説明

非水性インクジェットインク

【課題】懸濁重合法または乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂を含み、しかも前記ポリ塩化ビニル系樹脂が短期間でゲル化して吐出不良や目詰まり等を生じるおそれのない非水性インクジェットインクを提供する。
【解決手段】懸濁重合法または乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂と、pHが2〜9である有機溶媒と、pHが2〜9である顔料分散液とを含む非水性インクジェットインクである。前記非水性インクジェットインクは、必要に応じてpHが2〜9であるベンゾトリアゾール類やエポキシ化物を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にポリ塩化ビニルシート等の表面に画像や文字等を印刷するために適した非水性インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタのヘッドのノズルから吐出させた微小なインク滴によって画像や文字を印刷するいわゆるインクジェット印刷は、主に紙等の吸水性の表面への印刷に利用されており、前記印刷に使用するインクジェットインクとしては、水に水溶性染料等の着色剤を加えた水性のインクジェットインクが広く一般的に用いられてきた。
しかし近年、特に業務用用途等の様々な分野において様々な表面への印刷にインクジェット印刷が利用されるようになってきており、前記様々な表面に、それに見合う良好な耐水性、耐光性、耐摩擦性等を有する上、画質の良好な画像や文字を印刷するために、従来の水性のインクジェットインクに代えて、溶媒として実質的に水を含まず有機溶媒のみを用いたいわゆる非水性インクジェットインクと、それを用いるインクジェットプリンタとが実用化され、普及してきている。
【0003】
例えば屋外の広告等の媒体として多用されているポリ塩化ビニルシート等の表面に、前記各特性に優れた画質の良好な画像や文字を印刷するための大型のインクジェットプリンタに用いる非水性のインクジェットインクとしては、耐光性に優れた顔料と、前記顔料をポリ塩化ビニルシート等の表面に定着させるためのバインダ樹脂と、前記バインダ樹脂を溶解しうる有機溶媒とを含むものが主に用いられる。
【0004】
また前記バインダ樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂等の、ポリ塩化ビニルシート等の表面に対する定着性に優れた各種の樹脂が挙げられ、中でも最も定着性のよいポリ塩化ビニル系樹脂が好適に使用される。
さらに塩化ビニルに酢酸ビニルを共重合させると、有機溶媒による溶解性を向上させたり、ポリ塩化ビニル系樹脂の表面に印刷される画像や文字の可撓性を高めて印刷の耐擦過性を向上したりできるため、前記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、特に塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が好適に用いられる(例えば特許文献1〜3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−231870号公報
【特許文献2】特開2005−23298号公報
【特許文献3】特開2005−200469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記ポリ塩化ビニル系樹脂として、従来は溶液重合法によって合成されたものが一般的であった。しかし溶液重合法では、ポリ塩化ビニル系樹脂を合成する際に多量の有機溶媒を使用しなければならずその処理が問題となっている。
すなわち合成したポリ塩化ビニル系樹脂を反応系中から取り出すためには乾燥処理、つまり有機溶媒を大気中に揮散させて除去するのが最も簡単であるが、近年、環境に対する負荷を軽減すること等を考慮して、前記有機溶媒を極力大気中に揮散させずに排気処理、廃液処理等によって回収することが必要となりつつある。
【0007】
そして、これらの処理に要する設備やその稼動ために要するエネルギー等がポリ塩化ビニル系樹脂の生産性を低下させるとともに生産コストを押し上げる原因となってきているのが現状である。
そこで、溶液重合法のように多量の有機溶媒を使用する必要のない、懸濁重合法や乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂を用いることが検討されている。
【0008】
しかし発明者の検討によると、これらの合成方法で合成されたポリ塩化ビニル系樹脂を用いて調製した非水性インクジェットインクを、特に大型のインクジェットプリンタへのインク供給手段として一般的なアルミニウムラミネート材等からなる袋体内に真空充てんして保存した場合、前記ポリ塩化ビニル系樹脂が、溶液重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂を含むものに比べて短期間でゲル化しやすいことが明らかとなった。
【0009】
ポリ塩化ビニル系樹脂がゲル化すると、インクジェットプリンタのノズルから所定量のインクが適性に吐出されにくくなったり、ノズルが目詰まりしてインクが全く吐出されなくなったりする。そのためポリ塩化ビニルシート等の表面に、画質の良好な画像や文字等を印刷できなくなるという問題を生じる。ポリ塩化ビニル系樹脂のゲル化は極力抑制しなければならない。
【0010】
本発明の目的は、懸濁重合法または乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂を含み、しかも前記ポリ塩化ビニル系樹脂が短期間でゲル化して吐出不良や目詰まり等を生じるおそれのない非水性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一般に非水性インクジェットインクは、ポリ塩化ビニル系樹脂を所定量の有機溶媒に溶解して調製した樹脂溶液と、顔料を所定量の有機溶媒に分散させた顔料分散液とを所定の比率で混合して調製される。また特に樹脂溶液には、必要に応じて後述する金属配位化合物やエポキシ化物等の添加剤を含有させる場合もある。
