説明

非水系電解液、電極、ならびに、当該非水系電解液及び電極を備える電気化学デバイス

【課題】放電容量を維持しながら、電極活物質層における発熱量を低減させ、電気化学デバイスの安全性を向上させる非水系電解液、電極、ならびに、当該非水電解液及び電極を備える電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】リン酸が有する3つの水素原子のうち2以上の水素原子が、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基で置換された式(I)で表される化合物と、非水溶媒と、電解質と、を含む非水系電解液。


[式(I)中、X及びXは水素原子又はメチル基を示し、X及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、R1は水素原子、炭素数1〜24の炭化水素基又は、特定の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示し、a及びbは1〜10の整数を示し、a及びbはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液、電極、ならびに、当該非水系電解液及び電極を備える電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
容量、保存特性、サイクル特性、安全性等、非水系電解液を用いた電気化学デバイスの性能を向上させるため、電解液にメタクリル酸メチル等の有機化合物を添加することが検討されている(特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−223154号公報
【特許文献2】特開2000−149989号公報
【特許文献3】特開2006−216276号公報
【特許文献4】特開2010−027616号公報
【特許文献5】特開2001−015158号公報
【特許文献6】特開2009−123498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、安全性の観点において、非水系電解液を用いる電気化学デバイスは、電極活物質、電解液等のデバイスの構成要素が一般的に燃えやすい材料であるため、ショート等によって内部の温度が急激に上昇する(異常発熱)と、電気化学デバイス本体が燃焼してしまうという危険がある。
【0005】
このような問題を解決するため、電極活物質に、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム、チタン酸リチウム等を用いることや、電解液に、例えば、イオン液体を用いることが検討されている。しかしながら、これらの材料を採用することは、エネルギー密度の低下やコスト面で好ましいものとはいえない。また、電解液に添加剤を添加し、電気化学デバイスの異常発熱を低減することも検討されているが、高温環境下での電極活物質層における発熱に着目し、当該発熱量を抑制することについては未だ十分に検討されていなかった。
【0006】
そこで本発明は、放電容量を維持しながら、電極活物質層における発熱量を低減させ、電気化学デバイスの安全性を向上させる非水系電解液、電極、ならびに、当該非水電解液及び電極を備える電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、リン酸が有する3つの水素原子のうち2以上の水素原子が、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基で置換された式(I)で表される化合物と、非水溶媒と、電解質と、を含む非水系電解液を提供する。
【化1】


式(I)中、X及びXは水素原子又はメチル基を示し、X及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、R1は水素原子、炭素数1〜24の炭化水素基又は、式(II)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示し、a及びbは1〜10の整数を示し、a及びbはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【化2】


式(II)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、cは1〜10の整数を示す。
【0008】
非水系電解液が上記式(I)で表される化合物を含むことにより、放電容量を維持しながら、高温環境下での電極活物質層における発熱量を低減することができる。これにより、電気化学デバイスの温度上昇を抑制でき、電気化学デバイスの安全性を向上させることができる。
【0009】
ここで、本発明は、式(III)で表される化合物をさらに含んでいてもよい。
【化3】


式(III)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、dは1〜10の整数を示す。
【0010】
また、式(I)で表される化合物の含有量は、0.0008質量%〜4.0質量%であることが好ましく、0.008質量%〜3.0質量%であることがより好ましい。
【0011】
本発明の非水系電解液において、式(I)で表される化合物の含有量が0.0008質量%より少ないと、電極活物質層における発熱量の低減効果が不十分となる傾向がある。一方、4.0質量%より多いと、電極活物質層における発熱量の低減効果は向上するものの、放電容量が低下する傾向がある。式(I)で表される化合物を、0.0008質量%以上4.0質量%以下含有することにより、上記本発明の効果をより確実に得ることができる。また、式(I)で表される化合物を、0.008質量%以上3.0質量%以下含有することにより、上記本発明の効果をより一層確実に得ることができる。
【0012】
本発明はまた、集電体と、活物質、バインダー及び式(I)で表される化合物由来の構造単位を有するポリマーを含み、集電体の表面に形成された活物質層と、を備える電極を提供する。
【化4】


式(I)中、X及びXは水素原子又はメチル基を示し、X及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、R1は水素原子、炭素数1〜24の炭化水素基又は、式(II)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示し、a及びbは1〜10の整数を示し、a及びbはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【化5】


