説明

非水乳化型組成物

【課題】
皮膚外用剤または皮膚化粧料として油分量が少なく、基剤の保湿性能と温度安定性を高め、薬物安定性、配合性、薬剤放出性及び使用性(感触)に優れる微小エマルション構造を有する非水乳化法による組成物を提供する。
【解決手段】
油分、高級脂肪酸、親水性非イオン界面活性剤、水溶性多価アルコールおよび水の所定量を乳化し、適切な撹拌又は温度条件を選択することによって、微小エマルションから成る濃縮乳化物(コンクベース)を作製する。この後、作製したコンクベースに、水および/または多価アルコール類の所定量を加え、乳化物の安定化を図ることによって、基剤の保湿性能と温度安定性を高め、薬剤の安定性と配合性、薬物放出性、更に使用性(感触)に優れる薬剤を配合するための非水乳化型組成物を完成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚外用剤または皮膚化粧料として油分量が少なく、基剤の保湿性能と温度安定性を高め、薬物安定性、配合性、放出特性及び使用性に優れる微小エマルション構造を有する非水乳化型組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中油型乳化組成物において薬物安定性を図るため、配合する薬剤の分解機構(酸化反応および/または加水分解反応)を阻止することを目的として、薬剤の至適pHに基剤を調節したり、酸化防止剤やキレート剤を処方したりしている。また、薬剤の安定性に問題がある場合には、製造工程において溶存酸素を除去し、あるいは、包剤設計、すなわち気密容器の選択や酸化チタンなどによる遮光性、保存温度など配慮しなければならない。それゆえ、使用感の良い水中油型乳化組成物の設計には、現状では様々な製剤工夫が行われている。
【0003】
近年、乳化に関する研究が非常に進歩し、多くの乳化剤が開発され、乳化技術も改善されている。しかしながら、安定な乳化物を得るためには、一般に複数かつ多量の界面活性剤を必要とするため、これを皮膚外用剤または皮膚化粧料として使用するためには、実際には使用感、安定性の低下などの問題があった。
【0004】
界面活性剤の使用量を減少しつつ、安定な乳化物を得る方法として非水乳化法があるが、この方法では、親水性非イオン界面活性剤を水溶性溶媒中に添加し、これに油相を添加して水溶性溶媒中油型乳化剤を調製した後に、水を添加することにより、乳化安定性に優れ、長期に渡って乳化状態が安定に維持されてなる水中油型乳化組成物が提案されている(特許文献1参照)。しかし、薬剤を配合した製剤については何ら触れておらず、基剤の保湿化が基剤中の薬剤経皮吸収の促進に寄与するかについて言及されていない。さらに、グリセリンが親水性非イオン界面活性剤との溶解性が悪いために、水溶性溶媒としては適さない旨を述べている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステル、油分及び多価アルコールからなる非水乳化組成物に水を加えて調製された予備エマルションを高圧下で乳化粒子を1μm以下微細化したエマルションと保湿剤とを含有してなる組成物が提案されている(特許文献2参照)。本発明となる組成物は保湿効果、使用感、保存安定性及び皮膚安全性に優れているが、高圧下でエマルションを調製するため、工業化する際には、特別の設備とその設備投資が必要となる。また、特許文献2では、薬剤を配合した製剤については何ら触れていない。
【0006】
ポリグリセリン脂肪酸エステル及びアルカノイル乳酸を併用することにより、成分として電解質を含有していても乳化安定性に優れ、長期に渡って乳化状態が安定に維持されてなる水中油型乳化組成物が提案されている(特許文献3参照)が、この方法では、核酸関連物質などの親水性薬剤(電解質)については優れているけれども、親油性薬剤については示唆していない。
【0007】
さらに、グリセリンの保湿効果は広く知られており、通常の液剤や半固形製剤(クリーム剤、ローション剤)には汎用されているけれども、このグリセリンを乳剤性基剤中にうまく配合する乳化方法やグリセリンによる保湿効果のもたらす薬剤への影響、すなわち、水和作用による角層膨潤と薬剤の皮膚内移行性との関係について、生理学的に一切を明らかにされていなかった。
【特許文献1】特開昭51-55783号公報
【特許文献2】特開2000-86435号公報
【特許文献3】特開2002-234830号公報