懸濁重合法や乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂を用いた際に、短期間でゲル化を生じる原因について発明者は種々検討した。その結果、非水性インクジェットインクを構成する前記各成分のpHがポリ塩化ビニル系樹脂のゲル化と密接に関係していることを見出した。
【0012】
すなわち、非水性インクジェットインクに用いる有機溶媒にポリ塩化ビニル系樹脂を溶解して調製した樹脂溶液のpHを測定すると、懸濁重合法や乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂の樹脂溶液は、溶液重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂の樹脂溶液よりもpHが小さく高い酸性値を示す。
このことから懸濁重合法、乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂は、溶液重合法によって合成されたものよりも脱塩酸反応を起こしやすい素地を秘めていることが推測される。つまり懸濁重合法や乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂は、溶液重合法によって合成されたものよりもHおよびClを放出しやすい傾向がある。
【0013】
かかる傾向のある、懸濁重合法、乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂を、pHが9を超える塩基性の有機溶媒や顔料分散液、添加剤等と混合すると、これらの成分が特にポリ塩化ビニル系樹脂中のHと中和反応を起こしやすいことから、前記中和反応、すなわちポリ塩化ビニル系樹脂の脱塩酸反応と、それに伴う塩の生成や二重結合の形成が促進される結果、ポリ塩化ビニル系樹脂が短期間でゲル化してしまうと考えられる。
【0014】
また、特に非水性インクジェットインクを袋体内に真空充てんする際の物理的な衝撃、具体的には圧力の急速な変化等や、あるいは袋体内に充てん後の保管時の熱履歴等が、前記脱塩酸反応開始の引き金になっていると考えられる。
そこで発明者はさらに検討した結果、前記懸濁重合法、乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂と組み合わせる有機溶媒、および顔料分散液として、いずれもpHが2〜9であるものを用いれば、前記中和反応→脱塩酸反応を起こりにくくしてポリ塩化ビニル系樹脂が短期間でゲル化するのを抑制できることを見出した。
【0015】
したがって本発明は、懸濁重合法または乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂と、pHが2〜9である有機溶媒と、pHが2〜9である顔料分散液とを含むことを特徴とする非水性インクジェットインクである。
なお本発明において、有機溶媒や樹脂溶液、顔料分散液等の、それ自体が液体である各種成分のpHは、温度25±1℃の環境下、ガラス電極と比較電極とを浸漬した際に両電極間に生じる電位差からpHを求める、いわゆるガラス電極法によって測定した値でもって表すこととする。ガラス電極の内部液としては3mol/lのKCl水溶液を用いる。
【0016】
また固体の成分のpHは、水溶性である場合は純水に溶解した5%水溶液の状態で、同様に温度25±1℃の環境下、ガラス電極法によって測定した値でもって表すこととする。ガラス電極の内部液としては3mol/lのKCl水溶液を用いる。
前記ガラス電極法によるpHの測定装置(pHメータ)としては、例えば東亜電波工業(株)製のHM−40V等が挙げられる。
【0017】
具体的な測定手順としては、前記ガラス電極と比較電極とを測定する液体に浸漬して1分間経過後のpH値を読み取る。特に有機溶媒系の場合はpH値が安定しないことがあり、その場合にはpH値の振れのセンター値をpH値として求めることとする。
本発明の非水性インクジェットインクには、従来同様に金属配位化合物やエポキシ化物等の添加剤を含有させてもよい。
【0018】
このうち金属配位化合物は、インクジェットプリンタのヘッドのノズルを構成するノズルプレート等の、非水性インクジェットインクに対する濡れ性を調整して、前記非水性インクジェットインクをノズルから良好に吐出できるようにするため前記ノズルプレート等の表面に形成される、フッ素樹脂とニッケルとの共析被膜等の、非水性インクジェットインクをはじく性質を有する被膜(撥インク性被膜)中のニッケルと配位することで、前記撥インク性被膜の、有機溶媒に対する耐性を向上するために機能する。
【0019】
前記金属配位化合物としては、例えばイミダゾール類、ベンゾトリアゾール類等の含窒素化合物が挙げられるが、本発明では金属配位化合物についてもそのpHが2〜9であるのが好ましい。かかるpHの点や、ニッケルと良好に配位させて前記撥インク性被膜の有機溶媒に対する耐性をより一層良好に向上させること等を考慮すると、前記金属配位化合物としてはpHが2〜9であるベンゾトリアゾール類が好ましい。
【0020】
またエポキシ化物を含有させると、前記エポキシ化物の分子中のエポキシ基が、前記脱塩酸反応によって生じた塩素と反応して、前記塩素を分子中に取り込む働きをする。そのためエポキシ化物を含有させることで、非水性インクジェットインクのpHが酸性側に移行して更なる脱塩酸反応が進行するのを抑制でき、ゲル化が発生するのをさらに長期間に亘って防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、懸濁重合法または乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂を含み、しかも前記ポリ塩化ビニル系樹脂が短期間でゲル化して吐出不良や目詰まり等を生じるおそれのない非水性インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の非水性インクジェットインクは、懸濁重合法または乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂と、pHが2〜9である有機溶媒と、pHが2〜9である顔料分散液とを含むことを特徴とするものである。
