説明

非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物及び摩擦材

【課題】化学的に安定で、耐吸湿性にすぐれ、摩擦材の基材材料として好適な非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物を提供する。
【解決手段】一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属60重量%以上、SiO210重量%以上を含み、M2O/SiO2≦2.5である非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物であって、所望により、B、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物、及び/又は、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物に関し、化学的安定性及び熱的安定性にすぐれる非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物及び該組成物が配合された摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上)で表されるチタン酸アルカリ金属は、通常、繊維状の化合物として得られ、例えば、MがKでn=2の二チタン酸カリウム、MがNaでn=3の三チタン酸ナトリウム、MがKでn=4の四チタン酸カリウムがある。しかし、これらチタン酸アルカリ金属は、アルカリ成分が多く、結晶構造が層状であるため、化学的に不安定であり、摩擦材の成形時に、層間に存在するアルカリ金属イオンが溶出して、摩擦材のマトリックスを構成する樹脂の劣化を起こす不都合がある。
【0003】
一方、TiO2が多くなると、チタン酸アルカリ金属の結晶構造は、トンネル状となり、化学的安定性は高くなる。このチタン酸アルカリ金属として、例えば、MがKでn=6の六チタン酸カリウム、MがNaでn=6の六チタン酸ナトリウム、MがKでn=8の八チタン酸カリウムがあり、化学的に安定性を有し、又、耐熱性及び断熱性にもすぐれることから、摩擦材の基材として広く使用されている。
【0004】
六チタン酸カリウムは、代表的な製造法として溶融法により製造され、まず溶融させた原料を冷却固化させて二チタン酸カリウムの繊維塊を作製した後、水和反応により繊維塊を膨潤させ分離する。次に、分離した繊維を酸処理し、六チタン酸カリウムの組成になるまでカリウムを溶脱させた後、固液分離し、熱処理を行なってトンネル構造の六チタン酸カリウムに変換するものである(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特許第2946107号([従来の技術])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記溶融法によって製造される六チタン酸カリウムは、二チタン酸カリウムから六チタン酸カリウムへの変換工程が必要であり、製造工程が複雑である。また、カリウムの溶脱があるため、理論収率は低い。
さらに、この溶融法によって得られる形状は、板状繊維であり、要求性能に応じて、板状以外の異なる形状を作ることが困難である。
【0007】
本発明の目的は、これまでの製造法に必要とされた組成変換や構造変換の工程を不要とし、化学的に安定で、耐吸湿性にすぐれ、熱的にも安定な摩擦材の基材材料として好適な非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋭意研究の結果、非晶質の1〜4チタン酸カリウムは、単独では、結晶構造のものと同様、化学的安定性が劣り、耐吸湿性が不十分であるが、所定量のSiO2を共含有することにより、化学的に安定し、耐吸湿性を具備できることを見出した。
【0009】
本発明に係る第1の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属:60〜90重量%、SiO2:10〜40重量%の組成を有し、M2O/SiO2≦2.5である。
【0010】
本発明に係る第2の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属:60重量%以上90重量%未満、SiO2:10重量%以上40重量%未満、並びに、B、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物:0重量%を超えて10重量%以下の組成を有し、M2O/SiO2≦2.5である。
【0011】
本発明に係る第3の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属:60重量%以上90重量%未満、SiO2:10重量%以上40重量%未満、並びに、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物:0重量%を超えて10重量%以下の組成を有し、M2O/SiO2≦2.5である。
【0012】
本発明に係る第4の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属:60重量%以上90重量%未満、SiO2:10重量%以上40重量%未満、B、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物:0重量%を超えて10重量%以下、並びに、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物:0重量%を超えて10重量%以下の組成を有し、M2O/SiO2≦2.5である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上記の如く、本発明に係る非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属60重量%以上と、SiO210重量%以上を含み、M2O/SiO2≦2.5であり、所望により、B、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物、及び/又は、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含むことができる。
