説明

非水電解液コイン形電池

【課題】低価格な外装部品を用い、長期保存特性に優れ、加えて高容量化が可能な非水電解液コイン形電池を提供することを目的とする。
【解決手段】封口板の構成素材として、鉄鋼基材の少なくとも外表面にニッケル板をクラッド化したクラッド材を適用することにより、従来のステンレス鋼製封口板を有する非水電解液コイン形電池に比べて、製造時のコストダウンを図ることができ、更に外表面の錆の発生や漏液の発生を抑制も達成し、加えてステンレス鋼製封口板を用いた場合と同様の高容量である非水電解液コイン形電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期保存特性に優れた非水電解液コイン形電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化マンガンリチウム電池やフッ化黒鉛リチウム電池などに代表される非水電解液コイン形電池は、封口板や正極ケースの基材としてステンレス鋼板が一般的に用いられている。ステンレス鋼板は強度が高く、封口板および正極ケースの厚みをある程度薄くしても強度が確保でき、漏液や電池の変形などの問題が生じにくい。
【0003】
しかしながらステンレス鋼板は価格が高いため、電池の製造コストが増大するという課題があった。この課題に対し、ステンレス鋼板に比べて安価であるNiメッキ鋼板に置き換えることで、製造コストを下げ得る可能性がある。しかしながらNiメッキ鋼板を用いた場合には、外装部品表面の錆の発生や、ステンレスに比べて強度が低いことから封止性能が低下して漏液発生といった長期保存特性に課題を有していた。
【0004】
この課題に対して、非水電解液コイン形電池の負極外装部品となる上面壁およびその上面壁から下方向に湾曲した湾曲部を有する封口板において、少なくとも鉄鋼基材の外表面がNiメッキされ、かつNiメッキ部分と鉄鋼基材部分の間に、FeとNiとが互いに拡散した領域が存在しているNiメッキ鋼板で構成されており、上記封口板の上記湾曲部の曲率半径R(mm)と湾曲部の内角θ(°)との比R/θが、0.0060〜0.0160にすることで、上述したNiメッキ鋼板の課題を解決する発明が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−207534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているようなNiメッキ鋼板を非水電解液コイン形電池の封口板に用いると、長期保存した際に漏液が生じたり、封口板の湾曲部に錆による外観不良が発生したりするものがあった。特許文献1では、Niメッキ鋼板のNiメッキ部分と鉄鋼基材部分の間に、FeとNiとが互いに拡散した領域を形成するために、熱処理を施しており、そのため鉄自身が焼きなましされることで硬度が低下し、従来のステンレス鋼に比べての硬度差が大きくなり、カシメ封口の強さを軽減しなければならず、長期保存した際に封止性の弱いところから漏液が発生した。また、熱処理によりNiメッキ層が凝集することで粒子径が大きくなってしまうために、カシメ封口時の変形により一部鉄鋼面が露出することで錆が発生してしまった。
【0007】
また、特許文献1では、上面壁およびその上面壁から下方向に湾曲した湾曲部を有する封口板であり、上記湾曲部の曲率半径R(mm)とその湾曲部の内角θ(°)との比R/θが、0.0060〜0.0160という値を守る必要があり、そのために形状的な規制によって容積効率が悪くなり、電池の高容量化を実現できない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉄鋼基材を構成素材とする封口板を有しており、長期保存時の外表面の錆の発生や漏液の発生を抑制し、加えて高容量化が可能な非水電解液コイン形電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の非水電解液コイン形電池は、正極と負極とをセパレータを介して対向配置した発電要素を非水電解液とともに、金属材からなる正極ケースと封口板、樹脂からなるガスケットの外装部品に封入されてなる非水電解液コイン形電池において、前記封口板として鉄鋼基材の少なくとも外表面にニッケル板をクラッド化したクラッド材を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、封口板の構成素材に特定のNiメッキ鋼板を適用することにより、従来のステンレス鋼製封口板を有する非水電解液コイン形電池に比べて、製造時のコストダウンが図られ、更に外表面の錆や漏液の発生を抑制し、加えてステンレス鋼製封口板を用いた場合と同様の高容量である非水電解液コイン形電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態における非水電解液コイン形電池の断面図
【図2】本発明の一実施の形態における非水電解液コイン形電池の封口板の要部を示す拡大図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における第1の発明は、正極と負極とをセパレータを介して対向配置した発電要素を非水電解液とともに、金属材からなる電池ケースと封口板、樹脂からなるガスケットの外装部品に封入されてなる非水電解液コイン形電池において、前記封口板として鉄鋼基材の少なくとも外表面にニッケル板をクラッド化したクラッド材を用いたことを特徴とする非水電解液コイン形電池である。ここで外表面とは電池を製造したときに、電池の外側に位置する面を意味する。この構成により、製造時のコストダウンを図って生産性を高め、更に外表面の錆の発生や漏液の発生を抑制も達成し、加えてステンレス鋼製封口板を用いた場合と同様の高容量である非水電解液コイン形電池が得られる。
【0013】