なお本発明において有機溶媒や顔料分散液、さらには後述する金属配位化合物のpHがいずれも9以下に限定される理由は先に説明したとおりである。
【0023】
すなわちpHが9を超える塩基性の成分は、懸濁重合法、乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂中のHと中和反応を起こしやすいため、前記中和反応、すなわちポリ塩化ビニル系樹脂の脱塩酸反応と、それに伴う塩の生成や二重結合の形成が促進される結果、ポリ塩化ビニル系樹脂が短期間でゲル化してしまう。
また前記各成分のpHが2以上に限定されるのは、各成分のいずれか1つでもpHが2未満である場合には非水性インクジェットインクが強い酸性を示すため、インクジェットプリンタのヘッド等を構成する金属部分を腐食させたり、樹脂部分やゴム部分、あるいは接着剤等を劣化させたりするためである。また含量の分散安定性が低下して凝集や沈降等を生じるおそれがあるためである。
【0024】
〈ポリ塩化ビニル系樹脂〉
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、先に説明したように合成時に多量の有機溶媒を使用しない懸濁重合法または乳化重合法によって合成され、屋外の広告等の媒体として多用されているポリ塩化ビニルシート等の表面に対する定着性に優れた種々のポリ塩化ビニル系樹脂が使用可能である。
【0025】
ただし、これも先に説明したように塩化ビニルに酢酸ビニルを共重合させると、有機溶媒による溶解性を向上させたり、ポリ塩化ビニル系樹脂の表面に印刷される画像や文字の可撓性を高めて印刷の耐擦過性を向上したりできる。したがってポリ塩化ビニル系樹脂としては、前記懸濁重合法または乳化重合法によって合成された、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0026】
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の分子量や、酢酸ビニル含量等は任意に設定できる。
例えば懸濁重合法によって合成される塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、数平均分子量Mnが5000以上、特に10000以上であるのが好ましく、100000以下、特に30000以下であるのが好ましい。
【0027】
数平均分子量Mnが前記範囲未満では、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の、ポリ塩化ビニルシート等に対する定着性が低下して、印刷の耐擦過性等が低下するおそれがある。
また前記範囲を超える場合には、非水性インクジェットインクの粘度が高くなりすぎて、インクジェットプリンタのヘッドのノズルから、液滴として良好に吐出できないおそれがある。
【0028】
また懸濁重合法によって合成される塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含量は1質量%以上、中でも10質量%以上、特に13質量%以上であるのが好ましく、36質量%以下、中でも22質量%以下、特に15質量%以下であるのが好ましい。
酢酸ビニル含量が前記範囲未満では、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の、特に後述する第1の有機溶媒に対する溶解性が低下して析出しやすくなり、非水性インクジェットインクの安定性が低下するおそれがある。
【0029】
また前記範囲を超える場合には、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の、ポリ塩化ビニルシート等に対する定着性が低下して、印刷の耐擦過性等が低下するおそれがある。
前記懸濁重合法によって合成される塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体としては、例えば日信化学工業(株)製のSOLBIN(登録商標)シリーズの塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体のうち品番CL(数平均分子量Mn:25000、酢酸ビニル含量:14質量%)、CNL(数平均分子量Mn:12000、酢酸ビニル含量:10質量%)、C5R(数平均分子量Mn:27000、酢酸ビニル含量:21質量%)、AL(数平均分子量Mn:22000、酢酸ビニル含量:2質量%)、TA5R(数平均分子量Mn:28000、酢酸ビニル含量:1質量%)、TA0(数平均分子量Mn:15000、酢酸ビニル含量:2質量%)、TA3(数平均分子量Mn:24000、酢酸ビニル含量:4質量%)等が挙げられる。
【0030】
また乳化重合法によって合成される塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、重量平均分子量Mwが5000以上、中でも30000以上、特に45000以上であるのが好ましく、100000以下、中でも60000以下、特に55000以下であるのが好ましい。
重量平均分子量Mwが前記範囲未満では、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の、ポリ塩化ビニルシート等に対する定着性が低下して、印刷の耐擦過性等が低下するおそれがある。
【0031】
