋳型または金型の温度をTgから約150℃以内に維持する。1つの望ましい実施形態では、工程Aにおいて鋳型または金型の温度をTgから約50℃以内に維持し、工程Bにおいて鋳型または金型の温度をTgから約50℃以内に維持する。
【0025】
更にもう1つの実施形態においては、工程Aにおいて鋳型または金型の温度を工程Bにおける鋳型または金型の温度より高温に維持する。1つの望ましい実施形態では、工程Bにおいて鋳型または金型の温度を工程Aにおける鋳型または金型の温度より高温に維持する。
【0026】
更にもう1つの実施形態においては、工程Bの所要時間は工程Aの所要時間の約5倍〜15倍である。1つの望ましい実施形態では、工程Bの所要時間は工程Aの所要時間の約10倍〜100倍である。もう1つの望ましい実施形態では、工程Bの所要時間は工程Aの所要時間の約50倍〜500倍である。
【0027】
更にもう1つの実施形態においては、工程Bにおいて過冷溶湯に負荷する圧力は工程Aにおいて溶湯に負荷する圧力の約5〜15倍である。更にもう1つの実施形態においては、工程Bにおいて過冷溶湯に負荷する圧力は工程Aにおいて溶湯に負荷する圧力の約10倍〜100倍である。更にもう1つの実施形態においては、工程Bにおいて過冷溶湯に負荷する圧力は工程Aにおいて溶湯に負荷する圧力の約50倍〜500倍である。
【0028】
更にもう1つの実施形態においては、工程Bにおいて過冷合金の前端をdog-tail工具内に導入し、その後この工具を利用して非晶質合金製品を連続的に抽出する。
【0029】
更に別の実施形態においては、鋳型または金型内に溶湯を適切な時間だけ滞在させることにより、溶湯の温度を鋳型または金型の温度と等しく且つほぼ均一にする。1つの望ましい実施形態においては、固化時間は約3sec〜200secであり、更に望ましくは約10sec〜100secである。
【0030】
更に別の実施形態においては、鋳型または金型全体に渡って溶融合金の流速を所望の一定速度または一定歪速度に維持する。1つの望ましい実施形態においては、歪速度は約0.1〜100sec-1である。
【0031】
更にもう1つの実施形態においては、圧力を用いて合金溶湯を鋳型内を移動させる。望ましくは、圧力は約100MPa未満とし、更に望ましくは約10MPa未満とする。
【0032】
更にもう1つの実施形態においては、本発明に用いる鋳型または金型は、永久鋳型または消耗鋳型、閉鎖金型または閉鎖キャビティ金型、および開放キャビティ金型のいずれかである。
【0033】
更にもう1つの実施形態においては、二次元非晶質合金製品を連続的に製造できる押出し型が提供される。ここで二次元製品は、シート、プレート、棒材、管材などである。1つの望ましい実施形態においては、製品は、厚さ約2cm以下のシートまたはプレートあるいは直径約1m以下、肉厚約5cm以下の管材である。
【0034】
更にもう1つの実施形態においては、ガラス合金の熱可塑鋳造のための金型工具が提供される。ここで金型工具は、拡張ゾーンを備えており、この拡張ゾーン内で溶湯が急速に冷却され薄い限定された断面積の結晶化ゾーンを通り、または、この拡張ゾーンが熱交換器であり、溶湯を十分急速に冷却して中心線温度をTnoseの結晶化ノーズより低温にさせ、その後溶湯は工具の厚さの大きい部分に広がっていく。この実施形態では、上記の限定された断面積の結晶化ゾーンは望ましくは厚さが約0.1〜5mmであり、拡張ゾーンは厚さが約1mm〜5cmである。
【0035】
更にもう1つの実施形態においては、鋳型は入口表面が粗化されていて溶湯との接触が確保され、出口表面は研磨されていて鋳型と溶湯との界面で滑りが可能になっている。この実施形態の1つにおいては、出口に潤滑剤を用いて滑りを促進する。
【0036】
更にもう1つの実施形態においては、拡張ゾーンは溶湯の滑りを無くす粗化表面をも備えている。この実施形態の1つにおいては、拡張ゾーンはピッチ角度が約60°未満、望ましくは約40°未満である。
【0037】
更にもう1つの実施形態においては、鋳型は割り型であり、開いて最終製品を排出できる。
【0038】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金はZr−Ti合金であり、TiとZrの合計含有量が合金全体の約20at%以上である。より望ましい実施形態においては、非晶質合金はZr−Ti−Nb−Ni−Cu−Be合金であり、TiとZrの合計含有量が合金全体の約40at%以上である。もう1つの望ましい実施形態においては、非晶質合金はZr−Ti−Nb−Cu−Al合金であり、TiとZrの合計含有量が合金全体の約40at%以上である。
【0039】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金はFe基合金であり、Fe含有量が合金全体の約40at%以上である。
【0040】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金は臨界冷却速度が約1000℃/sec以下であり、前記の熱交換器はチャネル幅が約1.5mm以下である。もう1つの実施形態においては、非晶質合金は臨界冷却速度が約100℃/sec以下であり、前記の熱交換器はチャネル幅が約5.0mm以下である。
【0041】
更にもう1つの実施形態においては、本発明の熱可塑鋳造方法および装置により製造された製品が提供される。この製品としては、時計、コンピュータ、携帯電話、インタネット用無線機器等の電子製品などのケースや、ナイフ、メス、医療インプラント、歯列矯正具などの医療器具や、ゴルフクラブ、スキー用品、テニスラケット、野球のバット、スキューバ用品などのスポーツ用品その他、種々の器具類が含まれる。
【0042】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金製品が提供され、この非晶質合金は臨界冷却速度が約1000℃以上であり、最小寸法が約2mm以上、望ましくは約5mm以上、更に望ましくは約10mm以上である。
【0043】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金製品が提供され、この非晶質合金は臨界冷却速度が約100℃以上であり、最大臨界鋳造厚さが約6mm以上、望ましくは約12mm以上、更に望ましくは約25mm以上である。
【0044】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金製品が提供され、この非晶質合金は臨界冷却速度が約10℃以上であり、最大臨界鋳造寸法が約20mm以上、望ましくは約50mm以上、更に望ましくは約100mm以上である。
【0045】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金製品が提供され、この非晶質合金製品は断面のアスペクト比が約10以上、望ましくは約100以上である。
【0046】
更にもう1つの実施形態においては、合金製品は弾性限が約1.5%以上、望ましくは約1.8%以上であり、更に望ましくは弾性限が約1.8%以上で且つ曲げ延性が約1.0%以上である。
【0047】
更にもう1つの実施形態においては、製品は作用表面の凹凸が約10μm未満である。
【実施例】
【0048】
本発明は、処理中の非晶質合金溶湯の温度、圧力、歪速度を制御して非晶質合金を擬塑性状態で成形する熱可塑鋳造(TPC:thermoplastic casting)と呼ぶプロセスにより、均質かつ高品質のバルク金属ガラス(非晶質合金)のネットシェープ製品を製造するための処理方法および処理装置を提供する。
【0049】
本発明は、過冷ガラス形成液体が結晶質固相(または混合相)の融点Tmより低温でガラス転移温度Tgまで冷却されて凍結固体となる変遷に伴って、この液体が結晶化を起こす時間tX(T)が系統的かつ予測可能に変化するという事実に基づいている。
【0050】
結晶化時間のこの変化は、金属学の文献では、時間−温度−結晶変態(TTT図)または連続冷却結晶変態図(CCT図)によって説明されることが多い。本発明においては、TTT図に着目した。図2に、TTT図の一例を模式的に示す。図示したように、TTT図は、過冷液体をある処理温度(TmとTgとの間の温度)に保持したときに所定の検出可能分率(典型的には5%程度)が結晶化するのに要する時間tX(T)をプロットしたものである。TTT図を作成するには、液体を溶融し(Tmより高温で)、過冷範囲内の所定の温度(T)まで速めに冷却し、結晶化が始まるまでの時間を測定する。これまでに多くのガラス形成合金についてTTT図が作成されている。図中で結晶化領域は特徴的な「C形」に現われる。
【0051】
図2、図3に示したように、TgとTmとの真中付近にあるTnoseと呼ばれる温度で結晶化は最短時間tXで起きる。本発明者はこの最短時間をTTT図の代表パラメータとしてtX(T)で表す。以下にtXの測定例を説明する。Tnoseより上でも下でも結晶化開始時間は急激に増加する。したがって、tXより短時間で一度Tnoseより下まで冷却すれば、結晶化開始時間は温度降下と共に増加し、tXより遥かに長時間になるので、結晶化のリスク無くtXより遥かに長い時間をかけて処理を行なうことができる。
【0052】
Tnoseより低温の液体を処理するには、圧力または応力下で液体を成形しなくてはならない。応力または圧力は液体のレオロジー特性によって異なる。バルク金属ガラス形成液体はTnoseよりかなり低温で完全に流動性があり、比較的低い圧力(例えば1〜100MPa)で実用的な時間内(1〜300sec)で成形が可能である。本発明者は、この特性を凝固鋳造に利用して、同時に、バルク凝固非晶質合金の「C」形特性も利用して、多段階の冷却操作をすることができる、という驚くべき事実を見出した。バルクガラス形成液体の粘度およびレオロジー特性を測定し、既知のTTT図と組み合わせ、これに基づいて本発明を完成させた。すなわち、特徴的なTTT図の「C」形状と、ガラス形成液体の粘度の温度依存性とを組み合わせることにより、多段階温度域冷却(図2、図3に模式的に示す)を用いて下記のプロセスを設計できる。
【0053】
(1)Tmより高い温度からTnoseより低い温度Tまで急速冷却することにより、冷却中の結晶化を回避する。
【0054】
(2)TgとTmとの間の熱可塑成形温度で、軽い圧力下で成形操作を行なって、合金の結晶化を回避する。この工程はtXより長時間かけて行なうことができる。
【0055】
(3)実質的に非晶質の製品を得る最終の冷却段階であって、製品を熱可塑成形温度から外囲温度にまで持ち来たす。
【0056】
本発明では詳細な形態のTTT図を用いている。その形態は処理対象とする合金毎に異なる。更に、同等あるいは類似の「臨界冷却速度」すなわち臨界鋳造寸法を持つと見なされる合金同士でも、このTTT図が実質的に異なることがある。すなわち、TTT図のノーズでの結晶化を回避するように最初の冷却段階を設定してあるので、一旦この段階が完了すれば結晶核生成の最短時間による制限を受けずに成形処理を行なうことができる。その結果、本発明の多段階処理を用いれば一段階処理における「臨界鋳造寸法」を克服できる。そして、一段階処理よりも鋳造厚さを大きくできる。すなわち、本発明の方法を採用することにより、外囲温度の鋳型を用いて一段階の単調な冷却で鋳造していた従来の方法における臨界寸法の限界を克服できる。本発明の多段階プロセスを採用すれば、同一のガラス形成合金についての臨界鋳造寸法を拡大できる。従来なら限界組成だったガラス形成溶湯の処理可能性を高めて、実用的な非晶質合金の範囲を大幅に拡大することができる。
【0057】
更に、本発明によれば、所定の温度範囲において圧力および/または歪速度を制御することにより、アスペクト比を高め、許容誤差を低減し、鋳型形状の転写精度を高めた高品質の製品を非晶質合金製品から成形できる。すなわち、健全性、一体性、機械的性質が極めて優れた高品質、高精度でネットシェープの実質的に非晶質の合金製品を製造できる。
ここで「実質的に非晶質」とは、最終的な鋳造製品の50vol%以上、望ましくは90vol%以上、最も望ましくは99vol%以上が、原子レベルの構造が非晶質であることを意味する。これらの根拠についての詳細は、以下の実施例および望ましい実施形態で説明する。
【0058】
本発明の基本的な方法の一実施形態を、図1にフローチャートで、図2にグラフで、それぞれ示す。第1段階として、所定のバルク凝固合金を先ず熱力学的溶融温度(Tm)より高温で溶解して非晶質合金の溶湯を作成する。以下で実施例として特定の非晶質合金を説明するが、これに限定する必要はなく、結晶化ノーズTnoseとガラス転移温度Tgとの間の冷却過程で熱可塑成形ゾーン内に安定して保持できて、かつ、この熱可塑成形ゾーン内で合金処理に十分な時間維持できるバルク凝固非晶質合金あるいはバルク金属ガラス合金であれば、本発明に用いることができる。そのようなバルク凝固非晶質合金の典型例は、例えばアメリカ合衆国特許5,288,344および同5,368,659に記載されている。
【0059】
最初の加熱および溶解に引き続いて、得られた合金溶湯を鋳造機に供給して3段階の処理を行なう。最初の段階すなわち工程Aとして、合金溶湯を急冷して臨界結晶化温度Tnoseより低くガラス転移温度Tgより高い温度にする。前述のように、この温度範囲を合金の「熱可塑ゾーン」と呼ぶ。TTT図における「ノーズ」の例は図2、3、5を参照。
【0060】
工程Bにおいては、合金を所望形状に成形するのに十分な時間、合金の温度を熱可塑ゾーンに維持する。ただし、この成形時間は結晶化開始を回避するのに十分な短い時間とする。前述のように、材料毎にTTT図(例えば図2、3、5)を用いることにより、熱可塑温度Tにおいて結晶化開始までに使える時間tX(T)を設定できる。処理時間はこれよりも短時間とする。
【0061】
最後に、工程Cとして、熱可塑温度から外囲温度付近にまで急冷して、完全に固化した製品を得る。この急冷プロセスあるいは最終「チル」プロセスにおいては、固化した製品をバッチ処理製品として取り出すか、または連続鋳造製品として引き抜く。
【0062】
図2、3に、仮想の合金溶湯を熱可塑鋳造する際の結晶化についての時間−温度−変態(TTT)図の典型例を示す。どちらの図も、TTT図に上述の各工程を重ね合わせて示してる。TTT図は、合金溶湯を平衡融点Tmeltより低温に過冷した際の、よく知られている結晶化挙動を示している。上述したように、非晶質合金の温度が融点より低い温度に降下した際、臨界値tX(T)より短時間でガラス転移温度まで急冷しないと、合金は全体に結晶化する、ということは良く知られている。この臨界値はTTT図から求められ、過冷温度に依存している。しかし、Tnoseより低く固体ガラス領域より高い温度域に処理可能区域あるいは熱可塑区域があり、本発明の方法では、先ず合金を融点より高い温度からこの熱可塑温度(Tnoseより低温)にまで十分急速に冷却することにより、その合金のTTT図のノーズ領域(Tnoseは、結晶化が最短時間で起きる温度)を迂回して結晶化を回避する。
【0063】
合金の歪速度または注入速度に応じて、シアバンドのような流れパターンの不安定性を回避するために必要な最低熱可塑成形温度も存在する。本発明の望ましい実施形態においては、この最低温度より高い熱可塑成形温度を用いる。すなわち工程Aでは、(1)熱可塑成形温度に保持した鋳型内に合金溶湯を注入し、(2)鋳型を適切に選定しておくことにより、溶湯がどの部位でも全て(表面から中心線まで)十分急速に冷却されて結晶化「ノーズ」温度Tnoseを通過する際の結晶化を回避し、(3)最終熱可塑成形温度を十分高温に設定することにより、シアバンド発生のような溶湯流の不安定性を回避する。次いで、合金を工程Bの熱可塑成形温度に保持し、成形を行なう。工程Bは、熱可塑成形温度で行ない、この温度での結晶化を回避できる十分な短時間で完了しなくてはならない。前述したように、この時間tX(T)はTTT図で求まる。図3に示したように、用いるバルク金属ガラスは特に制限しないが、工程Aで結晶化を回避するための冷却速度および工程Bで合金を熱可塑領域に維持して成形できる時間の長さは、用いる合金のTTT図、特にtX(T)曲線の形状によって大きく異なる。
【0064】
例えば、Zr−Ti−Ni−Cu−Be基非晶質合金であるVitreloy-1(商品名:Liquidmetal Technologies社製)は、限界組成の非晶質合金(例えばVitreloy-101(商品名):Liquidmetal Technologies社製)に比べて10倍位長い時間熱可塑温度範囲での成形が可能であり、この成形時間は、他の非晶質合金、例えばVitreloy-4、Vitreloy-1b(Liquidmetal Technologies社製)を用いることにより更に延長できる。同様に、工程Aで高い溶湯温度から熱可塑温度にまで冷却する速度は、結晶化「ノーズ」で観察される最短結晶化時間tX(T)に依存している。したがって、工程A、工程Bにおいて要求される臨界冷却速度は用いる合金のTTT図の詳細な形状に依存している。