式(II)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、cは1〜10の整数を示す。
【0013】
これにより、放電容量が十分維持され、かつ、高温環境下での発熱量が低減された電極を得ることができる。
【0014】
また本発明の電極は、上記ポリマーが、式(III)で表される化合物由来の構造単位をさらに有していてもよい。
【化6】


式(III)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、dは1〜10の整数を示す。
【0015】
また、本発明は、上記の非水系電解液を備える電気化学デバイス、ならびに、上記の電極を備える電気化学デバイスを提供する。
【0016】
これにより、安全性の向上した電気化学デバイスを得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放電容量を維持しながら、電極活物質層における発熱量を低減させ、電気化学デバイスの安全性を向上させる非水系電解液、電極、ならびに、当該非水電解液及び電極を備える電気化学デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施形態に係る電気化学デバイスを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、必要により図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0020】
まず、本実施形態に係る電気化学デバイスに用いられる非水系電解液について説明する。
[非水系電解液]
本発明の非水系電解液は、リン酸が有する3つの水素原子のうち2以上の水素原子が、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基で置換された式(I)で表されるリン酸塩と、非水溶媒と、電解質と、を含む。
【0021】
【化7】

【0022】
式(I)中、X及びXは水素原子又はメチル基を示し、X及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R1は水素原子、炭素数1〜24の炭化水素基又は、式(II)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。炭素数1〜24の炭化水素基としては、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、或いは、直鎖アルキレン基又は分岐アルキレン基がシクロアルキル基と結合した基、シクロアルキレン基が直鎖アルキル基又は分岐アルキル基と結合した基、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、又はシクロアルキレン基がアリール基と結合した基、アリーレン基が直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又はシクロアルキル基と結合した基が挙げられる。これらの炭化水素基における炭素骨格に結合した水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。a及びbは1〜10の整数を示し、a及びbはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。なお、本発明における、(メタ)アクリロイルオキシ基は、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基を包含する。
【0023】
【化8】