【非特許文献1】Fragrance Journal,7,25-35(1993)「化粧品メーカーからみた皮膚外用剤の製剤開発」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、少量の親水性非イオン界面活性剤を用いて製造する基剤の保湿性能と温度安定性が高く、また、薬物安定性、配合性、放出特性及び使用性に優れる微小エマルション構造を有する非水乳化型組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、非水乳化法をさらに研究し、適量組成比のグリセリンを添加する方法(条件)と、グリセリンの適量を配合した非水乳化組成物が、本来的な非水乳化組成物の使用感などの特徴を損なうことなく、保湿性能を高められること、更に同製剤を皮膚に投与するとき、薬剤の経皮吸収性が高められることを新たに見出した。
【0010】
つまり、本発明者らは薬剤、油分、親水性非イオン界面活性剤、グリセリン等の所定量を室温下において、適切な製造条件(温度条件、添加順序、撹拌条件)で乳化操作を行うことによって、微小エマルションから成る濃縮乳化物(コンクベース)を作製した後に、水、水溶性多価アルコール等の所定量を加えて乳化物の安定化を図ることによって、基剤の保湿性能と温度安定性をより高め、薬剤の安定性、配合性、放出特性及び使用性に優れる薬剤を配合するための非水乳化型組成物の発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 親水性非イオン性界面活性剤及びグリセリンを含有することを特徴とする非水乳化型組成物
(2) さらに、水溶性多価アルコールを含む(1)に記載の非水乳化型組成物
(3) 油分量(油分および高級脂肪酸)の配合量は全体の0.5〜35.0重量%を含有し、水溶性多価アルコール(グリセリンを含む)は0.5〜65.0重量%を含有し、濃縮乳化物を作製する際の油分量と非イオン界面活性剤の比が1:1〜1:30の範囲であり、非イオン界面活性剤と水溶性多価アルコールとの配合比は1:5〜1:60の範囲である(1)または(2)のいずれかに記載の非水乳化型組成物
(4) 水溶性多価アルコールがジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールから選ばれる(2)に記載の非水乳化型組成物
(5) (1)の非水乳化組成物に薬剤を加えてなる非水乳化型組成物
(6) 薬剤が親油性薬剤である(5)に記載の非水乳化型組成物
(7) 親油性薬剤がステロイド類、ビタミン類、抗炎症剤、抗生物質、免疫調整剤、抗腫瘍剤から選ばれる(6)に記載の非水乳化型組成物
を提供するものである。
【0012】
本発明に用いる親水性非イオン界面活性剤としては、親水基と疎水基が比較的大きいものが好ましい。特に本法では基本的に界面膜が強固な微小エマルション構造をとらせられるため、従来の乳化系と比較して使用する界面活性剤のHLBは高いものが好ましい。例えばポリオキシエチレン(POE)が20モル以上の高級脂肪酸エステルおよび高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレン(POE)が15モル以上のフィトステロールおよびコレステリルエーテル、ポリオキシエチレン(POE)が10モル以上のグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(POE)が40モル以上の硬化ヒマシ油誘導体、ポリグリセリン高級脂肪酸エステルなどが好ましい。
【0013】
但し、ポリオキシエチレン(POE)が10モル以上で、ポリオキシプロピレン(POP)が4モル以上のセチルエーテルおよびグリコールについても適用が可能であり、室温で半固形状または固形状の親油性非イオン界面活性剤、すなわち、グリセリルモノステアレートなどのグリセリンの高級脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノステアレートなどのプロピレングリコールの高級脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールモノステアレートなどのペンタエリスリトールの高級脂肪酸エステル、ソルビダンモノステアレートなどのソルビダンの高級脂肪酸エステル、ヘキサグリセリルペンタステアレートなどのポリグリセリンの高級脂肪酸エステルも使用することができる。
【0014】