本発明に係る非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、摩擦材の基材として好適に用いられ、基材として3〜50重量%配合することにより、すぐれた摩擦特性を付与することができる。
【0014】
[チタン酸アルカリ金属]
アルカリ金属元素は、元素周期律表の第1族元素であり、具体的には、Li、Na、K、Cs又はRbである。
チタン酸アルカリ金属の非晶質性は、出発原料混合物を加熱溶融した後、その溶融物を急冷処理に付すことで得られる。急冷処理は、典型的には、双ロール法により行われ、向かい合う一対の金属ロールを高速回転させながら、双ロール間隙に溶融物を流下させるもので、溶融物は金属ロールに接触して急冷されつつロール間隙を通過し、薄片状の凝固物として下方に排出される。その急冷効果により、非晶質となる。
【0015】
このようにして得られる非晶質チタン酸アルカリ金属は、式M2O・nTiO2中、nの数が4以下のチタン酸の場合でも、SiO2を共含有することにより、すぐれた化学的安定性及び耐吸湿性を確保することができるので、摩擦材の成形時において、アルカリ金属イオンの溶出は防止され、摩擦材のマトリックス構成樹脂に悪影響を及ぼすことはない。
なお、非晶質チタン酸アルカリ金属は、式M2O・nTiO2中、nの数が4より大きいチタン酸の場合、SiO2を含有していなくとも安定しているが、SiO2や、B、Mg、Al、P、Ca、Zn、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Ba等の酸化物を含有してもよい。
また、結晶質六チタン酸カリウムのように、化学的安定性を得るために、熱処理、脱アルカリ金属処理、焼成等によるトンネル構造への変換工程は不要であるので、製造工程を簡素化することができ、また、脱アルカリ金属処理による歩留まり低下も回避することができる。
【0016】
さらに、チタン酸アルカリ金属の非晶質構造は、摩擦材に適用されたときに、摩擦条件(温度、速度、圧力など)に応じた軟化、溶融反応が起こり、摩擦界面へ適量のアルカリ成分及びチタン成分が供給されることによって様々な条件下で耐摩耗性が有意に向上する効果をもたらすことがわかった。これらの効果を得るために、非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物に含まれるチタン酸アルカリ金属は60重量%以上とすることが好ましい。
【0017】
[SiO2
SiO2は、非晶質チタン酸アルカリ金属の非晶質構造のネットワークを強固にし、常態時でのアルカリ金属の溶出を抑えることにより、化学的安定性を高めて、耐吸湿性の向上に寄与する。
このため、非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物には、10重量%以上のSiO2を含有させると共に、チタン酸アルカリ金属のM2OとSiO2の比、すなわちM2O/SiO2を2.5以下に規定する。
このように、非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物に含まれるSiO2の含有量は10重量%以上であるから、チタン酸アルカリ金属は90重量%以下となる。なお、チタン酸アルカリ金属は60重量%以上であるから、SiO2は40重量%以下である。
【0018】
[B、Mg、Al、P、Ca及びZnの酸化物]
B、Mg、Al、P、Ca及びZnの酸化物は、化学的耐久性・安定性を高める作用があり、また熱的安定性を向上させる働きがある。このため、B、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含むことが望ましい。しかし、含有量があまり多くなると、チタン酸アルカリ金属とSiO2との配合バランスが崩れるので、上限は10重量%とする。
なお、B、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む場合、チタン酸アルカリ金属は90重量%未満であり、SiO2は40重量%未満である。
【0019】
[V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaの酸化物]
V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaの酸化物は、摩擦材として使用したとき、摩擦係数の向上に有意に寄与する。このため、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むことが望ましい。しかし、含有量があまり多くなると、チタン酸アルカリ金属とSiO2との配合バランスが崩れるので、上限は10重量%とする。
V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む場合、チタン酸アルカリ金属は90重量%未満であり、SiO2は40重量%未満である。なお、これら元素の酸化物を、前記のB、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物に加えてさらに含む場合も同様である。
【0020】
[摩擦材]