鉄鋼基材の少なくとも外表面にニッケル板をクラッド化することにより、封口板を様々な形状に加工しても、鉄鋼基材自身が外部に露出することがなく、錆の発生し易い高温多湿環境下でも安定に存在し、錆の発生はまったく見られない。また、錆の発生がないため、封口板の形状について制限を設ける必要がなく、ステンレスと同様の形状に加工することが可能で、封止による漏液性能もステンレスと同等レベルのものが得られ、電池の放電容量も小さくならず、高容量化が可能である。加えて、部品の素材部分のコストダウンも実現できる。
【0014】
本発明における第2の発明は、前記クラッドのビッカース硬度が160〜240HVであることを特徴とする。使用するクラッド材のビッカース硬度により電池にした際の性能に大きく影響を与える。非水電解液コイン形電池は、カシメることにより、正極ケースを変形させて、パッキン材のガスケットを圧縮させて封止を行っている。正極ケースを変形させるときの加重がすべて封口板に掛かる。封口板の強度が十分でない場合には、封口板が変形して、電池の形状がおかしくなったり、液漏れしたりしてしまう。逆に、封口板の変形を抑えるために、カシメ加重を小さくすると、正極ケースの変形が不十分になったり、ガスケットの圧縮が不十分になり、封止性が低下して漏液してしまう。240HVを超えると部品の加工が難しくなり、場合によっては部品にクラックなどが発生してしまう危険性があり、好ましくない。
【0015】
本発明における第3の発明は、クラッド材の厚みが0.15〜0.25mmであることを特徴とする。厚みが0.15mmより薄くなると、クラッド材自身の強度低下によりカ
シメ封口の加重耐圧も低下し、耐漏液性能が低下する。厚みが0.25mmより厚くなっても、強度的に著しく向上することが無く、電池容量の観点から好ましくない。
【0016】
本発明における第4の発明は、前記クラッド材のニッケル層の厚みが2〜5μmであることを特徴とする。従来のメッキではピンホール発生などのリスクから厚みを厚くしなければならないが、クラッドにすることで薄くでき、1μm程度まで可能である。しかし、外的な傷に対する安定性から厚みは2μmより厚くすることが好ましい。5μmより厚くなっても特性的に差がなく、価格が上がることから、5μm以下にすることが好ましい。
【0017】
図1に、本発明の非水電解液コイン形電池の一例を示す。図1に示すように、非水電解液コイン形電池では、封口板2と正極ケース1およびガスケット3からなる外装で形成される内部に、負極4と正極6をセパレータ5を介して対向配置させた発電要素が、非水電解液(図示しない)とともに封入されている。
【0018】
封口板2は、鉄鋼基材の少なくとも外表面にニッケル板をクラッド化したクラッド材である。なお、鉄鋼基材の両面にニッケル板をクラッド化したクラッド材の場合は、部品の保管中における鉄鋼基材の錆の発生を防止するための管理が容易となるので好ましい。
【0019】
クラッド材のビッカース硬度は160〜240HVであることが好ましい。
【0020】
クラッド材の厚みは0.15〜0.25mmであることが好ましい。
【0021】
クラッド材のニッケル層の厚みは2〜5μmであることが好ましい。
【0022】
図2に、図1に示した封口板2の要部を示す拡大図である。ここでは封口板2は鉄鋼基材7の両面にニッケル層8を持つクラッド材を示した。封口板2は上面壁2aから湾曲部2bが伸びている。封口板2の湾曲部2bとは、略平坦な上面壁2aから下方向へ向う変曲部を始端とし、次に曲率が変化する変曲部を終端とする、曲率が一定の部分を意味する。湾曲部2bの曲率半径Rとは、図2に示すように、封口板2の湾曲部2bの外表面(電池外表面)の曲面の曲率半径のことであり、湾曲部2bの内角θとは、湾曲部2b外表面の両端から曲率中心に向かう線分を引いたときの、両線分間の内角のことである。
【0023】
正極ケース1は、ニッケルメッキを施したステンレス鋼板を絞り加工によって有底円筒状に成形したものである。
【0024】
本発明の非水電解液コイン形電池に係る正極6は、正極活物質、導電助剤およびバインダーを含む正極合剤を、ペレット状に加圧成形したものである。正極活物質は特に限定されないが、マンガン、コバルト、ニッケル、マグネシウム、銅、鉄、ニオブなどの酸化物またはこれらの複合酸化物、マンガン、コバルト、ニッケル、マグネシウム、銅、鉄、ニオブとリチウムとの複合酸化物、フッ化黒鉛などを用いることができる。
【0025】
導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、人造黒鉛などの黒鉛類などを使用できる。導電材は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
バインダーとしては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFの変性体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロ
エチレン共重合体(ETFE樹脂)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、変性アクリロニトリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。結着剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
本発明に係る負極4としては、リチウムまたはリチウム合金を用いることができる。リチウム合金としては、たとえば、Li−Al、Li−Sn、Li−Si、Li−Pbなどが挙げられる。また、負極活物質として天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素などの炭素系材料、一酸化珪素、チタン酸リチウム、五酸化ニオブ、二酸化モリブデンなどの酸化物を用いることができる。炭素系材料や酸化物の負極活物質に、導電助剤、バインダーからなる合剤として負極として用いる。