【0024】
式(II)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、cは1〜10の整数を示す。
【0025】
1において、直鎖又は分岐アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシルの直鎖又は分岐アルキル基が挙げられる。
【0026】
1において、シクロアルキル基としては、例えば、シクロメチル、シクロエチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル、シクロドデシル、シクロトリデシル、シクロテトラデシル、シクロペンタデシル、シクロヘキサデシル、シクロヘプタデシル、シクロオクタデシル、シクロノナデシル、シクロイコシル、シクロヘンイコシル、シクロドコシル、シクロトリコシル、シクロテトラコシルが挙げられる。
【0027】
1において、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0028】
1において、直鎖アルキレン基又は分岐アルキレン基と、シクロアルキル基とが結合した基としては、例えば、上記直鎖アルキル基又は分岐アルキル基から水素原子を少なくとも一つ取った基と、上記シクロアルキル基とが結合したものであって、当該基の炭素骨格の炭素数の合計が1〜24の範囲内にある基が挙げられる。
【0029】
1において、シクロアルキレン基と、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基とが結合した基としては、例えば、上記シクロアルキル基から水素原子を少なくとも一つ取った基と、上記直鎖アルキル基又は分岐アルキル基とが結合したものであって、当該基の炭素骨格の炭素数の合計が1〜24の範囲内にある基が挙げられる。
【0030】
1において、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、又はシクロアルキレン基がアリール基と結合した基としては、例えば、上記直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又はシクロアルキル基から水素原子を少なくとも一つ取った基と、上記アリール基とが結合したものであって、当該基の炭素骨格の炭素数の合計が1〜24の範囲内にある基が挙げられる。具体的には、ベンジル基、トリチル基が挙げられる。
【0031】
1において、アリーレン基と、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又はシクロアルキル基とが結合した基である場合、上記アリール基から水素原子を少なくとも一つ取った基と、上記直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又はシクロアルキル基とが結合したものであって、当該基の炭素骨格の炭素数の合計が1〜24の範囲内にある基が挙げられる。具体的には、トリル基、キシリル基が挙げられる。
【0032】
1は、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基であることが好ましく、水素原子が特に好ましい。炭素数1〜10の炭化水素基としては、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基、或いは、シクロアルキレン基が直鎖アルキル基又は分岐アルキル基と結合した基が好ましく、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又はシクロアルキル基がより好ましい。
【0033】
式(I)で示されるリン酸塩としては、例えば、Rが水素原子であり、a及びbがそれぞれ同一であり、X及びXがそれぞれ同一である場合、リン酸水素=ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]、リン酸水素=ビス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸水素=ビス[3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸水素=ビス[4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸水素=ビス[5−((メタ)アクリロイルオキシ)ペンチル]、リン酸水素=ビス[6−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキシル]、リン酸水素=ビス[7−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘプチル]、リン酸水素=ビス[8−((メタ)アクリロイルオキシ)オクチル]、リン酸水素=ビス[9−((メタ)アクリロイルオキシ)ノニル]、リン酸水素=ビス[10−((メタ)アクリロイルオキシ)デシル]が挙げられる。
【0034】
また、Rが水素原子であり、a及びbがそれぞれ異なり、X及びXがそれぞれ同一又は互いに異なる場合、式(I)で示されるリン酸塩としては、例えば、リン酸水素=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸水素=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸水素=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸水素=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][8−((メタ)アクリロイルオキシ)オクチル]、リン酸水素=[3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル][10−((メタ)アクリロイルオキシ)デシル]が挙げられる。
【0035】
また、Rが炭素数1〜10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又はシクロアルキル基であり、a及びbがそれぞれ同一であり、X及びXがそれぞれ同一である場合、式(I)で示されるリン酸塩としては、例えば、リン酸メチル=ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]、リン酸エチル=ビス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸プロピル=ビス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸イソプロピル=ビス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸ブチル=ビス[4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸tert−ブチル=ビス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸ペンチル=ビス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸シクロペンチル=ビス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸ヘキシル=ビス[3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸シクロへキシル=ビス[3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸ヘプチル=ビス[6−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキシル]、リン酸オクチル=ビス[3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸ノニル=ビス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸デシル=ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]が挙げられる。
【0036】
また、Rが炭素数1〜10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又はシクロアルキル基であり、a及びbがそれぞれ異なり、X及びXがそれぞれ同一又は互いに異なる場合、式(I)で示されるリン酸塩としては、例えば、リン酸メチル=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸エチル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸プロピル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸プロピル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][5−((メタ)アクリロイルオキシ)ペンチル]、リン酸ブチル=[4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル][2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸tert−ブチル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸ペンチル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸シクロペンチル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸ヘキシル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸シクロへキシル=[3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル][4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸ヘプチル=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸オクチル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸ノニル=[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸デシル=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]が挙げられる。
【0037】
また、Rが式(II)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキル基であり、a、b及びcがそれぞれ同一であり、X、X、及びXがそれぞれ同一である場合、式(I)で示されるリン酸塩としては、例えば、リン酸=トリス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]、リン酸=トリス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、リン酸=トリス[3−[[メタ]アクリロイルオキシ]プロピル]、リン酸=トリス[4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸=トリス[5−((メタ)アクリロイルオキシ)ペンチル]、リン酸=トリス[6−((メタ)アクリロイルオキシ)へキシル]、リン酸=トリス[7−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘプチル]、リン酸=トリス[8−((メタ)アクリロイルオキシ)オクチル]、リン酸=トリス[9−((メタ)アクリロイルオキシ)ノニル]、リン酸=トリス[10−((メタ)アクリロイルオキシ)デシル]が挙げられる。
【0038】
また、Rが式(II)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキル基であり、a、b及びcがそれぞれ異なり、X、X、及びXがそれぞれ同一又は異なる場合、式(I)で示されるリン酸塩としては、例えば、リン酸=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]、リン酸=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル]、リン酸=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][7−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘプチル]、リン酸=[(メタ)アクリロイルオキシメチル][2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル][8−((メタ)アクリロイルオキシ)オクチル]が挙げられる。
【0039】
式(I)で示されるリン酸塩は、電解液への溶解性の観点から、分子量の低いものが好ましく、式(I)で示されるリン酸塩のうち、Rが水素原子であるものがより好ましく、より好ましくはa及びbが1〜5の整数のものであり、さらに好ましくは1〜3の整数のものであり、特に好ましくはa及びbはそれぞれ同一のものである。中でも、リン酸水素=ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]、リン酸水素=ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル]が特に好ましい。
【0040】
本発明はまた、式(I)で表されるリン酸塩を、0.0008質量%〜4.0質量%含有することが好ましく、0.008質量%〜3.0質量%含有することがより好ましく、0.016質量%〜2.5質量%含有することがさらに好ましく、0.04質量%〜1.0質量%含有することが特に好ましく、0.04質量%以上0.5質量%以下含有することが一層好ましい。
【0041】
本発明の非水系電解液において、式(I)で表されるリン酸塩の含有量が0.0008質量%より少ないと、電極活物質層における発熱量の低減効果が不十分となる傾向がある。一方、4.0質量%より多いと、電極活物質層における発熱量の低減効果は向上するものの、放電容量が低下する傾向がある。式(I)で表されるリン酸塩を、0.0008質量%以上4.0質量%以下含有することにより、上記本発明の効果をより確実に得ることができる。
【0042】
ここで、本発明は、式(III)で表されるリン酸塩をさらに含むことができる。
【0043】
【化9】