本発明の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、摩擦材、具体的には、自動車、鉄道車両、航空機、産業機械類等の制動装置におけるブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチフェーシング等の摺動面を構成する摩擦材の基材として好適に適用される。
【0021】
摩擦材の基材として適用される非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物の配合量は、3〜50重量%であることが好ましい。
なお、摩擦材には、非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物と共に、所望により、公知の他材種のもの(例えばポリアミド繊維、アラミド繊維、スチール繊維、銅繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、結晶質チタン酸化合物繊維等)を複合的に配合されることができる。また、基材は必要に応じて、分散性、結合剤樹脂との結着性の向上等を目的として、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤による表面処理(カップリング処理)が常法に従って施されて使用される。
【0022】
摩擦材には、所望により、公知の摩擦摩耗調整剤(例えば、天然・合成ゴム粉末、カシュー樹脂粉粒体、有機物粉末、黒鉛、二硫化モリブデン、無機質粉末、金属粉末、酸化物粉末等)を適量配合されることができるし、各種添加剤(例えば防錆剤、潤滑剤、研削剤等)についても、その用途・使用態様等に応じて適量配合されることもできる。
【0023】
本発明の摩擦材は、基材を結合剤樹脂中に分散させ、必要に応じて配合される摩擦摩耗調整剤及び添加剤を添加し、均一に混合して原料組成物を調製し、予備成形の後、金型成形を行ない、加熱・加圧下(加圧力約10〜40MPa、温度約150〜200℃)にて結着成形を行ない、型から取り出した後、所望により加熱炉内で熱処理(150〜200℃、保持約1〜12時間)を施し、しかる後その成形体に機械加工、研磨加工を加えて所定の形状を有する摩擦材に仕上げることができる。
【実施例】
【0024】
[作製例1:扁平状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物]
炭酸カリウム(K2CO3)と二酸化チタン(TiO2)を、TiO2/K2Oのモル比が2となるように計量し、均一混合したものを800℃で2時間の加熱処理を行ない、チタン酸カリウム(K2O・2TiO2)の粉末を得る。得られたチタン酸カリウム(K2O・2TiO2)に、シリカ(SiO2)と水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を、K2O・2TiO2/SiO2/MgO=75/20/5の重量比となるように加え、これらの混合物を白金坩堝に入れて1200℃で1時間溶融する。
得られた溶融物を、周速3.6m/sで回転する金属双ロール間に流し込み、急冷した後、得られた急冷固化物をハンマーミルで粉砕することにより粉末を得る。
得られた粉末を走査型電子顕微鏡で観察し、その顕微鏡写真を図1及び図2に示す。また、X線回折による結晶相の有無を調べ、蛍光X線分析により成分の定量を行なった結果、原料組成にほぼ一致する組成で、平均さし渡し径約300μm、平均厚み約80μmの扁平状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物であることを確認した。
作製例1による供試組成物は、表1中、No.2として示される。
【0025】
作製例1のTiO2/K2Oのモル比及び混合物の組成が異なる例として、TiO2/K2Oが1.9、K2O・1.9TiO2/SiO2=82/18である混合物から供試組成物を作製し、表1中、No.1として示している。
【0026】
作製例1のTiO2/K2Oのモル比及び混合物の組成が異なる例として、TiO2/K2Oが2、K2O・2TiO2/SiO2/Fe23=75/20/5である混合物から供試組成物を作製し、表1中、No.5として示している。
【0027】
作製例1のTiO2/K2Oのモル比及び混合物の組成が異なる例として、TiO2/K2Oが2、K2O・2TiO2/SiO2/MgO/ZrO2=73/18/4/5である混合物から供試組成物を作製し、表1中、No.6として示している。
【0028】
作製例1のTiO2/K2Oのモル比及び混合物の組成が異なる例として、TiO2/K2Oが2、K2O・2TiO2=100である混合物(SiO2を含まない)から供試組成物を作製し、表1中、No.11として示している。
【0029】
作製例1のTiO2/K2Oのモル比及び混合物の組成が異なる例として、TiO2/K2Oが1.7、K2O・1.7TiO2/SiO2/Al23=85/11/4である混合物から供試組成物を作製し、表1中、No.12として示している。
【0030】
作製例1のTiO2/K2Oのモル比及び混合物の組成が異なる例として、TiO2/K2Oが3、K2O・3TiO2/SiO2/MgO=83/8/9である混合物から供試組成物を作製し、表1中、No.13として示している。
【0031】
[作製例2:繊維状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物]
炭酸カリウム(K2CO3)と二酸化チタン(TiO2)のモル比を変え、作製例1と同様の方法で得られたチタン酸カリウム(K2O・1.7TiO2)に、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al23)を、K2O・1.7TiO2/SiO2/Al23=78/18/4の重量比となるように加え、これらの混合物を白金坩堝に入れて1150℃で2時間溶融する。