また前記範囲を超える場合には、非水性インクジェットインクの粘度が高くなりすぎて、インクジェットプリンタのヘッドのノズルから、液滴として良好に吐出できないおそれがある。
また乳化重合法によって合成される塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含量は1質量%以上、中でも10質量%以上、特に14質量%以上であるのが好ましく、36質量%以下、中でも20質量%以下、特に16質量%以下であるのが好ましい。
【0032】
酢酸ビニル含量が前記範囲未満では、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の、特に後述する第1の有機溶媒に対する溶解性が低下して析出しやすくなり、非水性インクジェットインクの安定性が低下するおそれがある。
また前記範囲を超える場合には、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の、ポリ塩化ビニルシート等に対する定着性が低下して、印刷の耐擦過性等が低下するおそれがある。
【0033】
前記乳化重合法によって合成される塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体としては、例えばワッカーケミー社製のVINNOL(登録商標)シリーズの塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体のうち品番E15/45(重量平均分子量Mw:45000〜55000、酢酸ビニル含量:15.0±1.0質量%)、H14/36(重量平均分子量Mw:30000〜40000、酢酸ビニル含量:14.4±1.0質量%)、H15/42(重量平均分子量Mw:35000〜50000、酢酸ビニル含量:14.0±1.0質量%)、H40/43(重量平均分子量Mw:40000〜50000、酢酸ビニル含量:34.3±1.0質量%)、E15/45M(重量平均分子量Mw:50000〜60000、酢酸ビニル含量:15.0±1.0質量%)、E15/40M(重量平均分子量Mw:40000〜50000、酢酸ビニル含量:15.0±1.0質量%)等が挙げられる。
【0034】
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体のうち懸濁重合法によって合成されるものは総じて有機溶媒に対する溶解性が低く、有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性有機溶媒等の溶解性の強いものを使用する必要がある。そのため、たとえ金属配位化合物を含有させたとしても、前記溶解性の強い有機溶媒が、先に説明した撥インク性被膜を比較的短期間で劣化させてしまうおそれがある。
【0035】
これに対し乳化重合法によって合成される塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、総じて有機溶媒に対する溶解性が高く、有機溶媒としては、あまり溶解性の強くない有機溶媒を使用することが可能である。したがって撥インク性被膜による良好な撥インク性を、比較的長期間に亘って劣化させずに維持することができる。
そのため塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体としては乳化重合法によって合成されるものを用いるのが特に好ましい。
【0036】
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂の含有割合は、非水性インクジェットインクの総量の1質量%以上、特に3質量%以上であるのが好ましく、10質量%以下、特に7質量%以下であるのが好ましい。
含有割合が前記範囲未満では、ポリ塩化ビニル系樹脂を含有させることによる、顔料をポリ塩化ビニルシート等の表面に定着させる効果が十分に得られず、印刷の耐擦過性が低下するおそれがある。
【0037】
また含有割合が前記範囲を超える場合には、非水性インクジェットインクの粘度が高くなりすぎて、インクジェットプリンタのヘッドのノズルから液滴として良好に吐出できないおそれがある。
〈有機溶媒〉
有機溶媒としては、前記ポリ塩化ビニル系樹脂を良好に溶解できる上、pHが2〜9の範囲内であって溶解したポリ塩化ビニル系樹脂を短期間でゲル化させるおそれがない種々の有機溶媒が使用可能である。
【0038】
特に前記撥インク性被膜を短期間で劣化させることなく、またポリ塩化ビニル系樹脂や顔料が短期間で凝集したり沈降したりするのを防止しながら、前記ポリ塩化ビニル系樹脂や顔料をポリ塩化ビニルシート等の表面に強固に定着させて、前記表面に耐水性、耐光性、耐擦過性等に優れた画像や文字等を印刷することを考慮すると、いずれもアルキレングリコール誘導体である下記第1〜第3の3種の有機溶媒のうち、いずれもpHが2〜9の範囲内である第1および第2の2種の有機溶媒、または第1〜第3の3種の有機溶媒を併用するのが好ましい。
【0039】
(第1の有機溶媒)
エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、およびジエチレングリコールエチルメチルエーテル(pH=6.8)からなる群より選ばれた少なくとも1種。
(第2の有機溶媒)
ジエチレングリコールジエチルエーテル(pH=4.0)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(pH=6.7)、およびプロピレングリコールジメチルエーテル(pH=2.6)からなる群より選ばれた少なくとも1種。
【0040】
(第3の有機溶媒)
