説明

非水電解液二次電池

【課題】負極活物質である複合粒子の分散性を向上しつつ、導電性の源である炭素質材料の表面を最適化することにより、優れたサイクル特性と高温保存特性とを有する高容量化タイプの非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の非水電解液二次電池は、正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、非水電解液を備えた非水電解液二次電池であって、表面の一部に界面活性剤を吸着させた炭素質材料を、金属酸化物または半金属酸化物の表面の少なくとも一部に付着させて構成したものを負極活物質としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池に関し、より詳しくは非水電解液二次電池用負極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池は軽量で高エネルギー密度を有するため様々なポータブル機器に用いられている。現在、黒鉛などの炭素材料が非水電解液二次電池の負極活物質として実用化されている。しかしながらその理論容量密度は372mAh/gである。そこで、さらに非水電解質二次電池を高エネルギー密度化するために、リチウムと合金化するケイ素(Si)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)やこれらの酸化物および合金などが検討されている。これらの負極活物質材料の理論容量密度は、炭素質材料に比べて大きい。特にSi粒子や酸化ケイ素粒子などの含ケイ素粒子は安価なため、幅広く検討されている。
【0003】
しかしながら、これらの材料を負極活物質に用いて充放電サイクルを繰り返すと、充放電に伴う活物質粒子の体積変化が起こる。この体積変化により活物質粒子は微紛化し、その結果、活物質粒子間の導電性が低下する。そのため、充分な充放電サイクル特性(以下、「サイクル特性」という)が得られない。
【0004】
そこでリチウム合金を形成しうる金属または半金属を含む活物質を核に、複数の炭素質材料(主に炭素繊維)を結合させて複合粒子化させることが提案されている。この構成では、活物質の体積変化が起こっても導電性が確保され、サイクル特性が維持できることが報告されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−349056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した複合粒子は、通常は溶媒などを加えて塗料化した後、集電体に塗布する形で合剤層を形成し、負極として構成される。しかしながら特許文献1の技術を用いた場合、炭素質材料は塗料の溶媒に対するぬれ性が低いので複合粒子の分散性が低下し、合剤層内で複合粒子が偏在化する。この負極を用いた非水電解液二次電池を充放電すると、複合粒子の一部のみに選択的にリチウムが吸蔵放出されやすくなり、部分的に劣化が促進され、サイクル特性が低下する。さらには負極活物質の表面の炭素質材料の表面積が過多であると、これに相応して高温保存時のガス発生が著しくなり、電池内圧が上昇しやすいという課題があった。これら2つの課題は、炭素質材料の表面積が大きい繊維状の場合に顕著であった。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、負極活物質である複合粒子の分散性を向上しつつ、導電性の源である炭素質材料の表面を最適化することにより、優れたサイクル特性と高温保存特性とを有する高容量化タイプの非水電解液二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために本発明の非水電解液二次電池は、正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、非水電解液を備えた非水電解液二次電池であって、表面の一部に界面活性剤を吸着させた炭素質材料を、金属酸化物または半金属酸化物の表面の少なくとも一部に付着させて構成したものを負極活物質としたことを特徴とする。
【0008】
金属酸化物または半金属酸化物は高容量な負極活物質であるが、微粉化しやすいがゆえに導電性に乏しい。この表面の少なくとも一部に炭素質材料を付着させることにより導電性は確保できるが、負極形成時の分散性が乏しい上に高温保存時のガス発生源となる。そこでこの炭素質材料の表面の一部に界面活性剤を吸着させることにより、塗料化の際に用いる溶媒に対する炭素質材料のぬれ性が向上して分散性が高められ、負極合剤層における偏在化が抑制されてサイクル特性が向上する。さらには炭素質材料に吸着した界面活性剤が高温保存時のガス発生反応をブロックするため、電池の変形や非水電解液の外部への放出を回避できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、理論容量の大きい負極活物質のサイクル特性と高温保存特性とを高めることができるので、実用的でかつ高容量な非水電解液二次電池が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について、図を用いて詳述する。
【0011】
第1の発明は、正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、非水電解液を備えた非水電解液二次電池であって、表面の一部に界面活性剤を吸着させた炭素質材料を、金属酸化物または半金属酸化物の表面の少なくとも一部に付着させて構成したものを負極活物質としたことを特徴とする。