【0065】
上記ではVitreloyシリーズの合金を用いて実施形態を説明したが、本発明ではその他のどのようなバルク凝固非晶質合金をも用いることができ、望ましい実施形態においては、バルク凝固非晶質合金は示唆走査熱量計(DSC)でガラス転移が観察できる。更に、バルク凝固非晶質合金の供給材料は、20℃/minでDSCにより測定したΔTsc(過冷液体領域:supercooled liquid region)が約30℃より大であることが望ましく、約60℃より大であることが更に望ましく、約90℃より大であることが更に望ましい。ΔTscが約90℃より大である合金の適例としてZr47Ti8Ni10Cu7.5Be27.5がある。アメリカ合衆国特許5,288,344、同5,368,659、同5,618,359、同5,032,196、同5,735,975には、ΔTscが約30℃以上である諸系列のバルク凝固非晶質合金が開示されている。ここで、ΔTscは、20℃/minでDSCにより測定したTX(結晶化開始点)とTg(ガラス転移開始点)との差である。
【0066】
本発明のバルク凝固非晶質合金として適した合金系列の1つは、一般表示すると(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)cであり、aは約30at%〜75at%、bは約5at%〜60at%、cは約0at%〜50at%である。
【0067】
バルク凝固非晶質合金のもう1つの合金系列としては鉄基合金であり、例えばFe、Ni、Coをベースにした組成である。具体例としては、アメリカ合衆国特許6,325,868、日本特許出願200012677(公開20001303218A)、論文A.Inoue, et al. (Appl. Phys. Lett., Vol. 71, p.464 (1997))、論文Shen et al. (Mater. Trans., JIM, Vol. 42, p.2136 (2001))が挙げられる。これらの代表例としては、Fe72Al5Ga2P11Ce6B4がある。もう1つの代表例はFe72Al7Zr10Mo5W2B15である。これらの合金系列は上記のZr基合金系列ほどには処理許容度が高くないが、厚さ約1.0mm以上で処理可能であり、本発明には十分に用いることができる。
【0068】
一般に、バルク非晶質合金中に結晶質の析出物が存在すると靭性や強度などの合金特性にとって極めて有害であるため、結晶質析出物の体積率はできるだけ小さいことが望ましい。しかし、バルク非晶質合金の製造過程で延性結晶質析出物がその場生成する場合があり、これはバルク非晶質合金の特性、特に靭性および延性にとってむしろ有益である。このような有益な析出物を含有するバルク非晶質合金も本発明の範囲内である。1つの典型例がC.C. Hays et al., Physical Review Letters, Vol. 84, p.2901, 2000に開示されている。
【0069】
更に、バルク凝固非晶質合金の一般的な結晶化挙動を手掛かりにして、バルク非晶質合金として望ましい組成を選択することができる。例えば、バルク凝固非晶質合金の典型的なDSC測定では結晶化が1段階または数段階で現われる。望ましいバルク凝固非晶質合金の場合、結晶化は1段階のみで起きる。これに対して、ほとんどのバルク凝固非晶質合金は結晶化が2段階以上で起きる。
【0070】
図4aに、バルク凝固非晶質合金のDSC測定で現われる結晶化挙動の1つのタイプを模式的に示す。(本願で開示したDSC測定はいずれも20℃/minで行なっており、数値データはすべて20℃/minでのDSC測定で求めたものである。他の加熱速度、例えば40℃/minあるいは10℃/minを用いても本願発明の原理は何ら変動しない。)
図示の例では、結晶化が2段階で起きている。第1段階の結晶化は比較的広い温度範囲で起きていて、ピークの変態速度が比較的ゆっくりであるが、これに対して第2段階の結晶化は第1段階より狭い温度範囲で起きていて、ピークの変態速度もかなり速い。ここでΔT1およびΔT2はそれぞれ第1段階および第2段階の結晶化の起きる温度範囲である。ΔT1およびΔT2は結晶化の開始点と結晶化の終了点との差として算出できる。すなわち、図4aに示したようなピーク前後の線との交点を用いてTxと同様に算出する。ΔH1およびΔH2も、基準線での熱流値に対するピークでの熱流値として算出される。(ここで、ΔT1、ΔT2、ΔH1、ΔH2の絶対値は用いたDSC装置および試験片の大きさによって変動するが、相対的な大きさ(すなわちΔT1とΔT2との相対的な大きさ)は変動しない。)
図4bに、バルク凝固非晶質合金の加熱速度20℃/minのDSC測定で現われる結晶化挙動の別のタイプを模式的に示す。この場合にも、結晶化は2段階で起きているが、第1段階の結晶化は比較的狭い温度範囲で起きていて、ピークの変態速度が比較的速いが、これに対して第2段階の結晶化は第1段階より広い温度範囲で起きていて、ピークの変態速度もかなり遅い。ここでもΔT1、ΔT2、ΔH1、ΔH2は上記の場合と同じ意味であり同様にして算出される。
【0071】
個々の結晶化段階について先鋭比をΔHN/ΔTN比で定義できる。ΔH1/ΔT1が他のΔHN/ΔTNに比べて大きければ大きいほど、合金組成は望ましくなる。したがって、ある系列のバルク凝固非晶質合金のうちで望ましい合金組成は、ΔH1/ΔT1が他の結晶化段階に対して最大になる合金組成である。例えば、望ましい合金組成ではΔH1/ΔT1>2.0×ΔH2/ΔT2であり、更に望ましい合金組成ではΔH1/ΔT1>4.0×ΔH2/ΔT2である。前述の2つのタイプのうち、2番目のタイプの結晶化挙動(図4b)を示すバルク凝固非晶質合金の方が熱可塑成形性が高く、大きなアスペクト比と微細な表面形状を持つ製品を成形する適性が高い。
【0072】
上記の材料は結晶化が2段階であったが、バルク凝固非晶質合金によっては結晶化挙動が2段階より多いものもある。その場合には、以降の段階についてΔT3、ΔT4・・・ΔTNおよびΔH3、ΔH4・・・ΔHNを定義できる。この場合、バルク非晶質合金の望ましい組成は、ΔH1、ΔH2・・・ΔHNの中でΔH1が最大である組成である。
【0073】
処理可能な金属ガラスの範囲を限定する事項は、用いるガラス組成の処理可能性(成形性)のみであり、この処理可能性は用いる材料の時間−温度−変態図(TTT図すなわち図2、図3)または連続冷却変態図(CCT図)で決まる。プレート、シート、ロッドその他の製品について、結晶化を回避する能力に起因する寸法上の限界を規定する必要はない。本発明の熱可塑鋳造プロセスにおいて、拡張セクションおよび熱交換器を用いた形態により(図12、14、17参照)、ガラス形成合金プレートの臨界鋳造厚さを増加させ、上記のような寸法上の限界を解消できる。
【0074】
なお、図2、3のTTT図は模式的に表示してあり、これらの図では結晶化を起こさせずに無制限に合金を熱可塑領域に保持できるように見えるが、合金の粘性が高まってくるため、結晶化が遅延するのはこの領域内においてのみであり、この「熱可塑温度」に十分長時間保持したとすると合金は最終的には結晶化することになる。(例えば、図5の実測TTT図に示した実験用Zr基合金の結晶化領域および結晶化開始時間を参照。)ただし、熱可塑領域に合金を保持しても最終的には結晶化するには違いないが、成形処理に費やせる時間は大幅に増加するので、複雑な形態および表面形状を持ち大きなアスペクト比の多種多様な製品を制御鋳造できる。
【0075】
長時間の処理可能性は重要であり、図6に示すように、鋳型内への合金注入(注型)の速度または歪速度(ここではチャネル内の液体の平均歪速度(sec-1))が大きすぎると、合金は比均質な非ニュートン液体として挙動し、シアバンドの形成や粒状化といった不均質性が生ずる。ここで歪速度は、流路チャネルの中心線に沿った液体の代表速度を流路チャネルの幅または直径で除したものである。したがって、高品質の製品を確保するには、非ニュートン流や不安定状態が発生する速度より遅い速度で合金の注型を行なう必要がある。すなわち、流れの流線が均一で安定している層流状態(すなわちニュートン流状態)で注型を行なう必要がある。
【0076】
非ニュートン流および不安定状態への遷移は合金の粘度と温度にも依存している。下記の表1に、各歪速度において非ニュートン流および流れパタンの不安定化を回避するための下限温度を示す。表1には更に、各下限温度において各歪速度を得るために必要な加圧力も示してある。
【0077】
【表1】
【0078】
同様に、表2にまとめて示すように、歪速度、用いる温度、用いる材料のTTT図によって、成形処理可能時間および可能な最大アスペクト比(L/D)が決まる。表2中の数値はVitreloy 1について測定した各パラメータを用いて計算した。
【0079】
【表2】
【0080】
このように、熱可塑成形可能領域を利用するには、一定歪速度で成形中の合金の温度履歴を制御することが重要である。また、最良の鋳造を行なうためには、温度が不安定化の下限温度以下になる前に熱可塑成形を完了させる必要がある(表1)。同様に、注入速度を維持するのに必要な加圧力が臨界値を超える前に成形を完了させることが必要である。
下記の表3に、熱可塑鋳造プロセスの各工程において相互に均衡させるべき諸要因をまとめて示す。
【0081】
【表3】
【0082】
本発明の方法の重要な構成は、(1)合金溶湯流の制御、(2)鋳造/成形中の合金の熱履歴の制御、および(3)注入時および成形時の合金の乱流の制御である。
【0083】
本発明の一実施形態においては、合金溶湯流を制御するために、合金の注型時に溶湯の速度を歪速度を制御する。この溶湯流は、溶湯の温度履歴と関係付けて適切な成形「時間」を確保すべきである。この工程では、注入速度と注入圧力をモニターすべきである。これらのパラメータを注意深くモニターすることにより、適正な層流すなわちニュートン流を維持して乱流の発生を防止でき、それにより溶湯先端の不安定化、キャビテーションによるガスの混入とその結果生じるポロシティー、およびシアバンド発生や粒状化を防止できる。
【0084】
本発明の望ましい実施形態においては、注入時および成形時の溶湯の温度履歴も制御すべきである。この制御により、加圧力および注入速度を小さくして安定した層流状態を維持しながら、製品の成形時間を十分に確保できる。これらの温度パラメータを注意深くモニターすることにより、本発明によれば、固化するまでに大きな塑性変形を付与することができ、固化までの成形可能時間の増加により鋳型の微細な形状を転写することができ、長尺で小断面の製品が製造可能になる。
【0085】
上記では本発明による熱可塑鋳造の基本的な要素を説明したが、付加的な要素を加えた本発明の熱可塑鋳造方法および装置の別の実施形態を以下に説明する。
【0086】
図7に、本発明の熱可塑鋳造装置の単純化した実施形態の断面図を示す。装置10は、基本構成として、ゲート12が、非晶質合金溶湯の受容槽14と加熱された鋳型16との間を流体通路として連絡している。この例では、溶湯は合金の融点近くの温度TL,Oでゲートを通って流れる。合金溶湯は鋳型に接触すると図2、3の工程Aに示すように冷却開始する。合金溶湯は急冷されて臨界結晶化温度Tnoseを通り過ぎるが、鋳型が温度TM,Oに加熱されているためガラス転移温度Tgよりも高い温度に安定して維持される。鋳型を加熱することにより、合金溶湯温度と鋳型温度との均熱化が促進される。図8に示すように、溶湯温度は時定数τVで指数関数的に鋳型温度に近づく。
【0087】
一例として図9に、鋳型加熱なしの従来の非晶質合金鋳造法と、鋳型加熱ありの本発明の熱可塑鋳造法とを比較して示す。従来の鋳型非加熱法では、合金はガラス転移温度より低温にまで急速に降温する。この方法では、結晶化の防止は確実に行なわれるものの、成形処理に費やせる時間が非常に短いため、製造できる製品のタイプが制限されるだけでなく、合金が凝固する前に十分な合金量を鋳型内に供給するためには高速で注型することが必要になる。
【0088】
上記では、実験的に求めた温度履歴についてのみ説明したが、合金溶湯の温度履歴を実際の処理前に求めることもできる。これは、ある初期温度の合金溶湯を別の初期温度の鋳型に注入した場合について熱流のフーリエ方程式を解くことによって行なえる。(W.S.Janna, Engineering Heat Transfer, p.258を参照)基本的な過程の諸不等式を解き、基本的な諸時間について観察を行なえば、鋳造可能な製品の寸法および複雑さのような実用的かつ測定可能なプロセスパラメータを求めることができる。
【0089】
例えば、Vitreloy 1についてのプロセス条件を先ず理論的に予測して熱履歴を作成できる。図3に模式的に示したのは、このような計算結果の一例である。この例では、Vitreloy 1の溶湯の熱伝導率(KV)は18W/m・Kであり、用いた銅鋳型の熱伝導率(KM)は400W/m・K、Vitreloy 1の500℃での比熱(Cp)は48J/mole・K(4.8J/cc・K)、Votreloy 1のモル密度(ρ)は0.10cc/moleである。これらの数値に基づくと、Vitreloy 1の熱拡散係数はKV/Cp=0.038cm2/sとなる。ここでVitreloy 1の溶湯に比べて鋳型の熱拡散係数は遥かに大きいと考えてよい。したがって、鋳型内にある合金溶湯の温度が鋳型温度に到達する均熱時間は概略値として次式で表される。
【0090】
τV=D2/4KV (1)
ここで、Dは製品厚さ
仮に、鋳型/合金溶湯界面に熱インピーダンスが無いすなわち収縮ギャップが無いとすれば、製品厚さが1.0cmの場合のこの合金溶湯の均熱時間は概ねτV=6sである。
この数値を用いると、温度450℃の場合は処理可能時間が約500secである(表2より)。したがって、銅鋳型を加熱すれば成形時間に余裕が生じ、ほぼ等温状態で10s-1という高い歪速度で、均一なニュートン流の状態で、溶湯内も等温状態で、成形するこいとができる。これらの条件が揃えば、歪総量約5000で長さ約25mのプレートを製造できる。その結果、金属ガラスシートを、バッチで、あるいは更に連続的に、製造することができる。
【0091】
なお、上記のプロセスは工程Bで溶湯がほぼ等温状態の場合に最も良好に行なうことができ、ここで行なう解析は等温状態に近い場合にのみ適用できる。その場合、サンプルは均一な流体として振舞う。工程Bで鋳型に流入する溶湯内に温度勾配があると、流れが不均質になり解析が複雑になる。
【0092】
上記の計算値と比較する意味で、図10にVitreloy 1について実測したTTT図を示す。図中、Tmは合金の融点(液相線)、Txは結晶化温度(ノーズにおける)、Tgはガラス転移温度(合金の粘度が1012Pas-sとなる温度)、Tnoseは結晶化開始時間が最短になる温度であって、この例ではTnoseは約60secであった。
【0093】
上述のように、ガラス形成合金のTnoseと臨界鋳造寸法と臨界冷却速度の相関関係は、円筒とプレートについての熱流の方程式を解くことによって求まる。(W.S.Janna, Engineering Heat Transfer, p.258を参照)この計算においては、鋳型温度をTg、合金溶湯初期温度をTi=(Tm+100℃)と、それぞれ仮定した。更に、鋳型の熱伝導率は非常に大きい(例えばモリブデン製あるいは銅製)と仮定して、総厚さLのプレートについて下記の関係が得られる。
【0094】
tX=t(Tnose)=2.4(s/cm2)×Lcrit2=60s(材質:Vitreloy 1)
Rcrit=42(Kcm2/s)/Lcrit2=1.7K/s(材質:Vitreloy-1)
直径Dの円筒であれば下記の関係が得られる。
【0095】
tX(T)=Tnose=1.2(s/cm2)×Dcrit2=60s(材質:Vitreloy-1)
Rcrit=84(Kcm2/s)/Dcrit2=1.7K/s(材質:Vitreloy-1)
ここで、Lcrit、Dcritはこれ以下で非晶質合金が得られる臨界鋳造寸法で単位はcm、Rcritは非晶質を得るための臨界冷却速度で単位はK/s、tXは温度Tnoseにおける結晶化開始最短時間である。上記の関係を用いると、非晶質製品を得るための条件として、臨界鋳造厚さを結晶化開始最短時間tXに変換したり、あるいは臨界冷却速度に変換したりできる。
【0096】
図8との関係で、合金溶湯の温度を初期溶湯温度から最終鋳型温度(TM)に(その90%に)均熱化するのに要する時間として均熱化時間τTを定義できる。この時間はまた、溶湯内を均熱化する時間でもある。すなわち、2×τT経過後には、合金溶湯内での温度変動は1%に過ぎない。したがって中心温度の経時変化は下記の式(2)で表される。