[式(III)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、dは1〜10の整数を示す。]
【0044】
式(III)で示されるリン酸塩としては、例えば、リン酸(メタ)アクリロイルオキシメチル、リン酸2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル、リン酸3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル、リン酸4−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル、リン酸5−((メタ)アクリロイルオキシ)ペンチル、リン酸6−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキシル、リン酸7−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘプチル、リン酸8−((メタ)アクリロイルオキシ)オクチル、リン酸9−((メタ)アクリロイルオキシ)ノニル、リン酸10−((メタ)アクリロイルオキシ)デシルが挙げられる。
【0045】
式(III)で示されるリン酸塩のうち、dが1〜5の整数のものが好ましく、1〜3の整数のものがより好ましく、中でも、リン酸(メタ)アクリロイルオキシメチル、リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチルが特に好ましい。
【0046】
式(III)で表されるリン酸塩は、例えば質量比で、式(I)で表されるリン酸塩に対して、0.0〜0.5倍、又は、0.001〜0.22倍、又は、0.01〜0.13倍となるように電解液に含まれることができる。本発明において、式(III)で表されるリン酸塩は必須成分ではないが、必須成分である式(I)で表されるリン酸塩は、通常、式(III)で表されるリン酸塩と平衡状態で存在し単離することが困難である。そのため、式(I)で表されるリン酸塩は、通常0.01〜10%に希釈されたリン酸水溶液中に、上記比率の式(III)で表されるリン酸塩とともに存在する溶液として市販されており(例えば、共栄社化学製、(商品名)P−2M)、このような溶液を用いて電解液を製造することにより、本発明に係る電解液中にも、上記比率の式(III)で表されるリン酸塩が存在することとなる。
【0047】
非水系電解液が上記式(I)で表されるリン酸塩を含むことにより、非水系電解液を用いた電気化学デバイスは、放電容量を維持しながら、高温環境下での電極活物質層における発熱量を低減させることができる。これにより、電気化学デバイスの温度上昇を抑制でき、電気化学デバイスの安全性を向上させることができる。
【0048】
電解質としては、電気化学デバイスがリチウム二次電池の場合、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)等が挙げられる。
【0049】
また、電気化学デバイスが電気2重層キャパシタの場合には、例えば、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEABF)、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEMABF)等の4級アンモニウム塩を有機溶媒に溶解させた電解液が使用される。
【0050】
なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
また、有機溶媒としては、上記式(I)で表されるリン酸塩、上記式(III)で表されるリン酸塩を含む場合には上記式(III)で表されるリン酸塩、並びに、上記電解質を溶解することができるものであれば、公知の電気化学デバイスに使用されている溶媒を使用することができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキシレン、4−メチル−1,3−ジオキシレン、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、アセトニトリル、スルホラン、2−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノンなどが挙げられる。これらの溶媒を単独もしくは複数種類併せて用いることができる。また、ビニルカーボネート、ビニレンカーボネートなどを添加剤量程度添加してもよい。
【0052】
本発明の非水系電解液は、本願発明による効果が得られる限りにおいて、高分子等を添加することによりゲル状としてもよい。
【0053】
続いて図1を参照し、本実施形態に係る電極及び電気化学デバイスについて説明する。具体的に、電気化学デバイスがリチウム二次電池である場合について説明する。
【0054】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体30に接続された一対のリード60,62を備えている。
【0055】
積層体30は、一対の正極10、負極20がセパレータ18を挟んで対向配置されたものである。正極10は、板状(膜状)の正極集電体12上に正極活物質層14が設けられたものである。負極20は、板状(膜状)の負極集電体22上に負極活物質層24が設けられたものである。正極活物質層14及び負極活物質層24がセパレータ18の両側にそれぞれ接触している。正極集電体12及び負極集電体22の端部には、それぞれリード60,62が接続されており、リード60,62の端部はケース50の外部にまで延びている。
【0056】
以下、正極10及び負極20を総称して、電極10、20といい、正極集電体12及び負極集電体22を総称して集電体12、22といい、正極活物質層14及び負極活物質層24を総称して活物質層14、24という。
【0057】
[電極]
電極10、20について具体的に説明する。電極10、20は、集電体12、22と、集電体12、22の表面に形成された活物質及びバインダーを含む活物質層14、24と、を備え、活物質層は、さらに上記式(I)で表されるリン酸由来の構造単位を有するポリマーを含む。当該ポリマーは、式(III)で表されるリン酸塩由来の構造単位をさらに有することが好ましい。
【0058】
(正極10)
正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミ、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
正極活物質層14は、本実施形態に係る活物質、バインダー、必要に応じた量の導電材を含むものである。
【0059】
バインダーは、活物質同士を結合すると共に、活物質と正極集電体12とを結合している。
【0060】
正極活物質としては、リチウムイオンを含有し、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、Li(CoNiMn)O、Li(NiCoAl)O、Li(MnAl、Li[LiMnNiCo]O、LiVOPO、LiFePO等のリチウム含有金属酸化物が挙げられる。
【0061】
バインダーの材質としては、上述の結合が可能であればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のリン樹脂が挙げられる。