【0012】
第1の発明の負極活物質は、図1の模式図に示すように、金属酸化物または半金属酸化物1の表面の一部に炭素質材料2が付着した複合粒子を含んでいる。さらに炭素質材料2の表面の一部には、炭素質材料2に対する吸着サイト3と非吸着サイト4とを併せ持つ界面活性剤5が吸着している。
【0013】
上述したように金属酸化物または半金属酸化物1は高容量であるが、微粉化しやすいがゆえに導電性に乏しい。この金属酸化物または半金属酸化物1の表面の少なくとも一部に炭素質材料2を付着させることにより導電性は確保できるが、負極合剤層における分散性が乏しい上に高温保存時のガス発生源となる。そこで炭素質材料2の表面の一部に界面活性剤5を吸着させることにより、塗料化する際に用いる溶媒に対する炭素質材料2のぬれ性が向上して分散性が高められる。これは溶媒に対する親和性が、界面活性剤5における非吸着サイト4で高められたことによる。この効果によって負極の合剤層内部での複合粒子の偏在化が解消できるので、サイクル特性が向上する。さらには炭素質材料2に吸着した界面活性剤5が高温保存時のガス発生反応をブロックするため、電池の変形や非水電解液の外部への放出を回避できる。
【0014】
金属酸化物または半金属酸化物1には、多量のリチウムを吸蔵放出できる観点からSi、Ge、Sn、Pb、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Al、Zn、Mg、CdおよびMgより選ばれた金属酸化物または半金属酸化物を単体、あるいは他の金属との合金または化合物および混合物を用いることが可能である。
【0015】
炭素質材料2には、活性炭、黒鉛系炭素、非晶質系炭素、炭素繊維、人造黒鉛、リン片状黒鉛、メソフェーズ小球体を黒鉛化して得た球状黒鉛、カーボンナノファイバー(CNF)、CNF修飾複合材、カーボンナノチューブ(CNT)、CNT修飾複合材などを単体あるいは混合して焼結したものを用いることができ、金属酸化物または半金属酸化物の表面に付着することが可能である。なお、比表面積が大きいものほど、複合粒子に導電性を付与しやすい上に界面活性剤による効果が大きいため、負極活物質に用いる炭素質材料は、活性炭、リン片状黒鉛、炭素繊維、CNF、CNF修飾複合材、CNT、CNT修飾
複合材が好ましい。
【0016】
界面活性剤5には、アニオン系界面活性剤、非イオン系(ノニオン)界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を用いることが可能である。炭素質材料2の表面に界面活性剤5が吸着するメカニズムについては詳しく後述するが、高温保存時にガス発生の場として用いられる炭素質材料2の露出面積が界面活性剤5によって制御されるため、ガス発生量が抑制できる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、炭素質材料2が繊維状であることを特徴とする。上述したように炭素質材料2は導電性を付与するために用いられるのだが、金属酸化物または半金属酸化物1が微紛化した際にも互いに絡み合って導電ネットワークを確保しやすいという観点から、炭素質材料2が繊維状であるのがより好ましい。このような繊維状の炭素質材料2として、炭素繊維、CNF、CNF修飾複合材、CNT、CNT修飾複合材を挙げることができる。
【0018】
第3の発明は、第1の発明において、界面活性剤5が炭素質材料2の0.1〜70%を被覆していることを特徴とする。界面活性剤5の被覆度合が炭素質材料2に対して0.1%未満では、塗料作製時に用いる溶媒に対する炭素質材料2のぬれ性が十分ではなく、複合粒子の分散性がやや低下してサイクル特性が若干低下する。さらには高温保存時に炭素質材料2の表面を介したガス発生反応がやや増加する。一方界面活性剤5の被覆度合が炭素質材料2に対して70%を超える場合、炭素質材料2の露出面積がやや不足するため、炭素質材料2の表面を介した導電ネットワークが不十分となり、サイクル特性が若干低下する。なお炭素質材料2に対する界面活性剤5の被覆度合は、炭素質材料2を用いた電極の電気二重層容量ならびに比表面積を測定することで確認が可能である。
【0019】
第4の発明は、第1の発明において、界面活性剤5としてアニオン系、両イオン系、非イオン系のいずれかを単独、あるいは2種以上の混合物として含むことを特徴とする。塗料形成時に、金属酸化物または半金属酸化物1の表面は負の電荷を帯びる一方、炭素質材料2はこれに反発する形で正の電荷を帯びている。上記の3つの系の界面活性剤5は、以下に示すようにそれぞれ負の電荷を帯びた吸着サイト3によって炭素質材料2に吸着することにより、負極合剤層内での複合粒子の偏在化を抑制している。
【0020】
アニオン系界面活性剤の場合、塗料中でアニオンとカチオンに解離する。ここでアニオンにおけるカチオンとの結合サイトだった箇所が吸着サイト3として炭素質材料2に吸着する一方、反対側が非吸着サイト4として塗料を構成する溶媒と親和することにより、塗料における複合粒子の分散性が向上するので、複合材料の偏在化が抑制できる。
【0021】
両イオン系界面活性剤の場合、一つの分子内にアニオンとカチオンの両サイトが存在している。ここでアニオンのサイトが吸着サイト3として炭素質材料2に吸着する一方、反対側が非吸着サイト4として塗料を構成する溶媒と親和することにより、塗料における複合粒子の分散性が向上するので、複合材料の偏在化が抑制できる。