【0097】
T(t)=TM+ΔTe-t/τ (2)
ここで、均熱化時間τT=ln(10)τであり、溶湯の熱拡散係数はκ(cm2/s))=0.038cm2/sである(Vitreloy 1の場合)。もちろん他の材質についても算出できる。熱流方程式を解くことにより、厚さLのVitreloy-1プレートについて下記に均熱時間が得られる。
【0098】
τT=0.25L2/κ=6.6(s/cm2)×L2
直径DのVitreloy-1円筒なら下記のように求まる。
【0099】
τT=0.12D2/κ=3.1(s/cm2)×D2
例えば、厚さ1cmのVitreloy-1のプレートはτT=6.6secである。(なお、均熱時間は初期溶湯温度にも鋳型温度にもあまり影響されない。)
個々の製品をモールド(鋳造・成形)するための最小モールド時間τMも、これらの方程式から求まる。製品のモールドに要する最小時間は幾つかの方法で定義できる。溶湯から製品までの総歪量εtotを求めても良い。これは製品の最大アスペクト比に等しい。例えば、長さs、厚さLのプレートまでに成形するのに必要な総歪量としてεtot≒s/Lである。したがって、モールド中の歪速度をεtとすれば、モールド時間は下記の方程式3で求められる。
【0100】
(εtot/εt)=τM (3)
あるいは、鋳型に溶湯を注入して満たすのに必要な時間を何らかの体積速度(体積/s)で表示してモールド時間とすることもできる。例えば、ゲートから溶湯を鋳型キャビティ内に注入する場合、製品を製造するには鋳型キャビティを満たさなくてはならない。鋳型キャビティの体積をV、注入速度をdv/dtとすれば、モールド時間は下記の方程式(4)で表すことができる。
【0101】
τM=V/〔dv/dt〕 (4)
上記の各方程式を用いると、熱可塑鋳造プロセスを行なうための基本的な大小関係を記述できる。工程Aは初期の急冷工程であって、温度はTmelt+ΔToverheatからTmould=Tg+ΔTmoldに降下する。これが処理時間τAの間に起きる。この時間は熱可塑鋳造プロセスの工程Aを合金溶湯が通過する時間に等しい。ほとんどの場合、工程Aにおいて下記の不等式が成り立つ必要がある。
【0102】
τT<τA<tX (I)
後述するように、熱交換器を用いるとτTを短縮することが可能であり、これによりτAも短縮できる。実際、τTは工程Aにおいて図7の個別チャネル厚さDと直接に関係する(平行な複数のチャネルを用いることができる)。不等式(I)はほとんどの実施形態で必要であるが、不等式(I)を満足することができない場合でも、チャネル寸法を小さして熱交換器を用いると、工程Aを良好に行なうことができる。
【0103】
工程Bはモールド/成形工程であり、試料がネットシェイプ(最終製品形状)に成形される。例えば、ロッド、プレート、チューブ、あるいはその他の複雑形状(例えば携帯電話や腕時計ケース)といった製品形状である。この工程は、目標温度TBにて時間τBで完了する。この時間は下記の不等式を満たす必要がある。
【0104】
τM(TB,εt)<τB<τX(TB) (II)
ここで時間τMおよびτXは、処理を行なう温度TBおよび歪速度(dε/dt=εt)に対して明瞭な依存性がある。他の製造パラメータ(例えば、歪速度を維持するために必要な加圧力)は全て、TBおよびεtによって決まる。この2つは独立の製造パラメータと考えられる。同様に、加圧力Pと温度TBを非制御パラメータと考えても良い(その場合εtはこれらから決まる)。
【0105】
一例として、Vitreloy-1の場合は、εt=1s-1とし、温度TBをTg+80℃程度とするかあるいはTすなわちTB=700K(427℃)とすれば、図11に示すように、η(T)=2×107Pas-sとなる。この粘度値から、ストークス方程式の標準解を用いて、歪速度維持に必要な加圧力勾配を求めることができ、そしてτMを基本的な製造パラメータと関連付けることができる。例えば、長さS、厚さLの鋳型を充填するには、総歪量εtot=S/L、総時間τM=L/(Sεt)が必要である。想定した歪速度を得るのに必要な加圧力は、温度TBでの合金の粘度に依存しており、この粘度は図11に示したように計算で得られる。
【0106】
前述の図7に示した装置は本発明の単純化した形態であるが、下記のように種々の改良を付加できる。すなわち、(1)溶湯を逆注入(反重力注入)する、(2)溶湯注入系および鋳型系を制御されたガス雰囲気下または真空下に維持する、(3)連続的に溶湯を供給する(次々に鋳型充填を行なう)といった改良が可能である。
【0107】
上記のような改良には少なくとも1つ利点がある。溶湯を逆注入するとガスの巻き込みとポア生成が防止できるし、制御されたガス雰囲気を用いると処理中の合金溶湯の酸化が防止できるし、連続的に溶湯を供給すると製造を高速化すると同時に溶湯の粘性および注入特性を制御できる。
【0108】
図3は、Vitreloy-1と限界組成の非晶質合金についてTTT図を比較して示している。
限界組成の合金は、限界的なガラス特性であるために、処理に費やせる時間がVitreloy-1に比べて大幅に短くなっている。そのため、Tnoseでの結晶化を回避するには合金の冷却速度を大きくしなくてはならない。その結果、処理し易いVitreloy-1と同じ寸法の製品を製造することはできないと考えられる。
【0109】
図12に、上記のように大きい寸法のプレート等の製品を製造可能にするために基本構成に改良を加えた熱可塑鋳造装置を示す。すなわち、図12に示すように、本発明の改良形態は、鋳型に拡張領域を設けたことによりガラス形成合金プレートの臨界鋳造厚さを増加させることができる装置である。基本構成の熱可塑鋳造装置と同様に、図12の拡張領域付き熱可塑鋳造装置20のゲート22も、合金溶湯の受容槽24と加熱された鋳型26との間を流体通路として連絡している。ただし、加熱された鋳型には寸法を拡張した領域28があって、合金が急冷されて臨界「核生成あるいは結晶化のノーズ」を通り過ぎた(工程Aで)後に、鋳造されたプレートの寸法が拡大するようになっている(工程B)。この拡張ゾーン28を設けたことにより、鋳型寸法が一定である場合に比べて、格段に大きな断面の非晶質合金プレートを鋳造できる。次いで鋳造物30はチラー(冷却体)32に進入し、ここで最終プレート34が急速に外囲温度(常温)まで冷凍される(工程C)。
【0110】
上述したプレートの押出し装置、拡大装置、および関連する熱可塑鋳造装置においては、鋳型工具と過冷溶湯との界面には特別に注意する必要がある。特に界面での溶湯の挙動を制御することが重要である。工具と溶湯との間の摩擦に応じて滑ったり滑らなかったりする。滑らないようにするには、鋳型工具の表面が下記式(5)による特定レベルの牽引力(トラクション)を持つ必要がある。
【0111】
τ≒η(Vmax/d) (5)
ここで、τは牽引力(トラクション)、ηは溶湯の粘度、Vmaxは滑らない限界の溶湯速度、dは流路寸法である。図13に模式的に示すように、溶湯の最大速度Vmaxは鋳型壁面から遠い溶湯の中心部の速度である。一方、溶湯の粘度ηは、工程Bにおいて熱可塑鋳造プロセス全体の諸条件によって決まる(粘性は図11に示すように鋳型温度などに依存している)。この特性によって、界面が滑らない状態に維持するために必要な最小の静摩擦係数が決まり、下記の式(6)で表される。
【0112】
μ>η(Vmax/Pd)=η(εY'/P) (6)
ここで、μは摩擦係数、Pは加圧力、εγ’は歪速度である。
【0113】
摩擦係数μは、鋳型工具の表面粗さおよび/または潤滑剤の使用などによって制御できる。例えば、滑らない状態を維持するには、合金溶湯と鋳型壁面とを相互作用し続けさせるために、表面は十分に粗くする必要がある。これは鋳型工具の表面を制御することにより実現でき、例えば低μ界面滑りが欲しい場合には、鋳型に研磨セクションを設けることができる。例えば、プレートの押し出しには、溶湯が工具を離れる前に界面滑りがあることが望ましい。この滑りを鋳造の最後に具備すると、押出されたシートの「溶湯膨れ」の発生を防止できるので、シート品質が高まる。すなわち、この実施形態においては、押出し工具の最後のセクションを研磨すれば、高品質シートの製造に最適となる。
【0114】
図14は、図12に示した熱可塑鋳造拡張領域における加熱した鋳型の拡張領域の詳細図である。この実施形態においては、金属が拡張領域内へ「膨れ」込まなくてはならないので、界面での滑りは望ましくない。したがって、鋳型工具は「拡張ゾーン」が粗面化していなくてはならない。滑らない状態であると、金属が「拡張ゾーン」内に「膨れ」込んで厚いシートが形成される。事実、溶湯が「拡張ゾーン」を通るのに伴って「膨れ」がある速度で起きる。滑りを防止するには、拡張ゾーンにテーパを付けて「膨れ」を溶湯流に追随させ、滑らない状態を維持する。例えば、図14に示すように、拡張ゾーン表面40に規定の「rms粗さ」42を設け、拡張「ピッチ」角度44を約10度〜約5度とする。更に、拡張装置に、フィードバック制御ループのような正確な鋳型温度制御機能や、溶湯注入温度の制御機能、溶湯注入速度の制御機能、用いる注入速度についての最大加圧力の制御機能を設けることができる。
【0115】
ここまで非晶質合金材料単体としての熱可塑鋳造のみを説明したが、本発明の熱可塑鋳造法を用いると、特定の性質を持った複合材料を作製することができる。それには、熱可塑鋳造の初期段階でガラス形成液体に固相を「混合」し、熱可塑鋳造の最終段階で「ネットシェイプ」中に一体化する。熱可塑鋳造による複合材料の作製方法を用いると、ロッド、プレート、その他のネットシェイプ製品を作製できる。例えば、この方法を用いて、ロッドペネトレータ(rod penetrator)用複合材料を連続的に製造できる。
【0116】
熱可塑鋳造による複合材料製造装置50の一例を図15に示す。この実施形態においては、固体の粉末52を例えば強化材として混合攪拌器56内で合金溶湯54に混合してからゲート58へ流す。スクリュー式供給機構60を用いて、合金溶湯をゲートへ適正速度で送り込む。ゲートへの供給以降は既に図7で説明したのと同様である。この混合器を用いてバッチ供給でも連続供給でも合金複合材料を製造できる。その場合、強化材粉末の体積率を正確に制御すること、強化材粉末の粒度分布を正確に制御すること、製造を低温・短時間で行なってマトリクス/強化材界面での反応を最小限に抑えることが望ましい。
【0117】
別の実施形態として、図16に、熱可塑鋳造ワイヤおよび/または紐組みケーブル装置70を模式的に示す。この態様では、合金溶湯72がゲート74を通り、加熱された鋳型76に供給される。ただし、この鋳型は複数のチャネル78を備えており、合金溶湯は複数のチャネル78に分かれて流れ、ワイヤあるいはケーブルを構成するための複数の素線80となる。これら複数の素線は、モールド温度に保持された紐組み装置82内に入って紐組みされ、得られた紐組みワイヤ84はチラー(急冷固化器)86内で外囲温度までチル(急冷固化)されて多線ワイヤまたは多線ケーブルになる。この装置を用いると、種々の寸法および性質のケーブルやワイヤを形成できる。
【0118】
最後に、図17に模式的に示したのは、連続シートを形成するための押出しダイ工具90の詳細である。この実施形態では、溶解ステージ92、熱交換器94、注入器96、ダイ工具98を詳細に示す。溶解ステージとしては、初期溶湯温度と初期注入圧力とを維持できる多種多様な形態が可能であるが、この例では単純な形態として容器100にRF(誘導)加熱温度制御系102と溶湯静圧制御系104を付設してある。もう1つの形態としては、溶解ステージは更に溶湯をソーキングするための予備処理ステージと溶湯を均熱化するための攪拌装置とを備えていても良い。
【0119】
同様に、急冷ステージとしての熱交換器は多種多様な形態が可能であるが、図18に更に詳細に示した急冷ステージ94は、熱伝導と対流とを組合せることにより、十分な急冷を行なってノーズでの結晶化を回避する。例えば、図18に示した熱交換器94は具体的な構成として、強制冷却器106を備えており、狭いチャネルと形状フィン108を利用して熱伝導と対流により熱交換を促進することにより、合金をノーズ温度以下にまで急冷する。この熱交換器は更に、温度を検知するための熱電対110と、温度を強制制御するための低温ガス流とを用いている。
【0120】
最後に、合金溶湯をダイ工具内に制御しつつ注入するのに適した注入器は多種多様な形態が可能である。図17に示した実施形態においては、注入器96はスクリュー駆動制御装置112によって回転速度、制御ピッチ、スクリュー加圧力を用いて所望の加圧力と流速とを注入器内に生起させる。流量計をコンピュータフィードバック装置114に接続して、これらのパラメータを制御することができる。このようなコンピュータ制御によって更に、溶解ステージの圧力と温度、熱交換器の温度、注入器スピードをも制御することにより、工程Aおよび工程Bにおいて必要な熱可塑鋳造の条件範囲内にプロセスを強制的に維持することができる。
【0121】
熱交換器を用いて合金溶湯の急冷温度を強制制御することにより、臨界鋳造寸法を拡大することもできる。例えば、図5にTTT図を示したVitreloy-106の厚さ5mmの液層について、この材質についての熱流方程式に基づいて冷却プロファイルを解析した。その結果、Vitreloy-106の厚さ5mmのスラブは、熱伝導で中心線温度T0が初期温度の0.1倍まで降下するのに6.9secかかった。ここでΔT=Tinitial+Tmouldである。材料の初期温度をTinitial=1200K、鋳型の温度をTmould=673Kとすれば、6.9sec後に中心線温度は726K、13.8sec後には678Kである。最初の6.9sec間の平均冷却速度は527K/6.9sec=76K/secである。しかし、900Kでノーズを通過する時には、この合金の臨界冷却速度は300K/2.4sec=125K/secである。したがって、この例の場合、外囲雰囲気(大気)による冷却では非晶質材料は製造できない。
【0122】
同様に、厚い鋳型内で合金溶湯の円筒および平板(プレート)を単純に熱伝導で冷却した場合の熱流方程式の解から下記の各式が導かれる。これらの各式の前提として、鋳型の熱伝導は合金溶湯の10倍以上であると仮定している。式中でT1は合金の液相線温度、κは合金の熱拡散係数でκ=Kt/Cpであり、Ktは鋳型の熱拡散係数で単位はW/cm・K(例えば、代表的な鋳型材料である銅やモリブデンの場合は、KCu=400W/m・K、KMo=180W/m・K)、Cpは合金の比熱(単位体積当りJ/cc・K)である。中心線の温度が0.85T1から0.75T1の温度区間を通る際のサンプルの中央線(プレートの中心、円筒の中心)での冷却速度を用いて、冷却速度とサンプル寸法(プレートの厚さL、円筒の直径D、単位cm)とが関係付けられる。上記の温度区間は、低いガラス転移温度、Tg/T1=0.6(容易にガラス形成する合金の典型値)を持つサンプルの「核生成ノーズ」の位置である。この結果は、鋳型温度への依存性が低い。また、ガラス形成合金の詳細(例えばTg/T1)への依存性も低い。これらを前提として、臨界冷却速度は臨界鋳造寸法と下記の関係がある。
【0123】
プレート(厚さL)については:Rcritplate=臨界冷却速度(K/sec)=0.4κT1/Lcrit2=0.4KtT1/(CpLcrit2)。
【0124】
円筒(直径D)については:Rcritcyl=臨界冷却速度(K/sec)=0.8κT1/Dcrit2=0.8KtT1/(CpDcrit2)。
【0125】
例えば、Vitreloy 1の場合、K=0.18W/cm・K、Cp=5J/cm3・K、T1=1000Kを代入すると:
Rcritplate≒15/L2(Lは単位cm)⇒臨界冷却速度1.8K/secのときLcrit=2.9cm。
【0126】
Rcritcyl≒30/D2(Dは単位cm)⇒臨界冷却速度1.8K/secのときDcrit=4.1cm。
【0127】
Vitreloy-1(全体的に近似が良い)の温度と物性との関係を用いて、種々の合金の臨界冷却速度を算出した結果を下記の表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
熱交換器を用いた臨界鋳造寸法の拡大は、理論的なTTT曲線、Vitreloy-1を基準としたレオロジー特性を用い、かつ図18に示した1mmのチャネルを持つ熱交換器構造を仮定することによって、モデル化することもできる。Vitreloy-1のTTT図のtX(T)曲線の時間を移動することによって種々の合金のTTT図を推定できる。すなわち、Vitreloy-1またはVitreloy-106のTTT図(実測)を用い、Vitreloy-1のノーズまでの時間に対する対象の合金のノーズまでの時間の比をλとし、曲線全体をλtだけ移動させる方法により推定できる。
【0130】