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(pH=4.9)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(pH=7.6)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(pH=7.8)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル(pH=6.9)、イソプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(pH=5.8)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(pH=3.5)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびトリプロピレングリコールジメチルエーテル(pH=7.2)からなる群より選ばれた少なくとも1種。
【0041】
前記第1〜第3の有機溶媒の分類は、特開2009−74034号公報に所載の分類方法に基づく。
すなわち第1の有機溶媒は下記(1)の溶解性および(2)の膨潤性の両方を有する有機溶媒、第2の有機溶媒は(1)の溶解性は有しないが(2)の膨潤性は有する有機溶媒、第3の有機溶媒は(1)の溶解性も(2)の膨潤性も有しない有機溶媒である。
【0042】
(1) 溶解性試験
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体〔ダウケミカル社製のVYHD、数平均分子量Mn=22000、酢酸ビニル含量14質量%〕0.2gを、20mlの有機溶媒に加えて25±1℃で1時間かく拌した際に、全量を溶解させることができた(溶液が透明になった)ものを溶解性あり、全量を溶解させることができなかった(溶液が濁ったり固形物が沈殿したりした)ものを溶解性なしとして評価した。
【0043】
(2) 膨潤性試験
日本工業規格JIS K6742:2004に規定された、外径の基準寸法が32.0mm、内径の呼び径が25mmの水道用硬質塩化ビニル管(VP)(JIS K67427922、エスロン パイプ スイドウ VP25 R00074261)を有機溶媒に浸漬させて、60±1℃で3日間静置した後、内径の変化率を測定し、前記変化率が1%以上のものを膨潤性あり、1%未満のものを膨潤性なしとして評価した。
【0044】
なお(1)の溶解性は、詳しくは、評価する有機溶媒20mlをビーカー中に入れ、表面がテフロン(登録商標)でコートされたかく拌子を投入して、25±1℃に設定した恒温槽中で静置して液温を安定させた後、マグネチックスターラを動作させることで前記かく拌子を回転させて、回転速度500rpm以上、1000rpm以下の条件でかく拌しながら粉末状の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を加えて1時間、さらにかく拌を続けた後の溶液を目視にて観察して、先に説明したように溶液が透明になったものを溶解性あり、溶液が濁っていたり固形物が沈殿したりしたものを溶解性なしとして評価した結果で表すこととする。
【0045】
また(2)の膨潤性は、詳しくは、評価する有機溶媒300mlをビーカー中に入れ、60±1℃に設定した恒温槽中で静置して液温を安定させた状態で、前記液中に、あらかじめ長さ80mmに切断すると共に内径を実測した水道用硬質塩化ビニル管(VP)を浸漬して3日間静置した後、前記水道用硬質塩化ビニル管(VP)を液中から引き上げて直ちに内径を実測して、浸漬前後の内径の変化率が1%以上のものを膨潤性あり、1%未満のものを膨潤性なしとして評価した結果で表すこととする。
【0046】
前記3種の有機溶媒のうち第1および第2の有機溶媒を併用すると、先に説明したように撥インク性被膜を短期間で劣化させるおそれのある非プロトン性極性有機溶媒を使用することなく、ポリ塩化ビニル系樹脂を良好に溶解させることができる。
すなわち前記2種の有機溶媒を併用すると、ポリ塩化ビニル系樹脂の良溶媒であるものの先に説明した非プロトン性極性溶媒ほど溶解性が強くないため撥インク性被膜を短期間で劣化させるおそれのない第1の有機溶媒による、ポリ塩化ビニル系樹脂の溶解性を、第2の有機溶媒による膨潤作用によってさらに向上させることができる。
【0047】
そのため、前記第1および第2の有機溶媒の分子構造が互いに近似していることと相まって非水性インクジェットインクの保存安定性を向上させて、ポリ塩化ビニル系樹脂や顔料が短期間で凝集したり沈降したりするのを防止しながら、前記非水性インクジェットインクの、ポリ塩化ビニルシート等に対する浸透性を高めて、前記ポリ塩化ビニル系樹脂や顔料を前記ポリ塩化ビニルシート等の表面に強固に定着させることができる。
【0048】
また、さらに第3の有機溶媒を併用して、非水性インクジェットインクの表面張力や粘度等をインクジェット印刷に適した範囲に調整することもできる。
前記第1および第2の2種の有機溶媒の併用系において、両有機溶媒の総量中の第1の有機溶媒の含有割合は5質量%以上、特に8質量%以上であるのが好ましく、50質量%以下、特に40質量%以下であるのが好ましい。
【0049】
含有割合が前記範囲未満では、第1の有機溶媒を含有させることによる、ポリ塩化ビニル系樹脂の溶解性を向上させて非水性インクジェットインクの保存安定性を向上し、かつ浸透性を高めてポリ塩化ビニル系樹脂や顔料をポリ塩化ビニルシート等の表面に強固に定着させる効果が十分に得られないおそれがある。
また含有割合が前記範囲を超える場合には溶解性が強くなり過ぎて、特にポリ塩化ビニルシート等の表面にベタ印刷をした際に前記表面が荒らされて印刷の光沢性、平滑性等が低下するおそれがある。
【0050】
また第1ないし第3の3種の有機溶媒の併用系において、前記3種の有機溶媒の総量中の第1の有機溶媒の含有割合は5質量%以上、特に8質量%以上であるのが好ましく、50質量%以下、特に40質量%以下であるのが好ましい。この理由は、先に説明した2種の併用系の場合と同じである。
また第3の有機溶媒の含有割合は1質量%以上、特に2質量%以上であるのが好ましく、50質量%以下、特に40質量%以下であるのが好ましい。
【0051】
含有割合が前記範囲未満では、前記第3の有機溶媒を含有させることによる、表面張力や粘度等を調整する働きが十分に得られないおそれがある。