本発明に用いる油相成分としては、親水性非イオン性界面活性剤及び配合する薬剤を溶解することができる油分であれば特に限定されないが、低極性の油分(IOB:Ionic organic Balance≦0.2)と中極性から高極性の油分(IOB≧0.5)との組み合わせが好ましい。
【0015】
低極性の油分としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、シリコン油、オリーブ油、ホホバ油、ゴマ油などの植物油類が挙げられ、中極性から高極性の油分としては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、アジピン酸ジイソプロピル、サリチル酸エチレングリコール、炭酸プロピレン、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジエチル、トリアセチン、オレイン酸エチル、イソステアリン酸が挙げられる。
【0016】
本発明の非水乳化型組成物において、油分量(油分および高級脂肪酸)は、最終製剤の総量を基準として0.5〜35.0重量%が好ましい。また、油分量を構成する各成分の配合割合は、低極性の油分3〜97重量%、中極性から高極性の油分1〜25重量%が好ましい。
【0017】
本発明で用いられる水溶性多価アルコールは、分子内に水酸基を2個以上有するものであり、一般に外用製剤、化粧品に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール300―1500、また、ソルビトール、キシリトール、マンニットなどを1種または2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0018】
また、高級脂肪酸を用いる場合は、炭素数が14から22の飽和脂肪酸、ヒドロキシ飽和脂肪酸、ヒドロキシ飽和脂肪酸のエチレングリコールまたはプロピレングリコールのモノエステルが好ましい。
【0019】
本発明において、より非水乳化型組成物を製造しやすくし、水溶性多価アルコールとの濃縮乳化物(コンクベース)を、別に精製水で希釈する(以下、後添水という)という観点から、後添水に低級一価アルコール、更には前記した水溶性多価アルコールを併用することができる。この種の低級一価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等が好ましい。
【0020】
本発明の組成物に配合することができる薬剤は親油性の薬剤であれば特に限定されないが、例えば、抗炎症剤、抗生物質、抗菌剤、免疫調製剤、抗腫瘍剤、ビタミン類等が挙げられる。さらに詳しくは、例えば、従来の乳剤性の製剤では、種々の緩衝剤を用い、至適pHの調節で加水分解反応を抑制する必要のあったステロイド類(コルチゾン、ハイドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、パラメタゾン、トリアムシノロン、フルオシノロンアセトニド等)のエステル化合物、女性ホルモン(エストロン、エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベステロール、プロゲステロン等)等も用いることができる。
【0021】
また、通常の乳剤性製剤では安定的に配合しにくく、製剤からの放出性が期待できなかった親油性の薬剤、例えばビタミン類(ビタミンA1、ビタミンA2、プロビタミンA類およびこれらの誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6 とその誘導体および類縁体、ビタミンH、ビタミンC誘導体、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンK類縁体、ビタミンE、ビタミンE誘導体、アセチルパントテニルエチルエーテル、ビタミンCテトライソパルミテート等)、リノール酸、リノレン酸アラキドン酸等の必須脂肪酸やビタミンH等の他にレゾルシン、レゾルシンモノアセテート、ユビキノン類、コエンザイム等が挙げられる。
【0022】
さらに、抗炎症剤としては、例えば、アセメタシン、アルクロフェナク、アルミノプロフェン、アンピロキシカム、イブプロフェン、インドメタシン、インドメタシンファルネシル、エトドラク、エピリゾール、オキサプロジン、ケトプロフェン、ザルトプロフェン、ジクロフェナックナトリウム、ジフルニサル、スリンダク、チアプロフェン酸、テノキシカム、トルフェナム酸、ナプメトン、ナプロキセン、ピロキシカム、フェンブフェン、フルフェナム酸、フルルビプロフェン、フロクタフェニン、プラノプロフェン、メフェナム酸、ロキソプロフェンナトリウム、エモルファゾン、ケトフェニルブタゾン、ブコローム等又はこれらの誘導体等が挙げられる