この関係を用いて、厚さを1cmに拡大したプレートを鋳造するには、1mmチャネル(チャネル幅1mm、フィン幅1mm)の拡張装置を用いて、材料を開放状態の1cmプレート内に移動する。この拡張装置(あるいは熱交換器)を用いると、鋳造加圧力勾配を増加させない限り、材料の流れは係数r1≒100だけ減少する。そこで、全鋳造加圧力を増加させる(≒100MPa)。これによって熱交換器内で流れが不安定になっても製品の品質は低下しないので、不利益は生じない(不安定な流れは最終的なモールド段階で制圧される(例えば開放状態のプレート))。この場合、厚さ1cmのプレートを鋳造するのに総歪量εtot≒10以上(開放状態の部分で)が必要ということになる。処理時間は係数λ分だけ消費される(熱可塑鋳造温度において)。そこで、Vitreloy-1の場合に適用可能な熱可塑鋳造の総歪量と対比することが必要になる(熱可塑鋳造処理チャート)。
例えばVitreloy-101の場合は、係数λだけ短い時間内で総歪量10を達成しなくてはならない。実行可能な処理に必要な条件は結局下記のようになる(600secで適用可能な歪を6000として(Vitreloy 1))。
【0131】
ε適用可能=6000/λ=6000/137=44>εtot=10 (7) これは表1および表2に示したように達成可能である。
【0132】
結論として、1mmチャネルの場合、冷却速度は約1000K/secとなる。したがって、本発明による連続鋳造方法を用いてNi基やFe基の合金の厚さ1mmのプレートを鋳造できる。更に、表4に掲げた全ての合金は、本発明の熱交換器を用いた実施形態により十分に処理可能である。したがって、図17および図18に示した本発明の実施形態による強制熱交換器装置を用いると、厚さ1cmの製品を作製するのに臨界冷却速度は制限とならない。この方法を用いれば、金属ガラス形成液体の良好な処理性を「活用」して、臨界鋳造寸法を拡大し、製造可能な合金組成範囲を大幅に広げることができる。
【0133】
以上、熱可塑鋳造装置として一般的な鋳型およびダイ(鋳型工具)について説明したが、本発明は特にこれらに限定する必要は無く、どのような成形工具でも適したものであれば用いることができる。例えば閉鎖金型またはキャビティ閉鎖金型すなわち割り型などを用いて個々の製品を製造することができる。あるいはキャビティ開放金型すなわち押出し金型工具などを用いて連続鋳造操業が可能である。
【0134】
本発明はまた、熱可塑鋳造方法によって製造された製造物および本明細書中で説明した装置をも提供する。例えば、熱可塑鋳造方法は高品質無欠陥を可能とするので、光学的に機能する表面を持つようなサブミクロンの表面組織を備えた製品を製造することができる。したがって、ミクロンオーダーあるいはナノオーダーの表面組織を持つ超高精密部材、すなわち10ミクロン以下の機能表面組織を持つ製品を製造できる。更に、Tgより高温での処理可能時間が長くなり、かつ、ほぼ等温条件下で熱可塑鋳造を行なうことにより、製品の内部応力分布が軽減され、無欠陥で熱応力が少なく(約50MPa以下)、ポロシティの無い製品が製造できる。このような製品としては、例えば、電子機器のパッケージ、光学部材、高精度部品、医療機材、スポーツ用品などがある。望ましい実施形態としては、最終製品としての合金は弾性限が約1.5%以上、より望ましくは約1.8%以上、更に望ましくは弾性限が約1.8%以上で且つ曲げ延性が約1.0%以上の優れた非晶質特性を有する。
【0135】
以上、本発明の現状における望ましい実施形態を説明した。当業者であれば、本発明の範囲内において上記の構造および方法を種々に変更可能であることを理解できるはずである。
【0136】
以上の説明は、具体的に説明および図示した構造の詳細には限定されず、特許請求の範囲にのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明によれば、非晶質合金の新規な鋳造方法、詳しくは、非晶質合金の熱可塑鋳造方法、装置およびそれにより製造される金属製品が提供される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質合金の新規な鋳造方法に関し、詳しくは、非晶質合金の熱可塑鋳造に関する。
【背景技術】
【0002】
今日用いられている合金の多くは、何らかの形の凝固鋳造で処理されている。凝固鋳造では、合金を溶解し、金属製またはセラミック製の鋳型に鋳造し、凝固させる。その後、鋳型を取り外して、鋳造物をそのまま用いるか、あるいは更に処理を施す。工業規模の鋳造技術は、大きく分けて2つのグループがあり、1つは消耗鋳型方式で、他の1つは永久鋳型方式である。消耗鋳型方式は、鋳型を1回だけ使う方式であり、一例としてインヴェストメント鋳造では鋳型として耐火物のシェルを用いる。永久鋳型方式では、金属製またはグラファイト製の鋳型を繰返し使用して何回も鋳造を行なう。
【0003】
永久鋳型方式は鋳型への注湯機構によって分類できる。1つの形式は、重力下すなわち小さい溶湯圧の下で金属溶湯を鋳型へ注入(注型)する。もう1つの形式はダイキャストであり、水圧ピストンなどを用いて例えば500psi(ポンド/平方インチ)というような比較的高い圧力下で注型する。この形式では、鋳型内壁面が構成する形状に金属溶湯を強制的に当て嵌める。深い窪み等を含む複雑な形状を持つダイキャスト鋳型に金属溶湯を強制的に押し込むことができるので、重力鋳造で簡単に得られえる形状に比べて複雑な形状の鋳造が可能である。ダイキャスト鋳型は通常、割り型形式であり、二つの半型を分離すれば鋳造製品が現われるので、型からの鋳造製品の取り出しが容易である。
【0004】
高速ダイキャスト機が開発されて製造コストが安くなったため、一般消費者向けや工業用の小さい金属鋳造品の多くがダイキャストで製造されている。このダイキャスト機は、溶融金属の1チャージまたは「1ショット」を融点より高温に加熱して、少なくとも数千ポンド/平方インチのピストン加圧下で閉鎖鋳型内に注型する。金属が急速に凝固し、半型が開いて、鋳造品が排出される。工業生産用ダイキャスト機の構成としては、多数の鋳型セットを備えていて、次の製品を鋳造するのと併行して、前の製品が冷えて型から排出され、更に次の鋳造に備えて型に潤滑剤を塗布して準備するという構成にしてもよい。
【0005】
上記の方法は高速で製品を製造するには有効であるが、特有の問題点が幾つかある。例えば、工業生産用ダイキャスト機で溶融金属をダイキャスト型内に押し込むと、先ず溶融金属は両側の型壁面で凝固する。その結果、鋳造製品の表面に乱流による欠陥が生ずる。
更に、凝固シェルの内側に未凝固の液体が捕捉されて、ダイキャスト型の中心線に沿った位置に引け巣やポロシティー(多孔質巣)が発生する傾向がある。
【0006】
また、高圧・高速で注型が行なわれるため、金属溶湯が乱流状態になる。実際、多くの場合に、金属溶湯を粒状化した「スプレー」として注型されている。この乱流のために、鋳造品の表面に切れ目が発生するばかりでなく、凝固途中の金属内にガスが捕捉されて鋳造品の中心にポロシティーが発生する。液体金属が粒状化するため、鋳造品の内部に内部境界も生じて、製品の強度が低下する。そのため、全体としてダイキャスト鋳造品は多孔質で健全性が低く、機械的性質が劣る。その結果、ダイキャスト品は、高い機械的強度および性能の必要な用途には通常用いられていない。
【0007】
非晶質合金(ガラス形成合金、金属ガラス合金)は原子レベルの構造が従来の結晶質合金とは異なっており、結晶質合金のような長範囲の規則性が無い。一般に非晶質合金を製造するには、溶融合金を結晶相の融点(熱力学的な融点)より高温から非晶質相の「ガラス転移温度」より低温にまで「十分速い」冷却速度で冷却することにより、合金の結晶の核発生および成長を回避する。したがって、これまで非晶質合金の処理方法といえば、非晶質相の生成を確保するために、必ず「十分速い冷却速度」すなわち「臨界冷却速度」を求めることが関係していた。
【0008】
初期の非晶質合金は「臨界冷却速度」が極めて高速であり、106℃/secのオーダーであった。一般的な鋳造方法はこのような高速冷却には適さないため、特殊な鋳造方法として溶湯スピニング法や平坦溶湯流法などが開発された。溶湯からの抜熱を極めて短時間(10-3sec以下のオーダー)で行なう必要があるため、初期の非晶質合金は少なくとも一方向については寸法が限定されていた。例えば、上記の特殊な方法で製造できるのは非常に薄い箔やリボン(厚さ25μmのオーダー)のみであった。
【0009】
非晶質合金材料は多くの特性が優れているにもかかわらず、臨界冷却速度を満たせる製品サイズが極めて限られていたため、初期の非晶質合金はバルク材料として用いるには限界があった。何年かを経た後に、「臨界冷却速度」は非晶質合金の化学組成に強く依存していることが判明した。(ここで、「組成」は酸素などの付随不純物も含めた意味で用いる。)そこで、臨界冷却速度が大幅に低い合金組成が探し求められてきた。
【0010】
この十年くらいの間に、バルク凝固による非晶質合金系(バルク金属ガラス合金、バルク非晶質合金)が幾つか開発された。例えば、アメリカ合衆国特許5,288,344、同5,368,659、同5,618,359、同5,735,975に開示された合金がある。これらの各合金系は臨界冷却速度が数℃/sec程度という低さであり、それ以前に比べて遥かに大きいバルク非晶質合金製品を得ることが可能になった。
【0011】
低い「臨界冷却速度」ならバルク凝固非晶質合金に適用できるので、従来の鋳造法を用いて、非晶質相を持つバルク製品を形成することが可能になった。「熱流」の方程式を用い単純な近似を行なえば、臨界冷却速度に基づいて非晶質製品の「臨界鋳造寸法」すなわち非晶質相を維持できる鋳造品の最大寸法を求めることができる。例えば、「臨界鋳造寸法」は非晶質合金製品の形状で異なり、長尺の棒材なら鋳造可能な最大直径であり、板材なら鋳造可能な最大厚さであり、管材なら鋳造可能な最大肉厚である。
【0012】
バルク鋳造非晶質合金は、「臨界冷却速度」が低いばかりでなく、アメリカ合衆国特許5,711,363に記載されているように、ダイキャスト鋳造を適用した際に有利な点が他にもある。例えば、バルク凝固非晶質合金は多くの場合、共晶組成の近傍にあるため、ダイキャストを行なうための温度が比較的低い。更に、高温からの冷却過程で、これまでの凝固のような意味では液体/固体の変態が起きない。その代わりに、バルク凝固非晶質合金は温度低下に伴って粘性が高まり、最終的には極めて粘性の高い状態になって固体として振舞うようになる(過冷却液体とも表現されている)。非晶質合金は液体/固体の変態が起きないので、凝固温度で急激に不連続的に体積変化する、ということがない。通常の合金では、この体積変化が鋳造品の中心線引け巣やポロシティー発生の主因であった。これはバルク凝固非晶質合金では発生しないので、ダイキャスト製品の健全性や品質が一般合金のダイキャスト製品より優れている。
【0013】
上記のように、バルク凝固非晶質合金は特にダイキャスト法および永久鋳型法における従来の基本的な凝固欠陥に対してある程度の改善策とはなっているが、更に対処すべき問題点が残されている。先ず、バルク凝固非晶質合金の製品寸法を更に大きくすることであり、加えて、バルク凝固製品を製造できる合金組成の範囲を広げることである。現状では、臨界鋳造寸法の大きいバルク凝固非晶質合金は、特性やコストの観点からは必ずしも最適ではない金属をベースにした数グループの合金組成に限られている。そこで、このような組成上の限界を打ち破ることが急務である。
【0014】
バルク凝固非晶質合金を処理および形成する従来の方法では、溶融合金を熱力学的な溶融温度より高い温度からガラス転移温度より低い温度にまで冷却する過程を、一段階の単調な冷却によって行なっていた。例えば、金属製の鋳型(銅、鋼、タングステン、モリブデン、これらの複合材料、等の高熱伝導率材料で作製)を外囲温度のまま用いて、合金溶湯からの抜熱を促進していた。そのため、従来の技術では、臨界冷却速度と「臨界鋳造寸法」との関係は一段階単調冷却方式に基づいていた。そして、従来方法では「臨界鋳造寸法」が厳しく限定されており、広範囲の組成のバルク凝固非晶質合金についてバルク製品の寸法を大きくするのには適さなかった。
【0015】
バルク凝固非晶質合金を一段階単調冷却する方式では、融点より高い温度からガラス転移温度より低い温度までの温度降下が急速なので、両側の型壁面での凝固シェル生成も急速に起きる。この凝固シェルが鋳型壁近傍の溶湯の流れを妨害するため、非常に微細な鋳型形状の転写が不十分になる。そのため多くの場合、特に鋳造品が複雑形状で高精度のものであれば、合金が凝固する前に十分な量の溶湯を型内に導入できるように、溶湯を高速かつ高圧で鋳型内に注入することが必要になる。溶湯が高圧・高速で型内に供給されるので、加圧ダイキャストと同様に、溶湯が乱流状態になる。実際、多くの場合に、バルク凝固非晶質合金溶湯の粒状化した「スプレー」を用いて型を充填する。従来材料を用いた加圧ダイキャスト法においてと同様に、この乱流の作用によって鋳造品の表面に切れ目が発生するばかりでなく、凝固途中の金属内にガスが捕捉されて鋳造品の中心にポロシティーが発生する。液体金属が粒状化するため、鋳造品の内部に内部境界も生じて、製品の強度が低下する。最終的には、乱流によって流れパターンに沿ったシアバンドおよびセレーションが形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、非晶質合金の新規な鋳造方法、詳しくは、非晶質合金の熱可塑鋳造方法および装置およびそれにより製造される金属製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、適切なガラス形成合金の熱可塑鋳造を行なうための熱可塑鋳造方法および装置に関する。本発明は、本発明の熱可塑鋳造により製造された非晶質合金製品も含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非晶質合金の新規な鋳造方法、詳しくは、非晶質合金の熱可塑鋳造方法および装置およびそれにより製造される金属製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の熱可塑鋳造方法の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明の熱可塑鋳造方法を説明するグラフである。
【図3】2種類の非晶質合金について結晶化特性を比較して示すグラフである。このグラフは時間−温度−変態(Time-Temperature-Transformation:TTT)図と呼ばれるものであり、種々の過冷温度で液体の結晶化が開始するまでの時間を示している。
【図4a】本発明の第一例の非晶質合金についてDSCを示す模式グラフである。
【図4b】本発明の第二例の非晶質合金についてDSCを示す模式グラフである。
【図5】本発明の合金の時間−温度−変態(Time-Temperature-Transformation:TTT)図である。
【図6】非晶質合金の性質に及ぼす歪み速度と温度の影響を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。
【図8】液体合金が鋳型を通過する際の液体中心の温度の経時変化を示すグラフである。
【図9】本発明の熱可塑鋳造プロセスを従来の鋳造プロセスと比較して示すグラフである。
【図10】本発明の非晶質合金の時間−温度−変態図(TTT図)である。
【図11】非晶質合金の粘度と温度との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置の一部分を模式的に示す断面図であり、溶湯と鋳型との界面において非滑り状態を維持するのに必要な条件を示している。
【図14】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置の拡張セクションを模式的に示す断面図である。
【図15】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。この装置は、非晶質合金と第二の材料との混合物を含む複合材料を製造するために用いる。
【図16】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。この装置は、紐状線材を製造するために用いる。
【図17】本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置を模式的に示す断面図である。