【0062】
また、上記の他に、バインダーとして、例えば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系リンゴム(VDF−HFP系リンゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系リンゴム(VDF−HFP−TFE系リンゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系リンゴム(VDF−PFP系リンゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系リンゴム(VDF−PFP−TFE系リンゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系リンゴム(VDF−PFMVE−TFE系リンゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系リンゴム(VDF−CTFE系リンゴム)等のビニリデンフルオライド系リンゴムを用いてもよい。
【0063】
更に、上記の他に、バインダーとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等を用いてもよい。また、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。更に、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン(炭素数2〜12)共重合体等を用いてもよい。
【0064】
また、バインダーとして電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダーが導電材の機能も発揮するので導電材を添加しなくてもよい。
【0065】
イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等のイオンの伝導性を有するものを使用することができ、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリエーテル化合物の架橋体高分子、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリル等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCl、LiBr、Li(CFSON、LiN(CSOリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤が挙げられる。
【0066】
正極活物質層14に含まれるバインダーの含有率は、活物質層の質量を基準として0.5〜6質量%であることが好ましい。バインダーの含有率が0.5質量%未満となると、バインダーの量が少なすぎて強固な活物質層を形成できなくなる傾向が大きくなる。また、バインダーの含有率が6質量%を超えると、電気容量に寄与しないバインダーの量が多くなり、十分な体積エネルギー密度を得ることが困難となる傾向が大きくなる。また、この場合、特にバインダーの電子伝導性が低いと活物質層の電気抵抗が上昇し、十分な電気容量が得られなくなる傾向が大きくなる。
【0067】
導電材としては、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。
【0068】
(負極20)
負極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミ、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
負極活物質はチウムイオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、公知の電池用の負極活物質を使用できる。負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、Al、Si、Sn等のリチウムと化合することのできる金属、SiO、SnO等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)等を含む粒子が挙げられる。
バインダー、導電材は、それぞれ、正極と同様のものを使用できる。
【0069】
次に、本実施形態に係る電極10,20の製造方法について説明する。
(電極10,20の製造方法)
本実施形態に係る電極10,20の製造方法は、電極活物質層14,24の原料である塗料を、集体上に塗布する工程(以下、「塗布工程」ということがある。)と、集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去し、電極活物質層を形成する工程(以下、「溶媒除去工程」ということがある。)と、電極活物質層の表面で、上記式(I)で表されるリン酸塩由来の構造単位を有するポリマーを形成する工程(以下、「ポリマー形成工程」ということがある。)と、を備える。
【0070】
(塗布工程)
塗料を集電体12、22に塗布する塗布工程について説明する。塗料は、上記活物質、バインダー、及び溶媒を含む。塗料には、これらの成分の他に、例えば、活物質の導電性を高めるための導電材が含まれていてもよい。溶媒としては、溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0071】
活物質、バインダー、溶媒、導電材等の塗料を構成する成分の混合方法は特に制限されず、混合順序もまた特に制限されない。例えば、まず、活物質、導電材及びバインダーを混合し、得られた混合物に、N−メチル−2−ピロリドンを加えて混合し、塗料を調整する。
【0072】
上記塗料を、集電体12、22に塗布する。塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0073】
(溶媒除去工程)
続いて、集電体12、22上に塗布された塗料中の溶媒を除去する。除去法は特に限定されず、塗料が塗布された集電体12、22を、例えば80℃〜150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0074】
そして、このようにして活物質層14、24が形成された電極を、その後、必要に応じて例えば、ロールプレス装置等によりプレス処理すればよい。ロールプレスの線圧は例えば、10〜50kgf/cmとすることができる。
【0075】
以上の工程を経て、集電体12、22上に電極活物質層14,24が形成され、電極活物質層14,24の表面に上記式(I)で表されるリン酸塩由来の構造単位を有するポリマーが形成される前の電極(以下、「ポリマー形成前の電極」という。)を作製することができる。
【0076】
(ポリマー形成工程)
続いて、ポリマー形成前の正極及び負極を、セパレータ18を介して積層させる。例えば、この積層体を本発明の非水系電解液に浸漬させ、リード60,62を充放電試験機に接続して少なくとも1回充放電することにより、ポリマー形成前の正極活物質層、及び、ポリマー形成前の負極活物質層に上記式(I)で表されるリン酸塩由来の構造単位を有するポリマーを形成でき、正極10,負極20を作製できる。当該ポリマーの存在状態は必ずしも明らかではないが、活物質やバインダーの表面に付着したり、活物質やバインダーに結合したりして、電極活物質層14,24の表面を被覆しているものと推察される。