また、第1および第2の有機溶媒の種類と含有割合によっては溶解性が強くなり過ぎて、特にポリ塩化ビニルシート等の表面にベタ印刷をした際に前記表面が荒らされて印刷の光沢性、平滑性等が低下するおそれがある。
【0052】
また含有割合が前記範囲を超える場合には、相対的に第1および第2の有機溶媒の含有割合が少なくなり過ぎるため、第1の有機溶媒を含有させることによるポリ塩化ビニル系樹脂の溶解性を向上させる効果や、第2の有機溶媒を含有させることによる前記第1の有機溶媒の働きを補助する効果が不十分になるおそれがある。
そしてその結果として、非水性インクジェットインクの保存安定性を向上し、かつ浸透性を高めてポリ塩化ビニル系樹脂や顔料をポリ塩化ビニルシート等の表面に強固に定着させる効果が十分に得られないおそれがある。
【0053】
〈顔料分散液〉
顔料分散液としては、先に説明したように屋外の広告等の媒体として多用されているポリ塩化ビニルシート等の表面に前記各特性に優れた画質の良好な画像や文字を印刷できる上、pHが2〜9の範囲内であって溶解したポリ塩化ビニル系樹脂を短期間でゲル化させるおそれがない種々の顔料分散液が使用可能である。また前記顔料分散液に含まれる顔料としては任意の無機顔料および/または有機顔料が挙げられる。
【0054】
このうち無機顔料としては、例えば酸化チタン、酸化鉄等の金属化合物や、あるいはコンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造された中性、酸性、塩基性等の種々のカーボンブラックの1種または2種以上が挙げられる。
また有機顔料としては、例えばアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えばフタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料等)、染料キレート(例えば塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の1種または2種以上が挙げられる。
【0055】
顔料は、非水性インクジェットインクの色目に応じて、1種または2種以上を用いることができる。また顔料は、顔料分散液中、ひいては非水性インクジェットインク中での分散安定性を向上するために表面を処理してもよい。
顔料の具体例としては、下記の各種顔料が挙げられる。
(イエロー顔料)
C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、14C、16、17、20、24、73、74、75、83、86、93、94、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213、214
(マゼンタ顔料)
C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、97、112、122、123、149、168、177、178、179、184、202、206、207、209、242、254、255
(シアン顔料)
C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:3、15:4、15:6、15:34、16、22、60
(ブラック顔料)
C.I.ピグメントブラック7
(オレンジ顔料)
C.I.ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74
(グリーン顔料)
C.I.ピグメントグリーン7、36
(バイオレット顔料)
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50
顔料の含有割合は、非水性インクジェットインクの総量の0.1質量%以上、特に0.4質量%以上であるのが好ましく、10質量%以下、特に8質量%以下であるのが好ましい。顔料の含有割合を前記範囲内とするためには、顔料分散液における顔料の濃度と、前記顔料分散液の配合量とを調整すればよい。
【0056】
顔料分散液は、前記いずれかの顔料を、非水性インクジェットインクを構成する有機溶媒に可溶性で、しかも顔料を良好に分散させることができる任意の溶媒に分散させて調製することができる。例えば有機溶媒が前記第1〜第3の3種の有機溶媒のうちの2重以上の併用系である場合には、顔料分散液を構成する溶媒としても、前記3種の有機溶媒のうちの1種または2種以上が好適に使用される。
【0057】
また顔料分散液には、顔料を良好に分散させるために分散剤等の種々の添加剤を含有させることもできる。
前記顔料分散液のpHを2〜9の範囲内に調整するためには溶剤、顔料、および分散剤等の種類や量、あるいは組み合わせ等を適宜選択すればよい。
〈金属配位化合物〉
本発明の非水性インクジェットインクは金属配位化合物を含んでいてもよい。
【0058】
前記金属配位化合物は、フッ素樹脂とニッケルとの共析被膜等の撥インク性被膜中のニッケルと配位して、前記撥インク性被膜の、有機溶媒に対する耐性を向上するために機能する。
前記金属配位化合物としては、例えばイミダゾール類、ベンゾトリアゾール類等の含窒素化合物が挙げられ、特にpHが2〜9である金属配位化合物が好ましい。
【0059】
かかるpHの点や、ニッケルと良好に配位させて前記撥インク性被膜の有機溶媒に対する耐性をより一層良好に向上させること等を考慮すると、前記金属配位化合物としてはpHが2〜9であるベンゾトリアゾール類が好ましい。
前記ベンゾトリアゾール類の具体例としては、水溶性の固体であって純水に溶解した5%水溶液の状態で測定したpHが7.5である1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0060】
前記金属配位化合物の含有割合は、非水性インクジェットインクの総量の0.1質量%以上、特に0.3質量%以上であるのが好ましく、5.0質量%以下、特に3.0質量%以下であるのが好ましい。