【図18】図17に示した本発明の一実施形態による熱可塑鋳造装置の熱交換器セクションを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1つの実施形態においては、本発明により連続プロセスでバルク凝固非晶質合金を熱可塑鋳造する方法および装置は、先ず工程Aとして合金を中間熱可塑成形温度にまで冷却し、次に工程Bとして均一な温度分布をほぼ一定に加熱・維持して固化させる。工程Bに次いで、最終の急冷工程である工程Cとして、最終的な鋳造製品を外囲温度にまで冷却する。この実施形態においては、ガラス転移温度の上方にある熱可塑帯域内に熱可塑成形温度を設定し、液体のレオロジー特性を利用して実用的な圧力を用い合金の結晶化を回避できる十分な短時間内で合金の成形および形成を行なうことができる。
【0021】
もう1つの実施形態においては、バッチプロセスにより熱可塑鋳造を行なう。
【0022】
更にもう1つの実施形態においては、工程Bで用いる熱可塑成形温度をガラス転移温度より高温で結晶化温度Tnoseより低温にする。ここでTnoseは、結晶化が最も急速に最短時間で起きる温度である。Tnoseより低温では、結晶化開始までの時間tx(T)は温度に依存しており、温度低下に伴って単調に増加する。この実施形態では、熱可塑成形温度を適切に設定することにより、結晶化開始時間をTnoseでの最短結晶化時間に対して大幅に長時間側に移動させ、十分な固化時間を得ることができる。
【0023】
更にもう1つの実施形態においては、加熱した鋳型あるいは金型内で合金を固化させる。この実施形態では、鋳型あるいは金型を望ましくは合金のガラス転移温度から150℃以内に保持する。合金溶湯が鋳型または金型と平衡し、鋳型または金型の温度と等しい温度にほぼ均熱化される。一例として、フィードバック制御システムを用い、ガス冷却等による積極的な冷却と積極的な加熱とを行なって、鋳型または金型の温度を一定に維持する。
【0024】
更にもう1つの実施形態においては、工程Aにおいて鋳型または金型の温度をTgから約150℃以内に維持し、工程Bにおいて鋳型または金型の温度をTgから約150℃以内に維持する。1つの望ましい実施形態では、工程Aにおいて鋳型または金型の温度をTgから約50℃以内に維持し、工程Bにおいて鋳型または金型の温度をTgから約50℃以内に維持する。
【0025】
更にもう1つの実施形態においては、工程Aにおいて鋳型または金型の温度を工程Bにおける鋳型または金型の温度より高温に維持する。1つの望ましい実施形態では、工程Bにおいて鋳型または金型の温度を工程Aにおける鋳型または金型の温度より高温に維持する。
【0026】
更にもう1つの実施形態においては、工程Bの所要時間は工程Aの所要時間の約5倍〜15倍である。1つの望ましい実施形態では、工程Bの所要時間は工程Aの所要時間の約10倍〜100倍である。もう1つの望ましい実施形態では、工程Bの所要時間は工程Aの所要時間の約50倍〜500倍である。
【0027】
更にもう1つの実施形態においては、工程Bにおいて過冷溶湯に負荷する圧力は工程Aにおいて溶湯に負荷する圧力の約5〜15倍である。更にもう1つの実施形態においては、工程Bにおいて過冷溶湯に負荷する圧力は工程Aにおいて溶湯に負荷する圧力の約10倍〜100倍である。更にもう1つの実施形態においては、工程Bにおいて過冷溶湯に負荷する圧力は工程Aにおいて溶湯に負荷する圧力の約50倍〜500倍である。
【0028】
更にもう1つの実施形態においては、工程Bにおいて過冷合金の前端をdog-tail工具内に導入し、その後この工具を利用して非晶質合金製品を連続的に抽出する。
【0029】
更に別の実施形態においては、鋳型または金型内に溶湯を適切な時間だけ滞在させることにより、溶湯の温度を鋳型または金型の温度と等しく且つほぼ均一にする。1つの望ましい実施形態においては、固化時間は約3sec〜200secであり、更に望ましくは約10sec〜100secである。
【0030】
更に別の実施形態においては、鋳型または金型全体に渡って溶融合金の流速を所望の一定速度または一定歪速度に維持する。1つの望ましい実施形態においては、歪速度は約0.1〜100sec-1である。
【0031】
更にもう1つの実施形態においては、圧力を用いて合金溶湯を鋳型内を移動させる。望ましくは、圧力は約100MPa未満とし、更に望ましくは約10MPa未満とする。
【0032】
更にもう1つの実施形態においては、本発明に用いる鋳型または金型は、永久鋳型または消耗鋳型、閉鎖金型または閉鎖キャビティ金型、および開放キャビティ金型のいずれかである。
【0033】
更にもう1つの実施形態においては、二次元非晶質合金製品を連続的に製造できる押出し型が提供される。ここで二次元製品は、シート、プレート、棒材、管材などである。1つの望ましい実施形態においては、製品は、厚さ約2cm以下のシートまたはプレートあるいは直径約1m以下、肉厚約5cm以下の管材である。
【0034】
更にもう1つの実施形態においては、ガラス合金の熱可塑鋳造のための金型工具が提供される。ここで金型工具は、拡張ゾーンを備えており、この拡張ゾーン内で溶湯が急速に冷却され薄い限定された断面積の結晶化ゾーンを通り、または、この拡張ゾーンが熱交換器であり、溶湯を十分急速に冷却して中心線温度をTnoseの結晶化ノーズより低温にさせ、その後溶湯は工具の厚さの大きい部分に広がっていく。この実施形態では、上記の限定された断面積の結晶化ゾーンは望ましくは厚さが約0.1〜5mmであり、拡張ゾーンは厚さが約1mm〜5cmである。
【0035】
更にもう1つの実施形態においては、鋳型は入口表面が粗化されていて溶湯との接触が確保され、出口表面は研磨されていて鋳型と溶湯との界面で滑りが可能になっている。この実施形態の1つにおいては、出口に潤滑剤を用いて滑りを促進する。
【0036】
更にもう1つの実施形態においては、拡張ゾーンは溶湯の滑りを無くす粗化表面をも備えている。この実施形態の1つにおいては、拡張ゾーンはピッチ角度が約60°未満、望ましくは約40°未満である。
【0037】
更にもう1つの実施形態においては、鋳型は割り型であり、開いて最終製品を排出できる。
【0038】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金はZr−Ti合金であり、TiとZrの合計含有量が合金全体の約20at%以上である。より望ましい実施形態においては、非晶質合金はZr−Ti−Nb−Ni−Cu−Be合金であり、TiとZrの合計含有量が合金全体の約40at%以上である。もう1つの望ましい実施形態においては、非晶質合金はZr−Ti−Nb−Cu−Al合金であり、TiとZrの合計含有量が合金全体の約40at%以上である。
【0039】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金はFe基合金であり、Fe含有量が合金全体の約40at%以上である。
【0040】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金は臨界冷却速度が約1000℃/sec以下であり、前記の熱交換器はチャネル幅が約1.5mm以下である。もう1つの実施形態においては、非晶質合金は臨界冷却速度が約100℃/sec以下であり、前記の熱交換器はチャネル幅が約5.0mm以下である。
【0041】
更にもう1つの実施形態においては、本発明の熱可塑鋳造方法および装置により製造された製品が提供される。この製品としては、時計、コンピュータ、携帯電話、インタネット用無線機器等の電子製品などのケースや、ナイフ、メス、医療インプラント、歯列矯正具などの医療器具や、ゴルフクラブ、スキー用品、テニスラケット、野球のバット、スキューバ用品などのスポーツ用品その他、種々の器具類が含まれる。
【0042】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金製品が提供され、この非晶質合金は臨界冷却速度が約1000℃以上であり、最小寸法が約2mm以上、望ましくは約5mm以上、更に望ましくは約10mm以上である。
【0043】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金製品が提供され、この非晶質合金は臨界冷却速度が約100℃以上であり、最大臨界鋳造厚さが約6mm以上、望ましくは約12mm以上、更に望ましくは約25mm以上である。
【0044】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金製品が提供され、この非晶質合金は臨界冷却速度が約10℃以上であり、最大臨界鋳造寸法が約20mm以上、望ましくは約50mm以上、更に望ましくは約100mm以上である。
【0045】
更にもう1つの実施形態においては、非晶質合金製品が提供され、この非晶質合金製品は断面のアスペクト比が約10以上、望ましくは約100以上である。
【0046】
更にもう1つの実施形態においては、合金製品は弾性限が約1.5%以上、望ましくは約1.8%以上であり、更に望ましくは弾性限が約1.8%以上で且つ曲げ延性が約1.0%以上である。
【0047】
更にもう1つの実施形態においては、製品は作用表面の凹凸が約10μm未満である。
【実施例】
【0048】
本発明は、処理中の非晶質合金溶湯の温度、圧力、歪速度を制御して非晶質合金を擬塑性状態で成形する熱可塑鋳造(TPC:thermoplastic casting)と呼ぶプロセスにより、均質かつ高品質のバルク金属ガラス(非晶質合金)のネットシェープ製品を製造するための処理方法および処理装置を提供する。
【0049】
本発明は、過冷ガラス形成液体が結晶質固相(または混合相)の融点Tmより低温でガラス転移温度Tgまで冷却されて凍結固体となる変遷に伴って、この液体が結晶化を起こす時間tX(T)が系統的かつ予測可能に変化するという事実に基づいている。
【0050】
結晶化時間のこの変化は、金属学の文献では、時間−温度−結晶変態(TTT図)または連続冷却結晶変態図(CCT図)によって説明されることが多い。本発明においては、TTT図に着目した。図2に、TTT図の一例を模式的に示す。図示したように、TTT図は、過冷液体をある処理温度(TmとTgとの間の温度)に保持したときに所定の検出可能分率(典型的には5%程度)が結晶化するのに要する時間tX(T)をプロットしたものである。TTT図を作成するには、液体を溶融し(Tmより高温で)、過冷範囲内の所定の温度(T)まで速めに冷却し、結晶化が始まるまでの時間を測定する。これまでに多くのガラス形成合金についてTTT図が作成されている。図中で結晶化領域は特徴的な「C形」に現われる。
【0051】
図2、図3に示したように、TgとTmとの真中付近にあるTnoseと呼ばれる温度で結晶化は最短時間tXで起きる。本発明者はこの最短時間をTTT図の代表パラメータとしてtX(T)で表す。以下にtXの測定例を説明する。Tnoseより上でも下でも結晶化開始時間は急激に増加する。したがって、tXより短時間で一度Tnoseより下まで冷却すれば、結晶化開始時間は温度降下と共に増加し、tXより遥かに長時間になるので、結晶化のリスク無くtXより遥かに長い時間をかけて処理を行なうことができる。
【0052】
Tnoseより低温の液体を処理するには、圧力または応力下で液体を成形しなくてはならない。応力または圧力は液体のレオロジー特性によって異なる。バルク金属ガラス形成液体はTnoseよりかなり低温で完全に流動性があり、比較的低い圧力(例えば1〜100MPa)で実用的な時間内(1〜300sec)で成形が可能である。本発明者は、この特性を凝固鋳造に利用して、同時に、バルク凝固非晶質合金の「C」形特性も利用して、多段階の冷却操作をすることができる、という驚くべき事実を見出した。バルクガラス形成液体の粘度およびレオロジー特性を測定し、既知のTTT図と組み合わせ、これに基づいて本発明を完成させた。すなわち、特徴的なTTT図の「C」形状と、ガラス形成液体の粘度の温度依存性とを組み合わせることにより、多段階温度域冷却(図2、図3に模式的に示す)を用いて下記のプロセスを設計できる。
【0053】
(1)Tmより高い温度からTnoseより低い温度Tまで急速冷却することにより、冷却中の結晶化を回避する。
【0054】
(2)TgとTmとの間の熱可塑成形温度で、軽い圧力下で成形操作を行なって、合金の結晶化を回避する。この工程はtXより長時間かけて行なうことができる。
【0055】
(3)実質的に非晶質の製品を得る最終の冷却段階であって、製品を熱可塑成形温度から外囲温度にまで持ち来たす。
【0056】
本発明では詳細な形態のTTT図を用いている。その形態は処理対象とする合金毎に異なる。更に、同等あるいは類似の「臨界冷却速度」すなわち臨界鋳造寸法を持つと見なされる合金同士でも、このTTT図が実質的に異なることがある。すなわち、TTT図のノーズでの結晶化を回避するように最初の冷却段階を設定してあるので、一旦この段階が完了すれば結晶核生成の最短時間による制限を受けずに成形処理を行なうことができる。その結果、本発明の多段階処理を用いれば一段階処理における「臨界鋳造寸法」を克服できる。そして、一段階処理よりも鋳造厚さを大きくできる。すなわち、本発明の方法を採用することにより、外囲温度の鋳型を用いて一段階の単調な冷却で鋳造していた従来の方法における臨界寸法の限界を克服できる。本発明の多段階プロセスを採用すれば、同一のガラス形成合金についての臨界鋳造寸法を拡大できる。従来なら限界組成だったガラス形成溶湯の処理可能性を高めて、実用的な非晶質合金の範囲を大幅に拡大することができる。
【0057】
更に、本発明によれば、所定の温度範囲において圧力および/または歪速度を制御することにより、アスペクト比を高め、許容誤差を低減し、鋳型形状の転写精度を高めた高品質の製品を非晶質合金製品から成形できる。すなわち、健全性、一体性、機械的性質が極めて優れた高品質、高精度でネットシェープの実質的に非晶質の合金製品を製造できる。
ここで「実質的に非晶質」とは、最終的な鋳造製品の50vol%以上、望ましくは90vol%以上、最も望ましくは99vol%以上が、原子レベルの構造が非晶質であることを意味する。これらの根拠についての詳細は、以下の実施例および望ましい実施形態で説明する。
【0058】
本発明の基本的な方法の一実施形態を、図1にフローチャートで、図2にグラフで、それぞれ示す。第1段階として、所定のバルク凝固合金を先ず熱力学的溶融温度(Tm)より高温で溶解して非晶質合金の溶湯を作成する。以下で実施例として特定の非晶質合金を説明するが、これに限定する必要はなく、結晶化ノーズTnoseとガラス転移温度Tgとの間の冷却過程で熱可塑成形ゾーン内に安定して保持できて、かつ、この熱可塑成形ゾーン内で合金処理に十分な時間維持できるバルク凝固非晶質合金あるいはバルク金属ガラス合金であれば、本発明に用いることができる。そのようなバルク凝固非晶質合金の典型例は、例えばアメリカ合衆国特許5,288,344および同5,368,659に記載されている。
【0059】
最初の加熱および溶解に引き続いて、得られた合金溶湯を鋳造機に供給して3段階の処理を行なう。最初の段階すなわち工程Aとして、合金溶湯を急冷して臨界結晶化温度Tnoseより低くガラス転移温度Tgより高い温度にする。前述のように、この温度範囲を合金の「熱可塑ゾーン」と呼ぶ。TTT図における「ノーズ」の例は図2、3、5を参照。
【0060】
工程Bにおいては、合金を所望形状に成形するのに十分な時間、合金の温度を熱可塑ゾーンに維持する。ただし、この成形時間は結晶化開始を回避するのに十分な短い時間とする。前述のように、材料毎にTTT図(例えば図2、3、5)を用いることにより、熱可塑温度Tにおいて結晶化開始までに使える時間tX(T)を設定できる。処理時間はこれよりも短時間とする。
【0061】
最後に、工程Cとして、熱可塑温度から外囲温度付近にまで急冷して、完全に固化した製品を得る。この急冷プロセスあるいは最終「チル」プロセスにおいては、固化した製品をバッチ処理製品として取り出すか、または連続鋳造製品として引き抜く。
【0062】
図2、3に、仮想の合金溶湯を熱可塑鋳造する際の結晶化についての時間−温度−変態(TTT)図の典型例を示す。どちらの図も、TTT図に上述の各工程を重ね合わせて示してる。TTT図は、合金溶湯を平衡融点Tmeltより低温に過冷した際の、よく知られている結晶化挙動を示している。上述したように、非晶質合金の温度が融点より低い温度に降下した際、臨界値tX(T)より短時間でガラス転移温度まで急冷しないと、合金は全体に結晶化する、ということは良く知られている。この臨界値はTTT図から求められ、過冷温度に依存している。しかし、Tnoseより低く固体ガラス領域より高い温度域に処理可能区域あるいは熱可塑区域があり、本発明の方法では、先ず合金を融点より高い温度からこの熱可塑温度(Tnoseより低温)にまで十分急速に冷却することにより、その合金のTTT図のノーズ領域(Tnoseは、結晶化が最短時間で起きる温度)を迂回して結晶化を回避する。
【0063】