【0077】
ポリマーは、通常の充放電試験において使用される充放電試験機を用い、充放電試験時に設定される条件下で作成でき、通常の充放電条件であれば特に限定されない。例えば、電圧3.0〜4.3V、電流密度0.001〜10mA/cm、温度20〜30℃にて、満充電時の80〜100%程度充電し、3.0Vまで放電すればよい。
【0078】
なお、ポリマー形成工程においては、正極又は負極と、リチウム金属シートとを、セパレータを介して積層し、正極、負極それぞれについて、ハーフセル用積層体を作成し、当該ハーフセル用積層体を本発明に係る電解液に浸漬して、それぞれ少なくとも1回、上記の充放電条件で充放電を行なうことによって、正極活物質層の表面及び負極活物質層の表面に上記式(I)で表されるリン酸塩由来の構造単位を有するポリマーを形成し、正極10,負極20を別々に作製してもよい。
【0079】
ここで、上述のように作製した電極を用いたリチウムイオン二次電池100の他の構成要素を説明する。
【0080】
セパレータ18は、電気絶縁性の多孔体であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いは、セルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0081】
ケース50は、その内部に積層体30及び電解液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からの電気化学デバイス100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0082】
リード60,62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
【0083】
そして、公知の方法により、リード60、62を正極集電体12、負極集電体22にそれぞれ溶接し、正極10の正極活物質層14と負極20の負極活物質層24との間にセパレータ18を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールすればよい。
【0084】
以上、本発明の非水電解液、電極、ならびに、当該電解液及び電極を備えるリチウムイオン二次電池、及び、それらの製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0085】
例えば、本発明の電解液及び電極は、リチウムイオン二次電池以外の電気化学デバイスに用いることができる。電気化学デバイスとしては、金属リチウム二次電池(カソードとして上記活物質を用い、アノードに金属リチウムを用いたもの)等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。これらの電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途に使用することが可能である。なお、リチウムイオン二次電池以外の電気化学デバイスの場合、電極活物質としては、それぞれの電気化学デバイスに適したものを用いればよい。例えば、電気化学キャパシタの場合には、正極活物質含有層及び負極活物質含有層中に含まれる活物質として、アセチレンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭などが用いられる。
【0086】
[作用効果]
本願発明の効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、上記効果の得られる理由について、本発明者らは以下のように推察する。電気化学デバイスの初回充放電時に、電解液と接する電極活物質層の表面、例えば、活物質の表面やバインダーの表面に、上記式(I)で表されるリン酸塩由来の構造単位を有するポリマーが形成される。上記式(I)で表されるリン酸塩は、1分子中に、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を少なくとも2つ有しているため、上記式(I)で表されるリン酸塩由来の構造単位を有する網目状のポリマーを形成できると考えられる。上記ポリマーは、安定性に優れると考えられ、例えば、電解液と電極活物質との反応を有効に抑制でき、また、異常発熱時には電極活物質層における発熱量を低減することができるものと考えられる。また、上記式(III)で表されるリン酸塩が存在する場合は、上記式(III)で表されるリン酸塩も重合可能であるため、ポリマーは、上記式(III)で表されるリン酸塩由来の構造単位含むことができる。なお、ポリマーの構造は、(メタ)アクリロイルオキシ基におけるビニル基同士が重合したポリマーや、当該ポリマー同士が当該ポリマーに含まれる水酸基の脱水縮合によりさらに重合したもの等が推測される。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
[負極の作成]
負極活物質として人造黒鉛、バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴム、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを、水を溶媒として混合し、塗料を作成した。この塗料を集電体である銅箔(厚さ15μm)にドクターブレード法で塗布し、80℃で乾燥させた後、圧延し、銅箔表面に正極活物質層を形成した。銅箔には、外部引き出し端子を接続するために、塗料を塗布しない部分を設けておいた。外部引き出し端子としては、外装体とのシール性を向上させる目的で、ニッケル箔に、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレンを巻き付けたものを用意した。このニッケル箔と上記塗料を塗布し乾燥した後の銅箔とを超音波溶接した。
【0089】
[正極の作成]
正極活物質としてLi(Ni0.82Co0.15Al0.03)O、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン、導電助剤としてカーボンブラック及び黒鉛を、N−メチルピロリドンを溶媒として混合し、塗料を作成した。この塗料を集電体であるアルミ箔(厚さ20μm)にドクターブレード法で塗布し、100℃で乾燥させた後、圧延し、アルミ箔表面に正極活物質層を形成した。なお、アルミ箔には、外部引き出し端子を接続するために、塗料を塗布しない部分を設けておいた。外部引き出し端子としては、外装体とのシール性を向上させる目的で、アルミ箔に、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレンを巻き付けたものを用意した。このアルミ箔と上記塗料を塗布し乾燥した後のアルミ箔とを超音波溶接した。
【0090】
[電解液の作成]