得られた溶融物を、底部にノズル孔を有する加熱坩堝に移し変え、ノズル先端からの細流とし、これに圧縮空気を吹き飛ばすことにより、繊維を得た。
得られた繊維を走査型電子顕微鏡で観察し、その顕微鏡写真を図3に示す。また、X線回折による結晶相の有無を調べ、蛍光X線分析により成分の定量を行なった結果、原料組成にほぼ一致する組成で、平均繊維長が約1500μm、平均繊維径が約30μm、平均アスペクト比(長さ/径)が50の繊維状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物であることを確認した。
作製例2による供試組成物は、表1中、No.3として示される。
【0032】
[作製例3:球状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物]
炭酸カリウム(K2CO3)と二酸化チタン(TiO2)のモル比を変え、作製例1と同様の方法で得られたチタン酸カリウム(K2O・2.8TiO2)に、シリカ(SiO2)と炭酸カルシウム(CaCO3)を、K2O・2.8TiO2/SiO2/CaO=82/10/6の重量比となるように加え、これらの混合物を、溶射装置(日本ユテク株式会社製、CASTON DYN DS8000)で溶射し、水中で急冷することにより粉末を得た。
得られた粉末を走査型電子顕微鏡で観察し、その顕微鏡写真を図4に示す。また、X線回折による結晶相の有無を調べ、蛍光X線分析により成分の定量を行なった結果、原料組成にほぼ一致する組成で、平均粒径約30μmの球状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物であることを確認した。
作製例3による供試組成物は、表1中、No.4として示される。
【0033】
なお、No.14は、公知の結晶質六チタン酸カリウムの例である。TiO2/K2Oのモル比が2となるように配合した混合物を1200℃で1時間加熱溶融し、得られた溶融物を冷却固化させて、二チタン酸カリウムの繊維塊を作成し、水和反応により繊維塊を膨潤させて分離し、酸処理及びカリウム溶脱処理の後、固液分離及び熱処理を行なうことにより作製した。平均繊維長は約150μm、平均繊維幅は約30μmである。
【0034】
[吸湿性試験]
No.1〜No.6及びNo.11〜No.14の供試組成物の耐吸湿性能を調べるため、30℃、80%RHの恒温度恒湿度雰囲気中で72時間後の水分吸収による重量増加率を調べた。その重量増加率を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1中、No.1〜No.6は本発明の実施例、No.11〜No.13は比較例、No.14は結晶構造の従来例である。No.11は、SiO2を含まない例、No.12はM2O/SiO2の値が本発明の値2.5よりも大きい例、No.13は、SiO2の含有量が少なく、かつ、M2O/SiO2の値が本発明の値2.5よりも大きい例である。
【0037】
表1を参照すると、本発明の実施例No.1〜No.6は、比較例No.11〜No.13と比べて、水分吸収による重量増加率が少なく、耐吸湿性にすぐれることを示している。
なお、No.14は、水分吸収による重量増加率が本発明の実施例よりもさらに少ないが、結晶質であり、前述の如く、二チタン酸カリウムから六チタン酸カリウムへの変換工程が必要なため、製造工程が複雑であり、カリウムの溶脱があるため、理論収率は低いという不都合がある。
【0038】
[摩擦試験]
No.1〜No.6及びNo.11〜No.14の組成物を基材として含む摩擦材用原料として準備し、アイリッヒミキサーで3分間混合した後、予備成形(16MPa、常温、2分)と、熱間成形(40MPa、170℃、10分、成形2回の徐圧によるガス抜き)を行なう。成形後、熱処理(200℃、5時間)を施し、所定の寸法に切断し、研磨加工を施して、供試摩擦材を得た。
【0039】
前記摩擦材用原料は、重量%にて、基材成分20%、ケブラーパルプ4%、銅繊維17%、セラミック繊維4%、研削材10%、マイカ5%、有機粉4%、潤滑材6%、硫酸バリウム20%、フェノール樹脂10%であり、表2中、基材成分としてNo.1〜No.6及びNo.11〜No.14の各組成物を用いた供試摩擦材を、夫々、No.1a〜No.6a及びNo.11a〜No.14aとして表す。
【0040】
各供試摩擦材について、JASO C427「ブレーキライニング、パッド摩耗ダイナモメータ試験方法」に準拠した摩耗試験を行ない、摩擦係数(μ)、パッド摩耗量(mm)及びディスク摩耗量(μm)について、表2に示す結果を得た。なお、摩擦係数は、各温度における安定時平均摩擦係数であり、パッド摩耗量及びディスク摩耗量は、制動1000回当たりの平均摩耗量である。
【0041】
【表2】

【0042】
表2を参照すると、本発明の実施例No.1a〜No.6aは、比較例No.11a及びNo.12aと比べて、比較的低い制動初速度に対応する低温域(100℃)から、摩擦面の昇温を伴う高い制動初速度に対応する高温域(400℃)に至るまで、高い摩擦係数を有し、パッド及びディスクの摩耗量が少なく、耐摩耗性にすぐれている。これは、本発明の実施例では、低温域から高温域に至るまで、摩擦界面に安定した流動層を形成すると共に、相手ディスク表面に均一な移着層を形成するためと考えられる。
なお、No.13aは、本発明の実施例とほぼ同等レベルの高摩擦係数を有しているが、本発明の実施例よりもパッド摩耗量が多く、ディスク摩耗量が多い。これは、ディスク表面に形成された移着層が本発明の実施例よりも脆いためと考えられる。