合金の歪速度または注入速度に応じて、シアバンドのような流れパターンの不安定性を回避するために必要な最低熱可塑成形温度も存在する。本発明の望ましい実施形態においては、この最低温度より高い熱可塑成形温度を用いる。すなわち工程Aでは、(1)熱可塑成形温度に保持した鋳型内に合金溶湯を注入し、(2)鋳型を適切に選定しておくことにより、溶湯がどの部位でも全て(表面から中心線まで)十分急速に冷却されて結晶化「ノーズ」温度Tnoseを通過する際の結晶化を回避し、(3)最終熱可塑成形温度を十分高温に設定することにより、シアバンド発生のような溶湯流の不安定性を回避する。次いで、合金を工程Bの熱可塑成形温度に保持し、成形を行なう。工程Bは、熱可塑成形温度で行ない、この温度での結晶化を回避できる十分な短時間で完了しなくてはならない。前述したように、この時間tX(T)はTTT図で求まる。図3に示したように、用いるバルク金属ガラスは特に制限しないが、工程Aで結晶化を回避するための冷却速度および工程Bで合金を熱可塑領域に維持して成形できる時間の長さは、用いる合金のTTT図、特にtX(T)曲線の形状によって大きく異なる。
【0064】
例えば、Zr−Ti−Ni−Cu−Be基非晶質合金であるVitreloy-1(商品名:Liquidmetal Technologies社製)は、限界組成の非晶質合金(例えばVitreloy-101(商品名):Liquidmetal Technologies社製)に比べて10倍位長い時間熱可塑温度範囲での成形が可能であり、この成形時間は、他の非晶質合金、例えばVitreloy-4、Vitreloy-1b(Liquidmetal Technologies社製)を用いることにより更に延長できる。同様に、工程Aで高い溶湯温度から熱可塑温度にまで冷却する速度は、結晶化「ノーズ」で観察される最短結晶化時間tX(T)に依存している。したがって、工程A、工程Bにおいて要求される臨界冷却速度は用いる合金のTTT図の詳細な形状に依存している。
【0065】
上記ではVitreloyシリーズの合金を用いて実施形態を説明したが、本発明ではその他のどのようなバルク凝固非晶質合金をも用いることができ、望ましい実施形態においては、バルク凝固非晶質合金は示唆走査熱量計(DSC)でガラス転移が観察できる。更に、バルク凝固非晶質合金の供給材料は、20℃/minでDSCにより測定したΔTsc(過冷液体領域:supercooled liquid region)が約30℃より大であることが望ましく、約60℃より大であることが更に望ましく、約90℃より大であることが更に望ましい。ΔTscが約90℃より大である合金の適例としてZr47Ti8Ni10Cu7.5Be27.5がある。アメリカ合衆国特許5,288,344、同5,368,659、同5,618,359、同5,032,196、同5,735,975には、ΔTscが約30℃以上である諸系列のバルク凝固非晶質合金が開示されている。ここで、ΔTscは、20℃/minでDSCにより測定したTX(結晶化開始点)とTg(ガラス転移開始点)との差である。
【0066】
本発明のバルク凝固非晶質合金として適した合金系列の1つは、一般表示すると(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)cであり、aは約30at%〜75at%、bは約5at%〜60at%、cは約0at%〜50at%である。
【0067】
バルク凝固非晶質合金のもう1つの合金系列としては鉄基合金であり、例えばFe、Ni、Coをベースにした組成である。具体例としては、アメリカ合衆国特許6,325,868、日本特許出願200012677(公開20001303218A)、論文A.Inoue, et al. (Appl. Phys. Lett., Vol. 71, p.464 (1997))、論文Shen et al. (Mater. Trans., JIM, Vol. 42, p.2136 (2001))が挙げられる。これらの代表例としては、Fe72Al5Ga2P11Ce6B4がある。もう1つの代表例はFe72Al7Zr10Mo5W2B15である。これらの合金系列は上記のZr基合金系列ほどには処理許容度が高くないが、厚さ約1.0mm以上で処理可能であり、本発明には十分に用いることができる。
【0068】
一般に、バルク非晶質合金中に結晶質の析出物が存在すると靭性や強度などの合金特性にとって極めて有害であるため、結晶質析出物の体積率はできるだけ小さいことが望ましい。しかし、バルク非晶質合金の製造過程で延性結晶質析出物がその場生成する場合があり、これはバルク非晶質合金の特性、特に靭性および延性にとってむしろ有益である。このような有益な析出物を含有するバルク非晶質合金も本発明の範囲内である。1つの典型例がC.C. Hays et al., Physical Review Letters, Vol. 84, p.2901, 2000に開示されている。
【0069】
更に、バルク凝固非晶質合金の一般的な結晶化挙動を手掛かりにして、バルク非晶質合金として望ましい組成を選択することができる。例えば、バルク凝固非晶質合金の典型的なDSC測定では結晶化が1段階または数段階で現われる。望ましいバルク凝固非晶質合金の場合、結晶化は1段階のみで起きる。これに対して、ほとんどのバルク凝固非晶質合金は結晶化が2段階以上で起きる。
【0070】
図4aに、バルク凝固非晶質合金のDSC測定で現われる結晶化挙動の1つのタイプを模式的に示す。(本願で開示したDSC測定はいずれも20℃/minで行なっており、数値データはすべて20℃/minでのDSC測定で求めたものである。他の加熱速度、例えば40℃/minあるいは10℃/minを用いても本願発明の原理は何ら変動しない。)
図示の例では、結晶化が2段階で起きている。第1段階の結晶化は比較的広い温度範囲で起きていて、ピークの変態速度が比較的ゆっくりであるが、これに対して第2段階の結晶化は第1段階より狭い温度範囲で起きていて、ピークの変態速度もかなり速い。ここでΔT1およびΔT2はそれぞれ第1段階および第2段階の結晶化の起きる温度範囲である。ΔT1およびΔT2は結晶化の開始点と結晶化の終了点との差として算出できる。すなわち、図4aに示したようなピーク前後の線との交点を用いてTxと同様に算出する。ΔH1およびΔH2も、基準線での熱流値に対するピークでの熱流値として算出される。(ここで、ΔT1、ΔT2、ΔH1、ΔH2の絶対値は用いたDSC装置および試験片の大きさによって変動するが、相対的な大きさ(すなわちΔT1とΔT2との相対的な大きさ)は変動しない。)
図4bに、バルク凝固非晶質合金の加熱速度20℃/minのDSC測定で現われる結晶化挙動の別のタイプを模式的に示す。この場合にも、結晶化は2段階で起きているが、第1段階の結晶化は比較的狭い温度範囲で起きていて、ピークの変態速度が比較的速いが、これに対して第2段階の結晶化は第1段階より広い温度範囲で起きていて、ピークの変態速度もかなり遅い。ここでもΔT1、ΔT2、ΔH1、ΔH2は上記の場合と同じ意味であり同様にして算出される。
【0071】
個々の結晶化段階について先鋭比をΔHN/ΔTN比で定義できる。ΔH1/ΔT1が他のΔHN/ΔTNに比べて大きければ大きいほど、合金組成は望ましくなる。したがって、ある系列のバルク凝固非晶質合金のうちで望ましい合金組成は、ΔH1/ΔT1が他の結晶化段階に対して最大になる合金組成である。例えば、望ましい合金組成ではΔH1/ΔT1>2.0×ΔH2/ΔT2であり、更に望ましい合金組成ではΔH1/ΔT1>4.0×ΔH2/ΔT2である。前述の2つのタイプのうち、2番目のタイプの結晶化挙動(図4b)を示すバルク凝固非晶質合金の方が熱可塑成形性が高く、大きなアスペクト比と微細な表面形状を持つ製品を成形する適性が高い。
【0072】
上記の材料は結晶化が2段階であったが、バルク凝固非晶質合金によっては結晶化挙動が2段階より多いものもある。その場合には、以降の段階についてΔT3、ΔT4・・・ΔTNおよびΔH3、ΔH4・・・ΔHNを定義できる。この場合、バルク非晶質合金の望ましい組成は、ΔH1、ΔH2・・・ΔHNの中でΔH1が最大である組成である。
【0073】
処理可能な金属ガラスの範囲を限定する事項は、用いるガラス組成の処理可能性(成形性)のみであり、この処理可能性は用いる材料の時間−温度−変態図(TTT図すなわち図2、図3)または連続冷却変態図(CCT図)で決まる。プレート、シート、ロッドその他の製品について、結晶化を回避する能力に起因する寸法上の限界を規定する必要はない。本発明の熱可塑鋳造プロセスにおいて、拡張セクションおよび熱交換器を用いた形態により(図12、14、17参照)、ガラス形成合金プレートの臨界鋳造厚さを増加させ、上記のような寸法上の限界を解消できる。
【0074】
なお、図2、3のTTT図は模式的に表示してあり、これらの図では結晶化を起こさせずに無制限に合金を熱可塑領域に保持できるように見えるが、合金の粘性が高まってくるため、結晶化が遅延するのはこの領域内においてのみであり、この「熱可塑温度」に十分長時間保持したとすると合金は最終的には結晶化することになる。(例えば、図5の実測TTT図に示した実験用Zr基合金の結晶化領域および結晶化開始時間を参照。)ただし、熱可塑領域に合金を保持しても最終的には結晶化するには違いないが、成形処理に費やせる時間は大幅に増加するので、複雑な形態および表面形状を持ち大きなアスペクト比の多種多様な製品を制御鋳造できる。
【0075】
長時間の処理可能性は重要であり、図6に示すように、鋳型内への合金注入(注型)の速度または歪速度(ここではチャネル内の液体の平均歪速度(sec-1))が大きすぎると、合金は比均質な非ニュートン液体として挙動し、シアバンドの形成や粒状化といった不均質性が生ずる。ここで歪速度は、流路チャネルの中心線に沿った液体の代表速度を流路チャネルの幅または直径で除したものである。したがって、高品質の製品を確保するには、非ニュートン流や不安定状態が発生する速度より遅い速度で合金の注型を行なう必要がある。すなわち、流れの流線が均一で安定している層流状態(すなわちニュートン流状態)で注型を行なう必要がある。
【0076】
非ニュートン流および不安定状態への遷移は合金の粘度と温度にも依存している。下記の表1に、各歪速度において非ニュートン流および流れパタンの不安定化を回避するための下限温度を示す。表1には更に、各下限温度において各歪速度を得るために必要な加圧力も示してある。
【0077】
【表1】
【0078】
同様に、表2にまとめて示すように、歪速度、用いる温度、用いる材料のTTT図によって、成形処理可能時間および可能な最大アスペクト比(L/D)が決まる。表2中の数値はVitreloy 1について測定した各パラメータを用いて計算した。
【0079】
【表2】
【0080】
このように、熱可塑成形可能領域を利用するには、一定歪速度で成形中の合金の温度履歴を制御することが重要である。また、最良の鋳造を行なうためには、温度が不安定化の下限温度以下になる前に熱可塑成形を完了させる必要がある(表1)。同様に、注入速度を維持するのに必要な加圧力が臨界値を超える前に成形を完了させることが必要である。
下記の表3に、熱可塑鋳造プロセスの各工程において相互に均衡させるべき諸要因をまとめて示す。
【0081】
【表3】
【0082】
本発明の方法の重要な構成は、(1)合金溶湯流の制御、(2)鋳造/成形中の合金の熱履歴の制御、および(3)注入時および成形時の合金の乱流の制御である。
【0083】
本発明の一実施形態においては、合金溶湯流を制御するために、合金の注型時に溶湯の速度を歪速度を制御する。この溶湯流は、溶湯の温度履歴と関係付けて適切な成形「時間」を確保すべきである。この工程では、注入速度と注入圧力をモニターすべきである。これらのパラメータを注意深くモニターすることにより、適正な層流すなわちニュートン流を維持して乱流の発生を防止でき、それにより溶湯先端の不安定化、キャビテーションによるガスの混入とその結果生じるポロシティー、およびシアバンド発生や粒状化を防止できる。
【0084】
本発明の望ましい実施形態においては、注入時および成形時の溶湯の温度履歴も制御すべきである。この制御により、加圧力および注入速度を小さくして安定した層流状態を維持しながら、製品の成形時間を十分に確保できる。これらの温度パラメータを注意深くモニターすることにより、本発明によれば、固化するまでに大きな塑性変形を付与することができ、固化までの成形可能時間の増加により鋳型の微細な形状を転写することができ、長尺で小断面の製品が製造可能になる。
【0085】
上記では本発明による熱可塑鋳造の基本的な要素を説明したが、付加的な要素を加えた本発明の熱可塑鋳造方法および装置の別の実施形態を以下に説明する。
【0086】
図7に、本発明の熱可塑鋳造装置の単純化した実施形態の断面図を示す。装置10は、基本構成として、ゲート12が、非晶質合金溶湯の受容槽14と加熱された鋳型16との間を流体通路として連絡している。この例では、溶湯は合金の融点近くの温度TL,Oでゲートを通って流れる。合金溶湯は鋳型に接触すると図2、3の工程Aに示すように冷却開始する。合金溶湯は急冷されて臨界結晶化温度Tnoseを通り過ぎるが、鋳型が温度TM,Oに加熱されているためガラス転移温度Tgよりも高い温度に安定して維持される。鋳型を加熱することにより、合金溶湯温度と鋳型温度との均熱化が促進される。図8に示すように、溶湯温度は時定数τVで指数関数的に鋳型温度に近づく。
【0087】
一例として図9に、鋳型加熱なしの従来の非晶質合金鋳造法と、鋳型加熱ありの本発明の熱可塑鋳造法とを比較して示す。従来の鋳型非加熱法では、合金はガラス転移温度より低温にまで急速に降温する。この方法では、結晶化の防止は確実に行なわれるものの、成形処理に費やせる時間が非常に短いため、製造できる製品のタイプが制限されるだけでなく、合金が凝固する前に十分な合金量を鋳型内に供給するためには高速で注型することが必要になる。
【0088】
上記では、実験的に求めた温度履歴についてのみ説明したが、合金溶湯の温度履歴を実際の処理前に求めることもできる。これは、ある初期温度の合金溶湯を別の初期温度の鋳型に注入した場合について熱流のフーリエ方程式を解くことによって行なえる。(W.S.Janna, Engineering Heat Transfer, p.258を参照)基本的な過程の諸不等式を解き、基本的な諸時間について観察を行なえば、鋳造可能な製品の寸法および複雑さのような実用的かつ測定可能なプロセスパラメータを求めることができる。
【0089】
例えば、Vitreloy 1についてのプロセス条件を先ず理論的に予測して熱履歴を作成できる。図3に模式的に示したのは、このような計算結果の一例である。この例では、Vitreloy 1の溶湯の熱伝導率(KV)は18W/m・Kであり、用いた銅鋳型の熱伝導率(KM)は400W/m・K、Vitreloy 1の500℃での比熱(Cp)は48J/mole・K(4.8J/cc・K)、Votreloy 1のモル密度(ρ)は0.10cc/moleである。これらの数値に基づくと、Vitreloy 1の熱拡散係数はKV/Cp=0.038cm2/sとなる。ここでVitreloy 1の溶湯に比べて鋳型の熱拡散係数は遥かに大きいと考えてよい。したがって、鋳型内にある合金溶湯の温度が鋳型温度に到達する均熱時間は概略値として次式で表される。
【0090】
τV=D2/4KV (1)
ここで、Dは製品厚さ
仮に、鋳型/合金溶湯界面に熱インピーダンスが無いすなわち収縮ギャップが無いとすれば、製品厚さが1.0cmの場合のこの合金溶湯の均熱時間は概ねτV=6sである。
この数値を用いると、温度450℃の場合は処理可能時間が約500secである(表2より)。したがって、銅鋳型を加熱すれば成形時間に余裕が生じ、ほぼ等温状態で10s-1という高い歪速度で、均一なニュートン流の状態で、溶湯内も等温状態で、成形するこいとができる。これらの条件が揃えば、歪総量約5000で長さ約25mのプレートを製造できる。その結果、金属ガラスシートを、バッチで、あるいは更に連続的に、製造することができる。
【0091】
なお、上記のプロセスは工程Bで溶湯がほぼ等温状態の場合に最も良好に行なうことができ、ここで行なう解析は等温状態に近い場合にのみ適用できる。その場合、サンプルは均一な流体として振舞う。工程Bで鋳型に流入する溶湯内に温度勾配があると、流れが不均質になり解析が複雑になる。
【0092】
上記の計算値と比較する意味で、図10にVitreloy 1について実測したTTT図を示す。図中、Tmは合金の融点(液相線)、Txは結晶化温度(ノーズにおける)、Tgはガラス転移温度(合金の粘度が1012Pas-sとなる温度)、Tnoseは結晶化開始時間が最短になる温度であって、この例ではTnoseは約60secであった。
【0093】