【0023】
抗生物質としては、例えば、グンタマイシン、ジベカシン、カネンドマイシン、リビドマイシン、トブラマイシン、アミカシン、フラジオマイシン、シソマイシン、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、ドキシサイクリン、アンピシリン、ピペラシリン、チカルシリン、セファロチン、セファロリジン、セフォチアム、セフスロジン、セフメノキシム、セフォゾリン、セファタキシム、セファペラゾン、セフチゾキシム、モキソラクタム、チエナマイシン、スルファゼシン、アズスレオナム等が挙げられる。
【0024】
免疫調節剤としては、例えば、タクロリムス、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビン、NFKBデコイ等が挙げられる。
【0025】
抗腫瘍剤としては、例えば、メソトレキセート、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、アドリアマイシン、ネトカルチノスタチン、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル、テトラヒドロフリル−5−フルオロウラシル、レンチナン、レバミゾール、ベスタチン等が挙げられる。
【0026】
本発明の非水乳化型組成物の製造方法は、特に制限されるものでないが、油性成分と薬剤を含有する油相及び多価アルコールと親水性非イオン界面活性剤を含有する水相とからなる系を混合して、水相中で油性成分を微細化して濃縮乳化物(コンクベース)を形成させる第一次工程とコンクベースを後添水相で希釈させ、その際に、必要に応じて増粘させる第二次行程が適している。
【0027】
本発明の第一次乳化工程の油相を調製する際の諸条件は適宜選定されるが、上記油性成分と薬剤を均一に混合溶解させるには、油性成分を60〜90℃、好ましくは65〜80℃で混合溶解させることが望ましい。温度が低すぎると油性成分を均一に混合溶解することが困難となる場合がある。
【0028】
また、本発明の第一次乳化工程の水相を調製する際の諸条件は適宜選定されるが、上記多価アルコールと親水性非イオン界面活性剤を均一に混合溶解させるには、これらを室温〜50℃、好ましくは室温〜40℃で混合溶解させることが望ましい。
【0029】
次に、濃縮乳化物(コンクベース)の調製は水相を撹拌処理しながら油相を水相に徐々に添加するものである。コンクベースを調製する際の温度は、油相及び水相の種類等によって適宜選定されるが、通常は室温〜70℃、好ましくは室温〜50℃、より好ましくは室温である。温度が低すぎると乳化が困難となる場合があり、高すぎると微小エマルション粒子形成に影響を与える場合がある。従って、上記油相を高い温度で溶解した場合は、水相に添加する際に、所定温度に冷却することが望ましい。但し、飽くまで油相は液状であることがコンクベース製造時の条件であり、油相が固化してしまっていては作製は困難である。
【0030】
水溶性多価アルコールの配合量は全体の0.5〜65.0重量%が好ましく、更に好ましくは5〜35重量%である。一方、油分量が少ないほど非水乳化型組成物は調製し易いが、あまりに配合量が少なくなると水分保持能が劣り、使用性(感触)についても水溶性多価アルコールのべたつき感が現れることがある。それゆえ、非水乳化型組成物の調製における非イオン界面活性剤と水溶性多価アルコールとの配合比は1:5〜1:60の範囲が望ましい。また、非イオン界面活性剤と油分量との配合比は1:1〜1:30の範囲が好ましい。そして、油相と水相の配合比は、1:0.5〜1:4の範囲が好ましい。
【0031】
一般に非イオン界面活性剤の配合量は、油分量に対して多いほど乳化型組成物は作製が容易になるが、皮膚安全性としては好ましくない。逆に、少量であれば微小エマルション構造を取り難く、乳化型組成物の作製は困難となる。しかし、非水乳化の場合は、油分量に対する非イオン界面活性剤の配合量が少なくても、原理的には水溶性多価アルコールと油成分との濃縮乳化物(コンクベース)を基本とした水中油型エマルションの水相を安定化させるための精製水、すなわち、後添水による水相の安定化が成されるため、乳化安定性に優れた組成物の作製が可能である。なお、この際水溶性多価アルコールの他に、ピロリドンカルボン酸ナトリウムまたはセチル硫酸ナトリウムやアミノ酸類の配合が有用である。これらの添加は、乳化界面に存在して乳化滴同士の凝集を防ぎ、系の乳化安定性の向上が可能になるためである。それらの比率は0.001〜45重量%である。