No.14aは、摩擦係数の点では本発明の実施例と同等以上であるが、パッド摩耗量及びディスク摩耗量が本発明の実施例よりも多い。これは、No.14aは結晶質で融点が高く軟化現象が起こらないため、本発明の実施例と比較すると、摩擦界面の流動層の安定形成にやや劣るためと考えられる。
【0043】
〈発明の効果〉
本発明の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、上記のように、化学的に安定で耐吸湿性にすぐれており、自動車のディスクパッド等の摩擦材に適用することにより、従来の結晶質六チタン酸アルカリ金属と比べて、高温、高負荷下での摩擦係数はほぼ同等の安定性を有しつつ、耐摩耗性、対面損傷が改良された摩擦摩耗特性を得ることができる。
一方、従来の結晶質六チタン酸アルカリ金属のように、組成変換やトンネル型結晶構造への結晶構造変換工程は不要であり、前記工程でのアルカリ金属溶脱に伴う収率の低下もないので、製造コストを著しく低減することができる。
【0044】
また、本発明の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物は、適当な製造方法を選択することにより、扁平状、繊維状又は球状の組成物を任意に作製することができる利点がある。
扁平形状は、気孔の形成及び強度向上の点で好適に選択され、典型的なサイズは、平均さし渡し径が10〜600μm、平均厚みが3〜200μmである。繊維形状は、気孔の形成及び強度のさらなる向上の点で好適に選択され、典型的なサイズは、平均径が5〜100μm、アスペクト比(長さ/径)が10以上である。球状形状は、流動性及び分散性の点で好適に選択され、典型的なサイズは、平均粒径5〜100μmである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】作製例1で得られた扁平状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物粉末の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真である。
【図2】作製例1で得られた扁平状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物粉末の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真である。
【図3】作製例2で得られた繊維状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物繊維の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真である。
【図4】作製例3で得られた球状の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物粉末の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属:60〜90重量%、SiO2:10〜40重量%の組成を有し、M2O/SiO2≦2.5である非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物。
【請求項2】
一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属:60重量%以上90重量%未満、SiO2:10重量%以上40重量%未満、並びに、B、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物:0重量%を超えて10重量%以下の組成を有し、M2O/SiO2≦2.5である非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物。
【請求項3】
一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属:60重量%以上90重量%未満、SiO2:10重量%以上40重量%未満、並びに、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物:0重量%を超えて10重量%以下の組成を有し、M2O/SiO2≦2.5である非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物。
【請求項4】
一般式M2O・nTiO2(式中、Mはアルカリ金属元素の1種又は2種以上、nは1〜4の数)で表されるチタン酸アルカリ金属:60重量%以上90重量%未満、SiO2:10重量%以上40重量%未満、B、Mg、Al、P、Ca及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物:0重量%を超えて10重量%以下、並びに、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物:0重量%を超えて10重量%以下の組成を有し、M2O/SiO2≦2.5である非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物。
【請求項5】
基材を有機系結合材で結着成形してなる摩擦材において、基材として、請求項1乃至4の何れかに記載の非晶質複合チタン酸アルカリ金属組成物が3〜50重量%配合されていることを特徴とする摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−67639(P2009−67639A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238761(P2007−238761)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】