エチレンカーボネートを30vol%、ジエチルカーボネートを70vol%の割合で混合した溶液に、濃度1MでLiPFを溶解させ、電解液を作成した。この電解液に、リン酸水素=ビス[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]((CHCCHCOO−(CH−O−)−POOH、表1中リン酸塩(a)と表す)、及び、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル(CHCCHCOO−(CH−O−PO(OH)、表1中リン酸塩(b)と表す)を、質量比で80:20となるように含むリン酸塩(共栄社化学製、(商品名)P−2M)を0.1質量%添加し、溶解させた。
【0091】
[ハーフセルの作成]
(正極ハーフセルの作製)
上述のようにして作製した正極、並びに、セパレータ(ポリオレフィン製の微多孔質膜、旭化成株式会社社製、(商品名)SV722)を所定の寸法に切断した。正極、セパレータ、リチウム金属をこの順序で積層し、正極ハーフセル用積層体を作成した。この積層体を封入する電池の外装体はアルミニウムラミネート材料からなり、その構成は、ポリエチレンテレフタレート(12μm)/Al(40μm)/ポリプロピレン(50μm)であった。なおこの時PPが内側となるように製袋した。この外装体の中に上記積層体を入れ、上述のようにして作製した電解液を適当量添加し外装体を真空密封し、正極ハーフセルを作製した。
【0092】
(負極ハーフセルの作製)
負極、セパレータ、リチウム金属をこの順序で積層し、負極ハーフセル用積層体を作成した以外は正極ハーフセルの作製方法と同様にして、負極ハーフセルを作製した。
【0093】
<放電容量の測定>
上述のようにして作成した正極ハーフセル及び負極ハーフセルを充放電試験機(北斗電工株式会社製、(製品名)HJ1001SM8A)で、放電レートを0.1C(25℃で定電流放電を行ったときに10時間で放電終了となる電流値)とした場合の放電容量(単位:mAh/g)を測定した。正極の放電容量及び負極の放電容量を表1に示す。
なお、充放電後の電池から回収した電解液からは、CHCCHCOO−(CH−O−PO(OH)−(CH−OCO−OC、CHCCHCOO−(CH−O−PO(OH)−CH−O−PO(OH)−O−(CH)−O−COCCHCH、(CHCCHCOO−(CH−O−)−POO−(CH−OPOF−OCなどを微量検出した。これは上記添加剤の一部が分解し、溶媒又は支持塩の一部と反応することにより生成した物質であり、電池の性能は損なわれていなかった。
【0094】
<正極活物質層の発熱量の測定>
充放電試験後、正極ハーフセルを解体し、正極活物質層を一部取り出し、約1mgを直径5mmのSUSパンに入れSUS製の蓋でシールした後、示差走査熱量計(株式会社リガク社製、(製品名)Thermo plus DSC8230)にて発熱量を測定した。なお、測定範囲は25℃〜500℃、昇速速度は10℃/minであり、参照物質は、アルミナ(示差走査熱量計付属品)であった。発熱は、約230℃から始まった。
【0095】
(実施例2)
電解液中のリン酸塩の含有量を1.0質量%(リン酸塩(a)の含有量:0.8質量%)とした以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0096】
(実施例3)
電解液中のリン酸塩の含有量を3.0質量%(リン酸塩(a)の含有量:2.4質量%)とした以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0097】
(実施例4)
電解液中のリン酸塩の含有量を3.5質量%(リン酸塩(a)の含有量:2.8質量%)とした以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0098】
(実施例5)
電解液中のリン酸塩の含有量を0.005質量%(リン酸塩(a)の含有量:0.004質量%)とした以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0099】
(実施例6)
電解液中のリン酸塩の含有量を0.01質量%(リン酸塩(a)の含有量:0.008質量%)とした以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0100】
(比較例1)
電解液に添加剤を使用しなかった以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0101】
(比較例2)
0.1質量%のリン酸塩の代わりにメタクリル酸メチルを1.0質量%添加した以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0102】
(比較例3)
0.1質量%のリン酸塩の代わりに、メタクリル酸エチルを1.0質量%添加した以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0103】
(比較例4)
リン酸塩の代わりにメタクリル酸メチルを添加した以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0104】
(比較例5)
リン酸塩の代わりにメタクリル酸エチルを添加した以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0105】
(比較例6)
0.1質量%のリン酸塩の代わりに、ビニレンカーボネート(VC)とプロパンスルトン(PS)とを合計1.0質量%添加した以外は実施例1と同様にして、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを作製した。
【0106】
実施例2〜6及び比較例1〜6において、実施例1と同様に、正極ハーフセル及び負極ハーフセルに対し、正極及び負極の放電容量を測定した。また、実施例1と同様に、正極活物質層の発熱量を測定した。実施例1〜6及び比較例1〜6の正極の放電容量、負極の放電容量及び正極活物質層の発熱量を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
実施例においては、リン酸水素=ビス[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]((CHCCHCOO−(CH−O−)−POOH:リン酸塩(a))を含むリン酸塩が1.0質量%未満でも、発熱量低減効果が十分に得られた。一方、比較例に示すように、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル又は、VCとPSとの混合物を添加した電解液は、1.0質量%以上添加しなければ発熱量低減効果が薄かった。
【符号の説明】
【0109】
10,20…電極、12…正極集電体、14…正極活物質層、18…セパレータ、22…負極集電体、24…負極活物質層、30…積層体、50…ケース、52…金属箔、54…高分子膜、60,62…リード、100…リチウムイオン二次電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸が有する3つの水素原子のうち2以上の水素原子が、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基で置換された式(I)で表される化合物と、非水溶媒と、電解質と、を含む非水系電解液。
【化1】