【0032】
なお、油分量と非イオン界面活性剤比が極端に大きく、水溶性多価アルコールの配合量が比較的少ない(35%以下)場合には、強力な機械的撹拌力(マントンガウリンやマイクロフルイダイザー)を与えないと、乳化滴の微小化と安定な乳化構造が得られない傾向にある。このような場合には、水溶性多価アルコールの配合量を多く処方すればよい。また、撹拌力の強さや与え方によってはグリコールとの乳化をとり難い場合がある。通常、非水乳化は室温下で作製が可能であるが、この様な場合には、強い撹拌力または温度を加えることにより、強固な乳化構造を有する非水乳化型組成物とすることができる。
【0033】
本発明の非水乳化型組成物に薬剤を配合する場合、薬剤が室温で液状の油溶性薬剤であれば特に問題はない。このことは、通常の乳化型組成物であれば一般的な事項である。ところが、薬剤が結晶(固体)の場合には、薬剤を溶解するための高極性の油成分配合量を多くすることができないため、通常の乳化型組成物では制限を受ける。これに対し、非水乳化型組成物の特徴として、高極性油の配合量は比較的高用量配合できる。
【0034】
また、強固な乳化構造を有していることから、水、低級一価アルコール或いは水溶性多価アルコールで希釈しても温度安定性が変わらない。非水乳化型組成物は構造粘性を有しないことが特徴であるが、必要に応じて水溶性高分子やベントナイトなどの粘土鉱物等の増粘剤を配合することによって構造粘性を持たせることができる。または後添水相にカルボキシビニルポリマーなどのゲル剤を添加することで粘度を高めることができる。さらに、界面活性剤の増減によって求められる粘度に適切に調節することも可能である。しかし、低粘性の非水乳化型組成物であっても、温度安定性が極めて良く使用性にも優れているし、微小エマルション粒子であるため肌へのなじみが良く、薬剤の皮膚浸透性にも優れている。また必要に応じて、色素、香料、顔料、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤から前記した添加剤以外の薬剤等を本発明の目的を構成する範囲内で適宜配合することができる。例えばクリーム類、乳液類、エッセンス類、パック類、パップ類等を適宜配分することができる。なお、この乳化工程において、水相成分には、親水性界面活性剤と水溶性多価アルコールの他に、予め少量の水を添加することもできる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、従来のエマルション製剤では安定的に配合することができなかった薬剤を、微小エマルション構造を有する非水乳化型組成物中に安定的に配合することができる。さらに、グリセリンを配合することにより、通常の乳化型組成物に配合する例に比較すると、保湿性が格段に向上する。のみならず、薬剤の放出性、すなわち皮膚移行性に優れた非水乳化型組成物を提供することができる。
【0036】
また、本発明の非水乳化型組成物は極めて安定であることから、微小エマルション構造を破壊することなく水、低級アルコールや水溶性多価アルコール等で希釈することができるので、皮膚外用剤や皮膚化粧料に新規な基剤として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に実施例および試験例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
表1に、本発明の実施例1〜実施例6及び比較例の処方及び平均粒子径を示した。
【表1】

【0039】
[実施例1]
表1の油相成分を75〜80℃に加熱撹拌し、溶解した後に室温下に温度調節を行って油相を調製した。一方、水相成分は加温して界面活性剤の溶解を完全に行ってから、室温下に保管した。水相を1/4馬力ホモミキサー(特殊機化工業社製)で撹拌処理しながら、油相を徐々に添加した。添加終了後、さらに90秒間撹拌処理を行い、濃縮乳化物(コンクベース)を調製した。室温下で、後添水相成分を溶解した後添水相をコンクベースに加え、さらに90秒間撹拌処理を行い非水乳化型組成物を得た。
【0040】
[実施例2〜実施例6]