【0028】
導電助剤、バインダーとしては、上記正極のところで例示したものを用いることができる。
【0029】
非水電解液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルや、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム(ジエチレングリコールメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシメタン、テトラヒドロフランなどのエーテルより選ばれる1種の溶媒あるいは2種以上の混合溶媒に電解質を0.3〜2.0mol/L程度の濃度に溶解させることによって調製した有機電解液が用いられる。上記電解質としては、例えば、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiClO、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSOなどが用いられる。
【0030】
セパレータ5としては、正極6と負極4とが短絡することを防止できるのであれば特に制限される訳ではなく、さらに電解液の浸透性に優れ、イオンの移動抵抗とならないことが望ましい。代表的な素材としてはポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンなどが挙げられ、形状としては不織布、微多孔フィルムなどが挙げられる。
【0031】
ガスケット3の素材としては、例えば、PP、PPS、PEEKなどを用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施例について説明する。
【0033】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例で用いた厚さ3.2mm、直径20mmの非水電解液コイン形電池の断面図である。
【0034】
正極ケース1に、厚み3μmのニッケルメッキを施した厚み0.2mmのステンレス鋼板を絞り加工によって周壁の高さ3mmの有底円筒状に成形したものを用いた。
【0035】
封口板2には、鉄鋼基材の両面にニッケル板をクラッド化したクラッド材を用いた。クラッド材の両外表面のニッケル層の厚みがともに3μmで、内装の鉄鋼の厚みが0.25mmであり、ビッカース硬度が200HVのものを用いた。封口板2はこのクラッド材を絞り加工により図2に示すように湾曲部2bを有する形を有し、周縁部に折り返し構造からなる有底円筒状に成形したものである。
【0036】
また、封口板2の湾曲部2bの形状としては、曲率半径Rを0.4mm、湾曲部2bの内角θを90°とした。この際のR/θは0.0044であった。
【0037】
正極6は、正極活物質として二酸化マンガンを、導電助剤としてカーボンブラックを、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレンを用いた合剤からなる。二酸化マンガンが90質量%、人造黒鉛が5質量%、ポリテトラフルオロエチレンが5質量%となるようにこれらを混合して正極合剤を調製した。この正極合剤を、加圧成形して正極6を作製した。この正極6は直径が16mmであり、厚さが1.9mmであった。
【0038】
非水電解液としては、プロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンとの体積比1:1の混合溶媒にLiClOを0.5mol/l溶解させることによって調製した電解液を用いた。
【0039】
負極4には、厚みが0.58mmのリチウム板を、直径16mmの円形に打ち抜いたものを用い、この負極4を封口板2に収容した。
【0040】
セパレータ5としてはポリプロピレン不織布を用い、環状のガスケット3にはポリプロピレン製のものを用いている。
【0041】
正極6、負極4、セパレータ5、非水電解液などからなる発電要素を、正極ケース1、封口板2およびガスケット3で形成される空間内に収容し、正極ケース1の開口端部を内方に締め付ける、いわゆるカシメ加工をすることによって環状のガスケット3を封口板2の周辺折り返し部と正極ケース1の開口端部内周面とに圧接させることによって正極ケース1の開口部を封口して電池内部が密閉状態にされている。
【0042】
このようにして得られた非水電解液二次電池を、本実施例1に係る発明電池1とした。
【0043】
発明電池1の封口板2の形状として、曲率半径Rを0.55mm、湾曲部2bの内角θを85°とした以外は、発明電池1と同構成である発明電池2を作製した。
【0044】
発明電池1の封口板2の形状として、曲率半径Rを0.52mm、湾曲部2bの内角θを90°とした以外は、発明電池1と同構成である発明電池3を作製した。
【0045】
発明電池1の封口板2の形状として、曲率半径Rを0.45mm、湾曲部2bの内角θを85°とした以外は、発明電池1と同構成である発明電池4を作製した。
【0046】
発明電池1の封口板2の形状として、曲率半径Rを0.35mm、湾曲部2bの内角θを90°とした以外は、発明電池1と同構成である発明電池5を作製した。
【0047】
発明電池1の封口板2の形状として、曲率半径Rを0.6mm、湾曲部2bの内角θを80°とした以外は、発明電池1と同構成である発明電池6を作製した。
【0048】
発明電池1の封口板2の基材であるクラッド材に変えて、鉄鋼基材の両面に無光沢Niメッキを施したものを用いた。無光沢Niメッキ層の厚みと鉄鋼基材の厚みはそれぞれ、
3μmと0.25mmである。このNiメッキ鋼板は、連続焼鈍法を用いて780℃で60秒間の条件により熱処理を行い、メッキ層と鉄鋼基材との間にFe−Ni拡散領域を形成したものである。ビッカース硬度は120HVである。このようにして得られた非水電解液コイン形電池を比較電池Aとした。
【0049】