上述のように、ガラス形成合金のTnoseと臨界鋳造寸法と臨界冷却速度の相関関係は、円筒とプレートについての熱流の方程式を解くことによって求まる。(W.S.Janna, Engineering Heat Transfer, p.258を参照)この計算においては、鋳型温度をTg、合金溶湯初期温度をTi=(Tm+100℃)と、それぞれ仮定した。更に、鋳型の熱伝導率は非常に大きい(例えばモリブデン製あるいは銅製)と仮定して、総厚さLのプレートについて下記の関係が得られる。
【0094】
tX=t(Tnose)=2.4(s/cm2)×Lcrit2=60s(材質:Vitreloy 1)
Rcrit=42(Kcm2/s)/Lcrit2=1.7K/s(材質:Vitreloy-1)
直径Dの円筒であれば下記の関係が得られる。
【0095】
tX(T)=Tnose=1.2(s/cm2)×Dcrit2=60s(材質:Vitreloy-1)
Rcrit=84(Kcm2/s)/Dcrit2=1.7K/s(材質:Vitreloy-1)
ここで、Lcrit、Dcritはこれ以下で非晶質合金が得られる臨界鋳造寸法で単位はcm、Rcritは非晶質を得るための臨界冷却速度で単位はK/s、tXは温度Tnoseにおける結晶化開始最短時間である。上記の関係を用いると、非晶質製品を得るための条件として、臨界鋳造厚さを結晶化開始最短時間tXに変換したり、あるいは臨界冷却速度に変換したりできる。
【0096】
図8との関係で、合金溶湯の温度を初期溶湯温度から最終鋳型温度(TM)に(その90%に)均熱化するのに要する時間として均熱化時間τTを定義できる。この時間はまた、溶湯内を均熱化する時間でもある。すなわち、2×τT経過後には、合金溶湯内での温度変動は1%に過ぎない。したがって中心温度の経時変化は下記の式(2)で表される。
【0097】
T(t)=TM+ΔTe-t/τ (2)
ここで、均熱化時間τT=ln(10)τであり、溶湯の熱拡散係数はκ(cm2/s))=0.038cm2/sである(Vitreloy 1の場合)。もちろん他の材質についても算出できる。熱流方程式を解くことにより、厚さLのVitreloy-1プレートについて下記に均熱時間が得られる。
【0098】
τT=0.25L2/κ=6.6(s/cm2)×L2
直径DのVitreloy-1円筒なら下記のように求まる。
【0099】
τT=0.12D2/κ=3.1(s/cm2)×D2
例えば、厚さ1cmのVitreloy-1のプレートはτT=6.6secである。(なお、均熱時間は初期溶湯温度にも鋳型温度にもあまり影響されない。)
個々の製品をモールド(鋳造・成形)するための最小モールド時間τMも、これらの方程式から求まる。製品のモールドに要する最小時間は幾つかの方法で定義できる。溶湯から製品までの総歪量εtotを求めても良い。これは製品の最大アスペクト比に等しい。例えば、長さs、厚さLのプレートまでに成形するのに必要な総歪量としてεtot≒s/Lである。したがって、モールド中の歪速度をεtとすれば、モールド時間は下記の方程式3で求められる。
【0100】
(εtot/εt)=τM (3)
あるいは、鋳型に溶湯を注入して満たすのに必要な時間を何らかの体積速度(体積/s)で表示してモールド時間とすることもできる。例えば、ゲートから溶湯を鋳型キャビティ内に注入する場合、製品を製造するには鋳型キャビティを満たさなくてはならない。鋳型キャビティの体積をV、注入速度をdv/dtとすれば、モールド時間は下記の方程式(4)で表すことができる。
【0101】
τM=V/〔dv/dt〕 (4)
上記の各方程式を用いると、熱可塑鋳造プロセスを行なうための基本的な大小関係を記述できる。工程Aは初期の急冷工程であって、温度はTmelt+ΔToverheatからTmould=Tg+ΔTmoldに降下する。これが処理時間τAの間に起きる。この時間は熱可塑鋳造プロセスの工程Aを合金溶湯が通過する時間に等しい。ほとんどの場合、工程Aにおいて下記の不等式が成り立つ必要がある。
【0102】
τT<τA<tX (I)
後述するように、熱交換器を用いるとτTを短縮することが可能であり、これによりτAも短縮できる。実際、τTは工程Aにおいて図7の個別チャネル厚さDと直接に関係する(平行な複数のチャネルを用いることができる)。不等式(I)はほとんどの実施形態で必要であるが、不等式(I)を満足することができない場合でも、チャネル寸法を小さして熱交換器を用いると、工程Aを良好に行なうことができる。
【0103】
工程Bはモールド/成形工程であり、試料がネットシェイプ(最終製品形状)に成形される。例えば、ロッド、プレート、チューブ、あるいはその他の複雑形状(例えば携帯電話や腕時計ケース)といった製品形状である。この工程は、目標温度TBにて時間τBで完了する。この時間は下記の不等式を満たす必要がある。
【0104】
τM(TB,εt)<τB<τX(TB) (II)
ここで時間τMおよびτXは、処理を行なう温度TBおよび歪速度(dε/dt=εt)に対して明瞭な依存性がある。他の製造パラメータ(例えば、歪速度を維持するために必要な加圧力)は全て、TBおよびεtによって決まる。この2つは独立の製造パラメータと考えられる。同様に、加圧力Pと温度TBを非制御パラメータと考えても良い(その場合εtはこれらから決まる)。
【0105】
一例として、Vitreloy-1の場合は、εt=1s-1とし、温度TBをTg+80℃程度とするかあるいはTすなわちTB=700K(427℃)とすれば、図11に示すように、η(T)=2×107Pas-sとなる。この粘度値から、ストークス方程式の標準解を用いて、歪速度維持に必要な加圧力勾配を求めることができ、そしてτMを基本的な製造パラメータと関連付けることができる。例えば、長さS、厚さLの鋳型を充填するには、総歪量εtot=S/L、総時間τM=L/(Sεt)が必要である。想定した歪速度を得るのに必要な加圧力は、温度TBでの合金の粘度に依存しており、この粘度は図11に示したように計算で得られる。
【0106】
前述の図7に示した装置は本発明の単純化した形態であるが、下記のように種々の改良を付加できる。すなわち、(1)溶湯を逆注入(反重力注入)する、(2)溶湯注入系および鋳型系を制御されたガス雰囲気下または真空下に維持する、(3)連続的に溶湯を供給する(次々に鋳型充填を行なう)といった改良が可能である。
【0107】
上記のような改良には少なくとも1つ利点がある。溶湯を逆注入するとガスの巻き込みとポア生成が防止できるし、制御されたガス雰囲気を用いると処理中の合金溶湯の酸化が防止できるし、連続的に溶湯を供給すると製造を高速化すると同時に溶湯の粘性および注入特性を制御できる。
【0108】
図3は、Vitreloy-1と限界組成の非晶質合金についてTTT図を比較して示している。
限界組成の合金は、限界的なガラス特性であるために、処理に費やせる時間がVitreloy-1に比べて大幅に短くなっている。そのため、Tnoseでの結晶化を回避するには合金の冷却速度を大きくしなくてはならない。その結果、処理し易いVitreloy-1と同じ寸法の製品を製造することはできないと考えられる。
【0109】
図12に、上記のように大きい寸法のプレート等の製品を製造可能にするために基本構成に改良を加えた熱可塑鋳造装置を示す。すなわち、図12に示すように、本発明の改良形態は、鋳型に拡張領域を設けたことによりガラス形成合金プレートの臨界鋳造厚さを増加させることができる装置である。基本構成の熱可塑鋳造装置と同様に、図12の拡張領域付き熱可塑鋳造装置20のゲート22も、合金溶湯の受容槽24と加熱された鋳型26との間を流体通路として連絡している。ただし、加熱された鋳型には寸法を拡張した領域28があって、合金が急冷されて臨界「核生成あるいは結晶化のノーズ」を通り過ぎた(工程Aで)後に、鋳造されたプレートの寸法が拡大するようになっている(工程B)。この拡張ゾーン28を設けたことにより、鋳型寸法が一定である場合に比べて、格段に大きな断面の非晶質合金プレートを鋳造できる。次いで鋳造物30はチラー(冷却体)32に進入し、ここで最終プレート34が急速に外囲温度(常温)まで冷凍される(工程C)。
【0110】
上述したプレートの押出し装置、拡大装置、および関連する熱可塑鋳造装置においては、鋳型工具と過冷溶湯との界面には特別に注意する必要がある。特に界面での溶湯の挙動を制御することが重要である。工具と溶湯との間の摩擦に応じて滑ったり滑らなかったりする。滑らないようにするには、鋳型工具の表面が下記式(5)による特定レベルの牽引力(トラクション)を持つ必要がある。
【0111】
τ≒η(Vmax/d) (5)
ここで、τは牽引力(トラクション)、ηは溶湯の粘度、Vmaxは滑らない限界の溶湯速度、dは流路寸法である。図13に模式的に示すように、溶湯の最大速度Vmaxは鋳型壁面から遠い溶湯の中心部の速度である。一方、溶湯の粘度ηは、工程Bにおいて熱可塑鋳造プロセス全体の諸条件によって決まる(粘性は図11に示すように鋳型温度などに依存している)。この特性によって、界面が滑らない状態に維持するために必要な最小の静摩擦係数が決まり、下記の式(6)で表される。
【0112】
μ>η(Vmax/Pd)=η(εY'/P) (6)
ここで、μは摩擦係数、Pは加圧力、εγ’は歪速度である。
【0113】
摩擦係数μは、鋳型工具の表面粗さおよび/または潤滑剤の使用などによって制御できる。例えば、滑らない状態を維持するには、合金溶湯と鋳型壁面とを相互作用し続けさせるために、表面は十分に粗くする必要がある。これは鋳型工具の表面を制御することにより実現でき、例えば低μ界面滑りが欲しい場合には、鋳型に研磨セクションを設けることができる。例えば、プレートの押し出しには、溶湯が工具を離れる前に界面滑りがあることが望ましい。この滑りを鋳造の最後に具備すると、押出されたシートの「溶湯膨れ」の発生を防止できるので、シート品質が高まる。すなわち、この実施形態においては、押出し工具の最後のセクションを研磨すれば、高品質シートの製造に最適となる。
【0114】
図14は、図12に示した熱可塑鋳造拡張領域における加熱した鋳型の拡張領域の詳細図である。この実施形態においては、金属が拡張領域内へ「膨れ」込まなくてはならないので、界面での滑りは望ましくない。したがって、鋳型工具は「拡張ゾーン」が粗面化していなくてはならない。滑らない状態であると、金属が「拡張ゾーン」内に「膨れ」込んで厚いシートが形成される。事実、溶湯が「拡張ゾーン」を通るのに伴って「膨れ」がある速度で起きる。滑りを防止するには、拡張ゾーンにテーパを付けて「膨れ」を溶湯流に追随させ、滑らない状態を維持する。例えば、図14に示すように、拡張ゾーン表面40に規定の「rms粗さ」42を設け、拡張「ピッチ」角度44を約10度〜約5度とする。更に、拡張装置に、フィードバック制御ループのような正確な鋳型温度制御機能や、溶湯注入温度の制御機能、溶湯注入速度の制御機能、用いる注入速度についての最大加圧力の制御機能を設けることができる。
【0115】
ここまで非晶質合金材料単体としての熱可塑鋳造のみを説明したが、本発明の熱可塑鋳造法を用いると、特定の性質を持った複合材料を作製することができる。それには、熱可塑鋳造の初期段階でガラス形成液体に固相を「混合」し、熱可塑鋳造の最終段階で「ネットシェイプ」中に一体化する。熱可塑鋳造による複合材料の作製方法を用いると、ロッド、プレート、その他のネットシェイプ製品を作製できる。例えば、この方法を用いて、ロッドペネトレータ(rod penetrator)用複合材料を連続的に製造できる。
【0116】
熱可塑鋳造による複合材料製造装置50の一例を図15に示す。この実施形態においては、固体の粉末52を例えば強化材として混合攪拌器56内で合金溶湯54に混合してからゲート58へ流す。スクリュー式供給機構60を用いて、合金溶湯をゲートへ適正速度で送り込む。ゲートへの供給以降は既に図7で説明したのと同様である。この混合器を用いてバッチ供給でも連続供給でも合金複合材料を製造できる。その場合、強化材粉末の体積率を正確に制御すること、強化材粉末の粒度分布を正確に制御すること、製造を低温・短時間で行なってマトリクス/強化材界面での反応を最小限に抑えることが望ましい。
【0117】
別の実施形態として、図16に、熱可塑鋳造ワイヤおよび/または紐組みケーブル装置70を模式的に示す。この態様では、合金溶湯72がゲート74を通り、加熱された鋳型76に供給される。ただし、この鋳型は複数のチャネル78を備えており、合金溶湯は複数のチャネル78に分かれて流れ、ワイヤあるいはケーブルを構成するための複数の素線80となる。これら複数の素線は、モールド温度に保持された紐組み装置82内に入って紐組みされ、得られた紐組みワイヤ84はチラー(急冷固化器)86内で外囲温度までチル(急冷固化)されて多線ワイヤまたは多線ケーブルになる。この装置を用いると、種々の寸法および性質のケーブルやワイヤを形成できる。
【0118】
最後に、図17に模式的に示したのは、連続シートを形成するための押出しダイ工具90の詳細である。この実施形態では、溶解ステージ92、熱交換器94、注入器96、ダイ工具98を詳細に示す。溶解ステージとしては、初期溶湯温度と初期注入圧力とを維持できる多種多様な形態が可能であるが、この例では単純な形態として容器100にRF(誘導)加熱温度制御系102と溶湯静圧制御系104を付設してある。もう1つの形態としては、溶解ステージは更に溶湯をソーキングするための予備処理ステージと溶湯を均熱化するための攪拌装置とを備えていても良い。
【0119】
同様に、急冷ステージとしての熱交換器は多種多様な形態が可能であるが、図18に更に詳細に示した急冷ステージ94は、熱伝導と対流とを組合せることにより、十分な急冷を行なってノーズでの結晶化を回避する。例えば、図18に示した熱交換器94は具体的な構成として、強制冷却器106を備えており、狭いチャネルと形状フィン108を利用して熱伝導と対流により熱交換を促進することにより、合金をノーズ温度以下にまで急冷する。この熱交換器は更に、温度を検知するための熱電対110と、温度を強制制御するための低温ガス流とを用いている。
【0120】
最後に、合金溶湯をダイ工具内に制御しつつ注入するのに適した注入器は多種多様な形態が可能である。図17に示した実施形態においては、注入器96はスクリュー駆動制御装置112によって回転速度、制御ピッチ、スクリュー加圧力を用いて所望の加圧力と流速とを注入器内に生起させる。流量計をコンピュータフィードバック装置114に接続して、これらのパラメータを制御することができる。このようなコンピュータ制御によって更に、溶解ステージの圧力と温度、熱交換器の温度、注入器スピードをも制御することにより、工程Aおよび工程Bにおいて必要な熱可塑鋳造の条件範囲内にプロセスを強制的に維持することができる。
【0121】
熱交換器を用いて合金溶湯の急冷温度を強制制御することにより、臨界鋳造寸法を拡大することもできる。例えば、図5にTTT図を示したVitreloy-106の厚さ5mmの液層について、この材質についての熱流方程式に基づいて冷却プロファイルを解析した。その結果、Vitreloy-106の厚さ5mmのスラブは、熱伝導で中心線温度T0が初期温度の0.1倍まで降下するのに6.9secかかった。ここでΔT=Tinitial+Tmouldである。材料の初期温度をTinitial=1200K、鋳型の温度をTmould=673Kとすれば、6.9sec後に中心線温度は726K、13.8sec後には678Kである。最初の6.9sec間の平均冷却速度は527K/6.9sec=76K/secである。しかし、900Kでノーズを通過する時には、この合金の臨界冷却速度は300K/2.4sec=125K/secである。したがって、この例の場合、外囲雰囲気(大気)による冷却では非晶質材料は製造できない。
【0122】
同様に、厚い鋳型内で合金溶湯の円筒および平板(プレート)を単純に熱伝導で冷却した場合の熱流方程式の解から下記の各式が導かれる。これらの各式の前提として、鋳型の熱伝導は合金溶湯の10倍以上であると仮定している。式中でT1は合金の液相線温度、κは合金の熱拡散係数でκ=Kt/Cpであり、Ktは鋳型の熱拡散係数で単位はW/cm・K(例えば、代表的な鋳型材料である銅やモリブデンの場合は、KCu=400W/m・K、KMo=180W/m・K)、Cpは合金の比熱(単位体積当りJ/cc・K)である。中心線の温度が0.85T1から0.75T1の温度区間を通る際のサンプルの中央線(プレートの中心、円筒の中心)での冷却速度を用いて、冷却速度とサンプル寸法(プレートの厚さL、円筒の直径D、単位cm)とが関係付けられる。上記の温度区間は、低いガラス転移温度、Tg/T1=0.6(容易にガラス形成する合金の典型値)を持つサンプルの「核生成ノーズ」の位置である。この結果は、鋳型温度への依存性が低い。また、ガラス形成合金の詳細(例えばTg/T1)への依存性も低い。これらを前提として、臨界冷却速度は臨界鋳造寸法と下記の関係がある。