含有割合が前記範囲未満では、前記金属配位化合物を含有させることによる、撥インク性被膜の、有機溶媒に対する耐性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
【0061】
また含有割合が前記範囲を超える場合には、非水性インクジェットインクの粘度が上昇して、ノズルから吐出させる際の吐出安定性が低下したり、過剰の金属配位化合物が析出して印刷の定着性を低下させたりするおそれがある。
〈エポキシ化物〉
本発明の非水性インクジェットインクはエポキシ化物を含有してもよい。
【0062】
前記エポキシ化物は、分子中のエポキシ基が、前記脱塩酸反応によって生じた塩素と反応して、前記塩素を分子中に取り込む働きをする。そのためエポキシ化物を含有させることで、非水性インクジェットインクのpHが酸性側に移行して更なる脱塩酸反応が進行するのを抑制でき、ゲル化が発生するのをさらに長期間に亘って防止することができる。
エポキシ化物としては、分子中にエポキシ基を有し、かつ先に説明したpH2〜9の有機溶媒に溶解することができる種々の化合物が使用可能である。
【0063】
前記エポキシ化物の具体例としては、例えばエポキシグリセリド、エポキシ脂肪酸モノエステル、エポキシヘキサヒドロフタレート、エポキシ樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。
中でもエポキシグリセリド、エポキシ脂肪酸モノエステル、エポキシヘキサヒドロフタレートからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0064】
これらのエポキシ化物は、ポリ塩化ビニル系樹脂や、エポキシ化物の一方の代表例であるエポキシ樹脂に比べて分子量が小さいにも拘らず1分子中に多数のエポキシ基を含有しているため、前記ポリ塩化ビニル系樹脂や顔料の、ポリ塩化ビニルシート等の表面への定着性を低下させたり、非水性インクジェットインクの粘度を上昇させたりすることなしに、ポリ塩化ビニル系樹脂から発生した塩酸をより効率よく、かつ確実に分子中に取り込んで非水性インクジェットインクのpHが酸性側に移行するのを抑制できる。
【0065】
前記のうちエポキシグリセリドとしては、例えば大豆油、亜麻仁油、綿実油、紅花油、サフラワー油、ひまわり油、桐油、ひまし油、とうもろこし油、なたね油、ごま油、オリーブ油、パーム油、グレープシード油、魚油等の油類のエポキシ化物の1種または2種以上が挙げられる。
またエポキシ脂肪酸モノエステルとしては、例えばエポキシ化オレイン酸ブチル、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化大豆脂肪酸ブチル、エポキシ化大豆脂肪酸オクチル、エポキシ化亜麻仁油脂肪酸ブチル、エポキシ化亜麻仁油脂肪酸オクチル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0066】
中でもエポキシグリセリドとしてのエポキシ化大豆油、および/またはエポキシ化亜麻仁油は、前記各種エポキシ化物の中でもより多数のエポキシ基を有しており、先に説明した効果に特に優れるため好適に使用される。
エポキシ化物の含有割合は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部あたり3質量部以上、特に5質量部以上であるのが好ましく、100質量部以下、特に40質量部以下であるのが好ましい。
【0067】
含有割合が前記範囲未満では、前記エポキシ化物を含有させることによる、ポリ塩化ビニル系樹脂の脱塩酸反応によって発生した塩酸を分子中に取り込んで、非水性インクジェットヘッドのpHが酸性側に移行するのを抑制する働きが十分に得られないおそれがある。
また前記範囲を超える場合には、過剰のエポキシ化物が、ポリ塩化ビニル系樹脂や顔料の、ポリ塩化ビニルシート等の表面への定着性を低下させたり、非水性インクジェットインクの粘度を上昇させて良好な吐出安定性を阻害したりするおそれがある。
【0068】
〈その他〉
非水性インクジェットインクには、前記各成分に加えてさらに高分子分散剤、界面活性剤、可塑剤、帯電防止剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、防かび剤、殺生剤等の種々の添加剤を、必要に応じて任意の含有割合で含有させてもよい。
【実施例】
【0069】
以下の実施例、比較例の非水性インクジェットインクの調製、測定、および試験を、特記した以外は温度25±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。
〈実施例1〉
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(2EG−1E、pH=7.6)18質量部をかく拌しながら、乳化重合法によって合成された塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体〔前出のワッカーケミカル社製のVINNOL(登録商標)E15/45、酢酸ビニル含量:約15質量%〕4質量部を加えて分散させた後、ジエチレングリコールジエチルエーテル(2EG−2E、pH=4.0)25.5質量部を加えて前記共重合体を膨潤させた。
【0070】
次にかく拌を続けながらジエチレングリコールエチルメチルエーテル(2EG−EM、pH=6.8)22質量部を加えて前記共重合体を溶解させた後、エポキシ化大豆油〔(株)ADEKA製のアデカサイザー(登録商標)O−130P〕0.5質量部を加えて樹脂溶液を調製した。
またシアン顔料をジエチレングリコールジエチルエーテルに分散させた顔料分散液(顔料濃度15質量%、pH=8.6)を調製し、前記顔料分散液30質量部を先に調製した樹脂溶液70質量部に加えて均一相を形成するようにさらにかく拌して非水性インクジェットインクを製造した。
【0071】
〈実施例2〉