発明電池1の封口板2の基材であるクラッド材に変えて、鉄鋼基材の両面に無光沢Niメッキを施したものを用いた。無光沢Niメッキ層の厚みと鉄鋼基材の厚みはそれぞれ3μmと0.25mmである。このNiメッキ鋼板は、連続焼鈍法を用いて780℃で60秒間の条件により熱処理を行い、メッキ層と鉄鋼基材との間にFe−Ni拡散領域を形成したものである。ビッカース硬度が120HVのものを用いた。また、封口板2の湾曲部2bの形状としては、曲率半径Rを0.6mm、湾曲部2bの内角θを78°とした。この際のR/θは0.0077であった。このようにして得られた非水電解液コイン形電池を比較電池Bとした。
【0050】
上記発明電池1〜5と比較電池A、Bについて、初期放電容量、高温多湿試験と熱衝撃試験を行った。各電池の試験数はそれぞれ25個ずつ用いた。
【0051】
初期放電容量測定は、20℃において0.2mAの定電流放電を行い、終止電圧2.0Vまでを放電容量とした。容量は25個の平均値を算出したのち、その値を発明電池Aの容量値を100として計算した結果を(表1)に示す。
【0052】
高温多湿試験は、85℃、相対湿度90%の雰囲気中に15日間貯蔵し、漏液発生の有無、および封口板の湾曲部2bの腐食の有無を調べた。加えて、保存後の放電容量を初期容量測定と同様の方法にて測定を行った。その結果を(表1)に示す。
【0053】
熱衝撃試験は、−40℃で30分ホールドしたのち、温度を−40℃から85℃に瞬時に変更して、85℃で30分ホールドする熱衝撃を1サイクルとして、500サイクル後に漏液発生の有無を確認した。その結果を(表1)に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
(表1)に示すように、封口板2に鉄鋼基材の両面にニッケル板をクラッド化したクラッド材を用いた発明電池1〜6は、高温多湿環境試験後においても大きな放電容量を示し、漏液と腐食の発生は一切見られず、優れた性能を示した。また、熱衝撃試験においても優れた漏液性能が得られた。クラッド材を用いることで、封口板の強度が上昇して十分なカシメの加重耐圧を確保することができ、優れた封止性能を実現することができた。
【0056】
比較電池A、Bでは、Fe−Ni拡散領域を有するNiメッキ鋼板を封口板の基材に用いた場合には、高温多湿環境試験後の放電容量が著しく劣化した。また、熱衝撃試験において、漏液電池がたくさん発生した。特にRを小さくし、θを大きくして容量が大きくな
るように設計した封口板形状の比較電池Aでは、高温多湿環境試験後に錆および漏液発生が見られた。Fe−Ni拡散領域を有するNiメッキ鋼板を用いると、封口板の強度が不十分であり、部品形状の規制やカシメ封口を強くできないため、高温多湿環境試験や熱衝撃試験での特性劣化が著しくなった。
【0057】
(実施例2)
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ビッカース硬度が140HVのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池7を作製した。
【0058】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ビッカース硬度が160HVのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池8を作製した。
【0059】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ビッカース硬度が180HVのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池9を作製した。
【0060】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ビッカース硬度が220HVのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池10を作製した。
【0061】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ビッカース硬度が240HVのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池11を作製した。
【0062】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ビッカース硬度が260HVのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池12を作製した。
【0063】
発明電池7〜12について、実施例1と同様の評価を行った結果を(表2)に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
発明電池1と7〜12については、高温多湿保存および熱衝撃試験において優れた漏液性能を示した。クラッド材のビッカース強度が低い発明電池7において、高温多湿環境試験後の放電で若干容量低下が見られた。封止部の機密性が若干低下して、電池内部への水分侵入量が増えたことにより、負極活物質であるリチウムが消費されたことにより容量が低下した。
【0066】
また、クラッド材のビッカース強度が高い発明電池12において、高温多湿保存後にひとつだけ封口板のR部に微少な錆が見られた。部品の加工時にストレスが加わり、封口板のR部に傷が発生して下地の鉄鋼基材部が露出したものと考えられる。
【0067】
(実施例3)
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、内装の鉄鋼基材の厚みが0.10mm
のクラッド材を用い、それに対応して正極・負極の厚みを変更した以外は、発明電池1と同構成である発明電池13を作製した。