【0022】
非イオン系界面活性剤の場合、溶液中でイオン化はしないが分子内の親油基が吸着サイト3として炭素質材料2に吸着する一方、親水基どうしの反発によって塗料における複合粒子の分散性が向上するので、複合材料の偏在化が抑制できる。また非イオン系界面活性剤はイオン化しないため、金属イオンの存在下であっても、アニオン系界面活性剤のように金属イオンによる干渉が無視できるため好ましい。
【0023】
一方カチオン系界面活性剤の場合、塗料中でアニオンとカチオンに解離するのだが、カチオンにおけるアニオンとの結合サイトだった箇所が吸着サイト3として炭素質材料2で
はなく金属酸化物または半金属酸化物1の表面の負電荷に選択的に吸着するため、金属酸化物または半金属酸化物1の表面で行われるリチウムの吸蔵放出反応が阻害される。さらには代表的なカチオン系界面活性剤として、第4級アンモニウム系のアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アミン塩系のN−メチルビスヒドロキエチルアミン脂肪酸エステル・塩酸塩などが挙げられるが、ハロゲン元素を含むものが多く、塩化水素やフッ化水素などのガスが発生しやすいため好ましくない。
【0024】
本発明の非水電解液二次電池の概要について、さらに詳しく説明する。
【0025】
本発明の非水電解液二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出可能な正極と負極と非水電解液とから構成される。
【0026】
本発明にかかる非水電解液二次電池の正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出可能な材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiMnO2、LixTiS2、Lix25、V2MoO8、MoS2、LiFePO4などを用いることが可能である。中でも、合成が比較的容易である層状岩塩型構造のCo系材料のLiCoO2と同様の結晶構造を有する理論容量が大きいNi系材料のLiNiO2、LiNiO2のNiをMn、Al、Coなどで置換を行ったもの、スピネル構造のLiMn24、斜方晶や単斜晶構造を有するLiMnO2、オリビン型構造のLiFePO4が望ましい。
【0027】
金属酸化物または半金属酸化物1としては、リチウムを吸蔵放出できるものであれば特に限定されないが、例えばSi、Ge、Sn、Pb、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Al、Zn、Mg、CdおよびMgより選ばれた元素の酸化物を単体あるいは2種以上の混合物として含ませることが可能である。中でも、容量の大きいSi、Snの酸化物が好ましく用いられる。
【0028】
本発明の負極の活物質は、金属酸化物または半金属酸化物1に結着剤を混合し、さらに炭素質材料2を混合して、炭素質材料2を金属酸化物または半金属酸化物1の表面に結着させ、さらに還元雰囲気若しくは不活性雰囲気において400〜3000℃で焼結させて作製できる。
【0029】
本発明の非水電解液二次電池の製造方法について説明する。
【0030】
正極および負極の電極の製造方法としては、それぞれの活物質を溶媒に分散して電極ペーストとし、集電体に塗布、乾燥することにより正極および負極を得ることができる。
【0031】
電極ペーストには結着剤を含ませることができる。結着剤としてはポリアクリル酸(PAA)、変性アクリルゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素系樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのジエン系ゴム、ポリビニルアセトアミド(PNVA)、ポリアクリル酸等を単独、或いは2種以上混合したものを用いることができる。また、結着剤の添加量は、負極の場合は活物質の総重量に対して0.1重量%〜20重量%が望ましい。さらには各種分散剤、安定剤等を必要に応じて添加することも可能である。電極ペーストの溶媒は特に限定されないが、水、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、メチルエチルケトン等を単独、或いは2種以上混合物して用いることができる。
【0032】
電極ペーストの集電体への塗布方法については、例えば、アプリケータロールなどのロ
ーラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、転写方式、スピンコーティング、バーコーダなどの手段を用いて任意の厚みおよび任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。どの方法を用いるかについては、電極ペーストの流動性や電極ペーストの集電体への結着性に応じて個別に選ぶ必要がある。
【0033】
集電体としては、構成された電池に悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば任意に選択できる。例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、モリブデンなどが挙げられるが、リチウムと合金化しない材料から形成されていることが好ましく、特に好ましい材料としては、銅が挙げられる。集電体は厚みが薄いものであることが好ましく、特に5μm〜100μmの厚さが好ましい。このような銅箔としては、電解銅箔が挙げられる。電解銅箔は、例えば、銅イオンが溶解された非水電解液中に金属製のドラムを浸漬し、これを回転させながら電流を流すことにより、ドラムの表面に銅を析出させ、これを剥離して得られる銅箔である。さらに、必要であれば、電極ペーストを集電体に塗布し、乾燥した後に、ローラープレスなどにより圧延することも可能である。