樹脂溶液に1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール(5%水溶液の状態で測定したpH=7.5)0.5質量部を加えるとともにジエチレングリコールジエチルエーテルの量を25質量部としたこと以外は実施例1と同様にして非水性インクジェットインクを製造した。
【0072】
〈実施例3〉
先のもとのは異なるシアン顔料をジエチレングリコールジエチルエーテルに分散させた顔料分散液(顔料濃度15質量%、pH=8.0)を調製し、前記顔料分散液30質量部を実施例2で調製したのと同じ樹脂溶液70質量部に加えて非水性インクジェットインクを製造した。
【0073】
〈実施例4〉
樹脂溶液にエポキシ化大豆油を配合せず、かつジエチレングリコールジエチルエーテルの量を25.5質量部としたこと以外は実施例2と同様にして非水性インクジェットインクを製造した。
〈実施例5〉
ジエチレングリコールジエチルエーテル43質量部に直接に塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体4質量部を加えて膨潤させることで、ジエチレングリコールモノエチルエーテルを省略したこと以外は実施例2と同様にして非水性インクジェットインクを製造した。
【0074】
〈比較例1〉
1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールに代えて、樹脂溶液に2−メチルイミダゾール(pH=11.0)0.5質量部を加えたこと以外は実施例2と同様にして非水性インクジェットインクを製造した。
〈比較例2〉
先のものとは異なるシアン顔料をジエチレングリコールジエチルエーテルに分散させた顔料分散液(顔料濃度15質量%、pH=9.2)を調製し、前記顔料分散液30質量部を、実施例2で調製したのと同じ樹脂溶液70質量部に加えて非水性インクジェットインクを製造した。
【0075】
〈比較例3〉
ジエチレングリコールエチルメチルエーテルに代えて、樹脂溶液に2−メチル−2−ピロリドン(pH=11.7)22質量部を加えたこと以外は実施例2と同様にして非水性インクジェットインクを製造した。
〈保存性試験〉
実施例、比較例で調製した非水性インクジェットインクを栓付ガラスびんに充てんしたものを各実施例、比較例ごとに3個ずつ用意し、先に説明したように脱塩酸反応開始の引き金の1つになっていると考えられる保管時の熱履歴を再現するために、それぞれ90±1℃の環境下に静置して2週間後、3週間後、および4週間後に開封してゲル化の有無を確認した。そして下記の基準で非水性インクジェットインクの保存性を評価した。
【0076】
◎:4週間静置後もゲル化は発生していなかった。
○:4週間静置後にはゲル化が発生していたが、3週間静置後にはゲル化は発生していなかった。
△:3週間静置後にはゲル化が発生していたが、2週間静置後にはゲル化は発生していなかった。
【0077】
×:2週間静置後にゲル化が発生していた。
〈撥インク性試験〉
ノズルプレートのモデルとして、ステンレス鋼板の表面に、撥インク性被膜としてポリテトラフルオロエチレンとニッケルとの共析被膜を形成したものを用意し、前記モデルを実施例、比較例の非水性インクジェットインク中に浸漬して60±1℃で3日間静置後に引き上げた際の状態を観察した。そして下記の基準で、非水性インクジェットインクが撥インク性被膜に及ぼす影響を評価した。
【0078】
○:3日後に引き上げた際に、サンプルの表面の全面において非水性インクジェットインクがきれいに弾かれているのが確認された。
△:3日後に引き上げた際に、サンプルの表面の10%未満の範囲で、非水性インクジェットインクの濡れ性が高くなって弾かれない領域が発生しているのが確認された。
×:3日後に引き上げた際に、サンプルの表面の10%以上の範囲で、非水性インクジェットインクの濡れ性が高くなって弾かれない領域が発生しているのが確認された。
【0079】
以上の結果を表1、表2に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表2の比較例1〜3の結果より、顔料分散液、溶剤、および金属配位化合物のうちの1つでもpHが2〜9の範囲を外れたものを含んでいると、乳化重合法によって合成された塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が短期間でゲル化してしまうことが判った。
これに対し表1の実施例1〜5の結果より、前記各成分としていずれもpHが2〜9の範囲内であるものを用いることにより、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が短期間でゲル化するのを抑制できることが判った。
【0083】
また実施例1〜5の結果より、前記ゲル化を長期間に亘って抑制しながら撥インク性被膜を短期間で劣化させないためには、金属配位化合物としてpHが2〜9の範囲内であるベンゾトリアゾール類を含有させるのが好ましいこと、エポキシ化物を含有させるのが好ましいことも判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁重合法または乳化重合法によって合成されたポリ塩化ビニル系樹脂と、pHが2〜9である有機溶媒と、pHが2〜9である顔料分散液とを含むことを特徴とする非水性インクジェットインク。
【請求項2】
pHが2〜9であるベンゾトリアゾール類をも含んでいる請求項1に記載の非水性インクジェットインク。
【請求項3】
エポキシ化物をも含んでいる請求項1または2に記載の非水性インクジェットインク。

【公開番号】特開2011−140575(P2011−140575A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2316(P2010−2316)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(505091905)ゼネラルテクノロジー株式会社 (117)
【Fターム(参考)】