【0068】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、内装の鉄鋼基材の厚みが0.15mmのクラッド材を用い、それに対応して正極・負極の厚みを変更した以外は、発明電池1と同構成である発明電池14を作製した。
【0069】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、内装の鉄鋼基材の厚みが0.25mmのクラッド材を用い、それに対応して正極・負極の厚みを変更した以外は、発明電池1と同構成である発明電池15を作製した。
【0070】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、内装の鉄鋼基材の厚みが0.30mmのクラッド材を用い、それに対応して正極・負極の厚みを変更した以外は、発明電池1と同構成である発明電池16を作製した。
【0071】
発明電池13〜16について、実施例1と同様の評価を行った結果を(表3)に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
発明電池1、13〜16については高温多湿保存および熱衝撃試験において漏液発生と腐食発生は見られなかった。
【0074】
発明電池13,14については鉄鋼基材の厚みが薄くなることにより初期の放電容量が大きくなった。一方、鉄鋼基材の厚みが厚い発明電池15,16については初期の放電容量は小さくなった。但し、発明電池13については保存後に容量劣化が加速された。鉄鋼基材の厚みが薄くなり、封口板の強度が低下し、封止部の機密性が低下したことにより劣化が進んだ。鉄鋼基材の厚みが厚くなるほど、高温多湿前後での放電容量の差が小さく、封口板の強度向上することで封止部の機密性が向上した。
【0075】
(実施例5)
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ニッケル層の厚みが1μmのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池17を作製した。
【0076】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ニッケル層の厚みが2μmのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池18を作製した。
【0077】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ニッケル層の厚みが4μmのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池19を作製した。
【0078】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ニッケル層の厚みが5μmのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池20を作製した。
【0079】
発明電池1に使用していたクラッド材に変えて、ニッケル層の厚みが6μmのクラッド材を用いた以外は、発明電池1と同構成である発明電池21を作製した。
【0080】
発明電池17〜21について、実施例1と同様の評価を行った結果を(表4)に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
発明電池17において、保存後の放電容量が小さくなった。ニッケルメッキの厚みが薄くなることで接触抵抗の値が上昇したために、放電容量に影響が見られたと考えられる。ニッケルメッキの厚みが厚い発明電池20〜21についても性能に差は見られなかった。
【0083】
なお、上記の実施例については、鉄鋼基材の両面にニッケル層を設けたクラッド材を用いた場合について記載したが、外表面のみにニッケル層を設けたクラッド材を用いた場合においても同様の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように本発明は、低価格な外装部品を用い、長期保存特性に優れ、加えて高容量化が可能な非水電解液コイン形電池を提供することで様々な用途に対応することができ、産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0085】
1 正極ケース
2 封口板
2a 上面壁
2b 湾曲部
3 ガスケット
4 負極
5 セパレータ
6 正極
7 鉄鋼基材
8 ニッケル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とをセパレータを介して対向配置した発電要素を非水電解液とともに、金属材からなる正極ケースと封口板、樹脂からなるガスケットの外装部品に封入されてなる非水電解液コイン形電池において、前記封口板として鉄鋼基材の少なくとも外表面にニッケル板をクラッド化したクラッド材を用いたことを特徴とする非水電解液コイン形電池。
【請求項2】
前記クラッド材のビッカース硬度が160〜240HVであることを特徴とする請求項1記載の非水電解液コイン形電池。
【請求項3】
前記クラッド材の厚みが0.15〜0.25mmであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の非水電解液コイン形電池。
【請求項4】
前記クラッド材のニッケル層の厚みが2〜5μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解液コイン形電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−37796(P2013−37796A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170685(P2011−170685)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】