【0034】
本発明に係る非水電解質は、非水溶媒に非水電解液を溶解することにより、調整される。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチルラクトン、1,2−ジメトキシメタン、1,2−ジクロロエタン、1,3−ジメトキシプロパン、4−メチル−2−ペンタノン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、スルホラン、3−メチル−スルホラン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等を用いることができる。これらの非水溶媒は、単独、或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0035】
さらに、本発明に係る非水電解液に含まれる電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化砒素リチウム、トリフルオロメタスルホン酸リチウム等のリチウム塩を用いることができる。
【0036】
本発明の非水電解液二次電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型、電気自動車等に用いる大型のものなどいずれであってもよい。
【0037】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載により限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
(i)正極の作製
正極活物質として、Li2CO3とCo34をモル比で3:2となるように混合し、焼成してLoCoO2を合成した。このようにして得た100重量部のLiCoO2に対して、導電材としてアセチレンブラックを5重量部、結着剤としてPVDFを10重量部混合した。次いでこの混合物をLiCoO2と等量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に懸濁させて、正極電極ペーストとした。厚さ20μmのアルミニウム箔を集電体とし、正極電極ペーストをドクターブレードで集電体上に塗布して120℃で60分間乾燥し、1対のステンレス製ローラーを用いてこれを圧延した後10mm×10mmに裁断し、正極とした。
【0039】
(ii)負極活物質の作製
SiO2と昭和電工(株)製のCNFとを結着剤であるPVDFのNMP溶液に混合さ
せ、SiO2の表面にカーボンナノファイバーを結着させた。これをアルゴン雰囲気において1500℃で焼結して、負極活物質を得た。
【0040】
(iii)負極の作製
アニオン系界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムの水溶液を作製し、上述した負極活物質の表面積1m2あたりに対し界面活性剤の量が0.18gになるように負極活物質を加えて撹拌した。さらに結着剤として、負極活物質100重量部に対し平均分子量10万のPAAを20重量部添加して混練し、負極電極ペーストの固形分量を40%として、負極電極ペーストを作製した。その後、厚さ15μmの銅箔を集電体とし、乾燥後の集電体と負極合剤層との膜厚の合計が100μmになるように集電体に負極電極ペーストをドクターブレード方式で塗布し、120℃で60分間乾燥した。さらに、乾燥した負極を10mm×10mmに裁断し、負極とした。
【0041】
なお実施例1の負極を飛行時間型質量分析(TOF−SIMS)によって測定し、界面活性剤の分子構造をもつイオン量によって、負極活物質表面の炭素質材料に対する界面活性剤の被覆率を求めた結果、0.1%であった。
【0042】
(iv)非水電解液の作製
ECとEMCを体積比1:3で混合した溶媒に対し、LiPF6を1モル/リットル(1.0M)溶解して非水電解液を作製した。
【0043】
(v)電池の作製
正極にアルミニウムのリードを溶着し、負極にニッケルのリードを溶着した。次いで正極と負極との間にポリエチレン製の微多孔質フィルムからなるセパレータを介して捲回し、これを袋状のアルミラミネートフィルム(内寸35mm幅)に挿入した後、非水電解液を1ml注入し、アルミラミネートフィルムの開口端を熱封止して、非水電解液二次電池を作製した。これを実施例1とする。
【0044】
(実施例2)
界面活性剤として非イオン系であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを用い、負極活物質の表面積1m2あたりに対し界面活性剤の量が0.1gになるように負極活物質を加えて負極電極ペーストを作製した。これを用いたこと以外は、実施例1と同様に作製した非水電解液二次電池を実施例2とする。なお実施例1と同様に負極活物質表面の炭素質材料に対する界面活性剤の被覆率を求めた結果、2.7%であった。
【0045】
(実施例3)