実施例1と同様に操作して非水乳化型組成物を得た。
【0041】
[試験例1] 粒子径
実施例1〜実施例6および比較例についてレーザー回折型粒度分布測定装置(堀場製作所製,LA-700)で測定した、作製した非水乳化型組成物の乳化滴の平均粒子径(メジアン径)の結果を表1に示す。これから、全ての非水乳化型組成物の平均粒子径が1μm以下の微細なエマルションであることが分かる。参考までに、試験例で用いる市販のグリセリン20%配合水中油型保湿クリーム剤の平均粒子径は20.06μmであった。
【0042】
[試験例2] 保湿性能試験
実施例1〜実施例6および比較例、対照として市販のクリーム剤(グリセリンを20%配合)と市販の軟膏剤(白色ワセリン基剤中に薬物分散型)の保湿性能を、動物を用いた高周波電導度測定装置(SKICON-200,IBS:皮膚角層水分量測定用装置)を用いて0.5、1、2、5時間後に測定を各5箇所について行った。それらの試験結果を図1に示す。
【0043】
その結果、グリセリンを配合しない比較例と比較してグリセリンを配合している実施例1から実施例6は保湿性能が増大している。また、グリセリンを20%配合している製剤でも非水乳化製剤は通常の水中油型クリーム剤より保湿性能が増大している。
【0044】
[試験例3] 薬理試験
実施例1〜実施例6、市販ステロイドクリーム剤及び市販ステロイド軟膏剤の薬理効果について行った。
試験方法は、各サンプル50mgを皮膚感作テスト用テープ(フィンチャンバー・オン・スキャンポール,大塚製薬)に適用し、これを動物に貼付・固定し、この後2および4時間経過後に剥がしたときの皮膚を色彩色差計(CR-300,ミノルタ)で計測した。それらの3回(各測定とも皮膚は1回3ヶ所)の試験結果を図2に示す。また、標準白版についても同時に測定した。測定結果より、評価値は標準白板と塗布前の皮膚色差(E(b))と塗布後(2,4時間後)の白板との皮膚色差(E(a))の差〔E(a)−E(b)〕を蒼白化度とした。この値は負になるほど薬剤が吸収されたことを示す。
【0045】
非水乳化型組成物は薬剤が皮膚に移行しやすい結果であった。
【0046】
以上の保湿性能試験及び薬理試験の結果から、グリセリンを配合した非水乳化型組成物は保湿性能及び薬剤の皮膚移行性がグリセリンを配合していない非水乳化型組成物、従来の乳化型組成物及び軟膏剤よりも優れていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】保湿性能試験の結果を示す図である。
【図2】薬理試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性非イオン性界面活性剤及びグリセリンを含有することを特徴とする非水乳化型組成物
【請求項2】
さらに、水溶性多価アルコールを含む請求項1に記載の非水乳化型組成物
【請求項3】
油分量(油分および高級脂肪酸)の配合量は全体の0.5〜35.0重量%を含有し、水溶性多価アルコール(グリセリンを含む)は0.5〜65.0重量%を含有し、濃縮乳化物を作製する際の油分量と非イオン界面活性剤の比が1:1〜1:30の範囲であり、非イオン界面活性剤と水溶性多価アルコールとの配合比は1:5〜1:60の範囲である請求項1または2のいずれかに記載の非水乳化型組成物
【請求項4】
水溶性多価アルコールがジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールから選ばれる請求項1または2のいずれかに記載の非水乳化型組成物
【請求項5】
請求項1の非水乳化組成物に薬剤を加えてなる非水乳化型組成物
【請求項6】
薬剤が親油性薬剤である請求項5に記載の非水乳化型組成物
【請求項7】
親油性薬剤がステロイド類、ビタミン類、抗炎症剤、抗生物質、免疫調整剤、抗腫瘍剤から選ばれる請求項6に記載の非水乳化型組成物

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−241132(P2006−241132A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164797(P2005−164797)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000113908)マルホ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】