[式(I)中、X及びXは水素原子又はメチル基を示し、X及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、R1は水素原子、炭素数1〜24の炭化水素基又は、式(II)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示し、a及びbは1〜10の整数を示し、a及びbはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化2】


[式(II)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、cは1〜10の整数を示す。]
【請求項2】
式(III)で表される化合物をさらに含む請求項1に記載の非水系電解液。
【化3】


[式(III)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、dは1〜10の整数を示す。]
【請求項3】
前記式(I)で表される化合物の含有量が、0.0008質量%〜4.0質量%である、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物の含有量が、0.008質量%〜3.0質量%である、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項5】
集電体と、
活物質、バインダー及び式(I)で表される化合物由来の構造単位を有するポリマーを含み、前記集電体の表面に形成された活物質層と、
を備える電極。
【化4】


[式(I)中、X及びXは水素原子又はメチル基を示し、X及びXはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、R1は水素原子、炭素数1〜24の炭化水素基又は、式(II)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示し、a及びbは1〜10の整数を示し、a及びbはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化5】


[式(II)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、cは1〜10の整数を示す。]
【請求項6】
前記ポリマーが、式(III)で表される化合物由来の構造単位をさらに有する請求項5に記載の電極。
【化6】


[式(III)中、Xは水素原子又はメチル基を示し、dは1〜10の整数を示す。]
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水系電解液を備える電気化学デバイス。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の電極を備える電気化学デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2012−119092(P2012−119092A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265517(P2010−265517)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】