界面活性剤として非イオン系であるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用い、負極活物質の表面積1m2あたりに対し界面活性剤の量が20gになるように負極活物質を加えて負極電極ペーストを作製した。これを用いたこと以外は、実施例1と同様に作製した非水電解液電池を実施例3とする。なお実施例1と同様に負極活物質表面の炭素質材料に対する界面活性剤の被覆率を求めた結果、35.6%であった。
【0046】
(実施例4)
界面活性剤として両性イオン系であるアルキルアミノ脂肪酸ナトリウムを用い、負極活物質の表面積1m2あたりに対し界面活性剤の量が10gになるように負極活物質を加えて負極電極ペーストを作製した。これを用いたこと以外は、実施例1と同様に作製した非水電解液電池を実施例4とする。なお実施例1と同様に負極活物質表面の炭素質材料に対する界面活性剤の被覆率を求めた結果、70%であった。
【0047】
(実施例5〜7)
界面活性剤として非イオン系界面活性剤であるソルビタン脂肪酸エステル(溶媒:エタノール)を用い、負極活物質の表面積1m2あたりに対し界面活性剤の量が3g(実施例5)、0.15g(実施例6)および14g(実施例7)になるように負極活物質を加えて負極電極ペーストを作製した。これを用いたこと以外は、実施例1と同様に作製した非水電解液電池を実施例5〜7とする。なお実施例1と同様に負極活物質表面の炭素質材料に対する界面活性剤の被覆率を求めた結果、それぞれ13.3%(実施例5)、0.09%(実施例6)および70.8%(実施例7)であった。
【0048】
(比較例1)
負極活物質としてSiO2のみを用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解液二次電池を比較例1とする。
【0049】
以上の各電池について、以下に示す評価を行った。結果を(表1)に示す。
【0050】
(サイクル特性)
4.2Vに達するまで2mAで定電流充電を行った後、さらに0.2mAに達するまで定電圧充電を行い、30分の休止の後、3.0Vに達するまで1mAで定電流放電を行った。この充放電を繰り返し、2サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比率を「容量維持率」として求めた。結果を(表1)に示す。
【0051】
(高温保存特性)
環境温度20℃、4.2Vの定電圧、2mAの制限電流で充電を4時間行った。これらの充電状態の電池を1mAの定電流で放電し、これを3サイクル繰り返した後、4サイクル目は充電のみ行った。40℃の環境下で6時間放置した後、各電池のアルミラミネートフィルムの一端に孔をあけて、非水電解液中で電池内部のガスを捕集した。捕集したガス量(cm3)を(表1)に示す。
【0052】
【表1】

実施例1〜7は、比較例1と比べて容量維持率が高くなっている。この理由として負極合剤層中の負極活物質の分散性が界面活性剤の作用によって向上していることが挙げられる。その効果は負極活物質表面の炭素質材料に対する界面活性剤の被覆率が0.1%以上の場合に顕著であるが、この被覆率が70%を超えるとSiO2のリチウム吸蔵放出反応が阻害されるために、かえってややサイクル特性が低下する傾向が見られた。
【0053】
また実施例1〜7は、比較例1と比べてガス捕集量が少なくなっている。この理由とし
て負極活物質の炭素質材料の表面に界面活性剤が選択的に吸着して被覆することにより、充放電時のガス発生が抑制されたことが挙げられる。その効果は負極活物質表面の炭素質材料に対する界面活性剤の被覆率が0.1%以上の場合に顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の非水電解液二次電池は、従来のものより高容量な上にバランスの良い電池特性を示すので、ノートパソコンや携帯電話、デジタルカメラなどあらゆる分野に対する電源として利用可能性が高く、かつ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の負極活物質を示す模式図
【符号の説明】
【0056】
1 金属酸化物または半金属酸化物
2 炭素質材料
3 吸着サイト
4 非吸着サイト
5 界面活性剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、非水電解液を備えた非水電解液二次電池であって、
表面の一部に界面活性剤を吸着させた炭素質材料を、金属酸化物または半金属酸化物の表面の少なくとも一部に付着させて前記負極活物質を構成したことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記炭素質材料が繊維状であることを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記界面活性剤が、前記炭素質材料の0.1〜70%を被覆していることを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記界面活性剤としてアニオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤のいずれかを単独、あるいは2種以上の混合物として含むことを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2007−311279(P2007−311279A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141172(P2006−141172)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】