【0123】
プレート(厚さL)については:Rcritplate=臨界冷却速度(K/sec)=0.4κT1/Lcrit2=0.4KtT1/(CpLcrit2)。
【0124】
円筒(直径D)については:Rcritcyl=臨界冷却速度(K/sec)=0.8κT1/Dcrit2=0.8KtT1/(CpDcrit2)。
【0125】
例えば、Vitreloy 1の場合、K=0.18W/cm・K、Cp=5J/cm3・K、T1=1000Kを代入すると:
Rcritplate≒15/L2(Lは単位cm)⇒臨界冷却速度1.8K/secのときLcrit=2.9cm。
【0126】
Rcritcyl≒30/D2(Dは単位cm)⇒臨界冷却速度1.8K/secのときDcrit=4.1cm。
【0127】
Vitreloy-1(全体的に近似が良い)の温度と物性との関係を用いて、種々の合金の臨界冷却速度を算出した結果を下記の表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
熱交換器を用いた臨界鋳造寸法の拡大は、理論的なTTT曲線、Vitreloy-1を基準としたレオロジー特性を用い、かつ図18に示した1mmのチャネルを持つ熱交換器構造を仮定することによって、モデル化することもできる。Vitreloy-1のTTT図のtX(T)曲線の時間を移動することによって種々の合金のTTT図を推定できる。すなわち、Vitreloy-1またはVitreloy-106のTTT図(実測)を用い、Vitreloy-1のノーズまでの時間に対する対象の合金のノーズまでの時間の比をλとし、曲線全体をλtだけ移動させる方法により推定できる。
【0130】
この関係を用いて、厚さを1cmに拡大したプレートを鋳造するには、1mmチャネル(チャネル幅1mm、フィン幅1mm)の拡張装置を用いて、材料を開放状態の1cmプレート内に移動する。この拡張装置(あるいは熱交換器)を用いると、鋳造加圧力勾配を増加させない限り、材料の流れは係数r1≒100だけ減少する。そこで、全鋳造加圧力を増加させる(≒100MPa)。これによって熱交換器内で流れが不安定になっても製品の品質は低下しないので、不利益は生じない(不安定な流れは最終的なモールド段階で制圧される(例えば開放状態のプレート))。この場合、厚さ1cmのプレートを鋳造するのに総歪量εtot≒10以上(開放状態の部分で)が必要ということになる。処理時間は係数λ分だけ消費される(熱可塑鋳造温度において)。そこで、Vitreloy-1の場合に適用可能な熱可塑鋳造の総歪量と対比することが必要になる(熱可塑鋳造処理チャート)。
例えばVitreloy-101の場合は、係数λだけ短い時間内で総歪量10を達成しなくてはならない。実行可能な処理に必要な条件は結局下記のようになる(600secで適用可能な歪を6000として(Vitreloy 1))。
【0131】
ε適用可能=6000/λ=6000/137=44>εtot=10 (7) これは表1および表2に示したように達成可能である。
【0132】
結論として、1mmチャネルの場合、冷却速度は約1000K/secとなる。したがって、本発明による連続鋳造方法を用いてNi基やFe基の合金の厚さ1mmのプレートを鋳造できる。更に、表4に掲げた全ての合金は、本発明の熱交換器を用いた実施形態により十分に処理可能である。したがって、図17および図18に示した本発明の実施形態による強制熱交換器装置を用いると、厚さ1cmの製品を作製するのに臨界冷却速度は制限とならない。この方法を用いれば、金属ガラス形成液体の良好な処理性を「活用」して、臨界鋳造寸法を拡大し、製造可能な合金組成範囲を大幅に広げることができる。
【0133】
以上、熱可塑鋳造装置として一般的な鋳型およびダイ(鋳型工具)について説明したが、本発明は特にこれらに限定する必要は無く、どのような成形工具でも適したものであれば用いることができる。例えば閉鎖金型またはキャビティ閉鎖金型すなわち割り型などを用いて個々の製品を製造することができる。あるいはキャビティ開放金型すなわち押出し金型工具などを用いて連続鋳造操業が可能である。
【0134】
本発明はまた、熱可塑鋳造方法によって製造された製造物および本明細書中で説明した装置をも提供する。例えば、熱可塑鋳造方法は高品質無欠陥を可能とするので、光学的に機能する表面を持つようなサブミクロンの表面組織を備えた製品を製造することができる。したがって、ミクロンオーダーあるいはナノオーダーの表面組織を持つ超高精密部材、すなわち10ミクロン以下の機能表面組織を持つ製品を製造できる。更に、Tgより高温での処理可能時間が長くなり、かつ、ほぼ等温条件下で熱可塑鋳造を行なうことにより、製品の内部応力分布が軽減され、無欠陥で熱応力が少なく(約50MPa以下)、ポロシティの無い製品が製造できる。このような製品としては、例えば、電子機器のパッケージ、光学部材、高精度部品、医療機材、スポーツ用品などがある。望ましい実施形態としては、最終製品としての合金は弾性限が約1.5%以上、より望ましくは約1.8%以上、更に望ましくは弾性限が約1.8%以上で且つ曲げ延性が約1.0%以上の優れた非晶質特性を有する。
【0135】
以上、本発明の現状における望ましい実施形態を説明した。当業者であれば、本発明の範囲内において上記の構造および方法を種々に変更可能であることを理解できるはずである。
【0136】
以上の説明は、具体的に説明および図示した構造の詳細には限定されず、特許請求の範囲にのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明によれば、非晶質合金の新規な鋳造方法、詳しくは、非晶質合金の熱可塑鋳造方法、装置およびそれにより製造される金属製品が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質合金を熱可塑鋳造する方法であって、下記の工程:
非晶質合金の溶湯を準備する工程、
上記非晶質合金の溶湯を、該非晶質合金の結晶化を回避できるように十分に速い速度で、該非晶質合金の結晶化が最短時間で起きる温度である該結晶化温度(TNOSE)よりは低温であるが、該非晶質合金のガラス転移温度よりは高温である中間熱可塑成形温度にまで、冷却する工程、
上記非晶質合金を上記中間熱可塑成形温度に安定させる工程、
上記中間熱可塑成形温度において、上記非晶質合金に、上記非晶質合金をニュートン粘性流体の状態に維持できるように十分に低い成形圧力を付与し、該非晶質合金の結晶化を回避できるように十分に短い時間内で成形して成形品にする工程、および
上記成形品を外囲温度まで冷却する工程を行なう熱可塑鋳造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記成形工程は、鋳型、金型、閉鎖金型、およびキャビティ開放金型から選択した、加熱された成形装置内に、上記非晶質合金を導入し、上記加熱された成形装置を、上記非晶質合金のガラス転移温度から150℃以内の温度に保持する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1において、上記成形工程の実行時間が上記冷却工程の実行時間の10倍〜100倍であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1において、上記成形圧力が、上記冷却工程で上記非晶質合金の溶湯に負荷される圧力の10倍〜100倍であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1において、上記非晶質合金は30℃以上の過冷却液体領域(ΔTsc)を有しており、ΔTscは20℃/minでの示差走査熱量測定によりそれぞれ求めた非晶質合金の結晶化開始温度(Tx)とガラス転移開始温度(Tg)との差であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5において、上記過冷却液体領域(ΔTsc)が90℃以上であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5において、上記非晶質合金はZr−Ti合金であり、TiとZrとの合計含有量が該非晶質合金の組成の少なくとも20at%であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項5において、上記非晶質合金はFe基合金であり、Feの含有量が該非晶質合金の組成の少なくとも40at%であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項2において、上記成形装置は、上記非晶質合金溶湯よりも熱拡散係数が大きい材料で作られていることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項2において、上記成形装置は更に拡張ゾーンとして、下記:
上記非晶質合金溶湯を結晶化温度(TNOSE)より低温にまで十分急速に冷却できるように設計された熱交換器、および
上記熱交換器よりも厚い拡張領域を備えていることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10において、上記非晶質合金は臨界冷却速度が1000℃/sec以下であり、熱交換器のチャネル幅が1.5mm未満であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1記載の熱可塑鋳造方法によって製造された実質的に非晶質相の金属製品であって、弾性限が1.5%以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項13】
請求項12において、最小寸法が5mm以上であり、上記非晶質合金の臨界冷却速度が1000℃/sec以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項14】
請求項12において、最小寸法が12mm以上であり、上記非晶質合金の臨界冷却速度が100℃/sec以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項15】
請求項12において、アスペクト比が100以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項16】
請求項12において、弾性限が1.8%以上でありかつ曲げ延性が1.0%以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項17】
請求項12において、熱応力が50MPa以下であることを特徴とする金属製品。
【請求項1】
非晶質合金を熱可塑鋳造する方法であって、下記の工程:
非晶質合金の溶湯を準備する工程、
上記非晶質合金の溶湯を、該非晶質合金の結晶化を回避できるように十分に速い速度で、該非晶質合金の結晶化が最短時間で起きる温度である該結晶化温度(TNOSE)よりは低温であるが、該非晶質合金のガラス転移温度よりは高温である中間熱可塑成形温度にまで、冷却する工程、
上記非晶質合金を上記中間熱可塑成形温度に安定させる工程、
上記中間熱可塑成形温度において、上記非晶質合金に、上記非晶質合金をニュートン粘性流体の状態に維持できるように十分に低い成形圧力を付与し、該非晶質合金の結晶化を回避できるように十分に短い時間内で成形して成形品にする工程、および
上記成形品を外囲温度まで冷却する工程を行なう熱可塑鋳造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記成形工程は、鋳型、金型、閉鎖金型、およびキャビティ開放金型から選択した、加熱された成形装置内に、上記非晶質合金を導入し、上記加熱された成形装置を、上記非晶質合金のガラス転移温度から150℃以内の温度に保持する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1において、上記成形工程の実行時間が上記冷却工程の実行時間の10倍〜100倍であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1において、上記成形圧力が、上記冷却工程で上記非晶質合金の溶湯に負荷される圧力の10倍〜100倍であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1において、上記非晶質合金は30℃以上の過冷却液体領域(ΔTsc)を有しており、ΔTscは20℃/minでの示差走査熱量測定によりそれぞれ求めた非晶質合金の結晶化開始温度(Tx)とガラス転移開始温度(Tg)との差であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5において、上記過冷却液体領域(ΔTsc)が90℃以上であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5において、上記非晶質合金はZr−Ti合金であり、TiとZrとの合計含有量が該非晶質合金の組成の少なくとも20at%であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項5において、上記非晶質合金はFe基合金であり、Feの含有量が該非晶質合金の組成の少なくとも40at%であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項2において、上記成形装置は、上記非晶質合金溶湯よりも熱拡散係数が大きい材料で作られていることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項2において、上記成形装置は更に拡張ゾーンとして、下記:
上記非晶質合金溶湯を結晶化温度(TNOSE)より低温にまで十分急速に冷却できるように設計された熱交換器、および
上記熱交換器よりも厚い拡張領域を備えていることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10において、上記非晶質合金は臨界冷却速度が1000℃/sec以下であり、熱交換器のチャネル幅が1.5mm未満であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1記載の熱可塑鋳造方法によって製造された実質的に非晶質相の金属製品であって、弾性限が1.5%以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項13】
請求項12において、最小寸法が5mm以上であり、上記非晶質合金の臨界冷却速度が1000℃/sec以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項14】
請求項12において、最小寸法が12mm以上であり、上記非晶質合金の臨界冷却速度が100℃/sec以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項15】
請求項12において、アスペクト比が100以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項16】
請求項12において、弾性限が1.8%以上でありかつ曲げ延性が1.0%以上であることを特徴とする金属製品。
【請求項17】
請求項12において、熱応力が50MPa以下であることを特徴とする金属製品。
【図1】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図2】
【図7】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図2】
【図7】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−105049(P2010−105049A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6769(P2010−6769)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願2003−563752(P2003−563752)の分割
【原出願日】平成15年1月31日(2003.1.31)
【出願人】(503326823)リキッドメタル テクノロジーズ,インコーポレイティド (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願2003−563752(P2003−563752)の分割
【原出願日】平成15年1月31日(2003.1.31)
【出願人】(503326823)リキッドメタル テクノロジーズ,インコーポレイティド (7)
【Fターム(参考)】
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